説明

弾性表面波素子片および弾性表面波デバイス

【課題】通過帯域の近傍における減衰量をさらに改善をする。
【解決手段】弾性表面波素子片は、圧電基板の弾性表面波の伝播方向に沿って複数のすだれ状電極からなるIDTが設けてある。少なくとも1つのIDT14は、弾性表面波の反射を生ずるシングル電極セル30と、弾性表面波の反射を生じないダブル電極セル32とを混在させて形成してある。また、シングル電極セル30における共振周波数f1と、反射を生じないダブル電極セルにおける共振周波数f2とが異ならせてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すだれ状電極によって圧電基板に弾性表面波を励振する弾性表面波素子片に係り、特に弾性表面波の伝播方向に複数のすだれ状電極と、すだれ状電極を挟んで設けた反射器とを有する弾性表面波素子片および弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶などの圧電基板に生成した弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用
した弾性表面波フィルタは、高周波に対応可能であるとともに、小型で量産性に優れており、携帯電話機をはじめとして各種電子機器に採用されている。弾性表面波フィルタには、圧電基板に設けたすだれ状電極からなるIDT(Interdigital Transducer)を挟んで
格子状の反射器を有する共振子型の弾性表面波素子片を用いたものと、反射器を備えていないトランスバーサル型の弾性表面波素子片を用いたものとがある。
【0003】
トランスバーサル型の弾性表面波素子片は、一般に挿入損失が大きく、また弾性表面波デバイスであるフィルタにした場合に、パッケージサイズが大きくなる欠点がある。これに対して、共振型の弾性表面波素子片は、IDTを挟んで設けた反射器が圧電基板を伝播してくる弾性表面波をIDT側に反射し、IDTの部分に弾性表面波のエネルギーを閉じ込めるために挿入損失が小さく、弾性表面波デバイスの小型化を図ることができる。しかも、共振型弾性表面波素子片は、反射器で弾性表面波を反射して圧電基板に定在波を発生させるため、通過帯域の狭帯域化を図ることができる。特に、弾性表面波の伝播方向に沿って一対のIDTを近接配置した二重モードフィルタ(DMSフィルタ)などに用いる弾性表面波素子片は、狭帯域のフィルタを実現することができる。そして、このような弾性表面波素子片は、RFフィルタ、デュープレクサ、IFフィルタ等に利用されている。
【0004】
ところで、通常のIDTは、弾性表面波の1波長内に一対の電極指を有するいわゆるシングル電極構造に形成されており、弾性表面波の反射を生ずる。このため、IDT内の弾性表面波の反射に基づいて不要な共振モードを生じ、通過帯域外にスプリアスが発生し、通過帯域外における減衰量が劣化する。そこで、特許文献1には、弾性表面波の1波長の中に一対の電極指をもつシングル電極と、1波長の中に二対の電極指をもつダブル電極とをIDT中に混在させ、通過帯域外減衰量の劣化を改善している。
【特許文献1】特開昭58−156211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の弾性表面波素子片は、一対のIDTをシングル電極のみで形成した場合に比較して、通過帯域外の減衰量を改善することができる。しかし、IDTをシングル電極とダブル電極とを混在させて形成しただけでは、減衰量の改善が充分でなく、近年、ますます強まっている表面弾性波デバイスの高精度化の要求を満足させることができない。
【0006】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、通過帯域の近傍における減衰量をさらに改善をすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子片は、圧電基板の弾性表面波の伝播方向に沿って複数のすだれ状電極が設けてある弾性表面波素子片であって、少なくとも1つの前記すだれ状電極は、前記弾性表面波の反射を生ずる電極セルと、前記弾性
表面波の反射を生じない電極セルとを混在させるとともに、前記反射を生ずる電極セルの共振周波数f1と、前記反射を生じない電極セルの共振周波数f2とを異ならせた、ことを特徴としている。
【0008】
このようになっている本発明に係る弾性表面波素子片は、すだれ状電極からなるIDTを弾性表面波の反射を生じる電極セルと、弾性表面波の反射を生じない電極セルとを混在させたことによりIDT内における反射の影響を弱めることができる。しかも、反射を生ずる電極セルの共振周波数f1と、反射を生じない電極セルの共振周波数f2とを異ならせたことにより、圧電基板には、両共振周波数を合成した弾性表面波が励振されるため、通過帯域外における減衰量を大きく改善することができる。
【0009】
なお、IDTであるすだれ状電極内における反射を生ずる電極セルと反射を生じない電極セルとの配置は、この弾性表面波素子片を用いる弾性表面波デバイス(例えば、フィルタ)の仕様、特性、用途などを考慮してシミュレーションなどにより求める。なお、反射を生ずる電極セルの代表的な構造として、弾性表面波の1波長内に一対の電極指を有する、いわゆるシングル電極を挙げることができる。また、反射を生じない電極セルの代表的な構造として、弾性表面波の1波長中に二対の電極指を有する、いわゆるダブル電極を挙げることができる。
【0010】
反射を生ずる電極セルのセル長をλ1、反射を生ずる電極セルにおける弾性表面波の位相速度をV1、反射を生じない電極セルのセル長をλ2、反射を生じない電極セルにおける弾性表面波の位相速度をV2としたときに、
【数1】

であって、かつ
【数2】

を満足するように、前記セル長λ1、λ2を設定することができる。
【0011】
反射を生ずる電極セルの共振周波数f1と、反射を生じない電極セルの共振周波数f2とを異ならせるためには、各電極セルのセル長(弾性表面波の伝播方向の長さ)を変えることによって、容易に実現することができる。この場合、反射を生ずる電極セルの部分における弾性表面波の位相速度V1と、反射を生じない電極セルの部分における弾性表面波の位相速度V2とを考慮する。共振周波数を変える場合、電極セルにおけるメタライズ比(電極指の幅)を変えて行なうこともできる。
【0012】
反射を生ずる電極セルにおける弾性表面波の反射が正の場合は、f1>f2にするとよい。ここで、特許3266846号公報によると、36゜回転YカットX伝搬のLiTaO(タンタル酸リチウム:LT)基板上に正規型IDT電極指(シングル電極)を多数ならべた周期構造ではストップバンド(反射帯域)下端の定在波が強勢に励振されることを示している。そして、この場合において、シングル電極を構成する複数の電極によって生じる複数の反射の空間的な中心位置を反射中心と呼び、その反射中心の位置について述べている。また、このストップバンド下端の定在波を利用したフィルタにおいては、通過帯域近傍の高域側の減衰傾度が劣化する、「だれ特性」を生じることが述べられている。本願発明においては、このようにストップバンド下端の定在波が強勢に励振され、その定在波を利用する場合を便宜的に弾性表面波の反射が正の場合であると呼ぶ。電極セルにおける弾性表面波の反射の状態は、圧電基板の特性と電極構造(電極を形成している金属)によって異なる。例えば、圧電基板がタンタル酸リチウム(LT)であって、すだれ状電
極を銀(Ag)や銅(Cu)、アルミニウム(アルミニウムの合金を含む)などで形成した場合、シングル状電極およびダブル電極における弾性表面波の反射は正となる。圧電基板がSTカット水晶板や四ホウ酸リチウム(LBO)であって、シングル状電極およびダブル電極をアルミニウム(アルミニウムの合金を含む)で形成した場合も同様である。
【0013】
また、前記特許3266846号公報では、反射が正の場合と比べ、反射中心の空間的位相がπだけ異なるとき、ストップバンド上端の定在波が強勢に励振され、その定在波を利用したフィルタは通過帯域近傍の低域側の減衰傾度が劣化することが述べられている。そして、そのような反射の状態を生じる電極を反射反転電極と呼んでいる。本願発明においては、このようにストップバンド上端の定在波が強勢に励振され、その定在波を利用する場合を便宜的に弾性表面波の反射が負の場合であると呼ぶ。圧電基板が水晶であって、すだれ状電極を金(Au)で形成した場合、すだれ状電極における弾性表面波の反射は負となる。
【0014】
そして、すだれ状電極における弾性表面波の反射が正である場合、すだれ状電極における反射に基づくスプリアスが通過帯域の高域側近傍に現れる。したがって、この場合、f1>f2となるように、反射を生ずる電極セルと反射を生じない電極セルとの共振周波数f1、f2を設定する。これに対して、すだれ状電極における弾性表面波の反射が負となる場合、すだれ状電極における反射に基づくスプリアスが通過帯域の低域側近傍に現れる。したがって、この場合、f1<f2となるように、反射を生ずる電極セルと反射を生じない電極セルとの共振周波数を設定する。なお、f1>f2となるように電極セルを形成した場合、
【数3】

を満たすように、各電極セルを形成する。(f2/f1)が0.9より小さくなると、減衰量が低下(dBの値が小さく)する傾向にあるとともに、挿入損失が大きくなる傾向にある。したがって、(f2/f1)は、0.9以上であることが望ましい。
【0015】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、上記したいずれかの弾性表面波素子片を備えていることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る弾性表面波素子片および弾性表面波デバイスの好ましい実施の形態を、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子片の概略を示す平面図である。この実施形態に係る弾性表面波素子片10は、2IDT型縦DMS素子片であって、平面視矩形状の圧電基板12の中央部に、すだれ状電極からなる一対のIDT14、16が設けてある。IDT14、16は、圧電基板12の弾性表面波の伝播方向に沿って近接させて配置してある。IDT14は、一対の櫛型電極18(18a、18b)からなっている。各櫛型電極18は、櫛歯に相当する複数の電極指20(20a、20b)とバスバー22(22a、22b)とからなり、電極指20の一端がバスバー22に接続してある。そして、IDT14は、各櫛型電極18の電極指20が相互に噛み合うように配置してあり、すだれ状に形成してある。
【0017】
他方のIDT16は、一対の櫛型電極24(24a、24b)からなっている。各櫛型電極24は、櫛型電極18と同様に、それぞれ複数の電極指20(20a、20b)とバスバー22とから形成してあり、電極指20の一端がバスバー22に接続してある。そして、IDT16は、IDT14と同様に、すだれ状に形成してある。
【0018】
これらのIDT14、16は、いずれか一方(例えば、IDT14)が入力側となっていて、櫛型電極18a、18bとの間に信号電圧が印加され、圧電基板12の表面部に所定周波数の弾性波(弾性表面波)を励振する。他方のIDT16は、出力側となっていて、圧電基板12を伝播してきた弾性表面波の振幅に比例した電圧を櫛型電極24a、24b間で得られる。また、弾性表面波素子片10は、圧電基板12の弾性表面波の伝播方向に沿ったIDT14、16の外側に、IDT14、16を挟んで一対の反射器26(26a、26b)が設けてある。各反射器26は、IDT14、16の電極指20と平行に形成した複数の導体ストリップ28を有し、格子状をなしている。反射器26は、圧電基板12を伝播してきた弾性表面波をIDT側に反射する。このようになっている弾性表面波素子片10は、RFフィルタ、デュープレクサ、IFフィルタ等の弾性表面波デバイスとして利用される。
【0019】
弾性表面波素子片10は、圧電基板12が例えば38.7°回転YカットX伝搬のLT板からなっていて、IDT14、16および反射器26がアルミニウムまたはアルミニウム合金から形成してある。IDT14、16と反射器26は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜を圧電基板(ウエハ)の表面にスパッタリングや真空蒸着などで成膜し、成膜した薄膜をフォトエッチングして形成してある。
【0020】
各IDT14、16は、実施形態の場合、図2にIDT14を例にして示したように、弾性表面波の1波長中に一対の電極指20(20A)を含むいわゆるシングル電極(ソリッド電極)の電極セル(シングル電極セル)30と、弾性表面波の1波長中に二対の電極指20(20B)を含むいわゆるダブル電極(スプリット電極)の電極セル(ダブル電極セル)32とを混在させて形成してある。シングル電極セル30は、弾性表面波の伝播方向に沿った長さ、すなわちセル長がλ1となっていて、図3(1)のように形成してあり、弾性表面波を反射する。また、ダブル電極セル32は、セル長がλ2であって、図3(2)のように形成してあり、弾性表面波の反射を生じない。
【0021】
すなわち、シングル電極セル30は、電極指20Aa、20Abの中心間距離がλ1/2となっていて、各電極指20Aの一端が対応するバスバー22に接続してある。また、シングル電極セル30は、セルの端となるバスバー22の端と、この端に近い電極指20Aの中心との距離がλ1/4となっている。そして、電極指20Aa、20Abは、バスバー22a、22bを介して両者間に印加される信号電圧により、圧電基板12に弾性表面波を励振できるとともに、電極指20Aの幅方向端部において弾性表面波を反射する。そして、弾性表面波素子片10は、実施形態の場合、圧電基板12が38.7°回転YカットX伝搬のLT板によって形成してあり、IDT14、16がアルミニウムによって形成してある。このため、シングル電極セル30における弾性表面波の反射は、正となる。
【0022】
ダブル電極セル32は、図3(2)に示したように、隣接する2本の電極指20Ba、20Bbの一端がバスバー22aに接続してあり、他の隣接する2本の電極指20Bc、20Bdの一端がバスバー22bに接続してある。ダブル電極セル32は、セルの端となるバスバー22の端と、この端に近い電極指20Bの中心との距離がλ2/8となっている。この電極セル32は、圧電基板12に弾性表面波の励振が可能であって、実質的に弾性表面波の反射を生じない。すなわち、ダブル電極セル32の各電極指20Bは、弾性表面波に対して90°ずつ位相をずらせて配置してあり、各電極指20Bの幅方向端部において反射された弾性表面波の位相が180°ずれ、相互に打ち消し合って実質的に反射を生じない。
【0023】
前記したように、シングル電極セル30は、弾性表面波の正の反射を生ずる。このため、シングル電極セル30の部分における共振周波数をf1、ダブル電極セル32の部分における共振周波数をf2とした場合に、f1>f2となるように電極セル30、32を形
成している。また、シングル電極セル30のセル長λ1とダブル電極セル32のセル長λ2とは、シングル電極セル30の部分における弾性表面波の位相速度をV1、ダブル電極セル32の部分における弾性表面波の位相速度をV2とした場合に、
【数4】

であって、かつ、
【数5】

を満たすようにλ1とλ2とが設定してある。
【0024】
なお、IDT14に混在させたシングル電極セル30とダブル電極セル32との数、配置状態は、弾性表面波素子片10を用いた弾性表面波デバイスの仕様、特性、使用目的によって異なる。このため、シングル電極セル30とダブル電極セル32との数、配置状態は、弾性表面波デバイスの仕様、特性、使用目的に対して最適となるようにコンピュータによるシミュレーションによって定める。また、IDT16は、実施形態の場合、IDT14と同様に、シングル電極セル30とダブル電極セル32とが混在させてある。そして、このIDT16においても、シングル電極セル30の共振周波数f1、セル長λ1と、ダブル電極セル32の共振周波数f2、セル長λ2との関係は、IDT14と同様に設定してある。ただし、IDT14、16間におけるシングル電極セル30とダブル電極セル32との数、配置状態は、同一でも、対象でもなく、コンピュータによるシミュレーションによって、最適となるように定めている。なお、IDT14、16のいずれか一方のみを、シングル電極セル30とダブル電極セル32とを混在させて形成し、いずれか他方をシングル電極のみで形成してもよい。
【0025】
図4は、このように形成した実施形態の弾性表面波素子片10を用いて縦DMSフィルタを形成したときの、周波数特性を示したものである。図4は、横軸がMHzで示した中心周波数に対する周波数偏差であり、縦軸が減衰量をdBで示している。なお、中心周波数は、約100MHzである。そして、ダブル電極セル32の共振周波数f2とシングル電極セル30の共振周波数f1との比f2/f1は、0.926にしてある。また、比較のために、(f2/f1)=1.00の場合の、シングル電極セル30とダブル電極セル32の数と配置とを最適となるようにした同じ縦DMSフィルタの特性図を図5に示した。
【0026】
(f2/f1)=1.00とした従来例の場合、図5にAとして示されているように、中心周波数の高域側、中心周波数から3〜4MHz離れたところに、IDT内における反射に基づいたスプリアスが生じ、この部分における減衰量は22〜23dBである。これに対して、(f2/f1)=0.926とした実施形態の場合、図5のAに相当する部分のスプリアスをなくせ、減衰量を30dB程度にすることができる。
【0027】
また、中心周波数が約100MHzの実施形態に係る弾性表面波素子片10を用いてDMSフィルタを形成し、f2/f1の値を種々変えて減衰量と挿入損失とを求めた。その結果を図6と図7とに示した。図6は、横軸がf2/f1の値であり、縦軸が図5のAに相当する部分のdBで示した減衰量である。そして、図7は、横軸がf2/f1の値、縦軸がDMSフィルタのdBで示した挿入損失である。
【0028】
図6より、(f2/f1)=1.00とした従来例に対して、f1>f2とすることで減衰量が改善されることがわかる。また、図6、図7から、(f2/f1)が0.9より小さくなると、減衰量が低下(dBの値が小さく)する傾向にあるとともに、挿入損失が
大きくなる傾向にある。したがって、(f2/f1)は、0.9以上であることが望ましい。f1>f2を実現するには、λ1とλ2とを調整する手法と、IDTのメタライズ比を調整する手法がある。V1=V2の場合、f1=V1/λ1、f2=V2/λ2であることから、λ1<λ2とすることでもf1>f2を実現することができる。
【0029】
なお、前記実施形態は、本発明の一態様であって、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、IDT14、16を、圧電基板12を励振するシングル電極セル30とダブル電極セル32とだけで形成した場合について説明したが、これらの電極セル30、32に加えて、圧電基板12を励振しないように形成した電極セルを混在させてもよい。また、前記実施形態においては、圧電基板12が38.7°回転YカットX伝搬のLT板である場合について説明したが、圧電基板はLTやLBOなどであってもよい。
【0030】
そして、前記実施形態においては、シングル電極セル30において弾性表面波の反射が正となる場合について説明したが、例えば圧電基板が水晶であって、IDTがAuで形成した場合のように、弾性表面波の反射が負になるようなとき、(f2/f1)>1となるように弾性表面波の反射を生ずる電極セルと弾性表面波の反射を生じない電極セルとを形成する。すなわち、弾性表面波の反射を生じない電極セルの共振周波数f2を、弾性表面波の反射を生ずる電極セル共振周波数f1より高くする。そして、前記実施形態においては、電極セルの長さを変えてシングル電極セル30とダブル電極セル32との弾性表面波の共振周波数f1、f2を異ならせる場合について説明したが、IDTのメタライズ比(電極指の幅)を変えて共振周波数を異ならせるようにしてもよい。
【0031】
図8は、弾性表面波の反射を生じ、かつ、圧電基板12を励振しない電極セルの例を示したものである。また、図9は、弾性表面波の反射を生じず、かつ、圧電基板12を励振しない電極セルの例を示したものである。
【0032】
図8(1)に示した電極セル30bは、弾性表面波の1波長の内に2本の電極指20A(20Aa、20Ab)を備えている。しかし、これらの電極指20Aは、バスバー22a、22bのいずれにも接続されておらず、電気的に浮いた状態に形成される。ただし、一対の電極指20Aは、一端がショートバー34によって相互に接続してショート状態となっており、電極指20Aaと電極指20Abとは、同電位に保持される。電極セル30bは、セル長がλ1であって、一対の電極指20Aの中心間距離がλ1/2となっており、セルの端となるバスバー22の端と、この端に近い電極指20Aの中心との距離がλ1/4にしてある。このように形成した電極セル30bは、電気的に浮いているため、圧電基板12を励振しない。ただし、シングル電極セル30と同様に、弾性表面波の反射を生ずる。なお、電極セル30bは、各電極指を相互に接続する場合、図8の下側端部または電極指の長手方向中央部など、任意の位置で相互に接続してもよいし、各電極指の長手方向両端部を相互に接続してもよい。
【0033】
図8(2)に示した電極セル30cは、電極指20Aa、20Abがいずれのバスバー22にも接続されておらず、また相互に独立して形成してある。すなわち、一対の電極指20Aは、電気的に浮いていてオープンとなっており、弾性表面波を励振することがなく、弾性表面波の反射のみを生ずる。また、電極指20Aa、20Abは、圧電基板12を伝播する弾性表面波によって相互に異なった電位となる。
【0034】
図8(3)に示した電極セル30dは、一対の電極指20Aの一端がバスバー22a、22bのいずれか一方の同じバスバー、例えばバスバー22aに接続してある。これにより、電極セル30dの電極指20Aa、20Abは、同電位に保持されるため図8(1)に示した電極セル30b同様に、弾性表面波を励振せずに反射のみを生ずる。なお、実施
形態の弾性表面波素子片10を用いた弾性表面波デバイスにおいて、IDT14、16に図8(3)の電極セル30dを混在させる場合、終端が不平衡であるとき、バスバー22aをグランド側に接続することが望ましい。また、終端が平衡である場合において、圧電基板を励振しない電極セルを混在させるとき、図8(3)の電極セルを用いずに図8(1)の電極セル30bまたは図8(2)の電極セル30cを用いることが望ましい。
【0035】
図9は、弾性表面波の反射を生ぜず、圧電基板12を励振しない電極セルの例を示したものである。図9(1)に示した電極セル32bは、セル長がλ2となっていて、弾性表面波の1波長内に4本の電極指20B(20Ba〜20Bd)を有している。これらの電極指20Bは、バスバー22a、22bのいずれにも接続されておらず、一端がショートバー36によって相互に接続してあり、ショート状態となっていて同電位に保持されている。そして、電極セル32bは、各電極指20Bの中心間距離がλ2/4となっていて、セルの端となるバスバー22の端と、この端に近い電極指20Bの中心との距離がλ2/8にしてある。また、各電極指20Bは、弾性表面波に対して位相が相互に90°ずれている。このため、電極セル32bは、弾性表面波を励振せず、反射も生じない中性領域を形成する。なお、電極セル32bは、各電極指を相互に接続する場合、図9の下側端部または電極指の長手方向中央部など、任意の位置で相互に接続してもよいし、各電極指の長手方向両端部を相互に接続してもよい。
【0036】
図9(2)に示した電極セル32cは、各電極指20Bがバスバー22に接続されておらず、電気的に浮いている。また、電極セル32cの各電極指20bは、相互に独立してオープンとなっており、伝播する弾性表面波によって異なる電位となる。したがって、電極セル32cは、圧電基板12に弾性表面波を励振せず、また弾性表面波の反射も生じない。図9(3)に示した電極セル32dは、4本の電極指20Bの一端をバスバー22a、22bのいずれか一方の同じバスバーに接続し、各電極指20Bを同じ電位にしている。これにより、電極セル32dは、電極セル32b同様に、圧電基板12に弾性表面波を励振せず、弾性表面波の反射も生じない。
【0037】
図10は、圧電基板12を励振しない電極セルを混在させたIDTの例を示したものである。このようなIDT40においても、混在させる電極セルの種類、数、配置は、弾性表面波デバイスの仕様、特性などを考慮してコンピュータにより最適になるように求める。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子片の概略を示す平面図である。
【図2】実施の形態に係るIDTの構成例を示す平面図である。
【図3】実施の形態に係るシングル電極セルとダブル電極セルとの詳細図である。
【図4】実施の形態に係る縦DMSフィルタの特性図である。
【図5】従来の縦DMSフィルタの特性図である。
【図6】実施形態に係るDMSフィルタのf2/f1の値と減衰量との関係を示す図である。
【図7】実施の形態に係るDMSフィルタのf2/f1の値と挿入損失との関係を示す図である。
【図8】実施の形態に係る弾性表面波の反射を生じ、圧電基板を励振しない電極セルの例を示す図である。
【図9】実施の形態に係る弾性表面波の反射を生ぜず、圧電基板を励振しない電極セルの例を示す図である。
【図10】圧電基板を励振しない電極セルを混在させた実施の形態に係るIDTの例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
10………弾性表面波素子片、12………圧電基板、14、16………すだれ状電極(IDT)、20a、20b………電極指、26a、26b………反射器、30………シングル電極セル、32………ダブル電極セル、30b〜30d………電極セル、32b〜32d………電極セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の弾性表面波の伝播方向に沿って複数のすだれ状電極が設けてある弾性表面波素子片であって、
少なくとも1つの前記すだれ状電極は、前記弾性表面波の反射を生ずる電極セルと、前記弾性表面波の反射を生じない電極セルとを混在させるとともに、前記反射を生ずる電極セルの共振周波数f1と、前記反射を生じない電極セルの共振周波数f2とを異ならせた、
ことを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子片において、
前記反射を生ずる電極セルのセル長をλ1、前記反射を生ずる電極セルにおける前記弾性表面波の位相速度をV1、前記反射を生じない電極セルのセル長をλ2、前記反射を生じない電極セルにおける前記弾性表面波の位相速度をV2としたときに、
【数1】

であって、かつ
【数2】

を満足するように、前記セル長λ1、λ2を設定した、
ことを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子片であって、
前記反射を生ずる電極セルにおける前記弾性表面波の反射が正の場合、f1>f2にしてあることを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項4】
請求項2または3に記載の弾性表面波素子片であって、
前記共振周波数f1と前記共振周波数f2とは、
【数3】

を満たすことを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項5】
請求項1または2に記載の弾性表面波素子片であって、
前記反射を生ずる電極セルにおける前記弾性表面波の反射が負の場合、f1<f2にしてあることを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波素子片を備えていることを特徴とする弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−17249(P2008−17249A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187520(P2006−187520)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】