説明

建設機械の油圧制御装置

【課題】作業装置の搬送対象物の重量が変化しても旋回ブーム上げの操作性が良好な建設機械の油圧制御装置を提供すること。
【解決手段】建設機械の油圧制御装置において、上部旋回体1を旋回する旋回モータ24と、旋回モータ24に作動油を供給する油圧ポンプ30と、ブームシリンダ16に作動油を供給する油圧ポンプ20と、ブームシリンダ16のボトム圧Pbを検出する圧力センサ37と、バケット12内の重量が変化しても、旋回ブーム上げ動作における上部旋回体1の旋回速度とブーム10の上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めた旋回モータ24の目標容量であって、圧力センサ37で検出されるボトム圧Pbごとに定めた目標容量qmに、旋回モータ24の容量を設定する制御油圧回路103を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械の1つである油圧ショベル(掘削機械)は、ブーム、アーム及びバケット(アタッチメント)を有する多関節型の作業装置(フロント)と、この作業装置が取り付けられた上部旋回体と、この上部旋回体の下方に取り付けられた下部走行体を備えており、油圧によって各アクチュエータを駆動している。油圧ショベルにおいて複数のアクチュエータを同時に操作する複合操作には、上部旋回体を旋回させながらブームを上昇させるいわゆる旋回ブーム上げがある。旋回ブーム上げは、ダンプトラック等への積み込み作業時等に繰り返し行われる複合操作であり、油圧ショベルで頻繁に行われる。昨今の油圧ショベルには、この旋回ブーム上げにおけるオペレータの操作性を向上させるために、上部旋回体を旋回する旋回モータ(旋回装置)と、ブームを回動させるブームシリンダとをそれぞれ別のポンプで駆動しているものがある。
【0003】
ところで、作業装置の搬送対象物の重量(バケット内重量)が変化すると、ブームシリンダの負荷が変化したり、旋回モータの旋回対象である上部旋回体の重量が変化したりする。そのため、旋回ブーム上げ動作における上部旋回体の旋回速度(旋回量)とブームの上昇速度(ブーム上昇量)のバランスがバケット内重量に応じて変化し、オペレータの操作性が低下することがある。
【0004】
例えば、バケット内重量が増加すると、ブームシリンダの負荷が上昇してブームシリンダに作動油を供給するポンプの最大流量が低減し、バケットが空の場合よりもブーム上昇速度が低減することがある。この場合には、上記のように旋回モータとブームシリンダを別ポンプで駆動しても、ブーム上昇速度に対して旋回速度が相対的に速くなって操作性が低下してしまう。なお、この操作性の低下は、旋回モータへの負荷が小さくなったときに顕著となる。これは、上部旋回体は旋回モータに対して慣性負荷として作用するため、旋回ブーム上げにおける旋回速度は、旋回モータへの負荷が大きい旋回開始直後よりも、旋回開始時から時間が経過して負荷が小さくなったときの方が速くなるからである。
【0005】
この点の改善を図った技術としては、ブームシリンダのボトム圧を検出する圧力検出手段と、上部旋回体を旋回する固定容量型の旋回モータと、当該旋回モータに作動油を供給する可変容量型ポンプと、前記圧力検出手段の検出信号に基づいて前記可変容量型ポンプの吐出流量を制御する制御手段を備えた油圧制御装置がある(特許文献1参照)。この油圧制御装置は、バケット内重量が重くてブームシリンダのボトム圧が高いときには、前記制御手段を利用して可変容量型ポンプの吐出流量を当該ボトム圧に応じて低減させ、旋回モータの負荷が比較的小さいときのブーム上昇速度と旋回速度の差を小さくすることにより、旋回ブーム上げの操作性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−60047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、バケット内重量の変化は、旋回モータへの負荷が大きい旋回開始時においても、旋回速度とブーム上昇速度のバランスに影響を与えるおそれがある。
【0008】
上部旋回体は旋回モータに対して慣性負荷として作用するため、旋回モータに最も大きな旋回力(トルク)が必要とされるのは旋回開始時である。そのため、油圧ショベルの旋回モータとしては、バケット内が搬送対象物で満たされている場合にも上部旋回体を充分に旋回できることが必要である。このような旋回モータを利用すると、バケット内が空のときには、バケット内に搬送対象物が有る状態と比較して小さな旋回力で旋回し始めることができる。そのため、バケット内が空のときに旋回ブーム上げを行うと、バケット内に搬送対象物が有る場合と比較してブーム上昇速度に対して旋回速度が相対的に速くなってしまい、操作性が低下することがある。
【0009】
この課題に対して、上記技術のように、ブームシリンダのボトム圧の増加に応じて可変容量型ポンプの吐出流量を低減させても、旋回モータの最大速度が低減するものの、旋回モータのトルク(加速度)は変化しないので、ブーム上昇速度に合わせて旋回速度を低減することは難しい。これは、上部旋回体は大きな慣性を有するため、その旋回動作は、旋回モータの加速域で主に行われ、旋回速度が最大速度に達する領域で行われることは少ないからである。すなわち、上記技術では、旋回動作の大半が行われる加速域での旋回速度を低減させることができないので、旋回ブーム上げの操作性を向上させることは難しい。
【0010】
本発明の目的は、作業装置の搬送対象物の重量が変化しても旋回ブーム上げの操作性が良好な建設機械の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、下部走行体と、この下部走行体に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、この上部旋回体に上下方向に回動可能に支持されたブームを含む作業装置とを備える建設機械の油圧制御装置において、前記上部旋回体を旋回する可変容量型のモータと、このモータに作動油を供給する第1油圧ポンプと、前記ブームを回動するブームシリンダと、このブームシリンダに作動油を供給する第2油圧ポンプと、前記ブームシリンダのボトム圧を検出する圧力検出手段と、前記作業装置の搬送対象物の重量が変化しても、旋回ブーム上げ動作における前記上部旋回体の旋回速度と前記ブームの上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めた前記モータの目標容量であって、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧ごとに定めた目標容量に、前記モータの容量を設定するモータ容量制御手段とを備えるものとする。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記目標容量は、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第1閾値から第2閾値に至るまでの間では、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧の増加に伴って増加するように設定されているものとする。
【0013】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記目標容量は、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第3閾値未満のとき、一定に保持されており、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第3閾値以上のとき、前記ボトム圧が第3閾値未満のときにおける値より相対的に高い値で一定に保持されているものとする。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)いずれかにおいて、好ましくは、前記圧力検出手段は圧力センサであり、前記モータ容量制御手段は、前記モータの容量を変化させるレギュレータと、前記圧力センサで検出されるボトム圧に基づいて前記目標容量を算出し、前記レギュレータを制御して前記モータの容量を前記目標容量に設定する制御装置とを有するものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業装置の搬送対象物の重量に応じて旋回モータのトルクを変化させることができるので、旋回ブーム上げの操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの外観図。
【図2】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの油圧制御装置を示す図。
【図3】本発明の実施の形態におけるコントローラの処理フロー図。
【図4】本発明の実施の形態におけるボトム圧Pbと目標容量qm及び目標圧力Prとの関数関係を示す図。
【図5】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルにおいて、ボトム圧Pbの変化に応じて容量を変化させたときの旋回モータのトルク変化を、上部旋回体の旋回速度の時間変化で示した図。
【図6】本発明の実施の形態におけるボトム圧Pbと目標容量qm及び目標圧力Prとの他の関数関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、下部走行体1と、下部走行体1の上に旋回可能に取り付けられた上部旋回体2と、上部旋回体2に支持された作業装置(フロント)3を備えている。下部走行体1は左側走行モータ1a及び右側走行モータ(図示せず)によって駆動され、上部旋回体2は旋回モータ24(図2参照)によって旋回される。また、下部走行体1を構成する2つの履体51の間にはブレードシリンダ(図示せず)によって駆動されるブレード(排土板)52が取り付けられている。
【0019】
作業装置3は、上部旋回体2に上下方向に回動可能に支持されたブーム10と、ブーム10に上下方向に回動可能に支持されたアーム11と、アーム11に上下方向に回動可能に支持されたバケット(アタッチメント)12と、上部旋回体2(スイングポスト53)とブーム10に架け渡されブーム10を回動するブームシリンダ16と、ブーム10とアーム11に架け渡されアーム11を回動するアームシリンダ17と、アーム11とバケット12にリンク機構を介して架け渡されバケット12を回動するバケットシリンダ18を備えている。
【0020】
なお、バケット12に代わりにグラップル等のアタッチメントを使用しても良い。また、ブーム10はさらに上部旋回体2に対して左右方向に揺動可能に支持しても良い。この場合の構成としては、図1に示すように、スイングポスト53を介してブーム10を上部旋回体2に取り付けて、スイングポスト53と上部旋回体2に架け渡したブームスイングシリンダ54によってブーム10を左右方向に揺動させるものがある。さらに、スイングポスト53を設置する代わりに、ブーム10を2つに分割し、アーム11側のブームと上部旋回体2側のブームにシリンダ(オフセットシリンダ)を架け渡して、アーム11及びバケット12をオフセット可能に構成しても良い。
【0021】
図2は図1に示した油圧ショベルの油圧制御装置を示す図である。この図に示す油圧制御装置は、可変容量型の油圧ポンプ20を油圧源とする第1油圧回路101と、可変容量型の油圧ポンプ30を油圧源とする第2油圧回路102と、旋回モータ24の容量を制御する制御油圧回路103を備えている。油圧ポンプ20及び油圧ポンプ30は同じエンジン19によって回転駆動される。なお、図2では油圧ポンプ20,30は可変容量型のものとなっているが、固定容量型のものを利用しても良い。
【0022】
第1油圧回路101は、ブームシリンダ16と、ブームシリンダ16のボトム圧Pbを検出する圧力センサ(圧力検出手段)37と、油圧ポンプ20からブームシリンダ16に供給される作動油(圧油)の流れ(方向と流量)を制御する方向制御弁23と、油圧ポンプ20の最高吐出圧を規定するメインリリーフ弁31aを有している。
【0023】
ブームシリンダ16はアクチュエータライン23a,23bを介して方向制御弁23と接続されている。圧力センサ37は、ボトム圧Pbを介してバケット12内の重量(作業装置3の搬送対象物の重量)の変化を監視するためのものであり、ブームシリンダ16のボトム側に接続されたアクチュエータライン23bに取り付けられている。圧力センサ37は、制御油圧回路103におけるコントローラ28に検出信号(ボトム圧)を出力している。
【0024】
方向制御弁23は、センターバイパスタイプの弁であり、吐出路20aに接続されたセンターバイパスライン32上に配置されている。方向制御弁23におけるセンターバイパスライン32の下流側は、タンクに接続されている。また、方向制御弁23は、油圧パイロット切り換え方式の弁であり、操作レバー(ブーム操作装置)21からのパイロット圧によって切り換え操作される。メインリリーフ弁31aは油圧ポンプ20の吐出路20aに接続されている。
【0025】
第2油圧回路102は、上部旋回体2を旋回する可変容量型の旋回モータ24と、油圧ポンプ30から旋回モータ24に供給される作動油の流れ(方向と流量)を制御する方向制御弁27と、油圧ポンプ30の最高吐出圧を規定するメインリリーフ弁31bを有している。
【0026】
旋回モータ24は、アクチュエータライン27a,27bを介して方向制御弁27と接続されており、旋回モータ24の容量は、斜板41の傾転角を制御するレギュレータ42によって変更される。レギュレータ42は、ばね43(付勢手段)を介して旋回モータ24の斜板41と接触するプランジャ44を備えている。プランジャ44は、制御油圧回路103を介して供給される作動油の圧力に応じて移動し、旋回モータ24の容量を変更する。詳細は後述するが、本実施の形態におけるプランジャ44には、ブームシリンダ16のボトム圧Pbに応じて定められた圧力(目標圧力Pr)に保持された作動油が供給されており、旋回モータ24の容量はブームシリンダ16のボトム圧Pbに基づいて制御されている。
【0027】
方向制御弁27は、方制御弁23と同様にセンターバイパスタイプの弁であり、吐出路30aに接続されたセンターバイパスライン34上に配置されている。方向制御弁27におけるセンターバイパスライン34の下流側は、タンクに接続されている。また、方向制御弁27は、方制御弁23と同様に油圧パイロット切り換え方式の弁であり、操作レバー(旋回操作装置)26からのパイロット圧によって切り換え操作される。メインリリーフ弁31bは油圧ポンプ30の吐出路30aに接続されており、アクチュエータライン27a,27bには、メインリリーフ弁31bよりも低いリリーフ圧に設定されたオーバーロードリリーフ弁25a,25bが設けられている。
【0028】
制御油圧回路(モータ容量制御手段)103は、旋回モータ24の容量を目標容量qmに設定するための回路であり、目標容量qmに基づいて設定した目標圧力Prに保持した作動油をレギュレータ42(プランジャ44)に供給している。ここで、目標容量qmとは、作業装置3の搬送対象物の重量(バケット12内の重量)が変化しても、旋回ブーム上げ動作における上部旋回体2の旋回速度とブーム10の上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めた旋回モータ24の容量であり、圧力センサ37で検出されるボトム圧Pbごとに定められている。また、目標圧力Prとは、旋回モータ24の容量を目標容量qmに設定するために定めた圧力であって、制御油圧回路103を介してプランジャ44に供給すべき作動油の圧力である。すなわち、本実施の形態における制御油圧回路103は、目標圧力Prに保持した作動油をプランジャ44に供給することで、旋回モータ24の容量を目標容量qmに設定している。
【0029】
図2に示す制御油圧回路103は、レギュレータ42と、コントローラ(制御装置)28を有している。コントローラ28は、圧力センサ37で検出されるボトム圧Pbに基づいて目標容量qmを算出し、レギュレータ42を制御して旋回モータ24の容量を目標容量qmに設定するものである。本実施の形態におけるコントローラ28は、レギュレータ42の制御を行うために、制御油圧回路103に設置されたパイロットポンプ39、電磁比例弁29及びパイロットリリーフ弁35を用いている。
【0030】
パイロットポンプ39は固定容量型のポンプである。電磁比例弁29は、プランジャ44に供給される作動油の圧力を目標圧力Prに調節するもので、パイロットポンプ39とレギュレータ42を接続するアクチュエータライン39aに設置されている。電磁比例弁29は、通電される指令電流の大きさ(指令電流値)に応じた電磁力を発生し、当該電磁力によって電磁比例弁29を駆動するソレノイド部29aを備えている。ソレノイド部29aに通電される指令電流値はコントローラ28によって制御されており、電磁比例弁29は、その指令電流値に応じて発生する電磁力によって動作し、その動作量に応じた制御圧を発生する。パイロットリリーフ弁35は、電磁比例弁29の下流側に位置する吐出路39bに設置されており、電磁比例弁29の下流側における圧力を一定(リリーフ圧Pr0)に保持している。
【0031】
図3は本発明の実施の形態におけるコントローラ28の処理フロー図である。この図に示すように、コントローラ28は、まず、圧力センサ37から出力されるボトム圧Pbを検出し(S101)、当該検出したボトム圧Pbに基づいて目標容量qmを算出する(S102)。S102において目標容量qmの算出する際には、コントローラ28は図4に示すボトム圧Pbと目標容量qmとの関数関係を利用する。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態におけるボトム圧Pbと目標容量qm及び目標圧力Prとの関数関係を示す図である。この関数関係はコントローラ28のメモリ(図示せず)等に記憶されている。この図に示す目標容量qmは、先述のように、バケット12内の重量が変化しても、旋回ブーム上げ動作における上部旋回体2の旋回速度とブーム10の上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めたものであり、ボトム圧Pbごとに定められている。
【0033】
図4に示すように、本実施の形態の旋回モータ24の目標容量(qm)は、(1)ボトム圧(Pb)がPb1(第1閾値)以下のときにはqm1に保持され、(2)ボトム圧がPb1からPb3(第2閾値)に至るまでの間では、ボトム圧の増加に伴って比例関係でqm1からqm3まで増加し、(3)ボトム圧がPb3以上のときにはqm3に保持される。すなわち、本実施の形態の目標容量qmは、バケット12内の重量と旋回モータ24のトルクが一定区間において比例するように、バケット12内の重量が軽いときに小さくなるように設定されている。例えば、S101で検出したボトム圧がPb2のときには、コントローラ28は、図4の関数関係に基づいて目標容量をqm2と算出する。
【0034】
S102においてボトム圧Pbから目標容量qmを算出したら、コントローラ28は目標容量qmに基づいて目標圧力Prを算出する(S103)。本実施の形態における目標圧力Prは、目標容積qmと同様に図4に示した関数関係から得ることができる。したがって、例えば、目標容積がqm1のときには目標圧力をPr1とすれば良く、目標容積がqm2のときには目標圧力をPr2とすれば良い。なお、ここでは、ボトム圧Pbから目標容量qmを算出してから目標圧力Prを算出したが、図4に示す関数関係を利用する等して、ボトム圧Pbから目標圧力Prを直接算出しても良い。
【0035】
S103において目標圧力Prを算出したら、コントローラ28は、当該目標圧力Prに保持された作動油が電磁比例弁29を介してレギュレータ42に供給されるように、電磁比例弁29のソレノイド部29aへ出力すべき指令電流値(指令信号)を算出する(S104)。例えば、電磁比例弁29が減圧弁で目標圧力がPr1のときには、パイロットリリーフ弁35のリリーフ圧Pr0に保持された作動油を電磁比例弁29で減圧して目標圧力Pr1とすれば良いので、電磁比例弁29で減圧する圧力(制御圧)がPr0−Pr1となるように指令電流値を算出すれば良い。
【0036】
このようにS104で指令電流値を算出したら、コントローラ28はその値に設定された指令電流をソレノイド部29aに出力する(S105)。これにより、電磁比例弁29が動作し、目標圧力Prに保持された作動油がレギュレータ42に供給されるので、斜板41の傾転角が変更されて旋回モータ24の容量がS102で算出した目標容量qmに設定される。
【0037】
上記のように旋回モータ24の容量がqmに設定された油圧ショベルにおいて、旋回ブーム上げ動作を行うとき、オペレータは、操作レバー21をブーム10の上昇方向に操作しつつ、操作レバー26を所望の旋回方向に操作する。操作レバー26が操作されると、油圧ポンプ30からの作動油が方向制御弁27を介して旋回モータ24へ供給され、旋回モータ24はその駆動圧と容量qmの積によって規定されるトルクでもって上部旋回体2の旋回を開始する。なお、旋回開始時における旋回モータ24の駆動圧はオーバーロードリリーフ弁25a,25bのリリーフ圧まで上昇するので、旋回開始時における旋回モータ24のトルクは専らその容量である目標容量qmによって規定される。
【0038】
図5は、本発明の実施の形態に係る油圧ショベルにおいて、ボトム圧Pbの変化に応じて容量を変化させたときの旋回モータ24のトルク変化を、上部旋回体2の旋回速度の時間変化で示した図である。この図に示すように、目標容量qmが大きくなるほど時間当たりの旋回速度の増加量(すなわち、加速度)が大きくなるので、目標容量qmを大きくするほど旋回モータ24のトルクが大きくなることが分かる。なお、各旋回速度は図に示したように所定時間経過後に一定に保持されるが、上部旋回体2の旋回動作は旋回速度が時間ごとに増加する加速域で主に行われるため、これによる影響を受けることは少ない。これは、上部旋回体2は大きな慣性を有するため、旋回ブーム上げ動作において最大速度に到達することは少ないからである。
【0039】
また、参考として、旋回モータ24の容量を一定(qm1とqm2の間の値)とし、油圧ポンプ30の吐出量をQ1,Q2,Q3(Q1<Q2<Q3)と変化させたときの旋回速度の時間変化(すなわち、特許文献1の技術における旋回速度の時間変化に相当)を図5に破線で示した。この場合には、油圧ポンプ30の吐出量を変化させることにより旋回速度の最大値を変化させることができるが、油圧ポンプ30の吐出量を変化させても時間当たりの旋回速度の増加量は変わらない。したがって、旋回モータ24のトルクは変更できないことが分かる。
【0040】
以上のように、本実施の形態の旋回モータ24は、バケット12内の重量変化(ボトム圧Pbの変化)に応じてその容量が目標容量qmに適宜変更され、バケット12内の重量(旋回対象の重量)に適したトルクを発生する。これにより、旋回ブーム上げにおける旋回速度とブーム上昇速度のバランスが、バケット12内の重量変化に伴って大きく変化することが抑制される。
【0041】
ここで、従来の課題に触れつつ、本実施の形態の効果について説明する。
【0042】
従来、固定容量型の旋回モータを備えた油圧ショベルでは、バケット内の重量が変化して旋回モータの旋回対象の重量が変化すると、上部旋回体2を旋回させるために必要なトルクが変わるため、旋回ブーム上げ動作における旋回速度とブーム上昇速度のバランスが変化して操作性が低下することがあった。例えば、バケット内の重量変化によって旋回ブーム上げ時の旋回速度がブーム上昇速度よりも相対的に速くなる場合であって、バケット内の土砂を旋回ブーム上げでダンプトラックの荷台に積み込む作業を行うときには、旋回操作によって作業装置(フロント)がダンプトラックの荷台の位置に到達した時刻にはバケットが荷台の高さまで未だ到達していないという事態が発生し、旋回操作後にブーム上げ操作のみを別途追加する必要がある。
【0043】
これに対し、本実施の形態に係る油圧制御装置は、ブームシリンダ16のボトム圧Pbを検出する圧力センサ37と、作業装置3の搬送対象物の重量が変化しても、旋回ブーム上げ動作における旋回速度とブーム上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めた旋回モータ24の目標容量であって、圧力センサ37で検出されるボトム圧Pbごとに定めた目標容量qmに、旋回モータ24の容量を設定する制御油圧回路103を備えている。このように油圧制御装置を構成すると、バケット12内の重量に適したトルクを旋回モータ24で発生させることができるので、バケット12内の重量が変化して旋回開始時に必要なトルクが変化しても、旋回ブーム上げ動作における旋回速度とブーム上昇速度とのバランスを保持することができる。したがって、本実施の形態の油圧制御装置によれば、作業装置3の搬送対象物の重量が変化しても旋回速度とブーム上昇速度のバランスが保持されるので、旋回ブーム上げの操作性を向上させることができる。
【0044】
なお、上記の実施の形態では、旋回モータ24の目標容量qmは、図4に示すように、ブームシリンダ16のボトム圧がPb1からPb3に至るまでの間、ボトム圧Pbの増加に伴って増加するように設定したが、図6に示すように、例えば、ボトム圧がPb2(第3閾値)未満のときには、目標容量をqm1と一定に保持し、ボトム圧がPb2(第3閾値)以上のときには、目標容量を先のqm1より相対的に高い値のqm3に保持するように設定しても良い。図4のように目標容量qmを設定すると、操作レバー21をハーフ操作する等、ブーム上げの操作量が中間的な値となるような場合に、操作量の多少の違いでトルクが大きく変化することがないので、図6の場合と比較して良好な操作性が得られる。
【0045】
また、本実施の形態では、制御油圧回路103から供給される作動油によってアクチュエータ(プランジャ44)を駆動させて旋回モータ24の容量を変更する構成としているが、斜板41の傾転角を調節可能なモータやソレノイド等をコントローラ28と接続し、旋回モータ24の容量を電気的に変更可能に構成しても良い。
【0046】
さらに、上記の実施の形態におけるコントローラ28は、旋回ブーム上げが行われていることを確認して旋回モータ24の容量制御を行っていないが、旋回動作を独立して行う場合の旋回速度を確保する観点からは、旋回ブーム上げが行われている場合のみ旋回モータ24の容量制御を実施するように構成することが好ましい。この場合には、旋回用の操作レバー26と方向制御弁27を接続する油路に設置され、オペレータによって旋回操作が行われていることを検出する第1パイロット圧センサと、ブーム用の操作レバー21と方向制御弁23を接続する油路に設置され、オペレータによってブーム上昇操作が行われていることを検出する第2パイロット圧センサとを上記油圧制御装置に追加し、前記第1パイロット圧センサ及び前記第2パイロット圧センサの検出値をコントローラ28に出力し、この2つのセンサの検出値に基づいて旋回ブーム上げが行われているか否かを確認すれば良い。
【0047】
ところで、上記の実施の形態で説明した油圧制御装置を、図1に示した小型系油圧ショベル(ミニショベル)に適用する場合には、油圧ポンプ20,30を油圧源とする2つの油圧回路101,102に、第3の油圧ポンプを油圧源とする第3油圧回路(図示せず)を加え、メインの油圧ポンプを3つ有する油圧制御装置を構成することがある。これは、ミニショベルが、一般的な油圧ショベルと比較して、アクチュエータの数が多く、複合操作の正確性が求められる等の理由による。この場合には、例えば、左側走行モータ1a用の方向制御弁及びバケットシリンダ18用の方向制御弁を第1油圧回路101に設置し、ブームスイングシリンダ54用の方向制御弁及びブレードシリンダ(図示せず)用の方向制御弁を第2油圧回路102に設置し、右側走行モータ用の方向制御弁及びアームシリンダ17用の方向制御弁を第3油圧回路に設置することが好ましい。このように、3つの油圧回路を構成すると、作業装置3の操作及び下部走行体1の走行操作と独立して、上部旋回体2の旋回操作を行うことができ、また、ブレード52を利用するドーザ作業においても、ブレード操作と独立して下部走行体1の走行操作を行うことができる。
【0048】
なお、以上ではミニショベルを例に挙げて説明したが、本実施の形態に係る油圧制御装置が他の油圧ショベルにも適用可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 作業装置(フロント)
10 ブーム
12 バケット
16 ブームシリンダ
20 油圧ポンプ
21 操作レバー(ブーム用)
23 方向制御弁(ブーム用)
24 旋回モータ
26 操作レバー(旋回用)
27 方向制御弁(旋回用)
28 コントローラ(制御装置)
29 電磁弁
30 油圧ポンプ
37 圧力センサ
42 レギュレータ
101 第1油圧回路
102 第2油圧回路
103 制御油圧回路
Pb ブームシリンダボトム圧
Pr 目標圧力
qm 目標容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、この下部走行体に旋回可能に取り付けられた上部旋回体と、この上部旋回体に上下方向に回動可能に支持されたブームを含む作業装置とを備える建設機械の油圧制御装置において、
前記上部旋回体を旋回する可変容量型のモータと、
このモータに作動油を供給する第1油圧ポンプと、
前記ブームを回動するブームシリンダと、
このブームシリンダに作動油を供給する第2油圧ポンプと、
前記ブームシリンダのボトム圧を検出する圧力検出手段と、
前記作業装置の搬送対象物の重量が変化しても、旋回ブーム上げ動作における前記上部旋回体の旋回速度と前記ブームの上昇速度とのバランスの変化が抑制されるように定めた前記モータの目標容量であって、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧ごとに定めた目標容量に、前記モータの容量を設定するモータ容量制御手段と
を備えることを特徴とする建設機械の油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械の油圧制御装置において、
前記目標容量は、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第1閾値から第2閾値に至るまでの間では、前記圧力検出手段で検出されるボトム圧の増加に伴って増加するように設定されていることを特徴とする建設機械の油圧制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の建設機械の油圧制御装置において、
前記目標容量は、
前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第3閾値未満のとき、一定に保持されており、
前記圧力検出手段で検出されるボトム圧が第3閾値以上のとき、前記ボトム圧が第3閾値未満のときにおける値より相対的に高い値で一定に保持されていることを特徴とする建設機械の油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか記載の建設機械の油圧制御装置において、
前記圧力検出手段は圧力センサであり、
前記モータ容量制御手段は、
前記モータの容量を変化させるレギュレータと、
前記圧力センサで検出されるボトム圧に基づいて前記目標容量を算出し、前記レギュレータを制御して前記モータの容量を前記目標容量に設定する制御装置とを有することを特徴とする建設機械の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38298(P2011−38298A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186061(P2009−186061)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】