微小試料把持方法、微小試料把持装置のコントローラおよび微小試料把持システム
【課題】 微小試料の把持および解放を正確に行うことができるナノピンセット装置の提供。
【解決手段】 ナノピンセット1の静電アクチュエータ4a,4bを構成する固定電極5a,5bおよび可動電極6a,6bは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5a,5bは台座10に固定され、アーム3a,3bおよび可動電極6a,6bは、支持部7a,7bおよびアーム支持部9a,9bにより弾性的に支持されている。記憶部40bには、各アーム3a,3bの弾性特性に応じた電圧出力パターンが記憶されている。この電圧出力パターンに基づいて静電アクチュエータ4a,4bに駆動電圧を印加することにより、アーム3a,3bは左右対称に駆動される。
【解決手段】 ナノピンセット1の静電アクチュエータ4a,4bを構成する固定電極5a,5bおよび可動電極6a,6bは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5a,5bは台座10に固定され、アーム3a,3bおよび可動電極6a,6bは、支持部7a,7bおよびアーム支持部9a,9bにより弾性的に支持されている。記憶部40bには、各アーム3a,3bの弾性特性に応じた電圧出力パターンが記憶されている。この電圧出力パターンに基づいて静電アクチュエータ4a,4bに駆動電圧を印加することにより、アーム3a,3bは左右対称に駆動される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体を把持および解放を行う微小試料把持装置のコントローラ、微小試料把持方法および微小試料把持システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノピンセットは、一対のアームの先端部の開閉動作により、ナノオーダーあるいはミクロンオーダーサイズの微小物体を把持し、移送し、開放する機能を有する。従来、一対のアームの開閉を行わせるためのアクチュエータとしては、静電方式、熱方式、圧電方式など種々のものが提案されている。静電方式のアクチュエータとしては、一対のアームのそれぞれに形成された櫛歯電極間に働く静電力によりアームを開閉させるものや、往復運動する搬送子を用いて各アームを所定量ずつ駆動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−52072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一対のアームの機械的特性、例えば弾性特性は製造バラツキなどのために厳密に同一とするのは難しく、左右で異なっている場合が多い。そのため、櫛歯電極間に働く静電力によりアームを開閉させるものでは、一対のアームの動きが左右対称とならないという不都合が生じる。また、搬送子を用いる装置においても、上述したアームの機械的特性や、各アーム毎に設けられた搬送子駆動用静電アクチュエータのバラツキ等により、左右アームの動きにアンバランスが生じる。そのため、いずれの装置の場合も、試料の把持および解放を正確に行えないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持方法に適用され、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加することを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラに適用され、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、出力手段からアーム開閉指令信号が出力されると、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項2に記載のコントローラにおいて、一対のアームをそれぞれ第1および第2のアームとし、一対のアクチュエータをそれぞれ第1および第2のアクチュエータとする場合、駆動信号印加手段は、第1のアームの開閉量と第1のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第1のデータ、および、第2のアームの開閉量と第2のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第2のデータを記憶する記憶手段と、第1のデータに基づいて第1のアクチュエータに駆動信号を印加して第1のアームを開閉駆動し、第2のデータに基づいて第2のアクチュエータに駆動信号を印加して第2のアームを開閉駆動する出力制御手段とを備えるようにしたものである。
(4)請求項4の発明では、請求項3に記載のコントローラにおいて、一対のアクチュエータはクーロン力で一対のアームを開閉する静電アクチュエータであり、一対のアームが対象物を把持したのち、一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が、対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を一対の静電アクチュエータへ印加するロック指示手段を備え、ロック駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(5)請求項5の発明では、請求項4に記載のコントローラにおいて、ロック駆動電圧により一対のアームが対象物を把持したのち、一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加するアンロック指示手段を備え、アンロック駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(6)請求項6の発明では、請求項4または5に記載のコントローラにおいて、開放されている一対のアームで対象物を把持させる際に、一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を一対の静電アクチュエータへ印加するグリップ指示手段を備え、グリップ駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(7)請求項7の発明による微小試料把持システムは、開閉する一対のアームと、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有し、その可動電極で一対のアームの各々を開閉駆動する一対の静電アクチュエータと、請求項2乃至6のいずれか1項に記載のコントローラとを備えることを特徴とする。
(8)請求項8の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアームを備える微小試料把持装置により対象物を把持する微小試料把持方法に適用され、微小試料把持装置を特定し、一対のアームが対称駆動されるように、特定した微小試料把持装置に対応する駆動信号を一対のアクチュエータへ印加することを特徴とする。
(9)請求項9の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラに適用され、微小試料把持装置を特定する特定信号を発生する特定手段と、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、一対のアームの開閉量と一対のアクチュエータに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを特定信号に対応付けて記憶する記憶手段と、出力手段から指令信号が出力されると、特定信号に基づいて、複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、一対のアクチュエータへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加するようにしたので、試料の把持および解放を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。ナノピンセット装置50は、ナノピンセット1と、コントローラ2とを備えている。コントローラ2にはDC電源20a,20bおよび制御部40が設けられている。制御部40には操作ダイヤルや操作スイッチ等が設けられる操作部40aとデータ記憶用の記憶部40bが設けられている。ナノピンセット1は、後述するようにSOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、SiO2層を介して貼り合わせたものである。
【0008】
図1に示すように、ナノピンセット1は、一対のアーム3a,3bと、一対の静電アクチュエータ4a,4bと、一対の支持部7a,7bと、一対の連結部8a,8bと、一対のアーム支持部9a,9bと、台座10とを備える。静電アクチュエータ4aには、固定電極5aおよび可動電極6aが設けられ、静電アクチュエータ4bには固定電極5bおよび可動電極6bが設けられている。台座10は、不図示のホルダに着脱可能に取り付けられ、そのホルダは、不図示の移動機構により3次元方向に移動可能であり、これにより、ナノピンセット1全体が3次元方向に移動可能となっている。
【0009】
図2を参照しながら、ナノピンセット1の構造を詳しく説明する。図2は、図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。図2以下では、ナノピンセット1の左右対称に設けられる構成部品については、主として左側についてのみ説明する。固定電極5aおよび可動電極6aは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5aは台座10に固定されているが、可動電極6aは、細いビーム状の支持部7aによって台座10に弾性的に固定されている。アーム3a,3bは、それぞれ細いビーム状のアーム支持部9a,9bを介して台座10に弾性的に固定されている。アーム3aと可動電極6aとは連結部8aによって連結され、アーム3bと可動電極6bとは連結部8bによって連結されている。
【0010】
ナノピンセット1には、左側電極端子2a、左側電極端子2b、左アーム用電極端子2c、右アーム用電極端子2d、右側電極端子2e、右側電極端子2fおよびアース電極端子2gが形成されている。左側電極端子2aは固定電極5aに接続され、左側電極端子2bは可動電極6aに接続され、左アーム用電極端子2cはアーム3aに接続されている。右アーム用電極端子2dはアーム3bに接続され、右側電極端子2eは可動電極6bに接続され、右側電極端子2fは固定電極5bに接続され、アース電極端子2gは台座10に接続されている。これら7つの電極端子2a〜2gとコントローラ2の7つの端子2a〜2gとが、対応する符号同士接続されている。
【0011】
コントローラ2において、左側電極2a,2bの間にはDC電源20aが接続され、右側電極2e,2fの間にはDC電源20bが接続されている。左側電極2a,2b間に直流電圧を印加することにより、固定電極5aと可動電極6aとの間にクーロン力による静電引力を発生させ、可動電極6aを固定電極5aに対して動かすことができる。右側の固定電極5b,可動電極6bについても同様に動作する。制御部40はDC電源20a,20bをそれぞれ独立に制御し、静電アクチュエータ4a,4bに印加される駆動電圧を独立に制御する。
【0012】
左アーム用電極端子2cと右アーム用電極端子2dは、アーム3a,3b間に作用する電気量などを検出するために設けられている。そのため、アーム3a,3bは、それぞれ可動電極6a,6bとは絶縁されている。アース電極端子2gは、台座10が浮遊電極になるのを防ぐために設けられている。また、チップ抵抗R1〜R6は、ナノピンセット1に人体が接触したり、ナノピンセット1とコントローラ2とを結ぶケーブルが電磁波を受けたりしてノイズが混じるのを防ぐために設けられている。
【0013】
図3は、図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。可動電極6aと固定電極5aとの間に電圧を印加すると、可動電極6aが固定電極5aに対して、図3の右方向(x方向)に動くことにより、アーム3aがx方向に駆動される。電圧印加を解除すると、アーム3aは元の位置、つまり図3に示す位置へ復帰する。右側については動作が反転するだけであり、同様に、可動電極6bが固定電極5bに対して、図中、左方向に動くことにより、アーム3bが左方向に駆動される。したがって、アーム間隔Dを変えることができ、微小物体を把持したり解放したりすることができる。
【0014】
ここで、静電アクチュエータ4a,4bの動作原理を説明する。
図4は、ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。印加電圧V=0の初期状態におけるアーム間隔DをD0とする。櫛歯型静電アクチュエータの典型的なモデルでは、固定電極5aと可動電極6aとの間に生じる静電容量Ccomb(x)は、可動電極6aの初期位置からの移動距離xの関数として式(1)で与えられる。但し、式(1)において、ε0は真空の誘電率、wは櫛歯の幅、l0は櫛歯先端と対向する電極の壁面との初期間隔、lは櫛歯の長さ、gは櫛歯間のギャップ、bは櫛歯の厚み、Vは印加電圧、Nは櫛歯の本数であり、これらは図4に対比させて示されている。
【数1】
【0015】
このとき、可動電極6a,固定電極5a間に蓄えられるエネルギーはCcomb(x)V2/2なので、電極間に発生するクーロン力(静電気力)Fcomb(x)は式(2)で与えられる。
【数2】
【0016】
次に、アーム3aが初期位置から閉じるように移動した場合の弾性力について説明する。図2に示すようにアーム3aと可動電極6aとは連結部8により一体とされ、それらは支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性的に支持されている。ただし、支持部7aの弾性力に対してアーム支持部9aの弾性力は比較的小さいので、以下ではアーム支持部9aの弾性力を無視して説明する。
【0017】
可動電極6aに設けられた一対の支持部7aを片持ち梁とみなして、モールの定理により導かれる応力の一般式を用いると、支持部7aの弾性力Fel(x)は、可動電極6aの移動距離xの関数として式(3)のように表される。式(3)において、Lは支持部7aの長さ、Bは支持部7aの幅、hは支持部7aの厚さ、E(GPa)はシリコンの横弾性係数、Nsは支持部7aの数である。
【数3】
【0018】
左右のアーム3a,3bが互いに接触してアーム間隔Dが0となったときの可動電極6aの移動距離をxdとすると、式(3)で表される支持部7aの弾性力Fe l (x)は、0≦x<xdの範囲で成り立つ。アーム間隔Dが0となった後に、さらに可動電極6aが移動してアーム3a,3bが変形すると、アーム3aと3bの変形による弾性力が上記Fe l (x)に加算されることになる。このとき、アーム3a,3bをアーム先端から連結部8の力点までを片持ち梁状構造体(バネ定数をkとする)と仮定すると、アーム3a,3bの変形による弾性力はk(x−xd)にて表され、xd ≦x<l0の範囲では、式(4)のように表される。l0は櫛歯の先端と谷部との隙間の初期値であり、x=l0のとき隙間はゼロとなる。
【数4】
【0019】
図5は、式(2)で表されるクーロン力Fcomb(x)と、式(3)、(4)で表される弾性力Fe l (x)を、可動電極6aの移動距離である櫛歯移動距離xに関して示したものである。図5において、縦軸はクーロン力または弾性力を、横軸は櫛歯移動距離xをそれぞれ表している。
【0020】
曲線C1,C2は印加電圧がV1,V2(V2>V1)の場合のクーロン力を示し、直線部E1は式(3)による弾性力を、直線部E2は式(4)による弾性力をそれぞれ示している。上述したようにxdはアーム3a,3bが互いに接触した時の移動距離であり、x>xdではアーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、直線部E2の傾きは直線部E1の傾きよりも大きくなっている。
【0021】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の開閉動作について説明する。上述したように、連結部8aにより一体となった可動電極6aおよびアーム3aは、支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性支持されている。そのため、電極5a,6aに電圧を印加すると、電極間に働くクーロン力(式(2)参照)によるアーム3aを閉じようとする力と、そのクーロン力に反してアーム3aを初期位置に戻そうとする弾性力とが釣り合う位置まで可動電極6aおよびアーム3aが移動することになる。ただし、ここでは、上述したようにアーム支持部9aの弾性力は無視して考える。
【0022】
そして、印加電圧を大きくする程この櫛歯移動距離xは大きくなり、アーム間隔D(図3参照)が小さくなる。図5における曲線C1と直線部E1との交点は、印加電圧がV1のときにクーロン力と弾性力とが釣り合う位置を表しており、図21(a)に示すように櫛歯移動距離はxaでアーム間隔は(D0−2xa)となる。なお、D0は、櫛歯移動距離xがx=0のときのアーム間隔初期値である。
【0023】
図6は、印加電圧Vと櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。印加電圧Vを0から徐々に大きくすると、曲線F1上を左端から右方向へと移動して櫛歯移動距離xが大きくなる。上述したように、印加電圧V1では櫛歯移動距離はxaとなり、印加電圧をV3に増加すると櫛歯移動距離がxdとなって図21(b)に示すようにアーム3a,3b同士が接触する。さらに印加電圧を増加させると、図22(a)に示すように可動電極6a,6bはアーム3a,3bを変形させつつ移動する。このとき、アーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、電圧変化に対する移動距離変化傾向がx=xdの前後で変化する。
【0024】
図5において、印加電圧を徐々に大きくすると、クーロン力を示す曲線は右上がりの傾向が大きくなると共に全体的に図示上方へと移動する。そのため、クーロン力の曲線と弾性力に関する直線部E1,E2との交点は右方向へ移動する。すなわち、印加電圧Vの増加に伴う交点の右方向への移動が、図6の曲線F1上における右方向への移動に対応している。
【0025】
(プルインに関する説明)
ところで、印加電圧をさらに増加させてV2とすると、図5の曲線C2のように直線部E1,E2よりも常に上側となる。すなわち、どのような櫛歯移動距離xであってもクーロン力が常に弾性力を上回る状態(クーロン力>弾性力)となり、印加電圧をそれ以上増加させなくても可動電極6が固定電極5aに引き寄せられ、図22(b)に示すような密着状態となる。このような現象のことを、プルイン(Pull-in)現象と呼ぶ。
【0026】
このようなプルイン現象が発生する電圧は、クーロン力の曲線と弾性力の直線部E1,E2との接点が無くなる電圧Vpであって、ここでは電圧Vpをロック電圧と呼ぶことにする。なお、本実施の形態では、プルイン時に固定電極5aと可動電極6aとが短絡するのを防止するために、70nm程度の厚さの絶縁層が固定電極5aおよび可動電極6aの表面に形成されている。
【0027】
図6において、印加電圧VをV3からVpへと徐々に増加させると、櫛歯移動距離xはxdからxbへと移動する。そして、印加電圧がロック電圧Vpに達すると、xbからxpまで急激に移動して可動電極6aが固定電極5aに密着する。なお、プルイン状態における移動距離xpは櫛歯電極の初期間隔l0に等しい。
【0028】
印加電圧がVpとなる直前におけるアーム3a,3bの把持力は、アーム変形量(xb−xd)に対応した弾性力であるが、プルイン状態(V=Vp)になるとアーム変形量(xp−xd)に対応した弾性力へと増加するので、その弾性力増分はアーム3a,3bをさらに(xp−xb)だけ変形させるのに要する力に等しい。すなわち、わずかな電圧増加で把持力を大きく増加させることができる。なお、上述した把持力は、図22(b)に示すようにアーム3a,3b間に試料を把持していない場合の値であり、試料を把持した場合には試料の寸法に応じて異なる。
【0029】
このように、プルイン状態では大きなクーロン力によって可動電極6aが固定電極5aに密着して固定状態となっているため、電極5a,6a同士が一体になっているとみなすことができる。その結果、ナノピンセット1に対して、搬送に伴う振動が加わったり、外部衝撃が加わったりしても、安定して試料を把持し続けることができ、試料搬送の信頼性を著しく向上させることができる。
【0030】
(プルアウトに関する説明)
次に、プルイン状態の解除動作について説明する。プルイン状態を解除するためには、ロック電圧Vpとなっている印加電圧を減少させれば良い。実際に印加電圧をVpから減少させると、図6の直線F2に示すように印加電圧がVrとなるまでプルイン状態が継続され、可動電極6aは固定電極5aに密着したままである。そして、印加電圧がVrとなったときにプルイン状態が解除され、弾性力と印加電圧Vrにおけるクーロン力とが釣り合う櫛歯移動距離xrまで可動電極6aが移動する。図6に示す例では、xr<xdとなっているので、アーム3a,3bが開くことになる。ここでは、電圧Vrをアンロック電圧と呼ぶことにする。
【0031】
このように、プルイン状態となる電圧(ロック電圧Vp)とプルイン状態が解除される電圧(アンロック電圧Vr)とが異なる原因として、次のような理由が考えられる。図23はアンロック電圧Vrを説明する図であり、クーロン力または弾性力と櫛歯移動距離xとの関係を示したものである。なお、図23では、櫛歯移動距離xが小さい領域については、説明に必要ない領域であるので図示を省略した。
【0032】
図23において、曲線C(Vp)は印加電圧がロック電圧Vpのときのクーロン力を示しており、曲線C(Vr)は印加電圧がアンロック電圧Vrのときのクーロン力を示している。曲線C(Vr)は、櫛歯移動距離xrで直線部E1と交わっている。また、曲線C(V4)は印加電圧V4のときのクーロン力を示しており、Vp>V4>Vrである。
【0033】
前述したように、固定電極5aおよび可動電極6aには、プルイン状態のときに電極5a,6a同士が短絡しないように表面に絶縁層が形成されている。また、電極5a,6aの接触面は理想的な平面ではなく微少な凹凸が有るため、プルイン状態のときに電極5a,6a間の距離は厳密にはゼロになっていない。そのため、プルイン状態となっていても、電極5a,6a間には絶縁層の厚さΔx0に相当する隙間が形成されている。すなわち、プルイン状態の時の櫛歯移動距離xpはxp=l0−Δx0となっている。
【0034】
仮に、絶縁層が無く、固定電極5aと可動電極6aとが厳密に密着していた場合、櫛歯移動距離xはx=l0となるので、電極5a,6aに僅かでも電圧が印加されていれば、プルイン状態のx=l0ではクーロン力が無限大となる。しかし、実際には接触面に凹凸や自然酸化膜があったり、上述したように絶縁層が形成されていたりするため、プルイン状態となっていてもクーロン力が無限大になることはない。
【0035】
例えば、図23に示す例では、厚さΔx0の絶縁層が形成されているので、プルイン状態(x=xp)であっても、曲線C(Vp),C(V4),C(Vr)で示したクーロン力は無限大になっていない。このとき、ロック電圧Vpのプルイン状態から印加電圧VをV4まで減少させた場合を考えると、図23のクーロン力曲線C(V4)からも分かるように、櫛歯移動距離xpにおいてはクーロン力>弾性力となっている。そのため、可動電極6aが固定電極5aから離れることはなく、プルイン状態が維持される。
【0036】
ところが、さらに印加電圧Vを下げてV=Vrとすると、櫛歯移動距離xpにおけるクーロン力曲線C(Vr)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xrまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。すなわち、可動電極6aのプルイン状態が解除されてアンロック状態となり、アーム3a,3bが開いた状態となる。
【0037】
このように、印加電圧Vを制御することにより、アーム3a,3bの開閉、プルインおよびプルイン解除を行うことができる。ところで、図6に示すように、プルインの際の可動電極6aの移動量は(xp−xb)であり、絶縁層の膜厚Δx0を調整することによりプルイン時の把持力増分を調整することができる。また、絶縁層の膜厚Δx0を大きくすることにより、プルイン解除時の可動電極6aの移動量(xp−xr)を小さくすることも可能である。
【0038】
例えば、図23において絶縁層膜厚を(l0−xc)のように大きくした場合、プルイン時のアーム3a,3bの変形量増加(xp−xc)は、膜厚Δx0の場合の変形増加量=xp−xdよりも小さくなる。その結果、プルイン状態における把持力の増加を小さくすることができ、例えば、生物試料のような強く把持したくない試料に好適である。
【0039】
印加電圧をロック電圧VpからV=V4へと減少させると、クーロン力曲線C(V4)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xeまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。上述した膜厚=l0−xpの場合には、印加電圧をVrまで下げないとプルインを解除できなかったが、膜厚=l0−xc(>l0−xp)の場合にプルイン解除に必要な印加電圧減少量を小さくできる。さらに、プルイン解除時の櫛歯移動距離を小さくすることができ、図23の場合にはxe>xdであるためアーム3a,3bは開かない。
【0040】
図7は、ナノピンセット装置50による各々の状態相互の移行の様子を示す図である。図7では、電圧上昇時の電圧であってアンロック電圧Vrと等しい電圧をクローズ電圧と呼び、クローズ電圧印加時の状態をクローズ状態と呼ぶ。通常、微小試料の把持の場合は、オープン状態からクローズ状態を経由してロック状態へ移行し、試料解放の場合は、ロック状態からアンロック状態を経由してオープン状態へ戻る。しかし、大電圧を急激に印加してオープン状態から直接にロック状態へ移行することも可能であり、また、ロック電圧Vpをアンロック電圧以下に急激に低下させてロック状態からオープン状態へ移行することも可能である。
【0041】
図8は、図1に示す操作部40aが設けられる操作パネル41を示す図である。操作パネル41には、操作部40aとして電源スイッチ42、オープンスイッチ43、ロック/アンロックスイッチ44、グリップスイッチ45、電圧調整ノブ46および出力パターン選択ダイヤル47が設けられている。出力パターン選択ダイヤル47は、左アーム用選択ダイヤル47aと右アーム用選択ダイヤル47bとで構成される。オープンスイッチ43およびグリップスイッチ45をそれぞれオンすると、アーム3a,3bのオープン動作およびグリップ動作をそれぞれ行わせることができる。
【0042】
ロック/アンロックスイッチ44は電源オン後に、最初に操作されるとロック動作が行われてプルイン(ロック)状態となり、再度操作するとプルイン解除動作が行われてアンロック状態と行われる。また、プルイン状態でオープンスイッチ43が操作されると、ロック/アンロックスイッチ44は電源オン直後の初期状態となり、同時に、クローズ状態或いはロック状態となる直前のオープン電圧(必ずしも0ではない)出力状態に復帰する。すなわち、ナノピンセット装置50は、再びロック/アンロックスイッチ44を操作すればロック動作が行われる状態となり、また、オープン電圧により決められたアーム間距離を保持している。電圧調整ノブ46は、回転させることにより連続的に印加電圧を変化させることができ、例えば上記のオープン電圧の設定を行うこともできる。グリップスイッチ45をオン操作すると、上述したクローズ電圧印加により、アーム3a,3bによる試料のグリップを行わせることができる。
【0043】
ところで、ナノピンセット1の機械的特性(例えば、アーム3a,3b、支持部7a,7bおよびアーム支持部9a,9bの弾性係数)はナノピンセット毎に微妙に異なり、また、左側と右側の機械的特性も同一であるとは限らない。そこで、本実施の形態のナノピンセット装置50では、制御部40の記憶部40bに、印加電圧と櫛歯移動距離との関係を表すデータ(以下では、電圧出力パターンと呼ぶ)を左右のアーム3a,3b毎に複数パターン記憶しておき、供されたナノピンセット1の特性に応じて電圧出力パターンを設定できるようにしている。実際には、記憶したデータは左右のアームの間で共通に使用でき、例えば、左アーム3a用のデータを右アーム3bでも利用できる。いずれの電圧出力パターンを適用すべきかは、出荷時に添付されているデータシートに記載されているので、ユーザはそれを参照して設定作業を行えばよい。そのような設定を行うことにより、アーム3a,3bは左右対称に駆動される。
【0044】
図9は、記憶部40bに記憶されている電圧出力パターンの一例を示す図であり、二種類のパターンP1,P2が示されている。上述したように、記憶部40bにはこれらのパターンが複数記憶されている。図8に示した例では、10種類の電圧出力パターンが記憶されており、左アーム用選択ダイヤル47aを操作して指標400を数字1に合わせると、パターンP1が左アーム3aの電圧出力パターンに設定される。また、右アーム用選択ダイヤル47bを操作して指標400を数字2に合わせると、パターンP2が右アーム3bの電圧出力パターンに設定される。
【0045】
同時に、各アーム3a,3b毎にロック電圧Vp1,Vp2およびアンロック電圧Vr1,Vr2も設定される。すなわち、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルインを行わせると、アーム3a側の電極5a,6aにはロック電圧Vp1が印加され、アーム3bの電極5b、6bにはロック電圧Vp2が印加される。同様に、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルインを解除すると、アーム3a側の電極5a,6aにはアンロック電圧Vr1が印加され、アーム3bの電極5b、6bにはアンロック電圧Vr2が印加される。
【0046】
また、電圧調整ノブ46を回転操作することによっても、電極5a,6aおよび電極5b、6bの印加電圧を同時に変えて開閉動作を行うことができる。図10は電圧調整ノブ46の回転数と印加電圧との関係を示す図であり、曲線K11はパターンP1に設定されたアーム3a側の関係を示し、曲線K12はパターンP2に設定されたアーム3b側の関係を示す。この場合、アーム3aとアーム3bとに適用される電圧出力パターンは異なるので、電圧調整ノブ46の回転数に対して、電極5a,6aに印加される電圧と電極5b,6bに印加される電圧とは異なっている。
【0047】
すなわち、電圧調整ノブ46の回転数をKrとすると、電極5a,6aにはアンロック電圧Vr1が印加され、電極5b,6bにはアンロック電圧Vr2が印加される。同様に、電圧調整ノブ46の回転数をKpとすると、電極5a,6aにはロック電圧Vp1が印加され、電極5b,6bにはロック電圧Vp2が印加される。また、回転数Kr,Kp以外の回転数においても、図9の電圧出力パターンP1,P2に従って印加電圧が与えられる。
【0048】
図11は、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルイン解除させる場合の、アンロック動作の一例を示す図であり、アンロック動作時の電圧変化をアーム3a,3b毎に示したものである。本実施の形態では、左右のアーム3a,3bのアンロック動作を同時に行わせるのではなく、時間差を設けて行うようにした。図11に示す例では、左側のアーム3aをアンロック動作させる。時刻t1でロック/アンロックスイッチ44が操作されてアンロックの指示が入力されると、左アーム3aに関するアンロック動作が開始され、電極5a,6aの印加電圧がロック電圧Vp1から徐々に下げられる。そして、時刻t2において、電極5a,6aの印加電圧はアンロック電圧Vr1となり、電極5a,6aのプルイン状態が解除される。時刻t2以後は、電極5a,6aの印加電圧はアンロック電圧Vr1に保持される。
【0049】
電極5a,6aの印加電圧がアンロック電圧Vr1となる時刻t2から所定時間Δtだけ経過したならば、右アーム3bの電極5b,6bの印加電圧をロック電圧Vp2から徐々に下げる。そして、時刻t4に印加電圧がアンロック電圧Vr2となったならば、印加電圧をアンロック電圧Vr1に保持する。すなわち、時刻t1にアンロック動作が開始され、時刻t4にアンロック動作が終了し、アーム3a,3bはそれぞれプルイン解除状態となる。その後、オープンスイッチ43をオン操作することにより、アーム3a,3bによる試料の把持が解除される。このように、所定時間Δtを設けて、アーム3a,3bの片側ずつプルイン状態の解除(アンロック)を行うことにより、アンロック動作時のアーム先端のブレを防止することができ、アンロック動作時に試料を落としてしまうようなことがない。
【0050】
次に、図12〜図20を参照して、SOI基板を用いてナノピンセット1を形成する場合の製造方法について説明する。SOI基板100としては、図12(a)に示すように<110>方位の単結晶シリコンから成るベース層101、SiO2から成る絶縁層102、<110>方位の単結晶シリコンから成るシリコン層103が順に積層された基板が用いられる。
【0051】
ナノピンセット1を形成する材料には、SOI基板だけでなく、ガラス基板上に単結晶シリコン層を有する基板、アモルファスシリコン基板、ポリシリコン基板上にSOI層を有する基板なども用いることができる。すなわち、最上層が<110>方位を有するシリコン層103であって、このシリコン層103の下層に絶縁層102が形成されているような層構造を有する基板であれば、ベース層101を多層構造としてもかまわない。
【0052】
SOI基板100の各層の厚さの一例を述べると、シリコン層103は25μm、絶縁層102は1μm、ベース層101は300μmである。また、SOI基板100上で1つのナノピンセット1を形成する領域は、縦、横ともに数mmの矩形状をしている。図12(a)に示す工程では、スパッタリング法や真空蒸着法などにより、厚さ約50nmのアルミ層104をシリコン層103の表面に形成する。
【0053】
次に、図12(b)に示すように、アルミ層104の表面にレジスト層105を約2μmの厚さで形成し、フォトリソグラフィによりレジスト層105を露光・現像することにより、図12(c)に示すレジストパターン105aを形成する。図15は、SOI基板100の斜視図であり、アルミ層104の上面に、アーム3、静電アクチュエータ4等に対応するレジストパターン105aが形成されている。なお、図12(c)は、図15のI−I断面を示したものである。
【0054】
図12(d)に示すように、このレジストパターン105aをマスクとして混酸液によりアルミ層104をエッチングし、シリコン層103を露出させる。その後、ICP−RIE(Inductively Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)によりシリコン層103を垂直方向に異方性エッチングする。このエッチングは絶縁層102が露出するまで行われ、エッチング終了後、硫酸・過酸化水素混合液によりレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去する(図13(a)参照)。
【0055】
図16は、レジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100を示す斜視図である。絶縁層102上には、シリコン層103による立体構造体が形成される。その立体構造体は、アーム3を構成する部分103aと、静電アクチュエータ4を構成する部分103bと、電極端子2a〜2fを構成する部分103cと、ガードを構成する部分103dとから成る。なお、ガードは、製造時にアーム3を損傷から防護するものであり、ナノピンセット1の構成部品ではないので、以下、その形成過程については説明を省略する。
【0056】
図13(b)に示すように、露出した絶縁層102およびシリコン層103(103a〜103c)を覆うようにレジスト106を塗布する。レジスト106の塗布厚さは10μm程度とする。その後、フォトリソグラフィによりレジスト106にマスクパターンを転写して現像することにより、図17に示すように、アーム構成部103aの先端部分におけるレジスト106が矩形状に除去されたレジストパターン106aを形成する。そして、レジストパターン106aをマスクとしてICP−RIEや通常のRIEなどを行い、アーム構成部103aの先端部分を所定の形状と寸法に加工する。
【0057】
次に、図13(c)に示すように、SOI基板100を表裏反転させて、スパッタリング法や真空蒸着法によりベース層101の表面にアルミ層107を形成する。アルミ層107の厚さは、約50nmとする。そして、アルミ層107の上にレジスト108を約2μmの厚さに形成した後に、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、そのレジスト108をマスクに用いてアルミ層107を混酸液によりエッチングする(図14(a)参照)。
【0058】
図18は、レジスト108およびアルミ層107の形状を示す斜視図である。図14(a)は、図18のII−II断面を示すものであり、絶縁層102の図示下側(表面側)にはシリコン層103によるアーム部103aの断面が図示されている。レジスト108は、連結部8に対応する部分111や台座10に対応する部分112などが残っており、逆に、アーム3の周辺領域が除去されてベース層101が露出している。
【0059】
その後、ベース層101の上に形成されたレジスト108およびアルミ層107をマスクとして、ベース層101をICP−RIEによりエッチングする。ベース層101は異方性エッチングにより垂直方向にエッチングされ、エッチングは絶縁層102が露出するまで行われる。図14(b)も図18のII−II断面を示すものであり、エッチング終了後に、硫酸・過酸化水素混液によりレジスト108,106およびアルミ層107を除去する。
【0060】
図19は、図14(b)に示すベース層101の裏面側を示す図である。エッチングにより、ベース層101には台座10、連絡部8などが形成される。次いで、台座10上に露出している酸化シリコンから成る絶縁層102を、緩衝フッ化水素溶液を用いてエッチングする。その結果、シリコン層103とベース層101とで挟まれた領域を除いて、絶縁層102が除去される(図14(c)参照)。
【0061】
図20は、ベース層101の表面側を示す斜視図であり、図14(c)は図20のIII−III断面を示したものである。上述したように、シリコン層103とベース層101との間には絶縁層102が介在している。その後、図14(d)に示すように、露出しているベース層101の上および各構造体を構成するシリコン層103の上に、真空蒸着法等によりアルミ等からなる導体膜109を形成する。導体膜109の厚さは500nm以下とする。このようにして、ナノピンセット1が完成するが、把持対象によってはFIBなどの加工装置によりアーム3を追加工しても良い。
【0062】
上述した実施の形態では、静電アクチュエータを用いたナノピンセットを例に説明したが、アーム3a、3bを駆動するアクチュエータは静電式のものに限らず、熱膨張を利用したものや、圧電体を用いたもの等でも良い。また、本発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアーム3a,3bを備える微少試料把持方法において、試料把持装置であるナノピンセット1を特定し、一対のアームが対称駆動されるように、特定したナノピンセット1に対応する駆動信号を一対のアクチュエータ4a,4bへ印加するものにも適用できる。すなわち、ナノピンセット1の左右アーム3a,3bに関して機械的特性の差違がない場合であって、製造ロット毎にバラツキが見られる場合には、左右のアクチュエータ4a,4b毎に電力出力パターンを設定せずに、左右とも共通の電力出力パターンに設定するようにしても良い。
【0063】
また、開閉駆動する一対のアクチュエータ4a,4bにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置であるナノピンセット1に使用する制御部40において、ナノピンセット1を特定する特定信号を発生する特定手段である出力パターン選択ダイヤル47と、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段であるオープンスイッチ43,電圧調整ノブ46,ロック/アンロックスイッチ44およびグリップスイッチ45と、一対のアーム3a,3bの開閉量と一対のアクチュエータ4a,4bに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを前記特定信号に対応付けて記憶する記憶手段である記憶部40aと、出力手段から指令信号が出力されると、特定信号に基づいて、複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、一対のアクチュエータ4a,4bへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段であるコントローラ2とを備えるようにしても良い。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態のナノピンセット装置50は、次のような作用効果を奏する。
(1)左右のアーム3a,3bの機械的特性に応じて印加電圧の電圧出力パターンを各々設定することができるので、アーム3a,3bの機械的特性のバラツキを補正してアーム3a,3bが左右対称に移動するように、静電アクチュエータ4a,4bへの駆動電圧の印加を独立して行うことができる。一旦、電圧出力パターンを設定すると、単独のスイッチ操作または電圧調整ノブ46の回転を行うことで各静電アクチュエータ4a,4bに異なる電圧が印加され、アーム3a,3bは左右対称に移動する。その結果、微少試料の正確な把持および解放が可能となる。
(2)また、記憶部40bには異なる電圧出力パターンが複数記憶されているので、ナノピンセット1の製造バラツキ等に起因する機械的なバラツキに容易に対応することができ、ナノピンセット1に対する要求精度を緩和することができる。
(3)アンロック動作時に、左右のアーム3a,3bの時間差Δtを設けてプルイン解除を行うことにより、アンロック動作時におけるアーム先端のブレを低減することができる。
【0065】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、ナノピンセット1は微少試料把持装置を、電圧調整ノブ46,オープンスイッチ43,ロック/アンロックスイッチ44,グリップスイッチ45は出力手段を、制御部40は駆動信号印加手段を、操作部40aは出力制御手段を、ロック/アンロックスイッチ44はロック指示手段およびアンロック指示手段を、グリップスイッチ45はグリップ指示手段をそれぞれ構成する。なお、本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係るナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。
【図2】図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。
【図3】図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。
【図4】ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。
【図5】櫛歯移動距離とクーロン力および弾性力の変化を示す図である。
【図6】印加電圧Vと可動電極6aの櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。
【図7】ナノピンセット装置における各々の状態相互の移行の様子を示す図である。
【図8】操作パネル41を示す図である。
【図9】パターンP1,P2を示す図である。
【図10】電圧調整ノブ46の回転数と印加電圧との関係を示す図である。
【図11】アンロック動作を説明する図である。
【図12】ナノピンセット1の製造工程を説明する図であり、図12(a)〜図12(d)の順に工程が進む。
【図13】図12に続く工程を示す図であり、図13(a)〜図13(c)の順に工程が進む。
【図14】図13に続く工程を示す図であり、図14(a)〜図14(d)の順に工程が進む。
【図15】図12(c)に示すSOI基板100の斜視図である。
【図16】図15に示すレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100の斜視図である。
【図17】レジストパターン106aの形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図18】図14(a)に示すレジストパターン108およびアルミ層107の形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図19】図14(b)に示すベース層101の裏面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図20】図14(c)に示すベース層101の表面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図21】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はアーム3a,3bが開いている場合を示し、(b)はアーム3a,3bが閉じている状態を示す。
【図22】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はプルイン前の状態を示し、(b)はプルイン状態を示す。
【図23】アンロック動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1:ナノピンセット 2:コントローラ
3a,3b:アーム 4a,4b:静電アクチュエータ
5a,5b:固定電極 6a,6b:可動電極
7a,7b:支持部 8a,8b:連結部
9a,9b:アーム支持部 10:台座
20a,20b:DC電源 40:制御部
40a:操作部 40b:記憶部
43:オープンスイッチ 44:ロック/アンロックスイッチ
45:グリップスイッチ 46:電圧調整ノブ
47:出力パターン選択ダイヤル 50:ナノピンセット装置
100:SOIウエハ 101:ベース層
102:絶縁層 103:シリコン層
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体を把持および解放を行う微小試料把持装置のコントローラ、微小試料把持方法および微小試料把持システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノピンセットは、一対のアームの先端部の開閉動作により、ナノオーダーあるいはミクロンオーダーサイズの微小物体を把持し、移送し、開放する機能を有する。従来、一対のアームの開閉を行わせるためのアクチュエータとしては、静電方式、熱方式、圧電方式など種々のものが提案されている。静電方式のアクチュエータとしては、一対のアームのそれぞれに形成された櫛歯電極間に働く静電力によりアームを開閉させるものや、往復運動する搬送子を用いて各アームを所定量ずつ駆動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−52072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一対のアームの機械的特性、例えば弾性特性は製造バラツキなどのために厳密に同一とするのは難しく、左右で異なっている場合が多い。そのため、櫛歯電極間に働く静電力によりアームを開閉させるものでは、一対のアームの動きが左右対称とならないという不都合が生じる。また、搬送子を用いる装置においても、上述したアームの機械的特性や、各アーム毎に設けられた搬送子駆動用静電アクチュエータのバラツキ等により、左右アームの動きにアンバランスが生じる。そのため、いずれの装置の場合も、試料の把持および解放を正確に行えないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持方法に適用され、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加することを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラに適用され、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、出力手段からアーム開閉指令信号が出力されると、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項2に記載のコントローラにおいて、一対のアームをそれぞれ第1および第2のアームとし、一対のアクチュエータをそれぞれ第1および第2のアクチュエータとする場合、駆動信号印加手段は、第1のアームの開閉量と第1のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第1のデータ、および、第2のアームの開閉量と第2のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第2のデータを記憶する記憶手段と、第1のデータに基づいて第1のアクチュエータに駆動信号を印加して第1のアームを開閉駆動し、第2のデータに基づいて第2のアクチュエータに駆動信号を印加して第2のアームを開閉駆動する出力制御手段とを備えるようにしたものである。
(4)請求項4の発明では、請求項3に記載のコントローラにおいて、一対のアクチュエータはクーロン力で一対のアームを開閉する静電アクチュエータであり、一対のアームが対象物を把持したのち、一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が、対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を一対の静電アクチュエータへ印加するロック指示手段を備え、ロック駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(5)請求項5の発明では、請求項4に記載のコントローラにおいて、ロック駆動電圧により一対のアームが対象物を把持したのち、一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加するアンロック指示手段を備え、アンロック駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(6)請求項6の発明では、請求項4または5に記載のコントローラにおいて、開放されている一対のアームで対象物を把持させる際に、一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を一対の静電アクチュエータへ印加するグリップ指示手段を備え、グリップ駆動電圧は第1および第2のデータに基づいて決定される。
(7)請求項7の発明による微小試料把持システムは、開閉する一対のアームと、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有し、その可動電極で一対のアームの各々を開閉駆動する一対の静電アクチュエータと、請求項2乃至6のいずれか1項に記載のコントローラとを備えることを特徴とする。
(8)請求項8の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアームを備える微小試料把持装置により対象物を把持する微小試料把持方法に適用され、微小試料把持装置を特定し、一対のアームが対称駆動されるように、特定した微小試料把持装置に対応する駆動信号を一対のアクチュエータへ印加することを特徴とする。
(9)請求項9の発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラに適用され、微小試料把持装置を特定する特定信号を発生する特定手段と、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、一対のアームの開閉量と一対のアクチュエータに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを特定信号に対応付けて記憶する記憶手段と、出力手段から指令信号が出力されると、特定信号に基づいて、複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、一対のアクチュエータへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一対のアームが対称駆動されるように、一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加するようにしたので、試料の把持および解放を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。ナノピンセット装置50は、ナノピンセット1と、コントローラ2とを備えている。コントローラ2にはDC電源20a,20bおよび制御部40が設けられている。制御部40には操作ダイヤルや操作スイッチ等が設けられる操作部40aとデータ記憶用の記憶部40bが設けられている。ナノピンセット1は、後述するようにSOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、SiO2層を介して貼り合わせたものである。
【0008】
図1に示すように、ナノピンセット1は、一対のアーム3a,3bと、一対の静電アクチュエータ4a,4bと、一対の支持部7a,7bと、一対の連結部8a,8bと、一対のアーム支持部9a,9bと、台座10とを備える。静電アクチュエータ4aには、固定電極5aおよび可動電極6aが設けられ、静電アクチュエータ4bには固定電極5bおよび可動電極6bが設けられている。台座10は、不図示のホルダに着脱可能に取り付けられ、そのホルダは、不図示の移動機構により3次元方向に移動可能であり、これにより、ナノピンセット1全体が3次元方向に移動可能となっている。
【0009】
図2を参照しながら、ナノピンセット1の構造を詳しく説明する。図2は、図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。図2以下では、ナノピンセット1の左右対称に設けられる構成部品については、主として左側についてのみ説明する。固定電極5aおよび可動電極6aは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5aは台座10に固定されているが、可動電極6aは、細いビーム状の支持部7aによって台座10に弾性的に固定されている。アーム3a,3bは、それぞれ細いビーム状のアーム支持部9a,9bを介して台座10に弾性的に固定されている。アーム3aと可動電極6aとは連結部8aによって連結され、アーム3bと可動電極6bとは連結部8bによって連結されている。
【0010】
ナノピンセット1には、左側電極端子2a、左側電極端子2b、左アーム用電極端子2c、右アーム用電極端子2d、右側電極端子2e、右側電極端子2fおよびアース電極端子2gが形成されている。左側電極端子2aは固定電極5aに接続され、左側電極端子2bは可動電極6aに接続され、左アーム用電極端子2cはアーム3aに接続されている。右アーム用電極端子2dはアーム3bに接続され、右側電極端子2eは可動電極6bに接続され、右側電極端子2fは固定電極5bに接続され、アース電極端子2gは台座10に接続されている。これら7つの電極端子2a〜2gとコントローラ2の7つの端子2a〜2gとが、対応する符号同士接続されている。
【0011】
コントローラ2において、左側電極2a,2bの間にはDC電源20aが接続され、右側電極2e,2fの間にはDC電源20bが接続されている。左側電極2a,2b間に直流電圧を印加することにより、固定電極5aと可動電極6aとの間にクーロン力による静電引力を発生させ、可動電極6aを固定電極5aに対して動かすことができる。右側の固定電極5b,可動電極6bについても同様に動作する。制御部40はDC電源20a,20bをそれぞれ独立に制御し、静電アクチュエータ4a,4bに印加される駆動電圧を独立に制御する。
【0012】
左アーム用電極端子2cと右アーム用電極端子2dは、アーム3a,3b間に作用する電気量などを検出するために設けられている。そのため、アーム3a,3bは、それぞれ可動電極6a,6bとは絶縁されている。アース電極端子2gは、台座10が浮遊電極になるのを防ぐために設けられている。また、チップ抵抗R1〜R6は、ナノピンセット1に人体が接触したり、ナノピンセット1とコントローラ2とを結ぶケーブルが電磁波を受けたりしてノイズが混じるのを防ぐために設けられている。
【0013】
図3は、図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。可動電極6aと固定電極5aとの間に電圧を印加すると、可動電極6aが固定電極5aに対して、図3の右方向(x方向)に動くことにより、アーム3aがx方向に駆動される。電圧印加を解除すると、アーム3aは元の位置、つまり図3に示す位置へ復帰する。右側については動作が反転するだけであり、同様に、可動電極6bが固定電極5bに対して、図中、左方向に動くことにより、アーム3bが左方向に駆動される。したがって、アーム間隔Dを変えることができ、微小物体を把持したり解放したりすることができる。
【0014】
ここで、静電アクチュエータ4a,4bの動作原理を説明する。
図4は、ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。印加電圧V=0の初期状態におけるアーム間隔DをD0とする。櫛歯型静電アクチュエータの典型的なモデルでは、固定電極5aと可動電極6aとの間に生じる静電容量Ccomb(x)は、可動電極6aの初期位置からの移動距離xの関数として式(1)で与えられる。但し、式(1)において、ε0は真空の誘電率、wは櫛歯の幅、l0は櫛歯先端と対向する電極の壁面との初期間隔、lは櫛歯の長さ、gは櫛歯間のギャップ、bは櫛歯の厚み、Vは印加電圧、Nは櫛歯の本数であり、これらは図4に対比させて示されている。
【数1】
【0015】
このとき、可動電極6a,固定電極5a間に蓄えられるエネルギーはCcomb(x)V2/2なので、電極間に発生するクーロン力(静電気力)Fcomb(x)は式(2)で与えられる。
【数2】
【0016】
次に、アーム3aが初期位置から閉じるように移動した場合の弾性力について説明する。図2に示すようにアーム3aと可動電極6aとは連結部8により一体とされ、それらは支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性的に支持されている。ただし、支持部7aの弾性力に対してアーム支持部9aの弾性力は比較的小さいので、以下ではアーム支持部9aの弾性力を無視して説明する。
【0017】
可動電極6aに設けられた一対の支持部7aを片持ち梁とみなして、モールの定理により導かれる応力の一般式を用いると、支持部7aの弾性力Fel(x)は、可動電極6aの移動距離xの関数として式(3)のように表される。式(3)において、Lは支持部7aの長さ、Bは支持部7aの幅、hは支持部7aの厚さ、E(GPa)はシリコンの横弾性係数、Nsは支持部7aの数である。
【数3】
【0018】
左右のアーム3a,3bが互いに接触してアーム間隔Dが0となったときの可動電極6aの移動距離をxdとすると、式(3)で表される支持部7aの弾性力Fe l (x)は、0≦x<xdの範囲で成り立つ。アーム間隔Dが0となった後に、さらに可動電極6aが移動してアーム3a,3bが変形すると、アーム3aと3bの変形による弾性力が上記Fe l (x)に加算されることになる。このとき、アーム3a,3bをアーム先端から連結部8の力点までを片持ち梁状構造体(バネ定数をkとする)と仮定すると、アーム3a,3bの変形による弾性力はk(x−xd)にて表され、xd ≦x<l0の範囲では、式(4)のように表される。l0は櫛歯の先端と谷部との隙間の初期値であり、x=l0のとき隙間はゼロとなる。
【数4】
【0019】
図5は、式(2)で表されるクーロン力Fcomb(x)と、式(3)、(4)で表される弾性力Fe l (x)を、可動電極6aの移動距離である櫛歯移動距離xに関して示したものである。図5において、縦軸はクーロン力または弾性力を、横軸は櫛歯移動距離xをそれぞれ表している。
【0020】
曲線C1,C2は印加電圧がV1,V2(V2>V1)の場合のクーロン力を示し、直線部E1は式(3)による弾性力を、直線部E2は式(4)による弾性力をそれぞれ示している。上述したようにxdはアーム3a,3bが互いに接触した時の移動距離であり、x>xdではアーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、直線部E2の傾きは直線部E1の傾きよりも大きくなっている。
【0021】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の開閉動作について説明する。上述したように、連結部8aにより一体となった可動電極6aおよびアーム3aは、支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性支持されている。そのため、電極5a,6aに電圧を印加すると、電極間に働くクーロン力(式(2)参照)によるアーム3aを閉じようとする力と、そのクーロン力に反してアーム3aを初期位置に戻そうとする弾性力とが釣り合う位置まで可動電極6aおよびアーム3aが移動することになる。ただし、ここでは、上述したようにアーム支持部9aの弾性力は無視して考える。
【0022】
そして、印加電圧を大きくする程この櫛歯移動距離xは大きくなり、アーム間隔D(図3参照)が小さくなる。図5における曲線C1と直線部E1との交点は、印加電圧がV1のときにクーロン力と弾性力とが釣り合う位置を表しており、図21(a)に示すように櫛歯移動距離はxaでアーム間隔は(D0−2xa)となる。なお、D0は、櫛歯移動距離xがx=0のときのアーム間隔初期値である。
【0023】
図6は、印加電圧Vと櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。印加電圧Vを0から徐々に大きくすると、曲線F1上を左端から右方向へと移動して櫛歯移動距離xが大きくなる。上述したように、印加電圧V1では櫛歯移動距離はxaとなり、印加電圧をV3に増加すると櫛歯移動距離がxdとなって図21(b)に示すようにアーム3a,3b同士が接触する。さらに印加電圧を増加させると、図22(a)に示すように可動電極6a,6bはアーム3a,3bを変形させつつ移動する。このとき、アーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、電圧変化に対する移動距離変化傾向がx=xdの前後で変化する。
【0024】
図5において、印加電圧を徐々に大きくすると、クーロン力を示す曲線は右上がりの傾向が大きくなると共に全体的に図示上方へと移動する。そのため、クーロン力の曲線と弾性力に関する直線部E1,E2との交点は右方向へ移動する。すなわち、印加電圧Vの増加に伴う交点の右方向への移動が、図6の曲線F1上における右方向への移動に対応している。
【0025】
(プルインに関する説明)
ところで、印加電圧をさらに増加させてV2とすると、図5の曲線C2のように直線部E1,E2よりも常に上側となる。すなわち、どのような櫛歯移動距離xであってもクーロン力が常に弾性力を上回る状態(クーロン力>弾性力)となり、印加電圧をそれ以上増加させなくても可動電極6が固定電極5aに引き寄せられ、図22(b)に示すような密着状態となる。このような現象のことを、プルイン(Pull-in)現象と呼ぶ。
【0026】
このようなプルイン現象が発生する電圧は、クーロン力の曲線と弾性力の直線部E1,E2との接点が無くなる電圧Vpであって、ここでは電圧Vpをロック電圧と呼ぶことにする。なお、本実施の形態では、プルイン時に固定電極5aと可動電極6aとが短絡するのを防止するために、70nm程度の厚さの絶縁層が固定電極5aおよび可動電極6aの表面に形成されている。
【0027】
図6において、印加電圧VをV3からVpへと徐々に増加させると、櫛歯移動距離xはxdからxbへと移動する。そして、印加電圧がロック電圧Vpに達すると、xbからxpまで急激に移動して可動電極6aが固定電極5aに密着する。なお、プルイン状態における移動距離xpは櫛歯電極の初期間隔l0に等しい。
【0028】
印加電圧がVpとなる直前におけるアーム3a,3bの把持力は、アーム変形量(xb−xd)に対応した弾性力であるが、プルイン状態(V=Vp)になるとアーム変形量(xp−xd)に対応した弾性力へと増加するので、その弾性力増分はアーム3a,3bをさらに(xp−xb)だけ変形させるのに要する力に等しい。すなわち、わずかな電圧増加で把持力を大きく増加させることができる。なお、上述した把持力は、図22(b)に示すようにアーム3a,3b間に試料を把持していない場合の値であり、試料を把持した場合には試料の寸法に応じて異なる。
【0029】
このように、プルイン状態では大きなクーロン力によって可動電極6aが固定電極5aに密着して固定状態となっているため、電極5a,6a同士が一体になっているとみなすことができる。その結果、ナノピンセット1に対して、搬送に伴う振動が加わったり、外部衝撃が加わったりしても、安定して試料を把持し続けることができ、試料搬送の信頼性を著しく向上させることができる。
【0030】
(プルアウトに関する説明)
次に、プルイン状態の解除動作について説明する。プルイン状態を解除するためには、ロック電圧Vpとなっている印加電圧を減少させれば良い。実際に印加電圧をVpから減少させると、図6の直線F2に示すように印加電圧がVrとなるまでプルイン状態が継続され、可動電極6aは固定電極5aに密着したままである。そして、印加電圧がVrとなったときにプルイン状態が解除され、弾性力と印加電圧Vrにおけるクーロン力とが釣り合う櫛歯移動距離xrまで可動電極6aが移動する。図6に示す例では、xr<xdとなっているので、アーム3a,3bが開くことになる。ここでは、電圧Vrをアンロック電圧と呼ぶことにする。
【0031】
このように、プルイン状態となる電圧(ロック電圧Vp)とプルイン状態が解除される電圧(アンロック電圧Vr)とが異なる原因として、次のような理由が考えられる。図23はアンロック電圧Vrを説明する図であり、クーロン力または弾性力と櫛歯移動距離xとの関係を示したものである。なお、図23では、櫛歯移動距離xが小さい領域については、説明に必要ない領域であるので図示を省略した。
【0032】
図23において、曲線C(Vp)は印加電圧がロック電圧Vpのときのクーロン力を示しており、曲線C(Vr)は印加電圧がアンロック電圧Vrのときのクーロン力を示している。曲線C(Vr)は、櫛歯移動距離xrで直線部E1と交わっている。また、曲線C(V4)は印加電圧V4のときのクーロン力を示しており、Vp>V4>Vrである。
【0033】
前述したように、固定電極5aおよび可動電極6aには、プルイン状態のときに電極5a,6a同士が短絡しないように表面に絶縁層が形成されている。また、電極5a,6aの接触面は理想的な平面ではなく微少な凹凸が有るため、プルイン状態のときに電極5a,6a間の距離は厳密にはゼロになっていない。そのため、プルイン状態となっていても、電極5a,6a間には絶縁層の厚さΔx0に相当する隙間が形成されている。すなわち、プルイン状態の時の櫛歯移動距離xpはxp=l0−Δx0となっている。
【0034】
仮に、絶縁層が無く、固定電極5aと可動電極6aとが厳密に密着していた場合、櫛歯移動距離xはx=l0となるので、電極5a,6aに僅かでも電圧が印加されていれば、プルイン状態のx=l0ではクーロン力が無限大となる。しかし、実際には接触面に凹凸や自然酸化膜があったり、上述したように絶縁層が形成されていたりするため、プルイン状態となっていてもクーロン力が無限大になることはない。
【0035】
例えば、図23に示す例では、厚さΔx0の絶縁層が形成されているので、プルイン状態(x=xp)であっても、曲線C(Vp),C(V4),C(Vr)で示したクーロン力は無限大になっていない。このとき、ロック電圧Vpのプルイン状態から印加電圧VをV4まで減少させた場合を考えると、図23のクーロン力曲線C(V4)からも分かるように、櫛歯移動距離xpにおいてはクーロン力>弾性力となっている。そのため、可動電極6aが固定電極5aから離れることはなく、プルイン状態が維持される。
【0036】
ところが、さらに印加電圧Vを下げてV=Vrとすると、櫛歯移動距離xpにおけるクーロン力曲線C(Vr)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xrまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。すなわち、可動電極6aのプルイン状態が解除されてアンロック状態となり、アーム3a,3bが開いた状態となる。
【0037】
このように、印加電圧Vを制御することにより、アーム3a,3bの開閉、プルインおよびプルイン解除を行うことができる。ところで、図6に示すように、プルインの際の可動電極6aの移動量は(xp−xb)であり、絶縁層の膜厚Δx0を調整することによりプルイン時の把持力増分を調整することができる。また、絶縁層の膜厚Δx0を大きくすることにより、プルイン解除時の可動電極6aの移動量(xp−xr)を小さくすることも可能である。
【0038】
例えば、図23において絶縁層膜厚を(l0−xc)のように大きくした場合、プルイン時のアーム3a,3bの変形量増加(xp−xc)は、膜厚Δx0の場合の変形増加量=xp−xdよりも小さくなる。その結果、プルイン状態における把持力の増加を小さくすることができ、例えば、生物試料のような強く把持したくない試料に好適である。
【0039】
印加電圧をロック電圧VpからV=V4へと減少させると、クーロン力曲線C(V4)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xeまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。上述した膜厚=l0−xpの場合には、印加電圧をVrまで下げないとプルインを解除できなかったが、膜厚=l0−xc(>l0−xp)の場合にプルイン解除に必要な印加電圧減少量を小さくできる。さらに、プルイン解除時の櫛歯移動距離を小さくすることができ、図23の場合にはxe>xdであるためアーム3a,3bは開かない。
【0040】
図7は、ナノピンセット装置50による各々の状態相互の移行の様子を示す図である。図7では、電圧上昇時の電圧であってアンロック電圧Vrと等しい電圧をクローズ電圧と呼び、クローズ電圧印加時の状態をクローズ状態と呼ぶ。通常、微小試料の把持の場合は、オープン状態からクローズ状態を経由してロック状態へ移行し、試料解放の場合は、ロック状態からアンロック状態を経由してオープン状態へ戻る。しかし、大電圧を急激に印加してオープン状態から直接にロック状態へ移行することも可能であり、また、ロック電圧Vpをアンロック電圧以下に急激に低下させてロック状態からオープン状態へ移行することも可能である。
【0041】
図8は、図1に示す操作部40aが設けられる操作パネル41を示す図である。操作パネル41には、操作部40aとして電源スイッチ42、オープンスイッチ43、ロック/アンロックスイッチ44、グリップスイッチ45、電圧調整ノブ46および出力パターン選択ダイヤル47が設けられている。出力パターン選択ダイヤル47は、左アーム用選択ダイヤル47aと右アーム用選択ダイヤル47bとで構成される。オープンスイッチ43およびグリップスイッチ45をそれぞれオンすると、アーム3a,3bのオープン動作およびグリップ動作をそれぞれ行わせることができる。
【0042】
ロック/アンロックスイッチ44は電源オン後に、最初に操作されるとロック動作が行われてプルイン(ロック)状態となり、再度操作するとプルイン解除動作が行われてアンロック状態と行われる。また、プルイン状態でオープンスイッチ43が操作されると、ロック/アンロックスイッチ44は電源オン直後の初期状態となり、同時に、クローズ状態或いはロック状態となる直前のオープン電圧(必ずしも0ではない)出力状態に復帰する。すなわち、ナノピンセット装置50は、再びロック/アンロックスイッチ44を操作すればロック動作が行われる状態となり、また、オープン電圧により決められたアーム間距離を保持している。電圧調整ノブ46は、回転させることにより連続的に印加電圧を変化させることができ、例えば上記のオープン電圧の設定を行うこともできる。グリップスイッチ45をオン操作すると、上述したクローズ電圧印加により、アーム3a,3bによる試料のグリップを行わせることができる。
【0043】
ところで、ナノピンセット1の機械的特性(例えば、アーム3a,3b、支持部7a,7bおよびアーム支持部9a,9bの弾性係数)はナノピンセット毎に微妙に異なり、また、左側と右側の機械的特性も同一であるとは限らない。そこで、本実施の形態のナノピンセット装置50では、制御部40の記憶部40bに、印加電圧と櫛歯移動距離との関係を表すデータ(以下では、電圧出力パターンと呼ぶ)を左右のアーム3a,3b毎に複数パターン記憶しておき、供されたナノピンセット1の特性に応じて電圧出力パターンを設定できるようにしている。実際には、記憶したデータは左右のアームの間で共通に使用でき、例えば、左アーム3a用のデータを右アーム3bでも利用できる。いずれの電圧出力パターンを適用すべきかは、出荷時に添付されているデータシートに記載されているので、ユーザはそれを参照して設定作業を行えばよい。そのような設定を行うことにより、アーム3a,3bは左右対称に駆動される。
【0044】
図9は、記憶部40bに記憶されている電圧出力パターンの一例を示す図であり、二種類のパターンP1,P2が示されている。上述したように、記憶部40bにはこれらのパターンが複数記憶されている。図8に示した例では、10種類の電圧出力パターンが記憶されており、左アーム用選択ダイヤル47aを操作して指標400を数字1に合わせると、パターンP1が左アーム3aの電圧出力パターンに設定される。また、右アーム用選択ダイヤル47bを操作して指標400を数字2に合わせると、パターンP2が右アーム3bの電圧出力パターンに設定される。
【0045】
同時に、各アーム3a,3b毎にロック電圧Vp1,Vp2およびアンロック電圧Vr1,Vr2も設定される。すなわち、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルインを行わせると、アーム3a側の電極5a,6aにはロック電圧Vp1が印加され、アーム3bの電極5b、6bにはロック電圧Vp2が印加される。同様に、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルインを解除すると、アーム3a側の電極5a,6aにはアンロック電圧Vr1が印加され、アーム3bの電極5b、6bにはアンロック電圧Vr2が印加される。
【0046】
また、電圧調整ノブ46を回転操作することによっても、電極5a,6aおよび電極5b、6bの印加電圧を同時に変えて開閉動作を行うことができる。図10は電圧調整ノブ46の回転数と印加電圧との関係を示す図であり、曲線K11はパターンP1に設定されたアーム3a側の関係を示し、曲線K12はパターンP2に設定されたアーム3b側の関係を示す。この場合、アーム3aとアーム3bとに適用される電圧出力パターンは異なるので、電圧調整ノブ46の回転数に対して、電極5a,6aに印加される電圧と電極5b,6bに印加される電圧とは異なっている。
【0047】
すなわち、電圧調整ノブ46の回転数をKrとすると、電極5a,6aにはアンロック電圧Vr1が印加され、電極5b,6bにはアンロック電圧Vr2が印加される。同様に、電圧調整ノブ46の回転数をKpとすると、電極5a,6aにはロック電圧Vp1が印加され、電極5b,6bにはロック電圧Vp2が印加される。また、回転数Kr,Kp以外の回転数においても、図9の電圧出力パターンP1,P2に従って印加電圧が与えられる。
【0048】
図11は、ロック/アンロックスイッチ44を操作してプルイン解除させる場合の、アンロック動作の一例を示す図であり、アンロック動作時の電圧変化をアーム3a,3b毎に示したものである。本実施の形態では、左右のアーム3a,3bのアンロック動作を同時に行わせるのではなく、時間差を設けて行うようにした。図11に示す例では、左側のアーム3aをアンロック動作させる。時刻t1でロック/アンロックスイッチ44が操作されてアンロックの指示が入力されると、左アーム3aに関するアンロック動作が開始され、電極5a,6aの印加電圧がロック電圧Vp1から徐々に下げられる。そして、時刻t2において、電極5a,6aの印加電圧はアンロック電圧Vr1となり、電極5a,6aのプルイン状態が解除される。時刻t2以後は、電極5a,6aの印加電圧はアンロック電圧Vr1に保持される。
【0049】
電極5a,6aの印加電圧がアンロック電圧Vr1となる時刻t2から所定時間Δtだけ経過したならば、右アーム3bの電極5b,6bの印加電圧をロック電圧Vp2から徐々に下げる。そして、時刻t4に印加電圧がアンロック電圧Vr2となったならば、印加電圧をアンロック電圧Vr1に保持する。すなわち、時刻t1にアンロック動作が開始され、時刻t4にアンロック動作が終了し、アーム3a,3bはそれぞれプルイン解除状態となる。その後、オープンスイッチ43をオン操作することにより、アーム3a,3bによる試料の把持が解除される。このように、所定時間Δtを設けて、アーム3a,3bの片側ずつプルイン状態の解除(アンロック)を行うことにより、アンロック動作時のアーム先端のブレを防止することができ、アンロック動作時に試料を落としてしまうようなことがない。
【0050】
次に、図12〜図20を参照して、SOI基板を用いてナノピンセット1を形成する場合の製造方法について説明する。SOI基板100としては、図12(a)に示すように<110>方位の単結晶シリコンから成るベース層101、SiO2から成る絶縁層102、<110>方位の単結晶シリコンから成るシリコン層103が順に積層された基板が用いられる。
【0051】
ナノピンセット1を形成する材料には、SOI基板だけでなく、ガラス基板上に単結晶シリコン層を有する基板、アモルファスシリコン基板、ポリシリコン基板上にSOI層を有する基板なども用いることができる。すなわち、最上層が<110>方位を有するシリコン層103であって、このシリコン層103の下層に絶縁層102が形成されているような層構造を有する基板であれば、ベース層101を多層構造としてもかまわない。
【0052】
SOI基板100の各層の厚さの一例を述べると、シリコン層103は25μm、絶縁層102は1μm、ベース層101は300μmである。また、SOI基板100上で1つのナノピンセット1を形成する領域は、縦、横ともに数mmの矩形状をしている。図12(a)に示す工程では、スパッタリング法や真空蒸着法などにより、厚さ約50nmのアルミ層104をシリコン層103の表面に形成する。
【0053】
次に、図12(b)に示すように、アルミ層104の表面にレジスト層105を約2μmの厚さで形成し、フォトリソグラフィによりレジスト層105を露光・現像することにより、図12(c)に示すレジストパターン105aを形成する。図15は、SOI基板100の斜視図であり、アルミ層104の上面に、アーム3、静電アクチュエータ4等に対応するレジストパターン105aが形成されている。なお、図12(c)は、図15のI−I断面を示したものである。
【0054】
図12(d)に示すように、このレジストパターン105aをマスクとして混酸液によりアルミ層104をエッチングし、シリコン層103を露出させる。その後、ICP−RIE(Inductively Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)によりシリコン層103を垂直方向に異方性エッチングする。このエッチングは絶縁層102が露出するまで行われ、エッチング終了後、硫酸・過酸化水素混合液によりレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去する(図13(a)参照)。
【0055】
図16は、レジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100を示す斜視図である。絶縁層102上には、シリコン層103による立体構造体が形成される。その立体構造体は、アーム3を構成する部分103aと、静電アクチュエータ4を構成する部分103bと、電極端子2a〜2fを構成する部分103cと、ガードを構成する部分103dとから成る。なお、ガードは、製造時にアーム3を損傷から防護するものであり、ナノピンセット1の構成部品ではないので、以下、その形成過程については説明を省略する。
【0056】
図13(b)に示すように、露出した絶縁層102およびシリコン層103(103a〜103c)を覆うようにレジスト106を塗布する。レジスト106の塗布厚さは10μm程度とする。その後、フォトリソグラフィによりレジスト106にマスクパターンを転写して現像することにより、図17に示すように、アーム構成部103aの先端部分におけるレジスト106が矩形状に除去されたレジストパターン106aを形成する。そして、レジストパターン106aをマスクとしてICP−RIEや通常のRIEなどを行い、アーム構成部103aの先端部分を所定の形状と寸法に加工する。
【0057】
次に、図13(c)に示すように、SOI基板100を表裏反転させて、スパッタリング法や真空蒸着法によりベース層101の表面にアルミ層107を形成する。アルミ層107の厚さは、約50nmとする。そして、アルミ層107の上にレジスト108を約2μmの厚さに形成した後に、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、そのレジスト108をマスクに用いてアルミ層107を混酸液によりエッチングする(図14(a)参照)。
【0058】
図18は、レジスト108およびアルミ層107の形状を示す斜視図である。図14(a)は、図18のII−II断面を示すものであり、絶縁層102の図示下側(表面側)にはシリコン層103によるアーム部103aの断面が図示されている。レジスト108は、連結部8に対応する部分111や台座10に対応する部分112などが残っており、逆に、アーム3の周辺領域が除去されてベース層101が露出している。
【0059】
その後、ベース層101の上に形成されたレジスト108およびアルミ層107をマスクとして、ベース層101をICP−RIEによりエッチングする。ベース層101は異方性エッチングにより垂直方向にエッチングされ、エッチングは絶縁層102が露出するまで行われる。図14(b)も図18のII−II断面を示すものであり、エッチング終了後に、硫酸・過酸化水素混液によりレジスト108,106およびアルミ層107を除去する。
【0060】
図19は、図14(b)に示すベース層101の裏面側を示す図である。エッチングにより、ベース層101には台座10、連絡部8などが形成される。次いで、台座10上に露出している酸化シリコンから成る絶縁層102を、緩衝フッ化水素溶液を用いてエッチングする。その結果、シリコン層103とベース層101とで挟まれた領域を除いて、絶縁層102が除去される(図14(c)参照)。
【0061】
図20は、ベース層101の表面側を示す斜視図であり、図14(c)は図20のIII−III断面を示したものである。上述したように、シリコン層103とベース層101との間には絶縁層102が介在している。その後、図14(d)に示すように、露出しているベース層101の上および各構造体を構成するシリコン層103の上に、真空蒸着法等によりアルミ等からなる導体膜109を形成する。導体膜109の厚さは500nm以下とする。このようにして、ナノピンセット1が完成するが、把持対象によってはFIBなどの加工装置によりアーム3を追加工しても良い。
【0062】
上述した実施の形態では、静電アクチュエータを用いたナノピンセットを例に説明したが、アーム3a、3bを駆動するアクチュエータは静電式のものに限らず、熱膨張を利用したものや、圧電体を用いたもの等でも良い。また、本発明は、開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアーム3a,3bを備える微少試料把持方法において、試料把持装置であるナノピンセット1を特定し、一対のアームが対称駆動されるように、特定したナノピンセット1に対応する駆動信号を一対のアクチュエータ4a,4bへ印加するものにも適用できる。すなわち、ナノピンセット1の左右アーム3a,3bに関して機械的特性の差違がない場合であって、製造ロット毎にバラツキが見られる場合には、左右のアクチュエータ4a,4b毎に電力出力パターンを設定せずに、左右とも共通の電力出力パターンに設定するようにしても良い。
【0063】
また、開閉駆動する一対のアクチュエータ4a,4bにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置であるナノピンセット1に使用する制御部40において、ナノピンセット1を特定する特定信号を発生する特定手段である出力パターン選択ダイヤル47と、アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段であるオープンスイッチ43,電圧調整ノブ46,ロック/アンロックスイッチ44およびグリップスイッチ45と、一対のアーム3a,3bの開閉量と一対のアクチュエータ4a,4bに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを前記特定信号に対応付けて記憶する記憶手段である記憶部40aと、出力手段から指令信号が出力されると、特定信号に基づいて、複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、一対のアクチュエータ4a,4bへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段であるコントローラ2とを備えるようにしても良い。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態のナノピンセット装置50は、次のような作用効果を奏する。
(1)左右のアーム3a,3bの機械的特性に応じて印加電圧の電圧出力パターンを各々設定することができるので、アーム3a,3bの機械的特性のバラツキを補正してアーム3a,3bが左右対称に移動するように、静電アクチュエータ4a,4bへの駆動電圧の印加を独立して行うことができる。一旦、電圧出力パターンを設定すると、単独のスイッチ操作または電圧調整ノブ46の回転を行うことで各静電アクチュエータ4a,4bに異なる電圧が印加され、アーム3a,3bは左右対称に移動する。その結果、微少試料の正確な把持および解放が可能となる。
(2)また、記憶部40bには異なる電圧出力パターンが複数記憶されているので、ナノピンセット1の製造バラツキ等に起因する機械的なバラツキに容易に対応することができ、ナノピンセット1に対する要求精度を緩和することができる。
(3)アンロック動作時に、左右のアーム3a,3bの時間差Δtを設けてプルイン解除を行うことにより、アンロック動作時におけるアーム先端のブレを低減することができる。
【0065】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、ナノピンセット1は微少試料把持装置を、電圧調整ノブ46,オープンスイッチ43,ロック/アンロックスイッチ44,グリップスイッチ45は出力手段を、制御部40は駆動信号印加手段を、操作部40aは出力制御手段を、ロック/アンロックスイッチ44はロック指示手段およびアンロック指示手段を、グリップスイッチ45はグリップ指示手段をそれぞれ構成する。なお、本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係るナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。
【図2】図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。
【図3】図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。
【図4】ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。
【図5】櫛歯移動距離とクーロン力および弾性力の変化を示す図である。
【図6】印加電圧Vと可動電極6aの櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。
【図7】ナノピンセット装置における各々の状態相互の移行の様子を示す図である。
【図8】操作パネル41を示す図である。
【図9】パターンP1,P2を示す図である。
【図10】電圧調整ノブ46の回転数と印加電圧との関係を示す図である。
【図11】アンロック動作を説明する図である。
【図12】ナノピンセット1の製造工程を説明する図であり、図12(a)〜図12(d)の順に工程が進む。
【図13】図12に続く工程を示す図であり、図13(a)〜図13(c)の順に工程が進む。
【図14】図13に続く工程を示す図であり、図14(a)〜図14(d)の順に工程が進む。
【図15】図12(c)に示すSOI基板100の斜視図である。
【図16】図15に示すレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100の斜視図である。
【図17】レジストパターン106aの形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図18】図14(a)に示すレジストパターン108およびアルミ層107の形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図19】図14(b)に示すベース層101の裏面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図20】図14(c)に示すベース層101の表面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図21】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はアーム3a,3bが開いている場合を示し、(b)はアーム3a,3bが閉じている状態を示す。
【図22】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はプルイン前の状態を示し、(b)はプルイン状態を示す。
【図23】アンロック動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1:ナノピンセット 2:コントローラ
3a,3b:アーム 4a,4b:静電アクチュエータ
5a,5b:固定電極 6a,6b:可動電極
7a,7b:支持部 8a,8b:連結部
9a,9b:アーム支持部 10:台座
20a,20b:DC電源 40:制御部
40a:操作部 40b:記憶部
43:オープンスイッチ 44:ロック/アンロックスイッチ
45:グリップスイッチ 46:電圧調整ノブ
47:出力パターン選択ダイヤル 50:ナノピンセット装置
100:SOIウエハ 101:ベース層
102:絶縁層 103:シリコン層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持方法において、
前記一対のアームが対称駆動されるように、前記一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加することを特徴とする微小試料把持方法。
【請求項2】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラにおいて、
アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、
前記出力手段から前記アーム開閉指令信号が出力されると、前記一対のアームが対称駆動されるように、前記一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項3】
請求項2に記載のコントローラにおいて、
前記一対のアームをそれぞれ第1および第2のアームとし、前記一対のアクチュエータをそれぞれ第1および第2のアクチュエータとする場合、
前記駆動信号印加手段は、
前記第1のアームの開閉量と前記第1のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第1のデータ、および、前記第2のアームの開閉量と前記第2のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第2のデータを記憶する記憶手段と、
前記第1のデータに基づいて前記第1のアクチュエータに駆動信号を印加して前記第1のアームを開閉駆動し、前記第2のデータに基づいて前記第2のアクチュエータに駆動信号を印加して前記第2のアームを開閉駆動する出力制御手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項4】
請求項3に記載のコントローラにおいて、
前記一対のアクチュエータはクーロン力で一対のアームを開閉する静電アクチュエータであり、
前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が、前記対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を前記一対の静電アクチュエータへ印加するロック指示手段を備え、前記ロック駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項5】
請求項4に記載のコントローラにおいて、
前記ロック駆動電圧により前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が前記弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加するアンロック指示手段を備え、前記アンロック駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のコントローラにおいて、
開放されている前記一対のアームで対象物を把持させる際に、前記一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を前記一対の静電アクチュエータへ印加するグリップ指示手段を備え、前記グリップ駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項7】
開閉する一対のアームと、
櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有し、その可動電極で前記一対のアームの各々を開閉駆動する一対の静電アクチュエータと、
請求項2乃至6のいずれか1項に記載のコントローラとを備えることを特徴とする微小試料把持システム。
【請求項8】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアームを備える微小試料把持装置により対象物を把持する微小試料把持方法において、
前記微小試料把持装置を特定し、前記一対のアームが対称駆動されるように、前記特定した微小試料把持装置に対応する駆動信号を前記一対のアクチュエータへ印加することを特徴とする微小試料把持方法。
【請求項9】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラにおいて、
前記微小試料把持装置を特定する特定信号を発生する特定手段と、
アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、
前記一対のアームの開閉量と前記一対のアクチュエータに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを前記特定信号に対応付けて記憶する記憶手段と、
前記出力手段から前記指令信号が出力されると、前記特定信号に基づいて、前記複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、前記一対のアクチュエータへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項1】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持方法において、
前記一対のアームが対称駆動されるように、前記一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加することを特徴とする微小試料把持方法。
【請求項2】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラにおいて、
アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、
前記出力手段から前記アーム開閉指令信号が出力されると、前記一対のアームが対称駆動されるように、前記一対のアクチュエータへそれぞれ異なる駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項3】
請求項2に記載のコントローラにおいて、
前記一対のアームをそれぞれ第1および第2のアームとし、前記一対のアクチュエータをそれぞれ第1および第2のアクチュエータとする場合、
前記駆動信号印加手段は、
前記第1のアームの開閉量と前記第1のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第1のデータ、および、前記第2のアームの開閉量と前記第2のアクチュエータに印加する駆動信号とを対応付けた第2のデータを記憶する記憶手段と、
前記第1のデータに基づいて前記第1のアクチュエータに駆動信号を印加して前記第1のアームを開閉駆動し、前記第2のデータに基づいて前記第2のアクチュエータに駆動信号を印加して前記第2のアームを開閉駆動する出力制御手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項4】
請求項3に記載のコントローラにおいて、
前記一対のアクチュエータはクーロン力で一対のアームを開閉する静電アクチュエータであり、
前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が、前記対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を前記一対の静電アクチュエータへ印加するロック指示手段を備え、前記ロック駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項5】
請求項4に記載のコントローラにおいて、
前記ロック駆動電圧により前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記一対の静電アクチュエータで発生するクーロン力が前記弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加するアンロック指示手段を備え、前記アンロック駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項6】
請求項4または5に記載のコントローラにおいて、
開放されている前記一対のアームで対象物を把持させる際に、前記一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を前記一対の静電アクチュエータへ印加するグリップ指示手段を備え、前記グリップ駆動電圧は前記第1および第2のデータに基づいて決定されることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【請求項7】
開閉する一対のアームと、
櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有し、その可動電極で前記一対のアームの各々を開閉駆動する一対の静電アクチュエータと、
請求項2乃至6のいずれか1項に記載のコントローラとを備えることを特徴とする微小試料把持システム。
【請求項8】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより駆動される一対のアームを備える微小試料把持装置により対象物を把持する微小試料把持方法において、
前記微小試料把持装置を特定し、前記一対のアームが対称駆動されるように、前記特定した微小試料把持装置に対応する駆動信号を前記一対のアクチュエータへ印加することを特徴とする微小試料把持方法。
【請求項9】
開閉駆動する一対のアクチュエータにより一対のアームをそれぞれ駆動して対象物を把持する微小試料把持装置のコントローラにおいて、
前記微小試料把持装置を特定する特定信号を発生する特定手段と、
アーム開閉量を示す指令信号を出力する出力手段と、
前記一対のアームの開閉量と前記一対のアクチュエータに印加する駆動信号を対応付けた異なるテーブルを前記特定信号に対応付けて記憶する記憶手段と、
前記出力手段から前記指令信号が出力されると、前記特定信号に基づいて、前記複数のテーブルの中から何れかのテーブルを選択し、選択されたテーブルに基づいて、前記一対のアクチュエータへそれぞれ駆動信号を印加する駆動信号印加手段とを備えることを特徴とする微小試料把持装置のコントローラ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2007−44805(P2007−44805A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231378(P2005−231378)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
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