説明

建設機械の運転室保護構造

【課題】機体が転倒したり傾いたりした場合でも運転室の損傷を防いで保護できる。
【解決手段】スイングフレーム16の上側に運転室17を設け、運転室17の前部にはスイングフレーム16の前側に突出する下方フレーム部29を下側に形成した。運転室17の前面に配設した前窓24の両側にAピラー20,21を装着した。スイングフレーム16の前面のフロントプレートには、各Aピラー20,21の下側に対向して位置する沈み込み防止プレート31、32を設けた。また、各Aピラー20,21の一方の下側に対向して沈み込み防止プレート31、32の一方を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械における運転室に機体の転倒等の際に荷重が加わった場合等に、運転室を支持して破損等を防止する建設機械の運転室保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械、例えば油圧ショベルは一般的に図6に示す構成を備えている。図6に示す油圧ショベル1は、車両本体2の下部に走行体3が設けられ、前方にはフロント作業部4が設けられている。車両本体2はスイングフレーム6を下部に備え、その上部にタンク、エンジン等の機器が搭載され、その周囲をカバー7で覆う構成を有している。更に、スイングフレーム6の上部にはフロント作業部4に隣接して運転室8が設けられている。
【0003】
そして、特許文献1に記載された同様な構成の油圧ショベル1では、図7に示すように、運転室8の前面下部にスイングフレーム6の前方に突出する下方フレーム部10が設けられている。運転室8の床面11は水平に配設され、下方フレーム部10まで延びている。運転室8は鋼部材からなるフレームに窓やパネル等が取り付けられており、運転室8の前面には両側のフレームとしてAピラーが設けられ、その間に前窓12が装着されている。
この前窓12が下方フレーム部10の前面に延びることで、運転者の下方への視界が広がることになる。この下方フレーム部10を設けた運転室8を搭載することで、スイングフレーム6は前面が下方フレーム部10の後ろ側に後退した短い長さの全長に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3801465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような油圧ショベル1では、機体が転倒したり傾いたりした場合に、運転室8に対して、例えば側方から機体中央へ、後方から前方へ、または上方から下方へ向けた荷重が加わり、運転室8が損傷するおそれがあった。或いは、図7に示すように、運転室8の下面がスイングフレーム6の前側角部Kに衝突して、運転室8が損傷するおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて、機体が転倒したり傾いたりした場合でも運転室の損傷を防いで保護できるようにした建設機械の運転室保護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による建設機械の運転室保護構造は、スイングフレームの上側に運転室が設けられ、運転室の前部にはスイングフレームの前側に突出する下方フレーム部が形成され、スイングフレームの前面には運転室の前面に配設したAピラーの下側に沈み込み防止部材を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、建設機械が転倒したり傾いたりした際、運転室に上方から荷重が加わっても運転室の前面に設けたAピラーを沈み込み防止部材で受けることができ、運転室にかかる荷重を支えることができる。そのため、運転室のスイングフレームへの衝突を抑制して運転室の損傷や破損等を防止できる。
【0008】
運転室の前面には窓部の両側にAピラーがそれぞれ設けられ、沈み込み防止部材はこれらAピラーの一方または両方の下側に個別にまたは一体に設けられていてもよい。
転倒したり傾いたりする運転室の窓部両側のAピラーに対して一方または両側のAピラーの下側にそれぞれ沈み込み防止部材を設けたり、両側のAピラーに対して一体の沈み込み防止部材を設けて受けることができるので、運転室のAピラーにかかる荷重を支えることができる。
【0009】
また、沈み込み防止部材にバンパを装着していてもよく、この場合にはバンパの組み立て時に沈み込み防止部材にバンパを仮置きできるから、作業者が支持しなくてもよく、組み立て効率が向上する。また、バンパを運転室に装着した場合でも、同様に組み立て時に沈み込み防止部材にバンパを仮置きできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明による建設機械の運転室保護構造によれば、建設機械が転倒したり傾いたりした際、運転室に種々の方向から荷重が加わった場合に運転室の前面のAピラーを沈み込み防止部材で受けて運転室を支えることができ、運転室の損傷や破損等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態による油圧ショベルの運転室を示す要部斜視図である。
【図2】図1に示す運転室の側面図である。
【図3】運転室を載置するスイングフレームのスカート部を示す斜視図である。
【図4】運転室のAピラーとスイングフレームに設けた沈み込み防止プレートとを示す拡大縦断面図である。
【図5】沈み込み防止プレートの変形例を示す図である。
【図6】一般的な油圧ショベルを示す斜視図である。
【図7】従来技術による油圧ショベルの運転室とスイングフレームを示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による油圧ショベルの運転室保護構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態による運転室保護構造を有する油圧ショベル15は、上述した図6及び図7に示す従来の油圧ショベルと概略同一構成を備えており、上述した従来の油圧ショベルと同一または同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略する。
図1乃至図3に示す本実施形態による油圧ショベル15において、図示を省略した走行体3の上部に車両本体2とフロント作業部4が設けられている。車両本体2に設けたスイングフレーム16の左スカート部14上には運転室17が載置されて取り付けられている。
【0013】
運転室17は例えば略直方体形状の骨組みを有するフレーム18を備えており、フレーム18はルーフ18aと下面18bとの間を各一対のAピラー20、21とCピラー22、23、そしてAピラー21及びCピラー23間のBピラー19とで連結して構成されている。運転室17の前面には一対のAピラー20、21の間に前窓24が装着されている。そして、両側面には側窓25とドア26が装着され、背面にはCピラー22、Cピラー23間にパネル27が装着されている。
【0014】
図4に示すように、運転室17の前面には下面18bの下方に突出する図7に示すものと同様な下方フレーム部29が形成され、前窓24は下方フレーム部29まで延びている。これによって、運転者の下方視界が広がる上に、床面11の前側に溜まる泥や土砂等の清掃を容易に行えることになる。そして、運転室17の下方に配設されるスイングフレーム16はその前面であるフロントプレート16aが下方フレーム部29の後ろ側に位置している。そのため、スイングフレーム16は運転室17の下面18bと下方フレーム部29とで形成する側面視L字状凹部に前面の角部が位置している。
【0015】
また、スイングフレーム16のフロントプレート16aには下方フレーム部29の下側に延びる一対の沈み込み防止プレート31、32が固定されている(図1乃至図4参照)。一方の沈み込み防止プレート31は例えば断面略L字形状に形成され、運転室17の一方のAピラー20の下側に対向して位置している。他方の沈み込み防止部材32は例えば略コの字形状に形成され、他方のAピラー21の下側に対向して位置している。
そのため、機体が転倒したり傾斜したりした際に、運転室17に上方から荷重が加わると各Aピラー20,21を沈み込み防止プレート31、32でそれぞれ受けることができる。
【0016】
そして、これら一対の沈み込み防止プレート31、32を覆うように断面略コの字形状のフロントバンパ34が装着されている。図1及び図2に示すように、スイングフレーム16の側面にもサイドバンパ35が取り付けられている。
【0017】
本実施形態による油圧ショベル15の運転室保護構造は上述の構成を備えており、次にその作用を説明する。
本実施形態による油圧ショベル15によれば、油圧ショベル15の機体が操作中や走行中等に転倒したり傾いたりした場合、フロント作業部4の重量等により運転室17に上方から下方に向けて荷重がかかると、運転室17がスイングフレーム16のフロントプレート16a側の角部に向けて押し付けられる。
【0018】
すると、運転室17の前窓24の両側のAピラー20,21にかかる荷重を、下方の対向する位置にある沈み込み防止プレート31、32でフロントバンパ34を介してそれぞれ受けることになる。そのため、倒れたり傾いたりする運転室17の荷重を沈み込み防止プレート31、32で受けて支えることができるから、運転室17の下面18bがスイングフレーム16のフロントプレート16a側の角部に衝突して受ける衝撃や負荷が軽減され、運転室17の損傷や破損を防ぐことができる。
また、油圧ショベル15の機体が転倒したり傾いたりした場合で、運転室17に対して側方から荷重がかかると、運転室17は前窓24の両側のAピラー20,21にかかる荷重を片方の沈み込みプレート31で受けて支えることができる。或いは、運転室17に対して後方及び上方から荷重がかかると、運転室17は前窓24の両側のAピラー20,21にかかる荷重を両側の沈み込みプレート31、32で受けて支える。これらの場合でも運転室17の下面18bがスイングフレーム16のフロントプレート16a側の角部に衝突して受ける衝撃や負荷が軽減され、運転室17の損傷や破損を防ぐことができる。
【0019】
上述のように本実施形態による油圧ショベル15の運転室保護構造によれば、油圧ショベル15が転倒したり傾いたりして運転室17に上方や側方や後方等から荷重がかかった場合でも、運転室17の前窓24両側のAピラー20,21にかかる荷重を沈み込み防止プレート31、32で受けることができるから、運転室17の荷重を沈み込み防止プレート31、32で受けて運転室17の下面18bがスイングフレーム16の角部に衝突して受ける負荷を軽減できて運転室17の損傷や破損を防止できる。
また、フロントバンパ34の組み立て時に、フロントバンパ34を運転室17下部のスイングフレーム16に装着する際、一対の沈み込み防止プレート31、32に係止させて仮置きできるから、作業者の負担を軽減できてフロントバンパ34の組立効率を向上できる。
【0020】
なお、上述の実施形態では、沈み込み防止部材として、一対の沈み込み防止プレート31、32を前窓24の両側のAピラー20,21に対向して下方に設置したが、沈み込み防止部材は分離して取り付けることなく連続する一つの部材として設けてもよい。また、沈み込み防止部材として、一対の沈み込み防止プレート31、32に代えて、いずれか一方の沈み込み防止プレート31または32をフロントプレート16aに設けてAピラー20,21の荷重を受けて支えるようにしてもよい。
また、図5は沈み込み防止部材の変形例を示すものであり、沈み込み防止プレート36は、スイングフレーム16の前面下側の一部分を下方フレーム部29に干渉しないその下側位置で前方に延ばしてAピラー20,21に対向させて形成してもよい。
また、沈み込み防止プレート31、32の形状は断面L字形状や逆U字形状に限定されることなく、Aピラー20,21に対向して荷重を受けることができればどのような形状でもよく、これらを含めて沈み込み防止部材を構成する。しかも、Aピラー20,21についても2本に限定されることなく、任意の本数を設置でき、これらを沈み込み防止部材で受けることができればよい。
【0021】
なお、本発明において、沈み込み防止プレート31、32を覆うフロントバンパ34は設けなくても良い。また、フロントバンパ34は運転室17に装着してもよく、この場合でも、組み立て時に沈み込み防止プレート31、32にフロントバンパ34を仮置きできる。
また、本発明は油圧ショベルに限定されることなく、各種の建設機械に適用できる。
【符号の説明】
【0022】
15 油圧ショベル
16 スイングフレーム
17 運転室
20,21 Aピラー
29 下方フレーム部
31、32、36 沈み込み防止プレート
34 フロントバンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイングフレームの上側に運転室が設けられ、運転室の前部にはスイングフレームの前側に突出する下方フレーム部が形成され、スイングフレームの前面には運転室の前面に配設したAピラーの下側に沈み込み防止部材を設けたことを特徴とする建設機械の運転室保護構造。
【請求項2】
運転室の前面には窓部の両側にAピラーがそれぞれ設けられ、沈み込み防止部材はこれらAピラーの一方または両方の下側に個別にまたは一体に設けられている請求項1に記載された建設機械の運転室保護構造。
【請求項3】
沈み込み防止部材にバンパを装着してなる請求項1または2に記載された建設機械の運転室保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−180552(P2010−180552A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22877(P2009−22877)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】