説明

廃熱利用装置

【課題】エンジンの廃熱のみでエジェクタを駆動し得る廃熱回収装置を提供する。
【解決手段】エンジン(2)の排気ガスの熱を前記エンジン(2)から排出される冷却水に回収する廃熱回収器(22)を有するランキンサイクル(31)を備える廃熱回収装置において、エンジン(2)から排出される冷却水の温度に基づいて廃熱回収器(22)への冷却水の流量を制御する冷却水流量制御手段(26)と、廃熱回収器から排出される冷却水の温度に基づいて廃熱回収器(22)に流入する排気ガスの流量を制限する排気ガス流量制御手段(7)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃熱利用装置、特にランキンサイクルと冷凍サイクルを統合したものに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスの廃熱をエネルギとして再利用するランキンサイクルシステムが知られている。引用文献1には、自動車エンジン冷却のためのサイクル循環と、エンジン廃熱利用のための排気ガス熱交換器と、膨張装置を駆動し、かつ、第1熱交換媒体を循環する有機ランキンサイクル循環とから構成されるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−128254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に記載された技術では、排気ガス熱交換機を通過する冷媒によって排気ガスの熱を回収し、冷媒温度は、排気ガス熱交換機を循環する冷媒の量によって制御している。このとき、冷媒温度が許容温度を超過する場合は、バルブによって排気ガスを排気ガスバイパス管に通過させ、排気ガス熱交換機の温度が上昇することを防止している。
【0005】
このような構成では、許容温度を、冷媒温度をエンジンに影響を与えない程度の温度(例えば110℃)に設定する必要があるため、許容温度付近での排気ガスの廃熱を十分に回収できなかった。
【0006】
本発明は、エンジンの廃熱をより効率的に回収できる廃熱回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジンの排気ガスの熱をエンジンから排出される冷却水に回収する廃熱回収器と、冷却水の熱を冷媒に回収する熱交換器と、熱交換器を出た冷媒を用いて動力を発生させる膨張機と、膨張機を出た冷媒を凝縮させる凝縮器と、膨張機により回生された動力によって駆動されると共に凝縮器からの冷媒を熱交換器に供給する冷媒ポンプと、を備えるランキンサイクルを備える車両に用いられる廃熱回収装置に適用されるものである。この廃熱回収装置において、エンジンから排出される冷却水の温度に基づいて廃熱回収器への冷却水の流量を制限する冷却水流量制限手段と、廃熱回収器から排出される冷却水の温度に基づいて廃熱回収器に流入する排気ガスの流量を制限する排気ガス流量制限手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排気ガス流量制限手段と冷却水流量制限手段とによって、エンジン水温が許容温度を超えるのを確実に防ぎつつ、廃熱回収器における冷却水温度がエンジン水温の制限温度を超えるほど高い状態とすることができ、廃熱回収の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の統合サイクルの概略構成図である。
【図2A】本発明の実施形態の膨張機ポンプの概略断面図である。
【図2B】本発明の実施形態の冷媒ポンプの概略断面図である。
【図2C】本発明の実施形態の膨張機の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態の冷媒系バルブの機能を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態のハイブリッド車両の概略構成図である。
【図5】本発明の実施形態のエンジンの概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態のハイブリッド車両を下方から見た概略図である。
【図7】本発明の実施形態のランキンサイクル運転域の特性図である。
【図8】本発明の実施形態の膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両の加速が行われたときの様子を示したタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施形態のランキンサイクルの運転停止からの再起動の様子を示したタイミングチャートである。
【図10】本発明の実施形態の廃熱回収器を中心とした排気管の説明図である。
【図11】本発明の実施形態の廃熱回収器における冷却水温度及び流量を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0011】
図1は本発明の前提となるランキンサイクルの、システム全体を表した概略構成図を示している。図1のランキンサイクル31は、冷凍サイクル51と冷媒および凝縮器38を共有する構成になっており、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51を統合したサイクルのことを、これ以降統合サイクル30と表現する。図4は統合サイクル30が搭載されるハイブリッド車両1の概略構成図である。なお、統合サイクル30は、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51の冷媒が循環する回路(通路)及びその途中に設けられたポンプ、膨張機、凝縮器等の構成要素に加え、冷却水や排気の回路(通路)等を含めたシステム全体を指すものとする。
【0012】
ハイブリッド車両1では、エンジン2、モータジェネレータ81、自動変速機82が直列に連結され、自動変速機82の出力はプロペラシャフト83、ディファレンシャルギヤ84を介して駆動輪85に伝達される。エンジン2とモータジェネレータ81の間には第1駆動軸クラッチ86を設けている。また、自動変速機82の摩擦締結要素の一つが第2駆動軸クラッチ87として構成されている。第1駆動軸クラッチ86と第2駆動軸クラッチ87は、エンジンコントローラ71に接続されており、ハイブリッド車両の運転条件に応じてその断接(接続状態)が制御される。ハイブリッド車両1では、図7Bに示すように、車速がエンジン2の効率が悪いEV走行領域にあるときには、エンジン2を停止し第1駆動軸クラッチ86を遮断し第2駆動軸クラッチ87を接続してモータジェネレータ81による駆動力のみでハイブリッド車両1の走行を行わせる。一方、車速がEV走行領域を外れてランキンサイクル運転域に移行したときには、エンジン2を運転してランキンサイクル31(後述する)を運転する。エンジン2は排気通路3を備え、排気通路3は、排気マニホールド4と、排気マニホールド4の集合部に接続される排気管5とから構成される。排気管5は途中でバイパス排気管6と分岐しており、バイパス排気管6にバイパスされる区間の排気管5には、排気と冷却水との間で熱交換を行なうための廃熱回収器22を備える。廃熱回収器22とバイパス排気管6は、図6に示すように、これらを一体化した廃熱回収ユニット23として、床下触媒88とその下流のサブマフラー89との間に配置される。
【0013】
図1に基づき、まず、エンジン冷却水回路について説明する。エンジン2を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路13、14を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ15で再び合流し、さらに冷却水ポンプ16を経てエンジン2に戻る。冷却水ポンプ16はエンジン2によって駆動され、その回転速度はエンジン回転速度と同調している。サーモスタットバルブ15は、冷却水温度が高い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を大きくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に増やし、冷却水温度が低い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を小さくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に減らす。エンジン2の暖機前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせて冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる。一方、バイパス冷却水通路14側のバルブ開度は全閉になることはなく、ラジエータ11を流れる冷却水流量が多くなったときに、バイパス冷却水通路14を流れる冷却水の流量は、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる場合と比べて低下するが、流れが完全に停止することがないようにサーモスタットバルブ15が構成されている。ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14は、冷却水通路13から分岐して後述の熱交換器36に直接接続する第1バイパス冷却水通路24と、冷却水通路13から分岐して廃熱回収器22を経た後に熱交換器36に接続する第2バイパス冷却水通路25とからなる。
【0014】
バイパス冷却水通路14には、ランキンサイクル31の冷媒と熱交換を行なう熱交換器36を備える。この熱交換器36は蒸発器と過熱器とを統合したものである。すなわち、熱交換器36には2つの冷却水通路36a、36bがほぼ一列に、また、冷媒と冷却水が熱交換可能なようにランキンサイクル31の冷媒が流れる冷媒通路36cは冷却水通路と隣接して設けられている。さらに熱交換器36の全体を俯瞰して見たときにランキンサイクル31の冷媒と冷却水が互いに流れ方向が逆向きとなるように各通路36a、36b、36cが構成されている。
【0015】
詳細には、ランキンサイクル31の冷媒にとって上流(図1の左)側に位置する一方の冷却水通路36aは、第1バイパス冷却水通路24に介装されている。この冷却水通路36a及びこの冷却水通路に隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器左側部分は、エンジン2から出た冷却水を冷却水通路36aに直接導入することで、冷媒通路36cを流れるランキンサイクル31の冷媒を加熱するための蒸発器である。
【0016】
ランキンサイクル31の冷媒にとって下流(図1の右)側に位置する他方の冷却水通路36bには、第2バイパス冷却水通路25を介して廃熱回収器22を経た冷却水が導入される。冷却水通路36b及びこの冷却水通路36bに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器右側部分(ランキンサイクル31の冷媒にとって下流側)は、エンジン2の出口の冷却水を排気によってさらに加熱した冷却水を冷却水通路36bに導入することで、冷媒通路36cを流れる冷媒を過熱する過熱器である。
【0017】
廃熱回収器22の冷却水通路22aは排気管5に隣接して設けている。廃熱回収器22の冷却水通路22aにエンジン2の出口の冷却水を導入することで、冷却水を高温の排気によって例えば110〜115℃程度まで加熱することができる。廃熱回収器22の全体を俯瞰して見たときに、排気と冷却水とが互いに流れる向きが逆向きとなるように冷却水通路22aが構成されている。
【0018】
廃熱回収器22を設けた第2バイパス冷却水通路25には制御弁26が介装されている。後述するように、制御弁26は、エンジン2の内部にある冷却水の温度を指すエンジン水温が、例えばエンジン2の効率悪化やノックを発生させないための許容温度(例えば100℃)を超えないように、エンジン出口の冷却水温度センサ74の検出温度が所定値以上になると、この制御弁26の開度を減少させるようにしている。エンジン水温が許容温度に近づくと、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させるため、エンジン水温が許容温度を超えてしまうことを確実に防ぐことができる。
【0019】
一方、第2バイパス冷却水通路25の流量が減少したことによって、廃熱回収器22により上昇する冷却水温度が上がりすぎて冷却水が蒸発(沸騰)してしまったのでは、冷却水通路内の冷却水の流れが悪くなって部品温度が過剰に上昇してしまう恐れがある。これを避けるため、廃熱回収器22をバイパスするバイパス排気管6と、廃熱回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とをコントロールするサーモスタットバルブ7をバイパス排気管6の分岐部に設けている。すなわち、サーモスタットバルブ7は、そのバルブ開度が廃熱回収器22を出た冷却水温度が所定の温度(例えば沸騰温度120℃)を超えないように、廃熱回収器22を出た冷却水温度に基づいて調節される。
【0020】
熱交換器36とサーモスタットバルブ7と廃熱回収器22とは、廃熱回収ユニット23として一体化されていて、車幅方向略中央の床下において排気管途中に配設されている。
【0021】
バイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、例えば熱交換器36でランキンサイクル31の冷媒と熱交換することによって十分低下していれば、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が小さくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に減らされる。逆にバイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、ランキンサイクル31が運転されていないことなどによって高くなると、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が大きくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に増やされる。このようなサーモスタットバルブ15の動作に基づいて、エンジン2の冷却水温度が適当に保たれ、熱がランキンサイクル31へ適当に供給(回収)されるように構成されている。
【0022】
次に、ランキンサイクル31について述べる。ここでは、ランキンサイクル31は、単純なランキンサイクルでなく、冷凍サイクル51と統合した統合サイクル30の一部として構成されている。以下では、基本となるランキンサイクル31を先に説明し、その後に冷凍サイクルに言及する。
【0023】
ランキンサイクル31は、エンジン2の冷却水を介してエンジン2の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、過熱器としての熱交換器36、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44により接続されている。
【0024】
冷媒ポンプ32の軸は同一の軸上で膨張機37の出力軸と連結配置され、膨張機37の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ32を駆動すると共に、発生動力をエンジン2の出力軸(クランク軸)に供給する構成である(図2A参照)。すなわち、冷媒ポンプ32の軸及び膨張機37の出力軸は、エンジン2の出力軸と平行に配置され、冷媒ポンプ32の軸の先端に設けたポンププーリ33と、クランクプーリ2aとの間にベルト34を掛け回している(図1参照)。なお、本実施形態の冷媒ポンプ32としてはギヤ式のポンプを、膨張機37としてはスクロール式の膨張機を採用している(図2B、図2C参照)。
【0025】
また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「膨張機クラッチ」という。)35(第1クラッチ)を設けて、冷媒ポンプ32及び膨張機37とを、エンジン2と断接可能にしている(図2A参照)。このため、膨張機37の発生する出力が冷媒ポンプ32の駆動力及び回転体が有するフリクションを上回る場合(予測膨張機トルクが正の場合)に膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37の発生する出力によってエンジン出力軸の回転をアシスト(補助)することができる。このように廃熱回収によって得たエネルギを用いてエンジン出力軸の回転をアシストすることで、燃費を向上できる。また、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32を駆動するためのエネルギも、回収した廃熱で賄うことができる。なお、膨張機クラッチ35は、エンジン2から冷媒ポンプ32及び膨張記37に至る動力伝達経路の途中であれば、どこに設けられていてもよい。
【0026】
冷媒ポンプ32からの冷媒は冷媒通路41を介して熱交換器36に供給される。熱交換器36は、エンジン2の冷却水と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を気化し過熱する熱交換器である。
【0027】
熱交換器36からの冷媒は冷媒通路42を介して膨張機37に供給される。膨張機37は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。膨張機37で回収された動力は冷媒ポンプ32を駆動し、ベルト伝動機構を介してエンジン2に伝達され、エンジン2の回転をアシストする。
【0028】
膨張機37からの冷媒は冷媒通路43を介して凝縮器38に供給される。凝縮器38は、外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、凝縮器38をラジエータ11と並列に配置し、ラジエータファン12によって冷却するようにしている。
【0029】
凝縮器38により液化された冷媒は、冷媒通路44を介して冷媒ポンプ32に戻される。冷媒ポンプ32に戻された冷媒は、冷媒ポンプ32により再び熱交換器36に送られ、ランキンサイクル31の各構成要素を循環する。
【0030】
なお、冷媒通路44は、図8に示すように、冷媒ポンプ32の入口から上方に延びている。
【0031】
次に、冷凍サイクル51について述べる。冷凍サイクル51は、ランキンサイクル31を循環する冷媒を共用するため、ランキンサイクル31と統合され、冷凍サイクル51の構成そのものは簡素になっている。すなわち、冷凍サイクル51は、コンプレッサ(圧縮機)52、凝縮器38、エバポレータ(蒸発器)55を備える。
【0032】
コンプレッサ52は冷凍サイクル51の冷媒を高温高圧に圧縮する流体機械で、エンジン2によって駆動される。すなわち、図4にも示したようにコンプレッサ52の駆動軸にはコンプレッサプーリ53が固定され、このコンプレッサプーリ53とクランクプーリ2aとにベルト34を掛け回している。エンジン2の駆動力がこのベルト34を介してコンプレッサプーリ53に伝達され、コンプレッサ52が駆動される。また、コンプレッサプーリ53とコンプレッサ52との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「コンプレッサクラッチ」という。)54(第2クラッチ)を設けて、コンプレッサ52とコンプレッサプーリ53とを断接可能にしている。
【0033】
図1に戻り、コンプレッサ52からの冷媒は冷媒通路56を介して冷媒通路43に合流した後、凝縮器38に供給される。凝縮器38は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。凝縮器38からの液状の冷媒は、冷媒通路44から分岐する冷媒通路57を介してエバポレータ(蒸発器)55に供給される。エバポレータ55は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配設されている。エバポレータ55は、凝縮器38からの液状冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
【0034】
エバポレータ55によって蒸発した冷媒は冷媒通路58を介してコンプレッサ52に戻される。なお、エバポレータ55によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
【0035】
なお、エバポレータ55、及び、凝縮器38とエバポレータ55とを接続する冷媒雄路44の一部及び冷媒通路57は、冷媒ポンプ32の入口よりも高い位置に配置される。また、冷媒通路44は、冷凍サイクル分岐点45において分岐し、冷媒通路57に接続する(図8参照)。
【0036】
ランキンサイクル31と冷凍サイクル51とからなる統合サイクル30には、サイクル内を流れる冷媒を制御するため、回路途中に各種の弁が適宜設けられている。例えば、ランキンサイクル31を循環する冷媒を制御するため、冷凍サイクル分岐点45と冷媒ポンプ32とを連絡する冷媒通路44にポンプ上流弁61、熱交換器36と膨張機37とを連絡する冷媒通路42に膨張機上流弁62を備える。また、冷媒ポンプ32と熱交換器36とを連絡する冷媒通路41には、熱交換器36から冷媒ポンプ32への冷媒の逆流を防止するため逆止弁63を備えている。膨張機37と冷凍サイクル合流点46とを連絡する冷媒通路43にも、冷凍サイクル合流点46から膨張機37への冷媒の逆流を防止するため逆止弁64を備えている。また、膨張機上流弁62上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65にバイパス弁66を設けている。さらに、バイパス弁66をバイパスする通路67に圧力調整弁68を設けている。冷凍サイクル51側についても、冷凍サイクル分岐点45とエバポレータ55とを接続する冷媒通路57にエアコン回路弁69を設けている。
【0037】
上記4つの弁61、62、66、69はいずれも電磁式の開閉弁である。圧力センサ72により検出される膨張機上流圧力の信号、圧力センサ73により検出される凝縮器出口の冷媒圧力Pdの信号、膨張機37の回転速度信号等がエンジンコントローラ71に入力されている。エンジンコントローラ71では、所定の運転条件に応じ、これらの各入力信号に基づいて、冷凍サイクル51のコンプレッサ52や、ラジエータファン12の制御を行なうとともに、上記4つの電磁式開閉弁61、62、66、69の開閉を制御する。
【0038】
例えば、圧力センサ72により検出される膨張機上流側圧力及び膨張機回転速度に基づいて膨張機トルク(回生動力)を予測し、この予測膨張機トルクが正のとき(エンジン出力軸の回転をアシストすることができるとき)に膨張機クラッチ35を締結し、予測膨張機トルクがゼロないし負のときに膨張機クラッチ35を解放する。センサ検出圧力と膨張機回転速度とに基づくことで、排気温度から膨張機トルク(回生動力)を予測する場合とくらべ、高い精度で膨張機トルクを予測することができ、膨張機トルクの発生状況に応じて膨張機クラッチ35の締結・解放を適切に行うことができる(詳細は特開2010−190185号公報参照)。
【0039】
上記4つの開閉弁61、62、66、69及び2つの逆止弁63、64は、冷媒系バルブである。これらの冷媒系バルブの機能を改めて図3に示す。
【0040】
図3において、ポンプ上流弁61は、冷媒ポンプ32の入口に設けられる(図8参照)。ポンプ上流弁61は、冷凍サイクル51の回路に比べてランキンサイクル31の回路に冷媒が偏り易くなる所定の条件で閉じることで、ランキンサイクル31への冷媒(潤滑成分を含む)の偏りを防止するためのもので、後述するように、膨張機37下流の逆止弁64と協働してランキンサイクル31の回路を閉塞させる。膨張機上流弁62は、熱交換器36からの冷媒圧力が相対的に低い場合に冷媒通路42を遮断し熱交換器36からの冷媒が高圧になるまで保持することができるようにするものである。これによって、膨張機トルクが十分得られない場合でも冷媒の加熱を促し、例えばランキンサイクル31が再起動する(回生が実際に行なえるようになる)までの時間を短縮させることができる。バイパス弁66は、ランキンサイクル31の始動時等にランキンサイクル31側に存在する冷媒量が十分でないときなどに、膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ作動が行えるように開弁し、ランキンサイクル31の起動時間を短縮するためのものである。膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32を作動させることで、凝縮器38の出口あるいは冷媒ポンプ32の入口の冷媒温度が、その部位の圧力を考慮した沸点から所定温度差(サブクール度SC)以上に低下した状態が実現されれば、ランキンサイクル31には十分な液体冷媒が供給できる状態が整ったことになる。
【0041】
熱交換器36上流の逆止弁63は、バイパス弁66、圧力調整弁68、膨張機上流弁62と協働して膨張機37に供給される冷媒を高圧に保持するためのものである。ランキンサイクルの回生効率が低い条件ではランキンサイクルの運転を停止し、熱交換器の前後区間に亘って回路を閉塞することで、停止中の冷媒圧力を上昇させておき、高圧冷媒を利用してランキンサイクルが速やかに再起動できるようにする。圧力調整弁68は膨張機37に供給される冷媒の圧力が高くなり過ぎた場合に開いて、高くなり過ぎた冷媒を逃すリリーフ弁の役割を有している。
【0042】
膨張機37下流の逆止弁64は、上述のポンプ上流弁61と協働してランキンサイクル31への冷媒の偏りを防止するためのものである。ハイブリッド車両1の運転開始直後、エンジン2が暖まっていないとランキンサイクル31が冷凍サイクル51より低温となり、冷媒がランキンサイクル31側に偏ることがある。ランキンサイクル31側に偏る確率はそれほど高くないものの、例えば夏場の車両運転開始直後には、車内を早く冷やしたい状況にあって冷房能力が最も要求されることから、冷媒の僅かな偏在も解消して冷凍サイクル51の冷媒を確保したいという要求がある。そこで、ランキンサイクル31側への冷媒の偏在を防止するため逆止弁64を設けたものである。
【0043】
コンプレッサ52は、駆動停止時に冷媒が自由通過できる構造ではなく、エアコン回路弁69と協働して冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止することができる。これについて説明する。冷凍サイクル51の運転が停止したとき、定常運転中の比較的高い温度のランキンサイクル31側から冷凍サイクル51側へと冷媒が移動して、ランキンサイクル31を循環する冷媒が不足することがある。冷凍サイクル51の中で、冷房停止直後はエバポレータ55の温度が低くなっていて、比較的容積が大きく温度が低くなっているエバポレータ55に冷媒が溜まり易い。この場合に、コンプレッサ52の駆動停止によって凝縮器38からエバポレータ55への冷媒の動きを遮断するとともに、エアコン回路弁69を閉じることで、冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止するのである。
【0044】
次に、図5はエンジン全体のパッケージを示すエンジン2の概略斜視図である。図5において特徴的なのは、熱交換器36が排気マニホールド4の鉛直上方に配置されていることである。排気マニホールド4の鉛直上方のスペースに熱交換器36を配置することによって、ランキンサイクル31のエンジン2への搭載性を向上させている。また、エンジン2には、テンショナプーリ8が設けられる。
【0045】
次に、ランキンサイクル31の基本的な運転方法を図7A及び図7Bを参照して説明する。
【0046】
まず、図7A及び図7Bはランキンサイクル31の運転領域図である。図7Aには横軸を外気温、縦軸をエンジン水温(冷却水温度)としたときのランキンサイクルの運転域を、図7Bは横軸をエンジン回転速度、縦軸をエンジントルク(エンジン負荷)としたときのランキンサイクル31の運転域を示している。
【0047】
図7A及び図7Bのいずれにおいても所定の条件を満たしたときにランキンサイクル31を運転するもので、これら両方の条件が満たされた場合にランキンサイクル31を運転する。図7Aにおいては、エンジン1の暖機を優先する低水温側の領域と、コンプレッサ52の負荷が増大する高外気温側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。排気温度が低く回収効率が悪い暖機時は、むしろランキンサイクル31を運転しないことで冷却水温度を速やかに上昇させる。高い冷房能力が要求される高外気温時はランキンサイクル31を止めて、冷凍サイクル51に十分な冷媒と凝縮器38の冷却能力を提供する。図7Bにおいては、ハイブリッド車両であるので、EV走行領域と、膨張機37のフリクションが増大する高回転速度側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。膨張機37は全ての回転数でフリクションが少ない高効率な構造とすることが難しいことから、図7の場合では、運転頻度の高いエンジン回転速度域でフリクションが小さく高効率となるように、膨張機が構成(膨張機各部のディメンジョン等が設定)されている。
【0048】
図8は膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両1の加速が行われたときの様子をモデルで示したタイミングチャートである。なお、図8の右側には、このときに膨張機37の運転状態が推移する様子を膨張機トルクマップ上に表している。膨張機トルクマップの等高線で区切られた範囲のうち、膨張機回転速度が低く膨張機上流圧力が高い部分(左上)では膨張機トルクが最も大きく、膨張機回転速度が高く膨張機上流圧力が低くなるほど(右下に進むほど)膨張機トルクが小さくなる傾向になっている。特に斜線部の範囲は、冷媒ポンプを駆動する前提では膨張機トルクがマイナスになって、エンジンに対しては負荷となってしまう領域を表している。
【0049】
運転者がアクセルペダルを踏込むt1までは、定速走行が継続されて膨張機37が正のトルクを発生させており、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが行われている。
【0050】
t1以降、膨張機37の回転速度、すなわちポンプ32の回転速度がエンジン回転速度に比例して上昇するが、排気温度或いは冷却水温度の上昇は、エンジン回転速度の上昇に対して遅れを有する。そのため、ポンプ32の回転速度の上昇によって増大した冷媒量に対して回収可能な熱量の割合が低下する。
【0051】
従って、膨張機回転速度が上昇するにつれ、膨張機上流の冷媒圧力が低下し、膨張機トルクは低下する。
【0052】
膨張機トルクが低下すると、膨張機37や冷媒ポンプ32はエンジンの駆動力によって回転させられることになり、むしろエンジンの負荷になってしまうので、膨張機トルクが所定以下になるようなときには膨張機クラッチ35を切断し、膨張機37の引き摺り現象(エンジンによって回されて却ってエンジンの負荷になること)を回避する。
【0053】
図8では、膨張機クラッチ35を切断するt3よりも前の、t2のタイミングで膨張機上流弁62を閉塞しており、t3のタイミングで膨張機上流圧力は膨張機下流圧力と殆ど差がない。このように、膨張機クラッチ35の切断前に、膨張機上流弁62を閉塞することによって、膨張機上流の冷媒(膨張機に流入する冷媒の)圧力を十分低下させ、膨張機クラッチ35を切り離した際の膨張機37の過回転を防止している。
【0054】
t3以降、エンジン2の放熱量の上昇により膨張機上流圧力が再び上昇し、t4のタイミングで、膨張機上流弁62が閉状態から開状態へと切換えられ、膨張機37への冷媒の供給が再開される。また、t4で膨張機クラッチ35が再び接続される。この膨張機クラッチ35の再接続により、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが再開される。
【0055】
図9は、膨張機上流弁62が閉じられ膨張機クラッチ35を切断した状態の、ランキンサイクルの運転停止から、図8(t4の制御)と異なる態様でランキンサイクルの再起動を行なう様子をモデルで示したタイミングチャートである。
【0056】
t11のタイミングで運転者がアクセルペダルを踏込むとアクセル開度が増大する。t11では、ランキンサイクルの運転は停止されている。このため、膨張機トルクはゼロを維持している。
【0057】
t11からのエンジン回転速度の上昇に伴ってエンジン2の放熱量が増大し、この放熱量の増大によって熱交換器36に流入する冷却水温度が高くなり、熱交換器36内の冷媒の温度が上昇する。膨張機上流弁62は閉じているので、この熱交換器36による冷媒温度の上昇によって、膨張機上流弁62の上流の冷媒圧力、つまり膨張機上流圧力が上昇していく(t11〜t12)。
【0058】
この運転状態の変化によってランキンサイクル非運転域からランキンサイクル運転域へと切換わる。膨張機上流弁62がなく、ランキンサイクル運転域に移行したときに、即座に膨張機クラッチ35を切断状態から接続状態へと切換えて膨張機37をエンジン出力軸と連結したのでは、膨張機37がエンジン2の負荷となる上にトルクショックが生じてしまう。
【0059】
一方、図9では、ランキンサイクル運転域へと切換わったとき、即座に膨張機上流弁62を閉状態から開状態へと切換えることはしない。すなわち、ランキンサイクル運転域に移行した後も膨張機上流弁62の閉状態を続ける。
【0060】
やがて、膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差圧が大きくなって所定圧以上となるt12のタイミングで膨張機37を運転(駆動)できると判断し、膨張弁上流弁62を閉状態から開状態に切換える。この膨張弁上流弁62の開状態への切換によって膨張機37に所定圧の冷媒が供給され、膨張機回転速度がゼロから速やかに上昇する。
【0061】
この膨張機回転速度の上昇で膨張機回転速度がエンジン回転速度に到達するt13のタイミングで、膨張機クラッチ35を切断より接続へと切換える。膨張機37が十分に回転速度を増す前に膨張機クラッチ35を接続したのでは、膨張機37がエンジン負荷となるし、トルクショックも生じ得る。これに対して、エンジン出力軸との回転速度差がなくなるt13で膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37がエンジン負荷となることも、膨張機クラッチ35を締結することに伴うトルクショックも防止できる。
【0062】
次に、廃熱回収器22における制御について説明する。
【0063】
図10は、本実施形態の廃熱回収器22を中心とした排気管5(廃熱回収ユニット23)の説明図である。
【0064】
図10において、排気ガスの流れを実線矢印で、冷却水の流れを点線矢印で示す。
【0065】
排気管5には、前述のように廃熱回収器22が取付けられている。廃熱回収器22には、排気ガスと冷却水とが流通可能に構成されており、高温の排気ガスの熱による熱交換によって冷却水の温度を上昇させる。温度が上昇した冷却水は、熱交換機36においてランキンサイクル31の冷媒を加熱する。
【0066】
廃熱回収器22に導入される冷却水は、制御弁26によってその流量が制御される。エンジンコントローラ71は、冷却水温度センサ74によって検出したエンジン2の出口の冷却水温度に基づいて、制御弁の流量を制御する。すなわち、エンジンコントローラ71が冷却水温度センサ74に基づいて制御弁26の開度を制御して冷却水流量を制限することによって、冷却水流量制限手段が構成されている。
【0067】
エンジンコントローラ71は、冷却水温度センサ74によって検出された冷却水温度が第1の所定温度以上となった場合は、制御弁26の開度を減少させ、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させる。
【0068】
この第1の所定温度とは、エンジン2に影響を与えない温度、例えばオーバーヒートが発生する温度よりも所定の余裕分を持った温度とする。
【0069】
このように制御することによって、冷却水水温、特に、エンジン2の内部を流通する冷却水水温の温度(エンジン水温)が許容温度を超えてしまうことを防止している。廃熱回収器内の冷却水の流通を減少させることにしたので、冷却水に移動する熱の量を速やかに低下させることができる。
【0070】
排気管5の廃熱回収器の手前には、サーモスタットバルブ7が設けられている。
【0071】
サーモスタットバルブ7は、軸7bを中心として回動するように構成されており、バイパス排気管6を閉塞して廃熱回収器22に排気ガスを流通させるか、排気管5を閉塞してバイパス排気管6に排気ガスを流通させて、廃熱回収器22への排気ガスの流通を制限するかを制御する。
【0072】
サーモスタットバルブ7はサーモスタット7aを備える。サーモスタット7aは、廃熱回収器22の冷却水の出口側に設けられている。サーモスタット7aは、廃熱回収器22の冷却水出口温度に基づいて伸縮可能に構成される。
【0073】
サーモスタット7aは、軸7bを介してサーモスタットバルブ7と連結する。サーモスタット7aが通過する冷却水の温度に応じて伸縮することにより、サーモスタットバルブ7が、サーモスタット7aに応動して軸7bを中心として回動する。これにより、排気管5の開度が変更される。
【0074】
サーモスタットバルブ7は、廃熱回収器22の出口の冷却水温度に応じてその開度を変更し、廃熱回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とを変更することができるように構成されている。すなわち、冷却水温度によってサーモスタット7aが伸縮してサーモスタットバルブ7の開度が変化し、廃熱回収器22への排気ガスの流量を制限することによって、排気ガス流量制限手段が構成される。
【0075】
具体的には、サーモスタットバルブ71は、廃熱回収器22の出口の冷却水温度が、第2の所定温度未満である場合は、バイパス排気管6を閉鎖して、排気ガスを廃熱回収器22に流通させる。廃熱回収器22は、流通する排気ガスと冷却水とで熱交換を行う。
【0076】
一方、廃熱回収器22の出口の冷却水温度が第2の所定温度以上となった場合は、サーモスタットバルブ71は、排気管5の廃熱回収器22への排気ガスの流通を閉鎖して、バイパス排気管6に排気ガスを流通させる。これにより、廃熱回収器22に排気ガスが流通しないので、廃熱回収器22を流れる冷却水の水温は上昇することがない。
【0077】
この第2の所定値とは、冷却水の流通に影響を与えない温度、例えば冷却水が沸騰する温度よりも所定の余裕分を持った温度とする。冷却水が沸騰すると気泡が発生し、流れ出した気泡が熱交換量(冷却水によるエンジンを冷却する作用)を低下させるだけでなく、気泡が冷却水通路断面全体に亘るほどまで成長すると、冷却水の流れが止まってしまう恐れがある。
【0078】
すなわち、本実施形態では、廃熱回収器22において、エンジン出口(廃熱回収器入口)冷却水温度に基づいて廃熱回収器22に流入する冷却水の流量を制御し、出口冷却水温度に基づいて排気ガスの流量を制限するので、沸騰が生じない範囲かつエンジン水温が許す限り、排ガスの熱を十分、確実に回収できると共に、エンジンに影響が発生する温度への上昇を速やかかつ確実に防止することができる。
【0079】
なお、サーモスタットバルブ7は、バイメタル等を用いた比較的簡易な感温弁でもよいし、温度センサ出力が入力されるコントローラによって制御される制御弁であってもよい。
【0080】
図11は、本実施形態の廃熱回収器22における冷却水温度及び流量を示す説明図である。
【0081】
この図11に示すグラフは、横軸の時間経過と共に、縦軸の冷却水温度が上昇している運転状態を示す。なお図中の点線は廃熱回収器22の入口の冷却水温度、すなわち、冷却水温度センサ74によって計測された温度を示す。また、図中の一点鎖線は、廃熱回収器22の出口の冷却水温度、すなわち、サーモスタット7aの動作に関わる温度である。
【0082】
エンジン2が定常運転のときは、エンジン2からの冷却水の温度は、一般的に80℃〜90℃付近である。ここで、エンジン2の回転速度が上昇するなど、エンジン2の負荷が過渡的に上昇した場合を説明する。
【0083】
エンジン2の負荷が上昇したときは、まず、排気ガスの温度が上昇し、遅れてエンジン水温が上昇する。
【0084】
このとき、廃熱回収器22の入口の冷却水温度、すなわち、エンジン2から排出される冷却水の温度が、徐々に上昇する。
【0085】
ここで、廃熱回収器22の入口の冷却水温度が、第1の制限温度(エンジンがオーバーヒートしない温度の上限、例えば110℃)よりも余裕分αを持たせた第1の所定温度(例えば105℃)以上となった場合(時間ts1)は、エンジンコントローラ71は、制御弁26の開度を制御して、廃熱回収器22への冷却水流量を減少させる。廃熱回収器22を通過する冷却水の流量が減少することによって、廃熱回収器22における熱交換を少なくして、エンジン水温(エンジン内部の冷却水温度)が過剰に上昇しないように制御する。
【0086】
また一方で、廃熱回収器22の出口の冷却水温度が、第2の制限温度(冷却水が配管内で沸騰しない温度の上限、例えば120℃)よりも余裕分βを持たせた第2の所定温度(例えば115℃)以上となった場合(時間ts2)は、サーモスタット7aの伸張によりサーモスタットバルブ7の開度を全開から全閉へと制御して、バイパス排気管6に排気ガスを流通させ、廃熱回収器22への排気ガスの流通を制限する。廃熱回収器22を通過する排気ガスの流量が減少することによって、廃熱回収器22における熱交換を少なくして、廃熱回収器22における冷却水温度が過剰に上昇しないように制御する。
【0087】
以上のように本発明の実施形態では、排気管5に設けられた廃熱回収器22への冷却水の流通を、エンジン2の出口(廃熱回収器22の入口)の冷却水温度に基づいて制御するとともに、廃熱回収器22への排気ガスの流通を、廃熱回収器22の出口の冷却水温度に基づいて制御した。
【0088】
廃熱回収効率を向上させるために、廃熱回収器22の出口の冷却水温度を、エンジン水温の許容温度を超えるほど高めようとしたときに、サーモスタットバルブ7による排気ガスから冷却水への熱交換量の調節は比較的大きな遅れを伴うため、サーモスタットバルブ7を単独で調節したのではエンジン水温が許容温度を超えないように制御するのが難しい。しかし、制御弁26をエンジン水温に基づいて制御するので、冷却水温度が上昇した場合には、廃熱回収器22を流れる冷却水の流量を制限して熱回収量を速やかに低減して、エンジン水温が許容温度を超えるのを確実に防ぐことができる。
【0089】
また、エンジン水温が許容温度までに余裕がある状態であれば、サーモスタットバルブ7による調節によって、廃熱回収器22を出る冷却水温度が沸騰しない範囲(例えば110〜115℃)で廃熱回収が行えるので、廃熱回収量を増加させることができる。
【0090】
なお、制御弁26を閉じ側に制御して、廃熱回収器22を通過する冷却水流量を最も減少させる場合においても、廃熱回収器を通過する冷却水流量は完全にゼロとはならないように構成されている。サーモスタットバルブ7によって、廃熱回収器22への排気ガスの流通が停止させられている場合であっても、バイパス排気管6を流れる排気ガスから廃熱回収器22内の冷却水に熱が伝わって、冷却水の温度は徐々に上昇する。所定の冷却水流量を確保しておけば、仮にバイパス排気管6を流れる排気ガスから廃熱回収器22内の冷却水に熱が伝わっても、廃熱回収器22内の冷却水が徐々に置換されて、廃熱回収器22内の冷却水温度が過剰に高くなってしまうことが防止できる。
【0091】
また、第1の所定温度における余裕分α及び第2の所定温度における余裕分βは、制御弁26及びサーモスタットバルブ7の応答性に応じて適宜決めうる値であり、例えば数〜10℃程度に設定する。
【0092】
以上説明した本発明の実施形態では、ハイブリッド車両を例に説明したが、これに限られるものでない。エンジン2のみを搭載した車両にも本発明の適用がある。エンジン2は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【符号の説明】
【0093】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
2a クランクプーリ
12 ラジエータファン
30 複合サイクル
31 ランキンサイクル
32 冷媒ポンプ
33 ポンププーリ
34 ベルト
35 膨張機クラッチ
36 熱交換器
37 膨張機
51 冷凍サイクル
52 コンプレッサ
54 コンプレッサクラッチ
55 エバポレータ
71 エンジンコントローラ
92 エジェクタ
98 流量制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスの熱を前記エンジンから排出される冷却水に回収する廃熱回収器と、
前記冷却水の熱を冷媒に回収する熱交換器と、前記熱交換器を出た冷媒を用いて動力を発生させる膨張機と、前記膨張機を出た冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記膨張機により回生された動力によって駆動されると共に前記凝縮器からの冷媒を前記熱交換器に供給する冷媒ポンプと、を備えるランキンサイクルを備える車両に用いられる廃熱回収装置において、
前記エンジンから排出される前記冷却水の温度に基づいて前記廃熱回収器への冷却水の流量を制限する冷却水流量制限手段と、
前記廃熱回収器から排出される前記冷却水の温度に基づいて前記廃熱回収器に流入する排気ガスの流量を制限する排気ガス流量制限手段と、
を備えることを特徴とする廃熱回収装置。
【請求項2】
前記冷却水流量制限手段は、前記エンジンから排出される前記冷却水の温度を検出する温度検出部と、前記冷却水の流量を制御する制御弁と、前記温度検出部の温度に基づいて前記制御弁の開度を制御するコントローラと、を備え、
前記排気ガス流量制限手段は、前記廃熱回収器から排出される前記冷却水の温度に基づいて伸縮するサーモスタットと、前記サーモスタットの伸縮量に応じて前記廃熱回収器に流入する排気ガスの流量を制御するバルブと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の廃熱回収装置。
【請求項3】
前記冷却水流量制御手段は、前記冷却水の温度が第1の温度以上となった場合に、前記廃熱回収器への冷却水の流量を制限し、
前記排気ガス流量制御手段は、前記冷却水の温度が第2の温度以上となった場合に、前記廃熱回収器に流入する排気ガスの流量を制限し、
前記第2の温度は,先記第1の温度よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の廃熱回収装置。
【請求項4】
前記冷却水流量制限手段は、廃熱回収器を流れる冷却水流量を最も少なくする場合でも、廃熱回収器を流れる冷却水流量がゼロとならないように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の廃熱回収装置。
【請求項5】
前記排気ガス流量制御手段が、前記廃熱回収器に流入する排気ガスの流量をゼロとするよう設定される場合において、前記冷却水流量制限手段は、前記冷却水の温度が第2の温度を上回らないように、前記廃熱回収器を流れる冷却水の流量を確保することを特徴とする請求項4に記載の廃熱回収装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−76372(P2013−76372A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216771(P2011−216771)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】