説明

形状記憶特性を有するアモルファス及び半結晶質ポリマーのブレンド

形状記憶特性を有するアモルファスポリマー及び半結晶質ポリマーとのブレンドを、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリラクチド、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)及びポリ(塩化ビニリデン)とポリ(塩化ビニル)のコポリマー類のような結晶質ポリマーと、ポリ(酢酸ビニル)、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレート、アイソタクチックポリメチルメタクリレート、シンジオタクチックポリメチルメタクリレート及びその他のポリアルキルメタクリレート類のようなアモルファスポリマーとをブレンディングすることによって製造した。該ポリマー材料の製造法及びその用途、例えばスマートな医療機器としての用途も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、以下の仮特許出願、すなわち出願第60/418,023号(2002年10月11日出願);出願第60/466,401号(2003年4月29日出願);及び出願第60/488,323号(2003年7月18日出願)に基づく優先権を主張する。前記各仮特許出願は、本開示と矛盾しない範囲で本願に引用して援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は形状記憶材料に関し、更に詳しくは、ポリ(酢酸ビニル)(PVAc)のようなアモルファスポリマーと、例えばポリ(乳酸)(PLA)又はポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)であり得る半結晶質ポリマーとのブレンドに関する。本開示はまた、形状記憶効果を示すそのようなブレンドの製造法及びその用途にも関する。
【背景技術】
【0003】
形状記憶材料は、熱、光、又は蒸気などの環境刺激を引き金として、形状を一時的な凍結形状から永久的な形状に変換する能力を備えていることを特徴とする材料である。創造的に使用されると、この現象は多様な用途に利用できる。多くのポリマーは、例えば、ゴム弾性を基に、ガラス化又は結晶化とも協同して形状記憶効果を内在的に示す。しかし、歪回復速度、回復時の作業可能性、及び収縮状態の安定度といった(形状記憶の)特徴は様々である。形状記憶ポリマー(SMP)として報告された最初のものは、1971年にラジエーションアプライアンス社(Radiation Appliances, Inc.)によって発見及び特許化された架橋ポリエチレン、及びVernon−Benshoff Co.によって報告された義歯材料として使用するためのメタクリル酸エステルであった。そのような材料の歪回復の機構は、主にニッケル−チタン合金に基づく形状記憶合金(SMA)のそれとは非常に異なることが確認されている。
【0004】
更に詳しくは、形状記憶ポリマーは超弾性ゴムである。該ポリマーがゴム状態に加熱されると〜1MPaの弾性率の抵抗下で変形でき、温度が結晶化温度又はガラス転移温度のいずれか未満に低下すると変形された形状は低温剛性によって固定されるが、同時に変形時に材料に費やされた機械的エネルギーは貯蔵される。その後、温度が転移温度(T又はT)を超えて上昇すると、ポリマーはネットワーク鎖のコンフォメーションエントロピーの回復に推進されて元の形態に戻る。SMPの性質は、ネットワークアーキテクチャ及び剛性状態とゴム状態を分ける転移の鋭さに密接に関連する。SMAと比較した場合、SMPは、(i)SMAの最大歪が8%未満であるのに対し、大きなゴム状コンプライアンスのために数百パーセントに及ぶ高歪;(ii)ポリマー化学の多様性による転移温度の調整の容易さ;及び(iii)低コストでの加工容易性、といった利点を有する。
【0005】
発明者らによって同時出願された出願特許は、本明細書中では異なる熱機械的性質を有する熱刺激性SMPの合成及び特性分析、並びに医療機器及びメカニカルアクチュエータとしての使用を含む様々な用途におけるそれらの使用を開示する。開示された材料は、室温での弾性率の範囲が、数GPaの貯蔵弾性率を有する硬質ガラス材料から数十MPaほどの低さの弾性率を有する弾性ゴムにまで及ぶ。その上、収縮(ゴム)弾性率は、最終用途によって規定されるとおり0.5<E<10MPaの範囲に調整されている。そのようなSMAの一例が化学的に架橋されたポリシクロオクテン(PCO)である。これは硬質の半結晶質ゴムで、Tを超えると、結晶化によって固定される一時的形状に弾性変形される。熱水に浸漬することによって、全体的変形の素早く完全な回復が達成される。調整可能な臨界温度とゴム弾性率を提供するその他のSMPは、制御されたT及び注型加工を可能にする2種類のビニルモノマーから形成された熱硬化性ランダムコポリマーを用いて合成されている。そのようなコポリマーは、架橋剤として二官能性ビニルモノマーを用いて架橋され、架橋剤の濃度がゴム弾性率、従って回復時の作業ポテンシャルを制御している。これらの材料は、形状記憶効果のほか注型可能でもあるので、より複雑な形状への加工が可能となる。また、これらは光学的に透明である。しかしながら、これらいずれの場合も、化学的架橋の使用は可能な加工の種類を制限し、ネットワーク形成時の平衡形状を永久的に固定する。
【0006】
シャープなT>室温と低結晶度を有する半結晶質熱可塑性ポリマーも形状記憶の良好な候補でありながら、Tを超える温度での溶融加工の利点も提供し、流動状態における応力緩和によって平衡形状の反復リセットを可能にしている。この種のSMPに含まれるポリマーの代表例はポリウレタンで、そのソフトドメインは低融点(しかしTより高い)を有する半結晶質であり、ハードドメインは加工時にのみ超過する高い融点を特徴とする。ハードセグメント及びソフトセグメントの形状記憶効果に及ぼす影響については研究されている。そのようなポリウレタンのほか、ポリエチレンテレフタレート(PET)のブロックコポリマーもそれらの形状記憶効果のために合成されている。
【0007】
半結晶質ポリマーとアモルファスポリマーの混和性ブレンドも過去に研究されている。ただし、形状記憶性の挙動に関してではなく、それらの結晶性及び機械的性質に魅力があったためであった。分子レベルで混和可能なこれらのブレンドの場合、広がりのない単一のガラス転移が形状記憶にとって重要な側面となる。さらにそのような混和性ブレンドでは、平衡結晶度(形状固定が行われるT及びT間のプラトー弾性率を制御する)も、ブレンド組成すなわち各成分の相対濃度に応じて劇的及び系統的に変化する。この種の多数のブレンドが研究されているが、そのようなブレンドをそれらの形状記憶特性について利用した開示は知られていない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に従って、室温での固定状態で比較的高い弾性率を有し、調整可能でシャープな転移を有し、ある融点を超える温度でその永久形状を繰り返し再成形することが可能なSMPを、結晶質ポリマー(C)とアモルファスポリマー(A)のブレンディング又は混合によって製造する。ブレンディング又は混合は、溶融状態で単一混和相である(応力のない自然状態への加工が可能である)が、限られた及び必要に応じた範囲内で結晶質であり、室温に冷却するとさらにガラス化するように行う。(C)の例は、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)(T=−35℃、T=175℃)、ポリラクチド(PLA)(T=56℃、T=165℃)及びそのコポリマー類、例えばポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−1,5−ジオキセパン−2−オン)、ポリ(ラクチド−コ−トリメチレンカルボネート)、ポリグリコリド、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)及びそのコポリマー類、ポリ無水物類、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)(T=−35℃、T=175℃)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、並びにポリ(塩化ビニリデン)(PVDC)及びポリ塩化ビニリデン(PVDC)/ポリ塩化ビニル(PVC)のコポリマー類などであるが、これらに限定されない。(A)の例は、ポリ(酢酸ビニル)(PVAc)(T=35℃)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリエチルアクリレート(PEA)、アタクチックポリメチルメタクリレート(aPMMA)、アイソタクチックポリメチルメタクリレート(iPMMA)、シンジオタクチックポリメチルメタクリレート(sPMMA)、及びその他のポリアルキルメタクリレート類などである。
【0009】
本開示に従って、開示されたブレンドに可塑剤を含めることもできる。可塑剤の例は、ジ−n−ブチルフタレート(DBP)、ジ−n−オクチルフタレート(DNOP)、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DOP)、ジ−2−エチルヘキシルイソフタレート(DOIP)、ビス−(20エチルヘキシル)テレフタレート(DOTP)、ジ−n−デシルフタレート(DNDP)、ジ−シクロヘキシルフタレート(DCHP)、ジ−オクチルセバケート(DOS)、Hexamoll(登録指標)DINCH、EVA、EVA−一酸化炭素ターポリマー(Elvaloy)、ポリ(アルキレンアルカノエート)類などであるが、これらに限定されない。DOPは、PVCのガラス転移を低下するのにも使用できる。
【0010】
開示されたポリマーブレンドは、微粉砕された粒子材料、例えば粘土、シリカ又はTiOを含むように配合することもできる。
【0011】
一時的形態において高剛性を得るために、室温より高いT有するが、化学的架橋ではなく物理的架橋に由来する必要通りのゴム弾性率及び弾性を有する形状記憶ポリマーが求められている。
【0012】
好ましくは、本開示の例示的SMPは、アモルファスポリ(酢酸ビニル)(PVAc)(T=35℃)と半結晶質ポリラクチド(PLA)(T=56℃、T=165℃)又はポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)のブレンディング又は混合によって達成される。開示されたポリマーは、あらゆるブレンド比で完全な混和性を示し、単一のガラス転移温度を有する一方で結晶化(PVAcを除いて)も部分的に維持されている。ブレンドのTは形状回復の引き金を引く臨界温度として使用されるが、結晶相はT以上T未満における弾性変形のための物理的架橋の場として機能する。形状記憶ポリマーは、特に生物医学工学ツールの開発及び医療機器として最終用途の可能性の範囲の拡大に促されて、最近ますます注目を集めている。
【0013】
本開示に従って現時点で好適なポリマーブレンドは、ポリ酢酸ビニル(PVAC)及びポリ(乳酸)(PLA)又はポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)から形成される。しかしながら、その他の適切なブレンドの例は、PVDF/PMMAのペア及びPVDF/PMMA/PVAcの三元ブレンドを含む。PMMA及びPMMA/PVAの組合せは、前述のようにブレンド中でPVAcと同じ役割を果たす。PMMAを添加する利点は臨界温度を自由に約80℃まで上げられること及び室温における弾性率も増加できることである。PVDFは、ポリ(塩化ビニリデン)(PVDC)によって、ポリ(塩化ビニリデン)/ポリ(塩化ビニル)のコポリマー類によって、又は上記任意の“C”ポリマーによって置き換えてもよい。
【0014】
ポリ(塩化ビニル)をポリ(ブチルアクリレート)又はポリ(ブチルメタクリレート)(PVC/PBA)とブレンディング又は混合することはある利点を有することもわかっている。PVDF/PVAcの場合、PVAcは、Tを上昇させるが同時にPVDFの結晶度を低下させる。PVCはPVDFと同じ役割を果たしうるが、結晶度が既に低く、比較的高いT(〜80℃)を有している。従って、本開示のこの例示的実施態様において、第二の成分(PBA)はTを低下させる機能又は役割を果たすだけである。この機能/役割は、小分子可塑剤、最も有名なのはジオクチルフタレート(DOP)で達成することもできるが、意図する移植可能な医療用途のためには生体適合性の高分子可塑剤を使用するのがここでは好適である。PBAの組成範囲は10〜40%であるが、20%が最も好都合で、Tが〜40℃となる。
【0015】
本開示のポリマーブレンドに付随する更なる有益な特徴及び機能は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本開示の混和性ブレンドは、シャープで調整可能な転移温度とそれらの転移温度を超える温度で調節可能な剛性を示す。開示されたブレンドは、回復温度での優れた形状回復効果と、アモルファスポリマーの転移温度及びホモポリマーの結晶度に応じてそれぞれ調節可能な収縮力も示す。形状回復は、転移温度を超える適当なレベル、例えば転移温度より20℃高い温度に加熱されると、数秒以内に達成できる。本開示の材料に伴う追加の利点は、該材料が室温で硬質であること、該ポリマーは一般的に生体適合性なので、医療機器及びインプラントとして使用できること、及び該生成物は、用途の要件に応じて任意の色に染色したり、x線ラジオグラフィーに対して放射線不透過性にすることもできることなどである。
【0017】
本開示による特定のポリマーブレンドの形状回復温度は、ブレンドのガラス転移に依存する。理論的には、ブレンドポリマーはガラス転移温度以上融点未満で回復する。ガラス転移温度よりおよそ20℃高い温度を使用するのが素早い形状回復のために好適である。更に好ましくは、素早い回復と予測可能及び所望の収縮力を得るために特定のポリマーブレンドのゴム状プラトー領域中の温度を選択する。
【0018】
本開示のブレンドは多様な用途と結び付けてうまく使用できる。例えば以下の用途などであるが、これらに限定されない。
a)医療(ヒューマンヘルスケア)用ステント、パッチ及びその他のインプラント
b)調節可能な形状と高剛性(硬直性)を要求される外科用ツール
c)パーソナルケア用品(食器類、ブラシなど)及びハードウェアツールハンドルなど、自由に形状を調節できる構造的道具
d)自己回復プラスチック
e)医療機器
f)成形、複製、ラピッドプロトタイピング(光造形、高速造形技術)、歯科及びフィギュア印刷用の印象材
g)玩具
h)情報蓄積用可逆的エンボス加工
i)温度センサ
j)安全バルブ
k)熱収縮テープ又はシール
l)熱制御継手及びファスナー
m)ラージストレイン、ラージフォースアクチュエータ
【実施例】
【0019】
本開示による例示的ポリマーブレンドの有益な特徴、機能及び用途をさらに説明するために、以下の非制限的実施例を提供する。当業者には容易に分かるとおり、以下の実施例は本開示の態様を単に説明するためのものであるので絶対的と考えるべきでなく、従って、本開示に従って都合よく使用されうる潜在的ポリマー材料、加工条件(例えば相対的パーセンテージ、温度及び時間)及び/又は最終用途に関して制限をしているとみなすべきでない。以下の実施例に記載した物理的性質及び加工条件はそのような性質/条件の単なる説明に過ぎないので、本開示の範囲又は有用性を制限しているとみなすべきでない。
【0020】
材料
=500,000g/molのポリ(酢酸ビニル)はアルドリッチ(Aldrich)社から購入し、室温で2日間真空処理して水分を含む揮発性物質を除去した。M=130,000g/molのポリ(ラクチド)はコネチカット大学のS.Huang教授に提供してもらい、使用前にT=60℃で一晩乾燥させた。該材料は92%のL−異性体と8%のD−異性体を含むことがわかった。M=180,000g/molのポリ(フッ化ビニリデン)もアルドリッチ社から購入し、室温で2日間真空処理して水分を含む揮発性物質を除去した。
【0021】
一次形状の加工及び固定
様々なブレンド比を使用してPLA/PVAc及びPVDF/PVAcの溶融ブレンディングを30mlのブラベンダ(Brabender)社の二軸スクリューミキサ中で実施した。該ミキサをT=180℃で5分間平衡化した後、ミキサの羽根の回転を25RPMに調整し、予備混合したポリマーペレットをチェンバに1分間かけて加えた。該ポリマーを10分間混合し、良好な分散を確保した。チェンバに窒素をパージして、混合時の酸化分解の可能性を軽減した。混合後、ブレンドをチェンバから取り出し、室温に冷却してから180℃のカルバ(Carver)プレスの熱盤間で8メートルトンの荷重下で5分間プレスした。スペーサを用いてフィルム厚を調節し、室温への急速冷却を行った。このようにして形成されたフィルムを用いて熱的及び機械的特性分析を実施した。
【0022】
特性分析
示差走査熱量測定法(DSC)による測定及び溶融ブレンディングの前にポリマーの熱的性質(熱重量分析(TGA))を測定し、ポリマー中に溶媒蒸気が存在しないことを確かめた。この目的のためにTAインスツルメンツ社(TA 2950)のTGAを用い、ポリマーのサンプルを窒素雰囲気下20℃/分の加熱速度で25℃から600℃に加熱した。DSC分析にはパーキン−エルマー(Perkin-Elmer)社のDSC−7を使用した。ペレット及び熱圧フィルムから調製した10gのサンプルをまず加熱速度10℃/分で20℃から200℃に加熱し(第一の加熱)、次いで同じ速度で20℃に冷却し、最後に該サンプルを加熱速度10℃/分で200℃に再加熱した(第二の加熱)。各ブレンドのTを、第二の加熱時に観察される熱容量変化の中点から決定した。
【0023】
広角x線散乱(WAXS)分析は、ブルカー(BRUKER)社のGADDS−4装置を用い、Cr源の放射線(λ=2.291Å)及び透過モードで実施した。使用した電圧と電流はそれぞれ40kV及び40mA、暴露時間は30分間であった。散乱パターンは、サンプル−検出器間の距離6.0cmでハイスター(HiStar)エリア検出器に集めた。強度プロフィール(I対2θ)は、等方性パターンの各2θ位で方位角平均によって決定した。次に、データをピークフィット(Peakfit)(登録商標)ソフトウェア(SPSSサイエンス)で分析し、ピーク位置と各ピークの相対強度を見出した。
【0024】
ブレンドの貯蔵弾性率及び損失引張弾性率を、TAインスツルメンツ社のDMA2980を用い、動的熱機械分析(DMTA)によって引張モードで測定した。使用した方法は、加熱速度4℃/分で−100℃<T<150℃に及ぶ温度勾配、1Hzの固定振動数、及び約0.5%の最大引張歪に従った。サンプルの形は寸法10×2×1mmの矩形バーであった。
【0025】
等温応力なし形状回復試験を、矩形に切断し、光学対比のために染色したサンプルを用いて実施した。サンプルをT=65℃に加熱して一時的らせん形に曲げた。この変形サンプルを氷水で冷却して固定した。すなわちサンプルをガラス化した。次に得られた変形サンプルを、予め定められた温度の温水浴に落とし、形状回復をビデオカメラ及び1秒間に20フレームの速度で画像を集めるデジタル式フレーム取込器で視覚的にモニタした。
【0026】
結果
TGAの結果から、PLAもPVAcもT<300℃で安定なことが示された。この温度を超えると、PLAは完全に分解するが(チャー収率なし)、PVAcは375<T<425℃では25wt%の中間チャー収率が得られるような分解をし、450℃を超えると完全分解する。ブレンドの加工と熱及び動的機械分析(DSC及びDMA)は分解を完全に回避するために250℃未満で実施した。
【0027】
半結晶質PLAの結晶化挙動をDSCで調べた。PLAサンプルをまず180℃で10分間熱圧し、次いで水冷によって室温に急冷した。一つのサンプルはそのままDSCで分析したが、別のサンプルはまず110℃(=1/2(T+T))で1時間アニールして平衡レベルの結晶度に到達させた。図1に、これら二つのサンプルの熱的挙動の比較を示す。PLA溶融物を急冷すると、結晶度が低く、加熱しても実質的に再結晶しない結果となり、いずれも遅い結晶化を示している。110℃で1時間アニールすると、T=155℃における大きな溶融吸熱で明らかなように著しい結晶化をもたらす。融点はアニールによって劇的にシフトすることはなかったが、吸熱の形は変化した。補完的WAXD実験でも同じ結論が得られた。
【0028】
ポリマーブレンドの結晶化挙動も分析した。全てのサンプルとも180℃で10分間熱圧し、次いで110℃で1時間アニールしてから熱分析し、これを拡大結晶化の標準条件とした。図2にアニール後に測定したサンプルの第一のDSC加熱トレースをまとめた。結果は、PVAc自体はアモルファスであることを示しているが(物理的エイジング量多い)、PLAを配合すると、PLAのwt%に比例して結晶化がもたらされる。また、PLAの含有率の増加に伴ってピークの吸熱位置(溶融転移温度)がわずかに高温側にシフトしている。これらのサンプルをT=20℃に急冷し、もう一度200℃に再加熱すると、単一のTが観察され、結晶化を大きく抑制できることが明らかに示された。形状記憶にとって重要なことは、純成分と比べてブレンドにおける単一のガラス転移事象が広がらないこと、すなわちアモルファス相が全てのブレンドで極めて均一なことである。観察されたT値を図3にFox等式との最良適合線(best fit)とともにプロットしたが、わずかに正の偏差を示す。このことから、二つのポリマー間にポリマーブレンドの空隙率(free volume)を減少させる強い相互作用が働き、従ってFox等式の予測と比べてガラス転移温度が高くなるという結論が導かれる。
【0029】
結晶度と結晶構造に及ぼすPVAcの影響を解明するために、広角x線回折によって結晶回折パターンを観察した。結果は、PVAc相はアモルファス特有のハローパターンのみなので完全にアモルファスであることを示しているが、PLAは2θ=22.3°、25.0°及び28.6°に、d間隔5.92、5.29、及び4.64Åにそれぞれ対応する三つの非常に強い回折ピークを示す。PVAcの添加により、全てのピーク強度は低下するが、ピーク位置は本質的に不変のままである。DSC結果と一致して、結晶度はPLAの添加に比例して増加する。半値幅から、PVAc含有率の増加に伴って結晶度は低下しても結晶層板のサイズは減少しないことがわかった。このことは、結晶度の減少と溶融転移温度の低下は結晶サイズの変化によるものではなく、層板厚の薄化又は結晶濃度の減少によるものであり得ることを意味している。
【0030】
ポリマーブレンドの貯蔵弾性率もDMTAを用いて測定した。まず貯蔵弾性率に及ぼすアニールの影響を調べた。ガラス転移温度T未満では、どちらのサンプルも同様の高い貯蔵弾性率(3GPa)並びに同様の軟化点を示す。Tを超えて加熱すると、熱的に急冷したサンプルの貯蔵弾性率は約2MPaに急減する。しかしながら、更に温度を上げると、高温におけるサンプルの再結晶のために弾性率の増加が誘発される。このことは、サンプルが平衡状態になく、ゴム領域におけるその機械的性質は熱履歴に依存することも証明していた。平衡に到達させるために、DSC分析で既述したようにサンプルを110℃で1時間アニールした。Tを超える温度における貯蔵弾性率は溶融するまで約200MPaにシフトするが、この増加はアニールによる結晶度の増加によるものである。平衡状態におけるゴム弾性率を調節するために、PLAを異なる割合でPVAcにブレンドし、上記のようにアニールした。そのようなブレンドの貯蔵弾性率を測定し、結果を図4にプロットした。T未満では全てのサンプルが同様の大きな弾性率を示すが、Tを超えると弾性率は減少してプラトーに達する。減少の大きさは結晶度、すなわちPLA含有率に依存する。この傾向はDSC及びXRDのそれと一致する。そしてその傾向は、貯蔵弾性率の増加は結晶によって形成された物理的架橋及び高弾性結晶相の充填効果に由来するという事実によって説明されうる。
【0031】
応力なしの形状記憶試験は、30%のPLAを含むアニールサンプルを用いて65℃の熱水中で実施した。リアルタイムの形状回復をビデオテープに撮った。選んだ画像を図5に示す。結果は、サンプルが迅速で完全な形状記憶挙動を特徴とすることを示している。すなわち、サンプルは原形(まっすぐなバー)に10秒以内に回復した。ほとんどの回復は最初の数秒以内に達成された。
【0032】
PVDFとPVAcのブレンドについても同じ特性分析を上記のように実施した。TGA及びDSCの結果は、PVDFも300℃まで熱的に安定であり、混合物はたった一つのガラス転移を形成し、その値は二つのホモポリマーのT間に入り、組成の変化に伴って変化することを示している。同時に、融点及び結晶度はアモルファスPVAcの配合で低下した。
【0033】
材料の剛性を付与するブレンドの貯蔵弾性率も測定した。結果は、PLA/PVAcブレンドのそれと同様で、PVDF/PVAcのブレンドは臨界温度(T)未満で非常に剛く、Tで、ブレンドの結晶度に応じて数MPaから数十MPaの範囲のプラトー弾性率へのシャープな弾性率変化を特徴とする。これらのプラトー弾性率は、ブレンドの結晶度を調整、すなわちブレンドの組成を調整することによって調節できる。
【0034】
要するに、形状記憶ポリマーは、半結晶性ポリマー、例えばPLAをアモルファスポリマー、例えばPVAcとブレンディングすることによって得られた。該ポリマーは、実験の範囲内ではあらゆるブレンド比で完全に混和性であり、それぞれの配合で唯一の単一ガラス転移温度を形成する。さらに、ブレンドの結晶度はPVAc及びPVAcとPVDFの部分(fraction)の増加につれて単調に減少する。従って、ゴム弾性率を支配することが形状記憶にとって重要である。
【0035】
従って、本開示は、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリグリコリド類、ポリラクチド及びそのコポリマー類、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)及びポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルのコポリマー類からなる群から選ばれる結晶質ポリマーと、ポリ(酢酸ビニル)、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレート、アイソタクチックポリメチルメタクリレート及びシンジオタクチックポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれるアモルファスポリマーとのブレンドを含む、室温を超えるTと、ゴム弾性率及び弾性が実質的に物理的架橋に由来することを特徴とする形状記憶ポリマー材料を都合よく提供する。
【0036】
本開示はまた、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリラクチド、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)及びポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルのコポリマー類からなる群から選ばれる結晶質ポリマーと、ポリ(酢酸ビニル)、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレート、アイソタクチックポリメチルメタクリレート及びシンジオタクチックポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれるアモルファスポリマーとを、前記結晶質ポリマーの融点より10〜20℃高い温度で、良好な混合を確保するに足る時間で溶融ブレンディングし、得られたブレンドを室温に冷却し、前記ブレンドを約180℃に維持されたプレスに導入し、前記ブレンドに圧力を印加し、次にそれによって形成されたフィルムをアニール温度T<T<Tに急速に冷却し、結晶化が完了するまでその温度に保持し、その後前記フィルムを室温に冷却することを含む、室温を超えるTと、ゴム弾性率及び弾性が実質的に物理的架橋に由来することを特徴とする形状記憶ポリマー材料の製造法も都合よく提供する。
【0037】
本開示のポリマーブレンド及び加工法をその特定の例示的実施態様を参照しながら説明してきたが、本開示はそのような例示的実施態様に限定されない。それどころか、当業者には容易に分かるとおり、本開示の教えは、本開示の精神又は範囲にもとることなく、多くの実施及び/又は用途に対応可能である。実際、特定のポリマー、ポリマー比率、加工条件、及び最終用途の選択において修正及び/又は変更がこれによって考えられ、そのような修正及び/又は変更も特許請求の範囲に記載の本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】T=180℃から急冷した(上)又はT=110℃で1時間アニールした(下)PLAのDSCトレースの比較を示す図である。
【図2】T=110℃で1時間アニール後のPLA/PVAcブレンドのDSCトレースを示す図である。
【図3】PLA/PVAcブレンドの急冷後に測定したガラス転移温度を示す図である。
【図4】各種のPLA/PVAcの引張貯蔵弾性率対温度を示す図である。
【図5】T=65℃の水に暴露した場合のコイル状PLA/PVAc(30:70)ブレンドの形状回復を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリグリコリド類、ポリラクチド及びそのコポリマー類、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)及びポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルのコポリマー類からなる群から選ばれる結晶質ポリマーと、ポリ(酢酸ビニル)、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレート、アイソタクチックポリメチルメタクリレート及びシンジオタクチックポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれるアモルファスポリマーとのブレンドを含む、室温を超えるTと、ゴム弾性率及び弾性が実質的に物理的架橋に由来することを特徴とする形状記憶ポリマー材料。
【請求項2】
前記ブレンドが、アモルファスポリ(酢酸ビニル)と半結晶質ポリラクチドのものであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ポリマー材料。
【請求項3】
前記ブレンドが、アモルファスポリ酢酸ビニルと結晶質ポリ(フッ化ビニリデン)のものであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ポリマー材料。
【請求項4】
前記ブレンドが、結晶質ポリ(フッ化ビニリデン)とアモルファスポリメチルメタクリレートのものであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ポリマー材料。
【請求項5】
前記ブレンドが、結晶質ポリ(塩化ビニリデン)とアモルファスポリ酢酸ビニルのものであることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶ポリマー材料。
【請求項6】
ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリラクチド、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(エチレングリコール)、ポリエチレン、ポリエチレン−コ−酢酸ビニル、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)及びポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルのコポリマー類からなる群から選ばれる結晶質ポリマーと、ポリ(酢酸ビニル)、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、アタクチックポリメチルメタクリレート、アイソタクチックポリメチルメタクリレート及びシンジオタクチックポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれるアモルファスポリマーとを、前記結晶質ポリマーの融点より10〜20℃高い温度で、良好な混合を確保するに足る時間で溶融ブレンディングし、得られたブレンドを室温に冷却し、前記ブレンドを約180℃に維持されたプレスに導入し、前記ブレンドに圧力を印加し、次にそれによって形成されたフィルムをアニール温度T<T<Tに急速に冷却し、結晶化が完了するまでその温度に保持し、その後前記フィルムを室温に冷却することを含む、室温を超えるTと、ゴム弾性率及び弾性が実質的に物理的架橋に由来することを特徴とする形状記憶ポリマー材料の製造法。
【請求項7】
前記溶融ブレンディングが約5〜約10分間実施されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブレンドが、アモルファスポリ(酢酸ビニル)と結晶質ポリラクチドの溶融ブレンディングによって形成されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ブレンドが、アモルファスポリ(酢酸ビニル)と半結晶質ポリ(フッ化ビニリデン)の溶融ブレンディングによって形成されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の形状記憶ポリマーから製造される、調節可能な形状でありながら高剛性も要求される外科用ツール。
【請求項11】
請求項1に記載の形状記憶ポリマーから製造される、成形、複製、ラピッドプロトタイピング及び歯科用の印象材。
【請求項12】
請求項1に記載の形状記憶ポリマーから製造される温度センサ。
【請求項13】
請求項1に記載の形状記憶ポリマーから製造される感熱シール。
【請求項14】
請求項1に記載の形状記憶ポリマーから製造される、ラージストレイン、ラージフォースアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−503172(P2006−503172A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501174(P2005−501174)
【出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/032329
【国際公開番号】WO2004/033539
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(501315876)ユニバーシティ オブ コネチカット (22)
【Fターム(参考)】