説明

平面アンテナ

【課題】電波が送受信される際の誘電体損失によるアンテナ特性の劣化を抑制し、高い生産効率を得ることができる平面アンテナを提供すること。
【解決手段】複数のアンテナ素子51aおよび給電線路51kが形成された表面部51sを有するアンテナ回路基板51と、表面部51sと対向するよう配置されアンテナ素子51aと対向する部分にスリット52sが形成された素子側地導体52と、アンテナ回路基板51の裏面部51uと対向するよう配置された非素子側地導体53と、素子側地導体52とアンテナ回路基板51との間に配置された素子側誘電体54と、非素子側地導体53とアンテナ回路基板51との間に配置された非素子側誘電体55と、素子側地導体52の側面部52mに配置され、素子側地導体52のスリット52sに連通する部分に電波透過孔56kが板厚方向に貫通して形成された電波透過誘電体56を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を送受信する平面アンテナに関し、詳しくは、加入者系固定無線アクセスシステム(FWA:Fixed Wireless Access)などの無線通信システムにおける送受信の際のアンテナ特性を向上させたトリプレート構造の平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、FWAなどの無線通信は、有線通信と比べ伝送路としての線を敷設する必要がなく拡散性があるため多方向の通信が容易であり、設置の自由度が高い利点がある。このことから、例えば、インターネットなどの基地局とユーザとの間、いわゆるラストワンマイルの無線化が促進され、ポイントツーポイントやポイントツーマルチポイントなどのリンクにおいて、マイクロ波を用いた高速データ転送が実現されている。このようなデータ転送などの無線通信にトリプレート構造の平面アンテナが使用されている。
【0003】
従来、この種の平面アンテナとして、多数の貫通孔を有する上側プレートと、下側プレートと、上側プレートと下側プレートとの間に配置され複数のアンテナ素子を有する基板と、上側プレートと基板との間および下側プレートと基板との間にそれぞれ配置され、多数の貫通孔を有する一対のスペーサと、上側プレートを覆うレドームと、上側プレートとレドームとの間に配置され発泡スチロールで形成されたサポートクッションとを含んで構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この平面アンテナにおいては、一対のスペーサにより、基板を上側プレートと下側プレートとの間で均一な間隔で保持するようにして、アンテナの生産性を向上させるとともに、アンテナ素子で電波を送受信する際の利得などのアンテナ特性の低下を防止している。
【0004】
また、従来の平面アンテナとして、アンテナ素子と給電線路とを有する給電基板と、アンテナ素子が形成された素子側面と対向するよう配置され、アンテナ素子と対向する部分にスリットが形成された素子側地導体と、アンテナ素子が形成されていない非素子側面と対向するよう配置された非素子側地導体と、素子側地導体と給電基板との間に配置された素子側誘電体と、非素子側地導体と給電基板との間に配置された非素子側誘電体と、素子側地導体のアンテナ素子と離隔する側の側面部に配置された誘電体スペーサとを備え、これらの構成要素を誘電体シートで真空パックしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
この平面アンテナにおいては、給電基板から素子側地導体および非素子側地導体までの距離を均一にするとともに、誘電体シートで構成要素を真空パックすることにより内部の空気の膨張によるアンテナ特性への影響を少なくして、良好なアンテナ特性を維持するようにしている。
【特許文献1】特許第2737939号明細書
【特許文献2】実開平5−7189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の特許文献1に記載の平面アンテナにおいては、上側プレートとレドームとの間に発泡スチロールで形成されたサポートクッションが配置されているので、すなわちアンテナ素子の電波放射面側にサポートクッションが配置されているので、アンテナ素子で電波を送受信する際、アンテナ特性が劣化してしまうという問題があった。
【0006】
この平面アンテナにおいては、アンテナ素子から所定の周波数で電波を放射した際、放射された電波は、スペーサの貫通孔、上側プレートの貫通孔、サポートクッションおよびレドームの順に透過することになる。このサポートクッションおよびレドームが空気に比べて高い比誘電率を有しているため、サポートクッションおよびレドーム内で誘電体損失が生じてしまう。この誘電体損失は、サポートクッションおよびレドーム内を透過する電波のエネルギーが熱エネルギーに変換されることによる損失であり、具体的には、正面利得(dBi)および電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)などのアンテナ特性が劣化してしまう。そのため、例えば、VSWRが確保すべき所定の基準範囲から逸脱したものが生産されることがあり、生産効率の低下を招くという問題があった。
【0007】
また、従来の特許文献2に記載の平面アンテナにおいても、素子側地導体のアンテナ素子と離隔する側の側面部に誘電体スペーサが配置され、この誘電体スペーサを含めた構成要素が誘電体シートで真空パックされているので、すなわちアンテナ素子の電波放射面側に誘電体スペーサが配置されているので、特許文献1に記載の平面アンテナと同様にアンテナ素子で電波を送受信する際、アンテナ特性が劣化してしまうという問題があった。
この平面アンテナにおいても、アンテナ素子から放射された電波は、素子側誘電体、素子側地導体のスリット、誘電体スペーサおよび誘電体シートの順に透過することになる。この素子側誘電体、誘電体スペーサおよび誘電体シートが空気に比べて高い比誘電率を有しているため、素子側誘電体、誘電体スペーサおよび誘電体シート内で誘電体損失が生じてしまう。この誘電体損失は、特許文献1に記載の平面アンテナと同様に正面利得(dBi)およびVSWRなどのアンテナ特性が劣化してしまう。そのため、例えば、VSWRが確保すべき所定の基準範囲から逸脱したものが生産されることがあり、生産効率の低下を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、前述の従来の問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、電波が送受信される際の誘電体損失によるアンテナ特性の劣化を抑制するとともに、高い生産効率を得ることができる平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る平面アンテナは、上記目的を達成するため、(1)複数のアンテナ素子および前記アンテナ素子を接続する給電線路が形成された素子側面を有するアンテナ回路基板と、前記素子側面と対向するよう配置され、前記アンテナ素子と対向する部分にスリットが形成された素子側地導体と、前記アンテナ回路基板の前記アンテナ素子が形成されていない非素子側面と対向するよう配置された非素子側地導体と、前記素子側地導体と前記アンテナ回路基板との間に配置された素子側誘電体と、前記非素子側地導体と前記アンテナ回路基板との間に配置された非素子側誘電体と、を備えた平面アンテナにおいて、前記素子側地導体と対向する前記素子側誘電体側の面と反対側の前記素子側誘電体の面側に配置され、前記素子側地導体の前記スリットに連通する部分に電波透過孔が板厚方向に貫通して形成された電波透過誘電体を備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成により、アンテナ回路基板のアンテナ素子から放射された電波は、素子側誘電体、素子側地導体のスリットおよび電波透過誘電体の電波透過孔を透過して外部空間に放射される。素子側地導体のスリットを透過した電波は、従来の平面アンテナのように比誘電率の高い電波透過誘電体自体を透過せず、電波透過誘電体の比誘電率の低い電波透過孔を透過するので、電波透過誘電体が電波に及ぼす悪影響が抑制される。従来、電波透過誘電体に相当する位置に配置された誘電体を透過する際に生じていた誘電体損失が低減され、正面利得(dBi)やVSWRなどのアンテナ特性が改善される。簡単な構造で誘電体損失が低減されるよう構成されているので、生産された平面アンテナが、アンテナ特性を満たしていないという品質の不良になる率が低減され、生産効率が改善される。
【0011】
上記(1)に記載の平面アンテナにおいて、好ましくは、(2)前記電波透過誘電体を蔽うレドームを備える。
【0012】
この構成により、レドーム内に平面アンテナの構成部品が収容されるので、特にアンテナ回路基板のアンテナ素子が、風、雨、雪、砂、氷および紫外線などの環境暴露から保護され、平面アンテナを屋外に設置することができる。
【0013】
上記(1)または(2)に記載の平面アンテナにおいて、好ましくは、(3)前記非素子側地導体に連結され、他の部材に任意の姿勢で取り付けることができるアンテナ取付機構を備える。
【0014】
この構成により、アンテナ取付機構が、平面アンテナの構成部品を支持する非素子側地導体に連結されているので、平面アンテナをアンテナ素子から放射され、電波の放射方向や、アンテナ素子で受信する電波の受信方向に沿った姿勢で、他の部材に取り付けることができ、設置場所に関して高い自由度を有し、どのような場所にでも設置することができる。
【0015】
上記(2)または(3)に記載の平面アンテナにおいて、好ましくは、(4)前記アンテナ素子から放射される電波の周波数が、4GHzないし18GHzで構成される。
【0016】
この構成により、アンテナ素子から放射される電波が、電波透過誘電体の比誘電率の低い電波透過孔を透過するので、電波透過誘電体が電波に対して及ぼす悪影響が、4GHzないし18GHzの広い周波数帯域で抑制される。電波透過誘電体を透過する際の誘電体損失が低減されることにより、正面利得やVSWRなどのアンテナ特性が改善される。簡単な構造で誘電体損失が低減されるよう構成されているので、生産された平面アンテナが、アンテナ特性を満たしていないという品質の不良になる率が低減され、生産効率が改善される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電波が送受信される際の誘電体損失によるアンテナ特性の劣化を抑制するとともに、高い生産効率を得ることができる平面アンテナを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1の斜視図であり、平面アンテナ1をアンテナポール100に取り付けた状態を示す。図2は、平面アンテナ1におけるアンテナ本体2の送受信回路部4のブロック図であり、図3は、アンテナ本体2の分解斜視図であり、図4は、アンテナ本体2の断面図であり、図5は、図4のアンテナ本体2の部分拡大断面図である。また、図6は、アンテナ回路基板51の表面部51s側から見たアンテナ回路基板51の平面図であり、図7は、電波透過誘電体56のレドーム57側から見た電波透過誘電体56の平面図である。
【0020】
まず、構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る平面アンテナ1は、アンテナ本体2と、アンテナ取付機構3とを含み、10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナで構成されており、FWAの基地局用アンテナとして使用されるものである。この平面アンテナ1は、10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナ以外の他の機器に使用するアンテナであってもよく、例えば、4GHzないし8GHzの周波数範囲からなるCバンド、8GHzないし12.4GHzの周波数範囲からなるXバンドおよび12.4GHzないし18GHzの周波数範囲からなるKuバンドを適応周波数帯とするものであってもよい。
Cバンドより低い周波数帯では、電波の波長が比較的長いので、本発明に係る平面アンテナの効果が得られないことがあり、本発明に係る平面アンテナに適さない。また、Kuバンドより高い周波数帯では、電波の波長が比較的短いので、本発明に係る平面アンテナの効果が得られないことがあり、本発明に係る平面アンテナに適さない。
【0021】
アンテナ本体2は、例えば、送受信回路部4と、本体部(ANT)5とを含んで構成されており、10.5GHz帯の電波を送信および受信するようになっている。送受信回路部4はANT5と離隔して設置されており、送受信回路部4とANT5とが図示しない同軸ケーブルによって接続されている。この送受信回路部4で送信処理された電波が同軸ケーブルを介してANT5に伝達されANT5から送信され、ANT5で受信された電波が同軸ケーブルを介して送受信回路部4に伝達され送受信回路部4で受信処理されるようになっている。
【0022】
図2に示すように、送受信回路部4は、送受共用器41と、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amp)42と、受信信号の中間周波数変換部(RxIF部)43と、ベースバンド処理部44と、インターフェース(I/F)45と、増幅器(PwAMP)46と、送信信号の中間周波数変換部(TxIF部)47とを含んで構成されている。
【0023】
送受共用器41は、例えば、サーキュレータ、アンテナ分波器(Duplexer)などの分岐回路からなり、送信側のPwAMP46に接続された送信波用のフィルタと、受信側のLNA42に接続された受信波用のフィルタと、各フィルタをANT5に接続する入出力端子とを有しており、ANT5で受信した受信波を受信波用のフィルタを介して分離および受信帯域制限してLNA42に伝達し、PwAMP46で増幅された送信波を送信波用のフィルタを介してANT5に伝達するようになっている。
【0024】
LNA42は、送受共用器41から入力された高周波受信信号を高周波増幅してRxIF部43に出力するようになっている。
RxIF部43は、LNA42で増幅された高周波受信信号をベースバンド信号に周波数変換しベースバンド処理部44に出力するようになっている。
【0025】
ベースバンド処理部44は、RxIF部43から入力されたベースバンド信号に復調、復号、暗号解読、文字の並び順などを復帰させるデスクランブル処理などの処理を施し、I/F45に出力し、I/F45から入力された信号を符号化、暗号化、文字の並び順などを変更するスクランブル処理などの処理を施しTxIF部47に出力するようになっている。
【0026】
I/F45は、図示しない基地局などの無線送受信機器およびベースバンド処理部44と接続され、無線送受信機器およびベースバンド処理部44からそれぞれ入力された信号が、相互接続条件を満たす場合に、相互に接続するよう構成されている。
PwAMP46は、例えば、MMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuit)を含んで構成されており、TxIF部47から入力された送信電力(mW)を増幅して、送受共用器41に出力するようになっている。
TxIF部47は、例えば、フィルタなどを含んで構成されており、ベースバンド処理部44から入力された送信信号を中間周波数(IF:Intermediate Frequency)に周波数変換し、PwAMP46に出力するようになっている。
【0027】
送受共用器41、LNA42、RxIF部43、ベースバンド処理部44、I/F45と、PwAMP46と、TxIF部47は公知のもので構成されており、これ以上詳説しない。
【0028】
図3に示すように、ANT5は、アンテナ回路基板51と、素子側地導体52と、非素子側地導体53と、素子側誘電体54と、非素子側誘電体55と、電波透過誘電体56と、レドーム57と、シーリング部材58と、接続端子59とを含み、小形でアンテナ特性に優れたトリプレート構造の平面アンテナで構成されている。
【0029】
図3および図6(b)に示すように、アンテナ回路基板51は、例えば、方形に形成され厚み0.05mm〜2mmを有するガラスエポキシ基板や、ポリイミドなどの可撓性のあるプラスチックフィルム基板からなり、素子側面としての表面部51sと、非素子側面としての裏面部51uとを有している。
【0030】
表面部51sには、厚み10μm〜500μmの銅箔が貼り付けられており、この銅箔に対して、エッチングなどの化学処理を施して、使用周波数10.4GHzの自由空間波長λの所定倍数、例えば、0.5λとなる一辺a(mm)と、この一辺aと略同じ長さを有する他辺b(mm)とで形成される方形のアンテナ素子51aが設けられている。
【0031】
このアンテナ素子51aは、アンテナ回路基板51の短辺方向に等間隔に6個配置されており、短辺方向の両端部に形成されたアンテナ素子51aは、距離c(mm)の範囲内に位置している。また、このアンテナ素子51aは、長辺方向に等間隔で12列配置されており、長辺方向の両端部に形成されたアンテナ素子51aは、距離d(mm)の範囲内に位置している。したがって、アンテナ回路基板51の表面部51sには、6個×12列の合計72個のアンテナ素子51aが配置されており、それぞれのアンテナ素子51aから、10.4GHzの電波が放射されるとともに、受信されるようになっている。
【0032】
また、表面部51sには、その中央部に、接続端子59と接続されている接続部51rと、複数の給電線路51kが縦横に形成されており、この各給電線路51kの一端が、接続部51rに接続されるとともに、各アンテナ素子51aに接続されている。接続端子59から入力された送信電力は、接続部51rおよび各給電線路51kを経由して各アンテナ素子51aに供給されるようになっている。また、アンテナ素子51aが受信した受信電波は、各給電線路51kおよび接続部51rから接続端子59を経由して、送受信回路部4に伝達されるようになっている。
【0033】
なお、アンテナ素子51aおよび給電線路51kをエッチングにより、アンテナ回路基板51の表面部51sの銅箔を加工して形成した場合について説明したが、それ以外の形成手段により形成してもよい。例えば、表面部51sに印刷により、アンテナ素子51aおよび給電線路51kを形成してもよい。また、アンテナ回路基板51には、複数の貫通孔51hが形成されており、この貫通孔51hにねじ61が挿通されるようになっている。
【0034】
素子側地導体52は、例えば、アルミニウムなどの金属板からなり、アンテナ素子51aが形成されたアンテナ回路基板51の表面部51sと対向するよう配置され、アンテナ素子51aと対向する部分に貫通して複数のスリット52sが形成されている。このスリット52sの大きさは、図6に示すアンテナ回路基板51のアンテナ素子51aの一辺aと短辺方向の距離cとほぼ同じ寸法に形成されており、アンテナ素子51aから放射された電波は、このスリット52sを通るようになっている。したがって、アンテナ回路基板51の給電線路51kから不要な電波が放射されても、スリット52s以外の部分で給電線路51kを遮蔽しているので、素子側地導体52から外部空間側に不要な電波が放射されることが抑制されるようになっている。
【0035】
また、素子側地導体52は、長辺および短辺の両端部で、裏面部52u側に突出して折り曲げられた縁部52fを有しており、この裏面部52u側に素子側誘電体54、アンテナ回路基板51、非素子側誘電体55が順に重ねて収容されるようになっている。
短辺方向の縁部52fの近傍およびスリット52sの間に複数の貫通孔52hが形成されており、ねじ61が挿通されるようになっている。
【0036】
非素子側地導体53は、例えば、アルミニウムなどの金属板からなり、厚みが2mm〜5mmで方形に形成されており、アンテナ回路基板51の非素子側面としての裏面部51uと対向するよう配置されている。非素子側地導体53の中央部には方形の貫通孔53tが形成されており、接続端子59の接地導体部59sの端部が挿通されるようになっている。また、貫通孔53tの近傍には、一対の貫通孔53kが形成されており、非素子側地導体53の表面部53oからさら頭ねじ63が挿通され、このさら頭ねじ63により接地導体部59sが非素子側地導体53に固定されるようになっている。
【0037】
また、表面部53oには、めねじが形成された複数のボス部53bが表面部53oから同じ高さで突出して設けられている。さらに、非素子側地導体53の長辺方向および短辺方向の縁部には、ほぼ均等の間隔で複数の貫通孔53hが形成されており、それぞれワッシャ付タッピンねじ62が挿通されるようになっている。
【0038】
また、裏面部53uには、おねじが形成された複数のスタッド53nが裏面部53uから同じ高さで突出して設けられており、アンテナ取付機構3が装着され、図1に示すように、アンテナ取付機構3を介してアンテナ本体2がアンテナポール100などの設置部材に固定されるようになっている。したがって、非素子側地導体53は、正面利得やVSWRなどのアンテナ特性を良好にする電気的機能を有するだけでなく、アンテナ本体2を構成する構成要素を支持する機械的強度をも有している。
【0039】
素子側誘電体54は、例えば、独立気泡ポリエチレンフォームなどの高発泡材からなり、均一に分布する気泡を内包しており、媒質の誘電率εと真空の誘電率εの比ε/ε=εで表される比較的に低い比誘電率εを有している。この非素子側誘電体55は、使用周波数10.4GHzにおける自由空間波長λを所定の倍数で乗算して算出した厚みで形成されている。
【0040】
この素子側誘電体54は、素子側地導体52とアンテナ回路基板51との間に配置されており、素子側地導体52とアンテナ回路基板51との間の間隔を均一に保つスペーサとしての機能を有するとともに、アンテナ特性の低下を抑制する損失抑制機能を有している。
この素子側誘電体54の表面部54sの中央部には貫通孔54kが形成されており、接続端子59の接地導体部59sの端部が挿通されるようになっている。
また、短辺方向の縁部近傍および長辺方向の中間部近傍には、複数の貫通孔54hが形成されており、ねじ61が挿通されるようになっている。
【0041】
非素子側誘電体55も、素子側誘電体54と同様に、独立気泡ポリエチレンフォームなどの高発泡材からなり、均一に分布する気泡を内包しており比較的に低い比誘電率εを有している。この非素子側誘電体55は素子側誘電体54と同様、使用周波数10.4GHzにおける自由空間波長λを所定の倍数で乗算して算出した厚みで形成されている。
この非素子側誘電体55は、非素子側地導体53とアンテナ回路基板51との間に配置されており、非素子側地導体53とアンテナ回路基板51との間の間隔を均一に保つスペーサとしての機能を有するとともに、アンテナ特性の低下を抑制する損失抑制機能を有している。
【0042】
この非素子側誘電体55の表面部55sの中央部には貫通孔55kが形成されており、接続端子59の接地導体部59sの端部が挿通されるようになっている。
また、短辺方向の縁部近傍および長辺方向の中間部近傍には、複数の貫通孔55hが形成されており、非素子側地導体53の表面部53oに形成されたボス部53bが挿通されるようになっている。
【0043】
電波透過誘電体56は、例えば、独立気泡ポリエチレンフォームやポリプロピレンの発泡シートなどの高発泡材からなり、均一に分布する気泡を内包しており所定の比誘電率εを有している。この電波透過誘電体56は、アンテナ素子51aが形成されたアンテナ回路基板51の表面部51sと対向するよう配置され、アンテナ素子51aと対向する部分に貫通して複数の電波透過孔56kが形成されている。
【0044】
この電波透過孔56kの大きさは、図6に示すアンテナ回路基板51のアンテナ素子51aの一辺aとほぼ同じ寸法の短辺e(mm)と、アンテナ回路基板51の距離c(mm)とほぼ同じ寸法の距離f(mm)および、アンテナ回路基板51の距離d(mm)とほぼ同じ寸法の距離g(mm)となっている。
【0045】
電波透過誘電体56の大きさは、電波の使用周波数帯域(Hz)やアンテナ素子数などにより適宜選択されるが、例えば、本実施の形態に係る垂直偏波用6×12個のアンテナ素子51aによって構成される10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナの場合、短辺方向の長さは、170mm〜190mm、長辺方向の長さは、330mm〜340mmで形成してもよい。この場合、電波透過孔56kの大きさは、一定の許容範囲を有しており、例えば、短辺eが16mm、距離fが98mm、距離gが302mmで形成されている場合には、それぞれ±0.5mm〜5mmの許容範囲を有している。この許容範囲未満の場合または許容範囲を超えた場合には、アンテナ特性が劣化することがある。
アンテナ素子51aから放射された電波は、この電波透過孔56k、すなわち比誘電率εが約1.0の空気中を透過するようになっている。
【0046】
図7に示すように、電波透過誘電体56には、短辺方向の縁部の近傍および、電波透過孔56kの間に複数の貫通孔56hが形成されており、ねじ61の頭部が挿入されるようになっている。
この電波透過誘電体56は、所定の均一な厚みt(mm)で形成されており、この電波透過誘電体56によりレドーム57が凹まないよう保持されるとともに、アンテナ素子51aから放射される電波の正面利得(dBi)などの特性が最適値に調整されるようになっている。
【0047】
すなわち、この電波透過誘電体56の厚みtが、大きすぎても、小さすぎても平面アンテナの正面利得やVSWRが低下するので、適宜、使用周波数やアンテナ素子51aに適した最適な厚みに選択されている。例えば、本実施の形態に係る垂直偏波用6×12個のアンテナ素子51aによって構成される10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナが、短辺方向の長さが170mm〜190mm、長辺方向の長さが330mm〜340mmで形成されている場合、6mm〜8mmで形成される。この電波透過誘電体56を含めANT5の非素子側地導体53の接続端子59側の側面から、レドーム57の外側の側面までの厚み(mm)は、本実施の形態に係る平面アンテナ1の使用周波数帯(GHz)やアンテナ特性に基づいて適宜選択された所定の許容範囲を有する厚みである。したがって、この許容範囲未満の場合または許容範囲を超えた場合には、使用電波のビーム幅が変化してしまったり、VSWRの数値が大きくなってしまったりするので、アンテナ特性が劣化することがある。
【0048】
レドーム57は、例えば、ポリカーボネートなどの電波の透過率が高いプラスチックからなり、図5に示すように、電波透過誘電体56を覆うよう均一な厚みで形成された本体57bと、長辺方向および短辺方向の周囲が電波透過誘電体56に向かって突出し非素子側地導体53と結合されるフランジ57kとを有している。このフランジ57kの電波透過誘電体56に対向する側には、シーリング溝57mが環状に形成されており、シーリング部材58が装着されるようになっている。このレドーム57により、アンテナ回路基板51のアンテナ素子51aが、風、雨、雪、砂、氷および紫外線などの環境暴露から保護されるようになっている。
【0049】
また、このフランジ57kの電波透過誘電体56に対向する側に非素子側地導体53の各貫通孔53hと対応する位置に、図示しない有底穴が形成されており、各貫通孔53hに挿通されたワッシャ付タッピンねじ62のねじ部が、各有底穴にねじ込まれ、レドーム57が非素子側地導体53に結合されるようになっている。
【0050】
図4および図5に示すように、このレドーム57が非素子側地導体53に結合されると、レドーム57と非素子側地導体53との間に、非素子側誘電体55、アンテナ回路基板51、素子側誘電体54、素子側地導体52および電波透過誘電体56が順に積層され、防水性が確保された状態で収容されるようになっている。
【0051】
シーリング部材58は、例えば、シリコーンゴムなどの高い防水性を有する弾性部材からなり、レドーム57のシーリング溝57mに装着されるようになっている。
【0052】
接続端子59は、例えば、非素子側地導体53に固定され、金属で形成された接地導体部59sと、接地導体部59sに固定された高周波同軸コネクタ59cとを含んで構成されている。接地導体部59sの端部がアンテナ回路基板51の接続部51rに接続されており、アンテナ回路基板51の給電線路51kと高周波同軸コネクタ59cとのインピーダンスの整合を良好にしている。また、接地導体部59sの周囲は、シーリング材によりシールされておりアンテナ本体2の内部に水が浸入しないようになっている。また、接地導体部59sと高周波同軸コネクタ59cとの間にもパッキン59pが介装されており、防水性が確保されている。高周波同軸コネクタ59cの一方端部は、アンテナ回路基板51の接続部51rに接続されており、非素子側地導体53が突出した他方端部は、図示しない同軸ケーブルに接続されるようになっている。
【0053】
図1に示すように、アンテナ取付機構3は、支持金具3sと、取付金具3t1、3t2と、一対の固定ボルト3b、一対の固定ナット3rとを含んで構成されており、ANT5の電波放射方向を調整できるよう、水平方向(アジマス方向)および垂直方向(エレベーション方向)の姿勢が可変になっている。
支持金具3sは、ANT5の非素子側地導体53に形成されたスタッド53nにワッシャ3wおよびナット3nにより、ねじ結合されて非素子側地導体53に固定されている。
取付金具3t1は、エレベーション方向の姿勢が可変になるよう固定具3kにより支持金具3sに固定されている。
取付金具3t2は、アンテナポール100を挟んで、取付金具3t1に対向する位置で、適宜選択されたアジマス方向の位置に調整された後、一対の固定ボルト3bおよび一対の固定ナット3rにより締付固定されている。
【0054】
次に、本実施の形態に係る平面アンテナ1の動作について簡単に説明する。
【0055】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、図2に示すように、アンテナ装置などの外部機器から、I/F45を介してベースバンド処理部44に送信電力(mW)が入力されると、ベースバンド処理部44で符号化、暗号化、文字の並び順などを変更するスクランブル処理などの処理が施され処理後の送信電力がTxIF部47に出力され、TxIF部47で中間周波数(IF)に周波数変換されPwAMP46に出力される。PwAMP46に入力された送信電力は、送受共用器41の送信用フィルタを経由して同軸ケーブルを通り、ANT5の接続端子59に伝達される。そして、送信電力は、接続端子59から、アンテナ回路基板51の接続部51rを経由して給電線路51kから各アンテナ素子51aに給電される。このとき、アンテナ素子51aから電波が放射され、素子側誘電体54、素子側地導体52のスリット52s、電波透過誘電体56の電波透過孔56k、レドーム57の順に電波が透過し外部空間に、アジマス方向に約90の範囲の指向性を有して放射される。
【0056】
他方、レドーム57、電波透過誘電体56の電波透過孔56k、素子側地導体52のスリット52sおよび素子側誘電体54の順に透過した電波は、アンテナ回路基板51の各アンテナ素子51aで受信される。受信電波は、アンテナ回路基板51の給電線路51kから接続部51r、ANT5の接続端子59を経由して同軸ケーブルを通り、送受共用器41に伝達される。そして、送受共用器41の受信波用のフィルタを通過した共振周波数の帯域が10.4GHzの微弱な電力の電波は、LNA42に入力され、LNA42で高周波増幅されRxIF部43で高周波受信信号がベースバンド信号に周波数変換され、ベースバンド処理部44に入力される。ベースバンド処理部44でベースバンド信号が、復調、複号、暗号解読、文字の並び順などを復帰させるスクランブル処理などの信号処理が行われ、I/F45を経由して、図示しないアンテナ装置などの外部機器に伝達される。
【0057】
このように、本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、以上説明したように構成されているので、次の効果が得られる。
【0058】
図8(a)は、従来の平面アンテナのサンプル#1の周波数とVSWRの関係を示すグラフであり、図8(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル#1の周波数とVSWRの関係を示すグラフである。
図9(a)は、従来の平面アンテナのサンプル#2の周波数とVSWRの関係を示すグラフであり、図8(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル#2の周波数とVSWRの関係を示すグラフである。
図10(a)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル1および従来の平面アンテナのサンプル1の周波数と正面利得との関係を示すグラフであり、図10(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル1および従来の平面アンテナのサンプル1の周波数と正面利得との関係を示す表である。
図11(a)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル2および従来の平面アンテナのサンプル2の周波数と正面利得との関係を示すグラフであり、図11(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル2および従来の平面アンテナのサンプル2の周波数と正面利得との関係を示す表である。
【0059】
本実施の形態に係る平面アンテナ1は、複数のアンテナ素子51aおよび給電線路51kが形成された表面部51sを有するアンテナ回路基板51と、表面部51sと対向するよう配置され、アンテナ素子51aと対向する部分にスリット52sが形成された素子側地導体52と、アンテナ回路基板51の裏面部51uと対向するよう配置された非素子側地導体53と、素子側地導体52とアンテナ回路基板51との間に配置された素子側誘電体54と、非素子側地導体53とアンテナ回路基板51との間に配置された非素子側誘電体55とを備え、さらに素子側地導体52の側面部52mに配置され、素子側地導体52のスリット52sに連通する部分に電波透過孔56kが形成された電波透過誘電体56を備えたことを特徴としている。
【0060】
その結果、図8(a)、(b)に示すサンプル#1の平面アンテナ1において、VSWRが0.0358も低減され著しい低減効果が得られ、図9(a)、(b)に示すサンプル#2の平面アンテナ1においても、VSWRが0.0352も低減され著しい低減効果が得られた。
【0061】
ここで、VSWR、すなわち電圧定在波比は、機器内を高周波信号が通過するときにその高周波信号の一部が回路上で反射されてしまう度合いを表している。定在波とは、反射した電波と元の電波とが相互に干渉して、その振幅が変化する電波を示し、この振幅の大きさにより反射の状態を知ることができる。VSWRは、全く反射のない状態を1とし、反射が大きいほど、すなわち高周波信号の反射による損失が大きいほど大きい数値で表される。アンテナなどの送受信機器では、VSWRの数値が1.5以下、すなわち反射電力が元の電力の約4%以下であることが好ましい。
【0062】
図8(a)、(b)および図9(a)、(b)においては、横軸に周波数(GHz)を示し、縦軸にVSWRを示しており、従来の平面アンテナおよび本実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル#1、#2に対して、公知のネットワークアナライザにより測定した各VSWRの結果をグラフにしたものである。
【0063】
なお、本実施の形態に係る平面アンテナ1は、素子側地導体52のスリット52sと対向する部分に電波透過孔56kが形成された電波透過誘電体56で構成されているのに対して、従来の平面アンテナは、平面アンテナ1と同様に構成されるとともに、電波透過誘電体56に相当する従来の誘電体に電波透過孔が形成されていないものである。また、サンプル#1、#2は全く同様の構成であり、同様に生産されたものである。
【0064】
これらのVSWRは、具体的には、平面アンテナ1の接続端子59に同軸ケーブルの一端を接続し、他端をネットワークアナライザに接続し、平面アンテナ1の電波放射方向に所定の距離だけ離して電波吸収体を設置し、平面アンテナ1から放射された電波を電波吸収体で吸収するようにし、ネットワークアナライザが、平面アンテナ1から放射された電波の影響を受けない状態で、平面アンテナ1の内部の電波の反射の状態を測定したものである。
【0065】
各図のグラフは、放射電波の周波数10.150000000GHzを「START」周波数とし、周波数10.650000000GHzを「STOP」周波数として、所定の時間(ms)で掃引したもので、各周波数におけるVSWRを曲線で示したものである。
また、各図における「▽1」および「▽2」のマークは、一定の周波数(GHz)におけるVSWRを示したものである。
【0066】
図8(a)に示す従来の平面アンテナのサンプル#1においては、例えば、マーク▽1のとき、放射電波の周波数が10.568125000GHzで、VSWRが1.4878であり、マーク▽2のとき、放射電波の周波数が10.228700000GHzで、VSWRが1.100であり、マーク▽1のときにもっとも高いVSWRとなっている。
これに対し、図8(b)に示すように、本実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル#1においては、例えば、マーク▽1のとき、放射電波の周波数が10.55625000GHzで、VSWRが1.4520であり、マーク▽2のとき、放射電波の周波数が10.228700000GHzで、VSWRが1.360であり、マーク▽1のときにもっとも高いVSWRとなっている。
【0067】
その結果、VSWRが、1.4878−1.4520=0.0358も低減され、著しい低減効果が得られた。
【0068】
図9(a)に示す従来の平面アンテナのサンプル#2においては、例えば、マーク▽1のとき、放射電波の周波数が10.350625000GHzで、VSWRが1.4838であり、マーク▽2のとき、放射電波の周波数が10.228700000GHzで、VSWRが1.2289であり、マーク▽1のときにもっとも高いVSWRとなっている。
これに対し、図8(b)に示すように、本実施の形態に係る平面アンテナ1のサンプル#2においては、例えば、マーク▽1のとき、放射電波の周波数が10.33750000GHzで、VSWRが1.4486であり、マーク▽2のとき、放射電波の周波数が10.228700000GHzで、VSWRが1.2410であり、マーク▽1のときにもっとも高いVSWRとなっている。
【0069】
その結果、VSWRが、1.4838−1.4486=0.0352も低減され、著しい低減効果が得られた。
【0070】
また、図10(a)、(b)に示すサンプル1の平面アンテナ1において、正面利得(dBi)が著しく改善され、図11(a)、(b)に示すサンプル2の平面アンテナ1においても、正面利得(dBi)が著しく改善された。
【0071】
ここで、正面利得は、同一の電力を被測定アンテナと基準アンテナに加えた場合の被測定アンテナと基準アンテナと最大電界方向での受信電力の比で表され、値が高いほど指向性が鋭くなり送信電波の到達距離を長くすることができる。したがって、正面利得が高いほど好ましい。この正面利得は、各被測定平面アンテナを電波暗室に設置し、外部から電波などの影響を受けない状態で電波を放射し、公知のネットワークアナライザにより電波放射方向の所定の距離の位置で受信したときの受信電波の電力を測定して得られたものである。
【0072】
図10(a)、(b)に示すように、サンプル1の平面アンテナの場合、点線で示す従来の平面アンテナにおいては、最小の周波数10.15GHzでは、正面利得が15.02(dBi)であり、最大の周波数10.65GHzでは、正面利得が17.06(dBi)であった。これに対し、実線で示す本実施の形態の平面アンテナ1においては、最小の周波数10.15GHzでは、正面利得が15.16(dBi)であり、従来の平面アンテナの正面利得より0.14(dBi)向上しており、最大の周波数10.65GHzでは、正面利得が17.25(dBi)であり、従来の平面アンテナの正面利得より0.18(dBi)向上した。
【0073】
図10(b)に示すように、正面利得は、最少でも0.14(dBi)向上し、最大0.42(dBi)向上しており、平均0.25(dBi)向上し、著しく改善された。
【0074】
また、図11(a)、(b)に示すように、サンプル2の平面アンテナの場合、点線で示す従来の平面アンテナにおいては、最小の周波数10.15GHzでは、正面利得が14.91(dBi)であり、最大の周波数10.65GHzでは、正面利得が17.06(dBi)であった。これに対し、実線で示す本実施の形態の平面アンテナ1においては、最小の周波数10.15GHzでは、正面利得が14.98(dBi)であり、従来の平面アンテナの正面利得より0.07(dBi)向上しており、最大の周波数10.65GHzでは、正面利得が17.19(dBi)であり、従来の平面アンテナの正面利得より0.13(dBi)向上した。
【0075】
図10(b)に示すように、正面利得は、最少でも0.06(dBi)向上し、最大0.36(dBi)向上しており、平均0.18(dBi)向上し、著しく改善された。
このように、本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、優れた正面利得およびVSWRが得られるので、平面アンテナの生産時に、アンテナ特性が不良となる平面アンテナが著しく低減され、高い生産効率を得ることができる。
【0076】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、アンテナ素子51aの一列6個に対応して1個の長方形の電波透過孔56kを電波透過誘電体56に形成した場合について説明したが、本発明に係る平面アンテナにおいては、電波透過誘電体に形成する電波透過孔は、アンテナ素子の一列の複数個に対応して形成した1個の長方形以外の電波透過孔であってもよい。例えば、各アンテナ素子に対応してアンテナ素子と同数の電波透過孔を電波透過誘電体に形成してもよい。
【0077】
次いで、アンテナ素子と同数の電波透過孔を電波透過誘電体に形成した、平面アンテナ1の変形例について説明する。
【0078】
図12は、本実施の形態の変形例に係るアンテナ本体102の分解斜視図であり、図13は、電波透過誘電体156のレドーム57側から見た電波透過誘電体156の平面図である。
本実施の形態の変形例に係る平面アンテナ1は、アンテナ本体102と、アンテナ取付機構3とを含んで構成され、アンテナ本体102は、送受信回路部4とANT105とを含んで構成されている。
【0079】
図12に示すように、ANT105は、アンテナ回路基板51と、素子側地導体52と、非素子側地導体53と、素子側誘電体54と、非素子側誘電体55と、電波透過誘電体156と、レドーム57と、シーリング部材58と、接続端子59とを含んで構成されている。この電波透過誘電体156以外は、ANT5と同様に構成されている。
図13に示すように、電波透過誘電体156においては、電波透過誘電体56と比べ、電波透過誘電体56に形成した電波透過孔56kが異なっている。
すなわち、アンテナ回路基板51のアンテナ素子51aと対向する部分に貫通して複数の電波透過孔156kが形成されている。
【0080】
この電波透過孔156kの大きさは、図6に示すアンテナ回路基板51のアンテナ素子51aの一辺aとほぼ同じ寸法の短辺o(mm)と、他辺bとほぼ同じ寸法の短辺p(mm)となっている。
【0081】
この電波透過孔156kは、アンテナ回路基板51の短辺方向に等間隔に6個配置されたアンテナ素子51aと対向して形成されており、短辺方向の両端部に形成された電波透過孔156kは、アンテナ素子51aの距離c(mm)とほぼ同じ距離qの範囲内に位置している。また、この電波透過孔156kは、長辺方向に等間隔で12列配置されたアンテナ素子51aと同様、長辺方向の両端部に位置する電波透過孔156kは、アンテナ素子51aの距離d(mm)と同様の距離r(mm)の範囲内に位置している。したがって、電波透過誘電体156の表面部156sには、アンテナ回路基板51の表面部51sと同様に、6個×12列の合計72個の電波透過孔156kが形成されており、それぞれのアンテナ素子51aから放射された10.4GHzの電波が、それぞれの電波透過孔156k内、すなわち比誘電率εが約1.0の空気中を透過するようになっている。
【0082】
電波透過誘電体156の大きさは、電波の使用周波数帯域(Hz)やアンテナ素子数などにより適宜選択されるが、例えば、本実施の形態に係る垂直偏波用6×12個のアンテナ素子51aによって構成される10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナの場合、短辺方向の長さは、170mm〜190mm、長辺方向の長さは、330mm〜340mmで形成してもよい。この場合、電波透過孔156kの大きさは、一定の許容範囲を有しており、例えば、短辺oが16mm、他辺pが16mm、距離rが302mmで形成されている場合には、それぞれ±0.5mm〜5mmの許容範囲を有している。この許容範囲未満の場合または許容範囲を超えた場合には、アンテナ特性が劣化することがある。
【0083】
図13に示すように、電波透過誘電体156には、短辺方向の縁部の近傍および、電波透過孔156kの間に複数の電波透過孔156hが形成されており、ねじ61の頭部が挿入されるようになっている。この電波透過誘電体156は、電波透過誘電体56と同様、所定の均一な厚みt(mm)で形成されており、この電波透過誘電体156によりレドーム57が凹まないよう保持されるとともに、アンテナ素子51aから放射される電波の正面利得(dBi)などの特性が最適値に調整されるようになっている。
【0084】
すなわち、この電波透過誘電体156の厚みtが、大きすぎても、小さすぎても平面アンテナの正面利得やVSWRが低下するので、適宜、使用周波数やアンテナ素子51aに適した最適な厚みに選択されている。例えば、本実施の形態に係る垂直偏波用6×12個のアンテナ素子51aによって構成される10.5GHz帯90度セクタビーム平面アンテナが、短辺方向の長さが170mm〜190mm、長辺方向の長さが330mm〜340mmで形成されている場合、電波透過誘電体56と同様に、6mm〜8mmで形成される。
この電波透過誘電体156を含めANT105の非素子側地導体53の接続端子59側の側面から、レドーム57の外側の側面までの厚み(mm)は、本実施の形態に係る平面アンテナ1の使用周波数帯(GHz)やアンテナ特性に基づいて適宜選択された所定の許容範囲を有する厚みである。したがって、この許容範囲未満の場合または許容範囲を超えた場合には、使用電波のビーム幅が変化してしまったり、VSWRの数値が大きくなってしまったりするので、アンテナ特性が劣化することがある。
【0085】
本実施の形態の変形例に係るアンテナ本体102においても、本実施の形態に係るアンテナ本体2と同様の効果が得られる。すなわち、電波が送受信される際の誘電体損失によるアンテナ特性の劣化を抑制し優れた正面利得(dBi)およびVSWRが得られ、高い生産効率を得ることができる平面アンテナを提供することができる。
【0086】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、アンテナ回路基板51に、6個×12列の合計72個のアンテナ素子51aを形成した場合について説明したが、本発明に係る平面アンテナにおいては、アンテナ回路基板に72個以外の複数のアンテナ素子を形成してもよい。例えば、3個〜6個の1列〜10列でアンテナ素子を形成してもよく、任意の整数をnとすると、(n+1)個×n列のアンテナ素子を形成してもよい。
【0087】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、ANT5を長辺および短辺を有する長方形で形成した場合について説明したが、本発明に係る平面アンテナにおいては、ANT5を長方形以外の任意の形状で形成してもよい。例えば、三角形、正方形、多角形、楕円計および円形で形成してもよい。
【0088】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、送受信回路部4を、送受共用器41、LNA42、RxIF部43、ベースバンド処理部44、I/F45、PwAMP46、TxIF部47とを含んで構成した場合について説明したが、本発明に係る平面アンテナにおいては、送受信回路は公知の他の構成要素で構成してもよい。
【0089】
本実施の形態に係る平面アンテナ1においては、ANT5をレドーム57を含んで構成した場合について説明したが、本発明に係る平面アンテナにおいては、室内などの環境暴露がされない場所で使用する場合には、レドームを含まず構成してもよい。
【0090】
以上説明したように、本発明は、電波が送受信される際の誘電体損失によるアンテナ特性の劣化を抑制するとともに、高い生産効率を得ることができる平面アンテナを提供することができるものであり、特にトリプレート構造の平面アンテナに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態に係る平面アンテナの斜視図であり、平面アンテナをアンテナポールに取り付けた状態を示す。
【図2】本発明の実施の形態に係る平面アンテナにおけるアンテナ本体の送受信回路部のブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る平面アンテナの分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る平面アンテナの断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る平面アンテナの部分拡大断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る平面アンテナのアンテナ回路基板の表面部側から見たアンテナ回路基板の平面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る平面アンテナの電波透過誘電体のレドーム側から見た電波透過誘電体の平面図である。
【図8】(a)は、従来の平面アンテナのサンプル#1の周波数とVSWRの関係を示すグラフであり、(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル#1の周波数とVSWRの関係を示すグラフである。
【図9】(a)は、従来の平面アンテナのサンプル#2の周波数とVSWRの関係を示すグラフであり、(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル#2の周波数とVSWRの関係を示すグラフである。
【図10】(a)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル1および従来の平面アンテナのサンプル1の周波数と正面利得との関係を示すグラフであり、(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル1および従来の平面アンテナのサンプル1の周波数と正面利得との関係を示す表である。
【図11】(a)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル2および従来の平面アンテナのサンプル2の周波数と正面利得との関係を示すグラフであり、(b)は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナのサンプル2および従来の平面アンテナのサンプル2の周波数と正面利得との関係を示す表である。
【図12】本発明の実施の形態の変形例に係る平面アンテナのアンテナ本体の分解斜視図である。
【図13】本発明の実施の形態の変形例に係る平面アンテナの電波透過誘電体のレドーム側から見た電波透過誘電体の平面図である。
【符号の説明】
【0092】
1 平面アンテナ
2、102 アンテナ本体
3 アンテナ取付機構
4 送受信回路部
5、105 ANT(本体部)
41 送受共用器
42 LNA(低雑音増幅器)
43 RxIF部(中間周波数変換部)
44 ベースバンド処理部
45 I/F(インターフェース)
46 PwAMP(増幅器)
47 TxIF部(中間周波数変換部)
51 アンテナ回路基板
51a アンテナ素子
51k 給電線路
51s 表面部(素子側面)
51u 裏面部(非素子側面)
52 素子側地導体
52m 側面部(素子側地導体と対向する素子側誘電体側の面と反対側の前記素子側誘電体の面側)
52s スリット
53 非素子側地導体
54 素子側誘電体
55 非素子側誘電体
56、156 電波透過誘電体
56k、156k 電波透過孔
57 レドーム
58 シーリング部材
59 接続端子
100 アンテナポール(他の部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子および前記アンテナ素子を接続する給電線路が形成された素子側面を有するアンテナ回路基板と、
前記素子側面と対向するよう配置され、前記アンテナ素子と対向する部分にスリットが形成された素子側地導体と、
前記アンテナ回路基板の前記アンテナ素子が形成されていない非素子側面と対向するよう配置された非素子側地導体と、
前記素子側地導体と前記アンテナ回路基板との間に配置された素子側誘電体と、
前記非素子側地導体と前記アンテナ回路基板との間に配置された非素子側誘電体と、
を備えた平面アンテナにおいて、
前記素子側地導体と対向する前記素子側誘電体側の面と反対側の前記素子側誘電体の面側に配置され、前記素子側地導体の前記スリットに連通する部分に電波透過孔が板厚方向に貫通して形成された電波透過誘電体を備えたことを特徴とする平面アンテナ。
【請求項2】
前記電波透過誘電体を覆うレドームを備えたことを特徴とする請求項1に記載の平面アンテナ。
【請求項3】
前記非素子側地導体に連結され、他の部材に任意の姿勢で取り付けることができるアンテナ取付機構を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の平面アンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子から放射される電波の周波数が、4GHzないし18GHzであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の平面アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−4165(P2010−4165A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159569(P2008−159569)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】