説明

成分濃度測定方法および装置

【課題】血液グルコース濃度等の成分濃度を高い精度で測定する。
【解決手段】レーザダイオード1−1,1−2は、異なる波長の2波の光を同一周波数で且つ異なる位相の信号により強度変調して被測定物13に照射する。レーザドライバ2は、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを変化させる。音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出する。情報処理装置12は、測定信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、任意の時間経過後に測定信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、第1、2の変曲点のそれぞれにおける2つの強度変調光の光パワーの差を測定する。情報処理装置12は、第2の変曲点における光パワーの差と第1の変曲点における光パワーの差との変化量から、任意の時間経過後の測定対象の成分濃度を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の血漿中に存在するグルコースの濃度測定、あるいはそれ以外の血漿中に存在する成分の濃度測定にも適用可能な、光音響法による成分濃度測定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病予防のためには、血漿中に存在するグルコース濃度を正確に測定する必要が有る。糖尿病患者の血糖値を連続モニターするための方法として光音響法があり、簡単にまとめると、以下のような特徴がある。
(a)光音響法は、連続的な血液グルコース監視を提供する。
(b)糖尿病患者にとって無痛で、血液サンプルを必要とせず、糖尿病患者に不快感を与えることがない。
(c)他の光学的な技術と比べて、散乱メディアによる効率の悪化がない。
(d)光学と音響学の結合により高感度の特性を得ることができる。
【0003】
光音響法には、パルス(pulse)法と連続波(continuous-wave、以下CWとする)法の二つの方式がある。パルス法には、高感度を得るために高い光パワーを使わなければいけないという欠点があった。一方、CW法には、反射表面のところの特性が変わると信号強度も変わる、すなわち再現性がないという欠点があった。しかし、高い光パワーは人体にとって安全性の面で問題になる可能性があるので、CW法を採用することが好ましい(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。パルス法やCW法では、音響波の振幅が成分濃度と比例することを利用して、成分濃度を定量している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−125542号公報
【特許文献2】特開2008−125543号公報
【特許文献3】特開2008−145262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のパルス法やCW法では、数回にわたる血漿中のグルコース濃度測定中に、グルコース濃度以外の他の血漿中パラメータ(例えば体温や、他の成分の濃度等)も変わる可能性が高いので、グルコース選択性が悪く、正確なグルコース濃度を得ることが難しいという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、血液グルコース濃度等の成分濃度を高い精度で測定することができる成分濃度測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成分濃度測定方法は、測定対象の成分の濃度が既知の被測定物に対して強度変調光を照射する第1の光照射ステップと、この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第1の位相測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第2の光照射ステップと、この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第2の位相測定ステップと、前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第3の位相測定ステップと、前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量から、前記任意の時間経過後の測定対象の成分濃度を導出する濃度導出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第1の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第1の変曲点における光パワーとの差を測定し、前記第2の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第2の変曲点における光パワーとの差を測定することを特徴とするものである。
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記濃度導出ステップは、前記光パワーの変化量と初期状態の測定対象の光吸収係数と前記任意の時間経過後の測定対象の光吸収係数変化量とから、測定対象の成分濃度の変化量を求め、この成分濃度の変化量と前記既知の成分濃度とから、前記任意の時間経過後の測定対象の成分濃度を導出することを特徴とするものである。
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例は、さらに、被測定物の光吸収スペクトル測定を行い、測定したスペクトルから前記光吸収係数と前記光吸収係数変化量を求める光吸収スペクトル測定ステップを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の成分濃度測定方法の1構成例において、前記第1、第2の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光を放出する2つの光照射手段の駆動電圧の差を光パワーの差として測定し、前記濃度導出ステップは、駆動電圧差と光パワーの変化量との関係を示すキャリブレーションデータを参照して、前記第2の光パワー測定ステップで測定した駆動電圧差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した駆動電圧差との変化量から、光パワーの変化量を求めることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の成分濃度測定装置は、被測定物に対して光を照射する光照射手段と、光パワーを制御する光パワー制御手段と、この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、前記電気信号の位相を測定する位相測定手段と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、任意の時間経過後の光パワーの変化量から、測定対象の成分の濃度を導出する濃度導出手段とを備え、前記光照射手段は、第1の時刻において測定対象の成分の濃度が既知の被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、前記位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記濃度導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量から、前記第4の時刻における測定対象の成分濃度を導出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つの強度変調光の波長を適宜選択することで、濃度と光パワーとの関係の特性の勾配に異なる物質間で差を生じさせることが可能となる。したがって、本発明では、特定の測定対象に対するセンサ反応が最大となるように光波長を適宜選択することで、測定対象の選択性を向上させることができ、異なる複数の物質を含む被測定物において測定対象の成分濃度を高い精度で測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】近赤外スペクトルの範囲内の光波長におけるグルコース水溶液とアルブミン水溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】従来の成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2の成分濃度測定装置によって得られた血液グルコース濃度と光音響信号の最大振幅との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】異なる波長の2つの光によって音響波が生成される様子を説明する図である。
【図7】被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度のときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図8】被測定物の血液グルコース濃度およびアルブミン濃度が変化したときに光パワーを変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置でグルコース濃度とアルブミン濃度を測定した結果を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係る成分濃度測定装置の測定結果を示す図および測定結果の拡大図である。
【図12】光パワーバランス−位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[発明の原理]
本発明では、血液グルコース濃度を正確に測定するために、光音響信号の振幅が光吸収係数に依存する原理を利用して、光波長によりグルコース選択性が良くなる新しい成分濃度測定方法であるOptical Power Balance Shift方法(以下、OPBS方法と省略)を提案する。
【0013】
本発明の測定方法は、光波長が異なり位相差がπの2つの光ビームのパワーを増減させながら、光音響信号の振幅が極小な箇所の位相の変曲点を探して、その結果から血液中に溶解している分子濃度を測る方法である。この方法は血漿中のグルコース成分だけではなく、他の血漿成分(アルブミンやコレステロールなど)の検出法として適用を拡大することもできる。
その検出法のコンセプトを説明するために以下に理論式を使う。光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、Kは定数、βは被測定物の熱膨張係数、vは音速、nはセットアップに依存する実験系パラメータ、Cpは被測定物の比熱、αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワーである。
また、2つの差分信号の設定を使った場合、光音響信号強度Sは次式のように表すことができる。
【0016】
【数2】

【0017】
式(2)におけるP1,P2は光パワー、α1,α2はそれぞれ光パワーがP1,P2の光に対する被測定物の光吸収係数である。
課題となるのは、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使えないことである。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化(Normalization)を行った。
【0018】
これに対して、本発明の測定方法では、2つの光ビームのうち一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えながら、光音響信号強度Sが最低となる光パワーP1を探す。理論的には、光音響信号強度Sの最低値は0であるが、実験的には、ノイズが存在するため、0にはならない。このときの光音響信号強度Sは1波長の光ビームを用いる場合の光音響信号強度よりもおよそ100倍小さくなる。簡単に説明をするために、ここではノイズを無視して、光音響信号強度Sを0とする。S=0の場合には、次式のように新しい理論式が書ける。
α11−α22=0 ・・・(3)
【0019】
測定したい成分の濃度が変化した場合、例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、式(3)が成立する状態から式(4)の状態に変化する。
(α1+δα1g)P1−(α2+δα2g)P2≠0 ・・・(4)
【0020】
S=0の状態に戻すために一方の光ビームのパワー(例えばP1)を変えると次式が成立する。
(α1+δα1g)(P1+δP1)−(α2+δα2g)P2=0 ・・・(5)
式(5)より次式が得られる。
【0021】
【数3】

【0022】
式(5)、式(6)におけるδP1は光パワーP1の変化量である。式(6)より、本発明では、光パワーの変化量δP1と既知の光吸収係数α1,α2および光吸収係数変化量δα1,δα2から血液グルコース濃度を測ることができることが分かる。
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は近赤外スペクトルの範囲内の光波長におけるグルコース水溶液とアルブミン水溶液の吸収スペクトルを示す図である。図1における100はグルコース水溶液の吸収スペクトルを示し、101はアルブミン水溶液の吸収スペクトルを示している。図1の横軸は光波長、縦軸は相対吸収係数である。
【0024】
図1によれば、グルコース水溶液とアルブミン水溶液の吸収スペクトルが重なっている部分もあるが、吸収係数の最大値が得られる光波長の値および吸収係数の最小値が得られる光波長の値はグルコースとアルブミンで異なる。すなわち、グルコースとアルブミンでは、吸収スペクトルの光波長依存性が違うことが分かる。したがって、このような光波長依存性を考慮して慎重に光波長を選択することで、1つの特定の合成物の選択性を向上させることは可能である。
【0025】
図2は従来の成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。この成分濃度測定装置は、レーザ光を放射するレーザダイオード200と、レーザダイオード200を駆動するレーザドライバ201と、レーザダイオード200から放射されたレーザ光を導く光ファイバ202と、光ファイバ202を固定して、人体または人体の一部である被測定物210にレーザ光を照射する光ファイバホルダ203と、光音響効果によって被測定物210から発生する光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する音響センサ204と、音響センサ204から出力された電気信号を増幅する増幅器205と、参照信号を発生する関数発生器206と、増幅器205の出力信号と関数発生器206から出力された参照信号とを入力として、増幅器205の出力信号から所望の周波数の測定信号を検出するロックインアンプ207と、レーザドライバ201に駆動電流を供給する電圧−電流コンバータ208と、関数発生器206およびロックインアンプ207を制御すると共に、ロックインアンプ207が検出した測定信号を処理して血液グルコース濃度を導出するコンピュータからなる情報処理装置209とから構成される。
【0026】
図2に示した成分濃度測定装置を用いて2つの光波長1382nmと1610nmの各々について血液グルコース濃度と光音響信号の最大振幅との関係を調べた結果を図3に示す。図3における300は光波長が1382nmのときの1回目の測定結果を示し、301は光波長が1610nmのときの1回目の測定結果を示している。また、302は光波長が1382nmのときの2回目の測定結果を示し、303は光波長が1610nmのときの2回目の測定結果を示している。図3の横軸は血液グルコース濃度、縦軸は光音響信号の最大振幅である。
【0027】
光音響信号の最大振幅は、血液グルコース濃度に反比例した線形関係の類似的傾向を示している。しかし、類似の成分濃度測定を2回実行しても、信号のばらつきが大きく、また低濃度領域ではノイズも大きく、精度が低下している。したがって、従来の成分濃度測定装置では、特に低濃度範囲において正確なグルコース濃度を得ることが難しいことが分かる。
【0028】
本実施の形態では、光音響信号の振幅情報に基づく新しい成分濃度測定方法を提供する。図4は本実施の形態に係る成分濃度測定装置の構成を示すブロック図である。成分濃度測定装置は、レーザ光を放射する第1の光照射手段となるレーザダイオード1−1と、レーザ光を放射する第2の光照射手段となるレーザダイオード1−2と、レーザダイオード1−1,1−2を駆動するレーザドライバ2と、レーザダイオード1−1,1−2から放射されたレーザ光を導く光ファイバ3−1,3−2と、レーザダイオード1−1,1−2から放射されたレーザ光を合波する光カプラ4と、光カプラ4によって合波されたレーザ光を導く光ファイバ5と、被測定物13を収容するケースである光音響セル6と、レーザ光を透過させるガラス製の光学窓7と、光音響効果によって被測定物13から発生する光音響信号を検出し、音圧に比例した電気信号に変換する光音響信号検出手段となる音響センサ8と、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する増幅器9と、参照信号を発生する関数発生器10と、増幅器9の出力信号と関数発生器10から出力された参照信号とを入力として、増幅器9の出力信号から所望の周波数の測定信号を検出するロックインアンプ11と、関数発生器10およびロックインアンプ11を制御すると共に、ロックインアンプ11が検出した測定信号を処理して血液グルコース濃度を導出するコンピュータからなる情報処理装置12とから構成される。
【0029】
レーザダイオード1−1,1−2の例としては、例えば分布帰還型半導体レーザ(DFB−LD)等がある。音響センサ8の例としては、マイクロホンがある。
図5は情報処理装置12の構成を示すブロック図である。情報処理装置12は、関数発生器10を制御する関数発生器制御部120と、測定信号の周波数を測定する周波数測定部121と、測定信号の位相を測定する位相測定部122と、光パワーを制御する光パワー制御部123と、測定信号の周波数と位相の情報を記録する情報記録部124と、2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定部125と、血液グルコース濃度を導出するグルコース濃度導出部126と、情報記憶のための記憶部127とを有する。
【0030】
本実施の形態では、2つの波長の光を用いた従来技術(特許文献1参照)で定義されるような利点を活用する。互いに異なる波長の2波のレーザ光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して矩形波ビームを生成し、この矩形波ビームを合波した上で被測定物(例えば、血漿)に照射すると、2つのレーザ光が、それぞれの光吸収係数で被測定物に吸収される。その結果、光音響効果(被測定物で吸収される光学エネルギーが熱エネルギーに変わって、その熱エネルギーによる体積膨張により音響波が発生する効果)によって音響波が生成される(図6)。図6における60はレーザダイオード1−1から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示し、61はレーザダイオード1−2から放射された矩形波ビームによる光音響信号を示している。音響波は、2つのレーザ光の各々による2つの信号αP(αは被測定物の光吸収係数、Pは光パワー)の強度の差に比例する。
【0031】
本実施の形態では、最初に、既知の参照血液グルコース濃度により参照光音響信号のレベル(信号振幅)を定める。血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度から変化するとき、2つの光による光音響信号の振幅は光波長と光吸収係数によって変わる。このとき、光波長は、図1に示した吸収スペクトルに基づきあらかじめ決定されている。2つの光のパワーを変化させ、血液グルコース濃度の変化による光吸収効果とのバランスをとり、光音響信号の振幅を参照血液グルコース濃度のときに定めた参照光音響信号のレベルに戻す。
【0032】
1つの光を被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度S(信号振幅)は上記の式(1)のように表すことができる。また、互いに異なる波長の2つの光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調して被測定物に照射した場合、生成される光音響信号の強度Sは上記の式(2)のように表すことができる。ただし、上記で説明したとおり、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度または混合物の濃度に依存するため、光音響信号強度Sをそのまま血液グルコース濃度の算出に使うことはできない。このような依存性を抑えるために、特許文献1に開示された測定方法では、一方の波長の信号で規格化を行った。
【0033】
本実施の形態の測定方法では、式(2)の(α11−α22)により光音響信号強度Sを最小にする光パワーP1またはP2を探索する。この光音響信号強度Sの最小値をノイズの範囲内で決定する。実際的には、光パワー出力を変えるために、図4のレーザ電圧を調整する範囲を考慮して2つの波長(λ1、λ2)、2つの光吸収係数(α1、α2)に対して、光パワーを(P1,P2)と決定する。
【0034】
図7は被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図7の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。図7における70は光音響信号の振幅を示し、71は光音響信号の位相を示している。光パワーバランスは、2つの光のパワーの関係をレーザ電圧で表現しており、2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点を0としている。光パワーバランスが0より小の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が低くなり、一方、光パワーバランスが0より大の領域では、光パワーP1よりも光パワーP2の方が高くなっている。
【0035】
図7から明らかなように、光パワーバランスが0の点、すなわち2つのレーザ光の各々におけるαPが等しい点において、光音響信号の振幅は最小値を示し、また光音響信号の位相は変曲点を示す。理論上では、光パワーバランスが0の点における光音響信号の振幅は0であるべきだが、実験的にはノイズを含めた最小値となっており、0にはならない。
【0036】
2つの光のうち一方の光のパワーを変えると、光音響信号の振幅と位相が変わる。光音響信号の振幅は、光パワーバランスが0の点の両側で増大する。つまり、一方の光のパワーが小さくなった場合、2つの信号αPの強度の差が大きくなり、光音響信号の振幅が増大する。また、一方の光のパワーが小さくなった場合、光音響信号の位相は他方の光単独で励振された場合の光音響信号の位相に近づく。すなわち、1つの光のみで励振された状態に近づく。
【0037】
以上をまとめると、2つの光のパワーのうち一方の光パワーP2を低下させるかあるいは光パワーP1を上昇させて、光パワーバランスを0より小にすると、光音響信号の振幅が増大し、位相に関しては2つの位相間で−90度異なる。すなわち、このときの光音響信号の位相は光パワーP1の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち−90度)と同じ位相となる。また、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させて、光パワーバランスを0より大にすると、光音響信号の振幅が増大し、光音響信号の位相は光パワーP2の光単独で励振された場合の光音響信号の位相(すなわち+90度)と同じ位相となる。
【0038】
ここで、光パワーバランスが0の点では、2つの重要な特徴がある。最初に、2つの波長の光音響信号が±90度位相シフトしているため、光パワーバランスが0の点は、変曲点となる位相0の点と一致する。さらに、変曲点の両側では、光音響信号の位相は正または負の明確な値をとり、位相と光パワーとの関係が線形であるため、位相の測定が早く済み、また測定が簡単であり、正確に測定することが可能であり、位相の正負の値から変曲点0の位置を良い精度で得ることが可能である。これらの2つの特徴から、位相測定で高精度に血液グルコース濃度を測定することができる。
【0039】
ここでは、分かり易い説明を提供するために、位相ではなく、振幅信号に焦点を合わせる。光音響信号の振幅が最小となり、かつ光音響信号の位相の変曲点となる位相ポイントは、2つの光の各々におけるαPが等しい点に位置する。被測定物の血液グルコース濃度が参照血液グルコース濃度0g/dLのときに、この位相ポイントでは上記の式(3)が成立する。
【0040】
実験的にはノイズが存在するために、光音響信号の振幅を0にすることは難しい。しかし、光音響信号の振幅の最小値は、1波長の光を用いる場合の光音響信号の振幅よりも2桁低い値となる。そして、概念的にはノイズレベルを完全に無視できるレベルに光音響信号の振幅を低下させることができる。次に、被測定物の成分濃度を変化させる。例えば、血液グルコース濃度を0からCg[g/dL]だけ変化させる。
【0041】
図8(A)は被測定物の血液グルコース濃度がCg[g/dL]だけ変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図、図8(B)は被測定物のアルブミン濃度が変化したときに光パワーP1,P2を変えたときの光音響信号の振幅と位相を示す図である。図8(A)、図8(B)の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。
【0042】
図8(A)における80は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、81は血液グルコース濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、82は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、83は血液グルコース濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。また、図8(B)における84はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の振幅を示し、85はアルブミン濃度が変化したときの光音響信号の位相を示し、86はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の振幅を示し、87はアルブミン濃度が変化する前の光音響信号の位相を示している。
【0043】
血液グルコース濃度またはアルブミン濃度が変化したとき、αPの変更に従って光音響信号の振幅と位相は変化する。例えば血液グルコース濃度がCgだけ変化し、この濃度変化により光吸収係数α1,α2がそれぞれδα1,δα2だけ変化した場合、上記の式(4)が成立する。成分濃度(血液グルコース濃度またはアルブミン濃度)の検出方法は2つある。光音響信号の振幅が最低となる光パワーバランスを探す方法か、あるいは光音響信号の位相の変曲点の光パワーバランスを探す方法のどちらかである。
【0044】
光パワーバランスが0の点の周辺で、光音響信号の位相と光パワーとの関係は線形に近いため、位相0の位置の正確な評価が可能である。光音響信号の位相を成分濃度変化後の新しい変曲点まで移動させるための光パワー差は、測定により求めることができる。図8(A)、図8(B)の例では、光パワーP2を上昇させるかあるいは光パワーP1を低下させることで、成分濃度変化後の新しい変曲点(光音響信号の振幅80,84が最小となる点)まで位相を移動させることができる。
【0045】
本実施の形態の測定方法では、光音響信号の位相が0の点を探すために、光パワーを変化させる。より具体的には、光パワーを変化させるために、レーザダイオード1−1,1−2の駆動電圧を変化させる。光音響信号の位相が0の点では、上記の式(5)、式(6)が成立する。式(6)から明らかなように、血液グルコース濃度Cgは、グルコースに特有な新しい光パワーバランスのシフト値δP1と相対的な光吸収係数δα1とδα2から求めることができる。測定したい成分濃度がアルブミン濃度の場合も同様にして求めることができる。なお、光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とは、光吸収スペクトル測定から求めることができる。
【0046】
図9に本実施の形態の測定方法でグルコース濃度とアルブミン濃度をそれぞれ測定した結果を示す。ここでは、波長が1382nmと1610nmの2つの光を用いている。図9における90はグルコース濃度の特性を示し、91はアルブミン濃度の特性を示している。図9の横軸は濃度、縦軸は光パワーバランスのシフト量である。図9から明らかなように、本実施の形態の測定方法では、グルコースとアルブミンの2つの成分の間で特性の傾きに相違が生じる。さらに、2つの光の波長を適切に選択すれば、2つの成分の特性の相違をより大きくすることができる。なお、更なる最適化のために、2つ以上の異なる波長の光を用いることは可能である。
【0047】
本実施の形態の測定方法は、非侵襲的に光音響測定に基づく溶液の成分を測るために、効率的な方法である。この測定方法は、2つの光学波長を選ぶことによって1つの特定の合成物に非常に選択的なアプローチを最適化することができる。利用できる多様な光学波長を考慮すれば、異なる溶媒において多くの溶質を検出できることは明らかである。また、対応する光学パワーを調節しパワーバランスを求める方法により、どのような吸収係数(濃度)の違いに対しても測定可能である。
【0048】
光学波長の選択は吸収係数によって制限されない。仮に、α1=2α2ならば、P1=0.5P2と式(3)はいぜん有効である。さらにまた、位相0の変曲点に基づく測定方法は、速く収束して非常に正確な測定を提供する。グルコース濃度測定で、発明者は近赤外NIR光学領域を波長レンジに選び、1382nmと1610nmの波長で測定した。光音響信号の位相を測定するため、数ポイントの測定点を記憶しておく必要がある。ノイズを完全に無視するならば、パラボラ(2次多項式)が3ポイントの測定データを必要とするのに対し、2ポイントの測定データから線形斜面を決定することは可能である。この観点から、光音響信号の直線的な特性の方が、位相が0の変曲点を早く求めることができる。
【0049】
しかしながら、ノイズと必要な測定精度の依存関係に基づき、測定ポイントの数は抜本的に増加させられるべきである。光音響信号の変化が線形的な挙動であれば、2ポイントの測定データから位相0の位置を非常に正確な精度で得ることができ、小さい範囲の中で位置を検索することができる。一方、光音響信号の変化が放物線状の場合には、二分検索アルゴリズム(二分探索)は最高の方法である。ただし、位相が0の位置を求めるのに要する時間は非常に長くなる。実験的な見解からセンサの反応時間に関連して、測定時間の量的増加を推定することは困難である。しかしながら、光音響信号の位相の線形的な挙動を利用すれば、より早く測定することができ、正確な成分濃度値を提供することができる。
【0050】
次に、本実施の形態の成分濃度測定装置の動作についてより詳細に説明する。図10は成分濃度測定装置の動作を示すフローチャートである。本実施の形態では、図3と図9で示すように、信号とノイズレベルを明らかに見分けるために高濃度レベルの液体サンプルで実験を行った。
【0051】
初めに時刻t0の初期状態において参照レベルの決定を行うために、一方のレーザダイオード1−1のみを動作させる。被測定物13は、光音響セル6内に導入される。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2から矩形波の駆動電流が供給されることにより、レーザダイオード1−1は強度変調光を放射する。光の波長は例えば1384nmである。この強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS1)。
【0052】
音響センサ8は、被測定物13から発生する光音響信号を検出し、増幅器9は、音響センサ8から出力された電気信号を増幅する。ロックインアンプ11は、増幅器9の出力に含まれる信号のうち、関数発生器10から出力される参照信号によって決まる周波数の測定信号を検出する。
【0053】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を漸次変化させると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数(光変調周波数と同一の周波数)を漸次変化させる光変調周波数掃引を行う(図10ステップS2)。こうして、音響共振ピークを探索する。
【0054】
次に、測定信号の最大振幅を見つけたときに、情報処理装置12の周波数測定部121は、この最大振幅時の測定信号の周波数(参照周波数F0)を測定し、位相測定部122は、最大振幅時の測定信号の位相(参照位相P0)を測定する(図10ステップS3)。
情報処理装置12の情報記録部124は、周波数測定部121が測定した参照周波数F0と位相測定部122が測定した参照位相P0とを記憶部127に記憶させる(図10ステップS4)。
【0055】
次に、被測定物13に対して標準的な血糖測定法を実施し、参照血液グルコース濃度Cg0[g/dL]を得る(図10ステップS5)。これで、参照血液グルコース濃度Cg0[g/dL]で参照位相P0と参照周波数F0とが得られたことになる。標準的な血糖測定法を実施するには、血糖測定器の本体に、グルコースセンサーを差し込み、針を専用の機械(または本体)にセットして、指などから採血し、グルコースセンサーに血を吸収させる。標準的な血糖測定法は、既知濃度のグルコース液を標準校正液として機械動作確認用に用いる。初期動作時に機械が正常に動いているかを確認したり、血糖値が異常値にあるか(正常に機械が動作しているか)を確認したりするときに用いる。
【0056】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2から駆動電流が供給されると、レーザダイオード1−1,1−2はレーザ光を放射する。このとき、レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。このとき、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS6)。
【0057】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を参照周波数F0に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部123は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS7)。
【0058】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS8)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部125は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS9)。光パワー測定部125は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である参照駆動電圧差VOPBS0を光パワーの差として測定する。
【0059】
なお、ステップS6の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS6時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS7における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0060】
次に、時刻t0から任意の時間経過後の時刻tにおける測定について説明する。初めに、一方のレーザダイオード1−1のみを動作させて、1つの光のみによる測定を行う。レーザダイオード1−1から放射された強度変調光は、光ファイバ3−1によって導かれ光カプラ4を通過して、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って光音響セル6内の被測定物13に照射される(図10ステップS10)。
【0061】
情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を参照周波数F0に設定する。さらに、関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、光変調周波数を参照周波数F0から変化させる。
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相が参照位相P0となる点を探索し、情報処理装置12の周波数測定部121は、この点における周波数F1を測定する。こうして、参照位相P0に対応する周波数F1を探索する(図10ステップS11)。なお、周波数F1は参照周波数F0の近傍に位置する。
【0062】
次に、2つのレーザダイオード1−1,1−2を動作させて、2つの光を合波して測定を行う。レーザドライバ2は、同一周波数で逆位相の矩形波の駆動電流をレーザダイオード1−1,1−2に供給することにより、レーザダイオード1−1,1−2から放射される光を同一周波数で逆位相の信号によりそれぞれ強度変調する。上記と同様に、レーザダイオード1−1から放射される光の波長は例えば1384nm、レーザダイオード1−2から放射される光の波長は例えば1610nmである。また、2つの光のパワーは同一である。レーザダイオード1−1,1−2から放射された強度変調光は、それぞれ光ファイバ3−1,3−2によって導かれ、光カプラ4によって合波され、さらに光ファイバ5によって導かれ、光学窓7を通って被測定物13に照射される(図10ステップS12)。
【0063】
続いて、情報処理装置12の関数発生器制御部120は、関数発生器10が発生する参照信号の周波数を変化させることにより、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1,1−2に供給される駆動電流の周波数を変化させ、光変調周波数を周波数F1に設定すると共に、ロックインアンプ11が検出する測定信号の周波数を周波数F1に設定する。情報処理装置12の光パワー制御部123は、レーザドライバ2からレーザダイオード1−1に供給される駆動電流の大きさを変化させることにより、レーザダイオード1−1から放射される光のパワーを漸次変化させる光パワー掃引を行う(図10ステップS13)。
【0064】
情報処理装置12の位相測定部122は、測定信号の位相の変曲点、すなわち位相が0になる点を探索する(図10ステップS14)。位相の変曲点が見つかったときに、情報処理装置12の光パワー測定部125は、変曲点における2つの光の光パワーの差を測定する(図10ステップS15)。光パワー測定部125は、レーザダイオード1−1に供給される駆動電圧とレーザダイオード1−2に供給される駆動電圧との差である駆動電圧差VOPBS1を光パワーの差として測定する。
【0065】
なお、ステップS12の時点における2つの光パワーは同一なので、2つの光のうち一方の光のパワーのみを変化させる場合には、この一方の光についてステップS12時点の初期の光パワーと変曲点における光パワーとの差(駆動電圧差)を求めるようにしてもよい。また、ステップS13における光パワー掃引において、2つのレーザダイオード1−1,1−2から放射される光のパワーを変化させるようにしてもよい。
【0066】
情報処理装置12の記憶部127には、駆動電圧差VOPBS1と参照駆動電圧差VOPBS0との差(VOPBS1―VOPBS0)と、光パワー変化量δPとの関係を示すキャリブレーションデータが予め記憶されている。このようなキャリブレーションデータは、予め実測することにより求めることができる。なお、時刻tにおける血液グルコース濃度をCg(t)とすると、(VOPBS1―VOPBS0)は、血液グルコース濃度Cg(t)と参照血液グルコース濃度Cg0との差(Cg(t)−Cg0)に比例する。
【0067】
情報処理装置12のグルコース濃度導出部126は、記憶部127を参照して駆動電圧差(VOPBS1―VOPBS0)に対応する光パワー変化量δPを取得し(図10ステップS16)、この光パワー変化量δPと光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とから式(6)により血液グルコース濃度の変化量Cg=(Cg(t)−Cg0)を計算する(図10ステップS17)。
【0068】
なお、光吸収係数α1,α2と光吸収係数変化量δα1,δα2とは、光吸収スペクトル測定から求めることができる。図示しない光吸収スペクトル測定手段は、時刻t0の初期状態においてレーザダイオード1−1から放射される光パワーP1の光について被測定物13の光吸収スペクトル測定を行い、このスペクトルから光吸収係数α1を計算する。また、光吸収スペクトル測定手段は、時刻tにおいてレーザダイオード1−1から放射される光パワーP1の光について被測定物13の光吸収スペクトル測定を行い、このスペクトルから光吸収係数を計算し、この光吸収係数と初期状態の光吸収係数α1との差を求めることで光吸収係数変化量δα1を計算することができる。光吸収係数α2と光吸収係数変化量δα2についても同様に、レーザダイオード1−2から放射される光パワーP2の光について被測定物13の光吸収スペクトル測定を行うことで求めることができる。
【0069】
最後に、グルコース濃度導出部126は、ステップS17で計算した血液グルコース濃度の変化量Cg=(Cg(t)−Cg0)と既知の参照血液グルコース濃度Cg0とから時刻tにおける血液グルコース濃度Cg(t)を計算する(図10ステップS18)。
以上で、本実施の形態の成分濃度測定装置の処理が終了する。
【0070】
図11(A)は異なる血液グルコース濃度(0[g/dL]―18.6[g/dL])における本実施の形態の測定結果を示す図、図11(B)は図11(A)の拡大図である。図11(A)、図11(B)の横軸はレーザ駆動電圧、縦軸は光音響信号の振幅と位相である。図11(A)、図11(B)の110,111は血液グルコース濃度0[g/dL]における光音響信号の振幅、位相を示し、112,113は血液グルコース濃度5[g/dL]における光音響信号の振幅、位相を示し、114,115は血液グルコース濃度10[g/dL]における光音響信号の振幅、位相を示し、116,117は血液グルコース濃度15[g/dL]における光音響信号の振幅、位相を示し、118,119は血液グルコース濃度18.6[g/dL]における光音響信号の振幅、位相を示している。
【0071】
図11(A)、図11(B)によれば、ノイズレベルにもかかわらず、光音響信号の位相は線形挙動を示し、光音響信号の振幅は放物線のような形を示している。光音響信号の振幅を見ると、信号レベルが大きく変わるが、血液グルコース濃度には依存していないことが分かる。式(2)で考えた場合、定数K、熱膨張係数β、音速v、比熱Cpといったパラメータが、温度、血液グルコース濃度または他のパラメータに依存するので、ばらつきが生じている。さらに、光音響信号の振幅の最小値を見つけるために、フィッティングが必要であるが、実験データが豊富に無いと正確なフィッティング結果とはならない。また、ノイズがある場合に測定精度が悪くなる。
【0072】
一方、光音響信号の位相変化を見ると、直線状の形をしており、2つの測定データで位相が0の位置をすぐに判別することができる。したがって、光音響信号の位相を利用すれば、短時間のセンサレスポンスを得ることができ、位相0の位置も簡単に見つけることができる。さらに、ノイズに対しては、2つの測定点だけではなく、位相の測定点を増やすことでノイズの影響を相対的に小さくできるため、高感度測定のために重要である。したがって、どのような測定精度が必要か決めた上で、位相のデータの測定回数を決めることになる。なお、光音響信号の振幅特性のような放物線の特性では、振幅を測定しようとすると、2次多項式フィッティングによる複雑で非対称な分析を必要とするため、測定時間が長くなる可能性がある。
【0073】
以上のような利点を考えて、本実施の形態では、位相0の探索測定を実施した。図9は本実施の形態の測定方法でグルコース濃度とアルブミン濃度をそれぞれ測定した結果を示している。グルコース、アルブミンの両方の場合とも、成分濃度に対して直線的な応答を得た。この図9の特性の傾きは、使用される波長において光吸収係数と比例している。図3の結果と比較すると、本実施の形態の測定方法は、線形性が良く、高い正確さで低濃度測定に利用できることが分かる。
【0074】
さらに、センサの選択性にたいして、図9のグルコースとアルブミンの結果を比べると、グルコース溶液における傾き−25[V/g/dL]とアルブミン溶液における傾き−11[V/g/dL]の結果を得た。この結果は、図1に示す吸収スペクトルの結果から期待されるのと同様の結果である。なお、2つの光の波長の最適化を行うことで、グルコースとアルブミンの傾きの差をより大きくすることができる。
【0075】
以上のように、本実施の形態では、2つの光の波長の適宜選択を行うことで、異なる物質間での濃度に対するセンサ反応(勾配)の差を生じさせることが可能となる。すなわち、血液グルコースに対するセンサ反応が最大となるように光波長を適宜選択することで、成分濃度測定装置のグルコース選択性を向上させることができ、異なる複数の物質を含む被測定物において血液グルコースの定量が可能となるという効果を生じる。
【0076】
本実施の形態では、2つの光を同一周波数で且つ逆位相の信号により強度変調しているが、位相差が180°以外の信号で光を強度変調してもよい。
2つの光を強度変調する信号の位相を手動で変更し、図12に示す光パワーバランス−位相特性を得た。図12の横軸は光パワーバランス、縦軸は光音響信号の位相である。ここでは、波長が1438nmの光と1610nmの光を用いている。光パワーバランスは、1438nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧で表現されている。1610nmの光を発生するレーザダイオードのレーザ駆動電圧は1.4Vである。図12における400は2つの光を強度変調するそれぞれの信号の位相差が180°の場合の特性、401は位相差が180.1°の場合の特性、402は位相差が180.3°の場合の特性、403は位相差が180.8°の場合の特性、404は位相差が185.8°の場合の特性、405は位相差が195.8°の場合の特性、406は位相差が178.8°の場合の特性を示している。
【0077】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°の場合、一方のレーザダイオードの駆動電圧を変更した際に光音響信号の位相は−90°のままである。0.51V前後では、信号強度が小さいため、光音響信号の位相雑音の影響で特性に歪みが生じる。直後に光音響信号に180°の位相シフトが急激に生じ、不連続的となる。位相シフト前と同様に雑音による歪みが生じ、光音響信号の位相が90°で安定する領域となる。
【0078】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°前後(180.1°、180.8°、180.3°)の場合では、前述の位相変化の不連続点で光音響信号の位相が連続的に変化している。不連続点の前後の電圧では光音響信号の位相が±90°で安定する領域がある。2つの光を強度変調する信号の位相差が180°でない場合(185.8、195.8)、全電圧で光音響信号の位相の連続的な遷移領域のみで、光音響信号の位相が±90°で安定する領域は無い。このように、信号の位相差を180°から増加させて測定を行ったが、信号の位相差を178.8°へ減少させると対称的な傾向を得た。すなわち、位相90°から位相−90°への位相変化の駆動電圧に対する傾きが逆となる。結論として、正確かつ適切な溶液成分濃度測定には、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°±30°程度が可能である。
【0079】
実用的には、2つの光を強度変調する信号の位相差として180°を用いることは光音響信号の位相遷移領域において雑音の影響が大きいため適切ではない。また、光音響信号の位相変化の傾きが急激なため、光音響信号の位相が0の点を決定するために、2分法が唯一のアプローチであり、測定に時間がかかり、収束性も悪い。測定速度を速めるために、線形的な遷移領域が最も適切である。すなわち、光音響信号の位相0点周辺で複数(2、3つ)の測定点から、相対的に位相0の位置を推定する方法である。このような方法では、測定と推定を重ねることで、より確実に測定精度を上げることができる。
【0080】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°に近い場合に、光音響信号の位相0点前後での線形的な遷移領域を得る。比較的、光音響信号の位相変化の傾きが急峻なため、小さい成分濃度範囲でも位相が大きく変化し、適切な測定精度を得ることができる。一方、2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から遠ざかるにつれ、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなる。このような場合には、大きい成分濃度範囲でも、位相遷移領域に位相0点があるため、濃度の定量が可能である。したがって、2つの光を強度変調する信号の位相差は、測定精度やダイナミックレンジを決定するため、所望の濃度範囲によって適宜設定する。
【0081】
2つの光を強度変調する信号の位相差が180°から大きく異なる場合、例えば180°から10°、20°あるいは30°異なっている場合は、光音響信号の位相の線形的な遷移領域が広い測定範囲を利用でき、幅広い濃度範囲の測定にも対応できる。したがって、大きな濃度範囲に対しては、2つの光を強度変調する信号の位相差を例えば190°、200°あるいは210°とすればよい。しかしながら、光音響信号の位相変化の傾きが緩やかとなり、測定精度が低下するため、濃度範囲と測定精度はトレードオフの関係となる。
【0082】
なお、本実施の形態では、測定する成分の例として血液グルコースとアルブミンを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、本発明は、被測定物に含まれる成分分析に幅広く適用可能である。
【0083】
本実施の形態の情報処理装置12は、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、血液グルコース等の成分の濃度をモニターする技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1−1,1−2…レーザダイオード、2…レーザドライバ、3−1,3−2,5…光ファイバ、4…光カプラ、6…光音響セル、7…光学窓、8…音響センサ、9…増幅器、10…関数発生器、11…ロックインアンプ、12…情報処理装置、13…被測定物、120…関数発生器制御部、121…周波数測定部、122…位相測定部、123…光パワー制御部、124…情報記録部、125…光パワー測定部、126…グルコース濃度導出部、127…記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の成分の濃度が既知の被測定物に対して強度変調光を照射する第1の光照射ステップと、
この第1の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第1の光音響信号検出ステップと、
この第1の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を第1の周波数として測定する第1の周波数測定ステップと、
前記振幅が最大のときの電気信号の位相を参照位相として測定する第1の位相測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第2の光照射ステップと、
この第2の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第2の光音響信号検出ステップと、
この第2の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索する第2の位相測定ステップと、
前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第1の光パワー測定ステップと、
任意の時間経過後に前記被測定物に対して強度変調光を照射する第3の光照射ステップと、
この第3の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第3の光音響信号検出ステップと、
この第3の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が前記参照位相となる変調周波数を第2の周波数として探索する第2の周波数測定ステップと、
互いに異なる波長の2波の光を前記第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させる第4の光照射ステップと、
この第4の光照射ステップによって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する第4の光音響信号検出ステップと、
この第4の光音響信号検出ステップで得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索する第3の位相測定ステップと、
前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定する第2の光パワー測定ステップと、
この第2の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した光パワーの差との変化量から、前記任意の時間経過後の測定対象の成分濃度を導出する濃度導出ステップとを備えることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の成分濃度測定方法において、
前記第1の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第1の変曲点における光パワーとの差を測定し、
前記第2の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第2の変曲点における光パワーとの差を測定することを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の成分濃度測定方法において、
前記濃度導出ステップは、前記光パワーの変化量と初期状態の測定対象の光吸収係数と前記任意の時間経過後の測定対象の光吸収係数変化量とから、測定対象の成分濃度の変化量を求め、この成分濃度の変化量と前記既知の成分濃度とから、前記任意の時間経過後の測定対象の成分濃度を導出することを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の成分濃度測定方法において、
さらに、被測定物の光吸収スペクトル測定を行い、測定したスペクトルから前記光吸収係数と前記光吸収係数変化量を求める光吸収スペクトル測定ステップを備えることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成分濃度測定方法において、
前記第1、第2の光パワー測定ステップは、2つの強度変調光を放出する2つの光照射手段の駆動電圧の差を光パワーの差として測定し、
前記濃度導出ステップは、駆動電圧差と光パワーの変化量との関係を示すキャリブレーションデータを参照して、前記第2の光パワー測定ステップで測定した駆動電圧差と前記第1の光パワー測定ステップで測定した駆動電圧差との変化量から、光パワーの変化量を求めることを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項6】
被測定物に対して光を照射する光照射手段と、
光パワーを制御する光パワー制御手段と、
この光照射によって前記被測定物から発生する光音響信号を検出して電気信号を出力する光音響信号検出手段と、
前記電気信号の周波数を測定する周波数測定手段と、
前記電気信号の位相を測定する位相測定手段と、
2つの強度変調光の光パワーの差を測定する光パワー測定手段と、
任意の時間経過後の光パワーの変化量から、測定対象の成分の濃度を導出する濃度導出手段とを備え、
前記光照射手段は、第1の時刻において測定対象の成分の濃度が既知の被測定物に対して強度変調光を照射し、第2の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第1の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、第3の時刻において前記被測定物に対して強度変調光を照射し、第4の時刻において互いに異なる波長の2波の光を第2の周波数で且つ異なる位相の信号によりそれぞれ強度変調して前記被測定物に照射し、
前記光パワー制御手段は、前記第2、第4の時刻において2つの強度変調光のうち少なくとも一方の強度変調光の光パワーを漸次変化させ、
前記周波数測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大となる変調周波数を前記第1の周波数として測定し、前記第3の時刻において得られた電気信号の位相が参照位相となる変調周波数を前記第2の周波数として探索し、
前記位相測定手段は、前記第1の時刻において得られた電気信号の振幅が最大のときの電気信号の位相を前記参照位相として測定し、前記第2の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第1の変曲点を探索し、前記第4の時刻において得られた電気信号の位相が0となる第2の変曲点を探索し、
前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において前記第1の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、前記第4の時刻において前記第2の変曲点における2つの強度変調光の光パワーの差を測定し、
前記濃度導出手段は、前記第4の時刻において測定された光パワーの差と前記第2の時刻において測定された光パワーの差との変化量から、前記第4の時刻における測定対象の成分濃度を導出することを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項7】
請求項6記載の成分濃度測定装置において、
前記光パワー測定手段は、前記第2の時刻において2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第1の変曲点における光パワーとの差を測定し、前記第4の時刻において2つの強度変調光のうち一方の強度変調光の光パワーのみを変化させる場合、この一方の強度変調光について変化前の初期の光パワーと前記第2の変曲点における光パワーとの差を測定することを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項8】
請求項6または7記載の成分濃度測定装置において、
前記濃度導出手段は、前記光パワーの変化量と前記第1の時刻における測定対象の光吸収係数と前記第4の時刻における測定対象の光吸収係数変化量とから、測定対象の成分濃度の変化量を求め、この成分濃度の変化量と前記既知の成分濃度とから、前記第4の時刻における測定対象の成分濃度を導出することを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項9】
請求項8記載の成分濃度測定装置において、
さらに、被測定物の光吸収スペクトル測定を行い、測定したスペクトルから前記光吸収係数と前記光吸収係数変化量を求める光吸収スペクトル測定手段を備えることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の成分濃度測定装置において、
前記光パワー測定手段は、2つの強度変調光を放出する2つの光照射手段の駆動電圧の差を光パワーの差として測定し、
前記濃度導出手段は、駆動電圧差と光パワーの変化量との関係を示すキャリブレーションデータを参照して、前記第4の時刻において測定した駆動電圧差と前記第2の時刻において測定した駆動電圧差との変化量から、光パワーの変化量を求めることを特徴とする成分濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−179212(P2012−179212A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43713(P2011−43713)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】