説明

広い周波数変化範囲を有する電気共振器デバイス

可変周波数ωで動作できる電気共振器デバイスであって、少なくとも、音響共振器と、共振器に並列に結合され、虚数部が


ただしC1≧0、に等しい調整可能な複素インピーダンスを有する第1の電気回路と、前記共振器および前記第1の電気回路に並列に結合され、虚数部が


ただしC2<0、に等しい複素インピーダンスを有する第2の電気回路とを含み、ωが前記デバイスの動作周波数であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込む2008年3月11日出願の米国仮特許出願第61/035,437号に関連しており、その優先権を主張する。本出願はまた、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込む2008年1月18日出願の仏国特許出願第0850327号の優先権も主張する。
【0002】
本明細書は、例えば、周波数およびノイズが安定化された基準信号源を生成するために使用され、それによって電圧制御発振器(VCO)を形成する、周波数の同調範囲または変化範囲が広い電気共振器デバイスに関する。このようなVCOは、例えば、移動通信端末の送受信チェーンに使用することができる。本明細書はまた、広い周波数帯域を有する選択フィルタの形成にも適用され、このフィルタにはまた、移動通信システムでの用途もある。
【背景技術】
【0003】
一般に、VCOは以下の4つのパラメータによって特徴付けられる。
【0004】
位相ノイズ:これは、発振器のスペクトル純度を特徴付けるものである。発振器の固有振動は、その基本周波数から離れると低下するスペクトルノイズ密度の形で定量化される。dBc/Hzで表されるこのスペクトル密度のレベルは、基本周波数に対するある周波数差のところで得られる。良好な位相ノイズにより、良好な受信感度、ならびに良好な変調特性が保証される。
【0005】
周波数変化範囲:これは、所与の周波数帯域に同調する発振器の能力である。一般に、発振器は、システムを形成する際の標準に対応する周波数帯域のすべてをカバーすることが期待される。各周波数帯域が互いに近接している多標準システムにおいては、大きい周波数変化範囲が有利である。
【0006】
出力電力定格:これは、発振器によって生成される基準信号の電力レベルである。そのレベルが高いほど、その位相ノイズがより効率的になり、発振器をシステムの他のブロックとインターフェースするのがより簡単になる。
【0007】
消費電力:これは、VCOが動作するのに必要な連続電力である。VCOは、システム内で使用可能な直流電圧に接続される。高密度化の技術により供給電圧が低減されており、そのため、電力を供給する発振器の能力は大幅に制限される。
【0008】
これら4つのパラメータの最適化は、一般にはいくつかの妥協に基づく。その結果として、VCOの位相ノイズの改善は、周波数変化範囲および消費電力を損ねて行われる。さらに、出力電力レベルが高いとVCOの消費電力が増加する。一般にVCOは、1つまたは複数のこれらの制約条件に基づき、VCOがそれ用に設計されている送受信システムの特定の機能に応じて、性能を最適化してきた。VCOの性能を比較するために、様々な制約条件を関連付ける数学的指標、すなわち性能指数がある。それが高いほど、VCOはより効率的と考えることができる。
【0009】
VCOを作製するには、例えば、負性電気抵抗に直列または並列に接続されたRLC回路(抵抗+インダクタンス+コンデンサ)によってモデル化される共振器が、コマンドに適合するようにVCOの共振条件を変える追加の複素インピーダンス素子(element)と結び付けられる。負性電気抵抗とは、そこを通る電流が、少なくともある範囲内で、その各端子に加えられた電圧が増加すると低下するような挙動をする電気素子(component)のことを言う。この複素インピーダンス素子には、例えばバリキャップダイオードまたは可変誘導性素子を用いて得られる、例えば可変電気容量がある。したがって、VCOの位相ノイズは、第一には、共振器と可変複素インピーダンス素子の各品質係数の関連に応じて生じ、そして第二には、共振器の負性抵抗を形成するために使用されるトランジスタに固有のノイズに応じて生じる。
【0010】
高周波システム、特にデジタル高周波システムにおいてVCOの発振器の安定性を改善するのに、1つの技法は、例えばFBAR(フィルムバルク音響共振器)タイプのBAW(バルク音響)共振器、または電圧を制御できる可変複素インピーダンス素子に付随するSAW(表面波(Surface Acoustic Waves))共振器を特徴として備える集積VCOを作製することである。したがって、特に高い動作周波数で従来の移動通信システムと整合する、安定性、位相ノイズおよび消費電力についての高い制約条件を満たすことが可能である。
【0011】
品質係数が高いBAWまたはSAWなどの共振器は、互いに近接した2つの周波数、すなわち共振器のインピーダンスが最も低くなる直列共振周波数と、共振器のインピーダンスが最も高くなる反共振周波数とで、注目すべき値のインピーダンスを有する。BAWまたはSAW共振器を特徴として備えるVCOの可変複素インピーダンス素子により、VCOの共振周波数または反共振周波数を変化させることができる。
【0012】
移動通信システムでは、VCOの典型的な周波数変化範囲は約5%に達する。さらに、良好な品質係数を維持することは、それがまず第一に機能の位相ノイズに関係するので、基本的なことである。K.B. Ostmanらの論文「Novel VCO Architecture Using Series Above-IC FBAR and Parallel LC Resonance」、IEEE J. Solid-State Circuits、vol. 41、第10号、2006年10月には、BAW共振器を特徴として備えるVCOを記載している。この回路は、非常によい位相ノイズ、および許容できる周波数変化範囲を有するが、BAW共振器に直列素子を追加することにより生じる直列の抵抗損失の増加により、消費電力が大きい。
【0013】
さらに、このようなVCOの性能指数は、VCOの周波数変化範囲をかなり限定するBAW共振器の固有特性によって制限される。例えば、受信時に60MHzから2.14GHzの周波数帯域を使用するUMTS標準に関し、高い品質係数の共振器を備えて動作する集積VCOで、そのような広い周波数帯域を使用するデジタル移動通信システムの周波数変化範囲制約条件を満たすことができるものはない。したがって、これらの用途での集積VCOは現在、品質係数が10未満の集積共振器の助けによって動作している。
【0014】
高い品質係数のBAWまたはSAWタイプの共振器はまた、移動通信デバイス用の多標準送信および/または受信の構造内のフィルタを形成するためにも使用される。これらのフィルタは、例えば1つの共振器、またはいくつか結合された共振器から作製され、この結合は、直列および/または並列の形にしてラダーフィルタまたは格子フィルタを得ることができる。
【0015】
しかし、これらのフィルタには、特に移動通信システムで、必要な周波数範囲をカバーすることについての問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】K.B. Ostmanら、「Novel VCO Architecture Using Series Above-IC FBAR and Parallel LC Resonance」、IEEE J. Solid-State Circuits、vol. 41、第10号、2006年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、従来技術の欠点がない、すなわち、広い周波数変化範囲を示しながら、共振器の品質係数が高いことにより良好な品質係数を有する電気共振器デバイスを提案する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
これを実現するために、一実施形態では、可変周波数ωで動作できる、または可変周波数ωで動作し、少なくとも
音響共振器と、
共振器に並列に結合され、調整可能な正の電気容量を有する第1の電気回路と、
共振器および第1の電気回路に並列に結合され、厳密に負の電気容量を有する第2の電気回路とを含む電気共振器デバイスを提案する。
【0019】
一実施形態ではまた、可変周波数ωで動作できる、または可変周波数ωで動作し、少なくとも
音響共振器と、
共振器に並列に結合され、虚数部が
【0020】
【数1】

【0021】
ただしC1≧0、に等しい調整可能な複素インピーダンスを有する第1の電気回路と、
共振器および第1の電気回路に並列に結合され、虚数部が
【0022】
【数2】

【0023】
ただしC2<0、に等しい複素インピーダンスを有する第2の電気回路とを含む電気共振器デバイスを提案する。
ωはデバイスの共振周波数または動作周波数である。
【0024】
ωは、電気デバイスの動作周波数に相当する。例えば、電気共振器デバイスが電圧制御発振器である場合、動作周波数の値は、発振器に加えられる制御電圧の値によって決まる。
【0025】
したがって、厳密に負の電気容量および容量性の挙動を伴う第2の電気回路のために、デバイスの動作周波数がどうであろうと、デバイスの反共振周波数は、その直列共振周波数を変えることなく、音響共振器の固有の反共振周波数よりも高い周波数に移される。言い換えると、音響共振器の電気機械的結合を増大させ、それによってデバイスの周波数変化範囲を増大させることが可能である。すなわち、デバイスは広い周波数範囲で動作する。
【0026】
この実施形態によれば、直列共振周波数および反共振周波数を有し、音響共振器と、実数部を負とすることができ虚数部が負の電気容量に等しい複素インピーダンスを有する電子機能と、調整可能な正の電気容量とを含む発振装置、例えば電圧制御の発振器またはフィルタを形成することが可能である。この発振装置により、例えば、位相ノイズが主として音響共振器の高品質によって決まり、周波数変化範囲がRLC共振器などの共振器で得られる変化範囲よりも著しく大きい電圧制御発振器を形成することができる。この発振装置によりまた、フィルタの挿入損失および阻止を劣化させずに、既知のフィルタよりも広い周波数帯域をフィルタリングするフィルタを形成することもできる。
【0027】
虚数部が
【0028】
【数3】

【0029】
ただしC2<0、に等しい複素インピーダンス、または負の電気容量が音響共振器に結合されて存在すると、デバイスの周波数変化範囲が既知のデバイス、例えばVCOと比べて約4倍から5倍に増大する。
【0030】
さらに、この実施形態では、低い位相ノイズで広い周波数同調範囲を有し、並列に結合された音響共振器の品質係数によって向上した可変電気容量の品質係数の利益を受けるVCOを得ることができ、同調周波数はVCOの反共振周波数に相当しうる。
【0031】
最後に、反共振周波数で動作することによって、こうして形成されたVCOは、低位相ノイズを維持しながら低消費電力を維持する。
【0032】
電気デバイス、特に第2の電気回路は、小さいサイズの素子で作製することができ、それによって、完全に集積された、例えばマイクロエレクトロニクス技術で実現された、すなわちマイクロメートルのサイズを有する、VCOなどの電子デバイスを実現することが可能になる。
【0033】
第2の電気回路は、デバイスの動作周波数がどうであろうと、容量性の挙動をする。実際、正の虚数部を有し、動作周波数が増加している間にスミスアバカス(Smith abacus)上に描かれるときに、時計方向に回転する正のインダクタンスのインピーダンスとは反対に、負の電気容量のインピーダンスは正の虚数部を有し、動作周波数の増加中にそれがスミスアバカス上に描かれるときには、反時計方向に回転する。
【0034】
所与の動作周波数で、インピーダンスの位置(スミスアバカス上)が負の電気容量のインピーダンスの位置と一致するような正のインダクタンス値が存在するが、このインダクタンスを求めるための制限事項は、一致する負の電気容量を求めるよりもずっと重要である。例えば、約100MHzに等しい低い動作周波数では、-1pFの電気容量は、2.5pHのインダクタンスのインピーダンスに相当するインピーダンスを有するが、このインダクタンスは集積化の方法では実現することができない。
【0035】
さらに、負の電気容量のインピーダンスの導関数は、インダクタンスの導関数と異なる。
【0036】
インダクタンスとは反対に、虚数部が
【0037】
【数4】

【0038】
ただしC2<0で、負の電気容量を有する、に等しい複素インピーダンスを有する第2の電気回路は、
デバイスの低周波数動作中に音響共振器を短絡せず、それによって直流電流循環に対抗した素子特性を維持すること、
良好な性能指数を与えること、
を可能にする。
【0039】
第2の電気回路はさらに、厳密に負の電気抵抗を有することができる。
【0040】
第2の電気回路の複素インピーダンスは、値が厳密に負の実数部を含みうる。
【0041】
第2の電気回路は、誘導性素子に結合された複数の電界効果トランジスタを含むことができる。
【0042】
第1の電気回路は、少なくとも1つのバリキャップタイプのダイオード、または少なくとも1つのスイッチ容量を含むことができる。
【0043】
共振器は、体積音響波タイプまたは表面音響波タイプのものとすることができる。
【0044】
このデバイスはさらに、共振器、第1の電気回路および第2の電気回路と並列に結合された第3の電気回路を含み、また実数部が厳密に負の値を有する負性電気抵抗または複素インピーダンスを有することができる。
【0045】
第3の電気回路は、少なくとも2つの電界効果トランジスタで形成された少なくとも1つの差動対を含むことができる。
【0046】
本明細書はまた、上述したものと同様な少なくとも1つのデバイスを含む電圧制御発振器(VCO)にも関する。
【0047】
本明細書はまた、前述したものと同様な少なくとも1つのデバイスを特徴として備える電子フィルタにも関する。
【0048】
本発明は、決して限定的ではなく純粋に例示的に提示した諸実施形態の説明を添付の図面を参照して読めば、よりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】1つの特定の実施形態による電圧制御発振器を示す図である。
【図2】電圧制御発振器の第2の電気回路の一実施形態を示す図である。
【図3】図2に示された第2の電気回路の等価電気回路を示す図である。
【図4】電圧制御発振器で使用される音響共振器の、まず第一にモデル化された等価回路を示す図である。
【図5】虚数部が-j/(C2ω)ただしC2<0、に等しい複素インピーダンスを有する電気回路と結合された、または結合されていない音響共振器の、共振器の周波数に応じたインピーダンスの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下で説明する別々の図の同一、類似または等価の部分には、1つの図から別の図への移行を容易にするように同じ参照数字が付けられている。
【0051】
図中のそれぞれ異なる部分は、図を見やすくするために必ずしも原寸に対し一律の比で示されていない。
【0052】
様々な可能性(変形および実施形態)が互いに排他的ではなく、組み合わせ可能であることを理解されたい。
【0053】
まず第一に図1を参照すると、特定の一実施形態による電圧制御発振器(VCO)100の一例が示されている。
【0054】
VCO100は、高い品質係数(例えば、約500と1500の間)を有する共振器101を特徴として備える。図1に関連して説明する実施形態では、共振器101はバルク音響共振器(BAW)タイプのものである。
【0055】
VCO100はさらに、正の可変電気容量を有する、すなわち虚数部が
【0056】
【数5】

【0057】
に等しい調整可能な複素インピーダンスを有する第1の電気回路を含む。ただしC1≧0であり、ωはVCO100の共振周波数、すなわちVCO100の動作周波数である。この第1の電気回路は、ここではバラクタまたはバリキャップタイプの、互いに直列に結合された1対のダイオード108、110で形成される。この第1の電気回路は、共振器101に並列に結合される。2つのダイオード108、110の間に配置されたコマンド入力部112により、コマンド電圧を2つのダイオード108、110に加えることができ、このコマンド電圧の値に応じて、電気容量の値、すなわち2つのダイオード108、110によって与えられる複素インピーダンスの虚数部分の値が規定される。
【0058】
VCO100はまた、厳密に負の電気容量を有する、すなわち虚数部が
【0059】
【数6】

【0060】
に等しい複素インピーダンスを有する第2の電気回路114も含む。ただしC2<0である。この第2の電気回路114もまた、ダイオード108、110および共振器101に並列に結合される。VCO100の電源電圧VDDがさらに、第2の電気回路114に加えられる。
【0061】
最後に、VCO100は、共振器101、第1の電気回路108、110および第2の電気回路114に並列に結合された第3の電気回路119を含み、この第3の電気回路は、VCO100の他の素子に対して負性電気抵抗、すなわち実数部が厳密に負の値を有する複素インピーダンスを与える。図1の例では、この第3の電気回路119は、差動式で実装されたMOSタイプの2つ電界効果トランジスタ102、104でできた差動対を含む。第3の電気回路119はまた、コンデンサ103、ならびに2つの分極電流源105も含む。コンデンサ103は、差動対が低周波で1未満の利得を有することを保証し、それによって、差動対が、その連続周波数に対する正の反応効果によりスイッチのように挙動することを回避し、それによって差動対のブロッキングを回避する。
【0062】
第2の電気回路114の一実施形態が図2に示されている。この第2の回路114は、互いに同じ2つのMOSトランジスタ113aと、やはり互いに同じ別の2つのMOSトランジスタ113bとを含む。これら4つのトランジスタは、2つの電流源115によって分極される。第2の電気回路114はさらに、値Lのインダクタンス117を含む。最後に、入力部118により、第2の回路114をVCO100の他の素子に並列に結合することができる。
【0063】
第2の電気回路114の等価回路が図3に示されている。この等価回路は、電気抵抗がトランジスタ113aのドレイン〜ソース抵抗Rds1に等しい第1の抵抗素子120を含む。この第1の抵抗素子120は、電気容量がトランジスタ113bのゲート〜ソース容量Cgs2と等価である第1の容量性素子122に並列に結合される。第1の容量性素子122は、互いに直列に結合された別の3つの素子に結合され、
第2の抵抗素子124が-1/(gm2Rds2)に等しい負性電気抵抗を有し、ここでgmはトランジスタ113aおよび113bの相互コンダクタンス、Rds2はトランジスタ113bのドレイン〜ソース抵抗であり、
誘導性素子126が-Cgs1/gm2に等しい値を有し、ここでCgs1はトランジスタ113aのゲート〜ソース容量であり、
第2の容量性素子128が-L.gm2に等しい負の電気容量を有する。
【0064】
したがって、第2の電気回路114の複素インピーダンスは特に、-1/(gm2Rds2)に等しい負の実数部と、
【0065】
【数7】

【0066】
ただしC2=-L.gm2、に等しい虚数部とによって形成され、第1の抵抗素子120および第1の容量性素子122のインピーダンスは、第2の抵抗素子124および第2の容量性素子128のインピーダンスに対して無視できるとしてよいことが分かる。さらに、誘導性素子126および第2の容量性素子128のインピーダンスの値がgmの値に依存することを考えれば、このgmの値はしたがって、第2の電気回路114の複素インピーダンスをVCO100に適合させながら、誘導性素子126と第2の容量性素子128の間の寄生共振を回避できるように選択される。
【0067】
音響共振器101単独の周波数応答は、図4に示された等価回路によって第1度(the first degree)でモデル化することができる。この回路は、抵抗Rm 134および容量Cm 136に直列に結合されたインダクタンスLm 132を含み、これら3つの素子は、互いに直列に結合された2つの素子、すなわち抵抗Ro 138および容量Co 140に並列に結合される。これら5つの素子は、共振器101の電気的損失を表す2つの抵抗Rs 142と直列に結合される。
【0068】
インダクタンスLmおよび電気容量Cmは、共振器101の音響効果自体を表す。共振器101の直列共振周波数ωrは、次式で表される。
【0069】
【数8】

【0070】
容量Coは、共振器101の誘電効果を表し、次式による共振器101の反共振周波数ωaの計算に介入する。
【0071】
【数9】

【0072】
共振器101の総インピーダンスZは、この場合
【0073】
【数10】

【0074】
に等しくなる。ただし
【0075】
【数11】

【0076】
であり、
ωは共振器101の周波数であり、
Φは、ここでは抵抗Rsに対応する損失を無視して表されている。
【0077】
抵抗Roは誘電損失を表し、Rmは音響損失を表す。したがって、直列共振周波数における共振器101の品質係数Qrを次式で定義することが可能である。
【0078】
【数12】

【0079】
ただしQmは、共振器の等価回路の音響的分枝に固有の品質係数であり、音響損失Rmに依存する。
【0080】
反共振周波数ωaにおける共振器101の品質係数Qaは、次式によって定義される。
【0081】
【数13】

【0082】
Qoは、モデルの誘電分枝に固有の品質係数であり、誘電損失Roに依存する。
【0083】
図5に示されたグラフ200は、VCO100の他の素子がない状態での、共振器101の周波数ωに応じた音響共振器101のインピーダンスZの変化を表す。このグラフ200は、前述の式(1)で表された音響共振器101の直列共振周波数ωrに一致する下方ピーク206を含む。さらに、グラフ200はまた、前に式(2)で表された音響共振器101の反共振周波数ωaに一致する高い方のピーク208aも含む。
【0084】
図5に示されたグラフ202は、虚数部が
【0085】
【数14】

【0086】
ただしC2<0、である複素インピーダンスを有する第2の電気回路114に共振器101が接続されたときの、共振器101の周波数ωに応じた音響共振器101のインピーダンスZの変化を表す。2つのグラフ200および202は、同一の下方ピーク206を含み、それによって、直列共振周波数ωrは、回路114があってもなくても変化しないままであることを示す。一方、グラフ202は、ピーク208aと比べてより高い周波数に向かってオフセットした高い方のピーク208bを有することが分かり、それによって、反共振周波数が、電気回路114を共振器101と結合することによって、より高い周波数に向かって移動したと解釈することができる。この新しい反共振周波数ωa’は、この場合次式で表すことができる。
【0087】
【数15】

【0088】
ただし、C2は負の電気容量の値、または第2の電気回路114の複素インピーダンスの虚数部である(図2に示された例の場合ではC2=-L.gm2)。
【0089】
第1度では、VCO100の第2の電気回路114の負の電気容量は、共振器101の誘電容量Co、容量CmおよびインダクタンスLm、ならびに2つのダイオード108、110で形成された正の可変電気容量に並列に与えられる。
【0090】
それに対し、VCO100内のダイオード108、110で形成された電気容量の変化が反共振周波数を低い方の周波数に向かわせることを考えれば、第2の電気回路114の負の電気容量により、可能な反共振周波数の範囲を拡大することができ、この範囲は、ダイオード108、110の等価電気容量がゼロである(例えば、グラフ202に対応する)第1の構成と、反共振周波数が直列共振周波数とほぼ等しい値に達するようなダイオード108、110の等価電気容量である第2の構成との間となる。
【0091】
こうしたVCO100の反共振周波数の変化範囲の拡大には、素子101、108、110および114で形成される装置の反共振品質係数の変更が伴い、その場合品質係数は、(反共振周波数において)次式の値を取る。
【0092】
【数16】

【0093】
ただしC1は、ダイオード108、110の等価電気容量であり、
Cnは、第2の電気回路114の負の電気容量の絶対値、すなわちCn=|C2|であり、
Q//は、音響共振器101の誘電分枝Qoの重み付け品質係数と可変電気容量(ダイオード)Qvの重み付け品質係数との、次式で示される合計であり、
【0094】
【数17】

【0095】
Rvはダイオード108,110の電気的損失である。
【0096】
品質係数Q//の、式(8)で
【0097】
【数18】

【0098】
に等しい増加係数は、負の電気容量Cnが存在することによって低減される。厳密には、品質係数Q//の定式化では、第2の回路114の抵抗損失を考慮に入れなければならない。しかし、これらの抵抗損失は負であり、発振条件を生成するのに寄与する。したがってこれらは、解析が、負の電気容量のない共振器を使用するVCOの解析と比較可能なままであるように、考慮に入れるべきではない。
【0099】
図2に関連して前に説明した第2の電気回路114の実施形態では、もちろんそれが負性電気抵抗、すなわち実数部が負の値を有する複素インピーダンスを有し、この負の値は、この機能が使用されるときに可能であれば、一般に最小化される。しかし、ここで説明するVCOの適用例では、この負性抵抗は反対に、発振条件を満たすために高い値が選択される。第2の電気回路114の負性電気抵抗が十分であれば、すなわちそれが共振器101の損失を補償することができれば、第3の電気回路119を用いないでVCO100を作製することが可能である。
【0100】
例えば、VCO100について、共振器単独の反共振品質係数が600であり、その当初の周波数が2.306GHzになるように共振器101を選択することによって、-0.7pFの負の電気容量と虚数部が等価である複素インピーダンスを有する第2の電気回路を付加すると、反共振周波数は2.43GHzになる。その場合、品質係数は約220に劣化する。次に、固有の品質係数が100である0〜2.8pFの正の電気容量に等しいダイオード108、110の複素インピーダンスの虚数部を変化させることによって、これが160MHzよりも大きい周波数変化範囲をカバーし、周波数が直列共振周波数に近づくにつれ品質係数が増大することが分かる。このような160MHzの変化範囲は、現在のデジタル移動通信システムで必要とされる変化範囲に対応する。
【0101】
高い品質係数を有する共振器、すなわちVCO100のBAW共振器101は、共振器の物理的特性に2つの周波数間の周波数差が依存するような直列共振周波数と反共振周波数によって特徴付けられる。移動通信システムでは、高い品質係数の共振器はバルク音響共振器(BAW)が好ましく、その使用される圧電材料は窒化アルミニウム、またはこのような高い品質係数の共振器を作製するのに適した他の任意の圧電材料とすることができる。VCO100の一変形では、共振器101は表面波(SAW)共振器とすることができる。
【0102】
VCOを作製することは、フリップチップ、ボンディング、さらには後処理など、いくつかの利用可能なマイクロエレクトロニクス技法により高い品質係数の共振器を集積することにつながりうる。
【0103】
前に説明した第2の電気回路114は、CMOS技術を用いて作製されるトランジスタでできている。しかし、これらのトランジスタはまた、SOI、BiCMOS、さらにはAsGa技術を用いて作製することもできる。
【0104】
さらに、ダイオード108,110で形成される可変電気容量はまた、他の素子、例えばスイッチ容量を使用して作製することもできる。
【0105】
虚数部が負の電気容量の虚数部と等価の複素インピーダンスを有した電気回路を用いる音響共振器の反共振周波数を高い値の方へ置換することは、共振器の電気的機械結合係数を増大することと電気的に等しい。したがって、装置のインピーダンスは同様に増加する。これらの特性を用いて、無線周波数に対し非常に広い帯域を有する選択フィルタを作製することができる。実際、圧電共振器フィルタの帯域幅は、この結合係数に直接依存する。共振器を負の電気容量を有する電気回路に結合すると、挿入損失と阻止が典型的なフィルタとほとんど同じであるが、帯域幅が(既知のフィルタの約60MHzと比較して)150MHz超に達しうるフィルタを形成することができる。
【0106】
VCO100は例えば、基板上に電気回路114,119、およびダイオード108,110など様々な電子素子をまず作製し、次に、これらの電子素子の近くまたは上に共振器101およびコネクタを例えばワイヤボンディング、またはフリップチップで作製することによって得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
100 電圧制御発振器(VCO)
103 コンデンサ
105 分極電流源
108,110 ダイオード
112 コマンド入力部
113a,113b MOSトランジスタ
114 第2の電気回路
115 電流源
117 インダクタンス
118 入力部
119 第3の電気回路
120 第1の抵抗素子
122 第1の容量性素子
124 第2の抵抗素子
126 誘導性素子
128 第2の容量性素子
132 インダクタンスLm
134 抵抗Rm
136 容量Cm
138 抵抗Ro
140 容量Co
142 抵抗Rs
200,202 グラフ
206 下方ピーク
208a,208b 高い方のピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変周波数ωで動作できる電気共振器デバイスであって、少なくとも
音響共振器と、
前記共振器に並列に結合され、虚数部が
【数1】

ただしC1≧0、に等しい調整可能な複素インピーダンスを有する第1の電気回路と、
前記共振器および前記第1の電気回路に並列に結合され、虚数部が
【数2】

ただしC2<0、に等しい複素インピーダンスを有する第2の電気回路とを含み、
ωが前記デバイスの動作周波数である
ことを特徴とする電気共振器デバイス。
【請求項2】
前記第2の電気回路の前記複素インピーダンスは、値が厳密に負である実数部を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記第2の電気回路は、誘導性素子に結合された複数の電界効果トランジスタを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第1の電気回路は、少なくとも1つのバリキャップタイプのダイオードを含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1の電気回路は、少なくとも1つのスイッチ容量を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記共振器は、バルク音響タイプまたは表面波タイプのものであることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記共振器、前記第1および第2の電気回路に並列に結合され、実数部が厳密に負の値を有する複素インピーダンスを有する第3の電気回路をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第3の電気回路は、少なくとも2つの電界効果トランジスタで形成された少なくとも1つの差動対を含むことを特徴とする請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
少なくとも請求項1に記載のデバイスを含むことを特徴とする電圧制御発振器。
【請求項10】
少なくとも請求項1に記載のデバイスを含むことを特徴とする電子フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−510551(P2011−510551A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542639(P2010−542639)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050495
【国際公開番号】WO2009/090244
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】