説明

弾性表面波素子片および弾性表面波装置

【課題】 水晶板をストップバンドの上限モードで励振する場合に、縦モードによるスプリアスを主共振から所定周波数以上遠ざけることができるようにする。
【解決手段】 弾性表面波素子片は、水晶板の表面にすだれ状電極からなるIDTが設けてある。水晶板は、カット角がオイラー角表示で(0°,θ,0°≦|ψ|≦90°)となっている。弾性表面波素子片は、IDTにより水晶板に生成された弾性表面波の波長をλ、IDTの電極指の膜厚をHとした場合、H/λ=0.09のとき、電極指の対数が140以下、H/λ=0.10のとき、電極指の対数が130以下、H/λ=0.11のとき、電極指の対数が80以下にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)を利用した弾性表面波素子片に係り、特に圧電基板が水晶からなる弾性表面波素子片および弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SAW共振子、SAWフィルタなどの弾性表面波装置は、高周波への対応が容易であって、小型、量産性に優れているところから、種々の電子機器に使用されている。特に、最近は、通信の高速化、通信機器の小型、高周波化に伴って通信分野において広く利用されている。このような弾性表面波装置は、圧電基板の表面に設けたすだれ状電極によって圧電基板に弾性表面波を生成する弾性表面波素子片を備えている。
【0003】
特に、STカットに代表される水晶基板を用いた弾性表面波素子片は、水晶が高い温度安定性を有するところから、高精度な弾性表面波素子片とすることができる。しかし、近年、普及の著しい携帯通信機器においては、より高周波であって、より小型、温度に対して安定した高精度な弾性表面波装置が要求されている。そこで、本願出願人は、面内回転STカット水晶板を用いた弾性表面波素子片を開発した(例えば特許文献1)。面内回転STカット水晶板は、3次関数の温度特性を有するところから、通常のSTカット水晶板と比較して、高精度な弾性表面波素子片とすることができる。
【0004】
ところで、水晶などの圧電基板にすだれ状電極からなるIDT(Interdigital Transducer)を設けて圧電基板を励振して弾性表面波であるレイリー波を発生させた場合、計算によるとストップバンドと呼ばれる領域の下限と上限とに周波数解が得られることが知られている。ストップバンドの下限の周波数(下限モード)と上限の周波数(上限モード)とを比較すると、上限モードの方が周波数温度特性の2次温度係数の絶対値が下限モードより小さく、IDTの電極膜厚を増加させた場合に、2次温度係数の絶対値の変化も小さいことが知られている。したがって、圧電基板をストップバンドの上限モードで励振できれば、弾性表面波素子片の高周波化に有利であり、高精度化を図ることができる。
【0005】
そこで、本願発明者らは、鋭意研究し、種々検討した結果、オイラー角表示を(φ,θ,ψ)としたときに、オイラー角が(0°,θ,ψ)の水晶板において、角度ψを適切に選択することにより、レイリー波をストップバンドの上限モードで励振できることを見出した。図6は、オイラー角が(0°,123°,42°)の水晶板を基板とした弾性表面波素子片のストップバンドの上限モードにおける周波数特性を示したものである。図6は、横軸が周波数(MHz)であり、縦軸がインピーダンス(Ω)である。
【0006】
図6に示したように、主共振(主振動)Sの高周波側近傍に縦モードによるスプリアスSが現れ、さらにスプリアスSの高周波側にスプリアスSが現れる。スプリアスSは、主共振Sに近いため、共振子やフィルタなどの弾性表面波装置に用いた場合に、スプリアスSにより特性が劣化する。このため、スプリアスSを主共振Sから遠ざける必要がある。そして、特許文献2には、圧電基板として36°YカットX伝搬LiTaOを用い、高域側弾性表面波共振子フィルタと低域側弾性表面波共振子フィルタとのIDTの数(電極指の対数)を異ならせ、スプリアスの位置を制御して最適なフィルタ特性が得られるようにしている。
【特許文献1】特開2003−152487号公報
【特許文献2】特開2000−59176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、IDTの電極指の対数と目標周波数(主共振周波数)に対するスプリアスの位置との関係は、圧電基板の種類、圧電基板のカット角などによって異なってくる。このため、特許文献2のように36°YカットX伝搬LiTaOに設けたIDTの電極指の対数を、カット角が(0°,123°,41°)の水晶板にそのまま適用したとしても、所望の特性を有する弾性表面波素子片が得られるわけではない。
本発明は、水晶板をストップバンドの上限モードで励振する場合に、縦モードによるスプリアスを主共振から所定周波数以上遠ざけることができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る弾性表面波素子片は、圧電基板の表面にすだれ状電極が設けてある弾性表面波素子片であって、前記圧電基板は、オイラー角表示を(φ,θ,ψ)としたときに、カット角が(0°,θ,0°≦|ψ|≦90°)の水晶板からなり、前記水晶板に生成された弾性表面波の波長をλ、前記すだれ状電極を構成している電極指の膜厚をHとした場合、H/λ=0.09のとき、前記電極指の対数を140以下、H/λ=0.10のとき、前記電極指の対数を130以下、H/λ=0.11のとき、前記電極指の対数を80以下、である、ことを特徴としている。θは、0°以上、180°以下であってよいが、より望ましくは95°以上、155°以下である。
【0009】
このようになっている本発明は、水晶板にレイリー波のストップバンドにおける上限モードを生成することができるとともに、縦モードによるスプリアス周波数を主共振周波数から500ppm以上遠ざけることができる。なお、ppmは、(スプリアス周波数−主共振周波数)÷主共振周波数であって、主共振周波数に対するスプリアス周波数の偏差量を表している。
本発明に係る弾性表面波装置は、上記した弾性表面波素子片を備えていることを特徴としている。このようになっている本発明に係る弾性表面波装置は、縦モードによるスプリアスの影響を小さくすることができ、特性の劣化を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る弾性表面波素子片および弾性表面波装置の好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る弾性表面波素子片を模式的に示した平面図であり、図2は図1のA−A線に沿った一部断面図である。これらの図において、弾性表面波素子片10は、圧電基板である矩形状の水晶板12からなり、水晶板12の表面中央部にIDT14が形成してある。また、弾性表面波素子片10は、一対の反射器16が設けてある。一対の反射器16は、IDT14によって励振される弾性表面波の伝播方向に沿って設けられ、IDT14を挟んで配置してある。
【0011】
水晶板12は、実施形態の場合、オイラー角表示を(φ,θ,ψ)としたときに、カット角が(0°,θ,0°≦|ψ|≦90°)となっている。すなわち、水晶板12は、水晶結晶において図3に示したようなカット角となっている。このカット角は、次のようにして得られる。水晶結晶の電気軸をX軸、機械軸をY軸、光軸をZ軸としたときに、水晶Z板18は、オイラー角が(0°,0°,0°)のZ軸に垂直な水晶板となる。この水晶Z板18を、X軸を回転軸として反時計方向に角度θだけ回転させたときに、新たに得られる座標軸をX軸、Y’軸、Z’軸とする。このXY’Z’座標系において、X軸とY’軸とのなす面に平行な水晶板20を、さらにZ’軸を中心に角度ψだけ回転させて得られる新たな座標軸をX’軸、Y”軸、Z’軸とする。このX’Y”Z’座標において、X’軸とY”軸とのなす面に平行な水晶板がオイラー角(0°,θ,ψ)の水晶板となる。
【0012】
そして、実施形態の水晶板12は、Z’軸を回転中心とした回転角ψが0°〜90°の水晶板である。なお、Z’軸を中心とした回転角ψは、水晶結晶がZ’軸を中心にどちらの方向に回転させても対称であるので、±(0°〜90°)とすることができる。すなわち、0°≦|ψ|≦90°である。また、X軸を中心とした回転角θは、発明者らの実験によると、0°≦θ≦180°とするのがよい。より望ましくは、95°≦θ≦155°、33°≦|ψ|≦46°、すなわちオイラー角が(0°,95°≦θ≦155°,33°≦|ψ|≦46°)の水晶板を用いることがより望ましい。
【0013】
弾性表面波素子片10のIDT14は、一対の櫛型電極22(22a、22b)からなる。各櫛型電極22は、それぞれの一端をバスバー24(24a、24b)に接続した複数の電極指26a、26bを備えている。各電極指26(26a、26b)は、水晶板12のY”軸に沿って形成してある。そして、IDT14は、すだれ状をなしている。すなわち、IDT14は、各櫛型電極22の櫛歯に相当する電極指26が噛み合うように交互に、かつ平行に等間隔で配置してある。そして、IDT14は、櫛型電極22aと櫛型電極22bとの間に信号電圧が印加されることにより、所定周波数の弾性表面波を水晶板12の表層部に発生させる。この弾性表面波は、電極指26に直行した水晶板12のX’軸に沿って伝播する。
【0014】
各反射器16は、両端が相互に連結された複数の導体ストリップ28からなり、格子状をなしている。これらの一対の反射器16とIDT14とは、実施形態の場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜から形成してある。すなわち、IDT14と反射器16とは、水晶ウエハの表面に蒸着やスパッタリングなどによって成膜されたアルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜を、所定の形状にフォトエッチングすることにより形成される。また、IDT14は、図1に図示しない接続パッドに電気的に接続してある。
【0015】
各櫛型電極22a、22bのそれぞれの電極指26a、26bは、図2に一部断面図として示したように、形成間隔(ピッチ)がpとなっている。そして、IDT14によって水晶板12に生成される弾性表面波の波長λは、周知のように電極指26の形成ピッチpに依存する。また、IDT14は、実施形態の場合、各電極指26の厚み(電極膜厚)によって、電極指26a、26bからなる電極指の対数が異なっている。これは、主共振SとスプリアスSとの周波数偏差は、電極膜厚Hと電極指の対数とに依存していることによる。
【0016】
発明者らの研究によると、電極指26の電極膜厚をH、弾性表面波の波長をλとすると、膜厚比をH/λとした場合、電極指26の対数と、スプリアスSの主共振Sからの周波数偏差量は、図4に示したようになる。図4は、横軸が電極指26の対数であり、縦軸がppmで示したスプリアスSの主共振Sからの周波数偏差量である。なお、fは主共振Sの周波数、ΔfはスプリアスSの周波数をfとした場合、Δf=f−fである。また、図4の実線の曲線AはH/λ=0.09(=9%)であり、1点鎖線の曲線BはH/λ=0.10(=10%)であり、2点鎖線の曲線CはH/λ=0.11(=11%)である。そして、用いた水晶板12は、オイラー角で(0°、123°,42°)水晶板であって、IDT14の電極指26の幅をB(図2参照)、電極間のピッチをp/2とした場合、η=B/(p/2)=0.7である。そして、電極間ピッチp/2は4.89μmである。また、IDT14は、アルミニウムによって形成してある。
【0017】
図4に示されているように、スプリアスSによる影響を小さくするために、上記の周波数偏差量Δf/fを500ppm以上とするには、H/λ=0.09の場合、電極指26を140対以下にする必要があり、H/λ=0.10の場合130対以下、H/λ=0.11の場合80対以下にする必要がある。これにより、スプリアスSの周波数を主共振Sの周波数から500ppm以上離すことができ、スプリアスSの影響の小さい高精度な弾性表面波素子片10とすることができる。
【0018】
図5は、本発明の実施の形態に係る弾性表面波装置の一例を示す断面図であって、SAW共振子の断面図である。図5において、SAW共振子30は、セラミックなどからなるパッケージ本体32を有する。パッケージ本体32は、上端が開口した箱型に形成してあり、パッケージ本体32の底面に弾性表面波素子片10が接着剤を介して固定してある。弾性表面波素子片10は、IDT14の両側に、IDT14に電気的に接続した接続パッド34が設けてある。これらの接続パッド34は、ボンディングワイヤ36を介してパッケージ本体32に設けた電極38に接続してある。そして、SAW共振子30は、弾性表面波素子片10を収容したパッケージ本体32の上端に、セラミックやガラス、金属などからなる蓋体40を配置し、図示しない封止材によってパッケージ本体32が気密に封止してある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る弾性表面波素子片を模式的に示した平面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った一部断面図である。
【図3】実施の形態に係る水晶板のカット角を説明する図である。
【図4】実施の形態に係る弾性表面波素子片の電極指の対数とスプリアス周波数の主共振周波数からの偏差量との関係を示す図である。
【図5】実施の形態に係る弾性表面波装置の一例を示す断面図である。
【図6】弾性表面波素子片の周波数特性を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10………弾性表面波素子片、12………水晶板、14………IDT、16………反射器、22a、22b………櫛型電極、26a、26b………電極指、30………弾性表面波装置(SAW共振子)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の表面にすだれ状電極が設けてある弾性表面波素子片であって、
前記圧電基板は、オイラー角表示を(φ,θ,ψ)としたときに、カット角が(0°,θ,0°≦|ψ|≦90°)の水晶板からなり、
前記水晶板に生成された弾性表面波の波長をλ、前記すだれ状電極を構成している電極指の膜厚をHとした場合、
H/λ=0.09のとき、前記電極指の対数を140以下、
H/λ=0.10のとき、前記電極指の対数を130以下、
H/λ=0.11のとき、前記電極指の対数を80以下、
である、
ことを特徴とする弾性表面波素子片。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子片を備えていることを特徴とする弾性表面波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−295311(P2006−295311A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110022(P2005−110022)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】