説明

建設機械の油圧駆動装置

【課題】アンロード弁の耐ハンチング特性を犠牲にすることなく、低温時のエンジン始動における油圧ポンプの負荷を低減し、エンジンの始動性を良好にする建設機械の油圧駆動装置を提供することである。
【解決手段】メインリリーフ弁13は付勢力変更装置60を有し、付勢力変更装置60は、ゲートロック弁23及びゲートロックレバー24とともに、メインリリーフ弁13の設定圧力を、手動操作により、通常の第1圧力(例えば25MPa)と、この第1圧力より低く、かつ周囲温度が氷点下であって複数のアクチュエータ5a,5b,…の非駆動時に、油圧ポンプ2の吐出油をアンロード弁9ととともにタンクTに戻すことを可能とするエンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)とに切り換え可能とするリリーフ設定圧力変更手段を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械の油圧駆動装置に係わり、特に、油圧ポンプの吐出圧力が複数のアクチュエータの最高負荷圧力より目標差圧だけ高くなるようにロードセンシング制御を行う油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧駆動装置として、例えば特許文献1に記載のものがある。この特許文献1に記載の油圧駆動装置においては、油圧ポンプ(メインポンプ)の吐出油が導かれる油圧供給回路にメインリリーフ弁とアンロード弁とが接続されている。メインリリーフ弁は一種の安全弁であり、流量制御弁動作時に、アクチュエータの負荷圧が高く、油圧供給回路の圧力(油圧ポンプの吐出圧力)がリリーフ設定圧力(例えば25Mpa)に達すると動作し、回路圧力のそれ以上の上昇を防止する。アンロード弁は、主に、流量制御弁が動作していない条件(中立時)で動作し、油圧供給回路の圧力(油圧ポンプの吐出圧力)をロードセンシング制御の目標圧力(例えば1.5Mpa)より高く、リリーフ設定圧力より低い圧力(例えば2.0Mpa)に制限し、中立時のエネルギロスを低減する。
【0003】
また、メインリリーフ弁のリリーフ設定圧力を通常の第1の値と、この第1の値より大きい高負荷作業用の第2の値に変更可能とした油圧駆動装置が特許文献2等に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−193705号公報
【特許文献2】特開平3−55323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のようなロードセンシング制御を行う油圧駆動装置においては、操作レバーが操作されず、流量制御弁が中立位置にあるときは、油圧ポンプの吐出油は全てアンロード弁を介してタンクに戻る。この状態で油圧ポンプの吐出流量はロードセンシング制御によりある最少流量に制御される。操作レバーの非操作時に油圧ポンプの吐出流量をゼロにせず、最少流量に制御するのは、操作レバーを操作して流量制御弁を中立位置から操作したときのアクチュエータの初期の応答性を確保するためである。このように操作レバーを操作しない(流量制御弁がが中立位置にある)ときであっても油圧ポンプ2は最少流量を吐出しているため、油圧ポンプにはアンロード弁の制御特性に応じた吐出圧力が発生している。
【0006】
また、油圧ポンプの傾転量(容量)を制御するポンプ傾転制御機構は、通常、油圧ポンプの吐出圧力が高くなると油圧ポンプの傾転量を減少させ、油圧ポンプの吐出流量を減らすよう制御するトルク傾転制御部を備えており、エンジンの停止時は、油圧ポンプはそのトルク傾転制御部のばねの作用により最大傾転に制御されている。このためエンジンの始動時は、ロードセンシング制御により油圧ポンプの傾転は最大傾転から最小傾転へと制御される。
【0007】
ところで、油圧ショベル等の建設機械が使用される周囲環境は様々であり、氷点下の低温時、場合によっては−10℃前後又はそれ以下の極低温時に使用される場合もある。このような低温時にキースイッチをONにしてスタータを回しエンジンを始動をした場合、油圧ポンプは上記のようにロードセンシング制御により最大傾転から最小傾転へと制御され、そのときの傾転角(容量)に応じた流量を吐出する。しかし、このときは周囲環境が低温であるため、作動油の粘性上昇が著しく、アンロード弁の応答性も低下してアンロード弁が開弁するのに時間がかかり、圧油供給油路に高圧がこもってしまう。また、作動油の粘性上昇によりロードセンシング制御にも応答遅れが発生し、この応答遅れの間、油圧ポンプの吐出流量が過大となる。その結果、圧油供給油路の圧力(油圧ポンプの吐出圧力)は高圧となり、場合によっては10MPaにも達する。このため油圧ポンプの負荷(エンジン負荷)が過大となり、スタータを回してもエンジンの回転速度が上がらず、エンジン始動性が低下するという問題を生じる。
【0008】
特許文献2に記載の油圧駆動装置においては、メインリリーフ弁のリリーフ設定圧力を通常の第1の値と、この第1の値より大きい高負荷作業用の第2の値に変更可能としたものであり、仮にこのような構成をロードセンシング制御を行う油圧駆動装置に適用したとしても、低温時のエンジン始動には圧油供給油路に高圧が発生し、同様に油圧ポンプの負荷(エンジン負荷)が過大となり、エンジン始動性が低下するという問題を生じる。
【0009】
このような問題を解決する方法として、アンロード弁の応答性を高め、低温時の応答性を確保することが考えられる。しかしながら、操作レバーを操作しない中立位置から操作レバーを徐々に入れた場合、油圧ポンプの吐出圧力が徐々にアンロード弁の設定圧力に近づいてくるため、アンロード弁を介してタンクに戻る作動油の量が少なくなってゆく。この際、アンロード弁に高い応答性を持たせると、その制御が安定せず、発振状態(いわゆるハンチング)に発展してしまうことがある。
【0010】
本発明の目的は、アンロード弁の耐ハンチング特性を犠牲にすることなく、低温時のエンジン始動における油圧ポンプの負荷を低減し、エンジンの始動性を良好にする建設機械の油圧駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するため、本発明は、エンジンと、このエンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される複数のアクチュエータと、前記油圧ポンプから前記複数のアクチュエータに供給される圧油の流量を制御する複数の流量制御弁と、前記複数のアクチュエータの駆動時は前記複数のアクチュエータの最高負荷圧力を検出し、前記複数のアクチュエータの非駆動時はタンク圧を検出し、検出した圧力を信号圧力として出力する最高負荷圧検出手段と、前記油圧ポンプの吐出圧力が前記信号圧力より目標差圧だけ高くなるよう前記油圧ポンプの容量を制御するロードセンシング制御手段と、前記油圧ポンプから吐出された圧油を前記複数の流量制御弁に供給する圧油供給油路に接続され、前記油圧ポンプの吐出圧力が前記信号圧力より設定圧力以上に高くなると開状態となって前記油圧ポンプの吐出油をタンクに戻すアンロード弁と、前記圧油供給油路に接続され、前記油圧ポンプの吐出圧力がリリーフ圧力として設定された第1圧力以上に高くなると開状態となって前記油圧ポンプの吐出油をタンクに戻し、前記圧油供給油路の最高圧力を前記第1圧力以下に制限するメインリリーフ弁と、前記メインリリーフ弁のリリーフ圧力を、手動操作により、前記第1圧力と、この第1圧力より低く、かつ前記複数のアクチュエータの非駆動時に前記油圧ポンプの吐出油を前記アンロード弁ととともにタンクに戻すことを可能とするエンジン始動用の第2圧力とに切り換え可能とするリリーフ設定圧力変更手段とを備えるものとする。
【0012】
このように構成した本発明においては、リリーフ設定圧力変更手段を手動操作することにより、メインリリーフ弁のリリーフ圧力は通常の第1圧力からそれよりも低い、エンジン始動用の第2圧力に切り換わり、メインリリーフ弁は、複数のアクチュエータの非駆動時に油圧ポンプの吐出油をアンロード弁とともにタンクに戻すことが可能となるため、低温時のエンジン始動において、作動油の粘性上昇にるアンロード弁の応答性の低下とロードセンシング制御の応答遅れによって圧油供給油路に高圧が発生することが防止され、油圧ポンプの負荷を低減し、エンジン始動性を向上できる。
【0013】
また、アンロード弁とメインリリーフ弁の両方で油圧ポンプの吐出油をタンクに戻すため、アンロード弁の応答性を特段高める必要が無く、アンロード弁の耐ハンチング特性を犠牲にすることはない。
【0014】
このように本発明は、アンロード弁の耐ハンチング特性を犠牲にすることなく、低温時のエンジン始動における油圧ポンプの負荷を低減し、エンジンの始動性を良好にすることができる。
【0015】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記メインリリーフ弁は、前記メインリリーフ弁の弁体を閉じ方向に付勢して前記メインリリーフ弁のリリーフ圧力を設定するばねを有し、前記リリーフ設定圧力変更手段は、前記メインリリーフ弁の前記ばねの背後に設けられ、かつ油室を有し、この油室の油圧を変更することで前記ばねの付勢力を変更し、前記リリーフ圧力を前記第1圧力と前記第2圧力とに変更する付勢力変更装置と、前記付勢力変更装置の油室をパイロット油圧源とタンクに選択的に連通させるバルブ手段と、前記バルブ手段を切り換える手動操作手段とを有する。
【0016】
これにより手動操作手段を操作してバルブ手段を切り換えると、付勢力変更装置の油室とパイロット油圧源及びタンクとの連通が切り換わり、ばねの付勢力を変更するので、メインリリーフ弁のリリーフ圧力を第1圧力と第2圧力とに簡単かつ確実に切り換えることができる。
【0017】
(3)また、上記(2)において、好ましくは、油圧駆動装置は、パイロットポンプと、このパイロットポンプの吐出油路に接続され、前記パイロットポンプの吐出油に基づいてパイロット一次圧を生成するパイロット一次圧生成部と、前記パイロット一次圧生成部により生成されたパイロット一次圧が導かれるパイロット一次圧油路と、前記パイロット一次圧油路に接続され、前記パイロット一次圧油路に導かれたパイロット一次圧に基づいて前記複数の流量制御弁を切り換えるための制御パイロット圧を生成する複数のリモコン弁と、運転室の入口に設けられ、ロック位置とロック解除位置とに操作されるゲートロックレバーと、前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路との間に介装され、前記ゲートロックレバーが前記ロック位置に操作されたときは前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路との連通を遮断しかつ前記パイロット一次圧油路をタンクに連通させ、前記ゲートロックレバーが前記ロック解除位置に操作されたときは前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路を連通させるゲートロック弁とを更に備え、前記パイロット油圧源は、前記パイロットポンプ及び前記パイロット一次圧生成部により構成され、前記バルブ手段は前記ゲートロック弁であり、前記手動操作手段は前記ゲートロックレバーである。
【0018】
このように既存のゲートロック弁及びゲートロックレバーを利用して、付勢力変更装置の操作手段(バルブ手段及び手動操作手段)を構成することにより、部品点数が低減し、安価な装置構成とすることができるとともに、ゲートロックレバーを操作してゲートロック弁を切り換えると、付勢力変更装置の動作状態も同時に切り換わるため、メインリリーフ弁のリリーフ圧力を第1圧力と第2圧力とに切り換えるための特別な操作が不要となる。
(4)さらに、上記(1)〜(3)において、好ましくは、前記エンジン始動用の第2圧力は、前記ロードセンシング制御手段の目標差圧相当の圧力より高く、前記アンロード弁の設定圧力の2倍以下である。
【0019】
エンジン始動用の第2圧力をロードセンシング制御手段の目標差圧相当の圧力より高くすることにより、ロードセンシング制御手段により油圧ポンプの容量が最大傾転側に増加するよう制御されることが回避され、燃費を低減することができる。
【0020】
また、エンジン始動用の第2圧力をアンロード弁の設定圧力の2倍以下とすることにより、低温時のエンジン始動において油圧ポンプの負荷を確実に軽減し、エンジン始動性を良好にすることができる。
(5)また、上記(1)〜(3)において、好ましくは、前記エンジン始動用の第2圧力は、周囲温度が氷点下であって前記複数のアクチュエータの非駆動時に、前記メインリリーフ弁が開状態となって前記油圧ポンプの吐出油を前記アンロード弁とともにタンクに戻すことを可能とする圧力である。
【0021】
これにより低温時のエンジン始動において油圧ポンプの負荷を確実に軽減し、エンジン始動性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低温時のエンジン始動であっても作動油の粘性上昇によって生じるロードセンシング制御の応答遅れとアンロード弁の応答性の低下による圧油供給油路の圧力上昇を回避し、油圧ポンプの負荷を低減するので、低温時のエンジン始動性を向上することができる。
【0023】
また、アンロード弁の耐ハンチング特性を犠牲にすることなく、低温時のエンジン始動における油圧ポンプの負荷を低減し、エンジンの始動性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
〜構成〜
<全体構成>
図1は本発明の一実施の形態に係わる油圧駆動装置を示す油圧回路図である。
【0025】
図1において、本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、エンジン1と、このエンジン1により駆動されるメインポンプとしての可変容量型の油圧ポンプ2及び固定容量型のパイロットポンプ3と、コントロールバルブ4と、メインの油圧ポンプ2から吐出された圧油がコントロールバルブ4を介して導かれ、その圧油により駆動される複数のアクチュエータ5a,5b,…とを備えている。
【0026】
コントロールバルブ4は、油圧ポンプ2の吐出油を供給する圧油供給油路8に接続され、油圧ポンプ2からアクチュエータ5a,5b,…に供給される圧油の流れ(流量と方向)をそれぞれ制御する、複数の圧力補償弁41a,41b,…及び複数の流量制御弁(メインスプール)42a,42b,…を含む複数のバルブセクション4a,4b,…と、流量制御弁42a,42b,…の負荷ポート44a,44b,…(後述)に接続され、負荷ポート44a,44b,…の圧力のうちの最も高い圧力(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時はアクチュエータ5a,5b,…の負荷圧のうち最も高い負荷圧(最高負荷圧Plmax)、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時はタンク圧)を検出し、その検出圧を信号圧力として信号圧油路7に出力するシャトル弁6a,6b,…と、圧油供給油路8に接続され、油圧ポンプ2の吐出圧力が信号圧油路7の信号圧力(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は最高負荷圧Plmax、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時はタンク圧)より設定圧力(目標差圧)以上に高くなると開状態となって油圧ポンプ2の吐出油をタンクTに戻し、油圧ポンプ2の吐出圧力をそれ以上高くならないよう制御するアンロード弁9と、圧油供給油路8に接続され、油圧ポンプ2の吐出圧力がリリーフ圧力として設定された第1圧力(後述)以上に高くなると開状態となって油圧ポンプ2の吐出油をタンクTに戻し、圧油供給油路8の最高圧力を第1圧力以下に制限するメインリリーフ弁13と、油圧ポンプ2の吐出圧力と信号圧油路7の信号圧力との差圧(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力と最高負荷圧Plmaxとの差圧(LS差圧)、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力とタンク圧との差圧)を絶対圧として出力する差圧検出弁11とを備えている。
【0027】
油圧ポンプ2は傾転量(容量)を制御するポンプ傾転制御機構30を備え、ポンプ傾転制御機構30は、油圧ポンプ2の吐出圧力が高くなると油圧ポンプ2の傾転量(以下、適宜「傾転」という)を減少させ、油圧ポンプ2の吐出流量を減らすよう制御するトルク傾転制御部30aと、油圧ポンプ2の吐出圧力が信号圧油路7の信号圧力(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は最高負荷圧Plmax、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時はタンク圧)より設定圧力(目標差圧)だけ高くなるよう油圧ポンプ2の傾転を制御(ロードセンシング制御)するLS傾転制御部30bを備えている。
【0028】
トルク傾転制御部30aはトルク制御アクチュエータ31aとばね31bとを有し、トルク制御アクチュエータ31aは油圧ポンプ2の吐出圧力が導かれ、油圧ポンプ2の傾転の減少方向に作用し、ばね31bは油圧ポンプ2の傾転の増大方向に作用する。これにより油圧ポンプ2の吐出圧力が上昇し、油圧ポンプ2の吸収トルクがばね31bの設定値(最大吸収トルク)を超えると、トルク制御アクチュエータ31aは油圧ポンプ2の傾転を減らして油圧ポンプ2の吐出流量を減少させ、油圧ポンプ2の吸収トルクのそれ以上の増大を防止する。
【0029】
LS傾転制御部30bはLS制御弁32とLS制御アクチュエータ33とを有し、LS制御弁32は、パイロット一次圧生成部20(後述)のパイロット一次圧に基づいて制御アクチュエータ33に導かれる制御圧力を生成し、LS制御アクチュエータ33はその制御圧力に応じて油圧ポンプ2の傾転を制御する。
【0030】
LS制御弁32は、制御圧力を増圧して油圧ポンプ2の傾転を減らす側に位置する受圧部32aと、制御圧力を減圧して油圧ポンプ2の傾転を増やす側に位置する受圧部32bとを有し、受圧部32aには差圧検出弁11の出力圧(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力と最高負荷圧Plmaxとの差圧(LS差圧)、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力とタンク圧との差圧(タンク圧を0とみなした場合は油圧ポンプ2の吐出圧力))が導かれ、受圧部32bにはエンジン回転数検出回路49(後述)の出力圧が導かれている。受圧部32bはエンジン回転数検出回路49の出力圧に基づいてロードセンシング制御の目標差圧(例えば1.5MPa)を設定する。
【0031】
受圧部32aに導かれた差圧検出弁11の出力圧が受圧部32bに導かれたエンジン回転数検出回路49の出力圧により設定されたロードセンシング制御の目標差圧より高くなると、LS制御弁32は制御圧力を増圧して油圧ポンプ2の傾転を減らし、油圧ポンプ2の吐出流量(従って油圧ポンプ2の吐出圧力)を減少させる。受圧部32aに導かれた差圧検出弁11の出力圧油が受圧部32bに導かれたエンジン回転数検出回路49の出力圧により設定されたロードセンシング制御の目標差圧より低くなると、LS制御弁32は制御圧力を減圧して油圧ポンプ2の傾転を増やし、油圧ポンプ2の吐出流量(従って油圧ポンプ2の吐出圧力)を増大させる。これによりLS制御弁32は、アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は、LS差圧が目標差圧に等しくなるように(油圧ポンプ2の吐出圧力が最高負荷圧力Plmaxより目標差圧だけ高くなるよう)油圧ポンプ2の傾転を制御し、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時は、油圧ポンプ2の吐出圧力が目標差圧に等しくなるように(油圧ポンプ2の吐出圧力がタンク圧(ほぼ0)より目標差圧だけ高くなるよう)制御する。
【0032】
流量制御弁42a,42b,…はそれぞれクローズドセンタ型のバルブであり、図示しない操作レバーの操作により切り換え操作され、その操作レバーの操作量に応じてメータイン絞り部43a又は43bの開口面積を決定する。また、流量制御弁42a,42b,…は、それぞれ、負荷ポート44a,44b,…を有し、これら負荷ポート44a,44b,…はアクチュエータ5a,5b,…の駆動時(流量制御弁42a,42b,…の操作時)はメータイン絞り部43a又は43bの下流側に連通し、負荷ポート44a,44b,…にアクチュエータ5a,5b,…の負荷圧が取り出され、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時(流量制御弁42a,42b,…の非操作時でそれらが中立位置にあるとき)はタンクTに連通し、負荷ポート44a,44b,…にタンク圧が取り出される。
【0033】
圧力補償弁41a,41b,…は、それぞれ、流量制御弁42a,42b,…のメータイン絞り部43a又は43bの上流に設置され、流量制御弁42a,42b,…のメータイン絞り部43a又は43bの前後差圧を制御する前置きタイプ(ビフォアオリフィスタイプ)の圧力補償弁である。圧力補償弁41aは対向して設けられた閉方向側に位置する受圧部46a及び開方向側に位置する受圧部46bと、開方向側に位置する受圧部46cとを有し、受圧部46a,46bに流量制御弁42aのメータイン絞り部43a又は43bの上流側及び下流側の圧力がそれぞれ導かれ、受圧部46cに差圧検出弁11の出力圧(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力と最高負荷圧Plmaxとの差圧(LS差圧)、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力とタンク圧との差圧)が導かれ、その出力圧を目標補償差圧として流量制御弁42aの前後差圧を制御する。圧力制御弁41bも同様に受圧部47a,47b,47cを有し、同様に構成されている。圧力補償弁41a,41b以外の圧力制御弁も同様に構成されている。これにより流量制御弁42a,42b,…のメータイン絞り部43a又は43bの前後差圧は全て同じ値になるように制御され、負荷圧の大小に係わらず、流量制御弁42a,42b,…のメータイン絞り部の開口面積に応じた比率で圧油を供給することができる。また、差圧検出弁11の出力圧(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力と最高負荷圧Plmaxとの差圧(LS差圧)、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時は油圧ポンプ2の吐出圧力とタンク圧との差圧)を目標補償差圧として流量制御弁42aの前後差圧を制御することにより、油圧ポンプ2の吐出流量が要求流量に満たないサチュレーション状態になっても、流量制御弁42a,42b,…のメータイン絞り部43a又は43bの開口面積に応じた比率で圧油を供給することができる。
【0034】
アンロード弁9は対向して設けられた閉方向側に位置する受圧部9a及び開方向側に位置する受圧部9bと、受圧部9aと同じ側に位置するばね9cとを有し、受圧部9aは信号圧油路10を介して信号圧油路7と接続され、シャトル弁6a,6b,…によって検出された信号圧力(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は最高負荷圧Plmax、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時はタンク圧)が導かれ、受圧部9bには油圧ポンプ2の吐出圧力(圧油供給油路8の圧力)が導かれる。受圧部9aの面積はAaであり、受圧部9bの面積はAbであり、両者の面積Aa,Abは等しく設定されている。ばね9cはアンロード弁の目標差圧(例えば2.0MPa)を設定する。これによりアンロード弁9は、油圧ポンプ2の吐出圧力が信号圧油路7の信号圧力(アクチュエータ5a,5b,…の駆動時は最高負荷圧Plmax、アクチュエータ5a,5b,…の非駆動時はタンク圧)より、ばね9cにより設定された圧力、すなわち目標差圧以上に高くなると開状態となって油圧ポンプ2の吐出油をタンクTに戻し、油圧ポンプ2の吐出圧力をそれ以上高くならないよう制御する。
【0035】
メインリリーフ弁13は、閉方向側に位置するばね13aと、開弁方向側に位置する受圧部13bとを有し、受圧部13bに油圧ポンプ2の吐出圧力(圧油供給油路8の圧力)が導かれ、油圧ポンプ2の吐出圧力がばね13aにより設定されたリリーフ圧力を超えると開弁し、圧油供給油路8の圧油をタンクTに戻すことで、油圧ポンプ2の吐出圧力のそれ以上の上昇を防止する。また、メインリリーフ弁13は、ばね13aの付勢力を変更することでリリーフ圧力を通常の第1圧力(例えば25MPa)とエンジン始動用の第2圧力(例えば3MPa)とに変更する付勢力変更装置60(後述)を有している。
【0036】
差圧検出弁11は、出力圧を増やす側に位置する受圧部11aと出力圧を減らす側に位置する受圧部11b,11cを有し、受圧部11aに油圧ポンプ2の吐出圧力が導かれ、受圧部11b,11cにそれぞれ信号圧油路7の信号圧力と自己の出力圧が導かれ、これらの圧力のバランスで、パイロット一次圧生成部20(後述)のパイロット一次圧に基づいて油圧ポンプ2の吐出圧力と信号圧油路7の信号圧力との差圧を絶対圧として生成し、出力する。
【0037】
差圧検出弁11の出力ポートは信号圧油路15,16を介してポンプ傾転制御機構30のLS制御弁32の受圧部32aに接続され、差圧検出弁11の出力圧が受圧部32aに導かれる。また、差圧検出弁11の出力ポートは、信号圧油路15,17,18,…を介して圧力補償弁41a,41b,…の受圧部46c,47c,…に接続され、差圧検出弁11の出力圧が目標補償差圧として受圧部46c,47c,…に導かれる。
【0038】
アクチュエータ5a,5bは例えば油圧ショベルのブームシリンダ、アームシリンダである。油圧ショベルには、その他のアクチュエータとして、旋回モータ、左右の走行シリンダ、バケットシリンダ等が搭載されている。図1では、それらのアクチュエータと、コントロールバルブ3の対応する部分は図示を省略している。
【0039】
本実施の形態に係わる油圧駆動装置は、また、エンジン回転数検出回路49と、パイロット一次圧生成部20と、ゲートロック弁23とを備えている。
【0040】
エンジン回転数検出回路49は、流量検出弁50と差圧検出弁51とを有し、流量検出弁50は可変の絞り部50aを有し、絞り部50aの上流側はパイロットポンプ3の吐出油路3aに接続され、絞り部50aの下流側はパイロット一次圧生成部20の油路3cに接続されている。
【0041】
流量検出弁50はパイロットポンプ3の吐出流量を絞り部50aの前後差圧の変化として検出するものである。パイロットポンプ3の吐出流量はエンジン1の回転数によって変化するため、パイロットポンプ3の吐出流量を検出することによりエンジン1の回転数を検出することができる。例えば、エンジン1の回転数が低下すればパイロットポンプ3の吐出流量が減少し、絞り部50aの前後差圧は低下する。
【0042】
また、絞り部50aは開口面積が連続的に変化する可変絞り部として構成されており、流量検出弁50は更に開方向作動の受圧部50bと絞り方向作動の受圧部50c及びバネ50dを有し、受圧部50bに可変絞り部50aの上流側圧力(吐出油路3aの圧力)が導かれ、受圧部50cに可変絞り部50aの下流側圧力(油路3cの圧力)が導かれ、可変絞り部50aは自身の前後差圧に依存してその開口面積を変化させる構成となっている。
【0043】
差圧検出弁51は、エンジン回転数に依存する圧力として可変絞り部50aの前後差圧を絶対圧として出力するエンジン回転数検出弁であり、出力圧を増やす側に位置する受圧部51aと出力圧を減らす側に位置する受圧部51b,51cを有し、受圧部51aに可変絞り部50aの上流側圧力が導かれ、受圧部51b,51cにそれぞれ可変絞り部50aの下流側圧力と自己の出力圧が導かれ、これらの圧力のバランスでパイロット一次圧生成部20のパイロット一次圧に基づいて可変絞り部50aの前後差圧を絶対圧として生成し、出力する。
【0044】
差圧検出弁51の出力ポートは信号圧油路53を介してLS制御弁32の受圧部32bに接続され、差圧検出弁51の出力圧がロードセンシング制御の目標差圧として受圧部32bに導かれる。このように可変絞り部50aの前後差圧をLS制御弁32の受圧部32bに導き、ロードセンシング制御の目標差圧として設定することにより、エンジン回転数に応じたサチュレーション現象の改善が図れ、エンジン回転数を低く設定した場合に良好な微操作性が得られる。なお、この点は特開平10−196604号公報に詳しい。
【0045】
パイロット一次圧生成部20は油路3cに接続されたパイロットリリーフ弁21を有し、このパイロットリリーフ弁21により油路3cの圧力が一定(例えば4.0MPa)に保たれ、パイロット一次圧が生成される。油路3cの下流側はゲートロック弁23を介してパイロット一次圧油路3bに接続され、このパイロット一次圧油路3bに、上記操作レバーにより操作され、パイロット一次圧生成部20の圧力(パイロット一次圧)に基づいて流量制御弁42a,42b,42cを操作するための制御パイロット圧を生成するリモコン弁(図示せず)が接続されている。
【0046】
ゲートロック弁23は油路3cとパイロット一次圧油路3bとの間に介装され、油圧ショベルの運転室の入口に設けられたゲートロックレバー24によって切り換え操作される。ゲートロックレバー24は運転室への乗員の乗降を許容するロック位置(OFF位置)と、運転室への乗員の乗降を妨げるロック解除位置(ON位置)とに操作可能である。ゲートロックレバー24がロック位置(OFF位置)に操作されると、ゲートロック弁23もロック位置(図示右側の位置)に切り換えられ、このロック位置では、油路3cとパイロット一次圧油路3bとの連通を遮断し、パイロット一次圧油路3bをタンクTに連通させる。ゲートロックレバー24がロック解除位置(ON位置)に操作されると、ゲートロック弁23もロック解除位置(図示左側の位置)に切り換えられ、このロック解除位置では、油路3cをパイロット一次圧油路3bに連通させる。
【0047】
本実施の形態において、メインリリーフ弁13の付勢力変更装置60は油路22を介してパイロット一次圧油路3bに接続され、ゲートロック弁23がロック解除位置にあるときは、通常の第1圧力(例えば25MPa)を設定するよう動作し、ゲートロック弁23がロック位置にあるときは、エンジン始動用の第2圧力(例えば3MPa)を設定するよう動作する。
【0048】
ここで、付勢力変更装置60とゲートロック弁23及びゲートロックレバー24は、メインリリーフ弁13の設定圧力を、手動操作(ゲートロックレバー23の操作)により、通常の第1圧力(例えば25MPa)と、この第1圧力より低く、かつ複数のアクチュエータ5a,5b,…の非駆動時に油圧ポンプ2の吐出油をアンロード弁9ととともにタンクに戻すことを可能とするエンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)とに切り換え可能とするリリーフ設定圧力変更手段を構成する。
【0049】
また、パイロットポンプ3及びパイロット一次圧生成部20はパイロット油圧源を構成し、ゲートロック弁23は、付勢力変更装置60の油室69(後述)をパイロット油圧源とタンクTに選択的に連通させるバルブ手段を構成し、ゲートロックレバー24は前記バルブ手段(ゲートロック弁23)を切り換える手動操作手段を構成する。
【0050】
さらに、エンジン始動用の第2圧力は、周囲温度が氷点下であって複数のアクチュエータ5a,5b,…の非駆動時(複数の流量制御弁42a,42b,…の全てが中立位置にあるとき)に、メインリリーフ弁13が開状態となって油圧ポンプ2の吐出油をアンロード弁9とともにタンクTに戻すことが可能な程度の低圧設定であり、好ましくは、ロードセンシング制御の目標差圧相当の圧力(例えば1.5MPa)より高く、アンロード弁9の設定圧力(例えば2.0MPa)の2倍(例えば4.0MPa)以下の圧力である。
<メインリリーフ弁13の詳細構造>
図2及び図3は、図1のメインリリーフ弁13周辺の回路部分を抜き出し、メインリリーフ弁13及び付勢力変更装置60の詳細構造を示す図である。図2はゲートロック弁23がロック位置(OFF位置)にあり、リリーフ圧力としてエンジン始動用の第2圧力が設定されているときの状態を示し、図3はゲートロック弁23がロック解除位置(ON位置)にあり、リリーフ圧力として通常の第1圧力が設定されているときの状態を示す。
【0051】
メインリリーフ弁13は、バルブ室61、入力ポート62、出力ポート63が形成されたハウジング64及びハウジング64内に配置され、入力ポート62を開閉する弁体65と、ハウジング64を固定保持し、入力ポート62に連通する入口通路66及び出力ポート63に連通する排出通路67が形成されたサポート68とを有し、上述したばね13aは、弁体65を閉じ方向に付勢するようにハウジング64内に配置され、受圧部13bは、入力ポート62の下流側で弁体65が着座する部分に設けられている。入口通路66は圧油供給油路8に接続され、排出通路67はタンクTに接続されている。
【0052】
また、ハウジング64内のばね13aの背後に付勢力変更装置60が配置されている。付勢力変更装置60は、ハウジング64内でハウジング64の軸方向(図示左右方向)に移動可能に配置されたピストン部68と、ピストン部68の反ばね側に形成された油室69とを有し、ピストン部68は、その一端側にばね13aの基端部を支持する支持部68aを備え、他端側に油室69に面する受圧部を持つ拡径部68bを備えている。拡径部68bは油室69内で所定のストロークで移動可能である。油室69は油路22を介してパイロット一次圧油路3bに接続されている。
【0053】
図2に示すように、ゲートロック弁23がロック位置(OFF位置)にあり、パイロット一次圧油路3bがタンクTに連通するときは、油室69もタンクTに連通し、ピストン部68の拡径部68bは、ピストン部68がばね13aによって押されることで油室69内で図示左端位置へと後退する。この状態では、ばね13aのセット長は長くなり、ばね力は弱められた状態で保持される。よって、この位置では、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力として通常の第1圧力(例えば25MPa)より低いエンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)が設定される。
【0054】
図3に示すように、ゲートロック弁23がロック解除位置(ON位置)にあり、パイロット一次圧油路3bが油路3cに連通するときは、油室69に油路3cのパイロット一次圧が導入され、ピストン部68の拡径部68bがパイロット一次圧によって押されることでピストン部68は図示左端位置に押し付けられる。この状態では、ばね13aのセット長は短くなり、ばね力は強められた状態で保持される。よって、この位置では、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力として通常の第1圧力(例えば25MPa)が設定される。
<油圧ショベルの構成>
図4は本実施の形態の油圧駆動装置が搭載される油圧ショベルの外観を示す図である。油圧ショベルは、下部走行体101、この下部走行体101上に旋回可能に搭載された上部旋回体102と、この上部旋回体102の先端部分にスイングポスト103を介して上下及び左右方向に回動可能に連結されたフロント作業機104とを備えている。下部走行体101はクローラ式であり、トラックフレーム105の前方側には上下動可能に排土用のブレード106が設けられている。上部旋回体102は基礎下部構造をなす旋回台107と、旋回台107上に設けられたキャノピタイプの運転室108とを備えている。フロント作業機104はブーム111と、アーム112と、バケット113とを備え、ブーム
の基端はスイングポスト103にピン結合され、ブーム111の先端はアーム112の基端にピン結合され、アーム112の先端はバケット113にピン結合されている。
【0055】
ブーム111及びアーム112は図1に示したブームシリンダ5a及びアームシリンダ5bを伸縮することにより回動し、上部旋回体102は旋回モータ116を回転させることにより旋回する。バケット113はバケットシリンダ117を伸縮することにより回動し、ブレード106はブレードシリンダ(図示せず)を伸縮することにより上下動し、下部走行体101は左右の走行モータ118a,118bを回転させることにより走行し、スイングポスト103はスイングシリンダ119を伸縮することにより回転する。図1の油圧回路図では旋回モータ116、バケットシリンダ117、走行モータ118a、118b、スイングシリンダ119等のアクチュエータの図示を省略している。
【0056】
運転室108には、オペレータが着座する運転席121が設けられ、運転席121の右左両側にバケット・ブーム用の操作レバーを備えた操作レバー装置122と旋回・アーム用の操作レバーを備えた操作レバー装置123とが設けられ、運転席121の入り口部分にゲートロックレバー24が設けられている。図示の実線位置は運転室121への乗員の乗降を妨げるロック解除位置(ON位置)を示し、破線位置は運転室121への乗員の乗降を許容するロック位置(OFF位置)を示す。操作レバー装置122,123には、図1〜図3に示すパイロット一次圧油路3bに接続されたリモコン弁が内蔵されている。
〜動作〜
次に、本実施の形態の動作を説明する。
【0057】
<ゲートロックレバーロック位置の場合>
一日の作業終了時、オペレータは図示しないエンジンキースイッチをオフにしてエンジン1を停止させる。この際オペレータは、安全性確保のため、ゲートロックレバー24をロック位置に操作してゲートロック弁23を同様にロック位置(パイロット一次圧油路3bをタンクTに連通させる位置)に切り換え、流量制御弁42a,42b,…を操作不能な状態とする。また、エンジン1が停止すると、油圧ポンプ2は圧油を吐出しないため、油圧ポンプ2はトルク傾転制御部30aのばね31bの作用により最大傾転となる。
【0058】
一日の作業開始前は、ゲートロックレバー24はロック位置にあり、かつ油圧ポンプ2の傾転(容量)は最大となっている。また、ゲートロックレバー24がロック位置にあり、ゲートロック弁23がパイロット一次圧油路3bをタンクTに連通させる位置にあるため、図2に示すように、付勢力変更装置60のピストン部68はばね13aのセット長を長くし、ばね力を弱めた位置にあり、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力として通常の第1圧力(例えば25MPa)より低いエンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)が設定されている。
【0059】
一日の作業開始時、オペレータは図示しないエンジンキースイッチを操作してエンジン1を始動する。エンジン1の始動直後、LS制御弁32は、受圧部32aに導かれた信号圧油路16の信号圧力が受圧部32bに設定された目標差圧(例えば1.5MPa)に等しくなるように油圧ポンプ2の傾転(容量)を制御する(ロードセンシング制御)。このとき、操作レバーが操作されず、流量制御弁42a,42b,…は中立位置にあるため、シャトル弁61,61b,…の出力圧である信号油路7の信号圧力はタンク圧であり、差圧検出弁11の出力圧である信号圧油路16の信号圧力は油圧ポンプ2の吐出圧力にほぼ等しい圧力となる。ここで、エンジン1の始動直後は油圧ポンプ2は最大傾転にあるため、油圧ポンプ2の吐出圧力は過渡的にロードセンシング制御の目標差圧以上に上昇する。したがって、LS制御弁32は、油圧ポンプの吐出圧力が目標差圧に等しくなるよう油圧ポンプ2の傾転を最大傾転から最小傾転へと制御し、油圧ポンプ2の吐出流量を最少となるよう制御する。操作レバーが操作されず、流量制御弁42a,42b,…が中立位置にあるときでも油圧ポンプ2の吐出流量をゼロではなく、最少に制御するのは、操作レバーを操作して流量制御弁42a,42b,…を中立位置から操作したときのアクチュエータの応答性を確保するためである。
【0060】
このように油圧ポンプ2の傾転(吐出流量)が制御されるとき、油圧ポンプ2の吐出圧力がアンロード弁9の設定圧力(目標差圧)を超えると、アンロード弁9が開いて油圧ポンプ2の吐出油(圧油供給油路8の圧油)をタンクに戻すように作動する。
【0061】
ここで、周囲温度が氷点下、或いは−10℃以下となるような極低温時は、エンジン始動時の作動油の粘性は著しく高いため、アンロード弁9の応答性が低下してアンロード弁9が開弁するのに時間がかかり、圧油供給油路8に高圧がこもってしまう。また、作動油の粘性上昇によりロードセンシング制御にも応答遅れが発生し、この応答遅れの間、油圧ポンプ2の吐出流量が過大となる。その結果、圧油供給油路8の圧力(油圧ポンプの吐出圧力)は高圧となり、場合によっては10MPaにも達する。このため従来は、油圧ポンプ2の負荷(従ってエンジン1の負荷)が過大となり、エンジン始動性が低下していた。
【0062】
本実施の形態では、ゲートロックレバー24がロック位置(OFF位置)にある場合には、前述したようにメインリリーフ弁13のリリーフ圧力が通常の第1圧力(例えば25MPa)より低いエンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)となっている。このため油圧ポンプ2の吐出圧力がその低圧の第2圧力に達すると、メインリリーフ弁13が開弁し、油圧ポンプ2の吐出油をタンクに戻す。
【0063】
このようにメインリリーフ弁13がアンロード弁9に加えて開弁することにより、特に低温時において、油圧ポンプ2の吐出圧力が著しく高圧になってしまうのを防ぐことができ、エンジン始動性を向上できる。
【0064】
また、メインリリーフ弁13のエンジン始動用の第2圧力を、ロードセンシング制御の目標差圧相当の圧力(例えば1.5MPa)以下に設定した場合は、ロードセンシング制御手段により油圧ポンプ2の容量が最大傾転側に増加するよう制御され、燃費が無駄になる。これに対し、本実施の形態では、メインリリーフ弁13の第2圧力を、ロードセンシング制御の目標差圧相当の圧力より高く設定したので、ロードセンシング制御手段により油圧ポンプ2の容量が最大傾転側に増加するよう制御されることが回避され、燃費を低減することができる。
【0065】
さらに、メインリリーフ弁13の第2圧力をアンロード弁9の設定圧力の2倍よりも大きく設定した場合は、−10℃以下となるような極低温時は、エンジン始動における油圧ポンプ2の負荷低減効果が薄れることが懸念される。本実施の形態では、メインリリーフ弁13の第2圧力をアンロード弁9の設定圧力の2倍以下、特に、1.5倍以下の3.0MPa程度に設定したので、−10℃以下の極低温時であっても、油圧ポンプ2の負荷を確実に軽減し、エンジン始動性を良好にすることができる。
【0066】
<ゲートロックレバーロック解除位置の場合>
その後、オペレータがゲートロックレバー24をロック解除位置(ON位置)に操作すると、ゲートロック弁23はパイロットポンプ3の吐出油路3aをパイロット一次圧油路3bに連通させる位置に切り換わり、図3に示すように、付勢力変更装置60のピストン部68はばね13aのセット長を短くし、ばね力を強めた位置にあり、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力として通常の第1圧力(例えば25MPa)が設定される。
【0067】
また、このとき、操作レバーが操作されない限り、油圧ポンプ2はLS制御弁32により最小傾転に制御されており、油圧ポンプ2の吐出流量は最少となるよう制御される。そして、油圧ポンプ2の吐出圧力がアンロード弁9の設定圧力(例えば2.0MPa)を超えると、アンロード弁9が開いて油圧ポンプ2の吐出油(圧油供給油路8の圧油)をタンクに戻すように作動するため、油圧ポンプ2の吐出圧力はアンロード弁の設定圧力に維持される。また、そのときは、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力は通常の第1圧力(例えば25MPa)に設定されるているので、メインリリーフ弁13は油圧ポンプ2の吐出圧力がその設定圧力に達しない限り、開弁することはない。
<効果>
以上のように本実施の形態によれば、リリーフ設定圧力変更手段(付勢力変更装置60、ゲートロック弁23及びゲートロックレバー24)を手動操作することにより、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力は通常の第1圧力(例えば25MPa)からそれよりも低い、エンジン始動用の第2圧力(例えば3.0MPa)に切り換わり、メインリリーフ弁13は、複数のアクチュエータ5a,5b,…の非駆動時に油圧ポンプ2の吐出圧力がアンロード弁9の設定圧力(例えば2.0MPa)を超えて上昇したときに、アンロード弁9とともに油圧ポンプ2の吐出油をタンクTに戻すことが可能となるため、低温時のエンジン始動において、作動油の粘性上昇にるロードセンシング制御の応答遅れとアンロード弁9の応答性の低下により圧油供給油路8に高圧が発生することが防止され、油圧ポンプ2の吐出圧力が著しく高圧になってしまうのを防ぐことができ、油圧ポンプ2の負荷を低減し、エンジン1の始動性を向上できる。
【0068】
また、アンロード弁9とメインリリーフ弁13の両方で油圧ポンプ2の吐出油をタンクTに戻すため、アンロード弁9の応答性を特段高める必要が無く、アンロード弁9の耐ハンチング特性を犠牲にすることはない。
【0069】
また、ゲートロックレバー24(手動操作手段)を操作してゲートロック弁23(バルブ手段)を切り換えると、付勢力変更装置60の油室72とパイロット一次圧生成部20及びタンクTとの連通が切り換わり、ばね13aの付勢力を変更するので、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力を第1圧力と第2圧力とに簡単かつ確実に切り換えることができる。
【0070】
更に、既存のゲートロック弁23及びゲートロックレバー24を利用して、付勢力変更装置60の操作手段(バルブ手段及び手動操作手段)を構成したので、部品点数が低減し、安価な装置構成とすることができるとともに、ゲートロックレバー24を操作してゲートロック弁23を切り換えると、付勢力変更装置60の動作状態も同時に切り換わるため、メインリリーフ弁13のリリーフ圧力を第1圧力と第2圧力とに切り換えるための特別な操作が不要となる。
【0071】
なお、以上の実施の形態は本発明の精神の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、付勢力変更装置60は油圧駆動としたが、例えばソレノイド駆動であってもよく、その場合は、ゲートロックレバー24の位置を電気的に検出し、ソレノイドの励磁、非励磁を制御することで、上記実施の形態と同様の効果(低温時のエンジン始動におけるエンジン始動性の向上等)を得ることができる。
【0072】
また、上記実施の形態では、ゲートロック弁23及びゲートロックレバー24を付勢力変更装置60の操作手段(バルブ手段及び手動操作手段)に兼用したが、専用のバルブ手段及び手動操作手段を設けてもよく、これによっても上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
また、上記実施の形態では、ロードセンシング制御の目標差圧はエンジン回転数検出回路49の出力圧に基づいて、エンジン回転数に応じて変化する可変値として設定し、アンロード弁9の目標差圧はばね9cにより一定値として設定したが、アンロード弁9の目標差圧もエンジン回転数検出回路49の出力圧に基づいて、エンジン回転数に応じて変化する可変値として設定してもよい。
【0074】
更に、上記実施の形態では、建設機械として油圧ショベルを例にとって説明したが、油圧ショベル以外の建設機械(例えばクレーン、ホイールローダ等)であっても本発明を同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる建設機械の油圧駆動装置の全体構成を示す図である。
【図2】メインリリーフ弁周辺の回路部分を抜き出した図であって、ゲートロック弁がロック位置にあるときのメインリリーフ弁及び付勢力変更装置の状態を示す図である。
【図3】メインリリーフ弁周辺の回路部分を抜き出した図であって、ゲートロック弁がロック解除位置にあるときのメインリリーフ弁及び付勢力変更装置の状態を示す図である。
【図4】本実施の形態の油圧駆動装置が搭載される油圧ショベルの外観を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1 エンジン
2 油圧ポンプ(メインポンプ)
3 パイロットポンプ
3a 吐出油路
3b パイロット油路
3c パイロット一次圧油路
4 コントロールバルブ
4a,4b バルブセクション
6a,6b シャトル弁
7 信号圧油路
8 圧油供給油路
9 アンロード弁
9a 受圧部
9b 受圧部
9c ばね
10 信号圧油路
11 差圧検出弁
13 メインリリーフ弁
13a ばね
13b 受圧部
15,16,18,18 信号圧油路
20 パイロット一次圧生成部
21 パイロットリリーフ弁
22 油路
23 ゲートロック弁
24 ゲートロックレバー
30 ポンプ傾転制御機構
30a トルク傾転制御部
30b LS傾転制御部(ロードセンシング制御手段)
31a トルク制御アクチュエータ
31b ばね
32 LS制御弁
32a,32b 受圧部
33 LS制御アクチュエータ
41a,41b 圧力補償弁
42a,42b 流量制御弁(メインスプール)
43a,43b メータイン絞り部
44a,44b 負荷ポート
49 エンジン回転数検出回路
50 流量検出弁
51 差圧検出弁
60 付勢力変更装置
61 バルブ室
62 入力ポート
63 出力ポート
64 ハウジング
65 弁体
66 入口通路
67 排出通路
68 ピストン部
69 油室
68a ばね支持部
68b 拡径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
このエンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプと、
この油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される複数のアクチュエータと、
前記油圧ポンプから前記複数のアクチュエータに供給される圧油の流量を制御する複数の流量制御弁と、
前記複数のアクチュエータの駆動時は前記複数のアクチュエータの最高負荷圧力を検出し、前記複数のアクチュエータの非駆動時はタンク圧を検出し、検出した圧力を信号圧力として出力する最高負荷圧検出手段と、
前記油圧ポンプの吐出圧力が前記信号圧力より目標差圧だけ高くなるよう前記油圧ポンプの容量を制御するロードセンシング制御手段と、
前記油圧ポンプから吐出された圧油を前記複数の流量制御弁に供給する圧油供給油路に接続され、前記油圧ポンプの吐出圧力が前記信号圧力より設定圧力以上に高くなると開状態となって前記油圧ポンプの吐出油をタンクに戻すアンロード弁と、
前記圧油供給油路に接続され、前記油圧ポンプの吐出圧力がリリーフ圧力として設定された第1圧力以上に高くなると開状態となって前記油圧ポンプの吐出油をタンクに戻し、前記圧油供給油路の最高圧力を前記第1圧力以下に制限するメインリリーフ弁と、
前記メインリリーフ弁のリリーフ圧力を、手動操作により、前記第1圧力と、この第1圧力より低く、かつ前記複数のアクチュエータの非駆動時に前記油圧ポンプの吐出油を前記アンロード弁ととともにタンクに戻すことを可能とするエンジン始動用の第2圧力とに切り換え可能とするリリーフ設定圧力変更手段とを備えることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記メインリリーフ弁は、前記メインリリーフ弁の弁体を閉じ方向に付勢して前記メインリリーフ弁のリリーフ圧力を設定するばねを有し、
前記リリーフ設定圧力変更手段は、
前記メインリリーフ弁の前記ばねの背後に設けられ、かつ油室を有し、この油室の油圧を変更することで前記ばねの付勢力を変更し、前記リリーフ圧力を前記第1圧力と前記第2圧力とに変更する付勢力変更装置と、
前記付勢力変更装置の油室をパイロット油圧源とタンクに選択的に連通させるバルブ手段と、
前記バルブ手段を切り換える手動操作手段とを有することを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載の建設機械の油圧駆動装置において、
パイロットポンプと、
このパイロットポンプの吐出油路に接続され、前記パイロットポンプの吐出油に基づいてパイロット一次圧を生成するパイロット一次圧生成部と、
前記パイロット一次圧生成部により生成されたパイロット一次圧が導かれるパイロット一次圧油路と、
前記パイロット一次圧油路に接続され、前記パイロット一次圧油路に導かれたパイロット一次圧に基づいて前記複数の流量制御弁を切り換えるための制御パイロット圧を生成する複数のリモコン弁と、
運転室の入口に設けられ、ロック位置とロック解除位置とに操作されるゲートロックレバーと、
前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路との間に介装され、前記ゲートロックレバーが前記ロック位置に操作されたときは前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路との連通を遮断しかつ前記パイロット一次圧油路をタンクに連通させ、前記ゲートロックレバーが前記ロック解除位置に操作されたときは前記パイロット一次圧生成部と前記パイロット一次圧油路を連通させるゲートロック弁とを更に備え、
前記パイロット油圧源は、前記パイロットポンプ及び前記パイロット一次圧生成部により構成され、
前記バルブ手段は前記ゲートロック弁であり、
前記手動操作手段は前記ゲートロックレバーであることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記エンジン始動用の第2圧力は、前記ロードセンシング制御手段の目標差圧相当の圧力より高く、前記アンロード弁の設定圧力の2倍以下であることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記エンジン始動用の第2圧力は、周囲温度が氷点下であって前記複数のアクチュエータの非駆動時に、前記メインリリーフ弁が開状態となって前記油圧ポンプの吐出油を前記アンロード弁とともにタンクに戻すことを可能とする圧力であることを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−107009(P2010−107009A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282031(P2008−282031)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】