説明

情報記録媒体用ガラス基板及びこれを用いた情報記録媒体

化学強化された情報記録媒体用ガラスにおいて、化学強化による強化層13を、外周面および内周面に存在させるとともに、情報記録層が形成される上面11及び下面12に実質的に存在させないようにする。これにより高精度の基板研磨技術を必要とすることなく、平坦度などの形状精度および強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報記録媒体用ガラス基板(以下、単に「ガラス基板」と記することがある)に関し、より詳細には磁気ディスク、光磁気ディスク、DVD、MDなどの情報記録用媒体などの基板として用いるガラス基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスク用基板としては、デスクトップ用コンピュータやサーバなどの据え置き型にはアルミニウム合金が、他方ノート型コンピュータやモバイル型コンピュータなどの携帯型にはガラス基板が一般に使用されていたが、アルミニウム合金は変形しやすく、また硬さが不十分であるため研磨後の基板表面の平滑性が十分とは言えなかった。さらに、ヘッドが機械的に磁気ディスクに接触する際、磁性膜が基板から剥離しやすいという問題もあった。そこで、変形が少なく、平滑性が良好で、かつ機械的強度の大きいガラス基板が、携帯型のみならず据え置き型の機器やその他の家庭用情報機器にも今後広く使用されていくものと予測されている。
【0003】
ガラス基板としては、基板表面のアルカリ元素を他のアルカリ元素と置換することにより圧縮歪みを発生させ、機械的強度を向上させた化学強化ガラスが知られている。化学強化ガラスの製造において、化学強化処理はこれまでは一般的に研磨処理の後に行われ、化学強化処理されたガラス基板はそのまま再加工されることなく製品として出荷されていた。このため、化学処理によってガラス基板の平坦度は通常は粗くなるところ、それを見越してより平坦度の高い研磨処理を行う必要があった。また化学処理によってガラス基板に歪みが生じると廃棄処分に直結し、製造歩留を上げることが難しかった。そこで、例えば特許文献1では、ガラス基板を化学強化処理した後研磨処理し生産性などを高める技術が提案されている。
【特許文献1】日本国公開特許公報『特開2000−76652号公報(2000年3月14日公開)』
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記提案技術では、化学強化処理後の研磨処理によって主表面の強化層を研磨除去するものの、研磨処理後所定厚さの強化層を残している。このため、研磨処理後の強化層が不均一であると、平坦度などの形状品質の低下が起こる。これを防止するにはガラス基板の上下面を均質に研磨処理しなければならず、高精度の研磨技術が要求される。
【0005】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高精度の研磨技術を必要とすることなく平坦度などの形状精度に優れ、また高い強度を有する情報記録媒体用ガラス基板を提供することにある。
【0006】
また本発明の他の目的は、機械的強度および耐久性に優れると共に、高密度記録が可能な情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、化学強化された情報記録媒体用ガラス基板であって、化学強化による強化層が、外周面および内周面に存在し、情報記録層が形成される面(以下「記録面」と記すことがある)に実質的に存在しないことを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板が提供される。なお、本明細書において化学強化とは、ガラス基板のガラス転移点以下の温度領域において、ガラス表面近傍のイオンをより大きなイオン半径を有するイオンに置換し
てガラス基板表面に圧縮応力を発生させることをいう。
【0008】
ここで、化学強化処理によって適度な厚みの強化層が安定して形成させる観点、および機械的強度や化学的耐久性などを一層向上させる観点から、情報記録層が形成される面におけるガラス成分を、重量%で、SiO:40〜75%、Al:3〜20%、B:0〜8%(ただし、ゼロを含む)、RO(R=Li,Na,K)の総量:5〜15%、SiO+Al+B:60〜90%、R’O(R’=Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)の総量:0〜20%(ただし、ゼロを含む)、TiO+ZrO+Ln:0〜15%(ただしゼロを含む、またLnはランタノイド金属酸化物及びY,Nb,Taからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を意味する)とし、
1.5<Al/B 又は B=0%
を満足するようにするのが好ましい。なお、以下「%」は特に断りのない限り「重量%」を意味するものとする。
【0009】
また比弾性率(E/ρ)を30以上、ビッカース硬度Hvを450〜650、アルカリ溶出量Aお2.5インチディスク当たり350ppb以下、Si溶出量Sを2.5インチディスク当たり500ppb以下、破壊靭性値Kcを0.80(MPa/m1/2)以上とするのが好ましい。
【0010】
なお、破壊靭性値Kcは、ビッカース硬度試験機を用いて、荷重500g、負荷時間15secの条件下にてビッカース圧子にて圧痕をつけ下記式から算出した(図3を参照)。
【0011】
Kc=0.018(E/Hv)1/2(P/C3/2)=0.026E1/21/2a/C3/2
(式中、Kc:破壊靭性値(Pa・m1/2)、E:弾性率(Pa)、Hv:ビッカース硬度(Pa)、P:押し込み荷重(N)、C:クラック長さの平均の半分(m)、a:圧痕の対角線長さの平均の半分(m))
また、Si溶出量S及びアルカリ溶出量Aは、強化処理後のガラス基板の記録面を研磨処理して作製した2.5インチディスク基板を、80℃の逆浸透膜水50ml中に24h浸漬した後、ICP発光分光分析装置でその溶出液を分析し算出した値である。したがってアルカリ溶出量はLi,Na,K溶出量の総量である。比弾性率(E/ρ)はヤング率Eを比重ρで割った値であって、ヤング率はJIS R 1602ファインセラミックスの弾性試験方法の動的弾性率試験方法に準じて測定し、比重ρはアルキメデス法により25℃の蒸留水中で測定したものである。またビッカース硬度Hvは、ビッカース硬度試験機を用い荷重100g、負荷時間15secの条件下にて測定した値である。
【0012】
また本発明によれば、前記ガラス基板に情報記録層を形成したことを特徴とする情報記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の情報記録媒体用ガラス基板では、外周面および内周面に強化層を存在させているので外・内周面を起点とした破壊や損傷が発生しにくく、実効的な強度の向上が図れる。また耐衝撃性に優れ、製造工程などの取扱いでガラス基板が破損することが大幅に低減され、万一破損した場合においても大きく飛散して工程を汚染することが少ない。また情報記録層が形成される面には強化層が実質的に存在しないので、表面の平坦度及び平滑度が高い。これにより、情報記録媒体としたときに高密度記録が可能となる。
【0014】
また本発明の情報記録媒体では、前記のガラス基板に情報記録層を形成したので、製造
工程上の破損を低下させることができ製品の歩留まりを向上させることができる。また、耐久性の向上が図れ、記録媒体の信頼性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のガラス基板の製造工程図例である。
【図2】本発明の情報記録用媒体の一例を示す斜視図である。
【図3】ビッカース圧子で押圧したときにできるガラス基板表面の圧痕とクラックの模式図である。
【図4】円環曲げ強度試験の概略説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1 ガラス基板
2 磁性膜
D 磁気ディスク
11 上面(記録面)
12 下面(記録面)
13 強化層
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、ガラス基板の破壊や破損が内・外端面を起点として発生することが多いことに着目し鋭意検討を重ねた結果、ガラス基板の内周面および外周面に化学強化による強化層を存在させ、且つ記録面である、ガラス基板の上下面に強化層を存在させないと、ガラス基板の破壊や損傷を効果的に防止でき、しかも化学強化によって生じやすい、ガラス基板の平坦度などの形状精度の低下を抑えられることを見出し本発明をなすに至った。
【0018】
すなわち、破壊や破損の起点となる、ガラス基板の内周面および外周面に強化層を存在させることによって強度の向上を図り、そして記録面に強化層を存在させないことによって強化層の応力に起因するガラス基板の形状変化を抑制したのである。
【0019】
本発明で用いる化学強化は、例えばガラス転移点以下の加熱した硝酸塩溶液にガラス基板を浸漬して、ガラス表面近傍のイオンをより大きなイオン半径を有するイオンに置換してガラス基板表面に圧縮応力を発生させて強化する。化学強化溶液としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの溶融塩や、これらの塩を混合したものの溶融塩、あるいは、これらの塩にCu、Ag、Rb、Csなどのイオンの塩を混合したものの溶融塩等が挙げられる。
【0020】
化学処理による強化層の厚みは、後述する実施例で示すように(表2を参照)、化学強化溶液の加熱温度と浸漬時間とによって調整される。溶液温度が高いほど、また浸漬時間が長いほど強化層は厚くなる。強化層の厚みとしては、ガラス基板の強度アップと研磨処理時間の短縮との兼ね合いから、3〜20μmの範囲が好ましい。化学強化溶液の加熱温度はガラス基板のガラス転移点を考慮し適宜決定すればよく、通常は280〜660℃の範囲が好ましく、より好ましくは320〜500℃の範囲である。また浸漬時間は0.1時間〜数十時間の範囲が好ましい。
【0021】
ガラス基板の内周面および外周面に化学強化による強化層を存在させ、且つ記録面である、ガラス基板の上下面には強化層を存在させないようにするには、ガラス基板を化学強化溶液に浸漬した後、上下面を研磨処理して強化層を取り除く方法、あるいはガラス基板の上下面をマスキング部材によって被覆し、ガラス基板の内周面と外周面だけを露出させた状態で化学強化溶液に浸漬させる方法が考えられるが、生産性などを考慮すると研磨処理による除去が推奨される。以下、研磨処理による上下面の強化層の除去方法について説
明する。
【0022】
図1に、ガラス基板の製造工程図を示す。ガラスブロックを所定の厚さで円盤形状にスライスし、内周,外周を同心円としてカッターを用いてガラス基板1を切り出した(同図(a))。ここでガラス基板1の内・外周端を面取り又は丸め処理しておくのが好ましい。図1のガラス基板1では面取りが施されている。このガラス基板1の上面11および下面12の表面に最終的に情報記録層2(図2に図示)が形成される。そしてこのガラス基板1を所定温度に加熱した硝酸塩溶液に所定時間浸漬して、ガラス基板1の表面以下に強化層13を形成させる(同図(b))。そして、ガラス基板1の上面11と下面12とを強化層13の厚みよりも深く研磨し、面11と下面12に形成された強化層13を研磨削除する(同図(c))。ここで研磨量は強化層の厚みの2〜10倍程度が好ましい。研磨方法としては特に限定はなく従来公知の方法を用いることができ、例えばブラシ研磨や研磨部材による研磨などが挙げられる。研磨部材としては例えば、酸化セリウムやアルミナ、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどが挙げられる。
【0023】
本発明のガラス基板の成分としては特に限定はない。適度な厚みの強化層を安定して形成でき、また機械的強度や化学的耐久性などの一層向上が図れることから、例えば次のような成分を有するものが望ましい。すなわち、記録面におけるガラス成分が、重量%で、SiO:40〜75%、Al:3〜20%、B:0〜8%(ただし、ゼロを含む)、RO(R=Li,Na,K)の総量:5〜15%、SiO+Al+B:60〜90%、R’O(R’=Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)の総量:0〜20%(ただし、ゼロを含む)、TiO+ZrO+Ln:0〜15%(ただしゼロを含む、またLnはランタノイド金属酸化物及びY,Nb,Taからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を意味する)であり、
1.5<Al/B 又は B=0%
を満足する。これらのガラス成分についてその限定した理由について説明する。
【0024】
まずSiOはガラスのマトリックスを形成する成分である。その含有量が40%未満では、ガラスの構造が不安定となり化学的耐久性が劣化すると共に、溶融時粘性特性が悪くなり成形性に支障を来す。一方含有量が75%を超えると、溶融性が悪くなり生産性が低下すると共に、十分な剛性が得られなくなる。したがって含有量は40〜75%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は50〜72%の範囲である。
【0025】
Alはガラスのマトリックス中に入り、ガラス構造を安定化させ、化学的耐久性を向上させる効果を奏する。含有量が3%未満では十分な安定化効果が得られず、また強化処理においてイオン交換が安定して進行しなくなる。他方20%を超えると溶融性が悪くなり、生産性に支障を来す。したがって含有量は3〜20%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は5〜18%の範囲である。
【0026】
は溶融性を改善し生産性を向上させると共に、ガラスマトリックス中に入りガラス構造を安定化させ、化学的耐久性を向上させる効果を奏する。含有量が8%を超えると、溶融時粘性特性が悪くなり、成形性に支障を来すと共に、ガラス溶液の揮発性が高くなり生産性及び安定性が著しく低下する。したがって含有量は8%以下(ただしゼロを含む)の範囲が好ましい。より好ましくは6%以下である。
【0027】
ガラスの骨格成分であるこれら3つのガラス成分(SiO、Al、B)の総量が60%より少ないと、ガラスの構造が脆弱となる一方、前記総量が90%を超えると、溶融性が低下し生産性が落ちる。したがって前記総量は60〜90%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は68〜88%の範囲である。
【0028】
アルカリ金属酸化物RO(R=Li,Na,K)は、溶融性を改善し、生産性を向上させる。アルカリ金属酸化物の総量が5%未満では、溶融改善性に十分な効果が発揮できなくなると共に、イオン交換処理によるガラス基板の強度アップが図れなくなる。一方総量が15%を超えると、ガラス骨格間に分散されるアルカリ量が過剰となりアルカリ溶出量が増大し、化学的耐久性が著しく低下する。また強化処理において過剰にイオン交換反応が進行し、強化層の厚さ制御が困難となる。したがってアルカリ金属酸化物の総量は5〜15%の範囲が好ましい。より好ましい範囲は7〜16%の範囲である。また、アルカリ溶出量を低減する、いわゆるアルカリ混合効果を得るためには、前記アルカリ金属酸化物の各成分の下限含有量をそれぞれ0.5%とするのが望ましい。
【0029】
2価の金属酸化物R’O(R’:Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)は、剛性を上げると共に溶融性を改善し、ガラス構造を安定化させる効果を奏する。R’Oの総量が20%を超えると、ガラス構造が不安定となり溶融生産性が低下すると共に化学的耐久性が低下する。したがってR’Oの含有量は20%以下が好ましい。R’Oの総量のより好ましい上限値は18%である。R’Oの各成分の好適含有量は次の通りである。
【0030】
MgOは剛性を上げると共に溶融性を改善する効果を奏する。含有量が20%を超えるとガラス構造が不安定となり、溶融生産性が低下すると共に化学的耐久性が低下するおそれがある。したがって含有量は0〜19%の範囲が好ましい。より好ましい上限値は18%である。
【0031】
またCaOは線熱膨張係数及び剛性を上げると共に溶融性を改善する効果を奏する。含有量が10%を超えると、ガラス構造が不安定となり溶融生産性が低下すると共に化学的耐久性が低下するおそれがある。したがって含有量は0〜10%の範囲が好ましい。より好ましい上限値は9%である。
【0032】
SrOは線熱膨張係数を上げ、ガラス構造を安定化すると共に、溶融性を改善する効果を奏する。含有量が8%を超えるとガラス構造が不安定となるおそれがある。したがって含有量は0〜8%の範囲が好ましい。より好ましい上限値は6%である。
【0033】
BaOはSrOを同じ効果を奏し、その含有量が8%を超えるとガラス構造が不安定となるおそれがある。したがって含有量は0〜8%の範囲が好ましい。より好ましい上限値は6%である。
【0034】
ZnOは化学的耐久性及び剛性を上げると共に溶融性を改善する効果を奏する。含有量が6%を超えると、ガラス構造が不安定となり溶融生産性が低下すると共に化学的耐久性が低下するおそれがある。したがって含有量は0〜6%の範囲が好ましい。より好ましい上限値は5%である。
【0035】
TiOはガラスの構造を強固にし、剛性を向上させると共に溶融性を改善する効果を奏する。またZrOもガラスの構造を強固にし剛性を向上させると共に化学的耐久性を向上させる効果を奏する。そしてLnはガラスの構造を堅固にし剛性および靭性を向上させる効果を奏する。なお、このLnはランタノイド金属酸化物及びY,Nb,Taからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を意味し、ランタノイド金属酸化物としては、LnやLnOなどが種類があり、LnとしてはLa、Ce、Er、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。ここで(TiO+ZrO+Ln)が15%を超えるとガラスが不安定となり、靭性が大幅に低下すると共に失透傾向が高まり生産性が著しく低下する。したがってこれらの総量は15%以下が好ましい。より好ましい総量は0.5〜13%の範囲である。
【0036】
また本発明のガラス組成物ではBの含有量がゼロでない場合、Al/Bを1.5より大きくする必要がある。Al/Bが1.5以下であると、ガラスの構造が脆弱になり、十分な靭性が得られなくなると共に、強化処理においてイオン交換が安定して進行しにくくなるからである。
【0037】
本発明のガラス成分として、Sbなどの清澄剤を2%以下の範囲でさらに添加してもよい。その他必要により従来公知のガラス成分及び添加剤を本発明の効果を害しない範囲で添加しても構わない。
【0038】
前記ガラス成分からガラス基板を製造する方法に特に限定はなく、これまで公知の製造方法を用いることができる。例えば、各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等を使用し、所望の割合に秤量し、粉末で十分に混合して調合原料とする。これを例えば1,300〜1,550℃に加熱された電気炉中の白金坩堝などに投入し、溶融清澄後、撹拌均質化して予め加熱された鋳型に鋳込み、徐冷してガラスブロックにする。次に、ガラス転移点付近まで再加熱し、徐冷して歪み取りを行う。そして得られたガラスブロックを円盤形状にスライスして、内周および外周を同心円としてコアドリルを用いて切り出す。あるいは溶融ガラスをプレス成形して円盤状に成形する。
【0039】
本発明に係るガラス基板ではつぎの諸物性を満足しているのが好ましい。まず、比弾性率(E/ρ)が30以上であるのが好ましい。強化処理を行っていないガラス基板では機械的強度は基板の剛性に依存するため、比弾性率が30よりも小さいと、基板の機械的強度が不十分となり、HDD搭載時に外部から衝撃を受けた際、HDD部材との締結部分から破損しやすくなるからである。より好ましい比弾性率(E/ρ)は31以上である。
【0040】
ビッカース硬度Hvは450〜650の範囲が好ましい。ビッカース硬度Hvが450よりも小さいと、衝撃による破損や製造工程内での損傷が生じやすくなる。一方、ビッカース硬度Hvが650よりも大きいと、ガラス基板の研磨加工において研磨レート低下し、所望の平滑面が得られにくくなる共に、研磨加工後のテープテクスチャー加工による表面形状の調整やテープもしくはスクラブ洗浄処理による表面欠陥修正などが困難となるからである。ビッカース硬度をこのような範囲とするには、例えば目的とする主物性を劣化させない範囲で、ガラス中のイオン充填率を高めるように成分比率を調整すればよい。ビッカース硬度Hvのより好ましい下限値は500であり、より好ましい上限値は630である。
【0041】
アルカリ溶出量Aは2.5インチディスク当たり350ppb以下が好ましい。アルカリ溶出量Aが350ppbより多いと、ガラス基板を情報記録用媒体として用いた場合に、ガラス基板表面に形成される磁性膜などの記録膜が、溶出したアルカリ成分によって劣化するからである。より好ましいアルカリ溶出量Aは320ppb以下である。
【0042】
Si溶出量Sは2.5インチディスク当たり500ppb以下が好ましい。SiOはガラス骨格の主成分であるから、Si溶出量Sはガラスの耐水性、すなわち水に対する安定度を示す一つの指標となる。Si溶出量Sが500ppbより多いと耐水性に劣り、製造工程における研磨や洗浄工程での生産安定性が低下し、また大気中の水分による影響を受けやすいので保存安定性が悪くなる。Si溶出量Sのより好ましい範囲は、2.5インチディスク当たり400ppb以下である。
【0043】
破壊靭性値Kcは0.80以上が好ましい。ガラス基板を情報記録用媒体として用いる場合、破壊靭性値Kcが0.80未満であると、ガラス基板表面に磁性膜などの記録膜を形成する工程において加わえられる圧力などによりガラス基板にひび割れが生じることが
あるからである。また、破壊靭性値Kcが0.80未満であると、基板の機械加工において基板が損傷を受けやすくなり、加工歩留まりが大きく低下する。破壊靭性値Kcのより好ましい範囲は0.85以上である。
【0044】
本発明のガラス基板は、その大きさに限定はなく3.5,2.5,1.8インチ、あるいはそれ以下の小径ディスクとすることもでき、またその厚さは2mmや1mm、0.63mm、あるいはそれ以下といった薄型とすることもできる。
【0045】
次に、本発明のガラス基板を用いた情報記録用媒体について説明する。情報記録用媒体の基板として本発明のガラス基板を用いると、耐久性および高記録密度が実現される。以下、図面に基づき情報記録用媒体について説明する。
【0046】
図2は磁気ディスクの斜視図である。この磁気ディスクDは、円形のガラス基板1の表面に磁性膜2を直接形成したものである。磁性膜2の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法や、スパッタリング、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。スピンコート法での膜厚は約0.3〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0047】
磁性膜に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金などが好適である。具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPtや、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiOなどが挙げられる。磁性膜は、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割しノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)としてもよい。上記の磁性材料の他、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散された構造のグラニュラーなどであってもよい。また、磁性膜は、内面型および垂直型のいずれの記録形式であってもよい。
【0048】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために磁性膜の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0049】
さらに必要により下地層や保護層を設けてもよい。磁気ディスクにおける下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。Coを主成分とする磁性膜の場合には、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0050】
磁性膜の摩耗や腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成として
もよい。なお、上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO)層を形成してもよい。
【0051】
以上、情報記録用媒体の一実施態様として磁気ディスクについて説明したが、情報記録用媒体はこれに限定されるものではなく、光磁気ディスクや光ディスクなどにも本発明のガラス基板を用いることができる。
【実施例1】
【0052】
実施例1〜9,比較例1〜4
定められた量の原料粉末を白金るつぼに秤量して入れ、混合したのち、電気炉中で1,550℃で溶解した。原料が充分に溶解したのち、撹拌羽をガラス融液に挿入し、約1時間撹拌した。その後、撹拌羽を取り出し、30分間静置したのち、治具に融液を流しこむことによってガラスブロックを得た。その後各ガラスのガラス転移点付近までガラスブロックを再加熱し、徐冷して歪取りを行った。得られたガラスブロックを厚さ0.635mmの円盤形状にスライスし、内周(内径20mm),外周(外径65mm)を同心円としてカッターを用いて切り出した。
【0053】
350℃に加熱した、70mol%のNaNOと30mol%のKNOの硝酸塩混合溶液に、上記作製したガラス基板を0.5時間浸漬して、ガラス基板の表面以下に強化層を形成した。そして、ガラス基板の上下両面を酸化セリウムによって合わせて100μm粗研磨及び研磨を行った後、洗浄を行って実施例1〜9及び比較例1〜3のガラス基板を作製した。なお、比較例4のガラス基板における研磨量は上下両面で20μmとした。作製したガラス基板について各種物性を、前述の測定方法および下記測定方法によって行った。測定結果を表1に示す。
【0054】
(強化層の厚み)
研磨処理後のガラス基板の外周面、内周面、記録面を偏光顕微鏡によって観察し、強化層の厚みを測定した。
【0055】
(円環強度比)
図4に示す装置を用いてガラス基板の円環曲げ強度試験を行った。具体的には、ガラス基板にスチールボールを介して荷重を加え、ガラス基板が破壊した時の荷重を測定し破壊荷重とした。この円環曲げ強度試験を、化学強化をした場合としていない場合についてそれぞれ行い、その強度(破壊荷重)Fの比(F強化処理/F未処理)を算出した。
【0056】
(平坦度)
ディスク形状測定器「WYKO400G」WYKO社製を用いてガラス基板の平坦度を測定した。
【0057】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜9のガラス基板では、円環強度比が1.5以上と化学強化しなかった場合に比べ強度が50%以上向上した。加えて、ガラス基板の平坦度が3μm以下と情報記録媒体用として申し分のないものであった。
【0058】
一方、アルカリ金属酸化物の含有量の多かった比較例1のガラス基板では、化学強化処理において過剰にイオン交換反応が進行して強化層の厚さが120μmに達し、研磨処理後も記録面に70μmの強化層が残存した。このため、アルカリ溶出量が623ppbと多くなり、また平坦度も33μmと非常に高くなり、情報記録用媒体のガラス基板には不適なものであった。比較例2のガラス基板では、Al/Bが1.3と小さかたっため、化学強化処理においてイオン交換が安定して進行せず強化層は形成されなかった。このためガラス基板の強度アップは図れなかった。また、ガラスの構造が脆弱でSi
溶出量が709ppbと高かった。比較例3のガラス基板では、アルカリ金属酸化物の総量が4.0%と少なかったため化学強化処理において強化層が形成されず、ビッカース硬度が655と硬くなり加工性が低下しており、また破壊靭性が0.78と低い強度であった。またSi溶出量Sが563ppbと高かった。比較例4のガラス基板は、実施例5のガラス基板と同じガラス組成であって、研磨処理による研磨量を上下両面で20μm(片面10μm)として、記録面に強化層を5μm残存させたものである。このようなガラス基板では研磨後の平坦度が15μmと高かく、情報記録媒体用として不適であった。
【0059】
次に、化学強化溶液の成分と化学強化処理の温度・時間とを変化させて、ガラス基板に形成される強化層の厚みを測定した。なお、ガラス材は実施例1のものを使用した。そしてその後、所定厚さ研磨して各ガラス基板の円環強度比および平坦度を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

表2によれば、硝酸塩の成分比や処理温度、処理時間を変えることによりガラス基板に形成される強化層の厚みを制御できることがわかる。また、記録面に形成された強化層を研磨削除し、ガラス基板の外周面および内周面にのみ強化層を残存させた状態とすることによって、円環曲げ強度を1.5〜2.3倍にでき、且つ記録面の平滑度を3μm以下にできることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学強化された情報記録媒体用ガラス基板であって、化学強化による強化層が、外周面および内周面に存在し、情報記録層が形成される面に実質的に存在しないことを特徴とする情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項2】
前記情報記録層が形成される面におけるガラス成分が重量%で、
SiO:40〜75%、
Al:3〜20%、
:0〜8%(ただし、ゼロを含む)、
O(R=Li,Na,K)の総量:5〜15%、
SiO+Al+B:60〜90%、
R’O(R’=Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)の総量:0〜20%(ただし、ゼロを含む)、
TiO+ZrO+Ln:0〜15%(ただしゼロを含む、またLnはランタノイド金属酸化物及びY,Nb,Taからなる群より選ばれた少なくとも1つの化合物を意味する)
であって、
1.5<Al/B 又は B=0%
を満足する請求項1記載の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
比弾性率(E/ρ)が30以上、ビッカース硬度Hvが450〜650、アルカリ溶出量Aが2.5インチディスク当たり350ppb以下、Si溶出量Sが2.5インチディスク当たり500ppb以下、破壊靭性値Kcが0.80(MPa/m1/2)以上である請求項1又は2記載の情報記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板に情報記録層を形成したことを特徴とする情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/043512
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515105(P2005−515105)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014955
【国際出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】