説明

引戸のシール構造と、それを使用する戸装置

【課題】設計上、組立上の自由度を大きくする。
【解決手段】吊戸形式の引戸30の下端部の戸先側、戸尻側にそれぞれ高さ位置を異ならせて一対のガイドローラ81、81を付設し、ガイドローラ81、81のそれぞれの高さ位置に合わせて一対のローラ受け82、82を下枠11に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遮音性、気密性に優れた引戸のシール構造と、それを使用する戸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吊戸形式の引戸に対し、良好なシール性を実現し、初期開放時の操作力を小さくするために、吊車を介して引戸を吊下するガイドレールを緩やかに屈曲させて閉鎖位置の引戸をシールする技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
引戸の戸先側、戸尻側には、それぞれ高さ位置を違えて吊車を取り付け、ガイドレールは、戸先側、戸尻側の各吊車用に個別に分割されている。戸尻側の吊車用のガイドレールは、戸先側の吊車用のガイドレールより高く設置されており、これらのガイドレールは、それぞれの戸先側が壁側に向けて緩やかに屈曲されている。そこで、引戸を閉鎖位置に駆動すると、各ガイドレールに沿って吊車が進行することにより引戸が壁側に平行移動し、戸枠上のシール材に引戸を密着させてシールを完成することができる。なお、各吊車には、引戸との連結部分にベアリング機構を組み込み、ガイドレールの屈曲に合わせて吊車の走行方向を滑らかに変更することができる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−113396号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】インターネット資料(http://www.spindle.co.jp/whatsnew/syaonkimitsu/index_main.html)、2009年3月2日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる従来技術によるときは、引戸は、2本の屈曲するガイドレールから個別の吊車を介して吊下されるから、各ガイドレールの屈曲角度や取付精度に格段の配慮が必要である上、吊車が両フランジ付きの一輪形に限定されるため、ガイドレールや吊車に汎用性がなく、引戸の重量に制約を生じることがあるという問題があった。
【0007】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、引戸の下端に付設するガイドローラと、下枠に固定するローラ受けとを組み合わせることによって、ストレートの1本のガイドレールを使用することができ、設計上、組立上の自由度が格段に大きい引戸のシール構造と、それを使用する戸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1の発明の構成は、吊戸形式の引戸の下端部の戸先側、戸尻側にそれぞれ高さ位置を異ならせて付設する一対のガイドローラと、ガイドローラのそれぞれの高さ位置に合わせて下枠に固定する一対のローラ受けとを備えてなり、各ガイドローラは、引戸の閉鎖位置において各ローラ受けに係合し、引戸の下端部を床側のシール材に密着させてシールすることをその要旨とする。
【0009】
請求項2の発明の構成は、戸枠と、戸枠に組み込む吊戸形式の引戸と、引戸に組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、戸枠に装着するシール材とを備えてなり、シール材は、閉鎖位置の引戸の床側、天井側、戸先側、戸尻側に対応するように配置することをその要旨とする。
【0010】
請求項3の発明の構成は、戸枠と、戸枠に組み込む左右の吊戸形式の引戸と、引戸のそれぞれに組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、戸枠に装着するシール材とを備えてなり、シール材は、閉鎖位置の各引戸の床側、天井側、戸尻側に対応するように配置することをその要旨とする。
【0011】
請求項4の発明の構成は、戸枠と、戸枠の各竪枠に組み付ける左右の回転形式の扉と、戸枠に組み込む左右の吊戸形式の引戸と、引戸のそれぞれに組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、戸枠に装着するシール材とを備えてなり、シール材は、各引戸の床側、天井側、各扉の床側、天井側、ヒンジ側に対応するように配置することをその要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
かかる請求項1の発明の構成によるときは、引戸の下端部の戸先側、戸尻側の各ガイドローラは、引戸の閉鎖位置において、下枠に固定する各ローラ受けに係合することにより、引戸の下端部を下枠側に引き付けて床側のシール材に密着させてシールすることができる。すなわち、引戸側のガイドローラは、下枠側のガイド受けに係合し、床側のシール材を介して閉鎖位置の引戸の下端部のシールを完成させる。ただし、引戸の上端部は、戸枠に装着する天井側のシール材によりシールされ、引戸の戸先側、戸尻側は、たとえば単一の引戸を戸枠に組み込む場合、左右の竪枠に装着するシール材によってシールすればよい。
【0013】
なお、各ガイドローラは、それぞれの高さ位置を異ならせることにより、対応するローラ受けにのみ係合し、他のローラ受けと干渉することなく、他のローラ受けの位置を支障なく通過し得るものとする。また、閉鎖位置の引戸は、開放方向に駆動操作してガイドローラをローラ受けから外すだけでシール材によるシールを解除することができ、その後の操作力が過大になるおそれがない。
【0014】
請求項2〜4の各発明の構成によるときは、戸枠に組み込む引戸のそれぞれに対して請求項1の発明を適用することにより、閉鎖位置における各引戸の下端部のシールを完成し、請求項1の発明の効果を実現することができる。ただし、請求項2〜4の発明は、それぞれ単一の引戸を戸枠に組み込む場合、召合せ部分を介して左右の引戸を戸枠に組み込む場合、左右の引戸と、両側の扉とを共通の戸枠に組み込む場合に対応しており、それぞれの場合について、各引戸、各扉をシールするシール材を最も合理的に配置することにより、各引戸、各扉を閉鎖するときの全体のシールを完成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】全体正面図(室外側)
【図2】全体背面図(室内側)
【図3】図1のA−A線矢視相当要部拡大断面図
【図4】図1のB−B線矢視相当要部拡大断面図
【図5】図1のX1 −X1 線矢視相当要部拡大断面図
【図6】図1のX2 −X2 線矢視相当要部拡大断面図
【図7】図1のX3 −X3 線矢視相当要部拡大断面図
【図8】図2の要部拡大図
【図9】要部拡大説明図(1)
【図10】要部拡大説明図(2)
【図11】図3相当の動作説明図
【図12】要部拡大説明図(3)
【図13】他の実施の形態を示す模式説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0017】
戸装置は、戸枠10に対し、左右の回転形式の扉20、20を組み付け、左右の吊戸形式の引戸30、30を組み込んでなる(図1、図2)。
【0018】
戸枠10は、下枠11、上枠12と、左右の竪枠13、13とを枠状に組み立てて構成されている。左右の扉20、20は、それぞれヒンジ21を介して竪枠13に組み付けられており、ヒンジ21を介して室外側(図1において紙面の手前側)に開くことができる。なお、下枠11、上枠12は、それぞれ幅木レール41、天井レール51の室内側に取り付けられている。
【0019】
引戸30、30は、それぞれ戸先側、戸尻側の吊車31、31を介して共通のガイドレール32から左右に移動自在に吊下されている(図1、図3)。ガイドレール32は、左右の扉20、20の上部にまで直線状に延長されている。また、吊車31、31は、引戸30を吊下しながら、それぞれ複数の車輪を介してガイドレール32内を前後に走行することができる。
【0020】
床F側の幅木レール41には、アジャスタボルト43付きのベース材42が収納されている。幅木レール41には、アジャスタボルト43を介して支持する昇降材44が組み合わされており、下枠11は、昇降材44の室内側にねじ止めされている。また、昇降材44、下枠11の上縁には、それぞれ引戸30の下端部に接触するシール材45が装着されている。幅木レール41には、遮音材41aが充填され、下枠11の下縁には、昇降材44との間にクッション材46が装着されている。
【0021】
天井C側の天井レール51の下面には、ガイドレール32が取り付けられ、天井レール51の室内側には、上枠12がねじ止めされている。天井レール51内には、遮音材51aが充填され、天井レール51、上枠12の下縁には、それぞれ引戸30の上端部に接触するシール材52が装着されている。上枠12の上縁には、天井レール51との間にクッション材53が装着されている。
【0022】
床F側のシール材45、45は、左右の各扉20の下端部にまで延長されている(図3、図4)。床F側のクッション材46についても同様である。また、天井C側のシール材52、52は、左右の各扉20の上端部にまで延長されている。天井C側のクッション材53についても同様である。
【0023】
左右の引戸30、30の召合せ部分は、一方の引戸30に付設する目板材61によって引戸30、30の間の目地が塞がれている(図5)。目板材61には、遮音材61aが充填され、他方の引戸30に向けて戸当り用のクッション材62が付設されている。
【0024】
引戸30と扉20との間の目地も、引戸30側に付設するクッション材62付きの目板材61を介して塞がれている(図6)。なお、扉20の開閉ハンドル22には、室内側の掛金22aが連結されている。扉20は、開閉ハンドル22を介して掛金22aを目板材61に掛け外しすることにより、閉鎖状態にロックし(図6)、開閉ハンドル22、ヒンジ21を介して室外側に開くことができる(図7の二点鎖線)。
【0025】
左右の竪枠13、13は、それぞれ柱材71に取り付けられている。竪枠13には、閉鎖状態の扉20に接触するシール材72が装着されており、竪枠13の外縁には、柱材71との間にクッション材73が装着されている。
【0026】
そこで、左右の扉20、20は、それぞれ室外側に開くことができ、左右の引戸30、30は、それぞれ扉20、20を開いた後、左右に開くことができる。また、中央の召合せ部分を介して引戸30、30を閉じると、扉20、20を引戸30、30と同一平面に閉じることができる。
【0027】
各引戸30の室内側下端部の戸先側、戸尻側には、それぞれブラケット81aを介してガイドローラ81が下向きに付設されている(図2、図8)。各引戸30の一対のガイドローラ81、81は、ブラケット81a、81aの下向きの長さを違えることにより、互いに高さ位置を異ならせて配置されている。また、下枠11には、閉鎖位置の各引戸30上の一対のガイドローラ81、81に対応するようにして、すなわちガイドローラ81、81の高さ位置に合わせて、各一対のローラ受け82、82…が高さ位置を違えてねじ止めされている。
【0028】
各ローラ受け82は、板材を折曲げ加工することにより、対応するガイドローラ81が乗上げ可能な山形の頂部に凹部82aを形成している(図9)。ただし、図9(A)は、同図(B)のX4 矢視相当図であり、同図(B)は、図8相当の要部説明図である。ローラ受け82、82は、引戸30を閉鎖位置に移動させると、それぞれ対応するガイドローラ81が右または左から乗り上げるようにして係合し、凹部82aに保持される(図8、図10)。ただし、図10(A)、(B)は、それぞれ図9(A)、(B)に対応する説明図である。
【0029】
ガイドローラ81、81がローラ受け82、82に係合して凹部82a、82aに保持されると、引戸30の下端部は、ガイドローラ81、81、ローラ受け82、82を介して下枠11側に引き付けられ(図3の矢印Y方向)、床F側のシール材45、45を弾性変形させながらシール材45、45に密着して引戸30の下端部をシールすることができる(図3、図8、図10)。すなわち、引戸30上の一対のガイドローラ81、81は、下枠11上のローラ受け82、82とともに、引戸30のシール構造を形成している。
【0030】
また、引戸30を閉鎖位置から右または左に開き操作すると、ガイドローラ81、81がローラ受け82、82の凹部82a、82aから外れ(図9)、その後、引戸30を軽快に開くことができる。なお、引戸30は、開き操作に際し、室外側からやや手前側に引くようにして下端部をシール材45、45から離すとよい(図11の矢印Y方向)。
【0031】
ガイドローラ81、81は、引戸30の閉鎖位置において、それぞれ対応するローラ受け82に個別に係合する(図8)。一方、ガイドローラ81、81は、引戸30を閉鎖位置から開き操作し、閉鎖位置に向けて閉じ操作するとき、高さ位置が合わない他のローラ受け82と干渉することがない(図12)。すなわち、各ガイドローラ81は、対応しないローラ受け82の位置を左右に通過することができ、引戸30の開閉操作に差し支えることがない。ただし、図12(A)は、図8相当の要部説明図、同図(B)は、同図(A)のX5 矢視相当図である。
【0032】
なお、各ガイドローラ81、ローラ受け82は、引戸30、30の召合せ部分の直近の両側に高さ位置が異なる2組を配置し、同じ高さ位置の2組を配置しない方がよい(図2)。召合せ部分を越えて引戸30を移動させたとき、その引戸30のガイドローラ81が他の引戸30用のローラ受け82に誤って係合することがないようにするためである。
【0033】
以上の説明において、閉鎖状態の扉20、20、閉鎖位置の引戸30、30をシールするシール材45、52、72は、戸枠10に対し、図13(A)のように配置されている。すなわち、シール材45、52、72は、各引戸30の床F側、天井C側、各扉20の床F側、天井C側、ヒンジ21側に対応するように配置されている。ただし、図13(A)において、床F、天井C、ヒンジ21は、図示が省略されており、床F側のシール材45、天井C側のシール材52は、それぞれ下枠11、昇降材44に付設する2本、天井レール51、上枠12に付設する2本を1本にまとめて図示されている。すなわち、床F側のシール材45は、下枠11、昇降材44のいずれか一方に装着する1本のみとしてもよく、天井C側のシール材52は、天井レール51、上枠12のいずれか一方に装着する1本のみとしてもよく、いずれの場合も、実質的に戸枠10に装着されている。
【0034】
そこで、戸枠10に対して左右の吊戸形式の引戸30、30を組み込む場合(図13(B))、シール材45、52、72は、閉鎖位置の各引戸30の床F側、天井C側、戸尻側に対応するように配置すればよい。ただし、戸枠10の左右には、引戸30、30用の戸袋90、90を設けてもよい。また、戸枠10に対して単一の吊戸形式の引戸30を組み込む場合(同図(C))、閉鎖位置の引戸30の床F側、天井C側、戸先側、戸尻側に対応するようにしてシール材45、52、72を配置すればよい。ただし、戸枠10の左または右には、引戸30用の戸袋90を設けてもよい。同様にして、引戸30のシール構造は、吊戸形式の引戸30である限り、図示以外の任意の形態にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、一般的な建築物の開口部の他、大形の機械設備の保守点検用の出入口などに対しても、広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
F…床
C…天井
10…戸枠
11…下枠
13…竪枠
20…扉
21…ヒンジ
30…引戸
45、52、72…シール材
81…ガイドローラ
82…ローラ受け

特許出願人 小松ウオール工業株式会社
代理人 弁理士 松 田 忠 秋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊戸形式の引戸の下端部の戸先側、戸尻側にそれぞれ高さ位置を異ならせて付設する一対のガイドローラと、該ガイドローラのそれぞれの高さ位置に合わせて下枠に固定する一対のローラ受けとを備えてなり、前記各ガイドローラは、引戸の閉鎖位置において前記各ローラ受けに係合し、引戸の下端部を床側のシール材に密着させてシールすることを特徴とする引戸のシール構造。
【請求項2】
戸枠と、該戸枠に組み込む吊戸形式の引戸と、該引戸に組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、前記戸枠に装着するシール材とを備えてなり、該シール材は、閉鎖位置の前記引戸の床側、天井側、戸先側、戸尻側に対応するように配置することを特徴とする戸装置。
【請求項3】
戸枠と、該戸枠に組み込む左右の吊戸形式の引戸と、該引戸のそれぞれに組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、前記戸枠に装着するシール材とを備えてなり、該シール材は、閉鎖位置の前記各引戸の床側、天井側、戸尻側に対応するように配置することを特徴とする戸装置。
【請求項4】
戸枠と、該戸枠の各竪枠に組み付ける左右の回転形式の扉と、前記戸枠に組み込む左右の吊戸形式の引戸と、該引戸のそれぞれに組み合わせる請求項1記載の引戸のシール構造と、前記戸枠に装着するシール材とを備えてなり、該シール材は、前記各引戸の床側、天井側、前記各扉の床側、天井側、ヒンジ側に対応するように配置することを特徴とする戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−222894(P2010−222894A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73151(P2009−73151)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000184621)小松ウオール工業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】