説明

廃プラスチックの接触分解方法及び廃プラスチックの接触分解装置

【課題】分解反応効率に優れ、分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ分解残渣がほとんど生じることがなく、またプロセスが簡潔であり油分純収率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる廃プラスチックの接触分解方法及び接触分解装置を提供する。
【解決手段】反応器1内で350℃〜500℃の温度域に予め加熱した熱媒体としての粒粉状のFCC触媒の上に粉砕した廃プラスチック粒子を原料として落下し、攪拌手段によって前記FCC触媒の中に前記廃プラスチック粒子を引きずり込み、前記廃プラスチックに前記FCC触媒をまぶして、廃プラスチック粒子が前記FCC触媒との接触面において高温のFCC触媒によって接触分解されガス化させる構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)といったプラスチックの廃棄物である廃プラスチックさらには、塩素を組成成分として含有する樹脂たとえばポリ塩化ビニル(PVC)等が混入している廃プラスチックを加熱分解する方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国では年間約1000万tのプラスチックが、産業廃棄物或いは一般廃棄物として廃棄されている。これら廃プラスチックの約55%が有効に利用されているが、その殆どは発電用燃料として或いはその他の熱源として利用されており、ケミカル・マテリアルリサイクルはあまり進んでいない。廃プラスチックの未利用分は、埋立て処理或いは焼却処理に付されている。しかしながら、埋立て用地は年々逼迫してきておりまた、焼却処理によるときは、ポリ塩化ビニル(PVC)のように塩素を組成成分として含有する樹脂が混入している場合、ダイオキシン発生の虞がある。
【0003】
そこで、廃プラスチックを熱分解処理し、燃料油等石油資源とする技術の開発が強く望まれていた。即ち、廃プラスチックを熱分解して石油資源とすることである。得られた石油資源は、ガソリン、灯油、軽油、重油として利用することや、廃プラスチックを熱分解して得られた油分のナフサ分を化学製品を得るときの原料とすることができる。このような廃プラスチックを熱分解し油分を得る技術は、多々知られている。
【0004】
一方、ポリ塩化ビニル(PVC)のように塩素を組成成分として含有する樹脂が混在している廃プラスチックを加熱分解して油分を得る技術として、(特許文献1)には、廃プラスチックに高温(600〜950℃)の砂を添加して250℃〜350℃の温度域に加熱し塩素を分離する第1の加熱分解工程と、塩素分が除去された廃プラスチックをさらに高温(600〜950℃)の砂で350℃〜500℃の温度域に加熱して熱分解する第2の加熱分解工程と、前記第1の加熱分解工程で生成したガス状可燃物および第2の加熱分解工程で生成した分解残渣を燃焼させる燃焼工程とからなる廃プラスチックの熱分解油化方法であって、前記第1の加熱分解工程で、廃プラスチックと微粉状の中和剤(消石灰等)を接触させ、分離した塩素分を中和剤と結合させるとともに、この塩素分と結合した中和剤の少なくとも一部が第1の加熱分解工程で生成したガス状可燃物と共に燃焼工程に導かれるようにした点によって特徴づけられる技術が開示されている。この先行技術にあってはさらに、第2の加熱分解工程における熱分解域に、廃プラスチックに対して5〜35重量%のFCC廃触媒を添加するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−107058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に記載の技術では、廃プラスチックに高温の砂を添加し塩素分を分離させる第1の加熱分解工程と、塩素分が除去された廃プラスチックを砂を流動媒体としてさらに高温に加熱して熱分解させる第2の加熱分解工程とを備えており、全ての工程が砂を流動媒体とする多段階処理のため処理装置が複雑になり処理コストが嵩むという課題を有していた。また分解効率が低く、分解ガスを油化したときの油分純収率が低いという課題を有していた。
(2)廃プラスチックの脱塩素工程から熱分解工程へ塩化水素が持ち越され、得られる油分に塩素が有機塩素分として1000ppm以上残留するという課題を有していた。
(3)ポリエチレン(PE)は熱分解に際して高温(440〜450℃)が必要であり、高温の砂と混合されたときに炭化が起こり易く、多量の分解残渣が副生され易いという課題を有していた。
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、分解反応効率に優れ、分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ分解残渣がほとんど生じることがなく、またプロセスが簡潔であり油分純収率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる廃プラスチックの接触分解方法及び接触分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の廃プラスチックの接触分解方法及び廃プラスチックの接触分解装置は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の廃プラスチックの接触分解方法は、反応器内で350℃〜500℃の温度域に予め加熱した熱媒体としての粒粉状のFCC触媒上に破砕した廃プラスチックを原料として投入し、攪拌手段によって前記FCC触媒中に前記廃プラスチックを混合し、前記廃プラスチックに前記FCC触媒をまぶして、前記廃プラスチックを前記FCC触媒との接触面において高温の前記FCC触媒によって接触分解させガス化させる構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、予め加熱した反応器内のFCC触媒上に破砕した原料である廃プラスチックを投入し、攪拌手段によって粒粉状のFCC触媒を廃プラスチックの表面にまぶしつけ、高温のFCC触媒で廃プラスチックを覆い、廃プラスチックと触媒との接触面において、高温のFCC触媒によって、伝熱と分解反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを短時間で接触分解するので、分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ、炭化され難く分解残渣がほとんど生じない。
(2)比表面積の大きな粒粉状のFCC触媒を熱媒体としても用い、1つの反応器内で廃プラスチックと接触させて伝熱と反応を迅速に進行せしめるので、プロセスが簡潔でありエネルギ効率が高い。
【0009】
ここで、廃プラスチックとしては、都市ゴミや産業廃棄物から分別された、主としてプラスチックを含むゴミであり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を主成分とするものが用いられる。塩素を組成成分として含有するポリ塩化ビニル(PVC)や熱硬化性樹脂、FRP、紙等の夾雑物等が混ざっていても構わない。FRPの強化繊維は、分解残渣として反応器から定期的に排出すればよい。
廃プラスチックは、ビーズ状,フレーク状,チップ状,粒状,ペレット等のように破砕処理されたものを用いるのが好ましい。接触分解効率を高めるためである。塊状の大きなものでも分解処理することはできるが、時間がかかるため好ましくない。
【0010】
FCC触媒は、石油の流動接触分解(FCC:fluid catalyst cracking)プロセスで用いられる40〜80μmの粒粉状に造粒された合成ゼオライト系の固体酸触媒が用いられる。平均比重が0.74〜0.91と廃プラスチックとほぼ同一であるため、反応器内で廃プラスチックと十分混合させることができる。触媒メーカーから排出される規格外品や、石油精製プラントから排出される廃触媒を用いることもできる。これらの混合物を用いることもできる。
廃触媒は、FCC(U)(fluid catalyst cracking(used))と呼称され、軽質油から常圧残油までの広範囲の石油留分を選択的に接触分解する流動性分解法において用いられる触媒を再生したものであって、平衡触媒或いは再生触媒と呼ばれる。石油精製プラントでは接触分解域と再生域との間で触媒を循環使用しており、触媒の劣化を補うため、常時新たな触媒が所定量補給され、この補給量に見合う量の触媒が系外に排出されている。系外に排出された廃触媒は、系内で循環使用されているものであり、未だ十分な触媒活性を有しているものである。具体的には、原油精製時の触媒をコークス等が付着した状態で取り出し、随伴する炭化水素をスチームでストリップした後に再生塔に送って空気を吹き込み、コークスを燃焼させて触媒の活性を図って得られるものである。
【0011】
反応器内のFCC触媒と廃プラスチックは、撹拌手段によって混合され、廃プラスチックとFCC触媒が接触し、廃プラスチックの分解・ガス化が生じる。
反応器内におけるFCC触媒の加熱温度としては、350〜500℃好ましくは400〜480℃より好ましくは410〜430℃が好適である。加熱温度が410℃より低くなるにつれ油分に含まれるワックス分は少なくなるが分解時間が長くなる傾向がみられる。430℃より高くなるにつれ分解時間は短縮化できるが油分に含まれるワックス分が増加する傾向がみられる。400℃より低くなるにつれ、前記傾向に加え分解残渣が増加する傾向がみられ、350℃より低くなると、この傾向が著しくなるため好ましくない。480℃より高くなるにつれ、前記傾向に加え廃プラスチックが炭化され易くなり分解残渣が増加する傾向がみられ、500℃より高くなると、この傾向が著しくなるため好ましくない。
【0012】
FCC触媒の量は、反応器の内容積の20〜60vol%が好適である。FCC触媒が反応器の内容積の20vol%より少なくなると、FCC触媒に接触する廃プラスチックの量が減少し、分解処理時間が長くなり処理効率が低下し、60vol%より多くなると、頻繁にFCC触媒や分解残渣を排出しなければならなくなり、煩雑化する傾向がみられるためいずれも好ましくない。これは、反応器内に廃プラスチックを次々と投入していくと、廃プラスチックの分解残渣(紙ラベルやプラスチックのカーボンや廃プラスチックに付着した金属等)が蓄積され、反応器内がFCC触媒及び分解残渣で溢れ、反応器内への廃プラスチックの投入量が制限されるため、投入量を確保するためにFCC触媒や分解残渣を頻繁に排出しなければならないからである。
【0013】
FCC触媒を用いると、廃プラスチック、たとえばポリエチレン(PE)はイオン反応によって分解する。FCC触媒はゼオライトであり、酸触媒である。廃プラスチックの分解は、先ずこの酸触媒がプロトンを炭素に供給して五配位炭素ができる。五配位炭素は不安定であるため水素を放出し、カルベニウムイオンとなる。このカルベニウムイオンはイオンを共有するような中間体をもつ平衡状態となるが、骨格異性化した構造の方が安定であるため、多くのカルベニウムイオンがこの構造となる。カルベニウムイオンもベータ位の結合が切れやすいため、分解してi−パラフィンとカルベニウムイオンとなる。このカルベニウムイオンは異性化、中間体を経由し、分解を繰り返す。また、カルベニウムイオンの状態でH-を得ると、分解せず構造が異性化した状態となる。
【0014】
一方、カルベニウムイオンに二重結合が多く含まれている場合は、六角形の中間体となり、芳香族化する。直鎖状のカルベニウムイオンでは、分解によってオレフィン、H-を得てパラフィンとなる。このため、生成物は分岐したものが多くなり、生成物が多様化したと考えられる。これは実施例の結果と一致している。また、分岐したものや芳香族が多くなったため、立体障害が大きくなり結晶化し難くなり、ワックス分が減少したと考えられる。また、カルベニウムイオンができる反応がラジカル連鎖反応よりも低い温度で起こるため、分解しやすくなり分解がよく進んだ結果、低分子量化したと考えられる。その結果、ポリエチレン(PE)の分解において、FCC触媒(FCC(U))を用いることによって低温分解が可能となり、炭化、ワックス化の問題を回避できるとともに高品位の分解油を得ることができた。
【0015】
反応器内に不活性ガスが導入された雰囲気で廃プラスチックの分解・ガス化を行うと、不活性ガスでパージされた又は酸素が希薄な反応器内で廃プラスチックが加熱されて分解されるので、ダイオキシンの発生を防止することができ環境保全性に優れる。
不活性ガスとしては、アルゴン等の希ガスや窒素、二酸化炭素等を用いることができる。
反応器内に導入される不活性ガスの流量や、反応器内の不活性ガス濃度としては、反応器の大きさや廃プラスチックの量によって適宜設定される。
なお、廃プラスチックは、常圧下で接触分解するのが好ましい。加圧すると廃プラスチックが気化し難くなり炭化し易くなるためである。但し、廃プラスチックの炭化を防止するため、反応器内を減圧して廃プラスチックの接触分解温度を低下させることもできる。
【0016】
廃プラスチックが分解・ガス化されて生成する分解ガスを冷却して油分を得ることができる。これにより、以下のような作用が得られる。
(1)廃プラスチックの伝熱と反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを接触分解し、
これを冷却して油分を得るようにしたから、分解し難いポリエチレン(PE)でも低温で
分解することができ、90%に達する高い収率下に油分を得ることができ、また油分純収
率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる。
(2)直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解されるため、ワックスも生成され難
く、生成炭化水素が分岐体及び芳香族分に富むため、低流動点(0℃以下)の油分を得ることができる。
【0017】
ここで、反応器内に生成した分解ガスは、アルゴン等の希ガスや窒素等の不活性ガスをキャリアガスとして反応器内に導入することで、キャリアガスに同伴させて反応器から取り出すことができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の廃プラスチックの接触分解方法であって、粒粉状のCa化合物が、前記FCC触媒に混合された構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)PVC等の塩素原子を含有する樹脂が混在する廃プラスチックを接触分解油化するに際し、独立した脱塩素工程を必要とせず、また、脱塩素反応によって生成する塩化水素もCa化合物と反応してその場で除去されるから、極めて低い塩素濃度の油分を得ることができる。即ち、従来技術によるときは1000ppmの有機塩素が存在したが、本発明によれば100ppmにまで低下する。
(2)脱塩素反応によって生成する塩化水素がCa化合物と反応器内で反応して、Ca化合物に固定化されるため、塩化水素によって腐食等が生じるのを防止できる。
【0019】
ここで、Ca化合物としては、Ca(OH)2、CaCO3、CaO等が用いられる。
反応器内で廃プラスチックから脱離せしめられた塩素は、塩化水素として生成する。Ca化合物が塩化水素と反応してCaの塩化物を形成し、Ca(OH)2、CaCO3、CaOは各々以下の化学反応式によって、塩化水素をトラップする。
【0020】
【化1】

【0021】
Ca化合物の混合量としては、FCC触媒100質量部に対し15〜50質量部が好適である。Ca化合物の混合量が15質量部より少なくなるにつれ、塩素原子を含有する樹脂が混在する割合にもよるが、トラップできない塩化水素が増え反応器等が腐食し易くなるとともに油分の塩素濃度が増加する傾向がみられ、50質量部より多くなるにつれ、プラスチック分解反応において流出速度が遅くなり収率が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
また、PVC等の塩素原子を含有する樹脂の質量に対して、50〜200mol%のCa化合物が混合されているのが好適である。Ca化合物の混合量が50mol%より少なくなるにつれ、トラップできない塩化水素が生じ反応器等が腐食し易くなる傾向がみられ、200mol%より多くなるにつれ、プラスチック分解反応において流出速度が遅くなり収率が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
塩化水素がCa化合物と反応することによって塩化カルシウムが生成するが、この塩化カルシウムは、道路の凍結防止剤、道路や工事現場における防塵剤、或いは食品添加物として多くの用途があり、有効に活用できる。
なお、廃プラスチックの分解反応後の反応器内に残留したFCC触媒等を水洗することによって、水溶性の塩化カルシウムを水に溶解させて反応器の外に排出し、FCC触媒及び水に溶解し難い未反応のCa化合物を反応器内に残留させることもできる。反応器内に残留させたFCC触媒及びCa化合物は、反応器内で乾燥後、再生し、Ca化合物を補充して再利用することができる。FCC触媒等を水洗した排水の塩化カルシウム濃度を測定することによって、脱塩素反応に使われたCa化合物の量を求め、その量を補充すればよい。
【0022】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の廃プラスチックの接触分解方法であって、失活した前記FCC触媒を酸素雰囲気下、前記反応器内で加熱して再生する構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)FCC触媒の再生を反応器内で行うことができるので、FCC触媒の再生装置を別途設けなくても、廃プラスチックの分解・ガス化を長期間に亘って行うことができる。
【0023】
反応器内の酸素濃度としては1〜20%、加熱温度としては500〜650℃が好適である。また、加熱時間としては、加熱温度にもよるが、2〜12時間が好適である。
【0024】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載の廃プラスチックの接触分解方法であって、前記反応器が、ロータリキルン型の反応器であり、少なくとも廃プラスチックを連続的に投入し、分解・ガス化させる構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)反応器がロータリキルン型の反応器であり、廃プラスチックを連続的に投入することで、転動によって撹拌させてFCC触媒と接触させ分解・ガス化させるので、連続操業が可能となり生産性を格段に高めることができる。
【0025】
ここで、反応器内には、加熱されたFCC触媒が存在しているので、少なくとも廃プラスチックを連続的に投入することで、廃プラスチックを分解・ガス化させることができる。反応器内のFCC触媒にCa化合物を予め混合しておき、廃プラスチックを反応器内に投入するようにしてもよい。また、廃プラスチックと一緒に、Ca化合物やFCC触媒を反応器内に投入することもできる。
一定時間連続操業させた後、反応器内に残留したFCC触媒、反応後及び未反応のCa化合物、廃プラスチックの分解残渣を取り出し、篩い分け等によって、FCC触媒、Ca化合物、廃プラスチックの分解残渣と分別して取り出すことができる。さらに、水洗等によって、塩化水素と反応後のCa化合物(塩化カルシウム)を溶解させ、反応前のCa化合物及びFCC触媒を取り出すこともできる。
【0026】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の内いずれか1に記載の廃プラスチックの接触分解方法であって、前記FCC触媒が、廃触媒である構成を有している。
この構成により、請求項1乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)FCC触媒が廃触媒であると、処理が問題となっている廃触媒(産業廃棄物)の有効利用を図ることができるとともに、コストが新品の触媒に比して極めて安価なので、低コストで廃プラスチックの分解処理を行うことができる。
【0027】
本発明の請求項6に記載の廃プラスチックの接触分解装置は、円筒状に形成された横型の反応器と、前記反応器内の熱媒体としての粒粉状のFCC触媒を350℃〜500℃の温度域に加熱する加熱手段と、前記FCC触媒と原料としての廃プラスチックとを混合・撹拌する撹拌手段と、前記反応器の一端側に形成された排出口と、前記FCC触媒を前記排出口から排出させる排出装置と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、予め加熱した反応器内のFCC触媒中に、原料である廃プラスチックを投入して粒粉状のFCC触媒と廃プラスチックを混合・撹拌し、伝熱と反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを短時間で接触分解するので、装置構成を単純化することができ、また分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ、炭化され難く分解残渣がほとんど生じない。
(2)比表面積の大きな粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、1つの反応器内で廃プラスチックを接触させて伝熱と反応を迅速に進行せしめるようにしたから、プロセスが簡潔でありエネルギ効率が高い。
(3)排出装置と撹拌手段とを備えているので、反応器内のFCC触媒を廃プラスチックが投入可能な適正量にすることができ安定操業を可能にすることができる。
【0028】
ここで、加熱手段としては、反応器内を350〜500℃の雰囲気に加熱できるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、反応器の外側若しくは内側から輻射熱によって反応器内を加熱するものが用いられる。また、反応器内に熱風を吹き込んで反応器内を加熱するものも用いることができる。また、電気ヒータ等を用いて加熱することもできる。
【0029】
撹拌手段としては、反応器内に配設された撹拌羽根を用いることができる。また、反応器が回転円筒体の場合は、撹拌羽根を用いなくても、FCC触媒を転動によって撹拌させることもできる。反応器内にボール等の撹拌メディアを入れることもできる。また、反応器を傾斜した回転円筒体とすることによって、反応器内に投入した廃プラスチックを転動によって軸方向に移動させながら、撹拌させることもできる。
【0030】
なお、FCC触媒、廃プラスチック、加熱温度としては、請求項1で説明したので、ここでは説明を省略する。
【0031】
また、廃プラスチックの接触分解装置は、Ca化合物が混合されたFCC触媒を反応器内に投入する投入装置を備えているのが好ましい。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)PVC等の塩素原子を含有する樹脂が混在する廃プラスチックを接触分解油化する場合でも、独立した脱塩素装置を必要とせず、また、脱塩素反応によって生成する塩化水素もCa化合物と反応してその場で除去されるから、極めて低い塩素濃度の油分を得ることができる。即ち、従来技術によるときは1000ppmの有機塩素が存在したが、本発明によれば100ppmにまで低下する。
(2)脱塩素反応によって生成する塩化水素がCa化合物と反応器内で反応して、Ca化合物に固定化されるため、塩化水素によって反応器や分解ガス管等に腐食等が生じるのを防止できる。
【0032】
ここで、Ca化合物としては、請求項2で説明したので、ここでは説明を省略する。
投入装置は、廃プラスチックを反応器内に投入する原料投入装置と兼用できる。投入装置は、コンベヤー等を用いることができる。
【0033】
また、廃プラスチックの接触分解装置は、少なくともFCC触媒を反応器の外部に排出する排出装置を備えているのが好ましい。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)少なくともFCC触媒を反応器の外部に排出する排出装置を備えているので、廃プラスチックを接触分解した後、反応器内のFCC触媒や分解残渣等を反応器の外部に排出して、反応器内のFCC触媒を廃プラスチックが投入可能な適正量にすることができる。反応器内に廃プラスチックを次々に投入すると、反応器内がFCC触媒及び分解残渣で溢れ、反応器内への廃プラスチックの投入量が制限されるからである。
【0034】
排出装置としては、排出口と反対側に配設された傾動装置やスクリューコンベヤ等を用いることができる。反応器の下部等の所定部に形成された排出口から、スクリューコンベヤ等の排出装置を用いて、定期的に、反応器内のFCC触媒、廃プラスチックの分解残渣、反応後及び未反応のCa化合物を反応器の外部に排出することができる。
排出したFCC触媒等は、比重分離や篩い分け等の手段で分解残渣を分別し、残りを水洗することによって、水溶性の塩化カルシウムを水に溶解させ、FCC触媒、反応前のCa化合物を取り出すことができる。取り出されたFCC触媒、Ca化合物は乾燥後、必要に応じて再生し、Ca化合物を補充して再利用することができる。FCC触媒等を水洗した排水の塩化Ca濃度を測定することによって、脱塩素反応に使われたCa化合物の量を求め、その量を補充すればよい。
【0035】
なお、反応器内で廃プラスチックの接触分解を繰り返すと、反応器内に分解残渣が堆積するとともに、FCC触媒の表面にカーボンが付着してFCC触媒が失活し分解性能が低下する。この失活したFCC触媒は、酸素雰囲気下、反応器内で加熱して付着したカーボンを焼失させることによって再生することができる。反応器内の酸素濃度としては1〜20%、加熱温度としては500〜650℃が好適である。また、加熱時間としては、加熱温度にもよるが、2〜12時間が好適である。
以上のような条件で反応器を加熱することによって、反応器からFCC触媒及び分解残渣を排出することなく、反応器内に堆積した分解残渣の焼失及びFCC触媒の再生を行うことができる。FCC触媒の再生を反応器内で行うことができるので、FCC触媒の再生装置を別途設けなくても、廃プラスチックの分解・ガス化を長期間に亘って行うことができる。
【0036】
本発明の請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の廃プラスチックの接触分解装置であって、前記廃プラスチックが分解して生成する分解ガスを冷却し液化する冷却装置を備えた構成を有している。
この構成により、請求項6で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)廃プラスチックの伝熱と反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを接触分解し、これを冷却して油分を得るようにしたから、分解し難いポリエチレン(PE)でも低温で分解することができ、90%に達する高い収率下に油分を得ることができ、また油分純収率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる。
(2)直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解されるため、ワックスも生成され難く、低流動点(0℃以下)の油分を得ることができる。
【0037】
ここで、冷却手段としては、分解ガスの露点以下に冷却し液化することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0038】
本発明の請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の廃プラスチックの接触分解装置であって、前記反応器が、ロータリキルン型の反応器である構成を有している。
この構成により、請求項6又は7の作用に加え、以下の作用が得られる。
(1)反応器がロータリキルン型の反応器であり、廃プラスチックを連続的に投入することで、転動によって撹拌させてFCC触媒と接触させ分解・ガス化させるので、単純な装置で連続操業が可能となり生産性を格段に高めることができる。
【発明の効果】
【0039】
以上のように、本発明の廃プラスチックの接触分解方法及び廃プラスチックの接触分解装置によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、反応器内の高温のFCC触媒上に、原料である破砕した廃プラスチックを投入して、攪拌手段により高温のFCC触媒中に混合し、高温のFCC触媒をまぶしつけ、廃プラスチックの表面を高温のFCC触媒で覆い、廃プラスチックの表面全体の接触面で、伝熱と分解反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを接触分解するので、分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ、炭化され難く分解残渣がほとんど生じない廃プラスチックの接触分解方法を提供できる。
(2)比表面積の大きな粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、廃プラスチックを接触させて伝熱と反応を迅速に進行せしめるようにしたから、プロセスが簡潔でありエネルギ効率の高い廃プラスチックの接触分解方法を提供できる。
【0040】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)PVC等の塩素原子を含有する樹脂が混在する廃プラスチックを接触分解油化する
に際し、独立した脱塩素工程を必要とせず、また、脱塩素反応によって生成する塩化水素
もCa化合物と反応してその場で除去されるから、100ppmの極めて低い塩素濃度の
油分を得ることができる廃プラスチックの接触分解方法を提供できる。
(2)脱塩素反応によって生成する塩化水素がCa化合物と反応器内で反応して、Ca化
合物に固定化されるため、塩化水素によって腐食等が生じるのを防止できる廃プラスチッ
クの接触分解方法を提供できる。
【0041】
本発明の請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2で得られる効果に加え、
(1)FCC触媒の再生を反応器内で行うことができるので、FCC触媒の再生装置を別
途設けなくても、廃プラスチックの分解・ガス化を長期間に亘って行うことができる廃プ
ラスチックの接触分解方法を提供できる。
【0042】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1で得られる効果に加え、
(1)反応器がロータリキルン型の反応器であり、廃プラスチックを連続的に投入するこ
とで、転動によって撹拌させてFCC触媒と接触させ分解・ガス化させるので、連続操業
が可能となり生産性を格段に高めることができる廃プラスチックの接触分解方法を提供で
きる。
【0043】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1の効果に加え、
(1)処理が問題となっている廃触媒(産業廃棄物)の有効利用を図ることができるとと
もに、低コストで廃プラスチックの分解処理を行うことができる廃プラスチックの接触分解方法を提供できる。
【0044】
請求項6に記載の発明によれば、
(1)粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、反応器内の高温のFCC触媒中に、原料
である破砕した廃プラスチックを投入して粒粉状のFCC触媒と廃プラスチックを混合・撹拌し、廃プラスチックの表面に高温のFCC触媒をまぶしつけ、伝熱と反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを接触分解するので、装置構成を単純化することができ、また分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ、炭化され難く分解残渣がほとんど生じない廃プラスチックの接触分解装置を提供できる。
(2)比表面積の大きな粒粉状のFCC触媒を熱媒体として用い、廃プラスチックを接触
させて伝熱と反応を迅速に進行せしめるようにしたから、プロセスが簡潔でありエネルギ
効率の高い廃プラスチックの接触分解装置を提供できる。
(3)排出装置と撹拌手段とを備えているので、反応器内のFCC触媒を廃プラスチック
が投入可能な適正量にすることができ安定操業を可能にできる廃プラスチックの接触分解
装置を提供できる。
【0045】
請求項7に記載の発明によれば、請求項6の効果に加え、
(1)廃プラスチックの伝熱と反応を迅速に進行せしめて廃プラスチックを接触分解し、
これを冷却して油分を得るようにしたから、分解し難いポリエチレン(PE)でも低温で
分解することができ、90%に達する高い収率下に油分を得ることができ、また油分純収
率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる廃プラスチックの接触分解装置を提供で
きる。
(2)直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解されるため、ワックスも生成され難
く、低流動点(0℃以下)の油分を得ることができる廃プラスチックの接触分解装置を提
供できる。
【0046】
請求項8に記載の効果によれば、請求項6又は7の効果に加え、
(1)反応器がロータリキルン型の反応器であり、廃プラスチックを連続的に投入するこ
とで、転動によって撹拌させてFCC触媒と接触させ分解・ガス化させるので、単純な装
置で連続操業が可能となり生産性を格段に高めることができる廃プラスチックの接触分解
装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例に係る廃プラスチックの接触分解装置の模式図
【図2】本発明の一実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図3】本発明の一実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図4】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(反応温度を3水準に変えた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図5】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(反応温度を3水準に変えた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図6】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(反応温度を3水準に変えた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図7】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))の適用量を3水準に変えた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図8】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))の適用量を3水準に変えた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図9】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))の適用量を3水準に変えた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図10】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPS各個別に変えた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図11】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPS各個別に変えた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図12】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPS各個別に変えた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図13】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPSの混合物とした)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図14】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPSの混合物とした)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図15】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料をPE、PP、およびPSの混合物とした)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図16】廃プラスチックを投入してから90分間の油分の収率の経時変化を示した図
【図17】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物である)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図18】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物である)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図19】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物である)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図20】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加するCa化合物をCaO、CaCO3、Ca(OH)2の各個別に変えた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図21】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加するCa化合物をCaO、CaCO3、Ca(OH)2の各個別に変えた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図22】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加するCa化合物をCaO、CaCO3、Ca(OH)2の各個別に変えた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図23】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加するCa化合物をCaO、CaCO3、Ca(OH)2の各個別に変えた)における水酸化カルシウムのXRD分析結果を示すグラフ
【図24】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図25】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図26】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図27】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させた)におけるFCC(U)−Ca(OH)2のXRD分析結果を示すグラフ
【図28】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加する水酸化カルシウムの量を3水準に変えた)における油分流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示すグラフ
【図29】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加する水酸化カルシウムの量を3水準に変えた)における生成物の炭素数分布を示すグラフ
【図30】本発明の他の実施例に係る廃プラスチックの接触分解方法(原料がPPとPVCの混合物であって添加する水酸化カルシウムの量を3水準に変えた)におけるガス発生量の経時変化を示すグラフ
【図31】本発明の他の実施例に係わる反応プロセスの装置概要を示す模式図
【図32】上記の場合のマテリアルバランスを示す図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本
実施の形態においては、FCC触媒として、石油精製プラントから排出された廃触媒(FCC廃触媒)を用いた場合について説明する。
(実施の形態1)
図1に、本発明の実施の形態1に係る廃プラスチックの接触分解装置の模式図を示す。
図1において、1は円筒状に形成された横型の反応器であって、加熱手段としてのヒータ2および撹拌手段としての回転翼方式の撹拌機3を備えている。ヒータ2によって、原料投入口4から予め投入された粒粉状のFCC廃触媒26を300℃〜500℃好ましくは400〜480℃、より好ましくは410℃〜430℃の温度域に加熱する。この実施の形態においては、ヒータ2は、温度制御の容易な電気加熱方式のものを採用している。反応器1内で高温に加熱された粒粉状のFCC廃触媒26上に粒状乃至はフレーク状等の廃プラスチックが落下され撹拌機3によって高温のFCC触媒26中に混合され、廃プラスチックに高温の粒粉状のFCC廃触媒がまぶされ、廃プラスチックの表面において高温のFCC触媒によって加熱および分解反応が進行する。この実施の形態においては、撹拌機3は50rpmで回転され、原料投入口4から投入された廃プラスチックを高温の粒粉状のFCC廃触媒26中に引きずり込みながら混合・攪拌して、高温のFCC廃触媒をまぶしつける。
【0049】
5は分解ガス吐出口であり、廃プラスチックの接触分解によって生成した分解ガスがこの分解ガス吐出口5から送出される。6は分解ガス管である。分解ガスは、この実施の形態においては、N2ガスをキャリヤーとして送出され、水等を冷媒とする冷却器7によって液化され、油分(分解油)となる。油分(分解油)は油分貯留槽8に貯留され、分解油9として取り出される。
なお、N2ガスを反応器1内に導入するのは、分解ガスのキャリアガスとしてだけではなく、反応器1内の酸素濃度を低減させるためでもある。N2ガスに代えて、アルゴン等の希ガスを用いることもできる。
【0050】
10は深冷トラップであって、冷却器7で液化しきれなかったLPG分を深冷トラップ(−80℃)によって回収する。11はNaOHトラップであり、分解によって発生する
有機物をトラップする。12はGC−FID(gas chromatography-flame ionization detector:ガスクロマトグラフィー−火炎イオン化検出器)であって、深冷トラップ10で液化されない、沸点の低いメタン、エタンを定量分析する。
13は反応器1の一端側の下部に形成された排出口、14は反応器1及び撹拌機3を載
置する架台、15は架台14の一端側が軸支された軸支部、16は架台14の下部に配置
され架台14の他端側を上昇させ架台14を傾動させるプッシャ等の傾動装置である。
傾動装置16を稼動して架台14を傾動させ、排出口13を開けて撹拌機3を回転させ
ると、FCC廃触媒及び分解残渣が反応器1の軸方向に変位され、排出口13から排出さ
れる。傾動装置16及び撹拌機3が、本実施の形態における排出装置を構成している。
排出装置を備えることで、反応器1内のFCC廃触媒等を廃プラスチックが投入可能な
適正量にすることができ安定操業を可能にすることができる。
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。なお、実施例において使用したポリエチレン、ポリプロピレン等の
廃プラスチックは、各々、廃プラスチックの再生品である。
(実験例1)
実施の形態1で説明した接触分解装置を用いて、粒粉状のFCC廃触媒:10gを、反
応器1内でヒータ2を作動させて420℃に加熱し、この高温の粒粉状のFCC廃触媒中
に粒状乃至はフレーク状とされたポリエチレン(PE):75gを原料投入口4から投入
し、撹拌機3を50rpmで回転させ、粒粉状のFCC廃触媒と粒状乃至はフレーク状と
されたポリエチレン(PE)を混合・撹拌し、ポリエチレン(PE)に高温の粒粉状のFCC廃触媒をまぶして加熱および分解反応を進行させた。分解反応は、大気圧下に420℃で進行するようにした。分解ガスを、N2ガス(100ml/分)をキャリヤーとして
冷却器7に送り、冷却・液化して油分を採取した。
【0052】
図2に、ポリエチレン(PE)を原料とするときに、FCC廃触媒を用いた場合(実施
例1)とそうでない場合(比較例1)の、分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)
の関係を示す。なお、比較例1では、FCC廃触媒を用いない代わりに、実施例1の場合
よりも反応温度を5℃高くして425℃にした。
図2から明らかなように、FCC廃触媒(FCC(U))を用いると、反応温度を5℃
低下させたにもかかわらず、流出速度が高くなるとともに収率も多少高くなっている。ま
た、FCC廃触媒(FCC(U))を用いると、ワックス分が殆ど生じず、装置への悪影
響はなかった。
【0053】
図3に、分解油の炭素数分布を示す。分解油の炭素数分布はGC−FIDによって測定
したものである。
図3から明らかなように、FCC廃触媒(FCC(U))を用いることによって、生成
物の分子量が小さくなる。この結果を表1にマテリアルバランスとして示す。表1から明
らかなように、ナフサ、灯油、軽油分が増え、利用価値が高くなっている。また、残留物
は殆どなく、炭化も起こらなかった。表2に、生成物の構造を示す。表2から明らかなよ
うに、FCC廃触媒(FCC(U))を用いることによって、i−パラフィンや芳香族が
増加し、生成物が多様化している。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
(実験例2)
反応温度を410℃、420℃、430℃の3水準とし、他の条件は実験例1と同様に
して分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係、分解油の炭素数分布、および
分解ガスの発生量を調べた。なお、分解生成物の積算流出量(重量%)、分解油の炭素数
分布は、実施例1と同様の方法で測定したものである。
図4に、分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を示す。
図4から明らかなように、反応温度が高くなるほど分解油の収率は高く分解油の流出も
速くなっており、図6に示すように、ガス量も多い処から、分解が起こりやすくなってい
ることがわかる。しかしながら、図5に示す炭素数分布から明らかなように、反応温度が
高くなると、分子量の大きな化合物の割合が増加する。これはワックス分の増加につなが
るため、好ましくない。これらのことから、反応温度が低いとワックス分は少なくなるが
、分解時間が長くなり残渣が多くなる。逆に、反応温度が高いと、収率は高くなるけれど
も、ワックス分の増加や炭化を惹起する虞があることが分かる。而して、420℃の反応
温度でのFCC廃触媒(FCC(U))を用いる接触分解油化が好ましい。
【0057】
(実験例3)
FCC廃触媒(FCC(U))の量を、5g、10g、および20gの3水準とし、他
の条件は実験例1と同様にして分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係、分
解油の炭素数分布、およびガスの発生量を調べた。
図7に分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を、図8に分解油の炭素数
分布を、図9にガス発生量の変化を示す。
これらの結果から、FCC廃触媒(FCC(U))の量を5g〜20gの範囲内で変化
させても分解油の量は殆ど変わらないけれども、FCC廃触媒(FCC(U))の量が5gである場合は、分解に時間がかかることがわかる。また、図8から明らかなように、生
成物はFCC廃触媒(FCC(U))の量が増加するほど低分子量化する。これは、触媒
量が増えたために、原料であるポリエチレン(PE)との接触面積が増大し、分解反応が
起こりやすくなったためであると考えられる。FCC廃触媒(FCC(U))の量が5g
である場合、原料との接触面積が小さいことに起因して、分解に時間を要するのみならず
生成物の分子量も大きくなったものと考えられる。これらのことから、FCC廃触媒(FCC(U))の量は10g以上、即ち廃プラスチックの質量に対し13質量%以上を用い
るのが効率的である。
【0058】
(実験例4)
接触分解油化する原料を、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチ
レン(PS)各個別に75gとし、他の条件は実験例1と同様にして、各々の原料を接触
分解油化した。
図10に分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を、図11に分解油の炭
素数分布を、図12にガス発生量の変化を示す。
図10から明らかなように、400℃以下の反応温度で、無触媒で分解できるポリプロ
ピレン(PP)およびポリスチレン(PS)は、一気に分解が進んでいる。しかし、ポリ
スチレン(PS)は残留物が多くかつ、炭のようになっており、炭化反応が起こったと考
えられる。これは、ポリスチレン(PS)が低温で分解できることおよび、炭化の原因物
質が芳香族であることに鑑み、構造に多くのベンゼン環をもつポリスチレン(PS)が炭
化したものと考えられる。このことから、ポリスチレン(PS)単独で接触分解油化する
に際しては、より低い温度での反応が必要である。
【0059】
また、図11に示すように、生成物は各原料の構造の違いに起因して全く異なるものと
なったが、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)が平均的に分布している
のに比し、ポリスチレン(PS)は炭素数8が多くを占めた。これは、炭素鎖から脱離し
やすい芳香族であると考えられる。一方、図12に示すように、ガスは、ポリエチレン(
PE)およびポリプロピレン(PP)において、多くなった。これは、ポリプロピレン(
PP)はその構造中にメチル基が多く、メタンが発生しやすいためと考えられる。
【0060】
(実験例5)
接触分解油化する原料を、ポリエチレン(PE):25g、ポリプロピレン(PP):
25g、およびポリスチレン(PS):25gの合計75gとした混合原料とし、他の条
件は実験例1と同様にして原料を接触分解油化した。
図13に、分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を、図14に、分解油
の炭素数分布を、図15に、ガス発生量の変化を示す。
図13から明らかなように、混合原料の場合、単独原料の場合に比し収率が低くなる。
また、図14から、生成物の炭素数分布が、ポリスチレン(PS)およびポリプロピレン
(PP)の影響が大きく、分解しやすい順(PS→PP→PE)に流出することが明らか
である。而して、残油や残留物はポリエチレン(PE)である。ポリエチレン(PE)は
残油として多くが流出する処から、反応温度を高くすることやFCC廃触媒(FCC(U))の量を増大させる等によって収率を高くし得る。収率は必ずしも高いとはいえないが
、ポリエチレン(PE)が多い分解終盤の分解油にもワックス分は見られなかったので、
FCC廃触媒(FCC(U))は機能しており、混合原料の場合でも、廃プラスチックの
分解油化は有効である。
【0061】
(実験例6)
粒粉状のFCC廃触媒440gを、反応器1内でヒータ2を作動させて420℃に加熱
し、この高温の粒粉状のFCC廃触媒中に粒状乃至はフレーク状とされたポリエチレン(
PE)75gを原料投入口4から投入して分解反応を進行させた以外は、実験例1と同様
にして油分を採取した(実施例6)。
また、FCC廃触媒440gに代えて、砂500gとFCC廃触媒10g(廃プラスチ
ックに対し13wt%)の混合物を加熱し、これにポリエチレン(廃プラスチック)75gを投入した以外は実施例6と同様にして、油分を採取した(比較例2)。
また、FCC廃触媒440gに代えて、砂500gとFCC廃触媒50g(廃プラスチ
ックに対し67wt%)の混合物を加熱し、これにポリエチレン(廃プラスチック)75gを投入した以外は実施例6と同様にして、油分を採取した(比較例3)。
表3は廃プラスチックを投入してから95分間に採取した分解油とLPG分の質量(g)及び油分の収率(%)の一覧表であり、図16は廃プラスチックを投入してから90分
間の油分の収率を示した図である。なお、油分の収率は、(分解油の質量+LPG分の質
量)÷(廃プラスチックの質量)×100(%)で示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3及び図16から、砂が介在する比較例2及び3の場合と比較して、砂が介在しない
実施例6の場合は油分の採取量が多く、90分間で80%の収率に達していることが明ら
かになった。
本実施例によれば、特許文献1に記載された砂を用いて廃プラスチックを加熱・分解す
る場合と比較して、高い収率で油分が得られることが明らかである。
【0064】
(実験例7)
接触分解油化する原料を、ポリプロピレン(PP):67.5g、ポリ塩化ビニル(PVC):7.5gの混合物とし、他の条件は実験例1と同様にして原料を接触分解油化し
た。
図17は、ポリプロピレン(PP)の単独原料を、FCC廃触媒を用いることなく温度
425℃で分解した場合(比較例4)、ポリプロピレン(PP)とポリ塩化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃触媒を用いることなく温度425℃で分解した場合(比較例5)、ポリプロピレン(PP)とポリ塩化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃触媒を用
いて温度420℃で分解した場合(実施例7)の分解生成物の流出時間と積算流出量(重
量%)の関係を、図18に分解油の炭素数分布を、図19にガス発生量の変化を示す。
これらの結果から、原料である廃プラスチックの構造中の塩素分の殆どが塩化水素とな
ることが分かった。また、原料中にポリ塩化ビニル(PVC)が混在すると、収率が低下
することがわかった。さらに、反応器1内には炭状の固形物が残り、反応中にも分解油に
混ざって出てきているのが確認できた。分解油に混ざった炭状の固形物は濾過等の手段で
除去することができる。これにより清浄な分解油を得ることができる。また、PVCを混
合しない比較例4の場合と比較して、60%体積が変化したことから、PVCは炭化が起
こりやすいと考えられる。このことが、収率に影響したと考えられる。しかし、FCC廃
触媒(FCC(U))を用いることによって残油と残留物を減少させることができ、ポリ
塩化ビニル(PVC)が混合した廃プラスチックにも分解の促進と炭化を防ぐ効果がある
ことがわかった。
【0065】
一方、図18に示すように、FCC廃触媒(FCC(U))を用いることによって、生
成物の炭素数分布は平均的なものとなった。これは反応機構の相異によるもので、ラジカ
ル連鎖反応(無触媒)では炭素数8に偏りが見られたが、FCC廃触媒(FCC(U))
を用いることによってイオン反応となり、生成物が多様化した結果であると考えられる。
他方、図19に示すように、FCC廃触媒(FCC(U))を用いると、一点だけガス量
の多い点があるが、本来、ポリプロピレン(PP)は400℃以下で無触媒でも容易に分
解できるため、FCC廃触媒(FCC(U))によって分解が促進された結果、一気に反
応が起こりガスが大量に発生したと考えられる。流出量も、流出開始時から多いことから
も推察できる。
また、反応器内にダイオキシンは生成していないことも確認された。これは、N2ガスを反応器内に導入することによって、ポリ塩化ビニル(PVC)を分解・ガス化する反応
器内の酸素濃度が低減されたためである。
【0066】
(実験例8)
塩化水素の除去を目的として、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を各個別に7.5g宛用いて、ポリプロピレ
ン(PP):67.5g、ポリ塩化ビニル(PVC):7.5gの混合物を原料として、
他の条件は実施例1と同様にして原料を接触分解油化した。
図20に、ポリプロピレン(PP)とポリ塩化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃
触媒を混合することなく酸化カルシウムを加えて温度420℃で分解した場合、ポリプロ
ピレン(PP)とポリ塩化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃触媒を混合することな
く炭酸カルシウムを加えて温度420℃で分解した場合、ポリプロピレン(PP)とポリ
塩化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃触媒を混合することなく水酸化カルシウムを
加えて温度420℃で分解した場合の分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関
係を、図21に分解油の炭素数分布を、図22にガス発生量の変化を、図23に接触分解
油化後の水酸化カルシウムのXRD分析結果を示す。
【0067】
図20から明らかなように、炭酸カルシウムを用いた場合、流出速度は遅いものの、Ca化合物の相異による収率への影響は見られなかった。分解油中の塩素の含有量を簡易式
検知管法によって測定したところ、塩素の量では、Ca化合物の相異が見られた。Ca化
合物のうち、水酸化カルシウムが最もよい除去効率を示した。水酸化カルシウムは、同じ
7.5gでもmol換算すると最も少ないmol数であるにもかかわらず、発生する塩化
水素を殆ど除去でき、分解油中の塩素分も他の2つに比し半分程度であり、塩化水素と最
も反応しやすいことがわかった。図23に示すように、XRD分析によれば、水酸化カル
シウムがCaClOHとなっている。この他のピークはCaCl2の結晶構造をもってお
り、先ず水酸化カルシウムのヒドロキシル基が1つ置き換わった状態となり、その後、も
う1つのヒドロキシル基が1つ置き換わった状態となり、然る後、もう1つのヒドロキシ
ル基が反応する2段階の反応によって除去されると考えられる。
【0068】
【化2】

【0069】
図21に示すように、Ca化合物による生成物への影響は殆ど見られず、同じような分
布である。而して、収率、生成物の炭素数分布は変わらない処から、塩素分を含むプラス
チックの分解には、最もよい除去効率を示す水酸化カルシウムを用いるのがよい。
【0070】
(実験例9)
塩化水素の除去に用いる水酸化カルシウムと、FCC廃触媒(FCC(U))の共存に
よる影響を調べた。接触分解油化処理対象として、ポリプロピレン(PP):67.5g
、ポリ塩化ビニル(PVC):7.5gの混合物を、FCC廃触媒(FCC(U)):10g、水酸化カルシウム(Ca(OH)2):7.5gと同じ反応場で混合・撹拌して分
解・油化反応を進めた。上記以外の条件は、実験例1の場合と同様である。
図24に、ポリプロピレン(PP)とポリ塩化ビニル(PVC)の混合原料を、FCC
廃触媒の存在下420℃で分解した場合(実施例9)、ポリプロピレン(PP)とポリ塩
化ビニル(PVC)の混合物を、FCC廃触媒を混合することなく水酸化カルシウムの存
在下420℃で分解した場合(比較例6)、ポリプロピレン(PP)とポリ塩化ビニル(
PVC)の混合物を、FCC廃触媒及び水酸化カルシウムの存在下420℃で分解した場合(実施例10)の分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を、図25に分
解油の炭素数分布を、図26にガス発生量の変化を、図27に接触分解油化後のFCC廃
触媒と水酸化カルシウムの混合物のXRD分析結果を示す。
【0071】
図24から明らかなように、FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存
させると、流出速度が遅く収率は低下して廃プラスチックを分解し難くなっている。これ
は、水酸化カルシウムが塩化水素と反応して水ができるが、この水がFCC(U)の触媒
毒となっていると考えられる。しかし、塩素の除去効率の観点から、FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させることによって、水酸化カルシウム単独の場合
よりも除去効率が高く好ましい。
【0072】
一方、図27に示すように、接触分解油化後のFCC廃触媒と水酸化カルシウムの混合
物には、水酸化カルシウム単独のもののXRDと同様に、CaClOHが生成しており、
同様の反応が生起しているものと考えられる。他方、図25および図26に示すように、
生成物の炭素数分布は、FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させた
ものに、FCC廃触媒(FCC(U))単独のものとまた、ガス発生量は水酸化カルシウ
ム単独の場合のものと似た結果である。これらのことから、生成物が多様でガス発生量が
少ないという好ましい結果を招来した。図24に示すように、分解油の収率は、反応時間
後半においても傾きは変わらない処から、収率は反応時間を延ばすことによって高くなる
と考えられ、FCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを共存させる反応プロセ
スは、有効かつ実用的なプロセスであるといえる。
【0073】
(実験例10)
ポリ塩化ビニル(PVC)等塩素原子を組成成分とするプラスチックが混在する廃プラ
スチックの接触分解油化処理を行うときの、水酸化カルシウムの最適量を調べた。原料で
ある廃プラスチックとして、ポリプロピレン(PP):67.5g、ポリ塩化ビニル(PVC):7.5gの混合物を、FCC廃触媒(FCC(U)):10g、水酸化カルシウ
ム(Ca(OH)2):2g、5g、および7.5gの3水準として、同じ反応場で原料
とFCC廃触媒(FCC(U))と水酸化カルシウムを混合・撹拌して420℃の温度下
で分解・油化反応を進めた。その他の条件は、実験例1と同様である。
図28に、分解生成物の流出時間と積算流出量(重量%)の関係を、図29に分解油の
炭素数分布を、図30にガス発生量の変化を示す。
【0074】
図28から明らかなように、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の量が少なくなるに
従って、反応が起こりやすくなっている。このことから、水が触媒毒として作用し、廃プ
ラスチックの分解効率を低下させていることがわかる。分解油の塩素分析の結果から、原
料の塩素分の約半分である5gの水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のときに除去効率
が最も高く、殆どの水酸化カルシウムが塩素と反応していることが分かった。図29、図
30に示すように、生成物の炭素数分布に殆ど相異は見られず、ガス発生量は分解しやす
い順に多くなった。また、水酸化カルシウムの量による炭化への影響は見られなかった。
而して、塩素分を含む廃プラスチックの分解には、原料に含まれる塩素分の約半分のmol数の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を使用するとよいことが確認された。
【0075】
実験例1乃至10の結果を、表4にまとめて示す。表4において、FCC廃触媒の欄で
○印はFCC廃触媒を用いるケース、×印は用いないケースを表す。また、Ca化合物の
欄で×印はCa化合物を用いないケース、Ca化合物の表示のある欄はそのCa化合物を
用いたケースを表す。
表4から明らかなように、Ca化合物として水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用
いると、発生する塩化水素もまた、分解油中の塩素も極めて低い水準となっている。わけ
ても、FCC廃触媒と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を併用するケースが最も優れた結果をもたらしている。
【0076】
【表4】

【0077】
(実験例11〜13)
表5に示す、原料(PE、PP、PS、塩素分:1.4%、灰分:4.4%からなるRDF(固形燃料))をロータリキルン型(回転ドラム形式、回転数:50rpm)の反応
器によって、反応圧力:1atm、キャリアガス:N2:50mL/分を2箇所から吹き
込み、表6(上段)に示す反応温度ならびに原料および触媒の配合割合で廃プラスチック
の接触分解油化反応を進行させた(実験例11〜13)。
【0078】
表6(中段)に廃プラスチックの接触分解油化反応の結果得られた生成物のマテリアル
バランスを、表6(下段)にコーク(触媒中)[wt%]、発生塩化水素の量[mmol
]、および分解油中塩素分の量[ppm]を示す。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
表6(下段)に示すように触媒を加えない場合は発生塩化水素の量は51[mmol]、分解油中塩素分の量は1258[ppm]であったものが、FCC(U)と水酸化カルシウムを使用することで発生塩化水素の量は0[mmol]、分解油中塩素分の量は120[ppm]と低い水準にすることができることが示された。
【0082】
(実施の形態2)
図31に、本発明の実施の形態2における廃プラスチックの接触分解装置の模式図を示
す。
図31において、21は反応器であって、ロータリキルン型(回転ドラム形式)の反応
器である。22は加熱手段としてのヒータであり、この実施の形態においては、図31に
示すように、燃焼器22aにおいて、燃料と空気を混合燃焼させ、反応器21の下部から
反応器21内の触媒等26を加熱する。24は原料投入口であって、原料である破砕した廃プラスチック、FCC廃触媒(FCC(U))、および水酸化カルシウム等のCa化合物を、反応器21内に投入すべく機能する。25は前固定部であり、原料廃触媒投入用コンベアからなる原料投入装置25aを載置固定している。27は冷却器であって、反応器21内に導入される窒素ガスや希ガス等の不活性ガスに同伴され、ロータリキルン型(回転ドラム形式)反応器21から送出される分解ガスを冷却して液化し、油分貯留槽28に貯留する。29は液化されなかった分解ガスである。30は後固定部であり、ロータリキルン型(回転ドラム形式)反応器21の後部開口に接し、次々に投入された破砕した廃プラスチックの分解・ガス化によって連続的に分解ガスが排出され、所定量の廃プラスチックの分解・ガス化が完了した時点で、間欠的にFCC廃触媒、Ca化合物や分解残渣等が排出される。31は反応器21から排出されたFCC廃触媒、Ca化合物や分解残渣等を貯留する排出物貯留部である。
【0083】
この実施の形態の場合、ロータリキルン型(回転ドラム形式)反応器21内におけるFCC廃触媒(FCC(U))、水酸化カルシウム(Ca化合物)および原料である破砕した廃プラスチックは、ロータリキルン型(回転ドラム形式)反応器21の回転によって混合・撹拌され、接触分解反応が進行する。廃プラスチックの接触分解油化、塩化水素のCa化合物によるトラップの反応メカニズムは、これまで述べた実施例と同様である。排出物貯留部31に排出されたFCC廃触媒等は、比重分離や篩い分け等の手段で分解残渣を分別し、残りを水洗することによって、水溶性の塩化カルシウムを水に溶解させ、FCC廃触媒、反応前のCa化合物を取り出すことができる。取り出されたFCC廃触媒、Ca化合物は乾燥後、必要に応じて再生し、Ca化合物を補充して再利用することができる。FCC廃触媒等を水洗した排水の塩化Ca濃度を測定することによって、脱塩素反応に使われたCa化合物の量を求め、その量を補充すればよい。
この実施の形態におけるマテリアルバランスを図32に示す。油分が90%に達する高い収率で得られることがわかる。
なお、以上の実施例で用いたFCC廃触媒に代えて、新品のFCC触媒を用いた場合も、FCC廃触媒を用いた場合と同様に分解反応効率に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)といったプラスチックの廃棄物である廃プラスチックさらには、塩素を組成成分として含有する樹脂たとえばポリ塩化ビニル(PVC)等が混入している廃プラスチックを加熱分解する方法及びそのための装置に関し、分解反応効率に優れ、分解し難い直鎖分子のポリエチレンであっても低温で分解することができ分解残渣がほとんど生じることがなく、またプロセスが簡潔であり油分純収率で50%以上の高いエネルギ効率を実現できる廃プラスチックの接触分解方法及び接触分解装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 反応器
2 ヒータ
3 撹拌機
4 原料投入口
5 分解ガス吐出口
6 分解ガス管
7 冷却器
8 油分貯留槽
9 油分(分解油)
10 深冷トラップ
11 NaOHトラップ
12 GC−FID
13 排出口
14 架台
15 軸支部
16 傾動装置
21 ロータリキルン型反応器
22 ヒータ
22a 燃焼器
24 原料投入口
25 前固定部
25a 原料投入装置
26 反応器内におけるFCC廃触媒等
27 冷却器
28 油分貯留槽
29 可燃性ガス(燃料ガス)
30 後固定部
31 排出物貯留部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で350℃〜500℃の温度域に予め加熱した熱媒体としての粒粉状のFCC触媒上に破砕した廃プラスチックを原料として投入し、攪拌手段によって前記FCC触媒中に前記廃プラスチックを混合し、前記廃プラスチックに前記FCC触媒をまぶして、前記廃プラスチックを前記FCC触媒との接触面において高温の前記FCC触媒によって接触分解させガス化させることを特徴とする廃プラスチックの接触分解方法。
【請求項2】
粒粉状のCa化合物が、前記FCC触媒に混合されていることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの接触分解方法。
【請求項3】
失活した前記FCC触媒を酸素雰囲気下、前記反応器内で加熱して再生することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃プラスチックの接触分解方法。
【請求項4】
前記反応器が、ロータリキルン型の反応器であり、少なくとも廃プラスチックを連続的に投入し、分解・ガス化させることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載の廃プラスチックの接触分解方法。
【請求項5】
前記FCC触媒が、廃触媒であることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1に記載の廃プラスチックの接触分解方法。
【請求項6】
円筒状に形成された横型の反応器と、前記反応器内の熱媒体としての粒粉状のFCC触媒を350℃〜500℃の温度域に加熱する加熱手段と、前記FCC触媒と原料としての廃プラスチックとを混合・撹拌する撹拌手段と、前記反応器の一端側に形成された排出口と、前記FCC触媒を前記排出口から排出させる排出装置と、を備えていることを特徴とする廃プラスチックの接触分解装置。
【請求項7】
前記廃プラスチックが分解して生成する分解ガスを冷却し液化する冷却装置を備えていることを特徴とする請求項6に記載の廃プラスチックの接触分解装置。
【請求項8】
前記反応器が、ロータリキルン型の反応器であることを特徴とする請求項6又は7に記載の廃プラスチックの接触分解装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2010−13657(P2010−13657A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201137(P2009−201137)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【分割の表示】特願2007−555927(P2007−555927)の分割
【原出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年10月27日 社団法人石油学会発行の「第35回石油・石油化学討論会講演要旨」に発表
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】