説明

微量のサンプル又は試液の微小液滴を供給する装置

【課題】微量の試液を効率よく(無駄なく)マイクロチップのマイクロチャンネルに送るのに、厳密な吐出位置精度を必要とせずに支障なくマイクロチャンネルに送って分析・反応に供することができる分注装置を提供する。 【解決手段】分析・反応を行う微細な溝と、該溝に連通する開口部とを有するマイクロチップの、該開口部及びその周辺にサンプル又は試液の微小液滴を供給する装置を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内径数百nm〜数百μmの微細な溝(マイクロチャンネル)中で分析・反応を行うための微量のサンプル又は試液を供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックの平板に微細な溝を作製したマイクロチャンネルチップを用いた分析・反応は、チャンネルの内径が通常数百nmから数百μm、チャンネルの長さが数mmから数十cmのレベルであるため、ごく微量の試液量を用いて、短時間の内に分析・反応を実施することが可能であることから、近年、非常に注目されている技術である。これは、所謂微細総分析システム(μ−TAS)と呼ばれているが、この方法においては、反応や分析において実際に必要なサンプル・試液の液量は極微量(数pL〜数μLレベル)にすぎない。
【0003】
この試液は、安定性の問題等からpL〜μLレベルの容量の容器内に保持された形態では販売も取扱も困難であることから、通常数百μL数mLレベルの比較的大容量が容器内に保持された形態で流通・販売され、分析に供されている。また、サンプルもpL〜μLレベルでの取り扱いが困難であるため、通常数十μL〜数mLの容量の容器から,数μL数十μLレベルの容量が分取されてチップに添加され、分析に供されている。
【0004】
ここで、数十μL数mLレベルの容量のサンプル及び試液(が保持された容器)から、どのようにしてpL〜数μLレベルの量のサンプル及び試液を採取してマイクロチャンネルチップに供給(分注)するかが問題となってくる。
【0005】
たとえば、幅100μm、深さ100μm、長さ1cmのチャンネルを用いると、チャンネル内部を満たすには100nLの液量で十分である。このように、チップ内での反応には微量の試液量しか要求されないのであるが、チャンネル内に微量の試液だけを添加する適切な方法がないので、実際に必要とされるよりも多くの試液(数μLから数十μL)を、チャンネル開口部を含む液溜めに加えて、圧力あるいは電気的な力によってサンプルをチャンネル内に導入して反応させているのが実情である。そのため、微量の試液量で済むというマイクロチャンネルチップを用いた分析・反応の経済的利点が失われる問題があった。
【0006】
たとえば、最近、シリンジピペットによって数百nL程度の微量の試液を分注する装置が発売されているが、このシリンジピペットを、分注位置精度が悪い装置と組み合わせて分注すると、ピペット先端位置がチャンネル開口部から離れたり、液が液溜めの壁に付着するなどして、チャンネル開口部に液を導入することができない場合が生じた。
【0007】
一方、従来からインクジェット方式を利用した微量の試料の分注方法は、知られていた。この方法は、非常に小さい液滴を、一定の限られた微小な「点」に分注することを目的にして開発されてきた。元々、インクジェット方式は、以前からプリンターで汎用されていたものであるが、プリンターの場合には、できるだけ小さな点に集中させなければならないものである。
【0008】
従って、この従来の考え方のインクジェット方式でマイクロチャンネルの開口部に試料を分注しようとすると、ノズル先端を開口部に移動させる位置精度が要求されることから、実用化しようとすると装置が高価となる等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、このような問題点を解消しようとするものであり、微量の試液を効率よく(無駄なく)マイクロチップのマイクロチャンネルに送るのに、厳密な吐出位置精度を必要とせずに支障なくマイクロチャンネルに送って分析・反応に供することができる分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
微量な液体を分注する方法としては,(1)圧電電歪素子を利用したインクジェットノズルを用いる方法,(2)分注用ピンを用いる方法,(3)発熱による泡形成を利用したバブルジェット(登録商標)を用いる方法、(4)微小なシリンジを使用して微量を分注する方法、などが知られている。従来、これらの方法は、微量の液体を、できるだけ正確な量、正確な位置に分注することを目的に開発されてきた。
【0011】
しかし本発明者等は鋭意研究の結果、例えばインクジェットノズルを用いて小さな「点」に液滴を集中させることなく、数fLから数十nLの微小な液滴としてマイクロチップの開口部周辺に微量の試液・サンプルを液滴として(「分散した状態」で)塗布し、圧力・電気的な力によって塗布された試液・サンプルを移動させると、数μm〜数十μmという細かな位置精度が要求されることなく、目的の試液又は/及びサンプルがチャンネル内に導入され、分析・反応を実施することが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、分析・反応を行う微細な溝と、該溝に連通する開口部とを有するマイクロチップの、該開口部及びその周辺にサンプル又は試液の微小液滴を供給する装置並びにサンプル又は試液を、分析・反応を行う微細な溝と該溝に連通する開口部とを有するマイクロチップの該開口部及びその周辺に微小液滴として分散塗布することを特徴とする、サンプル又は試液の前記分析・反応を行う微細な溝への供給方法、に関する。
【0013】
サンプル又は試液の微小液滴を供給する装置(以下、本発明に係る供給装置と略記する場合がある。)としては、サンプル又は試液をマイクロチップ開口部周辺に(液流ではなく)液滴として塗布(注:結果的にはこれら液滴が集まってサンプル又は試液が溜まった状態となるが。)し得るものであればどの様なものでも良いが、例えば(1)圧電電歪素子を利用したインクジェットノズルを用いる方法,(2)分注用ピンを用いる方法,(3)発熱による泡形成を利用したバブルジェットを用いる方法、(4)シリンダ(シリンジ)方式による方法等の原理によるものが挙げられる。なかでも、例えば(1)圧電電歪素子を利用したインクジェットノズルを用いる方法又は(3)発熱による泡形成を利用したバブルジェットを用いる方法等の液滴を噴出させることによりサンプル又は試液をマイクロチップ開口部周辺に塗布し得るものが好ましい。即ち、前記微小液滴を供給する装置が、インクジエット装置であり、該インクジエット装置のノズルから微小液滴を供給するのが良い(請求項7)。
【0014】
特に中でも圧電電歪素子を利用したインクジェットノズルを用いる方法の原理によるものが、サンプルや試液を加熱することなく微小液滴とすることができるので好ましい。また、塗布される微小液滴の一滴あたりの容量としては、下限が通常1fl以上、好ましくは0.1pL以上、より好ましくは1pL以上、更に好ましくは2pL以上であり、上限は通常10nL以下、好ましくは5nL以下、より好ましくは1nL以下である。微小液滴の一滴あたりの容量が小さいほうが、より均一に再現性よくサンプルや試液を供給できるが、1滴当たりの容量があまり小さすぎると分注に要する時間が長くなるので、ある程度以上(例えば0.1pL以上)の容量での滴下が好ましい。尚、小さい容量で微小液滴を供給する場合は、十分な滴加速度を選択したり供給装置(ノズル)の数を増やすことにより短時間でのサンプル又は試液の供給が可能となる。
【0015】
また、最適な容量(1液滴当たりの容量)と滴下総数とは、用いるサンプルや試液の粘度,マイクロチップの開口部周辺の表面特性,液滴の滴下速度,必要な液量などを考慮して適宜決定すればよい。単一の供給装置(ノズル)から滴下される液滴の滴下総数としては、下限が通常10発以上、好ましくは100発以上、より好ましくは500発以上、更に好ましくは1000発以上であり、上限は100000発以下、好ましくは10000発以下、より好ましくは5000発以下、更に好ましくは2000発以下である。尚、目的の液量を短時間に供給するためには、供給装置(ノズル)の数を増やすことで可能となる。
【0016】
即ち、本発明に係る供給装置は、単一の供給装置(ノズル)からなるものでも、複数の供給装置(ノズル)からなるものでもよく、また、一種類の原理によるものでも、複数の原理を組み合わせたものでもよい。
【0017】
本発明において使用されるマイクロチップは、少なくとも、分析・反応を行う微細な溝と、該溝に連通する開口部とを有するものである。
前記微細な溝は、プレートに形成し、前記開口部は該プレート若しくは該プレート表面を覆うプレート若しくはフィルムに形成するのが良く(請求項2)、前記微細な溝の内径は、下限が通常0.1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは10μm以上であり、上限が通常500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である(請求項3)。
【0018】
前記微細な溝は、1本でも複数本であってもよく、目的とする分析・反応により適宜選択すればよい。特に、前記微細な溝が交差するように形成されているのが好ましい(請求項8)。また、溝の長さについても特に限定はなく、目的とする分析・反応に応じて適宜選択される。
【0019】
尚、前記微細な溝が交差するように形成されている場合には、該交差部に供給された所定量のサンプル又は試液は、圧力又は電気的な力によって測定チャンネルに移動させるようにして定量される(請求項8)。
【0020】
開口部の大きさは、内径が、下限が通常0.1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは10μm以上であり、上限が通常500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である(請求項4)。また、開口部の形状としては、円形もしくは多角形が好ましい。
更に、本発明において使用されるマイクロチップは、分析・反応を行う微細な溝及び該溝に連通する開口部以外に、サンプル又は試液を保持しておくため等の液溜めを有していてもよく、この場合には、通常、前記開口部は該液溜めの底面に形成される(請求項5)。
【0021】
開口部が大きい場合、その中に本発明に係る供給装置以外の技術、たとえばピペットやピンを用いて目的の液量を一度に分注しようとする(微小液滴を用いての分注ではなく)と、開口部の位置に正確にピペットやピンの先端を移動させる必要がある。ところが本発明に係る供給装置を用いて微小液滴として分散塗布すると、位置精度が要求されず、さらに開口部周辺が徐々に試液・サンプルで濡れるため、図1(A)に示すように開口部に空気が入らずに試液/サンプルを供給することができる。たとえばピペットを用いて開口部に対して十分大きな液滴を供給すると、図1(B)に示すように、開口部に蓋をするように液が供給されるから、開口部から泡が入り易くなり、また、チャンネル内に空気がトラップされやすくなり、チャンネル内に滞留した気泡が試液やサンプル液の流れ,あるいは電流の流れを阻害する.
【0022】
本発明で「塗布」と表現しているのは、液溜め全体に液を分注するのではなく、開口部とその周辺だけに液を液滴として分注し、開口部を徐々に濡らせていき、結果的に液が溜まった状態(例えば液玉)となるという意味である。また、前記マイクロチップに液溜めが存在する場合は、開口部が形成されている、液溜めの底面に、微小液滴を分散塗布するのが好ましい(請求項6)。
【0023】
本発明に係る供給装置を用いてサンプル又は試液をマイクロチップ開口部周辺に塗布する方法としては、例えば(1)単一又は複数の供給装置(ノズル)を適宜上下左右前後に移動又は振動させながら塗布する方法、(2)複数の供給装置(ノズル)を用いて、当該ノズルを移動させることなく目的とする塗布範囲に塗布する方法、(3)供給装置(ノズル)から供給された液滴が、マイクロチップ開口部に達する間に、空気抵抗等により分散するように、当該装置の液滴吐出口をマイクロチップ開口部から一定距離離して、サンプル又は試液を供給する方法、(4)吐出口近傍に電場をかけ且つその強さや方向を変えることによって荷電された液滴の吐出方向を変えながら塗布する方法等が挙げられる。
【0024】
尚、本発明においては、上記した如き方法のうち、単一の方法を用いても、また、複数の方法を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0025】
微小液滴を分散塗布する範囲(面積)としては、開口部が全て覆われる範囲(面積)であればよく、例えば開口部の面積に対して、下限が通常2倍以上、好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上であり、上限が通常20倍以下、好ましくは15倍以下、より好ましくは10倍以下の範囲(面積)となるように、開口部を中心に微小液滴を分散塗布すればよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、試液の無駄を生ぜしめることなく、微量の試液を支障なくマイクロチャンネル内に供給することができると共に、ノズルの位置合わせについて高度な精度が不要となるため、装置のコストダウンが可能になるという絶大な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の分析・反応を行う微細な溝(マイクロチャンネル)は、公知の方法によって形成すれば良い。例えば、マイクロチャンネルをもつチップは、以下のようにして作製することができる。
【0028】
ガラスを基盤とした場合、まず、図2に示すように、ガラス平板1(図示省略)の表面をクロームと金の合金でマスクし、さらにフォトレジストをコーティングする。次に、マイクロ流路のレイアウトパターンを感光フィルムにデザインしてフォトマスクを作成し、密着させたマスク上から紫外線を照射する。露光部分のフォトレジストを可溶除去してクローム/金合金を露出させる。これにより露出した金属を王水によって除去し、さらに露出したガラス基盤表面をフッ化水素を用いてエッチングする。こうしてガラス平板1にチャンネル3が形成された後に、好ましくは用いた基盤と同じ材料の素材(この例ではガラス)からなる平板2を重ね合わせて閉鎖された流路を形成する。
【0029】
たとえばこのとき、平板1に作製されたチャンネル3の末端部分に対応した平板2の位置にドリルなどを用いて貫通孔をあけて、それを平板1に重ね合わせることでチャンネル3の開口部4が形成される。このとき、図2(A)に示すように、平板2に開けられた孔5の径がチャンネル3の幅に対して十分大きい場合、この孔5自体は「開口部4」ではなく「液溜め」として認識されるものである。実際の開口部4は、平板1のチャンネル3が平板2と重なりあわなかった部分である。
【0030】
図2(B)に示すように、平板2上の口径がチャンネル3の幅にほぼ等しい(数百マイクロメーター以下)場合は、この貫通孔自体を開口部4として認識することができる。尚、平板1と2とを接着させた後に、ドリルなどで孔を開けて開口部4を形成することもできる。
【0031】
また,光硬化性樹脂を用いて,レーザー光の焦点部分だけを硬化させる技術を用いれば,平板2枚をそれぞれ加工することなく,マイクロチャンネルをもったチップを作製することができる。
開口部の大きさが小さいなどの理由で,チャンネルを満たしたり電極を浸漬するのに必要な試液やサンプル液を保持することが困難な場合には,マイクロチャンネルを形成させた平板の上に,図8に示すように液溜め構造をもったプラスチックなどで作られたキャディーを接着させることも可能である.
【0032】
チャンネル3の大きさは、通常、幅、深さともに数百nmから数百μmである。長さに関しては、1枚のチップの中に折り曲がったチャンネル3を形成させることが可能なので、たとえば1cm×1cmの大きさの基盤の中に15cm程度の長さのチャンネル3を設けることもできる。
【0033】
本発明で試液というのは、例えば血清,血漿,髄液,滑液,リンパ液等の体液、尿,糞便のような排泄物、喀たん,膿,皮膚由来物、各種生体組織、各種細胞、これらの抽出物等の生体由来試料、例えば食品,飲料,水道水,海水,湖沼水,河川水,工場排水,半導体用洗浄水,医療器具等を洗浄した後の洗浄液等の環境試料及びこれらを水や通常この分野で用いられている例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等の緩衝液等に適宜溶解又は懸濁させて再構成して得られた処理物、当該水や緩衝液等に目的物を所定濃度含有させた標準液などのサンプル中に含まれる測定対象物を検出するのに必要な組成を含んだものであり、必要な組成としては、たとえば、測定対象物を特異的に認識するための抗体や核酸、抗体や核酸を標識するための蛍光色素、測定対象物と抗体あるいは核酸とが結合した複合体をその他の成分から分離するのに必要なゲル、およびこれらを安定に保持するのに必要な緩衝液成分、例えば測定対象物質と特異的に反応する酵素やレセプター、などが挙げられる。また、試薬に特異的に反応する成分を含んでいた方が分析精度は高くなるが、特異的成分を含んでいなくても、その後の分離分析が特異的であれば構わない。
【0034】
チャンネル3と交差するように別のチャンネルを形成することによって、サンプルや試液をチャンネル3内に導入した後、一定量のサンプルあるいは試液だけを分離して分析・測定チャンネルにサンプルもしくは試液を導入することができる。
【0035】
例えば、図3(A)に示すように、チャンネルを十字形に交差させ、一方のチャンネルにサンプルあるいは試液もしくはその混合物を導入し、他方のチャンネル(分析チャンネル)に圧力又は電気的な力によって、交差部のサンプル6を例えば図3(B)に示すように移動させることができる。交差部としては、例えば図4に示すように、ダブルT型であっても良く、同様に分析チャンネルに圧力又は電力によって、交差部のサンプルあるいは試液もしくはその混合物6を移動させることができる。
【0036】
交差部のサンプルあるいは試液もしくはその混合物6を移動させるには、例えば以下の如く行えばよい。尚、以下図5は、サンプルを例にとり説明しているが、試液若しくはサンプルと試液との混合物も同様に行えばよい。
【0037】
即ち、例えば図5(A)において、まず目的物質の分離に用いるゲルや緩衝液成分を含む試液を十字のチャンネル内全体に行き渡るように(a)〜(d)いずれかのウェルから圧力差などを利用して導入する(プライミング)。その後、ウェル(b)(サンプルリザーバー,サンプルウェル,サンプル溜め)にサンプルを添加する。それから(a),(b),(c)のウェルの電圧をゼロとし、(d)に250Vの電圧をかけると、ウェル(b)の中で被検成分を含むマイナスの電荷をもった成分が(b)から(d)の方向に移動し、チャンネル(b)−(d)を満たす。
【0038】
このとき、ウェル(a)とウェル(c)の電圧をゼロに維持しているので,被検成分はチャンネル(a)−(c)には移動しない。その後、例えば図5(B)に示すように、チャンネル(a)の電圧をゼロとし、ウェル(b)、ウェル(d)に130V,チャンネル(c)に750ボルトの電圧をかけると、チャンネルが交差した部分に含まれる成分は(a)から(c)の方向に移動する。たとえば,チャンネル(a)−(c)にゲルポリマーを充填しておくと、被検成分はゲルポリマーをすり抜ける間に分子量の大きさや電荷の大きさに応じて分離される。チャンネル(a)−(c)の末端部分においた検出器(たとえば蛍光検出器)を分離した被検成分が通過する際に蛍光が検出され、得られた図6に示すようなチャートから分析が可能となる。チャンネル(b)、(d)にも電圧をかけるのは、チャンネル(b)−(d)上の交差部分以外からのサンプルの流入を抑えるためである。図5では電圧によるサンプル(試液もしくはその混合物)の導入、分離を示したが、圧力差をもちいてサンプルや試液もしくはその混合物を移送することも可能である。尚、このような方法による試料の導入、サンプルや試液もしくはその混合物の導入、分離において、サンプルや試液もしくはその混合物を移送するために用いられる各種条件(例えば圧力や電圧等)は、この分野で通常用いられる範囲から適宜選択すればよく、上記した数値は具体例の一つに過ぎない。
【0039】
図2において、上板(平板2)をフィルムとすることもでき、この場合もウェルは特に無くとも差し支えない。極微少(微量)の世界のことで有り、表面張力等により開口部分に必要十分な量の液玉が形成されるからである。
【0040】
下板(平板2)に溝を設けるだけでは液が溢れ出すので、通常、溝を掘った下板1を上板2で覆ってチャンネル(細管,キャピラリー)を形成させ、その中を電気泳動などの方法で液や液中の分析対象物質を移動させる。上板2に開口部があり、単に試液・サンプルをチャンネル内に導入するためだけに利用する場合には、容量の大きな液溜めは特に必要はない。しかし、たとえば開口部が電気泳動のための電極と泳動バッファーとの接点として機能する場合には、電極が液に接するのに十分な液量を保持するための液溜めが必要になる。
【0041】
本発明においては、複数の成分を開口部4に塗布し、開口部4で反応させることもできるが、チャンネル3で反応させることもできる。
【0042】
チャンネル3で反応させる場合は、例として図7に示すように、リザーバーAとリザーバーBから送られた成分はチャンネル3で混合され(例えば物質の拡散による混合)、反応が進行する。
【0043】
たとえば、図4に示すようなダブルT型のチャンネルをもったチップの場合,サンプルの供給の部分だけ圧力で液を供給し、その後、電気的にサンプルを分析チャンネルに導入することが行われる。この場合、液量の「定量」はチャンネルの構造を利用して行うのであって、液を送る方法が電気的なものか、圧力によるものなのかは関係ない。圧力だけで液を送る場合、チャンネル内の液の線速度分布が生じ、中央部よりも周辺部の液の移動が小さくなり、シャープな分離像が得られにくくなるため、分離という意味では好ましくない。そのため、特に検出する部分では電気泳動や電気浸透流などの方法で均一な液の流れを作ることが好ましいが、チャンネルの構造(すなわちチャンネルの容積)を利用して定量する(「一定量のサンプルを分析チャンネルに送り込む」という意味)のであれば、十分量の試液・サンプルを流してやれば、チャンネル内はすべて目的の液で満たされるので、分析には支障がない。また、液を送り出すチャンネルの内径を変える、加える圧力を変えるなどの方法で、チャンネルに流れる試液やサンプルの液量を変化させることができる。たとえば図7のY字型のチャンネルにおいて、リザーバーAからのチャンネルの断面積をリザーバーBの10倍して同じ圧力で送液とすると、流れる液量,すなわちAとBの混合比を10対1に調整することが可能となる(連続定量)。
【0044】
十分な量の液さえ供給されていれば、開口部にも液は残る。通常は、チャンネル内の容積が非常に小さいため、開口部にも液は残った状態でも反応には差し支えない。
【0045】
具体的には、本発明は、下記の実施態様によって実施することができる。
(1)本発明に係る供給装置、例えばインクジェットノズル、或いは同等の性能を有する分注装置を用いて、マイクロチャンネルチップの開口部とその周辺に、被検物質を含むサンプルおよび試液のうち一種類以上の液を、数fLから数十nLの液滴として分散して塗布する。塗布した液の一部もしくは全部が、圧力、電気泳動、電気浸透流などの力を利用してチャンネル内に導入され、分析、反応などに用いられる。一定量の液滴を決められた範囲に塗布できる性能を有する装置であれば、目的を達することができる。
【0046】
(2)本発明に係る供給装置、例えばインクジェットノズル、或いは同等の分注能力を有する装置を用いて、マイクロチャンネルチップ上の一つ以上の開口部とその周辺に、被検物質と反応する物質を含む試液を数fLから数十nLの液滴として分散して塗布する。試液は圧力あるいは電気泳動、電気浸透流などの力を用いてチャンネル内に導入される。さらに、被検物質を含むサンプルを数fLから数十nLの液滴として、試薬とは異なる開口部に分散して塗布する。分注能力を有する装置の分注位置精度に基き、開口部の面積と液滴量、及び液滴数を目的に合わせて設定する。この場合、多い液量の液滴を少なく分注するよりも、分注時間が長くなりすぎなければ少ない液滴を多数、広い範囲に分注することにより、簡単に目的を達成することができる。試液とサンプルは、圧力あるいは電気泳動、電気浸透流などの力を用いてチャンネル内に導入される。その後、チャンネル内の内径の差、チャンネルの交差部位の体積などを利用して一定量ずつの試液とサンプルが混合され、両者の成分が反応する。さらにその後、チャンネルの交差部位の体積などを利用して一定量の反応生成物が分析チャンネルに導入され、圧力あるいは電気泳動、電気浸透流などの力により反応生成物が検出領域に送られ、反応生成物の分離、分析、定量が行われる。
【0047】
(3)本発明に係る供給装置、例えばインクジェットノズル、或いは同等の分注能力を有する装置を用いて、マイクロチャンネルチップ上の開口部の中から選択されたものの一つとその周辺に、被検物質と反応する物質を含む試液と、被検物質を含むサンプルを数fLから数十nLの液滴として交互、あるいは同時に分散して塗布する。分散して塗布したそれぞれの液は、空気中、あるいはチップの表面、開口部の中で互いに接触することで混合され、反応が開始される。このとき、分散塗布するそれぞれの液量を調整する(例えば、試液とサンプルのそれぞれについて、塗布する液滴の数を予め決めておくことにより可能となる。)ことで両者の混合比を調節することができる。さらに、液滴数を調整して分散塗布範囲を設定する。その後、反応した液の一部もしくは全部が開口部からチャンネル内に圧力あるいは電気泳動、電気浸透流を利用して導入される。導入された反応液は,チャンネルとその交差部分の容積を利用して一定量が計り取られて分析チャンネルの検出領域に反応生成物が送られ、反応生成物の分離、分析、定量が行われる。
【0048】
(4)(2)と(3)の組み合わせ、すなわち、インクジェットノズルを用いて、マイクロチャンネルチップ上の開口部の中から選択されたものの一つ(開口部A)とその周辺に、被検物質と反応する物質を含む試液と、被検物質を含むサンプルを数fLから数+nLの液滴として交互、あるいは同時に分散して塗布する。分散して塗布した液は、空気中、あるいはチップの表面、開口部の中で混合され、反応が開始される。その後、反応した液の一部もしくは全部が開口部Aからチャンネル内に圧力あるいは電気泳動、電気浸透流を利用して導入される。一方、開口部Aとは異なる一つ以上の開口部(開口部B,開口部C,,,,)とその周辺に、上記の反応生成物の成分うちの一つ以上と反応する別の試液2がインクジェットノズルを用いて塗布される。塗布された試液2の全部もしくは一部は開口部からチャンネル内に圧力あるいは電気泳動、電気浸透流を利用して導入される。導入された試液2と反応生成物は、チャンネル内の内径の差、チャンネルの交差部位の体積などを利用して一定量ずつ混合され、両者の成分が反応する。さらにその後、チャンネルの交差部位の体積などを利用して一定量の反応生成物が分析チャンネルに導入され、圧力あるいは電気泳動、電気浸透流などの力により反応生成物が検出領域に送られ、反応生成物の分離,分析,定量が行われる。さらに複数の開口部から、上記の反応生成物とさらに反応する試液をチャンネル内に順次送り、逐次反応を行うことも可能である。
【0049】
上記(2),(3)、(4)において,液滴を塗布するために複数のインクジェットノズルを用いることも可能である。用いる試液やサンプル液ごとに独立したインクジェットノズルを用いると,サンプルと試液又はそれぞれの試液同士が、目的の反応や分析の前に混合してしまうおそれがないので好ましい。
【0050】
また、本発明の分析・反応装置には、以下のような機構が装備されていても良い。即ち、一つ以上の被検物質を含むサンプルあるいは被検物質に特異的に反応する物質を含む試液1をインクジェットノズルを用いてマイクロチャンネルチップの開口部その周辺の範囲1に塗布する。その後、インクジェットノズルを用いて,サンプルあるいは試液とは混じらず,かつ、比重の小さな液の液滴を、範囲1と同等かさらに大きな範囲2に分散してさらに散布する。このようにすることにより、先に塗布された試液やサンプルは後から塗布された比重の小さな液により蓋をされた状態となるため、試液やサンプルの蒸発が防がれ,反応や分析の正確さが向上する。
【0051】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【実施例1】
図11に示す微量分注ヘッド(MD−K−130)[Microdrop
GmbH社(Muehlenweg,Germany)製]15、コントローラーユニット(MD−E−201)19およびコントローラーユニットのコントロール用ソフトウェア18、ならびに3軸ロボットアームシステムMD−P−705−L[Microdrop GmbH社(Muehlenweg,Germany)製]を具備した装置を使用する。本装置を用いると、ノズルの位置精度はMD−P−705−L本体に対して10μm±2μm(カタログ値)でコントロール可能である。ただし、マイクロチャンネルチップの液溜めに対する位置精度は、チップをMD−P−705−L本体に保持する方法の位置精度によって決定される。たとえば、チップをMD−P−705−L本体に保持する場合の前後左右方向の位置精度が500μm±100μmであったとき、ノズルの吐出口と液溜めの相対的な位置精度は510±102μmの精度となる。尚、図11中、13はチップステージ、14はXYZ軸駆動部位、16は試液リザーバー、17はマイクロチップである。
【0052】
測定は以下のようにして行う。図8〜図10に示したマイクロチャンネルチップの液溜め7dに2.5%のpDMA(ポリジメチルアクリルアミド)ゲル溶液(150mM NaCl,0.05%Tween
20を含む150mM HEPES緩衝液(pH7.5))を添加した後、340kPaの圧力を負荷してチャンネル8(幅100μm,深さ30μm)をゲル溶液で満たす。その後、液溜め7dと7hを電極が浸るのに十分な量のゲル溶液で満たす(チップのプライミング)。次に、(A)微量分注ヘッドのサンプルリザーバーに2.5%のpDMA(ポリジメチルアクリルアミド)ゲル溶液(7.5mM NaCl,0.05%Tween
20を含む7.5mM HEPES緩衝液(pH7.5))に溶解したAlexa標識DNAサンプルを添加する。その後、分注装置を用いてチップの液溜め7cの開口部周辺に一定量(10nL1μL)のサンプルを塗布・分注する。塗布・分注は、サンプルを、内径4.0mm、深さ3.0mmの液溜め7cを有するマイクロチャンネルチップ(液溜めのほぼ中央部に開口部の直径100μmのチャンネルが位置する)の液溜め7cに、チャンネル開口部の上部25mmの位置から、30pLの液滴を4000滴吐出塗布して行う。これにより、塗布面は、液溜めの底面に半径約400μmの範囲となる。なお、サンプルには、2nMのAlexa標識した140bpのDNAと抗AFP抗体Fab’との複合体,および500pMのAFP,内部標準としてAlexa標識した200pMの70bpDNAの混合物(7.5mM Hepes緩衝液pH7.5,7.5mM NaCl,0.05%Tween20,0.1%BSAを含む)を用いる。その後、液溜め7cに6.9kPaの圧力を、液溜め7dと液溜め7hに+0.345kPaの圧力を、液溜め7fに−(マイナス)7.59kPaの圧力を負荷して、液溜め7cのサンプルをチャンネル内に導入する。その後、液溜め7d、7hの間に2500Vの電圧を負荷し、DNAを液溜め7dから液溜め7hの方向に泳動を開始する。その後、チャンネル8に赤色レーザーを照射して得られる蛍光を連続的に測定する。なお、圧力のコントロール、電圧の負荷、蛍光測定は、Caliper社(米国,California,
Mountain View)製AMS−90を用いて行う。図8〜図10中、7a〜7hは液溜め(液溜めの内径は通常210mm,容積550μLである)であり、8及び9はチップに設けられた細溝(チャンネル)であり、チャンネルの内径は通常10500μmである。尚、8は分析用チャンネル、9はサンプル導入用チャンネル、10は検出部位、11はチップのキャディー、12はチップ本体である。
【0053】
上記のような装置、分注方法を用いると、例えばマイクロチャンネルの開口部から分注ノズル吐出口までの距離を調整することで、マイクロチップ液溜め表面の吐出液のスポットサイズ(液滴の着弾範囲)を変えることができる。すなわち、吐出口がマイクロチャンネルの開口部に十分近い位置にあると、吐出された液滴は非常に限られた殆ど同一の領域に着弾するが,ある一定の距離を保てば、液滴は広い範囲のスポットサイズ(たとえば数十から数百μmの径(範囲))となるように着弾(塗布)させることができる。しかしこの距離が大きくなりすぎると、液滴の着弾する場所の分散が大きくなりすぎて、測定対象となる液をチャンネルに導入して測定を行うのに十分な量の試料を得るには、多量の試液をノズルから吐出する必要が生じる。また、場合によっては液溜めの外に吐出液が漏れ出てしまう。この適切な距離は、用いる微量液滴分注装置の性能(吐出速度など)、試液の粘度、ノズルを設置する環境(空気の循環など)を含めて考慮されるべきであり、最適な距離、液滴量、及び液滴数を設定することで、最少の試液量で測定を行う目的を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
[図1]開口部に(A)インクジェットで、(B)ピペットで、試液/サンプルを塗布した状態を示す断面図である。
[図2]チャンネルに、(A)開口部よりも大きな孔、(B)開口部と同じ大きさの孔、を形成した例を示す斜視図である。
[図3]十字型のチャンネルに(A)サンプルを導入した状態、(B)一定量のサンプルだけを分離する状態を示す説明図である。
[図4]ダブルT字型のチャンネルに(A)サンプルを導入した状態、(B)一定量のサンプルだけを分離する状態を示す説明図である。
[図5]十字型のチャンネルに(A)サンプルを導入した状態、(B)一定量のサンプルだけを分離する状態を示す説明図である。
[図6]図5の方法により蛍光を検出した結果の例を示す線図である。
[図7]チャンネル内で反応させることの説明図である。
[図8]本発明一実施例を示す斜視図である。
[図9]図8の平面図である。
[図10]図9のm−n断面図である。
[図11]本発明の実施例に使用した、インクジェットノズルを具備した分注装置を示す斜視図である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析・反応を行う微細な溝と、該溝に連通する開口部とを有するマイクロチップの、該開口部及びその周辺にサンプル又は試液の微小液滴を供給する装置。
【請求項2】
前記微細な溝は、プレートに形成し、前記開口部は該プレート若しくは該プレート表面を覆うプレート若しくはフィルムに形成する請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記微細な溝の内径が、0.1〜500μmである請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記開口部の内径が、0.1〜500μmである請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記マイクロチップは、更に液溜めを有し、前記開口部が該液溜めの底面に形成されたものである請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記液溜めの底面に、微小液滴を分散塗布する請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記微小液滴を供給する装置が、インクジエット装置である請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記微細な溝が交差するように形成され、該交差部に供給された所定量のサンプル又は試液を、圧力又は電気的な力によって測定チャンネルに移動させる請求項1に記載の装置。
【請求項9】
サンプル又は試液を、分析・反応を行う微細な溝と該溝に連通する開口部とを有するマイクロチップの該開口部及びその周辺に微小液滴として分散塗布することを特徴とする、サンプル又は試液の前記分析・反応を行う微細な溝への供給方法。

【国際公開番号】WO2005/033713
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514447(P2005−514447)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014381
【国際出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】