弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法
【課題】長期に亘って優れた特性を発揮することができる弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】圧電性を有する圧電体層13と、圧電体層13の一方の面上に設けられ、通電により圧電体層13に弾性振動を励起させる1対の櫛形電極14a、14bと、圧電体層13および/または1対の櫛形電極14a、14bに接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層15とを有し、二酸化珪素層15は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものである。
【解決手段】圧電性を有する圧電体層13と、圧電体層13の一方の面上に設けられ、通電により圧電体層13に弾性振動を励起させる1対の櫛形電極14a、14bと、圧電体層13および/または1対の櫛形電極14a、14bに接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層15とを有し、二酸化珪素層15は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フィルタ、発振器、共振器、コンボルバーなどの各種デバイスとして、SAW(弾性表面波)やBAW(バルク弾性波)などの弾性振動の伝播特性や共振特性を用いた弾性波デバイスが知られている。かかる弾性波デバイスは、圧電体と、この圧電体上に形成され通電により圧電体に弾性振動を発生させる1対の電極とを有している。
また、かかる弾性波デバイスとしては、温度補償や表面保護等の目的で、圧電体および/または電極に接するように、二酸化珪素で構成された二酸化珪素層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1には、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状層で構成された硬質層上に、二酸化珪素層、電極、圧電体が順に積層された弾性波デバイスが開示されている。
また、特許文献2には、ダイヤモンドからなる硬質層、電極、圧電体層、二酸化珪素層とが順に積層された弾性波デバイス、および、ダイヤモンドからなる硬質層、圧電体層、電極、二酸化珪素層とが順に積層された弾性波デバイスが開示されている。
【0004】
このような弾性波デバイスに備えられた二酸化珪素層はアモルファス(不定形)構造を有しているが、その膜質は製法や製造条件等によって大きく異なることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。二酸化珪素層を形成する一般的な方法としては、特許文献3にも開示されているように、スパッタリング法、CVD法、熱酸化法、プラズマ酸化法等が挙げられる。
一方、前述したような弾性波デバイスの特性は、デバイスを構成する材質に影響を受けることが知られており、特に、高周波信号を扱う等のために高い周波数を用いる弾性波デバイスにおいて、デバイスを構成する材質はデバイス特性に大きく影響を与える。
【0005】
【特許文献1】特開平5−37284号公報
【特許文献2】特開平6−164294号公報
【特許文献3】特開2005−268798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期に亘って優れた特性を発揮することができる弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の弾性波デバイスは、圧電性を有する圧電体層と、
前記圧電体層の一方の面上に設けられ、通電により前記圧電体層に弾性振動を励起させる1対の電極と、
前記圧電体層および/または前記1対の電極に接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層とを有し、
前記二酸化珪素層は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものであることを特徴とする。
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、二酸化珪素層が電極や圧電体に接触する構成の弾性波デバイスにおいて、「二酸化珪素層の膜質が弾性波デバイスの特性に大きな影響を与えること」、また、「二酸化珪素層中の構造欠陥が二酸化珪素層に経時変化をもたらす原因となること」を見出した。
本発明では、酸素流量比60%の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより二酸化珪素層を形成することで、二酸化珪素層のアモルファス構造中において、構造欠陥を伴う3員環以上の環状構造の数を少なくすることができる。そのため、かかる二酸化珪素層は、構造欠陥が少ない膜質を有するので、弾性波デバイスの特性を向上させることができる。また、かかる二酸化珪素層は、特に化学的に不安定な平面リング構造をなす3員環などの環状構造の数が少ないため、膜質の安定性に優れ、弾性波デバイスの優れた特性を長期に亘って維持することができる。
【0009】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが1.2以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0010】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0011】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0012】
本発明の弾性波デバイスでは、下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46であることが好ましい。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0013】
本発明の弾性波デバイスでは、前記各電極は、櫛形電極であり、該1対の櫛形電極に通電することにより、前記圧電体層に弾性表面波を励振させるように構成されていることが好ましい。
これにより、挿入損失が少なく、発信周波数の安定性に優れた弾性表面波素子を提供することができる。
【0014】
本発明の弾性波デバイスでは、前記圧電体層を支持する基板を有することが好ましい。
これにより、圧電体層の形成を簡単化しつつ、所望の特性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
本発明の弾性波デバイスでは、前記圧電体層は、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素で構成された硬質層を介して前記基板上に接合されていることが好ましい。
これにより、弾性表面波の音速を高めることができる。そのため、高周波用の弾性波デバイスを容易に製造することができる。
【0015】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0016】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記圧電体層と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0017】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記1対の電極と反対側の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0018】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の弾性波デバイスおよびその製造方法の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる弾性波デバイスの概略構成を示す断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すように、本実施形態の弾性波デバイス10は、トランスバーサル型の弾性表面波素子であり、基板11、硬質層12、圧電体層13、2つの櫛形電極対(IDT:Inter digital Transducer)14、二酸化珪素層15がこの順に積層されている。かかる弾性波デバイス10では、2つの櫛形電極対14のうちの一方の櫛形電極対14に電気信号を入力することにより、圧電体層13に弾性表面波を励振させ、他方の櫛形電極対14から特定周波数帯域の電気信号を取り出す。
【0020】
以下、弾性波デバイス10を構成する各部を順次詳細に説明する。
基板11は、例えば、Si、GaSi、SiGe、GaAs、STC、InPのような各種半導体材料、各種ガラスのような各種セラミックス材料、ポリイミド、ポリカーボネートのような各種樹脂材料等で構成されている。
このような基板11を有していると、圧電体層13の形成を簡単化しつつ、所望の特性を有する弾性波デバイス10を得ることができる。
【0021】
なお、基板11は、単層で構成されたもののみならず、複数の層の積層体で構成されたものでもよく、この場合、各層は、前述したような材料を任意に組み合わせて用いることができる。
このような基板11の一方の面(上面)上には、硬質層(下地層)12が形成されている。
この硬質層12は、圧電体層13において励振される弾性表面波の特性(条件)を設定する機能を有するものである。
この特性としては、例えば、発振周波数、振幅、伝搬速度等が挙げられる。
【0022】
硬質層12を設け、その構成材料を適宜設定することにより、弾性表面波の特性を所望のものに設定することが可能となる。この硬質層12の構成材料としては、ダイヤモンド、シリコン、サファイヤ、ガラス、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウムのうちの少なくとも1種を主とするものが好ましく、特に、ダイヤモンド、サファイヤ、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウムのうちの少なくとも1種を主とするものが好適であり、さらには、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素が好適である。このような材料で硬質層12を構成することにより、弾性表面波の音速を高めることができる。その結果、高周波用の弾性波デバイスを容易に製造することができ、無線LANや光通信などの高速通信分野への適用を目的として要求される弾性表面波の高周波化に寄与することができる。ここで、ダイヤモンド状炭素は、アモルファス構造を有する炭素と水素の化合物であり、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有する透光性の絶縁体である。
【0023】
なお、硬質層12は、単層で構成されたもののみならず、目的とする弾性表面波の特性に応じて、複数の層の積層体で構成することもできる。また、硬質層12は、必要に応じて設けられるものであり、省略することもできる。
このような硬質層12の基板11と反対側の面(上面)上には、圧電体層13が形成されている。
【0024】
圧電体層13は、圧電性を有し、弾性表面波の伝搬媒体として機能するものである。
この圧電体層13は、圧電材料を主材料として構成されている。圧電材料としては、特に限定されないが、例えば、ZnO、AlN、LiTaO3、LiNbO3、KNbO3、ZnS、ZnSe、CdSなどを用いることができる。
このような圧電体層13の硬質層12と反対側の面(上面)上には、2つの櫛形電極対14が形成されている。
【0025】
2つの櫛形電極対14のうち、一方の櫛形電極対(入力側の電極対)14は、圧電体層13に電圧を印加して、圧電体層13に弾性表面波を励振させる機能を有するものであり、他方の櫛形電極対(出力側の電極対)14は、圧電体層13を伝搬する弾性表面波を検出し、弾性表面波を電気信号に変換して外部に出力する機能を有するものである。
このような各櫛形電極対14は、櫛歯状をなすように並設された複数の電極指を有する1対の櫛形電極14a、14bで構成されている。各櫛形電極対14において、1対の櫛形電極14a、14bは、互いに間隔を隔てて噛み合うように配設されている。そして、入力側の1対の櫛形電極14a、14b間に駆動電圧が入力されると、圧電体層13において弾性表面波が励振され、出力側の1対の櫛形電極14a、14bからフィルタリング機能による特定の周波数帯域の電気信号が出力される。
ここで、1対の櫛形電極14a、14b間の距離は、励起される弾性表面波の波長に対応しており、例えば、1μm程度までの微細化が可能である。また、櫛形電極の電極指の幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波素子の特性を所望のものに設定することができる。
【0026】
各櫛形電極対14(各櫛形電極14a、14b)の構成材料としては、それぞれ、例えば、Al、Cu、W、Mo、Ti、Au、Y、Pb、Scまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような2つの櫛形電極対14を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層15が形成されている。本実施形態では、二酸化珪素層15は、各櫛形電極対14および圧電体層13のそれぞれに接するように形成されている。
【0027】
二酸化珪素層15は、弾性波デバイス10の温度補償(例えば、温度変化に伴って発振周波数が変動する現象を低減すること)や、弾性波デバイス10の表面保護等の機能を有するものである。本実施形態では、二酸化珪素層15は、各櫛形電極対14と、櫛形電極対14によって励振される弾性表面波の伝播経路を完全に被覆している。
この二酸化珪素層15は、後述するように、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものである。
【0028】
このような二酸化珪素層15は、二酸化珪素層のアモルファス構造を有しているが、かかるアモルファス構造中において、例えば酸素欠乏型欠陥のような構造欠陥を伴う3員環以上の環状構造(特に3員環の平面リング状構造)の数を少なくすることができる。そのため、かかる二酸化珪素層15は、構造欠陥が少ない膜質を有するので、弾性波デバイス10の特性を向上させることができる。また、かかる二酸化珪素層15は、特に化学的に不安定な平面リング構造をなす3員環などの環状構造の数が少ないため、膜質の安定性に優れ、弾性波デバイス10の優れた特性を長期に亘って維持すること(デバイス特性の安定性を向上させること)ができる。
【0029】
また、このような二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが、1.2以下であるのが好ましく、1.1以下であるのがより好ましい。
ここで、上記の波数800〜850cm−1の領域内に存在するピークは二酸化珪素層15のアモルファス構造中のSi−O結合のLOモード(縦光学モード)に対応するピークであり、また、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークは4員環の振動モードに対応するピークである。したがって、かかるスペクトルにおける両ピークの強度比P4/Psが前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う4員環の環状構造を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、4員環の環状構造に対応するピークは強度が比較的高いので、前述したような強度比P4/Psは、二酸化珪素層15の膜質を正確に反映した指標として用いることができる。
【0030】
また、二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下であるのが好ましく、0.97以下であるのがより好ましい。
ここで、上記の波数600〜620cm−1の領域内に存在するピークは3員環の環状構造に対応するピークである。したがって、かかるスペクトルにおける両ピークの強度比P3/Psが前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う3員環の環状構造の数を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、3員環の環状構造に対応するピークは比較的小さいが、3員環の環状構造は平面リング構造をなし化学的に不安定でありアモルファス構造中の構造欠陥に強く相関しているため、二酸化珪素層の膜質を反映する指標として好適である。
【0031】
また、二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下であるのが好ましい。
ここで、波数250〜510cm−1の区間は4員環以上の環状構造に対応するピーク群が存在する領域であり、波数800〜840cm−1の区間は上記LOモードに対応するピークが存在する領域である。したがって、かかるスペクトルにおける両領域の強度積分値の比I1/I2が前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う4員環以上の環状構造を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、4員環以上の環状構造に対応するピークは強度が高く、しかも、アモルファス構造中の構成比率も高いものと思われるので、当該領域の強度積分値の比率は構造欠陥の程度を正確に表す良好な指標として用いることができる。
【0032】
また、二酸化珪素層15では、下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46であるのが好ましい。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
【0033】
ここで、定数項Aは波長λに依存しない項である。なお、ここで示した上記の分散式はλの−2乗の項(係数Bを有する項)よりも高次の項を省略した簡易式である。
かかる定数項Aが前述したような条件を満たしていると、3員環以上の環状構造の数を少なくして、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。特に、定数項Aが1.44〜1.45であると、二酸化珪素層15をスパッタリング法で形成するのが容易となるので、好ましい。
以上のように構成された弾性波デバイス10は、以下のようにして製造することができる。
【0034】
図2は、図1に示す弾性波デバイスの製造方法を説明するための図(断面図)、図3は、図1に示す弾性波デバイスの二酸化珪素層の形成に用いるスパッタリング装置の一例の概略構成を示す図である。
弾性波デバイス10の製造方法は、[1]硬質層12を形成する工程と、[2]圧電体層13を形成する工程と、[3]2つの櫛形電極対14を形成する工程と、[4]二酸化珪素層15を形成する工程とを有する。
【0035】
以下、各工程を順次説明する。
[1] 硬質層12の形成工程
まず、基板11を用意し、図2(a)に示すように、基板11上に硬質層12を形成する。
硬質層12の形成には、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射、シート状部材の接合等を用いることができる。
特に、硬質層12をダイヤモンドで構成する場合、その形成方法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、電子ビーム蒸着法等を用いることができる。また、硬質層12をダイヤモンド状炭素で構成する場合、その形成には、プラズマCVD法、イオンビーム蒸着法、スパッタリング法等を用いることができる。
[2] 圧電体層13の形成工程
次に、図2(b)に示すように、硬質層12上に圧電体層13を形成する。
圧電体層13の形成には、前述した工程[1]の硬質層12の形成方法と同様の方法を用いることができる。
【0036】
[3] 櫛形電極対14の形成工程
次に、図2(c)に示すように、圧電体層13上に、2つの櫛形電極対14を形成する。その際、例えば、圧電体層13上に導電性材料層を形成した後、この導電性材料層に2つの櫛形電極対14に対応する形状のマスクを用いて、エッチングを施すことにより櫛形電極対14を得る。これにより、基板11上に硬質層12、圧電体層13、櫛形電極対14が順次設層された構造体である基材100を得る。
【0037】
導電性材料層の形成には、例えば、ディッピング法、印刷法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合等を用いることができる。
また、エッチングには、例えば、リアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチングのようなドライエッチング、ウェットエッチング等を用いることができる。
【0038】
[4] 二酸化珪素層15の形成工程
次に、図2(d)に示すように、圧電体層13上に、2つの櫛形電極対14を覆うように、二酸化珪素層15を形成する。
二酸化珪素層15は、例えば、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング装置やECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置等を用いたスパッタリングによって形成することができる。これらのスパッタリング装置では、装置のチャンバー内に酸素流量比60%以上の雰囲気となるようにAr等の不活性ガスと、酸素ガスとを供給しながら、所定の内圧となるように排気を行った状態で、二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを実施する。
より具体的に説明すると、二酸化珪素層15は、例えば、図3に示すようなスパッタリング装置200を用いて形成される。
【0039】
図3に示すスパッタリング装置200は、イオンビームを照射するイオン源(イオンビーム源)201と、イオンビームの方向に電子を放出するニュートラライザ202と、真空チャンバ203と、真空チャンバ203内の圧力を制御する排気ポンプ204と、二酸化珪素層15が形成されるべき基材100を真空チャンバ203内に固定する基材ホルダー205と、ターゲット500を保持するターゲット保持部材(バッキングプレート)206とを有している。
【0040】
イオン源201は、イオンビームを照射するものであり、本実施形態では、RFイオン源を用いている。イオン源(RFイオン源)201では、酸素を含むガスをガス供給源207から供給するとともに、当該ガスをRF放電させることにより、イオン化(プラズマ化)させる。そして、グリッド(図示せず)間に電圧を印加することにより、イオン化(プラズマ化)されたガスをイオンビームとして出射させる。
【0041】
ニュートラライザ202は、イオンビームの方向に電子を放出するものである。これにより、ターゲット500等に、過剰な電荷が溜まるのを防止抑制することができ、継続的に成膜を行った場合であっても、スパッタ粒子を基材100に向けて安定的に引き出すことができる。
また、ターゲット保持部材206は、通常、ステンレス鋼、銅、銅合金等の熱伝導性に優れる金属材料で構成されている。二酸化珪素層15の形成時には、ターゲット500は、In等のボンディング剤を介して、ターゲット保持部材206に固定される。
【0042】
以上のように構成されたスパッタリング装置200を用いて二酸化珪素層15を形成するに際しては、まず、真空チャンバ203内のターゲット保持部材206に、SiO2で構成されたターゲット500を設置する。
そして、真空チャンバ203内の基材ホルダー205に、基材100(基板11上に硬質層12、圧電体層13、櫛形電極対14が順次設層された構造体)を設置する。
その後、排気ポンプ204により、真空チャンバ203内を減圧する。
【0043】
次に、イオン源201内に、ガス供給源207よりガス(後に詳述するような酸素を含むガス)を供給するとともに、イオン源201において放電(RFまたはDC放電)を行うことにより、導入されたガスをイオン化(プラズマ化)する。そして、図示しないグリッド間に電圧を印加することにより、イオン化(プラズマ化)されたガスを加速し、イオンビームとして、ターゲット500に向けて出射させる。
【0044】
一方、ニュートラライザ202からは、イオン源201から出射されたイオンビームの方向に向けて、電子を放出させる。これにより、イオン源201から出射されたイオンビームの電気的な中和が進行する。そのため、ターゲット500等に過剰な電荷が溜まるのを防止抑制することができ、継続的に成膜を行った場合であっても、スパッタ粒子を基材100に向けて安定的に引き出すことができる。
【0045】
イオン源201から出射されたイオンビーム(ニュートラライザ202からの電子により電気的な中和が進行したビーム)は、ターゲット500に衝突する。これにより、ターゲット500からは、スパッタ粒子が引き出され、当該スパッタ粒子を基材100上に入射、堆積させる。
そして、上記のようなイオンビームの照射を続けることにより、スパッタ粒子の基材100上への入射、堆積が進行し、基材100上に二酸化珪素層15が形成される。これにより、弾性波デバイス10が得られる。
【0046】
スパッタリングによる二酸化珪素層の形成に際して、従来では、酸素流量比20〜40%程度の雰囲気中でスパッタリングを行うことが一般的であるが、本発明者等は、酸素流量比60%以上の雰囲気中でスパッタリングを行うことで、形成される二酸化珪素層のアモルファス構造中における3員環以上の環状構造の比率を低くすること、すなわち、構造欠陥の少ない二酸化珪素層が得られることを見出した。
例えば、前述したようなスパッタリング装置200を用いて二酸化珪素層15を形成する場合、ガス供給源207は、イオン源201に、酸素流量比60%以上のガス(例えば、酸素ガスおよびアルゴンガスの混合ガス)を供給する。
【0047】
すなわち、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスを供給する。なお、本実施形態では、酸素ガスをイオン源201を経由して真空チャンバ203内に供給するが、イオン源201を経由せずに直接真空チャンバ203内に酸素ガスを供給してもよい。この場合、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスが供給されていれば、ガス供給源207は、イオン源201に、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガスを供給してもよいし、アルゴンガスのみを供給してもよい。また、ガス供給源207からイオン源201に供給されるガス(プラズマ化させるガス)としては、上記のアルゴンガスおよび酸素ガスに限定されない。
【0048】
ここで、酸素流量比とは、スパッタリング時に真空チャンバ203内に導入されるガスの全流量における酸素ガスの占める割合を言う。例えば、スパッタリング時に真空チャンバ203に不活性ガスおよび酸素ガスが導入される場合、酸素流量比は、(酸素ガス流量[sccm]/(不活性ガス流量[sccm]+酸素ガス流量[sccm])である。また、酸素流量比は、真空チャンバ203の内圧における酸素ガスの分圧の比率に対応している。
【0049】
また、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスが供給されていればよいが、酸素流量比75〜95%とすることがより好ましい。これにより、構造欠陥の少ない二酸化珪素層15を簡単かつ確実に得ることができる。これに対し、酸素流量比が前記上限値を超えると(大きくなる過ぎると)、スパッタ効率が低下する傾向を示す。
また、ガス供給源207からイオン源201に導入されるガスは、一定の組成を有するものであってもよいが、組成が経時的に変化するものであってもよい。例えば、イオン源201に導入するガスの酸素濃度(酸素流量比)を経時的に変化させてもよい。
【0050】
この場合、イオン源201に導入するガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガスを用い、この混合ガス中における酸素ガスの濃度(酸素流量比)を経時的に増加させると、初期段階では、酸素(O2)に比べてプラズマ化しやすいアルゴンガスの比率を高めることにより、プラズマを効率良く発生させることができるとともに、その後には、酸素を高い濃度で含むイオンビームを照射することができる。
以上のような工程を経て、本発明の弾性波デバイス10が製造される。この弾性波デバイス10の電気的特性および温度特性は、例えば、ネットワークアナライザ等を用いることにより確認することができる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対のうちの少なくとも一方に接した構成であれば、前述した構成に限られず、本発明を適用することができる。ここで、前述した弾性波デバイス10の構成以外に本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を説明する。
【0052】
図4は、本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
なお、以下の説明では、前述した実施形態と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
図4(a)に示す弾性波デバイスは、前述した基板11と同様の基板1上に、圧電体層13と同様の圧電体層2、櫛形電極対14と同様の2つの櫛形電極対3、二酸化珪素層15と同様の二酸化珪素層4がこの順で積層されている。
【0053】
図4(b)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、2つの櫛形電極対3、圧電体層2、二酸化珪素層4がこの順で積層されている。
図4(c)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、二酸化珪素層4、2つの櫛形電極対3、圧電体層2がこの順で積層されている。
図4(d)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、二酸化珪素層4、圧電体層2、2つの櫛形電極対3がこの順で積層されている。
【0054】
以上のように、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対のうちの少なくとも一方に接した構成であれば、本発明の効果を発揮することができる。特に、図1や図4に示すように、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対3の双方に接するように形成されている場合に、本発明の効果が顕著である。
以上、本発明の弾性波デバイスの実施形態を説明したが、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0055】
例えば、前述した実施形態の弾性波デバイスとしては、弾性表面波素子を一例として挙げて説明したが、本発明は弾性表面波素子に限らず、各種の圧電振動素子、例えば、圧電体の表裏両面を電極で挟んだ構造等を有するBAW(Bulk Acoustic Wave)素子、具体的には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)型の素子構造を備えたもの、音響インピーダンスの異なる層を交互に繰り返し積層してなる音響反射多層膜を上記の積層構造と基板との間に配置したSMR(Solid Mounted Resonator)型の素子構造を備えたものなどにも同様に適用することができる。
【0056】
また、電極構造も図示例に限定されず、種々の電極構造を用途に応じて構成できる。例えば、共振器を構成する場合には入出力電極を構成するくし形電極対の両側に、間隔を隔てて一対の反射器を配設することができる。
また、前述した実施形態(図1)において、櫛形電極対14とは反対側の圧電体層13の面(図示下面)上にアルミニウムや金等で構成された短絡電極を形成してもよい。この場合、短絡電極は、平面視にて櫛形電極対14の形成範囲にのみ形成してもよいし、伝播領域を含めて形成してもよい。このような短絡電極を設けると、圧電体層13の櫛形電極対14の形成された面とは反対側の面を等電位化し、励振効率を高めることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。
1.弾性波デバイスの作製
(実施例1)
図1に示すような構成の弾性波デバイスを作製した。
具体的には、まず、基板(平均厚さ800μmのシリコン基板)上に硬質層(平均厚さ20μmの多結晶ダイヤモンド膜)が形成されたものを用意した。
【0058】
そして、硬質層上にRFスパッタリング法でZnOを厚さ475nmとなるまで成長させ、これによって圧電体層を形成した。ここで、RFスパッタリングは、ターゲット材としてZnOの焼結体、反応ガスとしてアルゴンガス(流量50sccm)および酸素ガス(流量50sccm)の混合ガスを用い、RF電力を1.0kWとし、ガス圧力(雰囲気圧)を1.0Paとし、成膜温度を500℃とした条件で行った。
【0059】
次に、形成された圧電体層上にDCスパッタリング法によりアルミニウムを被着させ、金属材料層を平均厚さ42nmとなるように形成した。このDCスパッタリングは、ターゲット材としてアルミニウム板、反応ガスとしてアルゴンガス(流量50sccm)を用い、DC電力を1.0kWとし、ガス圧力を1.0Paとし、成膜温度を室温とした条件で行った。
【0060】
次に、形成された金属材料層上にフォトリソグラフィ法により櫛形電極対を形成するための所望のレジスト層を形成し、このレジスト層をマスクとして、反応性イオンエッチング(RIE)によりエッチングを施し、不要部分を除去して2つ(入力用および出力用)の櫛形電極対を形成した。ここで、反応性イオンエッチングのエッチングガスとしてBCl3およびCl2を主成分とするものを用いた。
【0061】
次に、RFマグネトロンスパッタリング法により2つの櫛形電極対を覆うように圧電体層上および櫛形電極対上にSiO2を被着させ、平均厚さ420nmの二酸化珪素層を形成した。ここで、二酸化珪素層の形成に際しては、ターゲットとして溶融石英を用い、アルゴンガスおよび酸素ガスを真空チャンバに供給しながら、カソードに13.56MHzの高周波を印加し、RF電力を1.0kWとし、ガス圧力を0.5Paとし、成膜温度を200℃とした条件で行った。また、真空チャンバへのアルゴンガスおよび酸素ガスの供給に際し、アルゴンガスの流量を5sccmとし、酸素ガスの流量を45sccmとし、酸素流量比(酸素ガス流量)/(アルゴンガス流量+酸素ガス流量)を90%とした。
以上のようにして実施例1の弾性波デバイスを作製した。
(実施例2)
二酸化珪素層の形成に際し、酸素流量比を80%とした以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
【0062】
(比較例1)
二酸化珪素層の形成に際し、酸素流量比を34%とした以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
(比較例2)
二酸化珪素層の形成に際し、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置(メタルモード)を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
ここで、二酸化珪素層の形成に際し、ECRスパッタリングは、マイクロ波電力を500Wとし、高周波電力を500Wとし、コイル電流を26A/26Aとし、酸素流量比を16%とし、圧力を0.145Paとした条件で行った。
【0063】
(比較例3)
二酸化珪素層の形成に際し、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置(オキサイドモード)を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
ここで、二酸化珪素層の形成に際し、ECRスパッタリングは、マイクロ波電力を500Wとし、高周波電力を500Wとし、コイル電流を26A/26Aとし、酸素流量比を18.5%とし、圧力を0.156Paとした条件で条件で行った。
【0064】
2.評価
各実施例および各比較例について、二酸化珪素層をラマン分光法で解析した。
<ラマン分光スペクトル>
各実施例および各比較例について、ラマン分光スペクトルを測定した。その結果を図5および図6に示す。
【0065】
図5は、実施例1および比較例1にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフであり、図6は、実施例2および比較例1〜3にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
ここで、ラマン分光スペクトルの測定には、ラマン分光スペクトル用評価試料として、シリコン基板上にスパッタリングによりアルミニウム薄膜を30nm成膜し、このアルミニウム薄膜上に各実施例および各比較例と同様の方法により二酸化珪素層を形成したものを用いた。
【0066】
また、ラマン分光スペクトルの測定では、光源として514.5nmのレーザ光(Arレーザ)を用い、このレーザ光を二酸化珪素層表面に照射し、ラマン散乱光を分光器(ダブルモノクロメータ)にて分光して光電子増倍管で検出した。
各実施例および各比較例に関して、図3および図4に示すように、いずれのラマン分光スペクトルにおいても、840cm−1付近にSi−OボンドのLOモードの格子振動に対応するピークPsが観測され、また、610cm−1付近に3員環の格子振動に対応するピークP3が観測され、さらに、495cm−1付近に4員環の格子振動に対応するピークP4が観測された。
【0067】
また、ピークP4を最大波数域にあるピークとして、その低波数側に広がる範囲(ほぼ波数370〜500cm−1の範囲)に複数のピーク群Pgが見られた。これらのピーク群Pgは、ピークP4を含め4員環以上の環状構造に起因する格子振動に対応する複数のピークを含んでいる。3員環や4員環以上の環状構造は、構造欠陥(例えば、酸素欠乏型欠陥)を伴うものであり、これらのピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度が大きいほど膜質が悪いことを意味する。
【0068】
<ラマン分光スペクトルのピーク強度比>
図3から明らかなように、比較例1では、ピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度が比較的高い。これに対し、実施例1では、ピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度がいずれも比較的低くなっている。
ここで、実施例1、2および比較例1に関し、ピークPsの強度に対するピークP3およびP4のそれぞれの強度比(P3/PsおよびP4/Ps)を算出した。その結果を図7に示す。
【0069】
図7は、二酸化珪素層のラマン分光スペクトルのピーク強度比と、スパッタリング時の酸素流量比との関係を示すグラフである。
図4から明らかなように、強度比P3/PsおよびP4/Psは、いずれも、酸素流量比が増加するに従って低下しており、酸素流量比と相関性を有していることがわかる。
また、比較例1では、強度比P3/Psが1.10、強度比P4/Psが1.27であり、また、比較例2では、強度比P3/Psが1.07、強度比P4/Psが1.32であった。これに対し、実施例1では、強度比P3/Psが0.94、強度比P4/Psが1.05であり、また、実施例2では、強度比P3/Psが0.96、強度比P4/Psが1.19であった。
【0070】
なお、ピークP3は構造欠陥と強い関係にある3員環に対応するものであるため、強度比P3/Psは二酸化珪素層の膜質を表す指標としては好適なものである。ただし、ピークP3はピーク強度そのものが弱いため、測定精度は必ずしも高くない。一方、ピークP4は4員環に対応するものであるが、そのピーク強度はピークP3に比べて強いため、強度比P4/Psの測定精度は高く、二酸化珪素層の膜質を表す指標としてより正確なものである。
また、上記ラマン分光スペクトルにおいて、250〜510cm−1の波数範囲の強度積分値I1と、800〜840cm−1の波数範囲の強度積分値I2との比I1/I2を調べたところ、比較例1ではI1/I2=53であったのに対し、実施例1ではI1/I2=48であった。
【0071】
<アニール処理によるラマン分光スペクトルの変化>
実施例1および比較例1に関し、二酸化珪素層にアニール処理を施し、その前後でのラマン分光スペクトルを前述の方法と同様にして測定した。その結果を図8および図9に示す。
図8は、比較例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフであり、図9は、実施例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
ここで、アニール処理は、真空雰囲気中において300℃で30分間実施した。
【0072】
図8に示すように、比較例1では、アニール処理によってピークP3およびP4並びにピーク群Pgが大きく低減されていることから、3員環、4員環以上の環状構造に伴う構造欠陥が低減されることがわかる。すなわち、比較例1の二酸化珪素層は構造欠陥が多いことから、構造的な安定性に乏しいことがわかる。
一方、図9に示すように、実施例1では、アニール処理を施してもピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度がほとんど変化していない。すなわち、実施例1の二酸化珪素層は構造欠陥が少ないことから、構造的な安定性が高いことがわかる。
【0073】
<挿入損失>
実施例1および比較例1の弾性表面波デバイスについて、それぞれ、フィルタ特性として、Sパラメータの測定結果から挿入損失の周波数特性を求めた。その結果を図10に示す。
図10は、比較例1(図示点線)および実施例1(図示実線)にかかる弾性波デバイスの挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。
ここで、Sパラメータの測定はヒューレットパッカード社製のベクトルネットワークアナライザHP8753c(製品番号)を用いた。
【0074】
図10に示すように、通過帯域における挿入損失は、比較例1では−6.5dBであったが、実施例1では−5.3dBとなり、大幅に向上した。これは上述のように比較例1に対して実施例1では構造欠陥が少なくなった結果、反射係数および電気機械結合係数が増大したことを意味する。このように性能向上が図られることで、デバイス(SAWフィルタ)の小型化を図ることが可能になる。
【0075】
<周波数変動率>
次に、実施例1および比較例1の弾性表面波デバイスについて、圧力10−8Pa以下の真空容器内で300℃、3時間のアニール処理を施し、その後、弾性波デバイスとパッケージをアルミニウム線でボンディングし、窒素雰囲気中にてシーム溶接によってリッドとパッケージを接合し、弾性波デバイスをパッケージ内に封入した。そして、このように完成させた製品に発振周波数測定を行ってから、85℃の恒温槽内に保管し、所定時間ごとに発振周波数測定を行い、時間の経過による周波数の変動特性を調べた。その結果を図11に示す。
【0076】
図11は、比較例1および実施例1にかかる弾性表面波デバイスの高温放置試験における周波数の時間変動を示すグラフである。
図11に示すように、発振周波数の変動率ΔFは、比較例1では100時間経過で−40ppm、300時間経過で−80ppmとなり、600時間経過すると周波数変動量は−100ppmを越えた。これに対し、実施例1では、300時間を越えてもほとんど発振周波数の変動は観察されなかった。すなわち、実施例1の弾性波デバイスでは、上記のような加熱条件においても周波数の変動は全く発生しなかった。
以上のように、二酸化珪素層の構造欠陥が少なくなるに従ってデバイス特性が向上し、特に、周波数の安定性がきわめて高く、加温状態における時間経過による周波数の変動もほとんどないことがわかる。
【0077】
<コーシーの分散式における定数項A>
以上の説明では、膜質(構造欠陥の程度)に着目して二酸化珪素層のラマン分光スペクトルと弾性表面波デバイスの特性との関係を見てきたが、二酸化珪素層の膜質を反映する他の特性指標としては、光学定数(屈折率)が挙げられる。
そこで、各実施例および各比較例について、二酸化珪素層の光学定数を測定し、デバイス特性との関係を検討した。
【0078】
ここで、二酸化珪素層の光学定数の測定には、測定用試料として、シリコン基板上に各種方法により約70nmの厚みの二酸化珪素層を形成したものを用いた。また、測定用試料として、前述した実施例1、2および比較例1〜3と同様の条件でそれぞれ二酸化珪素層を形成した。すなわち、RFマグネトロンスパッタリングにて酸素流量比を5%、34%(比較例1)、80%(実施例2)、90%(実施例1)のそれぞれの条件で二酸化珪素層を形成したもの、ECRスパッタリング(メタルモード)にて酸素流量比16%(比較例3)、ECRスパッタリング(オキサイドモード)にて酸素流量比18.5%(比較例4)の条件で二酸化珪素層を形成したものをそれぞれ用意した。そして、これらの試料における二酸化珪素層の光学定数を測定するとともに、一般的なCVD法で成膜したものの文献データ(文献名:非晶質シリカ材料応用ハンドブックサイペック 1999/05出版 編集委員長 川副博司 リアライズ社)、熱酸化膜、溶融石英のそれぞれの光学定数を調べた。
【0079】
光学定数の決定には、SOPRA社の分光エリプロメトリ装置SE−5を用いた。また、光学定数は、計測データを光学分散式にフィッティングすることによって求めた。このようにして得た光学定数の算出結果を図12に示す。ここで示す光学定数は、前述したコーシーの分散式における定数項A(波長λに依存しない項)である。
一般的に、熱酸化膜や溶融石英は構造欠陥が少なく、構造的に安定であることが知られているが、これらと比較すると、比較例1〜3の定数項Aはいずれも熱酸化膜や溶融石英と大きな差を有するのに対して、実施例1、2の定数項Aは熱酸化膜や溶融石英に極めて近いことがわかる。
【0080】
また、RFマグネトロンスパッタリングにて成膜した比較例1および実施例1、2等の定数項Aの酸素流量比依存性を図13に示す。図13に示すように、スパッタ時の酸素流量比が増加するに従って定数項Aが低下していることがわかる。
また、図13に示すように、コーシー分散式における定数項Aが1.44〜1.46の範囲にあれば、弾性波デバイスに特性向上の効果が得られることがわかった。かかる範囲は、熱酸化膜や溶融石英などといった極めて安定な二酸化珪素の光学特性と合致するものであるからである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の弾性波デバイスの好適な実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す弾性波デバイスの製造方法を説明するための図である。
【図3】図1に示す性波デバイスの二酸化珪素層の形成に用いるスパッタリング装置の一例の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
【図5】実施例1および比較例1にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例2および比較例1〜3にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図7】二酸化珪素層のラマン分光スペクトルのピーク強度比と、スパッタリング時の酸素流量比との関係を示すグラフである。
【図8】比較例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図10】比較例1および実施例1にかかる弾性波デバイスの挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。
【図11】比較例1および実施例1にかかる弾性表面波デバイスの高温放置試験における周波数の時間変動を示すグラフである。
【図12】各種の方法で形成された二酸化珪素の光学定数を示すグラフである。
【図13】二酸化珪素層の光学定数の酸素流量比依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10……弾性表面波デバイス 1、11……基板 12……硬質層 2、13……圧電体層 3、14……櫛形電極対 14a、14b……櫛形電極 4、15……二酸化珪素層 100……基材 200……スパッタリング装置 201……イオン源 202……ニュートラライザ 203……真空チャンバ 204……排気ポンプ 205……基材ホルダー 206……ターゲット保持部材 207……ガス供給源 500……ターゲット
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フィルタ、発振器、共振器、コンボルバーなどの各種デバイスとして、SAW(弾性表面波)やBAW(バルク弾性波)などの弾性振動の伝播特性や共振特性を用いた弾性波デバイスが知られている。かかる弾性波デバイスは、圧電体と、この圧電体上に形成され通電により圧電体に弾性振動を発生させる1対の電極とを有している。
また、かかる弾性波デバイスとしては、温度補償や表面保護等の目的で、圧電体および/または電極に接するように、二酸化珪素で構成された二酸化珪素層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1には、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状層で構成された硬質層上に、二酸化珪素層、電極、圧電体が順に積層された弾性波デバイスが開示されている。
また、特許文献2には、ダイヤモンドからなる硬質層、電極、圧電体層、二酸化珪素層とが順に積層された弾性波デバイス、および、ダイヤモンドからなる硬質層、圧電体層、電極、二酸化珪素層とが順に積層された弾性波デバイスが開示されている。
【0004】
このような弾性波デバイスに備えられた二酸化珪素層はアモルファス(不定形)構造を有しているが、その膜質は製法や製造条件等によって大きく異なることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。二酸化珪素層を形成する一般的な方法としては、特許文献3にも開示されているように、スパッタリング法、CVD法、熱酸化法、プラズマ酸化法等が挙げられる。
一方、前述したような弾性波デバイスの特性は、デバイスを構成する材質に影響を受けることが知られており、特に、高周波信号を扱う等のために高い周波数を用いる弾性波デバイスにおいて、デバイスを構成する材質はデバイス特性に大きく影響を与える。
【0005】
【特許文献1】特開平5−37284号公報
【特許文献2】特開平6−164294号公報
【特許文献3】特開2005−268798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期に亘って優れた特性を発揮することができる弾性波デバイスおよび弾性波デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の弾性波デバイスは、圧電性を有する圧電体層と、
前記圧電体層の一方の面上に設けられ、通電により前記圧電体層に弾性振動を励起させる1対の電極と、
前記圧電体層および/または前記1対の電極に接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層とを有し、
前記二酸化珪素層は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものであることを特徴とする。
【0008】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、二酸化珪素層が電極や圧電体に接触する構成の弾性波デバイスにおいて、「二酸化珪素層の膜質が弾性波デバイスの特性に大きな影響を与えること」、また、「二酸化珪素層中の構造欠陥が二酸化珪素層に経時変化をもたらす原因となること」を見出した。
本発明では、酸素流量比60%の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより二酸化珪素層を形成することで、二酸化珪素層のアモルファス構造中において、構造欠陥を伴う3員環以上の環状構造の数を少なくすることができる。そのため、かかる二酸化珪素層は、構造欠陥が少ない膜質を有するので、弾性波デバイスの特性を向上させることができる。また、かかる二酸化珪素層は、特に化学的に不安定な平面リング構造をなす3員環などの環状構造の数が少ないため、膜質の安定性に優れ、弾性波デバイスの優れた特性を長期に亘って維持することができる。
【0009】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが1.2以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0010】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0011】
本発明の弾性波デバイスでは、前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下であることが好ましい。
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0012】
本発明の弾性波デバイスでは、下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46であることが好ましい。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
これにより、弾性波デバイスのデバイス特性およびその安定性を向上させることができる。
【0013】
本発明の弾性波デバイスでは、前記各電極は、櫛形電極であり、該1対の櫛形電極に通電することにより、前記圧電体層に弾性表面波を励振させるように構成されていることが好ましい。
これにより、挿入損失が少なく、発信周波数の安定性に優れた弾性表面波素子を提供することができる。
【0014】
本発明の弾性波デバイスでは、前記圧電体層を支持する基板を有することが好ましい。
これにより、圧電体層の形成を簡単化しつつ、所望の特性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
本発明の弾性波デバイスでは、前記圧電体層は、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素で構成された硬質層を介して前記基板上に接合されていることが好ましい。
これにより、弾性表面波の音速を高めることができる。そのため、高周波用の弾性波デバイスを容易に製造することができる。
【0015】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0016】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記圧電体層と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0017】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記1対の電極と反対側の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【0018】
本発明の弾性波デバイスの製造方法は、基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする。
これにより、優れたデバイス特性およびその安定性を有する弾性波デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の弾性波デバイスおよびその製造方法の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる弾性波デバイスの概略構成を示す断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すように、本実施形態の弾性波デバイス10は、トランスバーサル型の弾性表面波素子であり、基板11、硬質層12、圧電体層13、2つの櫛形電極対(IDT:Inter digital Transducer)14、二酸化珪素層15がこの順に積層されている。かかる弾性波デバイス10では、2つの櫛形電極対14のうちの一方の櫛形電極対14に電気信号を入力することにより、圧電体層13に弾性表面波を励振させ、他方の櫛形電極対14から特定周波数帯域の電気信号を取り出す。
【0020】
以下、弾性波デバイス10を構成する各部を順次詳細に説明する。
基板11は、例えば、Si、GaSi、SiGe、GaAs、STC、InPのような各種半導体材料、各種ガラスのような各種セラミックス材料、ポリイミド、ポリカーボネートのような各種樹脂材料等で構成されている。
このような基板11を有していると、圧電体層13の形成を簡単化しつつ、所望の特性を有する弾性波デバイス10を得ることができる。
【0021】
なお、基板11は、単層で構成されたもののみならず、複数の層の積層体で構成されたものでもよく、この場合、各層は、前述したような材料を任意に組み合わせて用いることができる。
このような基板11の一方の面(上面)上には、硬質層(下地層)12が形成されている。
この硬質層12は、圧電体層13において励振される弾性表面波の特性(条件)を設定する機能を有するものである。
この特性としては、例えば、発振周波数、振幅、伝搬速度等が挙げられる。
【0022】
硬質層12を設け、その構成材料を適宜設定することにより、弾性表面波の特性を所望のものに設定することが可能となる。この硬質層12の構成材料としては、ダイヤモンド、シリコン、サファイヤ、ガラス、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウムのうちの少なくとも1種を主とするものが好ましく、特に、ダイヤモンド、サファイヤ、タンタル酸リチウム、ニオブ酸カリウムのうちの少なくとも1種を主とするものが好適であり、さらには、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素が好適である。このような材料で硬質層12を構成することにより、弾性表面波の音速を高めることができる。その結果、高周波用の弾性波デバイスを容易に製造することができ、無線LANや光通信などの高速通信分野への適用を目的として要求される弾性表面波の高周波化に寄与することができる。ここで、ダイヤモンド状炭素は、アモルファス構造を有する炭素と水素の化合物であり、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有する透光性の絶縁体である。
【0023】
なお、硬質層12は、単層で構成されたもののみならず、目的とする弾性表面波の特性に応じて、複数の層の積層体で構成することもできる。また、硬質層12は、必要に応じて設けられるものであり、省略することもできる。
このような硬質層12の基板11と反対側の面(上面)上には、圧電体層13が形成されている。
【0024】
圧電体層13は、圧電性を有し、弾性表面波の伝搬媒体として機能するものである。
この圧電体層13は、圧電材料を主材料として構成されている。圧電材料としては、特に限定されないが、例えば、ZnO、AlN、LiTaO3、LiNbO3、KNbO3、ZnS、ZnSe、CdSなどを用いることができる。
このような圧電体層13の硬質層12と反対側の面(上面)上には、2つの櫛形電極対14が形成されている。
【0025】
2つの櫛形電極対14のうち、一方の櫛形電極対(入力側の電極対)14は、圧電体層13に電圧を印加して、圧電体層13に弾性表面波を励振させる機能を有するものであり、他方の櫛形電極対(出力側の電極対)14は、圧電体層13を伝搬する弾性表面波を検出し、弾性表面波を電気信号に変換して外部に出力する機能を有するものである。
このような各櫛形電極対14は、櫛歯状をなすように並設された複数の電極指を有する1対の櫛形電極14a、14bで構成されている。各櫛形電極対14において、1対の櫛形電極14a、14bは、互いに間隔を隔てて噛み合うように配設されている。そして、入力側の1対の櫛形電極14a、14b間に駆動電圧が入力されると、圧電体層13において弾性表面波が励振され、出力側の1対の櫛形電極14a、14bからフィルタリング機能による特定の周波数帯域の電気信号が出力される。
ここで、1対の櫛形電極14a、14b間の距離は、励起される弾性表面波の波長に対応しており、例えば、1μm程度までの微細化が可能である。また、櫛形電極の電極指の幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波素子の特性を所望のものに設定することができる。
【0026】
各櫛形電極対14(各櫛形電極14a、14b)の構成材料としては、それぞれ、例えば、Al、Cu、W、Mo、Ti、Au、Y、Pb、Scまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような2つの櫛形電極対14を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層15が形成されている。本実施形態では、二酸化珪素層15は、各櫛形電極対14および圧電体層13のそれぞれに接するように形成されている。
【0027】
二酸化珪素層15は、弾性波デバイス10の温度補償(例えば、温度変化に伴って発振周波数が変動する現象を低減すること)や、弾性波デバイス10の表面保護等の機能を有するものである。本実施形態では、二酸化珪素層15は、各櫛形電極対14と、櫛形電極対14によって励振される弾性表面波の伝播経路を完全に被覆している。
この二酸化珪素層15は、後述するように、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものである。
【0028】
このような二酸化珪素層15は、二酸化珪素層のアモルファス構造を有しているが、かかるアモルファス構造中において、例えば酸素欠乏型欠陥のような構造欠陥を伴う3員環以上の環状構造(特に3員環の平面リング状構造)の数を少なくすることができる。そのため、かかる二酸化珪素層15は、構造欠陥が少ない膜質を有するので、弾性波デバイス10の特性を向上させることができる。また、かかる二酸化珪素層15は、特に化学的に不安定な平面リング構造をなす3員環などの環状構造の数が少ないため、膜質の安定性に優れ、弾性波デバイス10の優れた特性を長期に亘って維持すること(デバイス特性の安定性を向上させること)ができる。
【0029】
また、このような二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが、1.2以下であるのが好ましく、1.1以下であるのがより好ましい。
ここで、上記の波数800〜850cm−1の領域内に存在するピークは二酸化珪素層15のアモルファス構造中のSi−O結合のLOモード(縦光学モード)に対応するピークであり、また、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークは4員環の振動モードに対応するピークである。したがって、かかるスペクトルにおける両ピークの強度比P4/Psが前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う4員環の環状構造を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、4員環の環状構造に対応するピークは強度が比較的高いので、前述したような強度比P4/Psは、二酸化珪素層15の膜質を正確に反映した指標として用いることができる。
【0030】
また、二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下であるのが好ましく、0.97以下であるのがより好ましい。
ここで、上記の波数600〜620cm−1の領域内に存在するピークは3員環の環状構造に対応するピークである。したがって、かかるスペクトルにおける両ピークの強度比P3/Psが前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う3員環の環状構造の数を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、3員環の環状構造に対応するピークは比較的小さいが、3員環の環状構造は平面リング構造をなし化学的に不安定でありアモルファス構造中の構造欠陥に強く相関しているため、二酸化珪素層の膜質を反映する指標として好適である。
【0031】
また、二酸化珪素層15は、ラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下であるのが好ましい。
ここで、波数250〜510cm−1の区間は4員環以上の環状構造に対応するピーク群が存在する領域であり、波数800〜840cm−1の区間は上記LOモードに対応するピークが存在する領域である。したがって、かかるスペクトルにおける両領域の強度積分値の比I1/I2が前述したような条件を満たしていると、構造欠陥を伴う4員環以上の環状構造を少なくすることができる。その結果、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。また、4員環以上の環状構造に対応するピークは強度が高く、しかも、アモルファス構造中の構成比率も高いものと思われるので、当該領域の強度積分値の比率は構造欠陥の程度を正確に表す良好な指標として用いることができる。
【0032】
また、二酸化珪素層15では、下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46であるのが好ましい。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
【0033】
ここで、定数項Aは波長λに依存しない項である。なお、ここで示した上記の分散式はλの−2乗の項(係数Bを有する項)よりも高次の項を省略した簡易式である。
かかる定数項Aが前述したような条件を満たしていると、3員環以上の環状構造の数を少なくして、弾性波デバイス10のデバイス特性およびその安定性の向上を向上させることができる。特に、定数項Aが1.44〜1.45であると、二酸化珪素層15をスパッタリング法で形成するのが容易となるので、好ましい。
以上のように構成された弾性波デバイス10は、以下のようにして製造することができる。
【0034】
図2は、図1に示す弾性波デバイスの製造方法を説明するための図(断面図)、図3は、図1に示す弾性波デバイスの二酸化珪素層の形成に用いるスパッタリング装置の一例の概略構成を示す図である。
弾性波デバイス10の製造方法は、[1]硬質層12を形成する工程と、[2]圧電体層13を形成する工程と、[3]2つの櫛形電極対14を形成する工程と、[4]二酸化珪素層15を形成する工程とを有する。
【0035】
以下、各工程を順次説明する。
[1] 硬質層12の形成工程
まず、基板11を用意し、図2(a)に示すように、基板11上に硬質層12を形成する。
硬質層12の形成には、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射、シート状部材の接合等を用いることができる。
特に、硬質層12をダイヤモンドで構成する場合、その形成方法には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、電子ビーム蒸着法等を用いることができる。また、硬質層12をダイヤモンド状炭素で構成する場合、その形成には、プラズマCVD法、イオンビーム蒸着法、スパッタリング法等を用いることができる。
[2] 圧電体層13の形成工程
次に、図2(b)に示すように、硬質層12上に圧電体層13を形成する。
圧電体層13の形成には、前述した工程[1]の硬質層12の形成方法と同様の方法を用いることができる。
【0036】
[3] 櫛形電極対14の形成工程
次に、図2(c)に示すように、圧電体層13上に、2つの櫛形電極対14を形成する。その際、例えば、圧電体層13上に導電性材料層を形成した後、この導電性材料層に2つの櫛形電極対14に対応する形状のマスクを用いて、エッチングを施すことにより櫛形電極対14を得る。これにより、基板11上に硬質層12、圧電体層13、櫛形電極対14が順次設層された構造体である基材100を得る。
【0037】
導電性材料層の形成には、例えば、ディッピング法、印刷法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射、金属箔の接合等を用いることができる。
また、エッチングには、例えば、リアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチングのようなドライエッチング、ウェットエッチング等を用いることができる。
【0038】
[4] 二酸化珪素層15の形成工程
次に、図2(d)に示すように、圧電体層13上に、2つの櫛形電極対14を覆うように、二酸化珪素層15を形成する。
二酸化珪素層15は、例えば、RF(高周波)マグネトロンスパッタリング装置やECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置等を用いたスパッタリングによって形成することができる。これらのスパッタリング装置では、装置のチャンバー内に酸素流量比60%以上の雰囲気となるようにAr等の不活性ガスと、酸素ガスとを供給しながら、所定の内圧となるように排気を行った状態で、二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを実施する。
より具体的に説明すると、二酸化珪素層15は、例えば、図3に示すようなスパッタリング装置200を用いて形成される。
【0039】
図3に示すスパッタリング装置200は、イオンビームを照射するイオン源(イオンビーム源)201と、イオンビームの方向に電子を放出するニュートラライザ202と、真空チャンバ203と、真空チャンバ203内の圧力を制御する排気ポンプ204と、二酸化珪素層15が形成されるべき基材100を真空チャンバ203内に固定する基材ホルダー205と、ターゲット500を保持するターゲット保持部材(バッキングプレート)206とを有している。
【0040】
イオン源201は、イオンビームを照射するものであり、本実施形態では、RFイオン源を用いている。イオン源(RFイオン源)201では、酸素を含むガスをガス供給源207から供給するとともに、当該ガスをRF放電させることにより、イオン化(プラズマ化)させる。そして、グリッド(図示せず)間に電圧を印加することにより、イオン化(プラズマ化)されたガスをイオンビームとして出射させる。
【0041】
ニュートラライザ202は、イオンビームの方向に電子を放出するものである。これにより、ターゲット500等に、過剰な電荷が溜まるのを防止抑制することができ、継続的に成膜を行った場合であっても、スパッタ粒子を基材100に向けて安定的に引き出すことができる。
また、ターゲット保持部材206は、通常、ステンレス鋼、銅、銅合金等の熱伝導性に優れる金属材料で構成されている。二酸化珪素層15の形成時には、ターゲット500は、In等のボンディング剤を介して、ターゲット保持部材206に固定される。
【0042】
以上のように構成されたスパッタリング装置200を用いて二酸化珪素層15を形成するに際しては、まず、真空チャンバ203内のターゲット保持部材206に、SiO2で構成されたターゲット500を設置する。
そして、真空チャンバ203内の基材ホルダー205に、基材100(基板11上に硬質層12、圧電体層13、櫛形電極対14が順次設層された構造体)を設置する。
その後、排気ポンプ204により、真空チャンバ203内を減圧する。
【0043】
次に、イオン源201内に、ガス供給源207よりガス(後に詳述するような酸素を含むガス)を供給するとともに、イオン源201において放電(RFまたはDC放電)を行うことにより、導入されたガスをイオン化(プラズマ化)する。そして、図示しないグリッド間に電圧を印加することにより、イオン化(プラズマ化)されたガスを加速し、イオンビームとして、ターゲット500に向けて出射させる。
【0044】
一方、ニュートラライザ202からは、イオン源201から出射されたイオンビームの方向に向けて、電子を放出させる。これにより、イオン源201から出射されたイオンビームの電気的な中和が進行する。そのため、ターゲット500等に過剰な電荷が溜まるのを防止抑制することができ、継続的に成膜を行った場合であっても、スパッタ粒子を基材100に向けて安定的に引き出すことができる。
【0045】
イオン源201から出射されたイオンビーム(ニュートラライザ202からの電子により電気的な中和が進行したビーム)は、ターゲット500に衝突する。これにより、ターゲット500からは、スパッタ粒子が引き出され、当該スパッタ粒子を基材100上に入射、堆積させる。
そして、上記のようなイオンビームの照射を続けることにより、スパッタ粒子の基材100上への入射、堆積が進行し、基材100上に二酸化珪素層15が形成される。これにより、弾性波デバイス10が得られる。
【0046】
スパッタリングによる二酸化珪素層の形成に際して、従来では、酸素流量比20〜40%程度の雰囲気中でスパッタリングを行うことが一般的であるが、本発明者等は、酸素流量比60%以上の雰囲気中でスパッタリングを行うことで、形成される二酸化珪素層のアモルファス構造中における3員環以上の環状構造の比率を低くすること、すなわち、構造欠陥の少ない二酸化珪素層が得られることを見出した。
例えば、前述したようなスパッタリング装置200を用いて二酸化珪素層15を形成する場合、ガス供給源207は、イオン源201に、酸素流量比60%以上のガス(例えば、酸素ガスおよびアルゴンガスの混合ガス)を供給する。
【0047】
すなわち、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスを供給する。なお、本実施形態では、酸素ガスをイオン源201を経由して真空チャンバ203内に供給するが、イオン源201を経由せずに直接真空チャンバ203内に酸素ガスを供給してもよい。この場合、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスが供給されていれば、ガス供給源207は、イオン源201に、アルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガスを供給してもよいし、アルゴンガスのみを供給してもよい。また、ガス供給源207からイオン源201に供給されるガス(プラズマ化させるガス)としては、上記のアルゴンガスおよび酸素ガスに限定されない。
【0048】
ここで、酸素流量比とは、スパッタリング時に真空チャンバ203内に導入されるガスの全流量における酸素ガスの占める割合を言う。例えば、スパッタリング時に真空チャンバ203に不活性ガスおよび酸素ガスが導入される場合、酸素流量比は、(酸素ガス流量[sccm]/(不活性ガス流量[sccm]+酸素ガス流量[sccm])である。また、酸素流量比は、真空チャンバ203の内圧における酸素ガスの分圧の比率に対応している。
【0049】
また、真空チャンバ203内に酸素流量比60%以上で酸素ガスが供給されていればよいが、酸素流量比75〜95%とすることがより好ましい。これにより、構造欠陥の少ない二酸化珪素層15を簡単かつ確実に得ることができる。これに対し、酸素流量比が前記上限値を超えると(大きくなる過ぎると)、スパッタ効率が低下する傾向を示す。
また、ガス供給源207からイオン源201に導入されるガスは、一定の組成を有するものであってもよいが、組成が経時的に変化するものであってもよい。例えば、イオン源201に導入するガスの酸素濃度(酸素流量比)を経時的に変化させてもよい。
【0050】
この場合、イオン源201に導入するガスとしてアルゴンガスおよび酸素ガスの混合ガスを用い、この混合ガス中における酸素ガスの濃度(酸素流量比)を経時的に増加させると、初期段階では、酸素(O2)に比べてプラズマ化しやすいアルゴンガスの比率を高めることにより、プラズマを効率良く発生させることができるとともに、その後には、酸素を高い濃度で含むイオンビームを照射することができる。
以上のような工程を経て、本発明の弾性波デバイス10が製造される。この弾性波デバイス10の電気的特性および温度特性は、例えば、ネットワークアナライザ等を用いることにより確認することができる。
【0051】
<他の実施形態>
本発明は、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対のうちの少なくとも一方に接した構成であれば、前述した構成に限られず、本発明を適用することができる。ここで、前述した弾性波デバイス10の構成以外に本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を説明する。
【0052】
図4は、本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
なお、以下の説明では、前述した実施形態と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
図4(a)に示す弾性波デバイスは、前述した基板11と同様の基板1上に、圧電体層13と同様の圧電体層2、櫛形電極対14と同様の2つの櫛形電極対3、二酸化珪素層15と同様の二酸化珪素層4がこの順で積層されている。
【0053】
図4(b)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、2つの櫛形電極対3、圧電体層2、二酸化珪素層4がこの順で積層されている。
図4(c)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、二酸化珪素層4、2つの櫛形電極対3、圧電体層2がこの順で積層されている。
図4(d)に示す弾性波デバイスは、基板1上に、二酸化珪素層4、圧電体層2、2つの櫛形電極対3がこの順で積層されている。
【0054】
以上のように、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対のうちの少なくとも一方に接した構成であれば、本発明の効果を発揮することができる。特に、図1や図4に示すように、二酸化珪素層が圧電体層および櫛形電極対3の双方に接するように形成されている場合に、本発明の効果が顕著である。
以上、本発明の弾性波デバイスの実施形態を説明したが、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0055】
例えば、前述した実施形態の弾性波デバイスとしては、弾性表面波素子を一例として挙げて説明したが、本発明は弾性表面波素子に限らず、各種の圧電振動素子、例えば、圧電体の表裏両面を電極で挟んだ構造等を有するBAW(Bulk Acoustic Wave)素子、具体的には、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)型の素子構造を備えたもの、音響インピーダンスの異なる層を交互に繰り返し積層してなる音響反射多層膜を上記の積層構造と基板との間に配置したSMR(Solid Mounted Resonator)型の素子構造を備えたものなどにも同様に適用することができる。
【0056】
また、電極構造も図示例に限定されず、種々の電極構造を用途に応じて構成できる。例えば、共振器を構成する場合には入出力電極を構成するくし形電極対の両側に、間隔を隔てて一対の反射器を配設することができる。
また、前述した実施形態(図1)において、櫛形電極対14とは反対側の圧電体層13の面(図示下面)上にアルミニウムや金等で構成された短絡電極を形成してもよい。この場合、短絡電極は、平面視にて櫛形電極対14の形成範囲にのみ形成してもよいし、伝播領域を含めて形成してもよい。このような短絡電極を設けると、圧電体層13の櫛形電極対14の形成された面とは反対側の面を等電位化し、励振効率を高めることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の具体的な実施例を説明する。
1.弾性波デバイスの作製
(実施例1)
図1に示すような構成の弾性波デバイスを作製した。
具体的には、まず、基板(平均厚さ800μmのシリコン基板)上に硬質層(平均厚さ20μmの多結晶ダイヤモンド膜)が形成されたものを用意した。
【0058】
そして、硬質層上にRFスパッタリング法でZnOを厚さ475nmとなるまで成長させ、これによって圧電体層を形成した。ここで、RFスパッタリングは、ターゲット材としてZnOの焼結体、反応ガスとしてアルゴンガス(流量50sccm)および酸素ガス(流量50sccm)の混合ガスを用い、RF電力を1.0kWとし、ガス圧力(雰囲気圧)を1.0Paとし、成膜温度を500℃とした条件で行った。
【0059】
次に、形成された圧電体層上にDCスパッタリング法によりアルミニウムを被着させ、金属材料層を平均厚さ42nmとなるように形成した。このDCスパッタリングは、ターゲット材としてアルミニウム板、反応ガスとしてアルゴンガス(流量50sccm)を用い、DC電力を1.0kWとし、ガス圧力を1.0Paとし、成膜温度を室温とした条件で行った。
【0060】
次に、形成された金属材料層上にフォトリソグラフィ法により櫛形電極対を形成するための所望のレジスト層を形成し、このレジスト層をマスクとして、反応性イオンエッチング(RIE)によりエッチングを施し、不要部分を除去して2つ(入力用および出力用)の櫛形電極対を形成した。ここで、反応性イオンエッチングのエッチングガスとしてBCl3およびCl2を主成分とするものを用いた。
【0061】
次に、RFマグネトロンスパッタリング法により2つの櫛形電極対を覆うように圧電体層上および櫛形電極対上にSiO2を被着させ、平均厚さ420nmの二酸化珪素層を形成した。ここで、二酸化珪素層の形成に際しては、ターゲットとして溶融石英を用い、アルゴンガスおよび酸素ガスを真空チャンバに供給しながら、カソードに13.56MHzの高周波を印加し、RF電力を1.0kWとし、ガス圧力を0.5Paとし、成膜温度を200℃とした条件で行った。また、真空チャンバへのアルゴンガスおよび酸素ガスの供給に際し、アルゴンガスの流量を5sccmとし、酸素ガスの流量を45sccmとし、酸素流量比(酸素ガス流量)/(アルゴンガス流量+酸素ガス流量)を90%とした。
以上のようにして実施例1の弾性波デバイスを作製した。
(実施例2)
二酸化珪素層の形成に際し、酸素流量比を80%とした以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
【0062】
(比較例1)
二酸化珪素層の形成に際し、酸素流量比を34%とした以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
(比較例2)
二酸化珪素層の形成に際し、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置(メタルモード)を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
ここで、二酸化珪素層の形成に際し、ECRスパッタリングは、マイクロ波電力を500Wとし、高周波電力を500Wとし、コイル電流を26A/26Aとし、酸素流量比を16%とし、圧力を0.145Paとした条件で行った。
【0063】
(比較例3)
二酸化珪素層の形成に際し、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタリング装置(オキサイドモード)を用いた以外は、前述した実施例1と同様にして弾性波デバイスを作製した。
ここで、二酸化珪素層の形成に際し、ECRスパッタリングは、マイクロ波電力を500Wとし、高周波電力を500Wとし、コイル電流を26A/26Aとし、酸素流量比を18.5%とし、圧力を0.156Paとした条件で条件で行った。
【0064】
2.評価
各実施例および各比較例について、二酸化珪素層をラマン分光法で解析した。
<ラマン分光スペクトル>
各実施例および各比較例について、ラマン分光スペクトルを測定した。その結果を図5および図6に示す。
【0065】
図5は、実施例1および比較例1にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフであり、図6は、実施例2および比較例1〜3にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
ここで、ラマン分光スペクトルの測定には、ラマン分光スペクトル用評価試料として、シリコン基板上にスパッタリングによりアルミニウム薄膜を30nm成膜し、このアルミニウム薄膜上に各実施例および各比較例と同様の方法により二酸化珪素層を形成したものを用いた。
【0066】
また、ラマン分光スペクトルの測定では、光源として514.5nmのレーザ光(Arレーザ)を用い、このレーザ光を二酸化珪素層表面に照射し、ラマン散乱光を分光器(ダブルモノクロメータ)にて分光して光電子増倍管で検出した。
各実施例および各比較例に関して、図3および図4に示すように、いずれのラマン分光スペクトルにおいても、840cm−1付近にSi−OボンドのLOモードの格子振動に対応するピークPsが観測され、また、610cm−1付近に3員環の格子振動に対応するピークP3が観測され、さらに、495cm−1付近に4員環の格子振動に対応するピークP4が観測された。
【0067】
また、ピークP4を最大波数域にあるピークとして、その低波数側に広がる範囲(ほぼ波数370〜500cm−1の範囲)に複数のピーク群Pgが見られた。これらのピーク群Pgは、ピークP4を含め4員環以上の環状構造に起因する格子振動に対応する複数のピークを含んでいる。3員環や4員環以上の環状構造は、構造欠陥(例えば、酸素欠乏型欠陥)を伴うものであり、これらのピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度が大きいほど膜質が悪いことを意味する。
【0068】
<ラマン分光スペクトルのピーク強度比>
図3から明らかなように、比較例1では、ピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度が比較的高い。これに対し、実施例1では、ピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度がいずれも比較的低くなっている。
ここで、実施例1、2および比較例1に関し、ピークPsの強度に対するピークP3およびP4のそれぞれの強度比(P3/PsおよびP4/Ps)を算出した。その結果を図7に示す。
【0069】
図7は、二酸化珪素層のラマン分光スペクトルのピーク強度比と、スパッタリング時の酸素流量比との関係を示すグラフである。
図4から明らかなように、強度比P3/PsおよびP4/Psは、いずれも、酸素流量比が増加するに従って低下しており、酸素流量比と相関性を有していることがわかる。
また、比較例1では、強度比P3/Psが1.10、強度比P4/Psが1.27であり、また、比較例2では、強度比P3/Psが1.07、強度比P4/Psが1.32であった。これに対し、実施例1では、強度比P3/Psが0.94、強度比P4/Psが1.05であり、また、実施例2では、強度比P3/Psが0.96、強度比P4/Psが1.19であった。
【0070】
なお、ピークP3は構造欠陥と強い関係にある3員環に対応するものであるため、強度比P3/Psは二酸化珪素層の膜質を表す指標としては好適なものである。ただし、ピークP3はピーク強度そのものが弱いため、測定精度は必ずしも高くない。一方、ピークP4は4員環に対応するものであるが、そのピーク強度はピークP3に比べて強いため、強度比P4/Psの測定精度は高く、二酸化珪素層の膜質を表す指標としてより正確なものである。
また、上記ラマン分光スペクトルにおいて、250〜510cm−1の波数範囲の強度積分値I1と、800〜840cm−1の波数範囲の強度積分値I2との比I1/I2を調べたところ、比較例1ではI1/I2=53であったのに対し、実施例1ではI1/I2=48であった。
【0071】
<アニール処理によるラマン分光スペクトルの変化>
実施例1および比較例1に関し、二酸化珪素層にアニール処理を施し、その前後でのラマン分光スペクトルを前述の方法と同様にして測定した。その結果を図8および図9に示す。
図8は、比較例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフであり、図9は、実施例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
ここで、アニール処理は、真空雰囲気中において300℃で30分間実施した。
【0072】
図8に示すように、比較例1では、アニール処理によってピークP3およびP4並びにピーク群Pgが大きく低減されていることから、3員環、4員環以上の環状構造に伴う構造欠陥が低減されることがわかる。すなわち、比較例1の二酸化珪素層は構造欠陥が多いことから、構造的な安定性に乏しいことがわかる。
一方、図9に示すように、実施例1では、アニール処理を施してもピークP3およびP4並びにピーク群Pgの強度がほとんど変化していない。すなわち、実施例1の二酸化珪素層は構造欠陥が少ないことから、構造的な安定性が高いことがわかる。
【0073】
<挿入損失>
実施例1および比較例1の弾性表面波デバイスについて、それぞれ、フィルタ特性として、Sパラメータの測定結果から挿入損失の周波数特性を求めた。その結果を図10に示す。
図10は、比較例1(図示点線)および実施例1(図示実線)にかかる弾性波デバイスの挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。
ここで、Sパラメータの測定はヒューレットパッカード社製のベクトルネットワークアナライザHP8753c(製品番号)を用いた。
【0074】
図10に示すように、通過帯域における挿入損失は、比較例1では−6.5dBであったが、実施例1では−5.3dBとなり、大幅に向上した。これは上述のように比較例1に対して実施例1では構造欠陥が少なくなった結果、反射係数および電気機械結合係数が増大したことを意味する。このように性能向上が図られることで、デバイス(SAWフィルタ)の小型化を図ることが可能になる。
【0075】
<周波数変動率>
次に、実施例1および比較例1の弾性表面波デバイスについて、圧力10−8Pa以下の真空容器内で300℃、3時間のアニール処理を施し、その後、弾性波デバイスとパッケージをアルミニウム線でボンディングし、窒素雰囲気中にてシーム溶接によってリッドとパッケージを接合し、弾性波デバイスをパッケージ内に封入した。そして、このように完成させた製品に発振周波数測定を行ってから、85℃の恒温槽内に保管し、所定時間ごとに発振周波数測定を行い、時間の経過による周波数の変動特性を調べた。その結果を図11に示す。
【0076】
図11は、比較例1および実施例1にかかる弾性表面波デバイスの高温放置試験における周波数の時間変動を示すグラフである。
図11に示すように、発振周波数の変動率ΔFは、比較例1では100時間経過で−40ppm、300時間経過で−80ppmとなり、600時間経過すると周波数変動量は−100ppmを越えた。これに対し、実施例1では、300時間を越えてもほとんど発振周波数の変動は観察されなかった。すなわち、実施例1の弾性波デバイスでは、上記のような加熱条件においても周波数の変動は全く発生しなかった。
以上のように、二酸化珪素層の構造欠陥が少なくなるに従ってデバイス特性が向上し、特に、周波数の安定性がきわめて高く、加温状態における時間経過による周波数の変動もほとんどないことがわかる。
【0077】
<コーシーの分散式における定数項A>
以上の説明では、膜質(構造欠陥の程度)に着目して二酸化珪素層のラマン分光スペクトルと弾性表面波デバイスの特性との関係を見てきたが、二酸化珪素層の膜質を反映する他の特性指標としては、光学定数(屈折率)が挙げられる。
そこで、各実施例および各比較例について、二酸化珪素層の光学定数を測定し、デバイス特性との関係を検討した。
【0078】
ここで、二酸化珪素層の光学定数の測定には、測定用試料として、シリコン基板上に各種方法により約70nmの厚みの二酸化珪素層を形成したものを用いた。また、測定用試料として、前述した実施例1、2および比較例1〜3と同様の条件でそれぞれ二酸化珪素層を形成した。すなわち、RFマグネトロンスパッタリングにて酸素流量比を5%、34%(比較例1)、80%(実施例2)、90%(実施例1)のそれぞれの条件で二酸化珪素層を形成したもの、ECRスパッタリング(メタルモード)にて酸素流量比16%(比較例3)、ECRスパッタリング(オキサイドモード)にて酸素流量比18.5%(比較例4)の条件で二酸化珪素層を形成したものをそれぞれ用意した。そして、これらの試料における二酸化珪素層の光学定数を測定するとともに、一般的なCVD法で成膜したものの文献データ(文献名:非晶質シリカ材料応用ハンドブックサイペック 1999/05出版 編集委員長 川副博司 リアライズ社)、熱酸化膜、溶融石英のそれぞれの光学定数を調べた。
【0079】
光学定数の決定には、SOPRA社の分光エリプロメトリ装置SE−5を用いた。また、光学定数は、計測データを光学分散式にフィッティングすることによって求めた。このようにして得た光学定数の算出結果を図12に示す。ここで示す光学定数は、前述したコーシーの分散式における定数項A(波長λに依存しない項)である。
一般的に、熱酸化膜や溶融石英は構造欠陥が少なく、構造的に安定であることが知られているが、これらと比較すると、比較例1〜3の定数項Aはいずれも熱酸化膜や溶融石英と大きな差を有するのに対して、実施例1、2の定数項Aは熱酸化膜や溶融石英に極めて近いことがわかる。
【0080】
また、RFマグネトロンスパッタリングにて成膜した比較例1および実施例1、2等の定数項Aの酸素流量比依存性を図13に示す。図13に示すように、スパッタ時の酸素流量比が増加するに従って定数項Aが低下していることがわかる。
また、図13に示すように、コーシー分散式における定数項Aが1.44〜1.46の範囲にあれば、弾性波デバイスに特性向上の効果が得られることがわかった。かかる範囲は、熱酸化膜や溶融石英などといった極めて安定な二酸化珪素の光学特性と合致するものであるからである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の弾性波デバイスの好適な実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す弾性波デバイスの製造方法を説明するための図である。
【図3】図1に示す性波デバイスの二酸化珪素層の形成に用いるスパッタリング装置の一例の概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明を適用可能な弾性波デバイスの構成例を示す断面図である。
【図5】実施例1および比較例1にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例2および比較例1〜3にかかる二酸化珪素層のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図7】二酸化珪素層のラマン分光スペクトルのピーク強度比と、スパッタリング時の酸素流量比との関係を示すグラフである。
【図8】比較例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例1にかかる二酸化珪素層のアニール処理前後のそれぞれのラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【図10】比較例1および実施例1にかかる弾性波デバイスの挿入損失の周波数依存性を示すグラフである。
【図11】比較例1および実施例1にかかる弾性表面波デバイスの高温放置試験における周波数の時間変動を示すグラフである。
【図12】各種の方法で形成された二酸化珪素の光学定数を示すグラフである。
【図13】二酸化珪素層の光学定数の酸素流量比依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10……弾性表面波デバイス 1、11……基板 12……硬質層 2、13……圧電体層 3、14……櫛形電極対 14a、14b……櫛形電極 4、15……二酸化珪素層 100……基材 200……スパッタリング装置 201……イオン源 202……ニュートラライザ 203……真空チャンバ 204……排気ポンプ 205……基材ホルダー 206……ターゲット保持部材 207……ガス供給源 500……ターゲット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性を有する圧電体層と、
前記圧電体層の一方の面上に設けられ、通電により前記圧電体層に弾性振動を励起させる1対の電極と、
前記圧電体層および/または前記1対の電極に接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層とを有し、
前記二酸化珪素層は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものであることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが1.2以下である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46である請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性波デバイス。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
【請求項6】
前記各電極は、櫛形電極であり、該1対の櫛形電極に通電することにより、前記圧電体層に弾性表面波を励振させるように構成されている請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電体層を支持する基板を有する請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電体層は、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素で構成された硬質層を介して前記基板上に接合されている請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項10】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記圧電体層と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項11】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記1対の電極と反対側の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項12】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項1】
圧電性を有する圧電体層と、
前記圧電体層の一方の面上に設けられ、通電により前記圧電体層に弾性振動を励起させる1対の電極と、
前記圧電体層および/または前記1対の電極に接合され、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層とを有し、
前記二酸化珪素層は、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより形成されたものであることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数475〜515cm−1の領域に存在するピークの強度をP4としたとき、P4/Psが1.2以下である請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数800〜850cm−1の領域に存在するピークの強度をPsとし、波数600〜620cm−1の領域に存在するピークの強度をP3としたとき、P3/Psが1.0以下である請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記二酸化珪素層をラマン分光法で解析した際に、得られるスペクトルにおいて、波数250〜510cm−1の領域の強度を積分した値をI1とし、波数800〜840cm−1の領域の強度を積分した値をI2としたとき、I1/I2が50以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
下記式(I)に示すコーシーの分散式における定数項Aが1.44〜1.46である請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性波デバイス。
n2=A+B/λ2・・・(I)
(ただし、式(I)中、λは、光の波長であり、nは、波長λの光に対する前記二酸化珪素層の屈折率であり、AおよびBは、それぞれ、定数である。)
【請求項6】
前記各電極は、櫛形電極であり、該1対の櫛形電極に通電することにより、前記圧電体層に弾性表面波を励振させるように構成されている請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電体層を支持する基板を有する請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電体層は、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素で構成された硬質層を介して前記基板上に接合されている請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項10】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記圧電体層と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項11】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の前記1対の電極と反対側の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項12】
基板を用意する工程と、
前記基板の一方の面上に、二酸化珪素を主材料として構成された二酸化珪素層を形成する工程と、
前記二酸化珪素層の前記基板と反対側の面上に、1対の電極を形成する工程と、
前記1対の電極を覆うように、圧電材料を主材料として構成された圧電体層を形成する工程とを有し、
前記二酸化珪素層を形成する工程では、酸素流量比60%以上の雰囲気中で二酸化珪素のターゲットを用いてスパッタリングを行うことを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−28980(P2008−28980A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7511(P2007−7511)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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