説明

恒温槽を用いた高安定用の水晶発振器

【目的】構造を簡易にして特に背丈寸法を小さくした恒温型の高安定発振器を提供する。
【構成】複数のリード線が導出した水晶振動子に熱を供給して温度を一定にする加熱供給体と、前記水晶振動子とともに発振回路を構成する発振用素子と、前記水晶振動子の温度を制御する温度制御回路を構成する温度制御素子と、前記加熱供給体、前記発振用素子及び前記温度制御素子を搭載するとともに、前記水晶振動子のリード線を挿通して搭載する回路基板とを備える、恒温型とした高安定用の水晶発振器において、前記加熱供給体は、前記リード線の挿通孔を有して前記回路基板に装着され、前記水晶振動子と対面して直接的に熱結合した導熱板と、前記導熱板に近接して前記回路基板に装着され、前記導熱板と熱結合した加熱用のチップ抵抗とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は恒温型とした高安定用の水晶発振器(以下、高安定発振器とする)を技術分野とし、特に熱の利用が効率的な高安定発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)この種の高安定発振器は、恒温槽によって水晶振動子の動作温度を一定に維持するので周波数安定度が高く、例えば産業用とした光通信の基地局に使用される。近年では、これらのものでも小型化が浸透し、対応が求められている。
【0003】
(従来技術の一例)第2図は一従来例を説明する図で、同図(a)は高安定発振器の一部断面図、同図(b)は水晶振動子の外観図である。
【0004】
高安定発振器は第1と第2の回路基板1(ab)を備えてなる。第1回路基板1aは金属ベース2を絶縁貫通した外部端子としての金属ピン3aに支持される。そして、恒温槽4及び温度制御素子5を配置し、温度を一定に維持する温度制御機構を構成する。恒温槽4は一端側が開放した金属筒からなり、外周には熱線6を巻回するとともに温度検出素子としてのサーミスタ5Aを固着する。そして、第1回路基板1a上に配置された電力制御用のパワートランジスタ5B上に固定される。
【0005】
第2回路基板1bは第1回路基板1aに植設された金属ピン3bに支持され、恒温槽4の開放面を閉塞する。そして、水晶振動子7及び発振用素子8が両主面に配置され、発振回路を構成する。発振回路は例えば電圧可変容量素子8Aを有する電圧制御型とする。水晶振動子7は例えば5本のリード線9が底面から導出した金属容器7A内(TO5型)にATやSCカットとした図示しない水晶片を密閉封入してなる。水晶片は板面を水平にして金属容器内に保持され、特に通信機器に高安定用として採用される。
【0006】
そして、水晶振動子7のリード線9が第2回路基板1bを挿通して半田(不図示)によって固着され、一主面側の金属容器7A(水晶振動子7))が恒温槽4内に収容される。また、電圧可変容量素子8A等の温度によって特性が変化する温度依存性の高い発振用素子8は回路基板1bの一主面に配置される。そして、恒温槽4内に収容される。図中の符号10は発振器用の金属カバーである。
【0007】
このようなものでは、恒温槽4によって水晶振動子7の動作温度を一定にするので、温度変化による振動周波数の周波数変化を防止する。換言すると、水晶振動子7の周波数温度特性に基づいた発振周波数の変化を防止する。また、発振用素子8を搭載した第2回路基板1bを恒温槽4上に配置するので、回路素子自体の温度特性による周波数変化も防止する。特に、電圧可変容量素子8A等温度依存性の高い熱高感度素子を恒温槽4内に収容するので、周波数安定度をさらに高めて例えば周波数偏差を0.05ppm以下にして、特に産業用に採用される。
【0008】
そして、ここでは、恒温槽4を含む温度制御機構を第1回路基板1aに、水晶振動子を含む発振回路を第2回路基板1bに配置する。したがって、温度制御機構と発振回路とを別個に製作できるので、設計及び製造を容易にする。また、第2回路基板1bに発振用素子8を搭載して金属ピン3bによって第1回路基板1aに電気的に接続し、第1回路基板1aの金属ピン3aが外部端子として導出する。したがって、第2回路基板1bの金属ピン3bは直接に外部には導出しないので、外部への熱の放出を防止する。
【特許文献1】特開平1−195706
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)しかしながら、上記構成の高安定発振器では、温度制御機構と発振回路とを別個に製作するので第1と第2回路基板1(ab)を要する。そして、水晶振動子7を収容する恒温槽を使用するので、大型化を回避できない。特に、第1及び第2回路基板1(ab)を上下に配置するので、特に背丈寸法が大きくなる問題があった。
【0010】
また、水晶振動子7とは別個に熱線9を巻回した恒温槽4を使用するので、高価になる問題もあった。なお、水晶振動子7の金属容器7Aを恒温槽4に兼用するものもあるが、いずれにしても熱線9を巻回するので、作業手間が掛かって高価になる。
【0011】
(発明の目的)本発明は構造を簡易にして特に背丈寸法を小さくした高安定発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、複数のリード線が導出した水晶振動子に熱を供給して温度を一定にする加熱供給体と、前記水晶振動子とともに発振回路を構成する発振用素子と、前記水晶振動子の温度を制御する温度制御回路を構成する温度制御素子と、前記加熱供給体、前記発振用素子及び前記温度制御素子を搭載するとともに、前記水晶振動子のリード線を挿通して搭載する回路基板とを備える、恒温型とした高安定用の水晶発振器において、前記加熱供給体は、前記リード線の挿通孔を有して前記回路基板に装着され、前記水晶振動子と対面して直接的に熱結合した導熱板と、前記導熱板に近接して前記回路基板に装着され、前記導熱板と熱結合した加熱用のチップ抵抗とから構成される。
【発明の効果】
【0013】
このような構成であれば、発振用素子及び温度制御素子の搭載される回路基板に設けたチップ抵抗によって導熱板を加熱し、これに水晶振動子を対面して直接的に熱結合するので、従来の恒温槽を不要にし、回路基板を一枚として構造を簡易にし、特に背丈寸法を小さくする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の請求項2に示したように、請求項1の前記導熱板は一組の両端側に第1窪みを有して、前記第1窪みに前記導熱板と熱結合した前記チップ抵抗を配置する。これにより、チップ抵抗は幾何学的に安定した対称的な配置となり、導熱板を均一に加熱できる。
【0015】
同請求項3では、請求項1の前記導熱板の他組の両端側に第2窪みを有して、前記第1窪みに前記導熱板と熱結合したパワートランジスタを配置する。これにより、導熱板の上下左右に加熱体(チップ抵抗及びパワートランジスタ)が配置され、導熱板をさらに均一に加熱できる。なお、パワートランジスタの熱を利用して、チップ抵抗の消費電力を小さくできる。
【0016】
同請求項4では、請求項1、2又は3の前記導熱板の中央領域には開口部を有して、前記発振用素子及び前記温度制御素子のうちの温度依存性の大きな熱高感度素子を前記導熱板と熱結合して配置する。これにより、熱高感度素子の温度依存性を解消して安定な特性を得られる。
【0017】
同請求項5では、請求項1の前記導熱板は前記回路基板の一主面と熱結合し、前記導熱板と対向する前記回路基板の他主面には前記発振用素子を配置する。これにより、発振用素子の温度特性を一定にして発振周波数をさらに安定にする。
【0018】
請求項6では、請求項1乃至5のいずれかにおいて前記熱結合は熱伝導性の樹脂によるとする。これにより、例えば水晶振動子と導熱板との密着性を良好にして熱伝導を効率的にする。
【0019】
同請求項7では、請求項1における前記導熱板の外周となる前記回路基板には貫通する切り込みが設けられる。これにより、導熱板とその外周の回路基板とを熱的に分離して放熱を防止する。
【実施例】
【0020】
第1図は本発明の一実施例を説明する高安定発振器の図で、同図(a)は一部断面図、同図(b)は要部平面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0021】
高安定発振器は前述同様に水晶振動子7の動作温度を一定にして恒温型とした水晶発振器からなる。ここでは、水晶振動子を含めた発振用素子8及び温度制御素子5を一枚の回路基板1に搭載(配置)し、これに加熱供給体11を装着してなる。加熱供給体11は基本的に導熱板12と加熱用のチップ抵抗13(ab)とからなり、ここでは温度制御素子5のパワートランジスタ5B(1、2)をも前述のように加熱用として利用する。
【0022】
導熱板12は例えば正方形状としたアルミ板からなる。そして、一組の両端側に第1窪み14aを、これと直交する他組の両端側に第1窪み14bを、中央領域に開口部15を有する。一組及び他組の両端側は中央領域を中心とした同心円上に位置する。そして、開口部15の外周には、水晶振動子7のリード線9が挿通する貫通孔16が設けられる。そして、導熱板12の4隅が図示しないネジによって第1回路基板1上に締結される。この例では、回路基板1と導熱板12との間には図示しない熱導電性の樹脂が塗布され、両者を熱的に結合する。また、導熱板12の4角部となる回路基板1には貫通した鉤状の切り込み17が設けられる。
【0023】
加熱用のチップ抵抗13(ab)は2個としてジュール熱による発熱抵抗体とし、回路基板1上に搭載された導熱板12の一組の第1窪み14aにそれぞれ配置される。また、加熱用として利用するパワートランジスタ5B(1、2)は2個として導熱板12の他組の第2窪み14bにそれぞれ配置される。そして、これらの端子部が図示しない半田によって固着(装着)され、いずれも導熱板12の外周に近接して配置される。そして、チップ抵抗13(ab)及びパワートランジスタ5B(1、2)を覆って熱導電性の樹脂(不図示)が塗布される。この場合、導熱板12上からも樹脂が塗布され、チップ抵抗13(ab)及びパワートランジスタ5B(1、2)と導熱板12とを熱的に結合する。
【0024】
水晶振動子7は、前述同様の5本のリード線9が導出したTO5型の金属容器7Aに水晶片を密閉封入してなる。水晶振動子7の各リード線9は導熱板12及び回路基板1の貫通通孔を挿通し、半田によって固着される。この場合、導熱板12の貫通孔16は回路基板1のそれよりも大きくして、リード線9と導熱板12とは電気的に絶縁される。そして、金属容器7Aの底面と導熱板12とが面対向して熱導電性の樹脂(不図示)によって直接的に熱結合し、回路基板1の一主面に搭載される。
【0025】
発振用素子8及び温度制御素子5のうちの熱高感度素子である電圧可変容量素子8A及びサーミスタ5aは導熱板12の中央領域に設けた開口部15に配置され、同様の樹脂によって導熱板12と熱結合する。熱高感度素子を除く発振用素子8は導熱板12と対向する回路基板1の他主面に配置して、同温度制御素子5は回路基板1の両主面の外周に配置して搭載される。
【0026】
このような構成であれば、前述した効果の欄でも説明したように、発振用素子8及び温度制御素子5の搭載される回路基板1に設けたチップ抵抗13(ab)によって導熱板12を加熱する。そして、これに水晶振動子7(金属容器7Aの底面)を対面して直接的に熱結合するので、従来の恒温槽を不要にし、回路基板1を一枚として構造を簡易にし、特に背丈寸法を小さくできる。
【0027】
また、導熱板12は一組の両端側に設けた第1窪み14aに熱結合したチップ抵抗13(ab)を配置する。したがって、チップ抵抗13は幾何学的に安定した対称な配置となり、導熱板12を均一に加熱できる。また、導熱板12の一組の両端側と直交する他組の両端側に設けた第2窪み14bに導熱板12と熱結合したパワートランジスタを配置する。したがって、上下左右に加熱体(チップ抵抗13及びパワートランジスタ)が配置され、導熱板12をさらに均一に加熱できる。そして、パワートランジスタの熱を利用して、チップ抵抗13の消費電力を小さくできる。
【0028】
また、導熱板の中央領域には開口部15を設けて発振用素子8及び温度制御素子5のうちの温度依存性の大きな熱高感度素子としての電圧可変容量素子8A及びサーミスタ5Bを導熱板12と熱結合して配置する。これにより、熱高感度素子の温度依存性を解消して安定な特性を得られる。また、導熱板12は回路基板1の一主面と熱結合し、これと対向する回路基板1の他主面には発振用素子8を配置する。したがって、発振用素子8の温度特性を一定にして発振周波数をさらに安定にする。
【0029】
また、例えば水晶振動子7と導熱板12との熱結合は熱伝導性の樹脂によるので、両者の密着性を良好にして熱伝導を効率的にする。また、導熱板12の外周となる回路基板1には貫通する切り込みを設けるので、導熱板12とその外周の回路基板1とを熱的に分離して放熱を防止する。
【0030】
(他の事項)上記実施例では水晶振動子7は5本のリード線9が導出したTO5型としたが、これに限らず少なくとも一対のリード線が導出した金属容器に水晶片を密閉封入したものに適用できる。また、チップ抵抗及13(ab)及びパワートランジスタ8A(1、2)はそれぞれ2個としたが、必要に応じて増減できることは勿論であり、単一のチップ抵抗13のみであったとしても適用できる。
【0031】
また、導熱板12の一組及び他組の両端に設けた窪み14(ab)は中央領域に設けた開口部であってもよい。そして、これらは排除して、単に正方形とした導熱板の外周にチップ抵抗14等を設けることもできる。また、例えば導熱板12と水晶振動子との熱結合は熱伝導性の樹脂としたが、これは溶融状の樹脂を塗布して硬化しても予め硬化したシート状であってもよい。そして、熱的結合は両者の密着度によるので、熱伝導性の樹脂は極端にはなくともよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を説明する高安定発振器の図で、同図(a)は一部断面図、同図(b)は要部平面図である。
【図2】従来例を説明する図で、同図(a)は高安定発振器の一部断面図、同図(b)は水晶振動子の外観図である。
【符号の説明】
【0033】
1 回路基板、2 金属ベース、3 金属ピン、4 恒温槽、5 温度制御素子、6 熱線、7 水晶振動子、8 発振用素子、9 リード線、10 金属カバー、11 加熱供給体、12 導熱板、13 チップ抵抗、14 窪み、15 開口部、16 貫通孔、17 切り込み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリード線が導出した水晶振動子に熱を供給して温度を一定にする加熱供給体と、前記水晶振動子とともに発振回路を構成する発振用素子と、前記水晶振動子の温度を制御する温度制御回路を構成する温度制御素子と、前記加熱供給体、前記発振用素子及び前記温度制御素子を搭載するとともに、前記水晶振動子のリード線を挿通して搭載する回路基板とを備える、恒温型とした高安定用の水晶発振器において、
前記加熱供給体は、
前記リード線の挿通孔を有して前記回路基板に装着され、前記水晶振動子と対面して直接的に熱結合した導熱板と、
前記導熱板に近接して前記回路基板に装着され、前記導熱板と熱結合した加熱用のチップ抵抗とからなることを特徴とする恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記導熱板は一組の両端側に第1窪みを有して、前記第1窪みに前記導熱板と熱結合した前記チップ抵抗を配置してなる、恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項3】
請求項1において、前記導熱板の両端側と直交する他組の両端側に第1窪みを有して、前記第1窪みに前記導熱板と熱結合したパワートランジスタを配置してなる、恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項4】
請求項1、2又は3において、前記導熱板の中央領域には開口部を有して、前記発振用素子及び前記温度制御素子のうちの温度依存性の大きな熱高感度素子を前記導熱板と熱結合して配置してなる、恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項5】
請求項1において、前記導熱板は前記回路基板の一主面と熱結合し、前記導熱板と対向する前記回路基板の他主面には前記発振用素子を配置してなる、恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記熱結合は熱伝導性の樹脂による、恒温型とした高安定用の水晶発振器。
【請求項7】
請求項1において、前記導熱板の外周となる前記回路基板には貫通する切り込みが設けられた、恒温型とした高安定用の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2005−333315(P2005−333315A)
【公開日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−148797(P2004−148797)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】