説明

懸濁重合用分散安定剤

【課題】 添加量が少なくても重合安定性に優れるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤を提供すること。
【解決手段】 けん化度が60モル%以上、粘度平均重合度が200以上のビニルアルコール系重合体(A)、および、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が200〜1000であり、けん化度が60モル%未満のビニルアルコール系重合体(B)とを含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。

【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子、またはアンモニウム基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁重合用分散安定剤に関する。特にビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、塩化ビニルを初めとするビニル系化合物を懸濁重合するに際し、分散安定剤として部分けん化ビニルアルコール系重合体を用いることが知られている。
ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤には、[1]少量の使用でも可塑剤の吸収性が高く加工が容易であること、[2]残存するビニル系化合物等のモノマー成分の除去が容易であること、[3]粗大粒子が少ないこと、[4]できるだけ粒子径が均一な粒子が得られ、スケール付着を防止できること、等が必要な性能として求められている。
【0003】
これらの要求に対し、例えば、ビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤に、低重合度、低けん化度のビニルアルコール系樹脂を分散安定助剤として併用する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1(特開平4−154810号公報)には、側鎖にアミノ基、アンモニウム基、カルボキシル基またはスルホン酸基を有し、けん化度70モル%以下のポリビニルエステル系重合体を分散質とする水性分散液からなるビニル系化合物の懸濁重合用の分散助剤が開示されている。
【0005】
特許文献2(特開平10−259213号公報)には、例えばオキシアルキレン基を含有する部分ケン化ビニルエステル系樹脂水溶液が、ビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤として有用性が高いことが記載されている。
【0006】
特許文献3(WO91/15518号公報)には、末端にイオン性基を有するポリビニルエステル系重合体または該ポリビニルエステル系重合体をけん化して得られるけん化度90モル%以下のポリビニルアルコール系重合体を分散剤として用いる、ビニル系化合物の懸濁重合方法が開示されている。
【0007】
特許文献4(特開平10−168128号公報)には、片末端にイオン性基を有するけん化度10〜85モル%、重合度50〜3000のポリビニルアルコール系重合体が開示されており、ビニル系化合物の懸濁重合に有用であることが記載されている。
【0008】
特許文献5(特開平10−152508号公報)には、水性分散液とした場合のpHが4.0〜7.0で、側鎖又は末端にイオン性基を10モル%以下含有し、ケン化度が60モル%以下のビニルエステル系重合体からなる、ビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤が開示されている。
【0009】
特許文献6(特開平9−183805号公報)には、側鎖又は末端にスルホン酸基(A)を0.01〜0.3モル%及びカルボキシル基(B)を0.05〜1.0モル%有し、且つ(A)、(B)のモル比が0.01≦(A)/(B)≦0.5で、ケン化度が60モル%以下のポリビニルエステル系重合体からなる、ビニル系化合物の懸濁重合用分散助剤が開示されている。
【0010】
特許文献7(特開平8−259609号公報)には、エチレン単位の含有量1〜24モル%およびけん化度が80モル%より大の変性ポリビニルアルコール(A)ならびにけん化度60〜95モル%および重合度600以上のポリビニルアルコール系重合体(B)を、重量比で(A)成分/(B)成分が1/9〜8/2の割合で混合してなるビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1〜7に記載された懸濁重合用分散安定助剤を用いた場合でもなお、前記した[1]〜[4]の要求性能を満たすためには相当量を添加しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−154810号公報
【特許文献2】特開平10−259213号公報
【特許文献3】WO91/15518号公報
【特許文献4】特開平10−168128号公報
【特許文献5】特開平10−152508号公報
【特許文献6】特開平9−183805号公報
【特許文献7】特開平8−259609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、塩化ビニルを初めとするビニル系化合物を懸濁重合するに際して、前記した[1]〜[4]の要求性能を充足し、さらに添加量が少なくても重合安定性に優れる懸濁重合用分散安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、けん化度が60モル%以上、粘度平均重合度が200以上のビニルアルコール系重合体(A)、および、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が200〜1000であり、けん化度が60モル%未満であるビニルアルコール系重合体(B)を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤が、上記した課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子、またはアンモニウム基を表す。)
【0016】
このとき、ビニルアルコール系重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A)/(B)が99/1〜5/95であることが好ましい。
【0017】
本発明は、上記の懸濁重合用分散安定剤の存在下に、ビニル系化合物を懸濁重合するビニル系重合体の製造方法をも包含する。このとき、ビニル系化合物100重量部に対するビニルアルコール系重合体(B)の使用量は、0.002〜0.05重量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の懸濁重合用分散安定剤を用いてビニル系化合物の懸濁重合を行った場合には、前記した[1]〜[4]の要求性能を充足し、さらに添加量が少なくても重合安定性に優れるという効果を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において用いられるビニルアルコール系重合体(A)(以下、ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)のけん化度は60モル%以上であり、好ましくは65〜95モル%であり、さらに好ましくは70〜90モル%である。けん化度が60モル%未満の場合には、PVAの水溶性が低下して取扱性が悪化する。なお、PVAのけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0020】
また、PVA(A)の粘度平均重合度は200以上であり、好ましくは500以上であり、より好ましくは550〜8000であり、さらに好ましくは600〜3500である。PVAの粘度平均重合度が200未満の場合には、ビニル系化合物を懸濁重合する際の重合安定性が低下する。
【0021】
PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、該PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式により求められる。

P=([η]×10/8.29)(1/0.62)

なお、粘度平均重合度は、単に重合度と呼ぶことがある。
【0022】
本発明の懸濁重合用分散安定剤において、PVA(A)は単独で使用してもよいし、特性の異なる2種類以上のものを併用してもよい。
【0023】
本発明において用いられるPVA(B)は、上記一般式(I)で表される基を末端に有する。
【0024】
Mで示されるアルカリ金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。Mで示される1/2アルカリ土類金属原子としては、1/2マグネシウム原子、1/2カルシウム原子等が挙げられる。Mが1/2アルカリ土類金属原子である場合は、残りの1/2アルカリ土類金属原子(すなわち2価のアルカリ土類金属原子の残りの結合手)は、一般式(I)における酸素原子、下記一般式(II)における酸素原子、P(H22)等と結合してよい。
【0025】
【化2】


(ただし、Mは水素原子、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属原子、またはアンモニウム基を表す。)
【0026】
PVA(B)は上記一般式(II)で表される基を主鎖中に含んでもいてもよい。
【0027】
PVA(B)の重合度は200〜1000である。重合度が1000を超えるとビニル系化合物の懸濁重合により得られるビニル系重合体粒子からモノマー成分を除去するのが困難になり、あるいは可塑剤吸収性が低下し、好ましくない。重合度が200未満の場合、重合体としてのPVAの物性が発現しなくなるため好ましくない。なお、PVA(B)の重合度は、上記で説明したPVA(A)の重合度の測定方法と同様の方法で測定される。
【0028】
PVA(B)のけん化度は、水溶性、水分散性の観点から60モル%未満であり、好ましくは58モル%以下、より好ましくは55モル%以下、さらに好ましくは52モル%以下である。けん化度の下限については特に制限はないが、部分けん化PVA系重合体の製造上の観点から、けん化度は10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。なお、PVA(B)のけん化度は、JIS−K6726に準じて測定し得られる値である。
【0029】
PVA(B)の製造方法は、得られるPVAが一般式(I)で表される基を末端に有する限り特に制限はないが、例えば、ビニルエステル系単量体を、リンを含む化合物の存在下でラジカル重合する工程、および得られた重合体をけん化する工程を含む方法によって製造することができる。
【0030】
ビニルエステル系単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられるが、中でも酢酸ビニルが最も好ましい。
【0031】
リンを含む化合物としては、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アンモニウムおよびその水和物などの次亜リン酸化合物等が挙げられるが、工業的には最も安価な次亜リン酸ナトリウムまたはその水和物が好適に用いられる。
【0032】
リンを含む化合物の使用量は、特に制限はなく、PVA(B)に導入したい一般式(I)で表される基の量に応じて適宜設定すればよい。リンを含む化合物の使用量は、ビニルエステル系単量体100重量部に対して0.001〜30重量部が好ましい。
【0033】
ビニルエステル系単量体の重合は、アルコール系溶媒等の溶媒中で、または無溶媒で行うことができる。
【0034】
ビニルエステル系単量体の重合を行うのに用いられる重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を用いることができる。その中でも、無溶媒またはアルコール系溶媒中で重合を行う塊状重合法や溶液重合法が好適に採用され、高重合度の共重合物の製造を目的とする場合は乳化重合法が採用される。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの溶媒は2種類またはそれ以上の種類を混合して用いることができる。共重合に使用される開始剤としては、重合方法に応じて従来公知のアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、過酸化物系開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。さらには、上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤とすることもできる。また、レドックス系開始剤としては、上記の過酸化物と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。また、ビニルエステル系単量体の重合を高い温度で行った場合、ビニルエステル系単量体の分解に起因するPVAの着色等が見られることがあるため、その場合には着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤を1〜100ppm(ビニルエステル系単量体に対して)程度添加することはなんら差し支えない。
【0035】
ビニルエステル系単量体の重合を行う際に採用される温度は0〜200℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。重合を行う温度が0℃より低い場合は、十分な重合速度が得られないため好ましくない。また、重合を行う温度が200℃より高い場合、目的とするPVAを得ることが困難になるため好ましくない。重合を行う際に採用される温度を0〜200℃に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する発熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の面からは後者の方法が好ましい。
【0036】
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の主旨を損なわない範囲で他の単量体と共重合しても差し支えない。ビニルエステル系単量体と共重合可能な単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリル酸アミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のオキシアルキレン基含有単量体;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0037】
また、ビニルエステル系単量体の重合に際し、得られるPVAの重合度を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、n−ドデカンチオール、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;テトラクロロメタン、ブロモトリクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハライド類が挙げられる。
【0038】
リンを含む化合物存在下でのビニルエステル系単量体の重合により、リンを含む化合物を末端に組み込んだビニルエステル(共)重合体が得られる。
【0039】
ビニルエステル系重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒またはp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた加アルコール分解反応ないし加水分解反応を適用することができる。この反応に使用しうる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメタノールまたはメタノール/酢酸メチル混合溶液を溶媒とし、水酸化ナトリウムを触媒に用いてけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0040】
以上の方法によれば、一般式(I)で表される基を末端に有するPVA、および一般式(I)で表される基を末端に有し、かつ一般式(II)で表される基を主鎖中に有するPVAを、混合物として得ることができる。
【0041】
PVA(B)において、一般式(I)で表される基の変性量が0.01〜0.9モル%であることが好ましい。0.01モル%未満では、分散助剤の水分散液の放置安定性が悪くなるおそれがあり、0.9モル%を超える場合は親水性が強く、懸濁重合時の分散安定剤の保護コロイド性を低下させるおそれがある。
【0042】
本発明の懸濁重合用分散安定剤におけるPVA(A)とPVA(B)との重量比(A)/(B)は特に制限されないが、99/1〜5/95であることが好ましい。重量比(A)/(B)が99/1よりも大きい場合には、ビニル系化合物の懸濁重合によって得られるビニル系重合体の可塑剤吸収能が悪化したり、粒度分布が広くなるおそれがある。重量比(A)/(B)は97/3以下であることがより好ましく、95/5以下であることがさらに好ましい。重量比(A)/(B)が5/95よりも小さい場合には、ビニル系化合物を懸濁重合する際に重合安定性が低下するおそれがある。重量比(A)/(B)は10/90以上であることがより好ましく、15/85以上であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、ビニル系化合物の懸濁重合に用いられる。ビニル系化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステルおよび塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステルおよび無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。これらのうち、本発明の懸濁重合用分散安定剤は、特に好適には塩化ビニルを単独で、または塩化ビニルおよび塩化ビニルと共重合することが可能な単量体と共に懸濁重合する際に用いられる。塩化ビニルと共重合することができる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル、スチレン、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。
【0044】
ビニル系化合物の懸濁重合に際して、本発明の懸濁重合用分散安定剤の使用量は特に制限されないが、ビニル系化合物100重量部に対してPVA(B)の使用量が0.002〜0.05重量部であることが好ましく、0.003〜0.04重量部であることがより好ましく、0.005〜0.02重量部であることがさらに好ましい。PVA(B)の使用量が0.002重量部よりも少ない場合には、ビニル系化合物の懸濁重合によって得られるビニル系重合体の可塑剤吸収能が悪化したり、粒度分布が広くなるおそれがある。PVA(B)の使用量が0.05重量部よりも多い場合には、ビニル系化合物を懸濁重合する際に重合安定性が低下するおそれがある。
【0045】
ビニル系化合物の懸濁重合には、従来から塩化ビニル単量体等の重合に使用されている、油溶性または水溶性の重合開始剤を用いることができる。油溶性の重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。水溶性の重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの油溶性あるいは水溶性の重合開始剤は単独で、または2種類以上を組合せて用いることができる。
【0046】
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、必要に応じて、重合反応系にその他の各種添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類等の重合調節剤、フェノール化合物、イオウ化合物、N−オキサイド化合物等の重合禁止剤等が挙げられる。また、pH調整剤、架橋剤等も任意に加えることができる。
【0047】
ビニル系化合物の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度の低い温度はもとより、90℃を超える高い温度に調整することもできる。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることも好ましい実施態様の一つである。
【0048】
本発明の懸濁重合用分散安定剤には、必要に応じて、懸濁重合に通常使用される防腐剤、防黴剤、ブロッキング防止剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。
【0049】
本発明の懸濁重合用分散安定剤は単独で使用してもよいが、ビニル系化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用されるメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル、ゼラチン等の水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロックコポリマー等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等を併用してもよい。その添加量については特に制限は無いが、ビニル系化合物100重量部あたり0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、特に断りがない場合、部および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0051】
製造例1
(PVA(B−1)の製造)
メタノール300gおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物2.0gを反応器に仕込み、ホスフィン酸ナトリウム・一水和物のメタノール溶液を調整した。次いで、酢酸ビニル1200gを反応器に仕込み、窒素ガスのバブリングにより反応器内を窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3gを反応器に添加して重合を開始した。重合中は重合温度を60℃に維持した。4時間後に重合率が50%に達したところで冷却して重合を停止した。次いで、減圧下にて未反応の酢酸ビニルを除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を得た。40%に調整したPVAc溶液にアルカリモル比(NaOHのモル数/PVAc中の酢酸ビニル単位のモル数)が0.003となるようにNaOHメタノール溶液(10%濃度)を添加してけん化した。アルカリ溶液を添加後、約45分でゲル状物が生成したので、これを粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル1000gを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノール4000gを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置してPVA(B−1)を得た。この重合体の粘度平均重合度は760、けん化度は50モル%であった。
【0052】
得られたPVA(B−1)の一般式(I)で表される基の変性量は、1H−NMRにより以下のようにして求めた。得られたPVA(B−1)をメタノールで48時間ソックスレー抽出による精製を行った後、d6−DMSOに溶解し、500MHzの1H−NMR(JEOL GX−500)を用いて分析を行い、PVAの主鎖メチレンに由来するピーク(1.1〜1.9ppm)の面積αと一般式(I)で表される基のリンに付いたプロトンに由来するピーク(7.5〜7.7ppmと6.3〜6.6ppm)の面積βから、下記式を用いて一般式(I)で表される基の変性量を算出した。PVA(B−1)において、一般式(I)で表される基の変性量は0.18モル%であった。

一般式(I)で表される基の変性量(モル%)={((ピーク面積β))/((ピーク面積α/2)+((ピーク面積β)))}×100
【0053】
製造例2〜8
酢酸ビニル、メタノールおよびホスフィン酸ナトリウム・一水和物の仕込み量、けん化時における酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を変更した以外は、製造例1と同様にしてPVA(B−2)〜PVA(B−8)を得た。
【0054】
実施例1
(塩化ビニルの懸濁重合)
重合度850、けん化度72モル%のPVA(A)を塩化ビニル単量体に対して800ppm、上記で得られたPVA(B−1)を塩化ビニル単量体に対して200ppm、それぞれ脱イオン水に溶解させ、分散安定剤を調整した。このようにして得られた分散安定剤を、スケール付着防止剤NOXOL WSW(CIRS社製)が固形分として0.3g/mになるように塗布されたグラスライニング製オートクレーブに仕込んだ。次いで、グラスライニング製オートクレーブにジイソプロピルパーオキシジカーボネートの70%トルエン溶液0.04部を仕込み、オートクレーブ内の圧力が0.0067MPaとなるまで脱気して酸素を除いた後、塩化ビニル30部を仕込み、オートクレーブ内の内容物を63℃に昇温して撹拌下に重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は10.2MPaであった。重合を開始してから5時間経過後のオートクレーブ内の圧力が0.5MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニルを除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0055】
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
塩化ビニル重合体粒子について、粒度分布、可塑剤吸収性、残留モノマー量およびスケール付着量を以下の方法にしたがって測定した。評価結果を表1に示す。
【0056】
(1)塩化ビニル重合体粒子の粒度分布
JIS標準篩い42メッシュオンの含有量を重量%で表示した。
A : 0.5%未満
B : 0.5%以上1%未満
C : 1%以上
JIS標準篩い80メッシュオンの含有量を重量%で表示した。
A : 5%未満
B : 5%以上10%未満
C : 10%以上
数字が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布がシャープであり、重合安定性に優れていることを示している。
【0057】
(2)可塑剤吸収量
ASTM−D3367−75に記載された方法にしたがって、23℃におけるジオクチルフタレート(DOP)の吸収量(%)を測定した。
【0058】
(3)残留塩化ビニルモノマー量
塩化ビニル重合体粒子1gをテトラヒドロフラン25gに溶解して、ガスクロマトグラフにより塩化ビニル樹脂中に残留した塩化ビニルモノマー含有量を定量した。
A : 5ppm未満
B : 5ppm以上10ppm未満
C : 10ppm以上
【0059】
(4)スケール付着量(フィッシュアイ)
塩化ビニル重合体粒子100部、ジオクチルフタレート(DOP)50部、三塩基性硫酸鉛5部およびステアリン酸鉛1部を7分間150℃でロール練りして、厚み0.1mm、1400mm×1400mmのシートを5枚作製し、フィッシュアイの数を測定した。1000cm当たりのフィッシュアイ個数に換算し、以下の基準で評価した。
A : 0〜3個であり、極めて少ない
B : 4〜10個であり、少ない
C : 11個以上であり、多い
【0060】
実施例2〜6
PVA(B−1)の替わりに、PVA(B−2)〜PVA(B−6)を使用した以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。使用したPVA(B)と得られた塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表1に示す。
【0061】
実施例7および8
PVA(B−1)の使用量を変更した以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。使用したPVA(B)と得られた塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表1に示す。
【0062】
比較例1
PVA(B−1)を使用せず、PVA(A)の粉末をそのまま分散安定剤として用いた以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を試みたが、塩化ビニルがブロック化して重合を行うことができず、塩化ビニル重合体粒子を得ることはできなかった。
【0063】
比較例2および3
PVA(B−1)の替わりに、PVA(B−7)またはPVA(B−8)を使用した以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。使用したPVA(B)と得られた塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表1に示す。得られた塩化ビニル重合体粒子は粗大粒子を含んでおり、均一な重合体粒子が得られず、またスケール付着量も多く安定な重合ができなかった。
【0064】
比較例4
PVA(A)を使用せず、PVA(B−1)のみを塩化ビニル単量体に対して200ppmに相当する量で用いた以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を試みたが、塩化ビニルがブロック化して重合を行うことができず、塩化ビニル重合体粒子を得ることはできなかった。
【0065】
比較例5
PVA(B−1)の替わりに、重合度760、けん化度50モル%の片末端カルボン酸変性PVA(C−1)を塩化ビニル単量体に対して50ppmに相当する量で用いた以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。評価結果を表1に示す。得られた塩化ビニル重合体粒子は粗大粒子を含んでおり、均一な重合体粒子が得られず、可塑剤吸収性も不十分であった。また、残留モノマー量も多かった。さらに、スケール付着量も多く安定な重合ができなかった。
【0066】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度が60モル%以上、粘度平均重合度が200以上のビニルアルコール系重合体(A)、および、下記一般式(I)で表される基を末端に有するビニルアルコール系重合体であり、ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度が200〜1000であり、けん化度が60モル%未満であるビニルアルコール系重合体(B)を含有するビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【化1】


(式中、Rは水素原子またはOM基を表し、Mは、水素原子、アルカリ金属原子、1/2アルカリ土類金属原子、またはアンモニウム基を表す。)
【請求項2】
ビニルアルコール系重合体(A)とビニルアルコール系重合体(B)との重量比(A)/(B)が99/1〜5/95である請求項1に記載のビニル系化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の懸濁重合用分散安定剤の存在下に、ビニル系化合物を懸濁重合するビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
ビニル系化合物100重量部に対するビニルアルコール系重合体(B)の使用量が0.002〜0.05重量部である、請求項3に記載のビニル系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−1653(P2012−1653A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139081(P2010−139081)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】