説明

弦楽器

【課題】両面に弦が張られた弦楽器において、不必要な弦の振動による演奏性低下を防止する。
【解決手段】楽器ケース2に着脱可能に取り付けられて、裏側の弦Sの振動を変化させる弦振動制御部材80を設ける。例えば、弦振動制御部材80は、全ての弦Sの裏側に接触してこれら弦の振動を吸収する振動吸収部を有する。また、弦振動制御部材は、特定の弦の裏側に接触してこれら弦の振動を吸収する振動吸収部と、特定の弦の裏側に接触してこれら弦に振動の節を形成する節形成部とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ギターなどの弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギターなどの弦楽器は、特許文献1に記載されているように、一面側にのみ弦が張られている。これにより、弦の張力による一方向の曲げモーメントが、必ず弦が張られた部材(例えば、ギターのネック)に加わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−361975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため従来では、この曲げモーメントによる前記部材の曲げ変形(例えば、ギターのネックのそり)を抑制するために、前記部材に大きな曲げ剛性を持たせる必要があり、弦楽器全体が重くなる、コストアップが避けられない、材料の選択の自由度が少ないなどの問題があった。また、前記部材に大きな曲げ剛性を持たせても、経年劣化等によって前記部材に曲げ変形が生じ、演奏性が低下する恐れがあった。
【0005】
そこで発明者は、例えば特願2010−168471号によって、両面に弦が張られたベース部材よりなる弦楽器を提案している。ところが、単に両面に弦が張られた構成では、一面側の弦を弾くことにより生じた振動が他面側の弦に伝わり、他面側の弦がその一定の長さに応じた固有振動数で共振してしまう。そして、この他面側の弦の振動音を構成音として使わない曲などの場合には、この他面側の弦の振動音が不協音となって演奏性が低下する問題があった。
この発明が解決しようとする課題は、両面に弦が張られた弦楽器であって、上述したような不必要な弦の振動による演奏性低下が防止される弦楽器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材が取り付けられる楽器ケースと、
この楽器ケースに着脱可能に取り付けられて、前記弦の振動を変化させる弦振動制御部材と、を備えたことを特徴とする弦楽器である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記弦が、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記楽器ケースが、前記ベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が取り付けられ、
前記弦振動制御部材が、前記ベース部材の下側に位置する前記弦に作用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記弦振動制御部材が、前記弦に接触して当該弦の振動を吸収する振動吸収部を有していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器である。
請求項5に記載の発明は、前記弦振動制御部材が、前記弦に接触して当該弦に振動の節を形成する節形成部を有していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の弦楽器である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、前記弦が、並列に複数本張られており、
前記弦振動制御部材が、前記複数の弦のうちの特定の弦に作用することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の弦楽器である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、弦振動制御部材が楽器ケースに取り付けられて弦の振動を変化させる。このため、この弦振動制御部材を楽器ケースに取り付けることによって、例えば不必要な弦の振動を無くしたり或いは演奏に有用な振動に変化させたりすることができる。また弦振動制御部材は、楽器ケースに着脱可能であるため、演奏上の必要性に応じてこの弦振動制御部材を着脱して弦の振動を適宜変化させることができる。したがって、不必要な弦の振動による演奏性低下が防止でき、場合によっては、さらに演奏上有用な音を付加して演奏品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明を適用した弦楽器の第1実施形態(電気ギター)を示した平面図である。
【図2】図1に示された弦楽器のA−A矢視における側断面図である。
【図3】(a)は図2に示された弦楽器のB−B矢視における断面図であり、(b)は図2に示された弦楽器のC−C矢視における断面図である。
【図4】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した平面図である。
【図5】図1に示された弦楽器の弦モジュールを示した側断面図である。
【図6】図1に示された弦楽器の弦引張調整装置を示す拡大斜視図である。
【図7】(a)は図2に示された弦楽器のD−D矢視における断面図であり、(b)は(a)と同じ断面図であって弦振動制御部材を取り外した状態を示す図である。
【図8】楽器ケースから弦振動制御部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【図9】(a)は他の実施形態である弦振動制御部材を楽器ケースに取り付けた状態を示す断面図であり、(b)は同弦振動制御部材を取り外した状態を示す断面図であり、(c)は(a)のE−E矢視における断面図である。
【図10】この発明の他の実施形態である弦モジュールの部分側断面図である。
【図11】この発明の他の実施形態である弦モジュールの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図8を参照して、この発明を適用した弦楽器の第1実施形態について説明する。
本形態例の弦楽器は、図1,2に示すように、音域の異なる6本の弦S1〜S6が張られた弦モジュール1と、この弦モジュール1が着脱可能に取り付けられる楽器ケース2と、電磁ピックアップ3と、楽器ケース2に着脱可能に取り付けられる弦振動制御部材80と、を備える電気ギター(ボディ無しタイプ)である。なお各弦S1〜S6は、相互に区別しない場合は、単に弦Sと表記する。
【0014】
電磁ピックアップ3は、各弦Sの下側における、楽器ケース2や後述するベース部材10の上面に配置され、取付ネジ4によって楽器ケース2に固定されている。この電磁ピックアップ3は、各弦Sにそれぞれ対応する位置に配置された金属製のヨーク5と、これらヨーク5に巻かれたコイル6(図2に示す)と、ヨーク5の下側等に配置された永久磁石(図示省略)とを備える公知のものであり、各弦Sの振動をそれぞれ電気信号に変換する。変換された電気信号は、この電磁ピックアップ3の端子7に接続されるケーブル8によって、例えば外付けのスピーカ付きアンプに出力され、これにより本ギターの演奏に対応した発音が行われる。
【0015】
弦モジュール1は、図4,5に示すように、ベース部材10と、弦S(弦S1〜S6)と、各弦Sそれぞれに対して設けられた弦引張調整装置11とを備えている。
ベース部材10は、全体として帯板状の部材であり、本例の場合、耐摩耗性の高い金属(例えば、ステンレス)或いはセラミックよりなる。このベース部材10は、図5のようにその長手方向が左右方向になり、弦が張られる面が上下面となるように配置された場合、左右方向の両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられ、上面側と下面側の両方に弦を張ることができ、上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる構成となっている。また本例では、各弦Sがベース部材10の一端部(図5では左端部)で折り返されることにより、各弦Sが連続してベース部材10の上下面に張られる構成となっている。
【0016】
この場合、弦支持部としては、ベース部材10の左端部にナット12,13が上下に同じ高さで突出して設けられ、ベース部材10の右端部にブリッジ14,15が上下に同じ高さで突出して設けられている。これら弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)は、各弦Sの裏側に当接して各弦Sを支持するものであり、その上端面(或いは下端面)は単なる平坦であってもよいが、各弦Sがはまり込む溝がそれぞれ形成されていてもよい。この溝があると、各弦Sの位置ずれ(図2の紙面に直交する前後方向の位置ずれ)が防止される。また、ナット12,13の突出高さ(後述する弦高)と、ブリッジ14,15の突出高さとは、異なっていてもよい。
【0017】
ここで、弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられているということは、弦支持部における各弦Sの弦高(ベース部材の表面から弦中心までの距離)が、ベース部材10の上面側と下面側とで等しいことを意味する。いいかえると、図5のようなベース部材10の側断面図において、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に沿うベース部材10の中心線Mから、上下の弦Sの中心までの距離が相互に等しいことを意味する。ここで、ベース部材10の側断面図における中心線Mは、ベース部材10を梁(はり)と考えた場合の、中立面(梁の曲げによる応力がゼロになる面)に対応する線である。また本例では、図5に示すように、ベース部材10の全体形状は、この中立面を境として上下に対称な形状となっている。
【0018】
このようなベース部材10の構成によって、弦Sの張力が上下で等しければ(本例では弦Sは上下で連続しており張力は等しい)、弦Sの張力によりベース部材10の弦支持部に加わる曲げモーメントは、上下で打ち消しあいゼロになる。なお、弦支持部の突出高さが等しいといっても、目標の品質範囲内で許される程度の僅かな違いがあってもよいことはいうまでもない。僅かな違いがあっても、片面のみに弦を張る従来の構成に比べれば、前記曲げモーメントは格段に小さく、ほぼゼロになる。
【0019】
そして、図4,5に示すように、ベース部材10の上面と下面とにおける、ブリッジとナット間のナット側は、指板部(フィンガー・ボード)16,17を構成しており、またブリッジとナット間のブリッジ側は、演奏部18,19を構成している。指板部16,17は、演奏者が弦Sを指で押さえる場所であり、所定音階(例えば、半音階)を実現する間隔でフレット21,22が形成されている。ここで、フレット21,22は、ベース部材10の上面又は下面に形成された細長い突出部分であり、図5の紙面に直交する前後方向(ベース部材10の幅方向)に断面一様に伸びており、断面形状は図5に示すように上下に山形状に突出した形状となっている。また、本例のフレット21,22は、ベース部材10と一体に形成されている。なお、このようなフレットは、演奏者が弦Sを押さえることによって弦Sの裏側に当り、弦Sの振動による音程を所定音階で変化させる周知のものであるが、必須要素ではなく、フレットレスの構成もあり得る。次に、演奏部18,19は、演奏者が弦Sを指やピック等で弾く場所で、前述した電磁ピックアップ3は、これら演奏部18又は19に取り付けられる。
【0020】
また図4,5に示すように、ベース部材10の右端部には、調整装置支持部23が、ブリッジ14の位置からさらに右方に伸びるように設けられている。本例では、この調整装置支持部23は、ベース部材10と一体に形成されている。この調整装置支持部23は、上下に長方形状に開口する開口部23aを内側に有し、右端に帯板状部23bを有する枠状のものである。この調整装置支持部23も、前記中心線M(中立面)を中心として上下対称に形成され、帯板状部23bの長手方向は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する方向)となっている。また、この調整装置支持部23の帯板状部23bには、ベース部材10の長手方向に貫通する貫通孔24(図5,6に示す)が、弦Sの数に対応した数だけ、ベース部材10の幅方向に並んで形成されている。これら、貫通孔24の前記幅方向の位置は、各弦Sの位置にそれぞれ対応しており、図5の側断面図においては、やはり前記中心線M上に位置している。
【0021】
また図4に示すように、ベース部材10の幅方向中央位置には、楽器ケース2にベース部材10を固定するためのネジ孔25が、ベース部材10の長手方向の複数箇所(この場合、5箇所)に設けられている。このネジ孔25は、本例の場合、上下に貫通した状態に形成されている。なお、このネジ孔25の態様(配置や上下に貫通しているか否か等)は、ベース部材10の上下面を反転させて楽器ケース2に付け替えることができる態様であれば、いかなるものでもよい。
【0022】
また図5に示すように、ベース部材10の左端には、ナット部固定ワッシャ26がこの場合2本のナット部固定ネジ27によって固定されている。ナット部固定ワッシャ26は、ベース部材10の幅方向(図5の紙面に直交する前後方向)に沿って横長に配置される帯板状の部材である。また、ナット部固定ネジ27は、ナット部固定ワッシャ26の前後両端部に形成された貫通孔(図示省略)に挿通されて、ベース部材10の左端面における各弦Sに干渉しない位置に形成されたネジ孔(図示省略)にねじ込まれることによって、ナット部固定ワッシャ26をベース部材10の左端面に対して押し付けるように固定する。なお、ナット部固定ネジ27の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0023】
そして、各弦Sの折り返し部分は、このナット部固定ワッシャ26と、ベース部材10の左端面(この場合、ナット12,13の左端面)との間に挟み付けられる構成となっている。これにより、演奏時における折り返し部分での各弦Sの動き(すべり)が規制される。なお、このナット部固定ワッシャ26のような部材は、必須ではなく、折り返し部分での各弦Sの動きを規制する必要性に応じて適宜設ければよい。
【0024】
次に、各弦S(S1〜S6)は、この場合、電磁ピックアップ3が機能するように、金属製の線材によって弦本体が構成されたものである。各弦Sの一端には、図5や図6に示すように、弦本体の太さよりも大きなポールエンドSEが設けられている。各弦Sは、ベース部材10の一端部(左端部)に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部(右端部)から前記一端部へ、さらにベース部材10の前記一端部から前記他端部へと、連続してベース部材10の上下面に張り渡されている。各弦Sは、上下面で連続しているため、ベース部材10の弦支持部の上端部間(即ち図5の場合、ナット12とブリッジ14の上端部間)および弦支持部の下端部間(即ち図5の場合、ナット13とブリッジ15の下端部間)にそれぞれ同じ張力で張り渡されている。
【0025】
次に、弦引張調整装置11は、図4,5及び図6に示すように、弦引張調整部材33と、調整ネジ軸34と、調整ナット35と、ロックナット36とを備え、各弦Sのそれぞれに対して一組ずつ設けられている。各弦Sの弦引張調整装置11は、図4に示すように、各弦Sの配置に対応してベース部材10の幅方向に並んで設けられている。
ここで、弦引張調整部材33は、図6に示すように、全体として直方体状の部材であり、前述の調整装置支持部23の開口部23a内に配置され、弦Sの両端が固定される部材である。
【0026】
図6に示すように、この弦引張調整部材33の比較的左側には、弦SのポールエンドSEが上面から挿入可能なポールエンド保持凹部37が上面に開口した状態で形成されている。また弦引張調整部材33の左端面からは、ポールエンド保持凹部37に連通する弦挿通孔38が形成されている。弦挿通孔38は、左に向かって斜め下向きの貫通孔であり、ポールエンド保持凹部37から弦支持部の下端(図5ではブリッジ15の下端)に向かって弦Sを引き出すための孔であり、その内径はポールエンドSEの外形よりも小さい。また、弦引張調整部材33の比較的右側には、弦Sの他端を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40が上面に開口した状態で形成されている。なお、弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)が形成されている。そして、弦Sの他端側は、この弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33に固定される。
【0027】
調整ネジ軸34は、図5に示すように、弦引張調整部材33の右端面から前記中心線Mの延長上に伸びるように設けられて、前記調整装置支持部23の帯板状部23bにおける貫通孔24に摺動自在に挿通されたネジ軸であり、弦引張調整部材33と一体に設けられている。この調整ネジ軸34の先端部(図5では右端部)は、貫通孔24を貫通して、前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している。
【0028】
図6に示すように、調整ナット35とロックナット36は、いずれも調整ネジ軸34の外周に螺合(らごう;ねじをはめ合わせること)されたナットであり、その外径は貫通孔24の内径よりも当然に大きい。このうち、ロックナット36は、調整ネジ軸34の基端側まで予め螺合されることによって、前記帯板状部23bよりも内側(左側)に配置されている。一方、調整ナット35は、調整ネジ軸34が前記帯板状部23bの貫通孔24に挿通された後で、調整ネジ軸34における前記帯板状部23bよりも外側(右側)に突出している部分に螺合されている。なお、調整ナット35とロックナット36の外周面全体には、ユーザが指で回転させる際に滑らないように、細かい溝が多数形成されている。
【0029】
ここで、各弦引張調整装置11の弦引張調整部材33は、図4に示すように前述した開口部23a内に僅かな隙間で隣接して配置されているため、調整ネジ軸34の中心線回りに回転することは不可能とされている。しかし、各弦引張調整部材33は、隣り合う側面同士が摺動するようにして、前記中心線M(図6では直線m)に沿ってベース部材10の他端部(ブリッジ14,15のある位置)に対して接離する方向(図5では左右方向)に移動可能とされている。なお、図6に符号mで示す直線は、前述したベース部材10の中立面内の直線であって、ベース部材10の長手方向(図5では左右方向)に平行な直線である。すなわち、この直線mは、図5等における前記中心線Mに対応する線である。この直線mは、前記調整ネジ軸34や貫通孔24の中心を通り、弦引張調整部材33内における弦Sの両端部の固定位置(又はその近傍)を通る。
【0030】
このように構成された弦引張調整装置11では、次のようにして各弦Sを張ること、及び張った状態に保持することができるとともに、各弦Sの張力を調整するチューニング(調弦)が容易に可能である。すなわち、まず、弦Sの他端を弦引張調整部材33のポールエンド保持凹部37から挿入して弦挿通孔38から引き出し、ベース部材10の下面側をベース部材10の一端部(左端部)に向けて弦Sの他端側を引っ張って引き回した後、ベース部材10の一端部(この場合、ナット12,13の位置)で弦Sを上側に折り返す。次いで、ベース部材10の上面側をベース部材10の他端部(右端部)に向けて、弦Sの他端側を引っ張り、弦Sの一端部のポールエンドSEがポールエンド保持凹部37にはまり込んで保持された状態とする。その後、弦Sの他端側をある程度引っ張りながら弦固定ネジ39の軸に巻き付け、この弦固定ネジ39で弦引張調整部材33の弦固定凹部40内の底部に固定する。これにより、弦Sがベース部材10の上下面に連続して張られる。なお、ナット12,13やブリッジ14,15の先端面に前述した溝が形成されている場合には、この溝に弦Sをはめ込みつつ上述したように弦Sを張ればよい。また、ナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は、弦Sを張る際にはいったん取り外しておき、各弦Sを張った後に取り付ければよい。
【0031】
そして、上述したように弦Sを張った後は、ロックナット36を前記帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めた後、調整ナット35を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部から離れる方向(図5における右側)に向かって移動し、これにより弦Sがさらに引っ張られて張力が増加する。或いは逆に、調整ナット35を帯板状部23bから離れる向きに回転させて緩めると、調整ネジ軸34と弦引張調整部材33がベース部材10の他端部に接近する方向(図5における左側)に向かって移動し、これにより弦Sの張力が低下する。そして、調整ナット35を回転させた後は、ロックナット36を帯板状部23bに押し付ける向きに回転させて締め付けておけば、調整ナット35とロックナット36が帯板状部23bを挟み付けるよう締め付けられることになるので、調整ネジ軸34及び弦引張調整部材33が移動不可能にベース部材10に対して固定され、弦Sは所定の張力で張った状態に保持される。
【0032】
したがって、以上のような作業を各弦Sそれぞれについて行うことによって、各弦Sを張ること、張った状態に保持すること、及び各弦Sの張力を調整するチューニングが一般ユーザでも容易に可能である。
ここで、弦Sの両端を弦引張調整部材33に上述したように固定した状態では、弦Sの一端側の固定位置であるポールエンドSEの位置と、弦Sの他端側の固定位置である弦固定凹部40の底面の位置とは、前述したように、ベース部材10の前述した中立面の延長上、いいかえると、図5に示す側断面図においてベース部材10の前述した中心線Mの延長上に配置されている。すなわち、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向(図5では、右方)に向けて引っ張られている。
【0033】
なお、上述した弦引張調整装置11において、調整ネジ軸34の外周であって調整ナット35と帯板状部23bの間に、例えばナイロン製のワッシャを介在させることによって、調整ナット35の回転操作をより円滑にするようにしてもよい。或いは、帯板状部23bの前述した貫通孔24の内周と、ここに挿通される調整ネジ軸34の外周の間にも、滑りをよくする部材を介在させて、調整ナット35の回転操作に伴う調整ネジ軸34の摺動がより円滑になるようにしてもよい。
【0034】
次に、本例の弦モジュール1の弦Sの張力によりベース部材10に加わる曲げモーメントについて説明する。
弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部(ナット12,13、ブリッジ14,15)が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の前記弦支持部の上端部間および前記弦支持部の下端部間にそれぞれ同じ張力で張り渡された弦Sとを備えている。このため、少なくとも前記弦支持部間に張られた弦Sにより前記弦支持部に加わる張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントは、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0035】
さらに、本例の弦モジュール1は、両端部にそれぞれ弦支持部が上下に同じ高さで突出して設けられたベース部材10と、このベース部材10の一端部に位置する弦支持部(ナット12,13)で折り返されることにより、ベース部材10の他端部から一端部へ、さらにベース部材10の一端部から他端部へと、連続してベース部材10に張り渡された弦Sとを備え、弦Sの両端部は、ベース部材10の一端部から他端部に向かう方向に沿うベース部材10の中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部(ブリッジ14,15)から離れる方向に向けて引っ張られている。すなわち、張力の等しい連続する弦Sが、ベース部材10の前記中心線Mの上下両側に同じ高さで対称に張られ、しかもこの弦Sの両端部が前記中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向に向けて引っ張られている。このため、弦S全体の張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントが、上下で打ち消し合ってゼロになる。
【0036】
次に、楽器ケース2は、図1,2に示すように、全体として上面側が開口した箱型の部材であり、例えば合成樹脂の一体成型によって製作される。この楽器ケース2は、図1に示すように、内部の前後方向及び左右方向の寸法が、ベース部材10を含む弦モジュール1の前後方向及び左右方向の外形寸法と概略同じであり、ベース部材10の上側に位置する各弦Sを上面側に露出させた状態で、弦モジュール1が内側に僅かな隙間ではまり込んだ状態に取り付けられる構成となっている。また、楽器ケース2の底面における、前述のベース部材10のネジ孔25に対応する位置には、上方に突出するボス29が形成され、弦モジュール1の取付状態では、このボス29の上端面がベース部材10の下面に当接する。またボス29は、図2に示すように、内部が中空でこの中空部が楽器ケース2の下面側に開口しており、このボス29の上端部には、取付ネジ30を挿通するために上下に貫通した貫通孔(符号省略)が前記ネジ孔25と同軸上となる位置に形成されている。
【0037】
そして、楽器ケース2の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10が楽器ケース2に固定され、弦モジュール1が楽器ケース2に取り付けられる構成となっている。なお図2,3に示すように、楽器ケース2に対する弦モジュール1の取付状態においては、楽器ケース2の底壁が弦モジュール1の下面を覆い、楽器ケース2の側壁が弦モジュール1の側部外周を覆う。但し、図2に示すように、楽器ケース2の右端壁の上端側には、前述した調整装置支持部23の帯板状部23bがはまり込む凹部31が形成され、この凹部31を介して、前記帯板状部23bが右側方に露出している。これにより、前述の調整ナット35も右側方に露出するため、楽器ケース2に弦モジュール1を取り付けた状態で、調弦のために前述の調整ナット35を操作する作業が、容易に行える。
【0038】
そして、このように楽器ケース2に弦モジュール1を取り付けた状態においては、図3(a)及び(b)に示すように、楽器ケース2と弦モジュール1のベース部材10とでギターのネックが構成され、ネックの内部は中空となって軽量化のために有利となる。
また図2に示すように、楽器ケース2の左端面と右端面とには、演奏者が肩にかけるストラップを取り付けるためのストラップピン32が、それぞれ端面から突出させて設けられている。
【0039】
また図7(b)や図8に示すように、楽器ケース2の底壁には、ベース部材10の裏側(図7(b)における下側)の各弦Sを部分的に露出させる開口部41が形成されている。開口部41は、楽器ケース2の幅方向(図2の紙面に直交する前後方向)の手前側から向う側まで、楽器ケース2の底部を横断するように形成されており、後述する弦振動制御部材80の基板部81が僅かな隙間ではまり込む大きさとされている。この開口部41の前後両端位置には、弦振動制御部材80の後述する取付片83がはまり込む取付凹部42がそれぞれ形成され、さらに各取付凹部42には、楽器ケース2の幅方向における前方又は後方に突出する係合突起43がそれぞれ形成されている。
【0040】
なお、楽器ケース2や各弦Sの長手方向(図2における左右方向)における開口部41の位置は、弦振動制御部材を取り付けるための所定位置となっている。この所定位置とは、弦振動制御部材を取り付けるのに好ましい位置である。例えば、図7に示す弦振動制御部材80のように全ての弦Sの振動を吸収する(いわゆるミュートする)タイプの弦振動制御部材の着脱のみを想定している場合には、どの位置でも振動の吸収は可能なので、特に限定されず、部材の干渉等が起きない位置であればよい。しかし、後述する図9に示す弦振動制御部材90のように何れかの弦Sに振動の節を形成するタイプの弦振動制御部材の着脱も想定している場合には、その弦Sの長手方向における節を形成すべき位置(以下、節形成位置という)に対応した位置とされ、弦振動制御部材を取り付けたときに、この節形成位置に精度良く節が形成されるように、この開口部41の前記長手方向における位置が設定されている必要がある。
【0041】
次に、弦振動制御部材80は、図7(a),(b)や図8に示すように、基板部81と、この基板部81の内側に設けられた振動吸収部82とよりなる。ここで、基板部81は、例えば楽器ケース2と同じ材質(例えば、合成樹脂製)のものであり、前述した開口部41を塞ぐように取り付けられて楽器ケース2と段差無く一体化する形状寸法とされている。この基板部81の両端には、弦振動制御部材80の装着時に弾力的に撓んで前記取付凹部42にはまり込む取付片83がそれぞれ形成されている。そして、これら取付片83には、弦振動制御部材80の装着時に、前述した係合突起43がはまり込む係合凹部84がそれぞれ形成されている。このような構成によって、弦振動制御部材80は、楽器ケース2の前記開口部41に対して押し込むことにより、ユーザがワンタッチで容易に装着でき、逆に前記開口部41から引き抜くことにより、ユーザが容易に取り外すことができる。
【0042】
なお、基板部81の両端の取付片83は、弦振動制御部材80の開口部41への装着時に、前記係合突起43を乗り越えるようにして弾力的に外側にいったん撓んだ後に、前記取付凹部42にはまり込み、この際、この取付片83の係合凹部84に前記係合突起43がはまり込んで係合する。したがって、弦振動制御部材80を逆に前記開口部41から引き抜いて取り外す際には、基板部81の両端の取付片83の少なくとも一方を外側にいったん撓ませて、前記係合突起43からこの取付片83の係合凹部84を外す必要がある。そこで、このような操作(基板部81の取付片83を外側に撓ませつつ、基板部81を引き抜く操作)を容易に行えるようにするための例えば指引っ掛け用の凹部などを、基板部81の外側面等に形成してもよい。
【0043】
また振動吸収部82は、シリコンゴムなどのミュート材(弦に接触して弦の振動を吸収できる材料)よりなるものであり、例えば接着によって基板部81(取付片83及びその近傍を除く部分)の内面に固定されている。この振動吸収部82は、弦振動制御部材80が楽器ケース2の前記開口部41に取り付けられた装着時に、ベース部材10の裏側(図7では下側)の各弦Sに図7(a)に示す如くその表面が十分に接触し、各弦Sの共振を十分に阻止できる寸法とされている。なお、振動吸収部82は、ゴムに限らず、例えば柔軟性のあるスポンジ状の合成樹脂(ウレタンスポンジなど)でもよい。
【0044】
次に、本ギターを組み立てる場合について説明する。
弦モジュール1は、ベース部材10に各弦引張調整装置11を組み付けた後、各弦引張調整装置11を利用して前述したように各弦Sを張り渡すことによって組み立てられる。そして、弦モジュール1の上下面いずれかを上側に向けて露出させた状態で弦モジュール1を楽器ケース2内にはめ込み、その後、楽器ケース2の下面側から取付ネジ30をボス29内に挿入し、ボス29上端部の前記貫通孔に挿通させて、ベース部材10の前記ネジ孔25にねじ込むことによって、ベース部材10を楽器ケース2に固定して、弦モジュール1を楽器ケース2に固定して取り付けることができる。そして、電磁ピックアップ3と弦振動制御部材80を楽器ケース2に取り付ければ、本ギターの組立が終了する。なお、電磁ピックアップ3は、各弦Sの下側における、ベース部材10や楽器ケース2の上面所定位置に配置し、前述した取付ネジ4によって楽器ケース2に固定すればよい。また、弦振動制御部材80は、前述したように楽器ケース2の前記開口部41に押し込むことにより容易に取り付けることができる。
【0045】
なお、以上の組立手順、或いはその逆の手順を行えば、本ギターは一般ユーザでも容易に組立又は分解することができ、弦モジュール1の上下面(表裏)を反転させることも容易であるし、弦振動制御部材80の着脱も容易である。すなわち、電磁ピックアップ3を一時取り外し、弦モジュール1を取り外して上下面を反転させた後に再度楽器ケース2に取り付け、その後電磁ピックアップ3を取り付けるという、容易な作業で弦モジュール1の上下面を反転させることができる。また弦振動制御部材80は、前述したように開口部41から引き抜くことで容易に取り外せる。またなお、本ギターでは、弦モジュール1の着脱と、弦振動制御部材80の着脱とは、互いに独立して行える構成である。このため、本ギターの組立の際、弦振動制御部材80を楽器ケース2に予め取り付けておくことも可能であり、弦振動制御部材80を楽器ケース2に取り付けたままで、弦モジュール1の着脱を行うことも当然可能である。
【0046】
以上説明した第1実施形態の弦楽器(本ギター)によれば、弦振動制御部材80が楽器ケース2に取り付けられて弦の振動を変化させる。本例では、図7(a)に示す如く、弦振動制御部材80の振動吸収部82が各弦Sに接触して裏側の各弦Sの振動を吸収する(各弦Sをいわゆるミュートする)。このため、この弦振動制御部材80を楽器ケースに取り付けることによって、演奏上不必要な裏側の各弦Sの振動(裏側の開放弦の振動)による音を無くすことができる。また弦振動制御部材80は、楽器ケース2に着脱可能であるため、演奏上の必要性に応じてこの弦振動制御部材80を取り外して、裏側の各弦Sの振動を積極的に利用して、演奏上有用な音を付加して演奏品質を向上させることもできる。例えば、各弦Sの開放弦の音が調性とあっている調の曲を演奏する場合に、弦振動制御部材80を取り外して、裏側の各弦Sの振動を積極的に利用すると、良い結果が得られることが多い。なお、ギターには、指で弾いたりして演奏するための弦(基本弦)の他に、基本弦の振動によって共振させるための弦(共鳴弦)を有するギター(シタール、或いはシタールギターといわれるもの)がある。本例のギターにおいて弦振動制御部材80を取り外して裏側の各弦を開放してやれば、裏側の各弦Sがシタールギターの共鳴弦として機能することになる効果がある。すなわち、本ギターは、弦振動制御部材80を取り外すことによって、シタールギターに似たサウンドを出すこともできる。
【0047】
なお、弦振動制御部材80を取り外すと、楽器ケース2の前記開口部41が開放されて裏側の各弦Sが露出した状態になってしまうが、前記開口部41の蓋部材(例えば弦振動制御部材80から振動吸収部82を取り除いた基板部81だけからなるもの)を別途ギターに付属させておいて、弦振動制御部材80を取り外した場合には、この蓋部材を代わりに前記開口部41に取り付けて前記開口部41を塞いでおくようにすることができる。
【0048】
また本ギターは、仮に弦の張力が過大に調整されたとしても、弦の張力による曲げモーメントが発生せず、弦が張られるベース部材10には、弦の張力によって圧縮力のみが加わるようになる。このため、弦の張力による曲げ変形(そり)がベース部材10の高剛性化を伴わずに防止できる。これにより、いわゆるネックのそりがまったく無くなる。また、ベース部材10としては、例えば本例のように薄く軽量な金属製の部材を使用して、軽量化、小型化、低コスト化を図ることができる。また、経年劣化や調弦の不具合によるベース部材10の曲げ変形も防止でき、このような曲げ変形によって弦高やフレット高さが変動して不安定になり演奏性が低下する不具合も防止できる。
【0049】
特に、本例の弦モジュール1は、弦Sを張るベース部材10が金属製でありフレット21,22がこのベース部材10に一体に形成されている。このため、これらフレットの高さは、ベース部材10の製造工程における仕上げ加工などにおいて一度調整すれば、経年変化や調弦の不具合によっても変化することがない。ちなみに、ギターなどのフレット楽器では、フレットの高さの精度が求められるが、従来は木材のネックに金属のフレットを打ち付けていたのでフレット高さが定まらず、必ず後加工によるフレット高さの調整を必要としていた。これはネックが木材なので、ネックの曲がりにも影響され、不安定な要素が多かったことが原因である。本例の弦モジュール1によれば、このような不安定な要素がなく、弦とフレットの精度が安定し、演奏性の高い弦楽器が実現できる。
【0050】
また、前記曲げモーメントがゼロになるため、ベース部材10を構成する材料としては、金属に限られず、樹脂やガラス、陶器、曲げ剛性の低い安価な木材などを使用することができ、材料選択の自由度が向上し、軽量化、小型化、低コスト化のみならず、デザイン性の向上も可能となる。
【0051】
また弦モジュール1は、弦Sの両端部が固定された弦引張調整部材33を備え、この弦引張調整部材33は、ベース部材10の前記中心線Mの延長上におけるベース部材10の他端部側に配置され、前記中心線Mに沿ってベース部材10の他端部に対して接離する方向に移動可能とされている。このため、この弦引張調整部材33を前記方向に移動させることによって(本例では具体的には、前述したように、調整ナット35等の操作によって移動させる)、前述した曲げモーメントがゼロになっている状態を維持しつつ弦の張力を容易に調整できて、調弦が容易に可能となる。
【0052】
また弦モジュール1は、弦Sがベース部材10の上側から下側に亘って連続して張り渡されているため、上側と下側に別個の弦をそれぞれ張る場合に比べて、弦の本数が半分ですみ、また弦引張調整装置11のような調弦装置の数も半分ですみ、また調弦の作業も上下面についてそれぞれ行わなくてもよいという利点がある。また、弦が上下で連続していることによって、特に調整しなくても上下の弦の張力が等しくなり、前述したように弦の張力による曲げモーメントを正確にゼロにする上で有利である。
【0053】
また、弦Sに汚れや錆びが生じて弦Sを交換したくなったときには、弦モジュール1の上下面を反転させて付け替えれば、新品同様の弦Sが表面側となるため、実際には弦を交換しなくても弦を交換したのと同様の結果が容易に得られる効果がある。また、場合によっては、交換用の弦モジュール1を別個に準備しておき、弦モジュール1全体を新品に交換して弦交換を実現することもできる。しかもこの際、交換用の弦モジュール1の各弦Sのチューニングを予めやっておけば、弦交換後のチューニングも必須ではなくなる。
【0054】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、図9に示す弦振動制御部材90を備え、弦振動制御部材を除く他の構成は第1実施形態と同じでよい。
弦振動制御部材90は、図9(a)〜(b)に示すように、基板部91と、この基板部91の内側に設けられた振動吸収部92及び節形成部95とよりなる。ここで、基板部91は、第1実施形態の弦振動制御部材80と同様に、例えば楽器ケース2と同じ合成樹脂製のものであり、前述した開口部41を塞ぐように取り付けられて楽器ケース2と段差無く一体化する形状寸法とされている。この基板部91の両端には、前記弦振動制御部材80と同様に、弦振動制御部材90の装着時に弾力的に撓んで前記取付凹部42にはまり込む取付片93がそれぞれ形成されている。そして、これら取付片93には、弦振動制御部材90の装着時に、前述した係合突起43がはまり込む係合凹部94がそれぞれ形成されている。このような構成によって、弦振動制御部材90は、前記弦振動制御部材80と同様に、楽器ケース2の前記開口部41に対して押し込むことにより、ユーザがワンタッチで容易に装着でき、逆に前記開口部41から引き抜くことにより、ユーザが容易に取り外すことができる。
【0055】
ここで、振動吸収部92は、第1実施形態の振動吸収部82と同様に、シリコンゴムなどのミュート材(弦に接触して弦の振動を吸収できる材料)よりなるものであり、例えば接着によって基板部91の内面に固定されている。但し、この振動吸収部92は、6本の弦S1〜S6のうち、高音側の3本の弦S1〜S3に対応する箇所にのみ設けられている。そして、弦振動制御部材90が楽器ケース2の前記開口部41に取り付けられた装着時に、振動吸収部92は、ベース部材10の裏側(図9では下側)の弦S1〜S3にのみ図9(a)に示す如くその表面が十分に接触し、弦S1〜S3の共振を十分に阻止できる寸法とされている。いいかえると、振動吸収部92は、弦振動制御部材90の装着状態において、特定の弦S1〜S3にのみ作用し、他の弦S4〜S6には接触しない構成とされている。
【0056】
次に節形成部95は、弦に接触して当該弦に振動の節を形成する部分であり、本例では図9(c)に示すように、基板部91の底面から上方に突出するように設けられたリブ(基板部91と一体のリブ)によって構成されている。この節形成部95は、振動吸収部92とは違って硬質であり、弦振動制御部材90を装着した状態において弦に対して相当の押圧力をもって接触するように構成され、その接触位置に弦の振動の節(上下に変位しない部分)を形成する。すなわち、この節形成部95が接触した弦は、この節形成部95が接触した位置を境に分割されて開放状態よりも短い弦長さで振動することになる。この節形成部95の作用により、この節形成部95が接触している弦の振動による音高は、開放弦の音高とは異なるものになる。なお、本例の節形成部95は、図9(a)に示すように、6本の弦Sのうち、低音側の2本の弦S5,S6に対応する箇所にのみ設けられ、これら弦S5,S6に接触してこれら弦S5,S6に振動の節を形成する構成となっている。なお、この第2実施形態の場合、楽器ケース2や各弦Sの長手方向(図2における左右方向)における前記開口部41の位置は、前述したように、節形成部95が作用する弦S5,S6の長手方向における節を形成すべき位置(以下、節形成位置という)に対応した位置とされている。すなわち、弦振動制御部材90を取り付けたときに、弦S5,S6における所定の節形成位置に精度良く節が形成されるように、前記開口部41の前記長手方向における位置が設定されている。
【0057】
この第2実施形態によれば、弦振動制御部材90が楽器ケース2に取り付けられて弦の振動を変化させる。但し本例では、1つの弦振動制御部材90に振動吸収部92と節形成部95の両方が設けられ、これら振動吸収部92と節形成部95とがそれぞれ特定の弦に作用する。すなわち本例では、図9(a)に示す如く、弦振動制御部材90の振動吸収部92が弦S1〜S3に接触して裏側の弦S1〜S3の振動を吸収する。また、弦振動制御部材90の節形成部95が弦S5,S6に接触して、裏側の弦S5,S6の所定の節形成位置に振動の節を形成する。このため、この弦振動制御部材90を楽器ケース2に取り付けることによって、演奏上不必要な裏側の弦S1〜S3の振動(裏側の開放弦S1〜S3の振動)を無くすことができるとともに、裏側の弦S4の振動(開放弦S4の振動)と裏側の弦S5,S6の振動(弦S5,S6の所定の節形成位置に節がある振動)を積極的に利用して、演奏上有用な音を付加して演奏品質を向上させることができる。いいかえると、本例の弦振動制御部材90の装着時には、裏側の弦S4(開放弦)及び弦S5,S6(非開放弦)がシタールギターの共鳴弦として機能することになる。ここで、節形成部95は、裏側の弦S5,S6の所定の節形成位置に接触して、これら弦S5,S6の振動による音高を、開放弦の音高とは異なる所定の音高に変化させる。これにより、開放弦のままでは不協音であった裏側の弦S5,S6の振動を、演奏上有用な音に変化させることができる。このように、本発明の節形成部は、演奏上不必要な開放弦の音を無くすとともに、演奏上有用な音を付加することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態では、弦が6本の場合を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限られず、例えば弦が12本ある12弦ギターでもよいし、極端な例としては一弦琴のように弦が1本でもよい。また、アコースティックギターでもよいし、ギター以外の弦楽器でもよい。また、ベース部材の他端部側の弦支持部が無い態様もあり得る。
【0059】
また、上述した実施形態では、全ての弦Sに作用する振動吸収部82のみを有する弦振動制御部材80と、弦S1〜S3にのみ作用する振動吸収部92と弦S5,S6にのみ作用する節形成部95とを有する弦振動制御部材90と、を例示した。しかし、本発明の弦振動制御部材の仕様(振動吸収部及び節形成部の有無、振動吸収部が作用する弦の種類や数、節形成部が作用する弦の種類や数など)は、多種多様の仕様があり得る。例えば、節形成部のみを有する弦振動制御部材であってもよいし、弦S5,S6以外の特定の弦に作用する節形成部と残りの弦のうちの何れかに作用する振動吸収部とを有する弦振動制御部材など、多様な形態があり得る。
【0060】
また、上述した第2実施形態の節形成部95は、弦S5,S6に対する長手方向の接触位置(節形成位置)が同じであるが、これに限られない。例えば、1つの弦振動制御部材において、弦によって接触位置(節形成位置)が異なる複数種の節形成部が設けられていてもよい。
また、上述した実施形態では、弦振動制御部材の取付箇所が1箇所だけの場合を例示したが、これに限られない。例えば、前述の開口部41を楽器ケース2の長手方向の複数箇所に形成し、ユーザが複数の取付箇所から1つ又は複数の箇所を選択して弦振動制御部材を取り付ける構成としてもよい。また、弦振動制御部材は、仕様の異なるものを複数用意しておき、ユーザが複数の弦振動制御部材から1つ又は複数を選択して楽器ケース2に取り付けて使用する態様でもよい。
【0061】
また本発明は、楽器ケースにボディの部分が形成されたボディ付きの弦楽器であってもよい。なお、例えばギターのボディとは、ギターの演奏部の周囲に形成される部分で、一般的には、演奏者がギターを持つ際に体にかかえられる部分であり、演奏者の膝(ひざ)が当る膝凹部と胸が当る胸凹部とが両側に形成された瓢箪(ひょうたん)状箱型の部分である。このようなボディがあれば、ギター全体の慣性モーメントが大きくなって持つ際(特にギターを座って弾く場合)の安定感が増し、また体とのフィット感も増し、ギターを持っている実感が増すため、よい表現が可能になる。
【0062】
また前記実施形態では、弦モジュールや電磁ピックアップの楽器ケースへの取り付けを、ねじで行っているが、公知の機械的な取付方法は多数ある。例えば、これら弦モジュールや電磁ピックアップの取り付けに、公知のスナップ機構やロック機構などを用いて簡単に着脱する方式(例えば、レバーを倒すと外れ、レバーをもとに戻すと固定されるといったような方式)を採用すれば、弦モジュール等の着脱をもっと迅速に行うこともできる。そして、弦モジュールの着脱をねじ以外の機構で行い、第1実施形態におけるボス29(図2)のような部分が無い構成であると、弦振動制御部材の取付位置の自由度が高まる利点がある。というのは、第1実施形態では、ボス29のある位置には弦振動制御部材を取り付けるための開口部41を形成することは不可能であるため、弦振動制御部材の取付位置(開口部41を設ける位置)は、ボス29のある位置以外に限定されてしまう。ところが、弦モジュール1の着脱をねじ以外の機構で行い、第1実施形態におけるボス29のような部分が無い構成であると、このような限定が無くなる利点がある。
【0063】
また、前述した実施形態では、弦の両端を移動可能な弦引張調整部材33に固定して共に引っ張ることにより弦に張力を発生させている。これに対して、弦を張る際に、弦の一端を前記中心線Mの延長上に固定しておいて、他端のみをこの延長上において移動させて引っ張った後に固定するという手法で、最終的には弦の両端が引っ張られた状態で固定された構成としてもよい。例えば、図10に示すように、弦引張調整部材33には弦Sの他端のみを固定する構成とし、弦Sの一端(この場合、ポールエンドSE)はベース部材10の例えば中心線M上に設けた弦係止部61に取り付け、弦引張調整部材33を移動させることによって弦Sの他端のみを引っ張って弦Sに必要な張力を発生させる態様もあり得る。この場合、弦Sの張力が同じであれば、弦引張調整部材33を引っ張る力が、両端部を引っ張る場合に比べて半分ですむ。また、弦引張調整部材33の構造が簡素化される。
【0064】
また、本発明のベース部材は、必ずしも上下対称である必要はない。例えば弦支持部は、必ずしも、上下面(一面側と他面側)に同じ高さで突出している必要はなく、上下で弦支持部の突出高さ(弦高)が異なる態様もあり得る。この場合、張力が同じならば、上面側の弦の張力による力のモーメントと、下面側の弦の張力による力のモーメントとが、打ち消しあってゼロにはならない。しかし、従来の片面側にのみ弦が張られた構成から比べれば、張力によりベース部材に加わる力のモーメントの相当量が上下で打ち消しあうことによって、弦の張力によりベース部材10に生じる曲げモーメントは従来よりも格段に低減される。
【0065】
また、本発明のベース部材は、必ずしも上下に連続して弦を張る構成である必要はない。本発明は、ベース部材の一面側と他面側とにそれぞれ別個に(不連続に)弦を張る態様もあり得る。図11は、その一具体例を示したものである。
【0066】
図11の実施形態では、第1実施形態のナット部固定ネジ27とナット部固定ワッシャ26は削除され、ベース部材10の一端(図11におけるナット12,13よりも左側)には、弦係止部71,72が上下にそれぞれ形成されている。そして、これら弦係止部71,72を利用して、ベース部材10の上面側と下面側とには異なる弦SAと弦SBとがそれぞれ張り渡されている。各弦係止部71,72には、各弦SA,SBをそれぞれ通すための貫通孔(符号省略)が形成されている。各弦SA,SBのポールエンドSEは、この貫通孔よりも外形が大きい。このため、この貫通孔に各弦SA,SBの他端部を挿入してベース部材10の他端側(図11では右端側)に引っ張れば、各弦SA,SBの一端部に形成された各ポールエンドSEは、図11に示すように弦係止部71,72に当接して保持される。
【0067】
一方、弦引張調整部材33の上面と下面とには、各弦SA,SBの他端部を弦固定ネジ39で固定するための弦固定凹部40がそれぞれ形成されている。各弦固定凹部40の底面には、弦固定ネジ39の軸をねじ込むためのネジ孔(符号省略)がそれぞれ形成されている。そして、各弦SA,SBの他端側は、各弦固定凹部40の底面と上記ネジ孔にねじ込まれた各弦固定ネジ39の頭部との間に挟み付けられることによって、弦引張調整部材33の上面側と下面側とにそれぞれ固定される。
【0068】
本発明は、この図11のような実施形態でもよく、この場合でも、例えば前述の弦振動制御部材80,90と同様の部材を楽器ケースに対して着脱可能な構成とし、第1実施形態や第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、この図11のような実施形態でも、各弦SA,SBが、ベース部材10の前記中心線Mの上下両側に同じ高さで対称に張られ、しかも各弦SA,SBの各他端部が前記中心線Mの延長上において、ベース部材10の他端部から離れる方向に向けて引っ張られている。このため、各弦SA,SBの張力によってベース部材10に発生する曲げモーメントが、上下で打ち消し合ってほぼゼロになる。またこの場合、弦が上下で別個に張られているため、上下で弦の種類や配列を異ならせることができるのに加えて、各弦の長さが通常サイズ(第1実施形態に比べて半分の長さ)ですむという効果が得られる。
【0069】
なお、図11に示すように上下に弦を別個に(不連続に)張り渡した場合、弦引張調整装置11も上下に別個に設けて、上側の弦と下側の弦をそれぞれ別個に引っ張る構成としてもよい。このようにすると、弦の張力を上面側と下面側とでそれぞれ所定の張力に設定することが可能である。ここで「所定の張力に設定する」とは、例えば、弦の種類や演奏上の必要性等によって、上面側と下面側とで異なる張力又は同じ張力に設定すること、或いは、前述の曲げモーメントをゼロにするために、上面側と下面側とで同じ張力又は異なる張力に設定することを意味する。この場合、上面側と下面側とで弦支持部の突出高さが異なる態様であっても、上下の張力をそれに応じて異ならせることによって、前述の曲げモーメントをゼロにすることが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 弦モジュール
2 楽器ケース
10 ベース部材
11 弦引張調整装置
12,13 ナット(弦支持部材)
14,15 ブリッジ(弦支持部材)
33 弦引張調整部材
41 開口部
80,90 弦振動制御部材
82,92 振動吸収部
95 節形成部
S,S1〜S6 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下にそれぞれ弦が張られたベース部材と、
このベース部材が取り付けられる楽器ケースと、
この楽器ケースに着脱可能に取り付けられて、前記弦の振動を変化させる弦振動制御部材と、を備えたことを特徴とする弦楽器。
【請求項2】
前記弦は、前記ベース部材の一端部で折り返されることにより、前記ベース部材の上側から下側に亘って連続して張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器。
【請求項3】
前記楽器ケースは、前記ベース部材の上側に位置する前記弦を露出させた状態で前記ベース部材が取り付けられ、
前記弦振動制御部材は、前記ベース部材の下側に位置する前記弦に作用することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の弦楽器。
【請求項4】
前記弦振動制御部材は、前記弦に接触して当該弦の振動を吸収する振動吸収部を有していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の弦楽器。
【請求項5】
前記弦振動制御部材は、前記弦に接触して当該弦に振動の節を形成する節形成部を有していることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の弦楽器。
【請求項6】
前記弦は、並列に複数本張られており、
前記弦振動制御部材は、前記複数の弦のうちの特定の弦に作用することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の弦楽器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−42505(P2012−42505A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180958(P2010−180958)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】