説明

弾性表面波素子形成用フォトマスクおよび弾性表面波素子の製造方法並びに弾性表面波素子

【課題】 同一のウエハから形成した弾性表面波素子間における周波数温度特性のばらつきを小さくする。
【解決手段】 圧電体基板に設けたフォトレジストを露光するためのフォトマスクであって、フォトマスク30は、透明基板32に、圧電体基板に形成するすだれ状電極に対応した向きの異なる同一の電極パターン34(34a〜34c)が設けてある。これら電極パターン34は、圧電体基板の位置による弾性表面波素子の周波数温度特性のばらつきに応じて、フォトレジストを露光する際に使い分ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子を形成するためのフォトマスクに係り、特に結晶ブロックから切り出した圧電体基板(圧電体ウエハ)の面に沿った回転角(いわゆる面内回転角)によって特性が変化する弾性表面波素子を製造するのに好適な弾性表面波素子形成用フォトマスクおよび弾性表面波素子の製造方法並びに弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子装置の小型化、高性能化、通信速度の高速化が著しい。これに伴い、通信機器をはじめとする各種電子機器の高周波化が図られている。そして、これらの電子機器には、高周波への対応が比較的容易であり、小型で量産性に優れているところから、弾性表面波(Surface Acoustic Wave)素子を用いたSAW共振器やSAWフィルタなどの弾性表面波デバイスが多用されている。特に、圧電基板として水晶を用いた弾性表面波素子は、温度特性が優れているため、高精度な弾性表面波デバイスを得ることができる。しかし、最近の電子機器のより高周波化、高精度化への要求により、より高精度な弾性表面波デバイスの開発が望まれている。そこで、本願出願人は、STカット水晶板を用いた弾性表面波素子よりも、さらに周波数温度特性に優れたいわゆる面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子を開発した(例えば、特許文献1)。図4は、面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子の説明図である。
【0003】
図4において、X軸、Y軸、Z軸は、それぞれ水晶の結晶軸を示しており、X軸がいわゆる電気軸、Y軸がいわゆる機械軸、Z軸がいわゆる光軸である。STカット水晶板10は、オイラー角を(φ,θ,ψ)としたときに、オイラー角が(0°,0°,0°)の水晶Z板12を、X軸回りにθ=113°〜135°回転させ、このときの結晶軸(X,Y’,Z’)に沿って切り出して得られる。そして、面内回転STカット水晶板は、STカット水晶板10を、STカット水晶板10の主表面であるXY’面内で回転させて得た水晶板である。
【0004】
すなわち、面内回転STカット水晶板は、STカット水晶板10をさらにZ’軸回りにψ=±(40°〜49°)回転させてX軸をX’軸、Y’軸をY”軸とし、軸(X’,Y”,Z’)に沿って切り出した水晶板である。面内回転STカット水晶板からなる弾性表面波素子14は、弾性表面波の伝播方向がX’軸に沿った方向となるように作製される。この面内回転STカット水晶板からなる弾性表面波素子14は、温度変化に対する周波数変化率が小さく、温度特性が極めてよい。
【0005】
ただし、この面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子14は、すだれ状電極からなるIDT(Interdigital Transducer)16の電極膜厚や電極間ピッチ、電極幅などを同じに形成した場合であっても、面内回転角ψが変わると周波数や周波数温度特性などが異なってくる。また、弾性表面波素子は、面内回転STカット水晶板から形成したものばかりでなく、STカット水晶板からなるものや、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムなど他の圧電材料からなるものであっても、IDTの電極膜厚や電極幅、電極の形成ピッチなどによって周波数や周波数温度特性などが異なってくることが知られている。
【0006】
一方、発明者の研究によると、スパッタリング装置などの成膜装置を用いて水晶ウエハに電極用の金属膜(例えば、アルミニウム膜)を成膜した場合、ウエハ内において膜厚分布を有する。この膜厚分布の状態は、成膜装置によって異なっており、例えば、ある成膜装置(図示せず)を使用して成膜した場合に、図5に示したような膜厚分布を示す。すなわち、ウエハ20の中心部22が膜厚の厚い領域、その外側の中間部24が膜厚の薄い領域、ウエハ20の外周部26が中間の膜厚を有する領域となる。この膜厚分布は、成膜条件を一定とした場合に同じような傾向を示す。このため、同一のウエハ20から形成した弾性表面波素子間において周波数や周波数温度特性にばらつきを生じ、高精度な弾性表面波素子を形成することが困難となる。そして、特許文献2は、エッチングなどの成膜後における工程を経ることにより、有効膜厚分布が不均一になることを考慮して、意識的にウエハに所定の膜厚分布が得られるように成膜することを提案している。すなわち、特許文献2は、ウエハとターゲットとの距離を変えて成膜厚さを制御している。
【特許文献1】特開2003−258601号公報
【特許文献2】特開2002−275627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の方法は、ウエハを1枚ずつ成膜する枚葉処理においては、膜厚分布を制御することが可能である。しかし、特許文献2に記載の方法は、枚葉処理であるため、多数のウエハに対する成膜処理に多くの時間を必要としてコスト高となる。また、特許文献2に記載の方法は、複数のウエハを成膜装置に搬入し、複数枚のウエハを同時に成膜処理をするバッチ処理に対して適用することができない。
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、同一のウエハから形成した弾性表面波素子間における周波数温度特性のばらつきを小さくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子形成用フォトマスクは、圧電体基板に設けたフォトレジストを露光するためのフォトマスクであって、透明基板に、前記圧電体基板に形成するすだれ状電極に対応した向きの異なる同一の電極パターンが複数設けてあることを特徴としている。
【0009】
このようになっている本発明に係る弾性表面波素子形成用フォトマスクは、圧電体基板内の位置によって、形成される弾性表面波素子の温度特性が異なるため、圧電体基板の位置に応じて、向きの異なる電極パターンを露光する。これにより、実質的に圧電体基板の面内回転角を変えた効果が得られ、同一の圧電体基板から形成される弾性表面波素子間の周波数温度特性のばらつきを小さくすることができ、高精度な弾性表面波素子を形成することができる。
【0010】
複数の電極パターンは、所定の角度ピッチずつ向きを異ならせるとよい。複数の電極パターンの向きを所定の角度ピッチずつ向きを異ならせておけば、フォトレジストの露光を利用して周波数温度特性のばらつきを修正する際の対応を容易に行なうことができる。なお、角度ピッチは任意に設定することができ、例えば0.03°ずつ、0.05°ずつ変えることができる。そして、角度ピッチを小さくすればするほど、周波数温度特性の調整を細かく行なうことができ、より高精度な弾性表面波素子を形成することができる。
【0011】
複数の電極パターンは、基準パターンと、基準パターンに対して対称に傾斜させた複数の傾斜パターンとから形成することができる。一般に、電極用導電膜(金属膜)は、成膜した膜厚の中心値が設計値(目標値)となるように成膜する。したがって、複数の電極パターンは、基準パターンと、基準パターンに対して対称に傾斜させた複数の傾斜パターンとによって構成すると、膜厚のばらつきに対して容易に対応することができ、周波数温度特性の調整を考慮した露光を容易に行なうことができる。
【0012】
そして、本発明に係る弾性表面波素子の製造方法は、圧電体基板の面内回転角とその圧電体基板から形成した弾性表面波素子の周波数温度特性との関係、および電極用導電膜を成膜する成膜装置に対応させて、前記圧電体基板に形成した前記弾性表面波素子の周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係を予め求め、前記圧電体基板に設けたフォトレジストを露光する際に、前記予め求めた前記周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係、および前記周波数温度特性と前記圧電体基板の面内回転角との関係に基づいて、前記圧電体基板の位置に応じて向きの異なる電極パターンを露光する、ことを特徴としている。
【0013】
このようになっている本発明は、予め周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係、および周波数温度特性と圧電体基板の面内回転角との関係を求め、圧電体基板の位置に応じて露光する電極パターンの向きを異ならせることにより、実質的に圧電体基板の面内回転角を調整した効果が得られる。このため、同一の圧電体基板から形成した弾性表面波素子の周波数温度特性のばらつきを小さくすることができ、高精度な弾性表面波素子を製造することができる。
【0014】
周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係は、成膜条件ごとに求めてもよい。例えば、スパッタリングにおけるターゲットの種類や大きさ、荷電粒子のエネルギー、レーザアブレーションにおけるレーザビームのエネルギーなどによって、圧電体基板内における膜厚分布が変わる可能性があり、成膜条件ごとに周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係を求めれば、より高精度な弾性表面波素子を得ることができる。
【0015】
周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係は、すだれ状電極を形成するフォトエッチングの条件ごとに求めるとよい。発明者の研究によると、電極用導電膜のエッチングの方法、例えば最初から最後まで同じエッチングガスによりエッチングするとか、途中でエッチングガスを変えるとか、ドライエッチングとウエットエッチングとを組み合わせるとかによって、同じ成膜装置によって成膜した場合であっても、同一の圧電体基板における弾性表面波素子の周波数温度特性の分布が異なることが明らかになった。したがって、フォトエッチングの条件に応じて、周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係を求めることにより、より高精度な弾性表面波素子を製造することができる。なお、露光は、上記したいずれかの弾性表面波素子形成用フォトマスクを使用して行なうことができる。向きの異なる電極パターンの露光は、複数のフォトマスクを用意して使い分けてもよいが、上記した弾性表面波素子形成用フォトマスクを使用することにより、フォトレジストの露光工程を容易、迅速に行なうことができる。
そして、本発明に係る弾性表面波素子は、上記したいずれかの弾性表面波素子の製造方法により製造したことを特徴としている。これにより、周波数温度特性のばらつきの小さい高精度な弾性表面波素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る弾性表面波素子形成用フォトマスクおよび弾性表面波素子の製造方法並びに弾性表面波素子の好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
【0017】
背景技術において述べたように、圧電体基板である円板状の水晶ウエハにすだれ状電極を形成するための金属膜、例えばアルミニウム膜を成膜した場合に、ウエハ内において膜厚分布を生ずる。この膜厚分布の状態は、各成膜装置、すなわち各蒸着装置、各スパッタリング装置によって異なってくる。このために、同一の面内回転STカット水晶ウエハから弾性表面波素子を形成した場合、膜厚の相違を反映して、形成された弾性表面波素子の周波数温度特性がウエハの位置によって異なってくる。そこで、発明者は、図5に示したような、中心部22で膜厚が厚く、中間部24で薄く、外周部26で中間の膜厚を有するウエハ20を用いて、弾性表面波素子の周波数温度特性とウエハ20の面内回転角との関係を調べた。図2は、その結果を示したものである。図2の横軸はウエハ20の面内回転角の相対値を示し、縦軸は周波数温度特性である温度範囲が25℃〜85℃における最大周波数と最小周波数との差(周波数変動)を示している。なお、縦軸の周波数変動は、各領域とも最小の周波数変動を基準にした相対値で示している。
【0018】
図5に示した膜厚分布を有するウエハ20の場合、膜厚の厚い中心部22から形成した弾性表面波素子は、図2の曲線Aで示したように、他の中間部24、外周部26から形成した弾性表面波素子より面内回転角ψが小さいところで周波数変動が最小となる。また、膜厚の薄い中間部24から形成した弾性表面波素子は、曲線Cに示したように、最も面内回転角ψの大きいところで周波数変動が最小となる。そして、両者の中間の膜厚を有する外周部26から形成した弾性表面波素子は、曲線Bに示したように、面内回転角ψが中心部22と中間部24との中間において周波数変動が最小となる。
【0019】
したがって、同一のウエハから弾性表面波素子を形成する場合、ウエハの表面に形成された電極用金属膜の厚さの分布に応じて、ウエハの面内における回転角(面内回転角)を変えれば、周波数温度特性のばらつきを小さくすることができ、高精度な弾性表面波素子を得ることができる。しかし、縮小投影露光装置を用いてフォトマスク(レチクル)に設けたすだれ状電極に対応した電極パターンを露光する場合、縮小投影露光装置にセットしたウエハを回転させたり、フォトマスクを回転させたりすることができない。そこで、発明者は、種々検討した結果、フォトマスクに向きの異なる複数の電極パターンを形成し、ウエハに設けたフォトレジストを露光する際に、ウエハの位置に応じて向きの異なる電極パターンを使い分けるようにすればよいことに思い至った。
【0020】
図1は、本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子形成用マスクの説明図である。図1において、フォトマスク30は、石英ガラスなどの矩形状透明基板32に弾性表面波素子に形成する電極に対応した複数(実施形態では3つ)の電極パターン34(34a〜34c)が設けてある。フォトマスク30は、実施形態の場合、縮小投影露光装置用のフォトマスク(レチクル)であって、各電極パターン34が例えば原寸の5倍程度の大きさに形成してある。
【0021】
各電極パターン34は、透明基板32の長手方向に沿って並べて設けてある。フォトマスク30は、電極パターン34がクロム(Cr)などの遮光性の薄膜から形成してある。すなわち、実施形態のフォトマスク30は、ポジ型レジスト用であるが、ネガ型レジスト用であってもよい。そして、実施形態の各電極パターン34は、弾性表面波素子のすだれ状電極からなるIDTに対応したIDT用パターン36、このIDT用パターン36を挟んで設けた一対の反射器(反射電極)用パターン38を有している。各電極パターン34は、透明基板32に対してそれぞれ向きを異ならせて形成してある。
【0022】
すなわち、電極パターン34aは、長手方向に沿った中心線40aが透明基板32の長辺42と直交した線44に対して、反時計方向に角度α傾斜している。電極パターン34bは、長手方向に沿った中心線40bが長辺42に直交している。一方、電極パターン34cは、長手方向に沿った中心線40cが透明基板32の長辺42と直交した線44に対して時計方向に角度β傾斜している。また、実施形態の場合、電極パターン34bが基準パターンとなっていて、電極パターン34a、34cが電極パターン34bに対して対称に傾斜した傾斜パターンとなっている。すなわち、電極パターン34aの傾斜角αと、電極パターン34cの傾斜角βとは同じにしてあり、例えば0.05°にしてある。これにより、各電極パターン34は、所定の角度ピッチずつ向きが異なっている。
【0023】
ただし、各電極パターン34は、形成した向きを異ならせてあるが、それ以外は同一に形成してある。すなわち、電極パターン34a〜34cは、IDT用パターン36を構成している電極指パターン46の対数、形成ピッチ、幅、長さが同じに形成してある。同様に、各電極パターン34の反射器用パターン38は、導体ストリップ48の数、形成ピッチ、幅、長さが同じに形成してある。
【0024】
このようになっているフォトマスク30を用いた弾性表面波素子の製造方法は、次のようにして行なう。まず、所定のカット角に切り出した圧電体基板である圧電体ウエハ(実施形態の場合、面内回転STカット水晶ウエハ)を洗浄し、図3のステップ50に示したように、IDTと反射器とを形成するための電極用導電膜を成膜する。電極用導電膜は、例えばアルミニウム(Al)、アルミニウム合金などの金属膜である。導電膜の形成は、真空蒸着装置、スパッタリング装置などの成膜装置を用いた真空蒸着やスパッタリングにより、平均の膜厚が設計値となるように成膜する。導電膜を所定の厚さに成膜したならば、導電膜の上にフォトレジストを塗布して固化させる(ステップ52)。
【0025】
その後、図1に示したフォトマスク30を用いてフォトレジストを露光する(ステップ54)。この露光工程は、圧電体基板の面内回転角とその圧電体基板から形成した弾性表面波素子の周波数温度特性との関係、および電極用導電膜を成膜する成膜装置に対応させて、圧電体基板に形成した弾性表面波素子の周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係を予め求めておく。そして、これらの周波数温度特性のデータに基づいて、フォトマスク30の各電極パターン34a〜34cを使い分けてフォトレジストの露光を行なう。
【0026】
例えば、圧電体基板がオイラー角表示で(0°,123°,40°)の面内回転STカット水晶板であって、導電膜の膜厚が図5に示したような分布を有している場合、次のようにして露光を行なう。なお、ウエハ20の電極用導電膜は、ウエハ20の外周部26が目標膜厚(設計膜厚)となるように成膜する。この場合、前記したように、ウエハ20の中心部22は膜厚が厚くなる。そして、中心部22は、他の部分より最も面内回転角ψが小さいところにおいて、周波数温度特性である25℃〜85℃における周波数変動が最小となる。そこで、フォトマスク30によりウエハ20の中心部22を露光する場合、電極パターン34aを用いて行なう。これにより、ウエハ20の中心部22は、ウエハ20を時計方向に角度α回転させて、すなわち面内回転ψを角度α(実施形態の場合、0.05°)だけ小さくして電極パターンを露光したことになる。つまり、中心部22は、実施形態の場合、オイラー角表示で(0°,123°,39.95°)の面内回転STカット水晶板を用いたと同様の効果が得られる。
【0027】
さらに、導電膜の膜厚が薄いウエハ20の中間部24は、フォトマスク30の電極パターン34cを用いて露光を行なう。これによりウエハ20を反時計方向に角度β回転させて、すなわち面内回転角ψを角度β(実施形態の場合、0.05°)だけ大きくして電極パターンを露光したことになる。このため、ウエハ20の中間部24は、オイラー角表示で(0°,123°,40.05°)の面内回転STカット水晶板を用いたと同様の効果が得られる。そして、目標膜厚を有するウエハ20の外周部26は、フォトマスク30の標準パターンである電極パターン34bを用いて露光を行なう。これにより、外周部26は、(0°,123°,40.00°)の面内回転STカット水晶板に電極パターンを露光したことになる。なお、露光の順序は、どの部分を先に行なってもよいし、ウエハ20の横方向または縦方向に行なってもよい。
【0028】
このようにしてフォトレジストの露光を行なったのち、ステップ56に示したように、フォトレジストを現像してパターニングし、電極パターン34に対応した部分のフォトレジストを残す。その後、パターニングしたフォトレジストをマスクとして電極用導電膜をエッチングし、ウエハ20にIDTおよび反射器を有する弾性表面波素子を形成する(ステップ58)。次に、ウエハ20に形成した弾性表面波素子の周波数温度特性(20℃〜85℃における周波数変動)を測定する(ステップ60)。さらに、測定した周波数温度特性に基づいて、今回フォトレジストの露光に使用した周波数温度特性のデータを修正する(ステップ62)。そして、次回のフォトレジストの露光は、今回の露光の結果を反映させた修正した周波数温度特性のデータを用いてフォトマスク30の電極パターン34a〜34cを使い分けて行なう。なお、弾性表面波素子を形成したウエハ20は、次のダイシング工程に搬送され、個々の弾性表面波素子に分割される。
【0029】
このように、実施の形態においては、圧電体基板の面内回転角とその圧電体基板から形成した弾性表面波素子の周波数温度特性との関係、および電極用導電膜を成膜する成膜装置に対応させて、圧電体基板に形成した弾性表面波素子の周波数温度特性と圧電体基板の位置との関係を予め求めておき、これらの関係に基づいて、圧電体基板の位置に応じて向きの異なる電極パターンを用いて露光することにより、圧電体基板に形成した弾性表面波素子の周波数温度特性のばらつきを小さくすることができ、高精度な弾性表面波素子を製造することができる。
【0030】
そして、実施形態のフォトマスク30は、透明基板32に向きの異なる電極パターンを複数形成したことにより、圧電体基板の位置に応じて向きの異なる電極パターンを容易に露光することができる。しかも、フォトマスク30は、各電極パターン34の向きが所定の角度ピッチで異なっているため、周波数温度特性のばらつきを修正するための露光を容易に行なうことができる。さらに、実施形態のフォトマスク30は、基準パターンとなる電極パターン34bと、電極パターン34bに対して対称に傾斜させた傾斜パターンである電極パターン34a、34cとからなっているため、成膜した膜厚のばらつきに容易に対応することができる。
【0031】
なお、前記実施形態は、本発明の一態様であり、これに限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、透明基板32に3つの電極パターンを形成した場合について説明したが、向きの異なる任意の数(例えば4つ、5つ等)の電極パターンを形成してよい。また、前記実施形態においては、電極パターン34a〜34cの向きが0.05°ずつ異なっている場合について説明したが、0.03°ずつ、0.01°ずつなど、角度ピッチは任意に設定することができる。そして、角度ピッチを小さくすると、より細かな周波数温度特性の調整をすることができ、より高精度な弾性表面波素子を製造することができる。また、前記実施形態においては、複数の電極パターンを透明基板32の長手方向に並列的に形成した場合について説明したが、これらのパターンを透明基板32の長手方向に直列的に形成してもよいし、マトリックス状に配置してもよい。なお、膜厚分布の状態によっては、各電極パターン34を等角度ピッチでなく向きを異ならせてもよい。
【0032】
また、前記実施形態においては、単に成膜装置に対応して圧電体基板の位置と弾性表面波素子の温度特性との関係を求めた場合について説明したが、各成膜装置における成膜条件を加味した圧電体基板の位置と周波数温度特性との関係を予め求めてもよい。さらに、発明者の研究によると、同じ成膜装置による成膜を行なった場合であっても、フォトエッチングの条件、例えば同じエッチングガスによって最初から最後まで導電膜をエッチングするか、エッチングガスを途中で変えるか、ドライエッチングとウエットエッチングとを組み合わせるかなどによって、膜厚分布(周波数温度特性の分布)が異なってくることがわかった。そこで、フォトエッチングの条件を加味した圧電体基板の位置と弾性表面波の周波数温度特性との関係を求めることが望ましい。そして、前記実施形態においては、圧電体基板が面内回転STカット水晶板である場合について説明したが、圧電体基板はこれに限定されず、面内回転角が弾性表面波の周波数温度特性に影響を与えるすべての圧電体基板に対して適用することができる。さらに、前記実施形態においては、一対の反射器の間に1つIDTを設けた共振子用の弾性表面波素子について説明したが、反射器の間に複数のIDTが設けてあるフィルタ用の弾性表面波素子やトランスバーサル型の弾性表面波素子の製造にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係るフォトマスクの平面図である。
【図2】導電膜を成膜した圧電体基板の位置における面内回転角と周波数温度特性との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子の製造工程の要部を説明するフローチャートである。
【図4】面内回転STカット水晶板からなる弾性表面波素子を説明する図である。
【図5】圧電体基板に形成した電極用導電膜の膜厚分布の一例を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
10………STカット水晶板、14………弾性表面波素子、20………ウエハ(圧電体基板)、30………フォトマスク、32………透明基板、34a〜34c………電極パターン、36………IDT用パターン、38………反射器用パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体基板に設けたフォトレジストを露光するためのフォトマスクであって、
透明基板に、前記圧電体基板に形成するすだれ状電極に対応した向きの異なる同一の電極パターンが複数設けてあることを特徴とする弾性表面波素子形成用フォトマスク。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子形成用フォトマスクにおいて、
前記複数の電極パターンは、所定の角度ピッチずつ向きが異なっていることを特徴とする弾性表面波素子形成用フォトマスク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子形成用フォトマスクにおいて、
前記複数の電極パターンは、基準パターンと、前記基準パターンに対して対称に傾斜させた複数の傾斜パターンとからなることを特徴とする弾性表面波素子形成用フォトマスク。
【請求項4】
圧電体基板の面内回転角とその圧電体基板から形成した弾性表面波素子の周波数温度特性との関係、
および電極用導電膜を成膜する成膜装置に対応させて、前記圧電体基板に形成した前記弾性表面波素子の周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係を予め求め、
前記圧電体基板に設けたフォトレジストを露光する際に、前記予め求めた前記周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係、および前記周波数温度特性と前記圧電体基板の面内回転角との関係に基づいて、前記圧電体基板の位置に応じて、向きの異なる電極パターンを露光する、
ことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係は、成膜条件ごとに求めることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の弾性表面波素子の製造方法において、
前記周波数温度特性と前記圧電体基板の位置との関係は、すだれ状電極を形成するフォトエッチングの条件ごとに求めることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかに記載の弾性表面波の製造方法において、
前記露光は、請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子形成用フォトマスクを使用して行なうことを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法により製造したことを特徴とする弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−333334(P2006−333334A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157370(P2005−157370)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】