説明

弾性境界波フィルタ

【課題】無線機器の送信フィルタや受信フィルタを構成した場合であっても、阻止域における減衰量を十分な大きさとすることができ、良好な周波数特性を有する弾性境界波フィルタを提供する。
【解決手段】第1の媒質層101と、前記第1の媒質層101に積層された第2の媒質層109と、第1,第2の媒質層の境界に配置されており、電気音響変換器を構成している電極としてのIDT電極103〜105とを備え、上記電極の周期により決定される波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域下端の周波数との積である弾性境界波の音速が、第1,第2の媒質層101,109を伝播する遅い横波よりも小さくされており、かつ前記第1,第2の媒質層101,109を伝播する遅い横波の音速よりも弾性境界波の音速が低い、弾性境界波フィルタ11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば通信機器の帯域フィルタとして用いられる弾性境界波フィルタに関し、より詳細には、第1,第2の媒質層間の境界を伝播する弾性境界波を利用した弾性境界波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話用のRFフィルタ及びIFフィルタ、並びにVCO用共振子及びテレビジョン用VIFフィルタなどに、各種弾性表面波装置が用いられている。弾性表面波装置は、媒質表面を伝播するレイリー波や第1漏洩波などの弾性表面波を利用している。
【0003】
弾性表面波は、媒質表面を伝播するため、媒質の表面状態の変化に敏感である。従って、媒質の弾性表面波伝播面を保護するために、該伝播面に臨む空洞を設けたパッケージに弾性表面波素子が気密封止されていた。このような空洞を有するパッケージが用いられていたため、弾性表面波装置のコストは高くならざるを得なかった。また、パッケージの寸法は、弾性表面波素子の寸法よりも大幅に大きくなるため、弾性表面波装置は大きくならざるを得なかった。
【0004】
他方、弾性波の中には、上記弾性表面波以外に、固体間の境界を伝播する弾性境界波が存在する。
【0005】
例えば、下記の非特許文献1には、126°回転Y板X伝播のLiTaO基板上にIDTが形成されており、IDTとLiTaO基板上にSiO膜が所定の厚みに形成されている弾性境界波装置が開示されている。ここでは、ストンリー波と称されているSV+P型の弾性境界波が伝播することが示されている。なお、非特許文献1では、上記SiO膜の膜厚を1.0λ(λは弾性境界波の波長)とした場合、電気機械結合係数は2%になることが示されている。
【0006】
弾性境界波は、固体間の境界部分にエネルギーが集中した状態で伝播する。従って、上記LiTaO基板の底面及びSiO膜の表面にはエネルギーがほとんど存在しないため、基板や薄膜の表面状態の変化により特性が変化しない。従って、空洞形成パッケージを省略することができ、弾性波装置のサイズを低減することができる。
【0007】
媒質層内を伝播するバルク波には、縦波と、早い横波と、遅い横波との3種類の波が存在することが知られている。3種類の波は、P波、SH波及びSV波と称されている。なお、SH波とSV波のいずれが遅い横波になるかは、材料の異方性により異なる。なお、等方性の場合には、縦波と横波の2種類の波が生じる。
【0008】
ところで、上記3種類のバルク波の中でも、もっとも音速が低いのが、遅い横波である。
【0009】
一方、圧電基板などの異方性材料を伝播する弾性境界波は、P波、SH波及びSV波の3つの部分波成分が結合しながら伝播する波であり、主要となる成分により弾性境界波の種類が分類される。例えば、ストンリー波と称されている弾性境界波は、P波成分とSV波成分が主体の弾性境界波であり、SH型境界波は、SH成分が主体の弾性境界波である。なお、条件によっては、上記各成分が結合せずに弾性境界波が伝播することもある。
【0010】
弾性境界波では、通常、上記3つの部分波成分が結合しながら伝播するため、例えば、SH波よりも高音速の弾性境界波では、SH波成分とSV波成分とが漏洩し、SV波より高音速の弾性境界波では、SV波成分が漏洩することとなる。このような漏洩した成分は、弾性境界波の伝播損失の原因となる。従って、2つの媒質層の境界を伝播する弾性境界波では、2つの媒質層の双方の遅い横波の音速よりも、弾性境界波の音速を低速化することにより、境界波のエネルギーを、2つの媒質間に配置された電極付近に集中させ、伝播損失ゼロの条件を得ることができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Piezoelectric Acoustic Boundary Waves Propagating Along the Interface Between SiO2 and LiTaO3」IEEE Trans. Sonics and ultrason.,VOL.SU-25,No.6,1978 IEEE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
800MHz帯、900MHz帯、あるいは1900MHz帯などの周波数域で用いられる携帯電話に代表される無線機器では、周波数の異なる送信帯域と受信帯域により、同時に送受信が行われる。これらの無線機器では、送信帯域を通過域とし、受信帯域を阻止域とする送信フィルタと、受信帯域を通過域とし送信帯域を阻止域とする受信フィルタが用いられている。
【0013】
上記送信フィルタと受信フィルタとは、それぞれ単一のチップ部品として形成されていたり、あるいは送信フィルタ及び受信フィルタを組み合わせてアンテナ共用器すなわちデュプレクサとして構成されていたりする。
【0014】
上記のような送信フィルタ及び受信フィルタとして、弾性境界波装置を用いた場合、前述したように伝播損失が十分に小さくなる条件で弾性境界波フィルタを作製したとしても、良好な周波数特性を得ることが困難であるという問題があった。すなわち、通過帯域でのみ漏洩成分をなくし伝播損失を低減し低損失化を図ったとしても、通過帯域の高域側における減衰帯域で漏洩成分があれば、この漏洩成分により減衰域の電力が入力端から出力端へ直達し減衰量が十分ではなくなり、良好な周波数特性を得ることが困難であることを発明者らは実験により確認した。従って、上記のような送信フィルタ及び受信フィルタとして弾性境界波フィルタを用いた場合、特に、送信フィルタにおいては、通過帯域の高域側の阻止域、すなわち相手方のフィルタである受信フィルタの通過帯域における減衰量が十分な大きさとならなかった。
【0015】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、小型化を図るのに適した弾性境界波フィルタであって、無線機器の送信フィルタや受信フィルタを構成した場合であっても、阻止域における減衰量を十分な大きさとすることができ、良好な周波数特性を有する弾性境界波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る第1の弾性境界波フィルタは、第1の媒質層と、前記第1の媒質層に積層された第2の媒質層と、前記第1,第2の媒質層の境界に配置されており、電気音響変換器を構成している電極とを備え、前記電極の周期により決定される波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域の下端の周波数との積が、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも小さくされており、送信フィルタと受信フィルタとを有する通信装置に用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタに用いられ、相対的に中心周波数が低い側のフィルタにおいて、電極の周期により決定される前記波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域であって、相対的に中心周波数が高い側のフィルタの通過帯域下端の周波数との積が、前記遅い横波の音速よりも小さくされており、かつ、前記第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速が低くされていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る第2の弾性境界波フィルタは、第1の媒質層と、前記第1の媒質層に積層された第2の媒質層と、前記第1,第2の媒質層の境界に配置されており、電気音響変換器を構成している電極とを備え、前記電極の周期により決定される波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域の下端の周波数との積が、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも小さくされており、送信フィルタ及び受信フィルタを有するデュプレクサの送信フィルタまたは受信フィルタとして用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタとして用いられ、相対的に中心周波数が低い側のフィルタにおいて、電極の周期により決定される前記波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域であって、相対的に中心周波数が高い側のフィルタの通過帯域下端の周波数との積が、前記遅い横波の音速よりも小さくされており、かつ、前記第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速が低くされていることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る弾性境界波フィルタのある特定の局面では、前記第1または第2の媒質層が等方性であり、第1,第2の媒質層の少なくとも一方を伝播する遅い横波の音速をVs、第1,第2の媒質層の弾性スチフネス定数をC11,C12、密度をρとしたときに、上記音速Vsは下記の式(1)を満たしている。
【0019】
【数1】

【0020】
本発明に係る弾性境界波フィルタでは、好ましくは、前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方の媒質層の外側表面に、吸音媒質層が形成されている。
【0021】
本発明に係る弾性境界波フィルタの他の特定の局面では、前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方の外側表面に凹凸が形成されている。
【0022】
本発明に係る弾性境界波フィルタのさらに他の特定の局面では、前記電極が、Au、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属を用いて構成されている。
【0023】
本発明に係る弾性境界波フィルタでは、上記媒質層は様々な材料で構成され得るが、例えば、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ランガナイト、水晶、PZT、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイヤ、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択した1種により構成される。
【0024】
本発明に係る弾性境界波フィルタのさらに別の特定の局面では、前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方が複数の材料層を積層してなる積層構造を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る弾性境界波フィルタでは、電極の周期により決定される波長λと通過帯域高域側の阻止域内の周波数の積が、第1,第2の媒質層の内一方を伝播する遅い横波の音速よりも小さくされているため、弾性境界波のエネルギーが、第1,第2の媒質層の境界に配置されている電極付近に集中する。そのため、漏洩成分が少ない弾性境界波を利用することができる。それによって、高域側の阻止域における漏洩成分による減衰量の悪化を抑制することができ、減衰量を十分な大きさとすることができる。よって、周波数特性の良好な弾性境界波フィルタを提供することができ、特に、低域側の通過帯域を有するフィルタと、高域側の通過帯域を有するアンテナ共用器などにおいて、低域側の通過帯域を有するフィルタに好適な弾性境界波フィルタを提供することが可能となる。
【0026】
第1または第2の媒質層が等方性である場合には、第1または第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速Vsは式(1)となる。これにより、媒質層を伝播する遅い横波の音速を求めることができる。
【0027】
第1,第2の媒質層の少なくとも一方の媒質層の外側表面に吸音媒質層がさらに形成されている場合には、高次スプリアスモードを抑制したり、漏洩バルク波よる劣化を抑制したりすることができる。従って、より一層良好な周波数特性を得ることができる。
【0028】
前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方の外側表面に凹凸が形成されている場合には、漏洩バルク波による劣化を抑制することができ、より一層良好な周波数特性を得ることができる。
【0029】
本発明において、電極が、Au、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された少なくとも1種を用いて構成されている場合には、例えば、未だ開示されていない本願発明者の出願である特願2003−32409に記載している手段を用いて境界波を伝播する構造を作ることができる。具体的には、第1,第2の媒質層との間に設けた、電極の膜厚、電極のデューティ比または電極の密度を所定の範囲にすることにより、第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速を低くすることにより、境界波を伝播する構造を作ることができる。
【0030】
第1,第2の媒質層が、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ランガナイト、水晶、PZT、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイヤ、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択された1種により構成されている場合には、例えば、未だ開示されていない本願発明者の出願である特願2003−32409に記載している手段を用いて境界波を伝播する構造を作ることができる。すなわち、上記組成から選択される第1,第2の媒質層との間に設けた、電極の膜厚、電極のデューティ比または電極の密度を所定の範囲にすることにより、第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速を低くすることにより、境界波を伝播する構造を作ることができる。
【0031】
第1,第2の媒質層の少なくとも一方が複数の材料層を積層してなる積層構造を有する場合には、複数の材料層を選択することにより、積層製造を有する媒質層の音速を制御することができる。
【0032】
送信フィルタと受信フィルタとを有する通信装置に用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタに本発明の弾性境界波フィルタを用いた場合には、本発明に従って通過帯域の高域側の阻止域における減衰量を十分な大きさとすることができる。
【0033】
送信フィルタ及び受信フィルタを有するデュプレクサの送信フィルタまたは受信フィルタとして用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタとして本発明の弾性境界波フィルタを用いた場合にも、同様に通過帯域よりも高域側における阻止域、すなわち相手方フィルタの通過帯域となる阻止域における減衰量を十分な大きさとすることができる。
【0034】
上記通信装置やデュプレクサにおいて、相対的に中心周波数が低い側のフィルタとして本発明の弾性境界波フィルタを用いる場合、好ましくは、該中心周波数が低い側のフィルタの通過帯域よりも高域側の阻止域において、前記電極の周期により決定される波長λと、相対的に通過帯域が高い相手方のフィルタの通過帯域の上端の周波数との積が、上記遅い横波の音速よりも小さくされている場合には、上記相対的に中心周波数が低い側のフィルタのフィルタ特性において、通過帯域よりも高域側において、相手方のフィルタである相対的に中心周波数が高い側のフィルタの通過帯域の上端に至る周波数域において、十分な減衰量を確保することができる。従って、阻止域における減衰量が十分な周波数範囲にわたって確保されたデュプレクサや通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1(a)及び(b)は、本実施形態の弾性境界波フィルタの電極構造を示す平面図及び該弾性境界波フィルタの正面断面図である。
【図2】図2(a)及び(b)は、本発明のなす前提となった1ポート型弾性境界波共振子の電極構造を示す平面図及び正面断面図である。
【図3】図3は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.04λである場合のインピーダンス特性及び位相特性を示す図である。
【図4】図4は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.05λである場合のインピーダンス特性及び位相特性を示す図である。
【図5】図5は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.06λである場合のインピーダンス特性及び位相特性を示す図である。
【図6】図6は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.04λである場合の入力コンダクタンス特性を示す図である。
【図7】図7は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.05λである場合の入力コンダクタンス特性を示す図である。
【図8】図8は、1ポート型弾性境界波共振子におけるAu膜の厚みが0.06λである場合の入力コンダクタンス特性を示す図である。
【図9】図9は、本発明の一実施形態に係る弾性境界波フィルタの周波数特性を示す図である。
【図10】図10は、弾性境界波の各成分の分布を示す図である。
【図11】図11は、電極材料の密度ρ、弾性境界波の伝播損失がゼロとなる電極膜厚Hとの関係を示す図である。
【図12】図12は、本発明の弾性境界波フィルタ回路構成の一例としてのラダー型回路を示す図である。
【図13】図13は、本発明に係る弾性境界波フィルタの変形例であって、吸音媒質層が備えられている弾性境界波フィルタを示す部分切欠正面断面図である。
【図14】図14は、本発明に係る弾性境界波フィルタのさらに他の変形例を示す正面断面図であり、第1の媒質層の外側に凹凸が設けられている弾性境界波フィルタを示す正面断面図である。
【図15】図15は、送信フィルタ及び受信フィルタの周波数特性の一例を示す図である。
【図16】図16(a)及び(b)は、本発明をなす前提となった弾性境界波フィルタ及び本発明の一実施形態の弾性境界波フィルタの電極構造を示す平面図及び該弾性境界波フィルタの模式的正面断面図である。
【図17】図17は、本発明をなす前提となった弾性境界波フィルタの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の弾性境界波フィルタの実施形態を説明する。
【0037】
第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも弾性境界波の音速を低速化すれば、弾性境界波のエネルギーが境界に配置された電極付近に集中し、伝播損失ゼロの条件を得ることができる。そこで、弾性境界波フィルタを用いて、図15に目標とする周波数特性を示す送信フィルタ及び受信フィルタを作製した。図15において、周波数FL1〜FL2の範囲が送信側通過帯域であり、周波数FH1〜FH2の範囲が受信側通過帯域である。ここではFH1>FL2である。
【0038】
FL1の規格化周波数を0.91、FL2の規格化周波数を0.97、FH1の規格化周波数を1.03、FH2の規格化周波数を1.09とした。なお、この規格化周波数は、送信側通過帯域と受信側通過帯域との間の帯域の中心の周波数を1.0とした規格化周波数である。
【0039】
上記送信フィルタでは、周波数FL1〜FL2の帯域を通過帯域とし、通過帯域内の最大挿入損失を5dB以下、周波数FH1〜FH2を阻止域とし、阻止域の最小相対減衰量を20dBとするように送信フィルタを構成した。
【0040】
また、受信フィルタについては、FH1〜FH2を通過帯域とし、通過帯域内の最大挿入損失は5dB以下となるように構成した。
【0041】
図16(a)に平面図で示すように、15°YカットX伝播のLiNbO基板101上に、IDT電極102〜104と、反射器105,106と、配線電極107,108とを形成した。なお、これらの電極は蒸着により形成した。具体的には、NiCr膜を下地電極層として蒸着により形成し、次にAu膜を主電極層として蒸着により形成した。図16(a)に示されているように、入力IDT電極102の両側には、出力IDT電極103,104が配置されている。そして、出力IDT電極103,104は配線電極108により共通接続されている。さらに、出力IDT電極103,104の境界波伝播方向外側には、反射器105,106がそれぞれ配置されている。すなわち、この電極構造は、3IDT構造の縦結合弾性境界波共振子型を構成するための電極構造である。
【0042】
次に、IDT電極102〜104及び反射器105,106を覆うように、SiO膜をRFマグネトロンスパッタにより成膜し、図16(b)に示す弾性境界波フィルタ110を作製した。弾性境界波フィルタ110では、第1の媒質層としてのLiNbO基板101と、第2の媒質層としてのSiO膜109との間に、IDT電極102〜104、反射器105,106が配置されている。
【0043】
なお、上記のように構成された弾性境界波フィルタ110において、電極を下記のように構成し、送信フィルタ及び受信フィルタをそれぞれ作製した。
【0044】
送信フィルタにおける電極周期により決定されるλは、入力IDT電極102の中心部の配置周期により3.0μmとし、受信フィルタにおける電極の周期により決定される波長λは送信フィルタの0.9倍とした。電極指交差幅は、送信フィルタ及び受信フィルタのいずれにおいても、50λとし、入力IDTの電極指の対数は14.5対、IDTの端部の4本の電極指の配置周期は0.86λとし、出力側IDT電極103,104における電極指の対数は8.5対、入力側IDT電極102側に近接した4本の電極指の配置周期は0.86λとした。反射器105,106における電極指の本数は41本とし、電極指配置周期を1.033λとし、反射器の反射帯域内に送信フィルタまたは受信フィルタの通過帯域を配置した。
【0045】
入力IDT電極102と、出力IDT電極103,104との最近接電極指中心間距離は0.43λとし、出力IDT103,104と反射器105,106との最近接電極指間中心間距離は0.5λとし、IDT102〜104及び反射器105,106のデューティ比は0.5とした。なお、本明細書において、デューティ比とは、電極指の境界波伝播方向に沿う幅方向寸法をL、電極指の両側の電極指間スペースの中心間距離をPとしたときに、L/Pで表わされる値であり、IDT電極や反射器の配置周期λは、λ=2×Pとなる。
【0046】
また、上記IDT電極102〜104及び反射器105,106の形成に際しては、Au膜の膜厚を0.04λ、Au膜の下地のNiCr膜の膜厚を0.003λとした。
【0047】
図17は、上記のようにして作製された送信フィルタ及び受信フィルタのS21特性(通過特性)と、S11特性(反射特性)とを示す。
【0048】
図17から明らかなように、送信フィルタ及び受信フィルタのいずれにおいても、通過帯域の高域側阻止域における減衰量が十分でないことがわかる。送信フィルタと受信フィルタとを有する分波器等を構成した場合、相対的に通過帯域が低い送信フィルタにおいて、高域側の阻止域の減衰量が十分に確保されねばならない。さもなければ、相手方のフィルタである受信フィルタの通過帯域における減衰量が十分でなく、目標特性を達成できないからである。図17から明らかなように、送信フィルタの阻止域であるFH1〜FH2において、送信フィルタの減衰量は15dBしか得られておらず、従って、目標とする特性を得ることができないことがわかる。
【0049】
上記のように、従来、弾性境界波フィルタにおいて、通過帯域高域側の阻止域における減衰量を十分な大きさとすることが困難であった。
【0050】
これに対して、本発明によれば、通過帯域高域側における阻止域における減衰量を十分な大きさとすることができる。これを、本発明の実施形態を説明することにより、明らかにする。
【0051】
本願発明者は、まず弾性境界波と媒質層を伝播する遅い横波の音速との関係を確認するために、図2(a)及び(b)に示す1ポート型弾性境界波共振子を作製し、実験を行った。
【0052】
図2(a)は、1ポート型弾性境界波共振子の電極構造を示す平面図であり、図2(b)は、該弾性境界波共振子の正面断面図である。ここでは、1ポート型弾性境界波共振子1は、第1の媒質層としての15°回転Y板X伝播のLiNbO基板2を有する。LiNbO基板2上に、IDT電極3及び反射器4,5を形成した。IDT電極3及び反射器4,5は、0.003λのNiCr膜上に、0.04λ、0.05λまたは0.06λのAu膜を積層した構造を有する。
【0053】
上記IDT電極3の電極指の対数は50.5対、電極指配置周期λは3.0μmとした。また、反射器4,5の電極指の本数は51本、電極指配置周期をλとした。IDTにおける電極指交差幅50λとした。
【0054】
IDT電極3と反射器4,5との最近接電極指中心間距離は0.5λとし、IDT電極3及び反射器4,5におけるデューティ比はいずれも0.5とした。
【0055】
上記IDT電極3及び反射器4,5を形成した後、第2の媒質層としてSiO膜を厚みが2λとなるように成膜した。
【0056】
上記のようにして、第2の媒質層としてのSiO膜6を有する弾性境界波装置1を作製した。この場合、Au膜の膜厚が0.04λ、0.05λ及び0.06λの3種類の弾性境界波共振子を作製した。
【0057】
図3〜図5は、それぞれ、Au膜の膜厚が0.04λ、0.05λ及び0.06λである各弾性境界波共振子のインピーダンス特性及び位相特性を示す。なお、図3〜図5において、縦軸方向に延びる実線Aは、それぞれ、SiOを伝播する遅い横波の音速の位置を示す。
【0058】
15°回転Y板X伝播のLiNbOにおける縦波、早い横波及び遅い横波の音速は、それぞれ、6547m/秒、4752m/秒及び4031m/秒であった。また、SiOを伝播をする縦波及び遅い横波の音速は、それぞれ、5960m/秒及び3757m/秒である。
【0059】
図3〜図5において、SiOを伝播する遅い横波よりも高周波側において、高次スプリアスによる応答が発生していることがわかる。また、高次スプリアスの発生帯域以外においても、位相特性が−90度よりも大きくなっていることがわかる。
【0060】
なお、インピーダンス特性における反共振周波数付近にスプリアス応答が発生しているが、これは主応答とは別のモードの弾性境界波によるスプリアスであり、LiNbO基板のオイラー角を±5度程度調整することにより抑制することができるスプリアスである。
【0061】
図6〜図8は、上記1ポート型弾性境界波共振子1の入力コンダクタンス特性を示す図である。入力コンダクタンスは、主応答の共振周波数近傍でのみ大きく、他の帯域では小さいことが望ましい。しかしながら、弾性境界波や高次のスプリアスモードによる応答がない帯域においても、SiO膜の遅い横波の音速よりも高周波側においてコンダクタンス値が大きくなっていることがわかる。これは、漏洩バルク波による放射減衰によるものである。
【0062】
図3〜図8から高次スプリアスモードや漏洩バルク波によるコンダクタンス値の劣化は、SiO膜を伝播する遅い横波よりも高周波側で生じていることがわかる。
【0063】
また、LiNbOを伝播する遅い横波の音速より高周波側では、コンダクタンス値がさらに劣化していることがわかる。例えば、Au膜の膜厚が0.06λの弾性境界波装置では、図8から3757m/秒付近の音速で−63dBであるのに対し、4031m/秒付近では−50dBと増大していることがわかる。これは、SiO膜側だけでなく、LiNbO基板側においても漏洩バルク波による漏洩が生じているためである。
【0064】
上記結果をふまえて、図1に示す本発明の一実施形態に係る弾性境界波フィルタ11を作製した。図1(a)は、本実施形態の弾性境界波フィルタの構造を示す平面図であり、(b)は、その正面断面図である。ここでは、電極構造は、図16(a)に示した弾性境界波フィルタ101と同様とした。従って、弾性境界波フィルタ11の各部分の参照番号については、図16を参照して説明した弾性境界波フィルタ101と同様とし、同じ参照番号を付されている部分についての説明は、図15(a)及び(b)に示した弾性境界波フィルタ101についての説明を援用することとし、省略する。
【0065】
但し、電極については、NiCr膜上に、0.05λのAu膜を積層することにより形成した。このように、Au膜の膜厚を0.05λとすることにより、弾性境界波フィルタの低音速化を図った。
【0066】
図16を参照して説明した実験例の場合と同様に、送信フィルタ及び受信フィルタを上記弾性境界波フィルタ11を用いて作製した。図9は、送信フィルタ及び受信フィルタのS21特性(通過特性)とS11特性(反射特性)とを示す。
【0067】
なお、図9においては、送信フィルタのSiO膜を伝播する遅い横波の音速をIDT電極の周期で決定される波長λで除算し、さらに規格化周波数表示した線Bを併記した。本実施形態では、送信フィルタにおいて、上記波長λと、通過帯域高域側の阻止域の少なくとも下端の周波数との積である弾性境界波の音速が、SiO膜109を伝播する遅い横波に対応した周波数位置を示す線Bよりも低周波、すなわち音速の次元では値が小さくされているため、通過帯域高域側の阻止域の減衰量が劣化せず、通過帯域高域側の阻止域における減衰量は23dBと改善されていることがわかる。すなわち、目標とする阻止域減衰量20dBを超える減衰量を確保することができる。これは、本実施形態の弾性境界波フィルタでは、第2の媒質層としてのSiO膜109を伝播する遅い横波の音速よりも、弾性境界波の音速が遅くされ、それによって境界波がエネルギーを境界付近に伝播するためである。
【0068】
なお、好ましくは、図9に示されている特性のように、通過帯域が相対的に低い周波数域にあるフィルタの高域側の阻止域の下端から上端に至るまで、十分な減衰量が確保されていることが望ましい。そのためには、本発明に従って通過帯域高域側の阻止域の少なくとも下端の周波数と、上記電極の周期により決定される波長λとの積が、遅い横波の音速よりも小さければ、少なくとも阻止域の下端において十分な減衰量が確保される。しかしながら、好ましくは、前述したように、阻止域の全領域にわたり十分な減衰量を確保することが望ましい。よって、好ましくは、阻止域の上端の周波数と、上記電極の周期により決定される波長との積が、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも小さいことがより望ましい。
【0069】
従って、例えば、送信フィルタと受信フィルタとを備え、両者の通過帯域が異なっているデュプレクサや通信装置では、好ましくは、相対的に周波数が低い側のフィルタとして、上記実施形態の弾性境界波フィルタを用い、その通過帯域よりも高域側においては、相手方のフィルタである相対的に通過帯域が高いフィルタの通過帯域の上端と、上記弾性境界波フィルタの電極の周期で定まる波長との積が、遅い横波の音速よりも小さいことがより望ましい。その場合には、上記弾性境界波フィルタの周波数特性において、相手方のフィルタである通過帯域が相対的に高いフィルタの通過帯域の全領域にわたって、十分な減衰量を確保することができる。
【0070】
上記のように、弾性境界波フィルタの通過帯域の高域側の阻止域において十分な減衰量を確保することが重要である。この場合、本発明では、少なくとも該阻止域の下端において、該下端の周波数の積と上記電極の周期により決定される波長との積が、遅い横波の音速よりも小さくされているが、より好ましくは、上記のように、通過帯域に隣接している高域側の阻止域の上端あるいはデュプレクサなどにおいては、相手方のフィルタの通過帯域上端の周波数と、上記電極の周期により決定される波長との積が、遅い横波の音速よりも小さくされる。
【0071】
本実施形態では上記のように、λと高域側の阻止域の下端の周波数との積は3481m/秒であり、上記遅い横波の音速3757m/秒よりも遅くするために、電極膜厚、すなわちAu膜の膜厚を厚くした。すなわち、Auからなる電極膜厚を厚くすることにより、音速が低下し、SiO膜109を伝播する遅い横波の音速よりも、上記電極の周期で定まる波長λと、通過帯域高域側の阻止域の下端の周波数との積を小さくすることが可能となる。
【0072】
上記実施形態では、上記通過帯域よりも高域側の阻止域の少なくとも下端の周波数と、上記電極の周期により定まる波長との積を遅い横波の音速よりも小さくするために、電極膜厚の厚みが厚くされていた。しかしながら、他の手段により、通過帯域高域側の阻止域の少なくとも下端の周波数と、電極の周期で定まる波長との積を、遅い横波の音速よりも小さくしてもよい。すなわち、弾性境界波フィルタにおいて、通過帯域や高域側の阻止域の周波数帯域及び減衰量は、要求仕様によって異なる。従って、要求仕様を満足するように、電極の周期により決定される波長λ、電極の厚みまたは密度により決定される音速、媒質層の構造等により決定される媒質層を伝播する遅い横波の音速などを適宜調整し、上記のように、電極の周期で定められる波長λと、通過帯域高域側の阻止域の下端の周波数との積を、上記遅い横波の音速よりも小さくすればよい。
【0073】
上記のように、電極膜厚を厚くすることにより、境界波の音速を遅い横波の音速よりも低速化し得るのは以下の理由による。図10は、SH型の弾性境界波共振子における変位成分U1,U2,U3の計算値を示す図である。図10から明らかなように、変位は境界層であるAu付近に集中し、LiNbOとSiOとに染みだしながら分布する。そのため、電極膜厚が薄い状態では、高音速であるSiOとLiNbOの影響を境界波が受けるため、SH型境界波の音速がSiOの遅い横波の音速よりも遅くできなくなる。これに対して、電極の膜厚を、厚膜化することにより、SiOの遅い横波の音速よりもSH型境界波の音速を低速化することができる。
【0074】
また、図11は、電極材料の密度ρと、SH型境界波の伝播損失がゼロとなる電極膜厚Hとの関係を示す図である。図11から明らかなように、下記の式(2)の条件を満たすことにより、伝播損失αがゼロのSH型境界波が得られることがわかる。そして、この式(2)を満たすように電極膜厚を厚くすることにより、上記のように、境界波の音速をSiOを伝播する遅い横波の音速よりも遅くすることができる。
【0075】
H(λ)>8261.744ρ−1.376 ………(2)
また、本発明においては、電極がAu以外の金属で構成されてもよく、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti、Ptまたは他の金属を用いて構成することができる。また、上記密着性や耐電力性を高めるために、Ti、CrまたはNiCrなどからなる薄い金属層を主たる電極層に積層してもよい。さらに、上記薄い金属層は、第1の媒質と主たる電極層との間、第2の媒質と主たる電極層との間、あるいは複数の電極層からなる電極の中間層のいずれに配置してもよい。また、本発明においては、電極は、複数の金属からなる合金を用いて構成されていてもよい。
【0076】
そして、上記のように様々な材料から電極が構成されるが、電極全体の膜厚は、上記式(2)を満たすように構成すればよく、それによって弾性境界波の音速を、遅い横波の音速よりも遅くすることができる。
【0077】
なお、上記実施形態では、電極膜厚を厚くすることにより弾性境界波の音速が、遅い横波の音速よりも遅くされていたが、その他、上記のように電極の密度を調整する方法、あるいはデューティ比を調整する方法によっても弾性境界波の音速を、遅い横波の音速よりも遅くすることができる。
【0078】
さらに、本発明に係る弾性境界波装置では、誘電体−電極−圧電体の積層構造の積層方向外側に弾性境界波装置の強度を高めるため、あるいは腐食ガスなどの侵入を防止するために保護層を形成してもよい。場合によっては、本発明の弾性境界波装置は、パッケージに封入されてもよい。
【0079】
なお、上記保護層としては、酸化チタン、窒化アルミ、酸化アルミなどの絶縁性材料、あるいはAu、AlまたはWなどの金属膜、ウレタン、エポキシ、シリコンなどの樹脂により構成され得る。
【0080】
また、本発明では、上記圧電体は、誘電体上に成膜された圧電膜であってもよい。
【0081】
また、本発明に係る弾性境界波フィルタは、上述した3IDT構造の縦結合フィルタに限定されない。すなわち2個以上のIDT電極を有する縦結合型のフィルタや、図12に示すように、1ポート型共振子からなる複数の直列腕共振子S1,S2及び複数の並列腕共振子P1〜P3を梯子型回路構成を有するように接続してなるラダー型フィルタであってもよい。また、本発明に係る弾性境界波フィルタは、横結合型フィルタであってもよい。
【0082】
加えて、電気音響変換器を構成する電極についても、IDT電極だけでなく、「弾性表面波工学」、電子情報通信学会発行、第6刷、第57頁に記載のようなくし型トランスデューサを用いてもよい。この場合には、λはくし型トランスデューサのくしの配置周期により決定される。要は、電気音響変換器が励振する波長をλとすればよい。
【0083】
また、本発明に係る弾性境界波フィルタでは、図13に示すように、第2の媒質層22上に吸音媒質層23を密着形成してもよく、それによって、高次スプリアスモードを抑制したり、漏洩バルク波による劣化を抑制したりすることができる。なお、図13に示す弾性境界波フィルタでは、第1の媒質層21と第2の媒質層22との間に、電極24が配置されている構成が略図的に示されている。
【0084】
この場合、吸音媒質層は第1の媒質層21の外側表面に設けられてもよく、第1,第2の媒質層21,22の双方の外側表面に設けられてもよい。
【0085】
また、図14に示すように、第2の媒質層22の表面に凹凸を形成してもよい。凹凸の形成により、漏洩バルク波による劣化を抑制することができる。凹凸は、第2の媒質層22の外側表面に設けられてもよく、第1,第2の媒質層21,22の双方の外側表面に設けられてもよい。
【0086】
なお、本発明に係る弾性境界波フィルタにおいて、第1,第2の媒質層を構成する材料は、LiNbOやSiOに限定されない。例えば、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ランガナイト、水晶、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックス、ZnO、またはAlNなどの様々な圧電体を用いてもよく、ガラス、シリコン、サファイヤ、窒化シリコン、窒素化炭素などの様々な誘電体を用いてもよい。
【0087】
また、第1,第2の媒質層は単一の材料で構成されている必要は必ずしもなく、複数の材料層を積層した構造を有していてもよい。この場合、弾性境界波高次スプリアスモード、漏洩バルク波のエネルギーが分布するいずれかの材料層の音速を、上述した式(1)を満たすようにすればよい。例えば、電極としてAuを用いた弾性境界波のエネルギーは、境界層の上下1λ程度にほぼ集中するが、電極の密度がAuほど大きくない電極材料を用いた場合には、閉じ込め効果が弱くなり、10λ程度の範囲にまで分布することがある。従って、応答強度の小さい高次スプリアスモードの抑制を図るには、境界層から10λ程度までの媒質層部分における音速に注意を払う必要がある。
【0088】
また、本発明においては、第1,第2の媒質層の外側に、強度を高めたり、腐食性ガスの浸入を防止するための保護層を形成したり、場合によっては、第1,第2の媒質層の積層構造をパッケージに封入してもよい。上記保護層を形成する材料は特に限定されず、酸化チタン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどの絶縁性材料により構成されてもよく、Au、AlまたはWなどの金属により形成されてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1…弾性境界波共振子
2…LiNbO基板(第1の媒質層)
3…IDT電極
4,5…反射器
6…SiO膜(第2の媒質層)
11…弾性境界波フィルタ
21…第1の媒質層
22…第2の媒質層
23…吸音媒質層
101…LiNbO基板(第1の媒質層)
102〜104…IDT電極
105,106…反射器
107,108…配線電極
109…SiO膜(第2の媒質層)
110…弾性境界波フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の媒質層と、前記第1の媒質層に積層された第2の媒質層と、前記第1,第2の媒質層の境界に配置されており、電気音響変換器を構成している電極とを備え、
前記電極の周期により決定される波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域の下端の周波数との積が、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも小さくされており、
送信フィルタと受信フィルタとを有する通信装置に用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタに用いられ、
相対的に中心周波数が低い側のフィルタにおいて、電極の周期により決定される前記波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域であって、相対的に中心周波数が高い側のフィルタの通過帯域下端の周波数との積が、前記遅い横波の音速よりも小さくされており、かつ、前記第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速が低くされている、弾性境界波フィルタ。
【請求項2】
第1の媒質層と、前記第1の媒質層に積層された第2の媒質層と、前記第1,第2の媒質層の境界に配置されており、電気音響変換器を構成している電極とを備え、
前記電極の周期により決定される波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域の下端の周波数との積が、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速よりも小さくされており、
送信フィルタ及び受信フィルタを有するデュプレクサの送信フィルタまたは受信フィルタとして用いられる弾性境界波フィルタであって、相対的に中心周波数が低い側のフィルタとして用いられ、
相対的に中心周波数が低い側のフィルタにおいて、電極の周期により決定される前記波長λと、通過帯域よりも高域側の阻止域であって、相対的に中心周波数が高い側のフィルタの通過帯域下端の周波数との積が、前記遅い横波の音速よりも小さくされており、かつ、前記第1及び第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速より弾性境界波の音速が低くされている、弾性境界波フィルタ。
【請求項3】
前記第1または第2の媒質層が等方性であり、第1,第2の媒質層を伝播する遅い横波の音速をVs、第1,第2の媒質層の弾性スチフネス定数をC11,C12、密度をρとしたときに、前記音速Vsが下記の式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の弾性境界波フィルタ。
【数1】

【請求項4】
前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方の媒質層の外側表面に、吸音媒質層が形成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性境界波フィルタ。
【請求項5】
前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方の外側表面に凹凸が形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性境界波フィルタ。
【請求項6】
前記電極が、Au、Ag、Cu、Fe、Ta、W、Ti及びPtからなる群から選択された少なくとも1種の金属を用いて構成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性境界波フィルタ。
【請求項7】
前記媒質層が、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ランガナイト、水晶、PZT、ZnO、AlN、酸化珪素、ガラス、シリコン、サファイヤ、窒化シリコン及び窒素化炭素からなる群から選択された1種を用いて形成されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性境界波フィルタ。
【請求項8】
前記第1,第2の媒質層の少なくとも一方が複数の材料層を積層してなる積層構造を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性境界波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−68546(P2010−68546A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292273(P2009−292273)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2006−512117(P2006−512117)の分割
【原出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】