説明

弾性ローラ、画像形成装置用定着装置及び画像形成装置

【課題】発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することのできる弾性ローラを提供すること、並びに、高品質の画像を長期間にわたって形成することに貢献する画像形成装置用定着装置、及び、高品質の画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供すること。
【解決手段】軸体2と、ゴム、酸化鉄及び発泡剤を含有する発泡ゴム組成物を前記軸体2の外周面で硬化してなる発泡弾性層3とを備えて成る弾性ローラ1であって、前記酸化鉄は、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有していることを特徴とする弾性ローラ1、並びに、この弾性ローラ1を備えた画像形成装置用定着装置及び画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、弾性ローラ、画像形成装置用定着装置及び画像形成装置に関し、さらに詳しくは、発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することのできる弾性ローラ、高品質の画像を長期間にわたって形成することに貢献する画像形成装置用定着装置、及び、高品質の画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等には、電子写真方式を利用した各種の画像形成装置が採用されている。各種の画像形成装置は、軸体とその外周面に形成された弾性層とを有する、例えば、クリーニングローラ、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラ、加圧ローラ、紙送り搬送ローラ、定着ローラ等の各種ローラを備えている。これらのローラは、通常、軸体と、軸体の外周面に形成された弾性層と、所望により、この弾性層の外周面に形成されたコート層とを備えている。
【0003】
これらの各種ローラの中でも、定着ローラ及び加圧ローラは、画像形成装置用定着装置に装着され、長期間にわたって繰り返し圧縮されるので、これらのローラがその機能を十分に発揮するためには、耐摩耗性、圧縮永久歪等の特性が特に重要である。ローラの圧縮永久歪を向上させる技術の1つとして、弾性層の内部に気泡等を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、気泡を有する弾性層に無機充填材を含有させ、補強性、増粘性、加工性、増量等の特性を向上させる技術として、例えば、特許文献2が挙げられる。この特許文献2には、(ロ)微粉状シリカ充填材として、例えば、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、石英粉末、けいそう土等が記載されている。
【0005】
一方、ローラの耐摩耗性(耐久性とも称する。)を向上させる技術の1つとして、コート層に補強性充填材等を含有させる技術が知られている。例えば、「定着回転体と、この定着回転体とニップを形成する加圧回転体と、を有し、前記ニップで記録材第1面に担持された未定着画像を定着し、その後記録材の第2面に担持された未定着画像を定着する定着装置において、前記定着回転体及び前記加圧回転体はそれぞれ外層に耐熱性無機充填剤を有し、前記加圧回転体の耐熱性無機充填剤の量は前記定着回転体の耐熱性無機充填剤の量より多いことを特徴とする定着装置」が挙げられる(特許文献3)。特許文献3には、耐熱性付与剤としての無機微粉体として、「シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化チタン、炭酸カルシウム等」が記載されている(特許文献3の0081欄参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−024472号公報
【特許文献2】特公平06−004716号公報
【特許文献3】特開平07−311509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することのできる弾性ローラを提供することを、目的とする。
【0008】
また、この発明は、高品質の画像を長期間にわたって形成することに貢献する画像形成装置用定着装置、及び、高品質の画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、弾性ローラの発泡弾性層を形成する発泡ゴム組成物について鋭意検討したところ、これまでまったく検討されていなかった酸化鉄に含まれる硫黄化合物の含有量が、発泡弾性層に形成されるセルの破壊に大きく影響していること、そして、酸化鉄に含まれる硫黄化合物の含有量を特定の範囲にするとセルの破壊を長期間にわたって防止することができることを、新たに見出して、前記課題を解決することができることを可能にした。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、軸体と、ゴム、酸化鉄及び発泡剤を含有する発泡ゴム組成物を前記軸体の外周面で硬化してなる発泡弾性層とを備えてなる弾性ローラであって、前記酸化鉄は、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有していることを特徴とする弾性ローラであり、
請求項2は、前記発泡ゴム組成物は、その硬化体における動的貯蔵弾性率E1’が0.5〜3.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載の弾性ローラであり、
請求項3は、請求項1又は2に記載の弾性ローラを備えた画像形成装置用定着装置であり、
請求項4は、請求項1又は2に記載の弾性ローラを備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る弾性ローラは、特定量の硫黄化合物が含まれる酸化鉄を含有する発泡ゴム組成物を硬化してなる発泡弾性層を備えているから、画像形成装置用定着装置に装着されて長期間にわたって繰り返し圧縮されても、弾性層に形成されたセルの変形又は破壊等が防止され、発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することができる。したがって、この発明によれば、発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することのできる弾性ローラを提供することができる。
【0012】
また、この発明に係る画像形成装置用定着装置及び画像形成装置は、この発明に係る弾性ローラを備えているから、この発明によれば、高品質の画像を長期間にわたって形成することに貢献する画像形成装置用定着装置、及び、高品質の画像を長期間にわたって形成することのできる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係る弾性ローラの一実施例としての弾性ローラ1Aは、図1に示されるように、軸体2と、その外周面に形成された発泡弾性層3とを備えてなる。
【0014】
軸体2は、良好な導電特性を有していればよく、通常、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮等で構成された所謂「芯金」と称される軸体とされる。また、軸体2は、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂等の絶縁性芯体にメッキを施して導電化した軸体であってもよく、さらには、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂等に導電性付与剤としてカーボンブラック又は金属粉体等を配合した導電性樹脂で形成された軸体であってもよい。
【0015】
発泡弾性層3は、後述する発泡ゴム組成物によって、軸体2の外周面に形成されている。この発泡弾性層3は、その内部及び/又は外表面にセルを有する発泡弾性層とされる(図1において発泡弾性層3の外周面及び端面に開口したセルは図示しない。)。発泡弾性層3がセルを有すると、発泡弾性層3の硬度が低下して、弾性ローラ1Aの機能が向上するから、高品質の画像を形成することに貢献することができる。ここで、発泡弾性層3に有するセルは、発泡ゴム組成物に含有される発泡剤の発泡又は分解等によって生じる中空領域をいう。発泡弾性層3に有する複数のセルは、他のセルに接することのない若しくは連通することのない状態(独立セル状態と称する。)、他のセルに接し若しくは連通している状態(連通セル状態と称する。)、又は、前記独立セル状態と前記連通セル状態とが共存する状態の何れの状態にあってもよい。発泡弾性層3は、画像形成装置又は画像形成装置用定着装置等に用いられる各種ローラに応じて、セルの大きさ、存在率等が決定される。
【0016】
発泡弾性層3におけるセルの平均セル径は、例えば、60〜800μmであるのが好ましく、100〜400μmであるのが特に好ましい。発泡弾性層3におけるセルは、そのセル壁の平均幅が0.01〜0.5mmであるのが好ましく、0.05〜0.4mmであるのが特に好ましい。発泡弾性層3における発泡率は150〜480%であるのが好ましく200〜450%であるのが特に好ましい。セルの平均セル径、セル壁の平均幅及び発泡率のいずれか1つが前記範囲内にあれば、発泡弾性層3の硬度を適度に低下させてより一層高品質の画像を形成することに貢献することができる。セルにおける、平均セル径、セル壁の平均幅及び発泡率は、発泡弾性層3を形成する後述するゴム組成物に含有される発泡剤又は中空充填剤の配合量、中空充填剤の大きさ、ゴム組成物の硬化条件等により、調整することができる。
【0017】
セルの平均セル径は、発泡弾性層3の表面又は任意の面で切断したときの切断面において、約20mmの領域を電子顕微鏡等で観察し、観察視野内に存在する各セルにおける開口部の最大長さを測定して、測定された最大長さを算術平均して得られた平均長さとして、求めることができる。セルにおけるセル壁の平均幅は、前記平均セル径と同様に、発泡弾性層3の表面又は発泡弾性層3を任意の面で切断したときの切断面において、約20mmの領域を電子顕微鏡等で観察し、観察視野内に存在するセルとセルとの間隔、すなわち、セルとセルとの間にある壁の幅を測定し、測定された値を算術平均することによって、求めることができる。発泡弾性層3の発泡率は、発泡弾性層3の体積及び質量を常法によって測定し、これらから算出することができる。
【0018】
発泡弾性層3は、20〜60のアスカーC硬度を有するのが好ましい。アスカーC硬度が前記範囲であると、被当接体に対する所望の当接状態又は圧接状態を保持することができるから、高品質の画像を形成することに貢献することができる。例えば、弾性ローラ1Aを定着ローラとして画像形成装置に装着する場合には、加圧ローラに対して所望の圧接状態を保持して、加圧ローラと定着ローラとで形成されるニップ幅を大きくすることができるから、記録体に転写された現像剤像を所望のように定着させることができ、その結果、高品質の画像を形成することに貢献することができる。アスカーC硬度は、JIS K6253に準拠して、発泡弾性層3の複数箇所を測定し、測定値を算術平均した値とすることができる。発泡弾性層3のアスカーC硬度は、例えば、発泡弾性層3を形成するゴム組成物に含有されるゴム及び/若しくは添加剤の種類を選択し、並びに/又は、それらの配合量等を変更することにより、また、発泡弾性層3の成形条件等により、調整することができる。
【0019】
発泡弾性層3の厚さは特に限定されないが、通常、2〜20mmに調整されるのが好ましく、3〜12mmに調整されるのが特に好ましい。
【0020】
発泡弾性層3は、後述する発泡ゴム組成物に由来する酸化鉄を含有している。発泡弾性層3に含有される酸化鉄は、後述する発泡ゴム組成物に含有される酸化鉄と基本的に同様である。したがって、発泡弾性層3に含有される酸化鉄は、三酸化二鉄であるのが特に好ましい。そして、発泡弾性層3に含有される酸化鉄は、後述するように、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有している。この酸化鉄は、発泡弾性層3中に、ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部の割合で含有されているのが好ましく、0.3〜7.0質量部の割合で含有されているのがより好ましく、0.5〜5.0質量部の割合で含有されているのが特に好ましい。酸化鉄の含有量が前記範囲内にあると、後述する硫黄化合物を含有することによる効果を奏すると共に、弾性ローラ1が画像形成装置用定着装置に装着されて長期間にわたって繰り返し圧縮されても、発泡弾性層3における初期の耐熱性及び耐久性を維持することができる。酸化鉄は、1種又は2種以上が含有されていてもよく、また、ゴム等との複合体として発泡弾性層3に含有されていてもよい。
【0021】
発泡弾性層3は、前記酸化鉄に由来する硫黄化合物を含有している。したがって、硫黄化合物は、酸化鉄における硫黄化合物の前記含有量及び発泡弾性層3における酸化鉄の前記含有量に応じた含有量で発泡弾性層3に含有されている。すなわち、発泡弾性層3に含有される硫黄化合物の含有量は、酸化鉄における硫黄化合物の前記含有量及び発泡弾性層3における酸化鉄の前記含有量から決定される。この発明において、酸化鉄に含有される硫黄化合物は、硫黄原子を含有する化合物であればよく、具体的には、三酸化硫黄、硫酸塩及びこれらの誘導体等の硫黄(VI)化合物が挙げられる。なお、この発明において、硫黄化合物には、前記硫酸塩から生じる硫酸イオン及び硫酸水素イオンも含まれる。
【0022】
この発明に係る弾性ローラの別の一実施例としての弾性ローラ1Bは、図2に示されるように、軸体2と、その外周面に形成された発泡弾性層3と、発泡弾性層3の外周面上に形成されたチューブ層4とを備えてなる。弾性ローラ1Bの軸体2及び発泡弾性層3は、弾性ローラ1Aの軸体2及び発泡弾性層3と基本的に同様である。
【0023】
チューブ層4は、発泡弾性層3の外周面に形成されている。発泡弾性層3の外表面にチューブ層4が形成されていると、現像剤の離型性を向上させることができる。チューブ層4は、樹脂材料で形成されても金属材料で形成されてもよい。チューブ層4は、一層構造とされても、二層以上が積層された積層構造とされてもよい。
【0024】
チューブ層4が樹脂材料によって形成される場合には、チューブ層4は、例えば、1〜100μmの厚さに形成されるのが好ましい。チューブ層4を形成する樹脂材料は、特に制限されるものではないが、弾性ローラ1Bは被当接体に当接又は圧接されるから、永久変形しにくい材料であるのが好ましく、例えば、アルキッド樹脂、フェノール変性・シリコーン変性等のアルキッド樹脂変性物、オイルフリーアルキッド樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミドイミド系樹脂及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0025】
チューブ層4が金属材料によって形成される場合には、チューブ層4は、例えば、20〜150μmの厚さに形成されるのが好ましく、30〜100μmの厚さに形成されるのが特に好ましい。チューブ層4を形成する金属材料は、特に制限されるものではないが、例えば、鉄、ステンレス鋼、ニッケル等の高い熱伝導を有する金属材料が挙げられる。金属材料によって形成されたチューブ層4は、800〜1300MPa程度の引張強度を有しているのが、発泡弾性層3の内周面からの圧接により変形しにくくなる点で、好ましい。前記引張強度の測定方法は、JIS Z 2241に準拠する。
【0026】
発泡弾性層3を形成する材料は、ゴムと、発泡剤と、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有している酸化鉄と、所望により各種添加剤等とを含有する発泡ゴム組成物であればよい。
【0027】
前記発泡剤としては、従来、発泡ゴムに用いられる発泡剤であればよく、例えば、無機系発泡剤として、重炭酸ソーダ、炭酸アンモニウム等が挙げられ、有機系発泡剤として、ジアゾアミノ誘導体、アゾニトリル誘導体、アゾジカルボン酸誘導体等の有機アゾ化合物等が挙げられる。通常、ゴムに連続気泡を形成する場合には無機系発泡剤が用いられ、独立気泡を形成する場合には有機系発泡剤が用いられる。この発明においては、前記発泡弾性層3を容易に形成することができる点で、発泡剤は、有機系発泡剤であるのがよく、具体的には、例えば、アゾジカルボン酸アミド、アゾビス−イソブチロニトリル等のアゾ化合物が好適に使用される。特に、ジメチル−1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)が好適に使用できる。発泡剤の配合量は、発泡剤の種類によって相違するが、発泡弾性層3のアスカーC硬度が20〜60となるように調整するのがよい。具体的には、例えば、後述する付加反応型発泡シリコーンゴム組成物においては、ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部、特に0.5〜10質量部であるのがよい。発泡剤の配合量が、0.1質量部未満であると、形成される発泡弾性層3に十分な気泡を形成することができないことがあり、一方、10質量部を超えると、発泡シリコーンゴムとしての形態を維持することができなくなり、発泡弾性層3の機械的強度が低下することがある。発泡剤は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0028】
前記酸化鉄は、酸化鉄(II)、三酸化二鉄、四酸化三鉄であればよいが、発泡弾性層3の熱安定性及び経時的な安定性の面から三酸化二鉄であるのが特によい。発泡ゴム組成物が酸化鉄を含有していると、発泡弾性層3の耐熱性、耐久性及び熱安定性等が向上する。
【0029】
この酸化鉄は、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有している。硫黄化合物は、通常、不純物成分又はその分解物として酸化鉄に含まれる。酸化鉄が0.10質量%未満しか硫黄化合物を含有していないと、酸化鉄とシリコーンゴム組成物の相溶性が低下するため、発泡弾性層3の硬度が低下しすぎることがあり、また、画像形成装置用定着装置に装着して長期間にわたって使用すると、発泡弾性層3の硬度が小さすぎることによって、セルが破壊されることがある。一方、酸化鉄が0.90質量%を超える硫黄化合物を含有していると、発泡弾性層3を形成しているゴム分子が分解され、その結果、セルが破壊されることがある。すなわち、発泡弾性層3に形成されたセルの破壊を防止するには、発泡弾性層3を形成するゴムの種類にかかわらず、酸化鉄に含有される硫黄化合物の含有量を0.10〜0.90質量%の範囲内にすることが非常に有効であることがわかった。このような「硫黄化合物を含有することによる効果」が得られる理由は明確になっていないが、本発明者は、次のように考えている。すなわち、酸化鉄は、カーボンやシリカ等ほど表面活性エネルギーが大きくなく、その形状や凝集体も均一であるため、組成物としたときに、前記ゴム中において局所的な分散不良も起こらず、前記ゴムと均一に混ざり合うことができる。さらに、酸化鉄は、粒子の表面に官能基がないため、発泡ゴム組成物中で粘度が過度に上昇することもなく、水和による物性変化も起こりにくい。また、酸化鉄は、酸化スズや、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナのような他のフィラーに比べ、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐候性等に優れるため長期使用しても、現像剤成分のワックスや樹脂、顔料等による影響を受けにくい等の利点がある。0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有している酸化鉄が前記利点を有することによって前記「硫黄化合物を含有することによる効果」が得られる理由の1つであると考えている。
【0030】
酸化鉄に含まれる硫黄化合物の含有量は蛍光X線分析等によって測定することができる。例えば、4.0gの粉体試料を秤取り、試料成型用ダイス(CAT No.3399/AL リガク)上に薬包紙を敷いてセットされたアルミリング(径40mm、厚さ1.5mm、幅5mm)に詰めた後、アルミリング上にダイスを載せて挟みサンドイッチにしてプレス機(例えば、「T−1」、東邦プレス製作所株式会社製)に載せ、プレス圧1.4tにてプレスして、測定用試料を作製し、この測定用試料を蛍光X線分析装置(例えば、「Simultix3550」、理学電機工業株式会社製)にセットして、定量することによって、硫黄化合物を測定することができる。硫黄化合物の定量には検量線作製分析法として重量法が選択される。
【0031】
0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有する酸化鉄として、例えば、商品名「R−516−L」(三酸化硫黄(SO)の含有量0.78質量%、チタン工業株式会社製)、商品名「R−MR」(三酸化硫黄(SO)の含有量0.14質量%、チタン工業株式会社製)、及び、商品名「R−110−7」(三酸化硫黄(SO)の含有量0.44質量%、チタン工業株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
この発明において、酸化鉄は、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有しているが、硫黄化合物を酸化鉄に混合して、硫黄化合物の含有量を前記範囲内に調整することもできる。すなわち、この発明においては、発泡ゴム組成物を構成する成分として、酸化鉄と硫黄化合物とを別々の成分として用いることができる。
【0033】
発泡ゴム組成物に含有される酸化鉄は、発泡ゴム組成物に含まれるゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.3〜7.0質量部であるのがより好ましく、0.5〜5.0質量部であるのが特に好ましい。発泡ゴム組成物における酸化鉄の含有量が前記範囲内にあると、前記した硫黄化合物を含有することによる効果を奏すると共に、発泡弾性層3の耐熱性、耐久性及び熱安定性等が向上し、さらに、発泡ゴム組成物の硬化体における動的貯蔵弾性率E’を所定の範囲内になるように調整することができる。酸化鉄は、1種又は2種以上が含有されていてもよく、また、ゴム等との複合体として発泡弾性層3に含有されていてもよい。
【0034】
前記ゴムは、特に限定されないが、シリコーンゴムであるのが耐熱性、耐久性及び耐残留歪み特性等に優れる点で、好ましい。前記発泡剤と前記酸化鉄とが混合される、シリコーンゴムを含有する発泡ゴム組成物として、例えば、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物が好ましく挙げられる。
【0035】
付加反応型発泡シリコーンゴム組成物は、ビニル基含有シリコーン生ゴムと、シリカ系充填材と、付加反応架橋剤と、付加反応触媒と、反応制御剤とを含有し、所望により、さらに、有機過酸化物架橋剤と耐熱性向上剤と各種添加剤とを含有してもよい。
【0036】
前記ビニル基含有シリコーン生ゴムは、例えば、ミラブル型シリコーンゴム、熱架橋シリコーンゴム(HTV:High Temperature Vulcanizing)等が挙げられる。これらのビニル基含有シリコーン生ゴムは、後工程で、発泡剤及び付加反応架橋剤等をロールミル等で容易に混練りすることができるという特性を有し、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0037】
前記シリカ系充填材は、補強性を有する煙霧質シリカ又は沈降性シリカ等が挙げられ、一般式がRSi(OR’)で示されるシランカップリング剤で表面処理された、補強効果の高い表面処理シリカ系充填材が好ましい。ここで、前記一般式におけるRは、グリシジル基、ビニル基、アミノプロピル基、メタクリロキシ基、N−フェニルアミノプロピル基又はメルカプト基等であり、前記一般式におけるR’はメチル基又はエチル基である。前記一般式で示されるシランカップリング剤は、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「KBM1003」及び「KBE402」等として、容易に入手することができる。このようなシランカップリング剤で表面処理されたシリカ系充填材は、定法に従って、シリカ系充填材の表面を処理することにより、得られる。シリカ系充填材の配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、5〜100質量部であるのがよい。シリカ系充填材は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0038】
前記付加反応架橋剤は、例えば、一分子中に2個以上のSiH基(SiH結合)を有する付加反応型の架橋剤として公知のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができる。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、直鎖状、環又は分枝状のいずれであってもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0.01〜20質量部であるのがよい。付加反応架橋剤は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0039】
前記付加反応触媒は、例えば、周期律表第9属又は第10属の金属単体及びその化合物が挙げられ、より具体的には、シリカ、アルミナ又はシリカゲル等の担体上に吸着された微粒子状白金金属、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸六水塩とオレフィン又はジビニルジメチルポリシロキサンとの錯体、塩化白金酸六水塩のアルコール溶液等の白金系触媒、パラジウム触媒、ロジウム触媒等が挙げられる。これら付加反応触媒の配合量は、触媒量で十分であり、通常、周期律表第9属又は第10属の金属量に換算して、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物全体に対して、1〜1,000ppmであるのがよく、10〜500ppmであるのが特によい。付加反応触媒の配合量が、周期律表第9属又は第10属の金属量に換算して、1ppmより少ないと、ビニル基含有シリコーン生ゴムの架橋反応が十分に進行せず、ビニル基含有シリコーン生ゴムの硬化が不十分となることがあり、一方、1,000ppmを超えると、ビニル基含有シリコーン生ゴムの架橋反応を促進する能力が向上せず、かえって、経済性が低下することがある。付加反応触媒は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0040】
前記反応制御剤は、公知の反応制御剤を制限されることなく使用することができ、例えば、メチルビニルシクロテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール、ハイドロパーオキサイド等が挙げられる。反応制御剤の配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して0.1〜2質量部であるのがよい。反応制御剤は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0041】
前記有機過酸化物架橋剤は、単独でビニル基含有シリコーン生ゴムを架橋させることも可能であるが、付加反応架橋剤の補助架橋剤として併用すれば、シリコーンゴムの強度、歪み等の物性がより向上する。有機過酸化物架橋剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ビス−2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。有機過酸化物架橋剤の配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して0.3〜10質量部であるのがよい。有機過酸化物架橋剤は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0042】
耐熱性向上剤は、発泡弾性層3の耐熱性を向上させる化合物であればよく、例えば、カーボンブラック、酸化鉄(ベンガラとも称する。)、酸化セリウム及び水酸化セリウム等が挙げられる。これらは一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
前記カーボンブラックは、通常、その製造方法によって、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等に類別され得るが、硫黄、アミン等の含有量が多いと、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物の付加反応を阻害することがあるので、硫黄、アミン等の含有量が少ないカーボンブラック、例えば、アセチレンブラックが好適に使用される。前記酸化鉄は、黒色ベンガラ(Fe)及び赤色ベンガラ(Fe)が好ましく挙げられる。前記酸化セリウム及び前記水酸化セリウムは、単独で使用されてもよいが、前記カーボンブラック及び/又は前記酸化鉄と共に使用されるのが、発泡弾性層3の硬度変化を抑えることができる点で、好ましい。
【0044】
前記耐熱性向上剤の総配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0.1〜35質量部であるのがよく、1〜10質量部であるのが特によい。耐熱性向上剤の総配合量が前記範囲であれば、カーボンブラック、酸化鉄、酸化セリウム及び水酸化セリウムの配合量は、特に限定されない。例えば、カーボンブラックの配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0〜15質量部であるのがよく、0.2〜15質量部であるのがさらによく、2〜10質量部であるのが特によい。ベンガラの配合量は、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0〜30質量部であるのがよく、0.2〜30質量部であるのがさらによく、2〜20質量部であるのが特によい。酸化セリウム及び水酸化セリウムの配合量はそれぞれ、前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部であるのがよく、0.2〜2質量部であるのが特によい。
【0045】
前記各種添加剤は、例えば、炭酸カルシウム等の充填材、着色剤、難燃性向上剤、熱伝導性向上剤等の添加剤、離型剤、アルコキシシラン、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、両末端シラノール基封鎖低分子シロキサン等の分散剤、及び、得られるゴムの硬度を調整することのできる粉砕石英、珪藻土等の非補強性シリカ等が挙げられる。これらの各種添加剤は、所望の配合量で配合される。
【0046】
前記ビニル基含有シリコーン生ゴム、前記シリカ系充填材及び前記各種添加剤を含有するシリコーンゴム組成物として、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名「KEシリーズ」及び「KEGシリーズ」等を容易に入手することができる。
【0047】
ゴム組成物は、二本ロール、三本ロール、ロールミル、バンバリーミキサ、ドウミキサ(ニーダー)等のゴム混練り機等を用いて、均一に混合されるまで、例えば、数分から数時間、好ましくは5分以上1時間以下にわたって、常温又は加熱下で混練して、得られる。
【0048】
発泡ゴム組成物は、その硬化体における動的貯蔵弾性率E1’が0.5〜3.0MPaであるのが好ましく、0.7〜2.6MPaであるのがより好ましく、1.2〜2.0MPaであるのが特に好ましい。発泡ゴム組成物の硬化体における動的貯蔵弾性率E1’が前記範囲内にあると、被圧接物と適切なニップを維持することができ、定着ローラ等に用いた場合には、現像剤中のシリカ等が付着することなく、また微細な現像剤に対する平滑性が保たれることによって、発泡弾性層3に形成されたセルが変形又は破壊すること等が防止される。この動的貯蔵弾性率E1’は、発泡ゴム組成物に含有される発泡剤の種類及び含有量、酸化鉄の含有量等によって、調整することができる。
【0049】
この動的貯蔵弾性率E1’は、発泡ゴム組成物を発泡弾性層3の硬化条件と同じ硬化条件で発泡ゴム組成物を硬化して10mm×10mm×5mmの寸法を有するシート状試験片を作製し、このシート状試験片を用いて、動的粘弾性測定装置(例えば、商品名「MGレオアナライザー」、型式AMR−1000、アトー株式会社製)によって、下記条件における「圧縮法(シート状試験片に円筒状の荷重セルを押し当てて測定する方法)」で測定することができる。測定は5回行い、算術平均値を動的貯蔵弾性率E1’とする。
<測定条件>
・試験環境:温度25±2℃、相対湿度50±3%RH
・荷重セルの接触面積:7.07mm
・付加調整値(予圧):50.0g
・振動周波数:1Hz
・振幅:20μm
【0050】
測定方法をより詳しく説明すると、前記シート状試験片を温度25±2℃、相対湿度50±3%RHの環境下にて6時間放置し、その後、前記動的粘弾性測定装置の荷重セルと試験片が平行になるように置き、シート状試験片に、荷重セルにて50.0gの付加調整値(予圧)を加え、その後、周波数1Hz、振幅20μmの大きさにて正弦振動を与えて、前記シート状試験片の動的貯蔵弾性率E1’を測定する。このようにして、動的貯蔵弾性率E1’を5回測定し、算出される算術平均値を動的貯蔵弾性率E1’とする。
【0051】
弾性ローラ1A及び1B(以下、弾性ローラ1と称することがある。)の製造方法を以下に説明する。弾性ローラ1を製造するには、まず、軸体2に、必要に応じて予め、その外周面に接着剤又はプライマーを、スプレー法、浸漬法等によって、塗布し、その外周面に接着層又はプライマー層を形成しておくのがよい。
【0052】
次いで、このようにして作製した軸体2の外周面に、発泡ゴム組成物を押出成形による連続加熱成形、プレス、インジェクションによる型成形等によって、加熱成形する。発泡ゴム組成物の加熱成形においては、まず、接着層又はプライマー層が形成された軸体2の外周面に発泡ゴム組成物を配置する。軸体2の外周面に発泡ゴム組成物を配置する方法としては、例えば、押出機等により軸体2と発泡ゴム組成物とを一体に分出して、軸体2の外周面に発泡ゴム組成物を配置する方法、また、軸体2を収納する金型に発泡ゴム組成物を注入して、軸体2の外周面に発泡ゴム組成物を配置する方法等が挙げられる。これらの中でも、押出機等により軸体2と発泡ゴム組成物とを一体に分出しする方法が、作業が容易で、作業を連続して行うことができる点で、好ましい。
【0053】
このようにして軸体2の外周面に発泡ゴム組成物を配置した後、この状態を維持しつつ、軸体2ごと発泡ゴム組成物を加熱する。発泡ゴム組成物の加熱は、発泡ゴム組成物に含まれるゴムが架橋し、かつ、発泡剤が分解又は発泡するのに十分な条件で行われればよい。例えば、発泡ゴム組成物は、通常、赤外線加熱炉又は熱風炉等の加熱炉、乾燥機等の加熱機等により、170〜500℃程度、特に200〜400℃に加熱され、数分以上1時間以下、特に5〜30分間、加熱される。
【0054】
発泡ゴム組成物は、所望により、さらに、二次加熱が行われてもよい。二次加熱は、前記条件で架橋された発泡ゴム組成物をより確実に架橋させる工程であり、二次加熱によって、発泡ゴム組成物が硬化して成るゴム硬化体の物性が安定するという効果が得られる。二次加熱は、例えば、前記の条件で架橋された発泡ゴム組成物を、さらに、押出成形された状態のままで、例えば、180〜250℃、好ましくは190〜230℃で、1〜24時間、好ましくは3〜10時間にわたって、又は、金型を用いて、例えば、130〜200℃、好ましくは150〜180℃で、5分以上24時間以下、好ましくは10分以上10時間以下にわたって、再度加熱されることによって、行われる。このようにして成形されたゴム硬化体は、所望により、所望の大きさ及び形状等に調整する研削工程、研磨工程及び/又は切削工程等が施される。
【0055】
この発明における弾性ローラは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、弾性ローラ1は、用途に応じて、軸体2内、発泡弾性層3内及び/又は軸体2と発泡弾性層3との間に、加熱体、例えば、電熱器、発熱コイル等を備えていてもよい。例えば、弾性ローラ1が熱ローラ定着器の定着ローラとして使用される場合には、軸体2内に加熱体を備えている。
【0056】
また、弾性ローラ1は、軸体2の外周面に発泡弾性層3が形成されているが、この発明において、発泡弾性層は、プライマー層又は接着剤層を介して、軸体の外周面に形成されてもよい。プライマー層を形成するプライマーとしては、特に限定されず、例えば、シランカップリング系プライマー等が挙げられる。また、接着剤層を形成する接着剤としては、特に制限されないが、例えば、アルキッド樹脂、フェノール変性・シリコーン変性等のアルキッド樹脂変性物、オイルフリーアルキッド樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、アミノ基及び/又は水酸基を有する接着剤が好適である。また、これらの樹脂を硬化させるための架橋剤として、イソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、過酸化物、フェノール化合物、ハイドロジェンシロキサン化合物等が用いられる。
【0057】
次に、この発明に係る弾性ローラ1を備えた定着装置(以下、この発明に係る定着装置と称することがある。)及び画像形成装置(以下、この発明に係る画像形成装置と称することがある。)の一例を、図3を参照して、説明する。
【0058】
図3に示されるように、この発明に係る画像形成装置30は、静電潜像が形成される回転可能な像担持体31例えば感光体と、前記像担持体31の周囲に配置された、帯電手段32例えば帯電ローラ、露光手段33、現像手段40、転写手段34例えば転写ローラ及びクリーニング手段37と、記録体の搬送方向下流側に定着手段35例えば画像形成装置用定着装置とを備えている。この現像手段40は、従来の現像手段と基本的に同様に形成され、具体的には、図3に示されるように、現像剤収納部41と、像担持体31に現像剤42を供給する現像剤担持体44と、現像剤担持体44に現像剤42を供給する現像剤供給手段43と、現像剤42を帯電させる現像剤規制部材45とを備えている。現像剤42は、一成分系の現像剤であれば、乾式現像剤であっても湿式現像剤であってもよく、また、非磁性現像剤であっても磁性現像剤であってもよい。
【0059】
前記定着手段35は、記録体36に転写された現像剤42(静電潜像)を定着させることができればよく、例えば、発熱可能な定着ローラを備えた熱ローラ定着装置、オーブン定着器等の加熱定着装置、加圧可能な定着ローラを備えた圧力定着装置等を用いることができる。これらの定着装置は無端ベルトを備えた定着装置であってもよい。図3において、無端ベルトを備えた定着手段35はこの発明に係る画像形成装置用定着装置とされている。この定着装置35は、図3にその断面が示されるように、記録体36を通過させる開口52を有する筐体50内に、定着ローラ53と、定着ローラ53の近傍に配置された無端ベルト支持ローラ54と、定着ローラ53及び無端ベルト支持ローラ54に巻き掛けられた無端ベルト55と、定着ローラ53と対向配置された加圧ローラ56とを備え、無端ベルト55を介して定着ローラ53と加圧ローラ56とが、互いに当接又は圧接するように、回転自在に支持されて成る圧力熱定着装置である。無端ベルト支持ローラ54は、画像形成装置に通常用いられるローラであればよく、例えば、弾性ローラ等が用いられる。無端ベルト55は、例えば、ポリアミド、ポリアミドイミド等の樹脂により、無端状に形成されたベルトであればよく、その厚さ等も適宜定着手段35に適合するように調整することができる。定着ローラ53、無端ベルト支持ローラ54及び加圧ローラ56はそれぞれ、加熱体(図示しない。)が内蔵され、加圧ローラ56はスプリング等の付勢手段(図示しない。)によって、無端ベルト55を介して定着ローラ53に圧接している。無端ベルト55と加圧ローラ56との圧接された間を記録体36が通過することにより、加圧と同時に加熱され、記録体36に転写された現像剤42(静電潜像)を定着させることができる。
【0060】
この発明に係る画像形成装置30は、帯電手段32の帯電ローラ、現像手段40の現像ローラ、転写手段34の転写ローラ、定着手段35の定着ローラ、加圧ローラ又は無端ベルト支持ローラ、クリーニング手段のクリーニングローラ、紙送り搬送ローラ等の各種ローラを備え、これら各種ローラのうち少なくとも1つのローラとしてこの発明に係る弾性ローラが使用される。好ましくは、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラ、定着ローラ及び加圧ローラのうち少なくとも1つのローラとしてこの発明に係る弾性ローラが使用され、特に好ましくは、定着ローラ及び加圧ローラとしてこの発明に係る弾性ローラが使用される。
【0061】
この発明に係る画像形成装置30は、次のように作用する。まず、画像形成装置30において、帯電手段32により像担持体31が一様に帯電され、露光手段33により像担持体31の表面に静電潜像が形成される。次いで、現像手段40から現像剤42が像担持体31に供給され、静電潜像が現像される。次いで、現像剤像は像担持体31と転写手段34との間に搬送される記録体36上に転写される。この記録体36は定着手段35に搬送され、現像剤像が永久画像として記録体36に定着される。このようにして、記録体36に画像を形成することができる。
【0062】
この発明に係る画像形成装置30は、帯電ローラ、現像ローラ、転写ローラ、定着ローラ、加圧ローラ、無端ベルト支持ローラ、クリーニングローラ、紙送り搬送ローラ等の各種ローラのうち少なくとも1つのローラとしてこの発明に係る弾性ローラが使用されているから、この発明に係る弾性ローラにおける発泡弾性層に形成されたセルの形態を長期間にわたって維持することができ、その結果、画像形成装置30が長期間にわたって高品質の画像を安定して形成することに貢献することができる。
【0063】
画像形成装置30は、電子写真方式の画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置は、電子写真方式には限定されず、例えば、静電方式の画像形成装置であってもよい。また、画像形成装置30は、現像手段40に単色の現像剤42のみを収容するモノクロ画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置は、モノクロ画像形成装置に限定されず、カラー画像形成装置であってもよい。カラー画像形成装置としては、例えば、像担持体上に担持された現像剤像を中間転写体に順次一次転写を繰り返す4サイクル型カラー画像形成装置、各色毎の現像手段を備えた複数の像担持体を中間転写体や転写搬送ベルト上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置等が挙げられる。画像形成装置30は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置とされる。
【0064】
また、画像形成装置30において、現像剤42は、一成分系の現像剤が有利に用いられるが、トナーと、鉄、ニッケル等のキャリアとを含む二成分系の現像剤も使用することができる。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
まず、無電解ニッケルメッキ処理が施された軸体(直径12mm×長さ350mm、SUM22)をトルエンで洗浄し、プライマー「No.101A/B」(信越化学工業株式会社製:商品名)を塗布した。プライマー処理した軸体を、ギアーオーブンを用いて、180℃の温度にて30分焼成処理した後、常温にて30分以上冷却し、プライマー層を形成した。
【0066】
次いで、ビニル基含有シリコーン生ゴムとシリカ微粉末と分散剤とを含むシリコーンゴム組成物「KE−552U」(信越化学工業株式会社製:商品名)100質量部と、シリカ系充填材(商品名「SP−1B」、扶桑化学工業株式会社製)8質量部と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(付加反応架橋剤、商品名「C−153A」、信越化学工業株式会社製)2.0質量部と、酸化鉄(正式名称「TAROX合成酸化鉄」、商品名「R−MR」、(SO)の含有量0.14質量%、チタン工業株式会社製)1.0質量部と、付加反応触媒としての白金触媒適量と、反応制御剤「R−153A」(信越化学工業株式会社製:商品名)0.5質量部と、耐熱性向上剤「KEP−12」(信越化学工業株式会社製:商品名)1.0質量部と、2,2’−アゾビス−1−イソブチロニトリル(商品名「AIBN」、大塚化学株式会社製)4質量部(前記ビニル基含有シリコーン生ゴム100質量部に対して1.0質量部)とを、二本ロールで十分に混練して、発泡ゴム組成物Aを調整した。
【0067】
次いで、プライマー層を形成した軸体と、発泡ゴム組成物Aとを、押出成形機にて一体分出し、次いで、赤外線加熱炉(IR炉)を用いて、発泡ゴム組成物Aを250℃で10分間加熱して、発泡ゴム組成物Aを発泡架橋させた。その後、さらに、ギアーオーブンを用いて、200℃で7時間にわたって、発泡架橋後の発泡ゴム組成物Aを二次加熱し、常温にて1時間放置した。次いで、形成されたゴム硬化体を円筒研削盤にて外径を29mmに調整し、弾性ローラを製造した。
【0068】
前記発泡ゴム組成物Aの硬化と同様にして、前記発泡ゴム組成物Aを発泡架橋及び二次加熱して、10mm×10mm×5mmの寸法を有するシート状試験片を作製した。このシート状試験片を用いて、前記方法により動的貯蔵弾性率E1’を測定した結果を第1表に示す。
【0069】
(実施例2)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄を、TAROX合成酸化鉄(商品名「R−110−7」、(SO)の含有量0.44質量%、チタン工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(実施例3)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄を、TAROX合成酸化鉄(商品名「R−516−L」、(SO)の含有量0.78質量%、チタン工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(実施例4)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄に代えて、TAROX合成酸化鉄(商品名「R−MR」)0.5質量部と、TAROX合成酸化鉄(商品名「R−516−L」)0.5質量部とを併用した以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
【0070】
(実施例5)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄の含有量を6.0質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(実施例6)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄の含有量を0.2質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(実施例7)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄の含有量を9.0質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
【0071】
(比較例1)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄を、酸化鉄(商品名「HDN−10」、JFEケミカル株式会社製、硫黄化合物含有量0.07質量%)に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(比較例2)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄を、酸化鉄(商品名「FR−100」、チタン工業株式会社製、硫黄化合物含有量0.92質量%)に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
(比較例3)
発泡ゴム組成物Aにおける酸化鉄を、酸化チタン(商品名「KA−15」、チタン工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、弾性ローラを製造した。
【0072】
(比較例4)
液状シリコーンゴム(商品名「XE15−B17503A」、GE東芝シリコーン株式会社製)50質量部と、「XE15−B17503B」、GE東芝シリコーン株式会社製)50質量部と、発泡剤(商品名「AIBN」、大塚化学株式会社製)9質量部と、吸湿性粒子としてセルロース粉末(商品名「W−50」、日本製紙ケミカル株式会社製)8質量部とを、真空脱泡攪拌機を用いて、室温で20分間混合して、液状発泡シリコーンゴム組成物aを調製した。次いで、実施例1と同様の軸体を準備した。また、円筒状中空体、保持穴及びスプルーを有する下端駒、並びに、保持穴及びベントを有する上端駒からなり、直径(外径)85mm、内径40mm、長さ370mmの中空空間を有する金型を作製した。次いで、下端駒の保持穴と上端駒の保持穴とで作製した軸体を中空空間の中央に保持した後、金型を組み立て、下端駒のスプルーから、液状発泡シリコーンゴム組成物aを、ベントから液溜り部に流出し始めるまで、キャビティに注入した。次いで、金型の外部から、170℃に加熱して、同温度で30分間保持し、液状発泡シリコーンゴム組成物aを加熱成形した。加熱成形後、金型を放冷して成形品を金型から取り出し、スプルー及びベントの部分のゴムが付着している部分を切断除去して、形成されたゴム硬化体を円筒研削盤にて外径を29mmに調整し、弾性ローラを製造した。
【0073】
実施例2〜7及び比較例1〜4において調製した発泡ゴム組成物を用いて、前記実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1〜4の動的貯蔵弾性率E1’を測定した。その結果を第1表に示す。
【0074】
(ニップ試験)
直径50mm×長さ300mmのアルミニウム製軸体の外表面に、ポリテトラフルオロエチレンを含有するラテックスをコーティングし、300℃で15分間加熱焼成して、試験用ローラを作製した。この試験用ローラと実施例1で製造した弾性ローラとを互いの軸線が平行になるように接触させて、試験用ローラと弾性ローラとに2kgの荷重をかけた。この初期状態における試験用ローラと弾性ローラとの初期ニップ幅(接触幅とも称する。)を定規で測定した。この初期状態を維持したまま試験用ローラと弾性ローラとを200℃で5時間加熱し、さらに、この初期状態を維持したまま試験用ローラと弾性ローラとを常温にて18時間放置した後に、試験用ローラと弾性ローラとの加熱後ニップ幅を定規で測定した。また、実施例2〜7及び比較例1〜4で製造した弾性ローラを用いて同様にして、加熱後ニップ幅及び初期ニップ幅を測定した。ニップ試験の評価は、ニップ幅の変化率((加熱後ニップ幅/初期ニップ幅)×100(%))が90〜110(%)の範囲内にある場合を合格(第1表において「○」と表記する。)、前記変化率が90(%)未満又は110(%)超である場合を不合格(第1表において「×」と表記する。)とした。その結果を第1表に示す。
【0075】
(耐久性試験後のセル破壊状況評価)
製造した各弾性ローラをそれぞれ図4に示される耐久性試験機に装着して、発泡弾性層3に形成されたセルの状況を評価した。この耐久性試験装置70は、筐体内部の下面に固定され、内部ヒータ72を備えた加熱ローラ71と、この加熱ローラ71の軸方向に沿って、その両側に設けられた外部ヒータ73と、加熱ローラ71と対向するように、筐体内部の上面に上下動可能に設けられた試験ローラ装着部74と、試験ローラ装着部74を上下に移動可能な押圧力調整手段75、例えば、押圧調整用マイクロメータとを備えている。なお、加熱ローラ71として、直径20mmの金属(ステンレス鋼(SUS304))製ローラを用いた。
【0076】
各弾性ローラを弾性ローラ76としてそれぞれ、試験ローラ装着部74のベアリングに装着し、図4に示されるように、押圧力調整手段75を操作して、装着した弾性ローラ76を加熱ローラ71に圧接し、加熱ローラ71と弾性ローラ76との圧接部において、弾性ローラ76における発泡弾性層が内部に3mm凹陥するように、弾性ローラ76を固定した(すなわち、弾性ローラ76の外径と加熱ローラ71との外径の和よりも3mm短くなるように、弾性ローラ76の中心軸と加熱ローラ71の中心軸との距離dを調節した。)。
【0077】
次いで、外部ヒータ73及び内部ヒータ72を起動し、加熱ローラ71の表面温度を180℃に調節した。その後、試験ローラ装着部74に装備された駆動手段(図示しない。)により、回転速度130rpmで100時間連続稼動し、弾性ローラ76における発泡弾性層の凹陥状態を解除後、弾性ローラ76を常温で24時間放置して、耐久性試験を行った。耐久性試験後に、各弾性ローラを取り出して、その外表面を光学顕微鏡にて観察して、耐久性試験前のセルの状態と、耐久性試験後のセルの状態とを比較して、セル破壊状況を評価した。評価は、発泡弾性層の表面に存在するセルの形状が耐久性試験後も破壊されていなかった場合を「◎」、少数のセルの形状が耐久性試験後に許容可能な程度にわずかに破壊されていた場合を「○」、複数のセルの形状が耐久性試験後に許容可能な程度にわずかに破壊されていた場合を「△」、多数のセルの形状が耐久性試験後に許容できないほど破壊されていた場合を「×」とした。結果を第1表に示す。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、この発明に係る弾性ローラの一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、この発明に係る弾性ローラの別の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、この発明に係る画像形成装置の一例を示す要部概略図である。
【図4】図4は、耐久性試験装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0080】
1A、1B 導電性ローラ
2 軸体
3 発泡弾性層
4 コート層
30 画像形成装置
31 像担持体
32 帯電手段
33 露光手段
34 転写手段
35 定着手段
36 被転写体
37 クリーニング手段
40 現像手段
41 現像剤収納部
42 現像剤
43 現像剤供給手段
44 現像剤担持体
45 現像剤規制部材
50 筐体
52 開口
53 定着ローラ
54 無端ベルト支持ローラ
55 無端ベルト
56 加圧ローラ
70 耐久性試験装置
71 加熱ローラ
72 内部ヒータ
73 外部ヒータ
74 試験ローラ装着部
75 押圧力調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、ゴム、酸化鉄及び発泡剤を含有する発泡ゴム組成物を前記軸体の外周面で硬化してなる発泡弾性層とを備えてなる弾性ローラであって、前記酸化鉄は、0.10〜0.90質量%の硫黄化合物を含有していることを特徴とする弾性ローラ。
【請求項2】
前記発泡ゴム組成物は、その硬化体における動的貯蔵弾性率E1’が0.5〜3.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載の弾性ローラ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の弾性ローラを備えた画像形成装置用定着装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の弾性ローラを備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−156921(P2009−156921A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331992(P2007−331992)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】