説明

微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法

【課題】砥粒の濃度が高いCMPスラリー中に生息する微生物の存在を検査する際、微生物検査の砥粒による誤判定率を下げ、砥粒の濃度が高すぎて濾過することができないCMPを濾過し微生物検査に供することができるようになる微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を提供する。
【解決手段】微生物6と固形物7を含んだ被検査試料8をこれよりも比重の高い液状媒体A2に接するように積層し、液状媒体A2の方向に発生させた自然重力以外の重力を加えて、固形物7を液状媒体A2乃至液状媒体D5中で沈降させ、固形物7同士を凝集沈殿させ沈殿物9とする一方、微生物6は液状媒体A2乃至液状媒体D5中に浮遊させ補足することによって微生物6と固形物7を分離し、回収した微生物分離液を微生物検査に供し微生物6高感度に検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体状の試料中に生息する微生物の存在を検知する微生物検査方法に用いられる。より詳細には、CMPスラリーのような微生物以外の粒子を高濃度に含有する液体試料中に生息する微生物を分離し検知する微生物検査方法に用いられる。
【0002】
CMPとは半導体デバイスの製造過程において用いられる技術であり、配線の高密度化・高集積化を実現するために、半導体基板上にナノスケールの平坦性をもたらす研磨技術として利用されている。Cu配線やTa、TaN、Ti、TiNなどのバリアメタルなどを研磨するために10〜300nmの一定粒径を有した砥粒のほか酸化作用を及ぼす化学物質を含有した研磨液を用いて化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)する。
【0003】
CMPに用いる研磨液として用いられるのがCMPスラリーであり、半導体基板上にCMPスラリーを載せ、その上からパッドなどの研磨部材を押し当て、一定圧力で研磨することによって半導体基板上の凸凹を研磨し平坦化する。
【0004】
CMPスラリー中の砥粒としてはシリカやアルミナ、セリアなどの粒子が一般的に用いられ、これら砥粒の分散性を良くするために界面活性剤などがCMPスラリー中に添加される。また、CMP工程において大粒径の異物が混入すると半導体基板表面にスクラッチを発生させる原因となることから、CMPスラリーに異物が混入しないようにCMP工程はクリーンルームで行われていた。
【背景技術】
【0005】
従来、CMPスラリー中に存在する研磨用砥粒以外の異物の混入を検査する方法として、濾過を利用した検査方法が開示されている。より詳細には、CMPスラリーサンプルを濾過膜で濾過し、研磨用砥粒以外の異物を濾過膜上に捕捉し、補足された異物を走査型電子顕微鏡あるいはエネルギー分散型X線分析装置を用いて異物の検査をする方法が考案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
以下、そのような検査方法について図5を参照しながら説明する。
【0007】
図6(a)が示すように検査方法は、半導体用研磨スラリーを採取するサンプリング工程(S1)と、スラリー中に含まれる砥粒は通過させ、砥粒よりも大きな異物は捕捉することが可能である孔径を有した濾過膜に、サンプリング工程で採取したスラリーを通液し、濾過する濾過工程(S2)と、濾過工程で得られた、スラリーを通液した濾過膜の表面に存在する異物を検査する異物検査工程(S3)とを有している。図6(b)が示すように、砥粒101の粒径は濾過膜102に開けられた細孔103の孔径よりも小さいため、濾過膜102を通過するが、細孔103の孔径よりも粒径の大きな異物104は細孔103を通過することができず、濾過膜102上に捕捉される。
【特許文献1】特開2007−127544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来の方法では、砥粒の濃度が高いCMPスラリーを検査に供する場合、濾過膜を砥粒が通過する際に砥粒同士の距離が近づくことによって砥粒同士が凝集し凝集塊となってしまい、濾過膜上の細孔を通過できなくなるため砥粒の凝集塊も濾過膜上に捕捉されてしまう。また、凝集した砥粒は濾過膜上でさらに凝集を続け積層するため、細孔を塞いでしまい濾過自体ができなくなってしまう。
【0009】
従来の方法でCMPスラリー中の微生物の有無を検査する場合、砥粒の濃度が高いCMPスラリーを検査に供すると、濾過膜上に捕捉された異物が微生物と混ざってしまい、微生物検査の誤判定率を上げてしまうという課題があった。
【0010】
また、CMPスラリーの種類によっては濾過することができず、微生物検査に供することができないという課題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、砥粒の濃度が高いCMPスラリーであっても、砥粒の凝集塊による微生物検査の誤判定率上昇を防止する微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を提供することを目的としている。
【0012】
また、砥粒の濃度が高いCMPスラリーであっても、濾過でき微生物検査に供することができる微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の微生物分離方法およびこれを用いた微生物検知方法は上記目的を達成するために、微生物と微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料あるいは微生物を含んでいることが疑われる微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料を入れた容器中で、前記微生物を含んだ、あるいは前記微生物が含まれると疑われる微生物分離液と前記微生物以外の固形物とに分離する微生物分離方法であって、前記被検査試料の下に前記被検査試料より比重が高く前記被検査試料と混合しない液状媒体を前記被検査試料と接するように前記容器内に配置させた後、前記微生物と前記微生物以外の固形物を前記液状媒体中で沈降させることによって、前記液状媒体中で前記微生物以外の固形物が凝集しやすくなることを利用して前記微生物以外の固形物を凝集させ凝集沈殿物とし、前記凝集沈殿物を前記容器内に残したまま前記液状媒体を回収し、その回収液を前記微生物分離液とすることを特徴とする微生物分離方法としたものである。
【0014】
これにより、被検査試料中の微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになる。
【0015】
また他の手段は、被検査試料がコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、酸化セリアの少なくともいずれか一つの砥粒を含んだCMPスラリーであることを特徴とする請求項1に記載の微生物分離方法としたものである。
【0016】
これにより、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、酸化セリアのいずれかの砥粒を含んだCMPスラリー中の微生物を砥粒と分離することができるようになる。
【0017】
また他の手段は、液状媒体が単糖類、二糖類、または多糖類の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物分離方法としたものである。
【0018】
これにより、被検査試料中の微生物に損傷を与えずに微生物と微生物以外の固形物に分離することができるようになる。
【0019】
また他の手段は、液状媒体がFicoll、Percollおよびショ糖の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の微生物分離方法としたものである。
【0020】
これにより、被検査試料中の微生物に損傷を与えずに微生物と微生物以外の固形物に分離するための液状媒体を簡単に調製することができるようになる。
【0021】
また他の手段は、比重の異なる2種類以上の液状媒体をそれぞれが混合しないように、比重の重い液状媒体が比重の軽い液状媒体より下になるように容器内に配置させ、微生物以外の固形物が前記液状媒体中で沈降し沈殿物となった後に、それぞれ比重の異なる液状媒体を分別回収することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微生物分離方法としたものである。
【0022】
これにより、被検査試料中に存在する2種以上の比重の微生物を同時に分離することができるようになる。
【0023】
また他の手段は、被検査試料と液状媒体の界面に垂直に前記被検査媒体から前記液状媒体に向かう方向性を持った自然重力以外の重力を発生させる重力発生手段を用いて、前記被検査試料と前記液状媒体が積層された内容物を保有する容器に対して重力を加えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微生物分離方法としたものである。
【0024】
これにより、短時間で微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになる。
【0025】
また他の手段は、重力発生手段は遠心力を利用することを特徴とする請求項6に記載の微生物分離方法としたものである。
【0026】
これにより、簡便に短時間で微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになる。
【0027】
また他の手段は、2000g重以下の遠心力で遠心処理することを特徴とする請求項7に記載の微生物分離方法としたものである。
【0028】
これにより、微生物以外の固形物と分離された微生物の回収率を上げることができるようになる。
【0029】
また他の手段は、液状媒体を20度以上30度以下の温度になるように維持することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微生物分離方法としたものである。
【0030】
これにより、微生物以外の固形物と分離された微生物の回収率を安定させることができる。
【0031】
また他の手段は、回収する液状媒体中に凝集沈殿物が混入することを防止する沈殿物回収防止手段を設けた容器を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法としたものである。
【0032】
これにより、微生物分離液中に微生物以外の固形物が混入することを防止することができるようになる。
【0033】
また他の手段は、液状媒体よりも比重が大きく、粒径が0.1mm以上の顆粒を前記液状媒体にあらかじめ混入しておき、前記顆粒が沈殿してできた顆粒の沈殿物の隙間に凝集沈殿物を捕捉することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法としたものである。
【0034】
これにより、どんな容器を用いても微生物分離液中に微生物以外の固形物が混入することを防止することができるようになる。
【0035】
また他の手段は、請求項1〜11のいずれかの微生物分離方法で回収した微生物分離液に含まれる微生物を検出することを特徴とする微生物検査方法としたものである。
【0036】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供することができるようになる。
【0037】
また他の手段は、微生物分離液をよく混合し微生物濃度の偏りをなくしてから微生物検査に供することを特徴とする請求項12に記載の微生物検査方法としたものである。
【0038】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、安定した結果を得ることができるようになる。
【0039】
また他の手段は、微生物分離液をフィルターで濾過し、前記フィルター上に捕捉された微生物を光学的に検出することによって微生物分離液に含まれる微生物を計数し微生物計数値とすることを特徴とする請求項12または13に記載の微生物検査方法としたものである。
【0040】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、培養法では検出できない微生物も検出することができるようになる。
【0041】
また他の手段は、フィルター上に捕捉された微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項14に記載の微生物検査方法としたものである。
【0042】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、培養法では検出できない微生物も高感度で検出することができるようになる。
【0043】
また他の手段は、微生物を捕捉したフィルターに洗浄液を濾過してフィルター上に付着残存している液状媒体成分を洗浄除去した後に微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項15に記載の微生物検査方法としたものである。
【0044】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、培養法では検出できない微生物も安定して高感度で検出することができるようになる。
【0045】
また他の手段は、液状媒体の量に対して2倍以上の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法としたものである。
【0046】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、2倍以上の高感度で検出することができるようになる。
【0047】
また他の手段は、液状媒体の量に対して1/2以下の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法としたものである。
【0048】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、微生物の濃度が高濃度であっても検出し計数することができるようになる。
【0049】
また他の手段は、微生物計数値を液状媒体の量に対する被検査試料の量の比率に応じて補正することを特徴とする請求項17または18に記載の微生物検査方法としたものである。
【0050】
これにより、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し、微生物の濃度が低濃度であっても、もしくは高濃度であっても被検査試料中の微生物の濃度を正確に計数することができるようになる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、砥粒の濃度が高いCMPスラリーであっても、砥粒の凝集塊による微生物検査の誤判定率上昇を防止する微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を提供することができるようになる。
【0052】
また、砥粒の濃度が高いCMPスラリーであっても、被検査試料を濾過できるようになり、微生物検査に供することができる微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明の請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために微生物と微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料あるいは微生物を含んでいることが疑われる微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料を入れた容器中で、前記微生物を含んだ、あるいは前記微生物が含まれると疑われる微生物分離液と前記微生物以外の固形物とに分離する微生物分離方法であって、前記被検査試料の下に前記被検査試料より比重が高く前記被検査試料と混合しない液状媒体を前記被検査試料と接するように前記容器内に配置させた後、前記微生物と前記微生物以外の固形物を前記液状媒体中で沈降させることによって、前記液状媒体中で前記微生物以外の固形物が凝集しやすくなることを利用して前記微生物以外の固形物を凝集させ凝集沈殿物とし、前記凝集沈殿物を前記容器内に残したまま前記液状媒体を回収し、その回収液を前記微生物分離液とすることを特徴とする微生物分離方法としたものであり、微生物以外の固形物を液状媒体中で沈降する過程で凝集させることができるという作用を有し、凝集した固形物を沈殿物として分離することができるようになるという作用を有し、液状媒体中で浮遊している微生物と簡単に分離することができるようになるという作用を有する。
【0054】
本発明の請求項2記載の発明は、上記目的を達成するために被検査試料がコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、酸化セリアの少なくともいずれか一つの砥粒を含んだCMPスラリーであることを特徴とする請求項1に記載の微生物分離方法としたものであり、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、酸化セリアのいずれかの砥粒を液状媒体中で沈降させる過程で凝集させることができるという作用を有し、凝集した砥粒を沈殿させることによって沈殿物として分離することができるようになるという作用を有し、液状媒体中で浮遊している微生物と簡単に分別回収することができるようになるという作用を有する。
【0055】
本発明の請求項3記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体が単糖類、二糖類、または多糖類の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物分離方法としたものであり、糖類を溶解した水溶液が微生物の浸透圧を調節するという作用を有し、微生物が損傷を受けにくくなるという作用を有し、微生物に損傷を与えずに生きたまま分離することができるようになるという作用を有する。
【0056】
本発明の請求項4記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体がFicoll、Percollおよびショ糖の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の微生物分離方法としたものであり、微生物の浸透圧を調節するための糖類が溶解した水溶液を簡単に調整することができるようになるという作用を有する。
【0057】
本発明の請求項5記載の発明は、上記目的を達成するために比重の異なる2種類以上の液状媒体をそれぞれが混合しないように、比重の重い液状媒体が比重の軽い液状媒体より下になるように容器内に配置させ、微生物以外の固形物が前記液状媒体中で沈降し沈殿物となった後に、それぞれ比重の異なる液状媒体を分別回収することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微生物分離方法としたものであり、比重の異なる微生物がそれぞれの比重と同じ比重の液状媒体中に浮遊するという作用を有し、比重の異なる微生物をそれぞれ異なる比重の液状媒体に分離することができるという作用を有し、比重の異なる微生物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0058】
本発明の請求項6記載の発明は、上記目的を達成するために被検査試料と液状媒体の界面に垂直に前記被検査媒体から前記液状媒体に向かう方向性を持った自然重力以外の重力を発生させる重力発生手段を用いて、前記被検査試料と前記液状媒体が積層された内容物を保有する容器に対して重力を加えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微生物分離方法としたものであり、微生物以外の固形物に自然重力以外の重力を加えることができるという作用を有し、固形物の沈降速度を速めることができるという作用を有し、短時間で固形物を沈殿させることができるという作用を有し、短時間で微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0059】
本発明の請求項7記載の発明は、上記目的を達成するために重力発生手段は遠心力を利用することを特徴とする請求項6に記載の微生物分離方法としたものであり、自然重力以外の重力を簡便かつ安定に発生させることができるという作用を有し、簡便かつ安定に短時間で微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0060】
本発明の請求項8記載の発明は、上記目的を達成するために2000g重以下の遠心力で遠心処理することを特徴とする請求項7に記載の微生物分離方法としたものであり、発生させた自然重力以外の重力を低くすることができるという作用を有し、微生物の液状媒体中での沈降速度を遅くすることができるという作用を有し、固形物と一緒に沈殿してしまう微生物を減らすことができるという作用を有し、液状媒体中に回収される微生物の回収率が下がることを防止することができるという作用を有し、高い回収率で微生物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0061】
本発明の請求項9記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体を20度以上30度以下の温度になるように維持することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微生物分離方法としたものであり、温度を20度以上30度以下に維持することで液状媒体の比重を一定に保つことができるという作用を有し、微生物および微生物以外の固形物の液状媒体中での沈降速度を一定に維持することができるという作用を有し、再現性よく微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0062】
本発明の請求項10記載の発明は、上記目的を達成するために回収する液状媒体中に凝集沈殿物が混入することを防止する沈殿物回収防止手段を設けた容器を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法としたものであり、微生物を含んだ液状媒体を回収する際に、容器の底に沈殿物として堆積した固形物を一緒に回収するのを防止することができるという作用を有し、固形物が混入することなく微生物を含んだ液状媒体を回収することができるという作用を有し、精度よく微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0063】
本発明の請求項11記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体よりも比重が大きく、粒径が0.1mm以上の顆粒を前記液状媒体にあらかじめ混入しておき、前記顆粒が沈殿してできた顆粒の沈殿物の隙間に凝集沈殿物を捕捉することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法としたものであり、顆粒と固形物が凝集することによって固形物を凝集させやすくなるという作用を有し、また、沈殿した顆粒同士の隙間に固形物が入り込むことができるという作用を有し、沈殿した沈殿顆粒物の隙間に固形物が沈殿してできた凝集沈殿物を捕捉する事ができるという作用を有し、凝集沈殿させた後の固形物を回収する際に固形物が混入することなく微生物を含んだ液状媒体を回収することができるという作用を有し、特別な容器がなくても精度良く微生物と微生物以外の固形物を分離することができるようになるという作用を有する。
【0064】
本発明の請求項12記載の発明は、上記目的を達成するために請求項1〜11のいずれかの微生物分離方法で回収した微生物分離液に含まれる微生物を検出することを特徴とする微生物検査方法としたものであり、被検査試料中の微生物以外の固形物を除去した微生物分離液を微生物検査に供することができるという作用を有し、固形物による微生物検査の影響をなくすことができるという作用を有し、微生物以外の固形物を高濃度に含有した被検査試料であっても微生物検査をすることができるようになるという作用を有する。
【0065】
本発明の請求項13記載の発明は、上記目的を達成するために微生物分離液をよく混合し微生物濃度の偏りをなくしてから微生物検査に供することを特徴とする請求項12に記載の微生物検査方法としたものであり、微生物分離液を微生物検査に供する前に微生物分離液中の微生物濃度の隔たりをなくし均一にすることができるという作用を有し、微生物濃度の隔たりによる微生物検査の誤差を減らすことができるという作用を有し、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し安定した微生物検査の結果を得ることができるようになるという作用を有する。
【0066】
本発明の請求項14記載の発明は、上記目的を達成するために微生物分離液をフィルターで濾過し、前記フィルター上に捕捉された微生物を光学的に検出することによって微生物分離液に含まれる微生物を計数し微生物計数値とすることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の微生物検査方法としたものであり、フィルター上に捕捉された微生物の個数を計数することができるという作用を有し、培養によって増殖させることが難しい微生物であっても計数することができるという作用を有し、微生物以外の固形物を高濃度含有した被検査試料を微生物検査に供し培養法で検出しにくい微生物も検出し計数することができるようになるという作用を有する。
【0067】
本発明の請求項15記載の発明は、上記目的を達成するためにフィルター上に捕捉された微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項14に記載の微生物検査方法としたものであり、フィルター上に捕捉した微生物を着色することができるという作用を有し、微生物を光学的に検知しやすくなるという作用を有し、高感度で微生物を検知し計数することができるようになるという作用を有する。
【0068】
本発明の請求項16記載の発明は、上記目的を達成するために微生物を捕捉したフィルターに洗浄液を濾過してフィルター上に付着残存している液状媒体成分を洗浄除去した後に微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項15に記載の微生物検査方法としたものであり、フィルター上に残っている液状媒体成分を除去することによって液状媒体による微生物の染色阻害を防止することができるという作用を有し、安定して微生物を染色することができるという作用を有し、安定して高感度で微生物を検知し計数することができるようになるという作用を有する。
【0069】
本発明の請求項17記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体の量に対して2倍以上の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法としたものであり、2倍量以上の被検査試料中に含まれていた微生物を液状媒体中に捕捉することができるという作用を有し、液状媒体中に捕捉される微生物の量を2倍以上にすることができるという作用を有し、2倍以上の微生物濃度の微生物分離液にすることができるという作用を有し、2倍以上の高感度で微生物を検出することができるようになるという作用を有する。
【0070】
本発明の請求項18記載の発明は、上記目的を達成するために液状媒体の量に対して1/2以下の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法としたものであり、1/2以下の被検査試料中に含まれていた微生物を液状媒体中に捕捉することができるという作用を有し、液状媒体中に捕捉される微生物の量を1/2以下にすることができるという作用を有し、1/2以下の微生物濃度の微生物分離液にすることができるという作用を有し、通常では微生物濃度が高すぎて検出できなくなってしまう被検査試料であっても精度良く微生物を検出することができるようになるという作用を有する。
【0071】
本発明の請求項19記載の発明は、上記目的を達成するために微生物計数値を液状媒体の量に対する被検査試料の量の比率に応じて補正することを特徴とする請求項17または18に記載の微生物検査方法としたものであり、微生物分離に供する被検査試料の量が違っても、微生物検査の結果得られた計数値を液状媒体の量に対する被検査試料の量の比で割ることによって、得られた微生物計数値を元の被検査試料中にいた微生物計数値に換算することができるという作用を有し、低濃度でももしくは高濃度であっても被検査試料中の微生物の濃度を正確に計数することができるようになるという作用を有する。
【0072】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における微生物分離方法の模式図である。
【0073】
図1(a)において、容器1の下から液状媒体A2、液状媒体B3、液状媒体C4、液状媒体D5が積層されており、液状媒体D5の上に微生物6と微生物以外の固形物7を含んだ被検査試料8が積層されている。図1(a)のように、積層した溶液を内容物として含有した容器1に対して、被検査試料8と液状媒体D5の界面に垂直で液状媒体D5の方向に自然重力以外の重力を発生させると、図1(b)のように固形物7が凝集し沈殿物9となって容器1の底に堆積し、微生物6は液状媒体C4に浮遊することで捕捉される。
【0074】
このように、微生物6と微生物以外の固形物7が混合した状態の被検査試料8を液状媒体A〜D中で沈降させることによって、微生物6と固形物7を分離することができる。
【0075】
被検査試料8としては例えば、半導体ウエハ表面の平坦化のために用いられるCMPスラリーである。CMPスラリーは微生物以外の固形物7として例えばシリカ、アルミナ、セリアなどの砥粒を高濃度に含んだコロイド溶液であり、通常は砥粒同士が凝集しないように界面活性剤などの分散剤も含んでいる。
【0076】
CMPスラリーには砥粒同士の凝集を防止するための界面活性剤や、微生物繁殖を防止するための抗菌剤や化学的研磨特性を安定化させる有機化合物が混合されているため、これらの有機物自体が微生物の栄養源となり、微生物繁殖の原因となっている。
【0077】
CMPスラリーは通常微生物汚染が管理されたクリーンルーム内で使用されているが、微生物の混入を完全に防止することは事実上不可能である。また、ひとたび微生物汚染を許してしまうと、CMPスラリー中の有機成分を栄養源として混入した微生物が増殖してしまう。
【0078】
CMPスラリー中で微生物が増殖した場合、CMPスラリー中の有機化合物が微生物の代謝活動により他の物質に変換されてしまう。また、微生物の代謝活動によって産生された有機酸がCMPスラリー中に放出されることによって、CMPスラリーのpHが酸性に変化してしまう。
【0079】
このように微生物の増殖に伴う代謝活動によって、CMPスラリー中の化学的特性が損失を受け、また、CMPスラリー溶液が酸性に変化することによって砥粒表面の電荷が変化し砥粒の分散性が損なわれて凝集してしまうこととなる。また、CMPスラリーの化学的特性が失われ砥粒の凝集が起これば、CMPスラリーの研磨特性に影響が出て半導体ウエハの生産性が悪くなる。
【0080】
したがって、CMPスラリー中に繁殖しうる微生物を常に監視し、微生物の混入を確認した場合は微生物が混入しているCMPスラリーの廃棄をし、微生物で汚染されたCMPスラリーを使用していた装置やCMPスラリーを送液していた配管内を洗浄するなどの対策をとることによって、微生物汚染の広がりを防止することができるようになり、CMPスラリーによる研磨特性の劣化を防止することができるようになり、半導体ウエハの製造工程上の品質を管理することができるようになる。
【0081】
液状媒体としては例えば界面活性剤を含有していないFicollやPercollやショ糖などの糖類を溶解した水溶液であり、通常は比重が1.07〜1.4g/mlのものを使用する。例えば液状媒体A2として比重1.4g/mlのFicoll水溶液を、液状媒体B3として比重1.3g/mlのFicoll水溶液を、液状媒体C4として比重1.2g/mlのFicoll水溶液を、液状媒体D5として比重1.1g/mlのFicoll水溶液を使用した場合、4種類の異なる比重を持った液状媒体を比重が高いものから下から上に順番に積層されることとなる。
【0082】
Ficoll水溶液の上に積層されたCMPスラリーとFicoll水溶液の接触面である界面に砥粒が接触することによって、砥粒はCMPスラリーからFicoll水溶液中へと移行する。CMPスラリー中の直径が10〜300nmに調製された砥粒であるシリカ、アルミナ、セリアは比重が2.2g/ml〜7.3g/mlであり、Ficoll水溶液よりも比重が高い。そのため、これらの砥粒はFicoll水溶液中を沈降していき容器1の底部まで沈降する。また、Ficoll水溶液中にはもともと分散剤である界面活性剤が存在していないため、砥粒同士の反発力が低下し、砥粒同士が接触することによって互いに吸着し凝集する。
【0083】
このようにFicoll水溶液中で砥粒を沈降させる過程で砥粒同士が凝集し、また、容器1の底部で互いに凝集することによって沈殿物9となり容器1底部に沈殿する。
【0084】
一方で、微生物6は例えばカビや酵母などの真菌や大腸菌や黄色ブドウ球菌などの原核生物である。これらの単一細胞である微生物の比重は通常1.3g/ml以下であり、比重1.3g/ml以下のFicoll水溶液中に浮遊することとなる。例えばグラム陰性好気性桿菌の一種である緑膿菌(NBRC13275)は比重1.15〜1.2g/mlのFicoll水溶液中を浮遊することとなり、通性嫌気性グラム陽性球菌の一種である黄色ブドウ球菌(NBRC12732)は比重1.2〜1.25g/mlのFicoll水溶液中を浮遊することとなり、通性嫌気性グラム陰性桿菌の一種である大腸菌(NBRC3301)は比重1.25〜1.3g/mlのFicoll水溶液中を浮遊することとなり、黒色酵母様菌は比重1.2〜1.25g/mlのFicoll水溶液に浮遊することとなる。
【0085】
したがってこれらの単一細胞である微生物は液状媒体B3乃至液状媒体C4のいずれかに浮遊した状態となり、砥粒成分は沈殿物9として容器1の底部に沈殿することとなる。ここで重要となるのは、もともと互いに凝集しやすい砥粒成分は界面活性剤の作用が低下し凝集するのに対して微生物自身の凝集性には影響ないことを利用した点である。液状媒体A2乃至液状媒体D5に移行することによって互いに凝集しやすくなった砥粒は凝集することによって沈降しやすくなり、沈降速度への影響の差を利用して微生物と容易に分離できるようになる。
【0086】
(実施の形態2)
図2は実施の形態2における沈殿物を回収するのを防止する方法を示した模式図である。図2(a)は沈殿物回収防止手段10を備えた容器1を用いる方法を示しており、図2(b)は顆粒を用いた方法を示している。
【0087】
図2(a)が示すように沈殿物回収防止手段10は容器1の底部の液状媒体A2が存在する箇所に配置されており、沈殿物9が通過できる程度の隙間を有している。例えば沈殿物回収防止手段10として、容器1の内径に納まる金属メッシュや樹脂メッシュを用いることができる。沈殿物回収防止手段10の形状としてはこの形状に限定されるものではなく、沈殿物9が侵入できる程度の隙間を有するものであれば平面構造を持たないものであってもかまわない。
【0088】
図2(b)が示すように顆粒11は予め液状媒体A2乃至液状媒体D5に混合されて使用されるものであって、比重が液状媒体A2乃至液状媒体D5よりも大きいものである。例えば顆粒11としては直径100〜500μmのガラスビーズを用いることができる。
【0089】
ガラスビーズは比重が2.2〜3.0g/mlであり、Ficoll水溶液中を沈降し容器1の底部に沈殿することとなる。ガラスビーズの直径は100〜500μmであるため、沈殿したガラスビーズ同士の間には間隙ができ、その間隙にCMPスラリー中の砥粒のような直径10〜300nmの粒子が入り込むことができる。
【0090】
ガラスビーズ同士の隙間に入り込んだ砥粒は、狭い間隙内でガラスビーズや砥粒同士と近接することによって凝集し、また、ガラスビーズの沈殿に取り込まれることによってより強固な沈殿物になることとなる。
【0091】
また、ガラスビーズと砥粒が接触することによってガラスビーズと砥粒が凝集し、砥粒をより沈殿しやすくするという作用を有し、より砥粒を沈降させやすくなり、微生物と分離しやすくなる。
【0092】
ガラスビーズや砥粒等の比重の高い物質は液状物質の中を沈降し容器1の底部に沈殿するが、容器1の底部にまで到達する所要時間が長く分離完了まで長時間を要する。沈降の速度を高め分離時間を短縮するために、自然重力以外の重力を発生させ発生した重力をガラスビーズや砥粒に加えることができる。
【0093】
自然重力以外の重力を発生させる重力発生手段としては、例えば遠心分離装置を用いることができ、例えばスイングローター式遠心分離機(TOMYLX−120)を用いることができる。スイングローター式の遠心分離機を用いることによって、比重の異なる液状媒体A2乃至液状媒体D5が順次積層された容器1をそれぞれの液状媒体の界面を乱さずに遠心力を加えることができるようになり、自然重力以外の重力を加えることができるようになる。
【0094】
遠心分離機の回転数としては100〜2000g重の遠心力が発生する回転数で回転することができる。回転数を上げることによって砥粒やガラスビーズの沈降速度が上がり、容器1の底部に到達するまでの所要時間を短縮することができるようになる。しかしながら、回転数を上げることによって微生物6への傷害も大きくなり、加えられる遠心力が増大することによって損傷を受ける微生物の割合が高くなり、損傷を受けた微生物6は他の固形物7と同様に容器1の底部に沈降することとなり、微生物6の回収率が低下してしまう。
【0095】
2000g重より小さな重力で遠心分離をすることによって微生物の回収率は低下するため、遠心機で発生させる重力を2000g重以下に制御することによって微生物への損傷を抑える事ができるようになり、微生物の回収率の低下を抑制することができるようになる。
【0096】
微生物が含有するタンパク質、核酸、糖鎖、脂肪などの生態高分子はそれぞれ異なる比重を持っているが、加えられる重力の大きさに比例して生態高分子へ加わる力が大きくなる。加えられる重力が大きくなると、比重の小さい分子よりも比重の大きい分子のほうが、沈降速度が大きくなるため、比重の異なる分子間で沈降速度の差が大きくなり、生体高分子間にせん断力が発生する。
【0097】
通常、生体高分子同士は互いにイオン結合などで結びついているが、加えられる重力が大きくなるにつれて生体高分子間のせん断力が大きくなり、生体高分子間の結合力よりせん断力が大きくなることによって、生体高分子間がせん断され細胞が損傷を受ける。
【0098】
一方で、加えられる重力を大きくしなければ砥粒を効果的に沈降させるのに時間がかかるため、効率的に分離操作を行うにはある程度の重力が必要となる。そのため、砥粒を効果的に沈降させ、細胞への損傷を抑えるような重力を用いることが必要となる。
【0099】
砥粒の沈殿と微生物の回収率の確保を目的に条件検討を行った結果、100g重以上で分離操作を行うことによって砥粒を沈殿させることができ、2000g重以下で分離操作を行うことによって微生物の回収率が30%であった。回収率が30%以上あれば、微生物検査に供して十分微生物を検出することができると考えられる。
【0100】
また、重力を加える時間としては、通常10〜60分が用いられるが、砥粒の沈殿と微生物の回収率が両立できればいずれの時間でも用いることができる。
【0101】
また、重力発生手段としては遠心分離機に限定されるものではなく、発生させた重力を容器1に加えることができるものであればいずれのものであっても良い。
【0102】
図3は実施の形態2に示す沈殿物を回収するのを防止する方法を用いて微生物分離液を回収する方法を示した模式図である。
【0103】
図3に示すように微生物6と沈殿物9に分離した後に吸引口12を有した吸引管13を、微生物を補足した液状媒体C4まで導入する。次にポンプ14を用いて液状媒体C4を吸引送液し、回収容器15内に回収することによって沈殿物9を含まない微生物分離液16を回収することができるようになる。
【0104】
吸引管13としては、例えばポリプロピレンなどの樹脂で成型されたチューブを用いることができ、吸引口はチューブの端にある開口端のことである。ポンプ14は例えばペリスタポンプを用いることができ、通常は、0.1〜10000μl/分の流速で吸引送液される。このとき吸引口12を容器1内の底部に近い部位に配置させ、比重の高い液状媒体から順番に微生物分離液を回収することによって液状媒体同士が混ざり合うことを防止することができる。また、比重の異なる液状媒体を別々の回収容器15に回収することによって、異なる比重の液状媒体に補足された微生物を別々に分離回収することができるようになる。
【0105】
吸引口12を容器1内の底部に近いところに配置させた場合、吸引速度が速いと沈殿物9も一緒に吸引してしまい、微生物分離液16内に沈殿物9が混ざってしまう可能性がある。このときに沈殿物回収防止手段10が存在すると、沈殿物回収防止手段10が沈殿物9の流動に対して抵抗となり、沈殿物9から吸引口12への流動が阻害され、沈殿物9を吸引してしまうことを防止することができるようになる。
【0106】
なお、微生物分離液16として吸引する手段はこれに限定されるものではなく、液状媒体を吸引できる方法であればいずれの方法であってもよい。例えば、ピペットを用いて情報から順次吸引して微生物分離液16を得る方法であってもかまわない。
【0107】
(実施の形態3)
図4は実施の形態3における微生物検知方法を示した模式図である。
【0108】
図4(a)に示すように微生物6を含んだ微生物分離液16を、細孔17を有した濾過メンブレン18でろ過し通液することによって、微生物6を濾過メンブレン18上に補足する。
【0109】
図4(b)に示すように濾過メンブレン18に捕捉された微生物6を光学検知手段19で検知することによって、微生物分離液16中の微生物6を検出することができる。
【0110】
例えば、細孔17として0.2〜10μmの孔径を持った樹脂性のメンブレンを濾過メンブレン18として用いることができる。例えばポリカーボネートやナイロン樹脂でできた孔径0.2μmの細孔を持ったメンブレンを用いることによって、緑膿菌、大腸菌などの細菌から黒色酵母様菌のような真菌まで幅広く微生物を濾過メンブレン18上に捕捉することができるようになる。
【0111】
このとき、分離した微生物分離液16全量を濾過すると、濾過の所要時間が長くなるため微生物分離液16の一部をろ過し、微生物検知に供することができる。分離した微生物分離液16内で微生物6の局在が偏っている場合、濾過に供する液中の微生物濃度にムラができ、検出精度が悪くなってしまうが、一部の微生物分離液16を濾過に供する前によく混合し濃度勾配をなくし均一の濃度になるようにしておくことによって検出精度の低下を防止することができるようになる。
【0112】
また、濾過メンブレン18上に捕捉された微生物6を光学検知手段19で検出する際、微生物を特異的に染色する染色試薬で染色しておくことによって、光学的に検知しやすくすることができるようになり、高感度で微生物を検知できるようになる。
【0113】
このような染色試薬として例えば、蛍光グルコース(2−NBDG)やDAPIやPI等の蛍光染色試薬を用い、これらの蛍光色素を励起するUVなどの励起光源を搭載した光学検知手段19を用いることによって、微生物6を蛍光物として検知することができるようになり、高感度に微生物を検知することができるようになる。例えばこのような光学検知手段としてBioplorer(panasonic)を用いることができる。
【0114】
また、例えば被検査試料8としてCMPスラリーを用いた場合、CMPスラリー中には抗菌成分や界面活性剤などの有機成分が含まれている。その場合これらの有機物成分が濾過メンブレン18上に付着して残留してしまう。この濾過メンブレン18上に残留した有機成分は染色試薬の微生物への染色性を阻害する可能性がある。そこで、微生物6を濾過メンブレン18に捕捉した後に、濾過メンブレン18に蒸留水を濾過通液させることで、濾過メンブレン18上に残留した有機成分を除去することができるようになり、染色試薬の微生物染色性を維持できるようになる。
【0115】
また、微生物検知手段としては、ここに記載したフィルターメンブレンを用いる方法に限定されるものではなく、平板培養法を用いた方法やフローサイトメーターを用いた方法なども用いることができる。この場合、砥粒や抗菌剤の成分が除去された微生物分離液16を微生物検知方法に供することができるようになるため、抗菌成分や砥粒成分の影響で培養が困難となっていた微生物も培地上で増殖できるようになり、検知できるようになる。また、砥粒成分が除去された微生物分離液16を用いることができるので、フローサイトメーターで微生物以外の粒子成分が除かれているので、計測時のノイズが減少し、微生物検知を精度良く行うことができるようになる。
【0116】
(実施の形態4)
図5は実施の形態4における微生物分離方法を示した模式図である。
【0117】
図5(a)において、容器1の下から液状媒体A2、液状媒体B3、液状媒体C4、液状媒体D5が積層されており、液状媒体D5の上に微生物6と微生物以外の固形物7を含んだ被検査試料8が積層されている。このとき被検査試料8は液状媒体A2乃至液状媒体D5の2倍量を積層している。図5(a)のように、積層した溶液を内容物として含有した容器1に対して、被検査試料8と液状媒体D5の界面に垂直で液状媒体D5の方向に自然重力以外の重力を発生させると、図5(b)のように固形物7が凝集し沈殿物9となって容器1の底に堆積し、微生物6は液状媒体C4に浮遊することで捕捉される。
【0118】
このとき、被検査試料8が2倍量積層したため、2倍量の微生物6が液状媒体C4中に捕捉されることとなる。このように被検査試料8の微生物6濃度は同じであっても、積層する被検査試料8の量を2倍にすることによって、液状媒体C4中に捕捉される微生物6の量が2倍となり、結果として液状媒体C4中の微生物6の濃度が2倍となる。
【0119】
このように被検査試料8を2倍量供して、実施の形態2で示したように回収した微生物分離液16は被検査試料8中の微生物濃度の2倍となるため、この微生物分離液16を微生物検知方法に供することによって、2倍の感度で検知することができるようになる。また、10倍量の被検査試料8を供した場合には、回収した微生物分離液16は10倍の微生物濃度となるため、10倍の感度で検知することができるようになる。
【0120】
微生物がCMPスラリーに混入した場合、微生物は繁殖活動によって徐々にその細胞数を増加させる。微生物の細胞数が増大すれば微生物の代謝活動も比例して大きくなり、CMPスラリー中の有機化合物の組成も大きく変化してしまう。微生物の増殖に伴う代謝活動によって、CMPスラリー中の化学的特性が損失を受け、また、CMPスラリー溶液が酸性に変化することによって砥粒表面の電荷が変化し砥粒の分散性が損なわれて凝集してしまうこととなる。また、CMPスラリーの化学的特性が失われ砥粒の凝集が起これば、CMPスラリーの研磨特性に影響が出て半導体ウエハの生産性が悪くなる。
【0121】
従って、微生物の増殖を早い時期に検知し、殺菌処理などの適切な処理を施すことによって半導体ウエハの生産性の低下を防止することができることとなる。
【0122】
微生物は増殖期に入ると指数関数的に増殖するため、増殖期に入ってから検知した場合は、微生物汚染の被害が増大してしまう。したがって、CMPスラリーに混入した微生物が増殖期に入る前に検知することができれば、微生物汚染の被害を最小限に抑えることができる。通常、最初にCMPスラリーに混入する微生物の細胞数は少ないが、徐々に細胞数を増加させ、細胞数が1000〜5000個/ml以上になると増殖期へと移行する。
【0123】
従って、最低限1000〜5000個/ml以下の濃度の微生物を維持することで微生物汚染の被害を最小限に抑えることができると考えられる。しかしながら、微生物が常に増殖していること、微生物検査にかかる所要時間やその後の殺菌処理にかかる所要時間などを考えれば、1000個/ml以下の微生物を検知する必要がる。
【0124】
Bioplorerなどの光学的に微生物を検出する方法では、100個/ml以上の2乗個/ml以上の微生物濃度を検出することができるが、上記方法で例えば2倍に感度を高めれば、50個/ml以上の微生物も検出することができることとなり、もう一桁少ない微生物濃度でも検出することが可能となり、CMPスラリーの微生物管理をしていく上で有効な手段として用いることができるようになる。
【0125】
また、このように2倍の感度で検知した微生物の計数を2で割ることによって、もとの被検査試料8中の微生物濃度に変換することができるようになり、正確かつ高感度に被検査試料8の微生物濃度を計数することができるようになる。
【0126】
また、積層する被検査試料8の量比は2倍に限定されるものではなく、容器1に積層可能な量であればいずれの倍数でもかまわない。この際、得られた微生物分離液16を微生物検知方法で計数した値を積層した被検査試料8の量比で割ることによってもとの被検査試料8中の微生物濃度を正確かつ高感度に計数することができるようになる。
【0127】
また、被検査試料8に高濃度の微生物6が含まれている場合、得られた微生物分離液16を微生物検知方法に供しても、微生物濃度が高濃度のため検出上限値を超えてしまい正確に計数できなくなることがある。この場合、得られた微生物分離液16を蒸留水や生理食塩水で希釈することによって検出上限値以下の微生物濃度に抑え検出することができるようになる。
【0128】
しかしながら、後から微生物分離液16を希釈すると、操作が煩雑で計測精度に悪影響を及ぼすだけでなく、液状媒体A2乃至液状媒体D5から蒸留水などの媒体に希釈されることによって浸透圧が急激に変化し、微生物の細胞膜が傷害を受け、後の微生物検知方法によって得られる計数値、特に生菌数に対して悪影響を及ぼす。
【0129】
そこで、後から希釈操作する必要がないように、積層する被検査試料8の量を液状媒体A2乃至液状媒体D5の量に対して量比が1/2になるように積層することによって、微生物分離液16中の微生物濃度を1/2にすることができる。このように積層する被検査試料8の量を1/2にすることによって得られた微生物計数値を1/2で割ることによって元の被検査試料8中の微生物濃度に換算することができるようになり、後から希釈操作を行わずにそのまま微生物検知方法に微生物分離液16を供することができるようになり、正確に微生物濃度を計数することができるようになる。
【0130】
例えば、スイングローター式遠心分離機(TOMYLX−120)を利用する場合、同時に40種類の被検査試料を遠心処理することができる。そこで、積層するCMPスラリーの量を0.5ml、1ml、2mlと3種類を同時に遠心処理すれば、希釈操作をすることなく1/2〜2倍の微生物濃度になるように微生物分離液16を3種類得ることができる。
【0131】
Bioplorerなどの光学的に微生物を検出する方法では、100000個/ml以上の微生物濃度を検出する場合、測定誤差が大きくなるため希釈して再計測することとなる。上記のような方法を用いることによって、微生物検査に供する微生物分離液16の微生物濃度を元のCMPスラリーの微生物濃度に対して1/2〜2倍にすることができる。従って、元のCMPスラリーの菌濃度が100000個/mlであってもBioplorerでの計測値が50000個/mlと計数されることとなり、希釈して再計測しなくても計数することができることとなる。
【0132】
また、積層するCMPスラリーの量を0.01mlから10mlにすることによって、微生物検査に供する微生物分離液16の微生物濃度を元のCMPスラリーの微生物濃度に対して1/100〜10倍にすることができ、CMPスラリーの菌濃度が、10〜10000000個/mlであって後から希釈操作することなく計数できることとなる。このように、積層するCMPスラリーの量を変えることによって、測定できる微生物濃度の範囲が増大させることができ、CMPスラリーの微生物管理をしていく上で有効な手段として用いることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の微生物分離方法およびこれを用いた微生物検査方法を用いることによって、高濃度の砥粒を含んだCMPスラリーのような液状試料中に生息する微生物を砥粒と分離することができるようになり、微生物検査に供することができるようになる。また、微生物濃度が低くても高くても精度良く検知し計数することができるようになる。また、微生物の種類によらずCMPスラリー中に生息する微生物の数を数えることができるようになるため、CMPスラリーの微生物汚染の程度をモニターすることができるようになり、CMPスラリーの品質を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の実施の形態1に記載の微生物分離方法の模式図
【図2】本発明の実施の形態2に記載の沈殿物を回収するのを防止する方法を示した模式図
【図3】本発明の実施の形態2に記載の沈殿物を回収するのを防止する方法を用いて微生物分離液を回収する方法を示した模式図
【図4】本発明の実施の形態3に記載の微生物検知方法を示した模式図
【図5】本発明の実施の形態4に記載の微生物分離方法の模式図
【図6】従来のCMPスラリー中の微生物の有無を検査する方法を示した模式図
【符号の説明】
【0135】
1 容器
2 液状媒体A
3 液状媒体B
4 液状媒体C
5 液状媒体D
6 微生物
7 固形物
8 被検査試料
9 沈殿物
10 沈殿物回収防止手段
11 顆粒
12 吸引口
13 吸引管
14 ポンプ
15 回収容器
16 微生物分離液
17 細孔
18 濾過メンブレン
19 光学検知手段
101 砥粒
102 濾過膜
103 細孔
104 異物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物と微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料あるいは微生物を含んでいることが疑われる微生物以外の固形物を含んだ液状物質からなる被検査試料を入れた容器中で、前記微生物を含んだ、あるいは前記微生物が含まれると疑われる微生物分離液と前記微生物以外の固形物とに分離する微生物分離方法であって、前記被検査試料の下に前記被検査試料より比重が高く前記被検査試料と混合しない液状媒体を前記被検査試料と接するように前記容器内に配置させた後、前記微生物と前記微生物以外の固形物を前記液状媒体中で沈降させることによって、前記液状媒体中で前記微生物以外の固形物が凝集しやすくなることを利用して前記微生物以外の固形物を凝集させ凝集沈殿物とし、前記凝集沈殿物を前記容器内に残したまま前記液状媒体を回収し、その回収液を前記微生物分離液とすることを特徴とする微生物分離方法。
【請求項2】
被検査試料がコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、酸化セリアの少なくともいずれか一つの砥粒を含んだCMPスラリーであることを特徴とする請求項1に記載の微生物分離方法。
【請求項3】
液状媒体が単糖類、二糖類、または多糖類の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の微生物分離方法。
【請求項4】
液状媒体がFicoll、Percollおよびショ糖の少なくともいずれか一つを溶解した水溶液であることを特徴とする請求項3に記載の微生物分離方法。
【請求項5】
比重の異なる2種類以上の液状媒体をそれぞれが混合しないように、比重の重い液状媒体が比重の軽い液状媒体より下になるように容器内に配置させ、微生物以外の固形物が前記液状媒体中で沈降し沈殿物となった後に、それぞれ比重の異なる液状媒体を分別回収することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微生物分離方法。
【請求項6】
被検査試料と液状媒体の界面に垂直に前記被検査媒体から前記液状媒体に向かう方向性を持った自然重力以外の重力を発生させる重力発生手段を用いて、前記被検査試料と前記液状媒体が積層された内容物を保有する容器に対して重力を加えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の微生物分離方法。
【請求項7】
重力発生手段は遠心力を利用することを特徴とする請求項6に記載の微生物分離方法。
【請求項8】
利用する遠心力は2000g重以下であることを特徴とする請求項7に記載の微生物分離方法。
【請求項9】
液状媒体を20度以上30度以下の温度になるように維持することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微生物分離方法。
【請求項10】
回収する液状媒体中に凝集沈殿物が混入することを防止する沈殿物回収防止手段を設けた容器を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法。
【請求項11】
液状媒体よりも比重が大きく、粒径が0.1mm以上の顆粒を前記液状媒体にあらかじめ混入しておき、前記顆粒が沈殿してできた顆粒の沈殿物の隙間に凝集沈殿物を捕捉することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の微生物分離方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかの微生物分離方法で回収した微生物分離液に含まれる微生物を検出することを特徴とする微生物検査方法。
【請求項13】
微生物分離液をよく混合し微生物濃度の偏りをなくしてから微生物検査に供することを特徴とする請求項12に記載の微生物検査方法。
【請求項14】
微生物分離液をフィルターで濾過し、前記フィルター上に捕捉された微生物を光学的に検出することによって微生物分離液に含まれる微生物を計数し微生物計数値とすることを特徴とする請求項12または13に記載の微生物検査方法。
【請求項15】
フィルター上に捕捉された微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項14に記載の微生物検査方法。
【請求項16】
微生物を捕捉したフィルターに洗浄液を濾過してフィルター上に付着残存している液状媒体成分を洗浄除去した後に微生物を染色試薬で染色することを特徴とする請求項15に記載の微生物検査方法。
【請求項17】
液状媒体の量に対して2倍以上の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法。
【請求項18】
液状媒体の量に対して1/2以下の被検査試料を用いることを特徴とした請求項12〜16のいずれかに記載の微生物検査方法。
【請求項19】
微生物計数値を液状媒体の量に対する被検査試料の量の比率に応じて補正することを特徴とする請求項17または18に記載の微生物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−11783(P2010−11783A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174149(P2008−174149)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】