説明

微粒子二酸化チタン、その製造方法ならびにその用途

【課題】工業原料は厳密な元素組成管理が求められるようになっているが、原料への水分の吸着・脱着挙動は、この元素組成管理を極めて難しいものとしている。そこで厳密な元素組成管理を必要とされるような用途においても使用可能な、環境中の水分の影響を受けにくい、すなわち質量変動の小さな二酸化チタンを提供する。
【解決手段】直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように2g以上5g以下の粉末をいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置した場合に、放置前の質量を基準にした質量変化率が、−5質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、BET比表面積が10〜200m2/gである微粒子二酸化チタン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子二酸化チタン(TiO2)及びその製造法に関し、さらに詳しくは四塩化チタンを原料とし、気相法により得られた微粒子二酸化チタンであって、光触媒や太陽電池、シリコーンゴムへの添加剤、誘電体原料等に好適な質量変化率の小さな微粒子二酸化チタン及びその製造方法ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子二酸化チタンは、紫外線遮蔽材やシリコーンゴムヘの添加剤、誘電体原料、化粧料等、多岐の用途に亘って使用されてきた。また、近年では光触媒や太陽電池等への応用が脚光を浴びている。
【0003】
二酸化チタンの結晶型はルチル、アナターゼ、ブルッカイトの3種類が存在するが、光触媒、太陽電池の分野ではルチルよりも光電気化学活性に優れるアナターゼやブルッカイトが用いられる。
【0004】
二酸化チタンの光触媒作用は抗菌タイル、セルフ・クリーニング建材、消臭繊維など有機物の分解に利用されており、その機構は次のように説明されている。二酸化チタンは紫外線を吸収し、その内部に電子と正孔を発生させる。正孔は二酸化チタンの吸着水と反応してヒドロキシラジカルを生成させ、二酸化チタン粒子表面に吸着した有機物を炭酸ガスや水に分解する。(非特許文献1)
【0005】
すなわち、光触媒作用の強い二酸化チタンの条件として、正孔を発生させやすいこと、二酸化チタン表面に正孔が到達しやすいこと、が挙げられる。光触媒作用が高い二酸化チタンとして、アナターゼ、格子欠陥の少ないもの、粒子が小さく比表面積の大きいもの等が挙げられている。(非特許文献2)
【0006】
実用面では、二酸化チタンは基材の表面にバインダーにより固定され、この層に光が当たり触媒能を発現する。意匠性の観点から光触媒層には透明性が要求される。このため、基材への担持に際し、二酸化チタンの量および粉体の分散性が非常に重要となる。
【0007】
太陽電池としての応用は、1991年にローザンヌ工科大学のグレッツェルらが二酸化チタンとルテニウム系色素を組み合わせた色素増感型太陽電池を報告して以来、研究が進められている。(非特許文献3)
【0008】
色素増感型太陽電池において、二酸化チタンは色素の担持体及びn型半導体としての役割を有し、導電性ガラス電極に結着された色素電極として用いられる。色素増感型太陽電池は電解層を色素電極と対極で挟み込んだ構造であり、色素は光を吸収することで電子と正孔を発生する。発生した電子は二酸化チタン層を通じて導電性ガラス電極に到達し、外部へと取り出される。一方、発生した正孔は、電解層を通じて対極へと運ばれ、導電性ガラス電極を通じて供給された電子と結合する。色素増感型太陽電池の特性を高める一因として、二酸化チタンと色素の結合が容易であることが挙げられる。色素との結合が容易な二酸化チタンの結晶型としては、例えば、特許文献1にはアナターゼが使用されており、また、特許文献2にはブルッカイトが色素増感型太陽電池に好適であることが記載されている。
【0009】
二酸化チタンは分散性の良いものがその機能を引き出す上で重要である。例えば二酸化チタンを光触媒として使用する際、分散性が悪いと隠蔽力が強くなるため、使用できる用途が限定されてしまう。太陽電池の分野においても分散性の悪い二酸化チタンは光を透過しにくいため、光吸収に寄与できる二酸化チタンが限られ、光電変換効率を悪化させる。一般に、光散乱(隠蔽力)は粒径が可視光波長の1/2程度であるとき最大になり、粒径が小さくなると光散乱も弱まるといわれている(非特許文献4)。
【0010】
前述の分野で利用される二酸化チタンの一次粒子径は数〜数十nmであることが多いため、分散性が良好であれば光散乱への影響は小さい。しかし、分散が悪く凝集粒径の大きい二酸化チタンは光散乱が強まることになる。分散性のよい粒子とは、凝集がなく、一次粒子に近い状態で安定して溶媒中に存在できる粒子ということができる。
【0011】
二酸化チタンは高性能の誘電体原料としても不可欠の材料である。誘電体として、例えばBaTiO3 は加熱下で次の反応によって得られる。
BaCO3+ TiO2 → BaTiO3 + CO2
BaTiO3の誘電体特性を高めるためには、先ずBaTiO3 粒子を細かくすることが必要である。上記の反応は固相反応であり、その際先ず高温でBaCO3が分解してBaOが生成し、BaOがTiO2粒子中を拡散固溶してBaTiO3になると言われている。従ってBaTiO3粒子の大きさはTiO2粒子の大きさに支配されることになる。
【0012】
TiO2粒子に含まれる塩素は粒子のごく表面層に吸着して存在しており、加熱中に生成したBaOと反応してBaCl2が生成する。このBaCl2は溶融してフラックスの作用をし、TiO2粒子やBaTiO3粒子の凝集を引き起す。また溶融したフラックスは局在化し易く、その局在化した部分では凝集が多くなり、他の部分との間で品質にバラツキが生ずる。また粒子が凝集するとBaTiO3粒子の結晶が成長して異常粒子となり、BaTiO3の誘電特性を低下させることになる。高性能の誘電体合成時にはBaOとTiO2比は厳密に1:1に管理する必要があるが、塩素の存在は組成比にずれを生じさせる。
【0013】
さらに粒子表面の吸着水分の変動はこうした不純物以上に問題となる。二酸化チタンを用いる際には、きわめて厳密な配合Ti分の管理が必要とされることが多い。特に前述の誘電体原料として使用する場合はppmオーダーまで配合成分を管理する必要がある。しかしながら工業上の利用においては、厳密に原料成分を制御するのは容易でない。というのも水分は原料の取り扱い雰囲気中に存在する物質であり、粒子表面の化学吸着水・物理吸着水量の制御に大きな困難を伴うためである。
【0014】
二酸化チタンの表面は基本的にTi原子やO原子と化学的に結合したOH基によって覆われている。このOH基にさらに水分子が水素結合によって幾層にも物理吸着し、乾燥減量として測定される水分を形成している。(非特許文献5)
【0015】
しかし、この水分は環境の湿度によって吸放湿を繰り返すため、季節や天候の影響を受けやすく、厳密にBaOとTiO2比を制御するためには、合成の直前に絶乾・秤量する必要があり、設備的・経済的負担は計り知れないものがあった。さらに微粒子ほど単位質量当たりの表面積、すなわち比表面積が大きいため、水分吸着量も多く、原料投入の量的ばらつきも大きいことになる。最近は微粒子化の傾向が強いこともあり、投入量の変動とそれに伴う収率低下は避けられないものとなっていた。
【0016】
二酸化チタンの製造方法は、大別して四塩化チタンや硫酸チタニルを加水分解する液相法と、四塩化チタンを酸素あるいは水蒸気等の酸化性ガスと反応させる気相法とがある。液相法による二酸化チタンはアナターゼを主相として得ることはできるが、ゾルあるいはスラリー状態にならざるを得ない。この状態で使用する場合、用途は限定される。粉末として使用するためには乾燥させる必要があり、乾燥後は一般に凝集が激しくなる欠点がある(非特許文献6)。
【0017】
この二酸化チタンを光触媒等に供する場合には分散性を高めるため二酸化チタンを強く解砕したり粉砕したりする必要があり、粉砕等の処理に由来する摩耗物の混入や粒度分布の不均一さ等の問題を引き起こすことがある。
【0018】
一方、気相法による二酸化チタンは、溶媒を使用しないため液相法に比べて分散性に優れている(非特許文献6)。
【0019】
気相法で二酸化チタンの超微粒子を得る例は数多くあり、例えば、四塩化チタンを火炎中にて加水分解し二酸化チタンを製造する方法において、酸素、四塩化チタン、水素のモル比を調整して反応させ、ルチル含有率の高い二酸化チタンを得る方法が開示されている(特許文献4)。四塩化チタンを高温気相中で加水分解させ、反応生成物を急速に冷却することにより、結晶質二酸化チタン粉末を製造する方法において、炎温度と原料ガス中のチタン濃度を特定することにより平均一次粒子径が40nm以上、150nm以下の結晶質透明二酸化チタンを得る方法が開示されている(特許文献3)。
【0020】
気相法でアナターゼが主相の二酸化チタンを製造する方法は、例えば、気相反応において酸素と水素の混合気体中の水素の比率を変えることでルチルの含有比率を調整する製造方法が開示されており、ルチル含有率が9%の二酸化チタンが記載されている。しかし、例示された二酸化チタンの粒径は0.5〜0.6μmであり、一般的に超微粒子といわれる粒径の範囲よりも粗い。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平10−255863号公報
【特許文献2】特開2000−340269号公報
【特許文献3】特開平7−316536号公報
【特許文献4】特開平3−252315号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】藤嶋昭、橋本和仁、渡部俊也共著 「光クリーン革命」(株)シーエムシー 1997年発行
【非特許文献2】橋本和仁、藤嶋昭 編集 「酸化チタン光触媒のすべて」(株)シーエムシー 1998発行
【非特許文献3】M.Graezel,Nature,353,737,(1991)
【非特許文献4】清野学著 「酸化チタン」 技報堂出版(株) p.129,1991発行
【非特許文献5】清野学著 「酸化チタン」 技報堂出版(株) p.54,1991発行
【非特許文献6】「超微粒子ハンドブック」 株式会社フジテクノシステム 1990発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
二酸化チタンの乾燥減量の変動は、二酸化チタンを光触媒や太陽電池などに使用する場合、フォーミュレーションを変化させ、品質変動・性能低下・収率低下をひきおこす原因となる。
【0024】
また、二酸化チタン中のFe、Al、Si、S等の不純物も、品質変動・性能低下・収率低下の原因になるので、低く抑えた方が良い。例えば、二酸化チタンにFeが存在すると着色の原因になり、透明性を要求される用途での使用に適さない。二酸化チタン粒子内部にAl、S等の成分が存在すると格子欠陥を生じてしまい、光触媒、太陽電池としての機能を低下させることも考えられる。
【0025】
二酸化チタンの製法としては、四塩化チタンを原料とする気相法で二酸化チタンを製造すると超微粒子は得やすいが、原料由来の塩素が二酸化チタンに残存するため、加熱あるいは水洗等による脱塩素が必要となることが多い。二酸化チタン粒子表面に化学吸着している水分あるいは水酸基の量はこうした加熱や水洗などの処理方法に大きく影響を受ける。残存塩素なども含め、こうした二酸化チタンの表面性状は吸着水の量にも大きな影響を与えるのみならず、二酸化チタンを利用する際の加熱時における粒子同士の焼結挙動や、凝集挙動に大きく影響する。特に二酸化チタン粒子が細かくなるほど表面に存在する原子の割合は増えるため、表面状態の影響は大きなものとなる。
【0026】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の課題は、微粒子粉体において大きな質量変動因子となっている吸着水分の変動が小さい二酸化チタン、さらに好ましくは純度が高い超微粒子二酸化チタン及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、気相法において、その合成条件と高純度化の条件を調整することにより、二酸化チタン表面に存在する水酸基を十分に大きくする技術を見出し、これによりいかなる環境においても質量変動の小さな超微粒子二酸化チタンを製造し得ることを見出し、上記課題を解決するに至った。
【0028】
すなわち、本発明の好ましい実施態様においては、四塩化チタンを含有するガス及び酸化性ガス(水蒸気、あるいは酸素と水蒸気を含有する混合ガス)を反応させる気相法において、該原料ガスの加熱温度、酸化性ガスの種類や量を制御しながら反応させた後、加熱による脱塩素処理時の、加熱温度と添加する水蒸気の量を制御することによって得られる、灼熱減量と通常環境中での質量変動が安定した微粒子二酸化チタン、及び粒度分布や粗粒に特定の特性を有する超微粒子二酸化チタン及びその製造方法を提供するものである。
【0029】
本発明は、以下の事項を含む。
【0030】
〔1〕 直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように2g以上5g以下の粉末をいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置した場合に、放置前の質量を基準にした質量変化率が、−5質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、BET比表面積が10〜200m2/gである微粒子二酸化チタン。
【0031】
〔2〕 90%累積質量粒度分布径(以下、D90と表記)が2.2μm以下であることを特徴とする上記〔1〕に記載の微粒子二酸化チタン。
【0032】
〔3〕 下記(1)式に表されるロジン・ラムラー式による分布定数nが1.7以上3.5以下であることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の微粒子二酸化チタン。
R=100exp(−bDn) ・・・(1)
〔(1)式中、Dは粒径を表し、Rは全粒子質量に対するD(粒径)より大きな粒子の質量百分率であり、nは分布定数を示す。〕
【0033】
〔4〕 BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(2)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
2.1×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.25×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2)式
〔(2)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2/g)を示す。〕
【0034】
〔5〕 BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(2’)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.3×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.7×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2’)式
〔(2’)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2/g)を示す。〕
【0035】
〔6〕 BET比表面積をα(m2 /g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(3)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.5×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3)式
〔(3)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2 /g)を示す。〕
【0036】
〔7〕 BET比表面積をα(m2 /g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(3’)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.15×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3’)式
〔(3’)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2 /g)を示す。〕
【0037】
〔8〕 Fe、Al、Sの含有量が各々10質量ppm以下であることを特徴とする上記〔1〕乃至〔7〕のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタン。
【0038】
〔9〕 粉体におけるClの含有量が灼熱減量の50質量%以下であることを特徴とする上記〔1〕乃至〔8〕のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタン。
【0039】
〔10〕 四塩化チタンを含むガスを酸化性ガスを用いて高温酸化することにより二酸化チタン粉末を製造する第1工程と、該粉末を加熱炉中で転動させながら水蒸気を二酸化チタン粉末と接触させ、脱塩素を行なうと同時に吸着水分を増加させる第2工程を含むことを特徴とする微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0040】
〔11〕 酸化性ガスが水蒸気であることを特徴とする上記〔10〕記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0041】
〔12〕 水蒸気が、四塩化チタンガス1molに対し、2mol以上30mol以下であることを特徴とする上記〔11〕記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0042】
〔13〕 四塩化チタンを含むガス及び酸化性ガスが反応管に供給する予熱温度が、それぞれ、600℃以上1,100℃未満である上記〔10〕乃至〔12〕のいずれか一項に記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0043】
〔14〕 第2工程が、加熱炉中に二酸化チタン粉末の1質量%以上60質量%以下となるよう水蒸気を導入し、水蒸気と粉体とを向流接触させることを特徴とする上記〔10〕乃至〔13〕のいずれか一項に記載の微粒二酸化チタン粉末の製造方法。
【0044】
〔15〕 第2工程が、加熱炉中に二酸化チタン粉末の1質量%以上50質量%以下となるよう水蒸気を導入し、水蒸気と粉体とを向流接触させることを特徴とする上記〔10〕乃至〔13〕のいずれか一項に記載の微粒二酸化チタン粉末の製造方法。
【0045】
〔16〕 第2工程が、二酸化チタンを150℃以上500℃以下に加熱する上記〔10〕乃至〔15〕のいずれか一項に記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0046】
〔17〕 第2工程が、加熱炉内の粉末の滞留時間が0.5時間以上3時間未満であることを特徴とする上記〔10〕乃至〔16〕のいずれか一項に記載の微粒子二酸化チタンの製造法。
【0047】
〔18〕 粉体を樹脂袋へ梱包する時に、液滴径5〜500μmの水滴を噴霧し、封緘した後、保管することを特徴とする微粒子二酸化チタンの製造方法。
【0048】
〔19〕 上記〔10〕乃至〔18〕のいずれか1項に記載の方法で製造された微粒子二酸化チタン。
【0049】
〔20〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか一項に記載の微粒子二酸化チタンを原料の一部として使用することを特徴とするペロブスカイト化合物。
【0050】
〔21〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする誘電体原料。
【0051】
〔22〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とするスラリー。
【0052】
〔23〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする組成物。
【0053】
〔24〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする光触媒材料。
【0054】
〔25〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする化粧料。
【0055】
〔26〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする太陽電池用材料。
【0056】
〔27〕 上記〔1〕乃至〔9〕または〔19〕のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とするシリコーンゴム添加剤。
【発明の効果】
【0057】
本発明の好ましい製造方法により、質量変化が小さな微粒子二酸化チタン、及び粒度分布や粗粒に特定の特徴を有する超微粒子二酸化チタンが得られる。
【0058】
これにより、二酸化チタンを工業的に使用する際に、灼熱減量測定などの方法により、事前にTi分を厳密に測定する工程を省くことのできる二酸化チタンを得ることができ、製造コストの低減を図ることができるだけでなく、配合量を精度よく制御できる二酸化チタンを得ることができる。
【0059】
このようにして製造された微粒子二酸化チタンは比表面積が大きくても、原料投入の量的ばらつきが小さいので、各種組成物の顔料、紫外線遮蔽材やシリコーンゴムへの添加剤、衣料、誘電体原料化粧料、光触媒、太陽電池等の原料として使用する場合において、品質変動、性能低下、収率低下が生じにくいという顕著な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例及び比較例で製造した微粒子二酸化チタンのBET比表面積と灼熱減量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0062】
通常、二酸化チタンを工業的規模で利用する際には原料成分仕込量を厳しく管理するため、灼熱減量・乾燥減量などを測定したうえで、仕込み量に修正を加える。しかし、吸湿・放湿は迅速に進むため、分析から投入量計量までの時間に吸着水分量が変化し、仕込量に誤差をもたらす。このため、修正を加えてもなお、Ti分の仕込量を厳密にコントロールするのは非常に困難である。
【0063】
本発明の好ましい実施態様である超微粒子二酸化チタン(本願明細書で記載されている二酸化チタンには酸化チタンと略称されるすべてのものを含む)は、質量の変化が小さい。通常の二酸化チタンは表面にあるTi原子にOH基が化学結合し、そのOH基に水分子が水素結合によって何層にもわたって結合し、物理吸着水の層を形成している。この物理吸着水は二酸化チタン表面から遠くなるほど、すなわち外側の層であるほど結合が弱いと考えられる。したがって、多くの層を構成しているほど質量は環境の影響を受け、変動しやすくなる。これに対し、本発明の好ましい実施態様である二酸化チタンは、水が吸着している階層が低次であると考えられ、質量変動が小さい。
【0064】
具体的には、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように2g以上5g以下の粉末をいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置した場合に、放置前の質量を基準にした質量変化率が、−5質量%以上5質量%以下、好ましくは−4.5質量%以上4.5質量%以下、さらに好ましくは−4質量%以上4質量%以下、より好ましくは−2.5質量%以上2.5質量%以下であることが特徴である。
【0065】
この微粒二酸化チタン粉末は、BET法で測定した粉体の比表面積が10〜200m2/g、好ましくは20〜180m2/gの範囲を有するものであり、かつ好ましくは90%累積質量粒度分布径D90が2.2μm以下である。これは粗粒子が少ないことを意味しており、微粒子が望まれる用途に適している。また粒度分布においても、下記(1)式に表されるロジン・ラムラー(Rosin−Rammler)式による分布定数nが1.7以上4.0以下、より好ましくは1.7以上3.5以下、さらに好ましくは1.9以上3.5以下である粉体となることが好ましい。分布定数nは粒度の均一性の度合いを表し、nの数値が大きいほど粒度の均一性に優れていると判断される。
R=100exp(−bDn) ・・・(1)
(1)式中、Dは粒径を表し、Rは全粒子質量に対するDより大きな粒子の質量百分率であり、nは分布定数を示す。bは粒度特性を表す係数である。ロジン・ラムラー式はセラミック工学ハンドブック((社)日本セラミック協会編 第1版)第596〜598頁に記載されている。
【0066】
また、BET法で測定した粉末の比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが、(2)式
2.1×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.25×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2)式
の範囲、さらには(2’)式
1.3×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.7×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2’)式
の範囲、より望ましくは(3)式
1.5×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3)式
の範囲、さらには(3’)式
1.15×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3’)式
の範囲により表される微粒二酸化チタン粉末は、これまでの二酸化チタン粉末に比べ、質量変化率が小さく、精度の高い仕込量を要求される原料に適している。なお、(2)式、(2’)式、(3)式、(3’)式においてβは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET法で測定した比表面積(m2/g)を示す。
【0067】
次に(2)式、(2’)式、(3)式あるいは(3’)式の意味について記す。両式の元となる式は以下の(4)式である。なお、α、βは(2)式、(2’)式、(3)式あるいは(3’)式における意味と同義である。
(α×10×1018)/(6×1023)×18+{(α−β)×10×1018}/(6×1023)×0.5×18 ・・・・(4)式
この式は次の2式に分解される。
(α〔m2/g〕×10×1018〔個/m2〕)/(6×1023)〔個/mol〕×18〔g/mol〕 ・・・・(5)式
{(α−β)〔m2/g〕×10×1018〔個/m2〕}/(6×1023)〔個/mol〕×0.5×18〔g/mol〕 ・・・・(6)式
【0068】
二酸化チタン粒子の表面にはルチルで約10×1018〔個/m2〕、アナターゼで約13×1018〔個/m2〕のOHが存在すると言われている(非特許文献5)。この数のルチル粒子表面のOHが、それぞれH2O1分子と結合しており、それが灼熱減量測定時の加熱により水として離脱すると考えたときに、粒子から離脱する水の質量割合が(5)式で表される。
【0069】
また、灼熱減量を測定する際には900℃で加熱を行う。加熱により二酸化チタンは粒成長を起こし、比表面積が低下する。この低下量が(α−β)〔m2/g〕で表される。つまり加熱時の比表面積低下によりOH基が離脱していく経路も考えられる。この際には二酸化チタン表面の2分子のOH基から、水が1分子生成することになるので、(6)式には0.5が乗ぜられる。したがって、表面積低下により離脱していく水の質量割合が(6)式で表される。
【0070】
灼熱減量として測定される離脱水は(5)式と(6)式の和、すなわち(4)式となる。(4)式にある範囲を持たせたのが(2)式、(2’)式、(3)式あるいは(3’)式である。
【0071】
本発明の好ましい実施態様である微粒子二酸化チタンは、Fe、Al、Sの含有量が各10質量ppm以下であることが好ましい。気相法で得られる二酸化チタンは高純度の四塩化チタンを原料とするため、不純物の混入を抑えることができる。これらの濃度は低ければ低いほどよいが、装置材料、原料純度などの観点から高純度にするほど費用は高くなる。工業上の用途においては下限値がそれぞれ2質量ppm程度が現実的である。
【0072】
本発明の好ましい実施態様である二酸化チタンは分散性が高いことを特徴とする。これは粒子生成時に水蒸気に富む雰囲気で反応しているため、粒子表面が十分水分子あるいはOH基で覆われているためと考えられる。本発明においては、分散性の指標としてレーザー回折式粒度分布測定法を採用し粒度分布を測定した。「超微粒子ハンドブック」齋藤進六監修,フジ・テクノシステム,p93,(1990)によると、分散性の測定法には、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、直接計数法等があるが、このうち沈降法、直接計数法は測定可能な粒径が数百nm以上であり、超微粒子の分散性を測定するには不適である。また、顕微鏡法も対象試料のサンプリングや試料の前処理によって測定値が変動することもあり、好ましい測定法とはいえない。これに対し、光散乱法は数nm〜数μmの範囲で粒径を測定することができ、超微粒子の測定に適している。粒度分布の測定手順について以下に説明する。分散性の指標として粒度分布測定法を採用し、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いることが好ましく、例えばマイクロトラックHRA(日機装(株)社製)やSALD−2000J((株)島津製作所製)で測定することができる。粒度分布の測定手順について以下に説明する。
【0073】
二酸化チタン0.05gに純水50ml及び10%ヘキサメタリン酸ソーダ水溶液100μlを加えたスラリーに、3分間超音波照射(46KHz、65W)する。このスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製SALD−2000J)にかけて、粒度分布を測定する。このようにして測定された粒度分布におけるD90の値が小さければ、親水性溶媒に対して良好な分散性を示していると判断される。50%累積質量粒度分布径を分散性の指標とすることも可能であるが、分散性の悪い凝集粒子を検知しにくい。
【0074】
本発明の超微粒子二酸化チタンは、D90が2.2μm以下であることが好ましい。
【0075】
次に製造方法について説明する。
【0076】
気相法による一般的な二酸化チタンの製造方法は公知であり、四塩化チタンを酸素又は水蒸気等の酸化性ガスを用いて、約1,000℃の反応条件下で酸化させると微粒子二酸化チタンが得られる。
【0077】
本発明の好ましい実施態様では、四塩化チタンを含むガスを酸化性ガスで高温酸化することにより二酸化チタンを製造する気相法を採用する。好ましくは、600℃以上1,100℃未満に加熱した四塩化チタンを含有するガス、及び600℃以上1,100℃未満に加熱した酸化性ガス(好ましくは水蒸気)をそれぞれ反応管に供給する。さらに好ましくは、反応させて得られた二酸化チタンを、800℃以上1,100℃未満の温度条件で反応管内に滞留させた後、150℃以上500℃以下の条件で、酸化性ガスと粉体を向流接触させつつ脱塩素することにより、二酸化チタン表面に水分を十分安定的に結合した、質量変化の小さな超微粒子二酸化チタンが得られる。
【0078】
脱塩素には乾式法と湿式法があるが、ここでは乾式脱塩素法を示す。例えば、円筒形回転式加熱炉、熱風循環式加熱炉、流動乾燥炉、撹拌乾燥炉等の加熱装置を用いて二酸化チタンを加熱し、塩素を除去しつつ、表面水分を安定させる方法である。尚、本発明は、必ずしもこれら加熱装置に限定されるものではない。また、例えば、二酸化チタンを純水に懸濁させ、液相に移行した塩素を系外に分離する湿式脱塩素法なども採用可能であるが水分安定化の観点からは、乾式脱塩素法が好ましい。
【0079】
四塩化チタン含有ガスあるいは水蒸気を導入する反応管内の温度は、800℃以上1,100℃未満が好ましく、更に好ましくは900℃以上1,000℃未満である。反応管内温度を高くすることによって、混合と同時に反応は完結するので均一核発生が増進され、かつ、反応ゾーンを小さくすることができる。反応管内温度が800℃より低いと、アナターゼ含有率の高い二酸化チタンが得られやすいものの、反応が不充分で二酸化チタン粒子内部に塩素が残存する場合がある。反応管内温度が1,100℃以上になるとルチル転移や粒子成長が進行し、低ルチル型、超微粒子が得られない傾向にある。
【0080】
一方、原料ガスが反応管に導入され反応が進行すると、本反応が発熱反応である為、反応温度が1,100℃を越える反応ゾーンが存在する。装置放熱は多少あるものの、急冷を施さないかぎり二酸化チタン粒子は成長しつづけ、かつ、結晶型がルチルに転移してしまう。そこで、本発明の好ましい実施態様においては800℃以上1,100℃未満の高温滞留時間を0.1秒以下に抑えることが好ましく、特に好ましくは0.05秒以下である。高温滞留時間が0.1秒を越えると、ルチルへの転移や粒子の焼結が進行する傾向がある。
【0081】
急冷の手段としては特に限定されないが、例えば、反応混合物に多量の冷却空気や窒素等のガスを導入する方法、あるいは水を噴霧する方法等が採用される。
【0082】
反応管内の温度を前記800℃以上1,100℃未満に制御することで粒子内部の塩素含有量が低い超微粒子を得ることができ、また、高温滞留時間を0.1秒以下に制御することでルチル転移及び粒成長を抑制することができる。
【0083】
反応管内の温度を前記800℃以上1,100℃未満にするためには、原料ガスの加熱温度を600℃以上1,100℃以下に調整することが好ましい。加熱された原料ガスは反応管内で反応し発熱するが、原料ガス温度が600℃未満であると、反応管内の温度は800℃以上になりにくい。また、原料ガス温度が1,100℃以上であると装置放熱はあるものの、反応管内の温度は1,100℃を越えやすくなる。
【0084】
四塩化チタンを含む原料ガスの組成は、四塩化チタンガス1モルに対し、不活性ガス0.1〜20モルであることが好ましく、さらに好ましくは4〜20モルである。不活性ガスが前記範囲より少ない場合、反応ゾーンにおける二酸化チタン粒子密度が高まり、凝集、焼結しやすくなるため、超微粒子二酸化チタンが得られにくい。不活性ガスが前記範囲よりも多い場合、反応性が低下し、二酸化チタンとしての回収率が低下する場合がある。
【0085】
四塩化チタンを含む原料ガスと反応させる水蒸気量は、四塩化チタン1モルに対し2〜30モルであることが好ましい。さらに好ましくは5〜25モルである。水蒸気の割合はこれより少ないと合成される二酸化チタン粒子表面に水分が十分に結合しておらず、長期に保管した場合、二酸化チタン粒子表面がゆっくり水分と反応することになり、質量変動の原因となる。これを超えると、核発生数が増加し超微粒子は得られやすくなるが、30モルを越えても核発生数を増加させる効果はほとんど無い。水蒸気量が30モルを越えても二酸化チタンの特性に影響は無いが、経済的な観点から上限が設定される。一方、四塩化チタンに対し水蒸気量が不足すると、酸素欠陥の多い二酸化チタンとなり着色してしまう傾向にある。
【0086】
二酸化チタンの加熱による脱塩素は、水または水素と二酸化チタンとの質量比(=水蒸気の質量/二酸化チタンの質量,以下同様)が1質量%以上60質量%以下、好ましくは1質量%以上50質量%以下となるように二酸化チタン粉末に水蒸気を向流接触させながら加熱温度150℃以上500℃以下で行うことが好ましい。更に好ましくは水と二酸化チタンの質量比は5質量%以上40質量%以下、加熱温度は300℃以上450℃以下である。加熱温度が500℃を越えると二酸化チタン粒子の焼結が進み、粒成長を生じる。加熱温度が150℃を下回ると脱塩素の効率が極端に低下する。脱塩素は、二酸化チタン表面の塩素が粒子近傍の水あるいは隣接する粒子の表面水酸基と置換反応することにより進行して行く。したがって脱塩素のために加熱しつつ、水蒸気を添加するのは非常に効果的であり、塩素と水あるいはOH基との置換反応を行うことが好ましい。この際、二酸化チタン粒子表面の塩素が、水と置換された場合には粒成長せずに脱塩素化されるが、隣接する粒子の表面水酸基と置換された場合は脱塩素と同時に粒成長することとなる。すなわち、粒成長を抑制しつつ脱塩素化を図るためには水と二酸化チタンの質量比を制御することが効果的であり、水と二酸化チタンの質量比が1質量%以上であれば粒成長を抑制する効果が顕著に認められるので好ましい。
【0087】
二酸化チタンと接触させる水蒸気は空気と混合して使用することもできる。空気は二酸化チタンから分離した塩素を効率良く系外に移動させる役割を有する。水蒸気は、空気に0.1容量%以上含まれることが好ましく、更に好ましくは5容量%以上、特に好ましくは10容量%以上である。水蒸気を含んだ空気は200℃以上1,000℃以下に加熱しておくことが好ましい。
【0088】
加熱による脱塩素工程は、回転炉内の粉末の滞留時間が0.5時間以上3時間未満であることが望ましい。さらに望ましくは0.5時間以上1時間未満である。これは粒成長を抑制しつつ確実に脱塩素化を図るのに要する時間である。これより短すぎると脱塩素が不十分であり、長すぎると粒成長が進行する。
【0089】
質量変化率の小さな二酸化チタンの製造方法として、粉体を樹脂袋へ梱包する際に、水滴を同時に噴霧し、封緘した後、保管する方法もある。この方法は微小な水滴を粉体に噴霧し、粒子上に水滴を一次的に担持させ、さらに樹脂袋のような水分を比較的通しにくい密閉された包材中で保管することで、一次的に担持された水滴を吸着水として定着させるものである。このような方法によれば、きわめて短時間で水滴を脱着しにくい吸着水として安定化させることが可能である。液滴径は5〜500μmが好ましく、さらに好ましくは5〜300μmである。噴霧する水滴が500μmを超えるような大きい場合は、粉体中に水分が偏って存在することになり、水分が均一に存在するようになるまで時間を要する。また、5μmに満たない水滴径の場合は担持効率が悪く、実用的でない。5〜500μmの範囲にある水滴は、10〜200m2/gの二酸化チタンに担持させる場合にきわめて好適である。
【0090】
二酸化チタンのその他の製造方法としては、脱塩素処理後の粉体を高湿度環境中に保管する方法がある。この場合は透湿性がある包材等を入れ、適当な湿度と高湿度の環境に静置することによって、目標とする水分量を吸着させ安定化させることができる。適当な湿度とは、20〜50℃程度、冬季であれば5〜40℃程度の作業可能な温度域を示し、高湿度とは相対湿度60〜95%、好ましくは60〜90%を意味する。95%を超えると室温の変動で結露しやすくなる。ただし、この方法では安定化するまでにかなりの時間を要する。
【0091】
また、酸化チタンの脱塩素法の一つとしても挙げられる減圧法も適用できる。容器内を所定温度(例えば、5〜40℃)に調整し、酸化チタンの必要水分量と同等量の水を供給した状態で減圧法を実施すると、酸化チタンから除去された塩素を系外に移動させると同時に、水分子が塩素に置き換わって酸化チタンの表面OH基に吸着し、比較的短期間で酸化チタンの吸着水分量を増加させることができる。この場合、容器内部の減圧度は0.5kPa以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.5kPa以上2kPa以下である。ここでいう減圧度とは、減圧した容器内の圧力と大気圧との差圧を示す。尚、減圧度の上限は特に制限されないが、減圧度を高めると大掛かりな減圧装置が必要となり、経済的な観点から減圧度の上限は2kPaといえる。但し、この方法で大量の粉体を処理する場合には、連続運転時において減圧状態を維持するための設備と、減圧状態の容器から大気圧雰囲気の環境へ酸化チタンを移動させるための設備が必要となり、経済的には不利である。
【0092】
噴霧する水の特性条件は特に限定されないが、フィルターを通し金属粉等の粗粒不純物を取り除いておくことが望ましく、更に好ましくはイオン交換樹脂等で不純物を除去した純水が好ましい。水の温度は常温冷水、温水のどちらでも良いが、20℃〜100℃の温水ならば微小水滴の蒸発と粉体への吸着促進に効果的であるため好適である。
【0093】
微小径の水滴を生成し噴霧する方法は特に限定されないが、例えば、超音波加湿器や加熱スチーム発生器を用いて水蒸気を散布する方法や、1流体型もしくは2流体型スプレーノズルによる噴霧法を用いることができる。スプレーノズルを用いる場合には、特に水滴の平均粒子径が5〜500μm、好ましくは5〜300μmに制御できるノズルが好ましく、より好ましくは5〜50μmの水滴が噴霧できるノズルが好適である。水滴径については、500μmを超える場合は、粉体中に水分が偏って存在する可能性が高くなり、水分が均一に存在するようになるまで時間を要する。また、粉体に濡れやすいため、付着凝集による粗大粒子が発生する恐れがあり不適である。5μmに満たない水滴径の場合は担持効率が悪く、実用的でない。5〜500μmの範囲にある水滴は、10〜200m2/gの微粒子二酸化チタンに担持させる場合に極めて好適である。尚、水滴の平均粒子径はレーザー光散乱方式、位相ドップラー方式レーザー粒子分析等の方法を用いて測定することができる。
【0094】
2流体型スプレーノズルを用いた噴霧方法を用いる場合、使用する空気の特性条件は特に限定されないが、フィルターを通して環境の粗粒不純物を取り除いておくことが望ましく、更に好ましくはエアードライヤー等を介して余分な水分を除去したものが好ましい。空気の温度は常温でも良いが、20℃〜100℃に加熱した乾燥空気ならば微小水滴の蒸発と、粉体への吸着促進により効果があるため好適である。尚、空気の代わりに、窒素ガスなどの不燃性ガスを用いることも可能である。更に好ましくは、20℃〜100℃に加熱した温水と、20℃〜100℃に加熱した乾燥空気或いは窒素ガスなどの不燃性ガスを同時に用いることで、微小水滴の蒸発が促進し、粉体への吸着が促進されることで短期間での水分吸着と安定化に効果的である。
【0095】
上記の如く製造される本発明の好ましい実施態様である微粒子二酸化チタンは、粒度分布がシャープで粗粒子を含まない、かつ質量変動の少ない粉体であるので、微粒子二酸化チタンのさまざまな用途に好適に使用できる。たとえば、各種組成物の顔料、光触媒効果、紫外線遮蔽化粧料、紫外線遮蔽衣料、湿式太陽電池用材料、消臭衣料、紫外線遮蔽用フィラー材又はシリコーンゴム等の各種製品の添加剤、先に述べたチタン酸バリウム等のペロブスカイト化合物のような誘電体の原料などに利用できる。本発明の微粒子二酸化チタンは粉体として、あるいはスラリーとして利用される。
【0096】
ペロブスカイト型化合物の代表的な用途として、圧電セラミックス、焦電セラミックスがある。圧電アクチュエーターに使用される圧電セラミックスはBT系、PZT系、PT系、BNT系などが知られている。赤外線センサーなどに使用される焦電セラミックスはPT系などが知られている。これらはいずれも酸化チタンが原料として使用される。これらのセラミックスの製造方法は特に限定されず、公知の方法がいずれも採用可能である(例えば、微粒子工学大系第二巻 応用技術Page27〜33、Page190〜195)。なお、いずれの製造方法を採用する場合においても、原子組成を厳しく管理することが必要不可欠である。
【0097】
また、酸化チタンはハードディスクなどの研磨スラリーとして使用されることもある。この場合、研磨スラリー中における固体の濃度は研磨性能を左右する重要な因子である。また、水系への分散という点においても吸着水が安定している方が分散作業が安定する。化粧料原料や太陽電池用原料、光触媒原料などとして使用される場合も、水やシリコンゴム・ポリマー、有機ポリマーなどへの分散体として使用され、その分散工程における安定性、あるいは製品組成を決定する配合精度は酸化チタン粒子表面に存在する吸着水分が安定している方が好ましい。
【実施例】
【0098】
以下、実施例及び比較例を挙げ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0099】
実施例1:
20kg/hrの四塩化チタンを、25Nm3/hr(Nは理想気体の標準状態に換算したことを意味する。以下同じ。)の窒素ガスで希釈し、1100℃に予熱し、反応管に導入した。同様に55Nm3/hrの水蒸気を1100℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは400℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約1時間となるよう調整されている。
一方で、ロータリーキルンにおける粉体の出口からは、キルン内を通過する二酸化チタン質量の20質量%の水蒸気を導入し、粉体と水蒸気とを向流接触させた。なお、導入する水蒸気温度はあらかじめ120℃から200℃程度に加温されている。
【0100】
こうして得られた粉体のBET比表面積は107m2/g、全塩素含有量は8,000質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0101】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、0.9μmであった。
【0102】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末2gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、2.3質量%であった。
【0103】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は5.0質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は6m2/gであった。
【0104】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは2.7であった。
【0105】
実施例2:
5kg/hrの四塩化チタンを、25Nm3/hrの窒素ガスで希釈し、1100℃に予熱し、反応管に導入した。同様に55Nm3/hrの水蒸気を1100℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは400℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約1時間となるよう調整されている。
【0106】
一方で、ロータリーキルンにおける粉体の出口からは、キルン内を通過する二酸化チタン質量の30質量%の水蒸気を導入し、粉体と水蒸気とを向流接触させた。なお、導入する水蒸気温度はあらかじめ120℃から200℃程度に加温されている。
【0107】
こうして得られた粉体のBET比表面積は158m2/g、全塩素含有量は13,000質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0108】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、0.8μmであった。
【0109】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末2gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、3.6質量%であった。
【0110】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は6.5質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は3.5m2/gであった。
【0111】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは3.2であった。
【0112】
実施例3:
150kg/hrの四塩化チタンを900℃に予熱し、反応管に導入した。同様に30Nm3/hrの水蒸気を900℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは400℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約45分となるよう調整されている。
【0113】
一方で、ロータリーキルンにおける粉体の出口からは、キルン内を通過する二酸化チタン質量の3質量%の水蒸気を導入し、粉体と水蒸気とを向流接触させた。なお、導入する水蒸気温度はあらかじめ120℃から200℃程度に加温されている。
【0114】
こうして得られた粉体のBET比表面積は12m2/g、全塩素含有量は1,000質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0115】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、2.2μmであった。
【0116】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、0.12質量%であった。
【0117】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は0.37質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は5m2/gであった。
【0118】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは1.7であった。
【0119】
実施例4:
70kg/hrの四塩化チタンを、20Nm3/hrの窒素ガスで希釈し、900℃に予熱し、反応管に導入した。同様に50Nm3/hrの水蒸気を900℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは450℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約45分となるよう調整されている。
【0120】
一方で、ロータリーキルンにおける粉体の出口からは、キルン内を通過する二酸化チタン質量の10質量%の水蒸気を導入し、粉体と水蒸気とを向流接触させた。なお、導入する水蒸気温度はあらかじめ120℃から200℃程度に加温されている。
【0121】
こうして得られた粉体のBET比表面積は50m2/g、全塩素含有量は5,000質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0122】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、1.3μmであった。
【0123】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、1.8質量%であった。
【0124】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は2.40質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は5.6m2/gであった。
【0125】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは1.9であった。
【0126】
実施例5:
160kg/hrの四塩化チタンを、23Nm3/hrの窒素ガスで希釈し、1050℃に予熱し、反応管に導入した。同様に28Nm3/hrの水蒸気を1050℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは450℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約45分となるよう調整されている。
【0127】
一方で、ロータリーキルンにおける粉体の出口からは、キルン内を通過する二酸化チタン質量の4質量%の水蒸気を導入し、粉体と水蒸気とを向流接触させた。なお、導入する水蒸気温度はあらかじめ120℃から200℃程度に加温されている。
【0128】
こうして得られた粉体のBET比表面積は30m2/g、全塩素含有量は2,500質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0129】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、0.7μmであった。
【0130】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、1.0質量%であった。
【0131】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は1.25質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は5.2m2/gであった。
【0132】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは3.4であった。
【0133】
実施例6:
実施例1で用いた二酸化チタンに液滴径30μmの水滴を噴霧し、樹脂袋に充填・封緘後、室温25±3℃に調整した場所に24時間以上保管した後、その粉を直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、1.4質量%であった。
【0134】
実施例7:
実施例4で用いた二酸化チタンに液滴径30μmの水滴を噴霧し、樹脂袋に充填・封緘後、室温25±3℃に調整した場所に24時間以上保管した後、その粉を直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、0.83質量%であった。
【0135】
実施例8:
実施例5で用いた二酸化チタンに液滴径30μmの水滴を噴霧し、樹脂袋に充填・封緘後、室温25±3℃に調整した場所に24時間以上保管した後、その粉を直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、0.74質量%であった。
【0136】
比較例1:
180kg/hrの四塩化チタンを900℃に予熱し、反応管に導入した。同様に30Nm3/hrの酸素を900℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。外熱式ロータリーキルンは粉体の撹拌のために、内側にかきあげばねが設置された構造となっている。ロータリーキルンは350℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約50分となるよう調整されている。
【0137】
こうして得られた粉体のBET比表面積は6m2/g、全塩素含有量は100質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。但し、BET比表面積は、島津製作所製比表面積測定装置(機種はフローソーブII,2300)で測定した。
【0138】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、2.6μmであった。
【0139】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、6質量%であった。
【0140】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は0.6質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は5m2/gであった。
【0141】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは1.6であった。
【0142】
比較例2:
70kg/hrの四塩化チタンを、25Nm3/hrの窒素ガスで希釈し、900℃に予熱し、反応管に導入した。同様に30Nm3/hrの水蒸気を550℃に加熱して反応管に導入し、四塩化チタンガスとの反応により二酸化チタン微粒子を得た。この微粒子をポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて捕集した後、外熱式ロータリーキルンに導入した。ロータリーキルンは120℃に温度調整されており、高温帯の長さ、回転速度、キルン設置角度の調整により、粉体の滞留時間が約45分となるよう調整されている。
【0143】
こうして得られた粉体のBET比表面積は60m2/g、全塩素含有量は31,000質量ppm、Feは2ppm、Alは2ppm以下、Sは2ppm以下であった。
【0144】
ここで得られた二酸化チタン粉末の粒度分布について、レーザー回折式粒度分布測定法で90%累積質量粒度分布径D90を測定した結果、8.8μmであった。
【0145】
また、直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように粉末5gをいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置し、放置前の質量を基準にした質量変化率を求めたところ、9質量%であった。
【0146】
900℃に保持した電気炉内で粉体を1時間灼熱したときの質量減少率、すなわち灼熱減量は5.6質量%であった。灼熱減量を測定した後のサンプルのBET比表面積は5.1m2/gであった。
【0147】
また、R=100exp(−bDn)式で表されるロジン・ラムラー式の分布定数nは1.2であった。
【0148】
以上の実施例及び比較例の結果を表1及び図1にまとめて示す。表1及び図1において「LOI理論値」は灼熱減量の理論値を表し、図1の直線は好ましい範囲0.25〜2.1質量%と、より好ましい範囲0.85〜1.5質量%を表す。
【0149】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0150】
粒度分布がシャープで粗粒子を含まない、かつ質量変動の少ない粉体はさまざまな用途に適する。たとえば各種組成物の顔料又は光触媒効果、紫外線遮蔽化粧料、紫外線遮蔽衣料、消臭衣料、紫外線遮蔽用フィラー材又はシリコーンゴム等の各種製品の添加剤、誘電体原料などに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径10cmのガラス製シャーレに厚さが均等になるように2g以上5g以下の粉末をいれ、20℃、相対湿度80%の環境中に5時間静置した場合に、放置前の質量を基準にした質量変化率が、−5質量%以上5質量%以下であることを特徴とする、BET比表面積が10〜200m2/gである微粒子二酸化チタン。
【請求項2】
90%累積質量粒度分布径(D90)が2.2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子二酸化チタン。
【請求項3】
下記(1)式に表されるロジン・ラムラー式による分布定数nが1.7以上3.5以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子二酸化チタン。
R=100exp(−bDn) ・・・(1)
〔(1)式中、Dは粒径を表し、Rは全粒子質量に対するD(粒径)より大きな粒子の質量百分率であり、nは分布定数を示す。〕
【請求項4】
BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(2)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
2.1×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.25×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2)式
〔(2)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2/g)を示す。〕
【請求項5】
BET比表面積をα(m2/g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(2’)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.3×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.7×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(2’)式
〔(2’)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2/g)を示す。〕
【請求項6】
BET比表面積をα(m2 /g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(3)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.5×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3)式
〔(3)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2 /g)を示す。〕
【請求項7】
BET比表面積をα(m2 /g)、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱したときの質量減少率(以下、灼熱減量と呼ぶ)をX(質量%)とした場合、その灼熱減量Xが(3’)式により表される範囲にあることを特徴とする微粒子二酸化チタン。
1.15×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100≧X≧0.85×{α/(6×104)×18+(α−β)/(6×104)×9}×100 ・・・(3’)式
〔(3’)式中、βは、900℃に保持した電気炉内で1時間灼熱した後の粉体をBET比表面積(m2 /g)を示す。〕
【請求項8】
Fe、Al、Sの含有量が各々10質量ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタン。
【請求項9】
粉体におけるClの含有量が灼熱減量の50質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタン。
【請求項10】
四塩化チタンを含むガスを酸化性ガスを用いて高温酸化することにより二酸化チタン粉末を製造する第1工程と、該粉末を加熱炉中で転動させながら水蒸気を二酸化チタン粉末と接触させ、脱塩素を行なうと同時に吸着水分を増加させる第2工程を含むことを特徴とする微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項11】
酸化性ガスが水蒸気であることを特徴とする請求項10記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項12】
水蒸気が、四塩化チタンガス1molに対し、2mol以上30mol以下であることを特徴とする請求項11記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項13】
四塩化チタンを含むガス及び酸化性ガスが反応管に供給する予熱温度が、それぞれ、600℃以上1,100℃未満である請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項14】
第2工程が、加熱炉中に二酸化チタン粉末の1質量%以上60質量%以下となるよう水蒸気を導入し、水蒸気と粉体とを向流接触させることを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載の微粒二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項15】
第2工程が、加熱炉中に二酸化チタン粉末の1質量%以上50質量%以下となるよう水蒸気を導入し、水蒸気と粉体とを向流接触させることを特徴とする請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載の微粒二酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項16】
第2工程が、二酸化チタンを150℃以上500℃以下に加熱する請求項10乃至請求項15のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項17】
第2工程が、加熱炉内の粉末の滞留時間が0.5時間以上3時間未満であることを特徴とする請求項10乃至請求項16のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタンの製造法。
【請求項18】
粉体を樹脂袋へ梱包する時に、液滴径5〜500μmの水滴を噴霧し、封緘した後、保管することを特徴とする微粒子二酸化チタンの製造方法。
【請求項19】
請求項10乃至18のいずれか1項に記載の方法で製造された微粒子二酸化チタン。
【請求項20】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の微粒子二酸化チタンを原料の一部として使用することを特徴とするペロブスカイト化合物。
【請求項21】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする誘電体原料。
【請求項22】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とするスラリー。
【請求項23】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする組成物。
【請求項24】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項25】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする化粧料。
【請求項26】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とする太陽電池用材料。
【請求項27】
請求項1乃至請求項9または19のいずれか1項に記載の二酸化チタン粉末を含むことを特徴とするシリコーンゴム添加剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211076(P2012−211076A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115824(P2012−115824)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2005−233035(P2005−233035)の分割
【原出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】