説明

建築物の外断熱工法及び支持金具

【課題】発泡樹脂ボード系の断熱材を使用した建築物の外断熱工法及び支持金具を提供する。
【解決手段】躯体壁(1)の室外側の壁面に対して、該躯体壁から突出する支持ボルト(2)を貫通させた状態で発泡樹脂ボード系の断熱材(3)を敷設した後、支持金具(4)の脚板部(10)を断熱材(3)に刺突させることにより躯体壁(1)に当接し、保持板部(9)の通孔(8)を挿通する支持ボルトの挿通端部(2b)にナット(5)を締着することにより該支持金具(4)を固定し、支持金具(4)の連結板部(11)に胴縁(6)を固着すると共に、該胴縁(6)に外装材(7)を取付ける構成である。前記支持金具(4)は、脚板部(10)の脚長(h)を断熱材(3)の厚さ(t)と等しくなるように形成しており、前記支持ボルト(4)の挿通端部(2b)にナット(5)を締着した状態で、保持板部(9)が断熱材(3)に食い込むことを阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体壁の室外側において該躯体壁と外装材の間に断熱材を介装した建築物の外断熱構造を実施するための外断熱工法と、当該外断熱工法に使用するための支持金具に関する。
【背景技術】
【0002】
我国における建築物の断熱構造は、躯体壁の室内側に断熱材を敷設した「内断熱構造」が一般的であるが、躯体壁が外気温の影響を受けるため、室内の空調効率が悪い。特に、冬季には低外気温により躯体壁自体が低温になるので、室内との温度差により躯体壁の室内側が結露し、カビやダニの発生原因となるばかりか、躯体壁の耐久性を低下するという問題がある。
【0003】
そこで、近年、躯体壁の室外側において該躯体壁と外装材の間に断熱材を介装した「外断熱構造」が提案されている。この外断熱構造によれば、躯体壁自体が外気温に対して断熱されているので、室内の空調効率が高く、しかも、冬季に躯体壁の結露が防止され、外気温の変化による躯体壁の収縮膨張の繰り返しによるクラックの発生からも解放され、耐久性を大幅に向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4087418号公報
【特許文献2】特開2009−68188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人が提案した前記特許文献2に開示した「外断熱構造」の具体的技術(以下、「従来技術」という。)は、躯体壁からほぼ垂直に突出する支持ボルトを該躯体壁に固着する工程と、該躯体壁に沿って断熱材を配設し、該断熱材に前記支持ボルトを貫通させることにより、該断熱材を躯体壁の壁面に敷設する工程と、断熱材の室外側に位置して補強金具の脚部を断熱材に向けると共に該補強金具の挿通孔を支持ボルトの延長線上に配置した状態から、脚部を断熱材に進入させることにより、脚部の先端が躯体壁に当接するまで補強金具を前進させ、挿通孔に挿通された支持ボルトに締結ナットを螺着することにより、補強金具を固定する工程と、その後、前記断熱材の室外側に突出する支持ボルトの先端部にナットを用いて支持金具を固着する工程と、該支持金具に胴縁を固着する工程と、該胴縁に外装材を取付ける工程を実施するように構成されている。
【0006】
前記従来技術の実施例は、支持ボルトと胴縁の間に、支持ボルトを補強するための補強金具と、胴縁を固着するための支持金具から成る2種類の金具を必要とするので、部品コスト低減のための制約があり、部品在庫の管理等も煩雑である。
【0007】
しかも、2種類の金具を順次取付けるための工程を必要とするので、工期の短縮と、施工コスト低減の点においても改善すべき問題がある。
【0008】
更に、従来技術の場合、補強金具から突出した支持ボルトの曲げモーメントで外壁重量や地震荷重を支える構造であるため、支持ボルトの間隔を密として多数の支持ボルトを植設し、これに応じた多数の補強金具を固定する必要がある。
【0009】
ところで、近年、建築用断熱材として、発泡樹脂ボード系の断熱材が提供され、脚光を浴びている。例えば、商品名「フェノバボード」(積水化学工業株式会社)として提供されている発泡樹脂ボード系の断熱材は、フェノール樹脂を発泡させたボード状の断熱材であり、建築用の断熱材の中ではトップクラスの断熱性能を有している。
【0010】
そこで、外断熱構造においても、上述の「フェノバボード」のような発泡樹脂ボード系の断熱材を使用することが望ましい。
【0011】
しかしながら、このような発泡樹脂ボード系の断熱材は、構造的に極めて脆弱であり、外力を受けると容易に崩壊して粉々になるため、特許文献2のような従来技術に適用することは困難である。従来技術の外断熱工法は、補強金具の脚部を断熱材に刺突させながら進入させる構成であるから、発泡樹脂ボード系の断熱材を使用した場合、断熱材の崩壊により補強金具の脚部の刺突を容易とするが、その反面、該刺突部分の崩壊が周囲に向けて成長し、粉々となって体積を減じるので、補強金具の周囲に断熱材が欠落した空胴部を生じるという問題がある。
【0012】
この点に関して、発泡樹脂ボード系の断熱材は、ボード状態の保形性を維持するため、表裏両面に薄い面材(PET不織布)を貼着したサンドイッチ構造とされている。しかしながら、前述のように補強金具の脚部を刺突すると、面材がボードから容易に剥離するので、ボードの内部での崩壊による空胴部の発生を防ぐことができない。しかも、前記従来技術の実施例は、補強金具の頭部を断熱材の内部に埋没させるものであるが、発泡樹脂ボード系の断熱材を使用する場合は、面材により補強金具の頭部の埋没が妨げられる。そして、ナットを強く締着すると、頭部が断熱材に押し付けられるので、ボードの崩壊を招来することになる。
【0013】
本発明は、上述の従来技術のような補強金具と支持金具から成る2種類の金具を1種類の支持金具により構成し、該支持金具により支持ボルトの補強機能と胴縁の連結支持機能を兼備させることにより、部品コストの低減と、部品在庫の管理等の容易化を可能にし、しかも、工期の短縮と、施工コストの低減を可能にすることを課題とする。
【0014】
このように、本発明の1種類の支持金具は、多機能を備え、これにより外断熱工法の施工の容易性に貢献する。
【0015】
この際、従来技術では、前述のように補強金具から突出した支持ボルトの曲げモーメントで外壁荷重や地震荷重を支える構造とされているのに対し、本発明は、支持ボルトに働く軸力(引き抜き力)と支持金具の脚板部に働く圧縮力の偶力で支持させ、1個所あたりの支持荷重を大となるように構成することにより、支持ボルト及び支持金具の個数を減らし、材料・施工コストを低減可能にすることを課題とする。
【0016】
更に、本発明は、上述の従来技術のような外断熱工法を改良することにより、優れた断熱性能を有する発泡樹脂ボード系の断熱材の使用を可能とし、特に、支持金具を刺突させたとき、断熱材の崩壊が周囲に向けて成長することを防止し、断熱材が欠落した空胴部の発生を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明の外断熱工法が手段として構成したところは、躯体壁の室外側に発泡樹脂ボード系の断熱材を介装した状態で外装材を取付けて成る建築物の外断熱構造であり、前記躯体壁からほぼ垂直に突出する支持ボルトを該躯体壁に固着する工程と、前記躯体壁に沿って断熱材を配設し、該断熱材を躯体壁に向けて押し付けることにより前記支持ボルトを貫通させた状態で、該断熱材を躯体壁の壁面に敷設する工程と、通孔を開設した保持板部と、前記保持板部の裏面方向に延設された脚板部と、前記保持板部の表面方向に延設された連結板部を有する支持金具を使用することにより;前記支持金具の通孔を支持ボルトに臨ませた位置から、前記脚板部を断熱材に刺突することにより該脚板部の先端部を躯体壁に当接させ、前記通孔に挿通された支持ボルトの挿通端部にナットを締着することにより該支持金具を固定し、固定された支持金具の保持板部により断熱材の表面を保持する工程と、その後、前記支持金具の連結板部に胴縁を固着する工程と、前記胴縁に外装材を取付ける工程とから成る点にある。
【0018】
この際、前記支持金具は、保持板部の裏面から脚板部の先端に至る脚板部の脚長hを断熱材の厚さtと等しくなるように形成しており、前記挿通孔に挿通された支持ボルトの挿通端部にナットを締着した状態で、前記脚板部により保持板部が断熱材に食い込むことを阻止するように構成している。
【0019】
更に、前記支持金具の保持板部は、前記脚板部の板幅方向に延びる長孔により前記通孔を構成しており、前記支持金具の脚板部は、前記保持板部に連設された根元部の幅W1に対して先端部の幅W2がW1<W2となるように形成しており、前記根元部は、前記幅W1にわたり連続する基板部を形成し、前記先端部は、先端縁から凹入されたほぼV形の切欠き部により二股状の脚端部を形成し、前記脚板部を断熱材に刺突したとき、該断熱材に前記幅W2に対応するスリットを切削形成し、該スリットに前記基板部が進入するように構成している。
【0020】
また、本発明の外断熱工法における支持金具が手段として構成したところは、1枚の金属板を折曲加工することにより、通孔を開設した矩形平板状の保持板部と、前記保持板部の両側縁から裏面側に折曲形成された脚板部と、前記保持板部の両側縁から表面側に折曲形成された連結板部を備え、前記連結板部は、胴縁取付用の固着孔を設け、一対の連結板部の間に胴縁を嵌入した状態で前記固着孔から挿入した固着ビスを胴縁に螺入し螺着するように構成して成る点にある。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、前記支持ボルトの中心軸線Zと、該中心軸線Zに直交する第1軸線Xと、前記中心軸線Z及び第1軸線Xに直交する第2軸線Yに関して;前記支持金具は、前記第1軸線Xに位置する保持板部の両側縁から裏面側に向けて前記脚板部を折曲形成し、前記第2軸線Yに位置する保持板部の両側縁から表面側に向けて前記連結板部を折曲形成し、前記保持板部は、前記第2軸線Yと平行に延びる長孔により前記通孔を構成している。
【0022】
前記連結板部は、支持ボルトの中心軸線Zと平行に延びる長孔により構成された仮止め孔を開設し、一対の連結板部の間に胴縁を嵌入した状態で前記仮止め孔から挿入した仮止めビスを胴縁に螺入するように構成することが好ましい。
【0023】
前記支持金具は、前記脚板部の先端縁からほぼV形の切欠き部を形成し、該切欠き部に沿ってテーパ状のエッジを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
請求項1及び請求項2に記載の本発明の外断熱工法によれば、極めて優れた断熱性能を有する発泡樹脂ボード系の断熱材3を使用することが可能となる。
【0025】
この際、発泡樹脂ボード系の断熱材3は、極めて脆弱で外力により容易に崩壊するにも関わらず、本発明によれば、特徴的な支持金具4を使用することにより、発泡樹脂ボード系の断熱材3の崩壊を最小限に抑えることができる。即ち、発泡樹脂ボード系の断熱材3は、支持金具4の脚板部10、10を刺突した部分のボード部3aが切粉となって崩壊しやすいが、本発明の支持金具4は、脚板部10の脚長hを断熱材3の厚みtと等しく形成することにより、保持板部9が断熱材3の表面を好適に保持するように構成している。従って、脚板部10、10を躯体壁1に当接するまで刺突させ、ナット5を締着することにより支持ボルト2に堅固に固定した状態で、脚板部10、10により保持板部9が断熱材3に食い込むことを阻止し、該保持板部9により断熱材3の表面を保持する。これにより、断熱材3の内部の崩壊は、脚板部10の刺突部分だけに抑えられるので、該崩壊が周囲に成長して粉々に崩壊した空胴部を生じるようなことはなく、断熱性能の低下を防止する。
【0026】
特に、乾式通気層を形成する外断熱構造においては、外装材7が躯体壁1の壁面から大きく偏位しているので、支持ボルト2の曲げモーメントだけで外壁重量や地震荷重を支えることが困難になるのに対し、本発明によれば、支持金具4は、保持板部9に脚板部10と連結板部11を設けた1個の金具により構成され、前記連結板部11に胴縁6を固着する構成とすることにより、外壁重量や地震荷重は、支持ボルト2に働く軸力(引き抜き力)と脚板部10に働く圧縮力の偶力により支持される。従って、1個所あたりの支持荷重が大となるように構成することが可能になり、その結果、支持ボルト2と支持金具4の個数を減らすことにより、材料・施工コストを低減することが可能になる。
【0027】
更に、請求項3に記載の本発明によれば、支持金具4の脚板部10を断熱材3に刺突したとき、二股状の脚端部10b、10bが該断熱材3に幅W2とされるスリットSを切削形成しながら進入し、それに追従して幅W1(W1<W2)とされた基板部10aが該スリットSに進入する。そして、保持板部9の通孔8は前記脚板部10の板幅方向に延びる長孔12により構成されている。従って、もしも、支持ボルト2が通孔8の所定位置からずれている場合は、脚板部10を前記幅W2とされたスリットSの内部で移動させながら、脚端部10bの先端側縁で断熱材3を僅かに切削するだけで、通孔8と支持ボルト2の相互を好適に位置決めできる。
【0028】
しかも、脚板部10は、刺突時においては、ほぼV形の切欠き部16により形成された二股状の脚端部10b、10bを断熱材3に容易に刺突することができ、その後、脚端部10b、10bを躯体壁1に当接して保持板部9にナット5を締着した固定状態においては、広い幅W2を有する脚端部10b、10bが躯体壁1に安定的に支持される。この支持状態において、脚端部10b、10bは、先端から基板部10aに向けて次第に幅を増すと共に、幅W1にわたり連続する基板部10aにより連結されているので、前述のような圧縮力に対して好適に対抗し、容易に座屈変形することはない。
【0029】
請求項4に記載の本発明の支持金具4によれば、1枚の金属板を折曲加工することにより、通孔8を開設した矩形平板状の保持板部9と、前記保持板部9の両側縁から裏面側に折曲形成された脚板部10、10と、前記保持板部9の両側縁から表面側に折曲形成された連結板部11、11を備え、前記連結板部11に胴縁取付用の固着孔15を設け、一対の連結板部11、11の間に胴縁6を嵌入した状態で前記固着孔15から挿入した固着ビス19を胴縁6に螺入し螺着するように構成しており、支持ボルト2を介して躯体壁1と胴縁6の間に、1種類の支持金具4を配置するものであるから、従来技術のように別個独立した2種類の金具を使用する技術に比して、部品コストの低減と、部品在庫の管理等の容易化に寄与する。しかも、1種類の支持金具4は、支持ボルト2の補強機能と胴縁6の連結支持機能を兼備しているので、外断熱工法の施工の容易性に貢献し、工期の短縮と、施工コストの低減を可能にする。
【0030】
そして、請求項5に記載の本発明によれば、支持金具4は、第1軸線Xに位置する保持板部9の両側縁から裏面側に向けて前記脚板部10、10を折曲形成し、第2軸線Yに位置する保持板部9の両側縁から表面側に向けて前記連結板部11、11を折曲形成し、前記保持板部9は、前記第2軸線Yと平行に延びる長孔12により前記通孔8を構成しているので、支持金具4の脚板部10、10を断熱材3に刺突させるとき、もしも、支持ボルト2が通孔8の所定位置からずれている場合は、長孔12の長手方向に支持金具4を移動させることにより、所定位置に位置決めできるという効果がある。この際、長孔12の長手方向は、脚板部10、10の幅方向に一致するように形成されているため、すでに脚板部10が断熱材3に刺突された状態であっても、長孔12の長手方向に脚板部10を移動させると、該脚板部10の側縁により断熱材3が切削されるので、支持金具4の位置決めを容易に行うことができる。
【0031】
請求項6に記載の本発明によれば、連結板部11、11は、支持ボルト2の中心軸線Zと平行に延びる長孔14により構成された仮止め孔13を開設し、一対の連結板部11、11の間に胴縁6を嵌入した状態で前記仮止め孔13から挿入した仮止めビス18を胴縁6に螺入するように構成しているので、支持ボルト2に固定された状態で列設される多数の支持金具4、4に対して、胴縁6を連結板部11、11に嵌入すると共に前記仮止めビス18で仮止めした状態で、前記長孔14を介して胴縁6を中心軸線Z方向に移動調整することにより所定位置に位置決めすることができ、このようにして位置決めした後に、固着孔15から胴縁6に固着ビス19を螺入し螺着することにより、胴縁6を最終的に固着することが可能となり、施工が容易となる。
【0032】
請求項7に記載の本発明によれば、支持金具4は、脚板部10の先端縁からほぼV形の切欠き部16を形成しているので、脚板部10、10を断熱材3に対して容易に刺突することができ、しかも、断熱材3の内部崩壊を最小限に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の外断熱工法を実施するための各部材を分解した状態で示す斜視図である。
【図2】本発明の外断熱工法に使用する支持金具の1実施形態を示す斜視図である。
【図3】発泡樹脂ボード系の断熱材を躯体壁に敷設した状態を示す斜視図である。
【図4】発泡樹脂ボード系の断熱材を躯体壁に敷設した状態を示す断面図であり、(A)は図2のY−Y線に対応する断面図、(B)は図2のX−X線に対応する断面図である。
【図5】支持金具を支持ボルトに固定させる方法を説明する斜視図である。
【図6】支持金具を支持ボルトに固定させた状態を示す断面図であり、(A)は前記Y−Y線に対応する断面図、(B)は前記X−X線に対応する断面図である。
【図7】支持金具に胴縁を固着する方法を説明する斜視図である。
【図8】支持金具に胴縁を固着し、該胴縁に外装材を取付けた状態を示す断面図であり、(A)は前記Y−Y線に対応する断面図、(B)は前記X−X線に対応する断面図である。
【図9】脚部の脚長を相違した2種類の支持金具を使用した実施形態を示す断面図である。
【図10】支持金具の保持板部と躯体壁の間に補強筒材を使用した実施形態を示しており、(A)は外断熱構造を示す断面図、(B)は補強筒材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。
【0035】
(外断熱構造の構成)
図8に示すように、本発明の「外断熱構造」は、建物の躯体壁1に支持ボルト2の基端2aを埋設しており、躯体壁1の室外側に断熱材3を敷設した後、支持金具4を断熱材3に刺突した状態で支持ボルト2にナット5で固定し、該支持金具4に胴縁6を固着した後、該胴縁6に外装材7が取付けられ、これにより、乾式通気層工法による外断熱構造を構成する。
【0036】
断熱材3は、発泡樹脂ボード系の断熱材であり、例えば、商品名「フェノバボード」(積水化学工業株式会社)として提供されているフェノール樹脂を発泡させたボード状の断熱材が使用され、断熱性能に優れているが脆弱で容易に崩壊するボード部3aを有し、該ボード部3aの表裏両面に薄い面材3b、3c(例えばPET不織布)を積層し貼着したサンドイッチ構造のものとされている。
【0037】
図1及び図2に示すように、前記支持金具4は、1枚の鋼板等の金属板を折曲加工することにより、通孔8を開設した矩形平板状の保持板部9と、前記保持板部9の両側縁から裏面側に折曲形成された脚板部10と、前記保持板部9の両側縁から表面側に折曲形成された連結板部11を備えている。
【0038】
図示実施形態の場合、図2に示すように、前記支持ボルト2の中心軸線Zと、該中心軸線Zに直交する第1軸線Xと、前記中心軸線Z及び第1軸線Xに直交する第2軸線Yに関して、前記支持金具4は、前記第1軸線Xに位置する保持板部9の両側縁から裏面側に向けて一対の脚板部10、10を折曲形成し、前記第2軸線Yに位置する保持板部9の両側縁から表面側に向けて一対の連結板部11、11を折曲形成している。図例の場合、第1軸線Xを鉛直方向、第2軸線Yを水平方向とすることにより、胴縁6を鉛直方向に配置する構成としているが、胴縁6を水平方向に配置する場合は、第1軸線Xを水平方向、第2軸線Yを鉛直方向とすれば良い。
【0039】
前記保持板部9の通孔8は、支持ボルト2を挿通させる内径を有し、前記脚板部10、10の板幅方向、つまり、前記第2軸線Yと平行に延びる長孔12により構成されている。
【0040】
前記連結板部11、11は、幅方向のほぼ中央部に仮止め孔13を開設しており、該仮止め孔13は、前記中心軸線Zと平行に延びる長孔14により構成され、該仮止め孔13の両側に位置して固着孔15、15が設けられている。
【0041】
前記脚板部10、10は、図2に示すように、前記保持板部9に連設された根元部の幅W1に対して先端部の幅W2がW1<W2となるように形成しており、前記根元部は、前記幅W1にわたり連続する基板部10aを形成し、前記先端部は、先端縁から凹入されたほぼV形の切欠き部16により二股状の脚端部10b、10bを形成しており、該脚端部10b、10bの内側に前記切欠き部16に沿うテーパ状のエッジ17を形成している。
【0042】
このように、保持板部9に脚板部10と連結板部11を一体に備えた支持金具4に基づく外断熱構造は、脚板部10を断熱材3に刺突した状態で、保持板部9を支持ボルト2に対してナット5で固定し、連結板部11に胴縁6を固着すると共に、該胴縁6に外装材7を取付けた構築状態において、広幅の幅W2とされた脚端部10b、10bを躯体壁1に圧接し、支持金具4を安定状態で固定している。そして、外壁重量や地震荷重は、支持ボルト2に働く軸力(引き抜き力)と脚板部10に働く圧縮力の偶力により支持されるので、1個所あたりの支持荷重が大となるように構成されており、従って、支持ボルト2と支持金具4の個数を減らすことが可能となり、材料・施工コストを低減することができる。
【0043】
(外断熱工法の構成)
図1に示すように、先ず、躯体壁1からほぼ垂直に突出する支持ボルト2を該躯体壁1に固着する。図示省略しているが、具体的には、躯体壁1にアンカー(図示省略)を埋設し、該アンカーに支持ボルト2の基端2aを植設する。尚、支持ボルト2は、躯体壁1の壁面に所定間隔をあけて縦横に配置される。
【0044】
この状態から、躯体壁1に沿って断熱材3を配設し、該断熱材3を躯体壁1に向けて押し付けると、図3及び図4に示すように、支持ボルト2が断熱材3を貫通することにより、断熱材3が躯体壁1の壁面に敷設される。
【0045】
その後、支持金具4の通孔8を支持ボルト2に臨ませた位置から、図5及び図6に示すように、切欠き部16を介して尖鋭状に形成された脚板部10、10の脚端部10b、10bを断熱材3に刺突させると、該脚端部10b、10bが断熱材3の面材3bからボード部3aに向けて前記幅W2とされた広幅のスリットSを切削形成しながら進入し、それに追従して幅W1(W1<W2)とされた基板部10aが該スリットSに進入する。脚板部10、10の先端部を躯体壁1に当接させると、支持ボルト2が通孔8に挿通されるので、該支持ボルト2の挿通端部2bにナット5を締着することにより、支持金具4を固定する。この際、脚板部10、10を断熱材3に刺突して所定の深さまで進入させると、支持ボルト2が通孔8に挿通されるので、挿通端部2bにナット5を螺合し、該ナット5の螺進により支持金具4を前進させながら、脚板部10、10の先端が躯体壁1に当接するまでナット5を締着するようにしても良い。
【0046】
支持金具4の保持板部9に形成した通孔8は、長孔12により構成されているので、もしも、支持ボルト2が第2軸線Yの方向に関して所定位置からずれている場合は、長孔12の長手方向に支持金具4を移動させ、所定位置に位置決めすることができる。この際、脚板部10は、広幅の幅W2とされたスリットSの内部に位置しており、脚端部10b、10bの両側にスリットSの空隙を有しており、しかも、長孔12の長手方向と脚板部10、10の幅方向が一致しているので、すでに脚板部10が断熱材3に刺突された状態であっても、長孔12の長手方向に脚板部10を移動させることにより、脚端部10b、10bの先端部分で断熱材3を僅かに切削するだけで、支持金具4の位置を容易に調整することができる。
【0047】
図6に示すように、脚板部10、10の脚長hは、面材3b、3cを含む断熱材3の厚さtと等しくなる(即ちh=tとなる)ように形成されており、従って、脚板部10、10の先端部が躯体壁1に当接した状態で、支持ボルト2の挿通端部2bにナット5を強く締着しても、保持板部9が断熱材3に食い込むことはなく、該保持板部9は、面材3bの表面に沿わされた状態で断熱材3を保持する。
【0048】
発泡樹脂ボード系の断熱材3は、前記脚板部10、10を刺突した部分のボード部3aが切粉となって崩壊するが、保持板部9は、断熱材3に食い込むことなく面材3bを介してボード部3aの表面を保持するので、前記ボード部3aの崩壊個所が周囲に成長することはない。また、支持ボルト2の周りにおいては、崩壊したボード部3aの断片が保持板部9の裏面側で一対の脚板部10、10により抱持される。従って、該刺突部分の周囲に位置するボード部3aの内部が粉々となって体積を減じることにより空胴部を生じるようなことはない。
【0049】
躯体壁1の所定面積にわたり、断熱材3の敷設と支持金具4の固定を終えた後、図7に示すように、列設された支持金具4、4の連結板部11、11に胴縁6が嵌入される。この際、もしも、直線上に列設された支持ボルト2、2の通り不整等に起因して、列設された支持金具4、4の連結板部11が直線上に位置していないときは、位置ずれした支持金具4のナット5を緩めた状態で前記長孔12に沿って移動させることにより、所定の直線上に位置するように調整し、再びナット5を締着した後、胴縁6を各支持金具4の連結板部11、11に嵌入させる。この場合も、前述のように、長孔12の長手方向と脚板部10、10の幅方向が一致するように形成されているので、脚板部10、10の側縁で断熱材3を切削することにより、支持金具4を容易に移動させることができる。
【0050】
直線上に列設された支持金具4、4の連結板部11、11に胴縁6を嵌入した状態で、先ず、タッピングビス又はドリルビス等から成る仮止めビス18を仮止め孔13から挿入して胴縁6に螺入する。仮止めビス18は、完全締着状態ではなく、仮止め孔13を構成する長孔14に沿って遊動可能となるように螺入される。直線上に列設された全ての支持金具4、4に対して、胴縁6を仮止めビス18で仮止めした状態で、長孔14を介して、中心軸線Z方向に胴縁6を移動させ、出入方向の位置を調整した後、各支持金具4の連結板部11、11の固着孔15に、タッピングビス又はドリルビス等から成る固着ビス19を螺入し螺着する。これにより、胴縁6が所定位置に固定される。
【0051】
その後、固定された多数の胴縁6、6に対して、図示省略した連結金具等を介して外装材7を取付けることにより外断熱工法が完了し、図8に示すような外断熱構造が完成する。
【0052】
(第2実施形態)
図9に示す第2実施形態のように、本発明の支持金具4は、必要に応じて、脚板部10、10の脚長hに関して、脚長h1と脚長h2(h1<h2)を有する2種類又は3種類以上の支持金具4a、4bを準備することができる。
【0053】
外断熱工法を施工する現場において、躯体壁1の壁面は、必ずしも全面が同一平面となるように形成されておらず、図示矢印Hで示すように、壁面1aに対して壁面1bが後退する等、出入り不整を生じている場合がある。本発明の外断熱工法を既設の建築物の改修のために施工する場合、左官工事により出入り不整を修復することは高コストを招来するので、既存の壁面1a、1bに対応するように複数種類の支持金具既存の4a、4bを準備する方がコスト面で有利となる。
【0054】
この場合、1種類の支持金具4を使用する上記実施形態においても、支持金具4の連結板部11に設けた仮止め孔13の長孔14を介して、胴縁6、6の出入方向の位置を調整することが可能である。
【0055】
しかしながら、図9に示すように、1枚の連続する断熱材3を前記壁面1a、1bに跨がって配設する場合、断熱材3が後退した壁面1bから浮き上がった状態で敷設される。このため、脚板部10、10の先端部を該壁面1bに当接するまで支持金具4を前進させると、保持板部9が断熱材3を強く押し付けることになる。上述のように発泡樹脂ボード系の断熱材3は極めて脆弱であるため、強く押し付けるとボード部3aの内部で崩壊が起こり、断熱性能を低下するおそれがある。
【0056】
この点に関して、図9に示す第2実施形態によれば、長い脚長h2を有する支持金具4bを後退した壁面1bに設けることにより、該支持金具4bの保持板部9が断熱材3の表面を押し付けることなく、表面に沿って断熱材3を好適に保持できる利点がある。
【0057】
(第3実施形態)
図10に示す第3実施形態は、支持金具4を断熱材3に刺突する前に、補強筒材20を支持ボルト2に外挿するように構成している。補強筒材20は、軸長Lが支持金具4の脚板部10、10の脚長h及び断熱材3の厚さtと等しくなる(即ちL=h=tとなる)ように形成されており、該補強筒材20を支持ボルト2に外挿しながら断熱材3に埋入させた後、支持金具4の脚板部10、10を断熱材3に刺突し、該脚板部10、10の先端を躯体壁1に当接すると、保持板部9は、補強筒材20の端面に当接される。
【0058】
支持金具4の一対の脚板部10、10を薄い金属板で折曲形成したとき、ナット5を強く締着すると、脚板部10、10が変形して座屈するおそれがあり、その場合、保持板部9が断熱材3に食い込んで発泡樹脂ボード系の断熱材3を押さえつけるので、ボード部3aの内部を崩壊し、断熱性能を低下する可能性がある。
【0059】
この点に関して、図10に示す第3実施形態によれば、ナット5を強く締着しても、保持板部9は、補強筒材20により支持されるので、断熱材3に食い込むことがない。この場合、補強筒材20により部品点数が増加するが、支持金具4を形成する金属板を薄くすることにより、トータルコストを抑えることが可能であり、就中、断熱材3の内部崩壊を防止する点において有利となる。
【符号の説明】
【0060】
1 躯体壁
2 支持ボルト
2a 支持ボルトの基端
2b 支持ボルトの挿通端部
3 断熱材
3a ボード部
3b、3c 面材
4 支持金具
5 ナット
6 胴縁
7 外装材
8 通孔
9 保持板部
10 脚板部
11 連結板部
12 長孔
13 仮止め孔
14 長孔
15 固着孔
16 切欠き部
17 エッジ
18 仮止めビス
19 固着ビス
20 補強筒材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体壁(1)の室外側に発泡樹脂ボード系の断熱材(3)を介装した状態で外装材(7)を取付けて成る建築物の外断熱構造であり、
前記躯体壁からほぼ垂直に突出する支持ボルト(2)を該躯体壁(1)に固着する工程と、
前記躯体壁(1)に沿って断熱材(3)を配設し、該断熱材を躯体壁に向けて押し付けることにより前記支持ボルト(2)を貫通させた状態で、該断熱材(3)を躯体壁(1)の壁面に敷設する工程と、
通孔(8)を開設した保持板部(9)と、前記保持板部(9)の裏面方向に延設された脚板部(10)と、前記保持板部(9)の表面方向に延設された連結板部(11)を有する支持金具(4)を使用することにより;
前記支持金具(4)の通孔(8)を支持ボルト(2)に臨ませた位置から、前記脚板部(10)を断熱材(3)に刺突することにより該脚板部の先端部を躯体壁(1)に当接させ、前記通孔(8)に挿通された支持ボルトの挿通端部(2b)にナット(5)を締着することにより該支持金具を固定し、固定された支持金具(4)の保持板部(9)により断熱材(3)の表面を保持する工程と、
その後、前記支持金具(4)の連結板部(11)に胴縁(6)を固着する工程と、
前記胴縁(6)に外装材(7)を取付ける工程とから成ることを特徴とする建築物の外断熱工法。
【請求項2】
前記支持金具(4)は、保持板部(9)の裏面から脚板部(10)の先端に至る脚板部(10)の脚長(h)を断熱材(3)の厚さ(t)と等しくなるように形成しており、前記挿通孔(8)に挿通された支持ボルト(4)の挿通端部(2b)にナット(5)を締着した状態で、前記脚板部(10)により保持板部(9)が断熱材(3)に食い込むことを阻止するように構成して成ることを特徴とする請求項1に記載の建築物の外断熱工法。
【請求項3】
前記支持金具(4)の保持板部(9)は、前記脚板部(10)の板幅方向に延びる長孔(12)により前記通孔(8)を構成し、
前記支持金具(4)の脚板部(10)は、前記保持板部(9)に連設された根元部の幅(W1)に対して先端部の幅(W2)がW1<W2となるように形成しており、前記根元部は、前記幅(W1)にわたり連続する基板部(10a)を形成し、前記先端部は、先端縁から凹入されたほぼV形の切欠き部(16)により二股状の脚端部(10b,10b)を形成し、
前記脚板部(10)を断熱材(3)に刺突したとき、該断熱材(3)に前記幅(W2)に対応するスリット(S)を切削形成し、該スリット(S)に前記基板部(10a)が進入するように構成して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物の外断熱工法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の外断熱工法における支持金具であり、
前記支持金具(4)は、1枚の金属板を折曲加工することにより、通孔(8)を開設した矩形平板状の保持板部(9)と、前記保持板部(9)の両側縁から裏面側に折曲形成された脚板部(10,10)と、前記保持板部(9)の両側縁から表面側に折曲形成された連結板部(11,11)を備え、
前記連結板部(11)は、胴縁取付用の固着孔(15)を設け、一対の連結板部(11,11)の間に胴縁(6)を嵌入した状態で前記固着孔(15)から挿入した固着ビス(19)を胴縁(6)に螺入し螺着するように構成して成ることを特徴とする建築物の外断熱工法における支持金具。
【請求項5】
前記支持ボルト(2)の中心軸線Zと、該中心軸線Zに直交する第1軸線Xと、前記中心軸線Z及び第1軸線Xに直交する第2軸線Yに関して;
前記支持金具(4)は、前記第1軸線Xに位置する保持板部(9)の両側縁から裏面側に向けて前記脚板部(10,10)を折曲形成し、前記第2軸線Yに位置する保持板部(9)の両側縁から表面側に向けて前記連結板部(11,11)を折曲形成し、
前記保持板部(9)は、前記第2軸線Yと平行に延びる長孔(12)により前記通孔(8)を構成して成ることを特徴とする請求項4に記載の建築物の外断熱工法における支持金具。
【請求項6】
前記連結板部(11,11)は、支持ボルト(2)の中心軸線Zと平行に延びる長孔(14)により構成された仮止め孔(13)を開設し、一対の連結板部(11,11)の間に胴縁(6)を嵌入した状態で前記仮止め孔(13)から挿入した仮止めビス(18)を胴縁(6)に螺入するように構成して成ることを特徴とする請求項4又は5に記載の建築物の外断熱工法における支持金具。
【請求項7】
前記支持金具(4)は、前記脚板部(10)の先端縁からほぼV形の切欠き部(16)を形成して成ることを特徴とする請求項4、5又は6に記載の建築物の外断熱工法における支持金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214243(P2011−214243A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81108(P2010−81108)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000133629)株式会社ツヅキ (10)
【Fターム(参考)】