説明

弾性波装置及びその製造方法

【課題】コンタクト部における接触抵抗を低めることができるだけでなく、例えばフォトリソグラフィー法より製造するに際し、エッチング液による電極の腐食が生じ難い、弾性波装置及びその製造方法の提供。
【解決手段】圧電基板2上に、IDT電極3の電極指部分を含むように第1の積層金属膜11が形成されており、第1の積層金属膜11に重なり合う部分においてコンタクト部が形成されており、圧電基板2上に第2の積層金属膜が形成されており、第1の積層金属膜の最上部の金属膜がTi膜であり、第2の積層金属膜12の最下層の金属膜がTi膜であり、コンタクト部CにおいてTi膜同士が接触されている、弾性波装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯域フィルタや共振子などに用いられる弾性波装置に関し、より詳細には、Al膜を含む積層金属膜からなる第1の電極と、積層金属膜からなり、かつ第1の電極に電気的に接続されるように第1の電極に積層された第2の電極とを有する弾性波装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の小型化に伴って、携帯電話機に用いられる帯域フィルタにおいても小型化が強く求められている。この種の帯域フィルタとしては、弾性表面波を利用した弾性表面波装置が広く用いられている。小型化を進めるために、弾性表面波装置では、圧電基板上にIDT等を形成するための導電膜が形成された弾性表面波フィルタチップが、パッケージに対して、ワイヤーボンディングではなく、バンプを用いたフリップチップボンディングにより接続されている。
【0003】
この種の弾性表面波装置の一例が、下記の特許文献1に開示されている。
【0004】
図8は、特許文献1に開示されている弾性表面波装置を説明するための部分切欠正面断面図である。弾性表面波装置1001は、圧電基板1002を有する。圧電基板1002上に、積層導電膜によりIDT1003が形成されている。IDT1003は、Cuからなる主電極層1003aを有する。主電極層1003aの下側には、Tiからなる密着層1003bが積層されている。Tiからなる密着層1003bの形成により、IDT1003の圧電基板1002に対する密着強度が高められている。
【0005】
また、主電極層1003aの上側には、Alからなる保護層1003cが積層されている。AlはCuよりも酸化され難いため、主電極層1003aを保護層1003cにより保護することができる。なお、弾性表面波装置1001では、周波数温度特性を改善するために、また保護を図るために、酸化ケイ素膜1004によりIDT1003が被覆されている。
【0006】
他方、下記の特許文献2では、IDTが、圧電基板上に形成されたTiからなる下地層と、下地層上に形成されており、Alからなる主電極層とを有する。すなわち、上から順にAl/Tiの積層構造を有するIDTが示されている。また、特許文献2では、IDTに電気的に接続される電極パッドが、Alからなる下部電極と、Alからなる上部電極と、下部電極と上部電極との間に積層されており、Tiからなるバリア層とを有する。すなわち、電極パッドは、上から順にAl/Ti/Alの積層構造を有する。これは、比較的柔らかいAlからなる下部電極を圧電基板上に形成することにより、フリップチップボンディング時におけるバンプを用いた接合に際しての圧電基板のクラックを防止するためである。
【特許文献1】特開2006−115548号公報
【特許文献2】特開2003−174056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載のように、バンプ接合が行われる電極パッド部分において、最下層の電極層をAlとすることにより、圧電基板のクラックを防止することができる。
【0008】
いま、弾性表面波装置のIDTに連なる配線パターンを第1の配線パターンとし、上記電極パッドに連なる配線パターンを第2の配線パターンとする。
【0009】
上記電極パッドに連なる第1の配線パターンは、電極パッドと同時に形成される。従って、特許文献2に記載のように電極パッド部分を形成した場合、電極パッドに連なる第2の配線パターンも同様に、Al/Ti/Alの積層構造を有することとなる。このような第2の配線パターンが、IDTに連なる第1の配線パターンに重ねられて電気的に接続されるコンタクト部においては、上記第2の配線パターンの最下層の導電膜であるAl膜が、第1の配線パターンの最上層の導電膜に重ねられることとなる。
【0010】
従って、特許文献1に記載のように、IDTを構成する積層導電膜を、Al/Cu/Tiの積層構造とした場合、第1の配線パターンも同様の積層構造を有するため、コンタクト部においては、Al膜とAl膜とが重ねられることとなる。このような構造では、コンタクト部における接触抵抗が大きくなり、弾性表面波装置の挿入損失が悪化しがちであった。
【0011】
他方、本願発明者は、信頼性や耐電力性を高めるために、IDT及びIDTに連なる第1の配線パターンを、上から順に、Al/Ti/Pt/NiCrの積層導電膜で形成することを検討した。主たる電極層としてAl膜及びPt膜を用いることにより、特に、Alを密度の大きなPt膜を用いることにより反射係数を高めることが可能となる。しかしながら、この場合においても、上記電極パッドに連なる第2の配線パターンがAl/Ti/Alである場合、両者の接続部であるコンタクト部において、Al膜上に、やはりAl膜が重ねられることになり、コンタクト抵抗が大きくなり、弾性表面波装置の挿入損失が悪化することがわかった。
【0012】
上記第1,第2の配線パターンは、通常フォトリソグラフィー法により形成されている。すなわち、第1の配線パターンを形成した後に、フォトレジスト層を形成し、フォトレジスト層に第2の配線パターンが形成されることが予定されている部分にエッチング等により開口部を形成する。しかる後、開口部内を含む全領域に第2の配線パターンを構成する金属膜を形成する。そして、フォトレジスト層及びその上の不要な第2の配線パターン形成用金属膜をリフトオフ法により除去する。
【0013】
このような製造方法では、エッチングにより開口部を形成した場合、開口部に第1の配線パターンが露出するが、第1の配線パターン中のAl膜が露出していると、酸やアルカリ等のエッチング液により、Al膜が腐食するという問題もあった。
【0014】
この発明の目的は、配線パターン同士などの電極同士が電気的に接続されるコンタクト部における接触抵抗を低めることができ、それによって損失を低めることが可能とされている弾性波装置及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、コンタクト部における接触抵抗を低めることができるだけでなく、例えばフォトリソグラフィー法より製造するに際し、エッチング液による電極の腐食が生じ難い、弾性波装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、圧電基板と、前記圧電基板上に形成されており、複数の金属膜を積層してなる第1の積層金属膜からなり、少なくともIDT電極を含む第1の電極と、前記圧電基板上に形成されており、複数の金属膜を積層してなる第2の積層金属膜からなる第2の電極とを備え、前記第2の電極が、前記第1の電極に重なっている部分により、第1,第2の電極を電気的に接続しているコンタクト部が形成されており、前記第1の積層金属膜が、Al膜と、最上層としてのTi膜とを有し、前記第2の積層金属膜が、最下層としてのTi膜を有する、弾性波装置が提供される。
【0017】
本発明に係る弾性波装置のある特定の局面では、前記第1の積層金属膜が貴金属膜を有し、該貴金属がPtまたはAuである。この場合には、第1の電極の電気的抵抗を低めることができ、損失を小さくすることができる。
【0018】
本発明にかかる弾性波装置の他の特定の局面では、前記コンタクト部において、第2の電極の外縁が、第1の電極の外縁よりも内側に位置されている。この場合には、フォトリソグラフィー法により、第1,第2の電極を形成するに際し、レジスト層にエッチング液により開口部を形成する場合、開口部に露出する部分は、最上層に設けられたTi膜であるため、第1の電極の腐食が生じ難い。
【0019】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、前記第1の電極における最上層に位置しているTi膜の膜厚が、弾性波の波長をλとしたときに、波長λの0.1〜1%の範囲にあり、前記第2の電極の最下層のTi膜が、波長λの0.5〜10%の範囲にある。従って、弾性波の反射係数を損なうことなく、電気的抵抗を低めることができる。
【0020】
本発明に係る弾性波装置のさらに別の特定の局面によれば、前記圧電基板上において、前記第1の電極を覆うように設けられた絶縁膜がさらに備えられる。この場合には、絶縁膜により、第1の電極の保護を図ることができる。
【0021】
本発明に係る弾性波装置のさらに他の特定の局面では、上記弾性波が弾性表面波であり、それによって本発明の効果を奏する弾性表面波装置を提供することができる。
【0022】
本発明に係る弾性波装置の製造方法は、前記圧電基板上に前記第1の積層金属膜からなる前記第1の電極を形成する工程と、前記第1の電極を覆うようにレジスト層を形成する工程と、前記レジスト層のうち、前記第2の積層金属膜が形成される部分に開口部を形成する工程と、前記開口部及び前記レジスト層の上面に、第2の積層金属膜を形成する工程と、前記レジスト層及レジスト層上の第2の積層金属膜をリフトオフ方により除去する工程とを備える。
【0023】
本発明に係る弾性波装置の製造方法のある特定の局面では、前記コンタクト部において、前記第2の電極の外縁が、前記第1の電極の外縁よりも内側に位置するように前記開口部をレジスト層に形成する。従って、開口部の形成に用いられているエッチング液は、開口部に露出している第1の電極のTi膜に接触するが、Ti膜は酸やアルカリ等により腐食し難い。よって、電極の腐食を防止しつつ、本発明に係る弾性波装置を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る弾性波装置では、第1の積層金属膜が最上層としてTi膜を有し、第2の積層金属膜が最下層としてTi膜を有するため、コンタクト部においては、Ti膜同士が接触をするので、第1,第2の電極間の接触抵抗を低めることでき、それによって挿入損失を小さくすることが可能となる。
【0025】
本発明に係る弾性波装置の製造方法によれば、第1の積層金属膜を形成した後に、フォトリソグラフィー法により、第2の積層金属膜が形成されるが、コンタクト部において、Ti膜同士が重なり合うことになるため、接触抵抗が低いコンタクト部を有する本発明に係る弾性波装置をフォトリソグラフィー法に従って容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態の弾性波装置において、後述の絶縁膜を除去した状態を示す模式的平面図である。弾性波装置1は、圧電基板2を有する。圧電基板2は、適宜の圧電材料により形成され得る、圧電材料としては、LiTaOもしくはLiNbOなどの圧電単結晶またはPZTなどの圧電セラミックスが挙げられるが、本実施形態では、圧電基板として、126°LiNbO基板を用いた。
【0028】
圧電基板2上に、IDT電極3が形成されている。IDT電極3は、複数本の第1の電極指4と、複数本の第1の電極指4と間挿し合うように配置された複数本の第2の電極指5と有する。なお、本実施形態では、IDT電極3により弾性表面波が励振され、従って弾性表面波装置が形成されている。
【0029】
また、IDT電極3においては、第1の電極指4の先端とギャップを隔てて、第1のダミー電極6が形成されている。同様に、第2の電極指5の先端とギャップを隔てて、第2のダミー電極7が形成されている。
【0030】
他方、IDT電極3では、弾性表面波伝搬方向中央から、IDT電極3の端部にいくにつれて、電極指交叉幅が順に小さくなるように交叉幅重み付けが施されている。もっとも、本発明において、IDT電極3は、他の形態で重み付けが施されていてもよく、また重み付けが施されておらずともよい。
【0031】
上記のように重み付けが施されているため、図2に要部を拡大して示すように、複数本の第1の電極指4の先端を結ぶ包絡線A及び第2の電極指5の先端を結ぶ第2の包絡線Bは斜め方向に延ばされており、IDT電極3の端部にいくにつれて、包絡線Aと包絡線Bとが近づいている。
【0032】
他方、IDT電極3の弾性表面波伝搬方向両側には、反射器8,9が形成されている。従って、IDT電極3及び反射器8,9を有する弾性表面波共振子が構成されている。
【0033】
本実施形態では、上記のようにして、IDT電極指の波長λが3.958μm、電極指の最大交叉幅が120μm、電極指の対数が134対である3を有し、共振周波数が900MHz、反共振周波数が934MHzの1ポート型弾性表面波共振子が形成されている。
【0034】
ところで、IDT電極3は、図3に模式的正面断面図で示すように、圧電基板2上において、複数の金属膜を積層してなる第1の積層金属膜11からなる。なお、第1の積層金属膜11からなる電極を第1の電極とする。第1の電極は、上記IDT電極3を含む。すなわち、図1に示されているように、第1の電極は、IDT電極3だけでなく、反射器8,9の電極指部分等にも至るように形成されている。
【0035】
本実施形態では、図3に示すように、第1の積層金属膜11は、上方から順にTi膜11a、AlCu膜11b、Ti膜11c、Pt膜11d及びNiCr膜11eを積層した構造を有する。各金属膜の厚みは、Ti/AlCu/Ti/Pt/NiCr=10/102/10/78/10nmとされていた。膜厚の単位は全てnmの値である。なお、上記AlCu膜11bは、Cuを1重量%含み、残部がAlからなるAlCu合金膜である。また、NiCr膜11eは、Niを50重量%含み、残部がCrからなるNiCr合金膜である。
【0036】
図1に戻り、第1の積層金属膜11からなる第1の電極に部分的に重なり合うように、第2の積層金属膜12からなる第2の電極が形成されている。第2の電極12は、図1に示す電極パッド13〜15と、電極パッド13〜15を上記弾性表面波共振子に電気的に接続する配線パターン16〜18と、IDT電極3の一部すなわちバスバー部の一部とに形成されている。
【0037】
上記第1の電極に第2の電極が重ねられて両者が電気的に接続されている部分をコンタクト部Cとする。
【0038】
本実施形態では、第2の積層金属膜12は、上方から順に、Al/Ti/Al/Ti=1140/200/500/100nmの厚みにこれらの複数の金属膜を積層した構造を有する。後述する図5に示すように、第2の積層金属膜においては、上から、Al膜12a、Ti膜12b、Al膜12c及びTi膜12dの順に参照符号を付することとする。
【0039】
さらに、図3及び図5に模式的に示されているように、IDT電極3や反射器8,9を覆うように、絶縁膜19が形成されている。本実施形態では、絶縁膜19は、上から順に第1の絶縁膜19aと、第2の絶縁膜19bとを積層した構造を有する。第1の絶縁膜19aがSiN膜、第2の絶縁膜19bがSiO膜からなる。両者の膜厚は、SiN/SiO=40/980nmとされている。もっとも、絶縁膜19は、単一の絶縁性材料層により形成されていてもよく、またSiN膜とSiO膜の膜厚は上記に限定されるものではない。
【0040】
本実施形態では、絶縁膜19により、IDT電極3や反射器8,9等が保護されることとなる。なお、図示としないが、絶縁膜19は、上記電極パッド13〜15が設けられている部分を除いて形成されている。すなわち、電極パッド13〜15は、上方に露出されている。
【0041】
本実施形態では、IDT電極3の電極指部分は、上記第1の積層金属膜11のみからなり、上記配線パターン16〜18及び電極パッド13〜15は、第1,第2の積層金属膜11,12を積層した構造を有する。そして、上記IDT電極3のバスバーにおいて、前述したコンタクト部Cが形成されている。コンタクト部Cでは、第1の積層金属膜11上において、第2の積層金属膜12の外縁12Aが位置している。すなわち、第1の積層金属膜11の外縁11Aよりも第2の積層金属膜12の外縁12Aが内側に位置している。
【0042】
本実施形態では、上記コンタクト部において、第1の積層金属膜11の最上層がTi膜11aからなり、第2の積層金属膜12の最下層がTi膜12dからなるため、両者の接触抵抗が十分低くなる。そのため、挿入損失を低減することができる。
【0043】
すなわち、特許文献1や特許文献2に記載の弾性波装置では、コンタクト部における電極同士の接触抵抗が高いため、挿入損失が大きくなるという問題があったのに対し、本実施形態によれば、上記接触抵抗の低減により、挿入損失を小さくすることができる。
【0044】
加えて、本実施形態によれば、上記第1,第2の電極が電気的に接続されるコンタクト部Cにおいて、第2の電極の腐食が生じ難い。これを、製造方法を説明することにより明らかにする。
【0045】
上記弾性波装置1の製造に際しては、圧電基板2上に、まず、第1の積層金属膜を蒸着、メッキまたはスパッタリング等により形成する。しかる後、周知のフォトリソグラフィ法に従って、第1の積層金属膜をパターニングし、IDT電極3を含む第1の電極を形成する。
【0046】
しかる後、図4(a)に示すように、圧電基板2の上面の全面に、フォトレジスト層21を形成する。フォトレジスト層21の上方に第2の積層金属膜が形成されることが予定されている部分以外は開口部とされているマスクを載置し、光を照射する。それによって、図4(a)に示す未硬化部21aと、硬化部21bとを形成する。この未硬化部21aは、上記マスクで遮光されていた部分であり、硬化部21bは、光の照射によりフォトレジスト層21を構成している材料が硬化することにより形成されている部分である。
【0047】
次に、図4(b)に示すように、上記フォトレジスト層21の未硬化部21aを、酸やアルカリなどのエッチング液22によりエッチングする。それによって、開口部21cが形成される。開口部21cは、第2の積層金属膜12の形成が予定されている領域に相当する。この場合、エッチング液22に、第1の積層金属膜11の上面が露出するが、第1の積層金属膜11の最上層はTi膜11aである。Ti膜11aは、酸やアルカリに腐食され難いため、第1の積層金属膜11の腐食が生じ難い。
【0048】
特に、本実施形態では、図1に示されているように、コンタクト部Cにおいて、第2の積層金属膜12の外縁12Aが第1の積層金属膜11の外縁11Aよりも内側に位置しているため、第1の積層金属膜11のAlCu膜11b等がエッチング液に晒されない。それによって、第1の積層金属膜11の腐食を確実に防止することが可能とされている。
【0049】
次に、図4(c)に示すように、全面に第2の積層金属膜12を形成する。第2の積層金属膜12の形成は、前述した各金属膜を、蒸着、メッキもしくはスパッタリング等の薄膜形成法により順次形成することにより行われる。
【0050】
しかる後、リフトオフ法により、フォトレジスト層21と共に、フォトレジスト層21の上部に位置している第2の積層金属膜部分を除去する。次に、230℃の温度で2時間維持することによりアニール処理を施す。このようにして、図5に示すように、第1の積層金属膜11上に第2の積層金属膜12が積層されている構造を得ることができる。しかる後、スパッタリング等の適宜の方法により、上記SiO膜及びSiN膜を順次形成することにより、絶縁膜19を形成することができる。上記のようにして、本実施形態の弾性波装置1を得ることができる。
【0051】
本実施形態の弾性波装置及びその製造方法によれば、上記のように、第1の積層金属膜11の最上層のTi膜11aと、第2の積層金属膜12の最下層のTi膜12dとが接触しているため、両者の接触抵抗は小さく、それによって挿入損失を低減することができる。これを、具体的な実験例に基づき説明する。上記実施形態と対比するために、第1の比較例として、第2の積層金属膜が、上方から順に、Al/Ti/Al=1140/200/500nmとされていることを除いては、上記実施形態と同様にして形成された弾性波装置を用意した。
【0052】
また、第2の比較例として、第1の積層金属膜が、上方から順に、AlCu/Ti/Pt/NiCr=102/110/78/10nmであることを除いては、上記実施形態と同様にして形成された弾性波装置を用意した。
【0053】
上記実施形態及び第1,第2の比較例の弾性波装置の電気的に特性を測定し、特にそのリターンロスを評価した。結果を図6に示す。図6において、実線は上記実施形態の結果を、破線は第1の比較例の結果を、一点鎖線は第2の比較例の結果を示す。図6から明らかなように、上記実施形態によれば、第1,第2の比較例に比べて、周波数領域のほぼ全域にわたり、リターンロスが小さくなっていることがわかる。この理由は、以下によると考えられる。
【0054】
特許文献2に記載のように、コンタクト部において、Al膜同士が接触した場合には、両者の界面に薄いAl酸化膜が形成される。そのため、接触抵抗が高くなり、挿入損失が悪化するという問題があった。これは、第1の積層金属膜を形成した後に、最上層のAl膜が大気に晒され、Al膜表面にAl酸化膜が形成されることによる。
【0055】
第1の比較例では、第1の積層金属膜の最上層がTi膜からなり、それによって、AlCu膜の表面の酸化が抑制される。しかしながら、最上層のTi膜が酸化され、Ti酸化物に接触した第2の積層金属膜の最下層のAlがTi酸化物の影響を受け、両者の界面にAl酸化物を形成することとなる。従って、第1の比較例においても、Al酸化膜が界面に形成され、接触抵抗が高くなっているものと考えられる。
【0056】
他方、第2の比較例では、第1の積層金属膜の最上層がAlCu膜からなり、第2の積層金属膜の最下層のTi膜により還元作用を受けるため、両者の界面におけるAl酸化物からなる膜は減少することとなる。しかしながら、Tiによる還元作用が十分でない場合には、やはり界面にAl酸化膜が残るため、接触抵抗が高くなる。
【0057】
上記のように、第1の積層金属膜と第2の積層金属膜とが積層されている部分においては、両者の界面にAl酸化膜が形成されると、接触抵抗が高くなる。
【0058】
これに対して、上記実施形態では、Ti膜同士が接触しているため、第1,第2の積層金属膜の界面に、本質的にAl酸化膜が形成されない。よって、接触抵抗を十分に小さくすることができ、挿入損失を小さくすることが可能とされている。
【0059】
なお、本実施形態では、Ti酸化物が界面に発生するが、前述したアニール処理により、界面に集中したTi酸化物は、Ti膜中に拡がり、分散する。そのため、第1,第2の積層金属膜のTi膜同士の接触抵抗はさほど高くならないと考えられる。
【0060】
上記のように、第2の積層金属膜の最下層がTiであるため、第2の積層金属膜において、配線抵抗を低くするために、抵抗率の小さいAl膜を用いた場合でも、最下層のTi膜がバリア層として働き、Al膜まで酸化が及ばない。従って、第2の積層金属膜の配線抵抗を高めることなく、電気的損失の増大を防止することができる。
【0061】
また、上記実施形態では、第1の積層金属膜11は、Pt膜及びAlCu膜を有する。このように、AlまたはAl合金と、Ptのような貴金属とを併用することが好ましい。Ptなどの貴金属は密度が高いため、弾性波の反射係数を高めることができ、かつCuに比べて、耐電力性、耐酸化性及び湿中における耐腐食性に優れている。従って、弾性波装置の電気的特性や信頼性を高めることができる。他方、AlやAlCu合金は低抵抗であるため、電気的損失を小さくすることができる。なお、本実施形態において、Pt膜とAlCu膜との間にTi膜が設けられているのは、PtとAlCu合金の相互拡散を防止するためである。すなわち、中間のTi膜は、上記拡散を防止するバリア層として機能する。
【0062】
なお、上記AlやAl合金と組み合わされる貴金属は、Ptに限らずAuなどの他の貴金属であってもよい。上記貴金属とAlやAlCu合金を組み合わせることが望ましいが、これらの2種の材料はイオン化傾向の差が大きいため、フォトリソグラフィ法の現像時において、AlやAlCu膜が電池効果により腐食するおそれがある。しかしながら、前述した通り、本実施形態の弾性波装置及びその製造方法では、第2の積層金属膜の形成に際してのエッチング液により、第1の積層金属膜中のAlやAlCu膜などの内部の金属膜の腐食が生じ難い。すなわち、第1の積層金属膜の最上部がTi膜で覆われているため、第1の積層金属膜中のAl膜やAlCu膜の腐食が生じ難くなる。よって、第1,第2の積層金属膜間の接触抵抗を低めることができ、さらに第1の積層金属膜における腐食を確実に防止することができるので、弾性波装置の信頼性をより一層効果的に高めることができる。
【0063】
また、好ましくは、第1の積層金属膜の最上層のTi膜11aの厚みは、弾性波の波長λとしたときに、λの0.1%〜1%の範囲とすることが望ましく、第2の積層金属膜の最下層のTi膜12dの膜厚は、λの0.5%以上とすることが望ましい。これは、第1の積層金属膜の最上層のTi膜の膜厚が厚いほど、それより下方に位置しているAlやAl合金の酸化を防止する効果は高くなるが、弾性波の反射係数が小さくなり、例えば弾性波フィルタを形成した場合の帯域幅が狭くなるおそれがある。従って、Alの酸化防止と、弾性波の反射係数とバランスするには、第1の積層金属膜の最上部のTi膜11aの規格化膜厚(%)は、0.1(%)〜1(%)の範囲とすることが望ましい。
【0064】
他方、第2の積層金属膜12の最下層のTi膜12dの厚みを厚くしても、表面波の励振には寄与しないため大きな問題は生じない。しかしながら、薄くなりすぎると、第2の積層金属膜において、最下層から2番目の層にある金属膜において酸化が生じやすくなる。従って、Ti膜12dは、ある程度の厚み以上とすることが望ましい。図7は、上記実施形態において、第2の積層金属膜の最下層のTi膜12dの厚みを10nm(0.25%)、20nm(0.5%)または100nm(2.5%)としたときのリターンロスの変化を示す図である。() 内は、波長λ比。Ti膜の厚みが20nm及び100nmの場合ほぼ同等の特性が得られているのに対し、10nmではリターンロス特性が悪化していることがわかる。
【0065】
従って、第2の積層金属膜の最下層のTi膜12dの厚みは、20nm以上、規格化膜厚でλの0.5%以上であることが好ましい。なお、第2の積層金属膜12の最下層のTi膜12dの厚みは厚くとも問題はさほど生じないが厚すぎると、Al膜などによる電気抵抗抑制効果が損なわれるおそれがあるため、規格化膜厚で10%以下程度とすることが望ましい。
【0066】
また、本実施形態では、上記絶縁膜19によりIDT電極の保護が図られている。すなわち、金属粉が付着することにより短絡するのを防止したり、耐湿性を改善するために、絶縁膜19による保護が図られている。この場合、SiO膜と、Al膜とが接触すると、Alの酸化か生じやすくなるおそれがある。そのため、本実施形態で、Ti膜がIDTを形成している第1の積層金属膜の最上部に設けられているので、Tiの還元作用により、第1の積層金属膜中のAl膜の酸化が効果的に防止される。
【0067】
上記実施形態では、IDT電極3と反射器とを有する1ポート型弾性表面波共振子につき説明したが、本発明は第1の積層金属膜と第2の積層金属膜とがコンタクト部において電気的に接続されている構造を有し、第1の積層金属膜により、IDT電極の電極指部分が形成されている様々な弾性波装置に広く適用することができる。すなわち、縦結合共振子型やラダー型の弾性表面波フィルタや、トランスバーサル型の弾性表面波フィルタにも本発明を適用することができる。また、本発明は、弾性表面波ではなく、弾性境界波を利用した弾性境界波装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る弾性波装置において、絶縁膜を除去した状態を説明するための平面図である。
【図2】図1に示した実施形態の弾性波装置の電極構造の要部を示す部分切欠平面図である。
【図3】図1に示した実施形態におけるIDT電極の電極指形成部分を模式的に示す部分切欠断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、第1の積層金属膜上に第2の積層金属膜を形成する工程を説明するための各部分切欠正面断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の弾性波フィルタ装置の製造方法において、第1の積層金属膜上に第2の積層金属膜が積層された状態を示す部分切欠正面断面図である。
【図6】本発明の実施形態及び第1,第2の比較例の弾性波フィルタ装置におけるリターンロス特性を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態の弾性波フィルタ装置において、第2の積層金属膜の最下層のTi膜の厚みを変化させたときのリターンロス特性の変化を示す図である。
【図8】従来の弾性表面波フィルタ装置を説明するための模式的正面断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1…弾性波装置
2…圧電基板
3…IDT電極
4…第1の電極指
5…第2の電極指
6…第1のダミー電極
7…第2のダミー電極
8,9…反射器
11…第1の積層金属膜(第1の電極)
11A…外縁
11a…Ti膜
11b…AlCu膜
11c…Ti膜
11d…Pt膜
11e…NiCr膜
12…第2の積層金属膜(第2の電極)
12A…外縁
12a…Al膜
12b…Ti膜
12c…Al膜
12d…Ti膜
13〜15…電極パッド
16〜18…配線パターン
19…絶縁膜
19a…第1の絶縁膜
19b…第2の絶縁膜
21…フォトレジスト層
21a…未硬化部
21b…硬化部
21c…開口部
22…エッチング液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成されており、複数の金属膜を積層してなる第1の積層金属膜からなり、少なくともIDT電極を含む第1の電極と、
前記圧電基板上に形成されており、複数の金属膜を積層してなる第2の積層金属膜からなる第2の電極とを備え、前記第2の電極が、前記第1の電極に重なっている部分により、第1,第2の電極を電気的に接続しているコンタクト部が形成されており、
前記第1の積層金属膜が、Al膜と、最上層としてのTi膜とを有し、前記第2の積層金属膜が、最下層としてのTi膜を有する、弾性波装置。
【請求項2】
前記第1の積層金属膜が貴金属を有し、該貴金属がPtまたはAuである、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記コンタクト部において、第2の電極の外縁が、第1の電極の外縁よりも内側に位置されている、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1の電極における最上層に位置しているTi膜の膜厚が、弾性波の波長をλとしたときに、波長λの0.1〜1%の範囲にあり、前記第2の電極の最下層のTi膜が、波長λの0.5〜10%の範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記圧電基板上において、前記第1の電極を覆うように設けられた絶縁膜をさらに備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
請求項1に記載の弾性波装置の製造方法であって、
前記圧電基板上に前記第1の積層金属膜からなる前記第1の電極を形成する工程と、
前記第1の電極を覆うようにレジスト層を全面に形成する工程と、
前記レジスト層のうち、前記第2の積層金属膜が形成される部分に開口部を形成する工程と、
前記開口部及び前記レジスト層の上面に、第2の積層金属膜を形成する工程と、
前記レジスト層及びレジスト層上の第2の積層金属膜をリフトオフ法により除去する工程とを備える、弾性波装置の製造方法。
【請求項7】
前記コンタクト部において、前記第2の電極の外縁が、前記第1の電極の外縁よりも内側に位置するように前記開口部をレジスト層に形成する、請求項6に記載の弾性波装置の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−81086(P2010−81086A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244713(P2008−244713)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】