説明

成形回路基板およびその製造方法

【課題】銅イオンのマイグレーションが抑制され、配線間の絶縁信頼性に優れた成形回路基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】成形基板12と表面上に配置された銅配線または銅合金配線14を有する配線付き成形基板10にめっき層16を形成する工程、その表面を、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液に接触させ、アゾール化合物を含む膜18を形成する工程、溶剤で洗浄し、銅イオン拡散抑制層20を形成する工程、銅以外の金属のめっき層で被覆する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化の要求に伴い、電子部品の高密度集積化、高密度実装化が進行しており、3次元的な成形基板表面に配線パターンを形成する成形回路基板として、MID(Molded Interconnect Device)が注目を集めている。MIDは、プリント配線基板が平面構造の積層化により実装が行われるのに対し、立体的な実装が可能になるため、更なる高密度実装化が実現できる。MIDは、一般的に銅配線または銅合金配線上に金属保護層を形成させ、絶縁信頼性を確保しているが、微細配線化の急激な進行に伴い、プリント配線基板と同様に絶縁信頼性の低下が懸念されている。
【0003】
銅または銅合金の配線間の絶縁性を阻害する要因の一つとしては、いわゆる銅イオンのマイグレーションが知られている。これは、配線回路間などで電位差が生じると水分の存在により配線を構成する銅がイオン化し、溶出した銅イオンが隣接する配線に移動する現象である。このような現象によって、溶出した銅イオンが時間と共に還元されて銅化合物となってデンドライト(樹枝状晶)状に成長し、結果として配線間を短絡してしまう。
【0004】
このようなマイグレーションを防止する方法としては、ベンゾトリアゾールを使用したマイグレーション抑制層を形成する技術が提案されている(特許文献1および2)。より具体的には、これらの文献においては、配線基板上に銅イオンのマイグレーションを抑制するための層を形成し、配線間の絶縁信頼性の向上を目指している。また、一方では、配線の表面に金属めっき処理を施し、めっき層を形成することで配線間の絶縁信頼性の向上を目指している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−257451号公報
【特許文献2】特開平10−321994号公報
【特許文献3】特開2003-45917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、微細配線化の進行により、MIDにおいても配線間の絶縁信頼性のより一層の向上が要求されている。
本発明者らは、特許文献1および2に記載されるベンゾトリアゾールを用いたマイグレーション抑制層について検討を行ったところ、配線間において銅のデンドライトの連結が確認され、そのマイグレーション抑制効果は昨今要求されるレベルを満たしておらず、さらなる改良が必要であった。
さらに、特許文献3に記載の金属めっき処理を用いた方法についても検討を行ったところ、上記と同様に、配線間において銅のデンドライトの連結が確認された。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、銅イオンのマイグレーションが抑制され、配線間の絶縁信頼性に優れた成形回路基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術である特許文献3に記載の発明について鋭意検討したところ、めっき処理によって形成されるめっき層では、銅配線または銅合金配線表面上を十分に被覆することができず、めっき層が形成されてない欠陥部位から銅イオンのマイグレーションが進行してしまうことを見出した。そこで、該知見をもとに、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
(1) 成形基板と、該成形基板の表面上に配置された銅配線または銅合金配線と、該銅配線または銅合金配線表面を被覆する、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層および銅以外の金属のめっき層と、を有する成形回路基板。
【0010】
(2) 該めっき層の金属が、ニッケル、金、銀、パラジウム、ロジウム、およびスズからなる群から選ばれる金属またはそれらを含有する合金である、(1)に記載の成形回路基板。
【0011】
(3) 成形基板およびその表面上に配置された銅配線または銅合金配線を含む配線付き成形基板上の該銅配線または銅合金配線表面上に銅以外の金属のめっき層を形成するめっき工程と、
めっき工程が施された配線付き成形基板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させ、その後該配線付き成形基板を溶剤で洗浄して、該めっき層が形成されていない銅配線または銅合金配線表面上に1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層を形成する銅イオン拡散抑制層形成工程と、備える成形回路基板の製造方法。
【0012】
(4) 該銅イオン拡散抑制層形成工程後、成形回路基板を加熱乾燥する乾燥工程を備える、(3)に記載の成形回路基板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銅イオンのマイグレーションが抑制され、配線間の絶縁信頼性に優れた成形回路基板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の成形回路基板の製造方法における各工程を順に示す配線付き成形基板から成形回路基板までの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の成形回路基板、およびその製造方法について説明する。
本発明の製造方法の特徴点としては、配線付き成形基板中の銅配線または銅合金配線表面上に銅以外の他の金属のめっき層を形成するようにめっき処理を行った後、めっき層が形成された配線を有する配線付き成形基板と1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールなどのアゾール化合物を含む処理液とを接触させた後、さらに洗浄を行う点が挙げられる。
該処理を行うことにより、まず、露出した銅配線または銅合金配線上に銅以外の他の金属のめっき層が形成される。一方、銅配線または銅合金配線と成形基板との境界部分などではめっき層が生成しにくく、かつ、めっき層自体にピンホールが生じやすいため、銅配線または銅合金配線が空気に露出する部分が生じる。そこで、上記アゾール化合物を用いた処理を行うことにより、めっき層の未被覆部を銅イオン拡散抑制層で被覆して、銅イオンのマイグレーションをより抑制することができる。
【0016】
なお、めっき層上にアゾール化合物が残存していると、その後の実装工程においてはんだ不良といった悪影響が出てしまうが、上記のような溶剤による洗浄を行うことにより、アゾール化合物を容易に除去することができる。
また、上記アゾール化合物以外のベンゾトリアゾール等のアゾール化合物を接触させた後に洗浄を行うと、銅配線または銅合金配線に付着したアゾール化合物も同時に除去されてしまい、所望の効果が発現されない。さらに、エッチング剤等の銅を溶解する成分を含んだ処理液を使用して、アゾール化合物と銅配線または銅合金配線とを接触させると、配線上にアゾール化合物と銅イオンとの錯体を含む皮膜が出来てしまい、マイグレーションを抑制する効果を発現できない。
【0017】
本発明の成形回路基板の製造方法の好適態様は、めっき工程、銅イオン拡散抑制層形成工程、乾燥工程をこの順で実施する製造方法である。
以下に、図面を参照して、各工程で使用される材料、および、工程の手順について説明する。なお、本明細書では、成形基板上の配置された銅配線または銅合金配線が銅イオン拡散抑制層および銅以外の金属のめっき層で被覆された基板を、成形回路基板と称する。
【0018】
[めっき工程]
めっき工程は、成形基板およびその表面上に配置された銅配線または銅合金配線を含む配線付き成形基板上の銅配線または銅合金配線表面上に、銅以外の他の金属のめっき層を形成する工程である。該工程を実施することにより、銅配線または銅合金配線表面上を被覆するめっき層が形成される。
【0019】
具体的には、まず、図1(A)に示すように、成形基板12とその表面上に配置された銅配線または銅合金配線14(以後、単に配線14とも称する)とを有する配線付き成形基板10を用意し、めっき工程を実施することにより配線14上にめっき層16が形成される(図1(B)参照)。なお、図1(B)に示すように、通常、めっき処理の製造上の問題から、配線14の表面の一部にはめっき層16が形成されない部分が存在する。特に、基板12と配線14との境界部分においては、めっき層16が被覆されない領域が生じやすい。
まず、本工程で使用される材料(配線付き成形基板、めっき層など)について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0020】
成形基板は、回路部品の構造を形作るものであり、回路部品の使用目的、使用場所(取付場所)、使用方法などに応じて所定の立体形状を付与して成形される。
成形基板の成形は、例えば、射出成形やプレス成形などの公知の方法を用いて行われる。また、成形基板の材料は特に制限されず、例えば、絶縁性材料が挙げられる。成形基板全体を絶縁性材料で形成する場合、絶縁性材料として、例えば、ガラス、アルミナ、窒化アルミ、炭化ケイ素などのセラミック材料、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリフタルアミド、PTFE(ポリエチレンテレフタラート)、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリシクロオキサイド、エポキシ樹脂、ポリイミド、LCP(液晶ポリエステル樹脂)、PEI(ポリエーテルイミド)などの樹脂材料を用いることができる。
【0021】
また、成形基板は、少なくとも配線(回路)を形成する表面が絶縁材料で形成されていればよく、銅、アルミなどの表面に絶縁材料を被覆したメタルコア基板などの成形基板を用いることもできる。また、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの従来から公知の光硬化樹脂にレーザー光を照射する光造形法によって成形基板を形成することもできる。
【0022】
銅配線または銅合金配線(以後、単に配線とも称する)は、銅または銅合金で構成される。配線が銅合金で構成される場合、銅以外の含有される金属としては、例えば、銀、錫、パラジウム、金、ニッケル、クロムなどが挙げられる。
成形基板上への配線の形成方法は特に制限されず、例えば、所望の成形樹脂をまず射出成形し、めっき触媒能を付与する化学エッチングを行った後、再度カバー樹脂を用いて配線非形成領域を射出成形によりカバーして、めっきを行うことにより配線を形成する2ショット法や、LDS法に代表される1ショット法などが挙げられる。
また、成形基板が凹部および凸部を有する場合、配線は、成形基板の凹部内および凸部上のいずれに形成されていてもよい。
【0023】
配線の幅は特に制限されないが、成形回路基板の高集積化の点から、10〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
配線間の間隔は特に制限されないが、成形回路基板の高集積化の点から、10〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。
また、配線のパターン形状は特に制限されず、任意のパターンであってよい。例えば、直線状、曲線状、矩形状、円状などが挙げられる。
【0024】
配線の厚みは特に制限されないが、成形回路基板の高集積化の点から、1〜30μmが好ましく、5〜20μmがより好ましい。
【0025】
めっき層の材料としては、銅以外の他の金属を使用することができる。例えば、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点で、ニッケル、金、銀、パラジウム、ロジウム、およびスズからなる群から選ばれる金属またはそれらを含有する合金が挙げられる。なお、合金の場合は、例えば、ニッケル−ボロン合金、ニッケル−リン合金などが挙げられる。
めっき層は多層構造であってもよく、配線間の絶縁信頼性を確保する観点から、ニッケル層と金層との2層構造であることが好ましい。また、めっき層は、銅以外の2種以上の金属からなる合金層であってもよい。
【0026】
形成されるめっき層の厚みは特に制限されないが、銅イオンのマイグレーション抑制の点から、1.0μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、経済性の点から、10μm以下であることが好ましい。
【0027】
(工程の手順)
めっき処理の方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、無電解めっき処理、電解めっき処理)を採用することができる。得られる金属めっき膜の膜厚の制御のしやすさの点から、無電解めっき処理が好ましい。
例えば、Niめっき層を作製する場合は、NPR−4(上村工業製)を使用する態様が挙げられ、Auめっき層を作製する場合は、オーロテックDC10(Atotech)を使用する態様が挙げられる。
【0028】
[銅イオン拡散抑制層形成工程]
銅イオン拡散抑制層形成工程(以後、単に層形成工程とも称する)では、まず、上記めっき工程でめっき層被覆された銅配線また銅合金配線を有する配線付き成形基板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させる(接触工程)。その後、配線付き基板を溶剤で洗浄して、めっき層が形成されていない銅配線または銅合金配線表面に1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層を形成する(洗浄工程)。めっき工程では、銅配線または銅合金配線の表面上の一部にめっき層が形成されない部分が生じる。そこで、該層形成工程を実施することにより、めっき層が形成されなかった部分(領域)に、銅イオン拡散抑制層が形成され、銅配線または銅合金配線の表面上が満遍なく被覆される。結果として、銅イオンのマイグレーションがより抑制され、金属デンドライトの発生や、配線間の短絡が抑制される。
まず、層形成工程で使用される材料(処理液など)について説明し、その後層形成工程の手順について説明する。
【0029】
(処理液)
本工程で使用される処理液は、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾール(以後、両者の総称としてアゾール化合物とも称する)を含む。
処理液は、1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールをそれぞれ単独で含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。なお、本発明においては、上記アゾール化合物を使用することにより所定の効果が得られており、例えば、アミノトリアゾールを代わりに使用した場合は所望の効果が得られない。
【0030】
処理液中におけるアゾール化合物の総含有量は特に制限されないが、銅イオン拡散抑制層の形成のしやすさ、および、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点から、処理液全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.25〜5質量%が特に好ましい。アゾール化合物の総含有量が多すぎると、銅イオン拡散抑制層の堆積量の制御が困難となる。アゾール化合物の総含有量が少なすぎると、所望の銅イオン拡散抑制層の堆積量になるまで時間がかかり、生産性が悪い。
【0031】
処理液には溶剤が含まれていてもよい。使用される溶剤は特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、成形回路基板製造における安全性の点で、水、アルコール系溶剤が好ましい。特に、溶剤として水を使用すると、配線付き成形基板と処理液とを接触させる際に浸漬法を採用する場合に、特異的にアゾール化合物が銅配線または銅合金配線表面に自己堆積しやすいことから、好ましい。
処理液中における溶剤の含有量は特に制限されないが、処理液全量に対して、90〜99.99質量%が好ましく、95〜99.9質量%がより好ましく、95〜99.75質量%が特に好ましい。
【0032】
一方、成形回路基板の配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。過剰量の銅イオンが含まれていると、皮膜を形成する際に銅イオン拡散抑制層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
なお、銅イオンが実質的に含まれないとは、処理液中における銅イオンの含有量が、1μmol/l以下であることを指し、0.1μmol/l以下であることがより好ましい。最も好ましくは0mol/lである。
【0033】
また、成形回路基板の配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅または銅合金のエッチング剤が実質的に含まれていないことが好ましい。処理液中にエッチング剤が含まれていると、コア基板と処理液とを接触させる際に、処理液中に銅イオンが溶出することがある。そのため結果として、銅イオン拡散抑制層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
【0034】
エッチング剤としては、例えば、有機酸(例えば、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸、ふっ酸)、酸化剤(例えば、過酸化水素、濃硫酸)、キレート剤(例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン、エタノールアミン、アミノプロパノール)、チオール化合物などが挙げられる。また、エッチング剤としては、イミダゾールや、イミダゾール誘導体化合物などのように自身が銅のエッチング作用を持つものも含まれる。
なお、エッチング剤が実質的に含まれないとは、処理液中におけるエッチング剤の含有量が、処理液全量に対して、0.01質量%以下であることを指し、配線間の絶縁信頼性をより高める点で、0.001質量%以下であることがより好ましい。最も好ましくは0質量%である。
【0035】
処理液のpHは特に規定されないが、銅イオン拡散抑制層の形成性の点から、pHは5〜12であることが好ましい。なかでも、成形回路基板中の配線間の絶縁信頼性がより優れる点から、pHは5〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましい。
処理液のpHが低いと、銅配線または銅合金配線から銅イオンの溶出が促進され、銅イオン拡散抑制層に銅イオンが多量に含まれることになり、結果として銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。処理液のpHが12超であると、水酸化銅が析出し、酸化溶解しやすくなり、結果として銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。
なお、pHの調整は、公知の酸(例えば、塩酸、硫酸)や、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。また、pHの測定は、公知の測定手段(例えば、pHメーター(水溶媒の場合))を用いて実施できる。
【0036】
なお、上記処理液には、他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、析出防止剤など)が含まれていてもよい。
【0037】
(溶剤(洗浄溶剤))
成形基板を洗浄する洗浄工程で使用される溶剤(洗浄溶剤)は、配線が形成されていない基板上や、金属めっき層上に堆積した余分なアゾール化合物などを除去することができれば、特に制限されない。
溶剤としては、成形基板の耐溶剤性を考慮した上で適宜選定する必要があり、例えば、LCPやPPSなどのスーパーエンジニアリングプラスティックを成形基板として用いた場合は、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、微細配線間への液浸透性の点から、水、アルコール系溶剤、およびメチルエチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶剤であることが好ましく、アルコール系溶剤と水の混合液であることがより好ましい。
【0038】
使用される溶剤の沸点(25℃、1気圧)は特に制限されないが、安全性の観点で、75〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。
【0039】
使用される溶剤の表面張力(25℃)は特に制限されないが、配線間の洗浄性がより優れ、配線間の絶縁信頼性がより向上する点から、10〜80mN/mであることが好ましく、15〜60mN/mであることがより好ましい。
【0040】
[層形成工程の手順]
層形成工程を、接触工程および洗浄工程の2つの工程に分けて説明する。
【0041】
(接触工程)
接触工程は、めっき処理が施された配線付き成形基板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させる工程である。
上記成形回路基板と、上記処理液とを接触させることにより、図1(C)に示すように、配線付き基板10上およびめっき層16上にアゾール化合物を含む膜18が形成される。
【0042】
アゾール化合物を含む膜18には、アゾール化合物が含有される。その含有量などは、後述する銅イオン拡散抑制層中の含有量と同義である。また、その付着量は特に制限されず、後述する洗浄工程を経て、所望の付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができるような付着量であることが好ましい。
配線付き成形基板と上記処理液との接触方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ浸漬、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられ、処理の簡便さ、処理時間の調整の容易さから、ディップ浸漬が好ましい。また、微小領域への処理液の浸透性を向上させる点で、ディップ浸漬時に超音波処理をなども用いることが出来る。
【0043】
また、接触の際の処理液の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲がより好ましい。
また、接触時間としては、生産性および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜30分の範囲が好ましく、15秒〜10分の範囲がより好ましく、30秒〜5分の範囲がさらに好ましい。
【0044】
(洗浄工程)
洗浄工程は、接触工程で得られた配線付き成形基板を溶剤で洗浄して、めっき層が形成されていない銅配線または銅合金配線表面上に1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層を形成する工程である。
具体的には、図1(C)で得られたアゾール化合物を含む膜18が設けられた配線付き成形基板10を上記洗浄溶剤で洗浄することにより、図1(D)に示すように、成形基板12上および金属めっき層16上に付着したアゾール化合物を含む膜16などの余分なアゾール化合物が除去され、配線14上にのみアゾール化合物を含む膜が形成される。この配線14上のアゾール化合物を含む膜が、銅イオン拡散抑制層20に該当する。
【0045】
洗浄方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、配線付き成形基板上に洗浄溶剤を塗布する方法、洗浄溶剤中に配線付き成形基板を浸漬する方法などが挙げられる。
また、洗浄溶剤の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲がより好ましい。
また、配線付き成形基板と洗浄溶剤との接触時間としては、生産性、および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜10分の範囲が好ましく、15秒〜5分の範囲がより好ましい。また、微小領域への洗浄液の浸透性を向上させる点で、ディップ浸漬時に超音波処理なども用いることが出来る。
【0046】
(銅イオン拡散抑制層)
上記工程を経ることにより、図1(D)に示すように、銅配線または銅合金配線表面上に、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層20を形成することができる。
本発明においては、上記の溶剤の洗浄を施した後であっても、銅イオンのマイグレーションを抑制することができる十分な付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができる。例えば、ベンゾトリアゾールを代わりに使用した場合は、上記溶剤による洗浄によって、大半のベンゾトリアゾールが洗い流されてしまい、所望の効果が得られない。エッチング剤を含んだ処理液やエッチング能を持つイミダゾール化合物を含む処理液を用いた場合、形成有機皮膜中に銅イオンを含んでしまい、銅イオン拡散抑制能は無く、所望の効果が得られない。
【0047】
銅イオン拡散抑制層20中におけるアゾール化合物の含有量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、0.1〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。特に、銅イオン拡散抑制層20は、実質的にアゾール化合物で構成されていることが好ましい。アゾール化合物の含有量の少なすぎると、銅イオンのマイグレーション抑制効果が低くなる。
【0048】
銅イオン拡散抑制層20中には、銅イオンまたは金属銅が実質的に含まれていないことが好ましい。銅イオン拡散抑制層20に所定量以上の銅イオンまたは金属銅が含まれていると、本発明の効果に劣る場合がある。
【0049】
銅配線または銅合金配線表面上における銅イオン拡散抑制層20の付着量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、銅配線または銅合金配線の全表面積に対して、5×10-9g/mm2以上であることが好ましく、1.0×10-8g/mm2以上であることがより好ましい。上記範囲以上であると、銅イオンのマイグレーション効果がより優れる。なお、上限については特に制限されないが、製造上の観点から、1×10-6g/mm2以下であることが好ましい。
なお、付着量は、公知の方法(例えば、吸光度法)によって測定することができる。具体的には、まず水で配線間に存在する銅イオン拡散抑制層を洗浄する(水による抽出法)。その後、有機酸(例えば、硫酸)により銅配線または銅合金配線上の銅イオン拡散抑制層を抽出し、吸光度を測定して、液量と塗布面積から付着量を算出する。
【0050】
なお、上述したように、成形基板および金属めっき層上にはアゾール化合物を含む膜は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で一部アゾール化合物を含む膜が残存していてもよい。
【0051】
[乾燥工程]
該工程では、銅イオン拡散抑制層が設けられた成形回路基板を加熱乾燥する。回路基板上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションの促進させるおそれがあるため、該工程を設けることにより水分を除去することが好ましい。なお、本工程は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、本工程は実施しなくてもよい。
【0052】
加熱乾燥条件としては、銅配線または銅合金配線の酸化を抑制する点で、70〜120℃(好ましくは、80℃〜110℃)で、15秒〜10分間(好ましくは、30秒〜5分)実施することが好ましい。乾燥温度が低すぎる、または、乾燥時間が短すぎると、水分の除去が十分でない場合があり、乾燥温度が高すぎる、または、乾燥時間が長すぎると、酸化銅が形成されるおそれがある。
乾燥に使用する装置は特に限定されず、恒温層、ヒーターなど公知の加熱装置を使用することができる。
【0053】
[成形回路基板]
上記工程を経ることにより、成形基板と、成形基板の表面上に配置された銅配線または銅合金配線と、銅配線または銅合金配線表面を覆う1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層、および、銅以外の金属のめっき層の2層を有する成形回路基板が得られる。
【0054】
より具体的には、図1(D)に示すように、成形基板12と、配線14とを有し、配線14の表面が1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層20および銅以外の金属のめっき層16で被覆される成形回路基板22が得られる。得られる成形回路基板22は、配線14間の絶縁信頼性に優れる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
LCP樹脂(ポリプラスチックス株式会社製、ベクトラRC810)を成形基材として選択し、公知のプリント配線基板の製造方法であるサブトラクティブ法を用い、L/S=100μm/100μmの銅配線を備える櫛型配線基板(配線付き成形基板)を作製した。
得られた配線付き成形基板に対して無電解ニッケルめっき、さらに置換型無電解金めっきを順に施し、ニッケルめっき層と金めっき層がこの順に積層された銅配線を有する配線付き成形基板を得た。
なお、無電解ニッケルめっきの実施条件は、めっき液としてニムデンNPR−4(上村工業株式会社製)を用い、アクセマルタMFD−5で銅配線上にパラジウム触媒が付与された配線付き成形基板を、pH4.6、液温80℃で、16分間浸漬させ、約3μmのニッケルめっき層を付与した。
置換型無電解金めっきの実施条件は、めっき液としてゴブライトTSB−72(上村工業株式会社製)を用い、ニッケルめっき層を付与した配線付き成形基板を、pH7.2、液温80℃で、10分間浸漬させ、約50nmの金めっき層を付与した。
【0057】
次に、得られた配線付き成形基板を、1,2,3−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、1,2,3−トリアゾールの含有量:水溶液全量に対して2.5質量%、液温:25℃、pH:7)に5分浸漬した。その後、エタノールを用いて得られた配線付き成形基板を洗浄した(接触時間:2分、液温度:25℃)。さらに、その後、得られた成形回路基板を100℃で2分間乾燥処理し、1,2,3−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層とめっき層(ニッケルめっきおよび金めっき)で被覆された銅配線を有する成形回路基板を得た。得られた成形回路基板を用いて、以下の評価を行った。
なお、吸光度測定より、銅配線上の1,2,3−トリアゾールの付着量は7.0×10-8g/mm2であった。
【0058】
(水滴滴下試験)
得られた成形回路基板を0.05μS/cmの水中に浸し、1.2Vの条件で5分間通電を行った後、配線間を連結するデンドライトの有無を光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、BX−51)により観察した。表1に結果を示す。
【0059】
(実施例2)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,4−トリアゾールの含有量が水溶液全量に対して2.5質量%である1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6)を使用し、3分間浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、成形回路基板を製造し、該成形回路基板を用いて上記水滴滴下試験を行った。表1に結果を示す。
【0060】
(実施例3)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、液温:25℃、pH:6)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、成形回路基板を製造し、該成形回路基板を用いて上記水滴滴下試験を行った。表1に結果を示す。
なお、処理液中における1,2,3−トリアゾールの含有量は、処理液全量に対して、2.5質量%であり、1,2,4−トリアゾールの含有量は、処理液全量に対して、2.5質量%である。
【0061】
(比較例1)
実施例1で実施した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液処理を行わず、成形回路基板を製造し、該成形回路基板を用いて上記水滴滴下試験を行った。表1に結果を示す。
【0062】
(比較例2)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、pH6のベンゾトリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、ベンゾトリアゾールの含有量:水溶液全量に対して1質量%、液温:25℃)を使用し、5分浸漬させた以外は、実施例1と同様の手順に従って、成形回路基板を製造し、該成形回路基板を用いて上記水滴滴下試験を行った。表1に結果を示す。
【0063】
(比較例3)
実施例1で使用した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液の代わりに、イミダゾール誘導体を含む市販防錆剤(四国化成社製、タフエース)を使用し、40℃で1分間浸漬させ、実施例1と同様の手順に従って、成形回路基板を製造し、該成形回路基板を用いて上記水滴滴下試験を行った。表1に結果を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
上記表1中、付着量は、処理剤に含有される化合物の付着量を意味する。なお、実施例3の付着量は、2種の化合物の合計含有量を意味する。
【0066】
上記表1に示されるように、本願発明の製造方法によって得られた成形回路基板は、デンドライトの連結がみられず、優れたマイグレーション防止効果を示し、配線間の絶縁信頼性に優れていることが確認された。
一方、銅イオン拡散抑制層が形成されていない比較例1、ベンゾトリアゾールを使用した比較例2、および、市販防錆剤であるタフエースを使用した比較例3においては、配線間において発生したデンドライトの連結が確認され、配線間の絶縁信頼性に劣っていた。
【符号の説明】
【0067】
10:配線付き成形基板
12:成形基板
14:銅配線または銅合金配線
16:めっき層
18:アゾール化合物を含む膜
20:銅イオン拡散抑制層
22:成形回路基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形基板と、
前記成形基板の表面上に配置された銅配線または銅合金配線と、
前記銅配線または銅合金配線表面を被覆する、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層および銅以外の金属のめっき層と、を有する成形回路基板。
【請求項2】
前記めっき層の金属が、ニッケル、金、銀、パラジウム、ロジウム、およびスズからなる群から選ばれる金属またはそれらを含有する合金である、請求項1に記載の成形回路基板。
【請求項3】
成形基板およびその表面上に配置された銅配線または銅合金配線を含む配線付き成形基板上の前記銅配線または銅合金配線表面上に銅以外の金属のめっき層を形成するめっき工程と、
めっき工程が施された配線付き成形基板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させ、その後前記配線付き成形基板を溶剤で洗浄して、前記めっき層が形成されていない銅配線または銅合金配線表面上に1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層を形成する銅イオン拡散抑制層形成工程と、備える成形回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記銅イオン拡散抑制層形成工程後、成形回路基板を加熱乾燥する乾燥工程を備える、請求項3に記載の成形回路基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−231035(P2012−231035A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98783(P2011−98783)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】