説明

弾性波フィルタ

【課題】トランスバーサル型の弾性波フィルタにおいて、当該フィルタと外部との間のインピーダンスの整合を取りやすくすること。
【解決手段】各々のIDT電極12、13について、弾性波の発生するフィルタ本体1と、弾性波が発生しないように電極指15が配置された緩衝領域2と、容量成分C2をなすインピーダンス調整部3と、を対向するIDT電極13、12側からこの順番で配置する。そして、インピーダンス調整部3において弾性波が発生しないように、且つフィルタ本体1における弾性波の発生を阻害しないように、インピーダンス調整部3の上方側と、当該インピーダンス調整部3側における緩衝領域2の端部と、に弾性波を吸収するための吸収体41を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電極指及び一対のバスバーを備えたIDT電極を入力側電極及び出力側電極として圧電基板上に配置したトランスバーサル型の弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種通信機用のバンドパスフィルタとして、弾性波例えば弾性表面波を用いると共に、複数の電極指及び一対のバスバーを備えたIDT電極を入力側電極及び出力側電極として弾性波の伝搬方向に沿って圧電基板上に配置したトランスバーサル型の弾性波フィルタが知られている。このようなフィルタでは、挿入損失をできるだけ低減することが求められており、その手法の一例としては、例えば各々のフィルタ(IDT電極)のインピーダンス値に応じて、例えば当該フィルタが搭載(接続)される電子部品例えばミキサーなどとの間において、整合回路を用いて最適な整合を取るようにしている。具体的には、整合回路において前記電子部品と整合を取ることにより、例えばVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)と呼ばれる50Ωからのインピーダンスのずれ量ができるだけ小さくなるようにしている。あるいは、特許文献1のように、くし歯状電極において、交差幅が一定とならないように交差幅に重み付けを行う技術が知られている。
【0003】
ここで、既述の整合回路は、容量素子やインダクタンス素子などの電子部品を備えた装置であり、各々のフィルタのインピーダンス値に応じて、最適な常数(容量素子の容量値やインダクタンス素子のインダクタ値)を持つ素子を組み合わせて構成される。従って、このような整合回路は、様々な種別のフィルタに対応できるように、多数の品種があると言える。
【0004】
しかし、既述の各素子は、電子部品であり、通常は各常数が連続的(な値を取るもの)ではなく各々ある特定の常数を持っている(各常数が飛び値となっている)ので、点数(品種)には限りがある。従って、各々のフィルタにおいてインピーダンスの整合をより一層最適化しようとしても、当該フィルタに対応する常数の素子がない(整合が取れない)場合がある。具体的には、例えば既述の容量素子について、容量値が夫々10pF、12pF、15pF、、、となるように設計された既製品の部品では、例えば14pFの容量値で最適な整合が取られるフィルタに対しては、最適な整合状態を取ることができず、挿入損失が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−225211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の電極指及び一対のバスバーを備えたIDT電極を入力側電極及び出力側電極として弾性波の伝搬方向に沿って圧電基板上に配置したトランスバーサル型の弾性波フィルタにおいて、このフィルタと当該フィルタが接続される部品との間のインピーダンスの整合を取りやすくすることのできる弾性波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弾性波フィルタは、
トランスバーサル型の弾性波フィルタにおいて、
圧電基板上に形成され、一対のバスバー間に複数の電極指を配置した入力側IDT電極と、
前記圧電基板上において前記入力側IDT電極に対して弾性波の伝搬方向に沿って離間するように形成され、一対のバスバー間に複数の電極指を配置した出力側IDT電極と、を備え、
前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方のIDT電極は、
前記一対のバスバーのうち一方側のバスバーから他方側のバスバーに向かって伸びる電極指と、当該電極指に隣接して前記他方側のバスバーから前記一方側のバスバーに向かって伸びる電極指とからなる組が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置された第1の領域と、
弾性波が発生しないように、前記一対のバスバーのうちいずれかのバスバーから当該バスバーに対向するバスバーに向かって各々伸びる電極指が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置された第2の領域と、
前記一方側のバスバーから前記他方側のバスバーに向かって伸びる電極指と、当該電極指に隣接して前記他方側のバスバーから前記一方側のバスバーに向かって伸びる電極指とからなる組が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置され、インピーダンス整合用の容量成分を調整するための第3の領域と、を備え、
前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域は、弾性波の伝搬方向に沿って他方のIDT電極側からこの順番で配置され、
前記第3の領域における弾性波の発生を抑えるために、前記第3の領域の上方側には弾性波を吸収するための吸収体が形成され、
前記第2の領域は、前記吸収体が前記第1の領域に接触しないように、当該第1の領域と前記第3の領域との間に中間領域を形成するためのものであることを特徴とする。
【0008】
前記第3の領域は、当該領域を備えた入力側IDT電極または出力側IDT電極に接続された整合回路の容量成分と共に、インピーダンス整合用の容量成分をなすものであることが好ましい。
前記第3の領域における電極指は、前記組における電極指同士の交差幅が弾性波の伝搬方向において変わるように、アポタイズ型に重みづけられていても良い。
前記第2の領域は、前記一対のバスバーのうちいずれかのバスバーから当該バスバーに対向するバスバーに向かって各々伸びる電極指が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置されていることに代えて、電極指の形成されていないスペース領域が配置されていても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、入力側IDT電極及び出力側IDT電極を備えたトランスバーサル型の弾性波フィルタにおいて、これらIDT電極うち少なくとも一方のIDT電極について、互いに隣接する電極指同士が交差するように配置された第1の領域と、互いに隣接する電極指同士が交差しないように配置された緩衝領域(中間領域)である第2の領域と、互いに隣接する電極指同士が交差するように配置された第3の領域と、を他方のIDT電極側から弾性波の伝搬方向に沿ってこの順番で配置している。そして、第3の領域において弾性波が発生しないように、第3の領域の上方側に弾性波を吸収するための吸収体を配置すると共に、この吸収体が第1の領域に接触しないようにしている。そのため、前記少なくとも一方のIDT電極において、一対のバスバー間には前記第3の領域からなる容量成分が当該IDT電極に対して並列に接続されることになるので、フィルタと当該フィルタの搭載(接続)される部品との間においてインピーダンスの整合を取りやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の弾性波フィルタの一例を示す平面図である。
【図2】前記フィルタを示す縦断面図である。
【図3】前記フィルタを電気的に見た時の電気回路を示す模式図である。
【図4】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図5】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図6】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【図7】前記フィルタの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の弾性波フィルタの実施の形態の一例について、図1〜図3を参照して説明する。この弾性波フィルタは、弾性波の伝搬方向に沿って互いに離間するように配置された入力側IDT(インターデジタルトランスデューサ)電極12及び出力側IDT電極13を備えたトランスバーサル型フィルタを構成している。これら入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13は、例えば水晶などの圧電基板11上に形成されており、このフィルタが搭載(接続)される電子部品例えばミキサーとの間においてインピーダンスの整合を取るために、各々外部の整合器(整合回路)7、7に接続されている。これらIDT電極12、13は、後述するように、弾性波の送受信(弾性波と電気信号との変換)を行う第1の領域をなすフィルタ本体1と、当該フィルタ本体1のインピーダンスをフィルタ内部において(整合器7とは別個に独立して)調整するための第3の領域をなすインピーダンス調整部3と、を各々備えている。そして、これらフィルタ本体1とインピーダンス調整部3との間には、第2の領域として緩衝領域(中間領域)2が配置されている。
【0012】
弾性波の伝搬方向における一方側及び他方側を左右方向と呼ぶと、入力側IDT電極12は左側に配置され、出力側IDT電極13は右側に設けられている。図1中5は、例えば矩形の金属膜からなるシールド電極である。また、図1中100及び101は、整合器7の内部において互いに組み合わされて設けられたインダクタンス素子及び容量素子であり、図1では模式的に示している。
【0013】
入力側IDT電極12には、弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びると共に、互いに弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に離間するように配置された一対のバスバー14、14と、これらバスバー14、14間においてバスバー14に対して各々直交するように配置された複数の電極指15と、が設けられている。弾性波の伝搬方向に対して直交する方向の一方及び他方を手前側及び奥側と夫々呼ぶと、奥側のバスバー14には、既述の整合器7に接続される入力端子21が形成されている。他方側のバスバー14は、接地用端子23を介して接地されている。
【0014】
この入力側IDT電極12は、既述のフィルタ本体1、緩衝領域2及びインピーダンス調整部3が右側から左側に沿ってこの順番で配置されて構成されている。フィルタ本体1は、一対のバスバー14、14のうち一方側のバスバー14から互いに隣接して伸びる2本の電極指15、15と、これら電極指15、15に隣接して他方側のバスバー14から伸びる2本の電極指15、15とからなる組が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置されている。従って、このフィルタ本体1では、弾性波が励振(発生)するように構成されている。
【0015】
緩衝領域2は、一対のバスバー14、14のうち例えば奥側のバスバー14から複数本の電極指15が手前側のバスバー14に向かって互いに隣接して伸びるように配置されている。従って、この緩衝領域2では、弾性波が発生しないように構成されている。即ち、一対のバスバー14、14のうち一方側のバスバー14から伸びる電極指15と、当該電極指15に隣接して他方側のバスバー14から伸びる電極指15と、の交差する交差領域において弾性波が発生するので、この緩衝領域2では、前記交差領域が形成されないように構成されている。
【0016】
インピーダンス調整部3は、一方側のバスバー14から伸びる2本の電極指15、15と、他方側のバスバー14から伸びる2本の電極指15、15と、が弾性波の伝搬方向に沿って交互に配置されるように形成されている。従って、このインピーダンス調整部3では、前記交差領域が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に形成されている。
【0017】
ここで、インピーダンス調整部3の上方側には、図2にも示すように、弾性波を吸収するために、例えば樹脂などからなる吸収体(ダンパー)41が設けられている。具体的には、この吸収体41は、インピーダンス調整部3における電極指15の各々と、当該インピーダンス調整部3における一対のバスバー14、14とを覆うように形成されると共に、このインピーダンス調整部3に近接する緩衝領域2の上方側を覆うように配置されている。従って、この吸収体41は、フィルタ本体1を覆わないように、フィルタ本体1の左端から、インピーダンス調整部3側(左側)に離間した位置に配置されている。尚、図1では入力側IDT電極12を描画するために、吸収体41について一点鎖線で示している。また、図2は、図1におけるA−A線で圧電基板11を切断した縦断面図を示しており、電極指15の数量については簡略化している。
【0018】
このように吸収体41がインピーダンス調整部3の上方及び当該インピーダンス調整部3側における緩衝領域2の上方を覆うように、且つフィルタ本体1を覆わないように形成されている理由について、以下に詳述する。即ち、本発明では、フィルタ本体1のインピーダンスをフィルタ内部において整合器7とは別に独立して調整するために、インピーダンス調整部3を配置している。具体的には、インピーダンス調整部3において前記交差領域を形成すると、当該交差領域が容量性を持つことになる。そのため、図3にこれらフィルタ本体1及びインピーダンス調整部3の電気回路を概略的に示すように、フィルタ本体1の容量成分C1やインダクタンス成分Rに対して、インピーダンス調整部3の容量成分C2がバスバー14、14を介して並列に接続されると言える。
【0019】
そのため、インピーダンス調整部3を設けることにより、フィルタ本体1(入力側IDT電極12)のインピーダンスが容量性を持つようになり、言い換えると当該フィルタ本体1のインピーダンスが変わることになる。また、インピーダンス調整部3の交差領域の数量、即ち電極指15、15の対数を増減させることにより、当該インピーダンス調整部3の容量値を変化させることができるので、フィルタ本体1(入力側IDT電極12)のインピーダンスを調整できると言える。このインピーダンス調整部3の容量値は、フィルタ本体1のインピーダンスを整合器7により整合させるにあたって、当該整合器7においてミスマッチ(不整合)が起こらないように、あるいは最適な整合状態となるように設定されている。
【0020】
ここで、インピーダンス調整部3において交差領域を形成すると、当該交差領域において弾性波が発生しようとする。このフィルタでは、既述のようにフィルタ本体1におけるインピーダンスを調整するためにインピーダンス調整部3を設けており、当該インピーダンス調整部3において弾性波が発生すると、意図していない(設計から外れた)周波数特性となってしまう。そのため、この弾性波の発生を抑えるために、即ちインピーダンス調整部3によるフィルタ本体1への機械的な(弾性波の発生による)影響を抑制しつつ、電気的な(容量成分C2による)効果を得るために、インピーダンス調整部3を上方側から覆うように吸収体41を設けている。
【0021】
そして、吸収体41がインピーダンス調整部3を左端から右端までに亘って覆い、且つ吸収体41がフィルタ本体1における電極指15に付着しない(フィルタ本体1における弾性波の発生を阻害しない)ように、これらフィルタ本体1とインピーダンス調整部3との間に、中間領域として緩衝領域2を配置している。即ち、吸収体41は、例えば液状の樹脂からなる塗膜を圧電基板11上に塗布し、続いて前記塗膜の乾燥や加熱処理を行うことによって形成される。従って、前記塗膜は乾燥や加熱処理前には流動性を持っているので、インピーダンス調整部3だけを覆うように形成することは困難である。具体的には、フィルタ本体1とインピーダンス調整部3とが互いに隣接している(緩衝領域2を設けない)場合には、インピーダンス調整部3を左端から右端までに亘って覆うように塗膜を塗布すると、吸収体41がフィルタ本体1の例えば左側の領域にまで形成されてしまう場合がある。一方、吸収体41がフィルタ本体1に触れないように塗膜を形成しようとすると、例えばインピーダンス調整部3における右側の領域では吸収体41が形成されずに不要な弾性波が発生してしまう場合がある。
【0022】
そこで、フィルタ本体1とインピーダンス調整部3との間に、吸収体41が配置されても良い領域を設けている。つまり、インピーダンス調整部3を覆うように塗膜を塗布すると、当該塗膜が緩衝領域2に向かって流動して来る。そのため、インピーダンス調整部3と共に、緩衝領域2の左側の領域までに亘って塗膜が形成される。しかし、緩衝領域2では、予め弾性波が発生しないように、各々の電極指15について、奥側のバスバー14に接続すると共に手前側のバスバー14からは離間するように配置している。従って、緩衝領域2が吸収体41により覆われても、フィルタの周波数特性は変わらない。また、インピーダンス調整部3において弾性波が発生したとしても、この緩衝領域2を配置することによって、当該弾性波がフィルタ本体1に到達するまでに減衰するので、この弾性波によるフィルタ本体1への影響が抑えられる。
【0023】
また、緩衝領域2に電極指15を配置することによって、インピーダンス調整部3側からフィルタ本体1に向かって流動しようとする塗膜に対して、当該流動の障壁となるようにしている。具体的には、インピーダンス調整部3から塗膜がフィルタ本体1に向かって流動しようとすると、緩衝領域2における電極指15を乗り越えて行くことになるので、フィルタ本体1への流動が阻害される。従って、緩衝領域2は、インピーダンス調整部3を左端から右端までに亘って吸収体41により覆うために、且つ吸収体41がフィルタ本体1に触れないようにするために、フィルタ本体1とインピーダンス調整部3との間に配置されている。また、緩衝領域2に電極指15を配置することにより、当該緩衝領域2において弾性波の波長や位相がずれにくくなる。
【0024】
続いて、出力側IDT電極13について説明する。この出力側IDT電極13は、入力側IDT電極12を左右対称に配置した構成を採っており、フィルタ本体1、緩衝領域2及びインピーダンス調整部3が左側から右側に向かってこの順番で配置されている。この出力側IDT電極13においても、インピーダンス調整部3の上方領域及び当該インピーダンス調整部3側における緩衝領域2の上方側には、弾性波の発生を抑えるための吸収体41が形成されている。出力側IDT電極13では、奥側のバスバー14には整合器7に接続される出力端子22が形成され、手前側のバスバー14は接地用端子23を介して接地されている。
【0025】
出力側IDT電極13におけるフィルタ本体1の電極指15、15の対数について、図1では入力側IDT電極12におけるフィルタ本体1と同じ数量で描画しているが、実際には入力側IDT電極12とは異なる数量に設定されている場合もある。その場合には、出力側IDT電極13におけるインピーダンス調整部3の容量成分C2(インピーダンス調整部3における電極指15、15の対数)は、この出力側IDT電極13に接続されている整合器7においてインピーダンスの整合が最適化するように、入力側IDT電極12とは別に独立して設定されている。
【0026】
このフィルタにおいて入力端子21に電気信号を入力すると、入力側IDT電極12におけるフィルタ本体1で弾性波が発生し、この弾性波は、例えば出力側IDT電極13に向かって伝搬して行き、当該出力側IDT電極13におけるフィルタ本体1で電気信号に変換されて出力端子22から取り出される。この時、各IDT電極12、13のインピーダンス調整部3、33では弾性波が発生しようとするが、既述のように吸収体41により当該弾性波の発生が抑えられる。また、各々のIDT電極12、13において、フィルタ本体1と整合器7との間に、インピーダンス調整部3からなる容量成分C2を並列に接続して、この容量値を既述のように設定していることから、既述の電子部品との間において最適な整合状態となる。
【0027】
上述の実施の形態によれば、各々のIDT電極12、13について、弾性波の発生するフィルタ本体1と、弾性波が発生しないように電極指15が配置された緩衝領域2と、容量成分C2をなすインピーダンス調整部3と、を対向するIDT電極13、12側からこの順番で配置している。そして、インピーダンス調整部3において弾性波が発生しないように、且つフィルタ本体1における弾性波の発生を阻害しないように、インピーダンス調整部3の上方側と、当該インピーダンス調整部3側における緩衝領域2の端部と、に弾性波を吸収するための吸収体41を配置している。そのため、整合器7においてIDT電極12、13(フィルタ本体1)と電子部品との間のインピーダンスの整合が良好に取れない場合であっても、インピーダンス調整部3の容量成分C2(電極指15、15の対数)を予め調整することにより、インピーダンスの整合を最適な状態にすることができる。従って、ある特定の常数(インダクタンス素子100のインダクタ値や容量素子101の容量値)しか取れない(常数が連続的(な値を取るもの)ではない)既製品の素子100、101を備えた整合器7を用いた場合であっても、フィルタの挿入損失を小さく抑えることができる。
【0028】
また、緩衝領域2に電極指15を配置しているので、インピーダンス調整部3に形成される塗膜(乾燥や加熱処理前の吸収体41)について、フィルタ本体1への流動を阻害できるので、当該緩衝領域2の弾性波の伝搬方向における幅寸法を小さく抑えることができる。更に、緩衝領域2に電極指15を配置することにより、電極指15の配置されている領域から電極指15の配置されていない領域へと弾性波が放射される時に起こるエッジ効果(不要な弾性波の発生)を抑えることができるし、弾性波の位相のずれを抑えることができる。
更にまた、インピーダンス調整部3の全体を覆うように吸収体41を形成しているので、当該インピーダンス調整部3における不要な弾性波の発生を抑えてエネルギーロスを抑えることができる。
【0029】
ここで、既述のインピーダンス調整部3の電極指15について、図4のように配置しても良い。図4において、インピーダンス調整部3では、互いに交差する電極指15、15の交差幅Dは、弾性波の伝搬方向に沿って変わるようにアポタイズ型に重みづけされている。具体的には、前記交差幅Dは、弾性波の伝搬方向におけるインピーダンス調整部3の中央領域から左右に向かうにつれて、徐々に小さくなっている。このようにインピーダンス調整部3の電極指15をアポタイズ型に重みづけることにより、各々の交差領域における容量値を調整できる。そのため、これら容量値の合成値である既述の容量成分C2について、既述の例よりも更に細かく調整することができるので、各々のIDT電極12、13のインピーダンスの整合を更に最適化できる。尚、図4では、インピーダンス調整部3における電極指15、15の数量や配置レイアウトについては模式的に示している。
【0030】
また、図5に示すように、IDT電極12、13の各々をテーパー型に配置して、トランスバーサル型フィルタとしても良い。具体的には、各々のIDT電極12、13において、奥側のバスバー14から手前側のバスバー14に向かって、電極指15の幅寸法及び互いに隣接する電極指15、15同士の間の離間寸法が広がるように配置されている。
更に、既述の緩衝領域2について、電極指15を配置せずに、図6に示すようにスペース領域50を配置しても良い。この場合であっても、既述の各例と同様の効果が得られる。
【0031】
以上の各例では、入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13の双方に緩衝領域2、インピーダンス調整部3及び吸収体41を配置したが、これらIDT電極12、13の一方にだけ緩衝領域2、インピーダンス調整部3及び吸収体41を配置しても良い。図7は、入力側IDT電極12にこれら緩衝領域2、インピーダンス調整部3及び吸収体41を配置して、出力側IDT電極13にはフィルタ本体1だけを設けて緩衝領域2、インピーダンス調整部3及び吸収体41を設けていない例を示している。この場合には、出力側IDT電極13の側方側における圧電基板11の端部領域には、当該端部領域に伝搬してくる不要な弾性波を吸収するための吸収体42が設けられる。
【0032】
また、各IDT電極12、13のフィルタ本体1、1の少なくとも一方における電極指15の配置について、例えばDART、DWSF、FUEDTなどの一方向性電極を配置したトランスバーサル型フィルタとしても良いし、あるいは電極指15を間引いたりアポタイズ型に重み付けしても良い。双方のフィルタ本体1、1についてアポタイズ型に重み付けする場合には、IDT電極12、13を互いに弾性波の伝搬方向に離間させると共に弾性波の伝搬方向に対して直交する方向に離間させ、シールド電極3に代えてマルチストリップカプラを配置しても良い。
【0033】
更に、インピーダンス調整部3では、当該インピーダンス調整部3の各電極指15及び一対のバスバー14を覆うように吸収体41を設けたが、電極指15の形成された領域だけを覆うように吸収体41を設けて、バスバー14、14には吸収体41を設けなくても良い。更にまた、インピーダンス調整部3や緩衝領域2では、弾性波が発生しないことから、これらインピーダンス調整部3及び緩衝領域2について、フィルタ本体1とは電極指15のピッチや幅寸法を別個に設定しても良い。
尚、既述の各例ではバスバー14に入力端子21、出力端子22及び接地用端子23のいずれかを設けたが、例えばワイヤなどを介して圧電基板11の上方領域を介してバスバー14と整合器7とを接続する場合には、当該バスバー14が前記入力端子21、出力端子22及び接地用端子23となる。
以上説明した各例では、インピーダンス調整部3の左側から右側に亘って吸収体41を配置したが、緩衝領域2に隣接するインピーダンス調整部3だけに吸収体41を配置しても良いし、あるいはインピーダンス調整部3には吸収体41を配置せずに、緩衝領域2だけに吸収体41を配置しても良い。即ち、インピーダンス調整部3において弾性波が発生したとしても、この弾性波がフィルタ本体1に到達しないようにしても良い。このような構成でも既に述べた効果が得られるが、既述の図1のように構成することにより、インピーダンス調整部3における弾性波の発生を良好に抑えることができるので、フィルタの弾性波の伝搬方向における寸法を小さくできる。また、樹脂を含む液状の塗膜をインピーダンス調整部3上に形成し、その後乾燥あるいは加熱を行って吸収体41を形成したが、例えば半固形状の樹脂シートをインピーダンス調整部3上に押し当てながら加熱して固形化させて吸収体41を形成しても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 フィルタ本体
2 緩衝領域
3 インピーダンス調整部
7 整合器
11 圧電基板
12 入力側IDT電極
13 出力側IDT電極
21 入力端子
22 出力端子
23 接地用端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスバーサル型の弾性波フィルタにおいて、
圧電基板上に形成され、一対のバスバー間に複数の電極指を配置した入力側IDT電極と、
前記圧電基板上において前記入力側IDT電極に対して弾性波の伝搬方向に沿って離間するように形成され、一対のバスバー間に複数の電極指を配置した出力側IDT電極と、を備え、
前記入力側IDT電極及び前記出力側IDT電極の少なくとも一方のIDT電極は、
前記一対のバスバーのうち一方側のバスバーから他方側のバスバーに向かって伸びる電極指と、当該電極指に隣接して前記他方側のバスバーから前記一方側のバスバーに向かって伸びる電極指とからなる組が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置された第1の領域と、
弾性波が発生しないように、前記一対のバスバーのうちいずれかのバスバーから当該バスバーに対向するバスバーに向かって各々伸びる電極指が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置された第2の領域と、
前記一方側のバスバーから前記他方側のバスバーに向かって伸びる電極指と、当該電極指に隣接して前記他方側のバスバーから前記一方側のバスバーに向かって伸びる電極指とからなる組が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置され、インピーダンス整合用の容量成分を調整するための第3の領域と、を備え、
前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域は、弾性波の伝搬方向に沿って他方のIDT電極側からこの順番で配置され、
前記第3の領域における弾性波の発生を抑えるために、前記第3の領域の上方側には弾性波を吸収するための吸収体が形成され、
前記第2の領域は、前記吸収体が前記第1の領域に接触しないように、当該第1の領域と前記第3の領域との間に中間領域を形成するためのものであることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記第3の領域は、当該領域を備えた入力側IDT電極または出力側IDT電極に接続された整合回路の容量成分と共に、インピーダンス整合用の容量成分をなすものであることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記第3の領域における電極指は、前記組における電極指同士の交差幅が弾性波の伝搬方向において変わるように、アポタイズ型に重みづけられていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記第2の領域は、前記一対のバスバーのうちいずれかのバスバーから当該バスバーに対向するバスバーに向かって各々伸びる電極指が弾性波の伝搬方向に沿って複数箇所に配置されていることに代えて、電極指の形成されていないスペース領域が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−199672(P2012−199672A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61358(P2011−61358)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】