説明

建築物

【課題】 建物の一部を容易に改修可能な建築物を提供する。
【解決方法】 高層部と低層部とを有する建築物であって、前記高層部の躯体構造と前記低層部の躯体構造が少なくとも鉛直構面内の相対回転を許容するように接合されている建築物。前記高層部と前記低層部は、さらに鉛直構面内の相対水平変位を許容するように接合されていてもよい。前記接合は、前記低層部の躯体を構成する梁の高層部よりの先端部において行われているのが好ましい。接合は、高層部の躯体に設けたガセットプレートと低層部の梁の高層部よりの先端をボルト又はピンによって固定することによって行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命大規模建物における建物改修に関するものであり、特に、高層部と低層部を有する長寿命建物の改修を容易にする方法あるいは改修を容易にする長寿命建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層部と低層部を有する複合建物の構造に関する特許出願としては、例えば特開平5−263473号公報(特許文献1)がある。当該公報に記載された発明は、建築計画上および構造計画上のフレキシビリティに優れ、多種多様な平面計画、住居配置の実現を可能とする建築物の構造を提供することを目的とするものである。当該公報では、全体を平面視して複数のブロックに分割しかつ各ブロックを独立のチューブ構造として成る複数のサブチューブと、各サブチューブを連結するコア部とから構成し、前記サブチューブは、地震力を負担する外周部と、鉛直荷重を負担する間柱および床スラブとから構成する建物が提案されている。各サブチューブは上部構造および基礎が独立の構造であり、各サブチューブと前記コア部との間にはダンパーを介在させる場合もある。
【0003】
特許文献1に記載された発明では、建物の改修あるいは部分的な改修については考慮されておらず、また、記載された構造は建物の一部を容易に改修することができる構造ではない。
【0004】
また、建築物が複数の構成部分(仮に高層部と低層部と称することにするが、高さの高低が必須でないことは以下に記載する通りである)から構成される場合、複数の構成部分相互を完全に(剛に)接合する以外、両者の間にエキスパンションジョイントを介在させることも行われていた。
【0005】
一方、例えば中央に高層部を有し、当該高層部を低層部が囲むように建設されている建築物においては、中央の高層部をオフィスに用い、低層部を店舗とすることが多いが、オフィス部分(高層部)については経時と共に柱配置の変更などが必要になることは比較的少ないのに対して、店舗部分(低層部)については時代の経過と共に、柱配置の変更を伴う大規模な変更・改修が要請されることがある。
【0006】
このような場合に、高層部と低層部を剛に接合していた場合は、両者が力学的にも完全に一体化しているために、低層部のみを解体して柱の配置などが異なる建物とすることは困難である。したがって、高層部を残すのであれば低層部の改修は間仕切り変更など躯体の変更を伴わないものに限定されるという制約があった。また、高層部と低層部の間にエキスパンションジョイントを用いた場合は、高層部と低層部がそれぞれに独立して耐震性を有する必要が有るため、エキスパンションジョイントに隣接して高層部と低層部にそれぞれ柱が必要になり、コストアップの原因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−263473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術が有する上記の課題を解決することを目的としたものであって、建物の一部を容易に改修可能な建築物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、高層部と低層部とを有する建築物であって、前記高層部の躯体構造と前記低層部の躯体構造が少なくとも鉛直構面内の相対回転を許容するように接合されている建築物を提案する。
【0010】
本明細書において、高層部と低層部は相対的な関係を指す意味で用いる。したがって、高層部は低層部に比較して高層であれば、必ずしもいわゆる高層建築物に該当するものでなくてもよく、低層部は高層部に比較して低層であれば、いわゆる低層建物に該当するものでなくても良い。また、高層部、低層部の名称は便宜上の名称なので、両者が実質的に同じ高さ、あるいは同じ階層を有するものであっても良い。また、例えば、建築物の中央部が20階建てで、周辺部が4階建ての場合、高層部は、中央の20階建ての部分(1階から20階まで)を指す。つまり、このような場合に、5階以上を高層部、4階から下は全て低層部と称するわけではない。
【0011】
本明細書において、構造躯体とは、柱、梁、壁、床であって長期および短期の荷重を支持することを前提に設けられた構造体を言う。鉛直構面とは、柱梁、あるいは壁によって構成される鉛直面の意味で用いる。相対回転を許容するとは、高層部と低層部が相互に異なる回転角を持ちえることを指しており、ピンのように高層部と低層部の相対回転に対して接合部が抵抗を有さない場合であっても良いが、接合部の剛性が当該接合部に接続された高層部と低層部の各部材の剛性よりも著しく低いために、構造解析において相対回転に対する接合部の抵抗を無視しえる場合あるいは相対回転が接合部で生じると見なすことのできる場合を含む。本明細書において接合されているとは、力またはモーメントの伝達が行われるような関係を指しており、エキスパンションジョイントのように力学的な相互関係を完全に切ったものは除外する趣旨である。
【0012】
上記構造を有する建築物においては、高層部と低層部間では相互の変位は拘束されるために、高層部と低層部それぞれを独立した建物として耐震設計を行う必要は無く、一体として耐震性を評価することができるので、エキスパンションジョイントを用いた建物に比較して建物全体のコストを低減することができる。また、同時に、高層部と低層部の間では曲げモーメントの伝達が無いために、低層部(あるいは高層部)の構造を大幅に変更した場合にも高層部(あるいは低層部)への影響が小さいので、改修に関して制限が少ない。したがって、建物建設後においても、需要の変化に対応して比較的自由に低層部(あるいは高層部)を改修することができる。
【0013】
前記高層部と前記低層部は、さらに鉛直構面内の相対水平変位を許容するように接合されたものであっても良い。
【0014】
相対水平変位を許容する接合とは、いわゆるローラ接合であって、高層部と低層部の相対変位が許容されれば、相対変位に対する抵抗の大きさは特に問題ではない。つまり、ほぼ抵抗無く相対変位を許容する接合であっても良いが、構造解析において相対水平変位を許容すると想定しえる接合であれば当該相対変位に対して抵抗を有するものであっても良い。
【0015】
相対回転を許容することに加えて鉛直構面内の相対水平変位を許容するように接合された建築物の場合には、単に相対回転を許容する接合に比較して、高層部と低層部の力学的独立性は一層高い。したがって、低層部(あるいは高層部)の改修に関する制限は一層小さくなる。
【0016】
前記接合は、前記低層部の躯体を構成する梁の高層部よりの先端部において行われているのが好ましいが、高層部から低層部方向に梁を突出させ、当該突出した梁の先願と低層部の柱とを接合するものであっても良い。
【0017】
前記接合は、高層部の躯体に設けたガセットプレートと低層部の梁の高層部よりの先端をボルト又はピンによって固定することによって行われるのが好ましい。あるいは、前記接合は、高層部の躯体に設けたブラケットと低層部の梁の高層部よりの先端とを、ピンとルーズホールによって契合させたことで行うものでもよい。
【0018】
上記の構造の建築物の場合、低層部(あるいは高層部)を解体する際に、前記ボルトまたはピンを取り外すことで高層部と低層部を分離できるので、解体作業が容易かつ迅速であり、解体作業のコストを低減することができる。
【0019】
前記高層部は鉄筋コンクリート構造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造のいずれかあるいは複合的な構造であってもよいし、低層部は鉄骨造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明に基づく、高層部と低層部を有する建築物の概念を示す平面図である。
【図2】図2は、本発明に基づく、高層部と低層部を有する建築物の概念を示す立面図である。
【図3】図3は、鉛直構面内の相対回転を許容する接合の第1の例である。
【図4】図4は、鉛直構面内の相対回転を許容する接合の第2の例である。
【図5】図5は、鉛直構面内の相対回転に加えて同構面内の相対水平変位を許容する接合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、実施例に基づいて本発明の具体的な態様を説明するが、実施例は発明の理解を助けるために記載するに過ぎないものであるから、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではないことはいうまでも無い。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明に基づく、高層部20と低層部10を有する建築物を概念的に示す平面図である。平面視において中央に位置する高層部20と、当該高層部を取り囲むようにその周囲に設けられた低層部10は、接合部100によって、鉛直構面内の相対回転を許容するように接合されている。
図2は、上記建築物の立面図である。高層部は10階程度の階層を有し、低層部は3層である。接合部100は、低層部10の梁の、高層部20よりの先端部に設けられている。
【0023】
図3は、接合部100の詳細を示す立面図である。図3においては、左側が低層部10、右側が高層部20である。高層部20の構造躯体を構成する柱24のフランジ26には、低層部10の方向に突出するようにガセットプレート110が取り付けられている。低層部10の構造躯体を構成する梁12の高層部20よりの先端のウェブには開口が形成され、前記ガセットプレート110と梁12の先端は、開口を貫通するボルト120によって締結されている。その結果、低層部10と高層部20の構造躯体は、ボルトの摩擦抵抗が存在するものの、鉛直面内の相互の回転を許容する接合となっている。
【0024】
図4は、本発明に基づく接合部100の第2の実施例を示す立面図である。高層建物20の柱24に設けたガセットプレート130の中央には開口が1つ形成されており、梁12の先端、ウェブの中央部に形成された開口とを、ピン140が貫通することで、高層部20と低層部10の構造躯体を、鉛直構面内で相対回転を許容するように接合している。
【0025】
図5は、鉛直構面内で高層部20と低層部10の相対回転を許容すると共に、鉛直構面内の相対水平変位を許容する接合部の実施例である。高層部20の柱24のウェブ26には、ブラケット150が設けられ、ブラケット150には、上方に突出するピン160が設けられている。低層部10の梁12下端には、ピン160の直径よりも大きな開口が形成されて、梁10の端部は当該開口に前記ピン160が収容されるように、ブラケット150に搭載されている。
【0026】
図示した接合は、低層部10と高層部20間において、図に示した構面内のモーメントおよび水平力は実質的に伝達されない構造である。
【符号の説明】
【0027】
10 低層部
12 低層部の梁
20 高層部
24 高層部の柱
26 柱のフランジ
100 接合部
110、130 ガセットプレート
120 ボルト
140 ピン
150 ブラケット
160 ブラケットに設けたピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高層部と低層部とを有する建築物であって、前記高層部の躯体構造と前記低層部の躯体構造が少なくとも鉛直構面内の相対回転を許容するように接合されている建築物。
【請求項2】
前記高層部と前記低層部は、さらに鉛直構面内の相対水平変位を許容するように接合されている請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記接合は、前記低層部の躯体を構成する梁の高層部よりの先端部において行われている請求項1又は2に記載の建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−261207(P2010−261207A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112565(P2009−112565)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】