説明

廃プラスチックの脱塩素処理方法

【課題】 塩素含有プラスチック、特に、廃電線被覆材のように無機化合物が多く添加されたポリ塩化ビニルの脱塩素処理を効果的に行うことを可能ならしめる廃プラスチックの脱塩素処理方法を提供する。
【解決手段】 塩素含有プラスチックを含むプラスチックにコークスを所定量添加配合して混合し、混合により得られた混合物を石英製のトレイに載せてマイクロ波照射装置の処理室に収容し、処理室に収容した混合物にマイクロ波を照射して誘導加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックのリサイクル技術に係り、より詳しくは、マイクロ波を利用してポリ塩化ビニルの脱塩素処理を行う廃プラスチックの脱塩素処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業分野において発生する廃プラスチックのリサイクル技術が注目を浴びている。ところが、ポリ塩化ビニル(以下、PVCと略称することがある。)については、その組成中に塩素が含まれていて他のプラスチックと異なるため、燃料等への再資源化に際して困難な問題を抱えている。即ち、廃プラスチックのリサイクルにおいて、廃プラスチック中に含まれるポリ塩化ビニルは、焼却により塩化水素が発生するため、これを燃料等として使用すると焼却炉や高炉を損傷させるという問題がある。そのため、リサイクルに際しては、事前にポリ塩化ビニルのみを分別除去するか、またはポリ塩化ビニルに含まれている塩素を除去するという脱塩素処理を行う必要がある。
【0003】
ポリ塩化ビニルの脱塩素処理には、従来からロータリーキルンや二軸押出機によりポリ塩化ビニルを加熱して、ポリ塩化ビニルの脱塩素処理を行うという方法が開発され、実用に供されている。しかしながら、これらの装置を用いたポリ塩化ビニルの脱塩素処理方法は、何れも外部からの熱伝導を利用してポリ塩化ビニルの脱塩素処理を行うため、エネルギー効率が悪く、ランニングコストが嵩むという欠点があった。
【0004】
上記従来例に係る外部加熱を利用する脱塩素処理方法の欠点を解消し得るようにしたものとしては、例えばマイクロ波を用いてポリ塩化ビニルを誘電加熱処理し、ポリ塩化ビニルの構造中の塩素を除去するようにした新規の脱塩素処理方法がある。より詳しくは、ポリ塩化ビニルが混在した廃プラスチックをマイクロ波により誘電加熱処理し、廃プラスチックに混在しているポリ塩化ビニルから塩化水素を遊離させることにより塩素を除去するようにしたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−323005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記マイクロ波の誘電加熱処理による脱塩素処理方法によれば、上記従来例に係る外部加熱を利用する脱塩素処理方法よりも、低ランニングコストで脱塩素処理することが可能である。しかしながら、電線被覆材として用いられるポリ塩化ビニルのように、無機化合物が多く添加されているポリ塩化ビニルについては、ポリ塩化ビニルより脱離する塩化水素が無機化合物にトラップされるために、ポリ塩化ビニルの脱塩素効率が十分であるとはいえず、さらなる脱塩素処理効率の向上による脱塩素処理コストの低減に対する強い要望があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、塩素含有プラスチック、特に、電線被覆材のように無機化合物が多く添加されたポリ塩化ビニルの脱塩素処理を効率的に行うことを可能ならしめる廃プラスチックの脱塩素処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意研究を進めた結果、塩素含有プラスチック(電線被覆材)に炭素質物質を添加した後に、マイクロ波により誘電加熱すると、プラスチック中の塩素を効果的に脱塩素することができるということを知見して、本発明をなしたものである。
【0008】
従って、上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、塩素含有プラスチックを含むプラスチックに炭素質物質を添加した後にマイクロ波により誘電加熱して、前記塩素含有プラスチックの脱塩素を行うことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、請求項1に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法において、前記塩素含有プラスチックがポリ塩化ビニル樹脂であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、請求項2に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法において、前記ポリ塩化ビニル樹脂が廃電線被覆材であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項4に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、請求項1に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法において、前記炭素質物質がコークス、微粉炭、カーボンブラック、活性炭のうちの何れかであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項5に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、請求項2乃至4のうちの何れか一つの項に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法において、前記炭素質物質の添加割合が、ポリ塩化ビニル樹脂と炭素質物質の合計量に対して5〜60wt%であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項6に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法が採用した手段は、請求項1乃至5のうちの何れか一つの項に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法において、マイクロ波照射により脱塩素処理した処理物の用途が固形燃料または高炉還元剤であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1乃至6に係る廃プラスチックの脱塩素処理方法によれば、塩素含有プラスチックを含むプラスチックに炭素質物質を添加した後にマイクロ波により誘電加熱処理することにより、誘電加熱処理された処理済物質中の塩素を高能率で脱塩素処理することができ、廃プラスチックの脱塩素処理コストの低減に対して大いに寄与することができる。
【0015】
塩素含有プラスチックを含むプラスチックに炭素質物質を添加してマイクロ波により誘電加熱処理すると、塩素含有プラスチック中の塩素を効果的に脱塩素することが可能になるのかという詳細なメカニズムは不明であるが、後述するような理由によるものと考えることができる。
【0016】
即ち、炭素質物質がマイクロ波を吸収し易い性質を持っているため、プラスチックと炭素質物質との混合物全体として加熱効率が向上すること、およびプラスチックから離脱した塩化水素ガスが、プラスチック間に炭素質物質が存在することにより雰囲気ガス中に排気され易くなり、無機の塩素化合物が処理済物質中に残存し難くなることによるのではないかと考えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の廃プラスチックの脱塩素処理方法の仕方について説明する。塩素含有プラスチックを含むプラスチックに炭素質物質を添加した後にマイクロ波により誘電加熱処理するマイクロ波照射装置としては、マルチモード型の処理室を有するバッチタイプの処理炉を使用した。そして、ポリ塩化ビニルは廃電線から分離したナゲット屑(塩素含有率27wt%)を用いることとし、また炭素質物質として製鉄用のコークスを用いることとした。先ず、ナゲット屑とコークスとを所定の配合割合で混合して石英製のトレイに載せて処理室内に入れ、マイクロ波出力3kWの条件で所定時間加熱処理した。次いで、加熱処理した処理済物質を破砕機により粉砕し、均一に混合処理した後にサンプリングし、フラスコ燃焼法により燃焼させた後、イオンクロマトグラフ法により処理済物質中の塩素濃度を測定した。
【実施例】
【0018】
次に、種々の割合で配合混合したナゲット屑とコークスとからなる混合物にマイクロ波照射装置によりマイクロ波を照射して誘電加熱処理し、それぞれの条件下で誘電加熱処理した処理済物質中の塩素濃度を測定した試験例(試験例1〜8)を、コークスを混合しなかったナゲット屑にマイクロ波照射装置によりマイクロ波を照射して誘電加熱処理した処理済物質中の塩素濃度の測定結果(比較例)と対比して説明する。その結果は、下記表1に示すとおりである。
【表1】

【0019】
コークスを混合しない100gのナゲット屑を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した比較例の場合には、処理済物質中の塩素濃度は9.2wt%であった。
【0020】
75gのナゲット屑と、25gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は25wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例1の場合には、処理済物質中の塩素濃度は1.0wt%であった。つまり、ナゲット屑にコークスを配合混合してマイクロ波で誘電加熱処理することにより、ナゲット屑の脱塩素処理に多大な効果が得られることが分かる。
【0021】
75gのナゲット屑と、25gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は25wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで5分間誘電加熱処理した試験例2の場合には、処理済物質中の塩素濃度は1.8wt%になっており、ナゲット屑にコークスを混合せずにマイクロ波で誘電加熱処理した比較例よりも、ナゲット屑の脱塩素処理にとって多大な効果があることが分かる。
【0022】
90gのナゲット屑と、10gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は10wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例3の場合には、処理済物質中の塩素濃度は1.8wt%であった。また、一方95gのナゲット屑と、5gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は5wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例4の場合には、処理済物質中の塩素濃度は2.4wt%であった。即ち、これらの試験例3,4によれば、ナゲット屑へのコークスの添加割合が減少すると、ナゲット屑の脱塩素効率が低下することが認められる。
しかしながら、ナゲット屑にコークスを混合せずにマイクロ波で誘電加熱処理した比較例の場合よりも、ナゲット屑の脱塩素処理にとって多大な効果があることが分かる。
【0023】
97gのナゲット屑と、3gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は3wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間加誘電熱処理した試験例5の場合には、処理済物質中の塩素濃度は8.1wt%であった。この試験例5の場合には、ナゲット屑にコークスを配合混合した効果が認められるものの、ナゲット屑にコークスを混合せずにマイクロ波で誘電加熱処理した比較例と比較すると、ナゲット屑の脱塩素処置効果は限定的である。このようなことから、ナゲット屑へのコークスの添加割合を5wt%以上にすることにより十分な脱塩素効果が得られ、さらに10wt%以上にすることによって脱塩素効果がより顕著になることが分かる。
【0024】
60gのナゲット屑と、40gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は40wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例6の場合には、処理済物質中の塩素濃度は0.7wt%であった。また、40gのナゲット屑と、60gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は60wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例7の場合には、処理済物質中の塩素濃度は0.4wt%であった。さらに、20gのナゲット屑と、80gのコークスとの配合混合物(コークスの添加割合は80wt%である。)を、マイクロ波出力3kWで15分間誘電加熱処理した試験例8の場合には、処理済物質中の塩素濃度は0.3wt%であった。
【0025】
即ち、これら試験例6,7,8から、ナゲット屑へのコークスの添加割合が増加すればする程、処理済物質中の塩素濃度が非常に低レベルになるまで脱塩素することが可能になるということが分かる。しかしながら、本発明の目的は、ポリ塩化ビニル(塩素含有廃プラスチック)の脱塩素処理をすることにより、ポリ塩化ビニルを固形燃料や高炉の還元剤としてリサイクルすることである。このような観点からすれば、コークスの添加割合を多くし過ぎると、ポリ塩化ビニルの脱塩素処理量の低下を招くことになるから、ポリ塩化ビニルの脱塩素処理に係る経済性を考慮すると、コークスの添加割合は60wt%程度までとすることが好ましい。即ち、ポリ塩化ビニルの脱塩素処理にとって好ましいコークスの添加割合は5〜60wt%であり、より好ましくは10〜60wt%である。
【0026】
上記のように、ポリ塩化ビニルにコークスを添加してマイクロ波により誘電加熱処理すると、ポリ塩化ビニル中の塩素を何故効果的に脱塩素することが可能になるのかという詳細なメカニズムについては不明であるが、後述するような理由によるものと考えることができる。即ち、コークスがマイクロ波を吸収し易い性質を持っているため、ポリ塩化ビニルとコークスとの混合物全体として加熱効率が向上すること、およびポリ塩化ビニルから離脱した塩化水素ガスが、ポリ塩化ビニル間にコークスが存在することにより雰囲気ガス中に排気され易くなり、無機の塩素化合物が処理済物質中に残存し難くなることによるのではないかと考えることができる。
【0027】
ところで、以上の実施例においてはサンプル量を100gとして試験を行ったが、マイクロ波出力はサンプル量に応じて変更すべきものである。また、実施例におけるマイクロ波出力は3kWであるが、マイクロ波出力をさらに高くすれば、同じ処理時間でより高い脱塩素率が得られる。しかしながら、処理コストがアップすることになるから、マイクロ波出力は経済性を考慮して決定する必要がある。
【0028】
また、以上の実施例においては、廃電線から分離したナゲット屑(塩素含有率27wt%)のみにコークスを配合混合して脱塩素処理した場合を説明したが、種々のプラスチックと塩素含有プラスチックとの混合物とコークスの合計量に対して5〜60wt%のコークスを配合混合しても良い。即ち、塩素含有プラスチックの量に対してより多くのコークスが配合混合されることになるので、より完全に塩素含有プラスチックを脱塩素処理することができる。また、以上の実施例においては、マルチモード型の処理室を有するバッチタイプの処理炉を使用したが、工業的には、例えばシングルモードまたはマルチモード型の処理室を有するコンベヤ方式による連続式処理炉を用いることもできる。
【0029】
なお、以上では、上記のとおり、ポリ塩化ビニルとしては廃電線被覆材を用い、炭素質物質としてはコークスを用いた場合を例として説明した。しかしながら、ポリ塩化ビニルは廃電線被覆材に限らず、例えば水道管や農業用ビニル等各種のポリ塩化ビニルに対しても本発明の技術的思想を適用することができる。また、炭素質物質としてはコークスに限らず、例えば微粉炭、カーボンブラック、活性炭等を好適に用いることができる。また、脱塩素の対象となる塩素含有プラスチックとして、ポリ塩化ビニル樹脂を中心に説明したが、塩化ビニリデン等、塩素を含有する他のプラスチックに対しても本発明の技術的思想を適用することができるから、上記実施例によって本願発明の技術的思想の適用範囲が限定されるものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有プラスチックを含むプラスチックに炭素質物質を添加した後にマイクロ波により誘電加熱して、前記塩素含有プラスチックの脱塩素を行うことを特徴とする廃プラスチックの脱塩素処理方法。
【請求項2】
前記塩素含有プラスチックがポリ塩化ビニル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニル樹脂が廃電線被覆材であることを特徴とする請求項2に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法。
【請求項4】
前記炭素質物質がコークス、微粉炭、カーボンブラック、活性炭のうちの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法。
【請求項5】
前記炭素質物質の添加割合が、ポリ塩化ビニル樹脂と炭素質物質の合計量に対して5〜60wt%であることを特徴とする請求項2乃至4のうちの何れか一つの項に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法。
【請求項6】
マイクロ波照射により脱塩素処理した処理物の用途が固形燃料または高炉還元剤であることを特徴とする請求項1乃至5のうちの何れか一つの項に記載の廃プラスチックの脱塩素処理方法。


【公開番号】特開2006−143773(P2006−143773A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331926(P2004−331926)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】