説明

感光性凸版印刷用原版の処理方法

【課題】印刷版表面での光硬化不足を解消し、耐刷性と印刷品位に優れる感光性凸版印刷用原版を提供する。
【解決手段】(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層、が少なくとも順次積層されてなる感光性凸版印刷用原版に対して、前記(B)感光性樹脂層の現像後に250nmにおける照度と350nmにおける照度の光量比(UV−C/UV−A)が0.1以上1.0以下である紫外線を照射し、版の表面硬度がショアD45度以上85度以下である印刷版を得る、印刷版の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ製版技術により、凸版印刷版を製造する方法であり、さらに詳しくは、水現像後の感光層に活性光線を照射することにより、印刷品位の優れた感光性凸版印刷用原版を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、凸版やフレキソ印刷の分野において、デジタル画像形成技術としても知られているコンピュータ製版技術(CTP技術)は、極めて一般的なものとなってきている。CTP技術では、感光性印刷版の重合すべきでない領域を覆うために従来から使用されている写真マスク(フォトマスクやネガフィルムともいう)は、印刷版内で形成統合されるマスクに取って代わられている。このような統合マスクを得るためには幾つかの可能な方法はあるが、既に実用化されている技術としては、2つの技術が存在する。即ち、感光性印刷版上にインクジェットプリンターでマスクを印刷するか、又は感光性層上に化学線に対して実質的に不透明な(即ち化学線を実質的に通さない)層(IRアブレーション層又は感熱マスク層ともいう)を設け、IRレーザでこのようなマスクに画像形成することである。このような感熱マスク層には、IR吸収材料として、通常カーボンブラックを含有する。この感熱マスク層を有する感光性印刷用原版は、例えば特許文献1又は特許文献2に開示されている。IRレーザで照射することより、黒色層は、その部分で喪失し、下層の感光性層が露出する。レーザ装置はレイアウトコンピュータシステムに直接つながれている。この技術を用いて、画像は一般に版上に直接形成され、次の工程で活性光線が照射される。
【0003】
感熱マスク層を有する感光性印刷用原版を用いて、印刷版を製造する方法における重要な工程は、IRレーザを照射し画像を形成したのち、その画像を通して感光性樹脂層に化学線を照射し潜像を形成する工程である。この化学線の照射は、露光装置に備わる減圧機能を用いることなく行なうことにより、酸素の存在下での露光障害効果によるシャープなレリーフ画像を得られることが特徴である。
【0004】
しかし、CTP技術では一般に大気中等の特に脱酸素しない雰囲気下で露光するため、印刷版表面付近の感光性樹脂層は光重合阻害を受ける。そのため印刷時には刷版表面のベタ部に、硬度が高硬度から中硬度に分類される印刷版に特有のヒビ割れが生じやすく、印刷性能の低下が顕著であるという問題があった。
【0005】
一方、感光層と感熱マスク層の間にバリア層を設けた印刷版原版が提案されている(特許文献3)。酸素遮断能のあるバリア層を設けることにより、感光性樹脂層の光重合阻害を抑制するものである。しかしバリア層の材質によってアブレーション後のマスク層に皺が入るという問題がある。
また、特許文献4には、共役ジエンを主成分とする親水性樹脂からなる感光性樹脂組成物の固体版を用いて、凸版印刷用水現像性印刷版を製造する方法が提案されている。低酸素濃度雰囲気の条件下、200〜300nmの波長の紫外線と300〜400nmに最大エネルギー強度を示す光を、照射するものである。特許文献4の印刷版はフレキソ版に分類される柔らかい版であるため、表面硬度が高硬度から中硬度に分類される印刷版特有のヒビ割れは発生しないものの、任意の紫外線量を照射すると版面から発生する悪臭も問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−509254号公報
【特許文献2】特開平9−171247号公報
【特許文献3】特表平7−509789号公報
【特許文献4】特許第3933675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、印刷版表面での光硬化不足を解消し、耐刷性と印刷品位に優れる感光性凸版印刷用原版を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは感光性印刷版について、前記課題を解決するために鋭意、研究、検討した結果、遂に本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層、が少なくとも順次積層されてなる感光性凸版印刷用原版に対して、前記(B)感光性樹脂層の現像後に250nmにおける照度と350nmにおける照度の光量比(UV-C/UV-A)が0.1以上1.0以下である紫外線を照射し、版の表面硬度がショアD45度以上85度以下である印刷版を得る、印刷版の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の感光性凸版印刷原版は、耐刷性と印刷品位に優れ、なおかつ露光時に版面から悪臭が発生することない、との効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の感光性凸版印刷原版を詳細に説明する。
【0011】
本発明の凸版印刷原版は、少なくとも(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層が順次積層した構成を有する。
【0012】
本発明感光性印刷用原版に好適な(A)支持体は、可撓性で、しかも寸法安定性に優れた材料が好ましく用いられ、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属からなる板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート或いはポリカーボネートなどの樹脂からなるフィルムを挙げることができる。これらは寸法安定性に優れた支持体材料として使用可能な充分に高い粘弾性を有している。なかでもポリエチレンテレフタレートフイルムが寸法安定性に優れ、かつ可撓性に優れた支持体材料として好ましく使用される。ここで使用される支持体の厚みは50〜350μm、好ましくは100〜250μmが機械的特性、形状安定化あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から望ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着を向上させるために、従来公知の接着剤層を設けても良い。
【0013】
本発明の感光性印刷用原版に用いられる(B)感光性樹脂層は、公知の可溶性合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物および光重合開始剤を含んでいるものが好ましい。さらに添加剤、例えば可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料又は酸化防止剤を含んでも良い。
【0014】
本発明において、(B)感光性樹脂層を構成する可溶性合成高分子化合物としては公知の可溶性合成高分子化合物を使用することができる。例えばポリエーテルアミド(例えば特開昭55−79437号公報等)、ポリエーテルエステルアミド(例えば特開昭58−117537号公報等)、アンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミド(例えば特開昭53−36555公報等)、アミド結合を1つ以上有するアミド化合物と有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開昭58−140737号公報等)、アミド結合を有しないジアミンと有機ジイソシアネート化合物の付加重合体(例えば特開平4−97154号公報等)などが挙げられ、そのなかでも三級窒素原子含有ポリアミドおよびアンモニウム塩型三級窒素原子含有ポリアミドが好ましい。
【0015】
また、本発明において、(B)感光性樹脂層を構成する光重合性不飽和化合物として好適に用いられる化合物としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物であり、前記多価アルコールとして、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられ、そのなかでもトリメチロールプロパンが好ましい。
【0016】
さらに、本発明において、(B)感光性樹脂層を構成する光開始剤の例としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2―メチルアントラキノン、2−アリルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、チオキサントン、2−クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0017】
本発明の原版に使用される(C)感熱マスク層は、IRレーザを吸収し熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、その分散バインダーとから構成されることが好ましい。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0018】
本発明において、(C)感熱マスク層を構成する分散バインダーとしてブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドを併用することが好ましい。ブチラール樹脂はカーボンブラックの分散性を向上することができ、高い遮光性に寄与することができるが、ブチラール樹脂単独の使用では感熱マスク層の被膜が脆くなり、耐傷性に劣る。そこで、本発明では、この耐傷性を克服するために極性基含有ポリアミドを使用することが好ましい。極性基含有ポリアミドは、極性基を含有する効果でカーボンブラックの分散性にも優れており、ブチラール樹脂の一部を置き換えても分散性を低下させない。また、ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドはともにアルコール及び水に溶解するので、これらを分散バインダーとして併用するとフィルム形成時の取り扱いや溶剤及び水での現像性に優れた感熱マスク層を容易に作成することができる。ブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドからなる感熱マスク層は、水に容易に分散するため、特に水現像版の感熱マスク層として好適に用いることができる。
【0019】
本発明において、(C)感熱マスク層を構成する分散バインダーとして使用する極性基含有ポリアミドとしては、極性基を持つ共重合ポリアミドが好ましい。使用されるポリアミドは、従来公知のカチオン性ポリアミド、ノニオン性ポリアミド、アニオン性ポリアミドから適宜選択すればよく、例えば、第三アミン基含有ポリアミド、第四アンモニウム塩基含有ポリアミド、エーテル基含有ポリアミド、スルホン酸基含有ポリアミドなどが挙げられる。
【0020】
(C)感熱マスク層を構成する分散バインダー中のブチラール樹脂と極性基含有ポリアミドの重量比は20〜80:20〜80であることが好ましい。両者の重量比が上記の範囲にないと、カーボンブラックの分散性と感熱マスク層の被膜の耐傷性をバランス良く達成できないおそれがある。
【0021】
(C)感熱マスク層中のカーボンブラックと分散バインダーの重量比は25〜50:20〜75であることが好ましい。両者の重量比が上記の範囲にないと、薄層でカーボンブラックによる遮光性を達成できないおそれがある。
【0022】
(C)感熱マスク層は、化学線に関して2.0以上の光学濃度であることが好ましく、さらに好ましくは2.0〜3.0の光学濃度であり、特に好ましくは、2.2〜2.5の光学濃度である。光学濃度は一般にDで表され、以下の式で定義される。
D=log10(100/T)=log10(I0/I)
(Tは透過率%、I0は透過率測定時の入射光強度、Iは透過光強度を表す)
【0023】
(C)感熱マスク層の層厚は、0.5〜2.5μmが好ましく、1.0〜2.0μmがより好ましい。上記下限以上であれば、高い塗工技術を必要とせず、一定以上の光学濃度を得ることができる。また、上記上限以下であれば、感熱マスク層の蒸発に高いエネルギーを必要とせず、コスト的に有利である。
【0024】
(C)感熱マスク層上には、剥離可能な可撓性カバーフィルムを設けて印刷原版を保護することが好ましい。好適な剥離可能な可撓性カバーフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを挙げることができる。しかしながら、このような保護フィルムは絶対に必要というものではない。
【0025】
本発明の凸版印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層のカーボンブラック以外の分散バインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、分散液を感熱マスク層用支持体(例えばPETフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させ、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が感熱マスク層に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0026】
本発明の印刷原版から印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感熱マスク層をIRレーザにより画像情報を描画して、感光性樹脂層上にマスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(波長1064nm)又はダイオードレーザ(波長例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI Spark(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0027】
画像情報を感熱マスク層に書き込んだ後、感光性印刷原版にマスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150〜500nm、特に310〜400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は未硬化の光重合性層部分をブラシ式現像機やスプレー式現像装置で溶出され、支持体上に画像を形成することが出来る。
【0028】
現像後には版面に残る現像液や感光性樹脂分を取り除くために、リンス水で洗浄したのち温風乾燥機などで乾燥処理をおこなう。乾燥条件は、例えば60℃〜70℃で5分〜240分間行う。
【0029】
乾燥したのち後処理として、310〜400nmの紫外線(UV-A)を照射して現像された部分の感光性樹脂を完全に硬化させる。このときの照射量は先のマスク層を介して照射した量と同程度以上照射することが望ましい。さらに好ましくはエネルギー量600mJ/cm2以上1000mJ/cm2以下が良い。1000mJ/cm2を越えて照射しても、それ以上に硬化は進まないので作業の無駄となる。
【0030】
さらに本発明の特徴は、前記後処理として、200〜300nmの紫外線(UV-C)をも照射することである。前記後処理におけるUV−AとUV−Cの照射の順番は問題ではなく、どちらを先に照射しても良く、また同時に照射しても良い。
【0031】
本発明における後処理の紫外線照射は、UV-C/UV-A比で0.1から1.0であることが必要であり、特に好ましくは0.2から0.8が良い。比率が0.1未満では版面のヒビ割れ耐久性に乏しく、1を越えると露光時に版面から発生する臭気が強く、作業者にかかる負担が大である。
【0032】
後処理で用いる310〜400nmの紫外線の光源は、先の主露光で用いられる紫外線用蛍光灯等を使用することができる。又、200〜300nmの紫外線の光源として殺菌線(254nm)に波長分布をもつものが望ましい。このような光源としては殺菌ランプ(GL)として各ランプメーカーより入手可能である。
【0033】
本発明における後処理における紫外線照射は、光硬化後の印刷版の表面硬度がショアD(JIS K6253)45度以上85度以下である感光性凸版印刷用原版に行うことを特徴とする。ショアD45度未満では印刷時の版面にヒビ割れが発生し難いものの、版面が柔らかく抜き文字などの細かな画像がつぶれてしまう問題がある。またショアD85度を越えると、ヒビ割れが発生する以前にベタ画像部のインキつぶれが悪く、印刷品位に問題がある。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、実施例中における評価方法は、次に述べる方法による。
【0035】
参考例1<感熱マスク層の作成>
【0036】
分散バインダーの準備
分散バインダーとして、ブチラール樹脂、第三アミン基含有ポリアミドを準備した。ブチラール樹脂としては、積水化学工業(株)製のBM−5を使用した。第三アミン基含有ポリアミド及びエーテル基含有ポリアミドとしては、以下のようにして合成したものを使用した。
【0037】
第三アミン基含有ポリアミドの合成
ε−カプロラクタム50重量部、N,N、−ジ(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート40重量部、3−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジペート10重量部と水100重量部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧が10kg/mに達した時点から、その圧力を保持できなくなるまで水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。最高重合反応温度は255℃であった。これにより、融点137℃、比粘度1.96の第三アミン基含有ポリアミドを得た。
【0038】
エーテル基含有ポリアミドの合成
数平均分子量600のポリエチレングリコールの両末端にアクリロニトリルを付加し、これを水素還元して得たα,ω−ジアミノポリオキシエチレンとジアジピン酸との等モル塩:60重量部、ε−カプロラクタム:20重量部およびヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩:20重量部を溶融重合して、相対粘度(ポリマー1gを水クロラール100mlに溶解し、25℃で測定した粘度)が2.50のエーテル基含有ポリアミドを得た。
【0039】
感熱マスク層塗工液の調製
ブチラール樹脂27部、第三アミン基含有ポリアミド39部を溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、感熱マスク層塗工液とした。なお、使用した溶媒は、メタノールとエタノールの70:30の重量割合の混合液である。
【0040】
感熱マスク層の作成
両面に離型処理を施したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)に、感熱マスク層塗工液を、層厚が1.5μmになるように適宜選択したバーコーターを用いて塗工し、120℃×5分乾燥して感熱マスク層を作成した。
【0041】
実施例1
A.原版の作成
厚さ100μmのPETフィルム支持体(東洋紡績(株)製E5002)、感光性樹脂層、ポリビニルアルコール層およびケミカルマット化PET保護フィルムから構成される感光性樹脂凸版印刷用原版(プリンタイトJF95C (東洋紡製))のPET保護フィルムを剥離し、更に下層のポリビニルアルコール層を感光性樹脂層から慣用の接着テープを用いて除去した。露出させた感光性樹脂層に参考例1で作製した感熱マスク層を重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃、100kg重/cm2でラミネートし、PET支持体、感光性樹脂層、感熱マスク層、およびケミカルマット化PET保護フィルム(カバーフィルム)からなる版を得た。
【0042】
B.版の準備
感光性凸版印刷用原版から保護フイルムを剥離した後、外面ドラム型IRレーザ型プレートセッター(エスコグラフィックス社 CDI Spark2530)にてレーザ出力8W、ドラム回転数850rpmの条件で(C)感熱マスク層に描画した。描画された原版を20Wのケミカルランプで5分(750mJ/cm2)UV露光したのち、ブラシ式洗出し機・乾燥機一体型装置(日本電子精機、JOWA2 SD)で2分30秒洗い出し、60℃10分の乾燥を行った。以降の後処理条件は以下の通りに行い、評価を行った。
【0043】
C.印刷版の後処理
310から400nmの紫外線ランプ(UV-Aと表示)は、20Wのケミカルランプ(三菱OSRAM FL20S BL360)が16本並んだ露光機(富博産業、トミフレックスA−2、照度は2.5mW/cm2 )で5分照射した。200から300nmの紫外線ランプ(UV-Cと表示)は40Wの殺菌ランプ(パナソニック GL40)が21本並んだ露光機((株)ジーエム技研 GL照射機、照度は3.2mW/cm2)を用いて3分照射した。それぞれの照度はオーク製作所UV−M02を用いて受光部UV-25とUV−35を使用して測定し、受光部UV-25の場合の照度を250nmにおける照度、受光部UV−35の場合の照度を350nmにおける照度として、光量および光量比を求めると0.77であった。このときの感光性樹脂版のショアD硬度は55度であった。
【0044】
D.印刷性の評価
版の表面が弱い場合、印刷を進めていくと、微細なヒビ割れが発生する。このヒビ割れの発生有無を以下に述べる耐刷加速試験にて評価した。印刷機の運転環境は20〜25℃、湿度30〜40%RHで行った。印刷機は凸輪転印刷機(三條機械P-20)を用いて1画像すべてに印圧がかかる状態に印刷版を版胴に配置した。印刷版画像の形状は白抜き画像を含む直径16mmの星マーク型で行った。印圧は通常150から250μm印刷物に対して押し込むところを、450μm押し込んで負荷を過剰に掛けて行った。このときの印刷速度は20から30m/分でおこなった。インキはUVインキ(T&K TOKA ベストキュアーUVカラー藍B)を使用、反射濃度計(大日本スクリーン製造DM−800)で0.6以上2.0以下になるようインキ濃度を調整した。印刷用の紙はミラーコートのタック紙(リンテック グロスPW 8K)を用いた。印刷は8000ショットまで行ない、ヒビ割れ発生が生じたショット数でランク付けした。ヒビ割れ発生の評価は、印刷物に現れるヒビ跡の有無をルーペで目視観察することで判定した。この版についてはヒビ割れは発生せず、耐刷性はAランクであった。また白抜き画像の埋まりがなく、悪臭も発生しなかった。
【0045】
実施例2
実施例1と同様に印刷原版を準備し、同じ露光機を用いてUV-Aを4分、UV-Cを45秒照射した。光量比は0.25であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生がなかった。白抜き画像の埋まりがなく、悪臭もなかった。
【0046】
実施例3
B.版の準備およびC.印刷版の後処理で20Wのケミカルランプの代わりに40Wの高輝度ランプ(フィリップス TLK40W ACTINIC BL)が14本並んだ露光機(A&V社 A−2、照度は8.0mW/cm2)用いた。
UV-Aを90秒、UV-Cを45秒照射した。光量比は0.20であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生がなかった。悪臭もなかった。
【0047】
実施例4
実施例3と同じ露光機を用いてUV-Aを120秒、UV-Cを5分照射した。光量比は1.00であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生がなかった。わずかに微臭を感じた。
【0048】
比較例1
UV-C照射を無くした以外は実施例1と同様に行った。耐刷性は3000ショットでヒビ割れが発生し、印刷性能に満足いくものでなかった。
【0049】
実施例5
UV-C照射を25秒にした以外は実施例1と同様に行った。光量比は0.10であった。評価の結果、耐刷性は5000ショットでヒビ割れが発生、比較例1と比べると向上はみられるが、評価タンクはBランクであった。
【0050】
比較例2
UV-C照射を5分30秒にした以外は実施例1と同様に行った。光量比は1.40であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生はなかったものの、後処理時に悪臭が発生し、作業性を損なう状態であった。
【0051】
実施例6
実施例1で用いたA.原版の作成の代わりに、厚さ125μmのPETフィルム支持体(東洋紡績(株)製E5002)、感光性樹脂層、ポリビニルアルコール層およびPET保護フィルムから構成される感光性樹脂凸版印刷用原版(プリンタイトKF95GC (東洋紡製))を用いて版を得た。同じ露光機を用いてUV-Aを5分、UV-Cを45秒照射した。光量比は0.20であった。このときの感光性樹脂版のショアD硬度は67度であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生がなかった。悪臭もなかった。
【0052】
比較例3
UV-C照射を無くした以外は実施例6と同様に行った。耐刷性は6000ショットでヒビ割れが発生し、評価ランクはBランクであった。悪臭は無かった。
【0053】
比較例4
実施例1で用いたA.原版の作成の代わりに、厚さ125μmのPETフィルム支持体(東洋紡績(株)製E5002)、感光性樹脂層、ポリビニルアルコール層およびPET保護フィルムから構成される感光性樹脂凸版印刷用原版(プリンタイトSF95GB (東洋紡製))を用いて版を得た。同じ露光機を用いてUV-Aを5分、UV-Cは照射無しとした。このときの感光性樹脂版のショアD硬度は40度であった。評価の結果、耐刷性は8000ショットでヒビ割れ発生がなく、悪臭もなかった。しかし、白抜き画像において細かな画像がつぶれてしまい、印刷性能に満足いくものでなかった。
【0054】
【表1】

耐刷性
A;8,000ショットで割れなし
B;4,000〜8,000ショットでヒビ割れ発生
C;3,000ショット以下でヒビ割れ
臭気
×;強い悪臭あり
△;微かに悪臭あり
○;悪臭なし
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の感光性凸版印刷用原版は、耐刷性に優れ、細かな印刷品位を損なうことなく、なおかつ悪臭の発生がないので作業者にかかる負担が少なく、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)支持体、(B)感光性樹脂層、(C)感熱マスク層、が少なくとも順次積層されてなる感光性凸版印刷用原版に対して、前記(B)感光性樹脂層の現像後に250nmにおける照度と350nmにおける照度の光量比(UV-C/UV-A)が0.1以上1.0以下である紫外線を照射し、版の表面硬度がショアD45度以上85度以下である印刷版を得る、印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2011−154251(P2011−154251A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16455(P2010−16455)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】