説明

心臓酸素消費量自動最小化システムおよびこれを用いた心疾患治療システム

【課題】患者の心臓酸素消費量を高い精度で推定することができる上に、心臓酸素消費量を最小化することができる心臓酸素消費量自動最小化システムおよび心疾患治療システムを提供する。
【解決手段】心疾患治療システム10は、少なくとも心拍数を含む、患者20の血行動態指標を入力する入力部12と、入力部12から入力される血行動態指標に基づいて、患者20の心臓酸素消費量の推定値を算出する心臓酸素消費量モニターユニット14と、入力部12から入力される心拍数と心臓酸素消費量モニターユニット14により算出される心臓酸素消費量の推定値が最小となる臨界心拍数とを比較し、この比較結果に応じて患者20の心拍数を制御する心臓酸素消費量節減ユニット16と、を有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の心臓酸素消費量を高い精度で推定することができる上に、心臓酸素消費量を最小化することができる心臓酸素消費量自動最小化システムおよびこれを用いた心疾患治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心疾患で異常をきたした患者の血圧、心拍出量、左心房圧などの血行動態を改善する治療として、強心剤の投与が広く行われている。この強心剤の投与による治療では、低下した患者の心機能を向上させ、血行動態を正常化することが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような強心剤の投与による従来の治療では、患者の血行動態を正常化することができる反面、機能の低下した心臓の酸素消費量(心臓のエネルギー消費量)を増大させてしまうといった問題点があり、この心臓酸素消費量の増大は、心筋障害を促進し、生命予後を悪化させるといった報告もある。
【0004】
このような問題点を解決すべく、血管拡張剤やβ遮断剤などの投与によって心臓酸素消費量を低減させる治療が提案されているが、血管拡張剤は、その過度の投与で低血圧となることがあり、β遮断剤は徐脈・心室収縮低下を同時にきたすため、重度の心不全症例には禁忌であった。また、β遮断剤の投与は薬効を熟知した専門医によって行われる必要があり、非専門医には困難である。
【0005】
さらに、従来の治療は、定量的・半定量的にも心臓酸素消費量を推定していなかったため、心臓酸素消費量にあわせた適切な治療とはなっていなかった。このため、必要以上に各種薬剤を大量投与してしまったり、必要以上に各種薬剤を長期間投与してしまう場合があり、薬剤による副作用の可能性が高くなる上に、医療コストが増大するといった問題点もあった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、患者の心臓酸素消費量を高い精度で推定することができる上に、心臓酸素消費量を最小化することができる心臓酸素消費量自動最小化システムおよびこれを用いた心疾患治療システムを提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、また、薬剤による副作用や医療コストの高騰を回避することができ、非専門医であっても容易に心臓酸素消費量を最小化することができる心臓酸素消費量自動最小化システムおよびこれを用いた心疾患治療システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の手段によって、上記課題を解決したものである。
【0009】
(1)本発明は、少なくとも心拍数を含む、患者の血行動態指標を入力する入力部と、
【0010】
前記入力部から入力される血行動態指標に基づいて、前記患者の心臓酸素消費量の推定値を算出する心臓酸素消費量算出部と、前記入力部から入力される心拍数と前記心臓酸素消費量算出部により算出される心臓酸素消費量の推定値が最小となる臨界心拍数とを比較し、この比較結果に応じて前記患者の心拍数を制御する心臓酸素消費量節減部と、を有して構成されていることを特徴とする、心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0011】
(2)本発明はまた、前記血行動態指標は、さらに、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、および右心房圧値を含み、前記心臓酸素消費量算出部は、前記心拍出量値および前記左心房圧値から、下記数式(1)を用いて左心機能値を算出し、前記血圧値、前記右心房圧値、および前記心拍出量値から、下記数式(2)を用いて血管抵抗値を算出し、前記左心機能値、前記血管抵抗値、および前記心拍数から、下記数式(3)を用いて左心室収縮末期圧容積関係を算出し、前記血圧値、前記左心房圧値、前記心拍出量値、および前記心拍数から、下記数式(4)を用いて左心室圧容積面積を算出し、前記心拍数、前記左心室圧容積面積、および前記左心室収縮末期圧容積関係から、下記数式(5)を用いて前記心臓酸素消費量の推定値を算出することを特徴とする、(1)に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【数1】

(ただし、AおよびBは定数値である。)
【数2】

(ただし、Hは定数値である。)
【数3】

(ただし、Kは定数値である。)
【数4】

(ただし、A、B、およびKは前記定義どおりである。)
【数5】

(ただし、α、β、およびγは定数値である。)
【0012】
(3)本発明はまた、前記心臓酸素消費量節減部は、前記患者に投薬を施すことにより、前記患者の心拍数を制御することを特徴とする、(1)または(2)に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0013】
(4)本発明はまた、前記心臓酸素消費量節減部は、治療の開始時に、心拍数を低下させる薬剤を前記患者に投与して洞結節の自発活動を抑制し、前記自発活動が出現した場合に、前記心拍数を低下させる薬剤を追加投与することを特徴とする、(3)に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0014】
(5)本発明はまた、前記薬剤は、β遮断剤、カルシウム拮抗薬または特異的徐脈剤である、(4)に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0015】
(6)本発明はまた、前記心臓酸素消費量節減部は、前記患者に電気的刺激を与えることにより、前記患者の心拍数を制御することを特徴とする、(1)または(2)に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0016】
(7)本発明はまた、患者の血行動態指標を時系列的に連続して表示する表示手段を更に備えていることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0017】
(8)本発明はまた、前記心拍出量値は、スワンガンツ・カテーテルにより計測されるまたは動脈血圧波形の拡張期時定数から算出されることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1つに記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0018】
(9)本発明はまた、前記左心房圧値は、カテーテルにより直接計測されるか、またはスワンガンツ・カテーテルによる肺動脈楔入圧もしくは肺動脈圧の拡張期圧値から連続推定することにより算出されることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれか1つに記載の心臓酸素消費量自動最小化システムである。
【0019】
(10)さらに本発明は、(1)〜(9)のいずれか1つに記載の心臓酸素消費量自動最小化システムと、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記左心房圧値から心機能値を算出する第1算出手段と、前記第1算出手段で算出される前記心機能値と、目標心機能値を比較する第1比較手段と、前記第1比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第1投薬手段と、を有して構成されていることを特徴とする、心疾患治療システムである。
【0020】
(11)本発明はまた、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記左心房圧値および前記右心房圧値から、有効循環血液量値を算出する第2算出手段と、前記第2算出手段で算出される前記有効循環血液量値と、目標有効循環血液量値を比較する第2比較手段と、前記第2比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第2投薬手段と、をさらに備えたことを特徴とする、(10)に記載の心疾患治療システムである。
【0021】
(12)本発明はまた、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記血圧値から血管抵抗値を算出する第3算出手段と、前記第3算出手段で算出される前記血管抵抗値と、目標血管抵抗値を比較する第3比較手段と、前記第3比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第3投薬手段と、をさらに備えたことを特徴とする、(10)または(11)に記載の心疾患治療システムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る心臓酸素消費量自動最小化システムおよびこれを用いた心疾患治療システムによれば、患者の心臓酸素消費量を高い精度で推定することができる上に、心臓酸素消費量を最小化することができる。また、薬剤による副作用や医療コストの高騰を回避することができ、非専門医であっても容易に心臓酸素消費量を最小化することができる。
【0023】
なお、前記心臓酸素消費量節減部が、前記患者に投薬を施すことにより、および/または、前記患者に電気的刺激を与えることにより、前記患者の心拍数を制御すれば、簡易な方法でありながら患者の心拍数を迅速かつ容易に制御することができる。
【0024】
また、前記患者の血行動態指標には、さらに、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、および右心房圧値が含まれ、前記心臓酸素消費量算出部が、前記心拍出量値および前記左心房圧値から、上記数式(1)を用いて左心機能値を算出し、前記血圧値、前記右心房圧値、および前記心拍出量値から、上記数式(2)を用いて血管抵抗値を算出し、前記左心機能値、前記血管抵抗値、および前記心拍数から、上記数式(3)を用いて左心室収縮末期圧容積関係を算出し、前記血圧値、前記左心房圧値、前記心拍出量値、および前記心拍数から、上記数式(4)を用いて左心室圧容積面積を算出し、前記心拍数、前記左心室圧容積面積、および前記左心室収縮末期圧容積関係から、上記数式(5)を用いて前記心臓酸素消費量の推定値を算出すれば、心臓酸素消費量の推定値を簡易な演算で迅速に算出することができる。
【0025】
また、前記心臓酸素消費量節減部は、治療の開始時に、心拍数を低下させる薬剤を前記患者に投与して洞結節の自発活動を抑制し、自発活動が出現した場合に前記徐脈剤を追加投与すれば、心拍数を効率的に低下させることができる。
【0026】
また、前記患者の血行動態指標を連続して表示する表示手段を更に備えていれば、血圧値などの数値の時系列的な変化を見逃すことなく確実に患者を診断することができると共に、投薬治療による状態の推移を表示することができる。
【0027】
また、前記心拍出量値が、スワンガンツ・カテーテルにより計測されるまたは動脈血圧波形の拡張期時定数から算出され、前記左心房圧値が、カテーテルにより直接計測されているまたはスワンガンツ・カテーテルによる肺動脈楔入圧もしくは肺動脈圧の拡張期圧値から連続推定することにより算出されていれば、極めて精度の高いシステムを提供することができる。
【0028】
また、本発明に係る心臓酸素消費量自動最小化システムと、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記左心房圧値から心機能値を算出する第1算出手段と、前記第1算出手段で算出される前記心機能値と、目標心機能値を比較する第1比較手段と、前記第1比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第1投薬手段と、を有して構成された心疾患治療システムとすれば、左右の心機能値と目標心機能値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われるため、確実かつ正確に患者の心機能の異常を正常化しつつ心臓酸素消費量を最小化できる。
【0029】
また、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記左心房圧値および前記右心房圧値から、有効循環血液量値を算出する第2算出手段と、前記第2算出手段で算出される前記有効循環血液量値と、目標有効循環血液量値を比較する第2比較手段と、前記第2比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第2投薬手段と、をさらに備えていれば、算出される有効循環血液量値と目標有効循環血液量値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われるため、確実かつ正確に患者の有効循環血液量の異常を正常化しつつ心臓酸素消費量を最小化できる。
【0030】
また、前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記血圧値から血管抵抗値を算出する第3算出手段と、前記第3算出手段で算出される前記血管抵抗値と、目標血管抵抗値を比較する第3比較手段と、前記第3比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第3投薬手段と、をさらに備えていれば、算出される血管抵抗値と目標血管抵抗値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われるため、確実かつ正確に患者の血管抵抗値の異常を正常化しつつ心臓酸素消費量を最小化できる。
【0031】
また、前記心機能、前記有効循環血液量および前記血管抵抗値が正常状態に治療されることにより、結果として確実かつ正確に患者の血圧値、心拍出量値、および左心房圧値を正常化しつつ心臓酸素消費量を最小化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に係る心疾患治療システムについて説明する。
【0033】
図1は本実施形態に係る心疾患治療システムの概略構成図である。また、図2は心臓の概略図を示しており、本実施形態に係る心疾患治療システム10は、この図2に示される心拍出量値、左心房圧値、および右心房圧値と、図示しない血圧値および心拍数を利用する。
【0034】
図1に示されるように、心疾患治療システム10は、入力部12と、心臓酸素消費量モニターユニット14(本発明に係る「心臓酸素消費量算出部」)と、心臓酸素消費量節減ユニット16(本発明に係る「心臓酸素消費量節減部」)と、心疾患治療ユニット18と、を有して構成されている。
【0035】
入力部12は、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、右心房圧値、および心拍数を含む患者20の血行動態指標を入力するためのものである。
【0036】
なお、この入力部12は、患者20の血行動態指標の数値データを、後述する心臓酸素消費量モニターユニット14、心臓酸素消費量節減ユニット16および心疾患治療ユニット18に出力できるものであればよく、特に限定されない。従って、例えば、実際に計測された血圧値などの数値データを、心疾患治療システム10を使用する使用者が入力する際のキーボード等の入力装置を適用してもよく、また、患者20の血行動態を計測して直接的に数値データを出力する計測装置(例えば、血圧計など)を適用してもよい。なお、心疾患治療システム10を用いて患者20の心疾患の異常を診断し、投薬治療を行うためには、患者20の血行動態を計測して直接的に血行動態の数値データを出力する計測装置を適用することが好ましい。
【0037】
図3は本実施形態に係る心疾患治療システムの入力部12と心臓酸素消費量モニターユニット14の関係を示す概略構成図である。
【0038】
入力部12は、本実施形態では、患者20の心拍出量値、左心房圧値、および右心房圧値を計測するスワンガンツ・カテーテル12Aと、血圧値を計測する血圧カテーテル12Bと、心拍数を計測する心電図計12Cと、によって構成されている。なお、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、右心房圧値、および心拍数は、それぞれ従来公知の計測装置によって計測することができ、本実施形態で示される例に限定されるものではない。
【0039】
心疾患治療システム10では、入力部12において連続的に患者を診断するために、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、右心房圧値、および心拍数の各数値を連続的に計測して使用する。
【0040】
なお、血圧値、右心房圧値、および心拍数は連続的に計測することができるが、従来、左心房圧値と心拍出量値は連続的に計測することができないとされている。このため、本実施形態では、左心房圧値は、肺動脈圧の拡張期圧値(肺動脈拡張期圧値)から連続推定することによって左心房圧値を連続的に推定する方法を採用し、連続的な数値データとして利用する。具体的には、この左心房圧値は、肺動脈拡張期圧値と線形関係を有していることが解っているので、複数個体の平均的相関関係に基づき肺動脈拡張期圧値から左心房圧値を算出することができる。なお、この肺動脈拡張期圧値を利用して左心房圧値を算出する場合、心拍数の変化に従って、肺動脈圧の拡張期圧値と左心房圧値の相関関係(線形関係)が変化するので、複数個体における平均的相関関係を心拍数で補正することができるようにしておくことが好ましい。
【0041】
一方、心拍出量値は、末梢の血圧波形の拡張期時定数から推定する方法を採用することによって、連続的な数値データとして利用することができる。
【0042】
このように、左心房圧値が、スワンガンツ・カテーテルによる肺動脈圧の拡張期圧値から連続推定することにより算出され、心拍出量値が、動脈血圧波形の拡張期時定数から算出されていれば、極めて精度の高いシステムを提供することができる。
【0043】
心臓酸素消費量モニターユニット14は、本実施形態では、コンピュータによって構成され、入力部12から増幅器22を介して入力される血行動態指標(本実施形態では、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、右心房圧値、および心拍数)に基づいて、患者20の心臓酸素消費量の推定値を算出する。なお、入力部12から出力される数値データの電気信号が充分な大きさを有している場合には、増幅器22は不要である。
【0044】
この心臓酸素消費量モニターユニット14は、以下の手順で患者20の心臓酸素消費量の推定値を算出する。
【0045】
最初に、心臓酸素消費量モニターユニット14は、入力部12から入力される心拍出量値および左心房圧値から、下記数式(1)を用いて左心機能値を算出する。
【数6】

(ただし、AおよびBは定数値である。)
【0046】
この数式(1)のAおよびBは、予め使用者によって設定される定数値である。なお、この定数値は、患者20の病状に応じて適宜変更することのできる数値であり、患者20に応じて調整することによって算出される左心機能値を補正することができる。
【0047】
次に、入力部12から入力される血圧値、右心房圧値、および心拍出量値から、下記数式(2)を用いて血管抵抗値を算出する。
【数7】

(ただし、Hは定数値である。)
【0048】
この数式(2)のHは、血管抵抗非線形性を補正するための定数値である。なお、この定数値は、患者20の病状に応じて適宜変更することのできる数値であり、患者20に応じて調整することによって非線形性が強い個体においてもシステムの正常な作動を保つことができる。
【0049】
次に、数式(1)で算出される左心機能値、数式(2)で算出される血管抵抗値、および入力部12から入力される心拍数から、下記数式(3)を用いて左心室収縮末期圧容積関係を算出する。
【数8】

(ただし、Kは定数値である。)
【0050】
この数式(3)で算出される左心室収縮末期圧容積関係は、心室の収縮特性を表しており、単位はmmHg/mlである。また、数式(3)の定数値Kは、左心室硬度を表す定数値であり、本実施形態では個体間で一定値(K=0.0815)とみなす。
【0051】
次に、入力部12から入力される血圧値、左心房圧値、心拍出量値、および心拍数から、下記数式(4)を用いて左心室圧容積面積を算出する。
【数9】

(ただし、A、B、およびKは前記定義どおりである。)
【0052】
この数式(4)の定数値A、B、及びKは、上述の通りである。また、この数式(4)で算出される左心室圧容積面積は、左心室に蓄えられている仕事量を表しており、単位はmmHg×mlである。
【0053】
最後に、入力部12から入力される心拍数、数式(4)で算出される左心室圧容積面積、および数式(3)で算出される左心室収縮末期圧容積関係から、下記数式(5)を用いて心臓酸素消費量の推定値を算出する。
【数10】

(ただし、α、β、およびγは定数値である。)
【0054】
この数式(5)は、参考文献(Suga.H著、「Prospective prediction of O consumption from pressure volume area in dog hearts」、Am J Physiol.1987;252;H1258-64)の記載内容を根拠としたものである。この参考文献によれば、心室圧容積面積から心臓酸素消費量を推定することができ、1分間当たりの心臓酸素消費量は、数式(5)に基づいて算出することができる。また、数式(5)のα、β、およびγは、予め使用者によって設定される定数値である。本実施形態では、参考文献の記載に基づいて、α=1.8×10−5mlO/mmHg/ml、β=0.0018mlO/mmHg×ml、γ=0.010mlOとして心臓酸素消費量の推定値を算出する。
【0055】
このように、心臓酸素消費量モニターユニット14は、心拍出量値および左心房圧値から、上記数式(1)を用いて左心機能値を算出し、血圧値、右心房圧値、および心拍出量値から、上記数式(2)を用いて血管抵抗値を算出し、左心機能値、血管抵抗値、および心拍数から、上記数式(3)を用いて左心室収縮末期圧容積関係を算出し、血圧値、左心房圧値、心拍出量値、および心拍数から、上記数式(4)を用いて左心室圧容積面積を算出し、心拍数、左心室圧容積面積、および左心室収縮末期圧容積関係から、上記数式(5)を用いて心臓酸素消費量の推定値を算出するため、心臓酸素消費量の推定値を簡易な演算で迅速に算出することができる。
【0056】
本発明の発明者は、この心臓酸素消費量モニターユニット14を用いて心臓酸素消費量の推定値を算出すると共に、心臓酸素消費量の実測値を計測し、心臓酸素消費量の推定値と実測値の比較を行った。なお、心臓酸素消費量の実測値は、犬に強心剤を投与または心不全を作成した上で、下記数式(6)を用いて実測した。
【数11】

【0057】
この数式(6)の冠動脈血流量(ml/min)は、開胸下に左冠動脈に血流計を装着し計測した。また、動脈血酸素含量は、動脈血を採取し酸素含量計にて計測した。さらに、静脈血酸素含量は、冠状静脈洞にカテーテルを挿入し、静脈血(心臓の静脈血)を採取し酸素含量計にて計測した。
【0058】
図4は、本実施形態に係る心臓酸素消費量モニターユニット14を用いて算出した、犬の心臓酸素消費量の推定値と、心臓酸素消費量の実測値を示したグラフである。
【0059】
このグラフからも明らかな通り、心臓酸素消費量の推定値と実測値は強く線形相関しており、本実施形態に係る心疾患治療システム10によれば、心臓酸素消費量を高い精度で推定可能な事が分かる。また、患者への負担を考えると、通常の臨床現場で心臓酸素消費量を実測することはほぼ不可能であるが、本実施形態に係る心疾患治療システム10によれば、通常の臨床現場で使用される計測装置を用いて心臓酸素消費量を容易に推定することができ、患者に負担を与える心配がない。
【0060】
なお、図4における推定値と実測値の絶対値は完全には一致していないが、これは個体によって上記数式(5)のα、β、およびγの数値が異なることに起因するものと考えられる。実際には、この絶対値の関係よりも、推定値が実測値の相対的な変化に追従し得るか否かが重要であり、この点、心臓酸素消費量モニターユニット14によって算出された心臓酸素消費量の推定値は、実測値の変化に追従しており、絶対値の不一致は特に問題とはならない。
【0061】
図5は本実施形態に係る心疾患治療システムの入力部12と心臓酸素消費量節減ユニット16の関係を示す概略構成図である。
【0062】
心臓酸素消費量節減ユニット16は、本実施形態では、心電図計12Cによって計測された心拍数の数値データが増幅器22を介して入力されるコンピュータ16Aと、患者20に徐脈薬剤を投与するための徐脈薬剤投与ポンプ16Bと、心房ペーシング装置16Cと、心房ペーシングカテーテル16Dと、によって構成されている。
【0063】
この心臓酸素消費量節減ユニット16は、心電図計12Cから入力される心拍数と、心臓酸素消費量モニターユニット14によって算出された心臓酸素消費量の推定値が最小となる臨界心拍数(詳細は後述)とを比較する。そして、この比較結果に応じて、徐脈薬剤投与ポンプ16Bを用いて患者20に投薬を施すと共に、心房ペーシング装置16Cおよび心房ペーシングカテーテル16Dを用いて患者20に電気的刺激を与える。
【0064】
なお、本実施形態では、徐脈薬剤投与ポンプ16Bによる薬剤の投与と、心房ペーシング装置16Cおよび心房ペーシングカテーテル16Dによる電気的刺激の印加が可能な構成となっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、心臓酸素消費量節減ユニット16がいずれか一方だけを備えていてもよい。このように、心臓酸素消費量節減ユニット16が、患者20に投薬を施すことにより、および/または、患者20に電気的刺激を与えることにより、患者20の心拍数を制御すれば、簡易な方法でありながら患者20の心拍数を迅速かつ容易に制御することができる。
【0065】
また、薬剤の投与や電気的刺激の印加以外の方法によって患者20の心拍数を制御してもよい。さらに、患者20に投与する薬剤の種類は特に限定されないが、例えば、β遮断剤、カルシウム拮抗薬、特異的徐脈剤などを投与することができる。
【0066】
後述する心疾患治療ユニット18などを用いて患者20に強心剤を投与することで、患者20の血圧、心拍出量、左心房圧などの血行動態を向上することが可能であるが、その一方で、患者20の心臓酸素消費量が増大してしまうといった別の問題が生じる。心疾患治療システム10は、このような問題を解消すべく、心臓酸素消費量節減ユニット16を用いて心拍数を低下させ、臨界心拍数に近づけるように制御することによって、患者20の心臓酸素消費量を最小化する。
【0067】
ここで、上記数式(4)で算出される左心室収縮末期圧容積関係と、上記数式(1)で算出される左心機能値を関連付けると、下記数式(7)のように表すことができる。
【数12】

【0068】
この数式(7)からも明らかなように、単に心拍数を低下させる制御を行ったのでは左心機能値を低下させてしまうことになる。即ち、左心機能値および血管抵抗値を低下させることなく一定に維持し、かつ、心拍数を低下させるためには、左心室収縮末期圧容積関係を増加させる必要がある。
【0069】
仮に、血圧値90mmHg、心拍出量値100ml/分/kg、左心房圧値10mmHgを目標として患者20に治療を施す場合を考えると、上記数式(1)〜数式(5)から左心機能値の目標値は34.8ml/分/kg、血管抵抗値の目標値は0.9mmHg×kg/mlとなる。上記数式(7)における定数値Kを一定値(0.0815)とすれば、数式(7)から、左心室収縮末期圧容積関係(Ees)と心拍数は図6に示される関係となる。
【0070】
また、上記数式(1)〜数式(5)から、心臓酸素消費量(VO)と心拍数は図7に示される関係となる。
【0071】
これら図6および図7から明らかなように、心拍数を低下させていった場合、左心室収縮末期圧容積関係(Ees)が上昇しても、心臓酸素消費量(VO)は所定の心拍数B(本発明に係る「臨界心拍数」)までは低減することが可能である。即ち、患者20の心拍数を臨界心拍数Bに近づけるように治療を施すことで、患者20の心臓酸素消費量を低減することができる。なお、臨界心拍数Bの値は、個体ごとに図7に相当するグラフを作成することによって容易に算出可能である。
【0072】
この心臓酸素消費量節減ユニット16では、患者20への薬剤の投与量や、患者20への電気的刺激の強度、周波数などを調整することによって心拍数を低下させ、心拍数を臨界心拍数Bに近づけるように負帰還制御を行うが、その制御方法は特に限定されない。従って、例えば、 IF−THENルールに基づいた非線形制御法を適用してもよく、また、比例、積分、微分などの線形制御法を適用してもよい。また、徐脈剤の投与によって患者20の心拍数を制御する場合には、治療開始時に高用量の徐脈剤を投与して洞結節の自発活動を抑制し、自発活動が出現した場合に徐脈薬を追加投与して段階的に心拍数を低下させるように制御すれば、心拍数を、より一層効率的に低下させることができる。
【0073】
図8は本実施形態に係る心疾患治療ユニット18の概略構成図である。
【0074】
この心疾患治療ユニット18は、算出手段30と、比較手段40と、投薬手段50と、によって構成されている。
【0075】
算出手段30は、入力部12から入力される血行動態指標に基づいて所定の演算を行うもので、第1算出手段31と、第2算出手段32と、第3算出手段33と、によって構成されている。なお、算出手段30は、第1算出手段31、第2算出手段32および第3算出手段33の演算をまとめて行う1つの演算ユニットで構成してもよく、また、第1算出手段31、第2算出手段32および第3算出手段33の演算を別々に行う3つの演算ユニットによって構成してもよい。
【0076】
第1算出手段31は、入力部12から入力される心拍出量値、左心房圧値および/または右心房圧値から、左心機能値および右心機能値を算出する。また、第2算出手段32は、入力部12から入力される心拍出量値、左心房圧値および右心房圧値から、下記数式(8)を用いて有効循環血液量値を算出する。
【数13】

(ただし、E、F、およびGは定数値である。)
【0077】
また、第3算出手段33は、入力部12から入力される心拍出量値、右心房圧値および血圧値から、数式(2)または数式(7)を用いて、血管抵抗値を算出する。
【0078】
比較手段40は、算出手段30で算出される算出数値(心機能値(左心機能値および/または右心機能値)、有効循環血液量値、血管抵抗値)と、目標値(目標心機能値(目標左心機能値および/または目標右心機能値)、目標有効循環血液量値、目標血管抵抗値)を比較するもので、第1比較手段41と、第2比較手段42と、第3比較手段43と、によって構成されている。
【0079】
第1比較手段41は、第1算出手段31で算出される左心機能値および/または右心機能値と、目標心機能値を比較する。また、第2比較手段42は、第2算出手段32で算出される有効循環血液量値と、目標有効循環血液量値を比較する。さらに、第3比較手段43は、第3算出手段33で算出される血管抵抗値と、目標血管抵抗値を比較する。
【0080】
これら第1比較手段41、第2比較手段42、および第3比較手段43は、目標値に対して、算出数値が「大きい」、「等しい」、「小さい」の3種類の比較を行うことができ、これら3つの比較結果の中の1つを、後述する投薬手段50に比較結果の信号として送信する。なお、比較結果の信号は、「大きい」、「等しい」、「小さい」の3種類の比較結果に限定されるものではなく、例えば、目標値に対する算出数値の偏差を定量化した信号を送信することも可能である。
【0081】
投薬手段50は、比較手段40からの比較結果の信号に応じて、患者20への投薬の制御(投薬量の調整)を行うもので、第1投薬手段51と、第2投薬手段52と、第3投薬手段53と、によって構成されている。
【0082】
この投薬手段50には、例えば、複数の自動注入ポンプに接続される多薬剤同時注入用多孔カテーテルを適用することができ、この場合、多孔カテーテルを患者20の静脈へ接続することにより、患者20の体内へ所定の薬剤を投与する。
【0083】
第1投薬手段51の投薬は、第1比較手段41の比較結果の信号に応じて行われるため、心機能の異常が認められる場合に投薬が開始されることになる。
【0084】
より具体的には、第1投薬手段51が、第1比較手段41から「小さい」という比較結果(例えば、算出された左心機能値が目標心機能値よりも低い場合)を受け取った場合には、心機能が異常状態であると判定され、第1投薬手段51は心機能を上げるための投薬を開始することになる。この場合に使用される薬剤は、例えば強心剤であり、ドブタミンやドーパミンなどが投与されることになる。
【0085】
また、第1投薬手段51が、第1比較手段41から「等しい」という比較結果(例えば、算出された左心機能値と目標心機能値が等しい場合)を受け取った場合には、心機能が正常状態であると判定され、第1投薬手段51は投薬量を増加させない、投薬を行わない、または投薬を停止することになる。
【0086】
さらに、第1投薬手段51が、第1比較手段41から「大きい」という比較結果(例えば、算出された左心機能値が目標心機能値よりも高い場合)を受け取った場合には、心機能が目標よりもさらに良好な状態であると判定され、第1投薬手段51は投薬量を減少させる、投薬を行わない、または投薬を停止することになる。
【0087】
このように、心疾患治療システム10は、入力部12から入力される心拍出量値、左心房圧値および右心房圧値から、左心機能値および右心機能値を算出する第1算出手段31と、心臓酸素消費量算出モニターユニット14で算出される左心機能値および/または前記第1算出手段31で算出される左心機能値および右心機能値と、目標心機能値を比較する第1比較手段41と、第1比較手段41の比較結果に応じて患者20へ投薬を施す第1投薬手段51と、を有して構成されているため、左右の心機能値と目標心機能値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われることになり、確実かつ正確に患者の心機能の異常を正常状態へと治療することができる。
【0088】
第2投薬手段52の投薬は、第2比較手段42の比較結果の信号に応じて行われるため、有効循環血液量の異常が認められる場合に投薬が開始されることになる。
【0089】
より具体的には、第2投薬手段52が、第2比較手段42から「大きい」という比較結果(例えば、算出された有効循環血液量値が目標有効循環血液量値よりも高い場合)を受け取った場合には、有効循環血液量が異常状態であると判定され、第2投薬手段52は有効循環血液量を下げるための投薬を開始することになる。この場合に使用される薬剤は、例えば利尿剤であり、フロセミドなどが投与されることになる。
【0090】
また、第2投薬手段52が、第2比較手段42から「等しい」という比較結果(例えば、算出された有効循環血液量値と目標有効循環血液量値が等しい場合)を受け取った場合には、有効循環血液量が正常状態であると判定され、第2投薬手段52は投薬量を増加させない、投薬を行わない、または投薬を停止することになる。
【0091】
さらに、第2投薬手段52が、第2比較手段42から「小さい」という比較結果(例えば、算出された有効循環血液量値が目標有効循環血液量値よりも低い場合)を受け取った場合には、有効循環血液量が異常状態であると判定され、第2投薬手段52は有効循環血液量を上げるための投薬を開始することになる。この場合に使用される投薬は、例えば、有効循環血液量を増加させる輸液製剤であり、低分子デキストランやアルブミン製剤などが投与されることになる。
【0092】
このように、心疾患治療システム10は、入力部12から入力される心拍出量値、左心房圧値および右心房圧値から、有効循環血液量値を算出する第2算出手段32と、第2算出手段32で算出される有効循環血液量値と、目標有効循環血液量値を比較する第2比較手段42と、第2比較手段42の比較結果に応じて患者20へ投薬を施す第2投薬手段52と、を有して構成されているため、算出される有効循環血液量値と目標有効循環血液量値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われることになり、確実かつ正確に患者の有効循環血液量の異常を正常状態へと治療することができる。
【0093】
第3投薬手段53の投薬は、第3比較手段43の比較結果の信号に応じて行われるため、血管抵抗の異常が認められる場合に投薬が開始されることになる。
【0094】
より具体的には、第3投薬手段53が、第3比較手段43から「大きい」という比較結果(例えば、算出された血管抵抗値が目標血管抵抗値よりも高い場合)を受け取った場合には、血管抵抗値が異常状態であると判定され、第3投薬手段53は血管抵抗値を下げるための投薬を開始することになる。この場合に使用される薬剤は、例えば、血管拡張剤であり、ニトロプルシドやニトログリセリン、フェントラミンなどが投与されることになる。また、既に血管収縮剤、例えば、ノルエピネフリンなどが投与されている場合は、それらが減量されることになる。
【0095】
また、第3投薬手段53が、第3比較手段43から「等しい」という比較結果(例えば、算出された血管抵抗値と目標血管抵抗値が等しい場合)を受け取った場合には、血管抵抗が正常状態であると判定され、第3投薬手段53は投薬量を増加させない、投薬を行わない、または投薬を停止することになる。
【0096】
さらに、第3投薬手段53が、第3比較手段43から「小さい」という比較結果(例えば、算出された血管抵抗値が目標血管抵抗値よりも低い場合)を受け取った場合には、血管抵抗が異常状態であると判定され、第3投薬手段53は血管抵抗を上げるための投薬を開始することになる。この場合に使用される投薬は、例えば血管収縮剤であり、ノルエピネフリン等が投与されることになる。また、既に血管拡張剤、例えば、ニトロプルシドやニトログリセリン、フェントラミンなどが投与されている場合は、それらが減量されることになる。
【0097】
このように、心疾患治療システム10は、入力部12から入力される心拍出量値、右心房圧値および血圧値から血管抵抗値を算出する第3算出手段と、目標血管抵抗値を比較する第3比較手段43と、第3比較手段43の比較結果に応じて患者20へ投薬を施す第3投薬手段53と、を有して構成されているため、算出される血管抵抗値と目標血管抵抗値を比較し、その比較結果に応じて投薬が行われることになり、確実かつ正確に患者の血管抵抗値の異常を正常状態へと治療することができる。
【0098】
なお、投薬手段50によって投与される薬剤の投薬量は、特に限定されるものではなく、例えば、比較手段40における算出数値と目標値の偏差に応じて投薬量を変化させてもよい。また、目標値を多段階に分割し、各段階に応じて薬剤の投薬量を調整すれば、極めて精度良く投薬を行うことができる。
【0099】
本発明の発明者は、本実施形態に係る心疾患治療システム10を用いて、心臓酸素消費量を最小化する実験を行った。なお、本実験には、心不全状態の麻酔下成犬を用いた。また、心疾患治療ユニット18によって犬の血行動態(血圧、心拍出量、左心房圧)が正常な状態となるように制御を行うと同時に、心臓酸素消費量節減ユニット16によって特異的徐脈薬を投与して心拍数の制御を行った。なお、心臓酸素消費量節減ユニット16では、治療開始時に高用量の特異的徐脈剤を投与して洞結節の自発活動を抑制し、自発活動が出現した場合に特異的徐脈薬を追加投与して段階的に心拍数を低下させるように制御を行った。
【0100】
この実験結果を図9に示す。心疾患治療システム10による治療を約95分間行った結果、犬の血圧、心拍出量、左心房圧は、それぞれ目標血圧、目標心拍出量、目標左心房圧の近傍に維持することができた。また、心拍数は、約160beat/分から約110beat/分に低下し、臨界心拍数である80beat/分に近づいた。
【0101】
なお、心疾患治療システム10が、上記図9に示されるような、血行動態指標の各数値を時系列的に連続して表示する表示手段を更に備えていれば、各数値の時系列的な変化を見逃すことなく確実に患者を診断することができると共に、投薬治療による状態の推移を表示することができる。
【0102】
図10に、本実験における心臓酸素消費量の実測値と心拍数との関係を示す。本実験の結果、犬の心臓酸素消費量を約3.5mlO/分から約2.4mlO/分まで約30%低下させることができた。
【0103】
また、図11に示されるように、本実験においても、心臓酸素消費量モニターユニット14によって算出された心臓酸素消費量の推定値と、心臓酸素消費量の実測値は良好に線形相関していることが証明され、本実施形態に係る心疾患治療システム10によれば、心臓酸素消費量を高い精度で推定可能な事が分かる。
【0104】
強心剤投与による血行動態の改善において、心筋障害を抑制するためには、心臓酸素消費量を必要最小限にとどめることが重要である。この点、本実施形態に係る心疾患治療システム10は、少なくとも心拍数を含む、患者20の血行動態指標を入力する入力部12と、入力部12から入力される血行動態指標に基づいて、患者20の心臓酸素消費量の推定値を算出する心臓酸素消費量算出部(本実施形態では心臓酸素消費量モニターユニット14)と、入力部12から入力される心拍数と心臓酸素消費量算出部により算出される心臓酸素消費量の推定値が最小となる臨界心拍数Bとを比較し、この比較結果に応じて患者20の心拍数を制御する心臓酸素消費量節減部(本実施形態では心臓酸素消費量節減ユニット16)と、からなる心臓酸素消費量自動最小化システムを有して構成されているため、心臓酸素消費量を抑制し(最小化し)心筋障害の発生を未然に防止することができる。
【0105】
また、心臓酸素消費量に基づいた治療が可能となるため、従来の治療のように、必要以上に各種薬剤を多く投与してしまったり、必要以上に各種薬剤を長期間投与してしまうことがなく、薬剤による副作用や医療コストの高騰を回避することができる。
【0106】
さらに、心臓酸素消費量に基づいて患者への投薬が適切に行われるため、非専門医であっても容易に心臓酸素消費量を最小化することができる。
【0107】
なお、本実施形態に係る心疾患治療システム10は、患者の血行動態の正常化をより一層効果的に実現すべく心疾患治療ユニット18を備えた構成としたが、本発明はこれに限定されるものではない。
従って、例えば、入力部、心臓酸素消費量算出部、および心臓酸素消費量節減部からなる心臓酸素消費量自動最小化システムのみを用いて患者の治療を行ってもよく、この場合にも、患者の心臓酸素消費量を高い精度で推定することができる上に、心臓酸素消費量を最小化することができる。また、薬剤による副作用や医療コストの高騰を回避することができ、非専門医であっても容易に心臓酸素消費量を最小化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る心臓酸素消費量自動最小化システムおよび心疾患治療システムは、人間や動植物などの治療に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施形態に係る心疾患治療システムの概略構成図である。
【図2】心臓の概略図である。
【図3】本実施形態に係る心疾患治療システムの入力部と心臓酸素消費量モニターユニットの関係を示す概略構成図である。
【図4】本実施形態に係る心臓酸素消費量モニターユニットを用いて算出した、犬の心臓酸素消費量の推定値と、心臓酸素消費量の実測値を示したグラフである。
【図5】本実施形態に係る心疾患治療システムの入力部と心臓酸素消費量節減ユニットの関係を示す概略構成図である。
【図6】左心室収縮末期圧容積関係(Ees)と心拍数との関係を示したグラフである。
【図7】心臓酸素消費量(VO)と心拍数との関係を示したグラフである。
【図8】本実施形態に係る心疾患治療ユニットの概略構成図である。
【図9】本実施形態に係る心疾患治療システムを用いた実験結果を示すグラフである。
【図10】同実験における心臓酸素消費量の実測値と心拍数との関係を示すグラフである。
【図11】同実験において心臓酸素消費量モニターユニットを用いて算出した、犬の心臓酸素消費量の推定値と、心臓酸素消費量の実測値を示したグラフである。
【符号の説明】
【0110】
10 心疾患治療システム
12 入力部
14 心臓酸素消費量モニターユニット
16 心臓酸素消費量節減ユニット
18 心疾患治療ユニット
20 患者
30 算出手段
40 比較手段
50 投薬手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも心拍数を含む、患者の血行動態指標を入力する入力部と、
前記入力部から入力される血行動態指標に基づいて、前記患者の心臓酸素消費量の推定値を算出する心臓酸素消費量算出部と、
前記入力部から入力される心拍数と前記心臓酸素消費量算出部により算出される心臓酸素消費量の推定値が最小となる臨界心拍数とを比較し、この比較結果に応じて前記患者の心拍数を制御する心臓酸素消費量節減部と、
を有して構成されていることを特徴とする、心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項2】
前記血行動態指標は、さらに、血圧値、心拍出量値、左心房圧値、および右心房圧値を含み、
前記心臓酸素消費量算出部は、
前記心拍出量値および前記左心房圧値から、下記数式(1)を用いて左心機能値を算出し、
前記血圧値、前記右心房圧値、および前記心拍出量値から、下記数式(2)を用いて血管抵抗値を算出し、
前記左心機能値、前記血管抵抗値、および前記心拍数から、下記数式(3)を用いて左心室収縮末期圧容積関係を算出し、
前記血圧値、前記左心房圧値、前記心拍出量値、および前記心拍数から、下記数式(4)を用いて左心室圧容積面積を算出し、
前記心拍数、前記左心室圧容積面積、および前記左心室収縮末期圧容積関係から、下記数式(5)を用いて前記心臓酸素消費量の推定値を算出することを特徴とする、
請求項1に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【数1】

(ただし、AおよびBは定数値である。)
【数2】

(ただし、Hは定数値である。)
【数3】

(ただし、Kは定数値である。)
【数4】

(ただし、A、B、およびKは前記定義どおりである。)
【数5】

(ただし、α、β、およびγは定数値である。)
【請求項3】
前記心臓酸素消費量節減部は、
前記患者に投薬を施すことにより、前記患者の心拍数を制御することを特徴とする、
請求項1または2に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項4】
前記心臓酸素消費量節減部は、
治療の開始時に、心拍数を低下させる薬剤を前記患者に投与して洞結節の自発活動を抑制し、
前記自発活動が出現した場合に、前記心拍数を低下させる薬剤を追加投与することを特徴とする、
請求項3に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項5】
前記薬剤は、β遮断剤、カルシウム拮抗薬または特異的徐脈剤である、
請求項4に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項6】
前記心臓酸素消費量節減部は、
前記患者に電気的刺激を与えることにより、前記患者の心拍数を制御することを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項7】
患者の血行動態指標を時系列的に連続して表示する表示手段を更に備えていることを特徴とする、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項8】
前記心拍出量値は、スワンガンツ・カテーテルにより計測されるまたは動脈血圧波形の拡張期時定数から算出されることを特徴とする、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項9】
前記左心房圧値は、カテーテルにより直接計測されるか、またはスワンガンツ・カテーテルによる肺動脈楔入圧もしくは肺動脈圧の拡張期圧値から連続推定することにより算出されることを特徴とする、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の心臓酸素消費量自動最小化システム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の心臓酸素消費量自動最小化システムと、
前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記左心房圧値から心機能値を算出する第1算出手段と、
前記第1算出手段で算出される前記心機能値と、目標心機能値を比較する第1比較手段と、
前記第1比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第1投薬手段と、
を有して構成されていることを特徴とする、心疾患治療システム。
【請求項11】
前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記左心房圧値および前記右心房圧値から、有効循環血液量値を算出する第2算出手段と、
前記第2算出手段で算出される前記有効循環血液量値と、目標有効循環血液量値を比較する第2比較手段と、
前記第2比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第2投薬手段と、
をさらに備えたことを特徴とする、
請求項10に記載の心疾患治療システム。
【請求項12】
前記入力部から入力される前記心拍出量値、前記右心房圧値および前記血圧値から血管抵抗値を算出する第3算出手段と、
前記第3算出手段で算出される前記血管抵抗値と、目標血管抵抗値を比較する第3比較手段と、
前記第3比較手段の比較結果に応じて前記患者へ投薬を施す第3投薬手段と、
をさらに備えたことを特徴とする、請求項10または11に記載の心疾患治療システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−215724(P2007−215724A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38968(P2006−38968)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】