説明

弾性表面波デバイス

【課題】水晶基板上にZnO薄膜を形成することで表面に導波される縦波型漏洩弾性表面波を利用したSAWデバイスにおいて更なる高周波化を図ると共に良好な特性を実現する。
【解決手段】オイラー角表示で(0,θ,0)の水晶基板1上にIDT2を形成し、該IDT2を覆うようにZnO薄膜3を形成し、縦波型漏洩SAWを基板表面に励振させ、水晶基板1のカット角θを120°≦θ≦140°の範囲に設定し、且つ、縦波型漏洩SAWの波長λで規格化したZnO薄膜3の膜厚HをH≦0.08λの範囲に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水晶基板上にZnO薄膜を形成することで表面に導波される縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(Surface Acoustic Wave:以下、SAW)デバイスは移動体通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の点で優れた特徴がある。近年、無線LANやVICS(Vehicle Information and Communication System)に対応したカーナビゲーションシステムの普及の増大に伴い、これらの機器に用いられるSAWデバイスにおいて高周波化が強く要求されている。
【0003】
前記SAWデバイスの種類としては、SAW共振子や、SAW共振子を直列、並列、直列、と配置した梯子(ラダー)型SAWフィルタ、SAW共振子をSAWの伝搬方向(縦方向)に並べて縦共振モードを音響結合させた縦結合型多重モードSAWフィルタ、SAW共振子をSAWの伝搬方向と垂直な方向(横方向)に並べて横共振モードを音響結合させた横結合型多重モードSAWフィルタ、入出力用のIDTを2つ近接配置したトランスバーサルSAWフィルタ等があり、これらのSAWデバイスでは励振波としてレイリー波を用いるのが一般的である。
【0004】
図16は、従来のレイリー波を用いたSAW共振子を示している。圧電基板51上にIDT52を配置すると共に、該IDT52の両側に反射器54a、54bを配置する。圧電基板51には、STカット水晶基板が用いられ、IDT52及び反射器54a、54bはAl又はAlを主成分とする合金から構成される。同図に示すように、励振波としてレイリー波を用いる場合、IDT52を励振したレイリー波を反射させて定在波を発生させるためには反射器54a、54bの電極本数を十分に多くしなければならない。従って、フィルタを設計する際には、反射器のスペースを十分確保する必要があるのでSAWデバイスの小型化には不利であった。また、使用周波数が2GHz帯以上の高周波に用いられるSAWデバイスにおいては、IDT52の電極指幅及び電極指間隔を非常に狭く設計しなければならないので、製造歩留まりが悪いという問題があった。
【0005】
この問題を解決すべく、特開昭61−222312号には図17に示すように圧電基板61上に圧電薄膜63を形成し、該圧電薄膜63の表面にIDT62を形成してなるSAW装置が開示されている。ここでは、圧電基板61にSTカット90°X伝搬水晶基板を用いることにより、レイリー波の約1.6倍の伝搬速度を有するSAWを利用することができる旨が記載されている。通常のSTカット水晶基板におけるSAWの伝搬速度は約3100(m/s)であるから、約5000(m/s)程度の伝搬速度が得られていることになる。
【0006】
更に、特開平10−224172号には、水晶基板と、該水晶基板上に形成された圧電薄膜と、該圧電薄膜に接するように形成されたIDTとを備えたSAW装置において、レイリー波より音速の速い漏洩弾性表面波を利用したSAW装置が開示されている。そして、オイラー角表示で(0°,119°〜167°,90°±5°)の水晶基板を用い、圧電薄膜の膜厚を励振される漏洩弾性表面波の波長λで規格化した値で0.01λ〜0.15λの範囲に設定することを特徴としてる。このような構成にすることで、高周波化に適し、良好な温度特性が得られ、且つ、電気機械結合係数が大きなSAW装置を提供できる旨が記載されている。
【0007】
また、特開2002−152000号には、オイラー角表示で(0°,123°,0°)の水晶基板上にZnO薄膜とIDTを形成した後にSiO膜を形成して、レイリー波の高次モードであるセザワ波を利用したSAW素子が開示されている。該特許によれば、水晶基板上にZnO膜及びSiO膜の2層の温度補正膜を設けることにより、周波数温度特性を著しく改善することができる旨が記載されている。
【特許文献1】特開昭61−222312号公報
【特許文献2】特開平10−224172号公報
【特許文献3】特開2002−152000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開昭61−222312号及び特開平10−224172号に記載のSAW装置は、STカット90°X伝搬水晶基板を用い、レイリー波の約1.6倍の約5000(m/s)の伝搬速度を有するSH波を主とした波を利用しているが、2GHz帯以上の超高周波帯のデバイスに適用する場合は、伝搬速度がまだ低く、電極構造が微細となるので、製造バラツキが大きな問題となっていた。従って、更なる高周波化への対応が困難であった。
【0009】
また、特開2002−152000号に記載のSAW装置においては、レイリー波の高次モードであるセザワ波を積極的に利用しているが、セザワ波の伝搬速度はレイリー波の高々1.5倍程度であるので更なる高周波化への対応が困難である。また、励振電極上にSiO膜を形成するので伝搬損失が大きくなり、特性が劣化してしまう虞がある。
【0010】
ところで、図18はSTカット水晶基板を用いたSAWデバイスの周波数特性を示したものであるが、レイリー波はAに示すfoに現れ、foの約1.6倍のBの位置に前記先行文献で使用している変位の主成分が基板面に平行(SH成分)である漏洩弾性表面波が現れる。更に、fOの約1.8倍のCの位置に変位の主成分が基板面に垂直(SV成分)である漏洩弾性表面波(以下、縦波型漏洩SAWと称す)が現れる。この縦波型漏洩SAWを基本モードに利用できれば更なる高周波化が望めるが、その減衰の大きさから積極的に利用することが困難であり、これまで詳細な検討がされてこなかった。
【0011】
そこで、本発明においては、水晶基板上にZnO薄膜を形成した弾性表面波デバイスにおいて、水晶基板のカット角とZnO膜厚を最適に設定することで縦波型漏洩SAWを利用し、高周波化を容易すると共に良好な特性を実現したSAWデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係るSAWデバイスの請求項1に記載の発明は、オイラー角表示で(0,θ,0)の水晶基板と、その上面に配置した少なくとも1つのIDTと、前記水晶基板とIDTの上面を覆うZnO薄膜とを備え、縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波デバイスであって、前記水晶基板のカット角θは120°≦θ≦140°の範囲に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚HはH≦0.08λの範囲に設定されていることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、オイラー角表示で(0,θ,0)の水晶基板と、該水晶基板の上面を覆うZnO薄膜と、該ZnO薄膜の上面に配置した少なくとも1つのIDTとを備え、縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波デバイスであって、前記水晶基板のカット角θは120°≦θ≦140°の範囲に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚HはH≦0.08λの範囲に設定されていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記水晶基板のカット角θは128±2°に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚Hは0.06±0.01λに設定されていることを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の弾性表面波デバイスは、前記ZnO薄膜の上面に導電膜が形成されていることを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の弾性表面波デバイスは、前記水晶基板と前記ZnO薄膜の界面に導電膜が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、水晶基板上に圧電薄膜とIDTとを備えたSAWデバイスにおいて、水晶基板のカット角θを120°≦θ≦140°とし、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化したZnO薄膜の膜厚HをH≦0.08λとすることにより、レイリー波と比較して約1.85倍もの高い伝搬速度が得られるので高周波化が容易であり、電気機械結合係数がレイリー波とほぼ同等であるので狭帯域なフィルタ等に適用でき、伝搬減衰が小さいので低損失な特性を実現できる。また、水晶基板とZnO薄膜の界面にIDTを形成しているので、IDTに金属紛等の異物が付着するのを防止でき信頼性を向上できる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明によれば、請求項1の発明と同様な効果が得られ、高周波化を容易にでき、低損失な特性を実現できる。また、IDTがZnO薄膜の表面に形成されているので、工程後の周波数調整を容易に行うことができ量産性を向上できる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の発明によれば、水晶基板のカット角θを128±2°とし、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化したZnO薄膜の膜厚Hを0.06±0.01λとすることで伝搬減衰を零にでき、より低損失な特性を実現できる。
【0020】
本発明の請求項4に記載の発明によれば、電気機械結合係数がレイリー波の場合と比較して10倍以上あるので、広帯域なフィルタ等に適用できる。また、水晶基板とZnO薄膜の界面にIDTを形成しているので、IDTに金属紛等の異物が付着するのを防止でき信頼性を向上できる。
【0021】
本発明の請求項5に記載の発明によれば、水晶基板のカット角及びZnO薄膜の膜厚に関わらずパワーフロー角が零であり、伝搬方向以外に伝搬する不要表面波を抑圧することができるのでより低損失な特性を実現することができ、電気機械結合係数がレイリー波の場合と比較して10倍以上あるので、広帯域なフィルタ等に適用できる。また、IDTがZnO薄膜の表面に形成されているので、工程後の周波数調整を容易に行うことができ量産性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図面に図示した実施の形態例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスであり、水晶基板1上にIDT2を形成し、該IDT2を覆うように圧電薄膜3を形成した構造であって、縦波型漏洩SAWを利用したSAWデバイスである。なお、水晶基板1はオイラー角表示で(0°,θ,0°)のカット角であり、圧電薄膜3はZnO膜で構成している、
【0023】
図2は、前記SAWデバイスにおいて、水晶基板のカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)にそれぞれシミュレーションから求めた値を示す。この時の圧電薄膜の膜厚Hは縦波型漏洩SAWの波長をλとした時に0.06λに固定している。なお、本実施例以降に示すシミュレーションデータに関し、openは電極指を電気的に開放した時の特性を示し、shortは電極指を電気的に短絡した時の特性を示している。このようにシミュレーションした理由は、IDTの電極部分は電気的に短絡状態であり、電極のない部分は電気的に開放状態であると考えられるので、計算結果の精度を高める為に短絡状態と開放状態を分けて検討した。
【0024】
図2から分かるように、本実施例に係るSAWデバイスの特徴は、縦波型漏洩SAWを導波し得るカット角の領域が120°〜140°程度と狭いことである。伝搬速度は(a)から平均で5730(m/s)程度あり、レイリー波の伝搬速度が約3100(m/s)であるから約1.85倍もの高い伝搬速度が得られていることがわかる。また、伝搬減衰は(b)から120°〜140°の全ての範囲において0.05(dB/λ)以下と小さく、特に128±2°において伝搬減衰がほぼ零になることが分かる。また、電気機械結合係数は(c)から平均で0.001程度であり、レイリー波と同等の電気機械結合係数が得られていることが分かる。
【0025】
次に、ZnO膜厚を変化させた時の各種特性について調べた。図3は縦波型漏洩SAWの波長λで規格化したZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に示している。なお、この時の水晶基板のカット角θは128°に固定している。
【0026】
図3(a)より、ZnO膜厚を大きくすると伝搬速度は低下していき、ZnO膜厚を小さくすると伝搬速度がほぼ5750(m/s)に収束していくのが分かる。この収束値は縦波型漏洩SAWの音速に相当する。また、(b)よりZnO膜厚が0.08λ以下の範囲において伝搬減衰が0.05(dB/λ)以下と小さく、特に0.06±0.01λでは伝搬減衰がほぼ零となることが分かる。一方で、ZnO膜厚を0.08λより大きくすると伝搬減衰が増加していくことが分かる。また、(c)からZnO膜厚を大きくすると電気機械結合係数が微増していく様子が分かる。
【0027】
ここで、ZnO膜厚を0.06±0.01λとした時に伝搬減衰が零となる理由について調べた。図4の(a)〜(c)はZnO膜厚を変化させた時の水晶基板の深さに対するSAWの変位分布の絶対値を示す。u1は伝搬方向への変位、u2はSH方向への変位、u3はSV方向への変位を表しており、SAWデバイスとした時に基板内部にバルク波として漏洩するSH、SV成分を無くし、伝搬方向への変位のみを励振することができれば理想的と言える。
【0028】
まず、図4(a)はZnO膜厚を0.02λとした時の各種変位分布であるが、基板内部においても伝搬方向への変位|u1|が存在しており、基板表面にエネルギーが集中できていない。また、基板内部に漏洩する|u2|、|u3|成分は基板表面から内部にかけて一定となっており、波が伝搬する際の妨げとなっている。次に、図4(b)はZnO膜厚を0.06λとした場合の各種変位分布であるが、伝搬方向への変位|u1|は基板深さが大きくなるにつれ零に収束しており、基板表面にエネルギーが集中できている様子が分かる。また、基板表面において若干の|u2|、|u3|成分が含まれているものの基板内部にいくにつれてほぼ零となっている。そして、(c)はZnO膜厚を0.10λとした場合の各種変位分布であるが、基板表面において伝搬方向への変位|u1|が最大になっておらず、また、(b)と比較すると|u2|、|u3|成分の基板内部への漏洩が大きい。以上から、ZnO膜厚が0.06λの時が最も基板表面にエネルギーが集中し、基板内部への漏洩が小さいことが判明した。これにより伝搬減衰が零になったと考えられる。
【0029】
以上から、本実施例に係るSAWデバイスにおいて、カット角θを120°≦θ≦140°、好ましくはθ=128±2°に設定し、ZnO膜厚HをH≦0.08λ、好ましくはH=0.06±0.01λに設定することにより、高周波化が容易にでき、低損失なSAWデバイスを実現することができることが判明した。
【0030】
ところで、SAWは波動なので一般の波動現象で見られる回折効果が生じる。更に、SAWデバイスに用いられる圧電基板は異方性媒質なので、必ずしも伝搬方向に沿って波が伝搬する訳ではなく、ある方向に波が進んでいく場合が考えられる。その方向はパワーフロー角と呼ばれ、零であることが好ましい。
【0031】
そこで、本実施例に係るSAWデバイスのパワーフロー角について調べた。図5(a)は水晶基板のカット角θを変化させた時のパワーフロー角を示している。なお、この時のZnO膜厚は0.06λに固定している。同図より、短絡状態ではパワーフロー角は常に零であるが、開放状態ではパワーフロー角を有することが分かる。また、図5(b)はZnO膜厚を変化させた時のパワーフロー角を示している。なお、この時のカット角θは128°に固定している。同図より、短絡状態ではパワーフロー角は常に零であるが、開放状態では電極膜厚を大きくするほどパワーフロー角が大きくなる。ただし、開放状態でもZnO膜厚を0.02λ以下とすればパワーフロー角をほぼ零にすることができる。
【0032】
このように、本実施例に係るSAWデバイスにおいて、条件によってはパワーフロー角を有する場合があり、伝搬方向以外に伝搬する不要表面波の為に伝搬減衰が劣化する虞がある。このような場合は、図6に示すようにパワーフロー角をA°とした時に水平線Xと電極指の先端を結んだ線Yとの角度がA°となるように電極指を形成すれば良い。このような形状にすることで伝搬減衰の劣化を抑えることができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施例に係るSAWデバイスについて説明する。図7は本発明の第2の実施例に係るSAWデバイスであり、水晶基板11上に圧電薄膜13を形成し、該圧電薄膜13の表面にIDT12を形成した構造である。なお、水晶基板11はオイラー角表示で(0°,θ,0°)であり、圧電薄膜13はZnO膜で構成している。
【0034】
図8は、前記SAWデバイスにおいて、水晶基板のカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示している。なお、この時の圧電薄膜の膜厚Hは縦波型漏洩SAWの波長をλとした時に0.06λに固定している。
【0035】
図8から分かるように、本実施例に係るSAWデバイスは第1の実施例と同様に縦波型漏洩SAWを導波し得るカット角の領域が約120°〜140°と狭い。また、(a)〜(c)に示す伝搬速度、伝搬減衰、電気機械結合に関しても第1の実施例とほぼ同様の特性が得られたが、(d)に示すパワーフロー角に関しては、短絡状態、開放状態でいずれもパワーフロー角が生じている点で第1の実施例と異なっている。
【0036】
次に、ZnO膜厚を変化させた時の各種特性について調べた。図9は縦波型漏洩SAWの波長λで規格化したZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示している。なお、この時のカット角θは128°に固定している。
【0037】
図9(a)、(b)に示す伝搬速度、伝搬減衰は第1の実施例とほぼ同等の特性が得られた。また、(c)に示す電気機械結合係数に関しては第1の実施例と比較してZnO膜厚に対する電気機械結合係数の増加率が若干大きいことが分かる。また、(d)に示すパワーフロー角に関してはZnO膜厚を大きくすると、短絡状態においてもパワーフロー角が大幅に大きくなる点で第1の実施例と異なっている。
【0038】
以上から、本実施例に係るSAWデバイスにおいても、第1の実施例とほぼ同等の特性が得られることが判明し、高周波化を容易にでき、低損失な特性を実現することができる。ただし、パワーフロー角は第1の実施例と比較すると大きくなるので、図6のような電極構造にするのが望ましい。
【0039】
次に、本発明の第3の実施例に係るSAWデバイスについて説明する。図10は本発明の第3の実施例に係るSAWデバイスを示した図であり、水晶基板21と圧電薄膜23の界面にIDT22を形成し、更に圧電薄膜23の上面に導電膜24を形成している。なお、水晶基板21はオイラー角表示で(0°,θ,0°)であり、圧電薄膜23はZnO膜で構成している。
【0040】
図11は、前記SAWデバイスにおいて、水晶基板のカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示している。なお、この時の圧電薄膜の膜厚Hは縦波型漏洩SAWの波長をλとした時に0.06λに固定している。
【0041】
図11から分かるように、本実施例に係るSAWデバイスの特徴は縦波型漏洩SAWを導波し得るカット角の範囲が第1及び第2の実施例の構造と比較して広く、少なくとも100°〜160°の範囲において導波可能である。伝搬速度は、(a)に示すように開放状態と短絡状態とで差があり、両者を平均すると5700(m/s)程度の伝搬速度を有していることが分かる。伝搬減衰は、(b)に示すように120°≦θ≦140°の範囲内で極小値を取り、θ=128±2°付近で零となる。また、電気機械結合係数は、(c)に示すように開放状態で最大0.017、短絡状態で最大0.022もの値が得られていることが分かる。これはレイリー波の10倍以上の電気機械結合係数ということになる。そして、パワーフロー角は(d)に示すように短絡状態では零であるが、開放状態においてはθ=115°付近を除くカット角でパワーフロー角が生じることが分かる。
【0042】
次に、ZnO膜厚を変化させた時の各種特性について調べた。図12は縦波型漏洩SAWの波長λで規格化したZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)にを示している。なお、この時のカット角θは128°に固定している。
【0043】
図12(a)より、ZnO膜厚を大きくすると伝搬速度は低下していき、ZnO膜厚を小さくすると伝搬速度がほぼ5750(m/s)に収束していくのが分かる。また、(b)よりZnO膜厚が0.08λ以下の範囲において伝搬減衰が0.05(dB/λ)以下と小さく、特に0.06±0.01λ付近では伝搬減衰が零になることが分かる。一方で、ZnO膜厚を0.08λより大きくすると伝搬減衰が増加していくことが分かる。また、(c)より電気機械結合係数に関しては、第1及び第2の実施例と比較してZnO膜厚に対する電気機械結合係数の増加率が非常に大きいことが分かる。また、パワーフロー角に関しては、(d)より開放状態ではZnO膜厚に関わらず常に零であるが、短絡状態では電極膜厚を大きくするほどパワーフロー角が大きくなることが分かる。
【0044】
以上から、本実施例に係るSAWデバイスは、第1の実施例と比較して縦波型漏洩SAWを導波できるカット角の範囲が100°〜160°と広く、カット角θを120°≦θ≦140°、好ましくはθ=128±2°に設定し、且つ、ZnO膜厚HをH/λ≦0.08λ、好ましくはH=0.06±0.01λに設定することにより、低損失な特性を実現でき、また、電気機械結合係数がレイリー波の10倍以上であるので広帯域のフィルタ等に適用可能である。ただし、パワーフロー角を有するので図6のような電極構造にするのが望ましい。
【0045】
次に、本発明の第4の実施例に係るSAWデバイスについて説明する。図13は本発明の第4の実施例に係るSAWデバイスであり、水晶基板31と圧電薄膜33の界面に導電膜34を形成し、圧電薄膜33の表面にIDT32を形成している。なお、水晶基板31はオイラー角表示で(0°,θ,0°)であり、圧電薄膜33はZnO膜で構成している。
【0046】
図14は、前記SAWデバイスにおいて、前記水晶基板のカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示している。また、この時の圧電薄膜の膜厚Hは縦波型漏洩SAWの波長をλとした時に0.06λに固定している。
【0047】
図14から分かるように、本実施例に係るSAWデバイスは第3の実施例と同様に縦波型漏洩SAWを導波し得るカット角の範囲が広く、少なくとも100°〜160°の範囲で導波可能である。また、(a)〜(c)に示す伝搬速度、伝搬減衰、電気機械結合は、第3の実施例とほぼ同様の特性が得られたが、(d)に示すパワーフロー角に関しては、短絡状態、開放状態共にカット角θを変化させても常にパワーフロー角が零である点で第3の実施例と異なっている。
【0048】
次に、ZnO膜厚を変化させた時の各種特性について調べた。図15は縦波型漏洩SAWの波長λで規格化したZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示している。なお、この時のカット角θは128°に固定している。
【0049】
図15(a)〜(c)に示す伝搬速度、伝搬減衰、電気機械結合係数に関しては第3の実施例とほぼ同等の特性が得られたが、(d)に示すパワーフロー角に関しては、短絡状態、開放状態共にZnO膜厚を変化させても常にパワーフロー角が零である点で第3の実施例と異なっている。
【0050】
以上から、本実施例に係るSAWデバイスは、第3の実施例とほぼ同等の特性が得られることが分かり、高周波化を容易にでき、低損失で広帯域な特性を実現することができる。更に、カット角、ZnO膜厚に関わらずパワーフロー角が零であるので、伝搬方向以外に伝搬する不要表面波を抑圧でき、極めて低損失な特性を提供することができる。
【0051】
前述の第1及び第3の実施例に係るSAWデバイスにおいては、水晶基板と圧電薄膜の界面にIDTを形成しているので、IDTに金属紛等の異物が付着するのを防止でき信頼性を向上できる。また、第2及び第4の実施例に係るSAWデバイスにおいては、IDTが表面に形成されているので工程後の周波数調整を容易に行うことができ量産性を向上できる。
【0052】
前記IDT及び前記導電膜の材料については、Al、Au、Ag、W、Ta又はそれらを主成分とした合金とするのが好ましい。また、本発明に係るSAWデバイスは、SAW共振子や、SAW共振子を直列、並列、直列、と配置した梯子(ラダー)型SAWフィルタ、SAW共振子をSAWの伝搬方向(縦方向)に並べて縦共振モードを音響結合させた縦結合型多重モードSAWフィルタ、SAW共振子をSAWの伝搬方向と垂直な方向(横方向)に並べて横共振モードを音響結合させた横結合型多重モードSAWフィルタ、入出力用のIDTを2つ近接配置したトランスバーサルSAWフィルタ等に応用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスの断面図を示す。
【図2】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスのカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に示す。
【図3】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスのZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に示す。
【図4】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスのSAW変位分布を示す図であり、(a)はZnO膜厚0.02λとした時、(b)はZnO膜厚0.06λとした時、(c)はZnO膜厚0.10λとした時の変位分布である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスのカット角θを変化させた時のパワーフロー角を(a)に、ZnO膜厚を変化させた時のパワーフロー角を(b)に示す。
【図6】本発明に係るSAWデバイスの別の電極構造を示す。
【図7】本発明の第2の実施例に係るSAWデバイスの断面図を示す。
【図8】本発明の第2の実施例に係るSAWデバイスのカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)、パワーフロー角を(d)に示す。
【図9】本発明の第1の実施例に係るSAWデバイスのZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示す。
【図10】本発明の第3の実施例に係るSAWデバイスの断面図を示す。
【図11】本発明の第3の実施例に係るSAWデバイスのカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)、パワーフロー角を(d)に示す。
【図12】本発明の第3の実施例に係るSAWデバイスのZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示す。
【図13】本発明の第4の実施例に係るSAWデバイスの断面図を示す。
【図14】本発明の第4の実施例に係るSAWデバイスのカット角θを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)、パワーフロー角を(d)に示す。
【図15】本発明の第4の実施例に係るSAWデバイスのZnO膜厚Hを変化させた時の伝搬速度を(a)に、伝搬減衰を(b)に、電気機械結合係数を(c)に、パワーフロー角を(d)に示す。
【図16】従来のレイリー波を用いたSAW共振子の平面図を示す。
【図17】従来の圧電薄膜を用いたSAWデバイスの断面図を示す。
【図18】STカット水晶基板を用いたSAWデバイスの周波数特性を示す。
【符号の説明】
【0054】
31:水晶基板
32:IDT
33:圧電薄膜(ZnO薄膜)
24、34:導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイラー角表示で(0,θ,0)の水晶基板と、その上面に配置した少なくとも1つのIDTと、前記水晶基板と前記IDTの上面を覆うZnO薄膜とを備え、縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波デバイスであって、
前記水晶基板のカット角θは120°≦θ≦140°の範囲に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚HはH≦0.08λの範囲に設定されていることを特徴とした弾性表面波デバイス。
【請求項2】
オイラー角表示で(0,θ,0)の水晶基板と、該水晶基板の上面を覆うZnO薄膜と、該ZnO薄膜の上面に配置した少なくとも1つのIDTとを備え、縦波型漏洩弾性表面波を利用した弾性表面波デバイスであって、
前記水晶基板のカット角θは120°≦θ≦140°の範囲に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚HはH≦0.08λの範囲に設定されていることを特徴とした弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記水晶基板のカット角θは128±2°に設定され、且つ、縦波型漏洩弾性表面波の波長λで規格化した前記ZnO薄膜の膜厚Hは0.06±0.01λに設定されていることを特徴とした請求項1又は2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記弾性表面波デバイスは、前記ZnO薄膜の上面に導電膜が形成されていることを特徴とした請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記弾性表面波デバイスは、前記水晶基板と前記ZnO薄膜の界面に導電膜が形成されていることを特徴とした請求項2に記載の弾性表面波デバイス。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate