説明

平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法

【課題】使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解して再生溶湯を得る際に、有機物が燃える煙が生じ難く、さらに燃焼が不完全により溶湯品質に影響してしまうことを防止することができる。
【解決手段】使用済みの平版印刷版を再生材料40として準備する準備工程と、再生材料40の平版印刷版支持体が溶融しない温度で加熱する加熱工程と、加熱された再生材料40を溶解炉で溶解して再生溶湯を得る溶解工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法に係り、特に使用済みの平版印刷版をリサイクルして再利用する際のエネルギーロス及び収率ロスを低減することで地球温暖化の原因となるCO発生量を削減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版は、粗面化処理されたアルミニウム製の平版印刷版用支持体に製版層(例えば感光層)を形成することにより製造される。粗面化処理方法としては、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理、化学的粗面化処理(化学エッチング)やこれらを組み合わせた方法があり、表面に均一且つ緻密な粗面化を施す際のアルミニウム原料としては、純度の高い新地金が使用されていると共に、Si,Fe,Cu,Mn等の微量金属の含有率が厳密に調整されたものであることが必要になる。
【0003】
このため、従来は、使用済み平版印刷版(アルミスクラップ)を平版印刷版用支持体の再生原料として使用することが難しく、前記微量金属含有率許容度の大きな用途向け、例えば窓サッシ用、自動車のエンジン用や車輪のホイール用等の材料としてリサイクルされていた。
【0004】
ところで、昨今のCO削減の観点から、製造に当たってCO使用量の多い製品にはリサイクルが求められており、特にアルミニウムを用いた平版印刷版は、リサイクルがうまく行けば、環境に対して極めて有効である。
【0005】
そこで、近年、これまで材料の使用済みの平版印刷版や切断片等の端材を新しい平版印刷版を製造する再生材料としてリサイクルする検討がなされており、使用済み印刷版や工場屑アルミを700℃位に加熱して溶融し、溶湯を冷却固化した物を平版印刷版用支持体の原料として使用することが行われている。
【0006】
また、例えば特許文献1には、使用済み平版印刷版の感光層、感光層保護材、包装材料もしくは粘着テープ等の不純物(有機物)を除去した後、使用済み平版印刷版1%以上、新地金、及び母合金から成る溶解原材料を圧延前溶解炉に直接投入して溶湯を調製し、調製した溶湯に対して溶湯処理と濾過処理を行って不純物を除去することにより、使用済み平版印刷版を再利用した平版印刷版用支持体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3420817号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の使用済み印刷版や工場屑アルミを700℃位に加熱して溶融する方法は、使用済み印刷版や工場屑アルミのような再生材料が有している感光層やインキなどの有機物が上記温度で燃焼するのでアルミニウムと分離が可能であるが、溶解炉に投入する際に有機物が燃えた煙が生じ易く、さらに燃焼が不完全だと溶湯品質にも影響する。もし、有機物が溶湯中で燃焼すると炭化不純物が溶湯中に混在してしまうため、フラックス剤(脱カス剤)処理が必要となり、溶湯品質だけでなく作業負荷とフラックス剤経費増と言う問題があった。
【0009】
このため、特許文献1のように予め感光層やインキなどの有機物を物理的及び/又は化学的に除去する方法が考えられるが、別に工程が必要となり、製造工程が複雑となってしまうという問題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解して再生溶湯を得る際に、有機物が燃える煙が生じ難く、さらに燃焼が不完全により溶湯品質に影響してしまうことを防止することができる平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解/圧延処理して平版印刷版用支持体を製造する平版印刷版用支持体の製造方法であって、前記再生材料の平版印刷版支持体が溶融しない温度で加熱する加熱工程と、前記加熱された再生材料を溶解炉で溶解して再生溶湯を得る溶解工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法を提供する。
【0012】
なお、ここで、再生材料には、印刷に使用した使用済みの平版印刷版以外に、未使用の平版印刷版や平版印刷版の製造加工途中で発生する平版印刷版の切断片等の端材を含めることが好ましい。
【0013】
本願発明者は、平版印刷版用支持体を製造する際、使用済みの平版印刷版を再利用するために再生材料(使用済みの平版印刷版)を溶解炉で溶解して再生溶湯を得るとき、予め再生材料の平版印刷版支持体が溶融しない温度で加熱してから溶解炉で溶解することで、有機物(製版層)が燃える煙が生じ難くなり、溶湯の品質も大幅に向上するとの知見を得た。
【0014】
本発明によれば、前記再生材料の平版印刷版支持体が溶融しない温度で加熱する加熱工程と、前記加熱された再生材料を溶解炉で溶解して再生溶湯を得る溶解工程と、を少なくとも備えたことで、使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解して再生溶湯を得る際に、有機物が燃える煙が生じ難く、さらに燃焼が不完全により溶湯品質に影響してしまうのを防止することができる。
【0015】
本発明において、前記加熱工程では、400〜660℃で前記再生材料を加熱することが好ましい。
【0016】
加熱工程で400〜660℃で再生材料を加熱することで、平版印刷版支持体を溶解することなく、感光層やインキなどの有機物(製版層)を炭化することができる。400〜660℃で有機物を炭化しておくことで、再生材料を溶解炉で溶解する際に、好適に煙を生じ難くし、溶湯の品質も大幅に向上することができる。
【0017】
そして、本発明において、前記溶解工程では、680〜850℃で前記再生材料を溶解することが好ましい。680℃以上にすることで680℃未満の場合よりも溶解時間を短くでき、850℃以上の温度で溶解を行うと再生材料溶解工程で用いる炉の劣化が早くなるからである。
【0018】
また、本発明において、前記加熱工程では、前記溶解工程での溶解炉の排熱を利用し、前記再生材料を加熱することが好ましい。溶解工程での溶解炉の排熱を利用して加熱工程で再生材料を加熱することで、エネルギーを顕著に低減することができるので、地球温暖化の原因となるCO発生量を大幅に削減することができる。
【0019】
ここで、前記溶解工程の溶解炉は、高温ガスを熱源として加熱するものであって、該溶解炉には、前記再生材料を一時貯留するためのホッパーが備えられ、該ホッパーには、前記高温ガスの排熱が供給されるガス供給路が接続され、該ホッパーに前記排熱を送ることで、前記加熱工程において前記再生材料を加熱することが好ましい。また、前記ホッパーの下面側は前記高温ガスを通すメッシュ構造であることが好ましい。このようにすることで、好適に溶解工程での溶解炉の排熱を利用して加熱工程で再生材料を加熱することができる。
【0020】
本発明において、前記溶解工程後には、前記溶解炉から溶湯を取り出して所定の形状及び重さに成形して再生地金を得る再生地金製造工程と、前記再生地金のアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析する分析工程と、前記分析工程において得られた分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比して差を求め、その差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、前記決定された配合割合に応じて前記再生地金と前記新地金と前記微量金属母合金とを圧延前溶解炉に投入すると共に加熱溶解してアルミニウム溶湯を得る加熱溶解工程と、前記得られたアルミニウム溶湯から圧延処理により帯状のアルミニウム板を作成するアルミニウム支持体作成工程と、を備えることが考えられる。
【0021】
または、本発明において、前記溶解工程後には、前記再生溶湯のアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析する分析工程と、前記溶解炉より再生溶湯を取り出して溶融状態のまま圧延前溶解炉まで運搬する運搬工程と、前記分析工程において得られた分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比して差を求め、その差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、前記圧延前溶解炉に溶融状態の再生溶湯並びに前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じて新地金及び微量金属母合金を投入すると共に加熱溶解して所望の成分のアルミニウム溶湯を得る成分調整工程と、前記得られたアルミニウム溶湯から圧延処理により帯状のアルミニウム板を作成するアルミニウム支持体作成工程と、を備えることが考えられる。
【0022】
なお、ここで、予め定められた平版印刷版とは、製造する平版印刷版の種類によって要求されるアルミニウム純度や微量金属含有率が予め定められていることを言う。また、アルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金とは、アルミニウム純度と微量金属含有率とが既知な新地金及び微量金属母合金を言う。
【0023】
さらに、本発明は、請求項7又は8に記載の平版印刷版用支持体の製造方法で製造された平版印刷版用支持体に少なくとも製版層を形成して平版印刷版を製造する平版印刷版製造工程と、前記製造された平版印刷版により所望の印刷を行う印刷工程と、前記印刷工程で発生した使用済みの平版印刷版を回収する回収工程と、前記回収された使用済み平版印刷版を、請求項7又は8に記載の平版印刷版用支持体の製造方法の溶解工程の再生材料とするリサイクル工程と、を備えたことを特徴とする平版印刷版のリサイクル方法を提供する。
【0024】
これにより、平版印刷版に関連する産業分野で発生するアルミスクラップを再利用するための完全なクローズド・ループリサイクルの流れを構築することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法によれば、使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解して再生溶湯を得る際に、有機物が燃える煙が生じ難く、さらに燃焼が不完全により溶湯品質に影響してしまうことを防止することができる平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れの一例を示す説明図
【図2】アルミニウム板から平版印刷版を製造するまでの工程を示した説明図
【図3】使用済み平版印刷版を加熱し溶解し溶湯を製造する溶解炉の一例を示した断面図
【図4】平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れの他の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の平版印刷版用支持体の製造方法及び平版印刷版のリサイクル方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の平版印刷版のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れを説明する説明図であり、感光性の製版層を有する平版印刷版の例で以下に説明する。なお、本発明の平版印刷版用支持体はクローズド・ループリサイクルの流れの一部として含まれる。
【0029】
図1に示すように、アルミ精錬工場10では、ボーキサイトからアルミニウムの新地金12を製造する。アルミニウムの新地金12のアルミニウム純度は99.7%以上であることが好ましい。
【0030】
次に、アルミニウムの新地金12は、アルミ圧延工場14において圧延前溶解炉で溶解されて溶湯となった後、熱間圧延、冷間圧延が行われる。圧延前溶解炉としては、公知のものを使用することができる。これにより、新地金100%のアルミニウム板16がコイル状に巻回されたロール体として製造される。熱間圧延の開始温度は350〜500℃が好ましい。熱間圧延の前又は後、あるいは途中において中間焼鈍処理を行ってもよいが、CO発生を抑制する観点からは、中間焼鈍処理を省略することが好ましい。圧延処理により得られるアルミニウム板の厚みは0.1〜0.5mmの範囲が好ましい。なお、圧延処理の後にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。
【0031】
そして、圧延等の処理が施されたアルミニウム板16はコイル状に巻回されたアルミコイルの状態で平版印刷版の製造工場18に送られる。
【0032】
平版印刷版の製造工場18では、アルミニウム板16に図2に示す各工程を経て平版印刷版の帯状原版を製造する。即ち、先ず、粗面化処理工程20において、アルミニウム板16に粗面化処理を施してアルミニウム板16に砂目立てする。この場合、粗面化処理工程20の後に陽極酸化処理工程22を行ってアルミニウム板16の表面に陽極酸化被膜を形成することが一層好ましい。これにより、平版印刷版用支持体16Aが製造される。
【0033】
電解方式の粗面化処理は、塩酸等の水溶液中で交流電流を電解電流としてエッチングすることにより行われる。酸濃度は3〜150g/Lとすることが好ましく、5〜50g/Lが一層好ましい。塩酸水溶液としては、塩酸を2〜15g/L含有する希塩酸に塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩を添加して、アルミニウムイオン濃度を2〜7g/Lに調整した溶液が特に好ましい。電解粗面処理の電気量は、20〜500C/dmになるように印加することが好ましい。前記交流としては、サイン波電流、矩形波電流、台形波電流、及び三角波電流など各種の波形を有する交流電流を用いることができるが、矩形波電流及び台形波電流が一層好ましく、台形波電流が特に好ましい。塩酸電解方式の粗面化処理において、アルミニウム板16のアルミニウム純度や微量金属の含有率は、電気化学粗面化処理でアルミニウム板を粗面化したときに生成するピットの均一性に影響し、耐刷性、耐汚れ性及び露光安定性に影響を及ぼす。したがって、アルミニウム純度や微量金属含有率は以下の範囲であることが好ましい。なお、ここで示すアルミニウム純度や微量金属の含有率は、新地金100%のアルミニウム板16の場合と、後述する再生材料含有のアルミニウム板88の場合との両方に適用される。
【0034】
即ち、アルミニウム板のアルミニウム純度は99.0%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。アルミニウム板の純度が99.0%未満で不純物を多く含むと、粗面化処理に好ましくない他に圧延中に割れ等の不具合が生じ易い。
【0035】
また、アルミニウム板16に含有される微量金属のうち、Siの含有率は、0.50質量%以下であるのが好ましく、0.05〜0.50質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.25質量%であるのが更に好ましく、0.06〜0.15質量%であるのが特に好ましい。
【0036】
Cuの含有率は、0.30質量%以下であるのが好ましく、0.010〜0.30質量%であるのがより好ましく、0.02〜0.15質量%であるのが更に好ましく、0.040〜0.09質量%であるのが特に好ましい。
【0037】
Feの含有率は、0.7質量%以下であるのが好ましく、0.15〜0.7質量%であるのがより好ましく、0.15〜0.4質量%であるのが更に好ましく、0.20〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
【0038】
Mnの含有率は、0.5質量%以下であるのが好ましく、0.002〜0.15質量%であるのがより好ましく、0.003〜0.02質量%であるのが更に好ましく、0.004〜0.01質量%であるのが特に好ましい。
【0039】
その他の微量金属として、Mgの含有率は、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.001〜1.5質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.60質量%であるのが更に好ましく、0.001〜0.40質量%であるのが特に好ましい。
【0040】
Znの含有率は、0.25質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.25質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.10質量%であるのが更に好ましく、0.010〜0.03質量%であるのが特に好ましい。
【0041】
Tiの含有率は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.05質量%であるのが更に好ましく、0.003〜0.03質量%であるのが特に好ましい。
【0042】
Crの含有率は、0.10質量%以下であるのが好ましく、0.001〜0.10質量%であるのがより好ましく、0.001〜0.02質量%であるのが更に好ましく、0.002〜0.02質量%であるのが特に好ましい。
【0043】
前記のような電解方式で粗面化処理されたアルミニウム板16の面には、スマットや金属間化合物が存在するので、pH10以上で液温が25〜80℃のアルカリ溶液を使用してアルカリ処理した後に、硫酸を主体とすると共に液温が20〜80℃の酸性溶液で洗浄処理を行うことが好ましい。
【0044】
次に、製版層形成工程24において、平版印刷版用支持体16Aの粗面化処理された面に、感光層用塗布液が塗布され、乾燥工程26において感光層が乾燥される。これにより、平版印刷版の帯状原版28が製造されるので、加工工程において帯状原版28に帯状の合紙を重ね合わせた状態で所定寸法の四角形シートに切断して合紙付きの平版印刷版30(図1参照)を製造する。製造された合紙付きのシート状の平版印刷版30は複数枚積層された後、梱包されて印刷会社32に送られる。平版印刷版30を積層する際に平版印刷版30同士の間に合紙が挟み込まれるので、平版印刷版30の感光層面に傷をつけないようにすることができる。
【0045】
かかる帯状原版28の加工工程において、帯状原版28の切断片等の端材33が発生するので、図1に示すように、平版印刷版の製造工場18で再生材料として回収されて次の再生工場34に送られて再生処理される。
【0046】
一方、印刷会社32に送られた平版印刷版30は、画像露光及び現像が施された後、印刷機に取り付けて印刷に使用される。そして、印刷に使用された使用済み平版印刷版36は、印刷会社32で再生材料として回収されて次の再生工場34に送られて再生処理される。
【0047】
平版印刷版の製造工場18で発生した一辺が1〜60cm程度の端材33、及び印刷会社32で発生した使用済みあるいは未使用の平版印刷版36の再生材料を再生処理して再生溶湯を得る再生溶湯製造装置38に送られる。なお、再生溶湯製造装置38については後述する。
【0048】
次に、再生工場34で製造された再生溶湯44は保温容器54に充填され、トラック等の運送手段に積まれてアルミ圧延工場14に送られる。なお、アルミ圧延工場14内に再生工場34が一体的に設けられている場合には、再生工場34で得られた再生溶湯44を保温容器54に充填することなく、保温配管(図示せず)によりアルミ圧延工場の圧延前溶解炉に直接送液することは可能である。
【0049】
アルミ圧延工場14では、再生工場34で製造された再生溶湯44のアルミニウム純度及び微量金属(例えば、Si,Fe,Cu,Mn)の含有率を分析する。再生溶湯44の分析は、再生工場34で行って、その再生溶湯44をアルミ圧延工場14に納品するときに分析データを添付してもよい。また、分析する微量金属は、Si,Fe,Cu,Mnに加えてMg,Zn,Ti,Crについても分析することが一層好ましい。
【0050】
次に、分析された再生溶湯44の分析値と、予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比してその差を求め、求められた差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金の再生溶湯44に対する配合割合を決定する。即ち、予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とするために配合可能な再生溶湯44の最大配合割合を求め、再生溶湯44の配合割合が最大になるように決定する。なお、新地金及び微量金属母合金のアルミニウム純度と微量金属含有率が定まっていない場合には、再生溶湯44と同様に分析する。
【0051】
次に、決定された配合割合に応じて再生溶湯44を溶融状態のまま圧延前溶解炉に投入すると共に、圧延前溶解炉に別途投入した新地金及び微量金属母合金と混合されるように加熱溶解してアルミニウム溶湯を得る。得られたアルミニウム溶湯は、熱間圧延、冷間圧延によって再生材料40を含むアルミニウム板88がコイル状に巻回されたロール体として製造される。製造されたアルミニウム板88は平版印刷版の製造工場18に送られる。これにより、本発明のリサイクル方法のクローズド・ループリサイクルの流れが完成する。なお、熱間圧延の条件等は上記した新地金の場合と同様である。
【0052】
そして、本発明の平版印刷版のリサイクル方法では、アルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に新地金100%のアルミニウム板16を送る新地金100%ルート90は最初のみ行って、2回目からはアルミ圧延工場14から平版印刷版の製造工場18に再生材料含有のアルミニウム板88を送るリサイクルルート92を行う。
【0053】
これにより、平版印刷版の産業分野で発生するアルミスクラップを再利用するための完全なクローズドリサイクルの流れを構築することができる。
【0054】
図3に、平版印刷版の製造工場18で発生した一辺が1〜60cm程度の端材33、及び印刷会社32で発生した使用済みあるいは未使用の平版印刷版36の再生材料を再生処理して再生溶湯を得る再生溶湯製造装置38の一例を示した。なお、ここでは端材33及び平版印刷版36をまとめて再生材料40として説明する。
【0055】
図3に示すように、再生材料40は、溶解炉42において溶解されて再生溶湯44となる。溶解温度は680〜850℃の範囲が好ましい。このように、再生材料40から再生溶湯44を得る際に、溶解炉42において680〜850℃範囲の溶解温度で再生材料40を溶解することにより、溶解炉42での溶解速度が速く、再生溶湯44を得るまでのタクト時間を短縮できる。これにより、再生溶湯44の調製中における溶湯44と空気との接触時間が短くなるので、生成される酸化物質(酸化アルミ)の生成量が少なく、再生溶湯44として得られる収率が高くなるので、再生溶湯1Kgを製造する際のCO発生量を低減できる。即ち、680℃以上にすることで680℃未満の場合よりも溶解時間を短くでき、850℃以下にすることで850℃を超えた場合に比べて収率を高くできる。
【0056】
なお、溶解炉42としては、再生材料40を専用に溶解する専用溶解炉であることが好ましい。再生材料40を専用溶解炉で溶解することにより、溶解炉42の炉壁に付着したコンタミネーション物質は再生材料と同じ成分であり、得られる再生溶湯44の成分純度(アルミニウム純度や、微量金属含有量)の変動を極力抑えることができる。
【0057】
溶解炉42の上方には集塵機46が備えられており、再生材料40が燃焼する際に不完全燃焼した煙を除去している。
【0058】
ここで、再生材料40が有している感光層やインキなどの有機物が上記温度で燃焼すると、有機物とアルミニウムとの分離は可能であるが、溶解炉に投入する際に有機物が燃えた煙が生じ易く、さらに燃焼が不完全だと溶湯品質にも影響してしまうという問題があった。
【0059】
そこで、本発明は、再生材料40の平版印刷版支持体(アルミニウム)が溶融しない温度で加熱してから、再生材料40を溶解炉42で溶解して再生溶湯を得るようにした。
【0060】
図3は、使用済み平版印刷版(再生材料40)を加熱するために、溶解炉42を加熱する高温ガスの排熱を、再生材料40を一時貯留するためのホッパー50にガス供給路48を介して送るようにしている。また、ホッパー50の下面52は高温ガスを通すメッシュ構造であることが好ましい。ホッパー50の下面に高温ガスを通す孔があることで、再生材料40に直接接触させることができるので、効率的に加熱することが可能となる。
【0061】
ここで、平版印刷版支持体が溶融しない温度としては、400〜660℃の範囲が好ましい。400〜660℃で再生材料40を加熱することで、平版印刷版支持体を溶解することなく、感光層やインキなどの有機物を炭化することができる。
【0062】
この加熱は、上記の通り溶解炉を加熱する熱源の排熱を用いて再生材料40を加熱することが好ましいが、別途ヒーターを設けて加熱しても良い。
【0063】
有機物が炭化された再生材料40は、溶解炉42に投入される。図3においては、振動手段56の振動により、ホッパー50から溶解炉42に再生材料40が投入される。なお、ホッパーから溶解炉へ再生材料を投入するには、フィーダー方式(振動式、コンベア式等)であってもバッチ式であっても良い。
【0064】
このように、再生材料40を溶解炉42に投入する前に、再生材料40の有機物を炭化しておくことで、再生材料を溶解炉で溶解する際に、好適に煙を生じ難くし、溶湯の品質も大幅に向上することができる。そして、フラックス剤(脱カス剤)処理を不要とすることができる。
【0065】
具体的には、再生材料40を加熱してから再生材料40を溶解炉42で溶解するまでのトータルの煙の量は、従来の再生材料40を溶解炉42で溶解するだけの場合に比べ、20%以下に抑えることができる。したがって、図3に示したように、従来は、溶解炉42の再生材料40投入口の上方に集塵機46を設けて不完全燃焼した煙を除去していたが、本発明では、集塵機がいらないか又は小規模で済むという利点もある。
【0066】
なお、本発明の平版印刷版のリサイクル方法は、再生材料40を圧延前溶解炉に直接投入するのではなく、付着物を除去した後の再生材料40を溶解炉42(好ましくは専用溶解炉)で溶解して再生溶湯44とし、その再生溶湯44を分析した分析結果を用いて圧延前溶解炉に投入する再生溶湯44、新地金、及び微量金属母合金の配合割合を決定してもよい。
【0067】
また、図4に示すように、再生材料40を一旦再生地金74にし、再生地金74のアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析し、分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比して差を求め、その差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…アルミ精錬工場、12…アルミニウムの新地金、14…アルミ圧延工場、16…新地金100%のアルミニウム板、18…平版印刷版の製造工場、20…粗面化処理工程、22…陽極酸化処理工程、24…製版層形成工程、26…乾燥工程、28…帯状原版、30…平版印刷版、32…印刷会社、33…端材、34…再生工場、36…印刷使用済み平版印刷版、38…再生溶湯製造装置、40…再生材料(印刷使用済み平版印刷版及び端材)、42…溶解炉、44…再生溶湯、46…集塵機、48…ガス供給路、50…ホッパー、52…下面、54…保温容器、56…振動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの平版印刷版を再生材料として溶解/圧延処理して平版印刷版用支持体を製造する平版印刷版用支持体の製造方法であって、
前記再生材料の平版印刷版支持体が溶融しない温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱された再生材料を溶解炉で溶解して再生溶湯を得る溶解工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、400〜660℃で前記再生材料を加熱することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項3】
前記溶解工程では、680〜850℃で前記再生材料を溶解することを特徴とする請求項1又は2に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程では、前記溶解工程での溶解炉の排熱を利用し、前記再生材料を加熱することを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項5】
前記溶解工程の溶解炉は、高温ガスを熱源として加熱するものであって、
該溶解炉には、前記再生材料を一時貯留するためのホッパーが備えられ、該ホッパーには、前記高温ガスの排熱が供給されるガス供給路が接続され、
該ホッパーに前記排熱を送ることで、前記加熱工程において前記再生材料を加熱することを特徴とする請求項4に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項6】
前記ホッパーの下面側は前記高温ガスを通すメッシュ構造であることを特徴とする請求項5に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項7】
前記溶解工程後には、
前記溶解炉から溶湯を取り出して所定の形状及び重さに成形して再生地金を得る再生地金製造工程と、
前記再生地金のアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析する分析工程と、
前記分析工程において得られた分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比して差を求め、その差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、
前記決定された配合割合に応じて前記再生地金と前記新地金と前記微量金属母合金とを圧延前溶解炉に投入すると共に加熱溶解してアルミニウム溶湯を得る加熱溶解工程と、
前記得られたアルミニウム溶湯から圧延処理により帯状のアルミニウム板を作成するアルミニウム支持体作成工程と、を備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項8】
前記溶解工程後には、
前記再生溶湯のアルミニウム純度及び微量金属含有率を分析する分析工程と、
前記溶解炉より再生溶湯を取り出して溶融状態のまま圧延前溶解炉まで運搬する運搬工程と、
前記分析工程において得られた分析値と予め定められた平版印刷版としての所望アルミニウム純度及び所望微量金属含有率とを対比して差を求め、その差に応じてアルミニウム純度と微量金属含有率との定まった新地金及び微量金属母合金を配合する割合を決定する配合割合決定工程と、
前記圧延前溶解炉に溶融状態の再生溶湯並びに前記配合割合決定工程で決定された配合割合に応じて新地金及び微量金属母合金を投入すると共に加熱溶解して所望の成分のアルミニウム溶湯を得る成分調整工程と、
前記得られたアルミニウム溶湯から圧延処理により帯状のアルミニウム板を作成するアルミニウム支持体作成工程と、を備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の平版印刷版用支持体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の平版印刷版用支持体の製造方法で製造された平版印刷版用支持体に少なくとも製版層を形成して平版印刷版を製造する平版印刷版製造工程と、
前記製造された平版印刷版により所望の印刷を行う印刷工程と、
前記印刷工程で発生した使用済みの平版印刷版を回収する回収工程と、
前記回収された使用済み平版印刷版を、前記請求項7又は8に記載の平版印刷版用支持体の製造方法の溶解工程の再生材料とするリサイクル工程と、を備えたことを特徴とする平版印刷版のリサイクル方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−26672(P2011−26672A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174561(P2009−174561)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】