説明

感圧制御弁

【課題】感圧制御弁を改良し、可変容量型圧縮機の起動直後において吐出容量が大きくなるまでに掛かる時間を短縮する。
【解決手段】本体ケース1のガイド孔12よりも外側に、クランク室側ポート13とベローズ収容室2Aとを連通するクランク室連通ポート17を形成する。ベローズ収容室2A内の感圧用ベローズ3の底部の下カバー31に、逃し弁31aを形成する。圧縮機の容量制御運転時には、逃し弁31aをクランク室連通ポート17の小径部17a内に挿通した状態とする。吸入圧力Psが高い時、感圧用ベローズ3が収縮することにより、逃し弁31aをクランク室連通ポート17の大径部17bに変位させクランク室連通ポート17を開き、クランク室圧力を、クランク室連通ポート17を介して、ベローズ収容室2A及び吸入圧力側ポート21に逃がす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用空調装置などの冷凍サイクル中で冷媒を圧縮するために用いられる容量可変型圧縮機の容量制御を行う感圧制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用空調装置の冷凍サイクルに用いられる圧縮機は、エンジンにベルトで直結されているので回転数制御を行うことができない。そこで、エンジンの回転数に制約されることなく適切な冷房能力を得るために、圧縮機の容量(吐出量)を変えることのできる容量可変型圧縮機が用いられている。
【0003】
そのような容量可変型圧縮機においては、一般に、気密に形成されたクランク室内で傾斜角可変に設けられた揺動板が回転軸の回転運動によって駆動されて揺動運動をし、その揺動板の揺動運動により往復動するピストンが吸入圧力をシリンダ内に吸入して圧縮した後、吐出し、クランク室内の圧力を変化させることにより、揺動板の傾斜角度を変化させ、往復動するピストンの移動量を可変することによって、冷媒の吐出量を変化させるようになっている。
【0004】
このような容量可変型圧縮機の容量を可変制御する制御弁として、例えば特開2000−88132号公報(特許文献1)に開示されたものがある。この特許文献1の制御弁は、圧縮機の吸入圧力Psに応じた感圧用ベローズの伸縮作用により、弁の開閉状態を変化させて、圧縮機の容量制御を行う自力式の感圧制御弁である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−88132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
容量可変型圧縮機(以下、単に「圧縮機」ともいう。)のクランク室に供給されるのは、高圧の吐出圧力であるので、クランク室から吸入側に流す冷媒の排出流量が多くなるほど圧縮機の運転効率は悪くなる。このため、運転効率の観点から、一般に容量可変型圧縮機では、感圧制御弁の外部に設けたクランク室圧力排出通路の面積は固定した状態で小さくしてある。
【0007】
一方、圧縮機を例えば長期間停止しておくと、冷媒が液状化してクランク室に留まる。クランク室に液状の冷媒が溜まった状態で圧縮機を起動させると、クランク室圧力は液冷媒の気化によって過大な圧力となる。このときは、通常、外気温が高いため、吸入圧力Psも高くなっている。そのため、本来圧縮機はロード運転しなければならないのに、前記クランク室圧力排出通路だけではクランク室内の圧力が吸入側に速やかに排出されず、圧縮機はアンロード運転となってしまう。その結果、吐出容量が大きくなるまでに時間が掛かり、車内が冷えるまでに時間が掛かるという問題があった。
【0008】
本発明は、可変容量型圧縮機の起動直後において吐出容量が大きくなるまでに掛かる時間を短縮することができる感圧制御弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の感圧制御弁は、吸入圧力側ポートに連通したベローズ収容室内に収容された感圧用ベローズを有し、圧縮機の吸入圧力の変化に応じて前記感圧用ベローズを伸縮させることにより、主弁部材で吐出圧力側ポートとクランク室側ポート間に設けた主弁ポートを開閉させ、圧縮機の吐出側からクランク室へ流入する冷媒の流量を制御することにより、クランク室圧力を調整し、圧縮機の容量制御を行う感圧制御弁において、前記ベローズ収容室と前記クランク室側ポートとを連通するクランク室連通ポートを設けるとともに、該クランク室連通ポートのベローズ収容室の側に、前記感圧用ベローズの伸縮に連動して該クランク室連通ポートを開閉する逃し弁を設け、前記吸入圧力が低い時には、前記逃し弁が前記クランク室連通ポートを閉じ、前記吸入圧力が高い時には、前記主弁部材が前記主弁ポートを閉じるとともに、前記逃し弁が前記クランク室連通ポートを開くようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の感圧制御弁は、請求項1に記載の感圧制御弁であって、前記クランク室連通ポートが、前記主弁ポートが形成された本体ケースの中心よりも外側に形成され、前記逃し弁が前記感圧用ベローズの前記本体ケース側の端部に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3の感圧制御弁は、請求項1に記載の感圧制御弁であって、前記クランク室連通ポートが、前記主弁部材の弁部に感圧用ベローズの動きを伝達する弁ステム部に形成され、前記逃し弁が前記感圧用ベローズの前記本体ケース側の端部の中央に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4の感圧制御弁は、請求項1に記載の感圧制御弁であって、前記感圧用ベローズの前記主弁部材とは反対側に連結されたプランジャを駆動して該感圧用ベローズを弁閉側に移動する電磁コイル装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の感圧制御弁によれば、吸入圧力が高い時には、クランク室連通ポートが開くので、クランク室圧力が過大であったとしても、クランク室圧力を速やかに吸入側に抜くことができ、圧縮機の吐出容量を速やかに大きくすることができる。
【0014】
請求項2の感圧制御弁によれば、請求項1の効果に加えて、クランク室連通ポートと逃し弁とを、主弁ポートの外側に設けているので、例えば感圧用ベローズに当接する主弁部材をボール、弁ステム部及び弁体で構成した場合、このボールによる感圧用ベローズとの当接箇所において球面接続を維持したまま、クランク室連通ポートと逃し弁による逃がし構造を構成することができる。
【0015】
請求項3の感圧制御弁によれば、請求項1の効果に加えて、感圧用ベローズの動きを弁部に伝達する弁ステム部にクランク室連通ポートを形成しているので、本体ケースにクランク室連通ポートを形成する必要がなくなる。
【0016】
請求項4の感圧制御弁によれば、請求項1の効果に加えて、電磁コイル装置の切り替えにより、圧縮機を確実にアンロード運転とすることができ、圧縮機(エアコン)のON/OFFのためのマグネットクラッチ等を用いる必要がないため、圧縮機を安価かつ小型に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の感圧制御弁の全閉状態の縦断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の感圧制御弁の要部拡大断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の感圧制御弁の全閉状態の縦断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態の感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の感圧制御弁の要部拡大断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図である。
【図10】本発明の第3実施形態の感圧制御弁の全閉状態の縦断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態の感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態及び第3実施形態の逃し弁の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の感圧制御弁の実施形態を図面を参照して説明する。図1は第1実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図、図2は同感圧制御弁の全閉状態の縦断面図、図3は同感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図、図4は図3の要部拡大断面図である。なお、図1は圧縮機のアンロード運転時、図2及び図3は圧縮機のフルロード運転時に対応する。
【0019】
この第1実施形態の感圧制御弁は、本体ケース1と本体ケース1の上部にかしめ結合されたベローズケース2とにより弁ハウジングを構成している。本体ケース1とベローズケース2は金属の切削加工等により形成されている。ベローズケース2は、大径円筒状で端部を本体ケース1にかしめ結合され、その内部にベローズ収容室2Aを形成している。ベローズ収容室2A内には感圧用ベローズ3が配置されている。また、ベローズケース2の側部には吸入圧力側ポート21が形成されており、この吸入圧力側ポート21には圧縮機の吸入圧力Psが導入される。
【0020】
感圧用ベローズ3は、下カバー31と、下端板32と、ベローズ本体33と、ベローズカバー34と、調整ばね35と、ストッパ当金36とで構成されている。下端板32とベローズ本体33は一体に成形されており、ベローズ本体33はベローズカバー34と気密に溶接されて、その内部は真空気密室となっている。また、ストッパ当金36とベローズカバー34との間に調整ばね35が圧縮状態で配設されている。下カバー31の外周近傍には後述のクランク室連通ポート17に挿通するピン状の逃し弁31aが形成されている。
【0021】
本体ケース1のベローズケース2とは反対側には、弁室1Aが形成され、この弁室1Aとベローズ収容室2Aとの間には、円形の主弁ポート11、円筒形のガイド孔12及びクランク室側ポート13が形成されている。このクランク室側ポート13には圧縮機のクランク室圧力Pcが導入される。また、本体ケース1の下端部には、弁室1Aを画定するばね受け部材14がかしめ結合されており、このばね受け部材14には吐出圧力側ポート15が形成されている。また。本体ケース1の下部にはバルブフィルタ16が取り付けられており、圧縮機の吐出圧力Pdがバルブフィルタ16及び吐出圧力側ポート15を介して弁室1Aに導入される。
【0022】
弁室1A内には「弁部」としてのボール状の主弁体4が設けられている。主弁体4の上には弁ステム部41及びボール42が配設されており、この主弁体4、弁ステム部41及びボール42が「主弁部材」を構成している。弁ステム部41とボール42は、本体ケース1に形成されたガイド孔12を摺動可能に貫通しており、ボール42の上端がベローズ収容室2A内に僅かに突出し、このボール42が感圧用ベローズ3に当接している。このボール42と感圧用ベローズ3との当接箇所は球面接続をしており、中心位置出しの精度が高まる。また、弁ステム部41は感圧用ベローズ3の動きを主弁体4に伝達する役割をする。主弁体4にはボール受け43が係合しており、ボール受け43とばね受け部材14との間に、主弁体4を閉弁方向(上方)へ付勢する閉弁ばね44が設けられている。主弁体4は、図にて上下に変位することにより、弁座11aに着座、離間して主弁ポート11を開閉し、弁リフト量に応じて吐出圧力側ポート15より主弁ポート11を経てクランク室側ポート13へ流れる流体の流量を定量的に制御(可変制御)する。
【0023】
ベローズケース2の上部には、調整ネジ5が取り付けられている。調整ネジ5の上端部には雄ねじ部5aが形成され、この雄ねじ部5aがベローズケース2の上部に形成された雌ねじ部2aに螺合されている。調整ネジ5の下端にはボール51が係合されている。感圧用ベローズ3のベローズカバー34の中心にはストレートな円筒状の保持部34aが形成されており、この保持部34a内に調整ねじ5及びボール51が嵌め込まれている。
【0024】
ベローズ収容室2Aの底部すなわち本体ケース1には、ガイド孔12の周囲を囲うように円環状の溝1aが形成されており、この溝1a内には、感圧用ベローズ3の下カバー31に当接するように中間ばね6が圧縮された状態で配設されている。この中間ばね6は、感圧用ベローズ3を調整ねじ5側に付勢しているので、感圧用ベローズ3が調整ねじ5に連結されている。なお、中間ばね6のばね力は、耐最大振動性仕様で、感圧用ベローズ3が振動しない程度のばね力である。
【0025】
本体ケース1には、溝1aの外側の複数箇所(例えば4箇所)に、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13とを連通させるクランク室連通ポート17が形成されている。クランク室連通ポート17はクランク室側ポート13側の径の小さな小径部17aと、ベローズ収容室2A側の径の大きな大径部17bとで構成されている。そして、感圧用ベローズ3の下カバー31に形成された逃し弁31aが、大径部17bを通して、小径部17a内に挿通可能となっている。
【0026】
以上の構成により、吸入圧力Psが低いときは、図1に示すように、感圧用ベローズ3は調整ねじ5側を固定点として伸長し、主弁体4は感圧用ベローズ3の下端に当接したボール42、弁ステム部41を介し降下し、主弁ポート11を開く。これにより、吐出圧力側ポート15から主弁ポート11を経てクランク室側ポート13に高圧冷媒が流れ、クランク室が高圧になって、圧縮機がアンロード運転となる。吸入圧力Psが高くなると、感圧用ベローズ3は調整ねじ5側を固定点として収縮し、主弁体4は閉弁ばね44の付勢力により閉弁方向に変位し、図2に示すように、主弁体4が主弁ポート11を全閉とすると、圧縮機のクランク室圧力Pcが吸入圧力Psと実質的に等しい圧力になり圧縮機はフルロード運転となる。なお、調整ねじ5のねじ込み量を調整する事により、感圧用ベローズ3の圧縮量(圧縮荷重)が調整される。これにより感圧制御弁のPs設定(弁閉する)圧力が調整される。
【0027】
以上の図1の状態と図2の状態の間で、吸入圧力Psの変化に応じて、感圧用ベローズ3は調整ねじ5側を固定点として伸縮し、主弁体4のリフト量に応じて主弁ポート11の開度が調整され、圧縮機は容量制御運転となるが、主弁体4が主弁ポート11を開いている時は、逃し弁31aはクランク室連通ポート17の小径部17a内に常時挿通されており、この感圧制御弁側において、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13との間は閉塞されている。このため、圧縮機の容量制御運転中に吐出圧力Pdがクランク室側ポート13を介し、ベローズ収容室2A(吸入側)に流入する事は無く、圧縮機の運転効率を悪化させることもない。
【0028】
図2の状態から、吸入圧力Psがさらに高くなると、図3に示すように、感圧用ベローズ3がさらに収縮し、感圧用ベローズ3がボール42から切り離されて、主弁体4は主弁ポート11の全閉状態を維持する。これにより圧縮機のフルロード運転が維持される。このとき、逃し弁31aは感圧用ベローズ3の収縮に連動して変位し、クランク室連通ポート17の大径部17bに変位するので、このクランク室連通ポート17が開かれ、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13とが連通される。
【0029】
ここで、圧縮機を例えば長期間停止しておき冷媒が液状化してクランク室に留まった状態で圧縮機を起動させると、クランク室圧力は液冷媒の気化によって過大な圧力となる。このとき、前述のように吸入圧力Psも高くなっているので、感圧制御弁は図3の状態となり、クランク室連通ポート17により、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13とが連通された状態となる。そして、図4に矢印で示したように、クランク室圧力が、クランク室側ポート13から、クランク室連通ポート17の小径部17b及び大径部17aを通ってベローズ収容室2A及び吸入圧力側ポート21に抜ける。したがって、圧縮機は速やかにロード運転に移行し、車内を速やかに冷やすことができる。
【0030】
図5は第2実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図、図6は同感圧制御弁の全閉状態の縦断面図、図7は同感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図、図8は図7の要部拡大断面図である。なお、図5は圧縮機のアンロード運転時、図6及び図7は圧縮機のフルロード運転時に対応する。この図5〜図8において、前記第1実施形態と同じ要素には図1乃至図4と同符号を付記してある。なお、その要素の構造、作用効果は前述のとおりであるのでその詳細な説明は省略する。
【0031】
この第2実施形態では、本体ケース1に形成されたガイド孔12内の弁ステム部45に縦孔45aと横孔45bを形成し、この縦孔45aと横孔45bが「クランク室連通ポート」を構成している。なお、主弁体4と弁ステム部45が「主弁部材」を構成しており、弁ステム部45は感圧用ベローズ3の動きを主弁体4に伝達する役割をする。また、感圧用ベローズ3の下端部の下カバー37の中央に、ボール状の逃し弁37aが配設されており、この逃し弁37aは下カバー37に溶接等により固着されている。
【0032】
以上の構成により、吸入圧力Psが低いときは、図5に示すように、感圧用ベローズ3は調整ねじ5側を固定点として伸長し、主弁体4は感圧用ベローズ3の下端の逃し弁37a、弁ステム部45を介し降下し、主弁ポート11を開く。そして、第1実施形態と同様に吐出圧力側ポート15から主弁ポート11を経てクランク室側ポート13に高圧冷媒が流れ、圧縮機はアンロード運転となる。吸入圧力Psが高くなると、感圧用ベローズ3は調整ねじ5側を固定点として収縮し、主弁体4は閉弁ばね44の付勢力により閉弁方向に変位し、図6に示すように、主弁体4が主弁ポート11を全閉とすると、圧縮機のクランク室圧力Pcが吸入圧力Psと実質的に等しい圧力になり、圧縮機はフルロード運転となる。
【0033】
第1実施形態と同様に、図5の状態と図6の状態の間で圧縮機は容量制御運転となるが、主弁体4が主弁ポート11を開いている時は、逃し弁37aは弁ステム部45の縦孔45a(クランク室連通ポート)を常時閉状態としており、この感圧制御弁側において、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13との間は閉塞されている。このため、圧縮機の容量制御運転中に吐出圧力Pdがクランク室側ポート13を介し、ベローズ収容室2A(吸入側)に流入する事は無く、圧縮機の運転効率を悪化させることもない。
【0034】
そして、吸入圧力Psがさらに高くなると、図7に示すように、感圧用ベローズ3がさらに収縮し、逃し弁37aが弁ステム部45から切り離され、主弁体4は主弁ポート11の全閉状態を維持する。これにより、圧縮機のフルロード運転が維持される。このとき、逃し弁37aは感圧用ベローズ3の収縮に連動して変位し、弁ステム部45の縦孔45aを開いて、この縦孔45a及び横孔45b(クランク室連通ポート)を介してベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13とが連通される。
【0035】
また、第1実施形態と同様に、圧縮機の起動時にクランク室圧力が液冷媒の気化によって過大な圧力となると、前述のように吸入圧力Psも高くなっているので、感圧制御弁は図7の状態となり、縦孔45a及び横孔45b(クランク室連通ポート)により、ベローズ収容室2Aとクランク室側ポート13とが連通された状態となる。したがって、図8に矢印で示したように、クランク室圧力が、クランク室側ポート13から、横孔45b、縦孔45aを通ってベローズ収容室2A及び吸入圧力側ポート21に抜け、圧縮機は速やかにロード運転に移行し、車内を速やかに冷やすことができる。
【0036】
図9は第3実施形態の感圧制御弁の全開状態の縦断面図、図10は同感圧制御弁の全閉状態の縦断面図、図11は同感圧制御弁の全閉状態でベローズ最収縮状態の縦断面図である。なお、図9は圧縮機のアンロード運転時、図10及び図11は圧縮機のフルロード運転時に対応する。この図9〜図11において、前記第1実施形態及び第2実施形態と同じ要素には図1乃至図8と同符号を付記してある。なお、その要素の構造、作用効果は前述のとおりであるのでその詳細な説明は省略する。
【0037】
この第3実施形態の感圧制御弁は、本体ケース71と本体ケース71の上部にかしめ結合されたベローズケース72とにより弁ハウジングを構成している。本体ケース71は金属の切削加工等により形成されている。ベローズケース72はステンレス(SUS)板のプレス加工により形成したものであり、このベローズケース72は、大径円筒状で端部を本体ケース71にかしめ結合したベローズ収容函72aと、小径円筒状のプランジャケース72bとを一体に形成して構成されている。また、ベローズケース72(ベローズ収容函72a)の外周にはステンレス(SUS)板のプレス加工により形成した蓋73が嵌合固着されている。蓋73の上部及びプランジャケース72bの外周に電磁コイル装置10が設けられている。
【0038】
ベローズ収容函72aはその内部にベローズ収容室72Aを形成しており、ベローズ収容室72Aには感圧用ベローズ3が配置されている。また、ベローズ収容函72aの側部には吸入圧力側ポート721が形成されており、この吸入圧力側ポート721には圧縮機の吸入圧力Psが導入される。
【0039】
本体ケース71のベローズケース72とは反対側には、弁室71Aが形成され、この弁室71Aとベローズ収容室72Aとの間には、円形の主弁ポート711、円筒形のガイド孔712及びクランク室側ポート713が形成されている。このクランク室側ポート713には圧縮機のクランク室圧力Pcが導入される。また、本体ケース71の下端部には、弁室71Aを画定するばね受け部材74がかしめ結合されており、このばね受け部材74には吐出圧力側ポート75が形成されている。そして、圧縮機の吐出圧力Pdが吐出圧力側ポート75を介して弁室71Aに導入される。
【0040】
弁室71A、主弁ポート711及びガイド孔712内には、円柱状の弁部76aと円柱棒状の弁ステム部76bとを一体形成した主弁部材76が設けられている。弁ステム部76bは感圧用ベローズ3の動きを弁部76aに伝達する役割をする。弁部76aの下部にはフランジ部が形成されており、このフランジ部とばね受け部材74との間に、弁部76aを閉弁方向(上方)へ付勢する閉弁ばね77が設けられている。
【0041】
弁ステム部76bには縦孔76b1と横孔76b2が形成され、この縦孔76b1と横孔76b2が「クランク室連通ポート」を構成している。また、第2実施形態と同様に、感圧用ベローズ3の下端部の下カバー37の中央に、ボール状の逃し弁37aが配設されており、この逃し弁37aは下カバー37に溶接等により固着されている。
【0042】
プランジャケース72bの上端部には電磁コイル装置10の吸引子10aが固着されている。プランジャケース72bの内部にはプランジャ10bが配設されており、このプランジャ10bと吸引子10aとの間にはプランジャばね10cが圧縮して配設されている。プランジャケース72bの外周部には電磁コイル10dが設けられており、電磁コイル10dの励磁により、吸引子10aの下端面がプランジャ10bに対する磁気吸引面となる。感圧用ベローズ3のベローズカバー34の保持部34a内にプランジャ10bの端部の円柱状のボス部10b1が嵌め込まれている。また、感圧用ベローズ3は中間ばね6によりプランジャ10b側に付勢されている。なお、プランジャ10bに対する吸引子10aによる吸引力、閉弁ばね77のばね力及び中間ばね6のばね力の合成力は、プランジャばね10cのばね力より大きく設定されている。また、プランジャばね10cのばね力は、閉弁ばね77のばね力及び中間ばね6のばね力の合成力より大きく設定されている。
【0043】
吸引子10a内には調整ねじ20がその上端部を吸引子10aに螺合されて配設されている。調整ねじ20は、感圧用ベローズ3側に延びるロッド部20aを有し、このロッド部20aは、吸引子10aとプランジャ10bの中心の貫通孔を通して、感圧用ベローズ3のベローズカバー34内まで延びている。なお、この第3実施形態では、感圧用ベローズ3の圧縮量(荷重)の調整を、電磁コイル装置10の通電時に調整ねじ20のねじ込み量を調整し、調整ねじ20のロッド部20aの先端でベローズカバー34を直接圧縮させて行い、感圧制御弁のPs設定(弁閉する)圧力を調整する。
【0044】
以上の構成により、電磁コイル装置10が非通電時(非励磁時)には、図9に示すように、プランジャ10bがプランジャばね10cのばね力により吸引子10aから離間する。これにより、感圧用ベローズ3の下側がベローズ収容室72Aの底部(本体ケース71)に当接し、主弁部材76は最大弁開位置に位置する。そして、吸入圧力Psに変化が生じても、感圧用ベローズ3はベローズ収容室72Aの底部を固定点として伸縮する。これにより、感圧制御弁は最大弁開位置を保持できるから、感圧制御弁を非通電状態にすることで圧縮機のアンロード運転の状態が確実に維持される。
【0045】
また、電磁コイル装置10が通電時(励磁時)には、図10に示すように、プランジャ10bが吸引子10aに吸着した状態となる。この状態で、吸入圧力Psが低くなると、感圧用ベローズ3は、プランジャ10bのボス部10b1側を固定点として伸長し、逆に吸入圧力Psが高くなるとボス部10b1側を固定点として収縮する。これにより、主弁部材76が変位し、圧縮機は容量制御運転となるが、主弁部材76の弁部76aが主弁ポート711を開いている時は、逃し弁37aは弁ステム部76bの縦孔76b1(クランク室連通ポート)を常時閉状態としており、この感圧制御弁側において、ベローズ収容室72Aとクランク室側ポート713との間は閉塞されている。このため、圧縮機の容量制御運転中に吐出圧力Pdがクランク室側ポート713を介し、ベローズ収容室72A(吸入側)に流入する事は無く、圧縮機の運転効率を悪化させることもない。
【0046】
そして、吸入圧力Psがさらに高くなると、図11に示すように、感圧用ベローズ3がさらに収縮し、逃し弁37aが弁ステム部76bから切り離され、主弁部材76は主弁ポート711の全閉状態を維持する。これにより、圧縮機のフルロード運転が維持される。このとき、逃し弁37aは感圧用ベローズ3の収縮に連動して変位し、弁ステム部76bの縦孔76b1を開いて、この縦孔76b1及び横孔76b2(クランク室連通ポート)を介してベローズ収容室72Aとクランク室側ポート713とが連通される。
【0047】
また、第2実施形態と同様に、圧縮機の起動時にクランク室圧力が液冷媒の気化によって過大な圧力となると、前述のように吸入圧力Psも高くなっているので、感圧制御弁は図11の状態となり、縦孔76b1及び横孔76b2(クランク室連通ポート)により、ベローズ収容室72Aとクランク室側ポート713とが連通された状態となる。したがって、クランク室圧力が、クランク室側ポート713から横孔76b2及び縦孔76b1を通ってベローズ収容室72A及び吸入圧力側ポート721に抜け、圧縮機は速やかにロード運転に移行し、車内を速やかに冷やすことができる。
【0048】
この第3実施形態では、電磁コイル装置10の通電/非通電の切り替えにより、圧縮機を確実にアンロード運転とすることができる。したがって、圧縮機(エアコン)のON/OFFのためのマグネットクラッチ等を用いる必要がないため、圧縮機を安価かつ小型に構成することができる。
【0049】
第2実施形態及び第3実施形態では、逃し弁37aは下カバー37に溶接等により固着されているが、この構成に限らず、逃し弁37aは下カバー37に代えて、例えば図12のような下カバー38を感圧用ベローズ3の下端部に設けてもよい。この下カバー38は金属板のプレス加工により形成したものであり、中央部に「逃し弁」としての突出部38aが形成されている。この突出部38aにより、前記弁ステム部45の縦孔45a、あるいは前記弁ステム部76bの縦孔76b1をそれぞれ開閉するように構成すればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 本体ケース
1A 弁室
11 主弁ポート
12 ガイド孔
13 クランク室側ポート
15 吐出圧力側ポート
17 クランク室連通ポート
17a 小径部
17b 大径部
2 ベローズケース
2A ベローズ収容室
21 吸入圧力側ポート
3 感圧用ベローズ
31 下カバー
31a 逃し弁
4 主弁体(弁部、主弁部材)
41 弁ステム部(主弁部材)
42 ボール(主弁部材)
45 弁ステム部
45a 縦孔(クランク室連通ポート)
45b 横孔(クランク室連通ポート)
37 下カバー
37a 逃し弁
71 本体ケース
71A 弁室
711 主弁ポート
712 ガイド孔
713 クランク室側ポート
72 ベローズケース
72A ベローズ収容室
721 吸入圧力側ポート
75 吐出圧力側ポート
76a 弁部
76b 弁ステム部
76 主弁部材
76b1 縦孔(クランク室連通ポート)
76b2 横孔(クランク室連通ポート)
10 電磁コイル装置
10a 吸引子
10b プランジャ
10c プランジャばね
10d 電磁コイル
10b1 ボス部
38 下カバー
38a 突出部(逃し弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入圧力側ポートに連通したベローズ収容室内に収容された感圧用ベローズを有し、圧縮機の吸入圧力の変化に応じて前記感圧用ベローズを伸縮させることにより、主弁部材で吐出圧力側ポートとクランク室側ポート間に設けた主弁ポートを開閉させ、圧縮機の吐出側からクランク室へ流入する冷媒の流量を制御することにより、クランク室圧力を調整し、圧縮機の容量制御を行う感圧制御弁において、
前記ベローズ収容室と前記クランク室側ポートとを連通するクランク室連通ポートを設けるとともに、該クランク室連通ポートのベローズ収容室の側に、前記感圧用ベローズの伸縮に連動して該クランク室連通ポートを開閉する逃し弁を設け、
前記吸入圧力が低い時には、前記逃し弁が前記クランク室連通ポートを閉じ、
前記吸入圧力が高い時には、前記主弁部材が前記主弁ポートを閉じるとともに、前記逃し弁が前記クランク室連通ポートを開くようにしたことを特徴とする感圧制御弁。
【請求項2】
前記クランク室連通ポートが、前記主弁ポートが形成された本体ケースの中心よりも外側に形成され、前記逃し弁が前記感圧用ベローズの前記本体ケース側の端部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の感圧制御弁。
【請求項3】
前記クランク室連通ポートが、前記主弁部材の弁部に感圧用ベローズの動きを伝達する弁ステム部に形成され、前記逃し弁が前記感圧用ベローズの前記本体ケース側の端部の中央に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の感圧制御弁。
【請求項4】
前記感圧用ベローズの前記主弁部材とは反対側に連結されたプランジャを駆動して該感圧用ベローズを弁閉側に移動する電磁コイル装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の感圧制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−87863(P2013−87863A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228784(P2011−228784)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】