説明

建物の制震構造

【課題】 軸組フレームの剛性に影響を受けることなく、加振時の変位を粘弾性ダンパーへ効率良く伝えて効果的な制震性能を得る。
【解決手段】 粘弾性ダンパー9と変位拡大機構10とを有する制震装置8を、軸組フレーム1内の下方に配置して、固定プレート13を下側の梁材3に固定する一方、軸組フレーム1内に、上端が軸組フレーム1に固定されて中央部で交差する一対のブレース5,6を設けて、そのブレース5,6の下端を揺動リンク18,18の外側端部に夫々連結した。揺動リンク18,18の内側端部は、連結リンク19を介して可動プレート14と連結されていることから、水平方向の外力が作用すると、引っ張り側のブレースによって当該側の揺動リンク18が回転し、連結リンク19を介して可動プレート14,14を外側へ引っ張り、粘弾性体を剪断変形させて制震作用を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建物に、地震により発生する振動の減衰を図るために設けられる制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の制震構造としては、例えば軽量鉄骨住宅の柱と梁とを形成する鉄骨軸組フレーム内に、形鋼等のブレース或いは内フレームを設け、そのブレースと軸組フレームの仕口部との間や、内フレームと軸組フレームの柱や梁との間に、軸組フレームのフレーム面方向と平行な固定プレートと、その固定プレートと対向して平行に配置される可動プレートと、両プレート間でその前後面が夫々対向するプレートに溶着等によって固定される高分子系の粘弾性体とからなる粘弾性ダンパーを設ける制震装置の構成が知られている。すなわち、軸組フレームの変形に伴って粘弾性ダンパーを塑性変形させることで、地震によるエネルギーを粘性減衰エネルギーとして吸収し、制震効果を得ようとするものである。
また、ブレース等に形鋼等の鋼材を使用せず、例えば特許文献1に開示の如く、軸組フレームのブレースとなるワイヤを、軸組フレームの隅角部に設けられたローラに架け渡して中央でクロスさせ、端部を反対側の隅角部に夫々接合する一方、ローラ側の梁とワイヤとの間に粘弾性ダンパーを設けて、加振時にはワイヤと梁との間のズレに起因する粘弾性ダンパーの塑性変形によって減衰性能を発揮させるようにした制震装置の発明も知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−229145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸組フレームと粘弾性ダンパーとの結合に形鋼等の鋼材を用いた場合、制震装置よりも軸組フレームの剛性の方が低いと、粘弾性ダンパーに変形が生じる前に軸組フレームや内フレームに座屈等の変形が生じてしまい、粘弾性体による制震性能が充分に発揮されない場合がある。従って、制震効果を高めるために軸組フレームの剛性を上げる必要が生じ、コストアップに繋がる。
一方、特許文献1のワイヤを利用したものでは、制震装置自体に剛性がないため、軽量鉄骨住宅には不向きである上、引張力によってワイヤに伸びが生じると、この伸びがロスとなって粘弾性ダンパーに変位がダイレクトに伝わらず、やはり制震性能の信頼性に欠けてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、軸組フレームの剛性に影響を受けることなく、加振時の変位を粘弾性ダンパーへ効率良く伝えて効果的な制震性能を発揮できる制震構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、粘弾性ダンパーを、軸組フレーム内の上下何れか一方側へ配置して、固定プレートを当該側の梁の略中央部へ固定する一方、粘弾性ダンパーの配置側と反対側での柱と梁との仕口部に、略同じ長さの一対のブレースの一端を夫々固定して互いの中間部位で交差させ、両ブレースの他端を可動プレートに、可動プレートを中心とした左右対称となるように夫々連結したことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、より好適な制震性能を得るために、ブレースと可動プレートとを、ブレースの変位を可動プレートへ拡大して伝達可能な変位拡大機構を介して連結したものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の目的に加えて、変位拡大機構を簡単に構成するために、変位拡大機構を、可動プレートと平行な面内で両端が揺動可能に支持され、一端がブレースの他端に、他端が可動プレートに夫々回転可能に連結されるリンク部材としたものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、軸組フレームへの加振時には、ブレースに加わる引張力によって可動プレートが動作するため、当該引張力が粘弾性体にロスなくダイレクトに伝わる。よって、軸組フレームの剛性に影響を受けることなく効果的な制震性能を発揮することができる。また、軸組フレームの剛性を上げる必要がないため、制震構造の採用に伴うコストアップは最小限に抑えられる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、引張力を増幅して粘弾性体に伝える変位拡大が容易に行え、より好適な制震性能が得られる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、変位拡大機構が簡単に構成可能となると共に、リンク部材に対するブレースと可動プレートとの連結位置の設定により、変位拡大量が容易に設定可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の制震構造を適用した軸組フレームの一例を示す正面図で、ここでは軽量形鋼を用いた鉄骨系プレハブ構造を例示している。軸組フレーム1は、単一の形鋼からなる左右一対の柱2,2と、柱2,2の上下端部間に架設される梁材3,3とからなり、柱2,2の上下端が胴差等の横架材Bと固定されている。但し、一階の場合は柱2,2の下端は基礎に直接固定されることになる。4は、柱2,2の略中間部位間に架設された補強用(横座屈防止用)の中桟である。
【0009】
この軸組フレーム1において、上側の柱2と梁材3との仕口部には、長尺の平鋼材からなる略同じ長さの一対のブレース5,6の上端が、ガセットプレート7,7を介して図示しないボルト(溶接等でも可)で夫々接合されている。このブレース5,6は、軸組フレーム1内の略中央部で交差して、下側の梁材3上に設けられた制震装置8に連結されている。
制震装置8は、粘弾性ダンパー9と、その粘弾性ダンパー9をブレース5,6と夫々連結させる左右対称の変位拡大機構10,10とを備える。まず、粘弾性ダンパー9は、図2にも示すように、梁材3の上面中央に溶接された断面逆T字状の連結材11に、軸組フレーム1のフレーム面方向と平行となるようにボルト12で固着された矩形状の固定プレート13と、その固定プレート13を前後から挟む格好で平行に配置され、固定プレート13よりも左右幅が広い可動プレート14,14と、固定プレート13と可動プレート14,14との間に介在された一対の粘弾性体15,15とからなる。粘弾性体15は、ゴム系、アスファルト系、アクリル系、スチレン系等の高分子化合物を材料としたシート体で、両面が固定プレート13と可動プレート14との対向面に夫々溶着される。
【0010】
一方、変位拡大機構10は、粘弾性ダンパー9の外側で下側の梁材3上に立設された三角形状の支持プレート16と、その支持プレート16の先端に支軸17によって中央の頂点部で回転可能に軸着されるリンク部材としての三角形状の揺動リンク18と、揺動リンク18と可動プレート14とを連結する連結リンク19とから形成されて、ブレース5,6の下端は、揺動リンク18,18における外側の頂点部に夫々回転可能に連結されている。また、連結リンク19は、その外側端部が揺動リンク18における内側の頂点部に回転可能に連結されて、連結リンク19の内側端部は、可動プレート14,14を前後に貫通する連結軸20によって両可動プレート14,14間で回転可能に軸着されている。
【0011】
以上の如く構成された制震構造においては、地震等によって軸組フレーム1に水平方向の外力が正逆で反復して作用すると、軸組フレーム1の上側が左右方向へ傾くように変形し、ブレース5,6には引張力と圧縮力とが交互に作用する。すると、引っ張り側のブレースによって、当該側の揺動リンク18が支軸17を中心に回転(ブレース5側だと右回転、ブレース6側だと左回転)し、連結リンク19を介して可動プレート14,14を外側へ引っ張る。よって、固定プレート13と可動プレート14,14との間の粘弾性体15,15に水平方向の剪断力が加わり、粘弾性体15,15が変形する。この剪断変形により、固定プレート13と可動プレート14との間に抵抗力が発生し、減衰力となって制震作用を生じさせることになる。このとき、他方の揺動リンク18は、ブレースの圧縮によって引っ張り側と同じ方向へ回転し、当該側の連結リンク19と共に可動プレート14,14の移動に追従する。
【0012】
このように、上記形態の制震構造によれば、粘弾性ダンパー9を、軸組フレーム1内の下方側へ配置して、固定プレート13を当該側の梁材3の中央部へ固定する一方、粘弾性ダンパー9の配置側と反対側での柱2と梁材3との仕口部に、一対のブレース5,6の上端を夫々固定した互いの中間部位で交差させ、両ブレース5,6の下端を、変位拡大機構10を介して可動プレート14,14に左右対称となるように連結したことで、軸組フレーム1への加振時には、ブレース5,6に加わる引張力によって可動プレート14が動作するため、当該引張力が粘弾性体15にロスなくダイレクトに伝わる。よって、軸組フレーム1の剛性に影響を受けることなく効果的な制震性能を発揮することができる。また、軸組フレーム1の剛性を上げる必要がないため、制震構造の採用に伴うコストアップは最小限に抑えられる。
【0013】
また、ここでは、ブレース5,6と可動プレート14とを、ブレース5,6の変位を可動プレート14へ拡大して伝達可能な変位拡大機構10を介して連結しているため、より好適な制震性能が得られる。
特に、変位拡大機構10を、可動プレート14と平行な面内で左右両端が揺動可能に支持され、一端がブレース5,6の他端に、他端が可動プレート14に夫々回転可能に連結される揺動リンク18としたことで、変位拡大機構10が簡単に構成可能となると共に、支軸17からブレース5,6の連結位置までの距離と、支軸17から連結リンク19の連結位置までの距離との設定により、変位拡大量が容易に設定可能となる。
【0014】
なお、変位拡大機構の具体的な構造は、上記形態に限定するものではなく、先述したような各連結位置間の距離を任意に変更できるのに加えて、3つの連結位置を直線状に配置したり、逆三角形に設定したりする設計変更が可能である。また、リンク部材の外形を円盤状にして剛性を高くしても良い。
さらに、連結リンクを省略して揺動リンクを直接可動プレートへ連結したり、支持プレートを柱側に固定したりしても差し支えない。勿論リンク部材の数を増やして変位拡大機構を形成することも可能である。
【0015】
一方、本発明の制震構造においては、図4に示すような形態も採用可能である。この軸組フレーム1に設けられる制震装置8aでは、図1で説明した変位拡大機構を省略して、粘弾性ダンパー21にブレース5,6を直接連結している。なお、図1と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
ここでの粘弾性ダンパー21は、図5,6にも示すように、下側の梁材3に連結材22を介して固定される固定プレート23に、粘弾性体25,25を介して前後に可動プレート24,24が平行に配置される点では図1の構造と同じであるが、可動プレート24,24が、中央のボルト26によってボルト26を中心に揺動可能に固定プレート23へ軸着されている点で異なる。この可動プレート24,24の両端上方位置に、夫々中央で交差したブレース5,6の下端が、両可動プレート24,24を貫通する連結軸27,27によって左右対称位置で回転可能に軸着されたものである。
【0016】
よって、この場合も、軸組フレーム1に水平方向の外力が作用して軸組フレーム1が変形し、ブレース5,6に引張力と圧縮力とが交互に作用すると、引張側のブレースによって可動プレート24,24の当該端部が上方へ引っ張られる一方、圧縮側のブレースによって可動プレート24,24の反対側の端部が下方へ押されることで、可動プレート24,24がボルト26を中心に回転し、粘弾性体25,25を当該回転方向で剪断変形させて制震作用を生じさせる。
従って、この制震構造においても、加振時にブレース5,6に加わる引張力が粘弾性体25,25にロスなくダイレクトに伝わる。よって、軸組フレーム1の剛性に影響を受けることなく効果的な制震性能を発揮することができると共に、制震装置の採用に伴うコストも最小限となる。特にここでは、変位拡大機構を省略してブレース5,6を直接可動プレート24,24に連結しているので、部品点数が少なくなって構成が簡略化し、図1の構造に比べてよりコスト面で有利となる。
【0017】
以下、上記各例に共通した変更例を説明する。上記各例ではクロスさせた一対のブレースの上端を軸組フレーム内で接合し、下端を粘弾性ダンパー側に連結する構造としているが、これと逆に、上側の梁材に粘弾性ダンパーを設けてブレースの上端を可動プレートに連結し、下端を軸組フレーム内で固定する構造としても差し支えない。また、軸組フレームの壁厚方向にスペースがあれば、このような一対のブレースと粘弾性ダンパーとを上下逆にして一対配置することも可能である。
さらに、粘弾性ダンパーは、固定プレートとその前後の可動プレートとの間に粘弾性体を介在させる形態としているが、可動プレートを一枚にして固定プレートとの間に1つの粘弾性体を介在させても良い。逆に固定プレートを複数にして同じく複数の可動プレートと交互に配置し、各固定プレートと可動プレートの間に粘弾性体を介在させて、複数の可動プレートを先述のようにブレースと連結して一度に水平移動又は回転させることで減衰作用を得ることも可能である。
【0018】
その他、ブレース自体の構成も、平鋼に限らず、丸鋼や筒体であっても良いし、複数の鋼材から形成されるものであっても良い。勿論軸組フレームも、中桟を省略したり、梁材を省略してブレースや粘弾性ダンパーを胴差等の横架材に直接接合したりする設計変更は可能である。また、本発明は、上記各例のような軽量鉄骨構造に用いるのが最適であるが、これに限定するものでなく、鉄骨構造等の他の構造にも採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】軸組フレームの正面図である。
【図2】粘弾性ダンパーの説明図である。
【図3】変位拡大機構を下方から見た説明図である。
【図4】軸組フレームの変更例の正面図である。
【図5】粘弾性ダンパーの説明図である。
【図6】粘弾性ダンパーとブレースとの連結部分を下方から見た説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1‥軸組フレーム、2‥柱、3‥梁材、5,6‥ブレース、8,8a‥制震装置、9,21‥粘弾性ダンパー、10‥変位拡大機構、13,23‥固定プレート、14,24‥可動プレート、15,25‥粘弾性体、16‥支持プレート、17‥支軸、18‥揺動リンク、19‥連結リンク、20,27‥連結軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁とから構成される軸組フレーム内に、その軸組フレームのフレーム面方向と平行な固定プレートと、その固定プレートと対向して平行に配置される可動プレートと、前記両プレート間にあって前記両プレートとの対向面が夫々対向するプレートに固定される粘弾性体とからなる粘弾性ダンパーを設けた建物の制震構造であって、
前記粘弾性ダンパーを、前記軸組フレーム内の上下何れか一方側へ配置して、前記固定プレートを当該側の梁の略中央部へ固定する一方、前記粘弾性ダンパーの配置側と反対側での前記柱と梁との仕口部に、略同じ長さの一対のブレースの一端を夫々固定して互いの中間部位で交差させ、前記両ブレースの他端を前記可動プレートに、前記可動プレートを中心とした左右対称となるように夫々連結したことを特徴とする建物の制震構造。
【請求項2】
ブレースと可動プレートとを、前記ブレースの変位を前記可動プレートへ拡大して伝達可能な変位拡大機構を介して連結した請求項1に記載の建物の制震構造。
【請求項3】
変位拡大機構が、可動プレートと平行な面内で両端が揺動可能に支持され、一端がブレースの他端に、他端が前記可動プレートに夫々回転可能に連結されるリンク部材である請求項2に記載の建物の制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−152722(P2006−152722A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347048(P2004−347048)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】