説明

建設機械

【課題】 エンジンカバーの上方に障害物が存在する場合でも、エンジンカバーが障害物と干渉することなく上,下方向に移動できるようにする。
【解決手段】 リンク機構19を構成する第1リンク部材23の固定端側支点ピン24から自由端側支点ピン25までの距離L1と、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27から自由端側支点ピン28までの距離L2とを等しく設定し、かつ、固定端側支点ピン24と固定端側支点ピン27との間隔S1を、自由端側支点ピン25と自由端側支点ピン28との間隔S2よりも大きく設定する。これにより、エンジンカバー17を閉位置と開位置との間で上,下方向に移動させるときに、リンク機構19によってエンジンカバー17の上端部17Aを後方に傾けてキャブ12との干渉を防止し、エンジンカバー17を閉位置と開位置との間で円滑に移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械に関し、特に、車体に搭載されたエンジン等を開閉可能に覆うエンジンカバーを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械は、自走可能な車体と、該車体を構成する上部旋回体に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより大略構成されている。そして、油圧ショベルの上部旋回体には、動力源としてのエンジン、該エンジンによって駆動される油圧ポンプ、エンジン等を冷却する熱交換器等の機器類が搭載され、これら各種の機器類は、上部旋回体に設けられた外装カバーによって覆われている。
【0003】
ここで、建設機械に搭載された機器類のうち、例えばエンジンは、始業点検等によって頻繁に点検作業を行う必要がある。このため、エンジンを覆うエンジンカバーは、通常、エンジンを覆う閉位置とエンジンを外部に露出させる開位置との間で容易に開,閉できる構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−23781号公報
【0005】
この従来技術によるエンジンカバーは、エンジン等を後側から覆うカウンタウエイトに設けられた点検口を開,閉するため、平行リンクを用いたリンク機構を介してカウンタウエイトに取付けられるものである。この場合、リンク機構は、エンジンカバーを地面に対してほぼ垂直な姿勢に保持したまま、エンジンカバーを開位置と閉位置との間で上,下方向に平行移動させる構成となっている。
【0006】
これにより、エンジンカバーを開位置と閉位置との間で移動させるときに必要とするスペースを少なくすることができ、狭隘な作業現場においてエンジンカバーの周囲に障害物が存在する場合でも、エンジンカバーを上,下方向に平行移動させることにより、当該エンジンカバーと障害物との干渉を防止しつつ点検口を開,閉することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した従来技術によるエンジンカバーは、平行リンクを用いたリンク機構によって開位置と閉位置との間で移動するときに、常に地面に対してほぼ垂直な姿勢を保持する構成となっている。
【0008】
このため、比較的小型な油圧ショベル等において、例えば運転室を画成するキャブの後端部などの部材(障害物)が、エンジンカバーの上方に張出して配置された場合には、エンジンカバーを閉位置から開位置へと移動させるときに、エンジンカバーの上端部が障害物と干渉してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、エンジンカバーの上方に障害物が存在する場合でも、エンジンカバーが障害物と干渉することなく開位置と閉位置との間で円滑に移動できるようにした建設機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、自走可能な車体と、該車体に搭載されたエンジンと、前記車体の後部側に設けられ該エンジンを覆う開閉可能なエンジンカバーと、前記エンジンカバーを開位置と閉位置との間で上,下方向に移動させるリンク機構とを備えてなる建設機械に適用される。
【0011】
そして、請求項1の発明の特徴は、前記リンク機構は、前記エンジンカバーの上端側を後方に傾けた状態で当該エンジンカバーを閉位置と開位置との間で移動させる構成としたことにある。
【0012】
請求項2の発明は、前記リンク機構は、前記車体に回動可能にピン結合された固定端側支点と前記エンジンカバーに回動可能にピン結合された自由端側支点とを有する第1リンク部材と、該第1リンク部材の固定端側支点よりも下方に離間して前記車体に回動可能にピン結合された固定端側支点と前記第1リンク部材の自由端側支点よりも下方に離間して前記エンジンカバーに回動可能にピン結合された自由端側支点とを有する第2リンク部材とを備え、前記第1リンク部材の固定端側支点から自由端側支点までの距離(L1)と、前記第2リンク部材の固定端側支点から自由端側支点までの距離(L2)とを等しく設定し、前記第1リンク部材の固定端側支点と前記第2リンク部材の固定端側支点との間隔(S1)と、前記第1リンク部材の自由端側支点と前記第2リンク部材の自由端側支点との間隔(S2)とを異ならせる構成としたことにある。
【0013】
請求項3の発明は、前記車体と前記第1,第2リンク部材のうち一方のリンク部材との間には、前記エンジンカバーが開位置と閉位置との間で移動する間に当該エンジンカバーに付勢力を与える付勢手段を設ける構成としたことにある。
【0014】
請求項4の発明は、前記エンジンカバーには、前記エンジンカバーを開位置としたときに前記第1リンク部材に当接することにより当該エンジンカバーの過剰な傾きを抑えるストッパを設ける構成としたことにある。
【0015】
請求項5の発明は、前記車体の後部側には、前記エンジンを含む搭載機器を点検するための点検口を有したカウンタウエイトを設け、前記リンク機構は、前記カウンタウエイトと前記エンジンカバーとの間に設けられ前記エンジンカバーを前記カウンタウエイトの点検口を開く開位置と閉じる閉位置との間で上,下方向に移動させる構成としたことにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、エンジン等に対する点検作業を行うため、エンジンカバーを閉位置と開位置との間で移動させるときには、当該エンジンカバーの上端側をリンク機構によって後方に傾けることができる。従って、エンジンカバーの上方に障害物がある場合でも、エンジンカバーの上端側と障害物との干渉を避けることができるので、エンジンカバーを閉位置と開位置との間で上,下方向に円滑に移動させることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、リンク機構を構成する第1,第2リンク部材の固定端側支点の間隔(S1)と、第1,第2リンク部材の自由端側支点の間隔(S2)とを異ならせることにより、第1リンク部材と第2リンク部材とは、固定端側支点を中心として回動するときに互いに非平行となる。このため、第1,第2リンク部材の自由端側支点にピン結合されたエンジンカバーは、その上端側を後方に傾けた状態で上,下方向に移動することができ、エンジンカバーの上方に存在する障害物との干渉を避けることができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、エンジンカバーを開位置に向けて移動させるときには、付勢手段がエンジンカバーに対して開位置へと向かう付勢力を与えることにより、エンジンカバーを容易に開位置へと移動させることができる。一方、エンジンカバーを閉位置に向けて移動させるときには、付勢手段がエンジンカバーに対して閉位置へと向かう付勢力を与えることにより、エンジンカバーを閉位置に保持しておくことができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、エンジンカバーにストッパを設けることにより、エンジンカバーが、その上端側を後方に傾けた状態で開位置へと移動したときに、ストッパが第1リンク部材に当接することにより、第1リンク部材のそれ以上の動作を停止させることができる。これにより、開位置に移動したエンジンカバーが、その自重によって過剰に後方に傾くのを抑えることができ、エンジンカバーを開位置に安定して保持することができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、カウンタウエイトとエンジンカバーとの間に設けたリンク機構によってエンジンカバーを開位置と閉位置との間で上,下方向に移動させることにより、カウンタウエイトに設けられた点検口を開,閉することができる。この場合、エンジンカバーは上,下方向に移動するので、カウンタウエイトの周囲に障害物が存在する場合でも、エンジンカバーを円滑に開,閉することができ、点検口を通じてエンジン等に対する点検を行うときの作業性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る建設機械の実施の形態を、クローラ式の下部走行体を備えた小型の油圧ショベルを例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図中、1は建設機械の代表例としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1の車体は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とにより構成されている。そして、上部旋回体3の前部側には、土砂の掘削作業等に用いられるスイングポスト式の作業装置4が俯仰動可能に設けられ、下部走行体2の前部側には、土砂等の排土作業を行う排土装置5が設けられている。
【0023】
ここで、上部旋回体3は、旋回装置6を介して下部走行体2上に取付けられた旋回フレーム7と、該旋回フレーム7上に設けられた後述のキャブ12、カウンタウエイト13、外装カバー14等により大略構成されている。
【0024】
8は旋回フレーム7の後部側に搭載されたエンジンで、該エンジン8は、左,右方向に延びる横置き状態に配置されている。そして、エンジン8の左側には、当該エンジン8によって駆動される油圧ポンプ9が取付けられ、この油圧ポンプ9からの圧油によって油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータが作動する構成となっている。
【0025】
また、エンジン8の右側には冷却ファン10が設けられ、該冷却ファン10の右側には、ラジエータ、オイルクーラ等の熱交換器11が配置されている。そして、これらエンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の機器類は、後述のカウンタウエイト13、外装カバー14等によって覆われる構成となっている。
【0026】
12は旋回フレーム7上に設けられたキャブで、該キャブ12は、運転室を画成し、オペレータが搭乗するものである。ここで、キャブ12は、前面部12A、後面部12B、左,右の側面部12C,12D、上面部12E等によって囲まれたボックス状をなしている。そして、キャブ12の内部には、オペレータが着席する運転席、オペレータによって操作される各種レバー、スイッチ類(いずれも図示せず)が配設されている。
【0027】
この場合、キャブ12は、オペレータの居住性を高めるために大きな容積をもって形成され、キャブ12の後面部12Bは、後述するエンジンカバー17が閉位置となったときにこのエンジンカバー17よりも後方に配置されている。このため、キャブ12の後端側の下角部12Fは、閉位置となったエンジンカバー17の上方まで張出す構成となっている。
【0028】
13はエンジン8の後側に位置して旋回フレーム7の後端部に取付けられれたカウンタウエイトで、該カウンタウエイト13は、作業装置4との重量バランスをとるものである。ここで、カウンタウエイト13は、左,右方向に円弧状に延びる凸湾曲形状をなし、鋳造手段によって一体形成されている。そして、カウンタウエイト13は、旋回フレーム7の後端部から上方に立上がり、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器を後側から覆うものである。
【0029】
13Aはカウンタウエイト13に前,後方向に貫通して設けられた点検口で、該点検口13Aは、図4に示すようにカウンタウエイト13の中央部に形成され、左,右方向に延びる矩形状をなしている。そして、カウンタウエイト13の点検口13Aは、後述のエンジンカバー17によって開,閉され、作業者は、カウンタウエイト13の後方から点検口13Aを通じて、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業を行なうようになっている。
【0030】
13B,13Bは左,右方向で対面するように点検口13Aの上部側の内周縁に突設された左,右のリンク取付座で、これら左,右のリンク取付座13Bは、図5及び図6に示すように、点検口13Aの内周縁に沿って上,下方向に延びる矩形状をなし、カウンタウエイト13に一体形成されている。そして、左,右のリンク取付座13Bには、後述のリンク機構19がそれぞれ取付けられる構成となっている。
【0031】
14はカウンタウエイト13に連続して旋回フレーム7上に設けられた外装カバーで、該外装カバー14は、カウンタウエイト13と共にエンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器を覆うものである。ここで、外装カバー14は、図1ないし図4に示すように、旋回フレーム7の左側部に配置されカウンタウエイト13の左端側から前方に向けて滑らかに連続する左側面カバー15と、旋回フレーム7の右側部に配置されカウンタウエイト13の右端側から前方に向けて滑らかに連続する右側面カバー16と、これら左側面カバー15と右側面カバー16との間に配置された後述のエンジンカバー17とにより大略構成されている。
【0032】
17は左側面カバー15、右側面カバー16と共に外装カバー14を構成するエンジンカバーで、該エンジンカバー17は、後述のリンク機構19を介してカウンタウエイト13に取付けられている。そして、エンジンカバー17は、図2及び図4に示すように、左側面カバー15と右側面カバー16との間に配設され、カウンタウエイト13に設けた点検口13Aを後側から開閉可能に覆うものである。
【0033】
ここで、エンジンカバー17は、例えば樹脂材料等を用いて一体形成され、カウンタウエイト13に対応して左,右方向に円弧状に延びる凸湾曲形状をなしている。そして、エンジンカバー17は、後述のリンク機構19により、カウンタウエイト13の点検口13Aを開く開位置と、点検口13Aを閉じる閉位置との間で、カウンタウエイト13の後面に沿って上,下方向に移動するものである。
【0034】
この場合、エンジンカバー17が開位置となったときには、図4及び図7に示すように、カウンタウエイト13の点検口13Aがその全域に亘って開放され、作業者は、点検口13Aを通じてエンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業を行うことができる。一方、エンジンカバー17が閉位置となったときには、図2及び図6に示すように、カウンタウエイト13の点検口13Aがエンジンカバー17によって閉塞され、エンジン8等の搭載機器をエンジンカバー17によって後側から覆うことができる。
【0035】
18はエンジンカバー17の下部側に設けられたロック機構で、該ロック機構18は、エンジンカバー17を閉位置としてカウンタウエイト13の点検口13Aを閉塞したときに、点検口13Aの下縁部に設けた止め具(図示せず)に係合することにより、エンジンカバー17を閉位置にロックするものである。
【0036】
19,19はカウンタウエイト13の左,右のリンク取付座13Bにそれぞれ取付けられた左,右のリンク機構で、これら左,右のリンク機構19は、カウンタウエイト13に対しエンジンカバー17を上,下方向に移動可能に支持するものである。ここで、各リンク機構19は、図6に示すようにエンジンカバー17を閉位置としたときには、このエンジンカバー17をカウンタウエイト13の後面に沿って上,下方向にほぼ垂直に延びた姿勢に保持し、図7に示すようにエンジンカバー17を開位置へと移動させるときには、エンジンカバー17の上端部17A側を後方に傾けることにより、エンジンカバー17の上方に張出したキャブ12の下角部12Fとエンジンカバー17との干渉を防止する構成となっている。そして、各リンク機構19は、後述の第1リンク部材23、第2リンク部材26、引張りばね29等により構成されている。
【0037】
ここで、左,右のリンク機構19は同一の構成を有しているので、以下、図6ないし図9を用いて右側のリンク機構19について説明し、左側のリンク機構19についての説明は省略するものとする。
【0038】
20はカウンタウエイト13に設けられた車体側ブラケットで、該車体側ブラケット20は、鋼板材等を用いて平板状に形成されている。ここで、車体側ブラケット20は、2個のボルト21,21を用いてカウンタウエイト13のリンク取付座13Bに固定され、車体側ブラケット20の後部側は、リンク取付座13Bから後方に突出している。そして、車体側ブラケット20の後部側には、後述する第1リンク部材23の固定端、第2リンク部材26の固定端がピン結合される構成となっている。
【0039】
22はエンジンカバー17に設けられたカバー側ブラケットで、該カバー側ブラケット22は、鋼板材等を用いて形成され、エンジンカバー17の内側面の下端側に固定されている。そして、カバー側ブラケット22には、後述する第1リンク部材23の自由端、第2リンク部材26の自由端がピン結合される構成となっている。
【0040】
23はカウンタウエイト13に設けられた車体側ブラケット20とエンジンカバー17に設けられたカバー側ブラケット22との間を連結する第1リンク部材で、該第1リンク部材23は、鋼板材等を用いて細長い長方形の板状に形成されている。ここで、第1リンク部材23の固定端は、車体側ブラケット20の後部側に固定端側支点としての固定端側支点ピン24を用いて回動可能にピン結合されている。また、第1リンク部材23の自由端は、カバー側ブラケット22に自由端側支点としての自由端側支点ピン25を用いて回動可能にピン結合されている。
【0041】
26は第1リンク部材23とは異なる位置でカウンタウエイト13の車体側ブラケット20とエンジンカバー17のカバー側ブラケット22との間を連結する第2リンク部材で、該第2リンク部材26は、鋼板材等を用いて細長い長方形の板状に形成されている。ここで、第2リンク部材26の固定端は、車体側ブラケット20のうち固定端側支点ピン24よりも下側に離間した位置に、固定端側支点としての固定端側支点ピン27を用いて回動可能にピン結合されている。また、第2リンク部材26の自由端は、カバー側ブラケット22のうち自由端側支点ピン25よりも下側に離間した位置に、自由端側支点としての自由端側支点ピン28を用いて回動可能にピン結合されている。
【0042】
ここで、図8及び図9に示すように、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24から自由端側支点ピン25までの距離をL1とし、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27から自由端側支点ピン28までの距離をL2とすると、これらの距離L1と距離L2とは下記数1の関係に設定されている。
【0043】
【数1】

【0044】
また、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24と、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27との間隔をS1とし、第1リンク部材23の自由端側支点ピン25と、第2リンク部材26の自由端側支点ピン28との間隔をS2とすると、これらの間隔S1と間隔S2とは下記数2の関係に設定されている。
【0045】
【数2】

【0046】
これにより、第1リンク部材23と第2リンク部材26とは非平行となり、リンク機構19は、図8及び図9中に実線で示すエンジンカバー17の閉位置では、エンジンカバー17を上,下方向にほぼ垂直に延びた状態に保持し、エンジンカバー17を実線で示す閉位置と二点鎖線で示す開位置との間で移動させるときには、このエンジンカバー17の上端側を後方に傾ける構成となっている。
【0047】
このため、図7に示すように、キャブ12の後端側の下角部12Fがエンジンカバー17の上方に張出している場合でも、エンジンカバー17の上端側を後方に傾けることにより、このエンジンカバー17の上端部17Aがキャブ12の下角部12Fと干渉するのを防止し、エンジンカバー17を閉位置から開位置へと円滑に移動させることができる構成となっている。
【0048】
29は車体側ブラケット20と第1リンク部材23との間に設けられた付勢手段としての引張りばねで、引張りばね29はコイルばねにより構成されている。ここで、引張りばね29の一端側は、車体側ブラケット20に突設された掛止ピン30に掛止めされ、引張りばね29の他端側は、第1リンク部材23の長さ方向中間部に突設された掛止ピン31に掛止めされている。そして、引張りばね29は、エンジンカバー17が閉位置と開位置との間で移動するときに、第1リンク部材23が固定端側支点ピン24を中心として回動することにより、掛止ピン30を中心として回動変位しつつ伸縮する。
【0049】
この場合、引張りばね29は、エンジンカバー17が閉位置と開位置との間を移動するときに、固定端側支点ピン24と掛止ピン30,31とが一直線上に並んだ状態で最大伸長位置となる。従って、エンジンカバー17を閉位置に移動させるときに、引張りばね29が最大伸長位置を超えて縮小することにより、引張りばね29は、エンジンカバー17に対し閉位置に向かう付勢力を与える。一方、エンジンカバー17を開位置に移動させるときに、引張りばね29が最大伸長位置を超えて縮小することにより、引張りばね29は、エンジンカバー17に対し開位置に向かう付勢力を与える構成となっている。
【0050】
また、引張りばね29のばね力(付勢力)は、エンジンカバー17が開位置となったときに当該エンジンカバー17の自重よりも大きく設定されている。これにより、エンジンカバー17を開位置に移動させたときには、このエンジンカバー17を引張りばね29によって開位置に保持しておくことができる構成となっている。
【0051】
32はエンジンカバー17のカバー側ブラケット22に設けられたストッパで、該ストッパ32は、例えば鋼板材等を用いて形成され、カバー側ブラケット22に溶接等の手段を用いて突設されている。そして、ストッパ32は、図7に示すように、エンジンカバー17が開位置に移動したときに第1リンク部材23に衝合することにより、第1リンク部材23のそれ以上の動作を停止させるものである。
【0052】
これにより、開位置に移動したエンジンカバー17が、その自重によって過剰に後方に傾くのを抑えることができ、ストッパ32によってエンジンカバー17を開位置に安定して保持することができる構成となっている。従って、カバー側ブラケット22におけるストッパ32の配設位置を変化させることにより、ストッパ32と第1リンク部材23とが衝合するタイミングを変化させることができ、エンジンカバー17の開位置を適宜に設定することができる。
【0053】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、該油圧ショベル1は、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業を行うときに、カウンタウエイト13の点検口13Aをエンジンカバー17によって開,閉する作業を容易に行うことができるようになっており、以下、エンジンカバー17によって点検口13Aを開,閉する作業について説明する。
【0054】
まず、カウンタウエイト13の点検口13Aを開くときには、作業者は、ロック機構18を解除した状態で、エンジンカバー17を、図6に示す閉位置から図7に示す開位置に向けて上方へと持上げる。
【0055】
この場合、エンジンカバー17を支持するリンク機構19は、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24から自由端側支点ピン25までの距離L1と、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27から自由端側支点ピン28までの距離L2とを等しく設定し、かつ、固定端側支点ピン24と固定端側支点ピン27との間隔S1を、自由端側支点ピン25と自由端側支点ピン28との間隔S2よりも大きく設定している(図8及び図9参照)。
【0056】
これにより、リンク機構19は、エンジンカバー17の上端部17Aを後方に傾けた状態で、当該エンジンカバー17を閉位置から開位置に向けて上,下方向に移動させることができる。このため、キャブ12の後端側の下角部12Fが、閉位置となったエンジンカバー17の上方まで張出している場合でも、閉位置から開位置へと移動するエンジンカバー17の上端部17Aが、キャブ12の下角部12Fに干渉するのを防止でき、エンジンカバー17を円滑に開位置へと移動させることができる。
【0057】
このとき、車体側ブラケット20と第1リンク部材23との間に設けられた引張りばね29は、エンジンカバー17が閉位置から開位置へと移動する間に、最大伸長位置を超えて徐々に縮小するようになる。これにより、引張りばね29は、エンジンカバー17を開位置に向けて付勢するので、この分、作業者がエンジンカバー17を持上げるのに必要な力を軽減することができる。
【0058】
そして、エンジンカバー17が、図7に示す開位置へと移動したときには、カバー側ブラケット22に突設されたストッパ32が、第1リンク部材23に衝合する。これにより、開位置に移動したエンジンカバー17が、その自重によって過剰に後方に傾くのを抑えることができる。この場合、引張りばね29のばね力は、エンジンカバー17が開位置となったときに当該エンジンカバー17の自重よりも大きく設定されているので、引張りばね29とストッパ32とにより、エンジンカバー17を開位置に安定して保持しておくことができる。
【0059】
このようにして、エンジンカバー17は、リンク機構19により、キャブ12の下角部12Fを避けつつ上方へと移動した後、引張りばね29とストッパ32とによって図7に示す開位置に保持される。これにより、カウンタウエイト13の点検口13Aがその全域に亘って開放され、作業者は、カウンタウエイト13の後方から点検口13Aを通じて、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業を行うことができる。
【0060】
この場合、エンジンカバー17は、カウンタウエイト13の後面に沿って上,下方向に移動するので、エンジンカバー17が開位置となったときに、カウンタウエイト13の後面からのエンジンカバー17の突出長さを可及的に小さくすることができる。このため、例えばエンジンカバー17を開位置に保持した状態で上部旋回体3を旋回させたとしても、エンジンカバー17が上部旋回体3の周囲に存在する立木等の障害物に衝突するのを防止でき、エンジンカバー17を保護することができる。
【0061】
そして、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業が終了した後には、作業者は、開位置にあるエンジンカバー17を閉位置に向けて下方に下ろす。
【0062】
これにより、リンク機構19に支持されたエンジンカバー17は、その上端部17Aを後方に傾けた状態で、キャブ12の後端側の下角部12Fを避けつつ下方へと移動し、図6に示す閉位置に達したときには、上,下方向にほぼ垂直に延びた状態でカウンタウエイト13の点検口13Aを閉塞する。
【0063】
このとき、引張りばね29は、エンジンカバー17が開位置から閉位置へと移動する間に、最大伸長位置を超えて徐々に縮小するようになる。これにより、引張りばね29は、エンジンカバー17を閉位置に向けて付勢するので、エンジンカバー17を閉位置に保持することができる。
【0064】
そして、エンジンカバー17が、図6に示す閉位置に移動したときには、エンジンカバー17のロック機構18がカウンタウエイト13に設けた止め具(図示せず)に係合することにより、エンジンカバー17を閉位置に確実に保持することができ、エンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器をエンジンカバー17によって後方から覆うことができる。
【0065】
ここで、本実施の形態によるリンク機構19の構成と動作について、図10及び図11に示す比較例によるリンク機構19′との比較に基づいて説明する。
【0066】
まず、本実施の形態によるリンク機構19は、図8及び図9に示すように、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24(固定端側支点)から自由端側支点ピン25(自由端側支点)までの距離L1と、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27(固定端側支点)から自由端側支点ピン28(自由端側支点)までの距離L2とを等しく設定している(L1=L2)。また、固定端側支点ピン24と固定端側支点ピン27との間隔S1を、自由端側支点ピン25と自由端側支点ピン28との間隔S2よりも大きく設定している(S1>S2)。
【0067】
一方、比較例によるリンク機構19′は、従来技術として例示した特開2005−23781号公報に記載のリンク機構と同様に平行リンクを用いて構成されている。即ち、比較例によるリンク機構19′は、図10及び図11に示すように、第1リンク部材23′の固定端側支点ピン24′から自由端側支点ピン25′までの距離をL1′とし、第2リンク部材26′の固定端側支点ピン27′から自由端側支点ピン28′までの距離をL2′とすると、これらの距離L1′と距離L2′とは下記数3の関係に設定されている。
【0068】
【数3】

【0069】
また、第1リンク部材23′の固定端側支点ピン24′と第2リンク部材26′の固定端側支点ピン27′との間隔をS1′とし、第1リンク部材23′の自由端側支点ピン25′と第2リンク部材26′の自由端側支点ピン28′との間隔をS2′とすると、これらの間隔S1′と間隔S2′とは下記数4の関係に設定されている。
【0070】
【数4】

【0071】
このように、比較例によるリンク機構19′の第1リンク部材23′と第2リンク部材26′とは、平行リンクを構成しており、このリンク機構19′を介してエンジンカバー17を支持した場合には、エンジンカバー17は、図10及び図11中の実線で示す閉位置と二点鎖線で示す開位置との間を移動する間に、常に上,下方向にほぼ垂直に延びた状態を保持することになる。
【0072】
このため、キャブ12の後端側の下角部12Fが、エンジンカバー17の上方まで張出している場合には、エンジンカバー17を図10中に二点鎖線で示す開位置まで移動させるときに、エンジンカバー17の上端部17Aがキャブ12の下角部12Fに干渉してしまうという不具合が発生する。
【0073】
これに対し、本実施の形態によるリンク機構19は、第1リンク部材23と第2リンク部材26とが非平行となるため、エンジンカバー17を図8中の実線で示す閉位置としたときには、該エンジンカバー17を上,下方向にほぼ垂直に延びた状態に保持し、エンジンカバー17を二点鎖線で示す開位置へと移動させるときには、このエンジンカバー17の上端側を後方に傾けることができる。このため、エンジンカバー17は、その上端部17Aがキャブ12の下角部12Fに干渉することなく、実線で示す閉位置と二点鎖線で示す開位置との間で上,下方向に円滑に移動することができる。
【0074】
かくして、本実施の形態によれば、エンジンカバー17を支持するリンク機構19は、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24から自由端側支点ピン25までの距離L1と、第2リンク部材26の固定端側支点ピン27から自由端側支点ピン28までの距離L2とを等しく設定し、かつ、固定端側支点ピン24と固定端側支点ピン27との間隔S1を、自由端側支点ピン25と自由端側支点ピン28との間隔S2よりも大きく設定している(図8及び図9参照)。
【0075】
これにより、カウンタウエイト13に設けた点検口13Aを開,閉するため、エンジンカバー17を図6に示す閉位置と図7に示す開位置との間で上,下方向に移動させるときに、リンク機構19によって、エンジンカバー17の上端部17Aを後方に傾けることができる。
【0076】
このため、オペレータの居住性を高めるためにキャブ12の容積を大きく確保することにより、キャブ12の後端側の下角部12Fが、閉位置となったエンジンカバー17の上方まで張出した場合でも、エンジンカバー17の上端部17Aがキャブ12の下角部12Fに干渉するのを確実に防止し、エンジンカバー17を閉位置と開位置との間で円滑に移動させることができる。この結果、カウンタウエイト13の点検口13Aを通じてエンジン8、油圧ポンプ9、熱交換器11等の搭載機器に対する保守、点検作業を行うときの作業性を高めることができる。
【0077】
なお、上述した実施の形態では、第1リンク部材23の固定端側支点ピン24と第2リンク部材26の固定端側支点ピン27との間隔S1を、第1リンク部材23の自由端側支点ピン25と第2リンク部材26の自由端側支点ピン28との間隔S2よりも大きく設定した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば第1リンク部材23の固定端側支点ピン24と第2リンク部材26の固定端側支点ピン27との間隔を、第1リンク部材23の自由端側支点ピン25と第2リンク部材26の自由端側支点ピン28との間隔よりも小さく設定する構成としてもよい。
【0078】
また、上述した実施の形態では、車体側ブラケット20と第1リンク部材23との間に引張りばね29を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば車体側ブラケット20と第2リンク部材26との間に引張りばね29を設ける構成としてもよい。
【0079】
さらに、上述した実施の形態では、建設機械として油圧ショベル1を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば油圧クレーン、ホイールローダ等の他の建設機械にも広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態が適用された油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】油圧ショベルのエンジンカバー、カウンタウエイト等をエンジンカバーが閉位置となった状態でカウンタウエイト側からみた図1の右側面図である。
【図3】エンジンカバーが開位置となった状態を示す図1と同様な正面図である。
【図4】エンジンカバーが開位置となった状態を示す図2と同様な右側面図である。
【図5】図4中のカウンタウエイト、点検口、リンク機構等の要部をエンジンカバーを省略して示す要部拡大図である。
【図6】カウンタウエイト、エンジンカバー、リンク機構等を図2中の矢示VI−VI方向からみた断面図である。
【図7】エンジンカバーが開位置に移動した状態を示す図6と同様な断面図である。
【図8】カウンタウエイト、エンジンカバー、リンク機構等を引張りばねを省略した状態で示す図6と同様な断面図である。
【図9】図8中のリンク機構の動作を示す模式図である。
【図10】比較例によるリンク機構を示す図8と同様な断面図である。
【図11】比較例によるリンク機構の動作を示す図9と同様な模式図である。
【符号の説明】
【0081】
1 油圧ショベル
2 下部走行体(車体)
3 上部旋回体(車体)
8 エンジン
13 カウンタウエイト
13A 点検口
17 エンジンカバー
19 リンク機構
23 第1リンク部材
24,27 固定端側支点ピン(固定端側支点)
25,28 自由端側支点ピン(自由端側支点)
26 第2リンク部材
29 引張りばね(付勢手段)
32 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な車体と、該車体に搭載されたエンジンと、前記車体の後部側に設けられ該エンジンを覆う開閉可能なエンジンカバーと、前記エンジンカバーを開位置と閉位置との間で上,下方向に移動させるリンク機構とを備えてなる建設機械において、
前記リンク機構は、前記エンジンカバーの上端側を後方に傾けた状態で当該エンジンカバーを閉位置と開位置との間で移動させる構成としたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記車体に回動可能にピン結合された固定端側支点と前記エンジンカバーに回動可能にピン結合された自由端側支点とを有する第1リンク部材と、
該第1リンク部材の固定端側支点よりも下方に離間して前記車体に回動可能にピン結合された固定端側支点と前記第1リンク部材の自由端側支点よりも下方に離間して前記エンジンカバーに回動可能にピン結合された自由端側支点とを有する第2リンク部材とを備え、
前記第1リンク部材の固定端側支点から自由端側支点までの距離(L1)と、前記第2リンク部材の固定端側支点から自由端側支点までの距離(L2)とを等しく設定し、
前記第1リンク部材の固定端側支点と前記第2リンク部材の固定端側支点との間隔(S1)と、前記第1リンク部材の自由端側支点と前記第2リンク部材の自由端側支点との間隔(S2)とを異ならせる構成としてなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記車体と前記第1,第2リンク部材のうち一方のリンク部材との間には、前記エンジンカバーが開位置と閉位置との間で移動する間に当該エンジンカバーに付勢力を与える付勢手段を設ける構成としてなる請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記エンジンカバーには、前記エンジンカバーを開位置としたときに前記第1リンク部材に当接することにより当該エンジンカバーの過剰な傾きを抑えるストッパを設ける構成としてなる請求項2または3に記載の建設機械。
【請求項5】
前記車体の後部側には、前記エンジンを含む搭載機器を点検するための点検口を有したカウンタウエイトを設け、前記リンク機構は、前記カウンタウエイトと前記エンジンカバーとの間に設けられ前記エンジンカバーを前記カウンタウエイトの点検口を開く開位置と閉じる閉位置との間で上,下方向に移動させる構成としてなる請求項1,2,3または4に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−154755(P2009−154755A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336374(P2007−336374)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】