説明

延伸フィルム

【課題】IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイで用いられる偏光板の軸ズレを補償して広視野角化を発現でき、しかもフィルムのもろさが改良された延伸フィルムを提供する。
【解決手段】特定構造を有するマレイミド残基単位40〜80モル%と特定構造を有するオレフィン残基単位60〜20モル%とからなるマレイミド・オレフィン共重合体(A)をフィルムの重量を基準として20重量%以上50重量%未満の範囲で含み、アクリロニトリル残基単位を共重合体(B)の重量基準で20〜50重量%及びスチレン残基単位を共重合体(B)の重量基準で80〜50重量%からなるアクリロニトリル・スチレン共重合体(B)を、フィルムの重量を基準として50重量%を超えて80重量%以下の範囲で含む少なくとも1方向に配向したフィルムであり、該フィルムが二つの特定式で表される屈折率特性を有する延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶表示装置の構成部材として用いられる、光学異方性が制御された延伸フィルムに関する。更に詳しくは、液晶表示装置の位相差板や広視野角補償機能付き偏光板支持体として用いるのに好適な光学異方性が制御された延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、基本的には液晶セルとその両側に配置された偏光板、偏光板と液晶セルとの間に配置された位相差板を構成部材として含んでいる。
近年、液晶表示装置は、表示品位の向上、特に、視野角特性を向上させるために、種々の改良が重ねられてきている。輝度が高く大画面ディスプレイに適したVAモード液晶ディスプレイは、電圧を印加して液晶分子を垂直配向させた黒表示状態において発生する、液晶分子自体の屈折率異方性に起因した斜め方向への光漏れを防止するため、偏光板と液晶セルとの間に、位相差板の配置が必要である。位相差板が用いられるのは、液晶素子が有する複屈折によって発生する位相差を小さくし、視野角特性を高めるためである。
【0003】
一方、黒表示の際に液晶分子を垂直配向させないIPSモード液晶ディスプレイや、ベント配向により液晶分子自身で自己の複屈折をキャンセルさせるOCBモード液晶ディスプレイは、液晶分子の複屈折による位相差が発生しにくいため、通常は位相差板を必要としない点が大きな特徴である。しかしながら、黒表示の際にクロスニコル状態になっているべき液晶セル上下の偏光板は、正対時に透過軸が直交するように配置しても、透過軸/吸収軸以外の方向から斜めに見た場合、両偏光板の透過軸は直交しないため、わずかな光漏れが発生する。近年では、液晶ディスプレイのさらなる視野角特性の向上が求められており、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイにおいても、視野角補償のための位相差板が適用されるようになってきている。
【0004】
IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイにおいて広い視野角範囲で補償できる位相差機能を得るために、いくつか具体的な位相差板が提案されている。例えば特許文献1には、位相差板の面内遅相軸方向の屈折率をn、面内におけるnと直交する方向の屈折率をn、位相差板厚み方向の屈折率をnとした際、0<(n−n)/(n−n)<1、すなわち、n<n<nである位相差板が開示されている。しかしながら、このような屈折率関係を発現するような、精密に制御された位相差特性を有する位相差板の製造は容易ではなく、樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸して前記樹脂フィルムの延伸方法と直交する方向の収縮力を付与させることが必要であった。また特許文献2には、位相差が190〜320nmの複屈折性を示す偏光子封止フィルムが開示されており、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメチルメタクリレート等の高分子が用いられているが、かかる特性のフィルムを得るためには、電界を印加して分子配向を制御しつつ硬化させ、そのフィルムを延伸処理するなどの特殊な製造方法が必要とする。
【0005】
一方、特許文献3にはマレイミド−オレフィン共重合体及びアクリロニトリル−スチレン共重合体を特定の配合比で配合した樹脂組成物を用いることによって、溶融押出キャスティングによる製膜方法であっても特定の位相差が発現し、光学異方性が適切に制御された延伸フィルムが得られることが開示されている。
また特許文献4には、屈折率特性としてNz=(n1−n1)/(n1−n1)で表される配向パラメータが0±0.05の範囲内である、負の複屈折率性を示す光学補償フィルムが開示されている。特許文献4によると、かかる屈折率特性を有する光学補償フィルムは、透過型液晶表示装置に用いる偏光板の軸ズレを補償して広視野角化することができ、具体的な材料としてマレイミド−オレフィン共重合体及びアクリロニトリル−スチレン共重合体を特定の配合比で配合した樹脂組成物を用いて得られること、かかる組成物として両共重合体を等量ずつ用いる具体例が開示されている。
【0006】
このように、位相差板として様々な屈折率特性を有するフィルムが提案されており、精密な屈折率特性を達成するために各種の樹脂材料及び製膜方法が提案されている中で、特許文献3、4はマレイミド−オレフィン共重合体及びアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる材料を提案している。しかしながら、両文献とも提案する屈折率特性を達成するために、マレイミド−オレフィン共重合体の比率を高め、マレイミド成分を多くする組成を提案するものである。しかしながらマレイミド−オレフィン共重合体の量比が増えるに従い、フィルム自体がもろくなる傾向にある。
そこで、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる液晶セル上下の偏光板の軸ズレを補償して広視野角化できる屈折率特性を有し、しかももろさが改良されたフィルムが求められているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平05−157911号公報
【特許文献2】特開平04−305602号公報
【特許文献3】国際公開第2005/100457号公報
【特許文献4】特開2006−267864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイで用いられる偏光板の軸ズレを補償して広視野角化を発現できる位相差機能を有するように光学異方性が制御され、しかもフィルムのもろさが改良された延伸フィルムを提供することにある。本発明の他の目的は、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに適した、偏光板の軸ズレを補償して広視野角化を発現できる位相差機能を有するように光学異方性が制御され、フィルムのもろさが改良されており、さらに高温環境で使用してもかかる位相差機能が維持された延伸フィルムを提供することにある。さらに本発明の他の目的は、かかる延伸フィルムからなる広視野角補償フィルムならびにかかる延伸フィルムを含む位相差板および広視野角補償機能付き偏光板支持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、マレイミド−オレフィン共重合体及びアクリロニトリル−スチレン共重合体からなる材料において、アクリロニトリル−スチレン共重合体の比率を高め、スチレンユニットの含有量を増やすことにより、その立体障害により分子鎖と垂直に近い状態でスチレンユニットが位置しやすくなるため、マレイミドユニットによって主としてフィルム3方向の屈折率を制御していた従来の延伸フィルムと同様、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに適した広い視野角を発現し得る位相差特性を有する延伸フィルムが得られ、しかも従来提案されていたフィルムよりももろさが改良されたフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、下記式(I)で表されるマレイミド残基単位(I)40〜80モル%と下記式(II)で表されるオレフィン残基単位(II)60〜20モル%とからなるマレイミド・オレフィン共重合体(A)をフィルムの重量を基準として20重量%以上50重量%未満の範囲で含み、
【化1】

(R1は1価の芳香族炭化水素基を示す)
【化2】

(R2及びR3は各々水素または炭素数1〜6のアルキル基を示す)
アクリロニトリル残基単位を共重合体(B)の重量基準で20〜50重量%及びスチレン残基単位を共重合体(B)の重量基準で80〜50重量%からなるアクリロニトリル・スチレン共重合体(B)を、フィルムの重量を基準として50重量%を超えて80重量%以下の範囲で含む少なくとも1方向に配向したフィルムであり、
該フィルムが下記式(1)及び(2)で表される屈折率特性
<n≦n または n<n≦n ・・・(1)
−0.3<{(n−n)/(n−n)}<0.3 ・・・(2)
(上式(1)(2)中、nは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
を有する延伸フィルムによって達成される。
【0011】
また本発明の延伸フィルムは、その好ましい態様として、マレイミド残基単位(I)がN−フェニル置換マレイミド残基であること、90℃、30分熱処理後の熱収縮率が縦方向、横方向ともに0%以上5.0%未満であること、広視野角補償フィルムとして用いられること、の少なくともいずれかを具備するものである。
【0012】
また本発明は、本発明の延伸フィルムを含む位相差板も包含し、本発明の延伸フィルムを含むIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用位相差板を好ましい態様として包含する。
さらに本発明は、本発明の延伸フィルムを含む広視野角補償機能付き偏光板支持体も包含し、本発明の延伸フィルムを含むIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用広視野角補償機能付き偏光板支持体を好ましい態様として包含するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明の延伸フィルムは、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる偏光板の軸ズレを補償して広視野角化を発現できる位相差特性を有することから、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイの広視野角補償フィルムとして好適であり、本発明の延伸フィルムを含む位相差板、広視野角補償機能付き偏光板支持体などを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
<フィルム材料>
本発明のフィルムは、特定のマレイミド−オレフィン共重合体(A)及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)とを以下の割合で含んでなる。
(マレイミド−オレフィン共重合体(A))
本発明のマレイミド−オレフィン共重合体(A)は、具体的には下記式(I)で表されるマレイミド残基単位(I)40〜80モル%と下記式(II)で表されるオレフィン残基単位(II)60〜20モル%とからなるマレイミド−オレフィン共重合体(A)である。
【0015】
【化3】

(R1は1価の芳香族炭化水素基を示す)
【0016】
【化4】

(R2及びR3は各々水素または炭素数1〜6のアルキル基を示す)
【0017】
マレイミド残基単位(I)及びオレフィン残基単位(II)のモル比は、マレイミド−オレフィン共重合体(A)を構成する全構成単位を基準としている。
かかる共重合体(A)は、例えば、マレイミド類とオレフィン類とのラジカル共重合反応により得ることができる。
上記式(I)で表されるマレイミド残基単位(I)を与える化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、N−トルイルマレイミド、N−キシリルマレイミド、N−ピリジルマレイミド、N−ピリミジニルマレイミド等のマレイミド窒素に結合する水素原子が1価の芳香族基で置換されたマレイミド類が例示される。これらのうち、モノマーの固有複屈折の点から、さらには耐熱性、機械特性および透明性の点から、特にN−フェニルマレイミドが好ましい。また、これら化合物は1種または2種以上組合せて用いることができる。
【0018】
上記式(I)で表されるマレイミドユニットは、マレイミド−オレフィン共重合体(A)の分子鎖に対して、実質的に分子鎖方向と垂直に位置することができ、分極率の大きなこれら置換基がこのような配置を採ることで、本発明に規定した屈折率特性を発現することが可能となる。
【0019】
上式(II)で表されるオレフィン残基単位(II)としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等のオレフィン類が例示でき、このうち耐熱性、機械特性および透明性の点から特にイソブテンが好ましい。また、これら化合物は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
マレイミド残基単位(I)の含有量は、共重合体(A)全体の40〜80モル%であり、耐熱性、屈折率特性および機械特性の点から45〜75モル%が好ましい。マレイミド残基単位(I)が上限を越える場合には得られるフィルムは非常に脆くなり、一方、下限に満たない場合は得られるフィルムの耐熱性が低下し、さらには所望する屈折率特性を得ることが困難となる。
またオレフィン残基単位(II)の含有量は、共重合体(A)全体の60〜20モル%であり、耐熱性、屈折率特性および機械特性の点から55〜25モル%が好ましい。オレフィン残基単位(II)が下限に満たない場合には得られるフィルムは非常に脆くなり、一方、上限を超える場合は得られるフィルムの耐熱性が低下し、さらには所望する屈折率特性を得ることが困難となる。
また共重合体(A)の数平均分子量は1×103以上5×106以下であることが好ましい。かかる数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求めることができる。共重合体の数平均分子量が下限に満たない場合、得られるフィルムが脆くなる傾向にあり、一方上限を超える場合、粘度が高すぎて溶融押出性が低下することがある。
【0021】
マレイミド−オレフィン共重合体(A)の重合は公知の重合法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法のいずれもが採用可能である。得られる組成物の透明性、色調の点から特に沈殿重合法が好ましい。
さらに、共重合体組成のコントロールや分子量の制御の点で、用いるモノマーを重合系に供給しながら反応させる方法を用いるのが好ましい。本発明の共重合体を製造する際、ラジカル重合開始剤、重合条件等としては特に限定されず、重合方法や、共重合する単量体の種類、使用比率等に応じて適宜設定すればよい。ラジカル重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤、例えば、過酸化物、アゾ開始剤等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明のマレイミド−オレフィン共重合体(A)は、フィルムの重量を基準として20重量%以上50重量%未満の範囲で含む必要がある。マレイミド−オレフィン共重合体(A)の含有量の下限は、好ましくは21重量%、さらに好ましくは22重量%以上である。またマレイミド−オレフィン共重合体(A)の含有量の上限は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下である。かかる共重合体(A)の含有量が下限に満たない場合、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる偏光板の軸ズレを補償するのに適した位相差特性を得ることができない。一方、かかる共重合体(A)の含有量が上限を超える場合、フィルムとした場合に靭性が失われ、フィルムが脆くなる。
【0023】
(アクリロニトリル−スチレン共重合体(B))
本発明のアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)は、アクリロニトリル残基単位の含有量が共重合体(B)の重量を基準として20〜50重量%であり、スチレン残基単位の含有量が共重合体(B)の重量を基準として80〜50重量%である。
かかる範囲を外れると、マレイミド−オレフィン共重合体(A)とアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)との相溶性が低下するため、得られるフィルムは不透明となり、また耐熱性や機械特性も低下することがある。アクリロニトリル残基単位の含有量の下限は、より好ましくは25重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。またアクリロニトリル残基単位の含有量の上限は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。一方、スチレン残基単位の含有量の下限は、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。またスチレン残基単位の含有量の上限は、より好ましくは75重量%以下、さらに好ましくは70重量%以下である。本発明の共重合体(B)のうち、スチレンの側鎖のベンゼン環が実質的に分子鎖方向と垂直に位置することから、上述の範囲内において、共重合体(B)中のスチレン残基単位の含有比率がより高いこと、さらにフィルム重量に対する共重合体(B)比率がより高いことにより、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる偏光板の軸ズレを補償するのに適した位相差特性と優れたフィルム靭性とを兼備することができる。
【0024】
本発明のアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)は、フィルムの重量を基準として50重量%を超えて80重量%以下の範囲で含む必要がある。アクリロニトリル−スチレン共重合体(B)の含有量の上限は、好ましくは79重量%以下、さらに好ましくは78重量%以下である。またアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)の含有量の下限は、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは65重量%以上である。かかる共重合体(B)の含有量が上限を超える場合、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる偏光板の軸ズレを補償するのに適した位相差特性を得ることができない。一方、かかる共重合体(B)の含有量が下限に満たない場合、フィルムとした場合に靭性が失われ、フィルムが脆くなる。
【0025】
アクリロニトリル−スチレン共重合体(B)の重合は公知の重合法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法のいずれもが採用可能である。
また共重合体(B)の数平均分子量は1×103以上5×106以下であることが好ましい。かかる数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求めることができる。共重合体の数平均分子量が下限に満たない場合、得られるフィルムが脆くなる傾向にあり、一方上限を超える場合、粘度が高すぎて溶融押出性が低下することがある。
【0026】
(その他添加剤)
本発明のフィルムの原料樹脂組成物には、本発明の趣旨を超えない範囲で、その他のポリマー、安定剤、紫外線吸収剤、加工助剤、難燃剤、帯電防止剤等を少量添加することができる。
【0027】
<屈折率特性>
本発明の延伸フィルムは、下記式(1)及び(2)で表される屈折率特性を満たす。
<n≦n または n<n≦n ・・・(1)
−0.3<{(n−n)/(n−n)}<0.3 ・・・(2)
(上式(1)(2)中、nは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
フィルムの3方向の屈折率n、n、nをそれぞれ上述の式(1)、(2)を満たす範囲とすることで、IPSモードやOPSモードの液晶ディスプレイに使用される偏光板の光学補償、すなわち、液晶セル上下の偏光板の透過軸が、正対時に透過軸が直交するように配置しても、透過軸/吸収軸以外の方向から斜めに見た場合に直交しないために発生するわずかな光漏れを補償することが可能となり、視野角を広げることができる。また、かかる屈折率特性を有する場合、IPSモードやOPSモードに使用される液晶は、液晶による軸ずれは殆どないものの、わずかに発生する軸ずれをも併せて補償することができる。
【0028】
また、{(n−n)/(n−n)}の屈折率関係のさらに好ましい範囲は、下記式(3)で表される範囲である。
−0.1<{(n−n)/(n−n)}<0.1 ・・・(3)
なお、式(1)で表される3方向の屈折率の関係を有するフィルムは、具体的には負の屈折率を有する樹脂組成物からなる、面内の遅相軸に垂直な方向(y方向)の屈折率の小さい一軸性フィルムであることを意味する。また式(2)はnとnとの屈折率差と、nとnとの屈折率差との関係を表しており、面内位相差の大きさに関する。
これらの位相差特性を得るためには、特定のマレイミド−オレフィン共重合体(A)及びアクリロニトリル−スチレン共重合体(B)とを含むフィルム材料を溶融押出キャスティングによりシート状物とし、フィルムを延伸する際に、Tg〜(Tg+40℃)の温度、5〜5000%/minの延伸速度で、一方向に1.05〜4.0倍の延伸倍率、かかる方向と垂直方向に1.0〜1.8倍の延伸倍率で延伸することによって得られ、縦/横方向のいずれかの延伸倍率を垂直方向より大きくすることで達成される。なお、縦方向とはフィルムの連続製膜方向を指し、長手方向、MD方向と称することがある。また横方向とはフィルムの連続製膜方向に直交する方向を指し、幅方向、TD方向と称することがある。なお、垂直方向は、上記のような延伸手段だけでなく、延伸倍率の説明で詳述するように収縮させる手段であってもよい。
【0029】
<フィルムの面内位相差>
本発明の延伸フィルムは、550nmにおける面内位相差が、50〜400nmであることが、優れた視野角特性を得るために好ましい。面内位相差のさらに好ましい値は、70〜350nmである。
【0030】
<耐熱寸法安定性>
本発明の延伸フィルムは、90℃、30分熱処理後の熱収縮率が縦方向、横方向ともに0%以上5.0%未満であることが好ましい。延伸フィルムの90℃、30分熱処理後の熱収縮率の上限は、好ましくは4.5%以下、より好ましくは4.0%以下である。延伸フィルムの熱収縮率は、かかる範囲内でより小さい方が好ましい。延伸フィルムの熱収縮率のより好ましい下限は1.0%以上、さらには1.5%以上である。熱収縮率が上限を超える場合、該フィルムを位相差板、あるいは広視野角補償機能付き偏光板支持体として他の光学部材と張り合わせる加工工程における加熱処理により、分子が緩んでフィルムが収縮し、位相差特性の安定性を損なうことがある。
かかる熱収縮率は、フィルム延伸後に熱弛緩処理を行うことによって達成される。本発明のフィルムは非晶性フィルムであるため、延伸による分子の残留歪みの解消は熱弛緩処理が効果的である。熱弛緩処理は、130℃前後の温度で1〜5%の熱弛緩率で行うことが好ましい。
【0031】
<光弾性係数>
本発明の延伸フィルムは、光弾性係数が20×10−12Pa−1未満であることが好ましい。光弾性係数が上述の範囲にある場合、応力に対する複屈折率変化が小さいことから、後工程で加えられる種々の応力履歴に起因する位相差の変化が極めて少なく、同一ディスプレイ領域中における位相差のばらつきを防止することができる。そのため、テレビのような大画面ディスプレイにおいても高品位の映像を与えることが可能となる。
かかる光弾性係数は、共重合体の分子主鎖内に二重結合を含まないことにより、発現されるものである。
【0032】
<波長分散性>
本発明の延伸フィルムのフィルム面内方向の最大位相差の波長分散特性は、550nmにおける最大位相差を1とした場合に、400nm、700nmの両方において、0.4〜1.7、好ましくは、0.6〜1.5の範囲にあることが、透過光への望まない着色などを防止する観点から、より好ましい。
【0033】
<フィルム厚み>
本発明における延伸フィルムの厚みは、0.5〜400μmであることが好ましく、より好ましくは5〜200μm、特に好ましくは10〜150μmである。フィルム厚みが上限を超える場合はディスプレイの軽量薄膜化、低コスト化の傾向に逆行するだけでなく、吸光、散乱などによる光線透過率の低下の原因ともなりうる。また、下限に満たない場合は、ハンドリング性が低下することがある。
【0034】
<フィルムの製造方法>
(溶融押出キャスティング)
本発明の延伸フィルムは、樹脂組成物を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸して得られる。
溶融押出には、従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した前述の樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
【0035】
冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−30)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
冷却ロールへのキャスティングの際に、溶融樹脂が冷却ロール上へ着地する位置近傍に金属ワイヤーを張り、電流を流すことで静電場を発生させ樹脂を帯電させて、冷却ロールの金属表面上への密着性を高めることも、フィルムの平面性を高める観点から有効である。その際、樹脂組成物中に、本発明の趣旨を超えない範囲で、電解質性物質を添加してもよい。
【0036】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸することにより、フィルムの位相差特性を発現させることが可能となる。本発明の延伸フィルムは、屈折率特性を発現する範囲であれば二軸延伸してもよい。
かかる延伸の方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、縦方向に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で加熱、延伸する具体的方法として、フィルム両端をクリップ把持するテンター式オーブンでクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
また幅方向に延伸する場合は、クリップ把持式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。さらに、縦、横の二方向に延伸する場合は、縦、横両方向を逐次に延伸しても、同時に延伸しても良い。
【0037】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(樹脂組成物のガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、未延伸原反に厚みのばらつきがある場合、薄い部分が延伸され易くなり過ぎ、延伸後には厚み斑がより誇張されてしまい、ひいては位相差のばらつきが大きくなってしまうことがある。
【0038】
(延伸倍率)
延伸倍率は、RMD>RTDまたはRTD>RMDであることが好ましい。RMDは縦延伸倍率、RTDは横延伸倍率を示す。これは、RMDとRTDとが等しくなく、どちらか一方の延伸倍率が他方の延伸倍率よりも大きいことを意味する。また、これは必ずしも二軸延伸のみを意味するものではなく、一方向に一軸延伸することにより、他方向が実質的に収縮し、収縮後のフィルム寸法が未延伸時のフィルム寸法に対して1未満となる場合をも包含する。
延伸倍率は、さらに好ましくは、|RMD/RTD|または|RTD/RMD|が、1.0を超え5.0以下の範囲である。
より具体的には、分子配向の主配向軸を形成させる方向の延伸倍率が1.05〜4.0倍の範囲であることが好ましく、更に好ましくは1.1〜2.8倍の範囲である。分子配向の主配向軸を形成させる方向の延伸倍率が小さすぎると所望の位相差特性が得られない場合があり、一方、該方向の延伸倍率が大きすぎると、フィルム面内方向および厚み方向それぞれの方向において所望の位相差特性を得られないことがある。
【0039】
また、分子配向の主配向軸に対し、垂直方向は、延伸しないか、積極的に収縮させるか、もしくは延伸する場合は1.0〜1.8倍の範囲の倍率で延伸することが好ましい。分子配向の主配向軸に対して垂直方向の延伸倍率が小さすぎると所望の位相差が得られない場合があり、一方大きすぎると、フィルム面内方向および厚み方向それぞれの方向において所望の位相差特性を得られないことがある。ここで、分子配向の主配向軸を形成させる方向は縦方向、横方向のいずれであってもよい。かかる延伸によって発現する光学特性上の遅相軸は、本発明の樹脂組成物を用いる場合、主配向軸と垂直な方向である。
(延伸速度)
延伸速度は5〜5000%/分であることが好ましい。
【0040】
(熱弛緩処理)
本発明の延伸フィルムは、加熱処理による位相差の安定性向上のため、延伸後のフィルムにさらに弛緩処理を施すことができる。この後加工は、フィルム延伸工程に引き続き行っても良いし、別工程にて行っても良い。
熱弛緩処理を行う場合、本発明のフィルムのガラス転移温度(Tg)は約125℃付近にあり、Tg〜(Tg+15℃)の温度で行うことが効果的である。熱弛緩処理の方法としては、延伸〜ロールに巻き取るまでの間において、i)延伸ゾーンを過ぎてからフィルムの両端部を切り離し、フィルムの供給速度に対して引き取り速度を減速させる方法、ii)2つの速度の異なる搬送ロールの間においてIRヒーターで加熱する方法、iii)加熱搬送ロール上にフィルムを搬送させ、加熱搬送ロール後の搬送ロールの速度を減速させる方法、iv)延伸後、熱風を吹き出すノズルの上にフィルムを搬送させながら、供給の速度よりも引き取りの速度を減速する方法が挙げられる。
【0041】
またフィルム延伸工程と別工程で弛緩処理を行う場合、v)製膜機で巻き取った後、フィルムを加熱させながら、フィルム供給側のロール速度より、巻き取り側のロール速度を減速させて弛緩処理を行う方法も挙げられる。この場合の加熱手段は、ロールを加熱する方法、加熱オーブンやIRヒーターを用いる方法などが挙げられる。
弛緩処理は、いずれの方法を用いても良く、i)の幅方向のようにフリー状態で弛緩させる場合を除き、供給側の速度に対して引き取り側の速度の減速率を1〜5%にして弛緩処理を行うことが好ましい。
【0042】
<用途>
本発明の延伸フィルムは、IPSモードやOPSモードの液晶ディスプレイに使用される偏光板の光学補償、すなわち、液晶セル上下の偏光板の透過軸が、正対時に透過軸が直交するように配置しても、透過軸/吸収軸以外の方向から斜めに見た場合に直交しないために発生するわずかな光漏れを補償することができるため、広視野角補償フィルムとして用いることができる。具体的には本発明の延伸フィルムは、位相差機能を有することから位相差板として用いることができ、例えばIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用位相差板として好適に用いることができる。また本発明の延伸フィルムは、偏光子支持基材としての偏光子保護性能と位相差機能とを兼ね備えることから、広視野角補償機能付き偏光板支持体として用いることができ、例えばIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用広視野角補償機能付き偏光板支持体として好適に用いることができる。
特に、本発明の延伸フィルムは、その原料樹脂の特徴から、PVAとの好適な接着性を付与するための加工がきわめて容易であり、位相差機能つき偏光板支持体としての使用に極めて適したものである。また延伸フィルムが偏光子保護性能と位相差機能とを兼ね備えることで、液晶表示装置用光学フィルム部材の複合化による減量化、製造工程簡略化が可能となる。
【0043】
本発明の延伸フィルム(X)を位相差フィルム又は偏光板支持体として用い、液晶表示装置に組み込む場合、延伸フィルムを液晶セル(LC)に接するように配置することが好ましい。液晶表示装置には、プリズムシート(PS)、拡散フィルム(DF)をさらに積層することが好ましい。本発明の延伸フィルムを用いて得られた液晶表示装置は、IPSモードおよびOCBモードの液晶ディスプレイとして広い視野角特性を発現することができる。液晶セルとしてはこれらの液晶表示装置に適したものを用いることが好ましい。下記構成中、Pは偏光子を示す。
液晶表示装置は、以下の構成のものが例示される。
・P/X/LC/X/P
・P/X/LC/X/P/PS/DF
【0044】
また、本発明の延伸フィルムは、広視野角補償フィルムとして用いる場合、さらに別の光学異方性フィルム(B)を組合せて使用することで、液晶表示装置の視野角特性改良をさらに改良することができる。かかる光学異方性フィルム(B)は、液晶表示装置の更なる視野角特性改良に寄与しうるものであれば限定されないが、特に好ましいものの一つとして、下記式(4)
≦n<n、または、n≦n<n …(4)
(上式(4)中、nは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
を満たすフィルムを例示することができる。かかる光学異方性フィルム(B)は、本発明の延伸フィルムに直接積層して使用するものであっても、本発明の延伸フィルムを積層させる偏光板とは異なる方の偏光板に積層して使用するものであっても良い。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0046】
(1)樹脂組成物の同定
得られた樹脂組成物ペレットを用い、溶媒として重クロロホルムを使用して、H、13C−NMR測定(日本電子製 装置名 JNM−alpha600)、およびGC/MS測定(横河アナリティカル製 装置名 HP5973)によって、樹脂組成物の構成成分の同定および定量を行った。
【0047】
(2)フィルム3方向の550nmにおける屈折率バランス
得られたフィルムを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)を用い、550nm単色光の入射角度を変化させた透過光測定に供し、フィルムを固定した試料台を、光軸を中心に光軸に対して垂直な面内にて回転させて、面内方向の最大位相差が得られる回転角にて固定し、続いて、試料台を面内方向の最大位相差を与える配向主軸(遅相軸)と平行で、かつ光軸を通る直線を中心に、0゜(光軸に対して垂直な角度)〜50゜の範囲で回転させ(該角度を「あおり角」とする)、透過光を測定する。得られた位相差データを、あおり角に対してプロットし、下記式(5)に示すあおり角の関数でフィッティングすることで、遅相軸方向、遅相軸に垂直な方向、および厚み方向のそれぞれの屈折率を求めた。
【0048】
【数1】

(式中、d:フィルム厚み、α:あおり角、
R(α):あおり角=αにおける位相差測定値、
Δn(α):あおり角=αにおける複屈折、
:550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、
:550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、
:550nmにおける厚み方向の屈折率、をそれぞれ示す。)
なお、上記方法において直接測定されるのは、位相差(すなわち複屈折)であり、屈折率絶対値の導出には、下記の方法で導出した平均屈折率値を用いた。
(フィルム平均屈折率(nave))
波長473nm、633nm、830nmの3種のレーザー光にて、屈折率計を用いて測定された平均屈折率を、下記のCauchyの屈折率波長分散フィッティング式
n(λ)=a/λ+b/λ+c
(ここで、n(λ):波長λ(nm)における平均屈折率、a、b、c:定数、をそれぞれ示す。)
に代入し、得られた3つの式からa、b、cの定数を求め、しかる後に550nmにおける平均屈折率(n(550))を算出した。
得られた屈折率から、下記式(6)にしたがって、3者のバランス評価パラメーターNzを導出した。
Nz=(n−n)/(n−n) ・・・(6)
【0049】
(3)フィルム厚み
マイクロメーターを用いて得られたフィルムの厚みを測定した。アンリツ製K-402B型試料台にフィルムを載せて触針を押し当て、該触針の変位データをアンリツ製KG3001型インジケーターにて厚み(μm)データとした。
【0050】
(4)熱収縮率
温度90℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L0)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(7)から縦方向および横方向の熱収縮率をそれぞれ求めた。
熱収縮率(%)=(ΔL/L0)×100 ・・・(7)
【0051】
(5)液晶表示装置の視野角特性
(偏光板の作製)
得られたフィルム(1)、および、市販のTACフィルム(富士写真フィルム製、商品名フジタック、厚み80μm)(R1)、さらに、ポリビニルアルコール偏光膜を以下の手順で貼合せ、偏光板を作製した。
ポリビニルアルコール偏光膜は、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部、ヨウ化カリウム2部、ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸することにより得た。
この偏光膜に上述の2種のフィルムを貼合せ、偏光板を得る手順は、下記のとおりである。
(i)30cm×18cmの長方形の形状に切り取った、上述のフィルム(1)およびフィルム(R1)のそれぞれの片側の表面に、コロナ放電処理(処理電力=800W(200V、4A)、電極〜フィルム間距離=1mm、処理速度=12m/分)を施す。
(ii)フィルム(1)およびフィルム(R1)と同じサイズに調整した偏光膜(偏光子)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬する。
(iii)偏光膜(偏光子)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、偏光子を、フィルム(1)およびフィルム(R1)が挟みこむ状態となるよう、フィルム(1)のコロナ処理面上にのせ、更にフィルム(R1)のコロナ処理面と接着剤とが接する様に積層し配置する。その際、フィルム(1)の遅相軸方向と偏光子の延伸方向は直交するようにする。
(iv)ハンドローラで、偏光膜、フィルム(1)およびフィルム(R1)からなる積層体の端部から過剰の接着剤および気泡を取り除き貼合せる。ハンドローラは、20〜30N/cmの圧力をかけて、ローラスピードは約2m/分とした。
(v)80℃の乾燥器中に得られた試料を2分間放置し、偏光板(PF1)を作製した。
(vi)得られた偏光板(PF1)のフィルム(1)の面に、市販の粘着シート(日東電工(株)製、透明両面接着テープCS9621)を貼合せた。その上に、市販の環状ポリオレフィンフィルム(日本ゼオン(株)製、商品名;ゼオノアフィルム)を一軸延伸して得られた光学異方性フィルム(R2)を、その遅相軸がフィルム(1)の遅相軸と平行になるように貼合し、偏光板(PF2)を作製した。
光学異方性フィルム(R2)の屈折率特性は、下記のとおりである。
=1.54020
=1.53675
=1.53675
(nは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
これらの屈折率は、測定方法(2)に準じて測定した。
【0052】
(液晶表示装置の作製)
次いで、偏光板(PF1またはPF2)を液晶セルの片面に、液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し、偏光板のフィルム(1)と液晶セルとが接するように貼合し、液晶セルの反対側の面には、市販の偏光板を、その吸収軸が偏光板(PF1またはPF2)の吸収軸と直交するように貼合し、液晶表示装置を作製した。液晶セルは、市販のIPSモードLCDモニターに貼合されていた光学補償フィルムおよび偏光板を剥がしたものを使用した。
【0053】
(視野角特性の評価)
こうして得られた液晶表示装置について、ELDIM社製EZ−contrastにより視野角特性を測定した。得られた視野角特性データから、下記に従って評価した。
○: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに60°以上
×: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに60°未満
【0054】
(6)熱処理後の液晶表示装置の視野角特性
(5)の方法によって得られた偏光板(PF1またはPF2)を90℃×30分熱処理後、測定方法(5)に準じて熱処理後の液晶表示装置の視野角特性を求めた。
【0055】
(7)フィルム靭性
延伸方向が短軸方向になるように20mm×3mmサイズにカットしたフィルムを用い、図1に示すようにノギスに挟んでノギスの間隔を狭めていき、フィルムが割れた時の間隔を測定して、以下の基準で評価した。割れた時の間隔が小さい方がフィルム靭性に優れている。
○: ノギス間隔を8mmまで狭めてもフィルムに割れが発生しない。
×: ノギス間隔を8mmまで狭める迄にフィルムに割れが発生する。
【0056】
[実施例1]
撹拌機、窒素導入管、温度計および脱気管の付いたオートクレーブに、N−フェニルマレイミド 17kg、t−ブチルパーオキシネオデカノエート8gおよびトルエンとメタノールの混合溶媒(1:1 重量比)150lを仕込み、窒素で数回パージした後、イソブテン50lを仕込み、60℃で6時間反応を行った。得られた粒子を遠心分離後乾燥した。得られたポリマー(分子量(Mn):95000)中のマレイミド単位は70モル%、また、イソブテン単位は30モル%であった。
得られたN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体25重量%と、アクリロニトリル含量55モル%(共重合体(B)の重量を基準として38.4重量%)のアクリロニトリル・スチレン共重合体75重量%とを振り混ぜ、2軸押出機を用い、窒素下、混練押出しを行い、ペレット(I)とした。
得られたペレット(I)を110℃で10時間乾燥後、押出機に供給し、溶融温度295℃で溶融後フィルターで濾過し、単層ダイから押出した。
この溶融物を表面温度を樹脂Tgより低くした回転冷却ドラム上に押出し、全厚み95μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、入口と出口にニップロールを備えた浮上搬送タイプの延伸オーブンに供給し、140℃にて縦方向に150%/分の延伸速度で1.4倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差を調整し、弛緩率3%で熱弛緩処理を行った。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様にして、全厚み113μmの未延伸フィルムを得、延伸倍率を2.0倍に変更した以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差を調整し、弛緩率3%で熱弛緩処理を行った。
【0058】
[実施例3]
実施例1と同様にして、全厚み95μmの未延伸フィルムを得、115℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱して縦方向に200%/分の延伸速度で1.4倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差を調整し、弛緩率3%で熱弛緩処理を行った。
【0059】
[実施例4]
実施例3と同様にして、全厚み113μmの未延伸フィルムを得、延伸倍率を2.0倍に変更した以外は実施例3と同様の操作を繰り返し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差を調整し、弛緩率3%で熱弛緩処理を行った。
【0060】
[実施例5]
実施例1と同様にして、全厚み95μmの未延伸フィルムを得、同時二軸テンターに供給し、140℃にて横方向に150%/分の延伸速度で1.5倍に延伸しつつ、同時に縦方向には20%の収縮をさせ、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差はつけずに、横方向をフリーな状態にして熱弛緩処理を行った。
【0061】
[実施例6]
実施例5と同様にして、全厚み113μmの未延伸フィルムを得、横方向に2.0倍に延伸しつつ、同時に縦方向には30%の収縮をさせる以外は実施例5と同様の操作を繰返し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差はつけずに、横方向をフリーな状態にして熱弛緩処理を行った。
【0062】
[実施例7]
原料として、ペレット(I)の代わりに、実施例1と同様の方法で得られたN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体40重量%(メチルマレイミド単位:イソブテン単位=60モル%:40モル%)と、アクリロニトリル含量45モル%(共重合体(B)の重量を基準として29.4重量%)のアクリロニトリル・スチレン共重合体60重量%とを振り混ぜ、2軸押出機を用い、窒素下、混練押出しを行い得られたペレット(II)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、全厚み95μmの未延伸フィルムを得、縦方向に150%/分の延伸速度で1.4倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。延伸フィルムを製膜機で巻き取った後、改めて弛緩用オーブン中でフィルムを130℃で加熱させながら、縦方向のロール速度差を調整し、弛緩率3%で熱弛緩処理を行った。
【0063】
[実施例8]
熱弛緩処理を行わない以外は実施例1と同様の操作を繰り返した。
【0064】
[比較例1]
原料として、ペレット(I)の代わりに、実施例1と同様の方法で得られたN−メチルマレイミド・イソブテン共重合体65重量%(メチルマレイミド単位:イソブテン単位=70モル%:30モル%)と、アクリロニトリル含量25モル%(共重合体(B)の重量を基準として14.5重量%)のアクリロニトリル・スチレン共重合体35重量%とを振り混ぜ、2軸押出機を用い、窒素下、混練押出しを行い得られたペレット(III)を用いた。実施例1の方法に準じて全厚み113μmの未延伸フィルムを得、縦方向に150%/分の延伸速度で2.0倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。
【0065】
[比較例2]
実施例1と同様にして、全厚み160μmの未延伸フィルムを得、同時二軸テンターに供給し、140℃にて縦・横方向に150%/分の延伸速度で両方向同時に1.4倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。
【0066】
[比較例3]
本実施例のフィルムの代わりに市販のTACフィルム(富士写真フィルム製、フジタック、厚み80μm)を用いた。
【0067】
[比較例4]
原料として、ペレット(I)の代わりに、N−フェニルマレイミドの仕込み量0.42モル、イソブテンの仕込み量4.05モルに変更し、実施例1と同様の方法で得られたN−フェニルマレイミド・イソブテン共重合体50重量%と、アクリロニトリル含量24.5重量%(共重合体(B)の重量基準)のアクリロニトリル・スチレン共重合体50重量%とを振り混ぜ、2軸押出機を用い、窒素下、混練押出しを行い、ペレット(IV)とした。
得られたペレット(IV)を110℃で10時間乾燥後、押出機に供給し、溶融温度295℃で溶融後フィルターで濾過し、単層ダイから押出した。
この溶融物を表面温度を樹脂Tgより低くした回転冷却ドラム上に押出し、全厚み113μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、入口と出口にニップロールを備えた浮上搬送タイプの延伸オーブンに供給し、140℃にて縦方向に150%/分の延伸速度で2.0倍に延伸し、80μm厚みの延伸フィルムを得た。なお、熱弛緩処理は行わなかった。本比較例は、共重合体(A)の配合比が多く、フィルム靭性が十分ではなかった。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の延伸フィルムは、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる偏光板の軸ズレを補償して広視野角化を発現できる位相差特性を有することから、IPSモードやOCBモードの液晶ディスプレイに用いられる広視野角補償フィルムとして好適であり、本発明の延伸フィルムを含む位相差板、広視野角補償機能付き偏光板支持体などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】フィルム靭性に関する測定方法(7)の概略図。
【符号の説明】
【0071】
1 フィルム
2 ノギス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるマレイミド残基単位(I)40〜80モル%と下記式(II)で表されるオレフィン残基単位(II)60〜20モル%とからなるマレイミド・オレフィン共重合体(A)をフィルムの重量を基準として20重量%以上50重量%未満の範囲で含み、
【化1】

(R1は1価の芳香族炭化水素基を示す)
【化2】

(R2及びR3は各々水素または炭素数1〜6のアルキル基を示す)
アクリロニトリル残基単位を共重合体(B)の重量基準で20〜50重量%及びスチレン残基単位を共重合体(B)の重量基準で80〜50重量%からなるアクリロニトリル・スチレン共重合体(B)を、フィルムの重量を基準として50重量%を超えて80重量%以下の範囲で含む少なくとも1方向に配向したフィルムであり、
該フィルムが下記式(1)及び(2)で表される屈折率特性
<n≦n または n<n≦n ・・・(1)
−0.3<{(n−n)/(n−n)}<0.3 ・・・(2)
(上式(1)(2)中、nは550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率、nは550nmにおける面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率、nは550nmにおける厚み方向の屈折率をそれぞれ表す)
を有することを特徴とする延伸フィルム。
【請求項2】
マレイミド残基単位(I)がN−フェニル置換マレイミド残基である請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
90℃、30分熱処理後の熱収縮率が縦方向、横方向ともに0%以上5.0%未満である請求項1または2に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の延伸フィルムからなる広視野角補償フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムを含む位相差板。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムを含むIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用位相差板。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムを含む広視野角補償機能付き偏光板支持体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルムを含むIPSモードまたはOCBモードのいずれかの液晶ディスプレイ用広視野角補償機能付き偏光板支持体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−247933(P2008−247933A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87111(P2007−87111)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】