説明

成形型およびこれを使用したシームレス成形品の製造方法

【課題】 ポリウレタン樹脂からなる手袋などのシームレス成形品を、破損させることなく効率的に製造する。
【解決手段】 成形面11と非成形面12とが外表面に形成され、成形面11に水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液を付着させ、凝固液で凝固させることにより、ポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品を製造するための成形型10であって、成形型10を、成形面11と非成形面12とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料から形成する。非成形面12から貫通孔に流体を流入させ、成形面11から流体を流出させることにより、シームレス成形品を成形面11から容易に剥離でき、効率的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療用手袋などのシームレス成形品を製造するための成形型、該成形型を使用したシームレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の現場や、クリーンルームでの作業、さらにスポーツ、アウトドアレジャーなどにおいては、衛生面、作業性などから、特定の手袋、靴下などが身につけられる場合がある。このようなものとして例えば特許文献1には、少なくともポリウレタン層と親水性の非多孔質ポリマー層とを有する層状複合材料から形成された手袋、ミトン、靴下などのシームレス成形品が記載されている。そして、このようなシームレス成形品を製造する場合には、非多孔質の成形型を使用し、この型上に、親水性ポリマーのドライフィルム、ポリウレタン層を順次形成した後、成形型と形成された成形品との間に水を入れるなどして、成形品を成形型から剥ぎ取る方法が採用されている。
【特許文献1】特表平09−512760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、成形品を成形型から剥ぎ取る際において、手間がかかるうえ、成形品の一部に局所的に水圧が加わることもあるため、成形品が破損するおそれもあり、効率的なものではなかった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ポリウレタン樹脂からなる手袋などのシームレス成形品を、破損させることなく効率的に製造するための成形型および製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の成形型を使用することによって、手袋などのシームレス成形品を、破損させることなく効率的に製造できること見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の成形型は、成形面と、該成形面以外の部分である非成形面とが外表面に形成され、前記成形面に水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液を付着させ、該ポリウレタン樹脂を凝固液で凝固させることにより、ポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品を製造するための成形型であって、前記成形面と前記非成形面とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料からなることを特徴とする。
前記多孔質材料は、素焼き、セラミックス、樹脂、金属からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。
本発明のシームレス成形品の製造方法は、成形面と、該成形面以外の部分である非成形面とが外表面に形成され、前記成形面と前記非成形面とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料からなる成形型の前記成形面に、水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液を付着させる付着工程と、前記ポリウレタン樹脂を凝固液で凝固させ、ポリウレタン樹脂多孔質膜を形成する凝固工程と、前記非成形面から前記貫通孔に流体を流入させ、前記成形面から前記流体を流出させることにより、前記ポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品を前記成形面から剥離する剥離工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂からなる手袋などのシームレス成形品を、破損させることなく効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[成形型]
図1は、本発明の成形型10の一例を示す斜視図であって、シームレス成形品として手袋を製造するためのものである。
この成形型10は、外表面の一部に形成され手袋に沿う外形の成形面11と、外表面における成形面11以外の部分である非成形面12とを備えていて、成形面11に水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液(以下、ポリウレタン樹脂液という。)を付着させた後、そのポリウレタン樹脂を凝固液に接触させて凝固させることにより、成形面11に沿う形状のポリウレタン樹脂多孔質膜からなる手袋を製造するためのものである。図示例においては、2点鎖点より下が成形面11で、上が非成形面12である。
さらに、この成形型10は、成形面11と非成形面12とを貫通する貫通孔を多数備えた多孔質材料から形成されている。そのため、後に詳述するように、非成形面12から貫通孔に液体を注入するなどして流入させ、その液体を成形面11から流出させることにより、その液圧で、成形面11上に形成されたシームレス成形品を、破損することなく、容易に成形面11から剥離できるようなっている。また、後に詳述するように、非成形面12から貫通孔に凝固液を流入させることで、ポリウレタン樹脂の凝固を効率化することも可能である。
【0009】
また、図1の成形型10においては、非成形面12から貫通孔に液体を流入させやすいように、非成形面12の一部に凹状の液体注入口13が形成されていて、ここに液体を注ぐことによって、液体注入口13と連通している貫通孔に液体が入るようになっている。
なお、図1の例の成形型10は、流入・流出させる流体として、水などの液体を使用するものであるので、液体注入口13が形成されているが、後にも述べるように必ずしも形成されていなくてもよい。また、流体としては、空気、窒素などの気体を使用することもできる。その場合には、非成形面12の少なくとも一部と気体を貫通孔に圧入するためのポンプとを管で接続するなどして気体圧入手段を構成し、成形面11上に形成されたシームレス成形品を気圧により剥離可能なようにすればよい。
【0010】
成形型10を形成する多孔質材料としては、貫通孔を好ましくは多数備えた材料であって、成形面11と非成形面12とを貫通する貫通孔が存在する成形型10を形成可能なものであれば特に制限はないが、素焼き、セラミックス、樹脂、金属からなる群より選ばれる1種が好ましく使用できる。さらに好ましくは、空孔率が50〜70%で、平均孔径が50〜300μmのものが好ましい。このような空孔率、孔径であると、シームレス成形品の破損をより抑制しつつ容易に剥離でき、剥離に長時間を要することもないし、シームレス成形品の形状に影響を与えることもない。なお、本明細書において空孔率は、成形型10の表面を電子顕微鏡で観察した際の単位面積あたりに占める空孔の面積割合で表している。また、平均孔径は、同じく表面の各空孔の長径(最大長さ)を求め、これを平均した値である。
また、成形型10には、成形面11と非成形面12とを貫通する貫通孔が好ましくは多数存在する限り、このような貫通孔以外に、成形面11同士または非成形面12同士を貫通する貫通孔が存在していてもよいし、非貫通孔が存在していても問題はない。
【0011】
なお、素焼き、セラミックスとは、例えば、植木鉢などで使われている素焼きの焼き物や多孔質セラミックである。これらは釉薬等でガラス質化してないものであって、液体を浴びせかけると、その貫通孔に液体が徐々に染みこみこんでいった後、流出する。よって、成形型10の材料として好適であるが、これらは落下などの衝撃により割れたり、欠けたりしやすい傾向がある。よって、取扱性などの点から、多孔質材料としては樹脂または金属からなるものが好適である。
【0012】
樹脂または金属からなる多孔質材料の好適な形成方法としては、樹脂粉体または金属粉体の表面層付近のみを適度に融着させて内部に空隙を残すことで、孔同士が繋がった連続多孔体を製造する、いわゆる焼結法が挙げられる。このような連続多孔体から成形型10を製造することによって、成形面11と非成形面12とを貫通する貫通孔を備えた成形型10を製造できる。金属としては、ステンレスやアルミニウムが例示できる。
さらには、成形型10を製造しやすいとともに衝撃に強く、取扱いやすいことから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル重合体、四フッ化エチレン重合体などの樹脂が好適に使用でき、さらには、硬度、耐熱性、耐薬品性などの点から、ポリプロピレン、四フッ化エチレン重合体が好ましい。
【0013】
[シームレス成形品の製造方法]
次に、図1の成形型10を使用して手袋を製造する場合を例示して、シームレス成形品の好適な製造方法について詳細に説明する。
図1の成形型10を使用して手袋を製造する場合には、まず、水凝固性のポリウレタン樹脂液を成形型10の成形面11に付着させる付着工程を行う。
【0014】
ポリウレタン樹脂液を付着させる具体的な方法としては、成形面11にこの樹脂液が付着するような方法であれば制限はなく、ポリウレタン樹脂液をノズルから噴出させて成形面11にスプレーする方法、刷毛などで成形面11に塗布する方法なども挙げられるが、作業性に優れるとともに、均一な膜厚で付着させやすいことから、図2に示すように、ポリウレタン樹脂液の入った容器20内に、成形型10を浸漬する方法が好ましい。
ここで浸漬時間は、より均一な膜厚を形成しやすいことと作業効率の点から、1〜60分間が好ましい。
【0015】
ここで使用するポリウレタン樹脂液は、少なくとも水凝固性のポリウレタン樹脂と、これを溶解する溶媒とを含有する。
ポリウレタン樹脂は水凝固性のものであれば特に制限はなく、エーテル系、ポリエステル系などを適宜使用できるが、ポリエステル系ポリウレタン樹脂は、エステル結合を有しているためにエーテル系ポリウレタン樹脂よりも伸長性、伸張回復性や引き裂き強度が優れている。よって、好ましくはポリエステル系ポリウレタン樹脂を使用する。
溶媒としては、ポリウレタン樹脂の溶解性、付着工程の後に行われる凝固工程における凝固性や脱溶媒性などから、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの水溶性の極性有機溶剤が好ましく選択される。
【0016】
ポリウレタン樹脂液におけるポリウレタン樹脂と溶媒との比率は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して溶媒が50〜600質量部の範囲が好ましい。ここで溶媒が50質量部未満では、ポリウレタン樹脂液の成形型10への接着性が過度となり、後述の剥離工程においてシームレス成形品を成形型10から剥離することが困難となる場合がある。一方、600質量部を超えると、ポリウレタン樹脂多孔質膜の形成が困難となり、所望のシームレス成形品が得られない場合がある。また、ポリウレタン樹脂液の粘度は、100〜5000mPa・sが好ましい。このような粘度のものを用いると、得られるシームレス成形品の強度が優れるうえ、液自体の取扱い性も良好となる。
【0017】
なお、水凝固性のポリウレタン樹脂液としては、固形分30質量%のものなどが市販されているので、これを使用してもよい。
また、ポリウレタン樹脂液には必要に応じて、公知の抗菌剤(例えば、ピリチオン亜鉛錯体、無機系金属(銀、亜鉛、銅など)のゼオライトや無機系金属(銀、亜鉛、銅など)のセラミックなど。)やセル調整剤(アニオン系界面活性剤、疎水性ノニオン系界面活性剤など。)、架橋剤(トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート3モルを付加したポリイソシアネートまたはジイソシアネートの三量体など。)を添加することができる。さらに意匠性の向上のため、顔料等を加えて着色してもよい。
【0018】
ついで、ポリウレタン樹脂液が付着した成形型10を、凝固液に接触させてポリウレタン樹脂を凝固させ、ポリウレタン樹脂多孔質膜を形成する、いわゆる湿式の凝固工程を行う。
このような凝固工程によれば、ポリウレタン樹脂が凝固するとともにポリウレタン樹脂液中の溶媒が脱溶媒するため、ポリウレタン樹脂が多孔質膜状となる。その結果、ポリウレタン樹脂多孔質膜からなり、成形面10に沿った3次元形状のシームレス成形品が成形面11上に形成される。また、このような凝固工程によれば、凝固液への接触により短時間にポリウレタン樹脂が凝固するため、特に手間のかかる作業をしなくても、品質上不都合な雫状の凝固物などが成形品上に形成されることなく、膜厚が均一なシームレス成形品が得られる。
【0019】
ここで凝固液は、ポリウレタン樹脂を溶解せず、ポリウレタン樹脂液中の溶媒を溶解するものであれば特に制限はなく、水の他、ポリウレタン樹脂液に含まれる溶媒の希釈水溶液などが例示できるが、取扱性、環境面などの点から水が好ましい。
凝固温度(凝固液の液温)は通常5〜80℃であるが、ポリウレタン樹脂多孔質膜の孔径が、1〜100μmなどの適度な範囲となり易いことから、5〜40℃が好ましい。ポリウレタン樹脂多孔質膜の孔径がこのような範囲であると、蒸発した汗などの水蒸気を外部へ逃す透湿性を備えるとともに、伸張回復が80%以上となり形状適合性に優れ、耐久性も十分なシームレス成形品を製造しやすい。
なお、ここで伸縮回復とは、JIS L 1096 8.14.3をアレンジしたものであって、3分間伸張(200%伸張)させた後1分間元に戻すという1サイクルを4サイクル行った後、再度同様に3分間伸張させた後の回復率である(幅50mm、つかみ50mm)。
【0020】
ポリウレタン樹脂液が付着した成形型10を凝固液に接触させる具体的方法としては、特に制限はないが、作業性に優れるとともに、より短時間で凝固させることができ、しかも均一な膜厚のポリウレタン樹脂多孔質膜を形成しやすいことから、図3に示すように、凝固液の入った容器、すなわち凝固浴30内に、成形面11に付着したポリウレタン樹脂液が少なくとも浸かるように、成形型10を浸漬する方法が好ましい。
さらには、図4に示すように、ポリウレタン樹脂液が付着した成形型10の非成形面12も凝固浴30に浸かるように成形型10の全体を浸漬する方法も好ましい。このような方法によれば、凝固液が非成形面12から注入されるため、ポリウレタン樹脂を外側からだけでなく内側からも凝固でき、凝固工程を効率化することができる。
浸漬時間は、より均一な膜厚を形成しやすいことと作業効率の点から、1〜60分間が好ましい。
【0021】
このような凝固工程の後、成形型10の非成形面12から貫通孔に液体を注入するなどして流入させ、成形面11から流出させることにより、成形面11上に形成されたポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品に対し、成形面11から離れるような力を作用させ、シームレス成形品を成形面11から剥離する剥離工程を行う。
ここで非成形面12から注入する液体(以下、剥離用液体という。)は、ポリウレタン樹脂を溶解しないものであれば特に制限はなく、凝固液と同様に、水の他、ポリウレタン樹脂液に含まれる溶媒の希釈水溶液などを使用できるが、取扱性、環境面などの点から水が好ましい。
【0022】
ここで非成形面12から貫通孔に剥離用液体を流入させる具体的方法としては、例えば、非成形面12に形成された凹状の液体注入口13に剥離用液体を注ぐことにより、貫通孔に注入する方法が挙げられる。このようにして液体注入口13から注入された剥離用液体は、液体注入口13と連通している貫通孔を流通して成形面11に達し、成形面11から外方に流出する。その結果、成形面11とこれに付着していたシームレス成形品との間に剥離用液体が徐々に溜まり、シームレス成形品を破損することなく、容易に成形型から剥離することができ、シームレス成形品の製造が効率的に進行する。ここで剥離用液体の使用量には特に制限はなく、適宜設定できるが、剥離用液体流出量が成形面1cmあたり1〜10cmとなる範囲が好ましい。このような範囲であると、シームレス成形品の破損を一層抑制しつつ容易に剥離でき、かつ、剥離に長時間を要することもない。
【0023】
なお、剥離用液体の注入は、剥離用液体が入れられた容器を傾けて剥離用液体を液体注入口13に注入するなど手作業で行ってもよいし、成形型11の液体注入口13と液体注入ポンプとを管で接続するなどして構成された液体注入手段により行ってもよい。
また、この例で形成されている液体注入口13は、剥離用液体が非成形面12から貫通孔に入りやすくするために形成されたものであって、必ずしも形成しなくてもよい。
さらに、剥離用液体の代わりに、空気、窒素などの気体を使用可能であることは先に述べたとおりである。
【0024】
さらに図4に示したように凝固工程を行うと、凝固液が非成形面12から貫通孔を通じて成形面11へと流通し、内側からも凝固させることができるため効率的であることはすでに述べたが、その場合には、成形型10を凝固浴30から引き上げるだけで、貫通孔に充填されている凝固液が重力によって徐々に成形面11から流出し、それが剥離用液体としても作用する。このようにして、凝固工程と剥離工程とを連続一体化して行う方法も効率的である。
【0025】
このようにして剥離工程を行うことによって、成形面11に沿う3次元形状の手袋などのシームレス成形品を、破損することなく容易に成形面11から剥がし、効率的に得ることができる。
剥離工程の後には、流水が導入された水槽や洗濯機などを用いて水洗浄などを行ってから、シームレス成形品を常法により乾燥する。乾燥温度は、60〜140℃が好ましい。
また、乾燥の後には、シームレス成形品に耐久性のある防水性を付与するための撥水処理など適宜後処理を行ってもよい。撥水処理は、公知の撥水剤を用いた公知の方法で実施すればよい。撥水処理をした場合には、シームレス成形品の品質向上の観点から、さらにエアーオーブン等で乾燥するのが好ましい。
【0026】
このようにして得られたシームレス成形品は、シームレスであるために防水性を備え、また、ポリウレタン樹脂多孔質膜から形成されているので優れた伸張性および伸張回復性に起因する形状適合性と、汗などの蒸気を外部へ逃す透湿性とを備え、作業性に優れている。また、シームレス成形品の厚さを、例えば0.01〜0.5mmとすることにより、より優れた形状適合性が得られる。
このようなシームレス成形品としては、手袋の他に、ミトン、靴下、ストッキング、帽子など3次元形状の成形品を種々例示でき特に制限はない。これらを製造する場合には、それぞれ対応する形状の成形型を使用すればよく、靴下の場合には、図5に示すような足型40を使用すればよい。また、その用途としても、医療用、クリーンルーム用などの作業用、スポーツ用、アウトドア用など特に制限はない。
【0027】
また、このようにして得られたシームレス成形品は、水凝固性のポリウレタン樹脂多孔質膜からなる単層構造であっても、十分な伸縮性、形状適合性、耐久性を備えている。しかしながら、目的などによっては、水凝固性のポリウレタン脂多孔質膜が複数積層した多層構造としてもよい。その場合には、付着工程と凝固工程とを必要とする層数に応じて繰り返して行った後、剥離工程を行えばよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[評価項目および評価方法]
1)透湿性
各例で得られた手袋について、JIS L 1099 A−1法(塩化カルシウム法)により測定した。ただし単位は24時間あたりに換算した。その単位は、g/(m・24時間)である。
2)耐水圧
各例で得られた手袋について耐水圧を測定した。
耐水圧は、JIS L 1092 A法(低水圧)をアレンジしたもので、各例で得られた手袋からポリウレタンフィルムを切り出し、これを試験片とした。具体的には、210本ポリアミド(ナイロン)タフタを試験片に重ねて試験片が膨らむのを防ぎながら、試験片に水圧を加えて耐水圧を測定した。単位は、mmHOで表した。
3)伸張回復
先に段落0019に記載した方法による。
【0029】
(実施例1)
以下に示す配合比(質量比)のポリエステル系ポリウレタン樹脂液(粘度2250mPa・s)を調製した。
ついで、手袋を形成するための成形型である図1に示す形状の素焼きの手型を、この樹脂液の中に1分間浸し、成形面に樹脂液を付着させる付着工程を行った。なお、この手型は、成形面と非成形面とを貫通する貫通孔を備え、空孔率は55%で、平均孔径は200μmである。
ついで、この素焼きの手型を少なくとも付着したポリウレタン樹脂液が浸かるように、 10℃の水からなる凝固浴中に浸し、60分間保持して凝固工程を行った。
その後、凝固浴から手型を引き上げ、その手型の非成形面に形成された液体注入口から水を、成形面1cmあたり1〜10cm程度流出するように注入し、手型からポリウレタン樹脂の成形品(手袋)を剥がす剥離工程を行った。さらに、50℃の温水を使用して5分間洗浄した。剥離工程は非常に簡単に行えて、手袋の破損などもなかった。
ポリエステル系ポリウレタン樹脂(CR8006HV) 100部
(固形分30%、大日本インキ化学工業(株)製)
ジメチルホルムアミド 100部
ジンクピリチオン粉末 ニッカノンZP 0.2部
(日華化学(株)製)
白顔料 L5733(大日本インキ化学工業(株)製) 2部
架橋剤 コロネートHL 1部
(日本ポリウレタン工業(株)製)
【0030】
得られた手袋について60℃で乾燥後、評価したところ、透湿性は9000g/(m・24時間)、耐水圧は1000mmHO、伸張回復は96%であった。また、厚さは175μmで均一であった。
使用した手型の表面の電子顕微鏡写真を図6に示す。
【0031】
(比較例1)
手型として貫通孔のない非多孔質のアルミニウム製の手型を使用した以外は、実施例1と同様にして凝固工程を行い、その後、ポリウレタン樹脂の成形品を手型から剥離しようとしたが、手型に密着していて剥がすのが困難であった。
【0032】
(実施例2)
以下に示す配合比(質量比)のエーテル系ポリウレタン樹脂液(粘度1220mPa・s)を調製した。
ついで、図1に示す形状の手型として、四フッ化エチレン重合体製のものを使用した以外は実施例1と同様にして、手袋を得た。なお、この手型は、成形面と非成形面とを貫通する貫通孔を備え、空孔率は60%で、平均孔径は100μmである。また、剥離工程は非常に簡単に行えて、手袋の破損などもなかった。
得られた手袋について評価した結果を表1に示す。
エーテル系ポリウレタン樹脂(CR1836P) 100部
(固形分30%、大日本インキ化学工業(株)製)
ジメチルホルムアミド 100部
ジンクピリチオン粉末 ニッカノンZP 0.2部
(日華化学(株)製)
白顔料 L5733(大日本インキ化学工業(株)製) 2部
架橋剤 コロネートHL 1部
(日本ポリウレタン工業(株)製)
【0033】
得られた手袋について60℃で乾燥後、評価したところ、透湿性は9200g/(m・24時間)、耐水圧は1000mmHO、伸張回復は92%であった。また、厚さは60μmで均一であった。
【0034】
(比較例2)
手型として貫通孔のない非多孔質のアルミニウム製の手型を使用した以外は、実施例2と同様にして凝固工程を行い、その後、ポリウレタン樹脂の成形品を手型から剥離しようとしたが、手型に密着していて剥がすのが困難であった。
【0035】
このように、成形面と非成形面とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料からなる手型を使用した各実施例では、比較例に比べて非常に簡単に剥離工程が行えて、得られた手袋を破損するなどの不都合もなく、効率的に製造できた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の成形型の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の付着工程の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の凝固工程の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の凝固工程の他の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の成形型の他の一例を示す斜視図である。
【図6】実施例で使用した手型の表面の電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0037】
10,40 成形型
11 成形面
12 非成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形面と、該成形面以外の部分である非成形面とが外表面に形成され、前記成形面に水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液を付着させ、該ポリウレタン樹脂を凝固液で凝固させることにより、ポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品を製造するための成形型であって、
前記成形面と前記非成形面とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料からなることを特徴とする成形型。
【請求項2】
前記多孔質材料は、素焼き、セラミックス、樹脂、金属からなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項1に記載の成形型。
【請求項3】
成形面と、該成形面以外の部分である非成形面とが外表面に形成され、前記成形面と前記非成形面とを貫通する貫通孔を備えた多孔質材料からなる成形型の前記成形面に、水凝固性のポリウレタン樹脂を含有する溶液を付着させる付着工程と、
前記ポリウレタン樹脂を凝固液で凝固させ、ポリウレタン樹脂多孔質膜を形成する凝固工程と、
前記非成形面から前記貫通孔に流体を流入させ、前記成形面から前記流体を流出させることにより、前記ポリウレタン樹脂多孔質膜からなるシームレス成形品を前記成形面から剥離する剥離工程とを有することを特徴とするシームレス成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−281654(P2006−281654A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106070(P2005−106070)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】