説明

建設機械の電動駆動制御装置

【課題】共通のインバータ装置を搭載した多品種の作業機械からなる建設機械において、搭載された電動モータがロック状態と回転状態を繰り返す運転を行う場合であっても、電動機器の熱破壊からの保護が行える建設機械の電動駆動制御装置を提供する。
【解決手段】建設機械の被駆動体を駆動する電動モータ4と、前記電動モータを制御するインバータ装置12と、前記電動モータの速度指令を入力する操作装置13と、前記操作装置からの速度指令に応じて前記インバータ装置にトルク指令を出力する制御手段10とを備えた建設機械の電動駆動制御装置において、前記電動モータの速度信号を検出する速度検出器14と、前記速度検出器からの速度信号が予め設定された速度より小さい領域において、前記電動モータ4のトルクを制限するトルク指令を前記インバータ装置12に出力する制御手段10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械の電動駆動制御装置に係り、さらに詳しくは、電動機器の熱破壊を保護できる建設機械の電動駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行体上に電動モータで駆動される旋回体を有する形式の建設機械を用いた溝堀作業や埋め戻し作業においては、旋回体を旋回させるとともに旋回体に装設された作業機を地山等に押し当てるという動作が繰り返し行われる。このとき、旋回体を駆動する電動モータは、地山等から作業機が受ける抵抗力(反力)により、強制的に停止(以下ロック状態という)させられるので、回転状態→ロック状態→回転状態→ロック状態・・・という態様が繰り返される。
【0003】
電動モータがロック状態になると、電動モータの回転数がほぼ0となり、これをフイードバック量としてインバータ装置に指令を与えるコントローラはインバータ装置に対して大きなトルクを発生させるための信号を出力し続けることになる。この結果、インバータ装置を構成する特定のスイッチング素子に大電流が流れ続けるためにその特定のスイッチング素子の発熱量が増大するという問題がある。
【0004】
このような問題に対して、モータがロック状態にあるか、あるいは回転状態にあるかを判別する判別手段と、モータがロック状態にあると判別された場合には、前回までに演算されたスイッチング素子の温度とに基づいて、ロック状態用の演算式を用いて、今回のスイッチング素子の温度を順次演算するとともに、モータが回転状態にあると判別された場合には、前回までに演算されたスイッチング素子の温度とに基づいて、回転状態用の演算式を用いて、今回のスイッチング素子の温度を順次演算する温度演算手段と、温度演算手段で演算されたスイッチング素子の温度に応じて、スイッチング素子を熱的に保護する制御を行う制御手段を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−296112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電動モータの停止、回転の繰り返しにより生じるインバータ装置のスイッチング素子の熱破壊を保護する方策として、特許文献1に開示されているように、スイッチング素子の温度に基づいてスイッチング素子を熱的に保護するものがあるが、この従来技術は、スイッチング素子の温度等を把握するために多くのセンサ、多くのセンサ情報に基づく演算アルゴリズム、及び制御ロジックを有する制御回路をインバータ装置に付設しなければならない。
【0007】
また、建設機械等の多品種のハイブリッド形式の作業機械に上記従来技術を適用する場合、作業機械の機種、仕様により、予め共通化して設置されているインバータ装置の制御ロジック及び制御定数等を変更調整する必要があり、インバータ装置の共通化の妨げになっており、その改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、インバータ装置の共通化を図りつつ、電動機器に誘起される熱破壊を保護することができる建設機械の電動駆動制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、建設機械の被駆動体を駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するインバータ装置と、前記電動モータの速度指令を入力する操作装置と、前記操作装置からの速度指令に応じて前記インバータ装置にトルク指令を出力する制御手段とを備えた建設機械の電動駆動制御装置において、前記電動モータの速度信号を検出する速度検出器と、前記速度検出器からの速度信号が予め設定された速度より小さい領域において、前記電動モータのトルクを制限するトルク指令を前記インバータ装置に出力する制御手段とを備えたものとする。
【0010】
また、第2の発明は、建設機械を駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するインバータ装置と、前記電動モータの速度指令を入力する操作装置と、前記操作装置からの速度指令に応じて前記インバータ装置にトルク指令を出力する制御手段とを備えた建設機械の電動駆動制御装置において、前記電動モータの速度信号を検出する速度検出器と、前記操作装置からの速度指令と前記速度検出器からの速度信号とに基づき、前記電動モータのトルク信号を算出する速度制御手段と,前記速度検出器からの速度信号に応じてトルク制限信号を算出する速度・トルク算出手段と,前記速度・トルク算出手段からのトルク制限信号を基に前記速度制御手段からのトルク信号を制限し、前記速度検出器からの速度信号が予め設定された速度より小さい領域において、前記トルク信号を制限したトルク指令を前記インバータ装置に出力するする制限手段とを有する制御手段とを備えたものとする。
【0011】
更に、第3の発明は、第2の発明において、前記速度・トルク算出手段は、前記インバータ装置を構成するスイッチング素子の温度上昇による熱破壊を防止する電流値を基に速度信号をトルク換算してトルク制限信号を算出することを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記制限手段からの前記トルク信号を制限する制限状態を報知する信号を出力する報知手段を更に備えたことを特徴とする。
【0013】
更に、第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれかにおいて、前記被駆動体はフロント作業機を装設した旋回体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車体コントローラ等の上位コントローラ側で電動機器の熱破壊を生起させる運転を制限制御するので、電動機器の熱破壊からの保護が行える。また、車体コントローラ等の上位コントローラ側が制御するので、多品種の作業機械からなる建設機械において、インバータ装置等の共通化を図ることができる。この結果、建設機械の機器共通化が図れ、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルの旋回駆動制御システムの概略図である。
【図3】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するインバータ装置の概略図である。
【図4】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を示す制御ブロック図である。
【図5】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の目標旋回速度設定関数の一例を示す特性図である。
【図6】本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の速度・トルク算出設定関数の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の建設機械の電動駆動制御装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルを示す側面図、図2は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルの旋回駆動制御システムの概略図、図3は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するインバータ装置の概略図である。
【0017】
図1において、油圧ショベルは、走行体1と、走行体1上に旋回可能に設けた旋回体2及び多関節形の作業機3を備えている。
【0018】
走行体1は、一対のクローラ1a,1b及びクローラフレーム1c,1d(図1では片側のみを示す)、各クローラ1a,1bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ1e、1f及びその減速機構等で構成されている。
【0019】
旋回体2は、旋回フレーム2aと、旋回フレーム2a上に設けた原動機としてのエンジン(図示せず)と、旋回電動モータ4と、旋回電動モータ4に接続した電気二重層キャパシタ11(図2)と、旋回電動モータ4の回転を減速する減速機構5等から構成され、旋回電動モータ4の駆動力が減速機構5を介して伝達され、その駆動力により走行体1に対して旋回体2(旋回フレーム2a)を旋回駆動させる。
【0020】
また、旋回体2には多関節形の作業機3が装設されている。多関節形の作業機3は、旋回体2の前部に設けたブーム6と、ブーム6を駆動するためのブームシリンダ6aと、ブーム6の先端部近傍に回転自在に軸支された7と、アーム7を駆動するためのアームシリンダ7aと、アーム7の先端に回転可能に軸支されたバケット8と、バケット8を駆動するためのバケットシリンダ8a等で構成されている。
【0021】
また、旋回体の旋回フレーム2a上の前側には、運転室9が設けられていて、運転室9には、後述する旋回用操作装置13(図2)と運転監視モニタ15(図2)とが配設されている。
【0022】
次に、油圧ショベルの電動機器のシステム構成について概略説明する。図2に示すように、電動システムは、蓄電装置としてのキャパシタ11と、旋回電動モータ4を駆動するための旋回電動モータ用インバータ12等から構成されている。
【0023】
キャパシタ11からの直流電力は図示しないチョッパ等によって所定の母線電圧に昇圧され、旋回電動モータ4を駆動するための旋回電動モータ用インバータ12に入力される。旋回電動モータ4は、減速機構5を介して旋回体2を駆動する。旋回電動モータ4の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ11は充放電されることになる。旋回電動モータ4には、その速度を検出する速度検出器14が設けられている。
【0024】
旋回電動モータ4を駆動するための旋回電動モータ用インバータ12は、図3に示すように、例えばIGBTのようなスイッチング素子12a〜12fの6個からなるブリッジ回路で構成されている。また、旋回電動モータ用インバータ12は、図示しないインバータ制御コントローラを有していて、インバータ制御コントローラは、コントローラ10からのトルク指令を受け取り、指令に従って、旋回電動モータ用インバータ12に対してPWM信号を出力する。スイッチング素子12a〜12fは、インバータ制御コントローラからの指令を受けて、電流のON/OFFを繰り返し、パルス幅を変動させることで三相交流を作り出し、旋回電動モータ4を指令されたトルクで駆動する。モータの種類によっては図3に示すインバータ回路とは異なるスイッチング素子の構成が用いられることがあり、図3は一例にすぎない。
【0025】
図2に戻り、コントローラ10は、旋回電動モータ4の目標回転数信号となる旋回用操作装置13からの操作量信号と、速度検出器14からの旋回電動モータ4の速度信号とを入力し、これらの信号等を用いて、旋回電動モータ4を駆動する駆動装置である旋回電動モータ用インバータ12に対する制御指令を生成して、旋回体2を駆動する旋回電動モータ4の旋回駆動制御を行う。この際、旋回体2のロック状態等が想定される極低速領域では、コントローラ10はトルク制限値を加えて上述した制御指令を算出するので、電動機器の熱破壊からの保護が図れる。また、上述した制御指令がトルク制限されている場合には、運転監視モニタ15にトルク制限中の信号を出力し、現在の運転状体がトルク制限状態であることをオペレータに報知する。
【0026】
次に、本実施の形態におけるコントローラ10の構成・作用について図4乃至図6を用いて説明する。図4は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を示す制御ブロック図、図5は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の目標旋回速度設定関数の一例を示す特性図、図6は本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態を構成するコントローラ内の速度・トルク算出設定関数の一例を示す特性図である。図4乃至図6において、図1乃至図3に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0027】
図4に示すコントローラ10は、旋回用操作装置13からの操作信号と速度検出器14からの速度信号とが入力される入力部と、旋回電動モータ4の回転速度を制御する制御指令を算出すると共にトルク制限の有無を判定する演算部と、演算された制御指令を駆動装置である旋回電動モータ用インバータ12に出力すると共にトルク制限中の信号を運転監視モニタ15に出力する出力部と、演算部で使用する設定値を予め記憶する記憶部とを備えるコントローラユニットで構成されている。
【0028】
演算部は、旋回操作装置13からの操作信号を入力として旋回電動モータ速度変換をする目標速度変換器16と、目標速度変換器16の出力である目標旋回速度から速度検出器14からの実旋回速度を減算して偏差を算出する減算器17と、制御器18と、速度絶対値を算出する絶対値算出器19と、速度・トルク算出器20と、極性変換器21と、旋回電動モータ4の正転側方向・逆転側方向のトルクの上限を制限するリミッタ22とを備えている。
【0029】
目標速度変換器16には、旋回操作装置13からの操作信号が入力され、この入力に対する旋回電動モータ4の目標速度特性が予め設定されている。この設定値は、オペレータの操作感覚に適合するようにして決められ、記憶部に記憶されている。ここで、目標速度変換器16の出力は旋回操作装置13からの信号に対応するものであって、図5に示すように、旋回左側のレバーストローク−1から中立の0を経由して旋回右側のレバーストローク1までを入力として、各入力値に応じた目標旋回速度である出力信号が得られるように予め設定されている。目標速度変換器16の出力信号は、減算器17の一方(+側)へ入力される。
【0030】
減算器17は、目標速度変換器16の出力信号を一方(+側)に、速度検出器14からの速度信号を他方(−側)に入力し、+側の入力信号から−側の入力信号を減算する演算を行い、その出力信号である偏差信号を制御器18へ出力する。
【0031】
制御器18は、入力信号である偏差信号を基に速度制御に見合う目標となるトルク信号を算出する。制御器18の出力信号は、リミッタ22の信号入力側へ入力される。
【0032】
絶対値算出器19は、速度検出器14からの速度信号を入力し、速度信号の絶対値を算出する演算を行い、その出力信号である速度絶対値を速度・トルク算出器20へ出力する。ここで、速度検出器14が検出する速度信号は、旋回体2が右旋回する場合と左旋回する場合において、符号が反転することを想定している。このため、絶対値算出器19は、旋回体2の左右どちらの旋回においても適切な制御を可能とするために速度信号を絶対値化している。
【0033】
速度・トルク算出器20は、絶対値算出器19の出力信号である絶対値速度信号Vを入力し、この入力に対するトルクTの制限特性が予め設定されている。この設定値は、スイッチング素子の温度上昇による熱破壊を防止する電流値を基に速度信号をトルク換算して算出したものであって、スイッチング素子の駆動集中により温度上昇が懸念される極低速領域において出力値である駆動トルクを制限し、速度が上昇するにつれてその制限がかからない特性が設定され、記憶部に記憶されている。ここで、速度・トルク算出器20の出力は絶対値算出器19からの信号に対応するものであって、図6に示すように、速度信号の絶対値を入力として、各入力値に応じたトルク指令である出力信号が得られるように予め設定されている。なお、本実施の形態においては、最大速度信号の2%以下で70%トルク指令を出力し、最大速度信号の10%以上で100%トルク指令を出力し、最大速度信号の2%から最大速度信号の10%の間は線形に補間したトルク指令が出力している。速度・トルク算出器20の出力信号は、リミッタ22の正側制限入力と極性変換器21とへ入力される。
【0034】
極性変換器21は、入力信号である速度・トルク算出器20のトルク制限信号の極性を反転させた負側トルク制限信号を算出する。極性変換器21の出力信号は、リミッタ22の負側制限入力へ入力される。
【0035】
リミッタ22は、制御器18の出力信号であるトルク信号を信号入力に、速度・トルク算出器20の出力信号を正側制限入力に、極性変換器21の出力信号を負側制限入力にそれぞれ入力している。そして、正側制限入力と負側制限入力の各値を制限値として、信号入力の値を各制限値で制限した値のトルク信号をAo部から出力すると共に、信号入力の値が各制限値により制限されて出力された場合には、Do部から制限中のディジタル信号22Doを出力する。リミッタ22のAo部からの出力信号22Aoは、旋回電動モータ4を駆動する旋回電動モータ用インバータ12へ制御指令(トルク指令)として出力されている。また、リミッタ22のDo部からの出力信号22Doは、オペレータにトルク制限中を報知するために運転監視モニタ15へ出力されている。
【0036】
次に、上記構成による本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態における動作を図面を用いて説明する。
【0037】
まず、通常の旋回体2の旋回動作の場合について説明する。図4において、オペレータが旋回操作装置13を操作すると、旋回操作装置13からの操作信号が入力されるので、目標速度変換器16は目標となる旋回速度を算出する。また、速度検出手段14は旋回体2の実旋回速度を検出する。目標速度変換器16からの目標旋回速度と、速度検出器14からの実旋回速度は減算器17に入力される。減算器17は目標値からのズレ量すなわち偏差信号を算出する。この偏差信号を基に制御器18は速度制御に見合う目標となるトルク信号を算出し、リミッタ22に出力する。
【0038】
一方、速度検出手段14より検出された実旋回速度は絶対値算出器19を介して速度・トルク算出器20に入力される。速度・トルク算出器20は実旋回速度をトルクに換算すると共にトルク制限値を算出しリミッタ22に出力する。リミッタ22はこの制限値信号を基に制御器18からのトルク信号を制限して旋回電動モータ4を駆動する旋回電動モータ用インバータ12へ制御指令(トルク指令)を出力する。
【0039】
旋回電動モータ4が停止している状態から起動する場合について、具体的に説明する。旋回電動モータ4が停止している状態において、速度検出手段14からの実旋回速度は停止状態を示すゼロである。このゼロ信号が速度絶対値算出器19を介して速度・トルク算出器20に入力される。
【0040】
速度・トルク算出器20では、予め旋回電動モータ4の回転速度むらによる温度上昇が生じても問題のない電流値であるトルク制限値が算出される。このトルク制限値と、極性変換器21で算出する逆回転方向のトルク制限値とをリミッタ22の制限入力に出力することで、リミッタ22は旋回電動モータ用インバータ12へ出力する制御指令(トルク指令)を制限している。
【0041】
このような演算を制御演算周期毎に繰り返すことにより、旋回電動モータ4が動き出し旋回体2の実旋回速度を徐々に増していく。旋回体2の実旋回速度が上昇することで、速度・トルク算出器20からのトルク制限値が上昇し、リミッタ22におけるトルク制限が解除されていく。このことにより、電動機器の熱破壊からの保護を必要としない通常の旋回動作が得られる。
【0042】
一方、上述した旋回押付け作業等が行われた場合の動作について説明する。まず、通常の旋回動作においては、上述したようにリミッタ22におけるトルク制限は、解除されている。このような回転状態から旋回電動モータ4が地山等から受ける反力により、ロック状態となると、速度検出手段14からの実旋回速度は停止状態を示すゼロになる。この結果、速度・トルク算出器20からは、予め旋回電動モータ4の回転速度むらによる温度上昇が生じても問題のない電流値であるトルク制限値をリミッタ22に出力する。リミッタ22は速度トルク算出器20からのトルク制限値を取込み旋回電動モータ用インバータ12へ出力する制御指令(トルク指令)を制限する。また、リミッタ22からは、運転室9の運転監視モニタ15へトルク制限中の信号が出力され、オペレータに当該制限制御実行中であることを報知する。
【0043】
このことにより、コントローラ10は、旋回電動モータ用インバータ12に対して大きなトルクを発生させるための信号の出力継続を制限する。この結果、旋回電動モータ用インバータ12を構成する特定のスイッチング素子に大電流が流れ続けることによるスイッチング素子の発熱量の増大を抑えることができる。
【0044】
旋回電動モータ4が地山等から受ける反力によりロック状態となった場合においても、建設機械では作業機3等を動作し負荷を逃がすことでトルク減少による旋回停止を回避することができる。例えば、地山等に押し当てた作業機を上昇させれば、旋回電動モータ4をロックさせる負荷が除去され、制限されたトルク指令であっても、旋回が開始され得る。したがって、本実施の形態のように旋回電動モータ4のトルク指令を減少させる制御が、建設機械の運転において、大きな不具合となることはない。
【0045】
しかしながら、このようなトルク減少の状態が制御によるものであることをオペレータに報知する必要がある。上述した旋回負荷の回避作業の開始をオペレータにガイドするためである。本実施の形態においては、リミッタ22が制限動作実行時には、運転室9の運転監視モニタ15へトルク制限中の信号が出力され、オペレータに当該制御実行中であることを報知している。このことは、作業性の向上に繋がり有効である。
【0046】
上述した本発明の建設機械の電動駆動制御装置の一実施の形態によれば、車体コントローラ10等の上位コントローラ側で電動機器の熱破壊を生起させる運転を制限制御するので、電動機器の熱破壊からの保護が行える。また、車体コントローラ10等の上位コントローラ側が制御するので、多品種の作業機械からなる建設機械において、インバータ装置12等の共通化を図ることができる。この結果、建設機械の機器共通化が図れ、生産性を高めることができる。
【0047】
なお、本発明の実施の形態においては、旋回体2と旋回電動モータ4とを備えた油圧ショベルを例にとって説明したが、これに限るものではない。電動モータとインバータとを有する建設・作業機械全般に対して適用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 走行体
2 旋回体
3 作業機
4 旋回電動モータ
5 減速機
6 ブーム
7 アーム
8 バケット
9 運転室
10 コントローラ
11 キャパシタ
12 インバータ
13 旋回操作装置
14 速度検出手段
15 監視モニタ装置
16 目標速度変換器
17 減算器
18 制御器
19 絶対値算出器
20 速度・トルク算出器
21 極性変換器
22 リミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の被駆動体を駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するインバータ装置と、前記電動モータの速度指令を入力する操作装置と、前記操作装置からの速度指令に応じて前記インバータ装置にトルク指令を出力する制御手段とを備えた建設機械の電動駆動制御装置において、
前記電動モータの速度信号を検出する速度検出器と、
前記速度検出器からの速度信号が予め設定された速度より小さい領域において、前記電動モータのトルクを制限するトルク指令を前記インバータ装置に出力する制御手段とを備えた、
ことを特徴とする建設機械の電動駆動制御装置。
【請求項2】
建設機械を駆動する電動モータと、前記電動モータを制御するインバータ装置と、前記電動モータの速度指令を入力する操作装置と、前記操作装置からの速度指令に応じて前記インバータ装置にトルク指令を出力する制御手段とを備えた建設機械の電動駆動制御装置において、
前記電動モータの速度信号を検出する速度検出器と、
前記操作装置からの速度指令と前記速度検出器からの速度信号とに基づき、前記電動モータのトルク信号を算出する速度制御手段と,前記速度検出器からの速度信号に応じてトルク制限信号を算出する速度・トルク算出手段と,前記速度・トルク算出手段からのトルク制限信号を基に前記速度制御手段からのトルク信号を制限し、前記速度検出器からの速度信号が予め設定された速度より小さい領域において、前記トルク信号を制限したトルク指令を前記インバータ装置に出力するする制限手段とを有する制御手段とを備えた、
ことを特徴とする建設機械の電動駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械の電動駆動制御装置において、
前記速度・トルク算出手段は、前記インバータ装置を構成するスイッチング素子の温度上昇による熱破壊を防止する電流値を基に速度信号をトルク換算してトルク制限信号を算出する
ことを特徴とする建設機械の電動駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の建設機械の電動駆動制御装置において、
前記制限手段からの前記トルク信号を制限する制限状態を報知する信号を出力する報知手段を更に備えた
ことを特徴とする建設機械の電動駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の建設機械の電動駆動制御装置において、
前記被駆動体はフロント作業機を装設した旋回体である
ことを特徴とする建設機械の電動駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−85426(P2013−85426A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225232(P2011−225232)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】