建造物における制振構造
【課題】橋脚やビルディング等の建造物において、簡易な構造で大きな制振効果を得ることが出来る制振構造を提供する。
【解決手段】コンクリート基礎50に立設されてベースプレート40を貫通するアンカーボルト20と、アンカーボルト20の先端部に螺合するナット30とによって、コンクリート基礎50上にベースプレート40を締結した建造物において、アンカーボルト20を包囲してナット30とベースプレート40との間に介在する筒状のダンパー部材10が配備される。そして、ダンパー部材10の一方の開口端部がナット30に対してアンカーボルト20の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、ダンパー部材10の他方の開口端部をベースプレート40に対してアンカーボルト20の長手方向の接近離間が不能に連結されている。
【解決手段】コンクリート基礎50に立設されてベースプレート40を貫通するアンカーボルト20と、アンカーボルト20の先端部に螺合するナット30とによって、コンクリート基礎50上にベースプレート40を締結した建造物において、アンカーボルト20を包囲してナット30とベースプレート40との間に介在する筒状のダンパー部材10が配備される。そして、ダンパー部材10の一方の開口端部がナット30に対してアンカーボルト20の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、ダンパー部材10の他方の開口端部をベースプレート40に対してアンカーボルト20の長手方向の接近離間が不能に連結されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚やビルディング等の建造物における制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震による家屋や建築物等の建造物への衝撃対策は、建造物の強化による堅牢さで衝撃に耐える耐震構造と、アイソレーターにより建造物と地盤を絶縁することで衝撃が建造物に伝播しないようにする免震構造と、建造物に取り付けた装置により衝撃を吸収する制振構造とに大別される。
【0003】
耐震構造では、建造物の一部或いは多くの箇所の補修及び補強などの対策が採られてきた。しかし、耐震構造では地震による衝撃を建造物及びその基礎の堅牢さで対応するために、大規模な震災では、地震が治まった後に建造物の補修が必要であるばかりでなく、震災中に建造物が倒壊するなどの問題があった。
【0004】
又、免震構造では、建造物を支持する基礎と建造物との間に積層ゴムなどのアイソレーターが介在し、地盤と建造物とが絶縁された構成によって、地震の振動が建造物に伝播することを防止している。通常は、上述のアイソレーターとダンパーとが組み合わせて用いられる。しかし、免震構造においては、構造が複雑且つ大規模であるばかりではなく、免震構造を導入するために必要なコストが大きくなる問題があった。
【0005】
一方、制振構造では、粘性型ダンパーや履歴性ダンパーによって振動エネルギーを吸収して揺れを抑えるパッシブ制振構造、或いは、同調質量ダンパーを地震の揺れに同調させて振動させることにより揺れを抑えるアクティブ制振構造の採用によって、建造物への衝撃を減少させると共に建造物内部の揺れを抑制する効果が得られ、地震の二次災害を緩和する効果が期待出来る。
【0006】
特に履歴型ダンパーは、地震の振動エネルギー吸収能が優れており、地震が治まった後も大規模な補修工事を要することなく、簡易な補修或いは無補修で継続して使用できることから、最も普及が進んでいる。特に、座屈拘束ブレースなどの地震の振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収部材に鋼材を用いた履歴型ダンパーによれば、鋼材の塑性変形に消費されるエネルギーとして振動エネルギーを吸収することにより、建造物の主架構の塑性変形を緩和して制振効果を得ることが出来る。
【0007】
しかし、上述の履歴型ダンパーにおいては、大きな地震の後にエネルギー吸収部材が大きく塑性変形し、そのエネルギー吸収能が著しく低下したときに、エネルギー吸収部材を取り換える必要があるため、取り換え作業の容易な履歴型ダンパーが望まれていた。
【0008】
この要望に対し、建造物の架構に固定されたブレース構成材間に粘弾性体を介装することにより、履歴型ダンパーの設置と修復が容易な制振構造が提案されている(特許文献1)。
該制振構造においては、粘弾性体が介装されたブレースを建造物内部に配置する構造が採用されているため、既存の建造物に対しても容易に設置することが可能である。又、ダンパーの一部に粘弾性体を用いる構成であることから、地震が治まった後の修復が殆ど不要である。
【特許文献1】特許第3608136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の制振構造においても、ブレース自身の構造が複雑であり、制振構造を構成する部材が大きくなる問題があった。
【0010】
本発明の目的は、橋脚やビルディング等の建造物において、簡易な構造で大きな制振効果を得ることが出来る制振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る制振構造は、基礎部材に被締結部材を締結するための締結機構を具え、該締結機構は、前記基礎部材に立設されて前記被締結部材を貫通するボルト部材と、前記被締結部材から突出する前記ボルト部材の先端部に螺合するナット部から構成される建造物において、前記ボルト部材を包囲して前記ナット部と前記被締結部材との間に介在する筒状の金属製ダンパー部を具え、該金属製ダンパー部は、その一方の開口端部が前記ナット部に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、他方の開口端部が前記被締結部材に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されている。
【0012】
上記本発明に係る制振構造は、金属製ダンパー部を具え、且つ該金属製ダンパー部の両開口端部がナット部及び被締結部材に接近離間不能に連結されているという極めて簡易な構成によって、建造物に対して制振効果をもたらすことを可能としている。又、該制振構造においては、地震による振動を受けてボルト部材に引張力が作用したとき、該金属製ダンパー部に圧縮力が作用して金属製ダンパー部が圧縮方向に弾性変形或いは塑性変形し、ボルト部材に圧縮力が作用したときは、金属製ダンパー部に引張力が作用して金属製ダンパー部が引張方向に弾性変形或いは塑性変形する。該金属製ダンパーが繰り返し弾性変形し或いは塑性変形することにより、金属製ダンパー部が地震の振動エネルギーを吸収する。
【0013】
又、金属製ダンパー部は、塑性変形の限界点以内の範囲で繰り返し変形することによって、地震の振動エネルギーを吸収して、建造物へ伝わる地震の振動エネルギーを低減し、且つボルト部材及び建造物に地震の振動による塑性変形が起こらないようにすることが可能である。
【0014】
具体的構成において、前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成されている。そして、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部に該ナット(30)が溶接によって固定されると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部が前記被締結部材に溶接によって固定されている。
【0015】
該具体的構成では、金属製ダンパー部の形状が極めて簡易であり、且つ金属製ダンパー部の両開口端部が溶接によりナット(30)及び被締結部材に固定されることから、複雑な装置或いは工程を要することなく、更に簡易に建造物の制振構造を実現することが可能である。
【0016】
他の具体的構成において、前記ナット部と金属製ダンパー部とが一体に形成されたナット/ダンパー合体部材(11)を具えている。
該具体的構成では、ナット部と金属製ダンパー部を連結する工程が不要である。従って、更に簡易に建造物の制振構造を実現することが可能である。
【0017】
更に、他の具体的構成において、前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成されている。該ダンパー部材(10)の一方の開口端部には、外ねじ(31a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)が固定されると共に、他方の開口端部には、外ねじ(32a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)が固定される。そして、前記第1フランジ部材(31)には、前記外ねじ(31a)に螺合する内ねじ(33a)を有する袋状のダブルナット(63)が連結され、該ダブルナット(63)の内側に前記ナット(30)が拘持される。前記第2フランジ部材(32)は前記被締結部材にねじ込まれている。
【0018】
前記具体的構成では、ダンパー部材(10)の両開口端部に第1フランジ部材(61)及び第2フランジ部材(62)を固定した金属製ダンパー部を予め用意しておくことにより、制振構造を施工する際に溶接などの工程が不要である。従って、更に簡易に制振構造を実現することが可能であると共に、大地震後に損傷した金属製ダンパー部を容易に交換することが可能である。
【0019】
具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成するコンクリート基礎(50)であって、該コンクリート基礎(50)に、前記ボルト部材となるアンカーボルト(20)の基端部が埋設されており、該コンクリート基礎(50)の表面に、前記被締結部材となるベースプレート(40)が設置されている。
該具体的構成によって、鉄骨(41)に連結されたベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とが締結された締結機構において、制振効果を得ることが出来る。
【0020】
他の具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、該エンドプレート(51)の表面に、前記被締結部材となる鋼柱(43)が設置されている。
該具体的構成によって、梁(52)と鋼柱(43)とが締結された締結構造において、制振効果を得ることが出来る。
【0021】
更に他の具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成する鋼柱(43)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、前記被締結部材は、該建造物を構成する梁(52)の端部に連結されたダイヤフラム(53)であり、前記エンドプレート(51)の表面に前記ダイヤフラム(53)が設置されている。
該具体的構成によって、鋼柱(43)と梁(52)とがダイヤフラム(53)を介して締結された締結構造において、制振効果を得ることが出来る。
【0022】
他の具体的構成において、前記金属製ダンパー部は、前記ボルト部材の降伏耐力よりも小さい力で最大耐力に至る。
前記具体的構成によって、該金属製ダンパー部の最大耐力がボルト部材の降伏耐力以下である場合では、地震の振動による圧縮力或いは引張力が前記締結機構に作用する際に、金属製ダンパー部がボルト部材よりも先に塑性変形して、ボルト部材の塑性変形(即ち、損傷)が防止される。
【0023】
又、他の具体的構成において、前記金属製ダンパー部に用いられる材料は、鋼鉄、銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金である。
【0024】
金属製ダンパー部に用いられる材料は、金属製ダンパー部の最大引張耐力がボルト部材の降伏耐力よりも小さければよい。
一般的には、鋼、真鍮など、上述の強度を有し、且つボルト部材と比較して塑性変形による振動エネルギーの吸収作用の大きい材料が、金属製ダンパー部の材料として使用される。
【0025】
具体的構成において、前記金属製ダンパー部の周壁には、1或いは複数の孔が開設されている。
該具体的構成によって、前記金属製ダンパー部の降伏耐力及び座屈発生部の位置を調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の制振構造によれば、橋脚やビルディング等の建造物において、簡易な構造で大きな制振効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に沿って具体的に説明する。
<第1実施例>
図1及び図2を参照して、本発明に係る制振構造の第1実施例について説明する。
【0028】
第1実施例においては、コンクリート基礎(50)と、該コンクリート基礎(50)上に配置された矩形のベースプレート(40)と、該ベースプレート(40)の上面に溶接され且つ鉛直方向に立設された鉄骨(40)と、該コンクリート基礎(50)に立設されて該ベースプレート(40)の四隅をそれぞれ貫通するアンカーボルト(20)と、該ベースプレート(40)から突出する該アンカーボルト(20)の先端部に螺合するナット(30)とが配備されている。ベースプレート(40)は、アンカーボルト(20)とナット(30)の締結機構によって、コンクリート基礎(50)に締結されている。
【0029】
又、第1実施例の制振構造は、アンカーボルト(20)を包囲してナット(30)とベースプレート(40)との間に介在する筒状のダンパー部材(10)を具え、該ダンパー部材(10)の両開口端部のうち、一方の開口端部は溶接部(70)によってナット(30)と連結されており、他方の開口端部は溶接部(71)によってベースプレート(40)と固定されている。
【0030】
尚、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とは、4箇所にてアンカーボルト(20)とナット(30)の締結構造により締結されているが、該締結構造は5箇所以上であってもよいことは言うまでもない。
【0031】
具体的構成においては、例えば図3(A)に示す如く、コンクリート基礎(50)と、該コンクリート基礎(50)上に配置されたベースプレート(40)と、コンクリート基礎(50)に立設されてベースプレート(40)を貫通するアンカーボルト(20)と、ベースプレート(40)から突出するアンカーボルト(20)の先端部に螺合するナット(30)と、アンカーボルト(20)を包囲してナット(30)とベースプレート(40)の間に介在するフランジ型座金(60)と、金属製の筒状のダンパー部材(10)とが配備されている。
予め筒状のダンパー部材(10)の鉛直上方に開口する開口端部とフランジ型座金(60)とが溶接部(70)によって連結され、更に該フランジ型座金(60)の上部とナット(30)とが溶接部(72)によって連結されている。
【0032】
そして、図3(B)に示す如く、フランジ型座金(60)を介してダンパー部材(10)に連結されたナット(30)とアンカーボルト(20)によって、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とが締結されている。更に、ダンパー部材(10)の鉛直下方の開口端部とベースプレート(40)とが溶接部(71)によって固定されている。
【0033】
前記締結機構では、アンカーボルト(20)に引張力が作用すると、ダンパー部材(10)には圧縮力が作用する。又、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用すると、ダンパー部材(10)には引張力が作用する。
【0034】
ダンパー部材(10)には、アンカーボルト(20)の降伏耐力よりも小さな力で最大耐力に至る金属材料が用いられる。
例えば、ダンパー部材(10)には、鋼、或いは銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金から構成される材料が用いられる。一方、アンカーボルト(20)には、例えば高力ボルトやPC鋼棒などの降伏耐力の大きい材料を用いることが可能である。
【0035】
ダンパー部材(10)の降伏耐力はアンカーボルト(20)の降伏耐力よりも小さいので、ダンパー部材(10)は、地震の振動によって圧縮及び引張方向に塑性変形することにより、地震の振動エネルギーを吸収することが可能である。即ち、鉄骨(41)に伝わる振動を軽減すると共に、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)に作用する力を弾性限界内に収めることが出来る。
【0036】
<第2実施例>
又、本発明に係る制振構造においては、図4(A)に示すように、筒状のダンパー部材(10)とナット部(31)とを一体に形成したナット/ダンパー合体部材(11)を採用することが出来る。図4(B)に示すように、ナット/ダンパー合体部材(11)を、ベースプレート(40)から突出したアンカーボルト(20)に螺合させて、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とを互いに締結した後に、ナット/ダンパー合体部材(11)がベースプレート(40)に溶接部(71)によって固定される。
【0037】
<第3実施例>
更に、本発明に係る制振構造は、図5に示す構成を採用することも可能である。図5(A)に示す如く、ダンパー部材(10)と、外ねじ(61a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)と、外ねじ(62a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)とが配備されている。そして、ダンパー部材(10)の一方の開口端部に、溶接部(73)を介して該第1フランジ部材(61)を連結すると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部に、溶接部(74)を介して該第2フランジ部材(62)を連結している。
【0038】
図5(B)に示すように、第1フランジ部材(61)の外ねじ(61a)には、袋状のダブルナット(63)の内ねじ(63a)が螺合し、ダブルナット(63)の内側にナット(30)が拘持されている。第2フランジ部材(62)の外ねじ(62a)は、ベースプレート(42)の内ねじ(42a)にねじ込まれている。
図5に示す構成では、金属製ダンパー部をベースプレート(42)及びナット(30)に溶接する必要がないので、大地震後に損傷した金属製ダンパー部を簡易に交換することが出来る。
【0039】
次に本発明に係る制振構造におけるエネルギー吸収機構について説明する。図6(A)は、コンクリート基礎(50)に地震の振動が伝わり、アンカーボルト(20)に引張力が作用したとき、即ち、ダンパー部材(10)に圧縮力が作用したときの、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pとダンパー部材(10)の圧縮方向の変形量Xとの関係を表わすグラフである。
図6(A)において、Xmaxはダンパー部材(10)の変形量が最大になった時の圧縮方向の変形量を示す。dPyはダンパー部材(10)の降伏耐力を示し、dPmaxはダンパー部材(10)の座屈変形が進行する際にダンパー部材(10)に作用する最大圧縮耐力を示す。
【0040】
ここで、アンカーボルト(20)の降伏耐力Pbは、ダンパー部材(10)に作用する最大圧縮耐力dPmaxよりも大きいので、ダンパー部材(10)で変形が起こっている間では、アンカーボルト(20)には弾性変形のみが起こっている。
【0041】
図6(B)は、変形量Xが増加する際のダンパー部材(10)の圧縮変形状態を示している。図6(A)の点aは図6(B)中の状態(a)に対応しており、図6(A)の点bは図6(B)中の状態(b)に対応しており、図6(A)の点cは図6(B)中の状態(c)に対応しており、図6(A)の点dは図6(B)中の状態(d)に対応しており、図6(A)の点eは図6(B)中の状態(e)に対応しており、図6(A)の点fは図6(B)中の状態(f)に対応しており、図6(A)の点gは図6(B)中の状態(g)に対応している。また、ダンパー部材(10)は2箇所で座屈し、座屈する2箇所をそれぞれ座屈部O、座屈部Qと称する。
【0042】
図6(A)に示すように、ダンパー部材(10)の変形量Xは、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pが降伏耐力dPyに達するまで、線形に変化する。この時のダンパー部材(10)の状態は図6(B)中の(a)に示す状態となっている。降伏耐力dPy以下の圧縮力がダンパー部材(10)に作用する時、該ダンパー部材(10)では弾性変形のみが起こっている。
【0043】
更にダンパー部材(10)の弾性変形が進み、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pが降伏耐力dPyを超えると、図6(B)中の状態(b)に示すように、ダンパー部材(10)は2箇所の座屈部を伴って塑性変形を生じている。ダンパー部材(10)の変形量Xに対して、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は非線形に増加している。
【0044】
ダンパー部材(10)に作用する圧縮力がdPmaxに達すると、図6(B)中の状態(c)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Oで座屈が急激に進行する。更に、ダンパー部材(10)の座屈部Oの変形が進むと、図6(B)中の状態(d)に示す如く、ダンパー部材(10)の座屈部Oの内壁どうしが接触する。ここで、ダンパー部材(10)の座屈部Oが急激に座屈変形している間は、該ダンパー部材(10)に作用する圧縮応力は低下するが、内壁どうしが接触して、座屈部Oの座屈変形が進展しなくなった後は、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は増加する。
【0045】
次に、ダンパー部材(10)の圧縮変形が更に進行すると、図6(B)中の状態(e)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Qで塑性変形が進む。ダンパー部材(10)の圧縮力が再びdPmaxに達すると、該ダンパー部材(10)の座屈部Qが急激に座屈変形することによって、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力の低下は、図6(B)中の状態(f)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Qの内壁が接触するまで続く。
【0046】
更にダンパー部材(10)の圧縮変形が進行すると、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は増大し、ダンパー部材(10)の圧縮変形が進む。そして、ダンパー部材(10)の座屈部Oの外側面と座屈部Qの外側面とが接触するまでダンパー部材(10)の圧縮変形が進行すると、図6(B)中の状態(g)に示すように、ダンパー部材(10)の圧縮変形は殆ど進行しなくなる。即ち、この時の圧縮変形量がダンパー部材(10)を使用できる限界値Xmaxであり、変形量Xが限界値Xmax以下であれば、ダンパー部材(10)の変形により、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力を最大圧縮耐力dPmax以下に抑えることが可能である。即ち、アンカーボルト(20)に作用する力を弾性限界以内に留めることが可能である。
【0047】
以上のエネルギー吸収機構の説明では、ダンパー部材(10)の2箇所に局部座屈が発生する場合について述べたが、ダンパー部材(10)の軸方向の長さに応じて、局部座屈が1箇所で発生する場合、或いは局部座屈が3箇所以上で発生する場合もある。この様な場合においても、ダンパー部材(10)は同様にエネルギー吸収による制振機能を発揮する。
【0048】
次に、本発明の制振構造に繰り返し振動を加えたときのダンパー部材(10)に生じる変形の特性を、図7によって説明する。ここで、ダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントをMとする。また、ダンパー部材(10)の変形量は、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)が回転したときの鉛直上方に対する回転角θに近似して表わす。
【0049】
図7において、曲げモーメントM及び回転角θは断面図と平行な平面に対して反時計回りを正方向とし、鉄骨(41)の左側に位置するダンパー部材を第1ダンパー部材(10a)、鉄骨(41)の右側に位置するダンパー部材を第2ダンパー部材(10b)とする。
【0050】
図7(A)は本発明の制振構造の初期状態を示している。該制振構造にダンパー部材(10)に正方向の曲げモーメントが作用すると、図7(B)に示すように、第1ダンパー部材(10a)に圧縮力が作用して第1ダンパー部材(10a)が座屈変形する。ここで、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の回転はベースプレート(40)の端部を中心とするので、第2ダンパー部材(10b)は殆ど変形しない。
【0051】
次に、図7(C)に示すように、ダンパー部材(10)に負方向の曲げモーメントが作用すると、第1ダンパー部材(10a)には引張力が作用するために座屈変形していた第1ダンパー部材(10a)は伸張する。そして、図7(D)に示すようにベースプレート(40)が反転すると、第1ダンパー部材(10a)は殆ど元の状態に戻り、第2ダンパー部材(10b)には圧縮力が作用して第2ダンパー部材(10b)が座屈変形する。又、制振構造に作用する曲げモーメントが繰り返し向きを変えることによって、第1ダンパー部材(10a)及び第2ダンパー部材(10b)は圧縮方向の変形(座屈変形を含む)と引張方向の変形を繰り返す。
【0052】
地震発生時には、図7に示す如く、ダンパー部材(10)が圧縮方向の変形と引張方向の変形を交互に繰り返すことによって、ダンパー部材(10)が地震による振動エネルギーを吸収し、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の変形を弾性限界内に収めることを可能としている。
【0053】
図7に示す、ダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントMと回転角θの関係は、図8(a)に示すグラフで表わされる。図8(a)中のグラフ上の点Aは図7(A)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Bは図7(B)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Cは図7(C)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Dは図7(D)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示している。
【0054】
図8(A)のグラフはヒステリシス曲線を描き、該ヒステリシス曲線が包囲する領域の面積が吸収したエネルギー量に対応することから、ダンパー部材(10)の繰り返し変形により、ダンパー部材(10)が多くの振動エネルギーを吸収し、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の振動を最小限に抑えることが可能であることがわかる。
【0055】
又、図8(B)に示す如く、ダンパー部材(10)に2周期の振動が作用すると、ダンパー部材(10)の耐力が低下することによって、回転角θの変位量は増大するが、該回転角θの変位量の増大に伴い、ヒステリシス曲線が包囲する領域の面積が大きくなることから、ダンパー部材(10)は更に多くの振動エネルギーを吸収していることがわかる。
【0056】
ここで、本発明の制振構造の具体的構成において、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されていない場合と、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されている場合について、図9を用いて説明する。
【0057】
ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されていない場合は、ダンパー部材(10)に引張力が作用しないため、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用した時にダンパー部材(10)は振動エネルギーを吸収することが出来ない。そのため、図9(A)に示すように、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフは原点を通過する曲線を示す。又、図9(A)において、2周期目の振動の時は回転角の変位量は大きくなるものの、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、1周期目での曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲う面積と殆ど同等である。
【0058】
一方、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されている場合は、ダンパー部材(10)に引張力が作用するため、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用した時もダンパー部材(10)は振動エネルギーを吸収することが出来る。そのため、図9(B)に示すように、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフは原点を通過しないヒステリシス曲線を示す。又、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、図9(A)における曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積に比べて大きい。更に、図9(B)において、2周期目の振動の時は回転角の変位量は大きくなり、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、1周期目での曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積に比べて大きくなる。
【0059】
上述のグラフは、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されることによって、ダンパー部材(10)の振動エネルギーの吸収能が増大することを示している。よって、本発明の制振構造では、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されることが必須である。
【0060】
次に、本発明で採用されるダンパー部材(10)を形成する材料及びダンパー部材(10)の設計方法について説明する。
本発明に係る制振構造では、大規模の地震の際であってもベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)の制振機能を有効にするために、ダンパー部材(10)に使用される材料は、ボルト部材の降伏耐力Pbよりも小さな力で、該ダンパー部材(10)が最大耐力dPmaxに至る材料が選ばれる。
【0061】
即ち、以下の数式1の条件を満たす材料が、本発明の制振構造におけるダンパー部材(10)に用いられる。
(数1)
dPmax<Pb
数式1において、ダンパー部材(10)の最大圧縮耐力dPmaxはダンパー部材(10)に用いられる材料の特性の他に、ダンパー部材(10)の形状に依存するので、アンカーボルト(20)の降伏点Pbを考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計することが必要である。
【0062】
ダンパー部材(10)が円筒形の鋼管である仮定すると、ダンパー部材(10)の最大圧縮耐力dPmaxは数式2により評価することが可能である(鈴木敏郎、小川利行、加藤征宏、栗本照彦:「軸圧縮を受ける高張力鋼管の強度性状に関する研究」、日本建築学会論文報告集、第321号、pp28−37、1972)。
(数2)
dPmax=dPy((0.00163E・t)/(σy・D)+0.929)
ここで、Eは鋼材のヤング係数、tはダンパー部材(10)の肉厚、σyは鋼管の降伏点を表わす。
【0063】
次に、本発明の制振構造を構成するダンパー部材(10)では、その軸方向の長さLが長いほど、ダンパー部材(10)のエネルギー吸収能は高くなる。
n箇所で座屈が発生するダンパー部材(10)の最大耐力での変形量Xlimitは数式3で得られる。
(数3)
Xlimit=L−3t・n
【0064】
一般的に、座屈の発生箇所数nは、材料に関係なく、ダンパー部材(10)の形状に依存する。本発明の制振構造を構成するダンパー部材(10)の座屈について考えると、座屈が発生する間隔(座屈波長)mは、数式4により近似的に算出できる(Stephen P. Timoshenko, James M. Gere:"Theory of Elastic Stability", Mac Graw-Hill Company, New York, 1963)。
(数4)
m=2k・t[(D/t)−1]0.5
ここで、kは、ダンパー部材(10)に用いられる材料やダンパー部材(10)の開口端部の固定方法などに依存して、1.1≦k≦1.4の範囲で決定される係数である。
【0065】
よって、ダンパー部材(10)の座屈発生箇所数nは数式5により得られる。
(数5)
n=L/m=[L/(2k・t)][t/(D−t)]0.5
数式3、数式4及び数式5より、塑性変形量Xlimitは数式6のようになる。
(数6)
Xlimit=L−3t・[L/(2k・t)][t/(D−t)]0.5
=L{1−(3/2k)・[t(D−t)]−0.5}
【0066】
ダンパー部材(10)の最大耐力での変形量Xlimitは、本発明の制振構造の振動エネルギー吸収能に強く影響するので、ダンパー部材(10)に使用する材料の特性と共に、ダンパー部材(10)の形状の設計が重要である。
【0067】
本発明の制振構造では、ダンパー部材(10)の局部座屈に伴う耐力の低下を考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計することが出来る。
例えば、ダンパー部材(10)に軟鋼を使用する際に、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが15以上(D/t≧15)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力の5割以上低下する。
【0068】
又、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが7以上且つ15以下(7≦D/t≦15)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力の1〜4割程度低下する。
更に、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが7以下(D/t≦7)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力とほぼ同等である。
【0069】
そこで、局部座屈に伴うダンパー部材(10)の耐力の低下を許容出来る範囲を考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計する。
【0070】
又、本発明の制振構造においては、アンカーボルト(20)の損傷を防ぎ、且つ部品交換を容易にするために、ダンパー部材(10)に座屈が発生しても、ダンパー部材(10)の座屈部の内面がアンカーボルト(20)に接触しないようにすることが必要である。
【0071】
そのため、ダンパー部材(10)の内径(D−2t)がアンカーボルト(20)の外径Dよりも十分に大きいことが必須である。例えば、ダンパー部材(10)とボルトとの隙間をダンパー部材(10)の厚さt以上とし、或いはダンパー部材(10)の長さLをダンパー部材(10)に発生する座屈の間隔mの整数倍程度とする。これによって、ダンパー部材(10)の座屈部の内面がアンカーボルト(20)に接触しないようにすることが出来る。
【0072】
<第4実施例>
本発明に係る制振構造においては、ダンパー部材(10)の周壁に1或いは複数の穿孔を設けることによって、ダンパー部材(10)の座屈波長や座屈位置を調節することが可能である。例えば図10(A)に示す如く、周壁にスリット孔(80)を形成したダンパー部材(12)を用いてもよい。該ダンパー部材(12)においては、その周壁に軸方向に長い2つのスリット孔(80)(80)が軸方向に並び、図10(B)に示す如く軸方向と垂直で且つ互いに直交する4方向にそれぞれ2つのスリット孔(80)(80)が形成されている。この場合、スリット孔(80)が形成された部分を中心に座屈が発生することになる。
【0073】
<第5実施例>
他の実施の形態としては、図11(A)に示す如く、周壁に丸孔(81)を形成したダンパー部材(13)を用いてもよい。該ダンパー部材(13)においては、その周壁に2つの丸孔(81)(81)が軸方向に並び、図11(B)に示す如く軸方向と垂直な2方向にそれぞれ2つの丸孔(81)(81)が形成されている。この場合、丸孔(81)が形成された部分を中心に座屈が発生することになる。
【0074】
<第6実施例>
上述の実施例では、鉄骨(40)とコンクリート基礎(50)を締結した建造物に本発明の制振構造を実施したが、これに限定されず、例えば、図12に示す如く、鋼柱(43)に梁(52)を締結した建造物に実施することも可能である。
【0075】
該建造物においては、鋼柱(43)と、該鋼柱(43)に接して設けられたエンドプレート(51)と、エンドプレート(51)に溶接され且つエンドプレート(51)に対して垂直に配置された梁(52)と、エンドプレート(51)の表面から鋼柱(43)へエンドプレート(51)及び鋼柱(43)を厚さ方向に貫通して設けられたボルト(21)と、鋼柱(43)から突出するボルト(21)の先端部に螺合するナット(30)と、ボルト(21)を包囲してナット(30)と鋼柱(43)との間に介在するダンパー部材(10)とが配備されている。そして、ダンパー部材(10)の2つの開口端部の内、一方の開口端部はナット(30)に溶接され、他方の開口端部は鋼柱(43)に溶接されている。
【0076】
この様にしてエンドプレート(51)と鋼柱(43)とが締結され、その締結機構に対してダンパー部材(10)による制振機能が与えられる。
【0077】
<第7実施例>
また本発明は、図13に示す如く垂直の2本の鋼柱(43a)(43b)に水平の2本の梁(52a)(52b)を締結した建造物に実施することが出来る。本実施例では、下方の鋼柱(43a)の端部にエンドプレート(51)が固定されると共に、柱梁接合部パネル(44)の両端部にそれぞれダイヤフラム(53a)(53b)が固定されている。
そして、柱梁接合部パネル(44)のダイヤフラム(53a)(53b)に対して、2本の梁(52a)(52b)が連結されると共に、上方のダイヤフラム(53b)に対して上方の鋼柱(43b)が連結されている。
【0078】
更に、エンドプレート(51)と下方のダイヤフラム(53a)とを互いに接合させた状態で、エンドプレート(51)及びダイヤフラム(53a)を貫通するボルト(21)と、ダイヤフラム(53a)から突出するボルト(21)の先端部に螺合するナット(30)とによって、エンドプレート(51)とダイヤフラム(53a)が互いに締結されている。
ここで、ボルト(21)を包囲してナット(30)とダイヤフラム(53a)の間にダンパー部材(10)が介在し、該ダンパー部材(10)の2つの開口端部の内、一方の開口端部はナット(30)と溶接され、他方の開口端部はダイヤフラム(53a)と溶接されている。
【0079】
この様にしてエンドプレート(51)とダイヤフラム(53a)とが締結され、その締結機構に対してダンパー部材(10)による制振機能が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の制振構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の制振構造を示す正面図である。
【図3】本発明の制振構造の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図4】本発明の制振構造の他の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図5】本発明の制振構造の他の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図6】金属製ダンパー部が圧縮変形する過程を説明するグラフと各状態を示す正面図である。
【図7】金属製ダンパー部が地震により変形する過程を示す一連の正面図である。
【図8】金属製ダンパー部に作用する曲げモーメントMに対するダンパー部材の回転角θの関係を示すグラフである。
【図9】金属製ダンパー部のエネルギー吸収能を説明するグラフである。
【図10】金属製ダンパー部の側面にスリット孔を形成した制振構造を示す正面図と断面図である。
【図11】金属製ダンパー部の側面に丸孔を形成した制振構造を示す正面図と断面図である。
【図12】本発明の制振構造の他の応用例を示す正面図である。
【図13】本発明の制振構造の更に他の応用例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0081】
(10) ダンパー部材
(11) フランジ座金
(12) ナット/ダンパー合体部材
(13) ダンパー部材
(14) ダンパー部材
(20) アンカーボルト
(21) ボルト
(30) ナット
(31) ナット部
(40)(42) ベースプレート
(42a) 内ねじ
(41) 鉄骨
(43) 鋼柱
(44) 柱梁接合部パネル
(50) コンクリート基礎
(51) エンドプレート
(52) 梁
(53) ダイヤフラム
(61) 第1フランジ部材
(62) 第2フランジ部材
(61a)(31a) 外ねじ
(63) ダブルナット
(63a) 内ねじ
(70)〜(74) 溶接部
(80) スリット孔
(81) 丸孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚やビルディング等の建造物における制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震による家屋や建築物等の建造物への衝撃対策は、建造物の強化による堅牢さで衝撃に耐える耐震構造と、アイソレーターにより建造物と地盤を絶縁することで衝撃が建造物に伝播しないようにする免震構造と、建造物に取り付けた装置により衝撃を吸収する制振構造とに大別される。
【0003】
耐震構造では、建造物の一部或いは多くの箇所の補修及び補強などの対策が採られてきた。しかし、耐震構造では地震による衝撃を建造物及びその基礎の堅牢さで対応するために、大規模な震災では、地震が治まった後に建造物の補修が必要であるばかりでなく、震災中に建造物が倒壊するなどの問題があった。
【0004】
又、免震構造では、建造物を支持する基礎と建造物との間に積層ゴムなどのアイソレーターが介在し、地盤と建造物とが絶縁された構成によって、地震の振動が建造物に伝播することを防止している。通常は、上述のアイソレーターとダンパーとが組み合わせて用いられる。しかし、免震構造においては、構造が複雑且つ大規模であるばかりではなく、免震構造を導入するために必要なコストが大きくなる問題があった。
【0005】
一方、制振構造では、粘性型ダンパーや履歴性ダンパーによって振動エネルギーを吸収して揺れを抑えるパッシブ制振構造、或いは、同調質量ダンパーを地震の揺れに同調させて振動させることにより揺れを抑えるアクティブ制振構造の採用によって、建造物への衝撃を減少させると共に建造物内部の揺れを抑制する効果が得られ、地震の二次災害を緩和する効果が期待出来る。
【0006】
特に履歴型ダンパーは、地震の振動エネルギー吸収能が優れており、地震が治まった後も大規模な補修工事を要することなく、簡易な補修或いは無補修で継続して使用できることから、最も普及が進んでいる。特に、座屈拘束ブレースなどの地震の振動エネルギーを吸収するエネルギー吸収部材に鋼材を用いた履歴型ダンパーによれば、鋼材の塑性変形に消費されるエネルギーとして振動エネルギーを吸収することにより、建造物の主架構の塑性変形を緩和して制振効果を得ることが出来る。
【0007】
しかし、上述の履歴型ダンパーにおいては、大きな地震の後にエネルギー吸収部材が大きく塑性変形し、そのエネルギー吸収能が著しく低下したときに、エネルギー吸収部材を取り換える必要があるため、取り換え作業の容易な履歴型ダンパーが望まれていた。
【0008】
この要望に対し、建造物の架構に固定されたブレース構成材間に粘弾性体を介装することにより、履歴型ダンパーの設置と修復が容易な制振構造が提案されている(特許文献1)。
該制振構造においては、粘弾性体が介装されたブレースを建造物内部に配置する構造が採用されているため、既存の建造物に対しても容易に設置することが可能である。又、ダンパーの一部に粘弾性体を用いる構成であることから、地震が治まった後の修復が殆ど不要である。
【特許文献1】特許第3608136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の制振構造においても、ブレース自身の構造が複雑であり、制振構造を構成する部材が大きくなる問題があった。
【0010】
本発明の目的は、橋脚やビルディング等の建造物において、簡易な構造で大きな制振効果を得ることが出来る制振構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る制振構造は、基礎部材に被締結部材を締結するための締結機構を具え、該締結機構は、前記基礎部材に立設されて前記被締結部材を貫通するボルト部材と、前記被締結部材から突出する前記ボルト部材の先端部に螺合するナット部から構成される建造物において、前記ボルト部材を包囲して前記ナット部と前記被締結部材との間に介在する筒状の金属製ダンパー部を具え、該金属製ダンパー部は、その一方の開口端部が前記ナット部に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、他方の開口端部が前記被締結部材に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されている。
【0012】
上記本発明に係る制振構造は、金属製ダンパー部を具え、且つ該金属製ダンパー部の両開口端部がナット部及び被締結部材に接近離間不能に連結されているという極めて簡易な構成によって、建造物に対して制振効果をもたらすことを可能としている。又、該制振構造においては、地震による振動を受けてボルト部材に引張力が作用したとき、該金属製ダンパー部に圧縮力が作用して金属製ダンパー部が圧縮方向に弾性変形或いは塑性変形し、ボルト部材に圧縮力が作用したときは、金属製ダンパー部に引張力が作用して金属製ダンパー部が引張方向に弾性変形或いは塑性変形する。該金属製ダンパーが繰り返し弾性変形し或いは塑性変形することにより、金属製ダンパー部が地震の振動エネルギーを吸収する。
【0013】
又、金属製ダンパー部は、塑性変形の限界点以内の範囲で繰り返し変形することによって、地震の振動エネルギーを吸収して、建造物へ伝わる地震の振動エネルギーを低減し、且つボルト部材及び建造物に地震の振動による塑性変形が起こらないようにすることが可能である。
【0014】
具体的構成において、前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成されている。そして、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部に該ナット(30)が溶接によって固定されると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部が前記被締結部材に溶接によって固定されている。
【0015】
該具体的構成では、金属製ダンパー部の形状が極めて簡易であり、且つ金属製ダンパー部の両開口端部が溶接によりナット(30)及び被締結部材に固定されることから、複雑な装置或いは工程を要することなく、更に簡易に建造物の制振構造を実現することが可能である。
【0016】
他の具体的構成において、前記ナット部と金属製ダンパー部とが一体に形成されたナット/ダンパー合体部材(11)を具えている。
該具体的構成では、ナット部と金属製ダンパー部を連結する工程が不要である。従って、更に簡易に建造物の制振構造を実現することが可能である。
【0017】
更に、他の具体的構成において、前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成されている。該ダンパー部材(10)の一方の開口端部には、外ねじ(31a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)が固定されると共に、他方の開口端部には、外ねじ(32a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)が固定される。そして、前記第1フランジ部材(31)には、前記外ねじ(31a)に螺合する内ねじ(33a)を有する袋状のダブルナット(63)が連結され、該ダブルナット(63)の内側に前記ナット(30)が拘持される。前記第2フランジ部材(32)は前記被締結部材にねじ込まれている。
【0018】
前記具体的構成では、ダンパー部材(10)の両開口端部に第1フランジ部材(61)及び第2フランジ部材(62)を固定した金属製ダンパー部を予め用意しておくことにより、制振構造を施工する際に溶接などの工程が不要である。従って、更に簡易に制振構造を実現することが可能であると共に、大地震後に損傷した金属製ダンパー部を容易に交換することが可能である。
【0019】
具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成するコンクリート基礎(50)であって、該コンクリート基礎(50)に、前記ボルト部材となるアンカーボルト(20)の基端部が埋設されており、該コンクリート基礎(50)の表面に、前記被締結部材となるベースプレート(40)が設置されている。
該具体的構成によって、鉄骨(41)に連結されたベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とが締結された締結機構において、制振効果を得ることが出来る。
【0020】
他の具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、該エンドプレート(51)の表面に、前記被締結部材となる鋼柱(43)が設置されている。
該具体的構成によって、梁(52)と鋼柱(43)とが締結された締結構造において、制振効果を得ることが出来る。
【0021】
更に他の具体的構成において、前記基礎部材は、建造物を構成する鋼柱(43)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、前記被締結部材は、該建造物を構成する梁(52)の端部に連結されたダイヤフラム(53)であり、前記エンドプレート(51)の表面に前記ダイヤフラム(53)が設置されている。
該具体的構成によって、鋼柱(43)と梁(52)とがダイヤフラム(53)を介して締結された締結構造において、制振効果を得ることが出来る。
【0022】
他の具体的構成において、前記金属製ダンパー部は、前記ボルト部材の降伏耐力よりも小さい力で最大耐力に至る。
前記具体的構成によって、該金属製ダンパー部の最大耐力がボルト部材の降伏耐力以下である場合では、地震の振動による圧縮力或いは引張力が前記締結機構に作用する際に、金属製ダンパー部がボルト部材よりも先に塑性変形して、ボルト部材の塑性変形(即ち、損傷)が防止される。
【0023】
又、他の具体的構成において、前記金属製ダンパー部に用いられる材料は、鋼鉄、銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金である。
【0024】
金属製ダンパー部に用いられる材料は、金属製ダンパー部の最大引張耐力がボルト部材の降伏耐力よりも小さければよい。
一般的には、鋼、真鍮など、上述の強度を有し、且つボルト部材と比較して塑性変形による振動エネルギーの吸収作用の大きい材料が、金属製ダンパー部の材料として使用される。
【0025】
具体的構成において、前記金属製ダンパー部の周壁には、1或いは複数の孔が開設されている。
該具体的構成によって、前記金属製ダンパー部の降伏耐力及び座屈発生部の位置を調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の制振構造によれば、橋脚やビルディング等の建造物において、簡易な構造で大きな制振効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に沿って具体的に説明する。
<第1実施例>
図1及び図2を参照して、本発明に係る制振構造の第1実施例について説明する。
【0028】
第1実施例においては、コンクリート基礎(50)と、該コンクリート基礎(50)上に配置された矩形のベースプレート(40)と、該ベースプレート(40)の上面に溶接され且つ鉛直方向に立設された鉄骨(40)と、該コンクリート基礎(50)に立設されて該ベースプレート(40)の四隅をそれぞれ貫通するアンカーボルト(20)と、該ベースプレート(40)から突出する該アンカーボルト(20)の先端部に螺合するナット(30)とが配備されている。ベースプレート(40)は、アンカーボルト(20)とナット(30)の締結機構によって、コンクリート基礎(50)に締結されている。
【0029】
又、第1実施例の制振構造は、アンカーボルト(20)を包囲してナット(30)とベースプレート(40)との間に介在する筒状のダンパー部材(10)を具え、該ダンパー部材(10)の両開口端部のうち、一方の開口端部は溶接部(70)によってナット(30)と連結されており、他方の開口端部は溶接部(71)によってベースプレート(40)と固定されている。
【0030】
尚、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とは、4箇所にてアンカーボルト(20)とナット(30)の締結構造により締結されているが、該締結構造は5箇所以上であってもよいことは言うまでもない。
【0031】
具体的構成においては、例えば図3(A)に示す如く、コンクリート基礎(50)と、該コンクリート基礎(50)上に配置されたベースプレート(40)と、コンクリート基礎(50)に立設されてベースプレート(40)を貫通するアンカーボルト(20)と、ベースプレート(40)から突出するアンカーボルト(20)の先端部に螺合するナット(30)と、アンカーボルト(20)を包囲してナット(30)とベースプレート(40)の間に介在するフランジ型座金(60)と、金属製の筒状のダンパー部材(10)とが配備されている。
予め筒状のダンパー部材(10)の鉛直上方に開口する開口端部とフランジ型座金(60)とが溶接部(70)によって連結され、更に該フランジ型座金(60)の上部とナット(30)とが溶接部(72)によって連結されている。
【0032】
そして、図3(B)に示す如く、フランジ型座金(60)を介してダンパー部材(10)に連結されたナット(30)とアンカーボルト(20)によって、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とが締結されている。更に、ダンパー部材(10)の鉛直下方の開口端部とベースプレート(40)とが溶接部(71)によって固定されている。
【0033】
前記締結機構では、アンカーボルト(20)に引張力が作用すると、ダンパー部材(10)には圧縮力が作用する。又、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用すると、ダンパー部材(10)には引張力が作用する。
【0034】
ダンパー部材(10)には、アンカーボルト(20)の降伏耐力よりも小さな力で最大耐力に至る金属材料が用いられる。
例えば、ダンパー部材(10)には、鋼、或いは銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金から構成される材料が用いられる。一方、アンカーボルト(20)には、例えば高力ボルトやPC鋼棒などの降伏耐力の大きい材料を用いることが可能である。
【0035】
ダンパー部材(10)の降伏耐力はアンカーボルト(20)の降伏耐力よりも小さいので、ダンパー部材(10)は、地震の振動によって圧縮及び引張方向に塑性変形することにより、地震の振動エネルギーを吸収することが可能である。即ち、鉄骨(41)に伝わる振動を軽減すると共に、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)に作用する力を弾性限界内に収めることが出来る。
【0036】
<第2実施例>
又、本発明に係る制振構造においては、図4(A)に示すように、筒状のダンパー部材(10)とナット部(31)とを一体に形成したナット/ダンパー合体部材(11)を採用することが出来る。図4(B)に示すように、ナット/ダンパー合体部材(11)を、ベースプレート(40)から突出したアンカーボルト(20)に螺合させて、ベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)とを互いに締結した後に、ナット/ダンパー合体部材(11)がベースプレート(40)に溶接部(71)によって固定される。
【0037】
<第3実施例>
更に、本発明に係る制振構造は、図5に示す構成を採用することも可能である。図5(A)に示す如く、ダンパー部材(10)と、外ねじ(61a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)と、外ねじ(62a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)とが配備されている。そして、ダンパー部材(10)の一方の開口端部に、溶接部(73)を介して該第1フランジ部材(61)を連結すると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部に、溶接部(74)を介して該第2フランジ部材(62)を連結している。
【0038】
図5(B)に示すように、第1フランジ部材(61)の外ねじ(61a)には、袋状のダブルナット(63)の内ねじ(63a)が螺合し、ダブルナット(63)の内側にナット(30)が拘持されている。第2フランジ部材(62)の外ねじ(62a)は、ベースプレート(42)の内ねじ(42a)にねじ込まれている。
図5に示す構成では、金属製ダンパー部をベースプレート(42)及びナット(30)に溶接する必要がないので、大地震後に損傷した金属製ダンパー部を簡易に交換することが出来る。
【0039】
次に本発明に係る制振構造におけるエネルギー吸収機構について説明する。図6(A)は、コンクリート基礎(50)に地震の振動が伝わり、アンカーボルト(20)に引張力が作用したとき、即ち、ダンパー部材(10)に圧縮力が作用したときの、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pとダンパー部材(10)の圧縮方向の変形量Xとの関係を表わすグラフである。
図6(A)において、Xmaxはダンパー部材(10)の変形量が最大になった時の圧縮方向の変形量を示す。dPyはダンパー部材(10)の降伏耐力を示し、dPmaxはダンパー部材(10)の座屈変形が進行する際にダンパー部材(10)に作用する最大圧縮耐力を示す。
【0040】
ここで、アンカーボルト(20)の降伏耐力Pbは、ダンパー部材(10)に作用する最大圧縮耐力dPmaxよりも大きいので、ダンパー部材(10)で変形が起こっている間では、アンカーボルト(20)には弾性変形のみが起こっている。
【0041】
図6(B)は、変形量Xが増加する際のダンパー部材(10)の圧縮変形状態を示している。図6(A)の点aは図6(B)中の状態(a)に対応しており、図6(A)の点bは図6(B)中の状態(b)に対応しており、図6(A)の点cは図6(B)中の状態(c)に対応しており、図6(A)の点dは図6(B)中の状態(d)に対応しており、図6(A)の点eは図6(B)中の状態(e)に対応しており、図6(A)の点fは図6(B)中の状態(f)に対応しており、図6(A)の点gは図6(B)中の状態(g)に対応している。また、ダンパー部材(10)は2箇所で座屈し、座屈する2箇所をそれぞれ座屈部O、座屈部Qと称する。
【0042】
図6(A)に示すように、ダンパー部材(10)の変形量Xは、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pが降伏耐力dPyに達するまで、線形に変化する。この時のダンパー部材(10)の状態は図6(B)中の(a)に示す状態となっている。降伏耐力dPy以下の圧縮力がダンパー部材(10)に作用する時、該ダンパー部材(10)では弾性変形のみが起こっている。
【0043】
更にダンパー部材(10)の弾性変形が進み、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力Pが降伏耐力dPyを超えると、図6(B)中の状態(b)に示すように、ダンパー部材(10)は2箇所の座屈部を伴って塑性変形を生じている。ダンパー部材(10)の変形量Xに対して、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は非線形に増加している。
【0044】
ダンパー部材(10)に作用する圧縮力がdPmaxに達すると、図6(B)中の状態(c)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Oで座屈が急激に進行する。更に、ダンパー部材(10)の座屈部Oの変形が進むと、図6(B)中の状態(d)に示す如く、ダンパー部材(10)の座屈部Oの内壁どうしが接触する。ここで、ダンパー部材(10)の座屈部Oが急激に座屈変形している間は、該ダンパー部材(10)に作用する圧縮応力は低下するが、内壁どうしが接触して、座屈部Oの座屈変形が進展しなくなった後は、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は増加する。
【0045】
次に、ダンパー部材(10)の圧縮変形が更に進行すると、図6(B)中の状態(e)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Qで塑性変形が進む。ダンパー部材(10)の圧縮力が再びdPmaxに達すると、該ダンパー部材(10)の座屈部Qが急激に座屈変形することによって、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力の低下は、図6(B)中の状態(f)に示すように、該ダンパー部材(10)の座屈部Qの内壁が接触するまで続く。
【0046】
更にダンパー部材(10)の圧縮変形が進行すると、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力は増大し、ダンパー部材(10)の圧縮変形が進む。そして、ダンパー部材(10)の座屈部Oの外側面と座屈部Qの外側面とが接触するまでダンパー部材(10)の圧縮変形が進行すると、図6(B)中の状態(g)に示すように、ダンパー部材(10)の圧縮変形は殆ど進行しなくなる。即ち、この時の圧縮変形量がダンパー部材(10)を使用できる限界値Xmaxであり、変形量Xが限界値Xmax以下であれば、ダンパー部材(10)の変形により、ダンパー部材(10)に作用する圧縮力を最大圧縮耐力dPmax以下に抑えることが可能である。即ち、アンカーボルト(20)に作用する力を弾性限界以内に留めることが可能である。
【0047】
以上のエネルギー吸収機構の説明では、ダンパー部材(10)の2箇所に局部座屈が発生する場合について述べたが、ダンパー部材(10)の軸方向の長さに応じて、局部座屈が1箇所で発生する場合、或いは局部座屈が3箇所以上で発生する場合もある。この様な場合においても、ダンパー部材(10)は同様にエネルギー吸収による制振機能を発揮する。
【0048】
次に、本発明の制振構造に繰り返し振動を加えたときのダンパー部材(10)に生じる変形の特性を、図7によって説明する。ここで、ダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントをMとする。また、ダンパー部材(10)の変形量は、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)が回転したときの鉛直上方に対する回転角θに近似して表わす。
【0049】
図7において、曲げモーメントM及び回転角θは断面図と平行な平面に対して反時計回りを正方向とし、鉄骨(41)の左側に位置するダンパー部材を第1ダンパー部材(10a)、鉄骨(41)の右側に位置するダンパー部材を第2ダンパー部材(10b)とする。
【0050】
図7(A)は本発明の制振構造の初期状態を示している。該制振構造にダンパー部材(10)に正方向の曲げモーメントが作用すると、図7(B)に示すように、第1ダンパー部材(10a)に圧縮力が作用して第1ダンパー部材(10a)が座屈変形する。ここで、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の回転はベースプレート(40)の端部を中心とするので、第2ダンパー部材(10b)は殆ど変形しない。
【0051】
次に、図7(C)に示すように、ダンパー部材(10)に負方向の曲げモーメントが作用すると、第1ダンパー部材(10a)には引張力が作用するために座屈変形していた第1ダンパー部材(10a)は伸張する。そして、図7(D)に示すようにベースプレート(40)が反転すると、第1ダンパー部材(10a)は殆ど元の状態に戻り、第2ダンパー部材(10b)には圧縮力が作用して第2ダンパー部材(10b)が座屈変形する。又、制振構造に作用する曲げモーメントが繰り返し向きを変えることによって、第1ダンパー部材(10a)及び第2ダンパー部材(10b)は圧縮方向の変形(座屈変形を含む)と引張方向の変形を繰り返す。
【0052】
地震発生時には、図7に示す如く、ダンパー部材(10)が圧縮方向の変形と引張方向の変形を交互に繰り返すことによって、ダンパー部材(10)が地震による振動エネルギーを吸収し、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の変形を弾性限界内に収めることを可能としている。
【0053】
図7に示す、ダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントMと回転角θの関係は、図8(a)に示すグラフで表わされる。図8(a)中のグラフ上の点Aは図7(A)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Bは図7(B)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Cは図7(C)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示し、点Dは図7(D)でダンパー部材(10)に作用する曲げモーメントM及び回転角θを示している。
【0054】
図8(A)のグラフはヒステリシス曲線を描き、該ヒステリシス曲線が包囲する領域の面積が吸収したエネルギー量に対応することから、ダンパー部材(10)の繰り返し変形により、ダンパー部材(10)が多くの振動エネルギーを吸収し、アンカーボルト(20)、ベースプレート(40)及び鉄骨(41)の振動を最小限に抑えることが可能であることがわかる。
【0055】
又、図8(B)に示す如く、ダンパー部材(10)に2周期の振動が作用すると、ダンパー部材(10)の耐力が低下することによって、回転角θの変位量は増大するが、該回転角θの変位量の増大に伴い、ヒステリシス曲線が包囲する領域の面積が大きくなることから、ダンパー部材(10)は更に多くの振動エネルギーを吸収していることがわかる。
【0056】
ここで、本発明の制振構造の具体的構成において、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されていない場合と、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されている場合について、図9を用いて説明する。
【0057】
ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されていない場合は、ダンパー部材(10)に引張力が作用しないため、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用した時にダンパー部材(10)は振動エネルギーを吸収することが出来ない。そのため、図9(A)に示すように、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフは原点を通過する曲線を示す。又、図9(A)において、2周期目の振動の時は回転角の変位量は大きくなるものの、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、1周期目での曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲う面積と殆ど同等である。
【0058】
一方、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されている場合は、ダンパー部材(10)に引張力が作用するため、アンカーボルト(20)に圧縮力が作用した時もダンパー部材(10)は振動エネルギーを吸収することが出来る。そのため、図9(B)に示すように、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフは原点を通過しないヒステリシス曲線を示す。又、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、図9(A)における曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積に比べて大きい。更に、図9(B)において、2周期目の振動の時は回転角の変位量は大きくなり、曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積は、1周期目での曲げモーメントMと回転角θとの関係を示すグラフが囲む面積に比べて大きくなる。
【0059】
上述のグラフは、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されることによって、ダンパー部材(10)の振動エネルギーの吸収能が増大することを示している。よって、本発明の制振構造では、ダンパー部材(10)がナット(30)及びベースプレート(40)に固定されることが必須である。
【0060】
次に、本発明で採用されるダンパー部材(10)を形成する材料及びダンパー部材(10)の設計方法について説明する。
本発明に係る制振構造では、大規模の地震の際であってもベースプレート(40)とコンクリート基礎(50)の制振機能を有効にするために、ダンパー部材(10)に使用される材料は、ボルト部材の降伏耐力Pbよりも小さな力で、該ダンパー部材(10)が最大耐力dPmaxに至る材料が選ばれる。
【0061】
即ち、以下の数式1の条件を満たす材料が、本発明の制振構造におけるダンパー部材(10)に用いられる。
(数1)
dPmax<Pb
数式1において、ダンパー部材(10)の最大圧縮耐力dPmaxはダンパー部材(10)に用いられる材料の特性の他に、ダンパー部材(10)の形状に依存するので、アンカーボルト(20)の降伏点Pbを考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計することが必要である。
【0062】
ダンパー部材(10)が円筒形の鋼管である仮定すると、ダンパー部材(10)の最大圧縮耐力dPmaxは数式2により評価することが可能である(鈴木敏郎、小川利行、加藤征宏、栗本照彦:「軸圧縮を受ける高張力鋼管の強度性状に関する研究」、日本建築学会論文報告集、第321号、pp28−37、1972)。
(数2)
dPmax=dPy((0.00163E・t)/(σy・D)+0.929)
ここで、Eは鋼材のヤング係数、tはダンパー部材(10)の肉厚、σyは鋼管の降伏点を表わす。
【0063】
次に、本発明の制振構造を構成するダンパー部材(10)では、その軸方向の長さLが長いほど、ダンパー部材(10)のエネルギー吸収能は高くなる。
n箇所で座屈が発生するダンパー部材(10)の最大耐力での変形量Xlimitは数式3で得られる。
(数3)
Xlimit=L−3t・n
【0064】
一般的に、座屈の発生箇所数nは、材料に関係なく、ダンパー部材(10)の形状に依存する。本発明の制振構造を構成するダンパー部材(10)の座屈について考えると、座屈が発生する間隔(座屈波長)mは、数式4により近似的に算出できる(Stephen P. Timoshenko, James M. Gere:"Theory of Elastic Stability", Mac Graw-Hill Company, New York, 1963)。
(数4)
m=2k・t[(D/t)−1]0.5
ここで、kは、ダンパー部材(10)に用いられる材料やダンパー部材(10)の開口端部の固定方法などに依存して、1.1≦k≦1.4の範囲で決定される係数である。
【0065】
よって、ダンパー部材(10)の座屈発生箇所数nは数式5により得られる。
(数5)
n=L/m=[L/(2k・t)][t/(D−t)]0.5
数式3、数式4及び数式5より、塑性変形量Xlimitは数式6のようになる。
(数6)
Xlimit=L−3t・[L/(2k・t)][t/(D−t)]0.5
=L{1−(3/2k)・[t(D−t)]−0.5}
【0066】
ダンパー部材(10)の最大耐力での変形量Xlimitは、本発明の制振構造の振動エネルギー吸収能に強く影響するので、ダンパー部材(10)に使用する材料の特性と共に、ダンパー部材(10)の形状の設計が重要である。
【0067】
本発明の制振構造では、ダンパー部材(10)の局部座屈に伴う耐力の低下を考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計することが出来る。
例えば、ダンパー部材(10)に軟鋼を使用する際に、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが15以上(D/t≧15)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力の5割以上低下する。
【0068】
又、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが7以上且つ15以下(7≦D/t≦15)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力の1〜4割程度低下する。
更に、ダンパー部材(10)の肉厚tに対する外径Dの比D/tが7以下(D/t≦7)になるように設計したとき、ダンパー部材(10)の耐力は、ダンパー部材(10)の最大耐力とほぼ同等である。
【0069】
そこで、局部座屈に伴うダンパー部材(10)の耐力の低下を許容出来る範囲を考慮して、ダンパー部材(10)の形状を設計する。
【0070】
又、本発明の制振構造においては、アンカーボルト(20)の損傷を防ぎ、且つ部品交換を容易にするために、ダンパー部材(10)に座屈が発生しても、ダンパー部材(10)の座屈部の内面がアンカーボルト(20)に接触しないようにすることが必要である。
【0071】
そのため、ダンパー部材(10)の内径(D−2t)がアンカーボルト(20)の外径Dよりも十分に大きいことが必須である。例えば、ダンパー部材(10)とボルトとの隙間をダンパー部材(10)の厚さt以上とし、或いはダンパー部材(10)の長さLをダンパー部材(10)に発生する座屈の間隔mの整数倍程度とする。これによって、ダンパー部材(10)の座屈部の内面がアンカーボルト(20)に接触しないようにすることが出来る。
【0072】
<第4実施例>
本発明に係る制振構造においては、ダンパー部材(10)の周壁に1或いは複数の穿孔を設けることによって、ダンパー部材(10)の座屈波長や座屈位置を調節することが可能である。例えば図10(A)に示す如く、周壁にスリット孔(80)を形成したダンパー部材(12)を用いてもよい。該ダンパー部材(12)においては、その周壁に軸方向に長い2つのスリット孔(80)(80)が軸方向に並び、図10(B)に示す如く軸方向と垂直で且つ互いに直交する4方向にそれぞれ2つのスリット孔(80)(80)が形成されている。この場合、スリット孔(80)が形成された部分を中心に座屈が発生することになる。
【0073】
<第5実施例>
他の実施の形態としては、図11(A)に示す如く、周壁に丸孔(81)を形成したダンパー部材(13)を用いてもよい。該ダンパー部材(13)においては、その周壁に2つの丸孔(81)(81)が軸方向に並び、図11(B)に示す如く軸方向と垂直な2方向にそれぞれ2つの丸孔(81)(81)が形成されている。この場合、丸孔(81)が形成された部分を中心に座屈が発生することになる。
【0074】
<第6実施例>
上述の実施例では、鉄骨(40)とコンクリート基礎(50)を締結した建造物に本発明の制振構造を実施したが、これに限定されず、例えば、図12に示す如く、鋼柱(43)に梁(52)を締結した建造物に実施することも可能である。
【0075】
該建造物においては、鋼柱(43)と、該鋼柱(43)に接して設けられたエンドプレート(51)と、エンドプレート(51)に溶接され且つエンドプレート(51)に対して垂直に配置された梁(52)と、エンドプレート(51)の表面から鋼柱(43)へエンドプレート(51)及び鋼柱(43)を厚さ方向に貫通して設けられたボルト(21)と、鋼柱(43)から突出するボルト(21)の先端部に螺合するナット(30)と、ボルト(21)を包囲してナット(30)と鋼柱(43)との間に介在するダンパー部材(10)とが配備されている。そして、ダンパー部材(10)の2つの開口端部の内、一方の開口端部はナット(30)に溶接され、他方の開口端部は鋼柱(43)に溶接されている。
【0076】
この様にしてエンドプレート(51)と鋼柱(43)とが締結され、その締結機構に対してダンパー部材(10)による制振機能が与えられる。
【0077】
<第7実施例>
また本発明は、図13に示す如く垂直の2本の鋼柱(43a)(43b)に水平の2本の梁(52a)(52b)を締結した建造物に実施することが出来る。本実施例では、下方の鋼柱(43a)の端部にエンドプレート(51)が固定されると共に、柱梁接合部パネル(44)の両端部にそれぞれダイヤフラム(53a)(53b)が固定されている。
そして、柱梁接合部パネル(44)のダイヤフラム(53a)(53b)に対して、2本の梁(52a)(52b)が連結されると共に、上方のダイヤフラム(53b)に対して上方の鋼柱(43b)が連結されている。
【0078】
更に、エンドプレート(51)と下方のダイヤフラム(53a)とを互いに接合させた状態で、エンドプレート(51)及びダイヤフラム(53a)を貫通するボルト(21)と、ダイヤフラム(53a)から突出するボルト(21)の先端部に螺合するナット(30)とによって、エンドプレート(51)とダイヤフラム(53a)が互いに締結されている。
ここで、ボルト(21)を包囲してナット(30)とダイヤフラム(53a)の間にダンパー部材(10)が介在し、該ダンパー部材(10)の2つの開口端部の内、一方の開口端部はナット(30)と溶接され、他方の開口端部はダイヤフラム(53a)と溶接されている。
【0079】
この様にしてエンドプレート(51)とダイヤフラム(53a)とが締結され、その締結機構に対してダンパー部材(10)による制振機能が与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の制振構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の制振構造を示す正面図である。
【図3】本発明の制振構造の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図4】本発明の制振構造の他の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図5】本発明の制振構造の他の具体的構成を示す分解状態と組立状態を示す正面図である。
【図6】金属製ダンパー部が圧縮変形する過程を説明するグラフと各状態を示す正面図である。
【図7】金属製ダンパー部が地震により変形する過程を示す一連の正面図である。
【図8】金属製ダンパー部に作用する曲げモーメントMに対するダンパー部材の回転角θの関係を示すグラフである。
【図9】金属製ダンパー部のエネルギー吸収能を説明するグラフである。
【図10】金属製ダンパー部の側面にスリット孔を形成した制振構造を示す正面図と断面図である。
【図11】金属製ダンパー部の側面に丸孔を形成した制振構造を示す正面図と断面図である。
【図12】本発明の制振構造の他の応用例を示す正面図である。
【図13】本発明の制振構造の更に他の応用例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0081】
(10) ダンパー部材
(11) フランジ座金
(12) ナット/ダンパー合体部材
(13) ダンパー部材
(14) ダンパー部材
(20) アンカーボルト
(21) ボルト
(30) ナット
(31) ナット部
(40)(42) ベースプレート
(42a) 内ねじ
(41) 鉄骨
(43) 鋼柱
(44) 柱梁接合部パネル
(50) コンクリート基礎
(51) エンドプレート
(52) 梁
(53) ダイヤフラム
(61) 第1フランジ部材
(62) 第2フランジ部材
(61a)(31a) 外ねじ
(63) ダブルナット
(63a) 内ねじ
(70)〜(74) 溶接部
(80) スリット孔
(81) 丸孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎部材に被締結部材を締結するための締結機構を具え、該締結機構は、前記基礎部材に立設されて前記被締結部材を貫通するボルト部材と、前記被締結部材から突出する前記ボルト部材の先端部に螺合するナット部から構成される建造物において、
前記ボルト部材を包囲して前記ナット部と前記被締結部材との間に介在する筒状の金属製ダンパー部を具え、該金属製ダンパー部は、その一方の開口端部が前記ナット部に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、他方の開口端部が前記被締結部材に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成され、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部に該ナット(30)が溶接によって固定されると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部が前記被締結部材に溶接によって固定されている請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記ナット部と金属製ダンパー部とが一体に形成されたナット/ダンパー合体部材(11)を具えている請求項1に記載の制振構造。
【請求項4】
前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成され、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部には、外ねじ(61a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)が固定されると共に、他方の開口端部には、外ねじ(62a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)が固定され、前記第1フランジ部材(31)には、前記外ねじ(61a)に螺合する内ねじ(63a)を有する袋状のダブルナット(63)が連結され、該ダブルナット(63)の内側に前記ナット(30)が拘持され、前記第2フランジ部材(32)は前記被締結部材にねじ込まれている請求項1に記載の制振構造。
【請求項5】
前記基礎部材は、建造物を構成するコンクリート基礎(50)であって、該コンクリート基礎(50)に、前記ボルト部材となるアンカーボルト(20)の基端部が埋設されており、該コンクリート基礎(50)の表面に、前記被締結部材となるベースプレート(40)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項6】
前記基礎部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、該エンドプレート(51)の表面に、前記被締結部材となる鋼柱(43)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項7】
前記基礎部材は、建造物を構成する鋼柱(43)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、前記被締結部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたダイヤフラム(53)であり、前記エンドプレート(51)の表面に前記ダイヤフラム(53)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項8】
前記金属製ダンパー部は、前記ボルト部材の降伏耐力よりも小さい力で最大耐力に至る請求項1乃至請求項7の何れかに記載の制振構造。
【請求項9】
前記金属製ダンパー部に用いられる材料は、鋼鉄、銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金である請求項1乃至請求項8の何れかに記載の制振構造。
【請求項10】
前記金属製ダンパー部の周壁には、1或いは複数の孔が開設されている請求項1乃至請求項9の何れかに記載の制振構造。
【請求項1】
基礎部材に被締結部材を締結するための締結機構を具え、該締結機構は、前記基礎部材に立設されて前記被締結部材を貫通するボルト部材と、前記被締結部材から突出する前記ボルト部材の先端部に螺合するナット部から構成される建造物において、
前記ボルト部材を包囲して前記ナット部と前記被締結部材との間に介在する筒状の金属製ダンパー部を具え、該金属製ダンパー部は、その一方の開口端部が前記ナット部に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されると共に、他方の開口端部が前記被締結部材に対して前記ボルト部材の長手方向の接近離間が不能に連結されていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成され、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部に該ナット(30)が溶接によって固定されると共に、該ダンパー部材(10)の他方の開口端部が前記被締結部材に溶接によって固定されている請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記ナット部と金属製ダンパー部とが一体に形成されたナット/ダンパー合体部材(11)を具えている請求項1に記載の制振構造。
【請求項4】
前記ナット部は、前記ボルト部材に螺合するナット(30)によって構成されると共に、前記金属製ダンパー部は、筒状のダンパー部材(10)によって構成され、該ダンパー部材(10)の一方の開口端部には、外ねじ(61a)を有する筒状の第1フランジ部材(61)が固定されると共に、他方の開口端部には、外ねじ(62a)を有する筒状の第2フランジ部材(62)が固定され、前記第1フランジ部材(31)には、前記外ねじ(61a)に螺合する内ねじ(63a)を有する袋状のダブルナット(63)が連結され、該ダブルナット(63)の内側に前記ナット(30)が拘持され、前記第2フランジ部材(32)は前記被締結部材にねじ込まれている請求項1に記載の制振構造。
【請求項5】
前記基礎部材は、建造物を構成するコンクリート基礎(50)であって、該コンクリート基礎(50)に、前記ボルト部材となるアンカーボルト(20)の基端部が埋設されており、該コンクリート基礎(50)の表面に、前記被締結部材となるベースプレート(40)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項6】
前記基礎部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、該エンドプレート(51)の表面に、前記被締結部材となる鋼柱(43)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項7】
前記基礎部材は、建造物を構成する鋼柱(43)に固定されたエンドプレート(51)であって、該エンドプレート(51)に、前記ボルト部材の基端部が連結固定されており、前記被締結部材は、建造物を構成する梁(52)に固定されたダイヤフラム(53)であり、前記エンドプレート(51)の表面に前記ダイヤフラム(53)が設置されている請求項1乃至請求項4の何れかに記載の制振構造。
【請求項8】
前記金属製ダンパー部は、前記ボルト部材の降伏耐力よりも小さい力で最大耐力に至る請求項1乃至請求項7の何れかに記載の制振構造。
【請求項9】
前記金属製ダンパー部に用いられる材料は、鋼鉄、銅、鉛、亜鉛、アルミニウム、及び錫の中から選択される1つの金属、或いは2以上の金属の合金である請求項1乃至請求項8の何れかに記載の制振構造。
【請求項10】
前記金属製ダンパー部の周壁には、1或いは複数の孔が開設されている請求項1乃至請求項9の何れかに記載の制振構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−280715(P2008−280715A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124823(P2007−124823)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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