説明

床材用水硬性抄造板およびそれを用いた床材

【課題】水硬性材料抄造成形体を床材に使用することにより従来の床等に靭性を付与する。
【解決手段】水硬性材料からなる板材との積層物となるように用いられ、かつ下記条件1)〜3)の条件を満足する補強繊維を1〜10重量%含有し、下記4)の条件を満足する床材用水硬性抄造板。
1)該補強繊維がポリビニルアルコール系合成繊維であること、2)該補強繊維の繊度が6〜30dtex、繊維長が6〜20mmであること、3)該補強繊維の強力が100cN以上、伸度が5〜10%であること、4)床材用水硬性抄造板の繊維配向方向の曲げ強度が30MPa以上かつ繊維配向方向と垂直方向の曲げ強度が20MPa以上であり、且つ繊維配向方向の引張強度が10MPa以上、引張伸度が0.5%以上、引張タフネスが6MPa−%以上であること、

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、既設新設を問わず、建築物のベランダ床および室内外の床の補強に用いる床材用水硬性抄造板に関する。
【0002】
【従来の技術】近年建造物の高層化に伴い、構造材と共に床材の軽量化が重要になってきている。床材の軽量化のため、高強度コンクリート、高強度モルタルや二次製品である軽量コンクリート、軽量モルタルが提案されている。その多くは軽量化を目的としたものであるが、軽量でかつ高靭性の高性能床材の提案がなされていないのが現状である。軽量化のための高強度コンクリート、高強度モルタルによる薄肉化は、鉄筋等の被り厚さが少なくなるため、地震などによる衝撃、振動やクーラーなどによる乾燥収縮等により一旦ひび割れが発生すると、コンクリートの中性化の促進、鉄筋の錆の発生による、ひび割れの更なる進行、コンクリート剥落等の問題がある。また、二次製品である軽量コンクリート、軽量モルタルは、従来のコンクリート、モルタルに比べ軽量化する程圧縮、強度、ヤング率が低下する等、物性面の問題がある。床材の補強において、床材の靭性を向上させ乾燥収縮によるエネルギー、地震等のエネルギーを吸収し、床のひび割れを防止、床の剥落を防止することが重要であり、また耐久性を向上することが必要である。特に補修工法においては、耐久性を向上しないと意味をなさない。
【0003】従来からコンクリート床、モルタル床に補強繊維を添加した床材の検討がなされた例はあるが、その補強繊維を添加する場合、コンクリートの流動性の低下、特殊の混練設備が必要であり又高靭性を得るための繊維の添加が非常に困難で施工性不良、高コストとなる欠点がある。
【0004】床材として使用する現状のコンクリート、モルタルや二次製品である軽量コンクリート、軽量気泡コンクリート(ALC)板などは乾燥収縮、衝撃、振動、荷重等によりひび割れの発生は裂けられないのが現状であり、ひび割れが発生すると、建築物の外観、耐久性、水密性等の性能の低下に大きく影響するため、ひび割れ対策の確立が必要である。このひび割れ対策の確立は古くから問題とされながら発生の機構の複雑さやコンクリートの材料特性などから充分な解決策が得られないまま今日に至っている。しかし近年コンクリート、モルタルや二次製品である軽量コンクリート、軽量モルタルのひび割れに対する関心が急速に高まり、繊維を混入することによるひび割れ防止が行われている。しかしながら、繊維混入コンクリートは、繊維の混入量が多くなると流動性が低下し施工や二次製品の板材についても成型が非常に困難である。また、現在行われている繊維混入量では、ひび割れ防止や靭性は向上するが不十分であるのが現状である。特に床材の軽量化の点から多く使用されているALC、気泡コンクリートなどの軽量コンクリートの軽量性、断熱性等の特性を生かしながらひび割れ防止することや、剛性、遮音性、耐衝撃性を向上することが望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、特定の補強短繊維を特定量混入する抄造方式により得られる繊維補強水硬性硬化体材料を床材用水硬性抄造板として単独又は組合わせて使用することにより、表面ひび割れなどがなく、かつ靭性に優れる床材を提供するものである。具体的には、靭性向上、耐震性付与、ひび割れ防止、さらには遮音性、断熱性の向上を、合理的で安価な技術にて達成可能な床材の補強方法を提案するものであり、かつ硬化体の変形応力を吸収し、仕上がり形状の優れた床材用水硬性抄造板を提供するものである。本発明の床材用水硬性抄造板は既存構築物の補修・補強のみならず新規の施工においても適用可能である。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、水硬性材料からなる板材との積層物となるように用いられ、かつ下記1)〜3)の条件を満足する補強繊維を1〜10重量%/抄造板含有し、下記4)の条件を満足する厚さ6〜15mmの床材用水硬性抄造板である。
1)該補強繊維がポリビニルアルコール系合成繊維であること、2)該補強繊維の繊度が6〜30dtex、繊維長が6〜20mmであること、3)該補強繊維の強力が100cN以上、伸度が5〜10%であること、4)床材用水硬性抄造板の繊維配向方向の曲げ強度が30MPa以上かつ繊維配向方向と垂直方向の曲げ強度が20MPa以上であり、且つ繊維配向方向の引張強度が10MPa以上、引張伸度が0.5%以上、引張タフネスが6MPa−%以上であること、そして、本発明は好ましくは、上記の床材用水硬性抄造板の上面に硬化前の水硬性材料を流し込み、硬化させる積層床材の製造方法であり、より好ましくは、上記の床材用水硬性抄造板を上面、下面に使用し、その間に硬化前の水硬性材料を流し込み、硬化させる積層床材の製造方法である。また本発明は、上記の床材用水硬性抄造板を水硬性材料からなる板材の上面下面又は上下両面に積層した積層床材である。
【0007】本発明の床材用水硬性抄造板を構成する補強繊維はポリビニルアルコール(以下、PVAと略称す)系合成繊維が使用される。本発明に使用されるPVA系合成繊維は、特定のディメンジョン、強度、伸度を有する繊維でなければならない。すなわち本発明に用いられるPVA系合成繊維の繊度は6〜30dtex、繊維長6〜20mm、強力100cN以上、伸度5〜10%であることが必要である。用いるPVA系合成繊維の繊度が6dtexより細くなると、繊維含有量を通常よりも多く確保しなければならず、そのため抄造スラリー中にファイバーボールが発生しやすくなり、急速に抄造性を悪化させる。逆に30dtexを超えると濾水が多くなりセメント粒子の定着が不良となる。好ましくは7〜15dtexの範囲である。
【0008】繊維長は繊度と強力、強度と密接且つ複雑に関連するが、6〜20mmの範囲のものが床材用水硬性抄造板の抄造性と床材用水硬性抄造板の補強性の面から用いられる。長さが6mmより短い場合、抄造板の破壊時に繊維の素抜けが多くなり、曲げ強度や引張強度が低下する。逆に20mmより長い場合には、抄造中に繊維どうしが絡まりやすく、フロックを生じ、抄造性を悪化させる。好ましくは8〜12mmである。なお繊度との関係は繊度が太くなるにしたがって繊維長を大きくすることが好ましい。
【0009】繊維の強力(繊維1本あたりの有する引張破断強力)は100cN以上が必要である。これは床材用水硬性抄造板の破壊過程で、繊維とマトリックスとの摩擦力が繊維に対する引張力として働くが、繊維が容易に破断することなく引張力に抗してスリップするために必要な強力である。特に本発明のPVA系合成繊維はセメントとの接着が良いためにスリップする際に次第に摩擦力が増大する特徴を有するが、そのために高強力であることが要求される。強力が100cN未満であると繊維は破断しやすくなり靭性に欠けた床材用水硬性抄造板となる。好ましくは110cN以上である。繊度との関係で見ると、例えば6dtexにおいて強力100cN以上とするには強度約17cN/dtex以上、10dtexにおいては10cN/dtex以上、30dtexにおいては約3.3cN/dtex以上が必要である。
【0010】繊維の伸度は上記したようなスリップを容易にするためには、5%以上10%以下の範囲が好適である。伸度が5%よりも小さい場合、繊維は破断しやすくなり、逆に伸度が10%よりも大きいと繊維の弾性率が低下し、床材用水硬性抄造板の破断強度が低下する。好ましくは6〜9%である。
【0011】本発明で用いられるPVA系合成繊維を製造する場合には、製造工程性、コスト等の点から湿式紡糸又は乾湿式紡糸により繊維を製造するのが好ましく、具体的には、特開2000−053455号公報に記載のPVA系合成繊維の製造方法を用いることが好ましい。
【0012】上記補強繊維として用いるPVA系合成繊維の条件は、抄造セメント板で砂を含有しない独特な組成と養生前に高圧プレスを行う加工方式の結果得られるマトリックス成分に対応したものである。すなわちマトリックスと補強繊維との相互作用(摩擦抵抗、引抜き抵抗)は、補強繊維の条件が上記した範囲で好適に維持されるとき、最大の補強効果をもたらす。本発明のPVA系合成繊維の含有量は1〜10重量%/抄造板が好適である。該繊維の含有量が1重量%/抄造板未満であると靭性が不十分であり、逆に10重量%/抄造板を超えると繊維の分散性が極めて悪くなり、抄造性が悪化する。好ましくは2.5〜5重量%/抄造板である。
【0013】本発明のPVA系合成繊維を使用した抄造板を床材用水硬性抄造板として使用する厚さは6〜15mmである。厚さが6mmよりも薄い場合、例えばデッキプレートの代替に使用しコンクリート等を打設するときコンクリートの重さにより撓みが生じやすく、それを防ぐために支保工を密にする対策が必要となり、工事に煩雑さをもたらし、又床の補強効果が小さくなる。逆に厚さが15mmよりも厚い場合は、コスト高になる。好ましくは6〜12mmである。本発明の床材用水硬性抄造板は比較的簡便な支保工による施工を可能とすると同時に耐久性が良いので長期にわたって床本体の劣化を防止する。さらには床本体の靭性強化による補強が可能となる。例えば地震や継続的な振動が構造物にクラックを発生させ、その後クラック幅が次第に増大し応力集中により破壊に至るが、本発明の場合は床材用水硬性抄造板に極めて細かいミクロなひび割れが多数発生することでエネルギーを吸収し、内部の本体へのクラック発生を大幅に遅らせることにより構造物の寿命を長くすることが期待できる。また例えば軽量コンクリート、ALC等との組み合わせにて使用する場合、特に補強、靭性向上効果が大きく、又断熱性、遮音性、防音性も併せ、向上させる効果が得られる。
【0014】また抄造板においては繊維が配向しやすく、繊維配向方向において高い曲げ強度、すなわち最大曲げ強度を示すが、本発明の床材用水硬性抄造板として使用されるためには、繊維配向方向と垂直方向の曲げ強度、すなわち最小曲げ強度もある程度必要となる。本発明の床材用水硬性抄造板において、繊維配向方向の曲げ強度、すなわち最大曲げ強度は30MPa以上が必要であり、好ましくは40MPa以上である。一方、繊維配向方向に対して垂直方向の曲げ強度すなわち最小曲げ強度は相対的に小さくなるが、20MPa以上は必要であり、好ましくは30MPa以上である。最小曲げ強度が20MPaを下回る場合、靭性補強効果が少なくなり好ましくない。また上記したPVA系合成繊維を使用した床材用水硬性抄造板は繊維配向方向において、従来の材料にない高伸度、高引張タフネスを示すが、このことが床材本体を地震などの破壊エネルギーから保護する効果をもたらす。具体的にこの効果が十分に得られるのは床材用水硬性抄造板における繊維配向方向の引張強度が10MPa以上、好ましくは12MPa以上であり、伸度が0.5%以上、好ましくは1.0%以上、および引張タフネスは6MPa−%以上であり、好ましくは8MPa−%以上である。なお引張タフネスは引張強度−伸度曲線より、最大引張強度と破断伸度と基軸とで囲まれた面積から求められる。
【0015】本発明の床材用水硬性抄造板は抄造方式による成形板を使用する。抄造とは、セメント粒子などを水媒体に縣濁させた粥状のものをメッシュに濾し取り成形するものである。その過程で薄い膜状としたものを順次積層して所望の厚みの成形板とする丸網方式(ハチェック法)や長網方式、濃厚縣濁液を用いて1回ないし数回で、ある程度の厚みを確保するフローオン方式等がある。抄造方式は機械的に連続的、バッチ式で量産されるもので、均一で安定した性能が得られる利点があり、また2〜30mm、より一般的には4〜20mmの比較的板厚の薄い材料を製造することができる。このような薄板の製造は抄造以外の通常のモルタル流し込みでは極めて困難である。
【0016】本発明の床材用水硬性抄造板となる成形板は上記したように丸網、長網、フローオンなどの方式によって製造されるが、その材料構成は水硬性材料、補強用繊維、その他添加剤などである。スラリーの調製方法は特に限定されないが、固体成分が均一に分散されたスラリーを得る点からは、水を張った攪拌機にパルプを投入して攪拌し、次いで補強用繊維、水硬性材料、他の添加剤(無機物質等)を順次添加するのが好ましい。本発明において、水硬性材料としてはポルトランドセメントが好適に使用される。補強用繊維は前述したように本発明のPVA系合成繊維が使用される。その他添加剤としては高炉スラグやフライアッシュ、炭酸カルシウム、シリカヒューム、セピオライト、アタパルジャイト、マイカ、ワラストナイトなどの無機物質等が好適に使用される。これらは床材用水硬性抄造板の物性を向上させる効果、例えば耐凍結融解性の向上、腐食性物質(塩素、炭酸ガス、硫酸イオンなどの各種有機酸)の侵入抑制、補強繊維とマトリックスとの接着性の改善、縣濁液の粘性を適度に調節して抄造効率を上げる効果や、床材用水硬性抄造板となる抄造体の乾燥収縮制御を行う効果、床材用水硬性抄造板の強度向上効果が発現する。特にシリカヒューム、セピオライト、アタパルジャイトなどは縣濁液の粘性を適度に調節して抄造効率を上げる効果をもたらす材料なので本発明において好適である。
【0017】本発明ではその他に有機質繊維として叩解パルプを使用するのが好ましい。叩解パルプは叩解度がCSF値で70〜130mlが好ましい。これらパルプの使用量は水硬性材料に対して2〜6重量%が好適であり、3〜4重量%がより好ましい。使用量が2重量%未満であると特に丸網(ハチェック)方式において縣濁液におけるセメント粒子の捕捉が不十分となり、セメント粒子が濾し取られ難くなって抄造効率が悪くなると同時に抄造物中のセメント混合率が低下し、床材用水硬性抄造板の強度性能が低下する。一方パルプの使用量が6重量%を超えると床材用水硬性抄造板の耐水性や腐食性物質(塩素、炭酸ガス、硫酸イオンなどの各種有機酸)の侵入抑制効果が損なわれる。
【0018】本発明のPVA系合成繊維を使用した抄造体からなる床材用水硬性抄造板は強度および靭性に優れたものとなる。例えば、曲げ標準試験法における最大曲げ強度をP(MPa)、そのときの撓みをδ(cm)とするとき、従来のアスベストからなる床材用補強抄造板や従来のPVA系合成繊維を1.5重量%/抄造板程度使用したいわゆるノンアスベスト床材用抄造板はP×δが10程度であり、さらに従来よりも高強力であるが、強力が100cN未満のPVA系合成繊維を2重量%/抄造板を用いた高強度床材用抄造板であってもP×δが25程度が限度であり、その場合も撓みが1cm未満であるのに対し、本発明のPVA系合成繊維を用いた場合には容易にP×δが30を超え、かつ撓みも1cmを超える、靭性に優れた床材用抄造板が得られる。また一軸引張標準試験法においては破断伸度が10〜15MPa、伸度が0.5%以上を示す。従来品の伸度は0.01%程度である。
【0019】本発明で得られる床材用水硬性抄造板は、部材が薄く軽量であるので、構築物の軽量化が得られることである。床材用水硬性抄造板の厚みは6mmから製造可能であり、最大15mmが可能である。
【0020】本発明の床材用水硬性抄造板を用いた建築物の床の構築方法の代表例として以下の3つの方法が挙げられる。
(1) 梁の上部にデッキプレートを固定し、その上にコンクリート、モルタルを流して床を施工する方法。本発明の水硬性抄造板をデッキプレートの代替として使用する。
(2) 梁の上部に本発明の水硬性抄造板を固定し、必要に応じて支保工を行う。該水硬性抄造板の上面にコンクリート、モルタルを流し、さらにそのコンクリート、モルタルの上に本発明の水硬性抄造板を敷く方法。
(3) 水硬性板材(例えば、二次製品であるALC、軽量モルタル、コンクリート板材など)を使用する時、本発明の床材用水硬性抄造板と該水硬性板材を積層し、梁の上部に敷き詰めて使用する方法。
【0021】上記(1)の施工方法において、本発明の水硬性抄造板を使用する時は、例えばコンクリート、モルタルの打設面にセメント接着剤を塗布後コンクリート、モルタルを流して施工して得られる積層床材が好ましく用いられる。なお、セメント接着剤としては、例えばエチレン酢酸ビニル共重合エマルジョン系のものが好ましく使用される。
【0022】また上記(2)の施工方法の場合、本発明の水硬性抄造板のコンクリート打設面に上記セメント接着剤を塗布後、コンクリート、モルタルを打設する。打設後コンクリート、モルタルが硬化する前に、その上部に上記セメント接着剤を塗布した水硬性抄造板を敷き詰め、サンドイッチ状に積層一体化して得られる積層床材が好ましく用いられる。
【0023】さらに上記(3)の施工方法の場合、特にALC等のように軽量板材の場合は、集中荷重や衝撃荷重によりひび割れ等を生ずるため、これらの荷重を分散するために本発明の水硬性抄造板を、エポキシ樹脂、その他接着剤を使用して水硬性材料からなる板材の上面、下面または上下両面に積層した積層床材を梁の上部に敷き詰めて使用する方法が好ましく用いられる。
【0024】本発明のPVA系合成繊維を補強繊維として含有した水硬性抄造板を用いた床材は、従来のPVA系合成繊維を補強繊維として含有した水硬性抄造板を用いた床材に比べて曲げ物性、特に曲げタフネスの向上効果があり、極めて良好な靭性を示し、コンクリートの脆さが改善される。
【0025】
【実施例】以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明において繊維繊度、繊維強力、繊維強度、繊維伸度、叩解パルプの濾水度、成形体の最大曲げ強度(P)、最大曲げ強度Pを示す撓み(δ)、引張強度、引張伸度、引張タフネスは以下の測定方法により測定されたものを意味する。
【0026】[繊度 dtex]得られた繊維状物の一定試長の重量を測定して見掛け繊度をn=5以上で測定し、平均値を求めた。なお、一定糸長の重量測定により繊度が測定できないもの(細デニール繊維)はバイブロスコープにより測定した。
【0027】[繊維強力 cN、強度cN/dtex、伸度 %]予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で24時間繊維を放置して調湿したのち、単繊維を試長10cm、引張速度5cm/分としてインストロン試験機「島津製作所製オートグラフ」にて繊維強力を測定し、該強力を繊度で除して強度を求めた。伸度は、単繊維破断(cm)/把持長(cm)×100により算出した。なお繊維長が10cmより短い場合は、そのサンプルの可能な範囲での最大長さを把持長として測定することとする。
【0028】[濾水度(CSF) ml]パルプの濾水度試験方法JIS P8121−1976のカナダ標準型に準じて測定し、スラリー濃度0.4重量%、温度20℃に補正した平均値をCSFとして評価した。
【0029】[最大曲げ強度(P1) MPa、最小曲げ強度(P2)、最大曲げ強度P1を示す撓み(δ) cm]水硬性材料スラリーを下記の標準抄造法により標準成形体を製造し、ポリエチレンシートに包んで50℃、飽和湿度条件下で24時間予備養生し、次いで20℃、飽和湿度条件下で27日養生した材齢28日後の試験体を幅45mm、長さ220mmの長方形に切り出し20℃65RH%の室内で7日間放置して調湿し、以下の条件で3等分点曲げ試験による曲げ試験を行い、最大荷重発生時の曲げ応力を曲げ強度とし、繊維配向方向の曲げ強度を最大曲げ強度P1、繊維配向方向と垂直方向の曲げ強度を最小曲げ強度P2、荷重−撓み曲線において該最大曲げ強度P1を示す撓みをδとして評価した。
標準抄造法:ハチェックによる丸網抄造法により成形し、養生、調湿後の厚みが7mm±0.5mmとなるように抄造シート14枚をメーキングローラーに巻き取り、5MPaの圧力でプレス搾液する。
曲げ試験:装置 島津オートグラフAG5000−B試料 幅45mm、厚さ7mm、長さ220mmの大きさに、抄造方向を長さ方向として切り出したもの試験速度(載荷ヘッドスピード) 2mm/分3等分点曲げスパン 18cm
【0030】[標準引張試験法]上記と同様な方法で厚さ7mmの板を抄造し養生する。該抄造板から幅40mm、長さ330mmの試料を切り出し、調湿を行う。
引張試験:装置 インストロン5566(島津製作所製)
試料 幅40mm、厚さ7mm、長さ330mmの大きさに、抄造方向を長さ方向として切り出したもの把持長 200mm試験速度 0.5mm/分で引張試験を実施し、その最大引張強度と最大引張強度時の引張タフネスを求めた。
【0031】[実施例1〜4、比較例1〜2]予備攪拌機に水500リットルを投入して攪拌機を攪拌させ、針葉樹パルプ(CSF 100ml)1.5kg(固形分中で3重量%)を添加し、次いでセメント87〜89重量%、シリカヒューム5重量%、セピオライト1重量%を順次添加し、最後に表1に記載の条件のPVA系合成繊維を2〜4重量%添加し、攪拌した後に得られた濃度10重量%のスラリーをチェストに移送した。次いでフィードタンクから丸網部にスラリーを供給し、希釈水(白水)によって濃度5重量%とし、ミニハチェックマシンを用いて抄造を行った。次いで得られたシート15〜17枚をメーキングローラーに巻き取り、5MPaの圧力でプレス搾液し、ポリエチレンシートに包み50℃、飽和湿度条件下で24時間養生し、さらに20℃、飽和湿度条件下の環境下に開放状態で調湿した。得られた成形体は厚さ6.8〜7.2mm、密度1.62〜1.68g/cmのスレート板からなる床材用抄造板であった。かかる床材用抄造板の性能を表2に示す。なお普通セメントは「秩父小野田製 普通ポルトランドセメント」、シリカヒュームはエルケム社製「エルケム940U」、セピオライトは昭和工業社製「ミルコンSS」を用いた。補強繊維の種別と量およびその他の材料について表2に、床材用抄造板の物性とともに一覧として示した。
【0032】
【表1】


【0033】
【表2】


【0034】実施例1〜4、および比較例1〜3のシート(幅50cm、長さ100cm)を50℃で24時間、飽和湿度条件下で養生し、次いで20℃で27日間、飽和湿度条件下で養生したものから100mm×400mmの長方形を切り出し、100mm×100mm×400mmの鉄製型枠の底に敷き、セメント接着剤(日本化成(株)製、「NSハイフレックス HF−1000」)を塗布し、次いでその上から表3の配合のコンクリートを流しこんだ。また比較例3としてシートなしで表3の配合のコンクリートのみを流しこんだ、24時間後に脱型して水中での養生を27日間行い、床材を作製した。これを島津万能試験機を使用して、抄造板が試験体の底になるよう配置し、スパン300mmとして、3等分曲げ試験を行い、クラック発生後の曲げ荷重、曲げたわみ量、曲げタフネスを測定した。その結果を表4に示す。
【0035】表4に示すように、実施例1〜4のシートを用いた積層床材は比較例1〜2のシートを用いた積層床材あるいは比較例3のシートを積層しないで作製した床材に比べて、曲げタフネス値が高く、すなわち優れた靭性を示していることがわかる。
【0036】
【表3】


【0037】
【表4】


【0038】
【発明の効果】本発明のPVA系合成繊維を補強繊維として含有した床材用水硬性抄造板は、従来のPVA系合成繊維を補強繊維として含有した床材用水硬性抄造板に比べて曲げ強度、曲げ靭性(撓み)、引張強度、引張伸度、引張タフネスに優れる。また本発明の床材用水硬性抄造板を用いた床材は曲げタフネス値が高く、極めて良好な靭性を示し、コンクリートの脆さが改善される。したがって本発明の床材用水硬性抄造板を組み合わせて使用すれば、従来の床の高強度化、特に靭性向上に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水硬性材料からなる板材との積層物となるように用いられ、かつ下記1)〜3)の条件を満足する補強繊維を1〜10重量%/抄造板含有し、下記4)の条件を満足する厚さ6〜15mmの床材用水硬性抄造板。
1)該補強繊維がポリビニルアルコール系合成繊維であること、2)該補強繊維の繊度が6〜30dtex、繊維長が6〜20mmであること、3)該補強繊維の強力が100cN以上、伸度が5〜10%であること、4)床材用水硬性抄造板の繊維配向方向の曲げ強度が30MPa以上かつ繊維配向方向と垂直方向の曲げ強度が20MPa以上であり、且つ繊維配向方向の引張強度が10MPa以上、引張伸度が0.5%以上、引張タフネスが6MPa−%以上であること、
【請求項2】 請求項1の床材用水硬性抄造板をデッキプレートの代替として用い、その上面に硬化前の水硬性材料を流し込み、硬化させる積層床材の製造方法。
【請求項3】 請求項1の床材用水硬性抄造板を上面、下面に使用し、その間に硬化前の水硬性材料を流し込み、硬化させる積層床材の製造方法。
【請求項4】 請求項1の床材用水硬性抄造板を水硬性材料からなる板材の上面下面又は上下両面に積層した積層床材。

【公開番号】特開2003−171163(P2003−171163A)
【公開日】平成15年6月17日(2003.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−369703(P2001−369703)
【出願日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】