説明

形状可変ミラー

【課題】鏡面が変形可能な形状可変ミラーにおいて、組立て時に鏡面に歪みが発生するのを抑制できる構造の形状可変ミラーを提供する。
【解決手段】
形状可変ミラー1は、支持基板2と、支持基板2と対向して設けられるミラー基板3と、支持基板2上に設けられてミラー基板3を固定する固定部材4と、支持基板2上に設けられて、その伸縮によりミラー基板3を突き上げて鏡面3aを変形可能とする圧電素子5と、を備える。ミラー基板3と圧電素子5とは接合されず、ミラー基板3と固定部材4とは、Au層から成る接合層6によって接合される。ミラー基板3には、固定部材4と接合される部分にのみ接合層6が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置等の光学装置に備えられる、鏡面の形状を変形できる形状可変ミラーに関し、より詳細には、組立て時に鏡面に発生するひずみを低減できる構成の形状可変ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、その鏡面の形状を変形して、入射する光ビームの光学的歪み等を補正する形状可変ミラーについて種々の提案がなされており、画像処理装置や光ピックアップ装置等、幅広い分野で用いられている。
【0003】
例えば、光ピックアップ装置の分野では、特許文献1や特許文献2に示すように、CD(コンパクトディスク)やDVD(デジタル多用途ディスク)等の光ディスクの情報を読み書きする際に、光ディスクのディスク面が光軸に対して傾いた時に発生するコマ収差や、光ディスクの記録面を保護する透明樹脂(保護層)の厚さの違いが原因となって発生する球面収差等の波面収差の補正を行うために、形状可変ミラーが用いられている。
【0004】
このような形状可変ミラーには、特許文献1のように圧電素子を使用したユニモルフ又はバイモルフ形状の形状可変ミラーや、特許文献2のように圧電膜等の薄膜を積層させて形成する形状可変ミラーの他に、特許文献3のように、柱状に形成される圧電素子(圧電アクチュエータ)の縦方向(上下方向)の伸縮を利用して、鏡面を変形させる形状可変ミラーもある。そして、圧電素子の縦方向の伸縮を利用して鏡面を変形させる形状可変ミラーは、その製造のし易さ等に利点があり、また、特許文献2のように、薄膜を積層させて形成する形状可変ミラーに比べて、製造のし易さに加えて、コスト面等においても利点を有する。
【特許文献1】特開2004−109562号公報
【特許文献2】特開2005−196859号公報
【特許文献3】特開平5−333274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電素子の縦方向の伸縮を利用して鏡面を変形させる形状可変ミラーは、以下の問題点を有している。
【0006】
圧電素子の縦方向の伸縮を利用して鏡面を変形させる形状可変ミラーでは、ミラー基板と、ミラー基板を固定するための固定部材や圧電素子と、が接着剤や金属膜等の接着層(接合層)を介して接合される。このため、形状可変ミラーの組立て時には、ミラー基板の鏡面が設けられる面と反対側の面に接着層を設け、その後固定部材や圧電素子と、ミラー基板と、を接合するというステップが行われる。そして、従来、ミラー基板と固定部材、及びミラー基板と圧電素子との両者について接合すること等を考慮して、ミラー基板の固定部材等が接合される面の全体に接着層を設けていた。
【0007】
なお、ミラー基板と、固定部材や圧電素子と、を接合する場合において、ミラー基板側に接着層を設ける必要がある理由は、ミラー基板と固定部材等に介在する接着層を薄くて均一に設ける必要があることに由来する。すなわち、薄くて均一な接着層(厚さ2μm以下)を形成しようとすると、その接着層の形成のし易さ等から、金属層(例えばAu層)を接着層として設ける方法に利点がある。しかし、この場合、ミラー基板と、固定部材や圧電素子と、の両方に接着層を作製しないと接合が十分できないために、ミラー基板側にも接着層が設けられる。また、接着剤を用いる場合には、薄くて均一な接着層を設ける場合には、スピンコート法等が用いられ、固定部材や圧電素子に薄くて均一な接着層を設けるのは困難である。このため、接着剤を用いる場合にもミラー基板に接着層を設ける必要がある。
【0008】
なお、接着層を薄くて均一に設ける理由は、接着層が厚すぎると、圧電素子の伸縮によってミラー基板の変形が十分に行われない可能性があるからであり、また、均一に設ける理由は、接合をムラなく行うためである。
【0009】
しかし、本発明者の研究により、例えば、縦と横の長さが約12mmで、厚さ約100μmのミラー基板(Si基板)に、接着層として約1μmのAu層を成膜した場合には、ミラー基板が水平である場合を基準として、大きいところでは、その撓み量が10〜15μm程度となる撓みが、ミラー基板に発生することがわかった。なお、この撓みは、成膜したAu層において発生する引張応力や圧縮応力といった残留応力に起因するものと考えられる。
【0010】
このため、従来のようにミラー基板の全面に接着層を設けるような構成の場合(特許文献3のように、ミラー母材の全面に充填剤を設ける構成も含めて)、接着層を形成することによって発生する歪みのために、ミラー基板と固定部材等との接合を行うと、ミラー基板に設けられる鏡面に大きなストレス(歪み)を与え、形状可変ミラーによる光学歪みの補正が十分行えないという問題があることがわかった。
【0011】
以上の問題点に鑑み、本発明の目的は、鏡面が変形可能な形状可変ミラーにおいて、組立て時に鏡面に歪みが発生するのを抑制できる構造の形状可変ミラーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、支持基板と、該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、電圧の印加により伸縮し、前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように前記支持基板上に配置される圧電素子と、を備え、前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーにおいて、前記ミラー基板と前記固定部材とを接合するために、前記ミラー基板の前記鏡面が形成される面と反対側の面に設けられる接合層は、前記鏡面に入射する光ビームの入射領域より外側に対応する領域にのみ形成されることを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記ミラー基板に設けられる前記接合層は、前記ミラー基板が前記固定部材と接合される部分にのみ形成されることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記接合層は、熱を加えて圧着することにより、前記ミラー基板と前記固定部材とを接合可能な金属層であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記ミラー基板の厚みは50μm〜300μmであることを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、上記構成の形状可変ミラーにおいて、前記ミラー基板と前記圧電素子とは接合されないことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の構成によれば、ミラー基板に設けるミラー基板と固定部材との接合層を、鏡面に歪みが発生しては不都合な部分については除く構成としているために、形状可変ミラーの組立て時に、鏡面に発生する歪みによる形状可変ミラーの性能ダウンを小さなものとできる。また、鏡面に形成する接合層をかなり広い範囲に設けることができるために、作業の緻密性の要求が小さく、作業性に利点を有する。
【0018】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の形状可変ミラーにおいて、ミラー基板とミラー基板を支持する固定部材とを接合するために設けられる接合層をその両者の間のみに設けるようにしているために、ミラー基板に発生する残留歪みをできる限り小さなものとでき、組立て時に発生する鏡面の歪みを極力抑えることができる。
【0019】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成の形状可変ミラーにおいて、金属層であるために薄い接合層を容易に作製でき、また、特定の部分にのみ接合層を形成するのが容易である。
【0020】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1から第3のいずれかの構成の形状可変ミラーにおいて、ミラー基板を薄く形成しているために鏡面の変形を効率良く行える一方で、接合層の存在により組立て時に鏡面に歪みを発生しやすいミラー基板について、効果的に組立て時に発生する鏡面の歪みを低減できる。
【0021】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1から第4のいずれかの構成の形状可変ミラーにおいて、圧電素子とミラー基板とを接合していないために、接合層で発生する残留応力に由来する鏡面の歪みを更に抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。なお、ここで示す実施形態は一例であり、本発明はここに示す実施形態に限定されるものではない。また、図面中の各部材の大きさや厚み等は理解を容易にする目的のためのものであり、実際の構成とは必ずしも一致しない。
【0023】
図1は、本発明の形状可変ミラーの実施形態を示す図で、形状可変ミラーを構成する部材を分解して示した分解斜視図である。また、図2は、図1の形状可変ミラーが組立てられた状態において、図1のA−Aで切った概略断面図である。この図1及び図2を参照しながら、本実施形態の形状可変ミラーの構成について説明する。
【0024】
1は、形状可変ミラーであり、その鏡面を変形可能に設けられ、入射する光ビームの光学的な歪みを補正する場合等に用いられる。この形状可変ミラー1は、支持基板2と、支持基板2と対向して設けられるミラー基板3と、支持基板2上に設けられてミラー基板3を固定する固定部材4と、支持基板2上に設けられて、その伸縮によりミラー基板3を突き上げて鏡面3aを変形可能とする圧電素子5と、を備える。以下、各部について詳細に説明する。
【0025】
支持基板2は、固定部材4及び圧電素子5を支持する役割を果たす。支持基板2は、絶縁性の部材で構成され、例えば、ガラスやセラミックス等で形成される。支持基板2上には、それぞれ固定部材4及び圧電素子5が配置される支持台2a、2bが設けられている。そして、圧電素子5が配置される支持台2bのそれぞれからは、凸状のパターン2cが引き出されている。なお、この支持台2a、2bや凸状のパターン2cは、例えば、エッチングやサンドブラストによる処理等によって形成される。
【0026】
圧電素子5が配置される支持台2bはAu層で覆われており、このAu層は圧電素子5の電極としての役割を果たすと同時に、圧電素子5と支持基板2とを接合する役割をも果たす。また、圧電素子5が配置される支持台2bから延びる凸状のパターン2cもAu層で覆われており、これにより、凸状のパターン2cは圧電素子5へ外部から給電するための配線パターンとなっている。支持台2b及び凸状のパターン2cのAu層による被覆は、例えば蒸着法やスパッタリング法によって行われる。
【0027】
なお、本実施形態においては、位置決めを容易とする等の理由により、固定部材4を支持するための支持台2aを設ける構成としているが、この構成に限定される趣旨ではなく、固定部材4を支持するための支持台2aを設けない構成としても構わない。また、本実施形態においては、支持台2b及び凸状のパターン2cをAu層で覆う構成としているが、この構成に限定される趣旨ではなく、他の金属層で覆う構成としても構わないし、支持台2aと凸状のパターン2cを例えば導電性を有するシリコン(Si)で形成し、凸状のパターン2cはAu層で覆わない構成等としても構わない。
【0028】
ミラー基板3は、支持基板2と略平行に対向配置され、支持基板2と対向する面と反対側の面に鏡面3aが形成されている。このミラー基板3は、圧電素子5の伸縮に伴って変形し、それに伴って鏡面3aを変形する構成であるために、その厚みを薄く形成する必要がある。また、ミラー基板3は圧電素子5の伸縮に伴う変形で破壊されては困るために、剛性を有する物質で形成される必要がある。このような点を考慮して、本実施形態においては、このミラー基板3をシリコン(Si)基板によって形成しており、シリコン基板の厚さは100μm程度としている。
【0029】
なお、本実施形態においては、ミラー基板3を構成する物質としてシリコンを用いているが、これに限定される趣旨ではなく、薄くすることが可能で、剛性を有する物質であれば、他の物質でも構わない。
【0030】
ミラー基板3の鏡面3aは、ミラー基板3上にアルミニウム(Al)の層を形成することにより得ている。Alの層の形成は、蒸着法やスパッタリング法等の方法で形成される。なお、鏡面3aは、アルミニウムに限らず、形状可変ミラー1の鏡面3aに入射する光ビームの反射光について所望の反射率を得られる物質であれば、例えば金(Au)や銀(Ag)等、種々の変更が可能である。また、本実施形態においては、ミラー基板3の上面全体を鏡面3aとする構成としているが、これに限定されず、入射する光ビームの入射径を考慮して、鏡面3aの領域を決定し、その部分にのみ反射層を形成する構成等としても構わない。
【0031】
また、ミラー基板3の支持基板2と対向する面には、図2に示すように、圧電素子5と接触する凸部3bが設けられている。これは、圧電素子5の伸縮によってミラー基板3に加えられる力を効率良く伝達するためのものである。この凸部3bの形成は、例えばエッチング処理によって行われる。なお、本実施形態では凸部3bを形成する構成としているが、これに限定されず、凸部3bを設けない構成としても構わない。
【0032】
固定部材4は、支持基板2上に配置されてミラー基板3を固定する役割を果たす。本実施形態においては、固定部材4は、ミラー基板3を、その四隅と、矩形に形成されるミラー基板3の外周側各辺の中央部(四隅に配置される固定部材4のうちの2つに挟まれる位置)と、の計8箇所で支持している。なお、固定部材4の配置については、本実施形態の構成に限定される趣旨ではなく、ミラー基板3の外周側を確実に固定できる構成であれば、種々の変更が可能である。
【0033】
この固定部材4は、例えばガラスやセラミックス等で形成される。固定部材4の支持基板2への接合、及び固定部材4とミラー基板3との接合は、いずれも、その間に接合層6であるAu層を介在させ、例えば、400℃から550℃の高温下、圧力を加えて接合する方式によって行っている。なお、これらの接合については、接着剤を用いて行う構成としても構わない。
【0034】
圧電素子5は、電圧を印加することにより鏡面3aと直交する方向に伸縮可能で、これによりミラー基板3と伴に鏡面3aを変形可能とする。圧電素子5を構成する部材としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)やチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(ZrxTi1-x)O3)のような圧電セラミックスであれば、その種類は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、圧電特性が優れるチタン酸ジルコン酸鉛を用いている。
【0035】
圧電素子5は、支持基板2上に配置されるが、ミラー基板3を基準として、ミラー基板3の外周側に配置される固定部材4よりも内側に配置される。そして、支持基板2上に十字方向に4つ配置され、更に、向かい合う圧電素子5同士が、鏡面3aの中心を通り鏡面3aと直交する軸に対して対称位置となるように配置されている。このように圧電素子5を配置するのは、圧電素子5の数を多くしすぎず、鏡面3aの変形をバランス良く行い易いからである。ただし、圧電素子5の配置及び数は、この構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0036】
圧電素子5と支持基板2とは、Au層の介在により、高温下(例えば、400℃から550℃)で熱接合されている。なお、圧電素子5と支持基板2との接合は、接着剤を用いて行う構成としても構わない。一方、圧電素子5は、ミラー基板3とは接合されない構成となっている。
【0037】
圧電素子5は、電圧の印加により伸縮するが、この圧電素子5に電圧を印加するための電極は、一つは上述した支持基板2に設けられる支持台2bを覆うAu層が担い、もう一つはシリコンで形成されるミラー基板3がその役目を担う。すなわち、ミラー基板3は、4つの圧電素子5全てに対する共通電極の役目を果たしている。このため、ミラー基板3と圧電素子5は常に接触するように構成されている。
【0038】
なお、圧電素子5に対する電極及び配線の構成は、本実施形態の構成に限定される趣旨ではなく、例えば、圧電素子5を支持基板2上に支持台2bを設けずに配置し、支持基板2に貫通穴を設けてこの穴から配線を通して圧電素子5に対する一方の電極を形成し、もう一方は、ミラー基板3を共通電極とせずに、ミラー基板3の支持基板2と対向する面に別途電極を形成する構成等としても構わない。
【0039】
このように構成される形状可変ミラー1の動作について説明する。図3は、図2の形状可変ミラー1について、圧電素子5が伸びた状態を示す図である。図3に示すように、圧電素子5が伸びた場合、ミラー基板3が持ち上げられて、鏡面3aが変形する。一方、圧電素子5とミラー基板3とは接合されていないために、圧電素子5が縮むことにより、ミラー基板3が変形することはない。なお、図3においては、左右の圧電素子5に同一の電圧が印加されて、同じように伸びた状態を示しているが、所望の鏡面3aの変形が得られるように、各圧電素子5に印加される電圧はそれぞれ別々に制御され、異なる電圧が印加されることもある。
【0040】
また、本実施形態においては、圧電素子5が縮んだ場合には、鏡面3aが変形しない構成としているが、例えば、図4に示すように、ミラー基板3の形状を予め、その鏡面3aが凹面となるように支持基板2側に凸となる形状として、圧電素子5が伸縮していない場合には、図2のように鏡面3aが支持基板2と略平行となり、圧電素子5が伸びる場合だけではなく、圧電素子5が縮む場合にも、鏡面3aの形状が変形するような構成等としても構わない。なお、鏡面が凹面形状となるミラー基板3は、例えば、熱収縮率の違う材料を重ね合わせることによって形成できる。
【0041】
また、圧電素子5とミラー基板3とが接合された状態として、圧電素子5が縮んだ場合にも鏡面3aが変形する構成としても構わないが、後述するように、ミラー基板3と圧電素子5とは接合されない方が好ましい。
【0042】
次に、本実施形態の形状可変ミラー1の特徴である、組立て時に鏡面3aに歪みを発生させない構成について説明する。前述したように、ミラー基板3と固定部材4とは、接合層6であるAu層をミラー基板3と固定部材4との間に介在させて、その接合を行っている。そして、従来は、接合層6をミラー基板3の支持基板2と対向する面の全面に設けていたが、本実施形態では、図5に示すように、固定部材4と接合される部分にのみ接合層6を設ける構成としている。なお、図5は、ミラー基板3の支持基板2と対向する面の概略平面図である。また、ミラー基板3と固定部材4とをAu層を介して接合するにあたっては、固定部材4側にもAu層が設けられる。
【0043】
ミラー基板3に設けられる接合層6について、このように構成することにより、ミラー基板3に設けられた接合層6で発生する引張応力や圧縮応力といった残留応力に由来する歪みを低減でき、ミラー基板3と固定部材4との接合によって、ミラー基板3の鏡面3aに発生する歪みを低減できる。
【0044】
また、上述したように、本実施形態のミラー基板3は、圧電素子5が伸びた場合の力を効率良く伝えるために、エッチング処理によって凸部3b(図2参照)を設けているが、この場合、接合層6を設ける面が荒れており、従来のように全面に接合層6を設けると、接合時に、Au層(接合層6)とSi基板(ミラー基板3)との間の合金化が不均一となって、これも鏡面3aに歪みを発生する原因となっていた。この点、本実施形態の構成の場合、Au層が設けられる位置は、一部の領域に限られているために、その影響についても低減できる。
【0045】
なお、上述したように、縦と横の長さが約12mmで、その厚みが約100μmのミラー基板3について、ミラー基板3の一方の板状面に約1μmのAu層を形成した場合に発生するミラー基板3の撓みは10〜15μm程度であるのに対して、ミラー基板3の厚みを約300μmとすると、発生する撓みは2μm程度となる。このため、本発明は、ミラー基板3の厚みが300μmより薄い場合に特に有効である。そして、ミラー基板3の厚みを薄くしすぎると、ミラー基板3の強度の面で不安定となること等を考慮すると、本発明の形状可変ミラー1のミラー基板3の厚みとしては、50〜300μmが好ましいと言える。なお、ミラー基板3の厚みの下限である50μmは、先に述べたようにミラー基板3の強度等を考慮するもので、必ずしも、これより薄い基板の場合に本発明が適用できないことを意味するものではない。
【0046】
接合層6であるAu層をミラー基板3の固定部材4と接合する部分にのみ形成する方法としては、例えば、接合層6が不要な部分についてマスクを施して、Auを蒸着法やスッパタリング法により形成すれば容易に得ることが可能であり、その他、公知の方法で行っても良い。
【0047】
また、本実施形態においては、上述のように、ミラー基板3と圧電素子5とが接合しない構成としている。これは、圧電素子5をミラー基板3に接合することにより、その接合部分において、接合層6を設けることによる歪みが発生するために、その歪みの発生を防止するためである。そして、圧電素子5は、固定部材4と異なり、形状可変ミラー1に入射する光ビームの入射領域内、若しくは入射領域外であるがその近傍、に対応する位置に配置されるために、圧電素子5をミラー基板3に接合しないことは、鏡面3aに発生する歪みを防止する点で有効である。なお、上述のように、圧電素子5をミラー基板3と接合しなくても、鏡面3aの変形を十分に行える。
【0048】
なお、以上に示した実施形態においては、ミラー基板3と固定部材4とを接合する接合層6のうちミラー基板3に設けられる接合層6について、固定部材4と接合される部分にのみ接合層6を設ける構成を示したが、この構成に限定される趣旨ではない。すなわち、鏡面3aが変形される部分のうち、形状可変ミラー1に入射する光ビームが鏡面3aに入射する領域において歪みが発生しなければ、形状可変ミラー1による入射する光ビームに対する光学的な歪みの補正は適切に行えるために、例えば、図6に示すように、鏡面3aに入射する光ビームの入射領域7(図において円で囲まれる領域)の外側に対応する全面に接合層6を形成する構成等としても構わない。このように接着層6を形成する場合、接着層6を形成するマスクの形状を容易とできる等の利点がある。
【0049】
なお、図6は、ミラー基板3の支持基板2と対向する面の概略平面図である。また、図中破線で示した矩形の領域は、固定部材4が配置される位置を示している。そして、固定部材4が配置される位置は、形状可変ミラー1に入射する光ビームの入射領域7の外側に存在する。
【0050】
また、以上に示した実施形態においては、ミラー基板3と固定部材4との間に設けられる接合層6がAu層である場合を示したが、接合層6はAu層に限らず、熱を加えて圧着することにより、ミラー基板3と固定部材4とを接合できるものあれば、他の金属層で構わず、例えば、金と錫の合金(Au−Sn合金)やアルミニウム(Al)等を用いることも可能である。ただし、接合層6にAu層を用い場合、接合強度がより強くできるために、Au層を用いるのが好ましい。
【0051】
また、以上に示した実施形態では、ミラー基板3と固定部材4との間に設けられる接合層6として金属層(Au層)を用いる構成について示したが、接着剤を用いることも可能であり、この場合にも鏡面3aに発生する歪みを低減することが可能である。なお、接着剤をミラー基板3の限られた位置に形成する方法としては、例えば、感光性樹脂から成る接着剤を用いて、フォトリソグラフィー工程を用いる周知の方法が挙げられる。
【0052】
その他、以上に示した実施形態では、形状可変ミラー1は、図1に示すように全体の形状が矩形状であるが、特にこの形状に制限されるものでなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更が可能である。例えば、支持基板2やミラー基板3等が円形に構成されていても構わず、ミラー基板3と支持基板2とが同一の大きさとなる構成等としても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の形状可変ミラーは、組立て時に鏡面に発生する歪みを低減できる構成であるために、本発明の形状可変ミラーを用いれば、入射する光ビームの光学的な歪みを適切に補正することが可能となる。このため、本発明の形状可変ミラーは、光ビームの光学的な歪みの補正を必要とする光学系を備える様々な光学装置に適用可能であり、例えば、光ピックアップ装置、ビデオプロジェクタ、デジタルカメラ等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】は、本実施形態の形状可変ミラーの構成を示す図で、形状可変ミラーを構成する部材を分解して示した分解斜視図である。
【図2】は、図1の形状可変ミラーが組立てられた状態において、図1のA−Aで切った概略断面図である。
【図3】は、図2の形状可変ミラーについて、圧電素子が伸びた状態を示す図である。
【図4】は、本実施形態におけるミラー基板に対する変形例を示す断面図である。
【図5】は、本実施形態のミラー基板の支持基板と対向する面の概略平面図である。
【図6】は、本発明の形状可変ミラーが備えるミラー基板の構成に関する変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 形状可変ミラー
2 支持基板
3 ミラー基板
3a 鏡面
4 固定部材
5 圧電素子
6 接合層
7 入射領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
該支持基板と対向配置され、前記支持基板と対向する面と反対側の面に鏡面を有するミラー基板と、
前記支持基板上に設けられて、前記ミラー基板を固定する固定部材と、
電圧の印加により伸縮し、前記ミラー基板の前記固定部材によって固定された部分に囲まれる領域を変形できるように前記支持基板上に少なくとも1つ配置される圧電素子と、
を備え、
前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記ミラー基板の変形と伴に前記鏡面を変形する形状可変ミラーにおいて、
前記ミラー基板と前記固定部材とを接合するために、前記ミラー基板の前記鏡面が形成される面と反対側の面に設けられる接合層は、前記鏡面に入射する光ビームの入射領域より外側に対応する領域にのみ形成されることを特徴とする形状可変ミラー。
【請求項2】
前記ミラー基板に設けられる前記接合層は、前記ミラー基板が前記固定部材と接合される部分にのみ形成されることを特徴とする請求項1に記載の形状可変ミラー。
【請求項3】
前記接合層は、熱を加えて圧着することにより、前記ミラー基板と前記固定部材とを接合可能な金属層であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の形状可変ミラー。
【請求項4】
前記ミラー基板の厚みは50μm〜300μmであることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の形状可変ミラー。
【請求項5】
前記ミラー基板と前記圧電素子とは接合されないことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の形状可変ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−40298(P2008−40298A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216636(P2006−216636)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】