説明

感光性凸版印刷原版

【課題】 薄膜でありながら高い遮光性と耐傷性を有し、且つ従来よりも光学濃度のばらつきが小さい感熱マスク層を持つ感光性凸版印刷原版を提供する。
【解決手段】少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層が順次積層されてなる水現像可能な感光性凸版印刷原版であって、(C)感熱マスク層がカーボンブラックと、分散バインダーで構成され、分散バインダーがブチラール樹脂、カチオン性ポリアミド及びアニオン性高分子化合物とを含有することを特徴とする感光性凸版印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ製版技術により凸版印刷版を製造するために使用される感光性凸版印刷原版に関し、特に、薄膜でありながら高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を与える感熱マスク層塗工液製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、凸版印刷の分野において、デジタル画像形成技術として知られるコンピュータ製版技術(Computer to Plate、CTP技術)は極めて一般的なものになってきている。CTP技術は、コンピュータ上で処理された情報を印刷版上に直接出力してレリーフとなる凹凸パターンを得る方法である。この技術により、ネガフィルムの製造工程が不要となり、コストとネガ作成に必要な時間を削減できる。
【0003】
CTP技術では、重合すべきでない領域を覆うために、従来から用いられているネガフィルムが印刷版内で形成統合されるマスクに取って代えられる。この統合マスクを得る方法として、感光性樹脂層上に化学線に対して不透明な感赤外線層(感熱マスク層)を設け、赤外線レーザーでこの感赤外線層を蒸発させることにより画像マスクを形成する方法が広く使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
感熱マスク層には、放射線不透明材料であるカーボンブラックとバインダーよりなるものが一般的に使われている。感熱マスク層は赤外線レーザーによりアブレーションされるものであり、より薄い層がアブレーション効率の点から好ましい。また、薄膜であるほどレリーフに与えるシワの影響も少ない。ただし、感熱マスク層は光重合層に対する化学放射線の透過を阻止するために、一般的に2.0以上の透過光学濃度(遮光性)が求められる。理想的な感熱マスク層は、薄膜でありながら所定以上の透過光学濃度(遮光性)を持つ層である。
【0005】
感熱マスク層の光学濃度(遮光性)は一般に以下の式で定義される。
光学濃度 = log(100/T) = εcl
ここでTは透過率(%)、cは赤外線吸収物質の濃度(mol・l−1)、lは厚さ(cm)、εは分子吸光係数(l・mol−1・cm−1)である。上記式から理解できるように、赤外線吸収物質(カーボンブラック)の濃度を高めることで、光学濃度を高めることは可能であるが、この場合、膜が脆くなりすぎ、加工工程で無数の傷が発生する。傷箇所では遮光することができず、レリーフに不要な画像が形成されてしまう。また、塗膜厚みを厚くすることでも光学濃度を高めることができるが、この場合、アブレーションに高エネルギーが必要であり、またレリーフ上にシワを発生させる原因となる。レリーフのシワは感光性樹脂層が柔軟である水現像版では特に顕著な問題となる。
【0006】
一方、遮光性は、同じカーボンブラック濃度、層厚であってもカーボンブラックの分散状態により変化することが知られている。一般に分散状態が良好であるほど高い光学濃度を達成できる。カーボンブラックの分散状態は、バインダー樹脂によって大きな影響を受けるものである。
【0007】
これまで、感熱マスク層のバインダー樹脂としては、ナイロン樹脂(特許文献2参照)、ポリビニルアルコール樹脂(特許文献3参照)、熱分解性ポリマー(特許文献4参照)、または複数のポリマーを使用する方法が知られている。ナイロン樹脂を使用した場合、感熱マスク層の耐傷性は良好であるが、カーボンブラックの分散状態が良好でなく、所定の光学濃度を達成するには層厚を厚くする必要がある。一方、ポリビニルアルコール樹脂を使用した場合、膜の耐傷性に劣るという欠点がある。熱分解性ポリマーを使用した場合も、満足のいくアブレーション効率を得ることはできない。従って、薄膜でありながら高い光学濃度(遮光性)を持ち且つ耐傷性に優れる感熱マスク層は現在のところ存在しないのが実情である。
【0008】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、感熱マスク層のカーボンブラックの分散性を向上させるバインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを使用することにより、所望の効果が得られることを見出した。
【0009】
特許文献5では、感熱マスク層の製造方法として、分散バインダーを溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、両面に離型処理を施したPETフィルム支持体にバーコーターを用いて塗工する方法が提案されている。ここで用いられる感熱マスク層塗工液は調整直後の分散性が非常に不安定なため、室温で約1ヶ月間保管して分散安定化させてから塗工を行う必要があった。また、該感熱マスク層塗工液を塗工して得られる感熱マスク層は高い遮光性を有し、光学濃度のばらつきも比較的小さいものであるが、さらに一段上の高繊細印刷を実現するには光学濃度のばらつきをよりいっそう小さくする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平7−506201号
【特許文献2】特開平8−305030号
【特許文献3】特開平9−171247号
【特許文献4】特開2002−214792号
【特許文献5】特願2008−152884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は従来よりも光学濃度のばらつきが小さい高解像性に対応できる感熱マスク層を提供するものである。又、生産性向上して短時間で容易に分散安定化する感熱マスク層塗工液を作成することも可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、感熱マスク層のカーボンブラックの分散性を向上させるバインダーとしてブチラール樹脂とカチオン性ポリアミド、アニオン性高分子化合物を使用することにより、所望の効果が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
本発明は下記の通りである。
(1)少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層が順次積層されてなる水現像可能な感光性凸版印刷原版であって、(C)感熱マスク層がカーボンブラックと、分散バインダーで構成され、分散バインダーがブチラール樹脂、カチオン性ポリアミド、アニオン性高分子化合物とを含有することを特徴とする感光性凸版印刷原版である。
(2)カチオン性ポリアミドとアニオン性高分子化合物の比率が99〜75:1〜25である(1)の感光性凸版印刷原版。
(3)ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドの重量比が20〜80:20〜80である(1)又は(2)の感光性凸版印刷原版。
(4)カーボンブラックと分散バインダーの重量比が25〜50:20〜75である(1)〜(3)の感光性凸版印刷原版。
(5)カチオン性高ポリアミドが1〜3級アミン基、4級アンモニウム塩のいずれかを有するポリアミドである(1)〜(4)の感光性凸版印刷原版。
(6)アニオン性高分子化合物がカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基のいずれかを有する水性樹脂である(1)〜(5)の感光性凸版印刷原版。
(7)感熱マスク層塗工液用溶剤として水および少なくとも1種のアルコールを含む溶剤を用いて感熱マスク層を設けた(1)〜(6)の感光性凸版印刷原版。
(8)感熱マスク層塗工液中のアルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、またはヘプタノールである(7)に記載の感光性凸版印刷原版。
【発明の効果】
【0014】
本発明の感光性凸版印刷原版は、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとして、ブチラール樹脂を使用することによりカーボンブラックの分散性の向上を図るとともに、カチオン性ポリアミドとアニオン性高分子化合物を適切な比率で使用することにより分散性の向上と分散安定化時間の短縮を図っている。従って、本発明によれば、感熱マスク層塗工液を短時間で容易に調整することができ、結果として生産面、コスト面での向上を図ることができる。この感熱マスク層塗工液を塗工して得られる感熱マスク層は薄膜でありながら高い遮光性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の感光性凸版印刷原版を詳細に説明する。
本発明の凸版印刷原版は、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層が順次積層した構成を有する。
【0016】
本発明の原版に使用される(A)支持体は、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフイルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤を設けても良い。
【0017】
本発明の原版に使用される(B)感光性樹脂層は、合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤の必須成分と、可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料、又は酸化防止剤などの任意の添加剤とから構成される。
【0018】
合成高分子化合物としては、従来公知の可溶性合成高分子化合物を使用でき、例えばポリエーテルアミド(例えば特開昭55−79437号公報等)、ポリエーテルエステルアミド(例えば特開昭58−113537号公報等)、三級窒素含有ポリアミド(例えば特開昭50−76055公報等)、アンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミド(例えば特開昭53−36555公報等)、アミド結合を1つ以上有するアミド化合物と有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開昭58−140737号公報等)、アミド結合を有しないジアミンと有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開平4−97154号公報等)などが挙げられる。そのなかでも三級窒素原子含有ポリアミドおよびアンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミドが好ましい。
【0019】
光重合性不飽和化合物としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物が挙げられる。前記多価アルコールとしては、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられ、そのなかでもトリメチロールプロパンが好ましい。
【0020】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2―メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0021】
本発明の原版に使用される(C)感熱マスク層は、赤外線レーザーを吸収し熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、その分散バインダーとから構成される。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0022】
本発明では、カーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂に加えてカチオン性ポリアミドとアニオン性高分子化合物とを併用することを特徴とする。ブチラール樹脂はカーボンブラックの分散性を向上することができ、高い遮光性に寄与することができるが、ブチラール樹脂単独の使用では感熱マスク層の被膜が脆くなり、耐傷性に劣る。そこで、この耐傷性を克服するためにカチオン性ポリアミドを使用する。カチオン性ポリアミドは、カチオン性基を含有する効果でカーボンブラックの分散性にも優れており、ブチラール樹脂の一部を置き換えても分散性を低下させない。しかしながら、ブチラール樹脂とカチオン性ポリアミドのみの使用では感熱マスク層の調整において、カーボンブラックの分散安定化時間を長く必要とする。そこで、本発明ではこの分散安定化時間の短縮のために、アニオン性高分子化合物を使用する。アニオン性高分子化合物はカチオン性ポリアミドが吸着しているサイトを避けてカーボンブラックに吸着し、その分散安定化を促進する。
また、ブチラール樹脂とカチオン性ポリアミド、アニオン性高分子化合物はともにアルコール及び水に溶解するので、これらを分散バインダーとして併用するとフィルム形成時の取り扱いや溶剤及び水での現像性に優れた感熱マスク層を容易に作成することができる。ブチラール樹脂とカチオン性ポリアミド、アニオン性高分子化合物からなる感熱マスク層は、水に容易に分散するため、特に水現像版の感熱マスク層として好適に用いることができる。
【0023】
分散バインダーとして使用するブチラール樹脂は、ポリビニルブチラールとも言い、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸触媒で反応させて生成するポリビニルアセタールの一種である。
【0024】
分散バインダーとして使用するカチオン性ポリアミドとしては、カチオン性基を持つ共重合ポリアミドが好ましい。使用されるポリアミドは、従来公知のカチオン性ポリアミドから適宜選択すればよく、例えば、第1〜3アミン基含有ポリアミド、第4アンモニウム塩基含有ポリアミドなどが挙げられる。
【0025】
分散バインダーとして使用するアニオン性高分子化合物としては、2種類以上のモノマーを共重合させて得られる分子量10,000以上の高分子化合物であって、1種類以上のモノマーがカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基などのアニオン性基を有するモノマーであるものが使用できる。例えば、アクリル酸とポリウレタンとのブロック共重合体であるカルボキシル基含有ポリアクリルウレタン、スルホン酸基含有ジカルボン酸とジオールとの縮合重合により得られるスルホン酸基含有ポリエステル、アクリル酸系モノマーとスルホン酸系モノマーとのブロック共重合体などが挙げられる。その中でもカルボキシル基含有ポリアクリルウレタン及びスルホン酸基含有ポリエステルが好ましい。
【0026】
分散バインダー中のカチオン性ポリアミドとアニオン性高分子化合物の比率は99〜75:1〜25であることが好ましい。アニオン性高分子化合物を使用しない場合、感熱マスク層塗工液の分散安定化時間を長く必要とする。アニオン性高分子化合物を過剰量使用した場合、カーボンブラックの分散を好適に保つ電荷バランスがくずれ、カーボンブラック分散が進行しない。よって、感熱マスク層塗工液の分散安定化時間を長く必要とするだけでなく、飽和光学濃度(遮光性)も劣り、そのばらつきは大きくなる。
【0027】
(C)感熱マスク層は、化学線に関して2.0以上の光学濃度であることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜3.0の光学濃度であり、特に好ましくは、2.2〜2.5の光学濃度である。
【0028】
(C)感熱マスク層の層厚は、0.5〜2.5μmが好ましく、1.0〜2.0μmがより好ましい。上記下限以上であれば、高い塗工技術を必要とせず、一定以上の光学濃度を得ることができる。また、上記上限以下であれば、感熱マスク層の蒸発に高いエネルギーを必要とせず、コスト的に有利である。
【0029】
(C)感熱マスク層上には、剥離可能な可撓性カバーフィルムを設けて印刷原版を保護することが好ましい。好適な剥離可能な可撓性カバーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを挙げることができる。
【0030】
本発明の凸版印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばPETフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させ、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が感熱マスク層に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
本発明では、(C)感熱マスク層の製造するためは感熱マスク層用組成物を溶剤に溶解して塗工液を作成するが、各成分を調合する溶剤として分散の面からアルコールを用いることが好ましい。具体的なアルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘプタノールが好ましい。
【0031】
本発明の印刷原版から印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感熱マスク層をIRレーザにより画像様に照射して、感光性樹脂層上にマスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI Spark(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0032】
画像情報を感熱マスク層に書き込んだ後、感光性印刷原版にマスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150〜500nm、特に300〜400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
分散バインダーの準備
分散バインダーとして、ブチラール樹脂、第3アミン基含有ポリアミド、第4アンモニウム塩基含有ポリアミド、カルボキシル基含有アクリルウレタン、スルホン酸基含有ポリエステルを準備した。ブチラール樹脂としては、積水化学工業(株)製のBM−5を使用した。第三アミン基含有ポリアミドとしては、以下のようにして合成したものを使用した。極性基非含有ポリアミドとしては、ヘンケル社製のマクロメルト6900を使用した。カルボキシル基含有アクリルウレタンとしては、山南合成化学(株)製RWU−0018、スルホン酸基含有ポリエステルとしては、東洋紡(株)製バイロナールMD−1335を使用した。
【0035】
第3アミン基含有ポリアミド、第4アンモニウム塩基含有ポリアミドの合成
ε−カプロラクタム50重量部、N,N、−ジ(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート40重量部、3−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジペート10重量部と水100重量部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧が10kg/mに達した時点から、その圧力を保持できなくなるまで水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。最高重合反応温度は255℃であった。これにより、融点137℃、比粘度1.96の第3アミン基含有ポリアミドを得た。
この第3アンモニウム基含有ポリアミド10重量部をメタノール100重量部に溶解し、塩酸を加えて常温で約2時間反応させ、4級化した。これにより、第4アンモニウム塩基含有ポリアミドを得た。
【0036】
感熱マスク層塗工液の調製
表1の感熱マスク層組成に記載の組成(重量比)に従って分散バインダーを溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、感熱マスク層塗工液とした。なお、使用した溶媒はメタノールとエタノールの70:30の重量割合の混合液であった。
【0037】
感熱マスク層の作成
両面に離型処理を施したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)に、感熱マスク層塗工液を、層厚が1.5μmになるように適宜選択したバーコーターを用いて塗工し、120℃×5分乾燥して感熱マスク層を作成した。
【0038】
性能評価
上記のようにして得られた各感熱マスク層の性能を、以下のようにして評価した。
・耐傷性:
PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層を20cm×20cmの正方形に切り取り、その層面に別のPETフィルム(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)を重ね合わせ、その状態を維持して力を掛けずに左右方向に1回ずつこすった後、感熱マスク層の表面上に形成された傷を、10倍ルーペを使用して検査した。
○:傷なし。
×:50μm以上の傷が5個以上ある。
・分散安定化時間:
光学濃度は調整直後から時間が経つにつれ上昇する。感熱マスク層塗工液を調整し、数日おきにPETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層の光学濃度を測定した。測定には白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))を用いた。光学濃度が飽和し、一定になるまでにかかった時間を分散安定化時間とした。
・遮光性(飽和光学濃度):
光学濃度は調整直後から時間が経つにつれ上昇する。感熱マスク層塗工液を調整し、数日おきにPETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層の光学濃度を測定した。光学濃度の上昇が止まり一定になった濃度を飽和光学濃度とし、遮光性の目安とした。測定には白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))を用いた。
・光学濃度のばらつき:
A4サイズのサンプルを20ポイント測定し、その標準偏差を光学濃度のばらつきとした。
【0039】
これらの性能評価の結果を以下の表1に示す。
【表1】

【0040】
表1から明らかな通り、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂とカチオン性基含有ポリアミド、アニオン性基含有高分子化合物を併用した実施例1〜5では、短時間で感熱マスク層塗工液の分散安定化が可能性であり、与える感熱マスク層の光学濃度のばらつきも極めて小さい。
但し、アニオン性基含有高分子化合物を使用しない比較例1は遮光性(飽和光学濃度)に優れるが、分散安定化に多大な時間を要する。また、光学濃度のばらつきもみられる。
アニオン性高分子化合物を過剰に使用した比較例2、カチオン性基含有ポリアミドを使用しない比較例3は、感熱マスク層塗工液の分散安定化に時間を要し、遮光性(飽和光学濃度)も格段に劣る。特に比較例2はカーボンブラックの分散性が悪く、光学濃度のばらつきも大きい。
ブチラール樹脂を使用しない比較例4は、遮光性(飽和光学濃度)に劣り、光学濃度のばらつきもみられる。
このため、遮光性の劣る比較例2〜4の感熱マスク層を使用した場合、ネガとして役割を果せるレベルの遮光性を持たせるためには感熱マスク層の層厚を厚くしなければならない。この結果、高いアブレーションエネルギーが必要となる。また、分散安定化に時間を要する比較例1〜3の感熱マスク層を使用した場合、感熱マスク層塗工液調整後に1ヶ月以上の分散安定化期間を設けなければならず、生産面、コスト面で劣る。
【0041】
以上の結果から、感熱マスク層のカーボンブラックの分散バインダーとしてブチラール樹脂とカチオン性基含有ポリアミドとアニオン性基含有高分子化合物を併用すれば、薄膜で高い遮光性と耐傷性を有する感熱マスク層を与える感熱マスク層塗工液を短時間で作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の感光性凸版印刷原版は、薄膜の感熱マスク層であっても高い遮光性と耐傷性を有するので、特に赤外線レーザーでアブレーションされるCTP版として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層が順次積層されてなる水現像可能な感光性凸版印刷原版であって、(C)感熱マスク層がカーボンブラックと、分散バインダーで構成され、分散バインダーがブチラール樹脂、カチオン性ポリアミド、アニオン性高分子化合物とを含有することを特徴とする感光性凸版印刷原版。
【請求項2】
カチオン性ポリアミドとアニオン性高分子化合物の比率が99〜75:1〜25であることを特徴とする請求項1に記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項3】
ブチラール樹脂とカチオン性ポリアミドの重量比が20〜80:20〜80であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項4】
カーボンブラックと分散バインダーの重量比が25〜50:20〜75であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項5】
カチオン性高ポリアミドが1〜3級アミン基、4級アンモニウム塩のいずれかを有するポリアミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項6】
該アニオン性高分子化合物がカルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基のいずれかを有する水性樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項7】
感熱マスク層塗工液用溶剤として水および少なくとも1種のアルコールを含む溶剤を用いて感熱マスク層を設けた請求項1〜6のいずれかに記載の感光性凸版印刷原版。
【請求項8】
感熱マスク層塗工液中のアルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、又はヘプタノールである請求項7に記載の感光性凸版印刷原版。

【公開番号】特開2010−276916(P2010−276916A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130337(P2009−130337)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】