説明

床用鋼板

【課題】滑り止め効果を維持し、且つ、表面に付着した油脂類・廃油・ゴミを簡単に除去できる床用鋼板を提供すること。
【解決手段】鋼板1の表面に溶射により溶射皮膜層3を形成し、この溶射皮膜層3の表面に撥水性・撥油性を有する樹脂層4を形成する。樹脂層4は、溶射皮膜層の凸部頂点3aの少なくとも一部が露出するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場の作業床、歩廊等に敷設される床用鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場の作業床、歩廊には、歩行又は作業を常に安定した姿勢で行なえるように、滑り難くする手段を講じた縞鋼板、エキスパンドメタル、或いはセラミックス粒、金属粒、樹脂粒を樹脂層表面に埋め込んだシートを鋼板表面に貼り付けた鋼板が使用されている。
【0003】
このうち、縞鋼板は、表面に大柄な凹凸はあるものの、特に油脂類が使用される作業場においては、滑り止め効果は不十分であり、作業姿勢の安定保持、安定歩行は極めて困難である。
【0004】
エキスパンドメタルは滑り止めに方向性があることと、表面の凹凸が大きく細かい作業を行う作業床としては安定性において問題がある。
【0005】
また、セラミックス粒、金属粒、樹脂粒を表面に配置し凹凸を持ったシートを貼り付ける方法では耐久性に劣り長期間の使用は困難である。
【0006】
このような問題を解消するため、特許文献1においては、鋼板表面に溶射法により粗面の耐磨耗性溶射皮膜を形成した床用溶射鋼板が提案されており、滑り止めに関しては大きな効果をあげている。
【特許文献1】特公平2−55580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の床用溶射鋼板においては、溶射皮膜表面に付着した油脂類・廃油・ゴミが溶射皮膜の凹凸の中に入り込んで除去し難く、簡単に床面の清掃ができないという問題があった。このため、使用される箇所は、特に油汚れがひどく滑りやすい安全上問題のある箇所に限定されていた。
【0008】
そこで本発明は、上記問題を解消し、滑り止め効果を維持し、且つ、表面に付着した油脂類・廃油・ゴミを簡単に除去できる床用鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の床用鋼板は、鋼板の表面に溶射により形成された溶射皮膜層と、この溶射皮膜層の表面に形成された撥水性・撥油性を有する樹脂層とを備えたものである。
【0010】
本発明において、溶射皮膜層の表面に形成される樹脂層は、溶射皮膜層の頂点の少なくとも一部が露出、あるいは使用後すぐに溶射皮膜層の凸部頂点に付着している樹脂層が磨耗し前記凸部頂点の一部が露出するように形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶射皮膜層の表面に撥水性・撥油性を有する樹脂層を形成することで、溶射皮膜層による滑り止め効果を維持しつつ、表面に付着した油脂類・廃油・ゴミを簡単に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は本発明の床用鋼板の断面を示す模式図である。同図において1は鋼板であり、表面には鋼板1との密着力を上げる目的、或いは鋼板1の錆発生を防止する目的で下地溶射層2を形成する。この下地溶射層2は、作業場床面に殆ど衝撃等負荷がかからない場合、或いは錆の発生が起こらないと判断される場合は省略することができる。
【0014】
下地溶射層2を形成するための溶射材料としては、Ni−Cr合金、Ni−Al合金等のNi基合金、ステンレス合金、Mo、Al、Zn、Zn−Al合金、Al−Mg合金、Zn−Mg合金などが使用される。下地溶射層2の厚さは、密着力向上の目的であれば30〜100μm程度、防錆目的であれば50〜200μm程度が一般的である。
【0015】
鋼板1の厚み、成分は限定されるものでなく、作業床・歩廊等が必要とする強度・機能により設置される鋼板すべてを使用可能である。
【0016】
3は滑り止め効果を付与する目的で形成される、凹凸を持った耐磨耗性に優れた溶射皮膜層である。
【0017】
この溶射皮膜層3の厚みは特に限定されるものではないが、この溶射皮膜層3はその表面に形成される樹脂層4との組合せにより効果を発揮するものであり、溶射皮膜層3の表面粗さを極端に超える皮膜厚さは本質的には必要としない。ここで、床用鋼板が設置されている環境上、外気との遮断等が必要とされる場合は状況に応じて皮膜厚さを品質・経済性上の限界と考える500μm程度まで形成して使用することは可能であるが、機能・経済性を考慮した場合、50〜200μm程度が好ましい。
【0018】
溶射皮膜層3の表面粗さは、滑り止め効果を高めるためには極力大きくすることが好ましい。一方で、本発明が目的とする油脂類・廃油・ゴミの拭取り性を向上させるためには、表面粗さが大きすぎる場合は凹部の底に汚れが溜まり除去し難くなり、また床面を清掃するモップ・ほうき・布等が凸部に引っかかりスムーズな清掃を妨げる原因となる。これらを考慮した場合、溶射皮膜層3の表面粗さはRz30〜100μm程度が好ましい。
【0019】
樹脂層4は、作業床、歩廊等に付着した油脂類、廃油、ゴミの拭取り性を向上させる目的で溶射皮膜層3の表面に形成される。この樹脂層4はシリコーン系樹脂又はフッ素系樹脂で形成される。樹脂層4の厚みは溶射皮膜層3表面に凹凸があり計測は困難であるが、凹部底面で10μm以下が好ましく、また、図1に示すように、溶射皮膜層3の凸部頂点3aの少なくとも一部が露出した状態が好ましい。樹脂層4が厚すぎると、溶射皮膜層3の表面の凸部が埋まり、本来の滑り止め効果が発揮できなくなり、薄すぎると拭取り性能が低下する。
【0020】
樹脂層4は本来柔らかく耐磨耗性に劣るが、溶射皮膜3と組み合わせることにより作業床、歩廊に加わり表面磨耗を発生させる人の靴底の荷重、置かれる物品の荷重は耐磨耗性を持った溶射皮膜層の凸部頂点3aで受けることとなり、樹脂層4の磨耗を抑えることとなる。また、この凸部頂点3aが滑り止め効果を発揮させている。
【0021】
溶射皮膜層3を形成する材料は、このような理由より耐磨耗性を持った材料として、アルミナ系・ジルコニア系・チタニア系・クロミア系のセラミックス、タングステンカーバイド系・クロムカーバイト系のサーメットおよびSUS420、SUS316、SUS304などのステンレス系、Ni−Cr合金、Ni基合金、Fe系合金が使用される。これらの材料を皮膜として形成させる溶射方法は、プラズマ溶射、ガスフレーム溶射、アーク溶射、HVOF溶射による。
【0022】
また、樹脂層4の形成は、エアースプレイ、エアーレススプレイ、刷毛塗りによる。浸漬法は薄く均一な皮膜形成が困難であるため好ましくない。
【実施例】
【0023】
厚さ3.2mmの普通鋼板表面を脱脂後、グリッドブラストにより溶射皮膜形成に適する表面性状に前処理し、Al:96質量%、TiO:2.5質量%、残部:不可避不純物からなるアルミナ系セラミックスをガスプラズマ溶射法により80〜100μmの厚さに全面溶射して溶射被膜層を形成した後、エアースプレイ装置にてシリコーン樹脂を溶射皮膜層表面に塗布し、乾燥させ5〜10μmの樹脂層を形成させた。
【0024】
これを、油脂類・廃油が床面を覆う自動車解体工場の床に敷設し使用した。使用6ヶ月経過後においても皮膜の剥離・磨耗等の変化もなく、油にて覆われた床面上でも安定した作業が可能であった。また、作業後に実施する清掃(油分、油脂類、廃油、ゴミ除去等)もスムーズに実施することが可能となり、従来の溶射だけの床用鋼板に比較して、職場をクリーンな状態に維持することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の床用溶射鋼板の断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 鋼板
2 下地溶射層
3 溶射皮膜層
3a 溶射皮膜層の凸部頂点
4 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に溶射により形成された溶射皮膜層と、この溶射皮膜層の表面に形成された撥水性・撥油性を有する樹脂層とを備えた床用鋼板。
【請求項2】
樹脂層は、溶射皮膜層の凸部頂点の少なくとも一部が露出、あるいは使用後すぐに溶射皮膜層の凸部頂点に付着している樹脂層が磨耗し前記凸部頂点の一部が露出するように形成されている請求項1に記載の床用鋼板。
【請求項3】
樹脂層は、シリコーン系樹脂又はフッ素系樹脂から形成されている請求項1又は2に記載の床用鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265966(P2006−265966A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87073(P2005−87073)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】