弦楽器
【課題】弦交換又は弦交換と同等の効果が容易に実現できる弦楽器を提供する。
【解決手段】弦Sが上下に張られたベース部材10と、このベース部材の上側に位置する弦を露出させた状態でベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケース40とを備えた構成とする。これにより、弦に汚れや錆びが生じて弦を交換したくなったときには、ベース部材の上下を反転させて付け替えれば、新品同様の弦が表面側となる。又は、弦が張られたベース部材全体を新品に交換して弦交換を容易に実現できる。
【解決手段】弦Sが上下に張られたベース部材10と、このベース部材の上側に位置する弦を露出させた状態でベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケース40とを備えた構成とする。これにより、弦に汚れや錆びが生じて弦を交換したくなったときには、ベース部材の上下を反転させて付け替えれば、新品同様の弦が表面側となる。又は、弦が張られたベース部材全体を新品に交換して弦交換を容易に実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ギターなどの弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギターなどの弦楽器は、特許文献1に記載されているように、ネックやボディの一面側に弦が張られ、弦を交換するには、弦を一本一本ネックやボディから取り外して張り直す作業が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−361975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、弦は一般的に消耗品であり、例えばギターなどの金属製の弦は、手の汚れや水分によって、汚れたり錆びたりする。そして、この汚れや錆びによって音が劣化することが知られ、もっと容易に弦交換ができないかという要望があった。
この発明が解決しようとする課題は、弦交換又は弦交換と同等の効果が容易に実現できる弦楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケースと、
を備えていることを特徴とする弦楽器である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記弦が、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記ベース部材の上面と下面とには、指板部がそれぞれ形成され、
前記ベース部材の上面の指板部と、前記ベース部材の下面の指板部とでは、異なるフレットが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記ベース部材の上面又は下面のうちの一方には、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部が形成され、
前記ベース部材の上面又は下面のうちの他方には、少なくとも一部にフレットの無いフレットレス領域が設けられた第2指板部が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記弦として、音域の異なる弦が並列に複数本張られており、
前記第2指板部は、低音域側の特定の弦に対応する部分にのみ前記フレットレス領域が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の弦楽器である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ベース部材を楽器ケースよりいったん取り外し、ベース部材の上下を反転させて楽器ケースに再び取り付けることにより、ベース部材に張られた弦のうち未使用の裏側の部分を表側にすれば、新品同様の弦が表側となるため、実際には弦を交換しなくても弦を交換したのと同様の結果が容易に得られる効果がある。また、弦が張られたベース部材を別個に準備しておき、この弦が張られたベース部材全体を新品に交換して弦交換を容易に実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用した弦楽器の第1実施形態(電気ギター)を示した平面図である。
【図2】図1に示された弦楽器のD−D矢視における側断面図である。
【図3】(a)は図1に示された弦楽器のE−E矢視における断面図であり、(b)は図1に示された弦楽器のF−F矢視における断面図である。
【図4】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した平面図である。
【図5】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した側断面図である。
【図6】図1に示された弦楽器の弦引張調整装置を示す拡大斜視図である。
【図7】この発明を適用した弦楽器の第2実施形態(一面側フレットレス)の弦モジュールの平面図である。
【図8】図7に示された弦モジュールの側断面図である。
【図9】この発明を適用した弦楽器の第3実施形態(一面側一部フレットレス)の弦モジュールの平面図である。
【図10】図9に示された弦モジュールの側断面図である。
【図11】(a)は図9に示された弦楽器のG−G矢視における断面図であり、(b)はこの発明を適用した弦楽器の第4実施形態(上下で異なるフレット)の側断面図の分部拡大図である。
【図12】この発明の他の実施形態である弦モジュールの部分側断面図である。
【図13】この発明の他の実施形態である弦モジュールの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図6を参照して、この発明を適用した弦楽器の第1実施形態について説明する。
本形態例の弦楽器は、図1,2に示すように、音域の異なる6本の弦S1〜S6が張られた弦モジュール1と、この弦モジュール1が着脱可能に取り付けられる楽器ケース40と、電磁ピックアップ3とを備える電気ギター(ボディ付きタイプ)である。なお各弦S1〜S6は、相互に区別しない場合は、単に弦Sと表記する。
【0013】
電磁ピックアップ3は、各弦Sの下側における、楽器ケース2や後述するベース部材10の上面に配置され、取付ネジ4によって楽器ケース2に固定されている。この電磁ピックアップ3は、各弦Sにそれぞれ対応する位置に配置された金属製のヨーク5と、これらヨーク5に巻かれたコイル6(図2に示す)と、ヨーク5の下側等に配置された永久磁石(図示省略)とを備える公知のものであり、各弦Sの振動をそれぞれ電気信号に変換する。変換された電気信号は、本例の場合、この電磁ピックアップ3の端子7に接続されるケーブル8によって、後述する回路基板46に出力される。
【0014】
弦モジュール1は、図4,5に示すように、ベース部材10と、弦S(弦S1〜S6)と、各弦Sそれぞれに対して設けられた弦引張調整装置11と、を備えている。
ベース部材10は、全体として帯板状の部材であり、本例の場合、耐摩耗性の高い金属(例えば、ステンレス)或いはセラミックよりなる。このベース部材10は、図5のようにその長手方向が左右方向になり、弦が張られる面が上下面となるように配置された場合、左右方向の両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられ、上面側と下面側の両方に弦を張ることができ、上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる構成となっている。また本例では、各弦Sがベース部材10の一端部(図5では左端部)で折り返されることにより、各弦Sが連続してベース部材10の上下面に張り渡される構成となっている。
【0015】
この場合、弦支持部としては、ベース部材10の左端部にナット12,13が上下に同じ高さで突出して設けられ、ベース部材10の右端部にブリッジ14,15が上下に同じ高さで突出して設けられている。これら弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)は、各弦Sの裏側に当接して各弦Sを支持するものであり、その上端面(或いは下端面)は単なる平坦であってもよいが、各弦Sがはまり込む溝がそれぞれ形成されていてもよい。この溝があると、各弦Sの位置ずれ(図2の紙面に直交する前後方向の位置ずれ)が防止される。
【0016】
ここで、弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられているということは、弦支持部における各弦Sの弦高(ベース部材の表面から弦中心までの距離)が、ベース部材10の上面側と下面側とで等しいことを意味する。いいかえると、図5のようなベース部材10の側断面図において、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に沿うベース部材10の中心線Mから、上下の弦Sの中心までの距離が相互に等しいことを意味する。ここで、ベース部材10の側断面図における中心線Mは、ベース部材10を梁(はり)と考えた場合の、中立面(梁の曲げによる応力がゼロになる面)に対応する線である。また本例では、図5に示すように、ベース部材10の全体形状は、この中立面を境として上下に対称な形状となっている。
【0017】
このようなベース部材10の構成によって、弦Sの張力が上下で等しければ(本例では弦Sは上下で連続しており張力は等しい)、弦Sの張力によりベース部材10の弦支持部に加わる曲げモーメントは、上下で打ち消しあいゼロになる。なお、弦支持部の突出高さが等しいといっても、目標の品質範囲内で許される程度の僅かな違いがあってもよいことはいうまでもない。僅かな違いがあっても、片面のみに弦を張る従来の構成に比べれば、前記曲げモーメントは格段に小さく、ほぼゼロになる。
【0018】
そして、図4,5に示すように、ベース部材10の上面と下面とにおける、ブリッジとナット間のナット側は、指板部(フィンガー・ボード)16,17を構成しており、またブリッジとナット間のブリッジ側は、演奏部18,19を構成している。指板部16,17は、演奏者が弦Sを指で押さえる場所であり、所定音階(例えば、半音階)を実現する間隔でフレット21,22が形成されている。ここで、フレット21,22は、ベース部材10の上面又は下面に形成された細長い突出部分であり、図5の紙面に直交する前後方向(ベース部材10の幅方向)に断面一様に伸びており、断面形状は図5に示すように上下に山形状に突出した形状となっている。また、本例のフレット21,22は、ベース部材10と一体に形成されている。なお、このようなフレットは、演奏者が弦Sを押さえることによって弦Sの裏側に当り、弦Sの振動による音程を所定音階で変化させる周知のものであるが、必須要素ではなく、フレットレスの構成もあり得る。次に、演奏部18,19は、演奏者が弦Sを指やピック等で弾く場所で、前述した電磁ピックアップ3は、これら演奏部18又は19に取り付けられる。
【0019】
また図4,5に示すように、ベース部材10の右端部には、調整装置支持部23が、ブリッジ14の位置からさらに右方に伸びるように設けられている。本例では、この調整装置支持部23は、ベース部材10と一体に形成されている。この調整装置支持部23は、上下に長方形状に開口する開口部23aを内側に有し、右端に帯板状部23bを有する枠状のものである。この調整装置支持部23も、前記中心線M(中立面)を中心として上下対称に形成され、帯板状部23bの長手方向は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する方向)となっている。また、この調整装置支持部23の帯板状部23bには、ベース部材10の長手方向に貫通する貫通孔24(図5,6に示す)が、弦Sの数に対応した数だけ、ベース部材10の幅方向に並んで形成されている。これら、貫通孔24の前記幅方向の位置は、各弦Sの位置にそれぞれ対応しており、図5の側断面図においては、やはり前記中心線M上に位置している。
【0020】
また図4に示すように、ベース部材10の幅方向中央位置には、楽器ケース2にベース部材10を固定するためのネジ孔25が、ベース部材10の長手方向の複数箇所(この場合、5箇所)に設けられている。このネジ孔25は、本例の場合、上下に貫通した状態に形成されている。なお、このネジ孔25の態様(配置や上下に貫通しているか否か等)は、ベース部材10の上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる態様であれば、いかなるものでもよい。
【0021】
また図5に示すように、ベース部材10の左端には、ナット部固定ワッシャ26がこの場合2本のナット部固定ネジ27によって固定されている。ナット部固定ワッシャ26は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する前後方向)に沿って横長に配置される帯板状の部材である。また、ナット部固定ネジ27は、ナット部固定ワッシャ26の前後両端部に形成された貫通孔(図示省略)に挿通されて、ベース部材10の左端面における各弦Sに干渉しない位置に形成されたネジ孔(図示省略)にねじ込まれることによって、ナット部固定ワッシャ26をベース部材10の左端面に対して押し付けるように固定する。なお、ナット部固定ネジ27の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0022】
そして、各弦Sの折り返し部分は、このナット部固定ワッシャ26と、ベース部材10の左端面(この場合、ナット12,13の左端面)との間に挟み付けられる構成となっている。これにより、演奏時における折り返し部分での各弦Sの動き(すべり)が規制される。なお、このナット部固定ワッシャ26のような部材は、必須ではなく、折り返し部分での各弦Sの動きを規制する必要性に応じて適宜設ければよい。
【0023】
次に、各弦S(S1〜S6)は、この場合、電磁ピックアップ3が機能するように、金属製の線材によって弦本体が構成されたものである。各弦Sの一端には、図5や図6に示すように、弦本体の太さよりも大きなポールエンドSEが設けられている。各弦Sは、ベース部材10の一端部(左端部)に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部(右端部)から前記一端部へ、さらにベース部材10の前記一端部から前記他端部へと、連続してベース部材10の上下面に張り渡されている。各弦Sは、上下面で連続しているため、ベース部材10の弦支持部の上端部間(即ち図5の場合、ナット12とブリッジ14の上端部間)および弦支持部の下端部間(即ち図5の場合、ナット13とブリッジ15の下端部間)にそれぞれ同じ張力で張り渡されている。
【0024】
次に、弦引張調整装置11は、図4,5及び図6に示すように、弦引張調整部材33と、調整ネジ軸34と、調整ナット35と、ロックナット36とを備え、各弦Sのそれぞれに対して一組ずつ設けられている。各弦Sの弦引張調整装置11は、図4に示すように、各弦Sの配置に対応してベース部材10の幅方向に並んで設けられている。
ここで、弦引張調整部材33は、図6に示すように、全体として直方体状の部材であり、前述の調整装置支持部23の開口部23a内に配置され、弦Sの両端が固定される部材である。
【0025】
図6に示すように、この弦引張調整部材33の比較的左側には、弦SのポールエンドSEが上面から挿入可能なポールエンド保持凹部37が上面に開口した状態で形成されている。また弦引張調整部材33の左端面からは、ポールエンド保持凹部37に連通する弦挿通孔38が形成されている。弦挿通孔38は、左に向かって斜め下向きの貫通孔であり、ポールエンド保持凹部37から弦支持部の下端(図5ではブリッジ15の下端)に向かって弦Sを引き出すための孔であり、その内径はポールエンドSEの外形よりも小さい。また、弦引張調整部材33の比較的右側には、弦Sの他端を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40が上面に開口した状態で形成されている。なお、弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)が形成されている。そして、弦Sの他端側は、この弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33に固定される。
【0026】
調整ネジ軸34は、図5に示すように、弦引張調整部材33の右端面から前記中心線Mの延長上に伸びるように設けられて、前記調整装置支持部23の帯板状部23bにおける貫通孔24に摺動自在に挿通されたネジ軸であり、弦引張調整部材33と一体に設けられている。この調整ネジ軸34の先端部(図5では右端部)は、貫通孔24を貫通して、前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している。
【0027】
図6に示すように、調整ナット35とロックナット36は、いずれも調整ネジ軸34の外周に螺合(らごう;ねじをはめ合わせること)されたナットであり、その外径は貫通孔24の内径よりも当然に大きい。このうち、ロックナット36は、調整ネジ軸34の基端側まで予め螺合されることによって、前記帯板状部23bよりも内側(左側)に配置されている。一方、調整ナット35は、調整ネジ軸34が前記帯板状部23bの貫通孔24に挿通された後で、調整ネジ軸34における前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している部分に螺合されている。なお、調整ナット35とロックナット36の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0028】
ここで、各弦引張調整装置11の弦引張調整部材33は、図4に示すように前述した開口部23a内に僅かな隙間で隣接して配置されているため、調整ネジ軸34の中心線回りに回転することは不可能とされている。しかし、各弦引張調整部材33は、隣り合う側面同士が摺動するようにして、前記中心線M(図6では直線m)に沿ってベース部材10の他端部(ブリッジ14,15のある位置)に対して接離する方向(図5では左右方向)に移動可能とされている。なお、図6に符号mで示す直線は、前述したベース部材10の中立面内の直線であって、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に平行な直線である。すなわち、この直線mは、図5等における前記中心線Mに対応する線である。この直線mは、前記調整ネジ軸34や貫通孔24の中心を通り、弦引張調整部材33内における弦Sの両端部の固定位置(又はその近傍)を通る。
【0029】
このように構成された弦引張調整装置11では、次のようにして各弦Sを張ること、及び張った状態に保持することができるとともに、各弦Sの張力を調整するチューニング(調弦)が容易に可能である。すなわち、まず、弦Sの他端を弦引張調整部材33のポールエンド保持凹部37から挿入して弦挿通孔38から引き出し、ベース部材10の下面側をベース部材10の一端部(左端部)に向けて弦Sの他端側を引っ張って引き回した後、ベース部材10の一端部(この場合、ナット12,13の位置)で弦Sを上側に折り返す。次いで、ベース部材10の上面側をベース部材10の他端部(右端部)に向けて、弦Sの他端側を引っ張り、弦Sの一端部のポールエンドSEがポールエンド保持凹部37にはまり込んで保持された状態とする。その後、弦Sの他端側をある程度引っ張りながら弦固定ネジ39の軸に巻き付け、この弦固定ネジ39で弦引張調整部材33の弦固定凹部40内の底部に固定する。これにより、弦Sがベース部材10の上下面に連続して張られる。なお、ナット12,13やブリッジ14,15の先端面に前述した溝が形成されている場合には、この溝に弦Sをはめ込みつつ上述したように弦Sを張ればよい。また、ナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は、弦Sを張る際にはいったん取り外しておき、各弦Sを張った後に取り付ければよい。
【0030】
そして、上述したように弦Sを張った後は、ロックナット36を前記帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めた後、調整ナット35を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部から離れる方向(図5における右側)に向かって移動し、これにより弦Sがさらに引っ張られて張力が増加する。或いは逆に、調整ナット35を帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部に接近する方向(図5における左側)に向かって移動し、これにより弦Sの張力が低下する。そして、調整ナット35を回転させた後は、ロックナット36を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けておけば、調整ナット35とロックナット36が帯板状部23bを挟み付けるよう締め付けられることになるので、調整ネジ軸34及び弦引張調整部材33が移動不可能にベース部材10に対して固定され、弦Sは所定の張力で張った状態に保持される。
【0031】
したがって、以上のような作業を各弦Sそれぞれについて行うことによって、各弦Sを張ること、張った状態に保持すること、及び各弦Sの張力を調整するチューニングが一般ユーザでも容易に可能である。
ここで、弦Sの両端を弦引張調整部材33に上述したように固定した状態では、弦Sの一端側の固定位置であるポールエンドSEの位置と、弦Sの他端側の固定位置である弦固定凹部40の底面の位置とは、前述したように、ベース部材10の前述した中立面の延長上、いいかえると、図5に示す側断面図においてベース部材10の前述した中心線Mの延長上に配置されている。すなわち、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向(図5では、右方)に向けて引っ張られている。
【0032】
なお、上述した弦引張調整装置11において、調整ネジ軸34の外周であって調整ナット35と帯板状部23bの間に、例えばナイロン製のワッシャを介在させることによって、調整ナット35の回転操作をより円滑にするようにしてもよい。或いは、帯板状部23bの前述した貫通孔24の内周と、ここに挿通される調整ネジ軸34の外周の間にも、滑りをよくする部材を介在させて、調整ナット35の回転操作に伴う調整ネジ軸34の摺動がより円滑になるようにしてもよい。
【0033】
次に、本例の弦モジュール1の弦Sの張力によりベース部材10に加わる曲げモーメントについて説明する。
弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の前記弦支持部の上端部間および前記弦支持部の下端部間にそれぞれ同じ張力で張り渡された弦Sとを備えている。このため、少なくとも前記弦支持部間に張られた弦Sにより前記弦支持部に加わる張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントは、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0034】
さらに、本例の弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の一端部に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部から一端部へ、さらにベース部材10の一端部から他端部へと、連続してベース部材10に張り渡された弦Sとを備え、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部(ブリッジ14,15)から離れる方向に向けて引っ張られている。すなわち、張力の等しい連続する弦Sが、ベース部材10の前記中心線Mの上下両側に同じ高さで対称に張られ、しかもこの弦Sの両端部が前記中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向に向けて引っ張られている。このため、弦S全体の張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントが、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0035】
次に、楽器ケース40は、図1〜3に示すように、ベース部材10の上側に位置する弦Sを上面側に露出させた状態で弦モジュール1が着脱可能に取り付けられる第1ケース41と、この第1ケース41に取り付けられる第2ケース42,43とを備えている。
【0036】
第1ケース41は、全体として上面側が開口した箱型の部材であり、例えば合成樹脂の一体成型によって製作される。この第1ケース41の一端側(図1では左側)は、図1や図3(b)に示すように、その内部の寸法が、弦モジュール1における指板部16,17の部分の外形寸法と概略同じである。そして、弦モジュール1における指板部16,17の部分が、ベース部材10の上側に位置する各弦Sを上面側に露出させた状態で、この第1ケース41の一端側の内部に僅かな隙間ではまり込んだ状態に取り付けられる構成となっている。
【0037】
また第1ケース41の他端側(図1では右側)には、図3(a)に示すように、ボディの下側を構成するボディ下部41aが形成され、このボディ下部41aの前後方向中央位置上側には、弦モジュール1における演奏部18,19や弦引張調整装置11の部分が配置されている。なお、ギターのボディとは、ギターの演奏部の周囲に形成される部分で、一般的には、演奏者がギターを持つ際に体にかかえられる部分であり、演奏者の膝(ひざ)が当る膝凹部と胸が当る胸凹部とが両側に形成された瓢箪(ひょうたん)状箱型の部分である。なお同様のボディは、ギターに限らず他の弦楽器(例えば、ヴァイオリンやチェロ)にも設けられる。そして、アコースティックな弦楽器の場合には、このボディ内は中空とされ、弦の音が反響するようになっている。
【0038】
第2ケース42,43は、全体として下面側が開口した箱型の部材であり、前記ボディの上側を構成する部材であり、やはり例えば合成樹脂の一体成型によって製作される。これら第2ケース42,43のうち、一方の第2ケース42は、第1ケース41のボディ下部41aにおける弦モジュール1よりも向う側(図1では上側)の上面を覆うように、第1ケース41に対して図示省略したネジによって取り付けられる。また、他方の第2ケース43は、第1ケース41のボディ下部41aにおける弦モジュール1よりも手前側(図1では下側)の上面を覆うように、第1ケース41に対して図示省略したネジによって取り付けられる。
【0039】
このようにして本例の電気ギターでは、第1ケース41のボディ下部41aの上面側に第2ケース42,43が取り付けられることによって、中空のボディが形成されている。このボディは全体として、図1に示すように、その前後両側に膝凹部44と胸凹部45とが形成された瓢箪形の平面形状を成している。
【0040】
なお、第2ケース42,43の弦モジュール1に隣接する部分には、図3(a)に示すように、下方に伸びて、下端が第1ケース41のボディ下部41aの上面(底面)に接合する遮音壁42a,43aがそれぞれ形成されている。これら遮音壁42a,43aは、弦モジュール1の裏側(下面側)の弦Sが有る空間をボディ内部に対して隔離している。これにより、裏側の弦Sが表側(上面側)の弦Sの振動に共鳴して振動した場合でも、この裏側の弦Sの振動がボディ中空部で増幅されることが抑制される。通常、このような中空の構造になると、この中空部分に音がまわりこみ、さらに増幅されるため、この中空内の空気の振動が、裏側の弦Sをさらに振動させてしまい、不要な開放弦の音になってしまう恐れがあるが、本例によれば、これを防ぐことができる。特に本例では、これらの遮音壁42a,43aによって、ボディ内部に設けられる後述するスピーカ47から裏側の弦Sが隔離される。
【0041】
また図2に示すように、第1ケース41の底面における、前述のベース部材10のネジ孔25に対応する位置には、上方に突出するボス29が形成され、弦モジュール1の取付状態では、このボス29の上端面がベース部材10の下面に当接する。またボス29は、図2に示すように、内部が中空でこの中空部が楽器ケース40の下面側に開口しており、このボス29の上端部には、取付ネジ30を挿通するために上下に貫通した貫通孔(符号省略)が前記ネジ孔25と同軸上となる位置に形成されている。そして、第1ケース41の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10が第1ケース41に固定され、弦モジュール1が第1ケース41に取り付けられる構成となっている。
【0042】
このため、前記取付ネジ30を着脱することによって、ベース部材10の上側に位置する各弦Sを上面側に露出させた状態で、弦モジュール1が楽器ケース40に着脱可能に取り付けられる構成となっている。なお図2,3に示すように、楽器ケース40に対する弦モジュール1の取付状態においては、第1ケース41の底壁が弦モジュール1の下面を覆い、第1ケース41の側壁と第2ケース42,43の遮音壁42a,43aとが弦モジュール1の側部外周を覆う。但し、図2に示すように、楽器ケース40の右端壁の上端側には、前述した調整装置支持部23の帯板状部23bがはまり込む凹部31が形成され、この凹部31を介して、前記帯板状部23bが右側方に露出している。これにより、前述の調整ナット35も右側方に露出するため、楽器ケース40に弦モジュール1を取り付けた状態で、調弦のために調整ナット35を操作する作業が、容易に行える。
【0043】
そして、このように楽器ケース40に弦モジュール1を取り付けた状態においては、図3(a)及び(b)に示すように、楽器ケース40(第1ケース41や遮音壁42a,43a)と弦モジュール1のベース部材10とでギターのネックが構成され、ネックの内部は中空となって軽量化のために有利となる。
また図2に示すように、楽器ケース40における第1ケース41の左端面と右端面とには、演奏者が肩にかけるストラップを取り付けるためのストラップピン32が、それぞれ端面から突出させて設けられている。
【0044】
そして、本例のボディには、演奏音の出力等のための電気機器が搭載されている。すなわち、本例のボディのうち、弦モジュール1よりも向う側(図1では上側)に位置して第2ケース42で上側を覆われた部分(以下、膝側ボディという)には、図3(a)に示すように回路基板46が内蔵されている。また、本例のボディのうち、弦モジュール1よりも手前側(図1では下側)に位置して第2ケース43で上側を覆われた部分(以下、胸側ボディという)には、図3(a)に示すようにスピーカ47が内臓されている。
【0045】
回路基板46には、アンプ、エフェクター、メトロノーム、音源(BGM又は伴奏用)などの機能が設けられており、それらの機能をユーザが操作するためのボリューム或いはスイッチの操作部48,49が、第2ケース42の表面に設けられている。これら操作部48,49は、例えば、音量操作或いは音色操作のための操作部である。また、回路基板46には、各種表示を行う表示装置が実装されており、この表示装置の表示部を露出させる窓50が、図1に示すように第2ケース42の表面に設けられている。また、第2ケース43のスピーカ47に対応する位置には、スピーカ47からの出力音を良好に外部に出すための多数の小孔51が形成されている。
【0046】
なお、回路基板46とスピーカ47の配線は、隔離されている空間の密閉状態を失わない程度にシーリングされながら配線されている。また本例の場合、前述した電磁ピックアップ3のケーブル8は、図1に示すように、第2ケース42に形成された貫通孔8aを通して前記膝側ボディの内部に引き回され、アンプとしての回路基板46に接続されている。また、ボディ(例えば、膝側ボディ)には、電池スペースが設けられるとともに、ワイヤレスのオーディオ信号出力回路、USB端子を備え、外部の情報機器と通信が可能となっている。
【0047】
次に、本ギターを組み立てる場合について説明する。
弦モジュール1は、ベース部材10に各弦引張調整装置11を組み付けた後、各弦引張調整装置11を利用して前述したように各弦Sを張り渡すことによって組み立てられる。そして、弦モジュール1の上下面いずれかを上側に向けて露出させた状態で弦モジュール1を楽器ケース40内にはめ込み、その後、楽器ケース40の第1ケース41の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、ベース部材10の前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10を第1ケース41に固定して、弦モジュール1を楽器ケース40に固定して取り付けることができる。次いで最後に、電磁ピックアップ3を、各弦Sの下側における、ベース部材10や楽器ケース40の上面所定位置に配置し、前述した取付ネジ4によって楽器ケース40に固定すれば、本ギターの組立が終了する。
【0048】
なお、以上の組立手順、或いはその逆の手順を行えば、本ギターは一般ユーザでも容易に組立又は分解することができ、弦モジュール1の上下面(表裏)を反転させることも容易である。すなわち、電磁ピックアップ3を一時取り外し、弦モジュール1を取り外して上下面を反転させた後に再度楽器ケース2に取り付け、その後電磁ピックアップ3を取り付けるという、容易な作業で弦モジュール1の上下面を反転させることができる。
【0049】
したがって、以上説明した第1実施形態の弦モジュール1を備えた本ギターによれば、弦Sに汚れや錆びが生じて弦Sを交換したくなったときには、弦モジュール1の上下面(すなわち、ベース部材10の上下面)を反転させて付け替えれば、新品同様の弦Sが表面側となるため、実際には弦を交換しなくても弦を交換したのと同様の結果が容易に得られる効果がある。本ギターであれば、上述したように弦モジュール1の表裏を反転させて部品交換無しで弦を新しくすることができるし、場合によっては、弦モジュール1を別個に準備しておき、この弦モジュール1全体を新品に交換して弦交換を実現することもできる。しかもこの際、交換用の弦モジュール1の各弦Sのチューニングを予めやっておけば、弦交換後のチューニングも必須ではなくなる。なお本例の場合、単に弦モジュール1の上下面を反転させると、後述するように弦の配列が逆になって右利き用が左利き用になってしまうが、弦の配列が問題とならない演奏(例えば1本の弦のみを使用する演奏)であれば、弦モジュール1の上下面を反転させることによって、新品同様の裏側の弦に変更して同じユーザが演奏を行うことが可能である。
【0050】
また本例のギターは、弦がベース部材10の上側から下側に亘って連続して張り渡されているため、上側と下側に別個の弦を別個の調弦装置でそれぞれ張る場合に比べて、弦の本数が半分ですみ、また弦引張調整装置11のような調弦装置の数も半分ですみ、また調弦の作業も上下面についてそれぞれ行わなくてもよいという利点がある。また、弦が上下で連続していることによって、特に調整しなくても上下の弦の張力が等しくなり、前述したように弦の張力による曲げモーメントをゼロにする上で有利である。
【0051】
また本例のギターは、弦がベース部材10の上下に連続して張り渡され、例えば第1弦(S1)の裏側も第1弦(S1)となっているため(図3(b)参照)、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えると、弦の配列が逆になって右利き用から左利き用になる。すなわち、例えば図1に示す状態では、膝凹部44に最も近い位置に最も高音域である第1弦(S1)が配置され、そこから胸凹部45の側に向かって、第2弦(S2)、第3弦(S3)、第4弦(S4)、第5弦(S5)、第6弦(S6)が順次配置されている通常配列状態(左手で弦を押さえ、右手で弦を弾く右利きユーザ用の状態)になっている。この通常配列状態に対して、単に弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えると、逆に、膝凹部44に最も近い位置に最も低音域である第6弦が配置され、そこから胸凹部45の側に向かって、第5弦、第4弦、第3弦、第2弦、第1弦が順次配置される逆配列状態になる。この逆配列状態は、右手で弦を押さえ、左手で弦を弾く左利きユーザ用の状態(実際には、胸凹部45が膝凹部として使用され、膝凹部44が胸凹部として使用される状態)になる。したがって本例のギターであると、弦モジュール1(ベース部材10)の上下を反転させて付け替えるだけで、1台のギターを右利き用から左利き用に、或いは逆に左利き用から右利き用に変更することが、容易にできるという斬新な効果が得られる。
【0052】
また本例のギターは、第1ケース41とこれに取り付けられる第2ケース42,43によってボディが形成されているため、第2ケース42,43を異なるものに付け替えることによって、ボディ表面の色や柄或いは材質を異なるものに替えることが容易に可能となる。
また本例のギターは、ボディがあるため、ギター全体の慣性モーメントが大きくなって持つ際の安定感が増し、また体とのフィット感も増し、ギターを持っている実感が増すため、よい表現が可能になる。特に、ギターを座って弾く場合には、足の上で安定させるためと、胸のまるみにフィットさせるために凹型構造が必要である。この点、本例のギターは、そのための膝凹部44と胸凹部45とを備えたボディを有しているため、座って弾く場合に特に安定感やフィット感がある。
【0053】
また、ボディ内にアンプやスピーカ等が内蔵されているため、外部アンプや外部スピーカ等を繋がなくても、本ギターだけで演奏が可能となる。しかも、前述した遮音壁42a,43aが設けられているため、表側の弦Sの音が回路基板46のアンプで増幅されスピーカ47から出力されても、このスピーカ出力音による裏側の弦Sへの影響が少なく、高音質の演奏音を出せる。また、裏側の弦Sが共振しても、ボディの中空部は遮音壁42a,43aによって隔離されているため、ここで増幅されて不快な開放弦の音が出ることが防止される。
【0054】
また本ギターは、仮に弦の張力が過大に調整されたとしても、弦の張力による曲げモーメントが発生せず、弦が張られるベース部材10には、弦の張力によって圧縮力のみが加わるようになる。このため、弦の張力による曲げ変形(そり)がベース部材10の高剛性化を伴わずに防止できる。これにより、いわゆるネックのそりがまったく無くなる。また、ベース部材10としては、例えば本例のように薄く軽量な金属製の部材を使用して、軽量化、小型化、低コスト化を図ることができる。また、経年劣化や調弦の不具合によるベース部材10の曲げ変形も防止でき、このような曲げ変形によって弦高やフレット高さが変動して不安定になり演奏性が低下する不具合も防止できる。
【0055】
特に、本例の弦モジュール1は、弦Sを張るベース部材10が金属製でありフレット21,22がこのベース部材10に一体に形成されている。このため、これらフレットの高さは、ベース部材10の製造工程における仕上げ加工などにおいて一度調整すれば、経年変化や調弦の不具合によっても変化することがない。ちなみに、ギターなどのフレット楽器では、フレットの高さの精度が求められるが、従来は木材のネックに金属のフレットを打ち付けていたのでフレット高さが定まらず、必ず後加工によるフレット高さの調整を必要としていた。これはネックが木材なので、ネックの曲がりにも影響され、不安定な要素が多かったことが原因である。本例の弦モジュール1によれば、このような不安定な要素がなく、弦とフレットの精度が安定し、演奏性の高い弦楽器が実現できる。
【0056】
また、前記曲げモーメントがゼロになるため、ベース部材10を構成する材料としては、金属に限られず、樹脂やガラス、陶器、曲げ剛性の低い安価な木材などを使用することができ、材料選択の自由度が向上し、軽量化、小型化、低コスト化のみならず、デザイン性の向上も可能となる。
【0057】
次に、図7,8を参照して、この発明を適用した弦楽器の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素については同符号を用いて説明を省略する(他の実施形態も同様)。
本例の弦楽器は、フレットレスギターとしても使用できる電気ギターであり、弦モジュールに特徴を有し、一面側がフレットレスとされた弦モジュール1aを備える。
弦モジュール1aは、図7に示すように、ベース部材10の一面側に、フレットの全く無いフレットレス(完全フレットレス)とされた指板部16aが形成されている。すなわち、本例のベース部材10の指板部16aは、全面が平坦とされ、その表面の高さは、図8に示すように第1実施形態のフレット21の先端高さと同じになっている。なお、弦モジュール1aのその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。また本例では、図8における下面側の指板部17が、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部に相当し、図8における上面側の指板部16aが、全面がフレットレス領域とされた第2指板部に相当する。
【0058】
この第2実施形態のギターによれば、弦モジュール1aの上下面を反転させて付け替えることにより、弦モジュール1aの指板部17を表面側とすれば、フレット付きギターとして使用することができるし、弦モジュール1aの指板部16aを表面側とすれば、フレットレスギターとしても使用することができ、1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、フレット付きギターは、フレットの配置間隔に応じた所定音階(通常は半音階)での表現しかできないため、これを解決するためのフレットレスギターなるものが販売されている。しかし、一般にフレットレスギターは高価であり、フレット付きギターに加えてフレットレスギターも購入するにはフレット付きギター2台分以上の費用がかかる。また、練習やレコーディングにおいて、両方を使いたい場合には、2台の楽器を搬入せねばならず、使い勝手が良くなかった。このため、1台で、フレットレスサウンドも出せる弦楽器が望まれていた。本例のギターであると、このような要望に答えることができ、独特のフレットレスサウンドとフレットによるクロマチックサウンドが手軽に切り替えられる。
【0059】
次に、図9,10及び図11(a)を参照して、この発明を適用した弦楽器の第3実施形態について説明する。
本例の弦楽器は、指板部の一部にフレットレス領域を有するフレットレスギターとしても使用できる電気ギターであり、弦モジュールに特徴を有し、一面側が部分的にフレットレスとされた弦モジュール1bを備える。
【0060】
弦モジュール1bは、図9に示すように、ベース部材10の一面側に、部分的にフレットレスとされた指板部16bが形成されている。すなわち、本例のベース部材10の指板部16bは、図11(a)に示すように、第2弦から第6弦(S2〜S6)に対応する領域がフレットの無いフレットレス領域61とされ、残りの第1弦(S1)に対応する領域がフレット21を有するフレット領域62となっている。なお、フレットレス領域61は全面が平坦とされ、その表面の高さは、図10に示すようにフレット21の先端高さと同じになっている。また、指板部16bのフレット21は、第1弦にのみ対応するものであり、第1実施形態のフレット21よりも当然長さがその分短い。また、弦モジュール1bのその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。また本例では、図10における下面側の指板部17が、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部に相当し、図10における上面側の指板部16bが、一部にフレットレス領域が設けられた第2指板部に相当する。
【0061】
この第3実施形態のギターによれば、第2実施形態と同様に、弦モジュール1bの上下面を反転させて付け替えることにより、弦モジュール1bの指板部17を表面側とすれば、フレット付きギターとして使用することができるし、弦モジュール1bの指板部16bを表面側とすれば、一部にフレットレス領域61を有するフレットレスギターとしても使用することができ、1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、高音側の細い弦(特に第1弦;S1)は、細くて弦を弾いても振動が弱いためフレットレスのような平面とこすりあうような接触をするとすぐに振動が減衰してしまう。このため、高音側の細い弦は、フレットレスには不向きであり、本例のギターでは、このようにフレットレスに不向きな弦についてのみ、フレット有りの演奏が可能となる利点がある。すなわち本例では、フレットレス部分とフレット部分を弦ごとに異ならせており、弦の特性にあった演奏が可能となり、第1弦の発音は急激に減衰せず第1弦を使いながらも、他の弦でフレットレス演奏が可能となる。
【0062】
次に、図11(b)を参照して、この発明を適用した弦楽器の第4実施形態について説明する。
本例の弦楽器は、弦モジュール1のフレットに特徴を有し、上下に異なるフレットを有する。本例の弦モジュール1のベース部材10は、図11(b)に示すように、一面側の指板部16のフレット21と、他面側の指板部17のフレット22の形状が異なる。なお、弦モジュール1のその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。
【0063】
この場合、上面側のフレット21は先端が鋭く、下面側のフレット22は先端が丸い形状となっている。図11(b)のフレット21のように先端が鋭いと、倍音の発生が少なくなり、例えばロック調の音楽に向いたサウンドになる。また、図11(b)のフレット22のように先端が丸いと、倍音の発生が多くなり、例えばフォーク調の音楽に向いたサウンドになる。したがって、この第4実施形態のギターによれば、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えることで、フレットの形状が異なることに対応したサウンドの切り替えが、1台のギターで容易に可能となり、やはり1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、本例ではフレットの形状が異なる場合を例示したが、フレットの高さ寸法や、フレットの材質、フレットの間隔など、その他のフレットの仕様又は指板部の仕様を上下面で異ならせてもよい。
【0064】
なお、上述した実施形態では、弦が6本の場合を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限られず、例えば弦が12本ある12弦ギターでもよいし、極端な例としては一弦琴のように弦が1本でもよい。また、アコースティックギターでもよいし、ギター以外の弦楽器でもよい。また、ベース部材の他端部側の弦支持部が無い態様もあり得る。
【0065】
また前記実施形態では、ボディ付きの楽器ケースを例示したが、ボディ無しの楽器ケースを備えたコンパクトな態様もあり得る。
また、アンプやスピーカを内蔵させないで、電磁ピックアップ3の端子7に接続されるケーブル8を、例えば外付けのスピーカ付きアンプに繋いで演奏する態様もあり得る。
【0066】
また前記実施形態では、弦モジュールや電磁ピックアップの楽器ケースへの取り付けを、ねじで行っているが、公知の機械的な取付方法は多数ある。例えば、これら弦モジュールや電磁ピックアップの取り付けに、公知のスナップ機構やロック機構などを用いて簡単に着脱する方式(例えば、レバーを倒すと外れ、レバーをもとに戻すと固定されるといったような方式)を採用すれば、弦モジュールの着脱をもっと迅速に行うこともできる。そして、弦モジュールの着脱を迅速に行うことができると、前述した弦モジュールの付け替えによる弦交換、右利き用と左利き用の変更、フレット有り無し等の指板部の変更、フレット仕様の切り替えなどが、例えばライブ演奏中でも容易に可能となり、ライブ演奏の現場に仕様の異なるギターを複数台搬入する必要がなくなる。
【0067】
また前記実施形態では、上下面で指板部の仕様(フレット有り無し、フレット形状等)が異なる場合について、3個の具体例を示したが、この具体例としては他にも多種多様の組み合わせがあり得る。例えば、一面側は部分フレットレスで他面側は完全フレットレスという態様、一面側は第1弦を除いてフレットレスで他面側は第1弦と第2弦を除いてフレットレスという態様、一面側は全面フレット有りでフレット先端が鋭く、他面側は部分フレットレスでフレット領域のフレット先端が丸いという態様、などの組み合わせがあり得る。
【0068】
また、前述した実施形態では、弦の両端を移動可能な弦引張調整部材33に固定して共に引っ張ることにより弦に張力を発生させている。これに対して、弦を張る際に、弦の一端を前記中心線Mの延長上に固定しておいて、他端のみをこの延長上において移動させて引っ張った後に固定するという手法で、最終的には弦の両端が引っ張られた状態で固定された構成としてもよい。
【0069】
例えば、図12に示すように、弦引張調整部材33には弦Sの他端のみを固定する構成とし、弦Sの一端(この場合、ポールエンドSE)はベース部材10の例えば中心線M上に設けた弦係止部65に取り付け、弦引張調整部材33を移動させることによって弦Sの他端のみを引っ張って弦Sに必要な張力を発生させる態様もあり得る。この場合、弦Sの張力が同じであれば、弦引張調整部材33を引っ張る力が、両端部を引っ張る場合に比べて半分ですむ。また、弦引張調整部材33の構造が簡素化される。なおこの場合、弦Sの一端(ポールエンドSE)は、張力の反作用によって、弦係止部65によって引っ張られることになる。
【0070】
また、本発明のベース部材は、必ずしも上下に連続して弦を張る構成である必要はない。本発明は、ベース部材の一面側と他面側とにそれぞれ別個に(不連続に)弦を張る態様もあり得る。図13は、その一具体例を示したものである。
【0071】
図13の実施形態では、第1実施形態のナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は削除され、ベース部材10の一端(図13におけるナット12,13よりも左側)には、弦係止部71,72が上下にそれぞれ形成されている。そして、これら弦係止部71,72を利用して、ベース部材10の上面側と下面側とには異なる弦SAと弦SBとがそれぞれ張り渡されている。各弦係止部71,72には、各弦SA,SBをそれぞれ通すための貫通孔(符号省略)が形成されている。各弦SA,SBのポールエンドSEは、この貫通孔よりも外形が大きい。このため、この貫通孔に各弦SA,SBの他端部を挿入してベース部材10の他端側(図13では右端側)に引っ張れば、各弦SA,SBの一端部に形成された各ポールエンドSEは、図13に示すように弦係止部71,72に当接して保持される。
【0072】
一方、弦引張調整部材33の上面と下面とには、各弦SA,SBの他端部を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40がそれぞれ形成されている。各弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)がそれぞれ形成されている。そして、各弦SA,SBの他端側は、各弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた各弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33の上面側と下面側とにそれぞれ固定される。
【0073】
本発明は、この図13のような実施形態でもよく、この場合でも、例えば前述の第1実施形態と同様の構成の楽器ケースに対して、弦モジュール1の上下面を反転させて着脱可能な構成とし、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。しかも、この場合には、弦が上下で別個に張られているため、上下で弦の種類や配列を異ならせることができるという特有の作用効果が得られる。なお、上下で弦の配列を異ならせることができると、例えば第1弦の裏側は第6弦となるように上下で配列を逆にして、弦モジュール1の上下面を反転させても右利き用は右利き用のままで使用できるようにすることができる。また、上下で弦の種類を異ならせることができると、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えることによって、1台のギターでありながら容易に弦の種類の異なる演奏に切り替えられるという利点がある。また、上述したように弦が上下で不連続である場合、各弦の長さが通常サイズ(第1実施形態に比べて半分の長さ)ですむという効果もある。
【0074】
なお図13の例では、上下の弦SA,SBの他端部を共に1つの弦引張調整装置11の同じ弦引張調整部材33に固定して引っ張る構成としたが、弦引張調整装置11を上下の弦SA,SBについてそれぞれ別個に設けて、上側と下側とで別個に弦の張力を調整できる構成としてもよい。また、図13のように上下に別個の弦を張る構成において、上下の指板部の仕様(フレット有り無し、フレット形状等)を異ならせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,1a,1b 弦モジュール
10 ベース部材
11 弦引張調整装置
12,13 ナット(弦支持部材)
14,15 ブリッジ(弦支持部材)
16 指板部
16a 指板部(第2指板部)
16b 指板部(第2指板部)
17 指板部(第1指板部)
21,22 フレット
40 楽器ケース
61 フレットレス領域
62 フレット領域
S,S1〜S6 弦
【技術分野】
【0001】
この発明は、ギターなどの弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギターなどの弦楽器は、特許文献1に記載されているように、ネックやボディの一面側に弦が張られ、弦を交換するには、弦を一本一本ネックやボディから取り外して張り直す作業が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−361975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、弦は一般的に消耗品であり、例えばギターなどの金属製の弦は、手の汚れや水分によって、汚れたり錆びたりする。そして、この汚れや錆びによって音が劣化することが知られ、もっと容易に弦交換ができないかという要望があった。
この発明が解決しようとする課題は、弦交換又は弦交換と同等の効果が容易に実現できる弦楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケースと、
を備えていることを特徴とする弦楽器である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記弦が、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記ベース部材の上面と下面とには、指板部がそれぞれ形成され、
前記ベース部材の上面の指板部と、前記ベース部材の下面の指板部とでは、異なるフレットが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記ベース部材の上面又は下面のうちの一方には、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部が形成され、
前記ベース部材の上面又は下面のうちの他方には、少なくとも一部にフレットの無いフレットレス領域が設けられた第2指板部が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記弦として、音域の異なる弦が並列に複数本張られており、
前記第2指板部は、低音域側の特定の弦に対応する部分にのみ前記フレットレス領域が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の弦楽器である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ベース部材を楽器ケースよりいったん取り外し、ベース部材の上下を反転させて楽器ケースに再び取り付けることにより、ベース部材に張られた弦のうち未使用の裏側の部分を表側にすれば、新品同様の弦が表側となるため、実際には弦を交換しなくても弦を交換したのと同様の結果が容易に得られる効果がある。また、弦が張られたベース部材を別個に準備しておき、この弦が張られたベース部材全体を新品に交換して弦交換を容易に実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を適用した弦楽器の第1実施形態(電気ギター)を示した平面図である。
【図2】図1に示された弦楽器のD−D矢視における側断面図である。
【図3】(a)は図1に示された弦楽器のE−E矢視における断面図であり、(b)は図1に示された弦楽器のF−F矢視における断面図である。
【図4】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した平面図である。
【図5】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した側断面図である。
【図6】図1に示された弦楽器の弦引張調整装置を示す拡大斜視図である。
【図7】この発明を適用した弦楽器の第2実施形態(一面側フレットレス)の弦モジュールの平面図である。
【図8】図7に示された弦モジュールの側断面図である。
【図9】この発明を適用した弦楽器の第3実施形態(一面側一部フレットレス)の弦モジュールの平面図である。
【図10】図9に示された弦モジュールの側断面図である。
【図11】(a)は図9に示された弦楽器のG−G矢視における断面図であり、(b)はこの発明を適用した弦楽器の第4実施形態(上下で異なるフレット)の側断面図の分部拡大図である。
【図12】この発明の他の実施形態である弦モジュールの部分側断面図である。
【図13】この発明の他の実施形態である弦モジュールの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図6を参照して、この発明を適用した弦楽器の第1実施形態について説明する。
本形態例の弦楽器は、図1,2に示すように、音域の異なる6本の弦S1〜S6が張られた弦モジュール1と、この弦モジュール1が着脱可能に取り付けられる楽器ケース40と、電磁ピックアップ3とを備える電気ギター(ボディ付きタイプ)である。なお各弦S1〜S6は、相互に区別しない場合は、単に弦Sと表記する。
【0013】
電磁ピックアップ3は、各弦Sの下側における、楽器ケース2や後述するベース部材10の上面に配置され、取付ネジ4によって楽器ケース2に固定されている。この電磁ピックアップ3は、各弦Sにそれぞれ対応する位置に配置された金属製のヨーク5と、これらヨーク5に巻かれたコイル6(図2に示す)と、ヨーク5の下側等に配置された永久磁石(図示省略)とを備える公知のものであり、各弦Sの振動をそれぞれ電気信号に変換する。変換された電気信号は、本例の場合、この電磁ピックアップ3の端子7に接続されるケーブル8によって、後述する回路基板46に出力される。
【0014】
弦モジュール1は、図4,5に示すように、ベース部材10と、弦S(弦S1〜S6)と、各弦Sそれぞれに対して設けられた弦引張調整装置11と、を備えている。
ベース部材10は、全体として帯板状の部材であり、本例の場合、耐摩耗性の高い金属(例えば、ステンレス)或いはセラミックよりなる。このベース部材10は、図5のようにその長手方向が左右方向になり、弦が張られる面が上下面となるように配置された場合、左右方向の両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられ、上面側と下面側の両方に弦を張ることができ、上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる構成となっている。また本例では、各弦Sがベース部材10の一端部(図5では左端部)で折り返されることにより、各弦Sが連続してベース部材10の上下面に張り渡される構成となっている。
【0015】
この場合、弦支持部としては、ベース部材10の左端部にナット12,13が上下に同じ高さで突出して設けられ、ベース部材10の右端部にブリッジ14,15が上下に同じ高さで突出して設けられている。これら弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)は、各弦Sの裏側に当接して各弦Sを支持するものであり、その上端面(或いは下端面)は単なる平坦であってもよいが、各弦Sがはまり込む溝がそれぞれ形成されていてもよい。この溝があると、各弦Sの位置ずれ(図2の紙面に直交する前後方向の位置ずれ)が防止される。
【0016】
ここで、弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられているということは、弦支持部における各弦Sの弦高(ベース部材の表面から弦中心までの距離)が、ベース部材10の上面側と下面側とで等しいことを意味する。いいかえると、図5のようなベース部材10の側断面図において、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に沿うベース部材10の中心線Mから、上下の弦Sの中心までの距離が相互に等しいことを意味する。ここで、ベース部材10の側断面図における中心線Mは、ベース部材10を梁(はり)と考えた場合の、中立面(梁の曲げによる応力がゼロになる面)に対応する線である。また本例では、図5に示すように、ベース部材10の全体形状は、この中立面を境として上下に対称な形状となっている。
【0017】
このようなベース部材10の構成によって、弦Sの張力が上下で等しければ(本例では弦Sは上下で連続しており張力は等しい)、弦Sの張力によりベース部材10の弦支持部に加わる曲げモーメントは、上下で打ち消しあいゼロになる。なお、弦支持部の突出高さが等しいといっても、目標の品質範囲内で許される程度の僅かな違いがあってもよいことはいうまでもない。僅かな違いがあっても、片面のみに弦を張る従来の構成に比べれば、前記曲げモーメントは格段に小さく、ほぼゼロになる。
【0018】
そして、図4,5に示すように、ベース部材10の上面と下面とにおける、ブリッジとナット間のナット側は、指板部(フィンガー・ボード)16,17を構成しており、またブリッジとナット間のブリッジ側は、演奏部18,19を構成している。指板部16,17は、演奏者が弦Sを指で押さえる場所であり、所定音階(例えば、半音階)を実現する間隔でフレット21,22が形成されている。ここで、フレット21,22は、ベース部材10の上面又は下面に形成された細長い突出部分であり、図5の紙面に直交する前後方向(ベース部材10の幅方向)に断面一様に伸びており、断面形状は図5に示すように上下に山形状に突出した形状となっている。また、本例のフレット21,22は、ベース部材10と一体に形成されている。なお、このようなフレットは、演奏者が弦Sを押さえることによって弦Sの裏側に当り、弦Sの振動による音程を所定音階で変化させる周知のものであるが、必須要素ではなく、フレットレスの構成もあり得る。次に、演奏部18,19は、演奏者が弦Sを指やピック等で弾く場所で、前述した電磁ピックアップ3は、これら演奏部18又は19に取り付けられる。
【0019】
また図4,5に示すように、ベース部材10の右端部には、調整装置支持部23が、ブリッジ14の位置からさらに右方に伸びるように設けられている。本例では、この調整装置支持部23は、ベース部材10と一体に形成されている。この調整装置支持部23は、上下に長方形状に開口する開口部23aを内側に有し、右端に帯板状部23bを有する枠状のものである。この調整装置支持部23も、前記中心線M(中立面)を中心として上下対称に形成され、帯板状部23bの長手方向は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する方向)となっている。また、この調整装置支持部23の帯板状部23bには、ベース部材10の長手方向に貫通する貫通孔24(図5,6に示す)が、弦Sの数に対応した数だけ、ベース部材10の幅方向に並んで形成されている。これら、貫通孔24の前記幅方向の位置は、各弦Sの位置にそれぞれ対応しており、図5の側断面図においては、やはり前記中心線M上に位置している。
【0020】
また図4に示すように、ベース部材10の幅方向中央位置には、楽器ケース2にベース部材10を固定するためのネジ孔25が、ベース部材10の長手方向の複数箇所(この場合、5箇所)に設けられている。このネジ孔25は、本例の場合、上下に貫通した状態に形成されている。なお、このネジ孔25の態様(配置や上下に貫通しているか否か等)は、ベース部材10の上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる態様であれば、いかなるものでもよい。
【0021】
また図5に示すように、ベース部材10の左端には、ナット部固定ワッシャ26がこの場合2本のナット部固定ネジ27によって固定されている。ナット部固定ワッシャ26は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する前後方向)に沿って横長に配置される帯板状の部材である。また、ナット部固定ネジ27は、ナット部固定ワッシャ26の前後両端部に形成された貫通孔(図示省略)に挿通されて、ベース部材10の左端面における各弦Sに干渉しない位置に形成されたネジ孔(図示省略)にねじ込まれることによって、ナット部固定ワッシャ26をベース部材10の左端面に対して押し付けるように固定する。なお、ナット部固定ネジ27の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0022】
そして、各弦Sの折り返し部分は、このナット部固定ワッシャ26と、ベース部材10の左端面(この場合、ナット12,13の左端面)との間に挟み付けられる構成となっている。これにより、演奏時における折り返し部分での各弦Sの動き(すべり)が規制される。なお、このナット部固定ワッシャ26のような部材は、必須ではなく、折り返し部分での各弦Sの動きを規制する必要性に応じて適宜設ければよい。
【0023】
次に、各弦S(S1〜S6)は、この場合、電磁ピックアップ3が機能するように、金属製の線材によって弦本体が構成されたものである。各弦Sの一端には、図5や図6に示すように、弦本体の太さよりも大きなポールエンドSEが設けられている。各弦Sは、ベース部材10の一端部(左端部)に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部(右端部)から前記一端部へ、さらにベース部材10の前記一端部から前記他端部へと、連続してベース部材10の上下面に張り渡されている。各弦Sは、上下面で連続しているため、ベース部材10の弦支持部の上端部間(即ち図5の場合、ナット12とブリッジ14の上端部間)および弦支持部の下端部間(即ち図5の場合、ナット13とブリッジ15の下端部間)にそれぞれ同じ張力で張り渡されている。
【0024】
次に、弦引張調整装置11は、図4,5及び図6に示すように、弦引張調整部材33と、調整ネジ軸34と、調整ナット35と、ロックナット36とを備え、各弦Sのそれぞれに対して一組ずつ設けられている。各弦Sの弦引張調整装置11は、図4に示すように、各弦Sの配置に対応してベース部材10の幅方向に並んで設けられている。
ここで、弦引張調整部材33は、図6に示すように、全体として直方体状の部材であり、前述の調整装置支持部23の開口部23a内に配置され、弦Sの両端が固定される部材である。
【0025】
図6に示すように、この弦引張調整部材33の比較的左側には、弦SのポールエンドSEが上面から挿入可能なポールエンド保持凹部37が上面に開口した状態で形成されている。また弦引張調整部材33の左端面からは、ポールエンド保持凹部37に連通する弦挿通孔38が形成されている。弦挿通孔38は、左に向かって斜め下向きの貫通孔であり、ポールエンド保持凹部37から弦支持部の下端(図5ではブリッジ15の下端)に向かって弦Sを引き出すための孔であり、その内径はポールエンドSEの外形よりも小さい。また、弦引張調整部材33の比較的右側には、弦Sの他端を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40が上面に開口した状態で形成されている。なお、弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)が形成されている。そして、弦Sの他端側は、この弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33に固定される。
【0026】
調整ネジ軸34は、図5に示すように、弦引張調整部材33の右端面から前記中心線Mの延長上に伸びるように設けられて、前記調整装置支持部23の帯板状部23bにおける貫通孔24に摺動自在に挿通されたネジ軸であり、弦引張調整部材33と一体に設けられている。この調整ネジ軸34の先端部(図5では右端部)は、貫通孔24を貫通して、前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している。
【0027】
図6に示すように、調整ナット35とロックナット36は、いずれも調整ネジ軸34の外周に螺合(らごう;ねじをはめ合わせること)されたナットであり、その外径は貫通孔24の内径よりも当然に大きい。このうち、ロックナット36は、調整ネジ軸34の基端側まで予め螺合されることによって、前記帯板状部23bよりも内側(左側)に配置されている。一方、調整ナット35は、調整ネジ軸34が前記帯板状部23bの貫通孔24に挿通された後で、調整ネジ軸34における前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している部分に螺合されている。なお、調整ナット35とロックナット36の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0028】
ここで、各弦引張調整装置11の弦引張調整部材33は、図4に示すように前述した開口部23a内に僅かな隙間で隣接して配置されているため、調整ネジ軸34の中心線回りに回転することは不可能とされている。しかし、各弦引張調整部材33は、隣り合う側面同士が摺動するようにして、前記中心線M(図6では直線m)に沿ってベース部材10の他端部(ブリッジ14,15のある位置)に対して接離する方向(図5では左右方向)に移動可能とされている。なお、図6に符号mで示す直線は、前述したベース部材10の中立面内の直線であって、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に平行な直線である。すなわち、この直線mは、図5等における前記中心線Mに対応する線である。この直線mは、前記調整ネジ軸34や貫通孔24の中心を通り、弦引張調整部材33内における弦Sの両端部の固定位置(又はその近傍)を通る。
【0029】
このように構成された弦引張調整装置11では、次のようにして各弦Sを張ること、及び張った状態に保持することができるとともに、各弦Sの張力を調整するチューニング(調弦)が容易に可能である。すなわち、まず、弦Sの他端を弦引張調整部材33のポールエンド保持凹部37から挿入して弦挿通孔38から引き出し、ベース部材10の下面側をベース部材10の一端部(左端部)に向けて弦Sの他端側を引っ張って引き回した後、ベース部材10の一端部(この場合、ナット12,13の位置)で弦Sを上側に折り返す。次いで、ベース部材10の上面側をベース部材10の他端部(右端部)に向けて、弦Sの他端側を引っ張り、弦Sの一端部のポールエンドSEがポールエンド保持凹部37にはまり込んで保持された状態とする。その後、弦Sの他端側をある程度引っ張りながら弦固定ネジ39の軸に巻き付け、この弦固定ネジ39で弦引張調整部材33の弦固定凹部40内の底部に固定する。これにより、弦Sがベース部材10の上下面に連続して張られる。なお、ナット12,13やブリッジ14,15の先端面に前述した溝が形成されている場合には、この溝に弦Sをはめ込みつつ上述したように弦Sを張ればよい。また、ナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は、弦Sを張る際にはいったん取り外しておき、各弦Sを張った後に取り付ければよい。
【0030】
そして、上述したように弦Sを張った後は、ロックナット36を前記帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めた後、調整ナット35を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部から離れる方向(図5における右側)に向かって移動し、これにより弦Sがさらに引っ張られて張力が増加する。或いは逆に、調整ナット35を帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部に接近する方向(図5における左側)に向かって移動し、これにより弦Sの張力が低下する。そして、調整ナット35を回転させた後は、ロックナット36を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けておけば、調整ナット35とロックナット36が帯板状部23bを挟み付けるよう締め付けられることになるので、調整ネジ軸34及び弦引張調整部材33が移動不可能にベース部材10に対して固定され、弦Sは所定の張力で張った状態に保持される。
【0031】
したがって、以上のような作業を各弦Sそれぞれについて行うことによって、各弦Sを張ること、張った状態に保持すること、及び各弦Sの張力を調整するチューニングが一般ユーザでも容易に可能である。
ここで、弦Sの両端を弦引張調整部材33に上述したように固定した状態では、弦Sの一端側の固定位置であるポールエンドSEの位置と、弦Sの他端側の固定位置である弦固定凹部40の底面の位置とは、前述したように、ベース部材10の前述した中立面の延長上、いいかえると、図5に示す側断面図においてベース部材10の前述した中心線Mの延長上に配置されている。すなわち、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向(図5では、右方)に向けて引っ張られている。
【0032】
なお、上述した弦引張調整装置11において、調整ネジ軸34の外周であって調整ナット35と帯板状部23bの間に、例えばナイロン製のワッシャを介在させることによって、調整ナット35の回転操作をより円滑にするようにしてもよい。或いは、帯板状部23bの前述した貫通孔24の内周と、ここに挿通される調整ネジ軸34の外周の間にも、滑りをよくする部材を介在させて、調整ナット35の回転操作に伴う調整ネジ軸34の摺動がより円滑になるようにしてもよい。
【0033】
次に、本例の弦モジュール1の弦Sの張力によりベース部材10に加わる曲げモーメントについて説明する。
弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の前記弦支持部の上端部間および前記弦支持部の下端部間にそれぞれ同じ張力で張り渡された弦Sとを備えている。このため、少なくとも前記弦支持部間に張られた弦Sにより前記弦支持部に加わる張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントは、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0034】
さらに、本例の弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の一端部に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部から一端部へ、さらにベース部材10の一端部から他端部へと、連続してベース部材10に張り渡された弦Sとを備え、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部(ブリッジ14,15)から離れる方向に向けて引っ張られている。すなわち、張力の等しい連続する弦Sが、ベース部材10の前記中心線Mの上下両側に同じ高さで対称に張られ、しかもこの弦Sの両端部が前記中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向に向けて引っ張られている。このため、弦S全体の張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントが、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0035】
次に、楽器ケース40は、図1〜3に示すように、ベース部材10の上側に位置する弦Sを上面側に露出させた状態で弦モジュール1が着脱可能に取り付けられる第1ケース41と、この第1ケース41に取り付けられる第2ケース42,43とを備えている。
【0036】
第1ケース41は、全体として上面側が開口した箱型の部材であり、例えば合成樹脂の一体成型によって製作される。この第1ケース41の一端側(図1では左側)は、図1や図3(b)に示すように、その内部の寸法が、弦モジュール1における指板部16,17の部分の外形寸法と概略同じである。そして、弦モジュール1における指板部16,17の部分が、ベース部材10の上側に位置する各弦Sを上面側に露出させた状態で、この第1ケース41の一端側の内部に僅かな隙間ではまり込んだ状態に取り付けられる構成となっている。
【0037】
また第1ケース41の他端側(図1では右側)には、図3(a)に示すように、ボディの下側を構成するボディ下部41aが形成され、このボディ下部41aの前後方向中央位置上側には、弦モジュール1における演奏部18,19や弦引張調整装置11の部分が配置されている。なお、ギターのボディとは、ギターの演奏部の周囲に形成される部分で、一般的には、演奏者がギターを持つ際に体にかかえられる部分であり、演奏者の膝(ひざ)が当る膝凹部と胸が当る胸凹部とが両側に形成された瓢箪(ひょうたん)状箱型の部分である。なお同様のボディは、ギターに限らず他の弦楽器(例えば、ヴァイオリンやチェロ)にも設けられる。そして、アコースティックな弦楽器の場合には、このボディ内は中空とされ、弦の音が反響するようになっている。
【0038】
第2ケース42,43は、全体として下面側が開口した箱型の部材であり、前記ボディの上側を構成する部材であり、やはり例えば合成樹脂の一体成型によって製作される。これら第2ケース42,43のうち、一方の第2ケース42は、第1ケース41のボディ下部41aにおける弦モジュール1よりも向う側(図1では上側)の上面を覆うように、第1ケース41に対して図示省略したネジによって取り付けられる。また、他方の第2ケース43は、第1ケース41のボディ下部41aにおける弦モジュール1よりも手前側(図1では下側)の上面を覆うように、第1ケース41に対して図示省略したネジによって取り付けられる。
【0039】
このようにして本例の電気ギターでは、第1ケース41のボディ下部41aの上面側に第2ケース42,43が取り付けられることによって、中空のボディが形成されている。このボディは全体として、図1に示すように、その前後両側に膝凹部44と胸凹部45とが形成された瓢箪形の平面形状を成している。
【0040】
なお、第2ケース42,43の弦モジュール1に隣接する部分には、図3(a)に示すように、下方に伸びて、下端が第1ケース41のボディ下部41aの上面(底面)に接合する遮音壁42a,43aがそれぞれ形成されている。これら遮音壁42a,43aは、弦モジュール1の裏側(下面側)の弦Sが有る空間をボディ内部に対して隔離している。これにより、裏側の弦Sが表側(上面側)の弦Sの振動に共鳴して振動した場合でも、この裏側の弦Sの振動がボディ中空部で増幅されることが抑制される。通常、このような中空の構造になると、この中空部分に音がまわりこみ、さらに増幅されるため、この中空内の空気の振動が、裏側の弦Sをさらに振動させてしまい、不要な開放弦の音になってしまう恐れがあるが、本例によれば、これを防ぐことができる。特に本例では、これらの遮音壁42a,43aによって、ボディ内部に設けられる後述するスピーカ47から裏側の弦Sが隔離される。
【0041】
また図2に示すように、第1ケース41の底面における、前述のベース部材10のネジ孔25に対応する位置には、上方に突出するボス29が形成され、弦モジュール1の取付状態では、このボス29の上端面がベース部材10の下面に当接する。またボス29は、図2に示すように、内部が中空でこの中空部が楽器ケース40の下面側に開口しており、このボス29の上端部には、取付ネジ30を挿通するために上下に貫通した貫通孔(符号省略)が前記ネジ孔25と同軸上となる位置に形成されている。そして、第1ケース41の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10が第1ケース41に固定され、弦モジュール1が第1ケース41に取り付けられる構成となっている。
【0042】
このため、前記取付ネジ30を着脱することによって、ベース部材10の上側に位置する各弦Sを上面側に露出させた状態で、弦モジュール1が楽器ケース40に着脱可能に取り付けられる構成となっている。なお図2,3に示すように、楽器ケース40に対する弦モジュール1の取付状態においては、第1ケース41の底壁が弦モジュール1の下面を覆い、第1ケース41の側壁と第2ケース42,43の遮音壁42a,43aとが弦モジュール1の側部外周を覆う。但し、図2に示すように、楽器ケース40の右端壁の上端側には、前述した調整装置支持部23の帯板状部23bがはまり込む凹部31が形成され、この凹部31を介して、前記帯板状部23bが右側方に露出している。これにより、前述の調整ナット35も右側方に露出するため、楽器ケース40に弦モジュール1を取り付けた状態で、調弦のために調整ナット35を操作する作業が、容易に行える。
【0043】
そして、このように楽器ケース40に弦モジュール1を取り付けた状態においては、図3(a)及び(b)に示すように、楽器ケース40(第1ケース41や遮音壁42a,43a)と弦モジュール1のベース部材10とでギターのネックが構成され、ネックの内部は中空となって軽量化のために有利となる。
また図2に示すように、楽器ケース40における第1ケース41の左端面と右端面とには、演奏者が肩にかけるストラップを取り付けるためのストラップピン32が、それぞれ端面から突出させて設けられている。
【0044】
そして、本例のボディには、演奏音の出力等のための電気機器が搭載されている。すなわち、本例のボディのうち、弦モジュール1よりも向う側(図1では上側)に位置して第2ケース42で上側を覆われた部分(以下、膝側ボディという)には、図3(a)に示すように回路基板46が内蔵されている。また、本例のボディのうち、弦モジュール1よりも手前側(図1では下側)に位置して第2ケース43で上側を覆われた部分(以下、胸側ボディという)には、図3(a)に示すようにスピーカ47が内臓されている。
【0045】
回路基板46には、アンプ、エフェクター、メトロノーム、音源(BGM又は伴奏用)などの機能が設けられており、それらの機能をユーザが操作するためのボリューム或いはスイッチの操作部48,49が、第2ケース42の表面に設けられている。これら操作部48,49は、例えば、音量操作或いは音色操作のための操作部である。また、回路基板46には、各種表示を行う表示装置が実装されており、この表示装置の表示部を露出させる窓50が、図1に示すように第2ケース42の表面に設けられている。また、第2ケース43のスピーカ47に対応する位置には、スピーカ47からの出力音を良好に外部に出すための多数の小孔51が形成されている。
【0046】
なお、回路基板46とスピーカ47の配線は、隔離されている空間の密閉状態を失わない程度にシーリングされながら配線されている。また本例の場合、前述した電磁ピックアップ3のケーブル8は、図1に示すように、第2ケース42に形成された貫通孔8aを通して前記膝側ボディの内部に引き回され、アンプとしての回路基板46に接続されている。また、ボディ(例えば、膝側ボディ)には、電池スペースが設けられるとともに、ワイヤレスのオーディオ信号出力回路、USB端子を備え、外部の情報機器と通信が可能となっている。
【0047】
次に、本ギターを組み立てる場合について説明する。
弦モジュール1は、ベース部材10に各弦引張調整装置11を組み付けた後、各弦引張調整装置11を利用して前述したように各弦Sを張り渡すことによって組み立てられる。そして、弦モジュール1の上下面いずれかを上側に向けて露出させた状態で弦モジュール1を楽器ケース40内にはめ込み、その後、楽器ケース40の第1ケース41の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、ベース部材10の前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10を第1ケース41に固定して、弦モジュール1を楽器ケース40に固定して取り付けることができる。次いで最後に、電磁ピックアップ3を、各弦Sの下側における、ベース部材10や楽器ケース40の上面所定位置に配置し、前述した取付ネジ4によって楽器ケース40に固定すれば、本ギターの組立が終了する。
【0048】
なお、以上の組立手順、或いはその逆の手順を行えば、本ギターは一般ユーザでも容易に組立又は分解することができ、弦モジュール1の上下面(表裏)を反転させることも容易である。すなわち、電磁ピックアップ3を一時取り外し、弦モジュール1を取り外して上下面を反転させた後に再度楽器ケース2に取り付け、その後電磁ピックアップ3を取り付けるという、容易な作業で弦モジュール1の上下面を反転させることができる。
【0049】
したがって、以上説明した第1実施形態の弦モジュール1を備えた本ギターによれば、弦Sに汚れや錆びが生じて弦Sを交換したくなったときには、弦モジュール1の上下面(すなわち、ベース部材10の上下面)を反転させて付け替えれば、新品同様の弦Sが表面側となるため、実際には弦を交換しなくても弦を交換したのと同様の結果が容易に得られる効果がある。本ギターであれば、上述したように弦モジュール1の表裏を反転させて部品交換無しで弦を新しくすることができるし、場合によっては、弦モジュール1を別個に準備しておき、この弦モジュール1全体を新品に交換して弦交換を実現することもできる。しかもこの際、交換用の弦モジュール1の各弦Sのチューニングを予めやっておけば、弦交換後のチューニングも必須ではなくなる。なお本例の場合、単に弦モジュール1の上下面を反転させると、後述するように弦の配列が逆になって右利き用が左利き用になってしまうが、弦の配列が問題とならない演奏(例えば1本の弦のみを使用する演奏)であれば、弦モジュール1の上下面を反転させることによって、新品同様の裏側の弦に変更して同じユーザが演奏を行うことが可能である。
【0050】
また本例のギターは、弦がベース部材10の上側から下側に亘って連続して張り渡されているため、上側と下側に別個の弦を別個の調弦装置でそれぞれ張る場合に比べて、弦の本数が半分ですみ、また弦引張調整装置11のような調弦装置の数も半分ですみ、また調弦の作業も上下面についてそれぞれ行わなくてもよいという利点がある。また、弦が上下で連続していることによって、特に調整しなくても上下の弦の張力が等しくなり、前述したように弦の張力による曲げモーメントをゼロにする上で有利である。
【0051】
また本例のギターは、弦がベース部材10の上下に連続して張り渡され、例えば第1弦(S1)の裏側も第1弦(S1)となっているため(図3(b)参照)、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えると、弦の配列が逆になって右利き用から左利き用になる。すなわち、例えば図1に示す状態では、膝凹部44に最も近い位置に最も高音域である第1弦(S1)が配置され、そこから胸凹部45の側に向かって、第2弦(S2)、第3弦(S3)、第4弦(S4)、第5弦(S5)、第6弦(S6)が順次配置されている通常配列状態(左手で弦を押さえ、右手で弦を弾く右利きユーザ用の状態)になっている。この通常配列状態に対して、単に弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えると、逆に、膝凹部44に最も近い位置に最も低音域である第6弦が配置され、そこから胸凹部45の側に向かって、第5弦、第4弦、第3弦、第2弦、第1弦が順次配置される逆配列状態になる。この逆配列状態は、右手で弦を押さえ、左手で弦を弾く左利きユーザ用の状態(実際には、胸凹部45が膝凹部として使用され、膝凹部44が胸凹部として使用される状態)になる。したがって本例のギターであると、弦モジュール1(ベース部材10)の上下を反転させて付け替えるだけで、1台のギターを右利き用から左利き用に、或いは逆に左利き用から右利き用に変更することが、容易にできるという斬新な効果が得られる。
【0052】
また本例のギターは、第1ケース41とこれに取り付けられる第2ケース42,43によってボディが形成されているため、第2ケース42,43を異なるものに付け替えることによって、ボディ表面の色や柄或いは材質を異なるものに替えることが容易に可能となる。
また本例のギターは、ボディがあるため、ギター全体の慣性モーメントが大きくなって持つ際の安定感が増し、また体とのフィット感も増し、ギターを持っている実感が増すため、よい表現が可能になる。特に、ギターを座って弾く場合には、足の上で安定させるためと、胸のまるみにフィットさせるために凹型構造が必要である。この点、本例のギターは、そのための膝凹部44と胸凹部45とを備えたボディを有しているため、座って弾く場合に特に安定感やフィット感がある。
【0053】
また、ボディ内にアンプやスピーカ等が内蔵されているため、外部アンプや外部スピーカ等を繋がなくても、本ギターだけで演奏が可能となる。しかも、前述した遮音壁42a,43aが設けられているため、表側の弦Sの音が回路基板46のアンプで増幅されスピーカ47から出力されても、このスピーカ出力音による裏側の弦Sへの影響が少なく、高音質の演奏音を出せる。また、裏側の弦Sが共振しても、ボディの中空部は遮音壁42a,43aによって隔離されているため、ここで増幅されて不快な開放弦の音が出ることが防止される。
【0054】
また本ギターは、仮に弦の張力が過大に調整されたとしても、弦の張力による曲げモーメントが発生せず、弦が張られるベース部材10には、弦の張力によって圧縮力のみが加わるようになる。このため、弦の張力による曲げ変形(そり)がベース部材10の高剛性化を伴わずに防止できる。これにより、いわゆるネックのそりがまったく無くなる。また、ベース部材10としては、例えば本例のように薄く軽量な金属製の部材を使用して、軽量化、小型化、低コスト化を図ることができる。また、経年劣化や調弦の不具合によるベース部材10の曲げ変形も防止でき、このような曲げ変形によって弦高やフレット高さが変動して不安定になり演奏性が低下する不具合も防止できる。
【0055】
特に、本例の弦モジュール1は、弦Sを張るベース部材10が金属製でありフレット21,22がこのベース部材10に一体に形成されている。このため、これらフレットの高さは、ベース部材10の製造工程における仕上げ加工などにおいて一度調整すれば、経年変化や調弦の不具合によっても変化することがない。ちなみに、ギターなどのフレット楽器では、フレットの高さの精度が求められるが、従来は木材のネックに金属のフレットを打ち付けていたのでフレット高さが定まらず、必ず後加工によるフレット高さの調整を必要としていた。これはネックが木材なので、ネックの曲がりにも影響され、不安定な要素が多かったことが原因である。本例の弦モジュール1によれば、このような不安定な要素がなく、弦とフレットの精度が安定し、演奏性の高い弦楽器が実現できる。
【0056】
また、前記曲げモーメントがゼロになるため、ベース部材10を構成する材料としては、金属に限られず、樹脂やガラス、陶器、曲げ剛性の低い安価な木材などを使用することができ、材料選択の自由度が向上し、軽量化、小型化、低コスト化のみならず、デザイン性の向上も可能となる。
【0057】
次に、図7,8を参照して、この発明を適用した弦楽器の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成要素については同符号を用いて説明を省略する(他の実施形態も同様)。
本例の弦楽器は、フレットレスギターとしても使用できる電気ギターであり、弦モジュールに特徴を有し、一面側がフレットレスとされた弦モジュール1aを備える。
弦モジュール1aは、図7に示すように、ベース部材10の一面側に、フレットの全く無いフレットレス(完全フレットレス)とされた指板部16aが形成されている。すなわち、本例のベース部材10の指板部16aは、全面が平坦とされ、その表面の高さは、図8に示すように第1実施形態のフレット21の先端高さと同じになっている。なお、弦モジュール1aのその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。また本例では、図8における下面側の指板部17が、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部に相当し、図8における上面側の指板部16aが、全面がフレットレス領域とされた第2指板部に相当する。
【0058】
この第2実施形態のギターによれば、弦モジュール1aの上下面を反転させて付け替えることにより、弦モジュール1aの指板部17を表面側とすれば、フレット付きギターとして使用することができるし、弦モジュール1aの指板部16aを表面側とすれば、フレットレスギターとしても使用することができ、1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、フレット付きギターは、フレットの配置間隔に応じた所定音階(通常は半音階)での表現しかできないため、これを解決するためのフレットレスギターなるものが販売されている。しかし、一般にフレットレスギターは高価であり、フレット付きギターに加えてフレットレスギターも購入するにはフレット付きギター2台分以上の費用がかかる。また、練習やレコーディングにおいて、両方を使いたい場合には、2台の楽器を搬入せねばならず、使い勝手が良くなかった。このため、1台で、フレットレスサウンドも出せる弦楽器が望まれていた。本例のギターであると、このような要望に答えることができ、独特のフレットレスサウンドとフレットによるクロマチックサウンドが手軽に切り替えられる。
【0059】
次に、図9,10及び図11(a)を参照して、この発明を適用した弦楽器の第3実施形態について説明する。
本例の弦楽器は、指板部の一部にフレットレス領域を有するフレットレスギターとしても使用できる電気ギターであり、弦モジュールに特徴を有し、一面側が部分的にフレットレスとされた弦モジュール1bを備える。
【0060】
弦モジュール1bは、図9に示すように、ベース部材10の一面側に、部分的にフレットレスとされた指板部16bが形成されている。すなわち、本例のベース部材10の指板部16bは、図11(a)に示すように、第2弦から第6弦(S2〜S6)に対応する領域がフレットの無いフレットレス領域61とされ、残りの第1弦(S1)に対応する領域がフレット21を有するフレット領域62となっている。なお、フレットレス領域61は全面が平坦とされ、その表面の高さは、図10に示すようにフレット21の先端高さと同じになっている。また、指板部16bのフレット21は、第1弦にのみ対応するものであり、第1実施形態のフレット21よりも当然長さがその分短い。また、弦モジュール1bのその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。また本例では、図10における下面側の指板部17が、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部に相当し、図10における上面側の指板部16bが、一部にフレットレス領域が設けられた第2指板部に相当する。
【0061】
この第3実施形態のギターによれば、第2実施形態と同様に、弦モジュール1bの上下面を反転させて付け替えることにより、弦モジュール1bの指板部17を表面側とすれば、フレット付きギターとして使用することができるし、弦モジュール1bの指板部16bを表面側とすれば、一部にフレットレス領域61を有するフレットレスギターとしても使用することができ、1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、高音側の細い弦(特に第1弦;S1)は、細くて弦を弾いても振動が弱いためフレットレスのような平面とこすりあうような接触をするとすぐに振動が減衰してしまう。このため、高音側の細い弦は、フレットレスには不向きであり、本例のギターでは、このようにフレットレスに不向きな弦についてのみ、フレット有りの演奏が可能となる利点がある。すなわち本例では、フレットレス部分とフレット部分を弦ごとに異ならせており、弦の特性にあった演奏が可能となり、第1弦の発音は急激に減衰せず第1弦を使いながらも、他の弦でフレットレス演奏が可能となる。
【0062】
次に、図11(b)を参照して、この発明を適用した弦楽器の第4実施形態について説明する。
本例の弦楽器は、弦モジュール1のフレットに特徴を有し、上下に異なるフレットを有する。本例の弦モジュール1のベース部材10は、図11(b)に示すように、一面側の指板部16のフレット21と、他面側の指板部17のフレット22の形状が異なる。なお、弦モジュール1のその他の構成や、楽器ケース40の構成は、第1実施形態と同じである。
【0063】
この場合、上面側のフレット21は先端が鋭く、下面側のフレット22は先端が丸い形状となっている。図11(b)のフレット21のように先端が鋭いと、倍音の発生が少なくなり、例えばロック調の音楽に向いたサウンドになる。また、図11(b)のフレット22のように先端が丸いと、倍音の発生が多くなり、例えばフォーク調の音楽に向いたサウンドになる。したがって、この第4実施形態のギターによれば、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えることで、フレットの形状が異なることに対応したサウンドの切り替えが、1台のギターで容易に可能となり、やはり1台のギターでありながら豊かな音楽表現が可能となる。なお、本例ではフレットの形状が異なる場合を例示したが、フレットの高さ寸法や、フレットの材質、フレットの間隔など、その他のフレットの仕様又は指板部の仕様を上下面で異ならせてもよい。
【0064】
なお、上述した実施形態では、弦が6本の場合を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限られず、例えば弦が12本ある12弦ギターでもよいし、極端な例としては一弦琴のように弦が1本でもよい。また、アコースティックギターでもよいし、ギター以外の弦楽器でもよい。また、ベース部材の他端部側の弦支持部が無い態様もあり得る。
【0065】
また前記実施形態では、ボディ付きの楽器ケースを例示したが、ボディ無しの楽器ケースを備えたコンパクトな態様もあり得る。
また、アンプやスピーカを内蔵させないで、電磁ピックアップ3の端子7に接続されるケーブル8を、例えば外付けのスピーカ付きアンプに繋いで演奏する態様もあり得る。
【0066】
また前記実施形態では、弦モジュールや電磁ピックアップの楽器ケースへの取り付けを、ねじで行っているが、公知の機械的な取付方法は多数ある。例えば、これら弦モジュールや電磁ピックアップの取り付けに、公知のスナップ機構やロック機構などを用いて簡単に着脱する方式(例えば、レバーを倒すと外れ、レバーをもとに戻すと固定されるといったような方式)を採用すれば、弦モジュールの着脱をもっと迅速に行うこともできる。そして、弦モジュールの着脱を迅速に行うことができると、前述した弦モジュールの付け替えによる弦交換、右利き用と左利き用の変更、フレット有り無し等の指板部の変更、フレット仕様の切り替えなどが、例えばライブ演奏中でも容易に可能となり、ライブ演奏の現場に仕様の異なるギターを複数台搬入する必要がなくなる。
【0067】
また前記実施形態では、上下面で指板部の仕様(フレット有り無し、フレット形状等)が異なる場合について、3個の具体例を示したが、この具体例としては他にも多種多様の組み合わせがあり得る。例えば、一面側は部分フレットレスで他面側は完全フレットレスという態様、一面側は第1弦を除いてフレットレスで他面側は第1弦と第2弦を除いてフレットレスという態様、一面側は全面フレット有りでフレット先端が鋭く、他面側は部分フレットレスでフレット領域のフレット先端が丸いという態様、などの組み合わせがあり得る。
【0068】
また、前述した実施形態では、弦の両端を移動可能な弦引張調整部材33に固定して共に引っ張ることにより弦に張力を発生させている。これに対して、弦を張る際に、弦の一端を前記中心線Mの延長上に固定しておいて、他端のみをこの延長上において移動させて引っ張った後に固定するという手法で、最終的には弦の両端が引っ張られた状態で固定された構成としてもよい。
【0069】
例えば、図12に示すように、弦引張調整部材33には弦Sの他端のみを固定する構成とし、弦Sの一端(この場合、ポールエンドSE)はベース部材10の例えば中心線M上に設けた弦係止部65に取り付け、弦引張調整部材33を移動させることによって弦Sの他端のみを引っ張って弦Sに必要な張力を発生させる態様もあり得る。この場合、弦Sの張力が同じであれば、弦引張調整部材33を引っ張る力が、両端部を引っ張る場合に比べて半分ですむ。また、弦引張調整部材33の構造が簡素化される。なおこの場合、弦Sの一端(ポールエンドSE)は、張力の反作用によって、弦係止部65によって引っ張られることになる。
【0070】
また、本発明のベース部材は、必ずしも上下に連続して弦を張る構成である必要はない。本発明は、ベース部材の一面側と他面側とにそれぞれ別個に(不連続に)弦を張る態様もあり得る。図13は、その一具体例を示したものである。
【0071】
図13の実施形態では、第1実施形態のナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は削除され、ベース部材10の一端(図13におけるナット12,13よりも左側)には、弦係止部71,72が上下にそれぞれ形成されている。そして、これら弦係止部71,72を利用して、ベース部材10の上面側と下面側とには異なる弦SAと弦SBとがそれぞれ張り渡されている。各弦係止部71,72には、各弦SA,SBをそれぞれ通すための貫通孔(符号省略)が形成されている。各弦SA,SBのポールエンドSEは、この貫通孔よりも外形が大きい。このため、この貫通孔に各弦SA,SBの他端部を挿入してベース部材10の他端側(図13では右端側)に引っ張れば、各弦SA,SBの一端部に形成された各ポールエンドSEは、図13に示すように弦係止部71,72に当接して保持される。
【0072】
一方、弦引張調整部材33の上面と下面とには、各弦SA,SBの他端部を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40がそれぞれ形成されている。各弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)がそれぞれ形成されている。そして、各弦SA,SBの他端側は、各弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた各弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33の上面側と下面側とにそれぞれ固定される。
【0073】
本発明は、この図13のような実施形態でもよく、この場合でも、例えば前述の第1実施形態と同様の構成の楽器ケースに対して、弦モジュール1の上下面を反転させて着脱可能な構成とし、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。しかも、この場合には、弦が上下で別個に張られているため、上下で弦の種類や配列を異ならせることができるという特有の作用効果が得られる。なお、上下で弦の配列を異ならせることができると、例えば第1弦の裏側は第6弦となるように上下で配列を逆にして、弦モジュール1の上下面を反転させても右利き用は右利き用のままで使用できるようにすることができる。また、上下で弦の種類を異ならせることができると、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えることによって、1台のギターでありながら容易に弦の種類の異なる演奏に切り替えられるという利点がある。また、上述したように弦が上下で不連続である場合、各弦の長さが通常サイズ(第1実施形態に比べて半分の長さ)ですむという効果もある。
【0074】
なお図13の例では、上下の弦SA,SBの他端部を共に1つの弦引張調整装置11の同じ弦引張調整部材33に固定して引っ張る構成としたが、弦引張調整装置11を上下の弦SA,SBについてそれぞれ別個に設けて、上側と下側とで別個に弦の張力を調整できる構成としてもよい。また、図13のように上下に別個の弦を張る構成において、上下の指板部の仕様(フレット有り無し、フレット形状等)を異ならせてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,1a,1b 弦モジュール
10 ベース部材
11 弦引張調整装置
12,13 ナット(弦支持部材)
14,15 ブリッジ(弦支持部材)
16 指板部
16a 指板部(第2指板部)
16b 指板部(第2指板部)
17 指板部(第1指板部)
21,22 フレット
40 楽器ケース
61 フレットレス領域
62 フレット領域
S,S1〜S6 弦
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケースと、
を備えていることを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記弦は、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器。
【請求項3】
前記ベース部材の上面と下面とには、指板部がそれぞれ形成され、
前記ベース部材の上面の指板部と、前記ベース部材の下面の指板部とでは、異なるフレットが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器。
【請求項4】
前記ベース部材の上面又は下面のうちの一方には、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部が形成され、
前記ベース部材の上面又は下面のうちの他方には、少なくとも一部にフレットの無いフレットレス領域が設けられた第2指板部が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器。
【請求項5】
前記弦として、音域の異なる弦が並列に複数本張られており、
前記第2指板部は、低音域側の特定の弦に対応する部分にのみ前記フレットレス領域が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の弦楽器。
【請求項1】
上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が着脱可能に取り付けられる楽器ケースと、
を備えていることを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記弦は、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器。
【請求項3】
前記ベース部材の上面と下面とには、指板部がそれぞれ形成され、
前記ベース部材の上面の指板部と、前記ベース部材の下面の指板部とでは、異なるフレットが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器。
【請求項4】
前記ベース部材の上面又は下面のうちの一方には、所定音階を実現する間隔でフレットが全域に設けられた第1指板部が形成され、
前記ベース部材の上面又は下面のうちの他方には、少なくとも一部にフレットの無いフレットレス領域が設けられた第2指板部が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器。
【請求項5】
前記弦として、音域の異なる弦が並列に複数本張られており、
前記第2指板部は、低音域側の特定の弦に対応する部分にのみ前記フレットレス領域が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の弦楽器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−32693(P2012−32693A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173413(P2010−173413)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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