説明

建設機械の制御装置、および入力トルク演算方法

本発明は、原動機(20)により駆動される可変容量油圧ポンプ(10)と、この油圧ポンプ(10)からの吐出油により駆動される油圧アクチュエータ(5)と、原動機(20)の実回転数(Nr)を検出する回転数検出手段(31)とを有する建設機械の制御装置において、操作手段(14a)の操作量に応じて原動機(20)の回転数を制御する原動機制御手段(40B)と、回転数検出手段(31)により検出された実回転数(Nr)と操作手段(14a)の操作による制御回転数(Nθ)との偏差(ΔN)に応じて油圧ポンプ(10)の入力トルク(T2)を増減する入力トルク制御手段(40A)とを備え、入力トルク制御手段(40A)が、制御回転数(Nθ)が実回転数(Nr)より大きく、かつ、その偏差(ΔN)が所定値(N2)以上のとき、入力トルク(T2)を減少するような制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、建設機械の原動機に作用する入力トルクを制御する建設機械の制御装置、および入力トルク演算方法に関する。
【背景技術】
エンジンにより駆動される可変容量油圧ポンプからの吐出油によって駆動される走行用油圧モータを備え、例えば走行ペダルの操作に応じて油圧モータに導かれる圧油量を制御して車両を走行させるとともに、走行ペダルの操作に応じてエンジン回転数も制御可能とした建設機械が知られている(例えば特許第2633095号公報)。
上記公報記載の建設機械では、以下のようなスピードセンシングによる入力トルク制御を行う。すなわち、回転数センサにより検出される実際のエンジン回転数と、エンジンのガバナレバー位置に対応した目標回転数との偏差からエンジンストールを防止するための目標トルクを演算し、この目標トルクから目標ポンプ傾転角を求めてポンプ傾転角を制御する。目標トルクの演算にあたっては、入力トルクが増加する方向の制御のみ行い、入力トルクが減少する方向の制御を行わない。これにより油圧ポンプの傾転角は所定値以上に保持され、スムーズな加速性を確保することができる。
ところで、近年、黒煙の発生を抑えるために排ガス対応のエンジンが使用される。排ガス対応のエンジンとは、エンジンの全負荷性能曲線における低回転側のエンジン出力トルクを従来のものに比べて小さくしたものである。より具体的にはエンジンの最高出力トルクを高回転側にシフトするとともに、低回転域から中回転域のトルクライズを小さくし、中回転域から高回転域のトルクライズを大きくしたものである。これにより低回転側の燃料消費が抑えられ、黒煙の発生が抑制される。
このような排ガス対応のエンジンを用いた場合に上記公報記載の入力トルク制御を行うと、次のような問題が発生する。すなわち、上記公報記載の建設機械では、入力トルクを減少させる制御を行わないので、走行開始時や登坂走行時等、走行負荷が増加した場合に入力トルクがエンジン出力トルクを上回り、エンジンストールを引き起こすおそれがある。
【発明の開示】
本発明の目的は、排ガス対応のエンジンに用いて好適な建設機械の制御装置、および入力トルク演算方法を提供することにある。
本発明は、原動機により駆動される可変容量油圧ポンプと、この油圧ポンプからの吐出油により駆動される油圧アクチュエータと、原動機の実回転数を検出する回転数検出手段とを有する建設機械に適用される。そして、この制御装置は、操作手段の操作量に応じて原動機の回転数を制御する原動機制御手段と、回転数検出手段により検出された実回転数と操作手段の操作による制御回転数との偏差に応じて油圧ポンプの入力トルクを増減する入力トルク制御手段とを備え、制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値以上のとき、入力トルクを減少するような制御を行う。
また、本発明による建設機械の制御装置は、操作手段の操作量に応じて原動機の回転数を制御する原動機制御手段と、回転数検出手段により検出された実回転数と操作手段の操作による制御回転数との偏差に応じて油圧ポンプの入力トルクを増減する入力トルク制御手段とを備え、制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値以上のとき、偏差が前記所定値未満のときより入力トルクを大きく減少するような制御を行う。
これにより、エンジンストールを防止することができるとともに、良好な加速性を得ることができ、排ガス対応のエンジンに用いて好適である。
制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値未満のときは、入力トルクの増減量を0にすることが好ましい。制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値以上のときの入力トルクの変化率を、制御回転数が実回転数よりも小さいときの入力トルクの変化率よりも大きくしてもよい。
油圧アクチュエータを走行用油圧モータとし、操作手段を走行ペダルとして構成することができる。非走行時の入力トルクを走行時の入力トルクより大きく減少させてもよい。
本発明はホイール式油圧ショベルに適用することが好ましい。
原動機の制御回転数と実回転数の偏差に応じた基準トルクを演算し、制御回転数が実回転数よりも大きく、かつ、その偏差が所定値以下のときは補正トルクを0、偏差が所定値以上のときは補正トルクを負の値とし、この補正トルクに基準トルクを加算して入力トルクを演算してもよい。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態に適用されるホイール式油圧ショベルの外観を示す図。
図2は、本発明の実施の形態に係わる制御装置の油圧回路を示す図。
図3は、可変容量油圧ポンプのP−qp線図。
図4は、本発明の実施の形態に適用されるエンジンの全負荷性能曲線を示す図。
図5は、本発明の実施の形態に係わる制御装置のブロック図。
図6は、入力トルクの制御回路の詳細を説明する図。
図7は、エンジン回転数の制御回路の詳細を説明する図、
図8は、エンジン回転数の制御手順を示すフローチャート。
図9は、本発明の実施の形態に係わる制御装置による動作特性を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図1〜図9を参照して本発明による建設機械の制御装置をホイール式油圧ショベルに適用した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、ホイール式油圧ショベルは、走行体1と、走行体1の上部に旋回可能に搭載された旋回体2とを有する。旋回体2には運転室3とブーム4a、アーム4b、バケット4cからなる作業用フロントアタッチメント4が設けられている。ブーム4aはブームシリンダ4dの駆動により起伏し、アーム4bはアームシリンダ4eの駆動により起伏し、バケット4cはバケットシリンダ4fの駆動によりクラウドまたはダンプする。走行体1には油圧駆動による走行用油圧モータ5が設けられ、走行モータ5の回転はプロペラシャフト、アクスルを介して車輪6(タイヤ)に伝達される。
走行用および作業用の油圧回路を図2に示す。可変容量型油圧ポンプ10は、制御弁11を介して油圧モータ5に接続され、制御弁12を介して油圧シリンダ(例えばブームシリンダ4d)に接続されている。制御弁11のパイロットポートは前後進切換弁13を介してパイロットバルブ14に接続され、制御弁12のパイロットポートはパイロットバルブ15に接続されている。
前後進切換バルブ13は図示しないスイッチにより切り換えられ、パイロットバルブ14は走行ペダル14aの操作量に応じて駆動される。スイッチ操作により前後進切換バルブ13を前進位置または後進位置に切り換え、走行ペダル14aを操作すると、制御弁11には油圧源16からのパイロット圧が作用する。これにより制御弁11が駆動されて油圧ポンプ10からの圧油が油圧モータ5に供給され、油圧モータ5の回転により車両を前進または後進させることができる。
一方、パイロットバルブ15は操作レバー15aの操作量に応じて駆動される。操作レバー15aを操作すると、制御弁12には油圧源17からのパイロット圧が作用する。これにより制御弁12が駆動されて油圧ポンプ10からの圧油がブームシリンダ4dに供給され、ブームシリンダ4dの駆動により掘削作業等を行うことができる。
油圧ポンプ10はエンジン20によって駆動され、ポンプ傾転角qpはレギュレータ30により変更される。レギュレータ30にはポンプ吐出圧力がフィードバックされ、馬力制御が行われる。馬力制御とは図3に示すようないわゆるP−qp制御である。これと同時に本実施の形態では、後述するようにスピードセンシングを行って入力トルクを演算し、この入力トルクに応じてポンプ傾転角pqを制御する。これにより図3の矢印に示すように入力トルクが増減される。
本実施の形態では、黒煙の発生を抑制するたために排ガス対応のエンジンが用いられる。図4はエンジンの全負荷性能曲線を示す特性図であり、排ガス対応のエンジン特性を実線で、排ガス対応でないエンジン特性を点線で示す。排ガス対応のエンジンとは、図4に示すように、低回転側の出力トルクTを小さくしたものである。より具体的には最高出力トルクを高回転側にシフトさせるとともに、低回転域から中回転域のトルクライズを小さくし、中回転域から高回転域のトルクライズを大きくしたものである。このような特性のエンジンを用いることで低回転側の燃料消費が抑えられ、黒煙の発生が抑制される。
図5は、本実施の形態に係わる制御装置のブロック図である。エンジン20のガバナレバー21は、リンク機構22を介してパルスモータ23に接続され、パルスモータ23の回転によりエンジン回転数が制御される。すなわちパルスモータ23の正転でエンジン回転数が上昇し、逆転で低下する。このパルスモータ23の回転はコントローラ40からの制御信号により後述するように制御される。ガバナレバー21にはリンク機構22を介してポテンショメータ24が接続され、ポテンショメータ24によりエンジン20の回転数に応じたガバナレバー角度を検出し、エンジン制御回転数Nθとしてコントローラ40に入力される。
さらにコントローラ40には、エンジン20の実回転数Nrを検出する回転数センサ31と、ブレーキスイッチ32と、前後進切換弁13の切換位置を検出する位置センサ33と、エンジン回転数指令用の操作部材である燃料レバー34の操作量Xを検出する検出器35と、走行ペダル14aの操作量に応じたパイロット圧力Ptを検出する圧力センサ36が接続されている。
ブレーキスイッチ32は走行、作業および駐車位置に切り換えられて作業/走行信号を出力する。走行位置に切り換えられると駐車ブレーキを解除し、ブレーキペダルによりサービスブレーキの作動を許容する。作業位置に切り換えられると駐車ブレーキとサービスブレーキを作動する。駐車位置に切り換えられると駐車ブレーキを作動する。走行位置に切り換えられるとブレーキスイッチ32はオン信号を出力し、作業および駐車位置に切り換えられるとオフ信号を出力する。
コントローラ40は、入力トルクを制御するトルク制御部40Aとエンジン回転数を制御する回転数制御部40Bとを有する。図6は、トルク制御部40Aの詳細を説明する概念図である。
トルク制御部40Aは、エンジン実回転数Nrと制御回転数Nθの偏差ΔNを演算する偏差演算部41と、基準トルクTB1,TB2をそれぞれ演算する基準トルク演算部42,43と、補正トルクΔT1,ΔT2をそれぞれ演算する補正トルク演算部44,45と、係数をそれぞれ演算する係数演算部46,47と、補正トルクΔT1,ΔT2と係数をそれぞれ乗じる乗算部48,49と、乗算後の補正トルクΔT1,ΔT2と基準トルクTB1,TB2をそれぞれ加算して目標入力トルクT1,T2を演算する加算部50,51と、目標入力トルクT1,T2の一方を選択する選択部52と、選択した目標入力トルクT1またはT2に制御するための制御信号iを出力する変換部53とを有する。
基準トルク演算部42と補正トルク演算部44と係数演算部46にはそれぞれ作業に適した特性が設定され、基準トルク演算部43と補正トルク演算部45と係数演算部47にはそれぞれ走行に適した特性が設定される。
トルク制御部40Aにおける演算について詳細に説明する。
偏差演算部41は、回転数センサ31で検出されたエンジン実回転数Nrとポテンショメータ24で検出された制御回転数Nθとの偏差ΔN(=Nr−Nθ)を演算し、この偏差ΔNは補正トルク演算部44,45にそれぞれ入力される。各補正トルク演算部44,45には、図示のように偏差ΔNと補正トルクΔT1、ΔT2の関係が予め記憶されており、この特性から偏差ΔNに応じた補正トルクΔT1,ΔT2をそれぞれ演算する。
補正トルク演算部44の特性によれば、偏差ΔNが正のとき補正トルクΔT1も正であり、偏差ΔNの増加に伴い補正トルクΔT1は比例的に増加する。偏差ΔNが負のとき補正トルクΔT1も負であり、偏差ΔNの減少に伴い補正トルクΔT1は比例的に減少(|ΔT1|は増加)する。この場合、偏差ΔNが正のときの特性の傾きは、偏差ΔNが負のときの特性の傾きに等しい。
一方、補正トルク演算部45の特性によれば、偏差ΔNが正のとき補正トルクΔT2も正であり、偏差ΔNの増加に伴い補正トルクΔTは比例的に増加する。これに対して偏差ΔNが負のときは、偏差ΔNが0から所定値N2までは補正トルクΔT2は0であり、偏差ΔNが所定値N2より小さくなると偏差ΔNの減少に伴い補正トルクΔT2は比例的に減少する。偏差ΔNが所定置N2より小さいときの特性の傾きは、偏差ΔNが正のときの特性の傾きより急である。
各基準トルク演算部42,43には、図示のように制御回転数Nθと基準トルクTB1,TB2の関係が予め記憶され、この特性から制御回転数Nθに応じた基準トルクTB1,TB2をそれぞれ演算する。各係数演算部46,47には、図示のように制御回転数Nθに対して係数が比例的に増加する特性が予め記憶され、この特性から制御回転数Nθに応じた係数を演算する。各乗算部48,49は、補正トルク演算部44,45で演算された補正トルクΔT1,ΔT2に係数演算部46,47で演算された係数を乗じる。
各加算部50,51は、乗算部48,49で乗算された補正トルクΔTと基準トルク演算部42,43で演算された基準トルクTB1,TB2をそれぞれ加算し、目標入力トルクT1,T2を演算する。
選択部52は、ブレーキスイッチ32と位置センサ33と圧力センサ36からの信号により車両走行か否かを判定する。すなわち、ブレーキスイッチ32がオフし、かつ、前後進切換弁13が中立位置以外にあり、かつ、走行ペダル14aの操作によるパイロット圧Ptが所定値以上のとき車両走行と判定し、これ以外の条件では車両非走行と判定する。そして、車両走行時には目標入力トルクT2を選択し、車両非走行時(例えば作業時)には目標入力トルクT1を選択する。
変換部53は、選択された目標入力トルクT1またはT2に応じた制御信号iを演算する。図示は省略するが、ポンプレギュレータ30には傾転角調整用シリンダとこのシリンダへの圧油の流れを制御する電磁弁が設けられ、この電磁弁に変換部53からの制御信号iが出力される。これによりポンプ傾転角qpが変更され、入力トルクが目標入力トルクT1またはT2に制御される。
図7は、回転数制御部40Bの詳細を説明する概念図である。目標回転数演算部61には、図示のように検出器35による検出値Xと目標回転数Nxの関係が予め記憶されており、この特性から燃料レバー34の操作量に応じた目標回転数Nxを演算する。目標回転数演算部62には、図示のように圧力センサによる検出値Ptと目標回転数Ntの関係が予め記憶されており、この特性から走行ペダル14aの操作量に応じた目標回転数Ntを演算する。
この場合、各目標回転数演算部61,62の特性とも、操作量の増加に伴い目標回転数Nx,Ntがアイドル回転数Niから直線的に増加している。目標回転数演算部61の最大目標回転数Nxmaxはエンジン20の最高回転数よりも低く設定され、目標回転数演算部62の最大目標回転数Ntmaxはエンジン20の最高回転数にほぼ等しく設定されている。したがって最大目標回転数Ntmaxは最大目標回転数Nxmaxよりも大きい。
選択部63は、目標回転数演算部61,62で演算された目標回転数Nx,Ntのうち大きい方の値を選択する。サーボ制御部64は、選択された回転数(回転数指令値Nin)とポテンショメータ24により検出されたガバナレバー21の変位量に相当する制御回転数Nθとを比較する。そして、図8に示す手順にしたがって両者が一致するようにパルスモータ23を制御する。
図8において、まずステップS21で回転数指令値Ninと制御回転数Nθとをそれぞれ読み込み、ステップS22に進む。ステップS22では、Nθ−Ninの結果を回転数差Aとしてメモリに格納し、ステップS23において、予め定めた基準回転数差Kを用いて、|A|≧Kか否かを判定する。肯定されるとステップS24に進み、回転数差A>0か否かを判定し、A>0ならば制御回転数Nθが回転数指令値Ninよりも大きい、つまり制御回転数が目標回転数よりも高いから、エンジン回転数を下げるためステップS25でモータ逆転を指令する信号をパルスモータ23に出力する。これによりパルスモータ23が逆転しエンジン回転数が低下する。
一方、A≦0ならば制御回転数Nθが回転数指令値Ninよりも小さい、つまり制御回転数が目標回転数よりも低いから、エンジン回転数を上げるためステップS26でモータ正転を指令する信号を出力する。これにより、パルスモータ23が正転し、エンジン回転数が上昇する。ステップS23が否定されるとステップS27に進んでモータ停止信号を出力し、これによりエンジン回転数が一定値に保持される。ステップS25〜S27を実行すると始めに戻る。
次に、本実施の形態に係わる制御装置の特徴的な動作について説明する。
車両走行開始時には、ブレーキスイッチ32を走行位置に操作し、前後進切換弁13を前進または後進位置に切り換える。この状態で、例えば燃料レバー34をアイドル位置に操作するとともに、駆動力を最大に発揮するために走行ペダル14aを最大操作すると、油圧ポンプ10からの圧油により走行モータ5が駆動され、車両が走行を開始する。このとき走行ペダル14aによる目標回転数Ntは燃料レバー34による目標回転数Nxより大きいので、選択部63は回転数指令値Ninとして目標回転数Ntを選択し、図8の手順にしたがい実際の回転数が回転数指令値Ninに一致するようにガバナレバー位置を制御する。これによりガバナレバー21が大きく変位し、図9(a)に破線で示すように制御回転数Nθが増加する。
制御回転数Nθが増加すると実際のエンジン回転数Nrも増加するが、エンジン実回転数Nrが制御回転数Nθに達するまでにはタイムラグがあるため、このタイムラグの間は偏差ΔNは負となる。この場合のエンジン出力トルクTは図9(b)に示すとおりであり、この特性は図4の特性から導かれる。
車両走行時において、選択部52は目標入力トルクT2を選択する。したがって、トルク制御部40Aは補正トルク演算部45の特性に基づいてスピードセンシングを行う。走行ペダル14aの操作開始直後は偏差|ΔN|が所定値N2より大きいため、補正トルク演算部45は負の補正トルクΔT2を演算する。したがって図9(b)に示すように走行開始時の入力トルクT2は出力トルクTよりも小さくなり、エンジンストールを回避することができる。
エンジン実回転数Nrが上昇して偏差|ΔN|が減少すると、それに伴い負の補正トルクΔT2は減少し、偏差|ΔN|が所定値N2以下になると補正トルクΔT2は0になる。このように偏差|ΔN|が0になる前に補正トルクΔTを0にすることで、入力トルクT2を基準トルクTB2相当まで早期に回復することができ、良好な加速性を得ることができる。なお、図9(b)に示すように、入力トルクT2が増加する過程で、短期的に入力トルクT2が出力トルクTを上回るおそれがあるが、入出力トルクの差(T−T2)は小さいため、実用上問題ない。なお、上記実施の形態は、車両にかかる負荷が大きくなる場合により効果的であり、走行開始時だけでなく登坂走行時においても同様に動作する。
図9(b)の特性T20は、従来の入力トルク特性、すなわち偏差ΔNが負の場合に補正トルクΔTを一律に0に保持する場合の特性である。この特性によれば、偏差ΔNが負の場合に入力トルクT20は基準トルクよりも小さくならない。したがって、出力トルクの小さい排ガス対応のエンジンを用いると、走行開始時の入力トルクT20がエンジン出力トルクTを上回り、エンジンストールを引き起こすおそれがある。
作業時にはブレーキスイッチ32を作業位置に操作するとともに、前後進切換弁13を中立位置に切り換える。この状態で走行ペダル14aの操作をやめて燃料レバー34を所定量操作すると、回転数制御部40Bの選択部63は回転数指令値Ninとして燃料レバー34による目標回転数Nxを選択し、実際の回転数が回転数指令値Ninに一致するようにガバナレバー位置を制御する。このときトルク制御部40Aの選択部52は目標入力トルクT1を選択し、トルク制御部40Aは補正トルク演算部44の特性に基づいてスピードセンシングを行う。補正トルク演算部44の偏差ΔNが負のとき補正トルクΔTも負であるため、図9(c)に示すように入力トルクT1は出力トルクTよりも常に小さくなる。
本実施の形態によれば以下のような効果を奏することができる。
(1) エンジン実回転数Nrと制御回転数Nθの偏差ΔNが負で、かつ、偏差|ΔN|が所定値N2より大きいときは補正トルクΔT2を負にし、|ΔN|が所定値N2以下のときは補正トルクΔT2を0にするようにした。これにより排ガス対応のエンジンを用いた場合であっても、走行開始時の入力トルクT2を出力トルクTより小さくすることができ、エンジンストールを防止することができるとともに、良好な加速性を確保することができる。
(2)偏差ΔNが負で、かつ、偏差|ΔN|が所定値N2より大きいときの補正トルクΔTの傾きを、少なくとも偏差ΔNが正のときの補正トルクΔTの傾きより大きくした。これにより、偏差ΔNが所定値N2に近づいたときに入力トルクT2を早期に基準トルクTB2まで回復することができるとともに、偏差ΔNが正のときのハンチングも防止できる。
(3)走行と非走行で補正トルクΔTを算出するための特性を変更し、非走行時には加速性がさほど問題にならないため、偏差ΔNが負のとき補正トルクΔTも負になるようにした。これにより、作業時には常に入力トルクT1を出力トルクT以下に抑えることができる。
なお、上記実施の形態では、偏差ΔNがN2≦ΔN≦0の範囲で補正トルクΔT2を0にしたが、偏差ΔNが負の場合に所定値N2を境にして補正トルクΔT2の傾きを2段階に変更するような特性をもつのであれば、補正トルクΔT2を必ずしも0にしなくてもよい。
以上では、車両走行時に走行用油圧モータ5の加速性を確保する例を示したが、これに限定されず、例えば車両の上部旋回体を旋回させる旋回用油圧モータに適用してもよい。したがって、操作手段も走行ペダル14aに限定されない。
【産業上の利用の可能性】
以上では、建設機械としてホイール式油圧ショベルを例に挙げて説明したが、ホイール式以外の建設機械にも本発明を適用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動される可変容量油圧ポンプと、
この油圧ポンプからの吐出油により駆動される油圧アクチュエータと、
前記原動機の実回転数を検出する回転数検出手段とを有する建設機械における制御装置において、
前記操作手段の操作量に応じて前記原動機の回転数を制御する原動機制御手段と、
前記回転数検出手段により検出された実回転数と前記操作手段の操作による制御回転数との偏差に応じて前記油圧ポンプの入力トルクを増減する入力トルク制御手段とを備え、
前記入力トルク制御手段は、制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値以上のとき、入力トルクを減少するような制御を行うことを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項2】
原動機により駆動される可変容量油圧ポンプと、
この油圧ポンプからの吐出油により駆動される油圧アクチュエータと、
前記原動機の実回転数を検出する回転数検出手段とを有する建設機械における制御装置において、
前記操作手段の操作量に応じて前記原動機の回転数を制御する原動機制御手段と、
前記回転数検出手段により検出された実回転数と前記操作手段の操作による制御回転数との偏差に応じて前記油圧ポンプの入力トルクを増減する入力トルク制御手段とを備え、
前記入力トルク制御手段は、制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が所定値以上のとき、偏差が前記所定値未満のときより入力トルクを大きく減少するような制御を行うことを特徴とする建設機械の制御装置。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の建設機械の制御装置において、
前記入力トルク制御手段は、制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が前記所定値未満のときには、入力トルクの増減量を0にする。
【請求項4】
請求の範囲第1項〜第3項のいずれか1項に記載の建設機械の制御装置において、
前記入力トルク制御手段は、制御回転数が実回転数より小さいとき、その偏差の増加に伴い入力トルクを増加するような制御を行い、
制御回転数が実回転数より大きく、かつ、その偏差が前記所定値以上のときの入力トルクの変化率を、制御回転数が実回転数より小さいときの入力トルクの変化率よりも大きくする。
【請求項5】
請求の範囲第1項〜第4項のいずれか1項に記載の建設機械の制御装置において、
前記油圧アクチュエータは、走行用油圧モータであり、前記操作手段は走行ペダルである。
【請求項6】
請求の範囲第5項に記載の建設機械の制御装置において、
走行、非走行を検出する走行検出手段を備え、
前記入力トルク制御手段は、制御回転数が実回転数より大きいときに前記走行検出手段により非走行が検出されると、走行が検出されたときよりも入力トルクを大きく減少する。
【請求項7】
原動機により駆動される可変容量油圧ポンプと、
この油圧ポンプからの吐出油により駆動される油圧アクチュエータと、
前記原動機の実回転数を検出する回転数検出手段と、
請求の範囲第1項〜第6項に記載の制御装置とを備えるホイール式油圧ショベル。
【請求項8】
原動機により駆動される可変容量油圧ポンプと、この油圧ポンプからの吐出油により駆動される油圧アクチュエータとを少なくとも有する油圧回路により入力される入力トルク演算方法は、
前記原動機の制御回転数と実回転数の偏差に応じた基準トルクを演算し、
制御回転数が実回転数よりも大きく、かつ、その偏差が所定値以下のときには補正トルクを0にし、偏差が前記所定値以上のときは補正トルクを負の値とし、
この補正トルクに前記基準トルクを加算して入力トルクを演算する。

【国際公開番号】WO2004/029460
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539439(P2004−539439)
【国際出願番号】PCT/JP2002/009967
【国際出願日】平成14年9月26日(2002.9.26)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】