説明

弾性波フィルタ

【課題】メアンダ構造のIDT電極を入力側電極及び出力側電極の少なくとも一方として用いると共に通過域よりも低域側及び高域側に各々減衰域を設けたバンドパス型の弾性波フィルタにおいて、減衰域にて良好な減衰特性を持つフィルタを提供する。
【解決手段】入力側IDT電極12及び出力側IDT電極として、入力ポート21や出力ポートと接地ポート23との間に複数のIDTブロック1を互いに直列に接続したメアンダ構造の電極を各々配置すると共に、互いに隣接するIDTブロック1、1間において電極指17を取り除いて、不要な弾性波が励振することを抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタ例えばSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種通信用のバンドパスフィルタとして、弾性表面波(SAW、以下「弾性波」と言う)を利用したフィルタが知られている。近年、ワイヤレスデータ通信の高速化、大容量化に伴い、このようなバンドパスフィルタでは、低損失、広帯域幅、高平坦性、高選択性及び小型化の要求が年々強まっている。こうした要求に応えるためには、テーパー型フィルタが有利である。
【0003】
テーパー型フィルタは、IDT(インターディジタルトランスデューサ)電極の一対のバスバー間において電極指群がテーパー形状となるように配置すると共に、このようなIDT電極を弾性波の伝搬方向に沿って入力側電極及び出力側電極として圧電基板上に並べた構成となっている。各々のIDT電極では、例えば一対のバスバーのうち一方のバスバーに入力ポートや出力ポートが接続され、他方のバスバーに接地ポートが接続される。
【0004】
そして、IDT電極の構成のうちの一つとして、図22に示すように、一方のバスバー100から互いに隣接して伸びる3本の電極指101と、他方のバスバー100からこれら3本の電極指101に隣接して伸びる1本の電極指101と、を周期的に並べたDART(Distributed Acoustic Reflection Transducer)電極が知られている。
【0005】
このようなIDT電極として、近年では、弾性波の回折の影響を抑えるために、またインピーダンスを適度に高くするために、図22に示すように、IDT電極をいわば途中部位で蛇腹状に折り返したメアンダまたはミアンダ(meander)構造と呼ばれるレイアウトが採られる。この構造について図22の入力側電極105を参照して簡単に説明すると、弾性波の伝搬方向において入力側電極105を例えば3つのブロック107に区画して、右側のブロック107の奥側のバスバー100に入力ポート110を接続する。また、この右側のブロック107における手前側のバスバー100と中央のブロック107における手前側のバスバー100とを互いに接続すると共に、中央のブロック107における奥側のバスバー100と左側のブロック107における奥側のバスバー100とを互いに接続する。そして、左側のブロック107における手前側のバスバー100を接地ポート111に接続する。
【0006】
ここで、このようなメアンダ構造では、互いに隣接するブロック107、107同士の間において、意図しない不要な弾性波が励振してしまう。そのため、伝達応答特性が設計値から変化して、減衰特性が悪くなってしまう。特許文献1には、既述のメアンダ構造について記載されているが、この課題については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平11−500593(図12〜図15)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、メアンダ構造のIDT電極を入力側電極及び出力側電極の少なくとも一方として用いると共に通過域よりも低域側及び高域側に各々減衰域を設けたバンドパス型の弾性波フィルタにおいて、減衰域にて良好な減衰特性の得られるフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の弾性波フィルタは、
弾性波の伝搬方向に沿って互いに離間するように圧電基板上に配置した入力側IDT電極及び出力側IDT電極を備え、これらIDT電極の少なくとも一方は、
(1)弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びるように互いに平行に配置された一対のバスバーの各々から、対向するバスバー側に向かって電極指が伸びることにより電極指群が櫛歯状に配列されたIDTブロックの複数を、弾性波の伝搬方向に沿って並べると共に、これら複数のIDTブロックが各々のバスバーを介して直列に接続されるように構成することと、
(2)互いに直列に接続されたIDTブロック群の両端に位置するバスバーに、夫々第1の信号ポート及び第2の信号ポートを接続したことと、
(3)各々のIDTブロックの一対のバスバーのうち、平面的に見て前記第1の信号ポート側に位置する一方のバスバーから互いに隣接して伸びる3本の電極指と、これら3本の電極指に隣接して他方のバスバーから伸びる1本の電極指とからなる周期単位が、弾性波の伝搬方向に沿って周期的に繰り返されるように各IDTブロックの電極指群を構成すると共に、この周期単位が前記IDT電極において周期的に繰り返されるように互いに隣接するIDTブロック同士の離間寸法を設定することと、
(4)互いに隣接するIDTブロック間における弾性波の不要な励振を抑えるために、一方のIDTブロックにおける他方のIDTブロック側の電極指と、他方のIDTブロックにおける一方のIDTブロック側の電極指と、の少なくとも一方の電極指に代えてスペース領域を形成することと、を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記弾性波フィルタは、以下のように構成しても良い。
互いに隣接するIDTブロック同士の離間寸法は、前記スペース領域を形成したことに基づく弾性波の位相のずれを抑制するために、周期単位に対応する寸法とは異なる寸法に設定されている構成。
弾性波の励振位置を間引くために、前記他方のバスバーから伸びる電極指に代えて、前記一方のバスバーから伸びる電極指が配置されている構成。
前記一方のバスバーから互いに隣接して伸びる2本の電極指に代えて、反射電極が配置されている構成。
互いに隣接するIDTブロックのうち、一方のIDTブロックにおける他方のIDTブロック側と、前記他方のIDTブロックにおける前記一方のIDTブロック側とには、これらIDTブロック同士の間において電界が発生することを抑制するために、前記一方のバスバーから伸びる電極指が各々配置されている構成。
互いに隣接する2つの周期単位は、弾性波の励振位置がこれら周期単位において180°反転するように、これら周期単位のうち一の周期単位において前記他方のバスバーから伸びる電極指と、これら周期単位のうち他の周期単位において前記一方側のバスバーから伸びる3本の電極指のいずれか一本の電極指とが入れ替わるように形成されている構成。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、入力側電極及び出力側電極の少なくとも一方の電極として、複数のIDTブロックを第1の信号ポートと第2の信号ポートとの間に互いに直列に接続すると共に弾性波の伝搬方向に沿って並べたメアンダ構造のIDT電極を配置している。そして、このIDT電極について、一方のバスバーから伸びる3本の電極指と他方のバスバーから伸びる1本の電極指とからなる周期単位が弾性波の伝搬方向に沿って周期的に繰り返されるDART型の電極として構成すると共に、互いに隣接するブロック間において電極指を少なくとも1本取り除いている。そのため、電極指を取り除いたことにより、当該電極指とこの電極指に隣接するブロックとの間において不要な弾性波が励振することを抑制できるので、伝達応答特性の劣化を抑えて良好な減衰特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る弾性波フィルタの一例を示す平面図である。
【図2】前記弾性波フィルタの入力側IDT電極を示した平面図である。
【図3】前記入力側IDT電極の元となる構造を示す平面図である。
【図4】前記入力側IDT電極の成り立ちを説明するための平面図である。
【図5】前記入力側IDT電極のある周期長λaを示す平面図である。
【図6】前記入力側IDT電極の一部を拡大して示す平面図である。
【図7】IDTブロック間の離間寸法を説明する特性図である。
【図8】前記弾性波フィルタの出力側IDT電極を示す平面図である。
【図9】前記弾性波フィルタにおいて得られる特性を示す特性図である。
【図10】従来の弾性波フィルタにおいて得られる特性を示す特性図である。
【図11】本発明の弾性波フィルタと従来の弾性波フィルタの夫々の特性を示す特性図である。
【図12】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図13】前記他の例を示す平面図である。
【図14】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図15】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図16】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図17】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図18】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図19】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図20】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図21】前記弾性波フィルタの他の例を示す平面図である。
【図22】従来の弾性波フィルタを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態の弾性波フィルタの一例であるSAWフィルタについて、図1〜図8を参照して説明する。この弾性波フィルタは、例えばリチュームナイオベート(LiNbO)などの圧電基板11上において弾性波の伝搬方向(左右方向)に互いに離間して並ぶテーパー型の入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13を備えており、後述するように、通過域よりも低域側及び高域側に各々減衰域の形成されたバンドパスフィルタとなっている。この例では、入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13は、図1中夫々左側及び右側に配置されている。図1中21、22は夫々入力ポート及び出力ポートであり、23は接地ポートである。また、図1中15はシールド電極であり、16は圧電基板11の端部領域に伝搬する不要な弾性波を吸収するための吸音材(ダンパー)である。尚、以下において、弾性波の伝搬方向に直交する方向を前後方向として説明する。
【0014】
始めに、入力側IDT電極12について説明する。この入力側IDT電極12は、図2に示すように、弾性波の伝搬方向において複数この例では2つのIDTブロック1、1に区画されている。これらIDTブロック1、1は、入力ポート21と接地ポート23との間に互いに直列となるように接続されてメアンダ構造を採っている。即ち、IDTブロック1、1は、弾性波の伝搬方向に沿って互いに平行となるように配置された一対のバスバー14、14と、これらバスバー14、14から各々対向するバスバー14、14に向かって各々櫛歯状に伸び出すように形成された複数の電極指17と、を各々備えている。そして、2つのIDTブロック1、1のうち右側のIDTブロック1を「第1のIDTブロック1」、左側のIDTブロック1を「第2のIDTブロック1」と呼ぶと、第1のIDTブロック1の手前側のバスバー14には接地ポート23が接続されている。また、第1のIDTブロック1の奥側のバスバー14は、第2のIDTブロック1に向かって左側に伸び出して、当該バスバー14に隣接する第2のIDTブロック1における奥側のバスバー14と接続されている。この第2のIDTブロック1における手前側のバスバー14は、入力ポート21に接続されている。こうして入力ポート21と接地ポート23との間において第1のIDTブロック1及び第2のブロック1が互いに直列に順番に接続されると共に、これらIDTブロック1、1が弾性波の伝搬方向に沿って互いに隣接するように並べられている。この例では、接地ポート23が第1の信号ポートをなし、入力ポート21が第2の信号ポートをなしている。尚、図1では、各IDTブロック1を省略して示している。
【0015】
各々のIDTブロック1、1において、奥側のバスバー14及び手前側のバスバー14に夫々「14a」及び「14b」の符号を付すと、各々のIDTブロック1、1では、これらバスバー14a、14bから各々伸びる電極指17がDART構造を採っている。即ち、第1のIDTブロック1では、手前側のバスバー14bから互いに隣接して伸びる3本の電極指17と、これら3本の電極指17に隣接して奥側のバスバー14aから伸びる1本の電極指17と、からなる構成が弾性波の伝搬方向において周期的に繰り返されている。
【0016】
そして、これら4本の電極指17によって弾性波の伝搬方向において繰り返される周期長(周期単位)をλとすると、第1のIDTブロック1では、この周期長λが奥側のバスバー14aから手前側のバスバー14bに向かって広がるように、各々の電極指17の幅寸法及び互いに隣接する電極指17、17間の離間距離がテーパー状となるように形成されている。従って、奥側のバスバー14aに近接する領域及び手前側のバスバー14bに近接する領域では、周期長λは夫々λ1及びλ2(λ1<λ2)となっている。尚、図2などでは、電極指17の幅寸法及び互いに隣接する電極指17、17間の離間寸法については模式的に示している。
【0017】
また、第1のIDTブロック1では、弾性波が左側に向かうことを抑制するために、手前側のバスバー14bから互いに隣接して伸びる2本の電極指17に代えて、反射電極18が配置されている。この例では、第1のIDTブロック1の左端から2番目の周期長λに対応する領域と、当該左端から5番目の周期長λに対応する領域と、の間に反射電極18が設けられている。
【0018】
第2のIDTブロック1では、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる3本の電極指17と、これら3本の電極指17に隣接するように手前側のバスバー14bから伸びる1本の電極指17と、が弾性波の伝搬方向において前記周期長λで繰り返されるように配置されている。また、第2のIDTブロック1についても、図2に示すように、第1のIDTブロック1と同様に、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる2本の電極指17、17に代えて、反射電極18が設けられている。第2のIDTブロック1では、反射電極18は当該第2のIDTブロック1における左端から4番目及び5番目の周期長λに対応する領域に各々設けられている。そして、第2のIDTブロック1において例えば左端から2番目の周期長λに対応する領域には、手前側のバスバー14bから伸びる電極指17に代えて、奥側のバスバー14aから伸びる電極指17が配置されており、従って当該領域では弾性波が励振しないように電極指17が配置されている(間引かれている)。
【0019】
ここで、これら第1のIDTブロック1と第2のIDTブロック1とにおける各々の電極指17の配置レイアウトを比べると、既述の第1のIDTブロック1は、第2のIDTブロック1に対して、電極指17が前後方向で概略対称となるように配置されている。即ち、一対のバスバー14のうちいずれかのバスバー14から互いに隣接するように伸びる3本の電極指17は、第1のIDTブロック1では手前側のバスバー14bに接続され、第2のIDTブロック1では奥側のバスバー14aに接続されている。従って、平面で見た時における各々のIDTブロック1、1の接地ポート23側の一方のバスバー14には、前記3本の電極指17が各々接続され、当該一方のバスバー14に対向する他方のバスバー14には、前記一方のバスバー14に向かって伸びる電極指17が各々接続されている。
【0020】
この時、第1のIDTブロック1と第2のIDTブロック1との間の領域では、前記周期長λがIDTブロック1、1間に亘って繰り返されるように、即ち当該領域において周期長λが途切れないように、且つこれらIDTブロック1、1間における弾性波の不要な励振が抑制されるように、この領域の長さ寸法(IDTブロック1、1間の離間寸法)Lが設定されている。このように入力側IDT電極12を構成した理由について、バスバー14a、14b間のある周期長λa(λ1<λa<λ2)を例に挙げて、基本的なDART構造から順を追って以下に説明する。
【0021】
図3(a)は、前記周期長λaにおける基本的なDART構造の入力側IDT電極12を示している。具体的には、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる3本の電極指17と、これら3本の電極指17に隣接して手前側のバスバー14bから伸びる1本の電極指17とからなる構成が弾性波の伝搬方向に沿って順番に配置されている。尚、図3(a)では、入力側IDT電極12を簡略化して示している。以降の図3(b)〜図5についても同様である。
【0022】
次いで、このような基本的なDART構造において、入力側IDT電極12の周波数特性を調整するために、例えば弾性波の伝搬方向における概略中央部の手前側のバスバー14bから伸びる電極指17を間引いたレイアウトを検討する。即ち、前記電極指17を介して弾性波が励振しないように、図3(b)に示すように、この電極指17に代えて、奥側のバスバー14aから伸びる電極指17を配置する。従って、入力側IDT電極12における概略中央部では、奥側のバスバー14aから互いに隣接するように7本の電極指17が伸び出すことになる。
【0023】
続いて、入力側IDT電極12が既述のメアンダ構造を採るように、当該入力側IDT電極12のある部位において入力側IDT電極12を折り返す。具体的には、図4(a)に一点鎖線で示すように、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる7本の電極指17のうち右側から3番目の電極指17と、当該電極指17に左側から隣接する電極指17と、の間で入力側IDT電極12を2つのIDTブロック1、1に区画する。そして、右側の第1のIDTブロック1について、図4(b)に示すように、図4(a)の構成に対して電極指17のレイアウトが前後方向において対称となるように配置する。即ち、図4(a)において手前側のバスバー14bから伸びる電極指17及び奥側のバスバー14aから伸びる電極指17について、夫々手前側のバスバー14b及び奥側のバスバー14aに接続することに代えて、奥側のバスバー14a及び手前側のバスバー14bに夫々接続する。尚、図4(a)、(b)は、各々のIDTブロック1、1を見やすくするために、第1のIDTブロック1と第2のIDTブロック1とを離間させて模式的に描画している。
【0024】
そして、図4(c)に示すように、IDTブロック1、1間において周期長λaが連続的に繰り返されるように、即ちIDTブロック1、1間の離間寸法Lが他の部位における電極指17、17間の離間寸法と同じ寸法となるように、これらIDTブロック1、1を配置する。また、入力ポート21と接地ポート23との間においてこれらIDTブロック1、1が既述のメアンダ構造を採るように、各々のバスバー14a、14bを配置する。具体的には、IDTブロック1、1間における奥側のバスバー14a、14a同士を互いに接続し、手前側のバスバー14b、14b同士については互いに接触しないように離間させる。尚、この明細書における「離間寸法L」とは、互いに隣接する3本の電極指17について、左側から順番に「第1」、「第2」及び「第3」を付して説明すると、図4(c)に示すように、第1の電極指17及び第2の電極指17の中間の位置と、第2の電極指17及び第3の電極指17の中間の位置との間の寸法を指している。
【0025】
この時、既述の図3(b)と図4(c)とを比較して分かるように、入力側IDT電極12をメアンダ構造となるように配置したことにより、IDTブロック1、1間の領域では、第2のIDTブロック1の奥側のバスバー14aから伸びる電極指17と、第1のIDTブロック1の手前側のバスバー14bから伸びる電極指17とが互いに隣接することになる。そのため、入力側IDT電極12では、メアンダ構造を採ったことにより、元の設計(図3(b))と比べて、意図しない不要な弾性波が励振すると言える。そこで、本発明では、このような不要な弾性波の励振を抑えるために、以下のように電極指17を配置している。
【0026】
具体的には、図5に示すように、第2のIDTブロック1において第1のIDTブロック1側の電極指17を取り除き、いわばこの電極指17に代えてスペース領域(電極の配置されていない領域)20を設けることにより、当該電極指17と第1のIDTブロック1の電極指17との間で弾性波が励振しないようにしている。従って、第1のIDTブロック1と第2のIDTブロック1との間では、周期長λaが保たれたまま、即ち各々の周期長λa同士が互いに重なり合ったり離間したりせずに、不要な弾性波の励振に寄与する電極指17が取り除かれる。この電極指17は、既述の図3(b)から分かるように、元々弾性波が励振しないように配置されているため、取り除いても特性上問題ない。
【0027】
この時、電極指17を取り除いたことにより、IDTブロック1、1間の領域では、弾性波の位相がずれる場合がある。即ち、弾性波は、電極指17などの形成された領域と、電極指17の形成されていない領域(例えば電極指17、17間の領域)とでは伝搬速度が異なるので、電極指17を取り除いたことにより、IDTブロック1、1間の領域で弾性波の周期長λaが僅かにずれることがある。そこで、本発明では、IDTブロック1、1間の電極指17を取り除いたことに基づく弾性波の位相のずれを抑制するために、前記離間寸法Lについて、周期長λaに対応する寸法とは異なる寸法に設定している。具体的には、圧電基板11を構成する材料及び入力側IDT電極12を構成する電極材料が夫々リチュームナイオベート及びアルミニウムであり、またこの入力側IDT電極12の厚み寸法が0.345μmの場合には、周期長λaが例えば10.11μmの時には既述の離間寸法Lを2.637μm(周期長λa×2/8×1.0433)に設定している。
【0028】
ここで、離間寸法Lの具体的な調整方法について、以下に詳述する。始めに、この離間寸法Lについて図5を参照して再度説明する。電極指17が隣接して並んでいる領域(電極指17が取り除かれていない領域)において互いに隣接する電極指17、17間の領域の幅寸法をtとすると、離間寸法Lは、第1の(右側の)IDTブロック1における左端の電極指17における左側の端部から左側にt/2だけ離れた位置と、第2の(左側の)IDTブロック1における右端の電極指17における右側の端部から右側にt/2だけ離れた位置と、の間の寸法である。
【0029】
この離間寸法Lは、既述の周期長λaで示すと、2/8λa(=1/4λa)となる。この時、IDTブロック1、1間の電極指17を取り除いたことに基づいて離間寸法Lを調整した後の離間寸法をL’として、以下にこの離間寸法L’について検討する。即ち、電極指17を取り除いた時に生じる位相差dφは、自由表面(IDT電極12が形成されていない領域)での波数をkfとすると共に、圧電基板11の材料、電極指17の構造、IDT電極12の材料、IDT電極12の膜厚及び周期長λaにより決定される規格化波数をk11’とすると、
dφ={kf−(kf+k11)}×λa/4
=−k11’×2π/λa×λa/4
=−π/2×k11’
となる(k11(波数)=k11’×2π/λa)。
【0030】
この位相差dφがなくなるように、あるいは小さくなるようにするためには、この位相差dφの分だけ、元の離間寸法Lよりも離間寸法L’を広げる必要がある。その時の離間寸法L’は、
L’=L+dφ/2π×λa
=λa/4+dφ/2π×λa
=λa/4×(1+k11’)
となり、(1+k11’)=αとすると、離間寸法L’は
L’=1/4λaα
で表される。
【0031】
図7は、規格化波数k11’について、圧電基板11としてリチュームナイオベート基板を用いて、電極指17をDART構造(反射電極18なし)となるように配置すると共に、IDT電極12をアルミニウムにより構成した場合に、電極膜の膜厚依存性を実験によって求めた結果である。図7の横軸は、電極膜厚hを周期長λaで除した値である規格化膜厚(h/λ)である。この実験の結果及び圧電基板11の材料などのパラメータを種々変更して行った実験の結果から、比率αは、実用的なフィルタの使用範囲においては1.0005〜1.07(k11’:0.0005〜0.07)であることが分かった。具体的には、圧電基板11として水晶を用いると共に、規格化膜厚が0.005の時には、比率αは1.0005となった。
【0032】
また、後述するように、IDTブロック1、1間で2本の電極指17を取り除いた場合の離間寸法L’は、上の式から分かるように、
L’=4/8λaα=1/2λaα
となり、更に3本の電極指17を取り除いた場合には
L’=6/8λaα=3/4λaα
となる。従って、DART構造における離間寸法L’は、取り除いた電極指17の本数に応じて、各々個別に設定される。また、この離間寸法L’は、周期長λaに応じた寸法となることから、既述の図1などのようにIDT電極12(13)をテーパー形状となるように配置した場合には、各周期長λに応じて離間寸法L’が設定される。
【0033】
こうして既述のように各々の電極指17の配置領域がテーパー形状となるように入力側IDT電極12を構成すると共に、以上説明したように、第1のIDTブロック1に隣接する第2のIDTブロック1の電極指17を取り除き、更に各々の周期長λ1〜λ2について離間寸法Lを各々調整する(各周期長λ1〜λ2について、離間寸法Lを個別に調整する)と、既述の図2や図6に示す入力側IDT電極12が構成される。従って、周期長λ1〜λ2に亘って、不要な弾性波が励振せず、また弾性波の位相のずれが抑制されることになる。
【0034】
続いて、出力側IDT電極13について、図8を参照して説明する。この出力側IDT電極13は、3つのIDTブロック1により構成されており、出力ポート22と接地ポート23との間にこれらIDTブロック1が互いに直列に接続されている。即ち、これら3つのIDTブロック1について、右側から左側に向かって夫々「第1」、「第2」及び「第3」を付すと、第1のIDTブロック1の奥側のバスバー14aには、出力ポート22が接続されている。この第1のIDTブロック1の手前側のバスバー14bと第2のIDTブロック1の手前側のバスバー14bとが互いに接続され、第2のIDTブロック1の奥側のバスバー14aと第3のIDTブロック1の奥側のバスバー14aとが互いに接続されている。第3のIDTブロック1の手前側のバスバー14bには、接地ポート23が接続されている。そして、これら3つのIDTブロック1が弾性波の伝搬方向に沿って互いに隣接するように並べられている。この例では、接地ポート23が第1の信号ポートをなし、出力ポート22が第2の信号ポートをなす。
【0035】
出力側IDT電極13における第1のIDTブロック1では、手前側のバスバー14aから互いに隣接するように3本の電極指17が伸び出しており、これら3本の電極指17に隣接する1本の電極指17が奥側のバスバー14bに接続されている。また、第2のIDTブロック1では、前記3本の電極指17が奥側のバスバー14bに接続され、第3のIDTブロック1では、これら3本の電極指17が手前側のバスバー14aに接続されている。こうして出力側IDT電極13の各々のIDTブロック1では、周期長λを構成する4本の電極指17のうち互いに隣接して一方のバスバー14から伸び出す3本の電極指17は、平面で見た時に接地ポート23側におけるバスバー14に接続されている。
【0036】
そして、出力側IDT電極13においても、図8に示すように、入力側IDT電極12と同様に反射電極18が設けられていたり、電極指17が間引かれたりしている。また、互いに隣接するIDTブロック1、1間では、電極指17が各々取り除かれると共に、既に詳述したように離間寸法Lが各々調整されている。出力側IDT電極13のIDTブロック1、1間における電極指17の配置レイアウトについて、以下に簡単に説明する。
【0037】
第1のIDTブロック1と第2のIDTブロック1との間の領域では、既述の図5のレイアウトにおいて、第2のIDTブロック1における第1のIDTブロック1側の2本の電極指17を取り除いた構造となっている。また、第2のIDTブロック1と第3のIDTブロック1との間の領域では、図5の前後方向を入れ替えたレイアウトとなっている。そして、互いに隣接するIDTブロック1、1間では、入力側IDT電極12と同様に離間寸法Lが各々調整されている。
【0038】
このように配置されたSAWフィルタにおいて、入力ポート21に電気信号を入力すると、入力側IDT電極12では、奥側のバスバー14aから伸びる電極指17と、手前側のバスバー14bから伸びる電極指17との間の領域において、各々弾性波が発生する。この時、入力側IDT電極12の第2のIDTブロック1における右端の電極指17を取り除いているので、当該電極指17と第1のIDTブロック1との間では、不要な弾性波の発生が抑制されている。
【0039】
一方、このように第2のIDTブロック1における右端の電極指17を取り除いても、これらIDTブロック1、1間では、前記取り除いた電極指17の左側において奥側のバスバー14aから伸びる電極指17と、第1のIDTブロック1の左端における手前側のバスバー14bから伸びる電極指17とは、前記取り除いた電極指17が形成されていた領域を介して依然として隣接している。そのため、これら電極指17、17間においても弾性波が励振される。しかし、これら電極指17、17は他の部位における電極指17、17よりも大きく離間している(詳しくは当該他の部位の2倍以上)ので、不要な弾性波の励振が抑えられる。従って、本発明の入力側IDT電極12では、既述の図4(c)の構成(電極指17を取り除かない構成)と比べて、互いに隣接するIDTブロック1、1間に形成される電界の強度が小さくなり、IDTブロック1、1間における不要な弾性波の励振が抑えられる。
【0040】
また、これらIDTブロック1、1間の離間寸法Lを既述のように調整していることから、IDTブロック1、1間において弾性波の位相のずれが発生しないか、あるいは位相のずれの発生が抑制された状態で、弾性波は出力側IDT電極13に到達する。従って、例えば弾性波のエネルギー損失(フィルタの挿入損失)の発生が抑えられる。
【0041】
そして、出力側IDT電極13では、奥側のバスバー14aから伸びる電極指17と、手前側のバスバー14bから伸びる電極指17との間において、弾性波が電気信号に変換されて出力ポート22から取り出される。出力側IDT電極13においても、互いに隣接するIDTブロック1、1間の電極指17を取り除いていることから、不要な弾性波が電気信号に変換されることが抑制される。また、同様に出力側IDT電極13の互いに隣接するIDTブロック1、1間の離間寸法Lを調整していることから、弾性波の位相のずれが抑制される。
【0042】
図9は、本発明のフィルタにおいて、入力側IDT電極12及び出力側電極13のいずれについても3つのIDTブロック1を配置すると共に、各々のIDTブロック1、1間では電極指17を取り除いた構成で得られる周波数特性を示しており、図10は従来のフィルタにおいて得られる周波数特性を示している。また、図11は、これら2つの周波数特性を同じグラフに重ね合わせた特性を示している。これらの特性から、本発明では、本来設計していた伝達応答特性を得るために必要な励振以外の不要な励振を抑えることで、伝達応答特性が設計値からずれることを抑制して、減衰域において良好な減衰特性が得られていることが分かる。
【0043】
上述の実施の形態によれば、入力側IDT電極12及び出力側IDT電極13として、入力ポート21や出力ポート22と接地ポート23との間に複数のIDTブロック1を互いに直列に接続したメアンダ構造の電極を各々配置すると共に、互いに隣接するIDTブロック1、1間において電極指17を取り除いて、不要な弾性波が励振されることを抑えている。そのため、伝達応答特性の劣化を抑えることができ、減衰域において良好な減衰特性を得ることができる。
【0044】
また、互いに隣接するIDTブロック1、1間で電極指17を取り除くにあたり、IDTブロック1、1間の領域で弾性波の位相がずれないように、あるいは位相のずれが抑えられるように、当該領域の寸法(離間寸法L)を調整している。そのため、弾性波から見た時の周期長λを維持しながらも、例えば弾性波のエネルギー損失(フィルタの挿入損失)の発生を抑えることができる。
【0045】
更に、例えば入力側IDT電極12の第2のIDTブロック1において右端の電極指17を取り除くにあたり、第2のIDTブロック1の右側の領域では、手前側のバスバー14bから伸び出す電極指17よりも第1のIDTブロック1側に、奥側のバスバー14aから各々伸びる3本の電極指17を配置して(残して)いる。そのため、前記手前側のバスバー14bから伸びる電極指17を介して形成されようとする電界について、前記3本の電極指17によって第1のIDTブロック1側に回り込むことを抑制できるので、IDTブロック1、1間における不要な弾性波の励振を抑えることができる。出力側IDT電極13についても同様に、周期長λを構成する4本の電極指17のうち、一方のバスバー14から伸びる3本の電極指17に対向する1本の電極指17について、この電極指17が他のIDTブロック1側の端部に配置されないように、当該電極指17よりも前記他のIDTブロック1側に前記一方のバスバー14から伸びる電極指17を配置している。従って、出力側IDT電極13についても互いに隣接するIDTブロック1、1間において弾性波が励振されることを抑制できる。
【0046】
以下に、本発明のIDT電極12、13の他の例について、既述の図5のように、ある周期長λaを例に説明する。図12は、入力側IDT電極12の第1のIDTブロック1について、第2のIDTブロック1側の2本の電極指17を取り除いた例を示している。また、第2のIDTブロック1では、第1のIDTブロック1側の3本の電極指17を取り除いている。図13は、図12のレイアウトとなるように各々の電極指17をテーパー形状に配置した例を示している。このように、互いに隣接するIDTブロック1、1間において複数本の電極指17を取り除くことにより、更に不要な弾性波の励振を抑制できる。即ち、本発明では、互いに隣接するIDTブロック1、1間において少なくとも1本の電極指17を取り除くことで効果が得られる。
【0047】
また、図14は、第1のIDTブロック1については第2のIDTブロック1側の3本の電極指17を取り除くと共に、第2のIDTブロック1については第1のIDTブロック1側の4本の電極指17を取り除いた例を示している。この時、第2のIDTブロック1において、周期長λを構成する4本の電極指17のうち、手前側のバスバー14bから伸びる電極指17が右側のIDTブロック1側に臨むように配置されている。そのため、この電極指17から右側のIDTブロック1に向かって電界が漏れ出そうとする場合がある。従って、互いに隣接するIDTブロック1、1間で電極指17を取り除くにあたり、周期長λを構成する4本の電極指17のうち、互いに隣接するようにいずれかのバスバー14から伸びる3本の電極指17のうち少なくとも1本について、例えば図12などのように対向するIDTブロック1側に残しておくことが好ましい。尚、図14に対応するテーパー形状のIDT電極12、13については描画を省略する。以降の説明についても同様である。また、以降の他の例の説明においては、この図14に対応するレイアウト(互いに隣接するIDTブロック1、1間において一方のバスバー14から互いに隣接して伸びる3本の電極指17を取り除いた例)については説明を省略する。
【0048】
更に、以上の例では図4(a)に示すように、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる7本の電極指17のうち右側から3本目の電極指17と、当該電極指17に左側から隣接する電極指17との間でIDTブロック1、1を区画したが、IDTブロック1、1を区画する位置については以下のようにしても良い。図15(a)は、図3(b)に対応する入力側IDT電極12において、IDTブロック1、1を区画できる位置をA〜Fとして示している。具体的には、前記7本の電極指17のうち左側から1本目と2本目との間(A)、左側から2本目と3本目との間(B)、左側から3本目と4本目との間(C)、左側から4本目と5本目との間(D:既述の図4(a)などに対応)、左側から5本目と6本目との間(E)、左側から6本目と7本目との間(F)においてIDTブロック1、1間を区画しても良い。以下に、これらのA〜Fの各々においてメアンダ構造を採る場合のIDTブロック1、1の配置レイアウトと共に、互いに隣接するIDTブロック1、1間で取り除くことのできる電極指17を斜線で示す。
【0049】
前記Aの場合には、第1のIDTブロック1の左側の5本の電極指17を取り除いても良い(図15(b))。前記Bの場合には、第1のIDTブロック1の左側の4本の電極指17及び第2のIDTブロック1の右側の1本の電極指17を取り除いても良い(図15(c))。前記Cの場合には、第1のIDTブロック1の左側の3本の電極指17及び第2のIDTブロック1の右側の2本の電極指17を取り除いても良い(図16(a))。前記Eの場合には、第1のIDTブロック1の左側の1本の電極指17及び第2のIDTブロック1の右側の4本の電極指17を取り除いても良い(図16(b))。前記Fの場合には、第2のIDTブロック1の右側の5本の電極指17を取り除いても良い(図16(c))。
【0050】
更に、以上の例では、図3(b)のように電極指17を間引いた領域においてIDTブロック1、1間を区画する例について説明したが、図3(a)の基本的なDART構造においてIDTブロック1、1を設けると共に互いに隣接するIDTブロック1、1間において電極指17を取り除いても良い。即ち、図17(a)に図3(a)のレイアウトを示すように、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる3本の電極指17のうち左側の電極指17と左側から2番目の電極指17との間(G)及び左側から2番目の電極指17と左側から3番目の電極指17との間(H)でIDTブロック1、1を区画しても良い。具体的には、図17(b)に示すように、前記Gの場合には、第1のIDTブロック1の左端の電極指17を取り除いても良い。また、前記Hの場合には、図17(c)に示すように、第2のIDTブロック1の右端の電極指17を取り除いても良い。
【0051】
更にまた、奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる2本の電極指17に代えて反射電極18が設けられている場合には、図18(a)に矢印で示すように、バスバー18aから伸びる電極指17と、当該電極指17に隣接してバスバー18bから伸びる電極指17との間においてIDTブロック1、1を区画しても良い。この場合には、図18(b)に示すように、第2のIDTブロック1において、バスバー18bから互いに隣接して伸びる2本の電極指17のうち第1のIDTブロック1側(右側)における電極指17を取り除いても良い。従って、本発明では、IDT電極12(13)を折り返してメアンダ構造を採った時に、互いに隣接するIDTブロック1、1間の領域において電極指17、17同士が交差して弾性波が発生する場合には、当該領域の左右両側の少なくとも1方の電極指17を1本以上取り除くことにより、以上説明した効果が得られる。
【0052】
また、以上の各例では、電極指17をテーパー形状に形成した例について説明したが、図19に示すように、電極指17がバスバー14a、14bから各々直交して伸びるように配置しても良い。図19では、既述の入力側IDT電極12と同じレイアウトで電極指17を配置している。
更にまた、互いに隣接する2つの周期単位(周期長λaを構成する4本の電極指17)において、弾性波の励振位置がこれら周期単位間で180°反転するように、これら周期単位のうち一の周期単位においてバスバー14bから伸びる電極指17と、これら周期単位のうち他の周期単位においてバスバー14aから伸びる3本の電極指17のいずれか一本の電極指17とを入れ替えても良い。即ち、図3(a)の基本的なDART構造において、右端から3番目の電極指17と、右端から5番目の電極指17とを入れ替えると、図20に示すレイアウトとなる。このように電極指17を配置すると、図20における右側5本の電極指17と、左側の5本の電極指17とが互いに左右対称となり、従って弾性波の励振位置が前記右側と前記左側とで180°反転して、弾性波の符号が反転したことと等価になる。そのため、このレイアウトであっても、DART構造における電極指17の周期構造が連続的に繰り返される。この図20のレイアウトにおいて、既述のように複数のIDTブロック1を構成すると共に互いに隣接するIDTブロック1、1間の電極指17を少なくとも1本取り除いても良いし、あるいは電極指17を間引くと共にIDTブロック1、1間の電極指17を少なくとも1本取り除いていても良い。また、図20のレイアウトにおいて反射電極18を配置しても良い。
出力側IDT電極13についても、以上説明した入力側IDT電極12と同様に、各ブロック1、1間を区画する位置や取り除く電極指17の位置及び本数を設定しても良い。
【0053】
以上の例では、入力側IDT電極12に2つのIDTブロック1を設けると共に、出力側IDT電極13に3つのIDTブロック1を配置したが、各々2つ以上のIDTブロック1を設けても良い。また、これらIDT電極12、13のうち一方として、本発明の構成(メアンダ構造で互いに隣接するIDTブロック1、1間の電極指17を取り除いた構成)を設けると共に、他方の電極として以下の構成を用いても良い。即ち、前記他方の電極として、互いに隣接するIDTブロック1、1間において電極指17を取り除かずに配置した通常のメアンダ構造を備えた電極や、メアンダ構造を採らずにいわば1つのIDTブロック1により構成した電極を用いても良い。また、前記他方の電極として、DART構造以外にも、図21に示すように、例えば奥側のバスバー14aから互いに隣接して伸びる反射電極32及び電極指31と、手前側のバスバー14bから互いに隣接して伸びる反射電極32及び電極指31とが周期長λを構成する電極例えばDWSF(Different Width Split Finger)電極を用いても良いし、あるいは通常の双方向性電極を用いても良い。
【0054】
以上の説明において、各IDTブロック1に付した「第1」、「第2」及び「第3」の用語は便宜上のものであり、また各ポート21〜23についての「第1の信号ポート」及び「第2の信号ポート」についても便宜上のものである。従って、第1のIDTブロック1及び第2のIDTブロック1(更に第3のIDTブロック1)を左側から右側に向かって順番に配置しても良いし、入力ポート21や出力ポート22と、接地ポート23との接続位置を入れ替えても良い。
更に、以上の例ではIDT電極12、13を入力ポート21や出力ポート22と接地ポート23との間に設けたが、これらIDT電極12、13について、接地ポート23に代えて別の信号ポートに接続し、バランスタイプのフィルタとして構成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 IDTブロック
11 圧電基板
12 入力側IDT電極
13 出力側IDT電極
14 バスバー
17 電極指
18 反射電極
21 入力ポート
22 出力ポート
23 接地ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波の伝搬方向に沿って互いに離間するように圧電基板上に配置した入力側IDT電極及び出力側IDT電極を備え、これらIDT電極の少なくとも一方は、
(1)弾性波の伝搬方向に沿って各々伸びるように互いに平行に配置された一対のバスバーの各々から、対向するバスバー側に向かって電極指が伸びることにより電極指群が櫛歯状に配列されたIDTブロックの複数を、弾性波の伝搬方向に沿って並べると共に、これら複数のIDTブロックが各々のバスバーを介して直列に接続されるように構成することと、
(2)互いに直列に接続されたIDTブロック群の両端に位置するバスバーに、夫々第1の信号ポート及び第2の信号ポートを接続したことと、
(3)各々のIDTブロックの一対のバスバーのうち、平面的に見て前記第1の信号ポート側に位置する一方のバスバーから互いに隣接して伸びる3本の電極指と、これら3本の電極指に隣接して他方のバスバーから伸びる1本の電極指とからなる周期単位が、弾性波の伝搬方向に沿って周期的に繰り返されるように各IDTブロックの電極指群を構成すると共に、この周期単位が前記IDT電極において周期的に繰り返されるように互いに隣接するIDTブロック同士の離間寸法を設定することと、
(4)互いに隣接するIDTブロック間における弾性波の不要な励振を抑えるために、一方のIDTブロックにおける他方のIDTブロック側の電極指と、他方のIDTブロックにおける一方のIDTブロック側の電極指と、の少なくとも一方の電極指に代えてスペース領域を形成することと、を備えたことを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
互いに隣接するIDTブロック同士の離間寸法は、前記スペース領域を形成したことに基づく弾性波の位相のずれを抑制するために、周期単位に対応する寸法とは異なる寸法に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
弾性波の励振位置を間引くために、前記他方のバスバーから伸びる電極指に代えて、前記一方のバスバーから伸びる電極指が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記一方のバスバーから互いに隣接して伸びる2本の電極指に代えて、反射電極が配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
互いに隣接するIDTブロックのうち、一方のIDTブロックにおける他方のIDTブロック側と、前記他方のIDTブロックにおける前記一方のIDTブロック側とには、これらIDTブロック同士の間において電界が発生することを抑制するために、前記一方のバスバーから伸びる電極指が各々配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
互いに隣接する2つの周期単位は、弾性波の励振位置がこれら周期単位において180°反転するように、これら周期単位のうち一の周期単位において前記他方のバスバーから伸びる電極指と、これら周期単位のうち他の周期単位において前記一方側のバスバーから伸びる3本の電極指のいずれか一本の電極指とが入れ替わるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【図13】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−85136(P2013−85136A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224028(P2011−224028)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】