説明

感光性樹脂組成物

【課題】
感度及び保存安定性に優れ、さらに、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜の形成に有用な感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)主鎖中に、一般式(1)
【化1】


(式中、Rは4価の有機基であり、Rは2価の有機基である。)で表される繰り返し単位を有し、分子両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を有する、アミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有する感光性ポリイミド前駆体、(B)光重合性官能基を有する感光助剤、及び、
(C)N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを含有する光重合開始剤、を含有する感光性樹脂組成物であって、前記光重合開始剤の総含有量が、前記感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、7〜15重量部である感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感度及び保存安定性に優れ、さらに、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜の形成に有用な感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を製造する際において、表面保護膜や層間絶縁膜を形成する方法として、ポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物を用いてポリイミド樹脂膜を形成する方法が知られている。また、感光性ポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物を用いることで、微細な部分に選択的にポリイミド樹脂膜を形成する方法も知られている。
【0003】
しかしながら、ポリイミド樹脂膜の線膨張率は、一般に、20ppm/℃を超えるが、金属やシリコンウエハの線膨張率は、それぞれ、20ppm/℃以下、約3〜4ppm/℃であるため、製造工程時の加熱や使用時の発熱により、クラックの発生、配線の断絶、基板の反りなどの問題が生じることがあった。
【0004】
これらの問題を解決する方法として、特許文献1には、剛直構造の芳香族テトラカルボン酸と剛直構造の芳香族ジアミンとの重縮合生成物である感光性ポリイミド前駆体と、この前駆体を用いて得られる、線膨張率が4.5程度のポリイミド樹脂膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−285129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、これまでにも、剛直構造のモノマーを用いることで、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜が得られているが、剛直構造のモノマーに限定されず、より簡便に、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜を形成する技術の開発が要望されていた。また、感光性樹脂組成物の感度及び保存安定性をさらに向上させることも望まれていた。
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、感度及び保存安定性に優れ、さらに、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜の形成に有用な感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、感光性ポリイミド前駆体、感光助剤、及び光重合開始剤を含有する感光性樹脂組成物について鋭意検討した。その結果、光重合開始剤として、N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを併用することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(5)の感光性樹脂組成物が提供される。
(1)(A)主鎖中に、テトラカルボン酸またはその酸無水物とジアミンとの重縮合生成物から形成された、式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは、4価の有機基であり、Rは、2価の有機基である。)
で表させる繰り返し単位を有し、分子両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を有する、アミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有する感光性ポリイミド前駆体、(B)光重合性官能基を有する感光助剤、及び、(C)N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを含有する光重合開始剤、を含有する感光性樹脂組成物であって、前記光重合開始剤の総含有量が、前記感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、7〜15重量部である感光性樹脂組成物。
(2)前記N−アリール−α−アミノ酸類と前記チオキサントン類の重量比(N−アリール−α−アミノ酸類:チオキサントン類)が、1:1〜3:1である、(1)に記載の感光性樹脂組成物。
(3)前記N−アリール−α−アミノ酸類が、N−フェニルグリシンである、(1)又は(2)に記載の感光性樹脂組成物。
(4)さらに、溶剤を含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
(5)線膨張率が10ppm/℃以下のポリイミド樹脂膜を形成することができる、(1)〜(4)のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、感度及び保存安定性に優れ、さらに、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜の形成に有用な感光性樹脂組成物が提供される。
また、本発明の感光性樹脂組成物を用いることで、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜を容易に形成することができ、クラックの発生、配線の断絶、基板の反りなどの問題を解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記(A)〜(C)成分を含有する感光性樹脂組成物であって、前記光重合開始剤の総含有量が、前記感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、7〜15重量部である感光性樹脂組成物である。
【0013】
(A):主鎖中に、テトラカルボン酸またはその酸無水物とジアミンとの重縮合生成物から形成された、式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは4価の有機基であり、Rは2価の有機基である。)
で表させる繰り返し単位を有し、その両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を分子内に有するアミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有する感光性ポリイミド前駆体
(B):光重合性官能基を有する感光助剤
(C):N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを含有する光重合開始剤
【0016】
(A)感光性ポリイミド前駆体
本発明に用いる感光性ポリイミド前駆体は、前記式(1)で表させる繰り返し単位を有し、その両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を分子内に有するアミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有するポリアミック酸である。
【0017】
前記式(I)で表される繰り返し単位の形成に用いるテトラカルボン酸またはその酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,5,8−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3”,4,4”−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2”,3,3”−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3”,4”−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン−2,3,8,9−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−4,5,10,11−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−5,6,11,12−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,6,7−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,2,9,10−テトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物及びその水添加物;シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸無水物、ビシクロ[2,2,2]オクタ−7−エン−2−エキソ,3−エキソ,5−エキソ,6−エキソテトラカルボン酸2,3:5,6−二無水物、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2−エキソ,3−エキソ,5−エキソ,6−エキソテトラカルボン酸2,3:5,6−二無水物などの脂環式酸無水物;ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物などの複素環誘導体などが挙げられる。
これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、剛直構造の芳香族テトラカルボン酸またはその酸無水物と柔軟構造のテトラカルボン酸またはその酸無水物とを適宜組み合わせて用いることで、ポリイミド樹脂膜の特性等を調節することができ、好ましい。
【0018】
剛直構造の芳香族テトラカルボン酸またはその酸無水物は、単環または縮合環からなる芳香族環を持つ化合物(例えば、ピロメリット酸二無水物)、2つ以上の芳香族環が単結合で結合した構造の化合物(例えば、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)などのように、剛直鎖を形成することができる化合物である。
剛直構造の芳香族テトラカルボン酸またはその酸無水物の好ましい具体例としては、ピロメリット酸、下記式(2)で表されるピロメリット酸二無水物(PMDA)、
【0019】
【化3】

【0020】
ビフェニルテトラカルボン酸、及び下記式(3)で表されるビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)が挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
柔軟構造のテトラカルボン酸またはその酸無水物は、屈曲性を有し、剛直鎖を形成しないテトラカルボン酸またはその酸無水物である。例えば、2つ以上の芳香族環が、>C=O結合や−O−結合により結合した構造を有する、芳香族テトラカルボン酸またはその酸無水物が挙げられる。
柔軟構造の芳香族テトラカルボン酸またはその無水物の好ましい具体例としては、下記式(4)で表される3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)が挙げられる。
【0023】
【化5】

【0024】
感光性ポリイミド前駆体の合成に用いるジアミンとしては、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾキサゾール、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾキサゾール、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3”−ジアミノ−p−テルフェニル、4,4”−ジアミノ−p−テルフェニル、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メテン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン類;2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾールなどの複素環ジアミン類;1,4−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ジアミン類;ピペラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,5−ジメチルノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、2,11−ジアミノドデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,12−ジアミノオクタデカン、2,17−ジアミノアイコサンなどの脂肪族ジアミン類のほか、ジアミノシロキサン、2,6−ジアミノ−4−カルボキシリックベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシリックベンジジンなどが挙げられる。
これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、剛直構造のジアミンと柔軟構造のジアミンとを適宜組み合わせて用いることで、ポリイミド樹脂膜の特性等を調節することができ、好ましい。
【0025】
剛直構造のジアミンとは、単環または縮合環からなる芳香族環を持つジアミン(例えば、p−フェニレンジアミン)や、2つ以上の芳香族環が単結合で結合した構造を有するジアミンなどのように、剛直鎖を形成することができる化合物である。
剛直構造のジアミンの好ましい具体例としては、下記式(5)で表される2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンゾオキサゾール、下記式(6)で表される2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール(NPN)、下記式(7)で表される2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−5,5’−ビスベンズイミダゾール、下記式(8)で表されるp−フェニレンジアミン(PPDA)、及び下記式(9)で表される4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0026】
【化6】

【0027】
柔軟構造のジアミンは、屈曲性を有し、剛直鎖を形成しないジアミンである。柔軟構造のジアミンの好ましい具体例としては、下記式(10)
【0028】
【化7】

【0029】
式(10)中、Rは、二価の炭化水素基であり、Rは、一価の炭化水素基であり、複数存在するR及びRは、同一であっても、異なっていてもよい。
前記Rの二価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等の炭素数1〜10のアルキレン基;p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、ナフタレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基;及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0030】
前記Rの一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリル基;などが挙げられる。
mは、1以上の整数である。
【0031】
式(10)で表されるジアミノシロキサンの具体例としては、1,3−(γ−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルトリシロキサン1,5−ジ(γ−アミノプロピル)−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサンが挙げられる。
【0032】
その他の柔軟構造の柔軟構造のジアミンとしては、下記式(11)で表される4,4’−ジアミノベンズアニリド、下記式(12)で表される4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
【化8】

【0034】
<繰り返し単位>
上記のテトラカルボン酸またはその酸無水物とジアミンから、上記式(1)で表される繰り返し単位を有する重縮合生成物が得られる。
式(1)で表される繰り返し単位としては、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾキサゾールとピロメリット酸二無水物からなる繰り返し単位、1,3’−ジアミノプロピル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとピロメリット酸二無水物からなる繰り返し単位が挙げられる。
【0035】
<化学線官能基>
本発明に用いる感光性ポリイミド前駆体は、その両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を分子内に有するアミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有する。
前記アミノベンゼン類としては、下記式(13)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化9】

【0037】
式(13)中、Xは、単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−C(=O)−O−、−C(=O)−O−CHO−、−S−、−SO−、−SO−、または−SOO−であり、R、R、R、R及びRは、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基であり、mは、0または1であり、nは、1〜3の整数である。
【0038】
光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基としては、アクリロイルオキシメチレン基及びメタクリロイルオキシメチレン基等の(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基(アルキレン基の炭素数は1〜6が好ましい);ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、2−エチルブテニル基などの炭素数2〜6のアルケニル基;が挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基及び炭素数2〜6のアルケニル基に結合可能な置換基の具体例としては、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1〜4のアルケニル基、炭素数1〜4のアルコキシ基などが挙げられる。
式(13)において、Xが−C(=O)−O−である場合、アミノベンゼン類は、下記式(14)で表されるアミノベンゼンカルボン酸エステルとなる。
【0040】
【化10】

【0041】
式(14)中、R〜R、m及びnは、前記と同じ意味を表す。アミノ基に対するカルボン酸エステル残基の結合部位は、o−、m−、p−の何れでも構わない。
式(14)で表されるアミノベンゼンカルボン酸エステルは、例えば、特開平8−82931号公報に記載された方法に従って製造することができる。
【0042】
式(14)で表されるアミノベンゼンカルボン酸エステルの具体例としては、o−アミノ安息香酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、o−アミノ安息香酸[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、m−アミノ安息香酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、m−アミノ安息香酸[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、p−アミノ安息香酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、p−アミノ安息香酸[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル、5−アミノ−イソフタル酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]ジエステル、5−アミノ−イソフタル酸[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]ジエステル、o−アミノ安息香酸[ペンタキス(メタクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステル、o−アミノ安息香酸[ペンタキス(アクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステル、m−アミノ安息香酸[ペンタキス(メタクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステル、m−アミノ安息香酸[ペンタキス(アクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステル、p−アミノ安息香酸[ペンタキス(メタクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステル、p−アミノ安息香酸[ペンタキス(アクリロイル)ジペンタエリスリトール]エステルなどを挙げることができる。これらの中でも、p−アミノ安息香酸〔トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール〕エステルが、合成コスト、操作性、高感度、高解像度などの点で優れており、特に好ましい。
【0043】
上記のアミノベンゼン類を用いて末端変性された構造の化学線官能基としては、式(15)
【0044】
【化11】

【0045】
(式中、X、R〜R、m及びnは、前記と同じ意味を表す。)
で表される基が挙げられる。
前記化学線官能基が前記式(15)で表される基Zである場合、感光性ポリイミド前駆体は、式(16)
【0046】
【化12】

【0047】
(式中、Rは4価の有機基であり、Rは2価の有機基であり、kは、5〜10000の整数であり、Zは、式(15)で表される化学線官能基である。)で表されるポリアミック酸(A1)となる。
【0048】
ポリアミック酸(A1)を合成する方法は特に限定されず、ジアミンとアミノベンゼン類との混合物に、テトラカルボン酸またはその無水物を加え、常法により重縮合反応させる方法や、ジアミンとテトラカルボン酸またはその無水物を重縮合反応させた後に、アミノベンゼン類を加えて、両末端に化学線官能基を導入する方法等が挙げられる。
重縮合反応は、ポリアミック酸を合成する常法に従って、各成分を、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒中で反応させればよい。
反応は、通常、反応温度が−20〜+80℃の範囲で、反応時間が0.5〜80時間の範囲で行われる。
モノマーの溶解性が低い場合は、モノマーが溶解する温度まで反応液の温度を昇温させ、反応系内で溶解可能なオリゴマーとなるまで予備的な反応を行う方法を採用することもできる。
【0049】
前記トリメリット酸誘導体としては、下記式(17)で表されるトリメリット酸誘導体が挙げられる。
【0050】
【化13】

【0051】
式(17)中、R10、R11、R12、R13、及びR14は、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基であり、mは、0または1である。
光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基としては、先にアミノベンゼン類における置換基として例示したものが挙げられる。
式(17)で表されるトリメリット酸誘導体は、例えば、特開平8−95247号公報に記載された方法に従って合成することができる。
トリメリット酸誘導体の好ましい具体例としては、下記式(18)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化14】

【0053】
(式中、R15は、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である。)
なかでも、合成時の経費や操作性や得られる感光性樹脂組成物の感度や解像度の点から、R15が水素原子の場合のトリメリット酸アンハイドライド[トリス(アクリロイル)ペンタエリスリトール]エステルや、R15がメチル基の場合のトリメリット酸アンハイドライド[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステルなどが特に好ましい。
【0054】
上記のトリメリット酸誘導体を用いて末端変性された構造の化学線官能基としては、式(19)
【0055】
【化15】

【0056】
(式中、R10〜R14、及び、mは、前記と同じ意味を表す。)
で表される基Zであることが好ましい。前記化学線官能基が前記式(19)で表される基である場合、感光性ポリイミド前駆体は、式(20)
【0057】
【化16】

【0058】
(式中、Rは、4価の有機基であり、Rは、2価の有機基であり、kは、5〜10000の整数であり、Zは、式(19)で表される化学線官能基である。)
で表されるポリアミック酸(A2)となる。
【0059】
ポリアミック酸(A2)を合成する方法は特に制限されず、ジアミンに、トリメリット酸誘導体とテトラカルボン酸またはその無水物を加え、常法により重縮合反応させる方法や、ジアミンとテトラカルボン酸またはその無水物を重縮合反応させた後に、トリメリット酸誘導体を加えて、両末端に化学線官能基を導入する方法等が挙げられる。
重縮合反応は、ポリアミック酸を合成する常法に従って、各成分をジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒中で反応させればよい。
反応は、通常、反応温度が−20〜+80℃の範囲で、反応時間が0.5〜80時間の範囲で行われる。
モノマーの溶解性が低い場合は、モノマーが溶解する温度まで反応液を昇温させ、反応系内で溶解可能なオリゴマーとなるまで予備的な反応を行う方法を採用することもできる。
【0060】
〔光重合性官能基を有する感光助剤〕
本発明に用いる感光助剤は、一般に光硬化モノマーとして公知のものであれば、特に制限されない。代表的な感光助剤としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの(メタ)アクリル酸系化合物が挙げられる。
アクリル酸系化合物としては、例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、カルビトールアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ブチレングリコールモノアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、アリルアクリレート、1,3−プロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス−(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−アクリロキシプロピルキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリアクリルホルマール、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のアクリル酸エステル、式(21)
【0061】
【化17】

【0062】
(式中、aは、1〜30の整数を表す。)
で表される化合物、式(22)
【0063】
【化18】

【0064】
(式中、b及びcは、b+c=2〜30となる整数を表す。)で表される化合物、式(23)
【0065】
【化19】

【0066】
で表される化合物、式(24)
【0067】
【化20】

【0068】
で表される化合物等を挙げることができる。
メタクリル酸系化合物としては、例えば、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシペンチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2−ビス−(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のメタクリル酸エステル、式(25)
【0069】
【化21】

【0070】
(式中、dは、1〜30の整数を表す。)で表される化合物、式(26)
【0071】
【化22】

【0072】
(式中、e及びfは、e+f=1〜30となる整数を表す。)で表される化合物、式(27)
【0073】
【化23】

【0074】
で表される化合物、式(28)
【0075】
【化24】

【0076】
で表される化合物等を挙げることができる。
これらの化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ペンタエリスリトールトリアクリレート、及び式(21)で表される化合物(b=3)が特に好ましい。
【0077】
感光助剤の使用量は、ポリアミック酸化合物と相溶する限り、特に限定されないが、ポリアミック酸化合物100重量部に対して、通常、10〜40重量部、好ましくは15〜35重量部、より好ましくは20〜30重量部である。
感光助剤の使用量が極めて多量である場合には、ポリアミック酸化合物の熱処理によるポリイミド化の際に分解・除去し難くなる。また、ポリイミド樹脂膜の残留応力が高くなり、半導体素子基板にそり等の変形を生じやすくなる。
【0078】
〔光重合開始剤〕
本発明の感光性樹脂組成物においては、光重合開始剤として、N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを併用する。これらの光重合開始剤を併用することで、感度に優れ、さらに、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜を形成し得る感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
N−アリール−α−アミノ酸類としては、例えば、下記式(29)で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化25】

【0081】
式(29)中、R16は、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アミノ基;メチルアミノ基、アセチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、メチルアセチルアミノ基等のジ置換アミノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基;又は、カルボキシル基;を表す。
17及びR18は、それぞれ独立に、水素原子;メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜6のシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナヒチル基等のアリール基;又は、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;を表す。
nは0〜5の整数である。
【0082】
N−フェニルアミノ酸類としては、例えば、N−フェニルグリシン、N−(p−アセチルフェニル)グリシン、N−(m−アセチルフェニル)グリシン、N−フェニルアラニン、N−(p−アセチルフェニル)アラニン、N−(m−アセチルフェニル)アラニンなどが挙げられる。
N−フェニルアミノ酸類は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、N−フェニルグリシンが特に好ましい。
【0083】
チオキサントン類は、チオキサントン骨格を有する化合物である。具体的には、下記式(30)で表される化合物が挙げられる。
【0084】
【化26】

【0085】
式(30)中、R19及びR20は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イシプロピル基、ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜12のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基;及びこれらの基の水素原子がハロゲン原子で置換された構造を有する基;を表す。nおよびmは、それぞれ独立に、0〜4の整数である。
【0086】
チオキサントン類の具体例としては、例えば、2−メチルチオキサンテン−9−オン、2,4−ジメチルチオキサンテン−9−オン、2−エチルチオキサンテン−9−オン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、2−イソプロピルチオキサンテン−9−オン、2,4−ジイソプロピルチオキサンテン−9−オン、2−トリフルオロメチルチオキサンテン−9−オン、2,4−ジ(トリフルオロメチル)チオキサンテン−9−オンなどが挙げられる。これらの中でも、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オンが好ましい。
チオキサントン類は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
光重合開始剤中、N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類の総含有量は、感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、通常7〜15重量部、好ましくは、8〜12重量部である。7重量部を下回ると、感光性樹脂組成物の感度が劣りやすく、15重量部を超えると、保存安定性が低下する。
【0088】
また、光重合開始剤中、N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類の重量比(N−アリール−α−アミノ酸類:チオキサントン類)は、特に限定されないが、1:1〜3:1が好ましく、1:1がより好ましい。
また、本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、他の光重合開始剤を含有してもよい。
【0089】
〔溶剤〕
本発明の感光性樹脂組成物は、溶剤を含有してもよい。用いる溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶剤;テトラメチル尿素等のウレア系溶剤;γ−ブチロラクロン等のラクトン系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル等のエステル系溶剤;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;ジクロロメタン、1,2−ジクロルエタン、1,4−ジクロルブタン、トリクロルエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素気溶剤;などが挙げられる。
これらの溶剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アミド系溶剤、含硫黄系溶剤、ウレア系溶剤、ラクトン系溶剤の極性溶剤が好ましく、アミド系溶剤がより好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。
【0090】
溶剤の使用量は、各成分を均一に溶解するのに充分な量であることが好ましい。例えば、感光性ポリイミド前駆体に対して、通常3〜25倍量(重量比)、好ましくは5〜20倍量、より好ましくは6〜10倍量の範囲内である。
【0091】
〔その他の添加剤〕
本発明の感光性樹脂組成物には、さらに必要に応じて接着助剤、レベリング剤、重合禁止剤等の各種添加剤を使用することができる。なかでも、1H−テトラゾール、5,5’−ビス−1H−テトラゾール、これらの誘導体などの1H−テトラゾール類を添加することにより、銅及び銅合金に対する腐食性を防止することができ、ポリイミド樹脂膜の基板に対する密着性を向上させることができ、好ましい。
【0092】
1H−テトラゾール、及びその誘導体としては、未置換の1H−テトラゾール;5−メチル−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾールなどの5置換−1H−テトラゾール;1−メチル−1H−テトラゾールなどの1置換−1H−テトラゾール;1−フェニル−5−メルカプト−1H−テトラゾールなどの1置換−5置換−1H−テトラゾール;などを挙げることができる。これらの中でも、1H−テトラゾール、及び5置換−1H−テトラゾールが特に好ましい。
【0093】
1H−テトラゾール類の添加量は、感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、通常、0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.3〜3.0重量部である。この含有量が少なすぎると添加効果が得られず、多すぎても添加量に見合った効果が得られにくい。
【0094】
〔ポリイミド樹脂膜の形成〕
本発明の感光性樹脂組成物を使用してポリイミド樹脂膜を形成することができる。具体的には、次のように行う。
先ず、本発明の感光性樹脂組成物を、適当な支持体、例えば、シリコンウェハやセラミック、アルミニウム基板などに塗布する。
塗布方法としては、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティングなどの方法がある。次に、60〜80℃の低温でプリベークして塗膜を乾燥後、所望のパターン形状に化学線を照射する。化学線としては、X線、電子線、紫外線、可視光線などが使用できるが、200〜500nmの範囲の波長のものが好ましい。
【0095】
次に、未照射部を現像液で溶解除去することにより、レリーフパターンを得る。
用いる現像液としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミドなどのアミド系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤;水;お呼びこれらの溶剤の2種以上からなる混合溶剤が挙げられる。
現像方法としては、スプレー、パドル、浸漬、超音波などの各種方式を採用することができる。
【0096】
次いで、現像によって形成したレリーフパターンをリンスする。
リンス液としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル類;などが挙げられる。
【0097】
次に、イミド化反応によりイミド環を形成し、ポリアミック酸化合物をポリイミド化して、耐熱性に富む最終パターンを得ることができる。
イミド化反応の方法としては、公知の熱イミド化方法、化学イミド化方法等が挙げられる。
熱イミド化方法は、ポリイミド前駆体樹脂(3)が脱水閉環反応を起こす温度、具体的には130〜450℃、好ましくは300〜400℃に加熱する方法である。加熱する方法としては、最高温度まで一段階で昇温する方法、多段階で昇温する方法のどちらでもよい。
加熱時間は、反応規模等にもよるが、通常数分から1日、好ましくは30分から数時間である。
加熱は、大気中で行ってもよいが、真空中、又は、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。
【0098】
本発明の感光性樹脂組成物は、半導体素子関連の用途のみならず、多層回路のパッシベーション膜やフレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜や液晶配向膜などとしても使用することができる。
特に、本発明の感光性樹脂組成物を用いて得られるポリイミド樹脂膜は、線膨張率が低く、例えば、線膨張率が10ppm/℃以下であるため、本発明の感光性樹脂組成物を用いてパッシベーション膜を形成することで、加熱をしても反りにくい基板を得ることができる。
【実施例】
【0099】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。
(合成例1)
反応器に、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール22.05g(0.053モル)、1,3−ジ(γ−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン0.41g(0.002モル)、及び溶剤140g[N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と略記することがある)70g及びN−メチル−2−ピドリドン(以下、「NMP」と略記することがある)70g]を投入し、混合溶液を調製した。この溶液に、氷冷攪拌下、ピロメリット酸二無水物12.34g(0.057モル)の粉体と、溶剤20g(DMAc10g及びNMP10g)を添加した。全容を氷冷下で1.5時間攪拌した後、p−アミノ安息香酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル2.08g(0.005モル)を添加し、さらに、溶剤30g(DMAc15g及びNMP15g)を添加した。得られた混合物を氷冷下で1.5時間、次いで、室温で12時間攪拌することにより、感光性ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の樹脂濃度16重量%溶液を得た。
【0100】
(合成例2)
反応器に、2,2’−ジ(p−アミノフェニル)−6,6’−ビスベンゾオキサゾール23.51g(0.056モル)、溶剤150g[DMAc75g及びNMP75g]を投入し、混合溶液を調製した。この溶液に、氷冷攪拌下、ピロメリット酸二無水物12.77g(0.059モル)の粉体と、溶剤20g(DMAc10g及びNMP10g)を添加した。全容を氷冷下で1.5時間攪拌した後、p−アミノ安息香酸[トリス(メタクリロイル)ペンタエリスリトール]エステル2.15g(0.005モル)を添加し、さらに、溶剤30g(DMAc15g及びNMP15g)を添加した。得られた混合物を氷冷下で1.5時間、次いで、室温で12時間攪拌することにより、感光性ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の樹脂濃度16重量%溶液を得た。
【0101】
(実施例1)
合成例1で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート:共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤8重量部(N−フェニルグリシン4重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン4重量部)、及び溶剤7g(DMAc3.5g及びNMP3.5g)を加えて、樹脂濃度13重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物A)を得た。
【0102】
(実施例2)
実施例1において、光重合開始剤の量を8重量部(N−フェニルグリシン6重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン2重量部)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により、均一溶液(感光性樹脂組成物B)を調製した。
【0103】
(実施例3)
合成例2で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤8重量部(N−フェニルグリシン4重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン4重量部)、及び溶剤を加えて樹脂濃度11重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物C)を得た。
【0104】
(実施例4)
実施例3において、光重合開始剤の量を8重量部(N−フェニルグリシン6重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン2重量部)に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により、均一溶液(感光性樹脂組成物D)を調製した。
【0105】
(比較例1)
合成例1で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤14重量部(N−フェニルグリシン4重量部、3,3’−ビスメトキシカルボニル−4,4’−ビス−tert−ブチルペルオキシカルボニルベンゾフェノン及びその位置異性体混合物の40重量%アニソール溶液(「BT2」、チッソ社製)10重量部(有効成分量は4重量部))、及び溶剤を加えて樹脂濃度13重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物E)を得た。
【0106】
(比較例2)
比較例1において、光重合開始剤の量を11重量部(N−フェニルグリシン6重量部、3,3’−ビスメトキシカルボニル−4,4’−ビス−tert−ブチルペルオキシカルボニルベンゾフェノン及びその位置異性体混合物の40重量%アニソール溶液(「BT2」、チッソ社製)5重量部(有効成分量は2重量部))に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法により、均一溶液(感光性樹脂組成物F)を調製した。
【0107】
(比較例3)
合成例2で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤14重量部(N−フェニルグリシン4重量部、3,3’−ビスメトキシカルボニル−4,4’−ビス−tert−ブチルペルオキシカルボニルベンゾフェノン及びその位置異性体混合物の40重量%アニソール溶液(「BT2」、チッソ社製)10重量部(有効成分量は4重量部))、及び溶剤を加えて樹脂濃度11重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物G)を得た。
【0108】
(比較例4)
比較例3において、光重合開始剤の量を11重量部(N−フェニルグリシン6重量部、3,3’−ビスメトキシカルボニル−4,4’−ビス−tert−ブチルペルオキシカルボニルベンゾフェノン及びその位置異性体混合物の40重量%アニソール溶液(「BT2」、チッソ社製)5重量部(有効成分量は2重量部))に変更したこと以外は、比較例3と同様の方法により、均一溶液(感光性樹脂組成物H)を調製した。
【0109】
(比較例5)
合成例1で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤16重量部(N−フェニルグリシン10重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン6重量部)、及び溶剤を加えて樹脂濃度13重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物I)を得た。
【0110】
(比較例6)
合成例1で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤6重量部(N−フェニルグリシン4重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン2重量部)、及び溶剤を加えて樹脂濃度13重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物J)を得た。
【0111】
(比較例7)
合成例1で合成した感光性ポリイミド前駆体の固形分100重量部に対して、感光助剤(トリエチレングリコールジアクリレート、共栄社化学社製)28重量部、光重合開始剤8重量部(金属錯体系重合開始剤(イルガキュア784、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)4重量部、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン4重量部)、及び溶剤を加えて樹脂濃度13重量%に調整し、均一溶液(感光性樹脂組成物K)を得た。
【0112】
得られた感光性樹脂組成物を用いて以下の測定を行った。
(1)感度の測定
実施例及び比較例で得られた感光性樹脂組成物A〜Kのそれぞれを4インチのシリコンウエハ上にスピナーで塗布し、60℃で30分間オーブンで乾燥し、膜厚約18μmのフィルムを得た。このフィルムが形成されたシリコンウエハに、PLA−500F(キヤノン社製)により、露光エネルギー350mJ/cmで全面露光した。
次いで、現像液(N−メチル−2−ピドリドン:シクロペンタノン:水=40:53:7重量比)に2分間、(N−メチル−2−ピドリドン:シクロペンタノン:水=20:77:3重量比)に1分間浸漬した。次いで、シクロペンタノンに1分間浸漬してリンスした後、窒素ガスでブローして表面を乾燥した。
通常、感度が低い場合は膜表面が荒れる。これを利用して、350mJ/cmでの感度を評価するために、目視により膜を観察し以下の基準で評価した。
○:外観良好
×:外観不良
評価結果を第1表に示す。
【0113】
(2)ポリイミド樹脂膜の線膨張率の測定
実施例及び比較例で得られた感光性樹脂組成物A〜Kのそれぞれを4インチのシリコンウエハ上にスピナーで塗布し、60℃で30分間オーブンで乾燥した。このようにして膜を形成したシリコンウエハに、PL−A501F(キヤノン社製)により、露光エネルギー500mJ/cmで全面露光した。次いで、現像液(N−メチル−2−ピドリドン:シクロペンタノン:水=40:53:7重量比)に2分間、(N−メチル−2−ピドリドン:シクロペンタノン:水=20:77:3重量比)に1分間浸漬した。次いで、シクロペンタノンに1分間浸漬してリンスした後、窒素ガスでブローして表面を乾燥した。次に、窒素雰囲気下、400℃で1時間加熱してイミド化した。得られた膜の厚みは、約9μmであった。
【0114】
シリコンウエハ上に作製したポリイミド樹脂膜を、50%フッ酸を用いてシリコンウエハから剥離し、蒸留水で十分洗浄した後、真空乾燥機で、130℃、3時間乾燥した。この膜をSII社製TMA/SS7100を用いて、以下の条件で線膨張率を測定した。
測定結果を第1表に示す。
【0115】
測定条件:試験片形状=幅4mm、厚み9μm、測定長20mm
測定様式:引張り荷重=100mN
測定温度:1サイクル=30℃→310℃→30℃
2サイクル=30℃→305℃→30℃
昇温2サイクル目の80〜280℃での平均膨張率の変化を記載した。
昇温速度:5℃/分
測定雰囲気:窒素ガス中
【0116】
(3)感光性樹脂組成物の保存安定性
実施例及び比較例で得られた感光性樹脂組成物をガラス製サンプル瓶に入れ、23℃で48時間保存した後、目視により、ゲル成分の発生の有無を確認し、以下の基準で保存安定性を評価した。
○:ゲル成分がない。
×:ゲル成分がある。
【0117】
【表1】

【0118】
第1表に示されるように、光重合開始剤として、N−フェニルグリシンと、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オンを併用する実施例1〜4の感光性樹脂組成物A〜Dは、感度及び保存安定性に優れ、さらに、これらを用いることで、線膨張率が小さいポリイミド樹脂膜が得られている。
一方、この光重合開始剤の組合せを利用しない比較例1〜4、7の感光性樹脂組成物E〜H、Kは、感度又は保存安定性に劣り、さらに、ポリイミド樹脂膜の線膨張率が大きな値になっている。
また、比較例5の感光性樹脂組成物Iのように、光重合開始剤の総量が15重量部を超える感光性樹脂組成物は保存安定性に劣り、比較例6の感光性樹脂組成物Jのように、光重合開始剤の総量が7重量部未満の感光性樹脂組成物は感度に劣り、これらはいずれも実用的ではないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)主鎖中に、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは4価の有機基であり、Rは2価の有機基である。)で表される繰り返し単位を有し、
分子両末端に、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する置換基を有する、アミノベンゼン類またはトリメリット酸誘導体により末端変性された構造の化学線官能基を有する感光性ポリイミド前駆体、
(B)光重合性官能基を有する感光助剤、及び、
(C)N−アリール−α−アミノ酸類とチオキサントン類とを含有する光重合開始剤、を含有する感光性樹脂組成物であって、
前記光重合開始剤の総含有量が、前記感光性ポリイミド前駆体100重量部に対して、7〜15重量部である感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)光重合開始剤中における、N−アリール−α−アミノ酸類と前記チオキサントン類の重量比(N−アリール−α−アミノ酸類:チオキサントン類)が、1:1〜3:1である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記N−アリール−α−アミノ酸類が、N−フェニルグリシンである、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、溶剤を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
線膨張率が10ppm/℃以下のポリイミド樹脂膜を形成することができる、請求項1〜4のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−76845(P2013−76845A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216690(P2011−216690)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】