説明

微多孔膜を製造するための冷却ロールアセンブリおよび微多孔膜の製造方法

ポリオレフィン混合物を押出ダイを通して押し出すことにより形成した押出物から熱を逃がすためのアセンブリ。当該冷却ロールアセンブリは、押出物に接触し押出物を受け取る位置に配置された上流ロールであって外表面粗さ≦1.0sを有する上流ロール;および、押出物に接触し上流ロールから押出物を受け取るための位置に配置された少なくとも1つの下流ロールであって外表面粗さ≧5.0sを有する下流ロール、を含む。微多孔膜を製造するための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通常、微多孔膜、例えば電池セパレータとして有用なものなど、を製造するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜、特に微多孔性高分子膜は、一次電池、および、例えばリチウムイオン二次電池、リチウム−ポリマー二次電池、ニッケル−水素二次電池、ニッケル−カドミウム二次電池、ニッケル−亜鉛二次電池、銀−亜鉛二次電池等の二次電池のセパレータとして有用である。微多孔膜を、電池セパレータとして、特に、リチウムイオン電池セパレータとして用いる場合には、例えば平坦性および厚さの均一性などの膜の特性が、電池の性質、生産性および安全性に著しく影響する。通常、バランスに優れた特性を有する微多孔膜を提供することを目的とし、ここで、「バランスに優れた」という語は、ある膜特性を最適化することによって別の膜特性が著しく低下するということにはならない、ということを意味する。
【0003】
微多孔性高分子膜は湿式処理法に従って製造することができ、ここで、少なくとも1種類のポリマー(例えば1種類以上のポリオレフィンなど)および少なくとも1種類の希釈剤(または溶媒)を混合してポリマー混合物を形成し、次いでこれを押出して押出物を形成する。次いで、この押出物を、少なくとも1つの平面方向に延伸する。延伸した後に、延伸した押出物から希釈剤の少なくとも一部を除去して膜を形成する。希釈剤除去工程の下流で、さらなる工程、例えば膜乾燥、さらなる延伸、熱処理等を用いてもよい。従来の湿式処理法を開示している参考文献の例として、
【特許文献1】米国特許第5,051,183号
【特許文献2】米国特許第6,096,213号
【特許文献3】国際公開第2008/016174号
【特許文献4】国際公開第2005/113657号が挙げられる。
【0004】
【特許文献5】米国特許第5,830,554号では、押し出しの後、かつ延伸の前にゲル状シートを冷却することが開示されている。この参考文献では50℃以上の速度で冷却することが開示されており、より遅い冷却速度では、厚さの均一性の減少が生じる、すなわちゲル状シートが粗くなる、と言われている。
【0005】
【特許文献6】米国特許第4,734,196号では、比較的均一な微多孔フィルムを、5×105よりも大きい重量平均分子量を有する超高分子量α−オレフィンポリマーから製造するための方法が開示されている。5×105よりも大きい重量平均分子量を有するアルファ−オレフィンポリマーの混合物からゲル状物を形成し、そのゲル状物が10〜90重量%のα−オレフィンポリマーを含有するようにするために、ゲル状物に含有される溶媒の少なくとも10重量%を除去し、このゲル状物を、α−オレフィンポリマーの融点より10℃高い温度よりも低い温度で延伸し、延伸した生成物から残りの溶媒を除去することにより、微多孔膜を得る。この延伸した生成物をα−オレフィンポリマーの融点の温度よりも低い温度でプレスすることにより、この延伸した生成物からフィルムを作成し、比較的均一な生成物を得る。
【0006】
【特許文献7】米国特許公開第2007/0012617号では、微多孔性の熱可塑性樹脂膜を製造するための方法が提案されており、この方法は、熱可塑性樹脂と膜形成溶媒とを融解ブレンドすることによって得た混合物を、ダイを通して押し出す工程、押出物を冷却してゲル状成形物を形成する工程、このゲル状成形物から、洗浄溶媒により膜形成溶媒を除去する工程、およびその洗浄溶媒を除去する工程を含み、当該洗浄溶媒は(a)25℃の温度で24mN/m以下の表面張力を、(b)常圧で100℃以下の沸点を、および(c)16℃の温度で水において(質量基準で)600ppm以下の融解度を有し、また、洗浄した成形物中に残っている当該洗浄溶媒は温水を用いることによって除去する。この融解したポリマーを、第一マニホールドの末端の第一注入口および第一注入口の反対側にある第二マニホールドの末端の第二注入口に供給する。ダイの内部で細い2つの流れが一緒に流れる。マニホールドの内部に融解物のフロー分岐がないことにより、ダイ内での均一なフロー分布(flow distribution)を達成することが可能であり得るとのことが理論上想定されている。これによりフィルムまたはシートの横方向への厚さの均一性の改善がもたらされると言われている。
【0007】
これまで比較的均一な厚さを有する微多孔膜を製造するための改良がなされてきたが、さらなる改良が望まれている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的の一つは、押出物から熱を逃がすためのアセンブリに関する。例えば、そのような押出物から熱を逃がすためのアセンブリの1つとして、a)押出物を受け取る位置に配置された少なくとも1つの上流ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される≦1.0sの外表面粗さを有する上流ロール;および、b)少なくとも1つの下流ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される≧5.0sの外表面粗さを有する下流ロール、を含み、押出物を下流ロールが上流ロールから受け取るよう、上流ロールおよび下流ロールが整列されている、アセンブリがある。
【0009】
これらのロールは押出物から熱を逃がすよう作用するため、特に、これらのロールが冷却手段(cooling means)を含む場合には、「冷却ロール」と称されることがある。
【0010】
他方、微多孔膜を製造するための方法を提供する。本発明の一態様では、当該方法は、希釈剤および1種類以上のポリマーを混合してポリマー溶液を形成する工程を含む。この混合したポリマーおよび希釈剤を押出ダイを通して押し出して押出物を形成する。複数のロールに通してこの押出物から熱を逃がすことによって押出物を冷却し、冷却押出物を形成する。この複数のロールには、押出物を受け取る位置に配置された上流ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される≦1.0sの外表面粗さを有する上流ロール、および、上流ロールから押出物を受け取る位置に配置された下流ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される≧5.0sの外表面粗さを有する下流ロールが含まれる。冷却後、この冷却押出物を、約Tcd〜約Tm+10℃の温度で、少なくとも1方向に約2〜約400倍に延伸し、冷却押出物から希釈剤の少なくとも一部を除去して膜を形成する。
【0011】
本開示方法およびシステムの様々な利点、特徴および特性ならびにそれらの有利な適用および/または使用は、以下に続く詳細な説明から、特に本明細書に添付した図面と併せて読めば、明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下に続く説明において、図面を参照して本開示をさらに説明する。この図面は、実施例を限定せずに種々の形態を説明するものであり、以下の通りである:
【0013】
【図1】本明細書に添付した通り、熱可塑性材料の延伸フィルムまたはシートを製造するためのシステムの一形態の概略図であり、
【0014】
【図1b】本明細書に添付した通り、押出ダイを通してポリオレフィン混合物が押し出されることによって形成される押出物から熱を逃がすためのアセンブリの一形態の概略図であり、
【0015】
【図2】本明細書に添付した通り、押出物から熱を逃がすためのアセンブリの側面図であり;および
【0016】
【図3】図2の、押出物から熱を逃がすためのアセンブリの端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「湿式処理法」によって微多孔性ポリオレフィン膜を製造すると、冷却動作に、特に冷却ロール装置の設計に関連して、問題が生じるということが観察されている。冷却ロールの表面仕上げ次第では、冷却効率の低下または空気の閉じ込めが生じ得る。また、溶媒の一部が押出物の表面に滲み出ることがあり、これにより、冷却ロール表面を覆う当該シートのずれまたは動きが生じる。スリップまたは動きが生じる場合には、シート操作性が不安定となり、冷却効率が悪化し、例えば歪み、しわ、および反りなどのシートの不均一性が生じるが、これらのことは、微多孔フィルムの性質に悪影響を与える。下流ロールよりも滑らかな表面を有する少なくとも1つの上流ロールを含む複数の冷却ロールを用いることによりこれらの問題を克服することができる、ということが観察されている。
【0018】
以下、説明する目的で選択された特定の形態を参照し、様々な局面を説明する。本明細書において開示される方法およびアセンブリの精神および範囲は当該選択された形態に限定されない、と理解されるものとする。さらに、本明細書において提示される図が、いかなる特定の比率または大きさにも描かれたものではないとのこと、および、説明される形態に対する多くの変形が可能であるとのことに注意するべきである。
【0019】
量、濃度、または他の値もしくはパラメータが上限値および下限値のリストとして与えられている場合には、これは、複数の範囲が別々に開示されているかどうかに関わらず、ある上限値およびある下限値の任意の対から形成されるすべての範囲を具体的に開示しているものとして理解されるべきものである。
【0020】
以下、図1〜3を参照するが、終始一貫して、同様の数字は同様の部分を指定するために使用されるものとする。
【0021】
ここで図1を参照すると、熱可塑性材料の微多孔フィルムまたはシートを製造するためのシステム10が示されている。システム10は押出機12を含み、押出機12は、ライン14によって供給される1種類以上のポリマー材料または処理添加剤等を受け取るための供給ホッパー15を有する。押出機12は、例えばパラフィン油などの不揮発性の希釈剤(溶媒であってもよい)も、溶媒供給ライン16を介して受け取る。ポリマー溶液は、ポリマーおよび希釈剤を混合することにより、所望に応じて混合および加熱しながら、押出機12内で調製する。
【0022】
次いで、ポリマーおよび溶媒または希釈剤の加熱混合物を、押出機12のダイ20から押し出してシート18にする。この押し出されたシート18を、複数の冷却ロールを有する冷却ロールアセンブリ100により、押し出されたシート18がゲル化するよう押出物のゲル化温度よりも低い温度まで冷却する。冷却押出物18’を、所望により第一延伸装置24に通過させるが、この第一延伸装置24は、示されているようなロール型延伸機であってもよい。冷却押出物18’を、加熱しながら、ロール型延伸機24を使用することにより、または、所望により、テンター型延伸機(不掲載)を使用することにより、機械方向(MD)に延伸する。次いでこの冷却押出物18’を、少なくとも横方向(TD)に延伸するために、所望により第二延伸装置26に通過させて延伸フィルムまたはシート18’’を得てもよい。第二延伸装置26は、テンター型延伸機であってもよく、また、MDにさらに引き伸ばすために利用してもよい。第一延伸装置および第二延伸装置は、所望する場合には、図に示されているように、併せて用いることができる。
【0023】
次に、延伸フィルムまたはシート18’’を溶媒抽出装置28に通過させる。溶媒抽出装置28では、例えば塩化メチレンなどの容易に揮発する溶媒がライン30を介して供給される。抽出される不揮発性溶媒を含有する揮発性溶媒を、溶媒流出ライン32から回収する。次に、この延伸フィルムまたはシート18’’を乾燥装置34に通過させる。乾燥装置34では、揮発性溶媒36が延伸フィルムまたはシート18’’から蒸発する。
【0024】
次に、所望により、この延伸フィルムまたはシート18’’を乾式延伸装置38に通過させる。乾式延伸装置38では、乾燥させた膜を、少なくとも1方向に、約1.1〜約2.5倍の倍率に延伸して、延伸膜を形成する。次に、この延伸フィルムまたはシート18’’を加熱処理装置44に通過させる。加熱処理装置44では、空孔率を調整するためおよび延伸フィルムまたはシート18’’中に残っている応力を除去するために、延伸フィルムまたはシート18’’をアニールし、その後、延伸フィルムまたはシート18’’を巻き上げて製品ロール48を形成する。
【0025】
図1b、2および3は、混合したポリマーおよび希釈剤を、押出ダイ20を通して押し出すことによって形成した押出物18から熱を逃がすための冷却ロールアセンブリ100の具体的な形態を示したものである。冷却ロールアセンブリ100は、少なくとも1つの支持枠102、および、前記少なくとも1つの支持枠102上に搭載された第一(または「上流」)冷却ロール104を含み、押出物に接触し押出物を受け取る位置に配置される。このアセンブリは、前記少なくとも1つの支持枠102上に搭載された第二(または下流)冷却ロール112も含み、押出物18に接触し第一冷却ロール104から押出物18を受け取るための位置に配置される。第一冷却ロール104は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される=1.0sの外表面粗さを有する外表面106を有する。特定の実施形態では、第一冷却ロール104は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの範囲の外表面粗さを有し、より具体的には、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有する。下流冷却ロール112は外表面114を有し、外表面114は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される=5.0sの外表面粗さを有する。特定の実施形態では、冷却ロール112は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される7.0〜15.0s、より具体的には、8.5s〜12sの範囲の外表面粗さを有する。その他の冷却ロールは所望により選択されるものであるが、図中に図示したように含めることができる。
【0026】
例えば、冷却ロールアセンブリ100は、第一冷却ロール104の下流に、前記少なくとも1つの支持枠102上に搭載され、かつ押出物18に接触し第一冷却ロール104から押出物18を受け取るための位置に配置された、第三冷却ロール108を含むこともできる。冷却ロール108は外表面110を有し、外表面110は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される≦1.0sの外表面粗さを有する。特定の実施形態では、第一冷却ロール104は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの範囲の外表面粗さを有し、より具体的には、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有する。
【0027】
さらに図2および3を参照すると、冷却ロールアセンブリ100は、支持枠102上に搭載された駆動手段(drive means)をさらに含み、上流冷却ロール104、第三冷却ロール108および下流冷却ロール112のうちの少なくとも1つと連動する。この駆動手段は、上流冷却ロール104、第三冷却ロール108および下流冷却ロール112のうちの少なくとも1つを回転させることにより、冷却ロールアセンブリ100を介して、第一冷却ロール104、第三冷却ロール108および第二冷却ロール112と接触した状態で押出物18を動かす。示されているように、駆動手段は、当業者がすぐ理解するであろう通り、鎖および鎖止め装置を介して複数の歯車118を駆動する複数のモーター116を含んでもよい。一形態では、下流ロールのみを駆動して回転させる。別の形態では、複数のロールを駆動する。この複数のロールは、例えば適切な連鎖を用いた単一の駆動装置によって駆動することができ、あるいは第二、第三、第四等の駆動装置を用いることができる。2つ以上のロールが別々の駆動装置を有する場合には、それら駆動装置は、通常は同期して、押出物が裂けるリスクを減少させる。
【0028】
押出物18の温度の制御を(例えば押出物を冷却することにより)援助するために、冷却ロールアセンブリ100には、押出物18を冷却するための、上流冷却ロール104、第三冷却ロール108および下流冷却ロール112と連動する冷却手段をさらに含めることができる。示されているように、この冷却手段は、1つ以上の冷却回路(不掲載)を介して冷却剤を循環させるための複数のポンプ120を含んでもよく、その冷却回路は、上流冷却ロール104、第三冷却ロール108および下流冷却ロール112と流体連通し、そのそれぞれが、冷却剤を循環させるための内部流路を有し、押出物18から熱を逃がす。一形態では、上流ロールおよび下流ロールは連動した冷却手段を有する。別の形態では、(i)上流ロール、(ii)下流ロール、または(iii)第三ロールのうちの少なくとも2つが冷却手段を含むことができる。さらに別の形態では、上流ロール、下流ロール、および第三ロールは、それぞれ、冷却手段を含む。
【0029】
理解されるであろう通り、動作中、押出物18は、上流冷却ロール104、第三冷却ロール108および下流冷却ロールおよび112の周囲の円弧状経路、ならびに上流冷却ロール104と、第三冷却ロール108と、下流冷却ロール112との間の直線状経路を移動する。これらの経路は図2中に見ることができ、そこでは押出物18は破線で示されている。従来通り、上流冷却ロール104および第三冷却ロール108は、互いに密接に近接した位置に配置され、それらの間にニップが規定される。通常、ニップロールを使用して摩擦を減少させて冷却ロール表面を覆う当該シートのずれを防止することができる。この形態では、少なくとも2つの冷却ロールの間(例えば、上流ロールと第三冷却ロールとの間)に間隙を定めるが、この間隙はシートの厚さと同じかそれ以下である。この形態では、第三ロールをニップロールと称することができる。下流ロールは、比較的粗い表面を有するため、当該冷却ロールシステムを介してのシートの運搬が可能な比較的大きな摩擦力を生じる。したがって、1つ以上のニップロールを使用することが、所望により選択される。一形態では、上流冷却ロール104と第三冷却ロール108との間の間隙は、シート厚よりも大きく、例えば、シート厚の1.05倍以上、またはシート厚の2〜200倍の範囲内、またはシート厚の4〜100倍の範囲内である。
【0030】
さらに図2および3を参照すると、一形態では、冷却ロールアセンブリ100は、前記少なくとも1つの支持枠102上に搭載され、かつ押出物18に接触し下流冷却ロール112から押出物18を受け取るための位置に配置された、第四冷却ロール122を所望により含んでもよい。第四冷却ロール122は外表面124を有し、外表面124は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される≧5.0sの外表面粗さを有する。必要ではないが、第四ロールには冷却手段を含めることができ、また、第四ロールを駆動手段によって駆動して回転させることができる。
【0031】
別の形態では、冷却ロールアセンブリ100は、前記少なくとも1つの支持枠102上に搭載され、かつ押出物18に接触し第四冷却ロール122から押出物18を受け取るための位置に配置された、第五冷却ロール126を所望により含んでもよい。第五冷却ロール126は外表面128を有し、外表面128は、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される≧5.0sの外表面粗さを有する。必須ではないが、第五ロールには冷却手段を含めることができ、また、第五ロールを駆動手段によって駆動して回転させることができる。一形態では、上流冷却ロール104および第三冷却ロール108は、それぞれ、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される約0.6sの外表面粗さで提供される。別の形態では、下流冷却ロール112、第四冷却ロール122および第五冷却ロール126は、それぞれ、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される約10sの外表面粗さで提供される。一形態では、下流冷却ロール、第四冷却ロール、および第五冷却ロールの外表面粗さは徐々に大きくなる。例えば、下流冷却ロール112は表面粗さ≧5sを有することができ、第四冷却ロール122は表面粗さ≧6sを有することができ、また、第五冷却ロール126は表面粗さ≧7sを有することができる。
【0032】
規格JIS B 0601の内容は本明細書によってその全体が組み入れられるが、規格JIS B 0601は、表面粗さの判定のための標準を提供する。特に、本明細書において使用する最大高さまたは山(Rmax)は、粗さチャート上の平均線から抜き取った基準長さの部分を取ることによって決定されるものである。採取した線の山と谷との距離はy方向に測定される。値はマイクロメートル(μm)で表される。
【0033】
上記で示したように、また、図2および3に示すように、直列に配置された複数の冷却ロールを用いる。より従来型の一段階動作に比べると、この多段階動作には、(上流ロール、下流ロール、および第三ロールを使用する場合には)押出物を冷却ロールの表面全体に密着した状態に保持すると同時に押出物の両面を均一に冷却できるという利点がある。これは、より低い張力を用いることができ、それによって押出物の歪みおよび反りを減少させ得るという事実にも関わらず、結果的に押出物および完成した膜の厚さの均一性が改善する。
【0034】
通常、製造するフィルムに応じて、異なるレベルの冷却ロール表面粗さを用いる。例えば、ポリプロピレン系を押出し冷却する場合では、通常、鏡面仕上げ冷却ロールよりもむしろ、2s〜8sの表面粗さを有する梨地仕上げ冷却ロールを用いる。希釈剤を用いずにポリマー押出物から二軸延伸フィルムを製造する場合には、鏡面仕上げ冷却ロール(0.1s〜0.5s)が広く用いられる。
【0035】
シートとロールとの付着性故に、微多孔性ポリマーフィルムを製造する湿式法で用いられる冷却ロールには、より低い表面粗さが冷却には好ましい。つまり、梨地仕上げよりも鏡面仕上げが好ましいということである。鏡面仕上げでは、シートの表面全体が、かかるロールと均一に接触し、TD方向に沿った均一な冷却が達成される。梨地仕上げでは、かかるロールの表面との接触面積は大きいが、シートがロール表面にしっかりと密着することができないため、冷却効率が低下する。生じるもう1つの問題は、融解した樹脂とロール表面との間の接触領域に生じ得る空気の閉じ込めに起因するものである。
【0036】
反対に、動作安定性の観点からは、中程度に、より高い表面粗さが好ましい。微多孔性ポリオレフィンフィルムを製造する湿式法では、溶媒の一部が押出物の表面に滲み出す場合がある。この溶媒の滲み出しは、シートと冷却ロール表面との間に蓄積して、同ロール表面を覆う当該シートのスリップまたは他の望ましくない動きを引き起こし得る。スリップまたは動きが生じれば、冷却効率が悪化し、シートの歪みおよび反りが生じ、それにより、微多孔フィルムの性質に悪影響を与える。言い換えれば、ロール表面が、シートを保持するのに十分な摩擦を生じることができず、それにより、押出物の曲折が生じる。さらに、梨地仕上げは適切なザラザラをロール表面上に提供することができるため、かかるロール表面とシートとの間に挟まれる過剰なフィルム形成溶媒はより容易に除去される。加えて、梨地仕上げの粗さは、押出物の表面とロール表面との間に、空気の閉じ込めが生じるのを防止するのに役立ち得る、空気の逃げ道を提供する。
【0037】
しかしながら、鏡面仕上げをシートの表面全体に適用すれば、つかみが弱くなり、押出物のずれおよび曲折が生じる。梨地仕上げロールは、ずれが生じるのを防止するが、梨地仕上げを上流ロールまたは複数のロールによって押出し物を搬送する場合のロールに用いた場合には、ロール表面の模様がシートに移り、その結果、結果として生じるフィルムまたはシートには、平らでない表面仕上げがなされ、フィルム厚の均一性が減少する。
【0038】
本明細書で開示される冷却ロールアセンブリは、初期冷却段階用の鏡面仕上げ表面を有する少なくとも1つのロール、および、後期段階用の梨地仕上げ表面を有する少なくとも1つのロールを提供することにより、これらの問題を克服する。具体的に言うと、押出物の表面の滑らかさを確保するために、実質的に鏡面仕上げがなされた上流冷却ロールを用いて、冷却固化処理の相当な部分ではあるが全てではない冷却固化処理を行う。通常、押出ダイの下流端における(通常、ダイの口における、またはダイの口の近くでの)押出物の温度「T」から、押出物がそのゲル化温度(すなわち、押出物シートがゲル化し始める温度)「T」以下に達するまで、押出物を冷却することが望ましい。一形態では、上流ロール通過後の押出物の平均温度Tは、Tであるか、またはそれより低いことが好ましい。
【0039】
冷却ロールアセンブリは、少なくとも2つのロール、例えば、上流ロールと下流ロールとを有する。押出物を、上流ロール上の温度Tおよび下流ロール上の温度Tで冷却する。この温度降下(T−T)は、パラメータΔTd−fで表すことができる。一形態では、上流ロール上の押出物の平均温度Tは、押出ダイの下流端における押出物の平均温度からKΔTd−fを引いたものの範囲内であり、ここで、Kは、50%〜95%、または50%〜85%、または55%〜75%の範囲の乗法定数であり、上流ロール上の押出物の平均温度はTであるか、またはそれより低い。一形態では、冷却アセンブリの中を通して押出物を移動させるために、回転手段によって下流ロールを駆動して回転させるが、上流ロールを駆動して回転させることは、所望により選択されるものである。別の形態では、上流ロールおよび下流ロールの両方を駆動して回転させる。いかなる理論またはモデルにも拘束されるものではないが、押出物から相当な量の熱を逃がすための比較的滑らかな表面を有する上流ロールを用いることにより、適度に滑らかな押出物表面が生じる、と考えられる。さらに、押出物から相対的により少ない量の熱(通常、逃がす熱の50%未満)を逃がすための比較的粗い表面を有する下流ロールを用いることにより、空気の閉じ込めおよび溶媒の滲み出しの量が減少し、適切な摩擦が生じて押出物を移動させ、それにより、押出物の厚さの均一性が大きくなり、それによって、膜の厚さの均一性がより大きくなる。
【0040】
別の形態では、冷却ロールアセンブリは、上流ロール、下流ロールおよび中間第三ロールを含む。すなわち、第三ロールは、上流ロールと下流ロールとの間に位置する。下流ロール(および、所望により選択される第四ロールおよび第五ロール)による押出物の冷却は所望により選択されるものである、という点でこの実施形態は先の実施形態とは異なる。言い換えれば、押出物の冷却をすべて、上流ローラーおよび第三ローラーによって行うことができるということである。この場合には、第三ロールから移動する押出物の平均温度はT以下である。これは、図2に示されているように、比較的滑らかなロールにより押出物の両面を冷却することができ、その結果、先の実施形態よりも厚さの均一性がさらに増加するため、有益である。さらに、固化(押出物のゲル化)は、押出物が下流ロールに接触する前に、実質的に完了するため、空気および過剰な溶媒または希釈剤の蓄積は減少し、それにより、押出物のずれおよび曲折を防止するための、押出物シートの速度とロールの速度との間の同期の改善が可能となる。しかしながら、先の実施形態と同様に、下流ロールの上流にあるロールを駆動すること(駆動して回転させること)は、所望により選択されるものである。同様に、(使用する場合には)第四ロールおよび第五ロールを駆動して回転させることも、所望により選択されるものである。
【0041】
再び図2および3を参照すると、冷却ロール104および108は鏡面仕上げがなされ、およそ0.6sの表面粗さとなり、その一方で、冷却ロール112、122および126は梨地仕上げがなされ、およそ8s〜10sの表面粗さとなる。都合のよいことに、ガイドロールの規格に相当する0.6sの表面粗さレベルを達成するのに、特別な研摩は全く必要でない。10sの梨地仕上げは、十分な油の逃げ道を提供すると同時に、優れた表面性質を有するシートも提供する。
【0042】
本明細書において開示されるフィルムおよびシートは、例えばリチウムイオン一次電池およびリチウムイオン二次電池においてなどの、電池セパレータの臨界領域において特に有用である。このような電池は、例えば電気自動車およびハイブリッド電気自動車用などの電源として有用である。本明細書において開示されるフィルムおよびシートは、改善された表面の滑らかさおよび厚さの均一性を含む、重要な性質の、良好なバランスを提供する。
【0043】
上述した冷却ロールアセンブリの焦点は単層のフィルムおよびシートの製造に関するものに合わせられていたが、当業者がすぐ理解し得る通り、多層の、共押出フィルムおよびシートまたは積層フィルムおよびシートを提供することは本開示の範囲内のものである。
【0044】
以下、上述のフィルムおよびシートの製造において有用である代表的な出発物質を説明する。当業者が理解するであろう通り、出発物質の選択は決定的なことではない。一形態では、出発物質はポリエチレンを含有する。別の形態では、出発物質は、約5×10未満のMw値を有する第一ポリエチレン(「PE−1」)または少なくとも約1×10のMw値を有する第二ポリエチレン(「UHMWPE−1」)を含有する。一形態では、出発物質は、第一ポリプロピレン(「PP−1」)を含有することができる。一形態では、出発物質は、(i)ポリエチレン(PE)、(ii)超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、(iii)PE−1およびPP−1、または(iv)PE−1、UHMWPE−1、およびPP−1、のうちの1つを含む。
【0045】
上記(ii)および(iv)の一形態では、UHMWPE−1は、下記で定義するハイブリッド構造を有するフィルムまたはシートを得るために、約1×10〜約15×10または約1×10〜約5×10または約1×10〜約3×10の範囲のMwを有し、かつ、PE−1とUHMWPE−1との総量を基準に、約0重量%〜約40重量%、または約1重量%〜約30重量%、または約1重量%〜20重量%含有してもよく、また、ホモポリマーまたはコポリマーのうちの少なくとも1つであってもよい。上記(iii)および(iv)の一形態では、PP−1は、ホモポリマーまたはコポリマーのうちの少なくとも1つであってよく、または、微多孔フィルムまたはシート材料の総量を基準に、約50重量%以下含有してもよい。一形態では、微多孔フィルムまたはシート材料中のポリオレフィンのMwは、下記で定義するハイブリッド構造を有する微多孔フィルムまたはシートを得るために、約1.5×10以下であってもよく、または、約1.0×10〜約2.0×10または約2.0×10〜約1.5×10の範囲であってもよい。一形態では、PE−1は、約1×10〜約5×10、または約2×10〜約4×10の範囲のMwを有してもよく、また、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐鎖低密度ポリエチレン、または直鎖低密度ポリエチレンのうちの1つ以上であってもよく、また、ホモポリマーまたはコポリマーのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0046】
一形態では、ポリプロピレンは、例えば、(i)プロピレンホモポリマーまたは(ii)プロピレンと第五オレフィンとのコポリマー、のうちの1つ以上であってもよい。コポリマーは、ランダムポリマーまたはブロックコポリマーであってもよい。第五オレフィンは、例えば、例えばエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1,4−メチルペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、およびスチレン、等のα−オレフィン;ならびに、例えばブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、等のジオレフィン、のうちの1つ以上であってもよい。コポリマー中の第五オレフィンの量は、例えば耐熱性、耐圧縮性、耐熱収縮性、等の、微多孔膜の性質に悪い影響を与えない範囲内であってもよい。例えば、第五オレフィンの量は、コポリマー全体の100mol%を基準に、10mol%未満であってもよい。所望により、ポリプロピレンは、次の性質のうちの1つ以上を有する:(i)ポリプロピレンは、約1×10〜約4×10、または約3×10〜約3×10、または約6×10〜約1.5×10の範囲のMwを有し、(ii)ポリプロピレンは、約1.01〜約100、または約1.1〜約50、または約3〜約30の範囲のMw/Mnを有し、;(iii)ポリプロピレンの立体規則性はアイソタクチックであってもよく、(iv)ポリプロピレンは、少なくとも約90J/gまたは約100J/g〜120J/gの融解熱を有してもよく;(v)ポリプロピレンは、少なくとも約160℃の融解ピーク(第二融解)を有してもよく、(vi)ポリプロピレンは、約230℃の温度および25秒−1の歪み速度で測定した場合に、少なくとも約15のトルートン比を有してもよく、ならびに/または、(vii)ポリプロピレンは、230℃の温度および25秒−1の歪み速度で、少なくとも約50,000Pa秒の伸長粘度を有してもよい。所望により、ポリプロピレンは、約1.01〜約100または約1.1〜約50の範囲のMw/Mnを有する。
【0047】
一形態では、微多孔フィルムまたはシートはハイブリッド構造を有する。ハイブリッド構造とは、細孔径分布曲線において、0.01μm〜0.08μmの範囲にメインピークを有する比較的密度の高いドメイン、および0.08μm以上〜1.5μm以下の範囲に少なくとも1つのサブピークを示す比較的目の粗いドメインを示す細孔径分布を特徴とするものである。(サブピークから算出した)目の粗いドメインの細孔容積に対する、(メインピークから算出した)密度の高いドメインの細孔容積の割合は重要ではなく、例えば約0.5〜約49の範囲であってよい。
【0048】
微多孔フィルムまたはシート材料は、第七ポリオレフィンとして識別される1種類以上のさらなるポリオレフィンを所望により含有してもよく、それは、例えば、ポリブテン−1、ポリペンテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリヘキセン−1、ポリオクテン−1、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレンおよびエチレン・α−オレフィンコポリマー(エチレン−プロピレンコポリマーを除く)のうちの1つ以上であってもよく、約1×10〜約4×10の範囲のMwを有してもよい。第七ポリオレフィンに加えて、または第七ポリオレフィンの他に、微多孔フィルムまたはシート材料は、ポリエチレンワックス、例えば約1×10〜約1×10の範囲のMwを有するものなど、をさらに含んでもよい。
【0049】
一形態では、単層微多孔膜を製造するための方法を提供する。この方法は、ポリマー(例えばポリオレフィン)と希釈剤とを混合してポリマー溶液を形成する工程を含む。ポリマーは、結晶分散温度(Tcd)を有する少なくとも第一ポリエチレンを含みかつ所望によりポリプロピレンを含むポリオレフィン組成物であってよい。押出ダイを通してポリオレフィン溶液を押し出して押出物を形成することができる。これらの工程は、例えば、米国特許第5,051,183号および米国特許第6,096,213号に記載のように、従来の条件下で、従来の出発物質を用いて行なうことができる。この、米国特許第5,051,183号および米国特許第6,096,213号は、本明細書において参照によりその全体が組み入れられる。押し出しの後、i)押出物に接触し押出物を受け取る位置に配置された上流冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≦1.0sを有する上流冷却ロール;ii)押出物に接触し上流冷却ロールから押出物を受け取るための位置に配置された、所望により選択される第三冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≦1.0sを有する第三冷却ロール、および、iii)押出物に接触し、前の冷却ロールから押出物を受け取るための位置に配置された下流冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≧5.0sを有する下流冷却ロール、を含む複数の冷却ロールに通して押出物から熱を逃がすことによって押出物を冷却して冷却押出物を形成し、この冷却押出物を、少なくとも1方向に約2〜約400倍に、約Tcd〜T+10℃の温度で延伸し、および、溶媒または希釈剤の少なくとも一部をこの冷却押出物から除去して膜を形成する。
【0050】
本明細書に記載の方法の具体的な形態では、上流冷却ロールは、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの範囲の外表面粗さを有し、より具体的には、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有する。
【0051】
本明細書に記載の方法の他の形態では、上流冷却ロールは、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの範囲、より具体的には、0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有し、;また、所望により選択される第三冷却ロールは、押出物に接触し上流冷却ロールから押出物を受け取るための位置に配置される。第三冷却ロールは、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの外表面粗さを有し、より具体的には、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有する。
【0052】
本明細書に記載の方法のさらに別の形態では、上流冷却ロールは、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.2〜0.8sの範囲の外表面粗さを有し、より具体的には、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される0.5〜0.7sの範囲の外表面粗さを有し、;また、下流冷却ロールは、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される7〜15sの範囲、より具体的には8.5〜12sの範囲の表面粗さを有する。
【0053】
一形態では、微多孔膜は二層膜である。別の形態では、微多孔膜は、少なくとも三つの層を有する。このような膜および製造方法は、例えば、PCT特許出願国際公開第2008/016174号に記述されており、このPCT特許出願国際公開第2008/016174号は、参照により、その全体が組み入れられる。同じ技術を単層膜または四つ以上の層を有する膜の製造に適用することができることを当業者は理解するであろうが、簡潔にするために、微多孔膜の製造について、主に、二層膜および三層膜という観点から説明する。
【0054】
一形態では、三層微多孔膜は、微多孔性高分子膜の外層を構成する第一および第三微多孔層、ならびに、第一層と第三層との間にある(かつ、所望により第一層および第三層と平面接触した)第二層を含む。別の形態では、第一層および第三層は第一ポリマー混合物から作成され、第二(または内)層は第二ポリマー混合物から作成される。別の形態では、第一層および第三層は第二ポリマー混合物から作成され、第二層は第一ポリマー混合物から作成される。
【0055】
多層膜を製造するための第一の方法は、(1)第一ポリオレフィン組成物と希釈剤とを(例えば、融解ブレンドすることによって)混合して第一ポリオレフィン混合物を調製する工程、(2)第二ポリオレフィン組成物と第二希釈剤とを混合して第二ポリオレフィン混合物を調製する工程、(3)少なくとも1つのダイに通して第一および第二ポリオレフィン混合物を押し出して押出物を形成する工程、(4)i)押出物に接触し押出物を受け取る位置に配置された上流冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≦1.0sを有する第一冷却ロール、ii)押出物に接触し第一冷却ロールから押出物を受け取るための位置に配置された第三冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≦1.0sを有する第三冷却ロール、および、iii)押出物に接触し第二の冷却ロールから押出物を受け取るための位置に配置された下流冷却ロールであってJIS B 0601(Rmax)に従って測定される外表面粗さ≧5.0sを有する下流冷却ロール、を含む複数の冷却ロールに通して押出物から熱を逃がして冷却押出物、例えば多層ゲル状シートなど、を形成する工程、(5)希釈剤の少なくとも一部を多層シートから除去して微多孔膜を形成する工程、ならびに、所望により多層微多孔膜から任意の揮発性種の少なくとも一部を除去する工程、を含む。所望する場合には、所望により選択される延伸工程(7)、および、所望により選択される熱溶媒処理工程(8)、等を、工程(4)と(5)との間に行うこともできる。所望する場合には、工程(6)の後に、所望により選択される、多層微多孔膜の延伸工程(9)、所望により選択される加熱処理工程(10)、所望により選択される、電離放射線による架橋結合工程(11)、および、所望により選択される親水処理工程(12)、等、を行うこともできる。所望により選択される工程の順序は決定的な要因ではない。
【0056】
本方法の第一工程では、上述した、通常はポリオレフィン樹脂の形のポリオレフィン(例えば、他の非ポリオレフィン種または非ポリマー種を所望により含有する、2種類以上のポリオレフィン種の組成物)を、例えば適切な処理溶媒または希釈剤と乾式混合または融解ブレンドすることによって混合し、第一ポリオレフィン混合物を作成する。所望により、第一ポリオレフィン混合物(混合物、スラリー等として記載されることがある)は、種々の添加剤、例えば、1種類以上の抗酸化剤、ケイ酸塩微粉末(細孔形成材料)等、を含有してもよいが、但し、これらは、多層微多孔膜の所望の性質を著しく低下させない濃度範囲で使用するものとする。
【0057】
第一希釈剤は、「膜形成溶媒」または「処理溶媒」であってもよく、通常、室温で液体であるが、これは必要なことではない。従来の希釈剤、例えば国際公開第2008/016174号に記載されている希釈剤など、を用いることができる。別の形態では、第一ポリオレフィン組成物を作成するために使用する樹脂等を、例えば二軸スクリュー押出機またはミキサー中で、それらを希釈剤と混合する前に、乾式混合または融解ブレンドする。従来の混合、融解ブレンド、乾式混合等の条件、例えば国際公開第2008/016174号に記載されている条件など、を用いることができる。一形態では、第一希釈剤は流動パラフィンである。
【0058】
第一ポリオレフィン混合物中の第一ポリオレフィン組成物の量は重要ではない。一形態では、第一ポリオレフィン混合物中の第一ポリオレフィン組成物の量は、ポリオレフィン混合物の重量を基準に、約1重量%〜約75重量%、例えば約20重量%〜約70重量%の範囲であってよい。第一ポリオレフィン混合物中の第一ポリエチレン樹脂の量は重要ではなく、第一ポリオレフィン混合物100質量%当たり、例えば、1〜50質量%、または20〜40質量%であってよい。
【0059】
第一ポリオレフィン混合物を調製するために用いる同じ方法によって第二ポリオレフィン混合物を調製することができる。第二希釈剤は、第一希釈剤と同じ希釈剤の中から選択することができる。また、第二希釈剤は当該希釈剤とは独立して選択することができる(かつ、通常は独立して選択される)が、第二希釈剤は、第一希釈剤と同じであってもよく、また、第一希釈剤を第一ポリオレフィン混合物において使用するのと同じ相対濃度で使用してもよい。
【0060】
第二ポリオレフィン組成物は、通常、第一ポリオレフィン組成物とは独立して選択される。第二ポリオレフィン組成物は、第二ポリエチレン樹脂および第二ポリプロピレン樹脂を含む。
【0061】
別の形態では、第二ポリオレフィン混合物を調製する方法は、第一ポリオレフィン混合物を調製する方法とは、混合温度が、第二ポリプロピレンの融点(Tm2)〜Tm2+90℃の範囲であってもよいという点、および、第二ポリオレフィン溶液中のポリオレフィン組成物の量が、第二ポリオレフィン溶液の質量を基準に、1〜50質量%、または20〜40質量%の範囲であるという点においてのみ異なる。
【0062】
別の形態では、第一ポリオレフィン混合物は第一押出機から第一ダイへと導かれ、第二ポリオレフィン混合物は第二押出機から第二ダイへと導かれる。シート型(すなわち、厚さ方向よりも平面方向の方が著しくより大きくなっている物体)の層状押出物を、第一および第二ダイから押し出すことができる。所望により、第一ポリオレフィン混合物から形成された第一押出物層の平らな表面を第二ポリオレフィン混合物から形成された第二押出物層の平らな表面と接触させた状態で、第一および第二ポリオレフィン混合物を第一および第二ダイから共押出する。押出物の平らな表面は、押出物の機械方向における第一のベクトル、および、押出物の横方向における第二のベクトルによって定義することができる。
【0063】
別の形態では、例えば第一ポリオレフィン混合物を含有するダイアセンブリ中の領域と第二ポリオレフィン混合物を含有するダイアセンブリ中の第二の領域との間に第一ダイおよび第二ダイが共通の隔壁を共有する場合などのように、第一および第二ダイを含む、ダイアセンブリを用いる。
【0064】
別の形態では、複数のダイを用い、第一または第二ポリオレフィン混合物のどちらかをダイへと導くための押出機にそれぞれのダイを連結する。例えば、一形態では、第一ポリオレフィン混合物を含有する第一押出機は第一ダイおよび第三ダイに連結され、また、第二ポリオレフィン混合物を含有する第二押出機は第二ダイに連結される。前述の形態における場合と同様に、その結果として生じた層状押出物を、第一、第二、および第三ダイから(例えば、同時に)共押出して、第一ポリオレフィン混合物から作成された表面層(例えば、最上層および最下層)を構成する第一層および第三層、ならびに、両表面層の間にあり、かつ、両表面層と平面接触した押出物の中層または中間層を構成する第二層、を含み、この第二層が第二ポリオレフィン混合物から作成されたものである、三層押出物を形成することができる。
【0065】
さらに別の形態では、同じダイアセンブリを用いるが、ポリオレフィン混合物を逆にする。すなわち、第二ポリオレフィン混合物を含有する第二押出機を第一ダイおよび第三ダイに連結し、第一ポリオレフィン混合物を含有する第一押出機を第二ダイに連結する。
【0066】
前述の形態のうちのいずれにおいても、従来のダイ押出装置、例えば国際公開第2008/016174号に記載されているものなど、を用いてダイ押し出しを行うことができる。
【0067】
押し出しは二層押出物および三層押出物を作成する形態に関して記載されているが、押し出し工程はそれに限定されない。例えば、複数のダイおよび/またはダイアセンブリを用いることで、前述の形態の押し出し法を用いて四つ以上の層を有する多層押出物を作成することができる。このような層状押出物では、各表面層または中間層は、第一ポリオレフィン混合物および/または第二ポリオレフィン混合物を、例えばA/B、A/B/A、B/A/B、A/B/A/B、B/A/B/A/B、等、のパターンで用いて作成することができる。ここで、「A」は第一ポリオレフィン溶液から形成される層を表し、「B」は第二ポリオレフィン溶液から形成される層を表すものとする。
【0068】
例えば本発明の冷却ロールシステムを用いて冷却することにより、多層押出物を多層ゲル状シートにすることができる。冷却速度および冷却温度は特に重要ではない。例えば、多層ゲル状シートを、少なくとも約50℃/分の冷却速度で、多層ゲル状シートの温度(冷却温度)が多層ゲル状シートのゲル化温度とほぼ等しく(またはそれより低く)なるまで、冷却することができる。別の形態では、多層ゲル状シートを形成するために、押出物を約100℃以下の温度に冷却する。いかなる理論またはモデルにも拘束されるものではないが、層状押出物を冷却することにより、第一および第二ポリオレフィン混合物のポリオレフィンミクロ相は、硬化され、膜形成溶媒によって分離する、と考えられる。通常、より遅い冷却速度(例えば、50℃/分未満)では、より大きな疑似セルユニットを有する多層ゲル状シートが得られ、その結果、より目の粗い高次構造が生じる、とのことが観察されている。他方では、相対的に、より速い冷却速度(例えば、80℃/分)では、より密度の高いセルユニットが生じる。決定的なパラメータではないが、押出物の冷却速度が50℃/分未満である場合には、層中のポリオレフィン結晶化度の増加が生じ得り、これにより、その後の延伸工程において多層ゲル状シートを加工するのがより困難になり得る。冷却方法の選択は重要ではない。例えば、従来のシート冷却方法を用いてもよい。
【0069】
別の形態では、溶媒を除去したゲル状シートを形成するために、第一希釈剤および第二希釈剤の少なくとも一部を多層ゲル状シートから除去(または置換)する。置換(または「洗浄」)溶媒を用いて第一釈剤および第二希釈剤を除去(洗浄、または置換)することができる。従来の洗浄溶媒および洗浄技術、例えば国際公開第2008/016174号に記載されているものなど、を用いることができる。
【0070】
除去する希釈剤の量は特に重要ではないが、第一および第二希釈剤の少なくとも大部分の量をゲル状シートから除去する場合には、通常、より高品質の(より多孔性の)膜が生じる。別の形態では、希釈剤をゲル状シートから(例えば、洗浄することにより)、多層ゲル状シート中に残留する希釈剤の量が、ゲル状シートの重量を基準に、1重量%未満となるまで、除去する。
【0071】
別の形態では、溶媒を除去した多層ゲル状シートを、例えば残留する洗浄溶媒などの、シート中の揮発性種の少なくとも一部を除去するために、乾燥させる。国際公開第2008/016174号に記載されているような、例えば加熱乾燥、風乾燥(動く空気)等の従来の方法を含む、洗浄溶媒の一部を除去することのできる任意の方法を用いることができる。
【0072】
決定的な因子ではないが、乾燥は、残留する洗浄溶媒の量が、乾燥量基準、すなわち、乾いた多層微多孔性ポリオレフィン膜の重量を基準に、約5重量%以下となるまで行うことができる。別の形態では、乾燥は、残留する洗浄溶媒の量が、乾燥量基準で約3重量%以下となるまで行う。通常、多層微多孔膜の空孔率の、望ましくない減少が引き起こされるため、不十分な乾燥が見られることがある。これが観察される場合には、乾燥温度を高くする、および/または、乾燥時間を長くするべきである。例えば乾燥またはその他の方法などによる、洗浄溶媒の除去の結果、多層微多孔性ポリオレフィン膜が形成される。
【0073】
延伸した多層ゲル状シートを得るために、第一および第二希釈剤を除去する工程の前(すなわち工程5の前)に、多層ゲル状シートを延伸してもよい。多層ゲル状シート中に第一および第二希釈剤が存在することにより、比較的均一な延伸倍率がもたらされる、と考えられている。特に延伸の開始時に、または、延伸の比較的早期の段階(例えば、延伸の50%が完了するより前)に多層ゲル状シートを加熱することが、延伸の均一性の助けとなるとも考えられている。
【0074】
延伸方法の選択も、延伸倍率の度合いも特に重要ではなく、また、従来の延伸方法、例えば国際公開第2008/016174号に記載されているものなど、を用いることができる。
【0075】
延伸倍率は決定的な因子ではない。一軸延伸を用いる別の形態では、線の延伸倍率は、例えば、約2倍以上、または約3〜約30倍であってもよい。二軸延伸を用いる別の形態では、線延伸倍率は、例えば、任意の平面方向に、約3倍以上であってもよい。別の形態では、延伸によって生じる面積の倍率は、少なくとも約9倍、または少なくとも約16倍、または少なくとも約25倍である。重要なパラメータではないが、延伸によって面積の倍率が少なくとも約9倍となる場合には、多層微多孔性ポリオレフィン膜は、比較的、より高いピン穿刺強度(pin puncture strength)を有する。約400倍よりも大きい面積倍率を試みる場合には、延伸装置を動作させることはより困難になり得る。
【0076】
延伸の際の多層ゲル状シートの温度(すなわち延伸温度)は重要ではない。別の形態では、延伸の際のゲル状シートの温度は、約(T+10℃)以下であってよく、または、所望により、ポリエチレンの結晶分散温度Tcdよりも高いがTよりも低い範囲であってよい。ここで、Tは、第一ポリエチレンの融点Tm1および(使用する場合には)第二ポリエチレンの融点Tm2のうちのより小さい方である。このパラメータは重要ではないが、延伸温度が、およそ融点T+10℃よりも高い場合には、第一または第二ポリエチレンのうちの少なくとも1種類は、溶融状態であってもよい。融解状態は、延伸の際の多層ゲル状シート中のポリオレフィン分子鎖の延伸をより困難にし得る。また、延伸温度が、およそTcdよりも低い場合には、第一または第二ポリエチレンのうちの少なくとも1種類は、多層ゲル状シートを裂けまたは破損なく引き伸ばすことが困難となるほど軟化が不十分となる可能性があり、それにより、所望の延伸倍率を達成することができなくなる可能性がある。別の形態では、延伸温度は、約90℃〜約140℃、または約100℃〜約130℃の範囲である。
【0077】
必須ではないが、多層ゲル状シートを、工程(4)と(5)との間に、国際公開第2008/016174号および国際公開第2000/20493号に記載されているように、熱い溶媒で処理してもよい。
【0078】
別の形態では、工程(6)の、乾燥させた多層微多孔膜を、少なくとも一軸に引き伸ばすことができる。二軸延伸を用いてもよく、また、各軸に沿った延伸量は、同じである必要はない。選択される延伸方法は重要ではなく、また、例えばテンター法等による、従来の延伸方法を用いてもよい。決定的なことではないが、延伸の際に膜を加熱してもよい。選択は重要ではないが、延伸は、一軸であっても、二軸であってもよい。二軸延伸を用いる場合には、延伸は両軸方向に同時に行なってもよく、あるいは、多層微多孔性ポリオレフィン膜を、例えば、まず機械方向に、次いで横方向に、などと、順次延伸してもよい。別の形態では、同時二軸延伸を用いる。多層ゲル状シートを、工程(7)に記載されているように延伸した場合には、工程(9)における、乾いた多層微多孔性ポリオレフィン膜の延伸は、乾式延伸、再延伸、または乾式延伸と呼ぶことができる。従来の延伸技術および条件、例えば国際公開第2008/016174号に記載されているものなど、を用いることができる。
【0079】
延伸の際の乾いた多層微多孔膜の温度(「乾式延伸温度」)は重要ではない。別の形態では、乾式延伸温度は、融点Tとほぼ等しいかそれより低く、例えば、およそ結晶分散温度Tcd−30℃〜およそ融点Tの範囲である。乾式延伸温度がTよりも高い場合には、乾いた多層微多孔性ポリオレフィン膜を横方向に引き伸ばす場合に、特に横方向に、比較的高い透気度特性を有する多層微多孔性ポリオレフィン膜を製造することはより困難となる可能性がある。延伸温度がTcd−30℃よりも低い場合には、第一および第二ポリオレフィンを十分に軟化させることはより困難となる可能性があり、それにより、延伸の際の裂け、および、均一な延伸の欠如に繋がる可能性がある。別の形態では、乾式延伸温度は、約60℃〜約135℃、または約90℃〜約130℃の範囲である。
【0080】
別の形態では、乾燥させた多層微多孔膜を、工程(6)の後に、加熱処理することができる。国際公開第2008/016174号に記載されているように、例えばヒートセットおよびアニーリングなどの、従来の加熱処理を用いることができる。
【0081】
別の形態では、多層微多孔膜を、親水処理(すなわち、多層微多孔膜をより親水性にする処理)に供することができる。親水処理は、例えばモノマーグラフト処理、界面活性剤処理、コロナ放電処理等であってよい。別の形態では、架橋結合処理後にモノマーグラフト処理を用いる。
【0082】
界面活性剤処理を用いる場合には、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤および両性界面活性剤のうちのいずれかを、例えば、単独で、または組み合わせて、用いることができる。別の形態では、非イオン性界面活性剤を用いる。界面活性剤の選択は重要ではない。例えば、多層微多孔膜を、界面活性剤と水もしくは例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールとの混合物に浸漬するか、または当該混合物で、例えばドクターブレード法によって、コーティングすることができる。
【0083】
多層微多孔膜を製造するための第二の方法は、(1)第一ポリオレフィン組成物と第一希釈剤とを(例えば、融解ブレンドすることによって)混合して第一ポリオレフィン混合物を調製する工程、(2)第二ポリオレフィン組成物と第二希釈剤とを混合して第二ポリオレフィン混合物を調製する工程、(3)第一ダイを通して第一ポリオレフィン混合物を、および、第二ダイを通して第二混合物を押し出し、次いで、押し出された第一および第二ポリオレフィン混合物を積層して多層押出物を形成する工程、ならびに、次いで、第一の製造方法に関連して上述した工程4および5を行う工程、を含む。所望する場合には、所望により選択される工程6から12も、単独でまたは組み合わせて、行うことができる。
【0084】
第二の製造方法では、第一および第二ポリオレフィン混合物の積層は、冷却工程の前に行う。
【0085】
第二の製造方法の処理工程および条件は、工程(3)以外は、通常、第一の製造方法に関連して記載した類似の工程のものと同じである。よって、工程(3)をより詳細に説明する。
【0086】
押出物(積層されることもある)を形成する能力がダイにあるならば、使用するダイの種類は重要ではない。一形態では、複数のシートダイ(これらは隣接していても、連結していてもよい)を用いて押出物を形成する。第一および第二シートダイを第一および第二押出機にそれぞれ連結する。ここで、第一押出機は第一ポリオレフィン混合物を含有し、第二押出機は第二ポリオレフィン混合物を含有する。重要なことではないが、積層は、押し出された第一および第二ポリオレフィン混合物がまだ押し出し温度くらいであるときに達成する方が、通常、より容易である。他の条件は、第一の方法と同じであってよい。
【0087】
別の形態では、第一、第二、および第三シートダイを、第一、第二、および第三押出機に連結する。ここで、第一および第三シートダイは第一ポリオレフィン混合物を含有し、第二シートダイは第二ポリオレフィン混合物を含有する。この形態では、押し出された第一ポリオレフィン混合物を含む外層と、押し出された第二ポリオレフィン混合物を含む1つの中間層とを構成する、積層された押出物が形成される。
【0088】
さらに別の形態では、第一、第二、および第三シートダイを第一、第二、および第三押出機に連結する。ここで、第二シートダイは第一ポリオレフィン混合物を含有し、第一および第三シートダイは第二ポリオレフィン混合物を含有する。この形態では、押し出された第二ポリオレフィン混合物を含む外層と、押し出された第一ポリオレフィン混合物を含む1つの中間層とを構成する、積層された押出物が形成される。
【0089】
多層微多孔性ポリオレフィン膜を製造するための第三の方法は、(1)第一ポリオレフィン組成物と第一希釈剤とを(例えば、融解ブレンドすることによって)混合して第一ポリオレフィン混合物を調製する工程、(2)第二ポリオレフィン組成物と第二希釈剤とを混合して第二ポリオレフィン混合物を調製する工程、(3)少なくとも1つの第一ダイに通して第一ポリオレフィン混合物を押し出して、少なくとも1つの第一押出物を形成する工程、(4)少なくとも1つの第二ダイに通して第二ポリオレフィン混合物を押し出して、少なくとも1つの第二押出物を形成する工程、(5)本明細書において上述した種類の複数の冷却ロールに通して第一および第二押出物から熱を逃がして、例えば多層ゲル状シートである、少なくとも1枚の第一ゲル状シートおよび少なくとも1枚の第二ゲル状シートを形成する工程、(6)第一および第二希釈剤の少なくとも一部を第一および第二ゲル状シートから除去して第一膜および第二膜を形成する工程、(7)残留する任意の揮発性物質の少なくとも一部を第一膜および第二膜から、所望により除去する工程、ならびに、(8)多層微多孔膜を形成するために、第一膜および第二膜を積層する工程、を含む。所望する場合には、前述した所望により選択される工程も用いて、多層微多孔膜をさらに加工することができる。
【0090】
第三の製造方法の工程は、通常、第一、第二、および第三の製造方法について記載された、関連する条件の下で、行うことができる。
【0091】
すべての製造方法において、第一および第二ポリオレフィン混合物から形成される層(すなわち、第一および第二微多孔層材料を含む層)の厚さは、1つ以上の延伸工程を用いる場合、第一および第二ゲル状シートの厚さを調整することによって、および、延伸量(延伸倍率および乾式延伸倍率)によって、制御することができる。所望により、ゲル状シートを多段階の加熱ローラーに通して通過させることにより、積層工程を、延伸工程と組み合わせることができる。
微多孔膜の性質
【0092】
一形態では、微多孔膜は、約3μm〜約200μm、または約5μm〜約50μmの範囲の厚さを有する。さらに、膜は、通常、以下の望ましい性質のうちの1つ以上を有する。
A. 約25%〜約80%の空孔率
B. (20μmの厚さでの値に換算した)JIS P8117に従って測定される約20秒/100cm〜約700秒/100cmの透気度
【0093】
JIS P8117に従って、厚さTを有する微多孔膜に関して測定される透気度Pは、P=(P×20)/Tの式により、20μmの厚さでの透気度Pに換算することができる。
C. 約3,000mN/20μm以上の突刺強度
【0094】
(20μmの膜の厚さでの値に換算した)突刺強度は、微多孔膜を、球状の先端表面(曲率半径R:0.5mm)を有する直径1mmの針を用いて2mm/秒の速度で突き刺したときに測定される最大荷重である。
D. (ASTM D882に従って測定される)少なくとも約60,000kPaの引張強度
E. 少なくとも約100%の引張伸び(ASTM D882)
F. 10%以下の熱収縮率
【0095】
微多孔膜を約105℃の温度で8時間保持した後に測定される熱収縮率。
G. 0.5以下の厚変動
【0096】
各微多孔膜の厚さは、接触式厚さ計、例えば、株式会社ミツトヨ社製ライトマチックなどによって測定することができる。厚さは、フィルムのTDの中央で、MDに沿って5メートルにわたり100mm間隔で測定し、平均する。分布の平方根に等しい、測定値の標準偏差を厚変動と定義する。電池セパレータの厚変動が0.5を上回る場合には、製造中および使用中の内部短絡に対する適切な保護を有する電池を製造することはより困難となる。
H. 少なくとも約145℃のメルトダウン温度
【0097】
一形態では、メルトダウン温度は、約145℃〜約190℃の範囲であってよい。メルトダウン温度を測定する1つの方法には、縦方向に3mmおよび横方向に10mmの微多孔膜試験片が融解によって破損する温度を、その試験片を縦方向に2グラムの荷重で引きながらその試験片を室温から加熱速度5℃/分で加熱するという条件下で、例えばセイコーインスツル株式会社から市販されているTMA/SS6000などの熱機械分析装置を用いて、測定することが含まれる。特定のフィルムは160℃〜190℃の範囲のメルトダウン温度を有してもよい。
I. 140℃以下のシャットダウン温度
【0098】
熱機械分析装置(セイコーインスツル株式会社から市販されているTMA/SS6000)を用い、横方向に10mmおよび縦方向に3mmの試験片を縦方向に2gの荷重で引きながらその試験片を室温から速度5℃/分で加熱する。融点近くで観察される変曲点における温度をシャットダウン温度と定義する。
[実施例]
実施例1
【0099】
本明細書に記載した冷却ロールアセンブリおよび方法を、以下の実施例により説明する。
【0100】
2.0×10の重量平均分子量(Mw)、8.0の分子量分布(Mw/Mn)、135℃の融点(T)、および100℃の結晶分散温度(Tcd)を有する20質量%の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、3.0×10のMwおよび8.6のMw/Mn、135℃のT、および100℃のTcdを有する80質量%の高密度ポリエチレン(HDPE)、を含む、99.8質量部のポリオレフィン組成物と、抗酸化剤としての、0.2質量部のテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオナート]メタンとを、乾式ブレンドする。ポリオレフィン組成物は、8.6のMw/Mn、135℃のT、および100℃のTcdを有する。
【0101】
30質量部の、結果として生じる混合物を、58mmの内径および52.5のL/Dを有する強力混合二軸スクリュー押出機の中に充填し、70質量部の流動パラフィン[50cSt(40℃)]を、サイドフィーダーを介して、この二軸スクリュー押出機に供給する。融解ブレンドを210℃、200rpmで行い、第一ポリオレフィン混合物を調製する。
【0102】
各UHMWPEおよびHDPEのMwおよびMw/Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、以下の条件下で測定する。
測定装置:ウォーターズコーポレーションから市販されているGPC-150C、
カラム:昭和電工株式会社から市販されているShodex UT806M、
カラム温度:135℃、
溶媒(移動相):o−ジクロロベンゼン、
溶媒の流速:1.0ml/分、
試料濃度:0.1重量%(135℃で1時間溶解させたもの)、
注入量:500、
検出器:ウォーターズコーポレーションから市販されているDifferential Refractometer、および
検量線:所定の換算定数を用いて、単分散標準ポリスチレン試料の検量線から作成する。
【0103】
ポリオレフィン混合物を、210℃で、その二軸スクリュー押出機から、250mmの幅を有する単層シート形成用Tダイへと供給して押出物を形成する。この押出物を、図2および3に示され、かつ本明細書に記載されているように、1.4m/分の回転速度の5つの冷却ロールを有する冷却ロールアセンブリを用いて、15℃に制御された冷却ロールに通過させることにより、冷却し、ゲル状シートを形成する。使用する冷却ロールの性質を以下の表に示す。
【表1】

【0104】
テンター延伸機を用い、ゲル状シートを、115.0℃で、二軸に、機械方向および横方向の両方向に5倍引き伸ばす。
【0105】
延伸したゲル状シートを、25℃の温度に制御した塩化メチレン浴に浸漬して流動パラフィンを除去する。その結果として生じた膜を室温で空冷する。この乾燥させた膜を120℃で30秒ヒートセットして、TDに700mmの幅を有する微多孔性ポリオレフィン膜を得る。
【0106】
表4に示す通りの性質を有するポリエチレンの微多孔膜が得られる。
比較実施例1
【0107】
使用する冷却ロールを除き、実施例1を繰り返す。使用する冷却ロールの性質を以下の表に示す。
【表2】

比較実施例2
【0108】
使用する冷却ロールを除き、比較実施例2を繰り返す。使用する冷却ロールの性質を以下の表に示す。
【表3】

【表4】

【0109】
優先権書類を含む、本明細書で引用したすべての特許、試験手順、およびその他の文献は、参照により、かかる開示が矛盾を生じない範囲まで完全に組み入れられ、また、このような組み入れが許される出願のすべてについて完全に組み入れられる。
【0110】
本明細書において記載した、実施の形態は、詳細に記載されたが、当業者にとって、その他の種々の変形は明らかであり、また、当業者は本開示の精神および範囲から逸脱することなくその他の種々の変形を容易に行うことができる。したがって、本明細書に添付した特許請求の範囲の範囲が、本明細書に記載された実施例および説明に限定される、ということは意図されておらず、むしろ、特許請求の範囲が、本明細書中にある特許可能な新規性のある特徴すべて(本開示に関係する当業者によって等価なものとして扱われるであろうすべての特徴を含む)を包含するものとして解釈される。
【0111】
数値の下限値および数値の上限値が本明細書において記載されている場合には、任意の下限値から任意の上限値までの範囲を意図しているものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出物から熱を逃がすためのアセンブリであって、
a) 前記押出物を受け取る位置に配置された少なくとも1つの上流ロールであって外表面粗さ≦1.0sを有する少なくとも1つの上流ロール;および、
b) 少なくとも1つの下流ロールであって外表面粗さ≧5.0sを有する少なくとも1つの下流ロール、
を含み、前記下流ロールが前記上流ロールから前記押出物を受け取るよう、前記上流ロールおよび前記下流ロールが整列されている、アセンブリ。
【請求項2】
少なくとも1つの支持枠をさらに含み、前記上流ロールおよび前記下流ロールが、前記少なくとも1つの支持枠上に搭載され、前記支持枠により、前記押出物が前記上流ロールの一部および前記下流ロールの一部の周囲の円弧状経路、ならびに前記上流ロールと前記下流ロールとの間の直線状経路を移動するための、前記ロールの配置が提供される、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記ロールアセンブリの中を通して前記上流ロールおよび前記下流ロールと円弧状に接触して前記押出物を移動させるために、前記下流ロールを回転させるための前記支持枠上に搭載された駆動手段をさらに含む請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記上流ロールまたは前記下流ロールのうちのなくとも1つが、前記押出物から熱を逃がすための冷却手段をさらに含む、請求項3に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記上流ロールが、前記駆動手段、または前記第一駆動手段と同期する第二駆動手段のいずれかによって回転する、請求項4に記載のアセンブリ。
【請求項6】
第三ロールをさらに含み、前記第三ロールが、前記上流ロールの下流かつ前記下流ロールの上流にあり、また、前記上流ロールから前記押出物を受け取って前記第三ロールの少なくとも一部の周囲の円弧状経路を移動させ、次いで前記下流ロールに向かう直線状経路を移動させるための位置に配置され、前記第三ロールが外表面粗さ≦1.0sを有する、請求項2記載のアセンブリ。
【請求項7】
第四ロールおよび第五ロールをさらに含み、前記第四ロールが、前記下流ロールから前記押出物を受け取る位置に配置され、かつ、前記第五ロールが、前記第四ロールから前記押出物を受け取る位置に配置され、前記第四ロールおよび第五ロールが、それぞれ、外表面粗さ≧5.0sを有する、請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記上流ロールおよび前記第三ロールが、それぞれ、0.6sの外表面粗さを有する、請求項7に記載のアセンブリ。
【請求項9】
(a)前記ロールアセンブリの中を通して前記上流ロール、前記第三ロール、前記下流ロール、前記第四ロール、および前記第五ロールと円弧状に接触して前記押出物を移動させるために、前記下流ロールおよび所望により前記第四ロールおよび/または前記第五ロールを回転させるための駆動手段、ならびに、所望により、
(b)前記上流ロールおよび所望により前記第三ロールを回転させるための前記駆動手段と同期する第二駆動手段、
をさらに含む、請求項7に記載のアセンブリ。
【請求項10】
少なくとも前記上流および第三ロールが、前記押出物から熱を逃がすための冷却手段をさらに含む、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
微多孔膜を製造するための方法であって、
a) ポリマーおよび少なくとも1種類の希釈剤を混合する工程;
b) 前記混合したポリマーおよび希釈剤を、押出ダイを通して押し出して押出物を形成する工程;
c) 複数のロールに通して前記押出物から熱を逃がして冷却押出物を形成する工程であって、前記複数のロールが、i)前記押出物を受け取る位置に配置された上流ロールであって外表面粗さ≦1.0sを有する上流ロール;および、ii)前記上流ロールから前記押出物を受け取る位置に配置された下流ロールであって外表面粗さ≧5.0sを有する下流ロール、を含む工程;
d) 前記冷却押出物を、少なくとも1方向に約1〜約10倍に延伸する工程;ならびに
e) 前記希釈剤の少なくとも一部を前記冷却押出物から除去して前記膜を形成する工程、
を含む方法。
【請求項12】
f) 前記膜を、少なくとも1方向に、約1.1〜約2.5倍の倍率に延伸する工程;および
g) 前記膜をヒートセットする工程、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリオレフィン組成物が高密度ポリエチレンおよび超高分子量ポリエチレンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリオレフィンがポリプロピレンをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリオレフィンが、少なくとも約50重量%の高密度ポリエチレンおよび少なくとも約15重量%の超高分子量ポリエチレンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリオレフィンが少なくとも約1重量%のポリプロピレンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリオレフィンが、i)約2×10〜約5×10の重量平均分子量および約5〜約50の分子量分布(Mw/Mn)を有する第一ポリエチレンを約40%〜約100%含み、;ii)約6×10〜約4×10の重量平均分子量、約3〜約30の分子量分布(Mw/Mn)、90J/g以上の融解熱を有するポリプロピレンを約5%〜約50%含み、;ならびに、iii)約1×10〜約5×10の重量平均分子量、約3〜約30以上の分子量分布(Mw/Mn)を有する第二ポリエチレンを約0%〜約40%含み、%が前記ポリオレフィンの質量を基準とするものである、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記方法を介して前記押出物を前進させるために、前記複数のロールが、前記下流ロール、または前記下流ロールおよび前記上流ロールと連動する1つ以上の駆動手段を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記複数のロールが、前記上流ロール、前記下流ロール、または両方と連動する冷却手段を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(a)前記複数のロールが、(i)前記上流ロールの下流かつ前記下流ロールの上流に位置し、また、前記上流ロールから前記押出物を受け取るための位置に配置された第三ロールであって、外表面粗さ≦1.0sを有する第三ロール、(ii)第四ロール、および(iii)第五ロール、を含み、;前記第四ロールが、前記下流ロールから前記押出物を受け取る位置に配置され、前記第五ロールが、前記第四ロールから前記押出物を受け取る位置に配置され、前記第四ロールおよび前記第五ロールが、それぞれ、外表面粗さ≧5.0sを有し、;ならびに
(b)前記押出物が、前記上流ロール、前記下流ロール、前記第三ロール、前記第四ロール、および前記第五ロールの少なくとも一部の周囲の円弧状経路、ならびにこれらのロールの間の直線状経路を移動する、
請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記方法を介して前記押出物前進させるために、前記複数のロールが、前記上流ロールまたは前記第三ロールのうちの少なくとも1つを回転させるための第一駆動手段、および前記下流ロール、前記第四ロール、または前記第五ロールのうちの少なくとも1つを回転させるための前記第一駆動手段と同期する第二駆動手段を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数のロールが、前記押出物から熱を逃がすための、(i)前記上流ロール、(ii)前記第三ロール、または(iii)前記下流ロールのうちの少なくとも2つと連動する冷却手段を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記複数のロールが、前記第四ロールおよび/または前記第五ロールと連動する冷却手段を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記上流ロールおよび前記第三ロールが、それぞれ、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される約0.6sの外表面粗さを有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記下流ロール、前記第四ロールおよび前記第五ロールが、それぞれ、JIS B 0601(Rmax)に従って測定される約10sの外表面粗さを有する、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−526547(P2011−526547A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550767(P2010−550767)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【国際出願番号】PCT/JP2009/060980
【国際公開番号】WO2010/001722
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510157580)東レ東燃機能膜合同会社 (31)
【Fターム(参考)】